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[22734] (習作)とらリリ×リアルバウトハイスクール「虎から不死鳥へ」
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/11/18 02:32
色々と感想などをいただき勉強の毎日ですが、どうも自分が書くモノは詰め込んでしまうと言うか・・・冒頭でやり過ぎてしまう様なので、また読み返して大幅に修正をしました。
呼んでいる人を置き去りにしない様に、とにかく注意をして書きたいと思います。
なので、修正した方では静馬を中心にしていきたいと思います。


(注)何処かで人間ターミネーターが暴れる予定です。

・・・また調子に乗ってしまう恐れが有りますが、出来る限り自重しようと思います。
ご都合主義もでますが、その辺は見逃していただくとありがたいです。



[22734] 第一ラウンド 鳳雛大地に立つ
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/11/15 00:53
「フェイト、止めるんだよ!!」
「なのは!!」

真っ白な服を着た少女と、真っ黒な服を着た少女が自分の持っているデバイスを振り下ろした。デバイスが丁度交差する部分にあったのは、願いを叶えるという青い宝石の様なモノ。二人は自分の相棒の言葉にも耳を貸さず自分たちの譲れない気持ちの為に、その石を求めていた。
しかし、そこで誤算が有った。
青い石が願いを叶えるのは、プログラムのためだ。そんなプログラムが有ると言うことは、それ自体が高度な機械であってもおかしくは無い。そんな機械に防衛プログラムが組まれていないという保証は何処にも存在し無い。
そして、青い石は自らの危機を認識し防衛プログラムを作動させる。
・・・・当然、自らを取り込む様に・・・

「きゃあ!?」
「な・・・何!?」

ガンッ!!と言う音と共に青い石に触れる直前で、白い少女と黒い少女のデバイスがはじかれた。それと同時に、青い石を中心として空間が揺らぎ始めた。
あまりに突然の出来事に、一同はただ見ているしかなかった。

「何が起きてるの?」
「・・・」
「こんな現象は、初めてだ」
「くんくん・・・何か人の臭いがするね}

四人は自体が収まるのを待つしか無かった。次元の揺らぎは起きても、それ以上の自体には発展しそうに無かったからだ。四人が見つめる中、次第に現象は収まっていった。
すると、そこに立っていたのは一人の青年だった。
年の頃は二十歳前後ぐらいのかなり大柄な青年で、ボブのような髪型に、ワイルドと一言で表される容姿に、何といっても額に巻かれた虎柄のバンダナがとても存在感を表していた。
服は赤いシャツに、学生ズボンの様だ。
全員が一瞬疑問に思った「何で。人が?」しかし、次の瞬間疑問が驚きに変わる。

「なのは、あの人の中にジュエルシードが!!」
「!?」

フェレットの言葉に驚くなのはと呼ばれた白い少女。

「フェイト、あいつからジュエルシードの反応が有るよ!!」
「・・・!?」

赤毛の女性にフェイトと呼ばれた黒い少女は、即座に反応し目の前に現れた青年にバインドを仕掛けた。
青年はバインドに寄って拘束された。

「うおっ!? なんやね、一体!! ぐぎぎぎっ・・・! あかん、全然はずれへん。 ・・・つーか、ここ何処やねん。そんで、何で俺はこんなとこに居るんや?」

バインドで拘束されながらも、何処か落ち着いた青年を気にすることもなくフェイトは青年を連れて逃走を図ろうと青年に近づいた。

「ちょ・・・お前は誰や?」
「・・・貴方が気にする事じゃない」
「なんや、きれいな顔してんのに愛想無いな。もっと笑ってみ? めっちゃ可愛いで?」
「えっ・・・ほ、本当?」

青年の言葉に、一瞬今の状況を忘れそうになるフェイト。

「フェイト、ボーッとしてないでこっちだよ!!」
「えっ・・・あっ、うん」

フェイトはバインドで縛った青年を少し引きずる様にしながら、赤毛の女性の元まで飛んでいく。
その頃には、流石になのはも正気になりフェイトを追い掛けて来た。

「待って!!」
「フォトンランサー」

フェイトの中距離用の射撃魔法が飛び、段幕を張る。雷の雨の中を、何とか潜り抜けようとするも、なのはの今の実力では潜り抜けるどころか防ぐだけで精一杯だった。
なのはの足が止まるのを確認して、フェイトは青年を連れて逃げる様に飛ぶ。大柄な青年は、高度が高くないので地面に少し引きずられる様に飛んでいた。

「いでっ!! いででっ!! ずってる、ずってるって!! もっと高く飛んでえや。足が、靴が煙上げとるっちゅーねん!!」
「ごめん、少し黙って・・・」

フェイトは青年を黙らせようと、電流を流す。が、青年はくすぐったそうにするだけでショックを受けた様子もなかった。それどころか・・・

「なんや、今の? 何か、ええマッサージ受けたみたいやったわ。なぁ、もういっぺんやってくれへんか? 今度は肩がええわ」
「ええっ!? 今の、結構強かったよ!! 普通の人なら、失神する強さだよ!? ・・・もうすぐアルフの転移魔法陣だから、少し黙って!!」

フェイトは青年が全然自分の思い道理にならないことに驚きながらも、目的を果たせることに安堵を覚えた。

(これで、かあさんにほめて貰える!!)

フェイトの心は踊っていたが、一緒に連れられていた青年はなんか不思議そうな顔をしていた。最初は無視をしていたが、ジッとこっちを見るので流石に無視しきれなくなった。

「・・・何ですか?」
「いや・・・さっき魔法がどうたらって言ってたやんか? それって、やっぱソルバニアがらみか?」
「? 何ですか? その、ソルバニアって・・・」
「・・・いや、知らんかったらええねん。忘れてくれ」

青年が少し落ち込んだ様子だったのがフェイトは気になったが、後ろから「待ってー!!」という声も聞こえてきたので、急いでアルフの魔法陣に飛び込んだ。

「行くよ!!」

アルフが遠吠えをすると、魔方陣が発動しその場から三人の姿が消えた。

「消えちゃった!!」

なのははやっと追い付いたと思ったら、今度はその場からフェイト達三人の姿が消えていた。辺りを見回しても、影も形もない。

「ユ・・・ユーノ君、あの男の人消えちゃったよ!? ど・・・どうしよう!! それにジュエルシードも!! こんな時、どうすればいいの!?」
「そんなの、僕が聞きたいよ!! それどころか、こんなケースは初めてだから分かる訳無いよ!! と・・・取りあえず、長老に連絡を・・・って、連絡できないんだったー!!」

テンパルっているユーノと、右往左往するなのは。端からみたらアタフタする子供と、頭を抱えるフェレットもどきという奇妙な光景が繰り広げられた。しばらくそうしていると、ユーノの方が何か名案を思いついた様だ。
その様子を見たなのはが、期待のまなざしをユーノに向ける。

「何か思いついた?」

なのはは期待を込めてユーノに聞いてみる。ユーノも、もったいぶる様にたっぷり間を置いてから口を開いた。

「今度、あの人に直接聞いてみよう」
「は? それだけ?」
「うん」
「ユーノ君・・・真面目にやってね?」

その時のなのはは確かに笑顔だったが、その背後には魔王の幻視が見えた・・・後にユーノはそう語ったとか・・・
なのはのプレッシャーに晒されながらも、ユーノは必死に弁解を始めた。

「でも、僕にもこの現象の説明が付かないし。知っているかも知れない人には連絡が出来ない・・・なら、本人に直接聞くしかないよね?」
「う・・・そうかも知れないけど・・・」
「こんな所で話をしても何にもならないし、家に帰ろうよ」
「・・・そうだね。あんまり遅くなる訳にもいかないし・・・」

なのは達は仕方なく、家に帰ることにした。結局の所問題は解決していないが、ジュエルシードと問題になっている人物がいないのでは話にもならない。二人は心なしか肩を落として家に帰ることにした。
何だか色々ありすぎて、二人はかなり疲れた様子だった。



一方の魔法で転移した別の組はと言うと・・・

「ここ、何処や?」
「・・・ここは時の庭園、私達の家・・・」
「えらい、殺風景やなぁ・・・所で、何で俺はここにおんねん」

フェイトは青年の持つ空気がガラリと変わったのを、肌で感じた。それはアルフも同様で、低くうなり声を上げ少し低姿勢で身構えていた。

「・・・信じて貰えないかも知れないけど・・・」

フェイトは青年に起きたことを包み隠さず、自分が知っている範囲で話した。フェイトの全身が、青年には決して勝てないと・・・争う事を本能が拒否している様に感じた。
黙って聞いていた青年の怖い空気が無くなり、元の明るい空気になった。

「・・・って事は、何が起きたのか詳しいことは知らへんのやな?」

青年の問いにぶんっって音がするぐらい全力で頷いたフェイトは、頭が少しくらっとしていた。体が倒れそうになるのを青年が支えてくれた。

「・・・あんま、無理すんなや?」

そう言って頭を撫でてくれる青年の手がとっても温かくて、自然と顔が綻んでくるのをフェイトは感じていた。

「お? 何や、そんな顔できるやん。今、ごっつう可愛いで」
「ほ・・・本当ですか?」
「そんなことで、嘘は言わん」
「・・・ありがとう・・・」

フェイトの顔に熱が集まってくるのを感じながら、フェイトは青年に黙って頭を撫でられていた。アルフもフェイトが大人しいので、特に青年に牙を向ける事もしない。
それどころか、かなり気に入っている様子だった。

「そう言えば、あんたの名前を聞いてなかったね? あたしは、アルフ。あんたは?」

アルフが突然自己紹介し始めたので、心地よい時間からフェイトは慌てて抜け出した。

「わ・・・私は、フェイト・テスタロッサです」

二人の自己紹介を受けて、青年は普段は隠れて見えない犬歯の様な歯を見せる様に二カッと笑いながら名乗った。

「俺は、草彅静馬。大天才の草彅静馬や!!」

こうして、鳳雛は異次元の世界にに降り立った。




それとは、別の何処かの世界・・・

「おや・・・コレは面白い。コレだから、運命ってのは面白いんだよね~。こんなイレギュラーまた発生する確率なんて、天文学的な確率だろうなぁ。かろうじて観れるみたいだし、あっちはあっちで楽しませて貰うかな」

黒一色に身を包み、何処かの探偵を思わせる帽子を被った自称<星詠み>は、たばこを吹かしながら自分の元に来るであろう童顔の少年を待っていた。

「ま・・・こっちはこっちで、さっさとケリを付けて貰うか・・・」

その男は来るべきイベントに向けて、準備を始めた。

「さて、あっちはどうなるのかな?」

男は何もない方を見ながら、楽しみで仕方ないと言う顔をして笑っていた。







後書き

こんな感じで、どうでしょうか?
自分にはまだ経験値が足りないと痛感したグチャグチャな部分を整理して、スムーズに読める様にしたつもりですが・・・これ以上は、多分無理だろうな・・・
色々とご都合主義もありますが、伏線にしている部分も有るので今は見逃していただけるとありがたいです。
涼子さんは残念ですが、都合上出せなくなりました。出してしまうと、また暴走しそうで怖いので・・・
感想をいただいた方には感謝しています。こうして、自分でも読みやすくなりました。
これからも、読みやすいモノを心がけて行きたいです!!



[22734] 第二ラウンド 心の在処
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/11/16 00:41
時の庭園に甘く、優しく、温かい歌声が響く。
静馬が時の庭園に来て以来、必ず決まった時間に歌声が響いていた。しかしその歌声を忌々しそうに聞いている人物がいた。
プレシアである。
この場所に連れてこられた静馬は、直ぐにこの庭園の主に面会した。
静馬のことを胡散臭そうに見たプレシアは、当初は追い出そうとしていた。しかし、フェイトから静馬の中にジュエルシードが有ることを聞いたプレシアは、幾つかの条件付きで静馬の滞在を許した。
それには何故かフェイトやアルフが喜んだので、その事が気にくわなかったプレシアはフェイトに厳しい躾をしようとしたが静馬に邪魔をされた。

「ココの事よう分からんから、フェイトに案内して貰いたいねんけど・・・ええやろ?」

静馬の提案により、何となく間を外されたプレシアはどうでも良くなったので許可を出した。コレにはフェイトもアルフも驚いた様だが、直ぐに三人で案内に出発した。
一人残ったプレシアは苛立ちを抱えたまま、ジュエルシードの研究に戻っていった。
それから数日は、静かな時間が流れていた。静馬も条件の通りに、余り外を出歩くこともなかった。
だが、静馬の我慢も数日で終わりを告げた。その所為で、プレシアは再び苛立つ日々が始まったのだ。

「ココには何もあらへん!! 俺を、寂しさで殺す気か!! ・・・ある程度の買い物ん位許したってーな」

余り騒がれても面倒なので、プレシアは買い物の許可を出した。当然、買い物は第97管理外世界でする事となった。様々な生活用品の中に、有るものを見つけるまではプレシアもイライラする事も無かったのだが・・・

「コレは、何なの?」

プレシアの目に止まったのは、静馬の荷物にしては全然似合わない物だった。
そこにあったのは、一本のアコースティックギターだったからだ。

「何や、ギターも知らんのか?」
「それ位は知っているわ。ただ、貴方みたいな粗野で下品な人間に似合わないと思ったからよ」

馬鹿にされたと感じたプレシアは、何倍にもして口撃する事で少し苛立ちを解消した。しかし、フェイトとアルフは興味心身といった感じでギターを見ていた。その姿に、プレシアはまたイライラしそうになるが・・・プレシアに口撃された静馬がこのまま黙っているはずは無かった。

「そこまで言うんやったら、見とけよ」

そう言ってギターを構え、弾き語りを始めた。その瞬間、プレシアの中の鬱屈とした気持ちが吹き飛んでしまった。
甘く、優しく、温かな声が時の庭園に響き渡った。見れば、フェイトもアルフも涙を流しながら聞いているではないか。そして、プレシア自身にも影響が出てきたのだった。
全て凍らした心の中に何か温かい物が蘇る感覚。アリシアを生き返らせるために、全て忘れ去った筈の心。それを思い出せば、間違いなく自分の歩みが止まってしまうモノ・・・その心がプレシアの中で大きくなろうとしたので、危険と判断し速やかに撤退した。

(何なの!? あの男は何者!?)

本当は本人に問い詰めたい所だが、アノ歌を聴いていられる自信がない。仕方無く自分の部屋に籠もることにしたが、彼方此方に反響した歌声はどうしても耳に入ってしまう。
だが、かなり離れたこともあり苛立ちが緩和される程度にまでなったので、その歌を聴きながら研究に没頭することにした。
それが、ココ数日間に有った出来事であった。



ギターを弾きながら、歌声を時の庭園に響かせる。ギターが手に入ってから、静馬は決まった時間に歌を歌っていた。初めて見たときから、プレシアが心を病んでいることは一発で分かった。その所為で、フェイトにまで被害が出ているのもアルフから聞いていた。
ならば、する事はただ一つ・・・

(歌は人類が生み出した最高の文化・・・やったっけ?)

そんな事を考えながら、静馬はギターの音に自分の歌声を乗せる。その歌声を静馬の前で聞いているのは、フェイトとアルフの二人だけ。何時もと変わらない風景だが、静馬は全力で心を歌に乗せて庭園に響かせる。
既に何日も同じ事をしているが、肝心の人物が姿を見せなかった。

(プレシアやったっけ? どんな事情が有るか知らんが、身内を失った人間なんてどんだけ居ると思てんねん。その人等も悲しみを乗り越えて、幸せになっとる! どんだけ悲しいか知らんけど、そこから這い上がらな死んだ人間も成仏できんわ! あんたには、まだ幸せにすべき家族が居るやろ!!)

静馬は自分か感じた事を全て歌に乗せ、唯一人にぶつける様に激しく歌い始めた。突然激しくなった歌に、フェイトとアルフも驚いていたが静馬が思いをぶつけたかったのは唯一人・・・プレシアだけであった。
そして、意外なことにプレシアから反応が返ってきたのだった。

(貴方に、何が分かるというの!! アノ子は、アリシアは帰ってこないのよ!! だから私は、アルハザードに行きアリシアを生き返らせるの!! 誰にも、邪魔はさせないわ!!)
(アホンダラーーー!! そんなモン知ったことか!! あんたの言うアリシアって子が、色んなモンを犠牲にして生き返ったと知って幸せになれる思うんか!? あんたは、そんな家族で幸せに暮らせる思てるんか!!)
(当たり前よ!! アリシアは聡明で、誰よりも優しくて、とても可愛らしいのよ。幸せになれるに決まっているわ!!)
(既に、その時点で間違ってることに気付けや!! 優しくて聡明な子が間違いを犯してまで生き返って、それで納得できるはずがないやろ!! あんたの理想像は、あんたが作った幻や!!)
(黙りなさい!! もういいわ!! 貴方を、ココで消すわ!!)

次第に高まって行く異常な圧力に、流石にフェイトとアルフも気付いたが状況が飲み込めていないので対応が僅かに遅れた。静馬達がいる部屋に、突然落雷が発生した。

「きゃあ!?」
「うわぁ!?」

その衝撃でフェイトとアルフも吹き飛ばされてしまい壁に激突した。二人はそのまま気絶してしまったが、静馬はある一点を見続けた。
そこには、プレシアが転移してくるのが見えた。

「コレが俺の本気じゃ!! 俺の歌、聞けやオラーッ!!」

静馬は自分の歌声に神気とここに来てから使える力と、自分の魂を込めてプレシアにぶつけていった。魔法を使う体勢だったプレシアは、シールドを張る暇すらなかった。
静馬の歌の直撃を浴びたプレシアは、起きているはずなのに夢を見ている様な状態になっていた。

(ココは・・・) 

頭がクラクラして、何だか体が宙に浮いている錯覚を覚える。すると、誰かに呼ばれている気がした。
しかも、その声は忘れたくても忘れることが出来ない声だった。

(アリシア? アリシアなの!?)
(ゴメンねママ・・・ずっと一緒だったけど、私の声をママに届けることが出来なかったの・・・ママ、大好きだよ)
(私もよ、アリシア・・・だから、ママの元に返ってきて!!)
(それは出来ないよ、ママ・・・だって、私は死んじゃったから・・・でもね、私は生まれ変われるの。そう、神様が約束してくれたから・・・)
(駄目よ・・・アリシアが、離れてしまう・・・生まれ変わっては駄目よ・・・)
(大丈夫だよ、ママ。だって私は、ママの孫として生まれ変わるもの・・・ママには、沢山かわいがって貰うの)

その言葉と同時に、プレシアの憑きものが落ちた。プレシアの望んだ形ではないが、アリシアはプレシアの元に返ってくる・・・何故か、そう信じる事が出来た。
アリシアは、ずっと側にいてくれて自分を見てくれていた。自分のために道を踏み外してしまった、母親をずっと心配していたのだ。それを知ったとき、プレシアの中から涙が溢れて止まらなかった。

(ゴメンね、悪いママでゴメンね・・・)
(ううん・・・ママは、少し道を外れただけだよ。だって、あんなに可愛い妹が出来たんだもの・・・ママ、フェイトを・・・家族を、守ってあげて・・・お願い・・・)

プレシアは、何となく理解した。もう、話せる時間が無いことを・・・

(分かったわ・・・大魔導士の名にかけて、私の家族は守るわ)
(じゃあ、もう行かなきゃ。ママ、また会おうね)
(ええ、今度は私はおばあちゃんなのね・・・)
(そうだよ。またよろしくね、おばあちゃん)

アリシアのその言葉と共に、プレシアの意識が目映い光に包まれた。再び意識が覚醒すると、そこは静馬達がいた部屋だった。
そして目の前には、荒い息の静馬が立っていた。

「・・・どうや、俺の全力は・・・」

どうやら、立っているのもやっとの状態の様だ。プレシアは自分の頬をそっと撫でると、そこには涙の後があった。少なくても、あれは幻や夢では説明が付かないことは理解した。

「・・・最高だったわ、危うく天国に行く所だったわ・・・」

そう言いながら、プレシアは自分が笑っているのを自覚した。何年も笑う事など無かった筈なのだが・・・やはり、アノ歌が原因だろう。

「静馬、今日はもう休みなさい。明日、もう一度話をするわ。 ・・・それに、私達も家族で話をしないといけないしね・・・」

そういうプレシアの目は、母親の目をしていた。気絶して眠ったままのフェイトを抱きしめ、愛しい家族と共にプレシアは自分たちの部屋へと転移した。
残された静馬はと言うと・・・

「・・・やれば、できるやんけ・・・」

そう呟くと、大の字に倒れてそのまま眠ってしまった。
この瞬間、失われた家族の絆がもう一度結び直されたのであった。





後書き
プレシアかーさんには活躍して貰いたいのと、後々のためフラグを立てさせていただきました。
う~ん、この世界で神様の存在って信じられているのか?そんな感じですが、このぐらいの事は大事なイベントとして流していただけるとありがたいです。



[22734] 第三ラウンド プレシアのなぜなに教室
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/11/17 18:03
テスタロッサ一家が家族の絆を再確認した翌日、静馬はプレシアの部屋に呼ばれていた。昨日の出来事のお陰で昼まで爆睡していた静馬は、プレシアからの頭に響く声によって無理矢理起こされ部屋に来る様言われた。
頭がまだ半分眠った様な状態で、静馬はふらふらしながらプレシアの部屋まで歩いて向かていた。途中の廊下に花瓶に生けられた花があったり、装飾品が置かれてあったりと殺風景だった以前とは大違いで、時の庭園自体に生活感が漂っている気配が感じられる。
それを見ながら、やっぱりこっちの方がええなぁって思う静馬であった。
少し歩いてプレシアの部屋に到着すると、何だか良い匂いがしてきた。

(なんや?)

何が有るのか気になったがそのままドアを開けると、そこは一家団欒の場になったいた。
アンティークのテーブルセットにこれまたアンティークな家具のセットに、ソファーやシャンデリアなど非常に洋風な家具が並んでいた。それよりも気になったのは、最初に見た時と部屋が完全に変わっているのが驚いた。
それに気付いたのかプレシアは、苦笑しながら静馬に説明をした。

「アノ部屋でこんな物置けないから、部屋を改装したわ。時の庭園の所有者が私だから、簡単にできたわ」

と、とんでも無いことを口にする大魔導士。見れば部屋の広さも変わっていたので、魔法って便利やな~と感心している静馬にフェイトが近づいて来た。

「早く座ろう。静馬お兄ちゃん」

笑顔でそんな事をフェイトが言う物だから、静馬は一撃で陥落した。フェイトに手を引かれ席に着くと、テーブルの上にはオーソドックスな家庭料理が並んでいた。和洋中とバラバラだが、量自体はそんなに多くない。
テーブルの料理を見た静馬が、視線をプレシアに向けると・・・

「ちょっと、張り切り過ぎちゃった・・・」

エプロンで赤くなっている顔を隠しながら、プレシアは恥ずかしそうに言い訳を続けていた。プレシアは言い訳を聞き取れるか取れないか微妙な音量で続けていたが、それを正気に戻したのは意外にもアルフだった。
アルフは何処から取り出したのかスリッパでプレシアの頭をはたいた。スパァンという意外にいい音が、辺りに良く響いていた。

「いつまでそうしてんだい!! こっちはお腹が減ってるんだよ!! さっさとご飯にしないか!!」

どうやら、唯空腹でたまらないから突っ込んだだけの様だ。しかし、アルフの一撃でプレシアも正気に戻り少し遅いお昼ご飯となった。

「「「「いただきまーす!!」」」」

全員でご飯を食べるそのさなか、プレシアは静馬に話し掛けてきた。

「後で話があるから、このまま部屋にいてね」
「分かった」

フェイトの世話を甲斐甲斐しくするプレシアを見ながら、ほのぼのとした昼食は何事も無く終わった。久々に作ったというプレシアの料理は、かなり美味しかった。



「じゃあ、コレから大事な話を始めるわ」

プレシアがそう言うと、全員がソファーの周りに集まった。ソファーに座っているのは静馬、フェイトアルフで。少し離れて対面する様に椅子にはプレシアが座っていた。

「まずは、有り難うと言わせて貰うわ。貴方のお陰で、私達は再び家族になれたのだから」

プレシアが優しいまなざしでフェイトを見て、フェイトははにかむ様に笑いながら静馬を見上げる。その横でアルフは大量の涙を流しながら、うんうんと頷いていた。
そんな様子を優しい顔で見ていたプレシアの表情が引き締まり、それと同時に場の空気も引き締まった。

「では、これからが本題よ。まず、貴方の力を浴びた所為だと思うけど・・・私の病が無くなったの。 ・・・でもコレは、貴方の中に有るジュエルシードの所為かも知れないから・・・その辺は、協力してくれるわよね?」

プレシアは怖いぐらいの笑顔で、静馬に詰め寄ってくる。どうやら、研究者魂に火が付いた様だ。その笑顔の前に静馬はいい知れないプレッシャーを感じ、唯頷くだけしか出来なかった。
静馬が頷くと、プレシアは元の表情になり、再び椅子に座った。

「コホン・・・次は、貴方に関係する事よ。単刀直入に言うわ・・・貴方は、純粋な人間ではない。貴方はジュエルシードが生み出した、ドッペルゲンガーとも言うべき存在なの」
「は? 何言うとんねん? 俺は、実際にココに居るやんけ」

静馬はプレシアの言うことが理解出来なかった。何故なら、自分という存在はココにいるし神気も扱える・・・なのに、プレシアはドッペルゲンガーと言う。・・・何故なのか?
それが、静馬には理解出来なかった。

「では、聞くわ。貴方の居た所は、西暦何年?」
「1996年や」
「・・・今の西暦は、2004年よ。貴方の居た世界と時間の流れが違うことになるわね・・・」
「ちょう待てぇ!! ノストラダムスの予言は!? 二千年問題は!? 阪神はあれから優勝できたんか!? 俺の知らんことが、ぎょうさん有るやないか!!」

(それに、アノ文化祭での結末を俺は知らんぞ!?)

静馬は自分が置かれている状況が全く理解出来なかった。自分は、何故こんな所に居るのか?何故、そんなに時間が進んでいるのか?何もかもが分からなかった。
プレシアなら帰る方法を知っているかも知れないと思ったから、こうして仲直りもさせた。ただ、この家族に幸せになって欲しいというのも理由だが・・・
見るからにマッドな空気を持つプレシアなら・・・そう思っていたら、その本人から出た言葉が・・・

(ドッペルゲンガーってなんやねん!! 意味分からんわ!!)

そう思ったがまだプレシアの話が続きそうなので、静馬はまだジッとしていることにした
。それを見たプレシアの表情が、少し曇った。

「続けるわ・・・私の推測も入るけど、まずこの次元に置いて平行世界は観測されていないわ。次元の壁を越えることが出来ても、時間の壁は越えることが出来ないの。そして、ジュエルシードにもそんな機能は無いわ。そんなことが出来るなら、アルハザードが伝説になるはずがないもの」
「・・・その、アルハザードってなんや?」
「行き着くとこまで行き着いた、変人の集まりよ。そして、次元世界に置いて時間の流れは多少の誤差は有れど、ほぼ同じ。貴方との世界みたいに、年単位でずれが生じることは無いわ。何より、貴方の記憶が証明しているの」
「・・・どういう意味やねん」
「貴方の、1996年から2004年の間の記憶は? 貴方は、どうやってこの世界に来たの? 貴方がオリジナルなら、色々思い出せる事が有るはずよ}
「!?」

プレシアに言われ、初めて静馬は気がついた。自分にはアノ学園祭までの記憶は有ってもそれからの記憶が一切無いことと、何より自分はどうしてこの場に来たのか原因が全く思い当たらなかった。
・・・まるで、突然そこに存在したかの様に・・・
その瞬間、全身に震えが走った。どうしようも無く、怖かった。まるで、自分は世界に操られている様で、とても怖かった。
途轍もなく重い闇に心が潰されそうになったとき、突然静馬の体を温かい物が包んだ。
周りを見るとプレシア、フェイト、アルフに抱きしめられていた。

「貴方は、静馬よ。私達のために自分の出来る限りの努力をして、私達を救ってくれた静馬。それは、貴方だけがしてくれたこと。他の誰でもない、貴方が成してくれた事よ」
「私にとって、静馬お兄ちゃんは。目の前にいて、こうやって抱きつける人だけだよ」
「あたしの気に入った静馬は、どんなことが有っても目の闘志は死んじゃあいなかったよ! さぁ、もう一度あたしにアノ目をみせとくれ!!」

温かい声と期待に、静馬の心に再び灯がともる。そうだ、自分は草彅静馬だ!! ドッペルゲンガーだ何だと言われても、自分が草彅静馬である事に間違いはない。なら、自分らしくすれば良いだけではないのか?
うじうじ悩むのは、自分らしくない。ならば、ただ前に進むだけだ!! 何故なら、俺は天才だから!!
静馬に再び自信が戻ってくると、プレシア達にも笑顔が戻って来た。

「すまん、世話掛けたな」
「いいえ、こんな状況だもの・・・仕方ないわ。それより、貴方は今日から静馬・K・テスタロッサを名乗りなさい。正体がどうあれ、戸籍が無いと不便でしょ? とにかく、今日から貴方も私達の家族よ」
「・・・ほんま・・有り難うな・・・」

自分が一人では無いと知り、何より支えてくれる人がいる事がこんなにも嬉しい事を静馬は改めて知ったのだった。
こうして、テスタロッサファミリーに静馬も加わることとなったのであった。

「取りあえず貴方のことはもっと詳しく調べてみないと、何とも言えないわ。私の知識と貴方が出現した瞬間を見て私が組み立てた理論が、今の結論よ」
「・・・それは、今は置いておこか。ほんなら、プレシアの言う俺と同じドッペルゲンガーが生まれる可能性もあるんやな?」
「ええ。唯、貴方の意志の力と同じ位のレベルでないと、逆にジュエルシードが主導権を握ると考えた方が良いわ」
「・・・どういう意味や?」
「貴方はジュエルシードを内包しているけど、普通は体の表面に現れるの。そうなるとジュエルシードの防衛本能のままに暴れることになるわね」

俺、天才で良かった・・・そう思う静馬で有ったがと同時に、イヤな予感もした。もしかしたら、自分と因縁が深いヤツが出てくるかもしれない予感。
黒い風使いや、侍ガール、何より・・・

(あのアホには、絶対に会いたくないわ・・・)

静馬脳裏には、二メートルの元担任が浮かんでいた。

(まあ、喧嘩できるんやったら、それはそれで・・・)

期待道理になって欲しい反面、叶って欲しくない静馬の葛藤は少し続いて行くのであった。





後書き
何とか続き掛けました・・・
ソルバニアの所為で、こんな事が起きた・・・そう持って行こうと考えています。一応、当初の予定を少し変更して、静馬の知っている人と戦闘・・・にしていこうかな?
まぁ、フラグは立てたのでこんな感じにやって行きます。
では、また・・・



[22734] 第四ラウンド 動き出すテスタロッサファミリー
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/11/18 02:31
プレシアから家族として迎え入れられた静馬は、プレシアにより色々な検査を受けていた。その結果は直ぐに出たので、それをフェイト達と一緒にどきどきしながら静馬は聞いていた。

「結論から言うと、静馬は人間に限りなく近いわ。でも、オリジナルでは無いのは間違いないわ・・・ジュエルシードが生み出した事は確かよ。・・・おそらく、貴方から聞いたソルバニアという世界に入ったときに、貴方の情報が残っていたのね。それをジュエルシードは読み取り、それを複製し取り込もうとした・・・だけど・・・」
「俺が、天才やから逆に俺が支配してもうた・・・って言うことか?」
「ええ、間違いないわ。 ・・・おそらくオリジナルの方でも、何か大きな出来事が有ったんでしょうね。その所為で平行世界を隔てる壁が限りなく薄くなり、その瞬間にジュエルシードが起動したから読み込んだ・・・あくまで、推測でしかないんだけどね・・・」

プレシアは静馬の気持ちを察してか、沈んだ表情になっていた。静馬はやっぱりか・・・と流石に沈んだ気分になっていた。それを見かねたフェイトが、重い口を開いた。

「静馬お兄ちゃん・・・私、実は・・・」

フェイトが何か言いかけたので、静馬は真剣な話だと思ってフェイトの目をジッと見つめた。その瞬間・・・

「あうっ・・・あ、あの・・・きゅう・・・」

静馬に目を見つめられたフェイトは顔を赤くし、アタフタとした後に気を失った。気絶したフェイトをアルフが抱え「フェイト、傷は浅いよしっかりしな!!」などと、コントじみたことをやっていた。

「・・・一体、なんやねん?」

フェイトが何故気絶したのか分からず、三流のコントを繰り広げるアルフ達を見ながら不思議な気分だった。ふとプレシアの方を見ると何処から出したのか、椅子に腰掛け優雅にお茶を楽しんでいる姿が目に映った。
どうやら、フェイトにこの場を任せるつもりの様だ。

(何考えてんのや?)

プレシアの考えが理解出来ない静馬は、疑問に重いながらもフェイトに視線を戻した・・・が、次に視界に入ったのはフェイトのドアップだった。

「うおっ!?」

流石にそれには驚いたが、何とか逃げずに済んだ。しかし、改めてフェイトの顔を見ると・・・

(髪の毛金髪のサラサラで、透き通るみたいに肌白いし・・・それにこの瞳の色。ほんま、お人形みたいやな)

フェイトの顔を間近で見た静馬は、改めてフェイトの美少女ぶりを再確認させられた。

「あのね、お兄ちゃん・・・私、実は・・・」
「・・・」
「私は、アリシアのクローンなの!!」
「はぁ!?」

そう声を上げた静馬は、プレシアを睨み付けた。プレシアはもの凄く複雑そうな顔で、静馬の視線を正面から受け止めていた。静馬はこみ上げてきた怒気を沈めるため、大きく深呼吸をしてからプレシアに理由を聞いた。

「・・・どういうことや?」
「あの時の私は正気じゃ無かったから・・・だから、アリシアの代わりを求めた・・・それが、フェイトよ。今では許されることでは無いと思っているから・・・だから、フェイトを幸せにすることで少しでも罪を償う事が出来れば・・・そう思っているわ」

プレシアの後悔を噛みしめる様な告白に、静馬は黙って聞いているしかなかった。それは自分が居ない所で起こった事なので、そこまで口を出すことは出来なかった。何より、それが有るからフェイトとこうして出会えたのだ・・・そう考えると、怒るに怒れない静馬だった。

「かーさんを怒らないで。私が居るのは、かーさんが私を生み出してくれたから・・・私とお兄ちゃんでは違うことも有るけど、もう一人がいる事には違いないと思うから・・・だから・・・お兄ちゃんと私は仲間だよ? 寂しくないよ?」

フェイトは色々と葛藤が有っただろうに・・・何より、かなりの勇気を出して自分の事を語ってくれたのに・・・こうして励まされている自分が、情けなく思えた静馬はただフェイトを抱き寄せた。
その行動に、一番慌てたのはフェイトだった。

「えっ!? 何!? アワアワ・・・」

突然の事に慌てておかしな行動を起こしそうになるフェイトを、静馬は落ち着ける様に静かに頭を撫でた。
それは効果覿面だったらしく、直ぐにフェイトは落ち着いた。

「フェイトにそんな事言わすなんて、俺はお兄ちゃん失格やな・・・フェイトのお陰でやっと、何時もの自分に戻れそうや。ほんま、おおきにな・・・」
「・・・うん、良かった・・・」

嬉しそうに笑いながら安心したのか静かに涙を流すフェイトの頭を、何時までも静馬は撫でていた。暫くしてフェイトが落ち着くと、静馬はフェイトをそっと離した。
よっぽど心地よかったのか、心なしかフェイトは残念そうにしていた。その様子を全て見守っていたプレシアが再び口を開いた。

「では、コレからの事を話しましょ? まず、ジュエルシードは全て集めるわ。あんな危険な物を野放しには出来ないし、何より・・・」

プレシアの後半の言葉は、良く聞き取れなかった。何やら不穏な言葉を発していた様だが、確認するのも恐ろしいのでここはスルーした。

「・・・もし騒ぎを嗅ぎつけて時空管理局が首を突っ込んできたら、交渉して有利な条件で私の罪を減刑して貰って。尚かつジュエルシードの一部を譲って貰うことにするわ。それが出来ないと話にならないから、まずはジュエルシードの回収ね」
「はい!! かーさん」
「分かってるよ!!」

プレシアの言葉に、元気に返事をするフェイトとアルフ。静馬は出来ることが無いため、お留守番かと思っていたのだが・・・

「静馬、貴方の魔力適正を調べたら充分素質が有るみたいだから、ココで鍛えて貰うわ。
それにデバイスも、私が作るし・・・何より貴方のアノ力が役に立つわ」
「何でや?」
「貴方のアノ力に、ジュエルシードの力の波長が少し交じっているみたいなの。貴方が歌を歌って力を放射すると、ジュエルシードに当たって反射が帰ってくるわ。つまり、貴方がレーダーの代わりになるの」
「それやったら、役に立つな」

プレシアの言葉に最初は自分に出来ることが有るのか不安だった静馬も、自分が出来ることを見つけやる気が出てきた。

「かーさん、お兄ちゃんの魔力のランクは? それに、特殊な変換資質とかは有るの?」
「それは、あたしも聞きたいね」

静馬にもリンカーコアが有ると聞き、フェイトもアルフも興味心身だった。それは静馬も同じで、神気と共に使った力の正体を知りたかったのだ。

「ランクはSランクで、変換資質も持っているわ。その正体は、風よ」
「風?」
「そう、風。時には激しく嵐となり、時には優しく心を落ち着かせてくれる。おそらく、何処までも歌声を届けることが出来るでしょうね」
「・・・なんや、よう分からんけど。それって、凄い事なんか?」

プレシア達が盛り上がる中、状況を理解出来ない静馬は一人取り残されていた。それに気がついたプレシアは、静馬にも分かる様に説明をした。

「Sランクって言うのは、それより上が数えるしかないぐらいのランクなの。魔力変換って言うのは、自分の魔力の性質を変える事が出来るって言う事よ。私やフェイトの雷みたいにね」
「ほー・・・それは、凄い事やな」
「それでは、今から静馬は私と魔法のお勉強を始めましょうね? フェイトは、アルフとジュエルシードを探して来てちょうだい。・・・気を付けてね?」
「分かってるよ、かーさん。じゃあ、行ってきます!!」
「フェイトのことは、あたしに任せておきな」
「頼んだわ・・・アルフ」

フェイトとアルフは元気に転送ポートまで向かった。そして、プレシアと静馬は訓練室に向かった。
こうして、テスタロッサファミリーは新たに動き始めた。



それから数日経ったある日、フェイトが大慌てでプレシアの部屋に入ってきた。

「かーさん、大変!! 大事なこと、忘れてた!!」
「一体どうしたの!? フェイト、とにかく落ち着いて」

大慌ててでテンパリながらも説明しようとするフェイトだが、頭がこんがらがっているのか上手く説明できていない。仕方なくプレシアはスリッパをどこからとも無く取り出し、フェイトの頭に一撃を加えた。

「きゃん」

スパーンといういい音と、フェイトの子犬みたいな可愛い声がした。それと同時に、やっとフェイトも正常に起動した様だ。

「かーさん、ゴメンね。大事な事って言うのは、私達以外にジュエルシードを集めている子がいるのを、今まで忘れていたことなの・・・」
「・・・よく、今まで忘れていたわね。そんな大事なこと・・・」
「あう・・・お兄ちゃんと一緒に入れるのが嬉しくて・・・だって、お兄ちゃんは・・・」

そこからフェイトのお兄ちゃん自慢が始まりそうになったのでプレシアは再びスリッパを持ち出し、再びフェイトの脳天に振り降ろした。

「・・・かーさん、ほんとにごめんなさい・・・」
「・・・取りあえず、その子達をココに呼ぶ必要が有りそうね・・・あ、フェイトその子とは知り合いなの?」
「少し、話をしただけだけど・・・悪い子じゃないと思う」
「そう・・・ならその子から事情を聞いてみないとね。静馬の方も順調だし、デバイスももう少しで組み上がる所まで来ているし・・・これから、忙しくなるわ」

この時、プレシアは一つ過ちに気がついていなかった。静馬の歌にジュエルシードの波動が交じっていると言うことは、逆に別の物にも影響を与える可能性が有ると言うことを見落としていたのだ。
それが新たな戦いの火ぶたを切って落とすこととなろうとは、流石のプレシアも気付く事が出来なかった。





後書き
フェイト、お兄ちゃん子になるの巻き・・・と言うか、プレシアさん大活躍っていうかほぼ主役級?
まあ、一番色々なスキルを持っていて支援できるのはこの人だけだから仕方無いか。
次は、なの&ユーの再登場とデバイスと・・・そろそろ、レプリ人の誰かがでるかも・・・



[22734] 第五ラウンド なのはとフェイト
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/11/25 23:46
(私、高町なのはは今とっても緊張しています・・・)
 
なのははフェレットのユーノと共に、目の前を歩く金髪の少女と赤毛の女性の後ろ姿を見ながら建物の中を歩いていた。
なのは達がジェルシードを探して居る所へ目の前の少女達が声を掛けて来たので、色々と知りたい事も有ったなのは達はこの場所にやって来ていた。ユーノが警戒を解こうとしないのを見て、少女達はバリアジャケットを展開したままで良いと言ってくれた。
なのはは目の前の少女達がバリアジャケットを展開していないので、何だか悪い事をしている様な気が少しだけ有ったが。ユーノが警戒しているのも頭の何処かで理解していたので、結局この場はユーノに従ったのだが・・・

(何だか信用してないみたいで、後ろめたいよ~)
(何言ってるんだ、なのは! 相手は、こんな物を移動拠点にしている様な人だよ!? どんな相手か分からないのに、警戒して置くに超したことは無いよ!!)
(うう・・・そうだけど・・・)

そんなやり取りをなのは達がしていると、どうやら目的の場所に到着したらしく。金髪の少女達が足を止めて、こちらに振り返った。

「ココだよ。ココで、かーさんがお話を聞きたいから待っているんだ」
「あたし達の主様は、色々事情が会って余り外に出られないんだ。だから、ココまで連れて来て悪いね}

金髪の少女と赤毛の女性は申し訳ないと言って感じで、なのは達にココまで連れてきた理由をを話してくれた。その言葉だけで、なのははバリアジャケットを解除した。
何となく、なのははこの人達なら信用できる・・・そう思っていた。

(なのは!?)
(大丈夫だよ、ユーノ君)

なのはは心配をするユーノを余所に、金髪の少女の前に立つ。

「はっきりとした自己紹介はまだしてなかったよね? 私はなのは。高町なのはです」
「私はフェイト・テスタロッサ」
「アルフだよ」
「フェイトちゃん、お友達になってくれる?」

フェイトはなのはが何を言っているか一瞬理解出来なかったが、その言葉の意味を理解してくると段々と喜びが沸き上がってきた。

「私で、良いの?」
「うん! 初めて出会ったときから、お友達になれるって思ってたから」
「私も、なのはと友達になりたい・・・」
「うん! 今日から、私達は友達だよ!!」
「・・・うん!!」

なのはとフェイトはお互いが両手で二人の手を取り合い、その喜びを分かち合っていた。そんな二人を涙を流しながらその様子をデジカメに納めるアルフと、状況に一人取り残されたユーノがいた。
一人取り残されたユーノに、アルフが気になって声を掛けた。

「アンタそのままで良いのかい? 元の姿に戻った方が、色々都合が良いんじゃないの?」
「えっ? あ、はい・・・」

アルフに言われ、ユーノは元の姿に戻った。フェレットもどきから金髪の優しそうな少年になったその瞬間、意外な所から声が上がった。

「え~っ!? ユーノ君って、男の子だったの!? 私、色々・・・あう・・・」

なのはが顔を真っ赤にしうめいて俯いたのを見たフェイトが、もの凄い殺気とプレッシャーと共にユーノを睨んだ。

「なのはに、何をしたの・・・?」
「べべべ・・・別に、ななな・・・何もしていないよ。た・・・ただ、その・・・一緒にお風呂とか入れられただけで・・・」

フェイトのプレッシャーに怯えながらも、しっかりと理由は話すユーノ。それを聞いたフェイトからプレッシャーが消えて、代わりになのはに何もなくて良かったという安堵感に包まれていた。
そんな様子もデジカメに納めながら、アルフは一人状況を理解していた様子だった。

「あははは!! こっちに来てからフェイトはお昼のドラマにハマッているからね、フェイトの頭の中で変な妄想が膨らんでいたんだろうねぇ」
「あ・・・アルフ!?」
「フェイトちゃん、私は平気だから。ただ、ちょっとショックだっただけだから・・・」

そんななのはの言葉にも過剰に反応し、またユーノを睨むフェイト。

「なのは、ワザとそんな事言ってるでしょ!?」
「あははは・・・ちょっとした仕返し。本当に大丈夫だから、フェイトちゃん」
「・・・本当に?」
「フェイトは心配性だね、こんな事じゃ静馬に彼女が出来たら・・・」

アルフがそんな言葉を発しかけた瞬間、ユーノを睨んでいたフェイトからどす黒い様なプレッシャーと殺気があふれ出てきた。それと同時に暴走仕掛けの魔力が体の表面でスパークし、はっきり言って怖い。
そんな状態で、ニッコリと笑顔でフェイトはアルフに詰め寄った。

「・・・アルフ・・・もう一度、今の言葉を言ってみて?」
「ごめんなさいごめんなさい、もう二度と言いませんから!! お願いだよ、フェイト許しておくれよ!!」

アルフは自分の失言に後悔しながら、ひたすらフェイトに謝った。なのはとユーノは二人で抱き合いながらガタガタと震えていた。
アルフが泣きながら謝っている姿に、フェイトは頭が冷えて行くのを実感した。プレッシャーや魔力は収まったが、途端に恥ずかしさがこみ上げてきた。フェイトのその白い肌は、今や真っ赤になっていた。

「・・・ご・・・ごめんなさい」
「ううん・・・大丈夫だよ。お姉ちゃん達も、お兄ちゃんの事で同じ感じになるから・・・大丈夫」

フェイトはなのはを怖がらせて謝るが、なのはは本当に何とも無いという感じでフェイトの手を取って大丈夫だとアピールをした。しかし、もう一人は・・・

(言えない・・・ちょと、チビッたって言えない・・・)

一人、ユーノはその事実を死ぬまで隠そうと心に決めていた。
暫くそんな状況が続いていたので、目の前のドアが向こうから開いた。

「フェイト、何をしているの? お客様は?」

中から出てきたのは、エプロンを着けたプレシアだった。フェイトの黒いセーターに白いスカートとは対照的な、白のセータにジーンズというラフな格好にエプロンを着けていた。

「あっ! かーさん、この子達だよ。ジュエルシードを集めていたのは」
「そう・・・良く来てくれたわね、私はプレシア・テスタロッサ。フェイトの母です」
「あっ!! は・・・初めまして、私高町なのはです!!」
「ゆ・・・ユーノ・スクライアです!!」

プレシアの母性に満ちた優しい微笑みに、少しどきどきしながらなのは達は自己紹介していた。ふと、プレシアの目がなのはとフェイトの二人に止まった。
なのはとフェイトが手を繋いでいるのが見えたからだった。

「フェイト、お友達が出来たの?」
「えっ・・・あ!! うん・・・」
「はいっ!! 私とフェイトちゃんはお友達です!!」

プレシアの言葉にフェイトは少し恥ずかしそうに、なのはは元気に返事をした。

「そう・・・なのはちゃん、でいいかしら? フェイトと仲良くしてあげてね?」
「はい!!」

なのはが元気に返事をする姿に、プレシアはこの子ならフェイトと仲良くしてくれると確信していた。

「じゃあ、立ち話も何だから中に入って。お茶の用意が出来ているわ」

プレシアはフェイト達に中に入る様に促した。

「行こ、なのは」
「うん、フェイトちゃん」

二人が手を繋いだまま、中に入っていくのを微笑んでプレシアは見送った。

「ほら、行くよ」
「待ってよ!」

アルフに促され、慌ててユーノも後について行く。ふと、プレシアは気になったことをユーノに聞いてみた。

「貴方、スクライアの人?」
「えっ? スクライア一族を知っているんですか!?」
「ええ、色々とね・・・」
「そうです、僕はスクライア一族です」
「そう・・・じゃあ、詳しい話は後にするわね」
「あ、はい」

プレシアとの話が終わった後に、再度アルフから促されユーノも中に入っていった。二人の後ろ姿を見ながら、プレシアは色々考えを巡らせた。

(スクライア一族・・・使えるわ。長老にココで恩を売っておくと、後々便利ね。後は・・・)

プレシアは何だか悪巧みをしている様な顔でドアを閉め、部屋に入っていった人達の後を追ってゆっくり歩き出した。

(取りあえずは、ココからね。フェイトの事も有るし・・・色々と準備が必要ね・・・)

プレシアはコレからの事に頭を巡らせながら、フェイトに初めて友達が出来た喜びを噛みしめていた。




お茶会を始めてなのは達の事情を聞いていたプレシアだったが、フェイトが何かを聞きたそうにしているのを見逃さなかった。

「フェイト? どうしたの?」

何となく聞きたいことも理解していたプレシアだったが、一応聞いてみた。

「あの・・・お兄ちゃんは・・・」

やっぱり、プレシアの予測は当たっていった。というか、本当は当事者の一人なのでココに居なければならないのだが・・・

「静馬は今大事な事をしているから、こっちにはまだ来ていないわ」
「そう・・・」

明らかにフェイトは落胆していたが、プレシアは落ち着いていた。

「静馬のことだから、直ぐに終わるわ」
「本当?」
「ええ、ほら」

プレシアがドアを指さすと、ドアが開き真っ赤なシャツにジーンズ姿の大柄な青年が入って来た。

「お兄ちゃん!!」

その姿を見るや、フェイトは嬉しそうに青年に飛びついて抱きついた。それを難なく受け止めた青年は少し困惑していた。

「フェイト、危ないからそれは止めって言うてるやろ? それに、お客さんの前やで?」
「あ!? うう・・・」

青年の言葉にどういう状況か思い出したフェイトは、またもその白い肌を真っ赤に染め上げていた。
青年は抱きついたままのフェイトを腰からぶら下げ、なのは達の前にやって来た。

「俺は、静馬。静馬・K・テスタロッサや、宜しゅうな」
「あ、高町なのはです」
「ユーノ・スクライアです」

静馬の爽やかな笑顔に、なのは達は今度は緊張せずに自己紹介が出来た。しかし、ユーノはその姿を見て、大事な事を思い出した。

「なのは、この人!!」
「えっ? 何?」
「ジュエルシードを持った人!!」
「あっ!!」

ユーノに言われて、なのはもやっと思い出すことが出来た。なのは達の反応に静馬は一から事情を話そうと思い、プレシアをチラリと見る。
プレシアは頷いていたので、静馬はなのは達の正面に座り一から説明を始めた。

「あの時やな・・・」

静馬の説明を聞いたなのは達は複雑そうな顔をしていた。確かに同情とかの感情もあるだろうが、それ以上に・・・

(ユーノ君、私達の時にそんなことにならなくて良かったね・・・)
(まさか、そんなに危険な物だったなんて・・・)

二人は自分たちだけの時に、そんな危険な状況にならなくて良かった・・・そう思っていた。二人に説明を終えた静馬は、プレシアに頼まれていた物を投げて渡した。
受け取りやすい投げ方でプレシアに渡されたそれは、ケースに入ったCDだった。

「こんなモンどうすんねん」
「これは、これから私達に必要になる物よ」
「? どういう意味や?」
「これから分かるわ」

プレシアは意味ありげな笑みを浮かべながら、なのは達に改めて向き合った。

「なのはちゃん貴方なら私達よりもこの世界に詳しいから、お願いしたいことがあるのだけど・・・良いかしら?」
「何ですか?」

プレシアが何を言い出すのか分からなかったので、少し緊張しながらなのはは構えて聞く体勢になった。

「このCDを売り出したいのだけど、私達にはどうすればいいのか分からないの。だから、貴方に詳しい人がいれば紹介して貰いたいのだけど・・・」
「ええっと・・・そう人なら居ますけど、まずはそれを聞いてみないと・・・」
「それもそうね、アルフ」
「あいよ」

プレシアの言葉に待っていましたとばかりに、アルフはCDプレイヤーを用意していた。CDをセットしアルフはCDを再生する。
そこから流れてきたのはスローバラードだったが、優しくて暖かみがある歌声に次第に皆が酔いしれてきた。
そんなには長くないその歌は、直ぐに終わりを迎えたが皆が余韻に浸っていた。

「・・・どうかしら?」

そんな中、プレシアはなのはに聞いてみた。

「私の家に丁度姉の様な存在の人が帰って来ているので、コレを聞いて貰います。それからでも、良いですか?」
「それでも良いけど・・・その人は?って聞かせて貰っても良いかしら?」

他人の人様の家の事情なので、余り踏み込んでも聞けないプレシアは歌を聴かせれる人ならどんな人か知っておきたかった。

「その人も歌を歌っている人なので・・・じゃあコレを、お借りしても?」
「ええ、お願い」

なのはの言葉を聞いて、プレシアは安心した。
コレにて。プレシアの部屋でのお茶会は閉幕した。なのは達はジュエルシードがどんな存在かを詳しく知りながらも、集めることには協力すると宣言した。
そしてそのジュエルシードは一時プレシアに預ける事となってその後、ユーノに返すかどうかは長老達と相談することとなった。
その間、ジュエルシードはプレシアが研究する事も認められた。勿論これは、長老達と協議した結果だった。長老達はプレシアのことを知っていたが、モニター越しに見る娘を見る母の顔をしたプレシアを見た瞬間に警戒を解いてくれた。
そして、なのは達が家に帰る時間となった。

「フェイトちゃん、今度は私の家に遊びに来て」
「うん、絶対に行くよ」
「ユーノ、元気でな」
「アルフもね」

それぞれ別れを告げる中、静馬はプレシアの側にいた。

「フェイトに友達が出来て良かったな」
「ええ、本当に・・・貴方が、私達を救ってくれたから・・・」
「もう家族やねんから、気にするな」
「そうね・・・」

子供達の姿を見ながら、本当にこうなって良かったと改めて実感していた。 

「じゃあ、またね!!」
「では、また今度」

なのは達を手を振りながら見送ったテスタロッサファミリーは、これからの海鳴町移住に関してまた家族会議を始めるのであった。




後書き
もう少し進みたかったんですが、思ったより進まなくて・・・色々と考えながらバランス良く調整していきたいです。
これで、また一つフラグ立てをして置いて次に進みたいです。
バンドって、面白いかな・・・でもアルフがドラムで、フェイトがキーボードを弾く姿しか思い浮かばない・・・



[22734] 第六ラウンド シズマ・K・テスタロッサの誕生!!
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/11/27 00:23
時の庭園でのお茶会から戻ったなのはは、家に帰るなり翠屋に顔を出した。そこには忙しそうにホールを行き交うウェイトレスとウェイターが居た。
ウェイトレスはツアーを終えて帰国したフィアッセ・クリステラその人で、ウェイターは高町家の女殺し高町恭也であった。
この二人が揃っているので、当然店の回転率は極端に落ちていた。フィアッセとお近づきになりたい男性達と、何とかして恭也とコンタクトを取りたい女性達で席はほぼ埋まっている。そんな中、なのはは顔を店に出した。
なのはが店に入るとごく一部の男性が熱い視線を向けたので、恭也と士郎がその男にピンポイントで殺気を向けた。
男は震え上がり、直ぐに席を立ってお会計を済まし逃げる様に帰って行った。他の同類の男達も直ぐに帰って行った。

「にゃ? あの人達、何であんなに急いで帰ったの? さっきまでゆっくりと座って居たのに」
「気にするな」

なのはの頭を恭也が撫でる。その瞬間に恭也が微笑むと、一斉に携帯の写メを取る音が店中に響いた。

「? 何だ? ・・・フィアッセも、何故携帯を構えてるんだ? それに・・・」

恭也が視線をずらすと何時の間にかウェイトレスの衣装を着た友人の月村忍と、義妹の美由希までが携帯を構えていた。

「・・・お前達まで、何の真似だ」
「いや~久々の改心の微笑みだったから、つい・・・」
「私は、何となく予感がしたから急いできたの」
「恭也って、滅多に微笑んだりしないから・・・ねぇ?」
「むう・・・」

身近な女性達から口々に攻められる様な形になって、恭也はこれ以上反論しない方が身のためだと悟った。なので、話題をなのはに振る事にした。

「それで、今日はどうしたんだ?」

側に居る身近な女性陣から「逃げた~」とか聞こえるが、そんな事は気にしない。
なのはは突然自分に話が来たので少し驚いたが、直ぐに用事を思い出した。

「フィアッセに、このCDを聞いて貰いたいんだけど・・・」
「えっ? 私?」
「何なに、何の話?」
「コレ、誰の?」
「なのは、どうしてこんな物を?」
「いっぺんに聞かれると、分かんないよー!」

なのはに集まる高町家とその関連の人達。口々に色々と言ってくる物だから、なのはも頭がこんがらがってしまった。
なのはがテンパってしまいそうなので、代表してフィアッセが質問を始めた。

「じゃあ、まずこのCDは誰の歌が入ってるの?」
「昨日お友達になった子のお兄さん」
「何故、私に?」
「私には詳しいことが分からないから、プロに聞いて見ようと思って・・・」
「う~ん・・・なのはの感想は?」
「私?」
「YES! なのはの感想」
「私の感想は・・・凄く、良かった!!」

なのははCDを聞いたときのことを思い出した。CDプレイヤーから流れる歌声は、とても優しくて温かい気持ちになった。普通に話している時は陽気で明るい人なのに、歌声を聞いた瞬間イメージが完全に変わってしまった。
なのはの中に、もっとあの人の歌を聞いてみたいという思いが生まれていた。
そんななのはの表情を見ていたフィアッセは、何度か頷いてなのはにこう告げた。

「ねぇ、なのは。その人と連絡は取れる?」
「にゃ? うん。その人と直接じゃ無いけど、お友達になった妹の子なら・・・」

フィアッセの質問にイヤな予感を感じた恭也が、たまらずフィアッセに声を掛けた。

「まて、フィアッセ何を考えている」
「YES!! 勿論、ママに連絡をしてその人と会わせるの」
「何!? いきなりティオレさんに会わせるのは、どうかと思うが・・・」
「何? 恭也はママに会いたくないの? それに、クリステラソングスクールにとっては、大事な事よ? 恭也は、ママの学校がどうなっても良いの・・・?」

フィアッセの顔がドンドン泣き顔に近づいていくに従って、周囲からのプレッシャーが恭也に降りかかってきた。
恭也はフィアッセが悪戯半分でそんな顔をしていると分かっていたが、流石にこの胃に穴が空きそうなプレッシャーには耐えられない。

「・・・フィアッセが思う様にすると良い・・・」
「YES!! 恭也ならそう言ってくれると思った。ん~ILOVEYOU!!」
「あ~っ!! フィアッセずるい!!」
「フィアッセさん、抜け駆け禁止って言ったじゃないですか!!」

何時ものドタバタが始まりそうだったので、厨房にいる両親に向かって手を振りなのはは家に戻った。

(フェイトちゃん、今は何をしてるんだろう・・・)

そう思いながら、自宅の自分の部屋から早速念話でさっきの事を話そうと思ったなのはだった。その後、ジュエルシード探しに向かおうと考えていた。
一方その頃、時の庭園では・・・




「静馬、デバイスが完成した・・・」

プレシアが静馬のために作成していたデバイスを持って、静馬の部屋まで来ていた。が、部屋の惨状を見て絶句した。
鏡は割られギターも二つに折れ、何より楽譜がそこら中に散らばっていた。
そんな惨状の部屋に明かりも付けず、静馬は部屋でうずくまっていた。

「静馬どうしたの!? 何があったの!?」

静馬の様子を見たプレシアは、たまらず静馬に駆け寄った。
プレシアに気付いた静馬が、顔を上げた。その顔は、酷く憔悴しきっていた。

「プレシア・・・夢にでてくんねん。お前は偽物や・・・唯の借りモンやって。俺の中に有るモンは、全部オリジナルのコピーなんやろ? この力も、歌も、全部!! なぁ、俺はこの世界に居ってええんか? 俺は・・・」

おそらく、フェイト達にはこの姿を見せては居ないのだろう。もしかしたら、ずっと夢にうなされるから寝ていなかったのかも知れない。プレシアはそんな静馬をこのまま放っておくことなど出来なかった。
静馬が何か続きを言いかけたとき、プレシアは自分から胸に抱え込む様に静馬を抱きしめていた。静馬は突然柔らかくて良い匂いのするモノに包まれた。それが、プレシアに抱きしめられたと理解するのに数分はかかってしまった。

「静馬、良く聞いて。確かに、貴方はあの時に生まれた。でも、並行世界にも何処の世界にも静馬・K・テスタロッサは居ないの。私の家族の、貴方しか居ないの」
「でも、俺は・・・」

静馬がまだ何か言おうとするのを、プレシアは静馬の目をジッと見ることでと止めてしまった。静馬に向けられた顔が、まるで聖母のように慈愛に満ちた表情をしていたから。

「並行世界にオリジナルは存在するかも知れない。だったら、貴方は静馬・K・テスタロッサというオリジナルに成ればいいのよ。貴方の中身が借り物だというなら、貴方だけのオリジナルを生んでいけばいいの。貴方は、私達の家族で。この世界で、たった一人の人間よ」
「・・・」

プレシアの言葉に多少の反応が有ったが、まだ完全復活とまでは行かない様だ。

「なら、こうしましょ。あの日、貴方が私達の家族となった日が貴方の誕生日。これで一つ、オリジナルとは違う所が出来た。そして二つ、貴方は静馬・K・テスタロッサで草彅では無い。三つ、貴方は魔法が使えるわ。どう? まだ他にも、違う所が有るわよ?」

プレシアが言葉を紡ぐ度に、ドンドン静馬の心が浮上してくるのが分かった。でも、まだ完全ではない。

「じゃあ、俺の中のこの想いはどうすりゃあエエねん」
「・・・酷な事を言う様だけど、決してその人と出会うことは無いわね。アルハザードですら証明出来なかった並行世界は、私達では見つける事は出来ない。仮に見つけても無限の数程有る世界から、一つを見つけるのは不可能ね。それは時間に任せて、別に新しいモノを探すしかないわ」
「・・・やっぱり無理か・・・」
「・・・ねぇ静馬? その人がどんな人か知らないけど、お買い得な物件なら有るわよ?」
「・・・何言うてんねん?」
「フフ・・・」

そう言ってプレシアは自分の体つきを感じやすい様に、再び静馬に抱きついた。静馬の体には、プレシアの素晴らしい感触がわかりやすい程伝わってきた。

「どう? 会うことが出来ない人よりは、貴方の事を愛し過ぎる程愛してあげれるけど?」
「・・・笑えんわ・・・」
「ふふっ・・・そうね」

このやり取りで、静馬の心が完全に元に戻ったのをプレシアは感じていた。おそらく、我慢しきれずに少し眠ってしまってうなされたのだろう。そしてこんな弱々しい姿をフェイト達に見られたくなかったのだ。そんな静馬を、プレシアは可愛いと感じていた。

「・・・考えてみれば、殆ど同じ様な境遇のフェイトが自分だけの道を歩き始めてんのに、兄貴の俺がこんなことじゃあ・・・あかんよな。 ・・・そうか、漫画のキャラとかと同じ感覚かぁ・・・」

静馬の心が完全に吹っ切るのはもう少し先だろうが、それでもやっと前に進めたことには違いなかった。プレシアは静馬が自分を取り戻してくれたのが、本当に嬉しかった。なので、また抱きついてしまった。

「静馬・・・良かったわ・・・」
「ふがふが・・・」
「もう・・・くすぐったいわ、元気になった途端悪戯?」

プレシア胸に顔を抱きしめられた静馬は何とか息をしようと顔を動かそうとするが、その度にプレシアはくすぐったそうにする。時折変な声も漏れ始めたので、静馬は慌てて腕のホールドを解除した。
息苦しかったので、慌てて息を整えると直ぐにプレシアに食って掛かった。

「俺を、殺す気か!? ・・・まぁ、ええ。それより、今日から俺は名前を変えるで」
「もう・・・喜んでたくせに・・・って、どういう事?」

プレシアは静馬の行動に一応のツッコミ(?)を入れつつも、先を促した。

「今日からシズマ・K・テスタロッサや!! これで、名前からもオリジナルのイメージをだいぶ少なくできるわ!!」
「そうね、これでまた一つ貴方だけのモノができたわね」

シズマは自分から自分だけのオリジナルを作るために動き始めた。それこそが、家族と共に有るために自分に必要なことだと理解したからだ。シズマ・K・テスタロッサという、世界でたった一人の自分になるために。

「・・・で、何の用やっったんや?」

ここでシズマは改めてプレシアに部屋に来た理由を聞いてみた。
そう言われて、プレシアもこの部屋に来た一番の理由を思い出した。

「シズマのデバイスが完成したの」
「ほんまか!?」
「ええ、コレよ」

そう言ってプレシアが取り出したのはブレスレットだった。

「? ただの、ブレスレット(?)やないか?」
「違うわ。展開」

プレシアが言葉を発した瞬間、ブレスレットがガントレットと言うか篭手の様な形に変化していた。

「おお!! これは、ゴッツイなぁ~」
「コレは貴方のモノよ。貴方が持って」
「おう、分かったわ」

プレシアからデバイスを受け取ると、シズマは嬉しそうに腕にはめた。

「じゃあ、認証を行ってちょうだい」
「どうすんねん?」
「デバイスを起動させて」
「ん、分かったわ。デバイス、起動」

シズマがそう言った瞬間、デバイスコアが淡い光を放ち始めた。

<主が妾のマスターかえ?>
「・・・なんや、独特な口調やな・・・」
「・・・おかしいわね・・・こんな設定にした覚えは無いのに・・・」

シズマが少し引きプレシアが首をかしげる中、デバイスはまたも口(?)を開く。

<主よ、早う妾に名を与えたもれ。何時までも名無しでは叶わぬ>
「名前、決まってないんか?」
「ええ、貴方に決めて貰おうと思ったから・・・コレも、貴方がオリジナルに成る一つよ」
「・・・分かったわ・・・じゃあ、今日からお前はアマテラスや」
<それは、光栄じゃな主よ。神の名を与えて貰えるとは、妾は幸せ者じゃ>
「一番は、お前の色やな」

シズマが言うとおりデバイス<アマテラス>は赤一色ではなく、白とオレンジの色彩の中に赤がちりばめられたガントレットといった感じだった。そのため、シズマはこの名前を付けたのだった。

「他にも機能が有るけど、それはまた後で・・・」

プレシアがそう言いかけたとき、フェイトが勢いよく飛び込んできた。

「お兄ちゃん、なのはを助けて!!」
「なんや!? 何が有ったんや!?」
「分からない、でも・・・ジュエルシードに襲われてるって!!」
「!?」

シズマとプレシアの顔色が変わった。シズマの様に具現化したのかも知れない。
それなら、大変危険だ。
シズマはデバイスを付けたまま、転送ポートに急いだ。シズマ・K・テスタロッサの初陣は、直ぐそこまで迫っていた。




後書き
感想でアドバイスをいただき、急遽こんな感じに仕上げてみました。フェイトと存在が近いしヴォルケンとも理解し合える存在・・・って意味での、イベントですね。
次は、暴れますよ!!



[22734] 第七ラウンド シズマ翔ぶ!! 
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/11/29 01:02
ゴウッ!!と言う音と共に、なのはに黒い風の刃が迫る。なのはは慌てることなく、レイジングハートを自分の体の前に構える。

「レイジングハート、お願い!!」
<protection>

桜色のシールドが展開され、その黒い風の刃は少し力比べをするが直ぐに霧散した。
なのはは公園に被害がないことに少し安堵し、攻撃をしてきた者を睨み付けた。なのはが居るのは海鳴町の名所に一つの臨海公園である。
なのは達はジュエルシードの反応が有ったため、こうしてやって来たのだが・・・

(何で、こうなっちゃったんだろ・・・)

なのはは一瞬だけ相手から視線を外し、ユーノに守られている黒い服の少年(?)を見たが直ぐに視線を戻す。相手はまだ宙に浮かび、余裕の表情でなのはを見ていた。
どうしてこんな状況になったかは、約一時間前に戻る・・・



なのははフィアッセに言われたことをフェイトに念話で報告し、軽くおしゃべりした後にジュエルシード集めに出掛けた。
ユーノが反応アリと言った所が臨海公園の中だったので、直ぐに向かった。
反応は敷地内だったため、直ぐに見つかった。ジュエルシードは発動状態に近かったが、願いを叶える対象が居なかったためか小康状態を保っていた。
これなら簡単に封印できると思ったなのはだったが、その予想は簡単に裏切られた。
突然、後ろから魔法が飛んで来たのだ。

「二人とも動くな!! 時空管理局、クロノ・ハラオウンだ!! これ以上余計な事件を起こすなら、この場で逮捕するぞ!!」
「にゃ!? 誰? って、逮捕ってどういう事!?」
「なのは!! 時空管理局って言っている彼は、この国で言う警察とかを合わせた組織の人間だからそういう権限も持っているんだ!!」
「でも、私逮捕される様な事してないよ!?」
「僕もそう思うんだけど・・・」

なのはとユーノは二人でクロノという少年を見つめる。しかし、少年はドンドン不機嫌になっている様に見える。

「君たちには色々な嫌疑が掛かっているんだ!! 大体、ここのところ事件に忙殺されて碌に睡眠も出来ない上に、彼方此方飛ばされて・・・オマケに今度の次元断層騒ぎだ。君たちは、僕たちに何か恨みでもあるのか!? その辺も、きっちりとアースラで聞かせて貰うからな!!」

なのはとユーノはクロノの様子を見て、ただ一つ思った。
コイツはヤバイ・・・と。
実際の所、アースラはかなりの強行軍を行っている状態で稼働していた。事件の犯人を捕まえても、その事後処理などで仕事は残る。その上、上層部からは次々と命令が降りてくるし、満足に捜査と犯人の捕縛が出来るクロノはフル回転だ。その他のメンバーはそのバックアップに動くことになる。なので、アースラのクルーは疲労と寝不足で全員ナチュラルハイな状態になっていた。
先ほどのクロノの発言も、全員が拍手喝采した位に精神状態がやばかった。
つまり、人手不足ココに極まれり・・・そんな感じだった。

(なのは・・・)
(うん、ユーノ君・・・)

二人はアイコンタクトで会話を成し遂げ、二人で逃げ様と心に決めた。まだ彼が普通なら大人しく従ったろうが、この精神状態ではどんなことに発展するか分かったモンじゃない。
だが若いとはいえ場数を踏んだクロノが、そんな二人の行動を見逃すはずがなかった。

「動くなと言った!!」

威嚇と警告を込めたクロノはスティンガーブレードを放ったが、最近練習していたなのはの緊急回避用の回避魔法に寄って簡単に回避された。
しかし運が悪かったのは、その射線上にジュエルシードが存在していたこと。そして、再びジュエルシードが危機を感じ防衛プログラムを発動したことだった。
突然辺りをもの凄い魔力が包み込み、ジュエルシードを中心に黒い球体が発生した。暫くするとそれが収まり、黒い球体が消えた後には一人の男性が立っていた。
色素の抜けた白っぽい髪に、白い肌、不健康そうな黒い服の男が立っていた。

「何だ、あいつは・・・」

クロノはその男を見て絶句した。こんな事例は初めて見たためも有るが、何よりその男の額には先ほどとても強い力を発揮した青い石が埋まっていたからだ。
そんな中、なのは達はこの光景に見覚えがあった。

(シズマさんと同じだ)
(うん・・・でも、あの人・・・怖い・・・)

なのはは直感的に、あの男の人は怖い人だと判断した。何というか、男が放つ空気が禍々しいモノだったからだ。
ユーノはなのはの直感を信じ、自分の予測を元に今できることをするべきだと判断した。

(なのは、フェイトやプレシアさんに連絡を!! 何だか、イヤな予感がするんだ・・・)
(うん!! フェイトちゃん・・・返事をして・・・)



それと、ほぼ同時刻・・・
その頃フェイトは自分の部屋で、シズマの役に立とうと楽器の勉強をしようか真剣に悩んでいた。すると、突然なのはから念話が来たので驚いた。

(・・・トちゃん・・・返事をして・・・)
(!? なのは、どうしたの!?)

突然の事に驚いたフェイトも、直ぐに念話でなのはに返事をした。

(フェイトちゃん!! 良かった、実は・・・)
(!? なのは!!)
(きゃあ!?)
(なのは!? どうしたの!? なのは!!)

何度もフェイトが呼びかけるが、なのはからの返事は無かった。フェイトは直ぐにシズマとプレシアを呼びに部屋を出た。




念話を中断させられた訳は、男からの攻撃が原因だった。黒い風が固まりとなってなのは達に降り注いだのだが、なのは達はシールドでコレを防いだ。
その一撃に頭に来たのが、執務官殿だった。

「貴様等、コレで逮捕する理由が出来たぞ!! 観念しろ!!」
「ええっ!? 何で、私達まで!?」
「見るからに、あっちだけが敵じゃないか!!」

そんなやり取りを見逃す敵ではなく、クロノに黒い風で出来た刃を連射で打ち込んできた。

「くっ!?」

再びシールドでそれを弾くクロノだったが、そこに隙ができてしまった。

「!? 危ない!!」

なのはが気付いた時には既に遅く、クロノの死角に移動していた黒い男の拳がクロノの顔面を捉えていた。グシャッという音共にクロノの体勢が崩れ、返す刀でボディにもう一撃加えてとどめとばかりに体全体を回転させての縦の蹴りが加えられた。
○ラゴンボールばりのスピードで、地面に叩きつけられる執務官殿。ユーノが慌てて安否を確認しに行ったが、どうやらそれ程怪我の具合は重くは無い様子だった。
なにげにユーノが「ちっ」と言っている気がしたが、そこは気にしないでおこうと思った。
なのはは慎重に相手と距離を取ったが、どうやら相手はそんなことも気にしていない様子だった。ただ、相手はこちらを敵と見なした事だけは分かった。

「!?」

なのはの頬を何かがかすった。そこから血が流れているのが自分でも分かったが、そこでなのはは初めて理解した。
相手は、アノジュエルシードなのだと・・・次元断層を起こせる程の力を持つ石なのだと・・・
なのはは自分の周囲の風そのもの全てが敵なのだ・・・そう理解してしまった。

(フェイトちゃん・・・助けて・・・)

その瞬間から、なのはの絶望的な戦いが始まった・・・



フェイト達が少し遅れて現場に到着すると、そこには目を覆いたくなる様な光景がひろがっていた。気絶するユーノと見知らぬ黒い衣装の少年。そして・・・

「あぐっ!?」

全身をズタボロにされバリアジャケットも原型を留めていないのに、逃げることも許されず黒い檻によってひたすら痛めつけられるなのはの姿があった。
それを見た瞬間、フェイトがキレた。

「なのはーーー!!」

魔力全開でブリッツアクションを駆使しなのはを覆う檻に、自分のもてる魔力での全力の一撃を加えたフェイト。しかし、なのはを覆う黒い風の檻はびくともしなかった。
それどころかフェイトの一撃により、余計に刺激され中の黒い風の勢いが増していた。

「うあぁぁぁっ!?」

余りの激痛に、なのはは最早呻きにもならない声を上げるしかできなかった。

「なのは、なのは!?」

自分にはどうすることも出来ないフェイトは、初めて出来た友達の名前を呼ぶことしか出来なかった。だが次の瞬間フェイトの横を強烈な風が通った後、途轍もない熱気が通り抜けて黒い風の檻にぶつかった。
強い光と轟音そして衝撃が走った後には、なのはを抱きかかえたシズマが浮かんでいた。
なのはは急に熱気がしたと思ったら、痛い風を感じなくなったのでうっすら目を開けた。

「あ・・・」
「よう頑張ったな。なのは」

優しい笑顔で自分を見てくれるシズマに、なのはも安心したのか気を失った。なのはの命に別状が無いことを確認したしシズマは、なのはを安全な場所に移動させることにした。

(プレシア、頼んだ)
(ええ、転送ポート開くわ)

直ぐになのはが転送用の魔方陣に包まれ、時の庭園に転送された。そしてシズマは、高見の見物を決め込んでいた男に顔を向けた。
しかし、そこに浮かんでいた人物を見て驚愕する。

「お前・・・京極刹羅か?」
「くくくっ・・・そうだ。草彅!! アノ小僧達の頭の中の会話で、お前がいるのは理解していた。ここで、貴様を殺す!!」

刹羅と呼ばれた男を中心に、黒い暴風が巻き起こった。しかしシズマはそんな刹等を落ち着いた表情で見ていた。暴風の中、微動にせず刹羅を睨むシズマ。
そんなシズマの姿が気にくわないのか、刹羅の表情が恐ろしく怖いモノになっていく。
そんな二人の対峙を、フェイトは少し離れた所から見ていた。
自分が出来ることは無い・・・そう理解していた。自分は風の檻を壊すことは出来なかったが、シズマは一撃で破壊することが出来た。
それが、全てだった。

(お兄ちゃん、負けないで!!)

心の中でエールを送りながら、フェイトは戦いを見守り続けた。
刹羅の風が二人だけを覆うリングの様になってきたとき、やっとシズマは口を開いた。

「はっきり言うとくけど、俺はシズマ・K・テスタロッサであって。草彅やないで。それと、お前もコピーされた存在でオリジナルや無い。そんな石ころに支配されんな」
「お前がそう言おうと、関係無い!! 俺は、お前を殺した事実が欲しいのだ!! お前を、殺す殺す殺すこRUOOOOOOOOOOOO!!」

妄執に取り憑かれた様な刹羅だったが、段々と暴風が強まる度にドンドンと言葉がおかしくなってきた。それと同時に、メリメリとかビキビキッとヤバイ音と共に肉体が変化していった。

「おいおい・・・」

刹羅が化け物に変貌していくのをシズマは唯見ているしかなかった。人だった姿は髪が刃の様に変化し服は光沢を放ち、まるで昆虫の甲殻のようだった。そして顔も能面の様になり、目は漆黒に染まった。
最後に、背中から黒い翼が生えて変身は終了した。

「KRUAAAAAA!!」
「もう、人でもないんか!!」

昆虫のかぎ爪のようになった手を振りかざし、異形の刹羅が襲いかかってきた。

「<アマテラス>セットアップや!!」
<了解したぞ、主様!! 妾達の力、見せてやろうぞ!!>

シズマの体を光が包み、手甲型のメインの<アマテラス>と共に反対の腕と両足にもそれぞれ手甲とレガースのような物が装着された。
体のバリアジャケットは、白い学ランのような物が展開された。

「何や、あれか・・・」
<ご不満なようじゃな? ならば、後で設定し直せばよい>
「・・・そうやな」

シズマに突撃をしてきた異形刹羅の手は、既に鋭い爪の生えた獣の様な物になっていた。
その大降りの一撃を、最小限の動きで避けるシズマ。次々と繰り出される攻撃を、全て最小限の回避でかわした後にシズマは少し距離を空けた。

「お前、もう人間の心もないんか?」
「WOOOOOO!!」

獣の様に吠え、再び突撃を開始する異形の刹羅。それをシズマは、今度は迎え撃った。
鋭い爪の攻撃をスウェーで避け、代わりに拳を顔面に打ち込む。しかしその顔の硬さは尋常ではなく、バリアジャケットが無ければ拳が砕けていたかも知れない衝撃が走った。

「ちっ!?」

思わず距離を取るシズマに、異形の刹羅は追撃を加える。その追撃の猛攻を全て捌きながら、シズマは<アマテラス>に意見を求めた。

「めっちゃ堅いで、どないすればええねん?」
<主様よ、あれは化け物じゃ。ならば、それなりの方法しか無かろう?>
「そうか、やっぱ化け物か・・・」
<主様は、人じゃぞ? 心まで、獣に成り下がってはおらんじゃろ? ならば、我が主様は人じゃ>
「・・・そうやな・・・」

息をつく暇も無い程の連続攻撃にも関わらず、攻撃を全て回避しながら会話をするシズマと<アマテラス>に異形の刹羅はその行動を挑発と理解した。

「SYAAAAAA!!」

異形刹羅は興奮と怒りが頂点に達したのかその剣のような髪を散弾のように飛ばしてきた。
その攻撃を無傷で避けるのは無理と判断し、シズマは独特の息吹から神気を練り上げた。

「喰らえや!!」

腕を振り抜くと、そこから炎の鳥が飛び出し全ての髪手裏剣を焼き尽くした。これには、いくら異形に成り果てたといえど元は人間の武術家、本能的に警戒をし始めた。

「これが、シズマ・K・テスタロッサの新ワザ<朱雀や!!> 俺はシズマ・K・テスタロッサ。何度でも蘇る、不死鳥や!!」

シズマの体から真紅の炎が爆発的にふくれあがり、黒い風のバトルフィールドを吹き飛ばしてしまった。それを見て本能でしか戦えなくなってしまった刹羅は、相手を全力で排除しなければ危険と判断した。
今までとは比べものにならない黒い風が刹羅に集まり、それを纏ったまま上空まで駆け上がって行った。
その様子を見て、シズマは何だか安心した様子だった。

「何や、やっぱり刹羅は刹羅やねんな。安心したわ」

そう言いながら、シズマも炎を纏いながら翔んだ。

<主様よ、サポートは妾が万全に行うから安心せい>
「頼んだで!!」

<アマテラス>の援護により、炎の鳥は音速近くまで加速した。シズマの体から流れる神気と相反する、体内のリンカーコア代わりとなっているジュエルシードから流れる魔力を二人は必死に制御しながら翔ぶ。
二人と異形の刹羅は空中で激突をした。

「おおおおおーーーっ!!」
「GUGYAAAAAAーーー!!」

真紅と漆黒の激突は途轍もない衝撃波をまき散らしながら、数十秒は続いたが突然大爆発を起こした。それは、どちらかが勝利した証でもあった。
フェイトは直ぐにでも大好きな兄の元に駆け寄りたかったが、どちらが勝ったのかはっきりするまでは近づけない。
もし近付いて自分が人質にでもなったら、それこそ余計な危機を招きかねない。
やがて煙が晴れ、次第に状況が明らかになってきた。そこに立っていたのは・・・

「お兄ちゃん!!」

フェイトは自分の大好きな兄の姿を確認するや、最大速度での突撃とも言える抱きつきを敢行した。ズドンォン!!という音と共に、シズマが悶絶したのは言うまでもない。

「・・・今のは・・・流石に・・・シャレにもなってへんぞフェイト・・・」
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ」

悶絶するシズマにひたすら謝るフェイト。決着が付き、二人も心なしか浮かれていた。
そんな中、フェイトはジュエルシードがどうなったのか気になった。

「お兄ちゃん、ジュエルシードは?」
「ココや」

そう言ってシズマが握っていた手を広げると、そこには青い石が手のひらに乗っていた。
爆発が起きた後、まだ微かに原型を留めていた異形の刹羅から無理矢理引きはがしたのだ。その瞬間、刹羅は綺麗に消滅をしてしまい残ったのはジュエルシードだけとなったのだ。

「じゃあ、封印して終わりだね」
「そうやな。<アマテラス>ジュエルシードの封印や」
<承知したぞ、主様。ジュエルシード、封印じゃ!!>

ジュエルシードが<アマテラス>の中に吸い込まれていった。それで、今回の一件は終わったかに見えたが・・・シズマ達の周りに、突然幾重ものバインドが浮かび上がった。その数は尋常ではなく、うかつに身動きさえ出来ない物だった。

<こちら時空管理局所属のアースラ。聞こえていますか?>
「・・・ずいぶんな挨拶やな」
<申し訳ないのですが、こちらまで来ていただけますか? 色々と事情を窺いたいので>
「・・・あんたは?」
<申し遅れました、私はアースラ艦長のリンディ・ハラオウンです。そういう貴方は?>
「・・・シズマや」
<では、シズマさんこちらに来ていただけますね?>
「しゃーないな・・・そんで、ええやろ?」
<? 誰に聞いて・・・>
「後のお楽しみや」

会話の途中で既に転送用の魔方陣は来ていたので、不安がるフェイトの頭を撫でながらシズマ達はその中に入った。それによりリンディの質問は遮られた形となっていた。
リンディもその事に少し引っ掛かったが、本人達から事情を聞けば済む話なので置いといた。

(さて、どうなるかしら・・・)

リンディは執務室で色々と思考を巡らせながら、その時を待った。
いよいよ、テスタロッサファミリーと時空管理局との接触の時が迫ってきていた。




後書き
一応フォローというか解説をしておくと、ソルバニアとリリなのの魔法の性質が違うのでジュエルシードという媒介が有るため共存は可能・・・と考えてます。
その辺も、プレシアさんが解説してくれると期待!!
次は、デバイスの性能やら色々な説明になりそうな予感・・・



[22734] 第八ラウンド ハラオウン一家とテスタロッサ一家
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/12/04 22:28
シズマ達がアースラの転送ポートに着くと、そこにはアースラの武装隊員がデバイスを構えて待ち構えていた。しかし、シズマはそれを気にした様子もなく転送ポートの外に出て周囲を見渡す。
その間、フェイトはシズマの後ろに隠れたままでジッと武装隊員の様子を窺っていた。
ジッと見渡していたシズマは、少し不機嫌な様子で口を開いた。

「・・・ここのお偉いさんは、客のもてなし方も知らんのか? こんな殺気だった人間を置いといて、自分は居らんってどういう事やねん」

シズマの不機嫌なゲージがドンドン上がっていく中、武装隊員の人垣が割れて一人の女性が顔を見せた。柔和な笑顔の美人な女性だったが、武装隊員とは明らかに階級が違う制服を着ていた。
おそらく、彼女がこの艦の艦長だろう。
シズマがそんな予想を立てていると、その女性はシズマとフェイトの前に立ち穏やかな笑みを浮かべて挨拶をした。

「先ほどは、失礼しました。私がこの艦<アースラ>の艦長を務めている、リンディ・ハラオウンです。貴方たちにこの船に来て貰ったのは、色々事情を窺いたかったからです。彼らはクロノがあっさりやられちゃったから、少し警戒し過ぎちゃってて・・・ごめんなさいね?」

そんなリンディの言葉にも気にした様子の無いシズマに、少しリンディはやりにくい相手だと思っていた。同時に、シズマもリンディは大作と同じタイプの人間だと思っていた。
すなわち、お互いに腹を探り合う事になる相手だと・・・そう思っていた。

(プレシアが来るまで、ボロはだせんな・・・)
(何とか、情報を引き出して戦力に出来れば・・・)

これより笑顔での腹の探り合いが始まるのであった。ちなみに、フェイトに対してはシズマが何もしゃべるなと念押ししたため、ただシズマの後ろに隠れる様にこの状況を見ているだけであった。
シズマはプレシアが到着すれば勝ち。リンディは情報を引き出し、戦力に出来れば勝ち。
先手は、リンディからであった。

「では、応接室に案内しますから。こちらです」

リンディはシズマ達を案内しながら、二人の様子を観察し続けた。その視線を警戒しながら、リンディの後をついて行くシズマ達。

(この二人は兄妹みたいだけど、似ていないわね・・・義理? でも、魔力ランクはSとAAAランクは堅いわね。兄の方は私の手に負えないかも知れないわね・・・かなりの自己中心型で、マイペースだけど人を引きつける力も有る・・・やっかいなタイプだわ。突破口は、妹さんかしら?)

リンディは自分の中で素早く分析を開始し、どうやって自分たちに有利な方に会話を持って行くかを既にシュミレートし始める。逆にシズマはフェイトに話題が振られない様に考えながらも、プレシアがこっちに来るまでの時間を考えていた。

(取りあえず、三十分も稼げば上等やろ。後は、フェイトに話が振られるんをブロックせなあかんな・・・)

そう考えながらシズマは自分の義理の妹の顔を見る。フェイトは自分が見られているのを不思議に思いながらも、嬉しそうにふにゃっと言った感じの笑顔を返してくれた。
その笑顔を見たシズマは不思議に気が晴れて来たので、何となくフェイトの頭を撫でておいた。
そんな両者の思惑の中、とうとう決戦の応接室に到着する。

「ここです」

そう言いながらリンディが部屋に入ろうとした瞬間、部屋の入り口でリンディが固まった。何事かと思いシズマ達は部屋の中を覗くと、そこにはあり得ない人物がソファーに腰掛けお茶を飲んでいた。
何時ものドレスでないところを見ると、本当に気軽にこちらに来たのであろう事は予想できた。

(これで、腹芸なんかせんで済むわ)

シズマは自分たちの大将が来たので、コレでこの場は自分の役割が無くなったと安堵した。フェイトは自分の母親が目の前にいる事によって、変な不安感が無くなったので嬉しくて仕方無い様だ。

「かーさん!!」

フェイトがシズマから離れ、その人物に抱きついた。リンディは状況が未だに理解出来ず、まだフリーズしたままだった。
それはそうだろう。何しろ次元世界で指名手配となっている人物が、穏やかな笑顔で娘と戯れている姿など誰が想像出来るだろう。

「まぁ、そういうこっちゃ。あんたも、早う入ったら?」
「えっ!? あ、そうね・・・」

驚きの余りに思考回路がまだ復旧しきっていないリンディと、それを半分同情の視線で見るシズマという珍しい二人が席に着きやっと話の場が整った。
席についてやっと元に戻ったリンディは、開口一番こう告げた。

「プレシア・テスタロッサ、貴方を逮捕します」

リンディの言葉にも全く動じた様子の無いプレシアに、流石にリンディも訝しげな視線を向ける。少しして、プレシアもようやく口を開いた。

「それは出来ないわ」
「何故?」
「それはね・・・貴方たちが世に知られては困るモノを、私がいくつも持って居るからよ。何だったら、その一部をミッドチルダに流しましょうか?」
「!? そ・・・それは・・・でも、それが証拠と言えるモノなのですか?」

プレシアの言葉に、リンディは動揺した。そんなモノが有れば、たちまち時空管理局は崩壊してしまう恐れが有る。リンディにしてみれば、それが本物でないことを祈るしかない。
しかし、リンディのそんな願いは虚しくもプレシアに寄って覆された。

「残念ながら、本物よ? 少し見れば、分かるものばかりよ」

そう言いながらプレシアがよこした一部の資料を見たリンディは、顔が青ざめるのを感じた。それと共に、こめかみに頭痛がするのも感じられた。

(これは、世の中に出せないモノだ・・・)

リンディが見たモノは間違いなく、管理局の黒い歴史の部分だった。管理局がココまでの権力を持つために行って来た暗闘の部分。その中には決して知られてはいけないモノが有り、それは遙か昔のことでも管理局が転覆しかねないモノも存在していた。
それが、目の前に有る。
リンディは、目の前が真っ暗になりそうな感覚に襲われた。

「・・・それで、司法取引でもしたいのですか?」

リンディはこの話題に触れるのを止め、話を進ませることにした。

「違うわ」
「? どういう・・・」

そう言いかけてリンディは気付いた。コレは、私達が取引を持ちかけないといけない代物だ・・・と。

「・・・貴方の罪を管理局に置いて、全て無かった事にする様上層部に働きかけます。それで、宜しいですか?」
「・・・それだけでは駄目ね。ここに居るシズマの市民権も、作ってもらいたいの」
「? 何故?」
「その事については、私の研究と一緒に話すわ」

プレシアが立ち上がり、みんなから見える位置に移動してモニターを空中に呼び出した。

「まず、シズマは純粋な人間では無いわ。彼はジュエルシードが生み出した、コピー人間よ。そして彼には元々特別な力があり、そのお陰もあって彼は人間として存在できたの」
「待ってください。そんな力が有ることは確認されていませんし、何より彼は人間では無いですか。その上に、不思議な力が有るって・・・正気ですか?」

何も知らないリンディが、質問をした。リンディの疑問は正しいモノだし、何よりそんな与太話を信じる方が可笑しい。プレシアはシズマにアイコンタクトをとり、シズマも了解した。
突然リンディ達の前にモニターが現れ、アノシズマがこちらに生まれた瞬間を再生した。それには、確かに何もない所にシズマが現れた様に映っていた。

「・・・これは?」

全てを見たリンディが、プレシアに質問をする。その質問に、再びプレシアが答える。

「彼が、普通の人間では無い証拠よ。転移でも何でもない、彼がこの瞬間にこの世界に生まれた記録。後は・・・そうね検査の結果でも、人間とは99%以上でで合致しているけど、完全な人間では無い・・・そんな感じかしら」

リンディはシズマを見ながら、そんな事が本当に起こりえるのか疑問だった。だが現実にクロノはジュエルシードが生み出した人らしき者によって、怪我を負わされている。取りあえずこの事は横に置いて、次の質問をした。

「不思議な力とは?」

リンディの次の質問には、シズマが答えた。

「コレのことや」

そう言ったシズマの独特な息吹から発せられる力の巡り。
そして、シズマの体の表面に炎が現れた。

「これは?」
「拳法の流派やねんけど基本しかなくて、後は自分で色々作っていかなあかんって言うおかしなモンでもあるわ」
「はぁ・・・」

リンディは分かった様な分かって無い様な微妙な感じだったが、プレシアは次に行きたそうだったので細かい説明は後回しにした。

「シズマの力には、元々魔法を打ち消す力があったみたいなのだけど・・・シズマの世界の魔法とこちらの魔法では性質がまるで違うのよ。こちらはシズマの世界の様な”どんなことでも出来る”力は、無いわ。せいぜい空を飛んだりとか一時的に姿を変えたりするぐらいで、化け物を生み出したりタイムスリップさせる様な力は今の所確認されていない。何より、魔法の元が違うの」
「魔法の元?」

今度は、フェイトが質問をした。どうやら、こんな話は聞かされていなかった様だ。

「ええ。私達のリンカーコアは周囲の魔力を吸収しながら、生成されていくの。それによって、ばらつきもあるし個人差が出てくるわ。でも、シズマの世界の魔法は違ったのよ。”誰でも好きな様に、好きなことが出来る”そんな本当の魔法・・・まるで、アルハザードのような話ね」
「・・・そんな世界が、本当に?」

リンディはたまらずに聞いていた。そんな世界が有るなら、早急に管理しなければ何が起こるか分かったモンじゃない。

「安心して。それはいわば並行世界の話しで、私達が生きている間には間違いなく行くことは出来ない。後、何故シズマが魔法を使えるか・・・それはジュエルシードが自分を消滅させないために、シズマの力に干渉して波長を少し変えたの。対消滅から相性が悪いレベルまでね。そのお陰で、シズマは体力を大幅に消耗する程度で両方の力が使えるの」
「ああ・・・そういや全力でプレシアにぶつけた時は、めっちゃ疲れたわ」

シズマはプレシアに歌をぶつけたときのことを思い出した。あの時は使えるモノは全て使ったから、そのために疲れたのだと思っていた。

「だから<アマテラス>にはメインのデバイスコアと、サブのデバイスコアを三つ連動させてるわ。シズマの負担を最小限にしながら、最大の力を引き出せる様に苦労したわ・・・」

プレシアの説明が一段落したので、リンディはおそるおそる聞いてみた。

「彼は、人間で凄く強い人・・・で、良いのかしら? それと、彼の戸籍と貴方の罪の抹消・・・コレで、私がしなければならないことは全部かしら?」
「後、ジュエルシードの所有権もね」
「・・・分かりました・・・では、掛け合ってきます。 ・・・私の首、跳ばないかしら・・・」

重い足取りで応接室を出て行こうとするリンディに、プレシアが声を掛ける。

「私の昔のコネからも働きかけるから、貴方は大丈夫よ」
「・・・それは、どうも・・・」

そんなことが出来るなら早くやっといてくれと言わんばかりに、リンディはプレシアを見たが直ぐに部屋を出た。
その場に残ったプレシア達。

「・・・俺の体、そんなことになってたんやな?」
「・・・そうよ。単純に言えば途轍もない暴れ馬に貴方が乗っていて、貴方だからそれを制御できる・・・そんな感じなのかしら」
「ねぇ、お兄ちゃんにミッドチルダの戸籍が出来るの?」

フェイトとしては、そっちの方が気になる様だった。

「ええ、これでシズマは法律的にも私達の家族よ」
「やったー!! お兄ちゃんと、ずっと一緒だ!!」

フェイトは嬉しそうにシズマに抱きついて頬ずりしてきた。それを優しい笑顔で見ながら、シズマはフェイトの頭を撫でる。
そんな二人を優しい目で見ながら、プレシアは昔のツテに連絡をし静かに脅しを掛ける。

「分かってるわよね?」
「・・・仕方無いな・・・」

いい年のおっさん達はプレシアの交渉に次々と応じ、陥落していった。一方のほぼ同時刻の執務室では・・・
リンディが鬼気迫る表情で、自分の上司にプレシアの要求を飲ませる交渉を行っていた。
それを見ていた、アースラのクルーのエイミィさんは後にこう語った。

「あの時の艦長は、まさに鬼でした・・・」

こんな形でテスタロッサ一家とハラオウン一家との初の対面は終了した。この両家はの付き合いは、子孫の代まで続くとか・・・



後書き
コレが、自分なりの解釈というかココでの設定と思っていただければありがたいです。
ココまでやった以上は、このまま行くつもりなので・・・こういうモノだ、そう思ってお付き合いいただければ幸いです。



[22734] 第九ラウンド テスタロッサ一家とハラオウン一家
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/12/05 01:11
プレシア達がリンディが戻ってくるのを待っていると、アルフからの念話が届いた。

(プレシア、なのはが目を覚ましたよ)
(そう・・・どんな感じかしら?)

プレシアはなのはの様子をモニターしていたのだ。アースラの接近は時の庭園から見ていたし、なにより交渉というか脅しのために資料を用意する必要が有ったためプレシアは動けなかったのだ。
あれだけ痛めつけられたのだ、心が乱れてもおかしくは無い。

(最初は混乱して怖がっていたけど、あたしと話している内に落ち着いたみたいだね。そんでフェイト達に会いたがっているから、そっちに行くよ)
(分かったわ。シズマ達に迎えに行って貰うわ。座標は分かるわね?)
(ああ、もちろんさ)
(お願いね)

プレシアはアルフとの念話を終えると、シズマ達になのはが目覚めたことを告げて迎えに行く様に言った。
その言葉にフェイトは嬉しそうにシズマを急かし、転送ポートまで向かって行った。それとは入れ違う様に、リンディが戻って来た。
シズマ達を目だけで見送り、リンディは憂鬱そうにプレシアを見る。

「・・・今度は、何を企んでいるの? これ以上私の胃に負担が来る様な真似は、出来ればやらないで欲しいわね・・・」

リンディは本当に心底疲れた様に、応接室のソファーにぐったりした様子で座った。それと同時に、もの凄く緊張した様子の女性がお盆を持って入って来た。
それを見たリンディは、力なく声を掛ける。

「有り難う、エイミィ。コレが有れば、少しは落ち着くわ」
「・・・貴方、本当にそれを飲む気? 私には、理解出来ないわ・・・」

プレシアが凝視したモノの正体は所謂リンディ茶である。緑茶に砂糖とミルクをぶち込んだ、常人では決して飲めないモノ・・・アースラでは罰ゲームなどでも使われる禁忌の品である。最近では、アースラ内での愛好者が増えているとかいないとか。
そんなプレシアの指摘にも、リンディは不思議そうな顔をする。

「? そうよ。コレが美味しいのよ、貴方も飲む?」
「・・・謹んで、遠慮させていただくわ。それで、さっきの話なのだけれど・・・」

お茶を飲み少し落ち着いた所で、プレシアは話を再開させる。それにはリンディも真剣な顔になり、お茶を持ってきたエイミィもなるべく音を立てない様に立っていた。

「この地に、私の娘と同レベルの魔力の子がいるの。その子を、保護して貰えないかしら?」
「・・・それが本当なら、怪しい組織に目を付けられる前に保護すべきね。貴方の娘と同レベルって事はAAAは間違い無いわよね? そんな子が何処にも所属しないでいるなんて・・・考えられないわ・・・」

リンディは頭を抱えた。ミッドチルダにおいて、魔力ランクは覆せないモノであり真理でもある。高いランクの者程優遇されるし、低い者は良くて真っ当な仕事で悪ければ身持ちを崩して犯罪者になりかねない。そんな中でAAAのランクなら、破格の扱いを受けるだろう。
リンディがショックを受けているのを見て、プレシアも流石にココで飴を出そうと思った。いくら何でも鞭ばかりでは、思う様には動いてくれなくなる・・・そう、プレシアは考えていた。

「そう言えば・・・フェイトが困っている人を助けたいから、管理局の執務官になりたいらしいの。貴方からもアドバイスとかが有れば、相談とかに乗ってあげてね? 後、シズマもそっちに預けるつもりよ。アノ子も、歌を歌っているだけでは収まらないでしょうね・・・だから、お願いね?」
「はは・・・あははは・・・はぁ、分かりました。開き直って、私が出来る限りで面倒見るわ。その代わり、私のサポートはしてくれるんでしょう?」

さっきまでプレシアに主導権を握られっぱなしだったリンディが、やっと元の調子の戻った。だがリンディ自身も、これはプレシアがこちらにも同じ舞台に上がる様に仕向けているのだと分かったからだ。
ならば、上がるだけだ。
リンディの目にも、やっと強い意志の力が戻って来ていた。丁度その時に、シズマ達が戻って来ていた。

「プレシア、なのははもう心配無いで」
「そう、ご苦労様。こちらも、貴方たちが管理局に入る話をしていたのよ」
「本当?」

フェイト確かめる様に、プレシアの顔をじっと見る。それはフェイトの夢をリンディにも話したと言うことだ。フェイトはリンディの事をよく知らないので、プレシアが話してもいい人かどうかをプレシアで確認しようとしていた。
それを受け、プレシアは静かに頷いた。

「ええ、本当よ。彼女は、信頼出来る人よ? シズマ、貴方が管理局に入ることも伝えたわ」
「サンキュー。これで、無職にならんで済むわ」

一方のシズマはもの凄く軽い感じだった。おそらく、たいしたことには感じていないのだろう。そんなやり取りを見ていたリンディが、服の袖を引っ張られるのに気がついた。
その方向を見ると、何時の間にかフェイトが立っていた。

「・・・何かしら?」

最初は驚いたが、努めて優しく聞いてみる。
フェイトは少しモジモジした後、何か決心をした様に喋り出した。

「あ・・・あの、これからよろしくお願いします!! フェイト・テスタロッサです!!」
「・・・こちらこそ、よろしくね? フェイトちゃん。リンディ・ハラオウンよ」

リンディから手を出すと、嬉しそうにフェイトも握手を返す。その満面の笑顔を見たリンディは、今更ながらに娘が欲しかったと思う程だ。

「・・・ねぇ、プレシア?」
「・・・何かしら?」
「フェイトちゃん・・・」
「駄目よ」
「・・・ちぇ・・・クロノ、いつまで寝てるの!! 起きなさい!!」

医務室への通信を開いて何かをぶつける様に、クロノを呼び出すリンディ。勝ち誇った様な顔のプレシアと、何故か負けた様な顔のリンディ。ここに、何故か勝者と敗者の図があった。
周りの者は首を捻ったが、エイミィだけはリンディの気持ちを察し静かにリンディにエールを送った。

(艦長、まだがんばれます!!)

何が?とは聞いてはいけないモノだったが、エイミィの心の中での声なので誰にも聞かれることは無かった。そして話は、なのはの話題に移った。
プレシアはなのはの顔を覗き込んで、ゆっくりと言い聞かせる様に話を始めた。

「いい、なのはちゃん? 貴方の力は大きいモノなの、そのままでは誰か悪い人に目を付けられて利用されるかも知れないわ。だから、後ろ盾が必要なの。分かる?」

プレシアノの真剣な説明に、なのはも分からない所も無かったので頷いた。それを見たプレシアも、話を続ける。

「だからフェイトと同じ所に入って、自分の気が許せる仲間を見つけるの。勿論魔法関係だから、こちらの世界の人達ではなく私達の世界の人よ? でも、向こうに行くのはそうね・・・高校か中学を出た位からかしら。それまでは、私達が守るから・・・ね?」
「はい!! 私、フェイトちゃんと一緒に頑張りたいです!!」
「なのは・・・良かった!!」
「うん、頑張ろうね? フェイトちゃん!!」
「うん、なのは!!」

そんな子供達を余所に視線だけで私達って私も入って居るの?そう問いかけるリンディに、勿論よ・・・そう視線だけで返すプレシア。フェイトと喜びを分かち合ったなのはが、大事な用を思い出してシズマに声を掛ける。

「あの、シズマさん。私の知っているプロの歌手が、どうしても会いたいって言ってるんですけど・・・」
「あ、それ私も聞いてた。お兄ちゃんとかーさんが用事があったみたいだから、後にしようと思ってたんだけど・・・」

シズマにどうですか?って感じななのはと、申し訳ない感じのフェイト。そんな二人にシズマは優しく笑いかけると、気楽な感じで答えた。

「それやったら、会ってみたいわ。プロと歌える機会がこんなに早いなんて、夢にも思わんかったわ。それで、何時や?」
「だったら、明日にでも」
「そうか、楽しみやな」

なのはの返事に、シズマは嬉しそうに答える。シズマ達の様子を見ながら、再びリンディとプレシアの会話は始まった。

「・・・この世界に移住するつもり?」
「ええ、そのつもりよ。フェイトの友達もこっちの世界だし、何よりこっちの世界の方が教育のレベルが高いわ。シズマも、しばらくはこっちの方が気が楽でしょ。だから、色々と手配は・・・」
「分かっているわ。貴方の財産の一部も、こっちのお金に換えれる様にしておくわ。・・・シズマ君は、学校はどうする気? 見た目あの年の子では、簡単にはいかないでしょ?」

リンディもやっとプレシアのやり方に慣れてきた様で、プレシアやりたいことを先回りして察する様になっていた。本来は、コレぐらいは出来る人なのだ。そんなリンディに物足りなさを感じながら、プレシアは少し悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「その歌手の人の人脈にも寄るけど、基本は高校に通わせるつもりよ。ただ、必死で勉強して貰うつもりだけど・・・フフフ・・・」

プレシアの殺気を感じ取ったのか、雑談をしていたシズマが突然辺りを振り返り不思議そうな顔をしていた。そんなプレシアを見たリンディは、少し疲れた様に呟いた。

「・・・貴方って、本当にそういう顔の時が一番生き生きしてるわ」
「女って、ミステリアスで魔性な方が魅力的じゃ無くて?」
「・・・一理あるわね・・・」
「・・・でしょう?」

笑い合う二人の美女に遅れてきたクロノは余計な一言を言ってしまい、そのお返しにしばらくの間プレシアとリンディのおもちゃにされるのであった。




後書き
話が、進まない・・・



[22734] 第十ラウンド おいでませ海鳴町 
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:32993f96
Date: 2010/12/17 21:55
リンディ・ハラオウンとの会談後、テスタロッサ一家及び高町なのはとユーノ・スクライアの次なる行動は決まった。
まず、なのははユーノとクロノから魔法の授業を受けながら基礎体力など、基本的なスペックの底上げを言い渡された。それはフェイトも同じなのだが、フェイトの場合は基礎的な肉体の訓練とこちらの世界の学校に入るための勉強がメインだった。
次にユーノは、スクライア一族の長老からこちらの世界で色々と経験してみなさいと言う言葉により、フェイトと同じ様に学校に入るため勉強をしていた。後は、シズマやアルフから格闘術を教わっていた。
そしてシズマはと言うと・・・

「もう、勘弁してや・・・」
「まだ、教材は残っているわよ」
「それに、まだ女性の扱いがなっていないわね」

リンディとプレシアからのこちらの世界の勉強教材と、女性に対する接し方などの社交的な作法など必要そうな事は全てたたき込まれた。その他にもフィアッセと会うことにもなっているし、管理局に入る為の手続きなどこちらとミッドチルダを行き来する必要が有るので大忙しだ。
そしてプレシアは、なのはとフェイトのデバイス<レイジングハート>と<バルディッシュ>のパワーアップを目論んでいた。

「・・・ジュエルシードって便利よね?」
「それ、私に聞かないで・・・」

プレシアはリンディと話していたが、クロノはその会話を聞きながら頭を抱えた。
そんな訳で、皆忙しそうに動いていた。そんな中アルフは・・・

「いらっしゃいませー!!」

アルフのみが着用を許された、胸元が大きく開いたエプロンドレスを着てアルフはホールを忙しそうに動き回る。
アルフは翠屋でアルバイトの最中であった。魔法の世界の怪しい者達がいないかの監視と、アルフの社会勉強も兼ねていた。
その他の用事としては、テスタロッサ一家の新居を決める役目も受けていた。

(さて、良い物件もあったし報告しないとね)

アルフは良い仕事をしたので上機嫌だった。

「すみませーん」
「あ、はーい。お伺いします」

お客さんから呼ばれ、アルフは忙しそうに呼ばれた席へと向かう。
そんな忙しい日が数日過ぎたある日、テスタロッサ一家は海鳴町へ引っ越しを完了した。引っ越しをしたのは海鳴町でも見晴らしが良いマンションで、町の繁華街にも近く駅などにも近い優良物件だった。
そして、その日の内にフェイトの友達の家でありアルフがお世話になっている高町家に挨拶に向かった。

「ここね・・・結構大きなお家なのね」
「・・・うん、ビックリした」
「何や? あれ、離れもあるんか?」
「あたしは何度か呼ばれたことがあるから知ってるけど、シズマが喜ぶものだよ」

そう家族で話しながら、プレシアがインターホンを押す。すると「はーい」という若い女性の声が聞こえてきた。

「何時も娘達がお世話になっています、プレシアと申します。今日は引っ越しの挨拶に参りました」
「どうぞ、入ってください」

返事が来たので門を潜って玄関に来ると、突然玄関の戸が勝手に開いた。
何故?と思ったが、勝手に開いた戸の向こうに無表情な青年が立っていた。
鋭い目つきと整った顔に黒ずくめという独特な服装の青年だったが、プレシアと目が合うと微笑みを浮かべ「中へどうぞ」と促した。
プレシアは特に動じることもなく「ありがとう御座います」と言い残し、そのまま中に入っていく。次々家に入っていくテスタロッサ一家を見送る青年だったが、唯一シズマには期待の籠もった眼差しを向けていた。
そしてシズマも、それは受けて立つつもりだった。つまり・・・

((彼奴と、戦ってみたい!!))

二人の中の戦闘民族の血が騒いだのである。
プレシア達はリビングに通されると、そこには高町家が全員勢揃いしていた。
高町家の家長である高町士郎とその妻桃子。プレシア達を案内した長男の恭也と長女の美由希と次女のなのはが高町家の家族。そして高町家で暮らすフィアッセ・クリステラと鳳蓮飛。そして半居候の城島晶の計八名であった。
リビングに着いてお土産を渡してから、テスタロッサ一家はソファーに座りそこから自己紹介が始まった。
自己紹介は、テスタロッサ一家の方から始められた。

「初めまして、私はプレシア・テスタロッサ。ここにいる子達の母です」
「は・・・初めまして、な・・・なのはのお友達のフェイト・テスタロッサでしゅ」

緊張の余り、フェイトは噛んでしまった。その為フェイトの真っ白な肌が赤く染まり、恥ずかしさの余りプレシアの体に隠れる様に体を寄せた。小声で「あう・・・また、失敗しちゃ」と、再び噛んでいたので再起に少し時間が掛かりそうだ。
義妹のフォローのため、次はシズマが自分の自己紹介を始めた。

「俺はシズマ・K・テスタロッサや。見ての通り、血はつながってないで。まぁ、よろしくな」

ココでシズマの渾身の無邪気な笑顔が炸裂する。ワイルドで尚かつ野性的な美しさのシズマには、ギャップが必要だ・・・そうプレシアとリンディが教育したのである。そのため、大人の微笑みよりも子供っぽいと言うか無邪気な笑顔をシズマはやらされた。
実際、直撃を受けたリンディはクロノに「新しいお父さん欲しくない?」そんなことを聞いたとか、聞かないとか・・・まぁ、そんな感じで高町家でもそれは炸裂した。
どんな感じかというと・・・

(((アノ笑顔、可愛いかも・・・)))

そんな感じである。
そんな微妙な空気を感じたアルフは、自分も自己紹介を始めた。

「みんな知ってると思うけど、一応自己紹介をしなきゃね。あたしは、アルフだよ」
「さて、今度はこちらの番か」

アルフが簡単に自己紹介をしたのを見て、士郎の声を合図に高町家の自己紹介が始まった。自己紹介が滞り無く終わったとき、再びインターホンが鳴らされた。
誰か来ることを聞いていなかったのか皆不思議そうだったが、取りあえず恭也が応対に出た。心なしか、高町家の士郎と恭也と美由希の表情が険しい気がした。
少しして、何やら玄関が騒がしい気がする。それに気づき様子を見に行こうとしたその時、リビングのドアが開いた。
中に入って来たのは気品のある初老と言える年代の女性で、凄く機嫌が良さそうな女性と何処か疲れた様子の恭也との対比が面白い程であった。

「フィアッセ、来たわよ」
「ママ!?」

高町家は意外な人物の突然の来訪に驚いたが、テスタロッサ一家には誰?って言う空気が流れた。すかさず、なのはがテスタロッサ一家のフォローに入る。

(あの人はティオレ・クリステラさんで、世界的に有名な歌姫なの。そして、多くの歌手を育てるソングスクールの校長もしてるの)

なのはのフォローのお陰で、テスタロッサ一家も不自然な感じにならなくて済んだ。ティオレは娘や友人の家族達と話をした後、まだ何も言っていないのにシズマの元へやって来た。

「貴方ね? フィアッセがスカウトしたがっていたのは。貴方の目を見れば分かるわ、貴方は既にデビュー出来る力は有るわ。でも、世界には届かない・・・貴方は、どうする?」

ティオレはシズマに何かを確認する様に、静かに問いかけてきた。シズマの答えは、最初から決まっていた。

「貴方が、その方法を教えてくれるんやろ? そんなら、問題ないわ」
「貴方は私の教え子の中で、最高の逸材ね。私も、何だか楽しくなってきたわ。あ、そうそう私はティオレよ。貴方は?」
「俺はシズマや。よろしくな、先生」

再び炸裂するシズマの笑顔。それを見たティオレは、フィアッセにあんな笑顔が出来る孫は何時になったら・・・など、自分の娘を餌にして恭也いじりを始める。そして展開される高町家の何時ものドタバタ劇。
そんな中、プレシアは士郎と桃子にあることを告げていた。

「娘さんを、少しの間お預かりさせていただけませんか? 突然来て、こんなお願いも間違っているとは思いますが・・・娘さんの将来が掛かっているのです。理由の方も、全て片付いてから説明させていただきます。どうか、お願いします」

プレシアは、ダメ元で頭を下げる。なのはの魔導士としての資質は素晴らしいものだが、このままではいずれ振り回される時期が来るかも知れない。もしくは、体が先に悲鳴を上げるか・・・
そこでプレシアは自分の元で預かり、徹底的になのはとフェイトを鍛えるつもりだった。
そのためには、まずなのはの両親からの承諾が必要だった。断られるのを覚悟していたプレシアに士郎達は意外な返事を返した。

「いいですよ。それが、なのはの為になるなら」
「えっ? いい・・・のですか?」

意外な返事に、暫く信じる事が出来ないプレシア。

「なのはの持つ雰囲気が変わったのは分かっていたのだが、その正体が分からなかった。貴方も同じ様な雰囲気を持っているが、貴方の方がなのはより上だ。その人が、真剣に俺たちに頭を下げている。これでは、断る理由もない」
「それに、貴方とは良いお友達になれると思うの。 どうかしら、プレシア?」
「ええ、私もそう思います。 ・・・桃子」

士郎と桃子の器の大きさに、改めてプレシアは感謝したくなった。実は士郎はなのはから大きな力をうすうす感じてはいたが、それがなんなのか分からずにいた。そして、今のプレシアの申し出である。
士郎はプレシアの人となりを見極めてからにしようと思って居たが、家族を見るプレシアの目を見てこの人なら大丈夫だと思ったとのこと。
プレシアはただ、お礼を言うしかなかった。
そして、また別の場所では・・・

「じゃあ別の場所で歌を撮ってCDを限定で制作して、ウチから日本限定で売りだそうと思うけど・・・どうかしら?」
「いや、別にええけど・・・急に、どうしたんや? そんなに急ぐ事なんか?」
「世間を驚かせてみたかったのと、何より何の話題も無い所から火が付いたら本当の実力って感じがしない?」

ティオレの悪戯っぽい笑みに、シズマも嬉しそうな顔になる。

「よっしゃ、それなら俺の全力を見せたるわ!!」
「決まりね。早速収録に行くわよ。 恭也、ボディガードお願いね」
「・・・分かりました」

三人は直ぐに出発していった。遅れて、フィアッセもついて行った。
残された面々は、フェイトやアルフと雑談をしていた。その時に再びインターホンがなり、今度は月村家のメンバーとアリサがやって来た。
そのメンバーをなのはが出迎え、フェイトに紹介する。

「こっちから、私のお兄ちゃんのお友達の忍さんとメイドのノエルさん。それから私のお友達のすずかちゃんとメイドのファリンさん。最後に、お友達のアリサちゃん」
「よろしくね」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「よ・・・よろしくおねがいしましゅ」

口々に挨拶をされて、最後のファリンに親近感を覚えながらフェイトも簡単に自己紹介をする。

「えっと・・・フェイト・テスタロッサです。よろしくお願いします」

今度は噛まなかったので、フェイトはホッとした。それから忍達は恭也がいないことを知ると、発信器を元に後を追っかけていった。残った年少組は、色々とおしゃべりをしながら時間を過ごした。
そし丁度お腹が空いてきた時に、キッチンの方から良いにおいがしてきた。
桃子と晶、レンによる料理の三傑による合作のパーティー料理が完成した証だった。

「それじゃあ、ご飯にしましょう!!」
「「「「はーい!!」」」

桃子の号令の元、リビングは綺麗に片づきパーティーの準備が進められた。そんな中、歌を収録したシズマ達が戻って来た。
恭也も忍もフィアッセもノエルも何処か夢心地で、妙にハイテンションなティオレとシズマとの温度差が凄く印象的だった。
心配になった美由希が、恭也に聞いてみる。

「恭ちゃん、どうしたの?」
「ん? ああ・・・スマン。どうも、まだ余韻が抜けきっていないな。・・・彼の歌は、素晴らしかった」
「そんなに?」
「今度CDが出るから、聞いて見ると良い」
「ふ~ん・・・」

美由希はシズマを見る。シズマはティオレと何やら楽しそうに話しながら、時折ハイタッチなどを交わしている。
そんなに凄いのか?そう思いながらも、気になって仕方がない美由希だった。
全員でパーティーの準備を済ませ、士郎が乾杯の音頭をとる。

「今日新しい友人が出来たこととシズマ君のCDデビューを祝って、カンパーイ!!」
「「「「「カンパーイ!!」」」」

乾杯の音頭と共に、彼方此方でグラスが鳴る音が響いていた。こうして、高町家での夜は更けていった・・・



数日後の、有る町のある一軒家。
一人の少女が器用に車椅子を操りながら、ネットでの買い物をしようとしていた。ふと目に止まったのは、有る一枚のCD。
そこには作詞作曲と歌手の名前もSIZUとだけしか無く、何処の国のモノか性別やその他の素性などは一切無かった。

(う~ん・・・別に、気晴らしになるならええか・・・)

そう思い、購入してみた。
数日後、届いた品物をCDプレイヤーに掛けてみると・・・

「!? 何や、コレ!?」

その少女の心の中に有った陰湿な感情は全て吹き飛ばされ、その代わりに温かくて力強い何かが芽生えた。その歌は、少女の心を救った。
少女の心情に変化が起きた。自分は、この世で一人で生きている訳ではないのだ。こうして歌を通して勇気を分けてくれる人もいれば、ラジオやテレビからも目や耳で楽しませてくれる人もいる。

(私は、ここに居る!! まだ、死んだ訳や無い!! まだ、諦めるんは早い!!)

そして少女は決意する。
明日から、出来る限り表に出ようと。そして、友達を作って楽しくやっていこうと・・・そう心に決めた。

「よし、頑張るでー!!」

その時少女は気付かなかった。その歌が少女の体の奥深くまで浸透し、体に劇的な変化をもたらそうとは・・・この時は知る術も無かった。






後書き
コレは、初の前後編ですね・・・っつーか、一本では収まらなかった。
書きたいことを書いているウチに、ボリュームが・・・でもカットできる部分もあんまり無かったので、こんな感じです。
これでも、まだ長いよなぁ・・・



[22734] 第十一ラウンド 新生活スタート!! そして、出会い・・・
Name: ヴァリスタ◆3a3e8768 ID:9a309f4b
Date: 2010/12/18 02:27
その日高町美由希は何時もの様に登校し、席に着くなり読みかけの本を読み出した。そんな美由希にロックオンする怪しい影が迫っていた。
美由希はその気配に気付かないまま読書を続け、影はターゲットを射程に収めると一気に迫った。

「美由希ーおはよう!!」

その声の主は、美由希の平均以上はある胸を両手で鷲掴みにした。

「ひゃあん!! ちょ・・・やめてよ!!」

突然の刺激に美由希は変な声を上げてしまい、その顔が真っ赤に染まる。何しろ朝の登校時間でクラスメイトもほぼ全員がいる中で、そんな声を上げたのだ恥ずかしくない訳がない。
それに、今の声のせいでクラスメイトの大半が美由希に注目したのだ。その大半が男子生徒で、美由希の隠れファンだったりする。
男子生徒達は美由希に熱い視線を送ると共に、襲撃者に対してもっとやれ的な無言のエールを送っていた。
そのエールに応える様に、美由希の友人の悪のりはエスカレートする。

「ちょっと美由希、あんたまた育ったんじゃないの?」

友人によるスキンシップという名のセクハラは、まだ続いていた。具体的には、胸にある手の動きが活発化していた。

「ちょ・・・やめ・・・ひゃん・・・あ・・・い・・・いい加減にしろ!!」
「おぶっ!!」

ごんっという音と共に美由希の真後ろにいた友人は、美由希の後頭部による頭突きをまともに食らった。
美由希も怒り心頭言う感じで立ち上がり、悪のりをした友人に対して怒りの視線を向ける。
するとそんな絶妙のタイミングで、合いの手が入った。

「はい、そこまで。そろそろ予鈴が鳴るよ。あ、そうそう美由希、今日転校生が来るらしいよ。それで、女子は皆少しハイになってる。じゃ、また後で」
「うー・・・ごめん、悪のりしすぎた。また、後でね」
「えっ!? あ、うん・・・また後で」

自分の席に戻っていく友人達を見送り、美由希も自分の席に座る。
そして、この時期の転校生・・・その言葉に何か引っ掛かるものがあった。

(そう言えば、なのはのお友達のお兄さんって私と年が近い様な・・・)

美由希の中に確信めいたものが有ったが、そんな偶然の可能性を否定する。

(だって、何クラスか有る中で同じクラスになる可能性なんて・・・)

美由希がそんなことを考えていると、予鈴と共に先生が入って来た。

「席につけー。お前等も知っていると思うが、今日は転校生がいるから紹介するぞ。おーい、入って来て良いぞ」

扉が開く音と共に、美由希の頭は真っ白になった。それは自分が思い描いていた人物だったからで、この瞬間だけは運命という言葉を信用したい気分だった。
クラスがざわつく中で、自己紹介が始まる。

「えーっと・・・シズマ・K・テスタロッサや。今日からこのクラスでお世話になるから、よろしくお願いします」

丁寧な言葉遣いに美由希は驚いたが、何より驚いたのがシズマの持つ雰囲気だった。何というか、爽やかなのだ。

(何か、猫被ってる?)

パーテイーでの感じとは全く違っているので、疑問に思わない方が可笑しい。色々考えている美由希とふと、シズマの目が合った。
するとシズマはとても爽やかで、無邪気な笑顔を美由希に向ける。その瞬間、クラス中の女子からの視線が集中した。
好奇心半分、妬み半分と言った割合の視線に美由希は自分がぐったりした姿を、何となく予想してしまった。
そしてもう一度、シズマを見るとしてやったりと言う顔をしていた。

(やられた・・・)

この日から美由希は、学校生活が波乱に満ちたモノになると確信を持っていた。
そして、ほぼ同時刻の別の場所でも・・・




「フェイト・テスタロッサです! よろしくお願いします!!」
「ユーノ・スクライアです、よろしくお願いします」

フェイトとユーノの転校の挨拶も行われていた。しかも二人ともなのは達と同じクラスへの転入で、確実に大人達の意志がそこには見え隠れしていた。

「えーっと・・・テスタロッサさんは、高町さんの隣で。スクライア君は、バニングスさんの隣ね」

先生は二人の席を、確りとしていてコミュニュケーションの取れる二人の横にした。先生は知らないが、なのはとフェイトは既に友達なので問題は無いが・・・寧ろ問題なのは・・・

「ふーん・・・」
「な・・・何かな? バニングスさん・・・」

アリサの観察する様な視線に、ユーノは少し警戒する。フェレットの姿とはいえ実際に会ったことも有るので、下手な行動は出来なかった。
暫くユーノを観察すると、アリサが口を開いた。

「・・・あんた、何処かで会ったこと無いかしら?」

その言葉にユーノだけでなく、密かに様子を窺っていたなのはとフェイトもドキッとさせられる。そんな二人の様子をすずかは不思議そうに見ていた。
リアクションに困っているユーノを見ながら、アリサはなのはとフェイトも一瞥する。

「・・・まあ、いいわ。色々聞くこともあるだろうし、クラスメイトだから時間はたっぷり有るし・・・ね?」
「はは・・・ははは・・・お手柔らかに」

アリサの魅力的な笑顔にも、引きつった笑いしか返せないユーノであった。ちなみにさっきから、なのは達に念話で助けを求めているのは分かる人達だけの秘密だ。
小学生組も、波乱に満ちた学校生活になりそうな気配が漂っていた。
そしてシズマの新生活と言えば、もう一つ・・・



「ここが、時空管理局の本部よ」
「へぇ~っ、ほんまにSFの世界みたいやな・・・」

リンディに案内されて、シズマは時空管理局の本部へと来ていた。これから自分がするべき事や、その他の手続きなどの為にやって来たのだ。
シズマはしきりにあれこれリンディに質問し、その度に目を輝かせていた。
そんな子供みたいなシズマの姿に、リンディは本気で可愛がりたくなってきていた。

(確か、プレシアの言葉ではオリジナルと全てにおいて大差無いはずなのだけど・・・)

少年の様に目を輝かせながら、色々なモノに興味を示すシズマが年齢よりも幼く見える。何だか、大きな子供みたいだ。
そうかと思えば、大人の顔もする。
とても不思議な魅力を持つ少年・・・それがリンディのシズマに対する評価だった。

(そう言えば、この子は歌も歌っているのよね? 私、そう言えばまだ聞いていないわね・・・今度、お願いしようかしら?)

そんなことを考えていると、廊下の向こうから歩いてくる局員達が緊張しているのが伝わってきた。何事かと思い、その方向を見てみると・・・
廊下の向こうから歩いてくる人物が原因だった。

(レジアス・ゲイズ中将・・・成る程、会議か何かでこちらに来ていたのね・・・ )

そう思いながらも波風が立たない様、敬礼をしてやり過ごすつもりのリンディだったが・・・そこで波風を立たせるのが、この男だった。
リンディとシズマの横を通ろうとしたレジアスと、副官のオーリスはシズマのぼそっと言った一言で動きを止めた。

「・・・なんと言った? 小僧」

既にレジアスは怒りに支配されていたが、まだ冷静さが何処かに残っているらしかった。
そんなレジアスを気にする様子もなく、シズマは同じ言葉を繰り返した。

「あんたの魂に錆が付いてるから、それを落としたるって言うたんや。訓練室はこっちやから、ついてきいや」

そう言いながら歩こうとしたシズマにレジアスが、抵抗を試みる。

「小僧、儂を誰だと思って・・・」
「そんなん知らんし、興味もない。ただ、男として魂が錆びて贅肉がついてんのに、気付かん方が可笑しいで?」
「・・・貴様・・・」
「自分に誇りが有る思うんやったら、付いて来ぃや」

そう言いながらシズマは歩き出し、その場に残る訳にもいかないリンディも後に続く。怒りに体を震わせながらも、男としてのプライドのためにレジアスは逃げることなくシズマの後をついて行った。
訓練室に着くなり、シズマは無防備でレジアスに向き合った。

「あんたの拳で、俺のハートに響かせてみいや。あんたの魂を」
「言われなくても、覚悟しろ!! 小僧!!」

レジアスとて別に鍛えていない訳ではないし、訓練を受けて管理局に入局した。そのため、普通の男性よりは筋肉も付いているし拳も重い。
しかし、そんなレジアスの拳をノーガードでシズマは受ける。重く重量が乗った打撃音が、訓練室に響くもシズマは倒れなかった。
それどころか拳を振るっていたレジアスに疲れが見え始め、段々拳が唯の大降りのテレフォンパンチになってきた。

「何故だ!! 何故、倒れん!!」
「あんたの拳に、魂が宿ってへんからや。魂の乗った拳っていうんは・・・こういうんもんや!!」

ここに来て初めてシズマが拳を握った。ズドンッという重低音と共に、レジアスが冗談でもなく吹き飛んだ。

「閣下!!」

オーリスが心配そうに叫ぶも、レジアスは手でそれを制し何とか立ち上がる。

「これが、魂の乗った拳とやら・・・」

そう言いかけたレジアスは気がついた。自分の体の奥深くまでダメージが残り、更に自分の体の中に何か熱が宿った様な気がした。

「・・・小僧、もう一度だ」
「おっさん、ええ顔になってきたやんけ。行くで!! ふぉあちゃあああああ!!


シズマの奇声と共に放たれた一撃は、レジアスの体の芯を捉た。それと同時にレジアスはその場に崩れた。

「閣下!!」

今度こそオーリスはレジアスに駆け寄り、傷の具合を確認しようとするが再びレジアスに止められる。

「・・・今度は、儂の番だ」
「応!! さっさと、打ってこいや!!」
「うおおおおおおっ!!」

レジアスの渾身の右ストレートの一撃はシズマの顔面を捉えた。そして今までは涼しい顔して受けていたシズマが、この一撃により吹き飛ばされていた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・ぐうっ」

渾身の一撃を放つも、ダメージによりその場に崩れるレジアス。そして、シズマは何事も無かった様に立ち上がり、再びレジアスの前に立った。

「・・・儂の拳に魂は乗っていたか?」
「おう、めっちゃ響いたわ」
「・・・頼みがある」
「何や?」
「儂を、鍛えてくれ」
「何でや?」
「儂は地上の正義を守るため・・・そう言いながらも、何処かで正義を守る意味をはき違えていたのかも知れん・・・ならば心と体を鍛え直して再び前線に立ち、正義を守る意味を見つめ直すまで」
「おっしゃ!! その心意気、買ったで!! 俺と、一緒に鍛えようや」
「恩に着る・・・そう言えば、自己紹介もしていなかったな。儂は、レジアス・ゲイズだ」
「シズマ・K・テスタロッサや」
「・・・テスタロッサ・・・だと?」
「そうや、今はええ母親やっとるで。それに、あんたの所にも色々と話言ったんちゃうか?」
「・・・ああ、手を出すなと回ってきた」
「・・・まぁ、色々あったんや」
「・・・そうか」

そんな男二人をはらはらしながら見ていた女性二人も、やっと終わったのを見て二人に近付いて行った。
こうして、シズマに年の離れた友人ができた。この後、レジアスとシズマを中心に漢臭い輪が広がって行くことを、二人はまだ知らない・・・






後書き
う~ん・・・この話は、これで良いのかな・・・う~ん・・・


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