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不惑の原発銀座

(1)育たぬ産業、募る不満

2010年12月14日

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 ●人口減少

「大熊町へ人口の一極集中は、格差の表れではないか」

 7日の楢葉町議会で、山田昭町議が人口減少とまちづくりについて草野孝町長に問いかけた。草野町長は「人口増につながる計画を立案していく」と答えたが、同町の人口は1998年から減り続けている。一方で、約10キロ北の大熊町は今もやや増えており、山田町議は差を指摘した。

 原発の立地する双葉郡内では「家を建てるならば大熊町に」との声がよく聞かれる。住宅団地の造成などで早くから住まいや子育ての環境を整えた同町は、暮らしやすい町との評判があるためだ。楢葉、大熊、双葉の3町とも40年前は8千人前後だったが、当時より多いのは大熊町だけ=グラフ。もともと人口が多かった富岡町も減り、この地域では人口減を食い止めることが共通の課題だ。

 原発立地町は豊かな税収や交付金に恵まれ、人口という身の丈以上に立派な施設を造り続けた。4町を南北に貫く国道6号を通ると、20キロ余りの間に野球場などの運動公園や温泉健康施設が点在する。富岡町役場の本庁舎面積は県内で9番目の広さ。こうした公共施設を抱える立地町にとって、その維持管理の負担は人口減でひときわ高まる。

 地元に原発誘致の動きが起きてから半世紀。建設から運転開始と数多くのヒトとカネが集まり、急速に豊かになった。誘致前は目立った産業がなく、1年の半分近くが出稼ぎという家庭も多かった地。今や原発関連で約9300人の働く場が生まれている。

 一方で、誘致をてこに産業振興を図る、との当初の願いは十分に果たせていない。小さな工業団地が町ごとに点在するが、原発以外の主要産業は育っていない。最新技術が集積する原発を持つ地なのに、研究機関や大学など高等教育機関も生まれていない。

 双葉町は昨年、今後のまちづくりのため町民に意識調査した。3人に1人が「10年前と比べて生活環境は悪くなった」と回答。買い物の不便さや町の特色を生かした産業がないことに不満が多く出た。

 楢葉町の町民アンケートでも似た傾向だった。町の暮らしやすさについて、満足が35%に対し、不満が29%。働き盛りの30〜40代に不満層が多く、「町内に適当な職場が少ない」との声が目立った。

 原発を核にしつつ、人の集まる地域をどう作るか。福島と並ぶ「原発銀座」の新潟県で11月末に開かれたシンポジウムでは、地方経済に詳しい関満博・一橋大教授が招かれ、原発と地域振興について議論した。関教授は原発の立地地域の産業振興の動きが目立たないことを指摘し、「地域の有利な条件をうまく生かし、住む人々が輝くような産業化を」と訴えた。

 「原発銀座」がめざすべきそんな姿とは対照的に、福島の現実は原発依存がより強まる傾向にある。頼みの原発自体、いずれ廃炉の時期を迎える。その時の地域のあり方が関心事になり始めている。

 3月の富岡町議会でもこの点が議論になった。遠藤勝也町長は、仮に原発が地域から完全になくなれば、「もうここはゴーストタウン、地域になりますから」と危機感を示し、「原発はこの場所から撤退されたら困る」と述べた。

 原発でヒトもカネも一気に吸い寄せた地域は、「ポスト原発」を探りながらも人口減に直面し、再び原発のエネルギーにすがろうとしている。

 福島第一原発1号機が営業運転を始めてから、来年3月26日で40年。地域は原発マネーで豊かになった一方で多くの課題に直面し、戸惑いの声も広がっている。原発銀座の今の姿を報告する。(このシリーズは田村隆、中川透が担当します)

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