2010年12月16日12時2分
東京都港区のマンションで11月、一人暮らしの女性が偶然、自宅のトイレに閉じ込められた。叫んで助けを求めても扉をたたいても気づく人はなく、入院中の母の連絡がきっかけで8日目に救出された。大都会の死角。「誰にでも起こり得る話」と危機管理の専門家は警告する。
閉じ込められたのは下田洋子さん(63)。11月4日午前1時ごろ、寝る前にトイレに入ったとき、ドアがひとりでに閉まった。驚いてドアを開けようとしたが、びくともしない。トイレ前の廊下に立てかけた「こたつセット」の段ボール箱が倒れ、ドアと壁の間にぴったりはまってしまったのだ。
「誰か助けて下さい。お願いします」
ドンドンとドアをたたき、大声で何度も叫んだが反応はない。11階建てマンションの8階。一緒に暮らしていた97歳の母、雪枝さんは、間質性肺炎で10月から入院していた。「きっと誰かが叫び声を聞いて助けてくれる」。下田さんは便座に座り、夜が明けるのを待った。
窓も時計もないトイレだったが、天井の換気扇から聞こえる建設工事の音で時間がわかった。朝8時に始まり、夕方6時に終わる。下田さんは換気扇に向かって助けを求めたが、周囲が気づいた様子はなかった。
口にできるのは手洗い用の水だけ。着ていたのは寝間着1枚で、トイレットペーパーを足に巻いて寒さをしのいだ。叫ぶ内容を「緊急事態発生。火事になるかもしれません」と変えてみたが、効果はなかった。
「餓死するのか」。日増しに不安が強まる。マンションの管理人は非常勤で、8階に来ることはまずない。泣きたくても、涙すら出なかった。
最後の望みは入院中の母親。毎日欠かさず病室を訪れていたので、下田さんが急に来なくなれば、何かあったのかと不審に思って連絡してくるかもしれないと考えた。7日目の11月10日の夕方ごろ、電話が鳴った。母親が前日、連絡を取るよう看護師に頼んでいたのだ。