どんちゃん騒ぎで頭クラクラ
ミュージカルである本作の魅力はなんといっても楽しい曲と艶やかな踊り。今回は、歌詞のリズムを整える効果が抜群の、擬音語や擬態語、感嘆符にまつわる語に注目していきましょう。
まず冒頭の曲、俗語で「その他、などなど」の意の、「アンド・オール・ザット・ジャズ」のフレーズには、
Start the car I know a whoopee spot
字幕:
あたし いい店を知ってるの
とあります。「いい」ならnice や goodなどが考えられますが、ここで使っているのは「わーい!」という感嘆符whoopee(あのウーピー・ゴールドバーグのウーピーwhoopiと同じ発音)。この語で形容されたほうが楽しそうな雰囲気が出ますね。
なお、字幕には出ていませんが、曲中のコーラスには、このWhoopeeと、Hotcha(やった!)という喜びを表す語が使われています。
次は印象的なカウントで始まる、「セル・ブロック・タンゴ(独房棟タンゴ)」から。
Pop Six Squish Uh-uh Cicero Lipshitz
字幕の語:
パチン 6人 グシャ ノー・ノー シセロ リップシッツ
ふつうなら1−2−3−4−5−6とカウントして歌いだすところが、それぞれの女囚が殺人を犯すに至った経緯にまつわるキーワードになっています。
popは「ポン」「パン」とはじける音や動作を表します。squishは「びしゃびしゃ」という音や、ぐしゃっとつぶす動作に当たる語。似た語のsplash(「バシャ」「水がはねる」)は、トム・ハンクス主演の映画タイトルにもなっています。
何がはじけ、何がつぶれたのか。他の4語には彼女たちにとってどんな意味があるのかは、ぜひ本編で確かめてください。
この曲にはほかに、flip flop(バタバタ)という語も入っています。
ヴェルマが必死で踊る「アイ・キャント・ドゥー・イット・アローン(ひとりじゃできない)」、劇中では「あたしは捨て身」というタイトルの曲にはこんな歌詞が含まれています。
Then those ding-dong daddies started a roar,
whistled, stomped, banged on the floor
字幕:
客席の男たちは大喜び
口笛ピーピー!/床をドンドン!
ding-dongはにぎやかさを象徴する形容詞です。もともとは「ジャンジャン、リンゴン」といった音を表します。ミュージカルの名作『オズの魔法使い』には、この音を使った“Ding
dong the witch is dead(リンゴン、魔女は死んだよ)”という有名な歌がありますね。
roarは「ウォー」という叫び声、whistle、stomp、bang はそれぞれ、「ピーピー、ヒューヒュー」「ドン」「バン」という音を出す動作のことです。
最後に、派手な裁判シーンで歌われる、“razzle-dazzle(どんちゃん騒ぎ、目くらまし)”という曲を見てみましょう。ここには、同じメロディーにそれぞれ似た意味の語がバランスよく配置されている部分があります。
Give’em(=them) the old hocus-pocus
Bead and feather’em
字幕:
“ドカーン”と上げりゃ/皆 目がくらみ―
頭はクラクラ
Give’em the old flimflam flummox
Fool and feather’em
字幕:
人目を引く/芸当を見せりゃ―
簡単にごまかせる
Give’em the old double whammy
Daze and dizzy’em
字幕:
一発“ポカッ”と/お見舞いすりゃ―
目の前は真っ暗
Hocus-pocusはラテン語的な音の響きをまねた呪文の常套句、flimflamは擬音語が起源の合成語で、両方とも「ごまかし、ペテン」の意味。whammyは「ドカン(という一撃)」、daze「(目が)くらくら」はdizzy「ふらふら」の動詞利用。つまり、どれも「ハデにやって皆の目をくらましちゃえ」というフレーズですね。
セリフの半分以上が歌の本作。字幕は擬音語、擬態語も考慮に入れながら、読んでも聞こえるリズムに乗りやすい字数が工夫されています。
ちなみに、これら歌詞の字幕表示は、セリフのようにカットイン、カットアウト(バッと出てパッと消える)ではなく、速めのフェイドイン、フェイドアウト(だんだん出てだんだん消える)ようになっています。気がつきましたか?
|