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菅直人首相が半年ぶりに沖縄県を訪れ、仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事と会談した。米軍基地の実情を把握するため、普天間飛行場や嘉手納基地の視察もした。鳩山由紀夫前首相[記事全文]
日本国内の全世帯で超高速通信を使えるようにする「光の道」構想で、総務省が方針を決めた。民間の多様な競争を生かして整備を進めるという。現実的な内容に落ち着いたことは妥当で[記事全文]
菅直人首相が半年ぶりに沖縄県を訪れ、仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事と会談した。米軍基地の実情を把握するため、普天間飛行場や嘉手納基地の視察もした。
鳩山由紀夫前首相が「最低でも県外」の公約を破り、普天間を名護市辺野古に移設する日米合意を結んだことで、沖縄の民主党政権に対する不信は決定的なものとなっている。
今回の首相訪問は、遅ればせではあるが、政府が沖縄との信頼関係の再構築を目指し、沖縄が抱える諸問題に真剣に向き合う第一歩と受け止めたい。
とはいえ、その道のりは険しい。
首相は普天間移設について、ベストではないが「ベターな選択」として、辺野古案の再考を仲井真氏に求めた。
しかし、なぜ辺野古なのかについての説明がまったくできていない。過去の経緯と国際情勢とだけ言われても、沖縄県民は到底納得できまい。知事選で県外移設を公約した仲井真氏との議論が平行線に終わったのも当然だ。
知事は改めて日米合意の見直しを求め、首相のベター発言を「県内はすべてバッド」と批判した。
一方、首相は来年度予算で導入する一括交付金について、沖縄を別枠で優遇し、最低でも250億円を充てる方針を伝えた。沖縄振興特別措置法に代わる新法制定や、基地返還後の跡地利用を促進する法整備も約束した。
沖縄戦、米軍統治、復帰後も続く基地負担……。歴史的経緯に由来する本土との格差を縮めるため、沖縄に特別な目配りが必要なことに異論はない。
ただ、振興策だけをテコに知事の翻意を期待するなら、見当違いだろう。
もう振興策というアメで基地負担を引き受けることはしない。沖縄の堅い民意は、昨年の総選挙以降、名護の市長選・市議選、そして先の知事選の結果を見れば明らかだ。
仙谷由人官房長官が先に、沖縄に基地負担を「甘受していただく」と発言し、地元の強い反発を招いた。
日本全体の安全保障のため、あるいは日米同盟深化のためといって、過重な基地負担を押しつけるヤマトの発想そのものを、沖縄は問うている。
やはり、基地の負担軽減に正攻法で取り組むことを通してしか、沖縄の信頼を取り戻すことはできまい。
米軍の訓練の県外・国外への移転は日米合意にも盛り込まれている。県民が実感できる具体的な負担軽減の実をあげることが先決だ。
辺野古移設とセットとされている海兵隊の一部のグアム移転や嘉手納以南の米軍基地の返還を、辺野古移設と切り離して実現できないか、米国と話し合うことも十分検討に値する。
さらに、東アジア情勢の安定を図る外交努力と合わせ、沖縄の基地をどう減らしていくのか、中長期的なビジョンを示せるかどうかが鍵となろう。
日本国内の全世帯で超高速通信を使えるようにする「光の道」構想で、総務省が方針を決めた。
民間の多様な競争を生かして整備を進めるという。現実的な内容に落ち着いたことは妥当ではないか。
原口一博前大臣肝いりの案件だった。2015年までに光回線を全戸に引く、そのためにはNTTの電話局と各戸を結ぶアクセス通信網の分社化も辞さない、といった勢いだった。
一通信事業者であるソフトバンクの要望に配慮した印象が拭えず、検討の過程で強引さも目立った。
だが、9月の菅内閣の改造で片山善博現大臣に代わり、論点洗い出しを担当した有識者の会議も冷静な議論の場になったようだ。
NTTのアクセス網は同社内に残すが、コストなどの透明性を向上させるため経理や人事などの区分けを徹底する。他社に利用させる料金の引き下げ状況など、競争の進展ぶりをもとに3年後に見直すという。
もしアクセス網を分社化したら、NTT株主などへの影響も大きいし、きちんと経営できる保証もない。また、NTTに対抗して高速回線を整備してきたKDDIや電力系通信会社、ケーブルテレビなどとの競争のバランスを崩す恐れがある。
そのような危険を冒してまで敢行する利点は見えない。そもそも、目的はNTTの組織いじりではなく、高速回線の普及にあるはずだ。
一連の議論で収穫だったのは、通信事業者同士による施設整備の競争、サービス競争、価格競争の相乗効果が、日本の高速回線普及に成果をあげてきた点が確認されたことだ。
現状で光回線の整備率は90%、だが実際の普及率は30%だ。これをいずれも100%にするというのだが、需要に見合った民間の努力を政府が後押しするのが望ましい。
また、回線が来ているのに30%しか使われていない現実は、競争によるサービス向上と価格引き下げをテコに克服されるべきものだろう。
立ち遅れている電子政府の整備など、政府には需要盛り上げのためにやることが多い。
施設、サービス、価格の三位一体の競争を促すというのは情報通信政策の根幹である。この方向で政府はさらに議論を深めてほしい。
例えば、NTTはアクセス回線と直結する形で次世代通信網(NGN)を整備しているが、独自のNGNを運営する他の通信事業者が接続しにくい構造になっている。新たな独占構造を生まないよう、多角的な競争の促進に工夫を凝らすべきだ。
NTTの存在は依然として強大だ。顧客情報を営業活動で不正に使うといった問題の是正も急務である。