菅直人首相(64)から徹底排除されつつある民主党の小沢一郎元代表(68)が、年内にも子飼いの民主党衆院議員数人を離党させ、新党を結成。その傍ら、自らは民主党に残って復権の機会を待つという“ダミー新党”構想が永田町でささやかれている。菅首相が模索している衆院での「3分の2確保」を睨み、通常国会でのキャスチングボートを握るのが狙いだという。奇策の類と言えそうだが、魑魅魍魎がばっこする永田町だけに、何があっても不思議はない。
小沢氏の衆院政治倫理審査会(政倫審)招致議決をめぐる党内対立は、決壊寸前のダムを思わせる緊張感を漂わせている。
小沢氏は15日、非公開で開いた自身の政治資金パーティーで、政倫審について「身内から出ろと言われるのは内輪もめみたいだ。日本のため、党のためなら出るが、その状況にない」と改めて拒否したうえ、「内閣や党はトップや幹部が結果責任を取らないといけない」と執行部を痛烈に批判した。
対する執行部は同日、政倫審の土肥隆一会長に対し、政倫審開催に向けた準備を進めるよう指示。年内にも招致議決に踏み切りたい考えで、岡田克也幹事長は小沢氏がいつ会談に応じてもいいように、16日の大阪出張をキャンセルした。
議決を経ても小沢氏が出席を拒否するなら、小沢氏に離党勧告や除名を迫る最強硬路線に出ることも検討。「小沢切り」で、「政権浮揚」と「公明党の協力」という二兎を追う作戦だ。
民主党関係者は「何が起きてもおかしくない。菅首相サイドが折れて仙谷由人官房長官を外す内閣改造をするかもしれないし、小沢氏が、政党交付金の額を決める基準日となる1月1日までに、数十人を引き連れて離党し新党結成・政界再編を狙う可能性もある」と話した。
ただ、「小沢新党」には懐疑的な向きが多い。民主党ベテラン秘書は「年明けにも強制起訴を控え、国民の支持も低い小沢氏について与党から出ていく人間がいるのか。小沢氏もこれを分かっていて、保身のためには離党しないだろう」と解説する。
そこで、にわかに浮上しているのが、表向きは小沢氏とは無関係と言いつつ、小沢氏に近い衆院比例単独議員が新党を結成する「ダミー新党」構想だ。菅首相は衆院での再議決が可能な3分の2(319議席)を確保すべく、社民党に近づいている。現在311議席を持つ与党会派と社民党の6議席、与党系無所属を足せば、法案を成立させるめどが立つ。しかし、この新党が反対に立てば、その戦略は瓦解。菅政権はますます窮地に追い込まれることになる。
民主党では昨年の衆院選で約30人の比例単独議員が当選し、うち20人以上が今年9月の代表選で小沢氏を支持した。政治ジャーナリストの角谷浩一氏は「菅民主党は、地方選の候補者が党名を隠すほど嫌われている。『失政とマニフェスト違反を繰り返し、“国民の生活が第一”を反故にする菅執行部の下ではやっていけない』という思いで、国会議員が新党結成を考えてもおかしくない」と話す。
また、民主党中堅議員は、「選挙とカネ」の問題をあげ、こう解説する。
「比例単独議員はまさにバブル当選だった。次期衆院選で民主党の大苦戦は確実で、選挙区を持たないうえに、優遇はありえない彼らの当選確率はゼロだ。それだったら、新党で選挙区を持って少しでも当選確率を上げたほうがいい、と傾くかもしれない。また、政党交付金も、民主党にいるより新党を作ったほうが多く入る」
■「選挙とカネ」をエサ
政党交付金は、政党要件(国会議員5人以上か、直近の選挙で一定以上の票を獲得)を満たす政党に対し、1月1日を基準日として(1)所属議員の数(2)直近の国政選挙(衆院選と2回の参院選)の得票率−に応じてその年の額が決定。国政選挙があるごとに再計算されて額が切り替わる。
例えば、2008年8月に結成された改革クラブは09年1月1日時点で5人の国会議員を有していたが、直近の国政選挙の際には存在しなかったため、09年の決定額は議員5人分だけで計算された。それでも約1億1590万円だった。
仮に国会議員5人が民主党から離党し11年1月1日までに新党を結成すれば、これに近い額が受け取れる。
民主党が今年11月に決定した比例単独議員の総支部への交付金の基準は、1年で最高600万円。選挙区を持つ議員の1000万円よりはるかに少ない。5人で新党を結成して山分けすれば、1人につき年2318万円を受け取れて、任期満了まで民主党にいるより、はるかにお得なのだ。
小沢氏は7日、中堅議員らとの会合で「俺は動けないから、お前たちが動いてくれ」と話した。また、小沢氏に近い比例単独新人のひとりは「小沢さんは離党しないと思う。ただ、これからいろいろあるよ」と意味深長に語っている。
ただ、菅首相に近い若手議員は「民主党の看板だけで当選した人たちが新党を作っても、『選挙目当て』と国民からバッシングされるだけ。背後にいる小沢氏への不信感も高まり格落ちするだけで、いいことはなにもない。あり得ないよ」と一刀両断する。
一寸先は闇だが…。
【代表選で小沢氏を支持した衆院比例単独議員】
菊池長右エ門、高松和夫(以上東北)、石井章、川口浩(同北関東)、相原史乃、石田三示、水野智彦(同南関東)、川島智太郎、渡辺浩一郎、吉田公一、中津川博郷、小林興起(同東京)、若泉征三(同北陸信越)、三輪信昭、笠原多見子、小林正枝、大山昌宏(同東海)、渡辺義彦、熊谷貞俊、松岡広隆、豊田潤多郎(同近畿)=敬称略