第二回 韓国人留学生編 をさくっと読む。
田中:メディア社会学科4年の田中です、お願いします。
李:メディア社会学科2年の李圭潤と申します。
2007年にここに留学して来まして、1年間通ってて、(韓国には)2008年から2010年(今年)1月まで。
で、今年3月頃に帰ってきたって感じです。
■何で留学したの?
田中:なんでそもそも留学しようと思ったの?大学入試がすご
い有名だけど、韓国は。
李:そうですね…。日本は大学入るのにいろんな制度がある
わけじゃないですか?エスカレーターだったりAOとか
推薦とか。けど、韓国はセンター試験っていう1個で決
まるわけなんですよ。
田中:1回しかないの?
李:だから、韓国と言ったら小学校6年、中3、高3、合わ
せて12年、その12年の思いを一発で試験でとるんで
すよ、大学に入るために。
田中:1回だけしかダメなんだ…。
李:はい、1回しかないです。
田中:でももしだめだったら、もう1回チャレンジは?
李:浪人はできるけど、浪人はあんまりいいイメージがないんですよ。3分の1くらいがクラスで浪人する。
田中:そういう事情がいやだったんだ?
李:いやだったというか・・・自分の高校時代とか、朝7時に学校いって夜9時まで学校に残るんですよ。
田中:え?そんなに厳しい高校だったの?
李:厳しいっていうか、普通ですよ。
田中:それが!?
李:ふつうです(笑)。夜まで学校で食う、給食でるんですよ。
田中:じゃあ、朝ご飯食べて学校行ったら、昼と夜ご飯は学校で食べるんだ?
李:まぁ、朝ご飯という形でパンとか牛乳とかも学校ででるんで、朝から晩までですね。そして、そこで終わるわけ
じゃなくて、また夜10時から僕は塾にいってましたね。塾に行って、深夜1時に終わると塾からスクールバス
が出てて家に送ってもらいます。戻ってきたら2時くらい、で、次の日はまた朝7時。
田中:じゃあ寝るのは4時間くらい・・
李:まぁ4、5時間くらいですね。
田中:毎日。
李:高校3年間。
田中:でも土日はあったんでしょ?
李:土曜日も一応学校は午後5時までで
田中:短くて5時なんだ(笑)。
李:休日は日曜日だけですね。自分もそこに従ってたわけなんですけど、結構頑張って勉強しましたね。深夜2時ま
で塾に残ったりしてて。でも、なかなか成績が上がらなかったっていう理由もあるんですけど、高2まではクラ
スで真ん中くらいだったんですけど。みんな頑張ってるからみんな競争してる。僕よりひどいやつは深夜4時ま
でとか。
田中:ひどいやつが頑張ってんのがすごいな、だって日本だったらひどいやつは大体が頑張ってないからひどいだけな
んだよ(笑)。・・・じゃあアルバイトって高校の時したことなかった?
李:したことなかったっていうか、僕の周りにやってる人いない(笑)。
■徴兵について。
田中:では、李くん、二年間徴兵に行ってきたじゃないですか。
李:そうですね。行ってきましたね(笑)。
田中:あのシステムはどうなんだろう?どう思ってる?
李:どう思ってるんですかね(笑)。
田中:たまにオリンピック出た人とか成績残して免除ってのがあるよね?なんか免除っていうのも面白いよね。だって
みんな免除されたがってるってことでしょ?
李:めっちゃ免除されたがってます。僕も(笑)。
田中:でももう行ってきた。
李:行ってきました。
田中:徴兵はどうだった?辛かった?
李:最初はやっぱり辛いですね。でも、訓練とか身体的にきついところもあるんですけど、団体生活、何十人も一緒
に生活するわけですからそこがまたきついんです。
田中:喧嘩したりとか?
李:喧嘩はダメなんです(笑)。喧嘩したら刑務所なんです(笑)。すぐこれです。(腕を前に出して逮捕されるポーズ)
田中:刑務所!?じゃあ喧嘩もなんもできないからつらいってところもあるんだ。
李:そうですね。まぁ喧嘩っていうか、レベル(上下関係)があるじゃないですか。一番上の人は一年前に入った人
だったり。それでレベルがあるわけなんです。月によって決められるんです。1月30日と2月1日だったら1
月の人が先輩になる訳なんです。
田中:あ、それだけで先輩。李くんは2008年の1月なんて、ここ(大学)でテスト受けてたわけだよね?(笑)。
李:そうですね(笑)。テスト受けて2月に入って…。まぁさっきの話に戻ると訓練とかもきついんですけど先輩と
後輩の人間関係がすごく難しいんです。上下っていうのは年の差とかそういうイメージがあると思うんですけ
ど、ほとんど同い年とか一歳上とか、めっちゃ早いやつは一歳したとか。それでも「先輩」とかって言わなきゃ
いけないし。僕の弟みたいな感じのやつが「おまえこれやれ。これやれ。」みたいな感じで言ったり「これダメ
だからあっちで立ってて」みたいな感じで罰うけたり。そういうのがめっちゃきついですね。
田中:じゃぁ訓練とかそういう肉体的な辛さよりもそっちのが嫌だったんだ。
李:人間関係ですね。もういろんな人がいます。僕みたいに日本に行ってきたやつもいるし、アメリカのスタンフォ
ード大学とかから来た人もいるし、いろんな人が集まってるから、そこで自分が生き残るために…。
田中:じゃぁ先輩後輩だけじゃなくて、入った順番、スペック、いろんなので比べられたりしてごちゃ混ぜになるん
だ。でも喧嘩はしたら刑務所なんだ。喧嘩するかもしれない要因がたくさんあるのに。
――――――――で銃を持ったんだよね?
李:そうですね(笑)。僕が19の時。
田中:あ、そっか、まだ(そのとき)19だもんね。
李:そういう若者に銃を渡すっていうのも、国としてどうなんだろうって。ほとんど18、19、20みたいな感じ
の若者が銃を持って、撃つわけですから、それはすごいと思わないですか?
田中:あぁそうだよなぁ。訓練でも撃ってたんだもんね。実際に撃ったわけだよね?たくさん。
李:たくさん撃ってました。
田中:「なくそう」っていう人はいっぱいいる?徴兵制度自体を。
李:そうですねぇ…。
田中:日本みたいに志願制にすればいいんじゃないか、とかさ。
李:なんか僕は実際に行ってきて言うわけなんですけど、北朝鮮っていう存在があるから。今は軍隊に60万人いて
その60万人が家族とか友達とかを守ってくれるわけなんです。まぁ僕も守ったということになる訳ですし。
それぞれ一人が(集まって)役に立つみたいな、そういう思いだと思います。自分一人に与えられる任務もありま
すね。
田中:あるんだ。
李:ちなみに僕は運転だったんですけど。
田中:それは…。
李:軍の車の。僕はまぁ運転する訳なんですけど、こうやって運転することによって家族が楽に過ごせるんだ、みた
いな…。
田中:そういうことを感じてたんだ。
李:感じてましたね。
■スペック社会韓国。
李:韓国にはスペックアップっていうカフェがあるんですね。なんかインターネットかカフェが、スペックをアップ
させるっていう。
田中:スペックアップ…スペックって言葉が浸透してるんだ。
李:そうですね。で、そこにはまた自己紹介みたいのから書くんですよ。mixiのコミュニティみたいな感じなんです
けど。最初の自己紹介に「自分のスペックについて書け」みたいな感じであって。で、たとえばコンピューター
の資格何個。海外ボランティア3ヶ月。そういう風なのを全部書くわけです。まぁもちろん車の免許なんて書か
ないんですけどね(笑)。
田中:書かないんだ(笑)。じゃあ俺書くことないね。そこいったら何もやることなくなっちゃう(笑)。
李:まぁ大学の名前とか。日本もそれは結構重要だと思うんですけど。韓国は大学を(コネも含めて)考えて選びま
すし。
田中:じゃあ生きてく手段をすごい考えるんだ。
李:で、大学はその名前を自分のスペックとしてとるために、センターでいい点を取らなきゃって考えるんです。そ
の大学に入ってメディアの勉強おしようとかじゃなくってその大学のタイトルがあるから、あとあと就職活動の
ときもスペックになるっていう。大学の名前がむしろ自分のスペックになるっていう。
田中:あぁーじゃあ大学の名前によってここの大学はこういう(職に就く)人たちとかってのがあるんだ。
李:そうですね。たとえばサムソン。韓国で一番でっかい会社なんですけど、そこの子会社みたいな感じでつながり
のある大学・・・ヤンセー大学とかコウリョウ大学とか。
田中:あるんだ。
李:そういうところから先に採用して余ったところに他の大学を選ぶんですよ
田中:へぇーじゃあサムソンにいる人たちってのは、まず間違いなくそういう人たちばっかりなんだ。
李:そうですね、そういう大学出身の人は多いですね。でもまぁそれがスペックですから。その大学(に行ったとい
うこと)が。そのスペックでサムソンに入る訳ですから。
田中:そうだよねぇ。じゃあサムソンに入りたかったら大学受験から考えろよってそこになっちゃうんだ。
李:まぁ大学受験っていうよりもそもそもその高校一年からの勉強の量にも関わってきますよね。
田中:そっか。何個も先のこと考えたら、今のうちにこれやって次にこのスペックをとって、でさらに次にいくにはこ
れが必要だからこれをとっといて…っていうのをやらなきゃ行けないから、その準備が高校一年からの7時から
9時までの勉強になってるんだ(笑)。
李:そうですね(笑)。まぁ大学生もそうだし、まぁこんなに日本のようにアルバイトしたり、遊んだり、ゼミで飲ん
でたり、サークルで今日合同飲みとかあるんですけどそういうの滅多にないので…結構ストレスですね(笑)。
韓国の大学生は。
田中:だからああいうスポーツの時にはすごく盛り上がれるっていうのはあるのかもしれないね。
李:そうですね。ストレスを発散するところって感じになってますね。
■スペックはもっていますか?
李:ちなみにもう4年じゃないですか。
田中:うん。
李:今までスペックっていうかそういう何か残したっていう
かそういうのありますか?
田中:紙に書く資格みたいなスペックはないよ(笑)。ただ頭の
中とかキャラクターとかそういうのには絶対に積み重
なってる。スペックじゃないんだけど、たしかに能力は
存在してるんだよね(笑)。
李:そういうのって韓国では認めないですね(笑)。
田中:みたいだねぇ。日本てそういうところすごく認めてる気
がする(笑)。
李:あ、企業が認めるんですか?
田中:うん。向こうの人が聞くのはね、「趣味はなんですか?」とか、「何がやりたいの?」とか、「何が大事な
の?」とか。今まで何をやってきましたかって事を聞かれるのに加えて「こいつはうちの会社でちゃんと働け
るのかな」ってところはスペックじゃなくて、キャラクターであったり、人間性であったりかなぁ。
李:それってでも面接とかで見る訳じゃないですか。
田中:そうだね。
李:(面接官は)書類をどうやって通すんですか?
田中:俺、紙に書くスペックは無いって言ったけど・・・書類もねスペックを書く用とは別に、質問が書いてある訳
よ。自分のこだわりを3つ教えてくださいとか。
李:あぁーなるほど。
田中:そういう答えのでない質問が日本の企業に提出する書類ではよく投げかけられる。そこにあらわれるわけだよ
ね。TOEICとか数字にできなかったり、資格とか免許とかじゃないスペック。そういうところを日本はたぶん大
切にしてるよね。
李:なるほど。
スタッフ:日本の場合スペックって例えば資格とかだったら勉強すれば誰でもできること…。
田中:て、思っちゃったりもするんだよね。
スタッフ:ひとりで机に向かって勉強すれば取れちゃうものが多いから…
李:まぁそういわれればそうなんですけど、勉強して取るのが資格じゃないですか。でも資格のない人はそれすらし
なかったってイメージに結びついちゃいますね。
田中:そうだよね。だから逆にその勉強をしなかったってことは、それより大事なことがあったんだと思うんだけどそ
れはなんだろう?とかって質問を企業はしてくるわけだよ(笑)。
李:いや。…大学生ってそれより大事なものって無いんじゃないですか?(笑)。その、スペックのための勉強よ
り・・・。
田中:いやーどうなんだろう?(笑)。なんかねー。自分のやりたいことなんだろうかなーとか考えるのが大事だと思う
から・・・・だから(キャリアの)デザインの仕方が全然違うよね。韓国の人はスペックを土台にしてデザインす
るだろうけど…。でもまぁ日本でも資格とかを重視することは当然あるよ。資格とるのって大変だもん(笑)。
李:そうですよねー
田中:それがあれば「最低限こいつはやるべきことやってきたんだな」、「頑張った子なんだな」っていう基準にもな
るから。だから、評価の基準はたくさんある。日本の社会には。
李:韓国では,例えばTOEICの点数が高い奴はそれだけ真面目っていう印象がありますね。
■大学生活ってどんな時間?
李:日本では結構大学って自分を捜す場所、みたいなイメージですか?
田中:うん。そう意識して無い奴もいるし、思ってるやつもいるけど結局そうなってるよね。
李:でも結構高校のときとか良い大学入りたいとか考えたりしなかったですか?
田中:そのくらいはあったんだろうけど、そう、みんなそれはあるんだよ。その方が有利だから。でも、入ったら資格
を取ろうとか、ってのはあんまり見られないかな。ほんと自分の周りの範囲でしかわからないけどね。そもそも
大学に来る必要もないんじゃないかってやつもいるくらいだから。
李:あ、そうなんですか(笑)。
田中:先はわからないけど、今やってること何かにつながるかもなーって色々やってて。で、後から振り返ったら意外
とつながってて点々としてしてて面白いねっていうのを楽しむような、そんな風潮かも。
李:なるほどー。やっぱ考え方がかなり違いますね。
田中:違うと思う(笑)。だから(韓国人から見たら)日本人は甘いって思えるわけだよね。
李:でも日本の経済の面とかはうまくいってるじゃないですか(笑)。それはまた不思議ですよね(笑)。
田中:そこはよくわかんない(笑)。
李:それはもう先祖が結構土台を作ってきたからってことなんですかね。昔の日本人って頑張って勉強してたんじゃ
ないですか?
田中:あ、昔の人たちはね、戦争を体験した人たちとか、戦争の前から頑張ってた人たちが日本の土台を作ってくれ
たっていうのはあるよね。だからその人たちが引退してからは崩れて、落ちてきちゃってる。でも,最近学力っ
て何なんだろうって思うけどね(笑)。
李:難しい数学の問題を解いたりするのじゃないですかね、学力って。その評価の基準になるわけですから。
田中:まぁそうなんだけどね(笑)。でも日本で頭が良いっていうと勉強ができるって意味じゃなくなってきて気がする
んだよね。
スタッフ:知識があってもそれを使う能力を問われるから・・・。
田中:使い方とか、どういう風にものを見てるのかなとか。考えてるのかなとか。そこかなー。
スタッフ:だから逆に資格とかが重視されないのかな。資格があってもその資格を使えなきゃ意味がない。みたいな。
田中:資格の使いどころを知っててね。例えばだけど、英語の資格ばかりある奴が一個だけ船の資格を取ったとして
「どうしたの?」って聞かれたときに、「この船の資格を取っておけば、こういう遊びができて、こういう風に
役立つと思ったんで取りました。」って話せるとか。なんか知らないけどさ。興味をもったからそれを頑張った
んだなーって。闇雲に(資格を)もってりゃいいっていうよりも、「○○やりたいって意思があって、その為に資
格取っちゃったんです」ってところだよね。
李:はあーなるほど。でも世間からしてみると、高校からメッチャ勉強してて良い大学入って、その良い大学もス
ペックになって、また資格とかTOEICとか取ってて。そういうスペックのある奴は絶対真面目じゃないですか。
田中:うん!それは。
李:こういう真面目な奴がうちの会社に入ったら絶対従うし、絶対仕事できるじゃないですか。そういう考えはあり
ますよね?
田中:もちろんあるよね。こいつはやるべきことをちゃんと頑張れる奴なんだって思う。でもなんかそこまで学校にか
んして真面目にってか厳しくなってる国って今ないと思うよ。韓国以上には。
李:そうですね。あぁそういえば今朝見たんですけど、世界学力評価で韓国が第二位になっていて。
田中:へぇ。日本何位?60位とか?(笑)。
李:いやいや(笑)。そこまで落ちてないですよ(笑)。で,1位はフィンランドだったんですね。フィンランドは勉強
させるんじゃなくて勉強(成績)がおちる人にもっと教育するっていうか。そういうシステムで、頭のいい人じゃ
なくて成績の下がっていく、言ってしまえば馬鹿な学生に国から全般的に教育のお金を使うらしいです。
田中:じゃあすごく高い人と低い人がいるんじゃなくて、平均的にできる人に育てられるんだ。
李:で、なんかその大会のあとに韓国の学生は1位との差がわずかだったらしいので「わずかの差で負けたね、今度
はうちが勝つよ」みたいなことを偉そうにフィンランドの学生に言ったらフィンランドの学生は「違うよ、うち
は大きな差で勝った」って。なぜかっていうと、「うちは勉強をたのしんでいるけどお前らは戦争じゃないか」
って。そういう話があったらしいですよ。なんかすごく心当たるじゃないですか、そういう話を聞くと(笑)。
あぁフィンランドと韓国はこんなに違うんだ、みたいな。
田中:なるほどねぇ・・・。
李:そういうスペックとかの競争社会は韓国ではどんどん激しくなっていくわけです。日本は下がってるってさっき
おっしゃってましたけど。
田中:日本は競争意識ってのはなくなっちゃったかもね。
李:それでこれからアジアってのは世界的に韓国と日本とあとフィンランドも入れてどうなっていくんですかね(笑)。
田中:どうなるんだろう…(笑)。
李:僕らの子供が生まれたぐらいの時は変わった社会になってるんじゃないかなーって。
田中:多分おもしろいかなって思ってるんだ。その先を知るためにも世界を一周して(笑)。
李:そうですね(笑)。
田中:うん,ちょっと頑張ろ(笑)。では,今日は久しぶりでしたがどうもありがとうございました。
李:ありがとうございました。