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気鋭の警察ジャーナリストに何が…黒木昭雄さんの自殺から見えてくるもの

産経新聞 12月18日(土)13時0分配信

気鋭の警察ジャーナリストに何が…黒木昭雄さんの自殺から見えてくるもの
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黒木昭雄さん(写真:産経新聞)
 警視庁の元巡査部長でジャーナリストの黒木昭雄さん(52)が11月、亡くなった。実父の墓がある千葉県市原市今富の寺の空き地に止めた乗用車の助手席で遺体で発見された。後部座席に練炭が置かれており、警察では自殺とみているが、インターネットや一部報道では「消された」説が出るなど、いまだに謎が多い気鋭のジャーナリストの突然の死。黒木さんに何があったのか、親族の証言などをもとに探ってみた。(三枝玄太郎)

[フォト]黒木さんが調べていた殺人事件の現場付近


 ■殺人事件の取材に没頭

 「週刊朝日の編集者に会って仕事の打ち合わせをしてくる」

 黒木さんが家族にそう告げて市原市郡本の自宅を出たのは、11月1日午後4時ごろのことだった。

 「暗くならないうちに」と言って出かけた黒木さんに、妻の正子さん(54)は何の不審も抱かなかった。黒木さんからは午後5時に「無事に着いた」、午後6時に「ホテルを取ってもらったので心配いらないよ。明日の朝帰るから」とメールがあったからだ。

 2日午前8時40分、正子さんに「ゆうべは楽しい夜を過ごしました。帰りに親父の墓に寄って帰るね」と再度メール。しかし長男、昭成さん(21)には「おまえの成長をあの世のおじいちゃんに報告しておくから」というメールが届いたことで「おかしい」ということになる。

 正子さんは心当たりの寺に行くが、最初は見つけられなかった。昭成さんが黒木家の墓に新しい日本酒が置かれてあるのを見て、「父は酒を飲んだ後に車には乗らない」と奥の方まで探したところ、乗用車を発見。車内をのぞいたところ、黒木さんが倒れているのを見つけた。

 黒木さんは亡くなるまで岩手県で起きた殺人事件の取材に没頭していた。ここで、この事件に触れておかなくてはならない。

 事件は平成20年7月1日午後4時半ごろ、岩手県川井村(現宮古市)の河川で17歳の女性の遺体が発見されたことから始まった。女性は宮城県栗原市の佐藤梢さん。司法解剖の結果、死亡推定時刻は6月30日から7月1日と判明。首を絞められて瀕死(ひんし)の状態にされた後、橋から突き落とされたとみられた。佐藤さんは6月28日夜、「友達の彼氏に呼ばれた。恋愛相談。私、殺されるかもしれない」などと言い残していた。

 岩手県警はこの6月28日夜に佐藤さんを連れ出した無職、小原勝幸容疑者(31)を7月29日、全国に指名手配し、懸賞金100万円をかけた。

 小原容疑者は佐藤さんの遺体が見つかった7月1日、見通しの良い直線道路で電柱に突っ込む自損事故を起こしていた。この現場に残された車内から佐藤さんのものとみられる靴が見つかったことが、指名手配の決め手となった。

 黒木さんは9月初め、TBS系列のワイドショー番組の取材で岩手県を訪れ、ひとつの結論に達する。それは小原容疑者は佐藤さん殺害の容疑者ではなく、佐藤さんは別の人物に殺害されたのではないか−ということだ。見つかった靴も殺された佐藤さんのものかどうか分からないと主張した。

 小原容疑者は19年2月、ゲームセンターで佐藤さんら2人の女性をナンパし、佐藤さんとは別の女性と交際を始めた。

 小原容疑者は知人の男性に関東地方での型枠大工の仕事を紹介されるが、すぐ逃げだしてしまう。19年5月、紹介した男性は怒って小原容疑者を呼び出した。黒木さんの取材によると、小原容疑者は周辺の関係者に、男性から「顔に泥を塗った」と言われて日本刀をくわえさせられ、迷惑料120万円の借用書を書かされたと漏らしていた。一方。男性は黒木さんの取材に対し、迷惑料はずっと少額で、日本刀をくわえさせたことはないと否定したという。

 6月3日、小原容疑者は警察に被害届を提出。ところが事件前の6月28日昼、小原容疑者は被害届を取り下げたいと警察に言い出した。このころから小原容疑者は交際していた女性に「被害届を取り下げるためにはおまえが来ないとだめだから」と再三接触を図っている。女性と小原容疑者の間には別れ話が出ていた。

 ■失意招く出来事相次ぐ

 一方、黒木さんは知人男性が小原容疑者に被害届を取り下げさせるために佐藤さんをいわば「人質」にして、その後殺害、小原容疑者もその男性に殺害されたのではないか−という仮説を立てた。

 ある編集者は黒木さんのこの事件への傾注ぶりを「家一軒なくしてしまうかもしれない、と冗談交じりに話していました」と振り返る。妻の正子さんの話でも「月に多いときは3回、車でキャンプセットを積んで出かけて行きました。一度行ったきり40日間ほど帰ってこないこともありました」という。

 黒木さんは生前最後のブログを11月1日に更新。そこには小原容疑者の懸賞金を警察庁が300万円に増額したことを批判し、最後にこう締めくくっている。

 「なおこのブログは削除される可能性が非常に高く、前回不正に削除されたその目的は『警察書類が懸賞金の謎を暴く』と題する本稿の抹殺と思われます。

 どうか皆さん、転載をお願いします。そして、マスコミがこぞって立ち上がり、追及することを望みます」

 ブログは午後0時50分ごろ、黒木さんが自宅にいた際に更新されたとみられる。黒木さんはその約3時間後、正子さんに「打ち合わせに行ってくる」と言い残して自宅を出た。

 この殺人事件で小原容疑者はいまだに逮捕されておらず、謎は残ったままとなっている。

 日ごろ快活な黒木さんが目に見えて変わっていったのは家族によると、今年7月の参院選の前後だった。

 正子さんによると、黒木さんは「みんなの党」の公募に応じることを決意、何十年ぶりかに卒業した高校に出かけ、卒業証明書を取り寄せた。「国会議員になることで、警察の誤りを正したい、と本人はやる気満々でした」

 ところが結果は、なしのつぶて。面識があった鈴木宗男衆院議員率いる新党大地の公募にも応じたが、こちらも結果は知らされずに終わったという。

 「岩手県の殺人事件に関しても藤田幸久参院議員(民主党)に持ちかけたところ、今年5月、決算委員会で質問する約束を取り付けたんです。しかし結局、質問されることはなく、主人は『警察がかかわると政治は動かないのか』と相当落ち込んでいました」(正子さん)

 また地元・岩手のマスコミにも接触を図ったが、あまり相手にされず、東京でも通信社の記者に「田舎の事件ですからね」と断られたことを気にしていた。

 ■睡眠薬も処方され…

 死についてそれとなく話題にしたり、家庭内でも後ろ向きな発言が増えたが、正子さんは兆候とは考えていなかったという。黒木さんは「眠れない」とこぼし、睡眠薬を医師に処方されるほど悩んでいたのだった。

 千葉県警の検視の結果、黒木さんの死因は一酸化炭素中毒と判明。車内からは市原市のホームセンターで練炭を買ったことを示すレシートが見つかり、黒木さんのカードが使われていたことも分かった。コンビニエンスストアでさきいかと日本酒を購入したこともすぐに裏付けられた。自宅の冷蔵庫からは、黒木さんが医師から処方された睡眠薬もなくなっていた。

 ネット上などでは黒木さんの死について、「殺人なのでは」などという流言飛語が飛び交ったが、県警では自殺とみている。

 黒木さんは自身2作目となるサスペンス小説を書いていた。そこに使われるトリックに、メールを実際とは時間差で遅く送るというものがあった。黒木さんはその「リモートメール」機能を使って長女にメールを送っていた。遺体発見日となった11月2日午前11時ごろ、長女が正子さんに「お父さんからメールがあった」と言ったのだ。そこには「お母さんを頼む」とあった。

 「一瞬、夫は生きているのでは、と思いました」と、そのとき黒木さんを必死で探していた正子さんは振り返る。直後に「お父さんが見つかった」と昭成さんから泣き声で電話があった。

 黒木さんの父の墓前には黒木さんがコンビニで買った「ワンカップ大関」が供えられていた。遺体発見前日の11月1日午後9時ごろ、埼玉県に住む義兄と黒木さんは電話で話をしている。

 「埼玉のうまい酒が入ったんだ。今度一緒に飲もう」と言った義兄に黒木さんは「今、こっちも飲んでるんだ」と答えたという。死亡推定時刻は1日午後11時。黒木さんは墓前で父と酒を酌み交わした後、自ら死出の道に旅立ったのだろうか。

 記者の私は産経新聞宇都宮支局に勤務していた12年ごろ、黒木さんと知り合った。それ以来、酒を飲んだり、時々会ったりして近況を話し合っていた。ただテレビによく出演していたのが、最近は減っていたのが気がかりだった。

 「警察に批判的なことを言う主人を疎ましく思って、テレビ局に主人を使わないように警察から圧力がかかったとも聞きます。いろいろなことが重なっていやになってしまったんじゃないでしょうか」

 妻の正子さんはこう話して続けた。

 「岩手の事件で借金があったのは事実で、昨年は自宅を売ろうとしたこともありました。でもそれが原因とは考えていません。いざとなればアパート暮らしだってできますから。それよりも人に裏切られたことの方が辛かったんじゃないでしょうか」

 ■ブログに記されたマスコミへの言葉

 黒木さんの長男は3年前、海上保安庁に入庁し、今は茨城県の海上保安部で勤務している。NHKの「ふるさと一番」に最愛の長男が出演したときの写真を黒木さんは大切にファイルに入れ保管していた。黒木さんの長女は東京都内での勤務を千葉県内に替え、傷心の正子さんと同居を再開している。

 「変節したな」−。私をしかった黒木さんの声が耳について離れない。岩手の事件とは別の用件で電話をもらった際、「今は国税担当で警察ではないから」という趣旨の返答をしたらこうしかられた。あのちょっと照れを含んだぶっきらぼうな声が聞かれないかと思うと切ない。岩手の事件に関しては全面的に首肯できないこともあったが、黒木さんの洞察力にはいつも驚かされた。まだ黒木さんにはやれることはたくさんあったはずだ。それが悔やまれる。

 黒木さんが最後に警視庁で勤務した荏原署の上司だった人がこう言ったことがある。「彼はスーパー警察官だったよ。職務質問もうまくて優秀だった。刑事課に引くって話も相当あったんだけど、『あいつは危ないから』って声があってね。あぶない刑事(デカ)、そんな感じ。猪突(ちょとつ)猛進で、周囲が冷や冷やするタイプだったな」

 警視庁という大組織を飛び出し、一匹狼のフリーランスの道を選んだ黒木さんの目からは、大手マスコミで禄をはむ私は歯がゆく見えたのかもしれない。

 黒木さんは自身のツイッターに岩手県の殺人事件に関する警察庁作成の書類などを1日午後0時56分にアップした後、末尾にこう記している。

 「最後にマスコミ諸君。この辺で警察の顔色をうかがうのはやめにしませんか。出版不況だの広告収入の激減だと言われていますが、このままだと報道の信頼も失うことになります。国民は信頼できるマスコミとそうでないマスコミを分けます。必ずそうした時代が来ます。生き残りをかけて戦う気があるなら私は情報提供書や取材メモをお見せすることもやぶさかではありません。もう一度考えて下さい。頑張って下さい。闘って下さい。よろしくお願いします。  黒木昭雄」


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最終更新:12月18日(土)18時30分

産経新聞

 

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