しかし、専門家は「無線局の配置は最適化が必要で、行き当たりばったりに簡易無線局をばらまいても解決にはならない」と批判する。
電波の開放を訴えたが周波数オークションには反対
だが、ブロードバンドの普及で本当の焦点になるのは、余っている光ファイバーではなく、激増する無線通信量に対して絶対的に足りない電波の周波数だ。
この分野では、孫社長が原口総務相(当時)に「直訴」して大きく前進した。
総務省は今年の春、700/900メガヘルツ帯で国際標準と異なる「ガラパゴス周波数」の割り当てを決めた。ところが、これに対して「次世代のiPhoneなどの国際端末が使えなくなる」という批判が(私を含めて)ネット上で噴出した。
それを孫氏が原口氏にツイッターでつぶやいたところ、原口氏が割り当ての見直しを約束し、半年の再検討の結果、総務省の決めた原案がくつがえったのだ。
ところが、もう1つの課題である「周波数オークション」については、「光の道」をめぐる混乱に作業部会の大部分の時間が費やされたため、「時間切れ」を理由に導入が見送られる情勢だ。
これについて孫社長は「オークションの思想には賛成だが、一部の周波数だけを対象に実行することには弊害がある」と言う。その理由は「放送局もタクシー会社も、NTTドコモやKDDIも、すべての企業が今使っている周波数帯をいったん返上して、その上でオークションをすべきだ」というものだ。
この論理が正しいとすれば、国有地の競売も、すべての国有地を返上して行わなければならないことになる。
ソフトバンクの本音は、オークションをつぶして、総務省が「美人投票」で割り当ててくれれば、次は自分の番だという思惑だろう。そういう密室の官民談合が日本の電波政策を歪めてきたことは、孫氏が一番よく知っているのではないか。
このように孫社長の混乱した発言が、この1年、通信業界を振り回してきた。だが、これによって通信ビジネスへの関心が高まり、今までNTT支配のもとで「物言えば唇寒し」の風潮が強かった通信業界の風通しがよくなったことは大きな前進だと言える。
ソフトバンクも、今後はもう少し通信規制についての基本的な知識を身につけ、政府と対等の勝負ができるように成長してほしい。
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