特殊映像ラボラトリー 第13回 ゴジラVSシリーズの栄光(前編)
【「お前だけには、絶対負けない!」】
企画期間こそ長かったものの、いかにも唐突に登場した感がぬぐえない「ゴジラVSビオランテ」は配収10億4000万円と、その年の日本映画では8番目のヒットとなったが、翌年の東宝の正月番組は「山田ババアに花束を」「スキ!」の2本立て。「−ビオランテ」公開中にゴジラ・シリーズが続行されるとのアナウンスはなされなかった。
しかしその1年後、「山田ババア−」が公開される前日に行われた東宝のラインアップ発表にて、1992年正月番組は、「−ビオランテ」に続く大森一樹監督=川北紘一特技監督による「ゴジラVSキングギドラ」であると発表された。「−ビオランテ」公開後、東宝としても社内外を交えて、シリーズ続行のための検討を続けていたのである。その回答とも言えるのが、「−ビオランテ」上映中に行われたアンケートで人気ナンバーワンに選ばれた名怪獣キングギドラの復活だ。
そして大森監督の発案によるゴジラザウルスの登場とゴジラ誕生の謎が明らかにされるなど、ファミリーを対象としたエンタテインメントのための基軸が次々と採用され、内容面でもゴジラとキングギドラの最後の対戦の場に、当時落成したばかりの新宿副都心の新しいランドマークである東京都庁周辺が大型サイズのミニチュアで再現されたり、「いつ子供たちが映画を見始めても、ゴジラが画面に登場している」などの演出上の工夫がなされることになった。
【シリーズ宣伝の基盤を作った
「ゴジラVSキングギドラ」の戦略 】
「ゴジラVSキングギドラ」のプロモーション及び宣伝展開を見ていくと、後のシリーズではレギュラー的な位置づけとなった数々の施策が、この作品で初めて採用されていることが分かる。
まず「−VSビオランテ」のクランクインが8月、映画の完成が11月下旬と、公開ギリギリだったことを反省し、「ゴジラVSキングギドラ」では、5月に特撮班が先行する形でクランクイン。続いて本編班も撮影を開始。公開3か月前にあたる9月には作品が完成することで、この年9月29日から開催される第4回東京国際映画祭への出品が可能となった。
このTIFFでのゴジラ新作上映は、これ以後年中行事と化して行き、当時映画祭のメイン会場であった渋谷Bunkamuraオーチャードホールでの新作披露とスタッフ、キャストの舞台挨拶及びメディア取材はパブリシティ的に大きな役割を果たすこととなった。VSシリーズにおいては、「ゴジラVSキングギドラ」以降「ゴジラVSデストロイア」を除いて、すべてこのTIFFでのお披露目が行われている。
作品の完成が早いということは、公開までじっくりと試写会を重ねて作品内容の浸透を図れる良さがある。その一方で、当時東宝宣伝部に所属していたベテラン宣伝マンから、こんな話を聞いたことがある。「特撮映画を宣伝するのに一番苦労するのが、スチル写真の問題なんですよ」と。
つまり本編と特撮、2班体制で制作される東宝の特撮映画は、両班の撮影が終了し、仕上げ(現在で言うポストプロダクション)作業を経なければ、最終的な映像が完成しない。実写映画であれば、撮影現場でスチルカメラマンが撮った写真を場面スチルとして使用するのだが、特撮映画にはそれが出来ないのだ。「だから、昔の特撮映画のスチル写真を見ると、本編とは違う無茶苦茶な合成がしてあったり(笑)、怪獣の吐く光線が雑にイラスト処理されてあったり。いわばああいうのは苦肉の策。スチル写真がないと、雑誌や新聞に場面写真を掲載出来ないから。
その点このスケジュールで映画が完成していれば、あらゆる場面が宣伝に使える」。実際に雑誌を編集する立場になると、他の雑誌にはない場面写真を少しでも掲載したいという欲望が強くなり、宣伝部にあるスチル写真を片っ端から漁ることも珍しくはない。その要求に答えてくれるあたりは、確かにありがたい限りだ。
【「やったぜ!!エミー!」】
宣伝部による「ゴジラVSキングギドラ」のプロモーション及びパブリシティ展開は、東宝スタジオからゴジラの縫いぐるみが盗まれた事件が「ゴジラ失踪事件」と大々的に報道された、その事実が改めてゴジラの知名度と注目度の高さを証明する結果となった。
当時筆者の書いた記事によると、「ゴジラVSキングギドラ」のタイアップは、コニカの「ゴジラ・ローラーメジャー付またはゴジラバトルカード(6種)付フィルム2本セット」を12月末まで30万ケース限定発売。ポスター6000枚、チラシ1万5000枚、割引券100万枚配布を中心に、東芝乾電池、全家研、小学館英語スクール、IMSなどによる大々的な割引券配布が行われ、その数実に700万枚に登ったという。
一方新作公開前のお祭り気分を盛り上げるための旧作上映は関東14館、関西12館、九州8館、中部12館、北海道3館の計50館で「ゴジラ」(昭和29年版)などシリーズ作品が、レイトまたはモーニング上映され、TVでも復活「ゴジラ」「ゴジラVSビオランテ」など旧作が、TBSをはじめ全国18局で50回オンエアされ、そのすべてに「ゴジラVSキングギドラ」の公開告知がつけられた。
その他イベント展開では、原宿竹下通りにゴジラ・グッズ専門店「タカラ・ゴジラショップ」開店、渋谷西武2箇所にサイボット・ゴジラとゴジラ頭部を展示など、主要都市にて大々的に実施された。
こうした露出が功を奏し、12月14日から全国241館での拡大公開となった「ゴジラVSキングギドラ」は、初日から全国でヒットを記録した。オープニング時の興行成績は、主要24館対比、復活「ゴジラ」(配収17億円)対比人員102%、興収103%。「ゴジラVSビオランテ」(配収10億4000万円)対比人員147%、興収149%、9大都市とローカルの比率は43対57と地方も強い全国区型。また観客の中心はファミリーであり、男女比は7対3と男性中心。オープニング2日間での、興収ベスト3は次の3劇場。
1=梅田劇場 (1万3148名、1697万9000円)
2=京都宝塚 (8967名、1020万7000円)
3=日劇東宝 (6089名、862万7000円)
ファンの間で大きな話題を呼んだのが、映画終了後につけられた次回作「ゴジラVSモスラ」の公開決定を告知するフィルムで、これは「−VSキングギドラ」の前売りが良好なところから、早期にシリーズ続行を決定。この特報は初日数日前に、徹夜作業で作られたものだという。
「ゴジラVSキングギドラ」の最終的な配給収入は、「ゴジラVSビオランテ」を4億円上回る14億5000万円で、いわゆる初日発表のリリースでは「これまでの東宝の正月興行記録である『日本沈没』の配収20億円を18年ぶりに打ち破ることは確実」とされていたが、残念ながらそれは実現しなかった。
3へ続く