11年度税制改正論議では、今夏に「税制改正プロジェクトチーム(PT)」を設置した民主党の発言力が増し、政府税制調査会(会長・野田佳彦財務相)の方針を覆す場面が目立った。内閣支持率の低迷で首相官邸の求心力が弱まる中、来春の統一地方選への影響を懸念し、業界団体に配慮する党側の意向を抑えきれなくなったためだ。民主党が掲げた衆院選マニフェスト(政権公約)もなおざりになり、政策の方向感もなく「党高政低」の様相が強まるばかりだ。
党が政府の主張を押し切った象徴的な事例が、「子ども手当」上積み分の財源2400億円をめぐる議論だ。
「統一地方選で主婦層の離反を招けば、選挙にならない」。今月8日の党税制改正PTでは厚生労働・財務両省が実施の方向で調整していた高所得者の配偶者控除廃止に批判が噴出。特に子どもがいない主婦世帯は、手当がもらえないうえ、控除もなくなり増税になる。「有権者の反発は避けられない」との懸念が党内に広がり、「格差是正のため実施すべきだ」といった賛成派の声はかき消された。
民主党は政権公約で子ども手当の財源に、配偶者控除見直しに伴う所得税の増収分を充てる方針を明記。高所得者に有利な「控除」を廃止し、手当支給ですべての家計を支援する「控除から手当へ」の理念に基づく公約だ。だが、統一地方選への懸念に加え、小沢一郎元代表の衆院政治倫理審査会への招致問題で、党内抗争も再燃。支持率の一層の低下につながりかねない控除見直しに「慎重な判断」を求めたPTの主張が通り、見直しは先送りされた。
一方、調整が難航した法人税も5%引き下げの道をつけたのは党PTだった。「生活者重視」を掲げた民主党は、大企業の法人減税を公約には載せていなかった。だが、政府への税制提言で「経済界の期待は大きい」と主張。党政調会長を兼務する玄葉光一郎国家戦略担当相が13日、慎重論を唱える野田財務相に首相公邸に行くよう迫った。公邸では菅直人首相が引き下げを即決した。
政権公約の「地球温暖化対策税」を巡る党PTの議論では、一部の議員の反対を押し切り、政府税調が導入を決定。だが、影響を受けるトラック協会への交付金は、事業仕分けで「交付の仕組みが不透明」と批判されながら、結局、継続を決める。このように従来の理念が置き去りにされ、「業界への配慮」を容認する党の動きが目立つことについて、政府内では「これでは自民党と同じで、政権交代の意味がない。有権者受けを狙って選挙公約を広げすぎたツケだ」(財務省幹部)との不満の声が出ている。【谷川貴史、小山由宇】
毎日新聞 2010年12月17日 東京朝刊