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社説:防衛計画の大綱 「対中」軍事だけでなく

 政府は、6年ぶりの改定となる「防衛計画の大綱」を閣議決定した。自衛隊を全国に均等配備する根拠とされてきた「基盤的防衛力構想」を放棄し、多様な脅威への即応力、機動力などを重視した新概念「動的防衛力」に転換した。同時に、軍備増強を図る中国について「地域・国際社会の懸念事項」と明記し、南西諸島方面の防衛態勢強化を打ち出した。

 動的防衛力は、自衛隊の存在自体による抑止を主眼とする冷戦時代以来の基盤的防衛力に代わり、警戒監視の充実など部隊運用の向上によって「より実効的な抑止と対処」を目指すものとされる。これによって自衛隊均等配備の考えから脱皮し、最近の中国の動向を踏まえて南西防衛を重視する、という理屈である。「中国シフト」の防衛力整備である。

 中国の国防費は、透明性を確保しないまま、毎年高い伸び率を続け、今年は22年前に初めて公表された数値の24倍になった。また、海軍艦艇が近年、日本近海で活動を強化し、制海・制空権が飛躍的に拡大する空母保有の動きもある。9月には尖閣諸島沖衝突事件も起きた。

 中国の軍拡と一連の行動がエスカレートすれば、日本周辺、アジア太平洋地域の不安定要因となる。軍事的な懸念や脅威を無視した防衛力構想はあり得ない。東アジアの安全保障環境を踏まえた防衛力構想の改定は、有効かつ必要であろう。

 とはいえ、国際政治における中国の役割や今後の日中関係を考えれば、軍事面の対応が対中政策の中心になり得ないことは明らかだ。今、必要なのは、中国との多面的な相互依存関係の拡大・深化を考慮した、政治、経済、外交・安全保障を含めた総合的な戦略である。

 日本は米国とともに、中国を国際システムに引き込み、国際規範、ルールを順守する「責任ある大国」となるよう促す「関与」政策を基本にしている。軍事的な「対抗」を重視するあまり、軍拡競争によって自国を含めた周辺地域の安全保障を低下させる事態を招いてはならない。バランスの取れた対中政策を求める。

 また、新大綱は、武器輸出三原則について、見直しの明記を見送ったが、共同開発・生産を念頭に「防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策の検討」を掲げ、将来の見直しの可能性を残した。明記見送りは、菅政権の主体的な政策判断でなく、見直し反対の社民党の協力を得たいという政治判断を優先した結果だ。この経緯には強い違和感を感じる。一方、将来、三原則を見直す場合は、武器輸出が国際紛争の助長に結びつくようなことにはしないという基本理念を守る新たな歯止めが必要となることを改めて強調しておきたい。

毎日新聞 2010年12月18日 東京朝刊

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