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不惑の原発銀座

(3)感覚のずれ、不信の根

2010年12月16日

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 ●「原子力広報」

 コンブ、肥料、湯の花など様々な物質の放つ放射線を測定器で順番に測っていく。こんな市民向け放射線講座が、福島市で11月末にあった。約20人の参加者は、物質ごとの値の違いや、距離が離れると値が下がることを確認した。

 講師の高倉吉久・東北放射線科学センター理事は、元県庁職員。原子力行政に長年携わった経験を持ち、「放射線は五感でわからず、怖いイメージがつきまとってきた。ただ、工業や医療で有効に使われ、自然界にも存在する。体験教育などで、地道に伝え続ける必要がある」と話す。

 内閣府の世論調査で、原子力の安全性について不安と感じる人は10年前より減り、安心だと感じる人は増えた=グラフ。事故や不祥事で一進一退しながらも、原発への理解は徐々に高まってきた。

 原子力広報の難しさは、目に見えにくいものをどう伝えるか。放射線の姿、巨大発電所で起きていること、運転する人たちの信頼性……。しかし、わかりにくい専門用語の多さや電力会社の情報の伝え方の悪さもあり、住民の理解と信頼を損ねることが多い。

 例えば、「高経年化」という言葉。来年3月に40年を迎える第一原発1号機など、運転から長い年月が経たことをさす。ただ、楢葉町の結城政重町議は「辞書にもない言葉で、わかりにくい。なぜ老朽化と言わないのか」と話す。

 年月を経ても部品を交換しているので、老い朽ちてはいない、というのが言葉を使う電力会社の立場。しかし、原発の運転期間を延長する際の説明で使われる言葉で、「本当に傷んでいないのか」と住民の疑心暗鬼を生んでいる。

 こうした感覚のずれが、住民の不信につながる。原発が立地する4町では現在、住民と電力会社の情報共有の場として、「県原子力発電所所在町情報会議」が年4回開かれている。住民代表が国、県、電力会社と一堂に会し、疑問をぶつける場で、地元の町役場が主導している。

 会議は2002年の東京電力の不祥事を機に始まった。新潟県にも同様な、「柏崎刈羽原子力発電所の透明性を確保する地域の会」がある。

 ただ、こちらの運営はもっと徹底している。毎月1回開かれ、市民自らが委員会を設けて運営。会議の日程、資料、議事録などをすべてホームページで公表している。

 柏崎市で1日開かれた90回目の会合は、新しい検査制度がテーマ。賛成・反対双方の立場の参加者が国や東京電力の説明を聞き、疑問や感想を述べ合った。夜6時半からの議論は3時間近くに及んだ。

 新野良子会長は「事実を知って疑問を解消し、住民の立場で考える場。国や電力会社には、住民が何を知りたいかを感じてもらう」と話す。

 住民の感覚をつかむ電力会社の努力と、感覚を住民が表現しやすくする環境づくり。その相互作用が原発の理解には欠かせない。

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