佐賀市で07年、知的障害者の安永健太さん(当時25歳)が警察官に取り押さえられた直後に急死した問題で、県警巡査長、松雪大地被告(30)が特別公務員暴行陵虐傷害罪に問われた審判。7日の第8回公判で、証人として出廷した安永さんの父孝行さん(49)に、検察役弁護士と被害者参加人の弁護士が尋問した。
【検察役の尋問の続き】
検察役 警察は保護するために取り押さえたと言うが、どう認識しているか。
証人 逮捕では都合が悪いので保護という言葉を付け加えたと思う。犯罪者と思って取り押さえ、死亡させたのではないか。
検察役 警察官は「そこの自転車止まれ」と警告を発したそうだが、なぜ止まらなかったと思うか。
証人 健太はちょっと耳が遠かったので、風の音とか周りの音とかがあって聞こえていなかったと思う。普段、部屋でテレビを見る時もすごい音量で見ていたので、ちょっと耳が遠いと思っていた。
検察役 警察官の「止まりなさい」が認識できていたら、止まっていたか。
証人 多分止まっていたと思う。
検察役 無視して別のことをするとは考えられないか。
証人 ないと思う。
検察役 なぜか。
証人 警察官がいれば自分から近寄る子だった。死ぬ間際まで警察官、消防士になりたいと言っていた。
検察役 法廷では、安永さんが警察官に対し暴れていたという証言が出ているが、どう受け止めているか。
証人 (バイクに)ぶつかって倒れた時に「大丈夫か、けがないか」と言えば起きなかった。急に「何しよっか」と言われれば、知的障害者ならば余計敏感になり、パニックになったと思う。
検察役 知的障害者ゆえにパニックになったと。
証人 はい。
検察役 どう警察官がふるまっていれば避けられたか。
証人 最初の言葉で「大丈夫か」と言ってくれれば、変わっていたと思う。
検察役 パニック状態の安永さんは何をしようとしていたと思うか。
証人 触られるのを嫌がった。
検察役 被害者参加人として法廷に参加して、これまでの公判をどのように受け止めているか。
証人 現場で何が起きたのかを分析したかった。
検察役 事件から3年2カ月たったがこの事件についてどんな思いを。
証人 結局この裁判では「たたいた」「たたいていない」だけで争われている。私は健太は警察に殺されたと思っている。致死で裁いてほしい。
検察役 裁判官に聞き入れてもらいたいことは。
証人 聞き入れてもらえるのなら、殺人に訴因変更してほしい。
【被害者参加人の弁護士の尋問】
参加弁 安永さんは病気などしていなかったか。
証人 自分が知る限り、死ぬ前の直近まで風邪一つもなかった。
参加弁 警察が保護と説明していることをどう思うか。
証人 生きていてこその保護。死んでからその言葉を使うのはおかしい。
参加弁 バイクを蹴ったことについては。
証人 まず蹴ったのだとすれば、何かバイクの人とトラブルがあったという考えも捨てきれない。
参加弁 普段の安永さんならバイクを蹴るか。
証人 そんな性格ではない。蹴ったのならば、何かトラブルがあったはず。
(安永さんの父親の尋問は終了。次回は16日の公判後に掲載します)=つづく
毎日新聞 2010年12月15日 地方版