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【主張】新防衛大綱 日本版NSCを評価する
民主党政権下で初の防衛力整備の基本方針となる「防衛計画の大綱」と、来年度から5年間の「中期防衛力整備計画」が閣議決定された。
改定作業の過程で起きた尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件は、急速な軍事力増強を背景として中国が力ずくで日本の領土主権を認めない姿勢を鮮明にした。
中国への懸念を打ち出し、沖縄県・南西諸島に沿岸監視隊を置くなど島嶼(とうしょ)防衛を明確に位置付けたのは当然だ。「日本版NSC(国家安全保障会議)」を念頭に、首相への助言を行う組織の設置を明記した点も評価できる。自民党政権でもできなかった、防衛省からの首相秘書官も登用した。
問題は、国内各方面に自衛隊を均等に配備する「基盤的防衛力」に代えて導入する「動的防衛力」という概念を、真に国民の平和と安全を守れる防衛力にどう結び付けていくかである。
民主党政権は改定を1年遅らせて検討した。鳩山由紀夫前首相が諮問した有識者会議「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」は、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更などを報告書で求めていたが、一顧だにされなかった。
動的防衛力は日常的な情報収集や警戒監視の活動を強化し、突発的な事態に迅速に対応するものとされるが何を意味するのかよくわからない。テロなどの脅威に対抗するため、新大綱も同盟国との協力を重視している。それには集団的自衛権の行使が欠かせない。
当初、検討されていた武器輸出三原則の見直しの明記も見送られた。航空機の国際共同開発に参加できなければ、日本の空の守りに“穴”があく実害が生じる。今後も見直しを検討するというが、国会対策上の社民党への配慮が国家の安全に優先し、現実の防衛政策に悪影響を与えたのは問題だ。
陸上自衛隊の定員は千人減の15万4千人、中期防の総額は23兆4900億円でそれぞれ微減にとどまった。戦車が約600両から200両削減され、海上自衛隊の潜水艦は16隻から22隻態勢に増強するなどシフトが行われる。
輸送機や哨戒機の増強も必要だが、耐用年数の延長でやり繰りしているものも多い。監視活動の強化で飛行回数を増やすにも燃料費がかさむ。必要な装備や予算は確保すべきだ。