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経営悪化した病院を再建 東栄病院 夏目忠さん

医人伝

(2010年12月14日) 【中日新聞】【朝刊】 この記事を印刷する

職員一丸で危機脱却 名誉院長 夏目忠さん(63)

画像20年来診ている患者と話す夏目忠(なつめ・ただし)さん。「東栄病院は日本の医療の未来を先取りしている」と話す=愛知県東栄町で

 経営危機でつぶれる寸前にまで陥った病院を、職員一丸となった対策で建て直した。山間地の住民の生命を守るため、何とか存続させたい−。医療関係者の誰もが持つその気持ちだけが支えだった。

 東栄病院は、愛知県北東部の北設楽郡と、浜松市北部の旧佐久間町から患者が集まり、地域では数少ない入院施設がある。常勤医6人が交代で救急対応も行う。愛知県豊橋市出身の夏目忠さんは、信州大を卒業後、長野県内の病院で十数年勤務した後、1990年に東栄病院に赴任した。

 経営危機が表面化したのは、院長になってすぐの2004年度。医師数は従来と変わらず、患者も減ったわけではなかったが、町からの繰入額が減少。8千万円の単年度赤字を計上した。

 自治体病院は、救急などの不採算部門を担っており、自治体財政からの繰り入れが認められているものの、時は小泉内閣による構造改革時代。町に病院を支えるだけの財政力が十分でなくなったのが原因だ。

 危機感を持った夏目さんは翌年度、職員有志と幹部職員約10人による再生委員会を立ち上げた。看護手当など諸手当廃止や、町内にある診療所の午前閉所、日曜外来と夕方外来の開始、職員の接遇改善を目指した。

 「要するに『入るを量りて、出ずるを制す』や『人員の効率的配置』という経営の基本を徹底しただけ」と話す。とはいえ、職員からは不満も。給料が減り、時間外の仕事が増えるのだから当然だった。「3年頑張らないと病院はつぶれる」。必死の説明に職員も納得せざるを得なかった。

 「この対策で病院が黒字化できるという見込みは、正直なかった。運が良かったんです」と振り返る。結果的に1年で2億円の収支改善を果たし、自治体病院経営の重要な柱である手持ち資金を減らさずに済んだ。

 07年度には町の方針に従って、公設民営化。自らが理事長となる医療法人(09年度から社会医療法人化)が指定管理者となった。今年4月、院長と理事長を後任に任せ、一内科医として再出発。「気心の知れた20年来の患者さんを診るのは楽しい」と感じる。

 山間地の病院には、新たな危機もあるという。同町の高齢化率は45%。お年寄り人口のピークは2年前に過ぎ、今後医療需要は減るばかりだ。「患者が減る中でどのように病院経営を続けるのか。20年先の日本の未来を先取りしているのが東栄町なんです」(市川真)
 東栄病院(愛知県東栄町)

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