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[24967] 【習作】私が君にできること(エヴァ・逆行物)
Name: 四条 楓◆e6a20082 ID:a76fa5ac
Date: 2010/12/17 18:36
初めまして。四条楓と言う者です。

前書きということで、このSSの大まかな内容を下記に記します。

タイトル:私が君にできること
元ネタ:1995~1998年に公開されたTV版及び劇場版『新世紀エヴァンゲリオン』。また、ゲーム『鋼鉄のガールフレンド』

ジャンル:逆行、TS、LMS

・劇場版終了後からシンジが過去に戻りいろいろと頑張るお話です。
・第壱話早々にシンジ⇔マナで性別が入れ替わっています。
・二人ともほぼオリキャラと思ってもらって構わないくらい原作とは変化しています。


上記のようなSSですが、それでもよろしければご覧ください。
感想等ありましたらよろしくお願いします。



[24967] 第壱話 はじまり
Name: 四条 楓◆e6a20082 ID:a76fa5ac
Date: 2010/12/17 18:38
「結局僕は、何もできないんだ…」
 誰もいない世界で、僕はポツリと呟く。
 眼前には黄色い海と、赤い空。海には生き物がいる気配はないし、空は星ひとつ見えやしない。
 視線を隣に移すと、そこには目を閉じたまま動かない女の子が一人。その姿は、今すぐにでも起き上がってきそうに思えるけど、触れた彼女の頬の冷たさから、もう二度と彼女が話しかけてくれることはないことを理解する。
 僕はその場で仰向けに寝転がり、目を閉じる。
 …死のう。
 このまま目を閉じ、意識を手放せば、彼女達の元へいける気がした。
 そうしたら、みんなに謝ろう。許してくれるとは思えないけど、とにかく謝ろう。
 そんなことを考えつつ、僕の意識は少しづつ薄れていった。


『…あなたは、それでいいの?』
 朦朧とした意識の中で、その声だけはよく響いた。
 僕は勢い良く起き上がり、周りを見回す。
「あや、なみ…?」
 黄色の海に立つ綾波が見えた。綾波の姿はうっすらと透けて見えたけど、今の僕にはそんなことは些細なことだった。
『碇君は、それでいいの?』
 綾波が、もう一度僕に問う。
「良くはない、と思う。けど、この世界で、僕一人でどうしろっていうんだ」
「それは…私には分からない。けれど、今の碇君は、すごく辛そうに見えたから」
 辛い? 僕なんてたいしたことない。きっとみんな僕より辛かったはずなんだ。
『…どうしたら、あなたはあの時みたいに笑ってくれるの?』
『笑う? 僕が?』
 綾波がゆっくりと頷く。
「…できないよ。みんなをこんなにしちゃって…」
『碇君のせいではわ。これはみんなが――』
「そんなことない!」
『碇君…』
 悲しそうな目で僕を見つめていた綾波が突然目を丸くしたかと思うと、僕から視線をそらし空を見上げた。
『そう…そうね。あなたがそう言うのなら』
「綾波…?」
 僕の呼びかけに答えたのか、綾波が僕と視線を合わせると、微笑んだ。

『あなたがこの世界で笑えないのなら。あなたが笑えるような世界にすればいい。今の私達ではどうすることもできないけど…碇君、あなたならそれができる。だから――』

『がんばって』

 その言葉と同時に、僕の意識は薄れていった。





私が君にできること

第壱話 はじまり





《2004年》

 カタカタカタと、パソコンのキーボードのタイプ音がやけに耳に響く。まあ、僕の手がその音を発しているのだから文句は言えないんだけど。
 ふと腕時計を見る。予定では、今から2時間後に、研究室で実験が行われる。おそらくは、その実験中に事故が起こるはずだ。
「…よし。これで完了っと」
 数時間かけて打ち続けたキーボード。最後にエンターキーを少し力を込めて押す。
 これで大丈夫…とは思うけど、一応万が一に備えて、実験場には潜入しておこう。
 3歳になったという母さんの子も見ておきたいし。




《2005年》

 去年も同じことをしていた気がする。
 僕は人一人入れるくらいの空間で、体をコの字に折り曲げて、膝の上に置いたノートパソコンのキーを叩いていた。最後にエンターキーを押して時計を見ると、予定時間よりも30分程早く作業を終えていた。
「さて、どうしようか」
 そう呟いてから、とりあえずこの窮屈な場所から出ようと、ノートパソコンをバッグにしまいながら外の様子をうかがう。外に人の気配を感じないことを確認し、そっとドアを開いた。
 今回も、念のため実験場には潜入しておこう。そういえば、聞いた話によると、今回の起動実験の主任である女性は、先日離婚が成立して、近々日本の研究施設へ転勤するらしい。親権は勝ちとったとのことなので、おそらく娘と一緒に日本へ渡るのだろう。




《2007年》

「ふぅ…」
 僕はインダクションレバーから手を離し、シートに背中を預け、エントリープラグ内から見える外の光景をぼーっと眺める。
 眼下に広がるのは、真っ赤な炎に包まれた戦略自衛隊の研究施設。とある兵器を開発していたようだけど、研究施設を破壊するついでに、サーバー上のデータも全て消去しておいたので、研究はまた一からやりなおしになるだろう。
「さて、あとはこの子達を叔父さんの元へ届ければ任務完了かな」
 シートの後ろですやすやと眠る3人の子供たちを見て、僕は久しぶりに笑顔になれた。




《2008年》

「ねえねえ」
「ん?」
 本から顔を上げると、小さな女の子が、椅子に座った僕の膝に手を置いて見上げていた。
「『おにいさん』って、おなまえはなんていうの?」
「名前?」
「うんっ」
 女の子は元気よく頷く。
 僕はしばらく考えてから、女の子に返事する。
「…『お兄さん』、でいいんじゃないかな」
「えー。どうしておしえてくれないの?」
 女の子は不満そうに頬を膨らませる。
「いろいろとね。大人の事情だよ」
「おとなのじじょう?」
「そう。だから、マナが大きくなったら教えてあげるよ」
「ぜったい?」
「うん。絶対」
「むー…。わかった」
 俯き加減に頷くマナの頭を僕は優しく撫でる。最初のうちは頬を膨らませていたマナだったけど、しばらくすると気持ち良さそうに目を閉じた。
 名前か…。
 頭の中で『碇シンジ』という名前が思い浮かぶ。けれどそれは僕の名前じゃない。昔の僕の名前だ。




《2012年》

「油断した…」
 僕は落ち込んでいた。ここ数年で間違いなく一番と言えるぐらい、僕は酷く落ち込んでいた。

 その日、僕は久しぶりに初号機の起動試験を行うために、初号機を隠してある近くの洞窟にきていた。洞窟と言っても元々は小さな穴のようなものだったもので、ここへ来た時に初号機で穴を広げて、隠しておけるよう作った人工的な洞窟だ。
『シンクロスタート』
「……っ。ノイズ? どこから?」
 エントリープラグに入り、起動試験を開始した直後、違和感を感じた。原因は何かと探り、ふと振り返ると…
「…マナ?」
「…あっ」
 何故かそこにいたマナと目が合った。どうやら家からここまでこっそりつけてきたようで、いくら最近平和ぼけして油断していたからといって、小学生の尾行に気づかず、あまつさえエントリープラグにまで侵入されるとは…。
「やってしまった…」
「あの、えと…『お兄さん』が裏山に入って行くところを偶然見ちゃって…。つ、つけてきちゃってごめんなさい!」

 その後、僕に見つかったことでマナが動揺し、僕自身も心に隙が生じた結果、起動試験は失敗。あやうく僕達は初号機に取り込まれてしまうところだった。
 なんとかマナを助けて無事に外に出ることが出来た僕達だったけど…
「男の子になっちゃった…」
 取り込まれた際に一時的に同化してしまったせいか、マナは男の子に、僕は女になってしまっていた。
 僕はいいとしても、マナを巻き込んでしまったことに僕は酷く落ち込んだ。きっとマナも自分の変わりようにショックを受けているに違いない。
「どうしよう…」
 予想通り、マナは自分の姿を見て落ち込んでいた。
「どうしよう『お兄さん』。わたし男の子…あれ? もしかして『お兄さん』は女の子になっちゃった?」
 僕の姿を見て、マナが首を傾げる。
「うん。…それより、ごめんね」
「ううん。『お兄さん』が女の子ならいい」
 さっきまでの落ち込みようはどこへやら。マナはほっとしたように胸をなでおろしたあと、嬉しそうに微笑んだ。


 数日後。
 『マナ』のままでは不便だろうと思い、僕はマナの名前を変えることにした。
 何が良いかマナに聞くと、『お兄さんが考えてくれたものなら何でもいい』と言うので、僕はしばらく考えた後に、戸籍データにアクセスし、『霧島マナ』の名前を『霧島シンジ』に変更した。僕がこの名前を名乗るわけにはいかないけど、せっかく母さんと父さんがつけてくれた名前だ。誰かに使ってほしい。

「『シンジ』だね。うん。わかった」
 子供の順応は早い。数日しか経ってないというのに、マナ…シンジは、もう男の子らしく振舞っていた。
「ありがとう『お兄さん』」
 新しい名前を伝えられたシンジは、お礼と共に頭を下げてから『あれ?』と呟いて首を傾げる。
「もう『お兄さん』って呼ぶのも変だよね?」
 シンジの言う通り、たしかに変だ。けど、僕は名前を持ち合わせていないのでこう答えた。
「『お姉さん』でいいんじゃないかな」
「うーん…」
 シンジがさらに首を捻る。
「それじゃあ、僕の『マナ』って名前をあげるよ」
「えっ?」
 思いがけない申し出に、僕は断ることも忘れてシンジを見つめる。
「『マナ』っていう名前がなくなっちゃうのも、なんか寂しいし、『お姉さん』にあげるよ」
 目を輝かせて見上げるシンジを見ながら、僕はシンジと名付けた時のことを思い出す。
「…そうだよね。『マナ』って名前がなくなっちゃうのは寂しいよね。わかった。これからは『マナ』って名乗らせてもらうよ」
「うんっ」
 シンジは嬉しそうに笑いながら頷いた。




《2015年》

「シンジ、そこどいて」
「どきません」
 私の車の前でボストンバックを持って立つシンジは、僕の言葉に首を横に振って答える。
「どうしても?」
「どうしても、です!」
 そこから動こうとしないシンジの隣には、ダンボールがいくつか積み重ねてある。あの量であれば私の車にギリギリ積み込める。きっと計算づくなのだろう。
「ついてきていいと言ってくれるまで、ここを動きません!」
 中学生になったシンジは、背丈のほとんど変わらない私に対して敬語を使うようになっていた。私自身も、3年もの間女の子として生活してきたため、すっかりそれらしくなってしまっていた。
「えっと…私がどうして第三新東京市へ行くか、知らないよね?」
「マナさんが教えてくれませんから!」
 不満そうにシンジが頬を膨らませてそっぽを向く。男の子になっても、幼い頃のクセはそのままなんだなぁと、私は少し笑ってしまう。
「ただ、旅行じゃないことくらいは分かります」
 まあ引っ越し業者をよんで荷物を運び出したのだから、それくらいは予想付くだろう。
「じゃあ、例えば、だよ? 例えばシンジが私についてくるとして、シンジはムサシやケイタ、叔父さんをおいて、私についてくるっていうの?」
「はい。みんなには昨日のうちに話してあります」
「もちろん反対されたよね?」
「いえ、『お前の人生だから好きに生きろ』と」
 …里親間違えたかなぁ……。
「とにかく、僕は絶対ついていきます。おいていかれても、走って追いかけます!」
「走ってって…ここから第三新東京市までどれだけ距離があると思ってるの…」
 呆れてものが言えない。けど、今のシンジなら本当にやりかねない。
 僕はため息をついたあと、車を指さした。
「…乗って」
「え?」
「はあ…走って追いかけられても困るから、そのダンボール積み込んで、助手席に乗って」
「あ、ありがとうございます!」
 シンジはボストンバックを助手席に投げ込むと、急いでダンボールを車に積み込み始めた。
 僕は三度目のため息をつきながら、運転席に乗り込み、エンジンをかけた。。

「それにしても…マナさんは昔から見た目変わらないけど、どうしてですか?」
「さあ、どうしてだろうね」
 車を運転しながら、バックミラーを覗く。後部座席にダンボールが積み込まれているせいで後ろが全く見えない。
「またそうやってはぐらかす…」
「もし、私が歳を取らない宇宙人だとしたら、シンジはどうする?」
「困ります! 僕だけおじいさんになって、マナさんだけ若いままだなんて!」
「へ?」
 予想とは違う答えに、私は思わずシンジの顔を見つめてしまう。
「マナさん、前! 前!」
「えっ? ――っ!?」
 すんでのところでハンドルをきって、前から来たトラックとの衝突を免れる。
「ふぅ…って、シンジ。普通は『宇宙人』とか『歳を取らない』ってとこに疑問をもつべきじゃ…」
「まあ、マナさんならなんでもアリかな、と」
「本当に私が宇宙人で、歳を取らない人でも?」
「はい、マナさんはマナさんですから」
「ああ、そう…」
 私は呆れて、大きくため息を吐いた。今日はため息の多い日だ。
「で、それならどうして私が歳を取らないと、シンジが困るの?」
「そ、それは…」
 何故かシンジは口ごもってしまった。まあ中学生なのだから、いろいろと言いたくないことがあるのだろう。…って、私も一応見た目は中学生なんだよね。生きて来た年月はミサトさんに近いけど。
「と、とにかく。困るものは困るんです!」
「はあ…よくわからないけど、そういうことにしといてあげる」
 そう言った私に、シンジは『にぶい…』とかなんとかブツブツと呟く。
「でも…ありがと」
「え?」
「こんな得体の知れない私に、今も、小さい頃と変わらず慕ってくれて、ありがとう」
 初号機を見られたあとも、シンジは変わらず私に接してくれていた。
「い、いえ、そんなお礼だなんて…元々僕は、マナさんと会ってからずっと、一生マナさんについていくと、心に決めていますから」
「い、一生って…はっきり言っておくけど、さっきも言ったように、私は得体の知れない人なんだから、これから先、私と一緒にいると危険な目に会うことになるけど、それでもシンジは私に一生ついてくるっていうの?」
「はい」
「死ぬかもしれないのに?」
「そのときは僕がマナさんを守ります!」
「私を? シンジが?」
「はい!」
 私は目を丸くしてシンジを見つめる。シンジは本気のようだ。
 けど、それをするのは私の役目であって、まさかシンジにそんなことを言われるなんて。
「…ぷっ。あはははは――!」
「な、なんでそこで笑うんですか!」
 私はおかしくなって笑いだしてしまった。
「ご、ごめんごめん。ふふっ…」
「僕は本気ですよ!」
「はいはい。わかってるわかってる」
「本当に分かって…って、頭撫でて完全に子供扱いじゃないですか!」
「あははっ。ちゃんと期待してるよ」
 私は笑いをこらえながら、シンジの頭を撫で続けた。



[24967] 第弐話 二人
Name: 四条 楓◆e6a20082 ID:50226648
Date: 2010/12/18 10:48
 数時間かけて第三新東京市に到着した頃にはお昼を回っていた。
「到着っと」
 途中で寄ったコンビニで買ったサンドイッチを頬張りながら、とある駐車場に車を止める。
「ここが、これから住むマンションですか?」
「うん」
 最後の一口を放り込んで、それをお茶で流し込む。サンドイッチの包装フィルムをクシャっと丸めて、シンジが食べたおにぎりの包装フィルムとまとめてビニール袋に入れる。
「ん~~~っ。はぁ…」
 車から出て伸びをする。そして周りを見回す。ここへ来る途中にも、駐車場にも引越しトラックを見ていない。まだ私の荷物は到着していないようだ。
「さて、まずはシンジの荷物を運ぼうか」
「あ、それは僕が…」
 後部座席のドアを開き、手前のダンボールを持ち上げる。
「うっ…意外と重い」
「僕の荷物だから僕が運びますよ」
「いいからいいから」
 重いけど、持てないことはない。私はそれを持って歩き始める。
「あ、部屋は10階の1009号室ね」
「は、はい。わかりました」
 シンジが慌てたようにダンボールを一つ持ち、私の後を追う。それを確認して、私はマンションの玄関へと向かった。


「これで最後?」
「はい。すみません、手伝わせちゃって」
「いいって。あとで私の分も手伝ってもらうつもりだから」
「その時は遠慮なく言ってください」
「うん。…ふう。いたた」
 私はダンボールをリビングに置き、背中をそらしながら腰をトントンと叩く。
「マナさん…見た目は僕と変わらないんですから、そんなおばさん臭いことしないでくださいよ」
 シンジの言葉にむっとして、反論する。
「見た目『は』じゃなくて、見た目『も』って言ってくれる?」
「その返しもおばさん臭い気が…。実際マナさんって歳はいくつなんですか?」
「年齢かあ…」
 実際のところ、自分でも何歳と答えれば良いか分からない。私の成長は14年前から止まっている。まあ、見た目の年齢でいいだろう。
「永遠の14歳でいいんじゃない?」
「またそうやってはぐらかすー」
「や、結構真面目に答えたんだけど…」
 そのとき私のポケットからピピピと電子音が聞こえる。私はポケットから携帯電話を取り出して電話に出る。
「はい、朝霧(あさぎり)ですが…はい。…はい、そこで合ってます。…はい、お願いします」
 電話を切ってシンジに視線を移すと、怪訝な顔をして私を見ていた。
「ん、なに?」
「『朝霧』って誰ですか?」
「ああ、朝霧って言うのは、私の仮の苗字。『名前』がないと何かと不便だから」
 私はその証拠とばかりに、バッグから戸籍全部事項証明書を取り出しシンジに渡す。
「『朝霧 マナ』ですか…。この人たちも仮の人ですか?」
 私の名前の下に書かれてある父、母の項目を指差しながらたずねる。
「それはちゃんと実在する人。昔ちょっとご縁があってね、その時からの付き合い。お二人の子供ってことにしてもらってて、今回も転居するって伝えたら律儀に転居届けや転校届けも出してくれたみたい」
「転校って、マナさん学校通ってませんでしたよね?」
「うん。世間的には登校拒否ってことになってる」
「…通いましょうよ」
 シンジが『呆れた』とでも言いたげに私を見てため息を吐く。
「だって今更学校に通うのもどうかなと」
「今更? 今更ってことは、マナさんも学校に通っていたことがあるんですか?」
「十年以上前にね」
「十年以上って…ホントにマナさんって歳いくつなんですか…?」
「一応世間的な年齢ならそこに載ってる」
「…14歳、ですか。僕と同い年の」
 再度証明書を見てシンジが驚く。
「うん。だから永遠の14歳」
「まだそれ引っ張ってるんですか…」
「だから真面目だって」
「でも、中学生ですか…うん。納得です」
「その言い方、なんかひっかかるんだけど…」
 うんうんと頷くシンジにジト目を向ける。
「どこの中学校に転校したんですか?」
「えーっと…」
 私はバッグの中を漁って生徒証を取り出す。
「第三新東京市立第一中学校」
「あ、それ僕と同じ中学です」
 シンジが財布から生徒証を取り出し、私に見せる。
 たしかに同じ中学校だ。
 それにして…
「いつのまに転校手続きしてたの…?」
「ご想像にお任せします」
 私の手続きも、それなりに日数をかけて済ませているし、この生徒証が届いたのも最近。ということは、シンジも私とほぼ同じ時期かそれより前に手続きを行ったことになる。
 もしかして、また私のパソコンをこっそり覗いたんじゃ…。ちゃんとパスワードかけてるはずなんだけどなあ。あとでセキュリティーを強化しておかないと。
「でも、転校手続きしちゃってたってことは…もし、私が最後までシンジがついてくることにノーって言ってたら、どうするつもりだったの?」
「近くにアパートを借りて、そこに住む予定でした」
「…ノーって言わなくて良かったよ」
 私はため息をつきながら携帯と財布を持つと、玄関へ向かう。
「どこへ行くんですか?」
 私を追ってシンジが玄関までやってくる。
「ちょっとね。夕方までには戻ってくるから、引越しの人がきたら荷物を適当なところに置いといてもらえる?」
「はい、ついでに荷解きもしておきますよ」
「ありがと。じゃ、いってきます」
「いってらっしゃ…あ、マナさん」
「なに?」
 玄関のドアを開けたところで立ち止まり、振り返る。
「マナさん車使いますよね?」
「うん」
「…無免許ですよね?」
「うん」
「…捕まらないことを祈ってます…」
「善処するよ」
 手を振って送り出すシンジに軽く手をあげて答え、私はマンションを出た。





私が君にできること

第弐話 二人





「ありがとうございました」
 背後に店員の声を聞きながらお店を出る。車に乗り、さっそく新しく買った携帯電話を袋から取り出す。
 私の好みで色を決めたけど、シンジは気に入ってもらえるだろうか。
 いくつかキーを操作して操作方法を理解し、電話帳に私の携帯電話の番号を登録する。一応確認のため新しい携帯電話から私の携帯電話を鳴らしてみる。通話ボタンを押して数秒後、ちゃんと私の携帯電話が鳴ったことを確認して電源を切る。
 携帯電話を袋に戻しながら時計を見ると、予定していた時刻を余裕で過ぎていた。思ったよりも時間がかかってしまったようだ。
 私は車をエンジンをかけ、急いでマンションへと戻った。



「あ、おかえりなさい」
 マンションに戻ってくると、キッチンからシンジが顔を出して迎えてくれた。靴を脱いでリビングに入ると、昼間運び込んだダンボールは消え、その時にはなかった家具が綺麗に配置されていた。本当に私が送った荷物を片付けてくれたようだ。
「ごめんね。私の分なのに荷解き手伝えなくて」
「いえ、こういうことは男の仕事ですから」
 そう言って笑うシンジを見ると、元男の身としてはなんとも言えない気分になる。
「今はなにしてるの?」
「晩御飯作ってます。近くのコンビニで材料そろえたので、チャーハンくらいしかできませんけど」
 シンジがフライパンを器用に操っている。いつのまに料理ができるようになったのだろうか。
「コンビニ行ったのなら、カップラーメンでも良かったのに」
「インスタントはダメですよ」
「結構おいしいのに」
「健康に悪いです。マナさん気づいたらそればかり食べるんだから」
「うっ…」
 ばれてたのか…。たしかに以前の家ではそればかり食べていた。
「料理上手なのに、どうしてあまり作ろうとしないんですか?」
「だって、自分一人の分の料理を作るというのもね。やっぱり料理は誰かに食べてもらうものだと思うから」
「ということは、今日からはインスタントなしですね」
「どうして?」
「だって、僕がいますから」
「…そうだね」
 私は近くにエプロンがないか探す。けれど見つからなかったので仕方なくそのままキッチンに立つ。
「手伝おうか?」
「もう少しで出来ますから、座っててください」
「うーん…それじゃ、お言葉に甘えて」
 私は戸棚から急須と湯飲みを二つ、そしてお茶の葉が入った缶を取り出してお茶を作り椅子に座る。
「シンジの分のお茶も淹れたから飲んでね」
「はい」
 私はシンジの背中を眺めながらお茶をすする。スーパーで買ったお茶なのに、やけに美味しく感じる。
 しばらくすると、シンジがお皿にチャーハンを盛り付け、スープを添えてテーブルに並べる。見るからに上手に出来ていた。
「かに玉チャーハンです。マナさん好きでしたよね?」
「そうだけど…シンジっていつの間に料理できるようになったの?」
「もしかしたら一人暮らしをするかもしれない、と思って練習していました。でもそれが別の意味で役に立って嬉しいです」
 シンジもエプロンを外して私の正面に座る。
「どうぞ熱いうちに食べて…って、マナさん猫舌でしたね」
「そういうこと言わないでくれる? 子供っぽいから」
 たしかに猫舌なんだけど。
 私はスプーンでチャーハンを掬い、何度か息を吹きかけて冷ましてから口に運ぶ。
「――っ!?」
「ほら、もう。マナさん水です」
 シンジから水の入ったグラスをひったくるように受け取り一口飲む。
「ふぅ…」
「本当に猫舌ですね…」
 シンジを睨みつけて『それ以上言うな』と伝える。
 それにしても思った以上に熱かった。まだ舌がヒリヒリする。相変わらず、かに玉は美味しいけど、火傷しやすいのが難点だ。
「機嫌の悪いところすみませんが…」
「別に機嫌悪くないけど?」
「目が怖かったですよ…」
「きのせいきのせい」
 私はスプーンでスープをすくい、少しだけ口をつける。…これも熱い。
「それで…味はどうでしたか?」
 おそるおそるといった感じにシンジがたずねる。
「美味しかったよ。少し熱かったけど」
「ホントですか!? やった! 次からはちゃんと冷ましてから出しますね」
 シンジはガッツポーズをとった。嬉しそうなシンジを見て、明日は私がご飯を作ってあげよう、そう思った。
「…あ、そういえば、これ」
 水を口に含みながら、私はカードキーと、先ほど買ってきた携帯電話をシンジに渡す。
「これは…?」
「シンジ、たしか携帯もってなかったよね? いざというときに連絡とれないと困るから、それ好きに使って。あと、それはここの部屋のカギ。どっちもなくさないようにね」
「…は、はい! ありがとうございます!」
 一瞬ポカンとしていたシンジだけど、すぐに笑顔になって、勢い良く頭を下げた。
「私の好みでその色にしたけど、よかった?」
「はい。むしろマナさんに選んでもらえて嬉しいです」
 さっそくシンジは説明書片手に携帯電話をいじめ始める。私はそれを見ながら少しずつチャーハンを口に運ぶ。
「あ、この登録されてある電話番号は…」
「私の携帯の番号。登録しておいたから。何かあったときにはそれに電話して」
「はー…。毎日電話してもいいですか?」
「必要なときだけでいいよ」
 そう言って私は笑った。


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