2010年12月16日12時2分
電話は夜中も鳴り続けた。翌11日、病院から通報を受けた三田署員らが下田さん宅に到着。午後4時ごろ、無事に救出された。「助かった!」。初めて涙が出た。下田さんをトイレで見つけた署員らも驚いた様子だったという。
母親の容体はその直後に急変した。病院に駆けつけた下田さんが「私は大丈夫。がんばって」と手を握ったが、同日午後6時ごろに亡くなった。「寿命を早めることで私を助けてくれたのでしょうか」と下田さんは振り返る。
1階の郵便受けに新聞が山ほどたまっていた。隣の部屋に住む夫婦は「全く気づかなかった」と語った。「一人暮らしとはこういうことか」。下田さんはつくづく感じたという。
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自宅でトイレや風呂などに閉じ込められるケースは少なくない。どちらも1人で入り、携帯電話を持っていかない場所。倒れた物がドアをふさいだり、取っ手が取れて開けられなくなったりする例が多いという。危機管理教育研究所代表の国崎信江さんは「高齢者に限らず、一人暮らしの誰にでも起こり得る」と注意を呼びかける。
マンションの場合、トイレや風呂に窓がないことが多く、助けも呼びづらい。周囲に物を置くときに「もし倒れたらどうなるか想像してみることが大切」という。
家族や友人、同僚など常に安否確認をし合う相手を見つけておくことも大事だ。「もし2日間、連絡が取れなければ、必ず家に来て」などと事前に約束しておく。いざという時のため、トイレに笛を置くのも効果がある。人間の声は意外と届かないからだ。
国崎さんは「閉じ込め防止策として、そもそもトイレのドアは閉めない方がいい。不作法なようだが、どうせ一人暮らしなのだから」と話す。(田村剛)