●特性生かし、資金を有効に
県内には原子力発電所が2カ所に計10基あり、国や電力会社から多額の資金が入り続けている。一方で、「原発がきたのに、なかなか地域がよくならない」との不満の声も住民から聞こえてくる。今後の地域づくりに何が必要なのか。富岡町在住で、原発と地域振興のあり方に詳しい日本原子力産業協会参事の北村俊郎さん(65)さんに聞いた。(中川透)
――原発が立地したことで、地域は豊かになったでしょうか
「県が2002年のエネルギー政策検討会でまとめた統計は、建設時から40年間の実態をよく示しています。原発のある4町は、人口、雇用、財政、家計所得などが他町村より大きく増えた。経済効果は数字ではっきり出ています」
――地域振興が不十分、と地元から不満が出るのはなぜですか
「地域振興は成長している時だけ実感がわくもの。期待が大きすぎたことや、豊かな状況が当たり前と感じる世代が増えたことも、満足感の出ない一因です」
「原発の雇用は多層構造です。電力会社や子会社の社員と下請け企業で働く人は、待遇に差があります。商業者は原発関連との取引の有無に差がつく。漁業補償や土地買収などの恩恵の差も、地域の一体感を失わせる面が出ました」
――産業振興を今後進めていくうえで、何に注意すべきですか
「電力会社の過度な地元優先は地元企業の競争力を奪います。私もかつて、地元からの物品調達の際に、品質や品ぞろえで不満を感じたことがありました。外部の優れた人材、企業、商品をはばむと、地域は結局取り残されます。経済発展の源は自主性、自立性、創造性、忍耐力。原発は経済効果が巨大だけに、注意すべきです」
●自治体は汗をかいて
――原発が立地する自治体の運営にはどんな課題がありますか
「地域振興とは何かを議論する暇もなく、町ごとにハコモノ建設を競い、重複投資がありました。建設会社など地域産業に富を分配する手っ取り早い方法でしたが、今や維持管理が大きな負担です」
「企業は経営が悪いと倒産しますが、自治体は失敗しても責任が明確にならない。それが更なる失敗を生む。税収の使い道、公共施設の利用実績や収支などをもっと情報公開すべきです。観光振興などもコンサルタント依存をやめ、自ら汗をかくべきです。原発がなく、より税収の少ない自治体の方がはるかに工夫や挑戦を重ね、観光振興をする例を見てきました」
――地域づくりを今後、どのように進めていくべきでしょうか
「地域特性を生かした観光、原発の技術技能に関する高等教育機関設立など、他地域から人を呼び込む発想がもっと必要です。豊かな財政を生かして病院や福祉施設を充実させ、子育て世代が流入してくる環境づくりも大切です」
「立地地域の豊かさを支えるのは電気料金と税金。その資金を効果的に使う必要があります。原発がどのように地域に役立ったか、国、電力会社、自治体などは一度振り返り、明確なビジョンをたてて新たな方向に進むべきです」
きたむら・としろう 1968年に日本原子力発電に入社し、茨城県の東海発電所や福井県の敦賀発電所などで勤務。人事や総務の仕事を長年担当し、立地地域と向き合ってきた。原子力の専門雑誌「原子力eye」に今年、原子力と地域振興に関する論文を3回寄稿した。