経営悪化した病院を再建 東栄病院 夏目忠さん
医人伝
経営危機でつぶれる寸前にまで陥った病院を、職員一丸となった対策で建て直した。山間地の住民の生命を守るため、何とか存続させたい−。医療関係者の誰もが持つその気持ちだけが支えだった。
東栄病院は、愛知県北東部の北設楽郡と、浜松市北部の旧佐久間町から患者が集まり、地域では数少ない入院施設がある。常勤医6人が交代で救急対応も行う。愛知県豊橋市出身の夏目忠さんは、信州大を卒業後、長野県内の病院で十数年勤務した後、1990年に東栄病院に赴任した。
経営危機が表面化したのは、院長になってすぐの2004年度。医師数は従来と変わらず、患者も減ったわけではなかったが、町からの繰入額が減少。8千万円の単年度赤字を計上した。
自治体病院は、救急などの不採算部門を担っており、自治体財政からの繰り入れが認められているものの、時は小泉内閣による構造改革時代。町に病院を支えるだけの財政力が十分でなくなったのが原因だ。
危機感を持った夏目さんは翌年度、職員有志と幹部職員約10人による再生委員会を立ち上げた。看護手当など諸手当廃止や、町内にある診療所の午前閉所、日曜外来と夕方外来の開始、職員の接遇改善を目指した。
「要するに『入るを量りて、出ずるを制す』や『人員の効率的配置』という経営の基本を徹底しただけ」と話す。とはいえ、職員からは不満も。給料が減り、時間外の仕事が増えるのだから当然だった。「3年頑張らないと病院はつぶれる」。必死の説明に職員も納得せざるを得なかった。
「この対策で病院が黒字化できるという見込みは、正直なかった。運が良かったんです」と振り返る。結果的に1年で2億円の収支改善を果たし、自治体病院経営の重要な柱である手持ち資金を減らさずに済んだ。
07年度には町の方針に従って、公設民営化。自らが理事長となる医療法人(09年度から社会医療法人化)が指定管理者となった。今年4月、院長と理事長を後任に任せ、一内科医として再出発。「気心の知れた20年来の患者さんを診るのは楽しい」と感じる。
山間地の病院には、新たな危機もあるという。同町の高齢化率は45%。お年寄り人口のピークは2年前に過ぎ、今後医療需要は減るばかりだ。「患者が減る中でどのように病院経営を続けるのか。20年先の日本の未来を先取りしているのが東栄町なんです」(市川真)
東栄病院(愛知県東栄町)
- 同じ連載記事
- 乳房の画像診断に尽力 国立病院機構名古屋医療センター 遠藤登喜子さん (2010年12月7日)
- チーム体制で24時間対応 三つ葉在宅クリニック山中 中村俊介さん (2010年11月30日)
- 救急医療担う若手育てる 福井大医学部付属病院 寺沢秀一さん (2010年11月23日)
- 重症心身障害児治療に尽力 聖隷三方原病院 横地健治さん (2010年11月16日)
- 「家でのみとり」支える あいち診療会 藤村淳子さん (2010年11月9日)
- 同じジャンルの最新ニュース
- 静岡 医療費助成 年度内に方向性判断 (2010年12月3日)
- 2008年度医療費は最高34兆8084億円 (2010年11月25日)
- 長野 若年脳損傷者に『支援法』を 介護者が全国初の陳情 (2010年11月20日)
- 石川・能登北部研究所長が夕張を視察 医師確保や在宅医療 『似た地域』参考に手応え (2010年11月14日)
- 生体腎移植 ドナーの検査費 移植が無理なら本人に自費請求 (2010年11月4日)