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2010年12月18日(土)付

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防衛大綱決定―新たな抑制の枠組み示せ

政権交代後初めての「防衛計画の大綱」が閣議で決定された。中国の軍事動向への警戒感を色濃くにじませるとともに、脅威には軍事力で対応するというメッセージを前面に打ち出した。[記事全文]

環境税―拙速導入への懸念と期待

来年度税制改正で「地球温暖化対策税」(環境税)の導入が決まった。地球温暖化対策の柱となる税のはずだが、菅政権から達成感が伝わらないのはなぜだろう。導入の理念も具体的な使[記事全文]

防衛大綱決定―新たな抑制の枠組み示せ

 政権交代後初めての「防衛計画の大綱」が閣議で決定された。中国の軍事動向への警戒感を色濃くにじませるとともに、脅威には軍事力で対応するというメッセージを前面に打ち出した。

 東アジアの情勢は不安定さを増しつつあるとはいえ、「脅威に直接対抗しない」としてきた抑制的な路線から、脅威対応型へとかじを切った意味合いは重大である。中国を刺激して地域の緊張を高める恐れがあるばかりか、「専守防衛」という平和理念そのものへの疑念を世界に抱かせかねない。

 新大綱は単なる計画文書ではない。日本が発信する重い政治的なメッセージと、国際社会は受け止めるだろう。そのことへの鋭い意識が菅政権にどれだけあったのか、疑わざるを得ない。

 新大綱は長く継承してきた「基盤的防衛力」に代えて、「動的防衛力」という概念を採り入れた。自衛隊の機動性や即応性を高める。とりわけ装備の「活動量を増大させ」、日本の高い防衛能力を「明示しておく」ことが地域の安定に寄与するのだという。そういう効用も否定はしないが、ものごとには両面がある。

 周辺諸国の目には、日本が軍事的な自制を解こうとしていると映らないか。東アジア地域の不安定要因には決してならないという路線を転換し、危うい歩みを始めたと見られないか。

 軍事は政治や外交を補完する機能の一部にすぎない。軍事力を外交や経済・開発援助と組み合わせ、事態が悪化するのを防止する「紛争予防」の発想が、新大綱には乏しい。

 外交力は特に大切だ。日中の防衛交流や信頼醸成措置は中断したままだが、米国は粘り強い外交交渉を重ね、台湾への武器輸出をめぐり途絶えていた米中軍事交流の再開にこぎつけた。

 鳩山由紀夫前首相は昨年、「東シナ海を『友愛の海』にしたい」と語り、菅直人首相も先月の首脳会談で「戦略的互恵関係」の推進を確認したが、外交と軍事がばらばらとの感が深い。

 防衛大綱の枠を超えた総合的な国家戦略を立案する必要性を痛感する。

 今回、武器輸出三原則の緩和を明記することは見送られた。時間をかけ慎重に議論を重ねるのが賢明だろう。

 新大綱の策定には、文民統制の立場から政治の強い指導力が期待された。政権交代こそ究極の文民統制とも言えるからだ。しかし、根幹の議論を民間有識者に任せるなど、総じて政治が深くかかわった印象は薄い。

 新たな防衛力の整備は今後、具体的な組織再編や運用見直しの段階に移る。意図せぬ摩擦を避けるためにも、菅首相は中国を含む国際社会に、新大綱が専守防衛を逸脱するものでないことを丁寧に説明しなければならない。

 自衛隊の運用や予算に新たな抑制の枠組みを創出することも急務である。

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環境税―拙速導入への懸念と期待

 来年度税制改正で「地球温暖化対策税」(環境税)の導入が決まった。地球温暖化対策の柱となる税のはずだが、菅政権から達成感が伝わらないのはなぜだろう。

 導入の理念も具体的な使途もあいまいなまま拙速に走り、中途半端なものになったからではないか。

 新税は、原油や石炭など化石燃料に輸入段階でかかる石油石炭税を5割増しにする形で導入する。完全実施時の税収は2400億円になる。

 本来、環境税とは温室効果ガスを出す化石燃料の需要を抑えるための税だ。副作用が出ることも覚悟しなければならない。

 まず企業や個人の負担が増え、景気を冷やす要因となる。生活必需品の価格が上がるので、貧しい人ほど影響が深刻だ。今のように政府が景気対策を打ち、格差是正のために低所得者向けの給付を増やそうとしているときには効果をそいでしまう。

 また、日本だけが重い税をかければ、負担から逃れようと企業が海外に生産拠点を移しかねない。それでは、日本で温室効果ガス排出量が減っても、地球全体では減らない。

 さまざまな側面に配慮したためか、今回は「薄く広く」(政府税制調査会)負担を求めるものになった。ガソリン1リットル当たりで76銭、1世帯あたり年間1200円ほどの負担増だ。

 経済や国民生活への影響を抑えたのは良いが、排出抑制効果も薄いものになった。当面の策としてはこれが現実的な選択なのだろうが、今後は環境税をもっと本格的なものに育てていくためにも、国民が負担を納得できる仕組みづくりを工夫してほしい。

 政府は税収を温暖化対策に使うというが、どんな政策に使うかはっきりしない。環境省の多くのエコ関連事業は先月の事業仕分けで「成果が期待しにくい」として軒並み見送りや廃止の判定を受けたばかり。あいまいなままだと、納税者の理解は得られまい。

 そもそも鳩山前政権も菅政権も、これまで温暖化対策について国民に開かれた議論をしてこなかった。自然エネルギー買い取り制度や、検討中の排出量取引も含め、政策の効果と国民負担をていねいに説明し、わかってもらう必要があるはずだ。

 環境税導入の本当の動機は、法人減税で不足する財源の穴埋めだったのではないか。そう見られかねないほどの拙速ぶりだ。とはいえ、低炭素社会づくりに向けて環境税が有効な政策手段となるのはまちがいない。

 曲がりなりにも誕生した環境税を、本格導入までの助走期間と位置づけ、育てていく必要があるだろう。

 それには税収をうまく使いたい。省エネ技術を育て、途上国に排出削減を促す政策に活用できないだろうか。

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