ボクシング界のご意見番として、目の前の光景が許せなかった。30分にわたり減量苦などを訴える大毅の独演会を聞き終えた矢尾板氏は、やっとリングに上がった王者の姿に熱い視線を送ったが、繰り広げられた光景は巨漢相手の押し相撲トレーニング。思わず怒りが爆発した。
「公開練習で相手に手の内を明かすのは誰でもいやなこと。我慢するのがプロだろ。ボクシングに減量はつきもの。減量が苦しいなら、ボクシングをやめちまえ!!」
過去の公開練習で大毅はミット打ちやシャドーボクシングを披露していた。ボクシングの動きが一切ないこの日は異例の事態。減量苦を理由に挙げた大毅は「今は対戦相手の分析よりも、練習が減量のみになっている。公開練習と言いつつ申しわけない」とわびた。
大毅はこれまで普段の体重60キロからフライ級(リミット50・8キロ)まで、1週間で約10キロを落とす減量方法を取っていた。今回は気温が低く、練習で汗をかいても水分が落ちにくいこともあり、試合約2週間前の13日から減量を開始。この日までにすでに絶食を2日間も行った。
これに矢尾板氏は憤りを隠さなかった。「絶食するくらいなら階級を上げて楽になればいい。押し相撲トレ? 宣伝行為にすぎねえじゃねえか」。自身もフライ級で活躍し、減量苦は痛いほどよくわかる。計量が現在のような試合前日ではなく、より難しい調整を強いられる当日だった現役時代を引き合いに出し、さらなる奮起を促した。
矢尾板氏の厳しい言葉は期待の裏返しでもある。大毅がデンカオセーン・カオウィチット(34)=タイ=に判定勝ちし、3度目の世界挑戦で念願のベルトを獲得した2月の試合は評価する。「あのときは試合終盤に左フック、右ストレートの良い連打があった。接近戦もできていた」。強い王者になる素質は認めるだけに、この日の言動は甘えに思え、愛のムチをふるった格好だ。
「大毅は未完の大器。いいものは持っているはず」。昭和の名ボクサーからの辛口をどう受け止めるのか。大毅はリングで結果を出すしかない。