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[21907] 神木・蟠桃の木の精霊(ネギま・超鈴音・相坂さよ)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/17 23:40
魔法世界編に当たっての独自設定
1原作で度々出ている地図の上が北、下が南であると確定(南のヘラス、北の連合という呼び方は便宜的なものでしかないと設定)
絡繰茶々丸から、ケルベラス大樹林、古菲探索時に度々下が北である発言が為されているが、上下反対では分かりにくい、混乱を招く為。
2一般旅客輸送飛空艇の時速を60km強、1日の総飛行距離を1500kmに設定。
3ネギ先生の箒での最高時速を100km、徒歩での平地移動時速を12-18kmと設定。
4メガロメセンブリアを基準に時差を左に行くほどマイナス、右に行くほどプラスと設定。
尚、日付変更線をアリアドネーとフォエニクス(メガロメセンブリアのある大陸の東端)間の海に決定したいと思いますが、混乱を招く恐れがあるので基本的にスルーでお願いします。

参考:凡その魔法世界都市位置関係
  12時        14時       16時     17時                     1時            3時   4時     6時
                   ヘラス                            アルギュレー大平原
                                                             ボスポラス                  

 アリアドネー                      ノアキス  ニャンドマ  ヴァルカン   

                                                 エオス                           フォエニクス
シレニウム                                              メガロメセンブリア       ノクティス・ラビリントゥス
                                              トリスタン
         ゼフィーリア                     オスティア
                                               オレステス
                                                         クリュタエムネストラ

           ケルベラス
       グラニクス           モエル  エルファンハフト


                                                                             タンタルス
                         アンティゴネー                                  テンペ
ブロントポリス                           アル・ジャミーラ



           ケフィッスス             桃源

        セブレイニア      盧遮那     龍山山脈

4貨幣価値について
矛盾が多いですが以下のように設定致します。
1ドラクマ=16アス
1アス=10円
1アスの日本での感覚での貨幣価値は100円程
ナギ・スプリングフィールド杯賞金100万ドラクマは日本人の感覚で16億、正しくは1億6000万(原作で3人奴隷労働6年分で返せるという発言は後に水商売含むか、トサカさんの適当な見積もりであると想定)
1アスが最小通貨で基本的にインフレ気味と想定

この作品の投稿開始はチラシの裏で9/14日からとなっております。
この作品は主にネギまの設定に、超鈴音が未来に戻ると死亡するというオリジナル設定を加え、その場合どうなるだろうかという妄想物です。
先の設定をふと思いついき1話を勢いで書き始めた事から始まりましたが、当初の予定では短編になる筈が大分長くなりました。
そのためSS投稿は初めてであり多々問題があると思います。
会話文に違和感を感じるかもしれません。
設定に設定を重ね、後出しジャンケン的な状況になりつつありますが不快な方はご注意下さい。
分類で言えば再構成になると思います。

主にwikipedia等を参考にしていますが独自設定により矛盾が発生する可能性があります。
魔力について魔分と繰り返し表記しているのは某ツルハシゲームの影響です。
また、神木関連でファンタジア、シンフォニアの設定、魔改造に00の設定を混ぜ込んでいます。
戦闘描写は一部のみです。
一部地名等に実名を使っていますが、そこで実際に起きた出来事、人物とは何の関係もありません。

12/17
現在総文字数約788000字です。
追加完了しました。

12/15
現在総文字数約782000字です。
とうとうトランザムしました。
バランスをミスると色々大変な事になりかねないので調整が必要かもしれませんが……。

12/12
現在総文字数約769000字です。

12/9
現在総文字数約750000字です。
追加完了です。

12/8
現在総文字数約745000字です。
また追加が入ると思われます……。

12/7
現在総文字数約733000字です。
妙に牛歩化したのはアスナの過去の年齢問題に折り合いをつけるのに手間取ったからです……。
ようやくこれでゲートポート探索編に移れます……。

12/5
現在総文字数約729000字です。
ちょっと展開的にそれは……と言われそうですが……意見があったらどうぞお願いします……。
この話的にはアリ……だと思いたいのですが……。
何よりネギ先生の魔法世界救済案はこの作品では発動しないので……。

12/4
現在総文字数約716000字です。
追加完了です。
51話も9000字程度なのでまた追加となります

12/3
現在総文字数約699000字です。
恐らくまた追加予定になりそうです……。

12/1
現在総文字数約688000字です。
追加完了です。
最近2万字を目安に魔法世界編を進める癖がついてしまいました……。
以下、既にオコジョ妖精が帰ってきたので「もうそろそろ」では無くなりました。

もうそろそろオコジョ妖精が帰ってくる話が入るので、魔法転移符関係の19話20話を再確認したところ非常におかしな事になっていたので修正箇所の説明をさせて頂きます。
修正前19話では魔法転移符が転移札と表記されていましたが全て(魔法)転移符で統一しました。
また、「転移した後に爆破して転移札も粉々で追跡ができない」という記述も、転移符が現場に残るというのは性質上あり得ないので、該当部分を削除しました。
何故か当時私の勝手な思い込みで呪術協会系と決めつけるようなスタンスで会話文が交わされていましたが、これもおかしな事なので、そのため無理の無い記述に改めて修正致しました。
流し読みをなさってる方は大丈夫かもしれませんが、読み直すと明らかな矛盾が発生していたので整合性が取れるように修正したという程度です。
当然特段話の流れとしては大差ありませんので、わざわざ読みなおしてまで再確認する必要もありませんが、報告をさせて頂きます。

11/30(12/01)
現在総文字数約677000字です。
短いので追加作業が入る可能性が高いですがご了承下さい。
プレビューが効かないのはなかなか厄介です。

11/28
現在総文字数約669000字です。

11/27
現在総文字数約653000字です。
結局47話に追加作業を行い、アリアドネー集合までとしました。

11/26
現在総文字数約644000字です。
今回少し短いですので後で調整を入れるかもしれません。

11/24
現在総文字数約632000字です。
ネギ先生の処理は……違うパターンもあり、どちらでもよかったのですが、結局都合が100%な展開となりました。
そうでない場合も都合が100%でチート能力を手に入れるような感じになるのであまり変わらないんですが……。
それよりベアトリクスが石化したのはショックでした……。

11/23
現在総文字数約612000字です。

11/20
現在総文字数約586000字です。

11/19
現在総文字数約564000字です。
アーニャ……はこれでまぁいいんじゃないかと。
別に廃都に放りこんでおいても良かったんですが……。

11/18
平地で障害がなければネギ先生は3、4時間で50kmは移動できるという原作の記述があったのを思い出し、魔法世界編1の「遅めの自動車ぐらい」云々の部分を修正致しました。
朝倉和美が飛空艇に乗って世界一周した距離が、概算で42000km程度だと思われるのでこれを日数換算して、一般旅客輸送艇の時速を60km強程度とすることにします。
よって24時間飛空艇を飛ばすと一日の総飛行距離はおよそ1500km程度となるように設定したいと思います。
小太郎君や楓さんのような人達は、ケルベラス大樹林からヘカテスに抜けるまでは日に75kmで4日間、ヘカテス、グラニクス間を日に150kmで2日間300km弱は自分の足で進めると考えたいと思います。
一応上記のネギ先生の4時間で見れば×3で12時間ですから1日の平地移動距離150kmというのは概ね合っているのではないかと思います。
エリジウム大陸はセブレイニアも含むのかや、テンペテルラは地域名でテンペが街の名前であっているのか、等イマイチよく分かりませんがいずれにせよ、図を張ることもできませんのでうまくやっていく必要がありそうです……。

追記:下手な魔法世界都市位置関係を上記に追加しました。参考までにどうぞ。

11/17
現在総文字数約550000字です。
彼が出てくるようで一切でてきませんでした……。
やはりバラバラというからにはとことんバラバラにすべきかと思いましたが、破綻しないよう気をつけます……。

11/16
現在総文字数約530000字です。
魔法世界編に入る前に最後のあとちょっとが先に入りました。
次からいよいよとなります。
何やらPV数がまたしてもおかしな上昇を見せているようなのですが正しくは131000ぐらいであるかと思います。

11/14
現在総文字数約521000字です。
いよいよ魔法世界編ですが、今後テンション的な問題で8月27日以降の話と交互に進めるかもしれません。

11/13
現在総文字数約509000字です。

11/12
現在総文字数約495000字です。
ドラクマの貨幣価値をなんとなく設定しましたが、おかしいようであればご指摘下さい。

11/10
現在総文字数約486000字です。
ようやく1日目終わりです。

11/9
要するに35話の「女性型の~さん」の前三文字を削除すればエラーは起きないということに気づき試した所、解決致しました。
test様情報提供ありがとうございます。
細かいことですがまほら武道会の試合数をやはり1選手1日4試合、全試合およそ600試合に修正しました。
試合と試合の間隔が最大で4時間にできないと話的に矛盾が生じるのは避けられそうにないのが理由です。

11/8
35話残存部分がなんとか投稿できました。
エラーが解消次第結合作業を行う予定です。
麻帆良祭でやや気が遠くなってしまい麻帆良祭後の話の……原型のようなものが先にできてしまいましたが、あちこち要修正ではあるものの大体普通に繋がっていく予定です。
次は麻帆良祭続きとなります。
現在総文字数約465000字です。

11/7
文量があと少しという所で投稿しきれず、エラーが発生し半端な部分までしか35話投稿できておりません。
何度か試行したいと思います。
sage投稿にすれば良かったのですが失敗しました……申し訳ありません。
一旦削除した方がいいのかもしれませんがしばらく様子を見たいと思います。

11/6
現在総文字数約441000字です。
やはり補足という形でまほら武道会一戦目を終えるまでで区切る事としました。
流石に3日間18戦近く全部触れるなんてことはしないので、後は飛び飛びかつ麻帆良祭そのものにも話が移る予定です。
細かいことですが久々に正しく字数計測したところ442569字でした。
徐々に誤差が出ていたようです。

11/5
現在総文字数435000字です。
触れる試合と魔法球の関係で未だ1時間ぐらいしか経過していないという……。
まとまりが悪くなるので話数の結合か補足を行っていくことになるかもしれません。

11/4
あまり関係は無いのですが32話のまほら武道会要綱の試合数の計算がおかしい事になっていたので修正いたしました。
選手の人数が奇数になっていたので偶数にも修正しました……。
本日の夜には分量がたまり次第投稿したいと思います。
現在総文字数約424000字です。

11/1
現在総文字数約412500字です。
今回はただの事前説明ですので話自体の進行はほとんどありません。

10/31
現在総文字数約403000字です。
とうとう40万にまで膨れ上がりました……。
今回独自解釈とご都合が100%含まれています。

10/30(2)
現在総文字数約391000字です。
二度と旅行なんてやりたくありません。
今回ぐだぐだが激しいので、より一層の流し読みを推奨します。
修正の検討はしたいですが、修学旅行で襲われるのは確定だったのでやはり話の本筋は変わらないかと……。
どこに焦点を当てて書くべきかわからなくなってくると碌な事になりませんね。
10/31一度違う展開で書いた時に古菲が美空達といるような発言が残っていましたが削除しました。違和感を感じた方は申し訳ありません。

10/30
現在総文字数約360000字です。

10/26
現在総文字数約345000字です。
28話の補足をしました。
チラシの裏からの表記の削除を行ないました。

10/25
現在総文字数約341500字です。
正直期末テスト編は突発的にやる気になったのであまり量が膨らみませんでした。

10/24
現在総文字数約334000字です。
ネギ先生の課題で自爆した可能性があります。
後で「そんな事なかった」にならないように気をつけたいと思います。

10/23
現在総文字数約324000字です。
今回あからさまな後出しジャンケンを使いました。

10/22
現在総文字数約313000字です。

10/21
現在総文字数約303000字です。
原作開始の2月も過ぎ、赤松健板への移動を開始。

10/20
22話超部活設立の補足部分の追加を完了しました。
学園長との反省会部分の会話文が一部変更となりましたが、大差はありません。
現在総文字数約293000字です。

10/19
赤松健板への移動にあたり全編に修正を加えたいと思います。
修正内容は末尾の変更や、長文の分割等、今までの流れに変更が起きるものではありません。

10/17
現在総文字数約286000字です。
23話の補足よりも先にこっちの方がサクサク進んでしまうという…。
一応補足部分は半分はできているのですが、どれぐらい大げさにするかの調整が必要そうです。
とうとう本来の原作開始の2月に入ったので、一応この辺りでそろそろ赤松健板への移動を考えております。
とは言ったものの移動する必要性があるかというとあまり無いような気もするので微妙なところではあります。
個人的には超鈴音をもっと積極的に扱う作品が増える事を願うのみです。

10/16
現在総文字数役276000字です。
前半部分の補足を後に行う予定ですが現在書いている途中の状態です。
単純に戦闘はどうあれ流れはこうなるからというのが原因ですが…。

10/15
現在総文字数約266000字です。

10/13
現在総文字数約254000字です。

10/11
現在総文字数約244000字です。
後半部ぐだってますが一度都合良く動きを入れるという事で。

10/10
現在総文字数約230000字です。
本選決勝あたりは思わずかっ飛ばしてしまいましたが、結果はこんな感じです。

10/09
現在総文字数約214000字です。
一気にウルティマホラまでかっ飛ばすかに思われましたが1日目で今回は終了です。
次話であまりやりたくはないのですがウルティマホラ編となります。

10/08
現在総文字数約204000字です。
書く内容に困りましたが、困った時の超鈴音は便利です。

10/06
現在総文字数約193000字です。
あまりの違和感になんともいえませんが、投稿です。
修正するにしてもネギ先生が弟子になるという話の流れ自体は変わらないのでなんとかしたい所です。

10/04
現在総文字数約166000字です。
今回は短い上、話自体の進展から言えば殆ど進みませんでしたが、しばらく試行錯誤が続くと思われます。

10/05
現在総文字数約173000字です。
昨日に引き続き7000字程度ですが、次も残り触れていない辺りを行ってから時間を少し経過させる予定です。

10/03 21時台
前編→1話
中編→2話
後編(世界征服1)→3話
以下同様

と訂正する作業を行ないました。
度々の変更ご了承下さい。

10/03(2)
現在総文字数約159000字です。
無理矢理な感がありましたがやっと7月を向かえることができて良かったです。

10/03
現在総文字数約147000字です。
今回は大分辛くなってきた繋ぎという側面が強くなってしまったかもしれません。

10/01
現在総文字数約137000字です。
半角カタカナが文字化けする等ありましたらご報告お願いします。

9/29(2) 20:11
後編9の末尾の変更をまたしても行ないました。
情報統制で海の発生をどうにかするつもりだったのですが、書き出したところ5000字を超えたあたりから明らかに積みの状態に入ったので結果として光学迷彩に頼ることにしました。
今回末尾で変更する前の話に似たものは時期的にもっと後で行うことにしたいと思います。
度々の修正申し訳ありません。

9/29
現在総文字数約126000字です。

9/27(2)
現在総文字数約114000字です。
今回はあまり量がありません。

9/27
続けて二度目の修正を後編7に行わせていただきました。
該当箇所は放射線関連の内容と生物工学云々のややこしくなる部分です。
この先を考えるとピンポイントな分野指定は首を締めることにつながるので修正させて頂きます。
また今後のために更に補足を加えさせていただきました。
またもや後出しジャンケンをフル活用です…。
※誤って後編7を削除してしまったので記事が上がってしまいました。混乱を招くような真似をして申し訳ありません。

9/26
現在総文字数約108000字です。
短編という表記自体怪しさを増して来たため題名から削除させて頂きます。
混乱を招くかもしれませんがご容赦下さい。
今回は後半が火星編で重力問題を無理やり解決させましたが、読みにくさ、違和感を感じるかもしれません。
引き続きお付き合い頂いでいる皆様、ありがとうございます。
補足:感想を頂いた情報を参考に後半部の火星のあたりについて修正を行ないました。けー様情報提供ありがとうございました。

9/25
現在総文字数約92000字です。
残念な戦闘描写が加わわる事となりました。
ご容赦下さい。

9/23
時間が大分あいてしまいました。
現在総文字数約84000字です。
後編5の内容は前回の続き程度の物ですので流してお読みください。

9/19(2)
本日分投稿です。
現在総文字数約76000字です。

9/19
後編1、2を世界征服編のくくりとのおかしさからまとめて中編に直しました。
混乱される方がいらっしゃるかもしれませんが、内容に変更はありません。

9/17(2)
現在総文字数約66000字です。
世界征服編3キリがいいので投稿です。
火星に関する情報をあさりまくることになりました。
詳しい方でそれおかしいぞというところがありましたらご指摘お願いします。

9/17
現在総文字数約61000字です。
ネタが00に走っているのはついに明日映画が公開なのと関係が無いわけではありません。

9/16
現在総文字数約52000字です。
後編1に関する感想に寄せられた誤字修正を行ないました。
また前回よりも短いのは後編2はキリがいいところになったためです。
量を期待している方は続きをお待ちください。

9/15
現在総文字数約44000字です。
また、感想の助言を頂き改行処理を加えました。9/14よりも読みやすくなっていると感じて頂ければ幸いです。

9/14
チラシの裏に投稿開始。



[21907] 1話 超鈴音が来るまでの5000年
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 18:42
気が付くと先があるのかないのかわからない白い空間にいた。

死んだ、ということなのだろうか。
とはいっても知識はあっても記憶が無く今こうして自覚している人格はあるが自分が何者なのかも不明なので生死はあまり問題ではないかもしれないが。

《ようこそ、我が空間へ》

突然声が聞こえた。こんな何もない空間で永遠に居たらさぞ飽きる事だと思っていたが、呼ばれていたらしい。とにかく挨拶をしておこう。

「お邪魔しています」

《ごきげんよう。…おや、前世の生きた経験が喪失しているのか。しかし、得た知識は残っているようだし人格にも大きな変化がある訳ではないようだな》

「ご存知とあれば話す手間が省けました。して、ここにいる理由について尋ねたいのですが」

《結論からいうと、魔力等がある世界に飛んで修正力になってもらおうという事なのだが》

あれか、二次創作なのか。
いや、世界の修正力自体になるとはどういうことか。

「魔力等がある世界からそれらを消滅させれば良いのでしょうか?」

修正するのだったらまずその不思議な力等を修正すべきなのではなかろうか。

《消滅ではなく、残して貰いたい。世界の多様性という点で見てもそういったものがフィクションの中ではよくある力が実際に存在しているのは珍しいケースなのでな。ただそれ故に暴走しやすいので、繊細な世界なのだよ。さて、修正の仕方は自由なのだが、今からこの世界の歴史を知識に追加するが、どういった形で行うかの要望があれば言ってみると良い。情報量が多いから時間を気にする必要もない空間ゆえまとまったら話かけなさい。実は世界の歴史を与えるのはこれが初の試みなのだがね》

拒否権というか、前世が喪失している時点でアイデンティティに執着がある訳でもないので拒否する必要性も特に感じない、ものは試しか。
……知識が入って来たようだ。
なんだか自分の元の知識にある世界にとってつけたように不思議な力が混ざっている世界のようだ。
確かにこれは繊細なのかもしれない。
魔力等が消滅するのを防ぐということだったが、どうやら火星の座標に位相が異なるが存在した魔法世界がその形を維持できず崩壊し、歪んだ形で火星と同化しズタズタになった上地球との繋がりが絶たれたということらしい。
最後の望みをかけて過去に跳ぶ技術を得て歴史の修正を試みる……か。
過去に跳べる技術があったのも驚きだが、13歳の少女が跳んだのも驚きだ。
結局彼女は目的を達成することはできなかったがある程度歴史に影響を与える事には成功したらしい。
しかし、未来に帰ったこの少女は時間移動の反動で死亡したのか。
まさに命懸けだな。
彼女によって影響を受けた時間軸の未来も、地球に生えている随分巨大な世界樹と呼ばれる木を利用して魔法世界を存続させるものの、魔力消費に耐え切れずおよそ千年後に結局魔力は枯渇した。
頑張ったと思うが、形あるものはいずれ滅びるという訳か。
いずれにせよ繊細な魔法とやらは消滅した。
しかし、修正するからには数千年単位の過去から準備する必要がありそうだ。
紀元前617年に始まりの魔法使いなる者の出現と魔法世界との繋がりが発生したあたりが一つの鍵か。
この繋がりが起きなければ……いや人がいる限りいつかは繋がりが起きるものか。
気になるのは鬼やら悪魔、この表現は人から見ただけのものだが魔力が枯渇し始めてから現れる事ができなくなったらしい。
驚きだが亜空間には彼等の天動説的世界が広がっているようだ。
信じがたいがなんという奇跡だろうか。
おや、これなら魔力が消滅していないから問題ないのではないか……なるほど、この亜空間は完全に閉鎖状態で進歩する可能性が見いだせないのか。
つまり、観測しても完成しているから意味がない訳だ。

後気にするべきは植生時期があやふやなこの神木か。
魔力の供給を行っているようだが、この世界樹には種子が存在しない、つまり奇跡的確率で自然に生えたということか。
星の意思なのかもしれない。
修正すべきはこの奇跡の木の機能と認識疎外程度の自衛能力か。
これだけ神秘の塊でありながら一方的に人に利用されたら流石に枯れるだろうに。
大体決まったな。

「要望を決めました。この世界樹の発生と同時に私の存在をこの木と同化すること、つまり、この木に宿る精霊にでもなりたいと思います。それに際しての長い時を生きるのに耐えられる精神力、ストレスに耐えられる能力を頂きたいです。また未来から跳んで来た火星人の目的が完遂できるのを最低ラインとした木の能力強化、種子を生み出せる事、後は対人間用のインターフェイスを用意できればなんとかなるかもしれません」

《決まったかと思えば、なんというか木の精になりたいと言うとは変わっておるな。実をいうと、この世界は時空間を完全に保存してあるため今までにお主のように任せた事がある。しかしやはり歴史を教えたのが良かったのか、普通は大体オリ主がどうとかテンプレだとか言い出して人外な人間になるも結局上手くは行かなかった。いや、彼等自身はかなり楽しんで生活していたか。そういう訳で先例も幾度もあるからあまり気にする必要もない。要望は可能な限り実現してみせよう。それでは旅立つと良い、ごきげんよう》

ただでさえ白い空間が眩しく輝き出した。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

意識が戻って来た。
視界が人間離れ、いや既に精霊化しているのか、前後関係なく知覚できる。
周りは随分開けた平野が広がっている。
何はともあれ無事に地球に到着したようだ。

視界が広い割には異様に目線の起点が低いがこれは……生えたばかりか。
流石に生えた瞬間からやたら大きい訳ではないらしい。
まずは精霊体を利用して動き回ることにしよう。

……不自然に周囲が開けているのは自然にこうなったとしか言いようが無い。
ある程度離れると一面森が広がっている。
この世界の地球は凄い、自重という言葉を知らないらしい。
何処まで遠くに行けるかもついでに確認しておこう。
所謂幽霊のように浮遊しているというより完全に飛行だ。

5キロ程行ったところ、

いや、何故5キロとわかるのだろうか。
初期文明も発生していない状態で何故元の知識の尺度で認識される。
木の能力強化とは演算ができる有機コンピューターのようなものでも搭載されているのだろうか。

と、逸れたがどうやらここまでしか離れられないらしい。
不便だ。恐らく木が発芽したばかりで出力が低いのだろう。

一旦木に戻る事にしよう。

木と同調して情報の整理を始めた。
やはりコンピューター云々はアタリだった。

その結果判明した事だが、要求した種子の生成が可能になり安定した木の状態になるのは二千年後になるそうだ。
因みに今は元の知識とのリンクの結果紀元前3000年にあたる。
状況が佳境に入る頃には樹齢5000年とは中国の歴史云々を越すな。

周りが開けているのは自動で結界を構成しているためらしい。
余計な植物が生えない、動物がこない。
こうしてみると土壌として先行き不安だが木から発生している微弱な不思議な原子レベルの粒子、無色透明だが、のお陰でバクテリアは活発らしい。
というかこれが魔力か。
魔力というのは語弊があるだろうか、魔素とか魔分とかの方が正しい気がする。
どっちにしろ精霊が呼び方決めても意味は無いか。
因みに散布の仕方は地中活性と高速で上空に打ち上げて地球中にあまねく広がるようになっている。
さながら木という形を擬装したテラフォーミングマシンである。
地球自体は滅んでもいないのにかかわらず。

当然ながら世界の知識にもあった六ヶ所の魔分溜りはまだない。
こちらは千年少々したら結界のためと保険の為に貯める予定だ。

最初のイベントは千年後である。
現在の思考速度は高速で時間は殆ど過ぎていない。
観測速度の早送りができるようで、千年後までを人としての感覚で、三日で回しておこう。
活動範囲も狭いし。

周囲の景色は太陽が上がったり下がったりのするのを繰り返しほぼ点滅していると言える。
木には周囲の映像を記録することができるので全て収集しておこう。
どこに保存するかと言えばハードディスク、もとい年輪である。
周りの森も延びたり倒れたり腐ったり、季節が回ったり、真面目に見ていると疲れる、綺麗ではあるが。

そういえば魔法世界は地球側の始まりの魔法使い、造物主とやらが造ったという情報もあるが、観測できなかっただけで恐らく悪魔さん達と同じで完全閉鎖型の亜空間だったところに奴さんが穴を開けてゲートを繋げたのだろう。
穴を開けた本人は世界を造ったとでも思ったのだろうか。
完成していた世界に穴が空いて未完成の状態へ、つまり擬似的に地球と同じに存在になった訳だ。
結果魔分が徐々に地球側に流出しだして広大な宇宙空間に拡散していったと。
因みに召喚される鬼、悪魔の世界が消滅しないのは召喚の際に使われる魔分が地球か魔法世界のものであるのが理由らしい。

三日後、高さは50メートル程になった。
さながら物見の塔といったところか。
魔分溜りを形成し始め、活動範囲も100キロに達した。
このままだとローマ帝国に飛んで魔法世界への道が開く瞬間を見ることは叶わないだろう。
あきらめも肝心である。

しかし、種子の形成とその発芽から成長を考えると時間が足りるのだろうか。
再計算開始。

種子の形成開始は千年後と言う名の三日後。
種子の完成は更に二千年かかる。
千年時間があるなら木の中で苗というか若木ぐらいまで育てておけばいいだろう。
なんとか魔法世界の限界までには丁度間に合うようで安心である。

三日経ち種子が形成され始めた。
活動可能範囲は500キロに拡大した。
やはり日本から出られない。

まあ仮にも魔分散布している本人だから魔法世界と繋がったらわかるか。

因みに三日と言っているが、実際には精神力の強化を利用した無心状態になっているだけである。
つまり思い出そうと思えば周囲の記録は全て残っているので気が遠くなるのだ。
本当に精神力を強化して貰っておいて良かったと思う。
寂しい等そういった感情も精霊にもあるが強制的に感情を抑制している。
できなかったら多分啜り泣く大木とかいわくつきの木として処分されるかもしれない。
というかこの記憶、魔法で読まれたら普通の人類は精神が擦り減って死ぬのではないかと思うほど何も無い。
風景画家とか歴史家にはいい資料だろうが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さてやってきた紀元前617年。
異質な魔分のゆるやかな流入を感知した。

これで晴れて亜空間から魔法世界も火星の座標入りとなった。
しかし魔法は随分凄い。
ある意味元の知識にある無人探査機で数年かかる道程の座標にゲートという手段でワープできるのだから。
穴を開けて魔法世界へと旅だった本人は新たな発見に喜んでいてそんな事には気付いてないのだろうが。
歴史によれば魔法世界側の純粋な人間はこちらから移住したらしいのだが、2600年で6700万に増えたというのだから、恐らく旅立ちには研究機関のかなりの人数で飛んだのだろう。
本格的にゲートが完成するのもかなり後であるからほぼ極秘裏に行っていたのであろうが涙ぐましい努力である。

さて、次は400年の日本の関西地方、大和でのリョウメンスクナの襲来か。
活動範囲内だから見に行こう。

精霊体は人間にも見える事もあるらしいが時間加速状態で対応する訳もいかないし、世界樹の秘密がばれでもしたら死活問題である。
最近は結界の使用をやめて認識疎外に変わっている、動物からすればあって当然かつ無い状態はありえない存在という認識を与えているため木を傷つけられることはない。
人間も来るが動物と同じく祈りのような事をされるが害されることもない。
魔分の打ち上げも隠蔽度合いが上がっており、木から魔分が供給されているとは気がつかないだろう。
ばれては困るが。

と、ゆっくり飛んでいるうちにリョウメンスクナと覚しきものを発見。
現れたばかりだから弱いのか人間からダメージを貰っている。
日本では平安時代を過ぎないと魔力と気の運用が体形化されないので完全に単純な殴り合いとなっている。
……数日かかって、人間もかなり亡くなったが、リョウメンスクナもエネルギー切れで自ら封印状態に入った。
これで1500年かけて力を蓄えるのか。
うん、頑張れ。
埼玉、まだ違うが、未来の麻帆良の地と同じくここも龍脈があるから大丈夫。

さて、この後は後600年で種子が完成するという大事なイベントだ。
期待して待とう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まさに感動の瞬間であった。
完成と同時に光り輝き、幻想的な空間が木の内部に広がった。

種子とは言ったものの大きなクルミみたいなものではなく、見た目は淡い桃色で鮮やかに発光する巨大な華である。
この瞬間は永久保存決定である。
ケーブルな映像媒体の発見番組に送れば間違いなく世界の神秘として何度も再放送される筈だ。

落ち着いて確認したところ種子は華の中心に存在していて華自体はあろうことか宇宙船として機能するらしい。
いや、物理的に火星に送るのだろうか、コレは。
軽くファンタジアな物語の大いなる実りと見た目が同じである。
てっきり苗を、ゲートを通して魔法世界に持って行こうかと考えていたが、これだと打ち上げて魔法世界と火星の位相を完全に同調させた方が安定するのではないだろうか。

種子は華の中で育てる事ができるようなので任せる事にしよう。
要望しておいてあれだが、これは異様にハイスペックだ。
まあ備えあれば憂い無しということで。

華は宇宙船ということだが、これを利用すると精霊体の活動範囲限界を無視できるようだ。
いや、空飛ぶ巨大な華なんて確実に問題があるからやめておこう。
認識疎外にも流石に限界がある。

そうだ、世界樹を一応22年周期で発光させておこう。

精霊体が便利で忘れていたが、ヒューマノイドインターフェイスはまだ造っていない。
素体は肉体的に死ぬとそれきりのようだから何体か用意しておこう。
なんというか、軽く00な生命体入っている。

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次のイベントはというと真祖の吸血鬼の誕生とやらだが、500年ぐらい経ったらやってくるだろうし、どっちにしてもそんな外国には飛べない。

しかし不死で肉体持ちとは相当辛くないだろうか。
精霊体でぶらぶらしていると便利すぎて感覚がおかしくなっているだけかもしれないが。
成仏しない幽霊、精神体がいる理由もわかる。
世界を早送りで観測できるのは意外と面白い。

元の知識通り江戸幕府が誕生し、明治維新。

そして1890年彼がやってきた。
既に高さ250メートルの大樹にもかかわらず認識疎外を行っていたが、これをすり抜ける人間がいたのだ。

明らかに開けているのに、ある程度周りを水源で囲まれているが、大して日本人も住んでおらず神木・蟠桃と大層な名で呼ばれているようだが、このあたりは本当に何も無い。
しかし誰も疑問に思わないのは認識疎外の結果だ。
たまに発光して綺麗だとか思っているだけらしい。

「西洋風の学園を建設する場所を探しにやってきたが何故ここは不可解に何もないのか。しかし何故調査に着いて来た誰もこの木を疑問に思わないのだ?」

ごもっともです。
これはヒューマノイドインターフェイスの出番となるか、いや面倒だし精霊体が見えるか試してからでいいか。

因みに精霊体の見た目は髪と目の色が翠色で性別のよくわからない子供の姿、基本的に半透明である。
4890歳だが。

見えるかなーと、とりあえず外人さんの目の前に降下。

「………」

驚いているか、まあ驚きますよね。
先手必勝。

《ようこそ外来人、見たところ拝みに来たわけではなさそうですが、用があれば聞きましょう。申し遅れましたが私はこの木の精霊です》

嘘をついたりすることはないと信じたいところだ。
しかし、もし怪しければ木の存続の為に得た、意識を拡張して思考を共有又は読む能力を使っていこう。
プライバシーやら人権に引っ掛かるが使ったらどうしたってそうなる。

「私はヨーロッパから来たウィリアム・バークレーです。学術機関を設立する土地の視察に来ました」

まあ、さっき独り言聞いていたのだけれど。
地味に人類と会話するのは精霊になって初めてだった。
感情が抑制されていて感慨もないが。
4890年誰とも会話しないとは間違いなく史上最強の引きこもりだ。
人間ではないけども。
ウィリアムさんが魔法使いかどうかだけは確認しておこう。

……一般人だった。
単純に認識疎外が効かない体質と見た。
未来にいたな、同じ体質の人。
祖先かもしれない。
魔法使いは調査隊の中に混ざっているだろう。
ともあれ精霊体を濃くしておいたものの見えてくれて良かった。
学園都市自体の建設は必須だから拒否する必要もない。

《この地は不思議な力に満ちています。学園を開けば様々な才能に開華した優秀な人材が育つかもしれません。もしその学術機関をこの地に建てるのならば見栄えある立派なものにして下さい。長いこと精霊をやっていますがいささかこの地は殺風景ですので。ただこの木を傷つける行動はやめて頂きたいものですが》

上から目線と暗に勝手にしろと言った訳だが、彼は精霊に許可を得たと言って嬉しそうに感謝して戻って行った。
一部既に神社になっていたりもするが、本当に何も無いのでやりたい放題できるだろう。
頑張れ。
土地の権利の問題等ありそうだが神木が切られることは認識疎外のお陰でないから大丈夫だろう。

それからというもの瞬く間に数年でいくつかの機関ができ、気が付くと地上に見事な西洋風の麻帆良教会、実態は地下に魔法使い人間界日本支部ができていた。
地下にするのはわかるが怪しい教団みたいでなんともいえない。
地下を掘るのは木の根的な意味でも、もしもを考えてやめてほしいところだ。
当然といえば当然だが六ヶ所の魔力溜りのひとつでもある。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

更に四年経って1894年6月、やっつけで発光した。

その後学校令が暫くするうちに色々改正されたが学園内の問題で特に関係はない。
都合よく、魔法関係者が関与しているのは間違いないが六ヶ所のポイントがめでたく全て調べられたらしい。
魔法使い支部、世界樹前広場、恐らく後に大学になるだろう麻帆良の高等学校の中央公園、女子高の礼拝堂、龍宮神社の門、大層な名前のフィアテル・アム・ゼー広場である。

そして1903年真祖の吸血鬼が来日する予定に近くなってきたのだが、先に麻帆良にやって来たのは武田惣角というちんちくりんのおっさんでした。
何やら合気柔術を、東北地方を中心にあちこちに広めているらしい。
やってきてすぐに麻帆良の施設内に道場を開いた。
やる気が凄い。
打算ついでに精霊体の隠蔽力を高めた状態で見よう見真似で動きをトレースすることにした。
重さのない躯だから微妙だが。
いつかヒューマノイドインターフェイス使う時に役立つかもしれないと期待しつつ。

一ヶ月程して大きな魔分を保持した見た目幻術で変身した凄い金髪の美人がやってきた。
何故姿を変えているかわかるのかといえば地球の魔分の殆どは自家製だからである。
間違いなく真祖の吸血鬼に違いない、術式に悪意ある物の意思を感じてやや不快だが。
魔分隠蔽も完璧なようでここの魔法使い程度ならまだ気がつかないだろう。
手続きも単純なようで習ったらめでたく門下生入りというなんともいえない道場なのだが麻帆良は割と外国人が多いので彼女がやたら浮く事もないだろう。
色んな意味で本当に浮いているのは自分だが。

と油断していたのだが……凄い視線を感じる。
とりあえず気付かないふりをしつつ感情を完全に殺して今日の道場のメニューをこなした。
精神強化万歳。
帰るときは成仏する感じのエフェクトで霧散。
まだ木の精だとばれるのは早いだろう。
気のせいだと思ってもらおう。

真祖さんとの遭遇初日をクリアし、次の日、また次の日と彼女とはやや離れた位置で鍛練した。
驚くべきは彼女の熟達速度である。
日を追う毎にレベルが上がっているのだから。
恐らくダイオラマ魔法球に引きこもっていて練習していたのだと信じたい。
三週間程経った頃彼女に敵う門下生はいなかった。
武田のおっさんは負けなかった。
流石である。

その後半年もしないうちに彼女は合気柔術の達人になり麻帆良を去る事にしたようだ。
吸血鬼だとばれないうちにということだろう。
別れ際の武田さんはこんな才能のある真面目な弟子を得られて良かったといって喜んでいた。
外国に広めてくれと何度も念を押す姿がやる気に溢れていて熱い空間が形成されていたのが印象的だ。
彼女はこちらの存在には最初こそ気にしていたが暫くしたら気にしなくなっていた。

さて、長命種の誼みと打算の布石の回収のため挨拶をしておこう。
追跡していた彼女の魔分反応の動きが止まったのを確認して精霊体で空から降下。
二度目だ。

「…………」

驚かせるのは別に趣味ではないのだが精霊らしい振る舞いは降下に限ると思う。

《ごきげんようお嬢さん。麻帆良の神木・蟠桃の精霊です。今日はお嬢さんが道場を去るということで挨拶に来ました》

これで、しつこい体育会系の幽霊だとは勘違いされないだろう。
実際一心不乱に鍛練に励む子供の幽霊が毎日成仏していたらありえる誤解だ。

「精霊だと?いつもいつも、てっきり暑苦しい武芸の幽霊だと思っていたが何か証拠はあるのか」

手遅れだった。
無視していたことのあてつけだろうか。
その割にはわざわざ高圧的な日本語で腕を組みながら会話してくれるが。
道場で話していた時と口調が違いすぎる。
せめて名乗って欲しい。

《証拠になるかはわかりませんがお嬢さんが見た目以上に長生きしており、今の姿すらも偽っているというのがわかる、というのはいかがでしょうか》

人類二人目の会話で何故か下手に出た返答をしてしまった。
今年で4903歳なのだが。

「ふん、確かにただの幽霊ではなさそうだな。まぁいいだろう、その精霊とやらがこの私に何の用だ」

完全にこういうキャラらしい。
挨拶って言ったのだけれど。
名前もわからない。
道場で名乗っていたのは間違いなく偽名だろうから。
歴史はわかっているのだが、個人名はどういう配慮なのかわからないが不明だから困る。

《長生きの方にお会いしたのはこれが初めてでして、またいつかこの地に来る事があったらと思い挨拶しに参りました。一つ、その長命化の術式に第三者の悪意が感じられるのが気になるのですが、お嬢さんの意思次第ではありますが清浄なものに修正できますがいかがでしょうか》

何故こんなに丁寧に話してしまうのだろうか、先手必勝と言った割に完全に主導権はあちら側だ、もういい仕方ない。
少々恩を売っておくことでこの地をできるだけ気にいってもらい、あわよくば実際に見た世界の話でも聞いてみたいものだ。
思考を共有してもいいが友好関係を築きたい相手にそんなことをするのはやめておきたい。

「ほう、この身体に刻まれた忌々しい真祖化の術式がよくわかったな。どういう訳か知らんができるものならやってみるといい。それで精霊だということを信じてやろう。失敗したらただではおかないがな」

自家製の魔分で行われた歪んだ術式をいじるのだから失敗することはありえないから安心してできる。
しかし、もし普通の人間が今のこのお嬢さんと真面目に会話するのはかなり怖いのではないだろうか。
感情抑圧のお陰で全くストレスを感じ無いから助かる。

《信じて頂けるとあれば、確実に成功させて頂きます。目を閉じてリラックスして下さい》

まだ信用できないのか、少し間を置いてから目を閉じてくれた。
さて始めよう。
術式の構成魔分を精製したばかりの魔分と交換、汚れた魔分は再吸収しておこう、放置する訳にも行かない。
歪んだ部分をできるだけ自然な流れに変更。
初めていじる魔法が真祖化の術式とはなんとも言えないが有機コンピューターこと神木の精霊である限り地球の魔分で行われているならば殆どがフォローできる。
因みに地球に流れ出ている魔法世界の魔分は先程と同じく時間はかかるものの再吸収して精製しなおしているのだ。
時間にして数秒といったところだろう。

《処置完了致しました。気分はいかがでしょうかお嬢さん》

治ったのは間違いないと思うがやりすぎた感も否めない、吸血鬼からずれて違う存在にしてしまった気もする。
歴史改変はまだ行いたくなかったのだが、精霊の存在について再度来日した時に面倒なことになっても困るので遅かれ早かれといったところだと思いたい。思いたい。

「な……なんだ、これは。身体を縛っていた鎖が感じられない。まさか人間に戻れたとでもいうのか」

人間に戻った訳ではないのだけれど、吸血鬼は廃業したな、これは。

《いえ、長い間定着し続けた術式に処置を加えただけですので人間になったということはありませんが、確かに吸血鬼でなくなったのもまた事実だと思います。申し訳ありません、余計な事をしてしまったかもしれません。元には戻せないのですが木を切るのは許してください》 

初めていじった魔法なものだから手加減できず可能な限り改変してしまった。
既に精霊として対話した相手には認識阻害は効果がないのだから木に手を出さないように頼むしかない。
しかもうっかり吸血鬼だと知っていたことを言ってしまった。
この地にはまだ吸血鬼は来たことないのに。
気がつかないでくれると助かる。
有機コンピューターはうっかりという人格に対しては補正をしてくれないようです。

「人間に戻ったわけではないのか…。まあ良い、お前は精霊の癖に随分取り乱す変な奴だな。別に怒ってはいない。吸血鬼でなくなったのは寧ろ喜ばしいことだから気にするな。木を切るなとか言ったが本当にあの無駄に大きい木の精霊なのか。その割に随分小心者のようだな。明日には私はこの国を出て行くが、お前の名は何だ」

暗に不釣合いだと言われた気がする。
最初に会話した時よりも穏やかになってくれたから良しとしよう。
しかし名は何というか、か。
そういえば木の精、木の精と自覚はあったものの前世の名前もわからない訳で名前はあるとしたら勝手に人間が呼び始めた神木・蟠桃しかないな。
いやこれは木の名前であって精霊の名前ではないか。
某物語でもユグドラシルが木で精霊はマーテルだったし。
まあ呼び方は好きにすればいい、他力本願でいいか。

《何分今年で4903年目に到達するのですが、こうして真面目に人類と会話するのはこれで史上二人目でして、最初の一人目はこの学園の創設者の方でした。しかしながら木の精霊だと名乗っただけですので木としての蟠桃という名前は人間が呼んでいますが精霊としての名はありません。私もお嬢さんの名前はまだお聞きしていないのですが》

もういいなるように成ればいい。
悪いことにはならんだろう。
精霊は正直者ということにしておこう。
木の精霊だから名前はキノとかでも構わないが。
安易すぎるか。

「お前そんなに生きていたのか。それなのに名前がないとはとんだ奴だな、人間の飼い犬ですら名前があるというのに。私の名前はエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルだ」

ミドルネームを含めても随分凄い名前だった。
しかも飼い犬未満の認識になっているし。
もう少し年上を敬えと言いたい。
怒りの感情に関してはろくなことにならない可能性が多いと思い完全に抑圧しているのでやるせない気分だが。

《エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルさんですね、よろしくお願いします。私も名前を今考えたのですが、木の精霊なのでキノとでも呼んでください》

エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルという彼女の名前を聞いてチャチャなんとかという名前がよぎったので彼女に命名されるのはまずい気がしたのだ。

「キノか、いくらなんでも安易過ぎはしないか。あんな大層な木の割に控えめな名前だな、小心者のお前にあっているとは思うが。また気が向いたらこの国にも来るとするよ。その時はまた会おう、キノ」

なんかいい話になったのかこれは。
真祖の吸血鬼との邂逅編、完とでもいったところか。
何故か強制的に会話終わったのだが、おや、勝手に精霊体が薄くなっている。
真祖の術式は意外と負担がかかったらしい。
別れの挨拶ぐらいしっかりしておこう。

《またこの地にいらしたら歓迎しますよ。エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルさん。それではまた会う日までごきげんよう》

この後キノという名前を得た精霊が数ヶ月活動しなかったのだが世界樹の成長期だっただけだった。
また、エヴァンジェリン・A・K・マグダウェルは二つ名である闇の福音と呼ばれていたのだが術式をキノがいじって以降使える属性の魔法が闇から光になったそうで、少々悩むことになるのだがこれはまた別の話。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あれから時間が経ち1916年に発光しておいた。
精霊体の活動可能範囲も広くなりとうとう中国の一部に被ることができたが地味に木が心配で離れられない。
麻帆良学園も創設26年を数えるが魔法使いを始めとしてこの土地に興味を持つものが増えてきており、魔力溜りの研究やら地下になにやら施設を作ったりと気になるからだ。
幸い木を傷つけるなかれという認識阻害もとい認識改竄とも呼んだほうが正しいもののお陰で大事には至っていない。
やはり一番怖いのは人間の性かもしれない。
しかしいつか人工衛星を飛ばされたりしてこの木が写ったらどうなるのだろうかとかなり心配である。
写真には認識阻害なんてできるわけがない。
そういう訳で認識阻害の効かないウィリアムさんに麻帆良の街並みを褒めつつ色々言っておいた。
しかし彼もかなり良い中年になっていた。
因みにこの時期世界では第一次世界大戦が勃発していたというのは歴史の知識の一つである。


そして元号が大正から昭和に代わり1938年にまた発光である。

さて、割と暇だが苗木の方の成長は順調である、恐らくこのまま荒野に植えても逞しく生えてテラフォーミングするだろう。
未来は安泰である。と思いたい。

時に、エヴァンジェリンお嬢さんの噂が魔法使い支部から観測できた。
そう、魔分溜りに支部を作った気持ちはわかるが、そこは私のテリトリーなので筒抜けなのです。
どうやら彼女は真祖の吸血鬼ということで、もう違うけど、魔法使いからは賞金首の扱いを受けているのだが、最近では魔法使いが「この吸血鬼が!」と言うと「私は吸血鬼ではない、闇の福音でもなく光の福音だ!」と訳の分からない事を言いだすようになった、そうだ。
要するに彼女が最初こちらを全く信用していなかったのはご苦労にも追いかけてくる魔法使いのせいで疑心暗鬼になったからなのだと思う。
精神的刷り込みとは怖いものだ。
完全にお嬢さんは被害者でしかない。
恐らく丁度50年したらまたこの地にやってくると思うのだが、その時は暖かく歓迎しようと思う。

1940年に高等女学校で連続殺人事件という麻帆良にしては珍しく随分過激な事件が起きたのだが、その中の被害者がどうやら地縛霊になったらしいのがわかった。
正直暇だし精神体の誼で相手をしようかと思ったのだが、最初こそ情緒不安定だったのだがいつの間にか鉛筆バトントワリング、所謂ペン回しを一心不乱にポルターガイスト現象の応用で練習したり、図書室や近くの書店の本を読んだりしていた。
それはそれで意外と精神体は、楽しそうだったのでしばらく放っておくことにした。
どうも死ぬ前の記憶があまり残っていないらしい。
共感できる。
助けようと思えば造るだけ造ったヒューマノイドインターフェイスをカスタマイズして入って貰えばそれで解決するのだが、これをやると世界樹の異常性を暴露するのと同じであり、まだ時期的に考えても先送りした方が良いだろう。
本当に無駄に数だけは揃えたが軽く安置所みたいである。
何故使わないのかというと、一度入るとどうあっても誰かの目につくため処理に困るからである。
エヴァンジェリンお嬢さん作だとかお墨付きをもらえればいいが後48年はかかるだろう。

世界情勢も大分きな臭くなってきており、第二次世界大戦も近い。
麻帆良の地に対する外国人への感覚が悪い方へ向かっているかもと思いつつも魔法使い達が独自に魔力溜りを利用して展開した認識阻害のお陰で陸の孤島状態でありかなり平和だった。
この時ばかりは彼らの功績を認めざるを得ない。
ウィリアムさんも年になり学園長を退くことになったので、労いの言葉を伝えておいた。
会話回数が一番多いのが彼、いや会話した相手は未だ2人だけだが、もうすぐウィリアムさんも亡くなるであろうから知り合いがお嬢さんだけとなるのである。
木の精霊の交友関係の狭さは折り紙つきだろう。

さて、日本が降伏し、元の知識にもある科学が急速に発展する時代の幕開けである。
やはり魔分なんてなくても人類は困らないのではないか。
4945年も魔分を地球中に散布しといて利用されないというのもそれはそれで悲しいものがあるが。

せっかく少なくとも日本は安定したかと思えば今度は麻帆良の地を狙った侵入者達が夜な夜な入ってくるようになった。
注目すべきは近衛近衛門という麻帆良側の迎撃する若者が異様に強いということだ。
近衛近衛門という名前が個人的に、語呂が面白く気に入ったので自分もキノエ・キノエモンと名乗ったらどうかと思案したが語呂が悪いので却下である。
彼には四次元なポケットがあったらプレゼントしたいとなんとなく思う。
しばらくする内に麻帆良でのこの手の出来事は内々に処理するように裏で決まりごとができたらしく、それに併せて麻帆良の技術力を結集し電力と魔分溜りを利用した敵性反応を探知する侵入者用のセンサー的結界が整備されることとなった。
既に広がりに広がった麻帆良は随分大きな都市になったのだがこれをカバーする結界に魔分溜りを利用するとはいえ作成するとは、人間は逞しいものだった。

久しぶりに世界の歴史を再確認したところ近衛近衛門はあの強さから言って麻帆良最強の魔法使いでこの後学園長になる人その人のようだった。
どうも気になったのはこれが原因だったのかもしれない。
思い立ったが吉日、近衛門に挨拶しておいた。
先日ウィリアムさんも亡くなったので本当に話す相手がいなくなったのである、彼は自分の夢見た学園がまさかここまで大層なものになるとは思わなかったようでかなり満足して旅立たれた。
知識で知っていた私自身もかなりそこには同意である。
そういう訳で、近衛門に話しかけたのだが夜の侵入者撃退後に部屋で休もうというところに会いに行ったのが悪かったのか、いきなりサギタ・マギカという矢という割には細めのビームにしか見えないものを数本放たれた。

当然、自家製の魔分が元なので効くわけもなく全て分解しておいた。
こういう時の対処は有機コンピューターに感謝せざるを得ない。
彼の部屋にも一切損害を出すことなく処理することができた。
仮にも故ウィリアム氏の夢の都市の建物の一部であるため外部の見た目の美しさと同時に内部もかなりデザインが良いのだ。
形あるものはというが、壊れないにこしたことはない。

《驚かせて申し訳ありません、落ち着いてもらえないでしょうか。私は神木・蟠桃の精霊で名前は最近決定したのですがキノと申します。今宵は近衛門殿の無双の侵入者撃退に感謝と挨拶に参りました。恐らく神木に精霊がいるなどとは聞いたこともないかもしれませんが、亡くなった先代のウィリアム学園長にしか姿を見せたことはなかったからなのですが信用して頂けるでしょうか》

若いからなのか随分血気盛んである。
日本男児恐るべし。
近衛門は第二次世界大戦に行ったのだろうか。
明らかに魔法使いで質量兵器の戦争に参加しつつ魔法を一切使わずに戦う姿を考えると命を賭けた縛りプレイとしか言いようがない。
と、近衛門は意外と素直なのかサギタ・マギカが消滅したことに怪訝そうにしながらも戦闘態勢を解いてくれた。

「こちらもいきない攻撃を仕掛けて申し訳なかった。蟠桃の精霊の噂は少しではあるが、小耳に挟んだことがあるため信用させてもらおう。俺の名をご存知とは光栄です」

良い人だった。
確実にこれは交友関係が狭い自分から言っても間違いないと思う。
思わず名前を呼んでしまったのだがむしろ褒め言葉になったようで良かった。

《どういう噂か興味がありますが信用して頂けたよう安心しました。以前はそんなにあからさまな侵入はなかったのですがね。確かに私が宿る木があるこの地を狙うのもわかるのですが、これだけ既に一般人も住むこの学園都市を襲ってどうするのか計画があるのか気になるところです。単純に麻帆良の力を削ぐためにやっているだけかもしれません。私の立場上あまり人間の闘争に介入するわけにもいきませんので陰ながら見守らせて頂きます。近衛門殿は今後もこの地にいるのですか。この国も安定してきて50年ほど前に魔法世界との繋がりとなる世界に点在する11箇所でゲートが公的に作動するようになったようですが、あちらに行かれる予定等はあるのですか》

多分精霊史上割と長めなセリフだったと思う。
しかも殆ど世間話だ。
実際この50年で地球側に対する魔分流出速度がゲートの増加で加速しているのは間違いない。

「噂の話というのは、現在の学園長は魔法関係者なのだが先代のウィリアム学園長が翆色の精霊は小さくて丁寧だと酒の席で述べていたことがあるそうだ。侵入者に関しては我々も最近では慣れてきたが、全く迷惑な話です。俺には精霊の立場はよく分かりませんが、この地にいる限りはこの地の守護は任せてください。短期間魔法世界に行くことはあるでしょうが基本的には地球の魔法関係の施設のある場所に上司と向かうのが多くなるでしょう」

なんか、近衛門の口調が安定しないのだけれど多分見た目子供なものだから接し方に混乱しているのかもしれない。
精霊体は大きくできるが、もう姿に執着する必要も無い上、単純にあまりに馴染みすぎたというのがある。
生粋の日本人の名前で魔法使いってなんか違和感あるが頑張れ。
その後少々世間話を続けつつ、重ねて守護の件に感謝を述べて、精霊の存在についてはミステリアスなほうが精霊らしいととりあえず適当なことを言いつつ納得させて口外しないで欲しいと頼んでおいた。

一つ魔法使いからの見地から魔法使用についての興味深い話を聞くことができた。
今まで気にしていなかったのだが、彼等にとって体内の魔分使用には同時に精神力を削るためやり過ぎると大変らしい。
精神力は思いの強さのようなものであり強化は可能だそうだ。
所謂筋力トレーニングと同じようなものなのだろうか。
彼等は魔力魔力といつもいっているが、どうやら大気に満ちる自然エネルギーを魔力といった形に変換して個人の器の中に保持しているとのことなのだが、この話を聞いたとき自家製の魔分はやはりイコールで魔力と結び付かず、その前段階の超自然的不思議粒子か何か程度にしか認識されていないのが明らかになり、昔からやっている上空への魔分の高速散布がいよいよバレない訳だと理解できた。
何故今更知ったかというといちいち魔法使い養成の基礎講義など聞かなくても地球上である限りほぼ不可能はないと感じていたからである。
また、真面目に会話する相手が史上三人目にして魔法使いは二人目で一人目にはうやむやな内にしっかり会話することもなかったのも原因である。

いずれにせよ久しぶりに充実した一日だった気がする、夜だけだが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

たまに近衛門に会いに行ったり、例の地縛霊のお嬢さんがここ最近で書店に並ぶようになった日本の所謂漫画を気に入って読んだり、相変わらずペン回ししたりと自分と生活パターンは違っても本質は変わらないなと思った。
ただ記憶があいまいなせいでいつまでも成仏せず時折悲しそうにしているのが辛いものだ。
近衛門に自分と同じような半透明な存在が地縛霊だけど女子中学にいるという話をしたのだが、どうやら当時近衛門も同時期に学校に通っていたため、連続殺人事件の事も聞いたことがあるらしい。
近衛門は、精霊体は見えるものの、地縛霊が見えるかどうかはわからないと言っていたが、後日侵入者撃退の際にその学校に寄ったことがあったそうだがいなかっただけなのか見えなかったと言っていた。

再び時が流れ近衛門は時折海外に出張したりしながらも基本的に麻帆良が拠点として活動するうちに結婚した。めでたい。

1960年に遅れたけどということで盛大に発光してやった。
今回はしっかり科学的映像媒体で記録したそうな。
画質は期待できないが良い映像資料になるだろう。
近衛門も中年入りしていて落ち着き始め、結婚した影響なのか段々性格も堅物から柔らかくなった気がする。
相変わらず防衛能力は恐ろしく高かったが、むしろ守るべき家族ができたからか更に強くなった気がしないでもない。
守るのは攻めるより難しいとなんとなく知識にあるのだが近衛門に関しては、ただし近衛門は除く、等と何かに記載されていそうだ。
程なくして娘も誕生した。めでたい。
しかしながら発光は大分先でできないので言葉で祝っておいた。
精霊に祝って貰えるなら必ず健やかに成長するだろうとしみじみとしていた。

更に時間が経過するうちに学園長が健康上の都合で、多分麻帆良防衛の黎明期で頑張った為精神的に疲れていたのだろう、退職して故郷へ帰って行った。

新たな学園長に任命されたのはそう、近衛門であった。
初代学園長は創設者であったため若い頃からずっとやっていたという例外だが、先代が学園長就任した年齢と比べると大分早い。頑張れ。
ただ前から思っていたが何故学園長室がもともと高等学校だったが女子中学に設置されているのかは謎だった。
多分ウィリアムさんの建築計画唯一のミスだと思う。
いや、あえてそうすることで麻帆良が完結することは無いとでも暗に言いたかったのだろうか、聞くのを忘れていた。
話は逸れたが近衛門の防衛能力の高さはもちろんとして、実は名家の出身ということもあって色々とあっという間だった。
いきなり偉くなって戸惑ってもいたが、なんとなく権利を使える立場にあるのだから麻帆良をもっと人材的に発展させたらどうかと言っておいた。
ここ最近の唯一の交遊関係がある近衛門が最高責任者になって間接的にという訳でもないが人脈を広げてもらった。
実際元々広かったものだからネズミ算的に拡大していった。
中でも雪広グループは発展が著しいものの一つで裏の処理で割と金がかかるのを上回る表の凄まじさを見せた。
麻帆良でも人気の就職先に入ったらしい。

麻帆良は以前から年二回学園祭と武道会で前者は芸術と科学、後者は体育会系がメインで盛り上がりを見せているのだが1978年の奴の武道会での突然の出現は衝撃だった。

彼の名はナギ・スプリングフィールド(10)である。
近衛門のイギリスの友人がいる、魔法学院から飛び出して来たらしいとんだやんちゃ坊主であった。
故に近衛門は前に一度会った事があるらしいのだが、近衛門も突然謎の少年が現れたという情報を得たときは驚いていた。
彼の魔分容量は懐かしいあのお嬢さんを超えていた。
人間なのだろうか。

ナギ少年であるが、トトカルチョがこういったイベントに必ず付き物なのが、麻帆良が麻帆良たる所以なのだが、大人の部に参加するものだから混乱が巻きおこったのだ。
当然麻帆良の人は流石に大人が勝つだろうと思うが、期待を裏切り、近衛門の戦闘能力も人外じみていたが、10才であれはない。
魔分で身体能力を向上させているのはわかるが麻帆良の大人達を圧倒していった。
麻帆良の地で長年修練を積むと一部人外な感じの人々が量産されるのだが、そういった人達がいるにも関わらず、優勝までいってしまった。
一つ述べておくと、18世紀から19世紀にかけて中国拳法では八極拳、八卦掌、形意拳が順に成立しており気の存在に関しては知っている人は知っているというものになっていて、大人達も十分強い人々がいるのにも関わらずこの結果である。
この年の武道会のトトカルチョはどちらが勝つかというものから始まってすぐにナギがいる所はどこまで謎の少年が勝ち上がるかというものに変化していた。
ナギの犠牲になった大人達の存在感が空気だった。

その後本人は麻帆良を気に入ったらしいが、嵐のように去って行ったのだった。
正直彼に精霊の存在がばれると碌なことにならなそうなのは何故だろうか。

ナギによって掻き回された武道会であったが、映像機材が本格的に登場するようになり、裏の関係者達のどこかの実写版格闘ゲームのような熱い戦いは、技の自粛により大会の規模がこの年を最後にして縮小の一途を辿ることになった。
それ以前の大会はしっかり世界樹の年輪に記録されているので自分はいつでも閲覧できるのであるが。
世界樹が発光するのは前回撮られているし、今更やめる訳にもいかないので放置である。
その辺りの処理はできる麻帆良の人々が処理してくれる。
昔気にした人工衛星の問題もどういう訳か起こっていない、非常に助かる。

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ナギが麻帆良から去って行ったのを期にして、いよいよ今度は魔法世界が戦乱の世に突入して行った。

あちら側に行くとしたらヒューマノイドインターフェイスに入るしかないのだが、正直ナギ少年を見たらもうなんとかなるだろうと思った。
知識でわかっていたが改めて納得である。
彼と同じぐらい人外なラカンという人物が後に加わるならば色々ゴリ押しできるだろう。

ただ悲しいかな地球側の魔法使い達が魔法世界の戦いに参戦し、少なくない数の人々が亡くなった。
こちらの魔法使いは地球の大戦が終わったのを見ているからこそ黙っていられなかったのだろう。
近衛門もこの事については嘆いていた。

後にこの影響が麻帆良防衛の人員不足に繋がり、生徒まで狩り出す事になるのは皮肉な話である。

1982年の発光はそういった意味でも控えめな鎮魂をイメージした雰囲気にした。

1983年魔法世界側の強力な魔分減衰が地球側でさえ感知できた。
途中で止まったようだがナギ達がうまくやったのだろう。
紀元前617年の始まり魔法使いの奴らはどうしているのだろうか。
恐らくかなり根本的に精神が擦り減っているはずだから過激な判断に至って全部消すという手段に出たのかもしれない。
それとも単純に人口を減らしたいだけだったのだろうか。

とにかく終戦を迎えて良かった。
近衛門も疲れていたらしいので時間をかけて体内魔分の総交換を行っておいた。
今までの防衛の感謝の意味も含めて今更実のある事ができた気がする。

1985年忘れていたリョウメンスクナが力を付けて目覚めたのだ。
だが運の悪いことに青山詠春の要請により人外なナギとその仲間達によって1500年前のほうが余程善戦していたと自信を持って保証しよう。
やられ役が定着しているとしか思えない。
この話を近衛門にしたら何を思ったかナギはともかく「詠春殿を婿に取る」と言っていた。
確かに娘さんの近衛木乃葉さんは間違いなく美人で見せてもらった詠春さんの人物像から理想の女性だろうと思う。
間違いなく上手くいく。
これで西の呪術協会が麻帆良にちょっかい出すのを減らせれば御の字だ。

ところで実は最近近衛門の後頭部に異変が起きそうだったのだがこの前の魔分交換作業の結果なのか、以後、後頭部の変は無かった。
わかりやすい見た目になる機会を潰した気もするが、これぐらいの改変は誤差の範囲内だろう。

その後詠春さんはノリノリだった木乃葉さんによって計画通りという形に落ち着いた。

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1988年になり懐かしい事にちゃんと85年振りにエヴァンジェリンお嬢さんが麻帆良にやってきた。
でたらめな呪い付きで。
犯人はあいつなのは間違いない。

我が史上二人目の対話者に何ということをしたのか。
賞金首からお嬢さんを消去したのはよくやったと評価しよう。
精霊にはその辺はどうしようもないし。
まだそうなってはいないが。

ただ一つナギとは関係ない変化があったようで、原因は85年前の術式改変のようで幻術、魔法薬無しでやや成長していた。
不老じゃなかったのか。

因みに木から観測しているだけなので直接お嬢さんと会っているのは近衛門とナギだ。
正確にはナギがいるから木に引きこもっているのだが。
ナギに関わるのはまずいと相変わらず警鐘が鳴っているからだ。

「久しぶりだな、じじい。10年経ったがあまり変わってないな」

「久しいのナギよ、魔法世界の方ではよくやった。本当のじいさんになるのはまだだがの。孫の顔を見るのが待ち遠しいわ。して、こちらの美しいお嬢さんの説明をしてくれんかの」

「ああ、こいつはエヴァンジェリン・A・K・マグダウェル、闇の福音だ。自称光の福音と言っているがそれはどうでもいいな。学校に通った事がないからじいさんの学園のどっかに入れてやってくれ、警備員足りてないみたいだし丁度良いと思うぞ」

恐ろしく強引な奴だった。
自分から中退した奴に言われても説得力がないだろう。

「ちょっと待てナギ、この訳の分からない呪いをどうしてくれるつもりださっさと解け。大体何を勝手に話を進めている。光に生きてみろ等というのが学校に通うことに何故なる」

「まあ心配すんなって、お前が卒業する頃にはまた帰ってきてやるからさ。それまで試しに学校通ってみろよ、友達できるかもしれないぜ。ああ、それとエヴァンジェリンお前は俺が倒したことにしとくから賞金首のリストから消しとく。それじゃ俺は行くからまたな」

会話が咬み合わない残念な空間だった。
近衛門とお嬢さんが展開の速さに置いて行かれた。
さて、なんと精霊史上二人きりの対話者が外部の人間がいない状態で揃っているという瞬間なのだから混ざらないわけにはいかない。

「して、エヴァンジェリン君よ、ナギの奴は前にここに来た時もあんな感じだったのじゃが、どうするかの。呪いを解くことはワシにはできんし。学校の件は直ぐに手配できるがどうするかの」

微妙な空間だがこの状況ならばいつ混ざっても同じだ。
降下作戦を実行に移す。

《エヴァンジェリンお嬢さんお久しぶりです、麻帆良へようこそお帰りなさい。歓迎します。近衛門殿、実は85年前にお嬢さんは麻帆良に来たことがあるのです》

「おお、キノ殿このお嬢さんをご存知でしたかの。以前ワシが三人目と言っていたということは二人目がエヴァンジェリン君だったのじゃな」

「久しぶりだなキノ、不本意な形でこの地に来ることになってしまったが話相手もいるししばらくはこの地にいることにしよう。少なくとも賞金が取り消されるのを確認するまではいるさ。あの時はお前が自然消滅したから成仏したかと思っていたが相変わらず性格は変わっていないようだな」

《そう言って頂けるとありがたいです。私もここ数十年は近衛門殿としか話す相手がいませんでしたので嬉しいです。ところでエヴァンジェリンお嬢さん、以前よりも成長しているように見えるのですが新しい魔法ですか。》

「そうなのだキノ、よく気づいたな。お前の術式改変のお陰で肉体年齢の固定化にある程度介入できるようになってな、なんとか3~4年分の成長ができたのだ。あの時は言えなかったが感謝しているぞ」

どうやら予想通り魔法は全く関係なく物理的に頑張ったらしい。
見た感じ不老でなくなった訳ではないようだが。
というかなんだかんだ幽霊ネタ引っ張られているし。

《ところで近衛門殿からも以前聞いたのですが光の福音とは一体どういうことなのでしょうか。実はあの時魔法関係の術をいじったのは私の精霊史上初だった上確かに自然消滅してしまいよく確認できなかったのですが》

「それもお前の術式改変の副作用で私が使える属性が闇から光になったからだ。しかも闇の眷属だった筈が違う存在になったためか闇の魔法が使いにくくなったと来ている。メリットもあったがデメリットもあったな。まあ私の使う魔法は基本的に大体氷だから気にしなくていい」

《85年前余計なことをしれないと思いましたが、気のせいではなかったのですね。私としては以前の術式は精霊として妙な不快感があったので今のお嬢さんがスッキリしていて好ましいものです。ナギ少年にかけられた出鱈目な呪いは気になりますが。ところで近衛門殿、エヴァンジェリンお嬢さんの魔力は強大ですし、魔法先生達からしてみれば残念ながら脅威の的のようなものになりかねませんからなんらかの対策を取るべきだと思うのですがいかかでしょう。因みにその呪いは時間が経てば私が解くことができますのでもしもの時も安心してください》

正直者の精霊を自称していたが真面目に嘘を付いたのは初めてだ。
実際あの呪いも直ぐに解くことができる。
魔分に分解するだけで終わるから。
この後事務的な近衛門との会話を通し、お嬢さんの魔力を麻帆良の防衛結界に利用し、直接戦闘に出るのではなく侵入者の探知を主に行うことになった。
私の存在によって微妙に歴史とずれているが許容範囲内だと思う。
少なくともお嬢さんの麻帆良に対する感情は悪い方に行っていないのだし。
お嬢さんは3年経ったらナギが来て呪いを解いてくれると信じているので、今すぐに解けなくて構わないと言っていた。

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エヴァンジェリンお嬢さんは麻帆良学園都市の桜ヶ丘4丁目の一戸建てログハウスに住むことになった。
しばらくして内装はファンシーな感じになっていてそういうところは意外と楽しんで生活しているようだった。
それぐらいのもてなしはしないとナギの被害者としても妥当なところだと思いたい。
また、チャチャゼロという緑色の髪の毛の身長70センチぐらいの戦闘人形にお目にかかったのだが、「半透明ジャ切リガイガネェナ」などと訳の分からないことを言われた、ご遠慮願いたい。
歴史と異なり彼女が動けるだけの魔力は確保されているのである。
ヒューマノイドインターフェイスに入るのはやめておこう。
お嬢さんに私の入る人形を作ってもらおうかと思っていた計画もあっと言う間にご破算である。
間違いなく切られる。
4人目の対話者がとんだ戦闘狂だったのはなんともいえない。
この年ナギ少年属する赤き翼のメンバーの高畑・T・タカミチ少年が麻帆良学園に通っていたのは余談である。

そしてやってきた平成時代の幕開けである。
この年近衛門に孫娘が誕生し真・お祖父さんに晴れてなったのである。めでたい。
ただ一度孫娘を遠くから観測したのだが歴史通り魔分容量が異常に大きく将来遅かれ早かれ魔法関係に足を踏み込むのは避けられない事態だろうと思う。

エヴァンジェリンお嬢さんも初年度は中学三年の途中からだったので呪いが発動してやり直しになったが許容範囲内だったらしく、改めての中等部の3年間の生活はそれなりに楽しそうに生活していた。
そして見事3年が経過したのだがナギ少年は現れることはなかった。
お嬢さんはナギの安否を心配していたが私としては仮にも二人目の対話者がこのまま心に傷を残してまたやり直しというのはいくらなんでもないと思いこっそり呪いをいじって仲良くなった友人がお嬢さんを忘れないように改変し高等部にも上がってもらうことにした。
これも身長が伸びていなかったら物理的に難しかったかもしれない、あの時の選択は間違っていなかったと言いたい。

そして1993年にナギ少年が京都の赤き翼の拠点で麻帆良学園の研究をして、その後イスタンブールで行方不明になったという噂が入ってきた。
まもなく公式記録でナギ少年は死亡扱いになった。
お嬢さんにはナギ少年が京都にいた事は秘密である。
死亡の知らせについては、近衛門と共に「あれが死んでいるわけがない絶対嵐のように沸いて出ると思う」と言っておいた。
同時に初代学園長の時代から建設された麻帆良湖にある図書館島という島があるがそこに、住み着いたものがいるのを確認した。
アルビレオ・イマことクウネル・サンダースである。
彼は年齢不詳らしいので接触することにした。

図書館島に入るのは建物ができて見に行ったきりもう100年振りぐらいだったが地下施設の広がりが異様だった。
よくこんな無茶な増改築ができたものだと感心する。
アルビレオ・イマは最奥にいるのはわかっていたが、実際に彼の住んでいる場所は随分センスの良い所だった。

《ごきげんよう。私は麻帆良の神木・蟠桃の精霊をやっています。私自身は木の精霊なのでキノとでも呼んでください。あなたは恐らく赤き翼のアルビレオ・イマ殿だとお見受けするのですが、この度は挨拶に参りました》

史上5人目だがあの緑色の見た目が被る人形には丁寧に自己紹介はしなかったからほぼ4人目である。

「風の噂で神木には精霊がいるとは聞いたことがありましたが、本物に会えるとは光栄ですね。私をご存知とは意外ですが、こちらこそ宜しくお願いしますよ」

《自己紹介でここまで落ち着いて反応を返してくれた方はアルビレオ殿が初めてです、私の精霊史上5人目ですが。接触した理由ですがどうも長命な気がしましたので長い付き合いができるかもしれないと思いまして。つかぬことをお伺いしますがイノチノシヘンというアーティファクトは人間でなくても記録できるのですか。何年分保存できるのかも気になるのですが》

彼のアーティファクトの事はもともと知っていたが少なくとも精霊体としての記憶のみなら最初の4千年近くは延々と続く麻帆良の古代の自然の四季とでもいうような気の遠くなるものであり、木の最重要機密の種子や華、自分の発言等危ない記憶に関しては精霊体から切り離して年輪に記録させておけるので読まれてもなんということもないのである。
地味に面白そうだから読み取って欲しいというのが本音である。
性格が歪んできた気がしないでもない。

「随分積極的ですが精霊の記憶を読めるとはまたとない機会ですから試しにやってみましょうか」

本人もどれくらいアーティファクトの効力があるか知らないらしい。
こういうのはやはり実験が肝心だろう。

《よろしくお願いします。大分長いかもしれませんがやってみてください》

アルビレオ・イマはそう返答する早速収集してくれた。
本が無駄に増えた。凄く。

「驚きましたね、まさか五冊になるとは思いませんでした。何人かいるのですか」

五冊ということは記録可能な年数が一冊千年ということなのか。
エヴァンジェリンお嬢さんもまだ600歳だからこれは初めてなのかもしれない。

《恐らく一冊千年分だと思います。四冊目の400年目は初めてやってきたリョウメンスクナが記録されている筈です。五冊目は890年目あたりから麻帆良の記録が見られると思いますから楽しめるのではないですか。それ以外は美しい大自然の繰り返しですから真面目に見ると精神が壊れるかもしれませんから早送りでもあるなら別ですが気をつけてください》

正直見られて困るほど複雑な交友関係もないし。
ただ彼からの評価が、木がでかい割に引きこもりの小さな精霊というイメージになるだけだろう。

「まさか五千年近い樹齢とはよく今まで無事でしたね」

ごもっともです。木の皮を被った何かでなければなかなか難しいと思う。

《その点に関しては自然発生した時からのことですから木の潜在能力の高さに驚いてください。どういうつもりかはわかりませんがこの空間に時間停止空間を擬似的に創りだして篭るのであれば暇つぶしにどうぞ。今度また来たときに感想でも聞かせて頂けると良いですね。それでは失礼します》

「随分変わった精霊なのですね、私も当分暇ですから遊びに来てくださって結構ですよ。できれば私がここにいることは言わないでもらえると助かります」

《いえ、今まであなたを含めて五人しか話したことはありませんからまず話す相手もいないですから安心して下さい。寧ろ私の存在も他人に口外しないでもらえると助かります》

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その後1995年になる間にアルビレオ・イマに会いに行ったのだがクウネル・サンダースと呼ぶように言われ、随分気に入っているようだった。
確かに語呂がいいのは認めよう。
でも近衛近衛門よりはまとまりはないと思う。
記録の感想を貰ったが「やはり真面目に見たら自然編は気が遠くなりそうだ」と言っていた。
ただ、やはり歴史的価値は凄いものだそうだ。
価値が凄くても精霊に金銭なんてあっても意味が無いからどうでもいいのだけれど。
エヴァンジェリンお嬢さんのミドルネームのA・Kがアタナシア・キティだと情報を得た。
古い友だと言っていたから多分長命なのか時間をダイオラマ魔法球の応用で加速空間と逆に超遅延空間を実現して擬似的な未来への時間旅行でもしたのだろうか。
聞いてみたが教えてくれなかった。
意外と意地悪なのかもしれない。
無理やり覗くのもあれだったので気にするのをやめた。
その辺りの感情のコントロールは余裕である。

お嬢さんの方はもうそのまま大学まで上がってもらうことにした。
身長的な問題は体質だということでゴリ押しである。
学部の方はお嬢さんが機械に弱いため文系の芸術系に進んでいった、過去に習得した合気鉄扇術も生かし舞を始めとする日本の文化がかなり気に入ったようだ。
中学生をリピートしないとここまで生き生きするとは思わなかった。
チャチャゼロは現実に戦い足りないのかテレビゲームをしたりと割と引きこもり生活を送っている。
人形だから我慢しろ。

赤き翼のメンバー、最近ではNGO団体悠久の風で活動している高畑・T・タカミチ君が神楽坂明日菜という少女を連れて来て、しばし面倒を見つつ初等部に入学させた。
世界の歴史を参照してみても実態は黄昏の姫御子である彼女の年齢は随分おかしな点があるが現クウネルのような存在がいるから別に大して気にすることでもない。
本当に驚いたのはどちらかというと無意識に魔分のアポトーシスを微弱ながら起こしていた事だ。
本人にも魔分許容用の器があるにも関わらず、である。
ある意味木の趣旨と正反対の能力だ。
そもそも1983年の強力な魔力減衰反応は彼女を利用しておこしたものだというのだから当然かも知れない。
もしかしたら世界の元祖・修正力なのではないだろうか。

タカミチ君は近衛門を通してエヴァンジェリンお嬢さんからダイオラマ魔法級の使用許可を得て修行を始めたが、確実に老けるからやめておいたほうがいいと思う。
人外ならともかく。
因みにタカミチ君とは接触していない。
定期的に近衛門の体内魔分管理はこちらが行っているのでボケたりすることもなく徐々に老化は進んでいるが基本的に健康そのものである。

その後も順調に時が経ち、1999年お嬢さんは大学院に進学した。
学費は学園が全額負担なので悠々自適な生活である。
やっぱりタカミチ君は急速に年齢を重ねている。
君付けで呼んでいる場合ではないかもしれない。
近衛門に言ったらあまりやりすぎるなと言っているがかなり頑固な部分があるのかやめる気配が無いそうだ。
本人が納得しているなら精霊は口を出す訳にもいかないので傍観に徹するのみである。
ここ数年の楽しみは形骸化した武道会の代わりに、平成に入って営利活動が可能になった麻帆良学園祭の異様な盛り上がりである。
いつの間にか巨大な電光掲示板付きの飛行船が飛んだりと科学技術の進歩は凄い。

そういえば長谷川千雨という小学生が認識阻害の効かない故ウィリアム氏と同じ体質だった。
因みに血縁関係はなかった。
認識阻害が効かないと強烈なやつをやることになるが、それをやると人権的に問題があるし、麻帆良の異常性を感じられるという存在もまた異常ということで頑張ってもらうしかない。

ある時龍宮神社のお嬢さんに浮遊中に隠蔽していたが特殊な目なのか見られたようで、気がつかないふりをして成仏してやった。
因みに彼女は少女ながらNGO団体四音階の組み鈴に所属し、度々世界中の紛争地域で活動しているそうだ。
幼少からNGOに所属とはこの神社は何を祭っているのだろうか。

2000年も終りに近づく頃から近衛門の孫娘の麻帆良学園の女子中等部への進学が決まり準備が始まったが、どうやら神楽坂明日菜と同居することになるらしい。
近衛門に孫娘の魔力の器を一般的な水準にすることもできると言っておいたが、その話は保留ということになった。
この話をした時点である意味個人の魔力の器を好き勝手弄ることができると公言したようなものなのだが、近衛門が言いふらすことはないだろう。
割と最近はいたずらする事に目覚めているが、少なくとも近衛門が木に対して不利になるような行動を取ったことは一度もないのだ。
知らない人から見れば何故か女子中等部に存在する学園長室にいる、等と不名誉な噂もあるようだが、近衛門自身今更年齢的にも気にしていないし、初代学園長が残した唯一の初期建築失敗の証拠なのだから壊すのは忍びない。

数年前にエヴァンジェリンお嬢さんに女子中等部でお前と同じような幽霊を見たと言われた。
いや、私は幽霊ではないと何度いったらわかってもらえるのか、世界の歴史の知識から彼女たちが、人外魔境の巣窟のようなクラスに一同に集まることになるのはほぼ間違いない。
恐らく相坂さよが実体を持って中等部に同時に入学しても別に問題はないのではないだろうか。
気がつけば彼女はもう60年も幽霊家業をやっている訳で、例の芸はこれ以上極める必要もないぐらい達人の地縛霊になっていた。
しかも精神年齢は永遠の15歳というリアクションをしており以前気にかけていた時よりも更に悲しげな表情を見せるようになっていたのでいつか果たそうと思っていた同じ霊体の誼を実行に移すに至ったのである。

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某日、麻帆良学園女子中等部放課後を過ぎ、生徒たちが皆寮に戻り始めて彼女が一人になったとき接触を試みた。

《今晩は、私は麻帆良の神木・蟠桃の精霊をやっています。木の精霊なのでキノとでも呼んでください。相坂さよお嬢さんですね、お話があるのですが聞いてもらえるでしょうか》

正直今まで散々放置していたから罪悪感が凄いが、久しぶりに感情抑制を使って落ち着いて対応する。
この名乗り方も定着してきたが未だ6人目である上に、相手は正真正銘の幽霊である。

《こ、こ、こんばんは、まさか私に気づける人がいるとは思いませんでした。地縛霊になってから今まで見えていそうな人もいたけど誰も話し相手にはなってくれなかったので嬉しいです》

霊体同士の会話はなんか微妙だ。
いや、申し訳ないが人外の生命体なので。
とにかく話せる相手がいて単純に嬉しいらしい。
霊体の思いは意外と真っ直ぐ伝わってくるが自分もそうだったのだろうか。
そんなに黒い事は考えていないから大丈夫だろう。

《そう素直に言ってもらえると助かります。単刀直入に言うと、お嬢さんには来年度にこの女子中等部一年生に入学して頂こうと思っており、魂の入っていない完璧な身体に入ってもらおうと考えています。その際私自身の機密に触れる部分があるので魂に強力な制約をかけて情報を外部に漏らさないように刷り込みをかけることになるのですがいかがでしょうか。場合によってはもしもの時のために私を手伝って頂くことになるかもしれませんが》

そう、5000年もかけて待ち望んだ火星人の到着も近く、計画のために独立で動ける霊体の仲間が入れば心強いのである。
どう見てもこのお嬢さんは気弱な感じであり、霊体生活も長いため人間の俗物的欲望もかなり薄いであろうから人材、もとい霊材としてはなかなかの逸材である。
丁度いたからという本音が無いとはいえないが。

《あの、私もう一度人間になれるんですか。このままいつか成仏するのだと思っていました。こんな機会をくれるなんて嬉しいです。ありがとうございますキノさん。お願いします》

成仏できない原因を自覚していなかった。
前世の記憶があいまいだから死ぬ直前の強い思いがはっきりとわからない限り強制的に除霊される以外は成仏できないのですよ。
それはともかく、精霊史上二人目の女性は凄く良い性格でした。
エヴァンジェリンお嬢さんが強烈だっただけかもしれないが。
あれ、チャチャゼロって女性だった気がするが、気のせいだな。

《許可が得られたのでまずは相坂さよさんを地縛霊から精霊に完全に改変させて頂きます。痛みは霊体ですからありませんので安心して下さい》

まずは局所的な土地から開放することであるが浮遊霊に格上げしても木には入れないのでいっそ精霊になってもらうことにした。
ファンタジア、シンフォニアな物語も元人類から精霊へと大体こんな感じではなかっただろうか。
魂の情報を解析し魔分で地縛霊に関するものだけを上書きする。
久しぶりにフル活用する有機コンピューターであるがなまったりはしない。
魔分で情報改変というのも不思議粒子が為せる神秘の一つだろう。
彼女が魔法世界産の幽霊だったら難しかったかもしれないが地球産の幽霊なら問題はない。

《全工程終了しました。続いて精霊体としての運動パターンの最適化を行ないます》

発言が機械のオペレーションみたいでアレだがノリは大事だと思う。
5000年かけて研磨されたプロの精霊の動きをインストールする訳だ。

《ようこそ精霊の世界へ、相坂さよ。まずは木の内部に戻るので付いてきて下さいね》

同じ精霊になったのだからお嬢さんとかそういった概念は既に意味を持たないのであるから呼び方はこれでいい。

《本当にありがとうございます。凄く身体が軽くなったような気がします。あ、待ってくださーい》

まだ人間の身体を得ていないというに、まだ感謝するのは早いのではないだろうか。

《空を飛べるようになったのを喜ぶのは後にしてもらえるでしょうか。幽霊よりも精霊の方がこの地は見えやすいようなので》

そんなこんな初めての試みに割と緊張したプロの精霊(笑)と新人精霊少女の邂逅であった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

相坂さよも無事に人目につくこともなく木と同化できて一安心だ。

《無事木と同化できたようで安心しました。まさか木の中がこんなふうになっているとは思わなかったでしょう。まだ、約束通り制約をかけていないのでその処理をします》

はっきり説明したことはなかったかもしれないが00な感じの量子演算装置の空間を想定してもらえればいいと言って伝わるだろうか。
とはいっても木の中が空洞になっている訳ではなく、ここも亜空間なのであるが。

《はい、とても驚きました。木の内部がこんなに植物とは思えないような空間が広がっているなんて誰かが知ったら大変ですねー。あ、私が知ってしまいました。そうでした、制約でしたっけ。どうぞお願いします。》

そんなに妙な気合入れられても困るのだが。
テンション上がりっぱなしの精霊少女は元気でした。
魂に制約といったものの単純にアクセス権限に許可を必要とするもので、ああ言ったのは木の内部がコンピューターになっているなどとは実際に見なければわからないからである。
実際、機密情報に関する発言をしようとするとどうなるかと言えば、強制的に防止措置が即座に作動して、情報を知らないという状態で会話をすることになるのである。
試しに以前自分にかけてエヴァンジェリンお嬢さんに機密情報を話そうとしたのだが当たり障りの無い会話に自動的に変換されるという便利仕様だった。
記憶の選択除外ができるのだから当然といえば当然かもしれないが。
等と言っているうちに無事に完了したようだ。

《無事に終りました。制約と言いましたが私を上位アクセス権の保持者として相坂さよは下位アクセス権があります。こちらで権限に関しては取捨選択しておいたのでこの木の記録に関して閲覧できる情報は自由に見て構いません。また基本的に木の有機コンピューターによるバックアップを受ける事になるので計算能力を始めとする演算能力は恐らく世界最高になっています。但し、人格に関しては影響がほぼ皆無ですので会話が上手くなるといったその辺りは保証対象外です。最重要機密に関して近いうちに明かす事になるかもしれませんから楽しみに待っていて下さい。続いて約束通り、入る身体を見せるので下層に降りていくので付いてきてください》

有機コンピューターの割にはいつも引きこもってばかりで数学の問題を解いたことがあるわけでもないが恐らくその辺りは間違いない。
実際観測を行ったりしている時点で証明されているだろう。
魔分という不思議粒子を精製している癖に科学的というのも、一体何なのかと考えだすと碌なことにならないので気にしないのが良い。
例の死体安置所的な場所には降りると言っても精霊体で貫通するだけだ。

《うわー、なんですかこれは。キノさんの死体がいっぱいあります。あれ、あっちに私によく似た身体がありますね》

ちょっと待て。
最初のは死体なのに自分のは身体とはっきり言い直しているんだ、既に一回死人だったろうに。

《死体ではありませんよ。正式名称は対人間用ヒューマノイドインターフェイスです。別に人類と戦争するわけではないので勘違いしないで下さい。私自身は都合があって一度もこれらを使ったことはありません。相坂さよには既に専用にカスタマイズしたものを用意したあちらのものを使ってもらいます。何故既に用意しているか先に説明しておきましょう。まず相坂さよ、あなたが1940年に高等女学校で連続殺人事件に巻き込まれてから地縛霊になっていたのは知っていました。その点については後で木の観測の歴史を見ればわかると思います。今言いましたが、私はあなたを助けようと思えばいつでも助けられたのですが、今まで60年間見て見ぬ振りをしていたことになるのです。その点は謝らせてください》

遅かれ早かればれることなので正直者の精霊は言うべきことは言っておこう。
実際地縛霊になったのはこちらの責任ではないのだけれど、やはり助けられる設備がありながら見過ごすというのは揺れるものがあったな。

《謝る必要ないです、キノさん、長い間一人だったけど今こうして助けてくれたので感謝してます。キノさんは凄い精霊なのに私をフルネームで呼んでくれますがこれからは私の事はサヨと呼んでください。ほら、私ももう精霊なんですよね?》

彼女が怒らないのは最初から予想できたことだが、精霊になると名前がカタカナになるなんて知らない。
まあそういうルールにしておこうか。
お互い二文字で分かりやすいし。

《ありがとうございます、サヨ。これからよろしくお願いします。私のこともキノとそのまま呼んでくれて結構です。早速身体に入ってみてください。思う通りに身体を動かすことができると思いますよ。ただ、一度身体に入って木から出た身体は人間と同じように生体活動が起きますから水分や食事というのも必要になります。身体から出て精霊体になることもできますが、身体の状態には気をつけてください。木からのバックアップがあるので情報は逐一確認できるのでもしもということは殆どないと思いますが。とりあえずこの空間では好きなように動いても問題ないです》

因みに服は彼女の生前の物そのものをトレースしてあるから制服を用意する必要があるな。
自動でトレースしておいて驚いたが、当時の女学生はドロワーズを履いていたようだ。まさに生ける化石である。
図書館島の司書にこの話をしたら面倒な反応が帰ってきそうだが。

《凄いですね、違和感が全くありません。これならすぐにでも生活できそうです。身体を用意してくれてありがとうございます、キノ》

《サヨは護身術を習った事はないと思いますが私が昔合気柔術を記憶したことがあるので、恐らく問題なく使えると思いますよ。まあ大分古い型ですが。私は今から近衛門、学園長の所と恐らくエヴァンジェリンお嬢さんの所に寄って話をしてくるので身体に入ったまま木から出ずに適当に過ごしていてください》

これからはある程度各精霊のユーザー設定をしたほうが良さそうだな。
少なくとも純粋な元人間のサヨの場合プライバシーもあるだろうからその方が良いだろう。
5000年生きている私は割とどうでもいいからその辺適当だが。



[21907] 2話 火星少女地球に立つ。精霊(笑)少女相坂さよ始まります。
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 18:43
近衛門に相坂さよを精霊化して入るべき身体を用意してあると言ったら驚いていたが、あまり深く追求してくれなくて助かった。
サヨの戸籍や寮の部屋は上手く用意してくれるらしい。
エヴァンジェリンお嬢さんは今年で大学院も卒業である。
そこで来年度からもう一度だけ女子中学に入ってもらうように頼んでおいたが、怪訝な顔をしながらも「久しぶりに自分より身長の低い奴らを見られるのは悪くない」等と正直よくわからないことにこだわりを見せたが了承してくれた。
同時に例の地縛霊の問題が解決して彼女も通学することになる旨を伝えておいた。
身体をどう用意したのかといったことは近衛門との口裏合わせでごまかしておいた。
実はもう殆ど登校地獄の呪いは残っていないのでお嬢さんの意思次第なのであるが、麻帆良の地に対する印象はかなり良いらしくまだ残ってくれている。
ただ残念ながら新たに入るクラスは人外魔境になる予定なので身長がやたら高い中学生に遭遇すると思うが。
近衛門にもこの件を話しておいたが、同じことを考えていたらしい。
歴史というのは大したものだ。

それから明けて2001年。
待ちに待った火星人の来訪である。
紀元前から長い時をかけて修正してきた甲斐がやっと実るのだろうか。
今更といったところであるが、エヴァンジェリンお嬢さんとの最初の出会いの際に世界の歴史にはどういう配慮か個人名がはっきりしないということであったが、対象となる人物と関係のある人物から芋づる式に名前もわかるようになっている。
例としてアルビレオ・イマに関する情報は、ナギ・スプリングフィールドを確認した段階ではっきりしたため、イノチノシヘンのようなあらかじめ知っていなければ話題に出せないことについても聞くことができたのである。
さて、火星人、火星人と呼んでいたが、小学生の頃から天才的頭脳を発揮し麻帆良大学工学部に研究室を借りている研究一筋の葉加瀬聡美、彼女の中学の経歴ではっきり関係のあるのは火星人、エヴァンジェリンお嬢さん、茶々丸が殆どなのである。
彼女の名誉の為に言っておくと工学部の中ではとても有名人であり知らない人はいない。
長くなったが、火星人の名前がめでたくわかったところで珍しく本気を出して解説しておこう。

火星人、火星少女の本名超鈴音、発音でチャオ・リンシェン。
能力は非常に高く、勉強、スポーツ、料理を始めとしてできないことを上げたほうが早いであろう無敵超人。
麻帆良最強頭脳と呼ばれ、勉強の成績も前述の葉加瀬聡美を抑え常に学年1位。
100年先の未来の科学技術を駆使し、マッドサイエンティストでもある。
多くの研究会、お料理研究会、中国武術研究会、ロボット工学研究会、東洋医学研究会、生物工学研究会、量子力学研究会に所属し中でも東洋医学研究会では会長の任も務める。
目標は「世界征服」であり嫌いな物は戦争、憎悪の連鎖、大国による世界の一極支配である。
行動の異端さから学園の魔法先生からは危険人物として協力者の葉加瀬聡美と共に目をつけられた。
移動中華屋台「超包子」のオーナーであり、資金力も非常に高く計画のために2003年の学園際に向けてM&Aを行った。
挙げていくとまだまだと言ったところだが、極めつけはカシオペアという航時機による時間跳躍や、本人の肉体と魂を代償に行使可能になる呪紋回路が体表に刻まれているということが挙げられる。
魔法の始動キーの意味は「我、魔法を使う最後の魔法使い」である。
最後に、本人すら与り知らぬ情報として彼女の計画が失敗しカシオペアで未来に帰ったとき反動で死亡したというものがある。

尚、跳んできた地球側からすると彼女の経歴は一切不明であるが、世界の歴史によると知能や運動能力が高いのは、元々天才であるのに加えて大量の情報を脳に直接転写しているからである。
普通に考えて13歳の少女がいくら天才であってもこれほど膨大な知識を備えるのは時間的に無理である。
航時機を始めとする情報機器を持ってきてはいるが、使いこなすのにも理解が必要なのであるから間違いない。
肉体的時間が停止できるダイオラマ魔法球なんてものがあったとしてもそこに篭って学習することは不可能ではないだろうが難しいだろう。
あのマジックアイテムには魔分が必要であるため枯渇した火星では魔法球内の魔分が減衰していってしまい、いずれは魔法球としての効力を失うためである。
火星に僅かに残った魔分は航時機による過去に時間跳躍に殆どが使用される筈である。
そのためにわざわざ呪紋回路まで刻んでいるのだから。

私が今まで準備してきたことは彼女の時間軸の過去からの上書きであり2001年になった今彼女の時間跳躍の結果と重なったという訳である。

火星少女の目的の中には魔法を保護するということは恐らくないと思われるが、魔法世界と火星の関係から魔法に対して恨みに近いものを感じていてもおかしくはないのであろう。
対して私の目的は実際魔法を保護というより、魔法が行使できなくなる原因そのものを阻止することであるので究極的には、地球で使えなくなっても構わないし、華の宇宙船がある時点で更に別の惑星を探しても構わないと言えるのである。
とはいっても地球で長いこと使われ続けることができるのならばそれに越したことはない。
数十年前にも述べたが、華の中で育てていた若木は既に千年が経過し火星でも間違いなく上手くテラフォーミングが可能だ。
ただ、物理的介入は魔法世界だけの問題ではなく地球の無人探査機等の存在もあり有機的宇宙船があるなどとバレれば日本が争いの火種に巻き込まれるのは避けられないだろう。
そういう意味では100年先の技術力を駆使し超鈴音の世界征服というのは是非やってもらいたいものである。

こちらの正史からすれば魔法を公表するということは立派な魔法使いにとってはタブーであり、近衛門と敵対することになると思うと裏切るようでなんとも言えない。
木の最終手段としてあまねく地球に散布された魔分を活用して「魔法はあって当然だ」という強制認識を地球人類にかけることもできるのであるが、これは正しくは強制認識ではなく完全に情報の上書きである。
ただ、地球人類にしか効果がなく、例によって魔法世界には効果がないので、確実に違和感が発生してしまうであろうし、最悪木を物理的に切られかねない。
魔分を利用している術に関してはこちらの完全支配下に置いて無効化できるが、京都神鳴流のような気を利用した危険な技は瞬動で木ごと飛んでいくことはできないので天敵である。
魔法障壁を張ることはできるだろうがジリ貧になるだろう。
こちらから打って出るのも不可能ではないがこの地球には核という手段があるので爆破されて終わりである。
また、そんな事になる前に魔法は必要ないという意思を持った認識阻害の効かない一般人達が表で運動を起こして以下同様ということもあるかもしれない。
5000年前に要望した能力は確かに万能に近いが完璧ではないので木という立場上イマイチ使いにくい。
華で飛んでいってしまいたい。

精霊としての立場に関係なく、5000年前から個人的な願いではあるが火星少女の死は回避したいということぐらい我侭を通したて叶えても良いだろう。
それぐらいは役得ということで許して欲しい。
5000年の間助けようと思えば助けられた命に。

サヨが超鈴音と同じ部屋になればサヨを介して交渉を行うことも可能になるのだが果たして上手くいくだろうか。
超鈴音に興味があるのでと言って近衛門にサヨを同じ部屋にしてもらおうか。
頼んでおこう。
火星少女の歴史の記憶からすれば相坂さよが肉体を持って活動しているのは確実に何かが起きていると思うのは間違いないのだから、遅かれ早かれ接触してくるであろうし、どちらかというと早い方がいい。

少なくとも超鈴音が万能能力で葉加瀬とエヴァンジェリンお嬢さんとの協力、歴史と異なりチャチャゼロが稼働しているが予め、以前からたまに精霊のお告げと称していたのを利用し新たな従者ができる機会について伝えておいたのでなんとかなると思うが、恐らくあっと言う間に茶々丸が完成するだろう。
エヴァンジェリンお嬢さんのドール契約方式とやらが必要な技術なので恐らく超鈴音の方から接触があると思うが。

火星少女が中学の始まる三ヶ月の間にどれほど地盤を固めるのか見させてもらおう。
お手並み拝見である。
もし私も対等な人間であれば彼女の方が自分よりハイスペックなのは間違いないからあまり偉そうには言えないが。

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観測した結果火星少女は学校が始まるまでに驚くべき過密スケジュールで、何らかのハッキングをかけたのか戸籍を用意し女子中等部への入学手続きを済ませてから、世界の歴史通りに大学のあちこちの研究会に殴りこみをかけ、必ず成果を残し人脈を広げていった。
あまりに活動が派手なものだから経歴不詳も相まって魔法先生から危険視され始めるのも時間の問題だった。
超包子を開店する資金源は未来からある程度レアメタル等を持ってきたのではないだろうか、勿論使い道は工学部の研究開発費などにも回っていくだろうが。
しっかりエヴァンジェリンお嬢さんと葉加瀬と共に接触し茶々丸の作成に取り掛かった。
その際チャチャゼロが稼働していることに疑問を持ったと思われる。
程なくして学園の結界が違う事にも気付くのではないだろうか。
混乱させて悪いが頑張れ。

今回本当にロボットが必要なのかどうかは怪しいが戦力はあったほうがいい。
なんといっても強制時間跳躍弾は血を流さずに相手を無力化し続けることができるので魔分が必要だとしてもいざとなったら木から供給できるからかなり理想的な武装だろう。

サヨの入居する女子寮の部屋であるが近衛門に頼んだ通り3人部屋になったのである。
女子寮は基本的に2人部屋であったが無理やりねじ込んだ訳だ。
権力は凄い。

そう、サヨであるが3ヶ月の間何をしていたのかといえば、始めは何よりも木内部のSFの未来的空間を満喫しており、麻帆良学園創設からの発展の記録などを見て楽しんでいた。
現クウネルも形骸化する前の麻帆良武道会を筆頭にかなり楽しかったと言っていたから予想どおりといえば予想どおりだが、サヨの場合は自分で通っていたこともあって思い入れがあったようだ。
相坂さよの生前の記憶はあまり残っていなかったが、両親の墓を探し出し精霊体で飛んでいって墓参りをしに行っていた。
その後は私から木の精霊としての役目についてかなり真面目に話した。
何も知らせずに火星少女の元に投げ入れるような真似は流石にしない。
魔分の精製に関するアクセス権を許可して見せたが、これが何なのかを理解してくれたところ、幽霊だったときに魔法を見たことがありましたと言っていた。
60年もいれば見たことがあってもおかしくはなかったから成程といったところで話が早くて済んで助かった。
私が観測していた超鈴音の目的を世界の歴史をぼかしながら予想として伝え、サヨ自身は魔法使いではないので秘匿に関しては無頓着であり世界に公表するといっても、「大変そうですねー、世界征服ですかー」等とコメントを頂いた。
意外に精霊には向いているかもしれない。
少なくとも、超鈴音の同じ部屋になったら彼女の開く店で働いたりするといいと勧めておいた。
会計、注文処理はバックアップで完璧だろうから。
しかも、かなり羽振りがよく時給も高いであろうし、近衛門にねじ込んで貰っているのだからそう言うのも悪くないだろう。
何にせよ人間の体で好きなように平成の世を楽しむと良い。
昔から読んでいた漫画や雑誌は精霊体でも相変わらず夜に書店に潜り込んで読んだりしているらしい。
幽霊の頃の癖は抜けないだろう。
本当にでかい木の精霊の癖に二人して色々小さかった。

魔法の秘匿だが歴史ではエヴァンジェリンお嬢さんはどちらでも構わないという立場を取っていたとされるが茶々丸の作成で、ある程度超鈴音の計画を聞いているだろう。
重大な発表であるが、今までお嬢さんのプライバシー云々で彼女の状態を精査したことはなかったのだが、今後少なくとも敵対関係になっては困るため、念入りに吸血鬼ではない何か別の存在について精査した結果がでたのである。
実は本当に微弱ながらも木から自動的にパスが通っており一部精霊化していた。
5パーセント前後の影響は大したことはないと思うかもしれないが、地球の魔分生産を一手に引き受けている木と少しリンクがあるだけでも不老不死である。
なんとなく成長した理由がわかったのだが、3~4年お嬢さんは魔法世界に行っていたのではないだろうか。
本人も変化が起きた原因をはっきりとわかっておらず、とにかく成長できて良かったと思っているだけであるから魔法世界に行った分徐々に気がつかないうちに80年の間成長したということなのだろう。
因みに木に対するアクセス権は100%精霊でないと発現しないので情報は一切漏れていない。

常々観測している割には真面目に結果を確認せず、日々を眺めていただけだったのだが火星少女もお出ましだしこれを期にニート精霊から働く精霊をやろうかと思う。
サヨもいることだし、しばらく完全に木と一体化しよう。
後は頼んだ精霊少女。頑張れ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

えー皆さんこんにちは私は元人間、元地縛霊で今精霊でありながら人間に戻ったような相坂さよです。
ややこしいです。
キノが真面目に働くと訳の分からない事を言っていたので私もこうして頑張ることになりました。

何を頑張らないといけないかと言えば人間だった時にできなかった友達を作ることです。
キノの観測情報からある程度の命令のつもりなのでしょうが、いつも丁寧なのでお願いにしか聞こえません。
とにかく私は経歴不詳のここ三ヶ月で有名になった超鈴音さんと葉加瀬聡美さんと同じ女子寮に入ることになったので今引越しの作業中なのです。
実は当初の予定だとエヴァンジェリンさんのところに住まわせてもらう予定もあったらしいのですが私の身体はどちらかというと組成が魔法よりなので女子寮に住んだ方がいいんだそうです。
今かなり緊張しているのですが、キノから幽霊でしたが復活しましたと自己紹介するといいと言われたのが原因です。
冗談のつもりなのでしょうか。
超鈴音さんは未来人だろうということなので先方は知っているからそのほうが打ち解けられるだろうということらしいです。
葉加瀬聡美さんには幽霊だったと言ったら冷たい反応をされると思うと言われましたが、彼女の情報からして私からみてもそう思います。
ただ、彼女が計算している時に精霊のズルをして解けば興味を持ってくれるかもしれません。
頑張ります。

そう言っている内に女子寮についてしまいました。
ま、まだ建物の前なのですが、相変わらず麻帆良はなんでも規模が凄いです。
確かに女子中学だけで一学年700人超ですから三学年合わせれば2000人を越えてなおかつ中学からは全寮制なのですから当然かも知れません。
私の60年前のおぼろげな記憶ではこの寮はなかったと思います。
わくわくします。
中も期待出来るはずです。

ロビーも広いですね。
他の皆さんも続々と入っています。
私は6階の部屋になりました。
麻帆良女子中等部は一度クラスが決定すると三学年ずっと同じ教室を使うのですが、それは女子寮も同じなんだそうです。
よほど問題がない限り原則部屋は三年間一緒なんですね。

今のところ話したことがあるのはキノと戸籍などを便宜して下さった学園長先生と必要なものを買う時に店員さんと少しやりとりをした程度しかまだ会話していないのでまた緊張してきました。

いよいよ部屋に到着しました。
あえて少し遅めに来たので先に同室の二人は入っていると思います。
観測してしまえばわかることですがいちいちそんなことをしていてはせっかくの人間なのに勿体無いのでやりません。

あ、ドアに鍵がかかっていません、ドアノブを回します。緊張の一瞬です。

あわわっ!

「きゃっ」

痛いです……転んでしまいました。
幽霊の時もよく転んだことがあるのですが治っていないようです。

「入ってくると同時に転ぶなんて初めて見たネ。大丈夫か」

顔を上げるとそこには頭にお団子をした中華風の少女がいました。
間違いありません、超鈴音さんです。

「あ、はい、大丈夫です。みっともないところを見せてしまいました。そうだ、わ、私幽霊でしたが復活しました!相坂さよと言います、同じ部屋になったのでよろしくお願いします」

ちゃんと言えました。
いえ、言えてよかったのかな。

「何か今変なこと聞こえた気がするが私は超鈴音だ。よろしく相坂サン」

幽霊発言はなかったことにされました。
キノ、言っている事が違うじゃないですか。
引きこもりに従ったのが間違いでした。
しかし精霊は正直者という教えがあります、ここで引くわけには行きません。

「聞き間違いじゃないです。幽霊でしたが復活しました!」

何度でも言います。判ってくれるまでは。

「そんなに強く言わなくても聞こえてるからいいヨ。私も火星人だから気にしなくていいネ」

幽霊と火星人は似たようなものらしいです。
未来人とは聞いていましたが火星人だったとは思いませんでした。
後で報告します。

「わかってもらえて良かったです。私も火星人でも気にしません。ところでもう一人部屋にいらっしゃらないんですか。三人部屋だと聞いていたんですが」

葉加瀬聡美さんがいないんです。
大学の研究室かもしれません。
何か凄いロボットを作っているらしいです。

「もう一人はハカセだが、ハカセは今大学の研究室に泊まりこみしているから帰てこないかもしれないネ。会った時に挨拶するといいヨ」

やはり研究室だったようです。
とにかくこうしてしっかり自己紹介もできて超鈴音さんとの邂逅を終えたのでした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

サヨに頑張ってもらったが、まさか精霊は正直者の理論で二回も幽霊であるのを主張するとは思わなかった。
やり遂げたという様子で超鈴音さんは火星人でしたと報告してきた。
よくやったと思います、本当に。
私自身が会いに行ったら恐らく人外の言い合いとかにならないだろうからある意味事実である。
超鈴音が火星人だと会ってすぐ火星人だと暴露して来たが信じようが信じまいが関係ないからといったところだろうか。
私は私で女子寮の魔法先生による監視体制の観測をしているが例年と変わらないようだ。
監視体制といってもただの警備システムなのだが。
流石に盗聴を平然と行う等ということはない。
危険人物扱いしているのもまだ一部の敏感な人だけなのだろう。
引き続き頑張れ。
今度は精霊体で超鈴音に一時的に憑依してもらったりして幽霊だったことを証明すると面白いかもしれない。
真面目に仕事するってこういうのとは違うが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

学校が始まるのは3日後なのですが、超鈴音さんが出かけていってしまったので私は寮の部屋でゆっくりしつつ、ベッドの上に身体を残したまま最大隠蔽モードの精霊体で麻帆良大学工学部の葉加瀬聡美さんの研究室に行ってみることにしました。

大学は中学とは違ってかなり近代的建物が多く工学部のある一番高い建物は30階近くあります。
そういう訳で来たもののどこに葉加瀬聡美さんの研究室があるのかわかりません。
失敗しました。
観測をするしかないようです。
なんだかんだであまり人間の身体で活動していません。
60年も精神体だったので意外とこっちの方が慣れているというか便利なんですよね。
本当に人間離れしたなと思います。

無事研究室が見つかりました。
なんとさっき別れたばかりの超鈴音さんもいました。
何やら緑色の髪をした耳の所にアンテナのような機械のついた、ガイノイドと呼ぶらしいですがどうやら今日が初めて起動する日のようです。
超鈴音さんが葉加瀬聡美さんらしき人と話しているのですがものすごく早口で会話しています。
いわゆるマッドサイエンティストというものなのでしょうか。

あ、目をあけました、凄いです。
関節などは機械だということがよく分かりますが造形は人間にそっくりですね。
ガイノイドさんの名前は茶々丸さんというそうです、なんだか変わった名前です。
あれ、エヴァンジェリンさんが名付け親だそうです。
キノは時々彼女の所に行って話をすることがあると言っていました。
私も仲良く出来るといいなと思います。

茶々丸さんが最大隠蔽モードの筈にも関わらずこちらを見ているような気がするのですがばれているのでしょうか。
超鈴音さんにはばれていないようですが。

うーん、どうしましょう。大変です。
あ、キノから通信です、え、隠蔽モード解除していいんですか。
確かに権限も降りてきましたが。
こうなったら超鈴音さんに幽霊で復活したことを証明するいい機会ですし頑張ります。

《す、すいませーん超さん、追いかけてきてしまいました。どうやら茶々丸さんが私に気づいているようで隠す必要ないと思ったので、このとおりさっきの発言は嘘ではないと信じてもらえましたか》

「……あ、相坂サン。本当に幽霊だったのカ。驚いたナ」

超鈴音さんが驚いています。
葉加瀬さんも何か変なものを見たような目で見ています。
同じ部屋なので仲良くしてください。

「超さん、彼女は一体誰ですか、幽霊なんて本当にいるものなんですか」

「超、ハカセ、彼女は幽霊ではありえません。私に幽霊を探知する機能はついていません。幽霊とは違う何かです」

消去法で幽霊を否定されました。
これってかなりマズくないですか。
でも権限が降りたままなので好きにしていいということなのでしょう。

《驚かせてごめんなさい。葉加瀬聡美さん初めまして、女子寮で同じ部屋になった相坂さよといいます。茶々丸さんも初めまして。よろしくお願いします。幽霊ではないということでしたが、元幽霊だったのは本当なんです。調べてくれればわかると思います》

精霊という発言は流石にやめておきました。
キノに迷惑をかけるのは早いですし。
うまくごまかして発言できたと思います。

「よ、よろしくお願いします相坂さん。正直科学に魂を売ったものとしては信じられないですが、その半透明なまま一緒に生活するんですか」

「相坂サン、エヴァンジェリンも呼んであるからもう来るとおもうがいいカ」

《女子寮に身体を置いてきたのでこのままということはないです。今は信じられなくてもいいですけどいつか信じてもらえると嬉しいです。エヴァンジェリンさんにはまだお話ししたことがないので構いません》

多分、いいよね。

それから間もなくエヴァンジェリンさんもやってきたのですが…

「なんで幽霊がここにいるんだ。茶々丸が生まれたと聞いてきたのだが。いや待て、お前昔見たことがあるな。確かあれは……」

えー、昔エヴァンジェリンさん私のこと見えてたんですか。
話しかけて欲しかったです。

《12年前から9年前に女子中等部のA組のクラスです。エヴァンジェリンさん、相坂さよです覚えていませんか。つい最近身体を貰ったのですが今は置いてきてしまいました》

「ああ、あの時の地縛霊か。そうだ前翠色の幽霊が言っていたのはお前の事だったのか。せっかく身体を得たのになんでまた浮遊しているんだ」

《すいません、随分長いこと幽霊やっているので慣れてしまっているだけです》

「エヴァンジェリン、茶々丸が相坂サンは幽霊とは違う何かだと言ているがどいうことかわかるカ。今日は茶々丸の起動日なのに幽霊事件とはネ」

「マスター、初めまして私は絡繰茶々丸です。ドール契約をして頂きありがとうございます。私には幽霊を探知する機能はないので相坂さんは違う何かだと思います」

「茶々丸、これからよろしく頼むぞ。よく相坂さよが幽霊じゃないとわかったな。幽霊でないとするとこいつは翠色と同じなのだろう。地縛霊から昇格という割には出世しすぎじゃないのか。あいつもじじぃもよくやるよ」

エヴァンジェリンさんは一度も精霊という言葉を使っていません。
ただキノの扱いが意外と酷いですが。

《エヴァンジェリンさん、正解です。お二人に助けてもらいました》

「私もハカセじゃないが予想外の出来事で少し疲れたヨ」

こうして一度に4人も知り合いが増えて私は嬉しいです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一時はどうなるかと思ったが、サヨならもうなんとかなるといった感じだな。
なんだかんだでまだ精霊ということがバレている訳ではないし。
あとエヴァンジェリンお嬢さんは精霊の事をうまく隠してくれていたが、幽霊ネタが役に立つこともあるようで世の中どう転ぶかわからないものだ。
超鈴音にはいずれバラさなければならないから時期を選べるようになったというところか。
感謝しよう。
さて、仕事を続けよう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音さんに会ってすぐに私が幽霊状態を披露した日から三日。
入学式を終えて、1-Aの教室で今自己紹介という名の事故紹介が起きています。
こんなことになるなんて思いませんでした。

学校が始まるまでの三日は葉加瀬さんと仲良くなるために邪魔にならないように精霊体で研究中の資料を見たりして計算している機会があったのでズルをして手伝ったら計算速度に驚いて、たまに手伝ってくれると助かりますと言ってくれた。
この辺りは予想どおりでした。
あれ、あんまり身体使ってないかな。

超鈴音さんは、二日目に真剣な顔付きで仲間にならないかと誘われました。
この点はキノも予想外だったらしく随分早かったが別に問題はないしむしろ好都合だから頑張れと言っていました。
学園の監視が今のうちは緩いからもう精霊の事を話して構わないとも言っていました。
超鈴音さんの魔法の事を世間に公表するという話など大体キノの予想通りでしたが、協力しますと答えて自分が幽霊ではなく神木・蟠桃の精霊になっていることを明かした。
それを言った瞬間超鈴音さんは神木に精霊がいたなんてと目を丸くして驚いていた。
続いて火星人というのは事実で、しかも未来人だと明かしてくれました。
キノの予想は当たっていたんですね。
調子に乗って精霊の説明をしようとしたのですが、例の防止装置がかかり当たり障りのない会話になってしまいました。
まだこの辺はダメということらしいです。
キノからはあまり急ぐ必要はないから精霊なんだよーぐらいでまだ済まして置けばいいと通信を受けました。

問題は今の状況です。
正しく自己紹介をしたところ高畑先生が、質問があったら聞くといいと言った矢先、朝倉和美さんという人がいるのですが、何か面白い物を見つけたような顔をして、

「相坂さんは生き返ったんですか!」

と言われたんです。
何故かキノから珍しく爆笑する声が聞こえてきたのですがそんなのを相手にしている場合ではありません。
高畑先生も実は学園長先生から話を聞かされていないのか物凄く驚いていました。
翆色とお爺さんの評価が下がりました。
教室の中が完全にうすら寒い状態なんですがどうしてくれるんでしょうか。
こうなったら正直者の精霊の意地を通します。

「あ、あの、私生き返りました!」

せっかく勇気を出して本当の事を言ったのに聞いてきた本人も微妙に引いているんですが。
空気が完全に死んでいます。
相変わらず耳障りな笑い声が聞こえてくるので切断しました。
凄くショックです。
事故紹介でした。

「せ、先生までそんな顔しないで下さい。差別は良くないと思います」

と、キラーパスをぶつけてやりました。
これでもくらえ!

「あ、ああ悪かったね相坂さん、席に戻っていいですよ」

……スルーされました。
個人的な場だと信じてもらえるのに公の場になるとこういう反応をされるというのは全くもって集団の心理というのは嫌なものです。

でも、ここでまさかの超鈴音さんから反応がありました。

「皆私も火星人だから気にすることないネ。生き返ったならそれでいいじゃないカ」

火星人と生き返ったのは同じらしいです。
その後冗談だったのかという声が聞こえて教室の空気が回復しました。
超さんありがとうございます。
こっそりブラックジョークがうまいねと隣の席の朝倉さんが微妙に顔を青くしながら話しかけてきたのですが、どうやら彼女は情報はつかんでいてもまさかという感じだったようです。
ひどい目にあいました。

その後の自己紹介は順調に進み、忍ばない忍者がいたり、シスターがいたり中学生に見えないプロポーションの人がいる一方小学生の双子がいたり、随分ピリピリしたサイドポニーのかっこいい人がいたりしました。
一番ありえなかったのが茶々丸さんでした。誰も耳の機械を不思議に思っていないのか何事も無く通過しました。
認識阻害というやつですね。扱いの差を感じました。
あと長谷川千雨さんですが、インターネットに精霊のズルで介入できるのですがネットアイドルのちうさんに良く似ていましたね。
次のエヴァンジェリンさんは朝倉さんが「何故中学に戻ってきたんですか」とまたきついところを聞いたのですが「ああ、暇だったからな」と一言で済ませました。
見習いたいです。
最後のザジ・レイニーデイさんは怪しげでした。

キノが言うには「あのクラスは他に比べてサヨを含めて人外魔境だから仕方ない」だそうです。
確かに飽きがこなさそうですが、60年間あの席で生活してきた私でもこんなクラスは初めてです。
明らかに八百長のにおいがします。

初日は授業がないのでそのまま解散でしたがエヴァンジェリンさんは茶々丸さんとすぐに帰って行きました。
私も超さん、葉加瀬さんと工学部に行くことになりましたが4日目だから慣れたのか寮に身体を置いてでていくのはお決まりになっています。
途中超さんはお料理研究会に用があるらしく行ってしまいました。
葉加瀬さんとロボットの新型設計の計算を手伝いました。
葉加瀬さんも私がもう何者でもいいようです。
慣れって大事ですよね。

一日目からなんだか生きている気がしました。
午後は身体使ってないですけど。
寮に帰って来てから超さんも遅れて戻ってきて肉まんの屋台を開くという計画を聞かせてくれました。
これがどうやらキノが以前言っていた、超さんのお店のようです。
開店したらウエイターやりますと言ったら、「今それを頼むつもりだたヨ」と先読みに成功しました。

そういえば言ってなかったですが、この女子寮の大浴場は凄く豪華で収容人数も多く、人間の身体を得て入ることができて本当によかったと思いました。
私はお風呂は凄くよいものだと思うのですが5000年も半透明のままのキノは興味ないのでしょうか。

そういう訳で私の身体を得た二度目の学園生活が始まったのでした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

朝倉和美の情報収集能力はやはり中学に上がっただけにも関わらず凄いものだった。

因みにこちらは何も無かったのかというと例の忍ばない糸目の忍者が神木の木登りを始めたのだが何故登れるのかは知らないが270メートルある頂上まで登りきった。
これで13歳というのは信じがたい。
高層ビルの特徴として部屋の中はともかくとして、外側は風圧の危険というものがあるのだが270メートルまで登れるというのがどういうことかわかるだろうか。
しかも登り切ったあとに呟いた言葉が「いい景色でござる。またさんぽにくるでござるよ」であった。
木登りが散歩だなんて聞いたことがない。
一切木に傷をつけないのも驚きだが。
いや認識阻害が効いているのだと思う。
逆に言えば木を害する意思は一切なく純粋に登りたかっただけで、かつそれが実現可能ということになるのだが、大したものだ。

後日彼女は小学生の双子とさんぽ部に所属したそうだ。
また「拙者は忍者ではないでござる」と忍者であることを否定しつつも小学生に忍術を教えることもあったのだが完全に矛盾しているのに気づいているのだろうか。
どこか頭が悪いらしい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あれから毎日を楽しく過ごしています。
中でも学園祭に向けて四葉五月さんと超さんの移動屋台「超包子」の出店に向けて活動するのが充実しています。
また工学部の発表するロボットの制作も順調です。
エヴァンジェリンさんは大学生の生活感が抜けていないのかよく学校に来ません。
自主休講というやつだそうです。

そんなある日の帰りなのですが、龍宮真名さんという褐色のかっこいい同じクラスの人に、隠蔽モードなのに姿を見られてしまい、何故か隠し持っている銃を構えられてしまいました。

そういえばキノが龍宮神社のお嬢さんは修羅場をくぐっていると聞いたことがありましたが。
なるほど、苗字が同じでした。

そうでした、茶々丸さんが私に気づいたのは本当に微弱な魔力反応を検知したからだったようです。
龍宮さんは片目が特殊な魔眼というものだそうです。
未だに夜な夜な漫画を読むのですがリアルに邪気眼というやつなのでしょうか。
思わず銃が出てくるのはそういう事なのでしょうか。

《龍宮さん、撃たないでください!相坂さよです、何も悪いことしてません。夜中に書店に入って漫画を読んだり映画館に入ったりすることぐらいしかしてません!》

あれ、意外と悪いことしてるのかな。
いえ、何にせよ一方的に成仏させられるのなんて酷い話です。
成仏しないですけどね。

「あ、相坂か、本当に幽霊だったんだな。済まない、悪霊か何かかと思ってとっさに撃とうとしてしまった、許してくれ。しかしそこそこ悪いことしてるじゃないか」

《ありがとうございます。良いんです、幽霊の仕事ですから》

仕事なら文句はありませんよね。

「ああ、わかった。気をつけて帰れよ。確かに便利だな。私は映画館に行くと大人の料金をいつも取られそうになるから困っているぐらいだよ」

やはり身体があるというのは不便なようです。

《身体があると大変ですね。私のおすすめの映画を見つけたら教えるので期待してて下さい》

「そうか、わざわざありがとう。楽しみに待っているよ」

龍宮さんはなんだか凄く大人な女性という感じの大人でした。
私は75歳なんですけどそれよりも大人って凄いです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なんだかとても神木の精霊として恥ずかしい会話が聞こえた気がするのだがあきらめよう。
サヨはそういう行動をとっているものだから超鈴音にも能力に疑問を抱かれることが計算能力以外では今のところない。
ある意味天性の隠蔽工作霊かもしれない。

以前、なんだかんだ、精霊のユーザー設定をすると言ったが、サヨの行動はたまにちらっと作業の合間確認する程度に見ると面白いのでやっていない。
許して欲しい。
私自身人格はあるものの三大欲求は既に希薄化が進みに進んでしまっているので所謂色々余計な物が観測できてしまうがどうでもいいといったところである。
どちらかというと面白いか面白く無いかの違いで情報を判断するようになっている。
因みにサヨは一応精神強化が自動でかかるが、本人の意思次第だが少なくとも以降の計画で数千年を過ごすということにはならないから必要性も無いが。
また、サヨは感情抑制を全く使っていない。
使わなくても、自分らしさでしっかり生活しているし大丈夫だろう。
私は加速していたとはいえ最初の孤独な4000年超はどうしても必要だった。
サヨについて心配なことがあるとしたら確率は低いだろうがパクティオーした場合である。
契約相手側の契約執行発動による時間制限は無限にできるという恐るべきブースター機能が誕生するからである。
バランス崩壊もいいところだ。
もしそうなったら今使っている肉体は処分してもらうしかない。
ただ、試したことがないからなんとも言えないが魂があればできるという資料が存在するのだがこれもかなり危険な情報になり得るだろう。
相坂さよがサヨになる前に説明のために魂に刷り込み云々言ったが、本当に介入が必要になるからだ。

ところで最近はしっかり仕事をしており、見逃していた情報の確認を初めとして魔法世界の怪しい奴らの観測を続けている。
世界樹の精霊の噂はかすかだが故ウィリアム氏の酒の席で既に広まっているから、麻帆良の支部に潜伏者が現れる可能性があるからである。
有機コンピューターであることが、もしも、バレていたならば手中に収めようと完全なる世界の奴らならハッキングをかけてくる可能性も十分ありえる。
意外にもサヨは我々がインターネットに介入ができることにすぐに気づいたが私は失念していた。
故にハッキングの対策を始めたのであるが。
そう、電子精霊というものがあるのだが、ここ麻帆良の魔法先生に弐集院光というなんともふくよかな男性がおり、始動キーを知ったとき感動した。
ニクマン・ピザマン・フカヒレマンである。
全くラテン語が関係ない。
ここまで自分の思いを魔法に乗せるだなんて熱いとしか言い用がない。
とても気に入った。
他の魔法先生は変えたほうが良いと言っているらしいが何を言っているのだろうか、変えるなんてとんでも無い。
話が逸れた。
およそ100年の間に地下施設が色々作られたのは以前にも言ったが、図書館等の内部のような謎の空間がいくつかあり興味深い。
正直施設の必要性は感じ無いが、魔法使いというのはやはり地下で怪しいことをするのが大好きなようだ。
立派な魔法使いと自称しながらせっせと穴を掘る姿を想像して欲しい。
なんと涙ぐましい努力だろうか。
全部記録して公式ガイドマップと称して売りに出してやったら面白いと思わないだろうか。
精霊に使い道なんてないが。

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半人半霊の生活リズムです。
相変わらず充実した人間の身体の生活と精霊体での生活を繰り返しています。
どうやら葉加瀬さんの手伝いをする日などに寮に戻って身体を放置して生活するのが原因で身体が弱いらしいというイメージが定着しつつあるそうです。
地味に事故紹介の影響を引きずっていて、復活ネタが横行しています。
ネタではなくマジなのです。

怖いことがまたありました。
龍宮さんが多分教えたのだと思うのですがサイドポニーのかっこいい桜咲刹那さんが私が一人で身体に入っていて偶然周りに誰もいない時に接触してきたのです。
恐らく付けられていたのだと思いますが観測していないので気づきませんでした。
なんと今度は銃ではなくやたら長い真剣が出て来ました。

「相坂さん、龍宮から聞いたが本当に幽霊らしいな。一体その身体は誰のものなんだ。もし、木乃香お嬢様を狙っているなら」

「待ってください!確かに私は幽霊もやっていますがこの身体は正真正銘私のために学園長先生が用意してくれたものです。何を焦っているか知りませんが刃物を出すのは危ないですよ。」

どんどん危ない空気になっていくので会話を遮りました。
感情抑制を使うとこういった事態に動じなくなるそうですがキノは普通に生きるなら使わない方が良いと言っているので使っていません。
少なくとも今は生身なので危機意識が働かないのは問題あると思います。

「……申し訳ない、学園長が用意したのか。刃物を向けてしまったことを謝罪します。私も動揺するとは精進が足りませんでした。龍宮も言葉が少なすぎます」

「わ、わかってもらえたようで良かったです」

なんとか肉体の危機は去りました。
もし切られてもまだまだ身体は木の中に用意してあるので大丈夫なのですが。
でもこうして考えてみると、ここで死体になって後でまた新しい身体で現れたら社会的に死ぬでしょうからこの身体、大事にしないと。

キノに桜咲さんの事を伝えたら、木乃香お嬢様というのは学園長の孫娘、同じクラスの京都弁で話す近衛木乃香さんその人で彼女はその護衛でこの学園にやってきたそうです。
何故護衛が必要かというと近衛さんは極東一の魔分の器の持ち主で狙われやすいのだそうです。
そのため、幽霊が近衛さんの身体を乗っ取るのではないか心配になったのだろうということです。
桜咲さんはまだこちらに来て間もないため緊張しているのではないかということです。
私達は魔分生産を行っている神木の精霊のため無尽蔵に魔分があるのですが、このインターフェイスには器は搭載していても基本的には必要最低限しか充填していないので目立つことはありません。
この辺りは実際に使った私の方が詳しいです。
私も少し魔法使ってみたいなとも思いましたが、精霊体自体が高度な魔法みたいなもので身体強化の魔法であるとか瞬動や虚空瞬動といった歩法を学ぶぐらいなら、さっさと身体からパージ!して本気を出した方が早いと聞いて、人間って大変だなと思いました。
普段浮遊するときは七つの願いを叶える玉のお話のように効果音が付きそうな速度では飛んでいません。
普通に建造物を貫通したり、信号など全て無視して飛び越えるだけでもかなり移動は短縮できるので必要性がないのです。
また、対魔法使いなら地球にいる限り全て魔法は分解できる上、それの対応は有機コンピューターの適切な判断でオート稼働するので必要性もないそうです。
キノとしては精霊が人間と争うのは木が危険に晒されるから、やりたくないことランキングでも最上位に入ると言っていました。
特に桜咲さんの使用する神鳴流という剣術は魔分が関係しないので天敵だそうです。
少なくとも私達の性格ではかなり積極的に戦闘するなどかなりありえなさそうです。

何にしてもイベントの付きないクラスです。

超鈴音さんですが、超包子の出店計画ばかりをしているのではなく、様々な研究会に入っています。
その中に同じクラスの古菲さんが所属している中国武術研究会もあり、二人は中国拳法家同士仲良くなっていました。
そのため超包子の開店の際には私と同じでウェイターをやるかもしれないそうです。
とても明るい女の子なので一緒に働けると思うと楽しみです。

拳法つながりで、私は魔法を使うのを考えるのはやめましたが、キノの言っていた合気柔術というのが使えます。
そこで超鈴音さんに頼んで少し相手をしてもらったのですが、「まさか日本の武田惣角の生き写しを見るとは思わなかったヨ。これなら超包子の店員で困った客にからまれても大丈夫ネ」と誉められました。
私が知らない人の名前が出てきたのですが超鈴音さんの知り合いなのでしょうか。
どこで覚えたのか聞かれましたが幽霊の時に習得したと答えておきました。
似たようなものですからいいでしょう。
後でキノが合気柔術のトレース元のちんちくりんの凄い人で、私が生前生まれた時にはまだ現役だったということで一昔前の人だったようです。
精霊になって三ヶ月の間、木の資料:麻帆良の変遷は楽しく見ていたのですが私が生まれた時点から閲覧していたので見落としていたようです。
ただ超鈴音さんが褒めるような体術を引きこもってばかりのキノが覚えていたというのは意外でした。

4月が過ぎ5月も下旬、中間テストがありました。
60年間授業を幽霊として受けてきた私ですが中学の学力には自身がありますし、今はズルい計算能力も備わっているので数学はあってないようなものです。
間違って記述しない限りミスはありません。

テストの結果は737人中超鈴音さんが1位、葉加瀬さんが2位、私が3位という一つの寮の部屋に学年の最高学力が揃うという快挙を成し遂げ、注目を集めました。
私が3位になった理由はうっかりして書き間違いをいくつかしていたと言い訳したいです。
一方でこのクラスには致命的に点が悪い人もいて平均点自体は大したことないという結果に終わっています。

無事にテストも終り、6月に入って麻帆良学園祭の準備も本格的に始まりました。
1-Aでは何をやるかということであれやこれやと意見が出ましたが、超鈴音さんが温めてきた超包子の支店を出すことを条件に喫茶店をやってくれれば資金を拠出するということ決定しました。
その際、それならと「この雪広あやかも協力することをお約束しますわ」といいんちょ、こと雪広あやかさんも俄然やる気を出して見事決定したのでした。
いいんちょさんは麻帆良でとても有名な雪広グループのお嬢さんなので超鈴音さんがやるなら自分もやらなくてはということなのでしょう。

正式名称、移動式中華屋台「超包子」ですが、何が移動かといえば、麻帆良の地に走っている路面電車の一部車両をどういう手段でか買収し、改装することになっているのです。
当然葉加瀬さんの協力のもとただの改装には済まず、ほぼその車両だけで製造から販売まで可能な上、極めつけに飛行モードも存在するという、電車の枠を飛び越えたものになる予定なのです。
超鈴音さんが「五月、この店飛ぶからよろしくネ」と言った時の料理担当の四葉五月さんは「え?飛ぶ?」という反応には私も深く共感しました。
古菲さんの反応は「飛ぶのか、それは面白いアル」と純粋でした。

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麻帆良祭、それは毎年驚くべき盛り上がりを見せ、前夜祭を含め三日間開催され、一日に2億6千万もの金額が動くと言われ、東京の年二回のイベントにも勝るとも劣らない経済規模であり、また発表される技術力の高さから関東で知らない人の方が少ないというものである。

私にとって学園創設から毎年見てきた光景であるが今年は一つ違う点がある。
火星少女、超鈴音が今回参加するのである。
今まで全くヒューマノイドインターフェイスを使用したことはなかったが、5000年の永きに待った私が初めて実体のある身体に入り、彼女の経営する超包子の肉まんを、初めて口にしようと思うのである。
もちろんこれも感慨深いものであるが、超鈴音との接触のタイミングとしては麻帆良に人が溢れ返るという点でも最高の状態とは言えないが、悪くはないタイミングだろう。

こうして私の計画は本格的に動き出したのである。

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前夜祭も盛り上がり、今日は麻帆良学園祭初日です。
今は「超包子」メンバー全員、超鈴音さん、四葉五月さん、古菲さん、絡繰茶々丸さん、そして私の5人で移動型中華屋台の記念すべき開店の瞬間です。
1-Aの教室の方はクラスの皆が頑張ってくれているので私たちはこちらに集まっています。

「今日から超包子開店だよ。皆よろしく頼むネ。世界に肉まんを!」

「調理は任せてください。私の夢である店を出すこともできました、必ず成功させてみせますよ」

「任せるアル!」

「超、私も協力します」

「私も任せてください!」

こうして超鈴音さんの挨拶とともに忙しい三日間が始まったのでした。

元々朝倉さんにお願いして麻帆良新聞でも宣伝を行って貰っていた上、例の飛ぶ路面電車という話題性も相まって大盛況になりました。

途中高畑先生と弐集院先生が店に来てくれて、「凄く美味しい」と褒めてくれました。特に弐集院先生は肉まん全種をコンプリートし、「明日も来るよ」と幸せそうに帰って行きました。高畑先生は「相変わらず本当に肉まん好きですね」と苦笑していました。

途中一日の中であちこち地上を走って移動したり、お客さんを乗せながら飛行して驚かせつつ、定期的に1-A支店に肉まんの補充をしながら大成功の内に見事初日を無事終えることができました。
因みに1-Aは皆素敵な衣装を来て喫茶店を盛り上げていました。

そうして迎えた二日目、なんとキノが生き返ったのでした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

初めて身体に入ったが本当に違和感がない。
向かうは超包子ただそれだけである。
麻帆良は身体があると非常に広く感じ、店の位置の観測を続けるがたまに飛んで移動してしまうのが10歳程度の身体には少々辛い。
壁を貫通したい、空を飛びたい、重力がある。
なんと不便だろうか。
ただひとつ良かったのは小柄なために人と人の間を通り抜けやすいということである。
一苦労してやっと目的の店についた時、金がないのに気づいた。
そんなものも必要だったなと失念していた。
その問題も救いの手に見せかけた違うものによってすぐに解決した。

「あれ、キノ生き返ったんですか!」

某精霊(笑)少女である。
多分この前の事故紹介とやらのあてつけだろう。
確かにあの時久しぶりに笑ったから悪いとは思ったが。

「そうそう、それです。復活です」

他の客の目が痛いので冗談と思える返答をしておいた。

「おや、その坊主も生き返ったのカ」

 火 星 人 が あ ら わ れ た。

感動の対面の筈なのであるが全くシリアスな空気にはならなかった。

「はい。生き返ったばかりなのでお金を持ってないのですがサービスしてもらえませんか」

「働かざるもの食うべからずネ」

正論だった。流石天才は言うことが違う!

「……では、私を臨時の店員として雇って下さい」

自分から働くことになったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

翆色がやってきました。
なんというかお金を持っていないということで学園長先生にお小遣いぐらいもらってくればいいと思うのですが、仕方が無いので私がだそうと思った矢先。

「働かざるもの食うべからずネ」

流石超鈴音さんでした。
その後何故かキノはやるせない顔をしながらも労働力となったのでした。
たまには精霊の仕事という訳の分からないこと意外にもやってみろと私も思います。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

現在明らかに浮いている。
いつも浮いているが今日は存在である。
私の服装であるが、当然10歳用の服など用意しているわけがなく、そのまま首から店員用のプレートを下げられているのであるが、00な人造革新者と似たような格好なのである。
使用するまではあまり気にしていなかったのだが、やはり浮く。

ただ一つ、私の大変気に入っている弐集院先生が肉まん、ピザまん、フカヒレまんを並べて食べている今である。
魔法が発動するに違いない。
この状況に出会えるとは僥倖だった。

思わず

「弐集院先生、お仕事頑張ってください」

と応援した。

「ああ、なんだかよくわからないけどありがとう坊や」

残念ながら相手は食べ物にしか興味なかったらしい。
こういうのを期待ギャップとでもいうのだろうか、一方的だから微妙に違うが。
坊やにしか見えないのはわかるが仮にも齢5000を越えている。
違和感しか無い。

凄く忙しく働いているうちに、閉店である。
何も食べていない。
何ということだろう。
しかも色々人目についてしまったし、魔法先生も何人か来ていたじゃないか。
良かったのは危険な香りのする1-Aとは接触せずになんとか済んだということぐらいしかない。
こんな後ろ向きな喜び方をしたいわけではないのだが。

そんな中、調理を担当していた四葉五月さんがおもむろに肉まんを一つ差出してくれた。

人間の優しさに感動した。
5000年史上初の食事、立ったままとは行儀が良くない。
こんなに美味しいとは思わなかった。
弐集院先生がはまる理由がわかる。

「坊主、美味しすぎて泣いてるアルか」

中国少女Bだった。
遭遇した順番から言ってBである。
泣いているというのは本当だった。
感情抑制が知らないうちに切れていたのだ。

「はい、美味しすぎて涙が出ました」

精霊は正直者なんだ。
四葉五月さんは微笑ましい顔をしている。

「翆坊主にそう言てもらえるとは光栄だネ」

海坊主みたいな呼び方やめてほしい。
いい話だなという空気がいい話だったのかな、になるから。
まあ、働かざるものの件でこっちの正体はわかっていたんだろう。

「今日のアルバイト代はいらないので今度話を聞いてください。私はいつでも大丈夫なので、日時はさよに言っておいてくれればいいです」

「それなら学園祭が終わったら連絡するヨ」

こうして超鈴音とのなんともせわしない初の対面を終えたのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今木に戻って来ているが、慎重に周りに人がいないかを確認してから無事帰還できた。

皆さん二日目の超包子一人いなかったと思わなかっただろうか。
そう、色がかぶりそうで危ない絡繰茶々丸である。

彼女はマスターであるエヴァンジェリンお嬢さんが所属するサークルの発表会に一日中付いていたのだ、例のマスターの記録というやつであろう。

ここ6年程でお嬢さんは永遠の美少女として大学で有名になっているのだ。
事情を知る一部の立派な魔法使いの先生達からすればあまりいい印象を持たれていないようであるが、そんな裏の人達等霞むぐらいに、表で人気を得ているのである。
基本的に日本の伝統芸能を好む傾向にあるお嬢さんは茶道や囲碁を初めとし舞などにも手をつけ、少し大学生としては身長が低くはあるが、その大人びた振る舞いと、金髪の外国人がひたむきに練習する姿に誰もが心を打たれたという。
この辺りが、お嬢さんがお嬢さんであり続ける所以である。
そういう訳で近衛門に近しい魔法先生の殆どは彼女の12年間の行動で、闇の福音という二つ名はどこへやら、どちらかというと安全な大人しい人物として定着しているのである。
外部から来る魔法使いの目に止まることもあるが、誰もその周りの空気からまさか闇の福音だとは思わないらしく大事には至らない。
魔法を使わずして認識阻害を展開するとは凄いことだと思う。
以前朝倉和美が自己紹介の時に質問していたのは彼女にとって当然の疑問と言えよう。
正史のように中学を卒業する度に周囲の人物の記憶がリセットされることがないとこれほど味方ができるのであるから、いかにナギの呪いが短絡的かわかる。
また、この映像を例の図書館島の引きこもりに渡すと、イケメンなのにも関わらず若干引くリアクションを見せるのをやめてもらいたいのは余談である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

三日目の学園祭も相変わらず勢いがとどまることはなく、最後に向けていっそう盛り上がり私達は学園祭を終えました。
空飛ぶ屋台で料理も美味しいということで学園祭後も営業を続けていく予定です。

そんな時超鈴音さんに

「さよ、翆坊主に明日のクラスの打ち上げが終わったあと話を聞くと伝えておいて欲しいネ」

と言われました。
確かに明日は振替休日なので打ち上げが終わったら時間がありますしね。

「わかりました、超さん」

いよいよ明日ですね。



[21907] 3話 精霊と超鈴音
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/10/19 23:18
《単刀直入に言う、超鈴音、この先未来に帰ると死ぬ。航時機による反動と身体に刻んだ呪紋回路が原因だ》

「何いきなり言い出すんですか!」

「精霊だからといて何故そんな起きていないことがわかる。私はここに来て神木に精霊がいる事を知たときも驚いたが一体どうなているか説明して欲しいネ」

《サヨ、今から最重要機密に関するアクセス権を許可する。しばらく情報を確認しているといい。まず、私は超鈴音の2101年の時間軸の事を知っている。また、超鈴音が2001年に来て影響を与えた時間軸の千年後の結末も知っている。私は更にその時間軸の枠の外から紀元前3000年にこの地にやってきて今こうしてここにいる。人間ではないが過去を変えるという点では超鈴音と究極的な目的は異なるがやろうとしていることは同じ筈だ。超鈴音、質問だ、魔法を恨んでいるか、魔法は必要あると思うか》

「俄には信じがたいが信じるしかないカ。質問の答えだが私は故郷が苦しむ原因となった魔法を恨んではいるが、その必要性の有無については特に思うところはないヨ。故郷では殆ど使われることはなかたからネ」

《そうか、わかった。私の究極的な目的はこの魔法という不可思議な力を消滅させることなく未来に残す事にある。それが神木・蟠桃の存在理由でもある。なぜならこの星で魔法の行使を可能にしているのは神木・蟠桃そのものだからだ。知っていることには強制認識魔法の発動が出来る事以外にもあるだろう》

「星に対する魔力供給カ」

《その通り、人間は魔法の元を魔力と呼んでいるが、魔力は神木が供給するエネルギーそのものとはイコールではない。我々はそのエネルギーを魔分と呼んでいるので以降はそう解釈してもらいたい。一応確認だが、そちらの未来では神木には種子を残す能力は発見されていないな》

「神木の情報は故郷でもそこまで多くは得られていないヨ。一体何の植物なのかも不明だた、突然変異というのが通説だヨ」

《火星、魔法世界の崩壊後の星ではこの情報は判明していないのか。今のでわかったと思うが、今この神木には種子を作る能力があり、実際に既に亜空間内で樹齢1000年を数える。またこの第二世代の若木を火星に送るための手段も存在する。結論としては、魔法世界の消滅、火星の惨状を防ぐ方法として、ただ後は打ち上げればいいだけだ》

「なら何故この千年の間に打ち上げなかたネ。わざわざ私を待つ理由がないだろう」

《木は一旦根付いたら動くことができない。我々の目的は常に魔法を残す事が第一位であるため、地球の神木の安全を無視するならばいつでも打ち上げる事ができるが、それでは魔法の存在に対して否定的な人間によって害されるおそれがある。今でこそ神木の重要性が麻帆良学園都市にはあるからこそある程度の安全性が得られているが数百年前の人類の行動などを考えて見ればわかるだろう。狂信的な人間の思い込みは恐ろしいものだ。また、自然災害による根本的な損害も含まれる。確かに人類に対してならばこの木には強力な認識阻害によって木を傷つけないように刷り込みをかけることができるが全世界にそれを行うほどの出力はない。よってこの認識阻害の範囲外から核のような質量兵器で攻撃された場合防ぐ方法はないということだ。因みに強制認識魔法による魔法の存在の公表は可能だが、その瞬間しか効果がないため、つまり新生児には効果がない。100年は優に持つだろうから超鈴音の目的は達せられるが数百年、それ以上先になったらというのはわかるだろう。また、効果がなくなったらまた同じことを繰り返すというのも精霊の立場としては、人間を洗脳しているというのは可能性を潰すことでもあるから手段としてはふさわしくない。矛盾しているがそれが我々の存在理由でありここに人間の意思は関係ない》

「なるほど、わかったよ。学園祭の時の翆坊主は人間性というものを感じたのだがあれは仮初のものなのカ。それで私にこんなことを話したのだから何を要求する。話をしたいではなく話を聞いて欲しいと言っていたが。今更私の計画を実行しろと言うわけではないのだろうナ」

《人間性がないという訳ではない。今の私は人間性を全て封印しこの神木の精霊としての立場で話しているだけだ。超鈴音が感じたそれは仮初ではない。超鈴音、嫌いな物は戦争、憎悪の連鎖、大国による世界の一極支配だな》

「そんなことまで知ているのカ。私のプライバシーは……、分かたヨ、精霊の立場ならばただ答えるのみだネ。嫌いな物はそれで合っているヨ」

《火星に第二世代の若木を打ち上げるのは決定事項だ。神木・蟠桃の能力は強力だが対応できるのは地球での魔法関連に限定されていて完璧ではない。京都神鳴流などのような気を用いる物理攻撃に対して致命的な弱点を抱えている。また地球での魔法と言ったが、現在の魔法世界の魔分は地球の物とは異なるため、圧縮して持ち込まれた場合は支配下に置くことはできない。これの解決は火星に第二世代を定着させ魔法世界との位相を同調させて支配権を獲得するしかない。しかし、今魔法世界には紀元前617年に魔法世界への道を開いた最初の地球系火星人が作った完全なる世界という組織がある。魔法世界だけではなく、地球にもこの組織の工作員が存在する。現在三体目のフェイト・アーウェルンクスを筆頭とするが今頃イスタンブールの魔法協会支部に潜入しているはずだ。一体目、二体目は超鈴音の先祖、ナギ・スプリングフィールドが倒している。彼等は我々神木の精霊の存在に気づく可能性があり、そうであれば神木の支配権を獲得しようと行動を起こす可能性が十分にある。事実サヨを見ればわかるだろう。我々がなんらかの方法でハッキングされたら終わりだ。相手にしなければならないのは完全なる世界と危険度は下がるが魔法に否定的な人類だ。何故超鈴音に話したかだが、わざわざ自分の身体に危険なものを刻んでまで過去を変えに来たという点と火星が助かるという条件がある限りあらゆる魔法使いと比べて我々を裏切る可能性が最も低いからだ。我々だけでは不可能だが信用できる人間の協力があれば可能性が生まれる。別に一人で彼等と対抗して打ち倒せと言っている訳ではない、最大のハードルは第二世代が定着するまでの間だ。超鈴音の好きな物は世界征服だろう。是非やってみればいい、我々は超鈴音が裏切らない限り協力しよう》

「また壮大な話になてきたネ。私が一番信用できるからカ。随分期待されたものだナ。いいだろう、麻帆良最強の頭脳であるこの超鈴音、世界征服を目指すネ」

《よろしくお願いします。私の個人的な我侭な願い、命を賭けてまで未来に影響を与えた超鈴音の死亡を阻止するというのも叶えてみせます。翆の木の精霊が約束します。5000年も待ちましたが本当に長かったですよ。ようこそ麻帆良の地へ、歓迎します》

「それが翆坊主の人格としての願いカ。私一人の命とは確かに我侭だが随分待たせたようだナ」



[21907] 4話 精霊5000年稀代のイタズラ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/17 17:40
昨日は、完全に外界との関係を絶つために寮の部屋と同じ座標に展開した亜空間で、キノの鈴音さんに対しての真剣な話が行われました。
キノという人格を封印していたため、機械のように話をするものだから私は全く会話に入れませんでした。
鈴音さんがいくら天才であっても知らない歴史の情報や特に木に関する機密情報は知らない限りはどうしようもありませんから一方的な説明に近いものがありましたが。
例の意識の拡張というもので知識を共有すればパッと終わるんですが使いませんでしたね。

最後の最後に元に戻りましたがキノの願いなんてあったんですね。
最初に鈴音さんが死ぬって唐突に言い出すものだから何を失礼なことを言っているのかと思いましたが、最後には5000年かけて助ける準備をしていたというんですから、首が長くして適当に生活していた時があるのも納得が行きました。

結局私が鈴音さんと初めて出会ってから昨日までの聞いてきた計画は大規模に変更となりました。
キノがもっと早く教えてくれていればと思いましたが、超包子をやめる訳ではないし、まだまだ必要ということもわかりましたから初期段階だった為無駄ではなかったと安心しました。

確かにキノがアクセスを許可してくれた情報は根本的に異常な物が多かったです。
出来事と結果はわかりましたが、全てが許可されなかったのか個人名の正確な情報を中心としてはっきりしてませんが、私への配慮なのかもしれませんね。
全てがわかってしまったら世界が色あせてしまうからといったところでしょうか。
正史という認識がなされているのですが、私からしてみれば驚くほど詳細な未来予想でしかありませんね。

既に正史はパワーアップした木によって違う道を進み始めることになりましたがうまくいくと信じたいと思います。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日の超鈴音との対面は結果としてやはり私の言うべきことを聞いてもらうことばかりだった。
与り知らぬ情報があるのだから当然と言えば当然だが話を聞いていた超鈴音は、最初は怒っていたが最後はある程度の理解を得られたところで決着して良かった。

あの後、第二世代の打ち上げの計画について内容を詰めた。
超鈴音の100年先の科学技術力と木の電子回線介入能力の使用でまず麻帆良の発電所を初めとし関東地方全域を完全に制圧し、学園都市結界もろとも落とし、探知魔法の使用を不可能にする。
完全に照明が失われた段階で、タイミングを併せて地球の人工衛星、可能性のある日本に存在する米軍基地や自衛隊のレーダーにハッキングをかけ関東地方の情報を改竄する。
改竄している間、華を最短距離で茨城県沖に一旦射出し、関東地方全域の状況を直ちに復旧させる。

その際、発電所のシステムに不備が元からあったように偽装するのも忘れない。
日取りは天候が非常に重要だ。
曇りのレベルが80%近く占めているか同じような条件で雨が降っている夜中を狙いたい。
海への射出完了までを10秒以内で終わらせたい。
もしこの作戦で死人が出るような真似は避ける必要があるからだ。
自家発電などには対処できないだろうが、病院施設に執拗に攻撃を加える訳にもいかないので仕方がない。

以上、これらの条件が満たされたなら後は深海を移動させながら南極に近いところからの大気圏突破を試みる。
この際にもタイミングを併せて人工衛星の情報を改竄する予定だ。
こちらも天候の条件は同じである。

神木5000年の歴史をかけて成長した有機コンピューターの演算能力をご覧あれといったところである。

やりすぎの感は否めないが、目撃者はできるだけゼロにしなければならない。
日本から謎の飛行物体が射出されたとなると魔法云々の問題ではない。
やはり超鈴音の協力は必須であった。
但し実行するのは私とサヨであるため仮にこの大規模なサイバーテロの犯人がわかったとしても逮捕は非常に難しいだろう。
サヨは以前から軽犯罪をやっている気がするが捕まる気配はない。

なんといっても手錠ができない。
精霊体には物理攻撃が効かない。
魔法も効かない。
木の安全さえ確保されれば問題はない。

アフターケアとしてこの事件を起こしたら地球のインターネットとまほネットに事件に関しての情報操作を行う必要があるだろう。

気に入っている弐集院先生とのまほネット上での電子精霊バトルもあるかもしれない。
同様に長谷川千雨との地球インターネットでのハッキング対決もあるだろうか。
これらは楽しみでは全く無い。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

神木に精霊がいるということを知ったさよとの出会いから何かおかしいとは思ってはいたが、精霊自体が私と同じ歴史の改変にやってきた存在とは思わなかたヨ。
しかもその改変の始まりが5000年前からだなんて正気の沙汰ではないネ。
まあ翆坊主は人間でないが。

あの不思議な空間での一方的な情報提供は私の知らない情報も多かたナ。
特に木に関する部分は火星では情報の欠損が多かったから興味深かたヨ。
当然のようにナギ・スプリングフィールドが先祖だと言われた時は一瞬唖然としたが、いずれやてくるネギ・スプリングフィールドに私が同じことを言うにしてもあんなに流して言ったりはしないネ。

まずは、私としても第二世代の木を火星に打ち上げるためにハッキング技術の整理からはじめないといけないネ。
魔法を残すのが精霊の意思と言ているのに、今科学の方が必要にされているのは皮肉だが。
100年前の防衛システムなんてザルのようなものネ。
この超鈴音が完璧な仕事をしてみせるヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音との通信は傍受されない、名づけて、魔分粒子通信で行っている。
イメージとしては00なアレを思い浮かべてもらえればわかるだろうか。
脳内に直接響くため超鈴音は少し辛いと言っていたが我慢してもらうしか無い。
しかし粒子の加速空間での会話にすぐに対応してきたあたり量子力学の知識もあるとはいえやはり天才だ。
近いうちに有害な呪紋回路の削除と魔法が使用可能になるようにしてもいいが、前者はともかく後者は魔法先生がやってきそうなので保留だ。
パクティオーという手段もあるにはあるか。

着々と100年先の技術と木の能力との収斂を行っていく日々を続けていく。

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相坂さよです。
私もキノと鈴音さんの人間の枠を超えた方法での会話を聞こえるようにしてもらっています。
実行するのはキノと私なのでどうせなら聞いておけという配慮らしいです。
基本的には私は魔法関係者に怪しまれないように今まで通り日々を過ごしつつ、平常営業するようになった超包子で五月さん、古さん、茶々丸さん達と働きながら資金を稼いでいます。
本当に弐集院先生はよくやってきます。
たまに高畑先生や厳しいと言われている新田先生も来ますが、五月さんはさっちゃんと呼ばれて人気者です。
人徳の為せる業でしょうか。
葉加瀬さんの研究も超包子のため前ほどではありませんが手伝っています。
ちゃんといつも通り夜には漫画を読みに行くのを忘れません。

そういえば学園祭が終わった後朝倉さんの所属する新聞部の記事に超包子の平常営業についても載せてもらったのですが、一緒にエヴァンジェリンさんの学園祭二日目の記事も載っていました。
素敵な写真がいくつか載っていてクラスで話題になりましたが本人は自主休講でした。

これから中学生の私たちに残っているイベントと言えば期末テストです。
ですが殆ど勉強しなくても、今更というところです。
また1位2位3位を鈴音さんではないですが最強頭脳でとってやります。

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サヨ達の期末テストも無事に終り、三人はまた中間の時と同じ順位だったが、雪広あやかは前回5位だったが僅差の点数争いの中4位に食い込んだ。
努力家である。
そういえば彼女は華道を嗜むようで、例の学園祭でエヴァンジェリンお嬢さんにいたく感銘を受けたらしいが、自主休講の多さと相まって微妙な評価らしい。
そう、雪広グループの財力と表の情報網と手を組めれば、今回の作戦等ももう少し楽になるのではないだろうか。
まあ精霊のいたずらと称した犯罪に加担してもらうわけにはいかないが。

現在もう既にハッキング準備は完了して後は天候待ちという状態である。

台風が発生しているが中国大陸の方にそれていくことが多く困っている。

超鈴音は作業が終わりじっくり脳を休めている状態だ。木とリンクしている精霊ならともかく生身の人体では負担が大きかった。
やり遂げた際にはマッドサイエンティストとしての何かが垣間見えたが。

昼はよく曇って後少しと思ったら夜には月が見えていてしまっているという形で惜しい日もあったが、こうして天候がなかなか揃わず8月になり夏期休業に入った。
有機コンピューターなれど地上から天候を読み取るのはなかなか難しいもので、人工衛星をハッキングしたほうが早い。

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夏も本番ということで夏季休業ですが、やっぱり人間の身体は不便です。
外が暑すぎて干からびそうです、一応植物の仲間ですし。
そういう訳で夏場は寮に身体を放置することが多く、三人共出かけていて冷房をかけておかなかった時が一度あったのですが、あともうちょっとで熱中症になりそうな健康状態になり警告が出たのには焦りました。
身体は大事ですけど暑いのは嫌です。
精霊も悩み多き年頃というやつです。

真夏だと流石に熱い中、肉まんを食べに来る人も少なくなりましたが例の先生は例外でした。
汗をかきながら幸せそうに食べる姿が印象的です。

溜まっていた映画も全部見て、そのまま龍宮さんに報告しに行ったのですが、ついつい寮の部屋をすり抜けて会いに行ったのでびっくりしていました。
隠蔽度合いの問題で桜咲さんは気づいていなかったので龍宮さんの様子を見て「龍宮、突然変な動きをするな」と言っていました。
ごめんなさい。
その後桜咲さんにも見えるようにしたのですが、
「1-Aは最初からおかしいクラスだとは思っていたが、平然とその姿を見せられると現実感が逆にないな」
と、やや諦めモードでした。
それが良いです、気にしても仕方ないですよ。
とにかく映画の評価をしっかり報告した結果、龍宮さんが少し興味を持っていた映画はハズレで助かったよと言っていました。
人の役に立つというのは良いことだと思います。

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相変わらず精霊というより幽霊としてやりたい放題なサヨは放置するとして打ち上げの日取りが決まった。
結局システム完成から3週間かかってしまったがこうして実行に移せるようになって良かった。

超鈴音は頭が痛いのも治り、例の粒子加速空間での会話を通して何か得るところがあったのか量子力学研究会で凄いことをやらかしたらしい。
学会で今話題沸騰中である。
なんだか充実しているように見える。
副作用もあったのか、葉加瀬は元々マッドサイエンティストモードに切り替わると高速で話すが、それを超える速度で言葉が話せるようになったらしくそろそろ人外の仲間入りである。
本気で魔法を使わせたら燃える天空の発動速度が一般的魔法使いの基礎魔法の発動速度と変わらないだろう。
まさに純粋種として目覚めたのかもしれない。
超鈴音改め超・超鈴音の誕生だ。
発音でチャオ・チャオ・リンシェンである。
なんか何処かの国の挨拶に聞こえるのは気のせいだろうか。
願いを叶える7つの玉の物語に因んで超鈴音2とかでもかまわないかもしれないが。
その場合の読みはスーパーリンシェン・ツーである。
どこぞの人革連のいかした機動兵器の名前みたいだ。

さてやってきた2001年8月16日午前1時半。
天候は関東地方全域を覆う雲によって良好である。
今はサヨも真面目に木の中にいる。
今回初めてサヨも人格を封印する。
感情はいらないからである。
役割分担は私が魔法対策と華の射出シークエンスで、サヨが広域ハッキング担当である。
正味数秒間に渡る稀代のサイバーテロの幕開けである。

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《関東地方全域に電力を送電する可能性のある水力、火力、原子力発電所を規模にかかわらず推定200箇所に超鈴音プログラムによる介入を開始。2秒で制圧完了》

《並行して探知魔法の使用を全域に渡り使用不可状態へ移行、学園都市結界の解除を実行》

《関東全域の照明の無力化を確認、光度良好、第一段階完了。続けて軌道衛星上の人工衛星の映像の改竄、軍関連のレーダー機器類の情報の改竄を開始》

《有機結晶型外宇宙航行船:暫定名称大いなる実りの茨城県沖への射出シークエンスを開始。粒子力場の展開準備》

《第二段階完了。全ての映像、その他機器の情報の改竄を確認》

《射出タイミングを大いなる実りの自動プログラムに譲渡。射出開始。粒子力場の展開によりソニックブームの無効化を確認、地上に被害は発生せず。着水による津波の発生は許容範囲内、付近に船舶の存在は無し》

《続けて超鈴音プログラムによるハッキングの最終段階に移行。順次復旧作業に入る。システム不備の偽装を完了》

《学園都市結界の復旧、探知魔法を使用可能状態へ移行》

《全工程の完了を確認。作戦終了》

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こうして無事に私も仕事を終えることができました。
鈴音さん渾身の作、超鈴音プログラムからすれば現代の防衛システムなど言われていたとおりザルのようなものでしたが少し数が多かったです。
人格を封印するというのは初めてでしたが、機械になった感覚というのがわかった気がします。
今思うと漫画みたいで少し面白かったですがやってる最中は何も感じないのでなんとも言えません。

この後は華の南極到着と同様に天候の確認を待って大気圏突破を行うだけです。

また、ネット上での噂の監視も仕事に入りました。

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この電撃作戦による日本政府の対応は発電所全域の一斉停止という事態を重く見て公表されないことになった。
国防の問題点として全電力会社にハッキング対策の強化に対する通達が裏でなされたようだ。
一方麻帆良学園都市では近衛門達の緊急招集があったが、探知魔法の無効化は学園都市結界の崩壊による影響だろうという結論がなされた。
また学園都市結界の崩壊は例の発電施設の影響であるとも考えられた。

因みに超鈴音は当夜、例の量子力学研究会での発表の準備に携わって学生達と共に徹夜していたため、魔法先生も流石に彼女を疑うことはなかったそうだ。

しかし、やはりネット上の掲示板では、毎晩夜遅くまでパソコンを起動している人たちの嘆きの声が書き込まれていた。
突然の停電の影響で環境が悪かった人のデータはお釈迦になったそうな。
それに伴い、日本政府はサイバーテロを受けた事実を隠しているのではないかという憶測が飛び交ったが、規模があまりに大きすぎるため真相が迷宮入りであった。
「宇宙人の侵略の布石じゃね」「ねーよw」というような書き込みがあったが、一番近い。
少なくとも人外の仕業である。

まほネットの方は流石旧世界の防衛網は大したことないなどと勝手に話が違う方に向かっていったので特に問題は起きなかった。
ただ、麻帆良の学園都市結界もあっさり落ちたことに対して改善するべきだろうという意見もあり、この後麻帆良学園都市内の電力システムの強化が図られたのであるがこれはまた別の話である。

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あのいたずら翆坊主と幽霊少女は盛大にやったようだネ。
私の技術力を使っているのだから当然だナ。
例の粒子加速空間によるインスピレーションは私のマッドサイエンティストとしての才能に良い刺激だったよ。
これから通信技術の革新の時代がやってくるネ。
ただ思わぬ副作用には流石に私自身ハカセと会話した時若干引いてしまったヨ。
ハカセが「超さん何言ってるか全然わかりませんよ」と言ったからわかったのだがネ。
しかし、宇宙船があるとはなんどあの木に驚かされればいいのだカ。
飽きないからよしとしよう。

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無事に海に沈めることができた華だったが、1000年まえに大いなる実りと見た目同じじゃないかと言ったことで暫定的にそういう名前に設定していた。
ノリは大事だとは思うが改めて考えると、資料として見る分には違和感はあまり感じ無いが、実際に言うと語呂が悪いのが微妙だった。
恐らく宇宙船なのに、それっぽくないからだろう。
正直、宇宙船超包子号とかでもいい気がする。
ああ、弐集院先生もクルーとして搭乗してるな、絶対。

話は逸れたが、海底だろうと華は問題ない。
後は大気圏突破であるが、遅くてもいいわけではないがそこまで心配する必要もない。
地球が火星に最も接近した日は今年2001年においては6月21日であり皮肉にも麻帆良学園祭の開催時であったが、その際の直線距離は6734万㎞である。
この話は世間でも話題になり当日は観測を行った人が多々いただろう。
故にその付近で華を飛ばすことが不可能だったのも事実だ。
既に8月となっているが、地球と火星はおよそ780日の周期で接近を繰り返す。8月18日の今日はそこから59日が経過している。
とはいっても華の最高速度は秒速100kmの異常出力という仕様である。
もしソニックブームを無効化する機能がついていなかったら、秒速300mの音速の壁を越えるだけで地上のガラスに影響がでるのであるから、いかに途方もなく危険な代物かわかるだろう。
絶対に日本にそんなものがあるなどと知られる訳にはいかないのだ。
同時に、だからこそ、神木・蟠桃からも補助をして茨木県沖までほぼ最速の速度で射出できたのだが。
光と比べるのは質量がある時点で考えてはいけない。
移動可能距離は一日につき864万kmであり、今から打ち上げれば遅くても10日程度で到着である。
地球の現在の化学燃料を利用した技術で数ヶ月を要する距離がこのザマである。
ある研究機関の発表によると、比推力可変型プラズマ推進機(VASIMR)であるとか原子力ロケットが実現すれば、であるが、二週間程度で着くことが出来るであろうとされているが先の話だ。
正直そこには悪いが魔法世界と火星を同調させる予定なのでゲートもあるし必要ないだろう。
いずれにせよ学校が始まる9月には着くだろう。

超には華がどれぐらいの速度で火星にたどり着くかは言っていないが恐らく教えたら乗らせろと言ってきたに違いない。
これだけ廃スペックな華であるが、自己主張が激しいために発光はしないものの、光学迷彩の機能がついていない。
月の光に照らされたらどれだけ美しいことだろうか。
そういう訳で曇りの日をわざわざ選んだのだ。
また直接打ち上げると雲がどうしても吹き飛ぶため人工衛星の改竄を長時間続けなければいけなくなるので、海に一旦射出するという方法を取った。
単純に打ち上げるだけなら大気圏およそ500kmの突破まで5秒で済むが粒子力場で無効化するといっても流石に突破するときにはある程度光ってしまうのでこの作戦もやはり取れなかったという訳だ。
因みに魔分粒子力場に近いものは魔法使いも使っている。
浮遊術あたりがその典型だ。

さて、南極近くからの大気圏突破であるが天候を同じ雲りの状態を狙いつつ今度はまず雲の高さまでじっくり上昇した後に加速を開始するという方法をとる予定である。
これで南極の観測者達に仮に見つかってもあきらめるしかないと思う。国籍不明の謎のでかい華がぶっ飛んでいったなんて南極から報告されても
「捏造だろwww」「加工乙」
などとなってくれると思いたいが、祈るのみである。

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相坂さよです。
その後華の打ち上げは成功しました。
大気圏を突破する瞬間の映像は幻想的でした。
人工衛星の映像は改竄しているので、地上の南極の一部の人に発見されてしまったのは痛手でしたが各国政府の見解は、どこの国でもない上そもそも人工衛星に写っていないのでコメントは控えるというものでした。
世論とネット上では人間はやはりこういう話題が好きなのか色々ありましたが、9月になって学校が始まってすぐ、朝倉さんの属する新聞部からの記事には

[サイバーテロの犯人は地球外生命体か]
数日前の関東地方全域で起きたサイバーテロと思われる大規模停電と南極での謎の飛行物体の目撃情報は果たして関連性があるのだろうか。仮に地球外生命体がいるとして、日本を襲ったのは地球の技術力の高さを確かめるものだったのだろうか。南極での謎の飛行物体は空に飛んでいったという情報だが、もしかしたら地球に興味を失って帰っていったのかもしれない。真実がいずれ明らかになることを期待したい。

という内容で、実に記事自体も憶測で書かれており、信憑性が薄いとクラスの皆さんは言っていましたが私たちとしてはこういう勘違いをしてくれて助かりました。
後で鈴音さんに部屋で「サヨ達は私と同じ宇宙人らしいネ」と初めて知ったよそんなことというような表情で言われました。

実際キノは忽然と5000年前に現れたんですから宇宙人みたいなものだと思いますけどね。

鈴音さんの技術がなければこうしてうまく打ち上げて火星に到着させることもできませんでしたから何かお礼がしたいですね。
できるとしたら華から撮影された宇宙空間の移動映像なんかがピッタリだと思います。
神木・蟠桃から離れても木同士のリンクは深いもので映像もリアルタイムで到着するんです。
この10日間は本当に楽しかったですね。
やろうと思えば精霊体ならあちらにワープさせられるみたいで直に宇宙空間を見に行く事もできるみたいですけど、リアルタイムに情報共有はできているのであまり意味はないかもしれません。。
華自体は魔分を生産することはできないので、無闇にワープしたりすれば魔分を消費するため、場合によっては燃料切れのようなことに繋がりかねません。
でも華を射出する前に予めこの2618年の間に地球側に流れてきた魔法世界の魔分を再変換した分を含めて、かなりの量を搭載したので、仮にワープしたりしたとしても魔分切れの心配はほぼありえないんですけどね。
とにかく、無駄遣いは今は駄目という事です。

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既に華は火星への到着を終えており、木を定着させるポイントを探している。
火星に接近して改めてわかったことだが、魔法世界と火星の地形は非常に似ている。
魔法世界の地図は麻帆良教会の地下の支部に置いてあるのでバレバレだ。
ただ、地球から見れば、この地図は上下反転する必要があるのだが。
魔法世界と位相を同調した場合北極と南極が逆になるため魔法世界の地図は改められることになるだろう。
面白いのは魔法世界の地図では上の部分に南のヘラス帝国があり本人達も反対だということに気づいているのではないかということである。
同調したらきっとわざわざ金をかけて過去に火星探査機を到着させたソ連とアメリカは今までの苦労はなんだったのかと思うかもしれないが、関係ない。

木を定着させるポイントは魔法世界でいう龍山山脈のあるあたり、火星では北極洋だ。
そうする理由はメガロメセンブリアのある南半球に近いのは危険性が高いからである。
遠いと言っても残念ながらこの地域もメセンブリーナ連合の領域に近い。

しかし海を挟んでいるだけまだマシである。
位相が同調した時に陸が調整されて浮き上がることを信じよう。
幸運にも火星には月が二つあり、所謂月と星の力というのかこれの位置関係で魔分を元にした力の増幅が地球よりも強力に起きるだろう。
良くわからないかもしれないが世の中知らない方がいいこともあると思う。
勘弁して欲しい。

メタな発言は置いておくとして、いよいよテラフォーミングの始まりである。

華を大地に着陸させた後、華から亜空間内で今まで育成していた若木を魔分で保護しながら不毛の大地に根付かせるのである。
同時に有機結晶型宇宙船である華から余裕がある分だけ一気に大気中に向けて魔分を放出する作業を開始した。
とりあえず、数ヶ月を要するので随時観察が必要である。

因みに魔法世界の位相を破って火星に直接あちらの住人がやってくることはない。
そもそも、この事実にまだ気づかないだろうし、やってきたとしても人類なら今の状態の火星に生身ならば酸素不足で死亡する。
0.13%しか含まれていないのだから。
大気組成の95%が二酸化炭素である状態でのびのびと成長できるのは仮にも植物である二代目神木だけだ。
用意周到なことに水分と地中活性のためのバクテリアは華に積載してきているのでこれらを利用しつつ、5000年前の地球と同じく地下への魔分散布により強制的にテラフォーミングを敢行する。
楽なのは火星が地球に比べて表面積が1/4であることである。
魔分が行き渡るのには貯蔵してきている分も相まって数ヶ月で完了するだろう。
問題は重力が地球の40%程度しかないことだが、これについてはある引きこもりの力を借りれば解決しそうなので多分大丈夫だろう。
度々貸しを作ってきたのだから協力してくれる筈だ。

木の能力の真髄はこの全く自重しないところだろう。
種子を作れるようにと要求したがその範囲内には違う星で根付かせる事もしっかり含まれているようで本当に助かる。
流石に一晩でやってくれました!ということにはならないが。

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ここ最近私は随時送られてくる情報を見るという楽しいことが日課に加わりました。
苦労して打ち上げた第二世代の神木の様子です。
魔分を元々大量に込めている上既に高さ50mの大木であり、早送りなのではないかという速度で周辺の大地に異変が起きています。
この映像は高く売れるに違いありません。

日常生活は概ね人外魔境の巣窟1-Aとしてのレベルでは平和な部類に入ると思います。
秋と言えば体育祭でありウルティマホラの時期ですよ!知っていますか。
私は過去の麻帆良武道会の映像を見たことがあるので、確かにそれと比べるとそれほど大した内容ではない、ということになってしまいます。
でも超能力バトルではなく純粋な格闘技としての大会なので比較の対象にすること自体が間違いだと思います。
実は私例の合気柔術が使えるので出ようかと思っています。
身体が弱いという噂が定着しているのを払拭するいい機会になる筈です。
この大会の良いところは桜咲さんのような危険な刃物は出てこないので肉が切れたりはしないというところが安全で私向きだと思います。
古さんも、鈴音さんも中国武術研究会の一員として出場するのでどうせなら便乗して一緒にということです。
そのため大分気候的に涼しくなってきてまた人気が上昇中の超包子の営業が終わったら、相手をしてもらっています。

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およそ一年ぶりにクウネル・サンダースが引きこもる図書館島にやってきた。

《ごきげんようクウネル殿。およそ一年ぶりですが相変わらずのようですね。今年の分のエヴァンジェリンお嬢さんの学園祭の映像を持ってきましたよ》

「おや、学園際が終わったらいつも間もなくやってくるので今年はこないのかと思って心配していましたよ。キティの映像をですが」

相変わらずお嬢さんの事となると地味に反応がきつくなるのだから、やめて欲しい。

《暇だからといって若干拗ねるのをやめて欲しいものです。今年は精霊の仕事が忙しかったのですから勘弁して頂きたい》

「精霊の仕事なんて見てるだけだと思っていましたが、そんなこともあるんですね」

《不毛なので早速イノチノシヘンの更新して下さい》

「失礼しました。では早速頂きますよ。キノ殿も以前に比べると大分私に対して対応が軽くなりましたね」

《同じ引きこもり同士ということです。今回はこれだけではなくある頼みがあるのですが聞いて頂けますか》

「ええ、話す相手も門番の彼女ぐらいしかいませんからいいですよ」

《知能があるからいいとは思いますがさながら老後の生活ですよね。いえ、なんでもありません。頼みというのは重力魔法に関する全ての情報の提供なのですが》

「精霊であるあなたが魔法を使う必要があるとは意外ですね。精霊の仕事というのはその辺りと関係がありそうですね。いいでしょう、この数年の暇つぶしに付き合ってくれているのですから協力しますよ」

《そう言ってもらえると信じていました。感謝します、クウネル・サンダース殿》

「もしかして以前大停電を引き起こしたのはキノ殿の仕業ですか。私のパソコンのデータが一部飛んでしまって困りましたよ」

《そう疑われると否定しても意味が無さそうですから、好きにしてください》

まさかこの引きこもりも被害者だとは思わなかった。
確かに図書館島建築されてから長いからそういったことがあってもおかしくはないな。
今回は目的があるから正直すぎるのは重力魔法に関する情報を手に入れるまでは自粛しよう。

こうして最後に核心をつかれるも重力魔法に関しての情報を得られることになったのである。
勿論この情報は調整を行って火星の神木に常駐プログラムとしてインストールする予定である。



[21907] 5話 超鈴音と二人の暇人
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 18:55
私はもう二つ寄る必要のあるところの一つ目、近衛門のいる女子中等部にある学園長室に来ている。

《近衛門殿、お元気ですか。この前の大停電の収拾は大変だったと思いますが》

実際これの主犯は我々だから、何を知らない振りをと言ったところだが、魔法先生の総意はともかく多分近衛門個人は気づいてると思う。
あの司書もそう思うのだから、我々の存在を実際に見て知っている人間はそうであっておかしくない。

「キノ殿、また突然ですな。色々後始末が大変じゃったが、あの停電の『お陰』で学園結界が強化されることになったのも悪いことではなかったの」

はっきり気づいているとは答えないがお陰でというあたりの言い方からして気づいているのだろう。
いつもこういう事に関して私には深く聞いてこないところが近衛門の良いところである。

《最近は麻帆良の警備も今でこそエヴァンジェリンお嬢さんが居ますが、昔のあの輝かしい全盛期の頃のようにとは言えませんね。一部十分に実力があるとは言え年端もいかない学生の手を借りなければギリギリというのは見ていて私も辛いものがあります。今回はその辺りでお話があるので聞いてください》

「神木の精霊殿に、それを言われると恥ずかしいものですな。麻帆良も表が豊かになって来た一方、裏がこの様というのは皮肉なものじゃ。話というのはもしや手伝って頂けるということですかな」

《ええ、精霊としてはイタズラが過ぎたと反省していましてね。それにそろそろ西洋魔術と東洋呪術で争うのをやめて頂かないと、中にとんでもないものがいつの間にか紛れ込むということになってしまいそうなので》

「ふむ、やはりあの停電はキノ殿の仕業だったのですな。いつか真相を教えてもらえると信じておりますぞ。儂も曾孫の顔を見るまでは死ぬつもりはないでの。西と東はもう長年争っておる事で婿殿がいるといってもなかなかままならないものじゃ」

今70代半ばの近衛門ならなんとか曾孫の顔も早ければ80代には見られるかもしれない。

《近衛門殿には言っていませんでしたが、私の行動可能範囲は既に中国大陸にまで及んでいるのです。そういう訳で近いうちに、その関西呪術協会の長である詠春殿に会いに行こうと思っていますよ》

「キノ殿にしては珍しいですな、やはりこの先何か動きがあるのですかな。そういえば興味を持っておられた超君の屋台でキノ殿によく似た容姿をした子供によくわからないが応援されたと言っていた魔法先生がおりましたな」

やっぱりあの学園祭は得られたメリットの割にデメリットが多すぎたな。
後悔はあまりしていないが。

《いや、お恥ずかしい。あの魔法先生の始動キーをご存知だとは思いますが、それを気に入っていましてね》

「前々から思っておったが、精霊というのはそういう語呂のようなものが好きなのかの」

《私だけですからあまり気にしないで下さい。話が逸れましたが麻帆良防衛の警備として相坂さよの時と同じく身体の用意がありますので参加させてもらいます》

「相坂君じゃったが、学校側としてもあれには助かりましたぞ。長年座らずの席として残しておくことになったのが解決できたのは良いことじゃった。うっかりタカミチ君には伝えてなかったから始業式の初日にはどういう事かと聞かれて困ったがの」

《何にせよまた彼女が生活できることになって良かったということです》

「そうですな。おっと警備に参加して頂けるのはありがたいですがまさか戦闘に直接するのかの」

《私が相手をするのは、やたらと鬼を召喚したりする人間全般ですよ。彼等の魔力封印処理を行ないます。直接殴り合いはしませんので誰か、できるだけマイペースな魔法先生と一緒に行動させてもらいたいですが》

「なるほどのう。確かにそれなら防衛もかなり楽になるのう。魔力封印をされた噂も捕まえて送り返して広めさせれば迂闊に手を出せなくなる訳じゃな。その魔法先生ならちとコワモテじゃが神多羅木先生がいいかもしれんの」

《大体そんなところです。行動する際の身体ですが今よりもっと小さいもの、お嬢さんのチャチャゼロぐらいの大きさですかね、頭にでも乗せてもらえればヘルメット替わりにもなりますよ。勿論私の存在は近衛門殿とお嬢さんの合作とでもしておいてください。解けない魔力封印なんて出処が気になるはずですから。普段はそうですね、身体の安全が気になりますがお嬢さんの家の何処かに放置しておくのがいいかもしれませんね》

「精霊の身体を安全第一に使うとは気が引けるのう。エヴァにも儂から言っておくが、キノ殿もこれから会いにいくのじゃろ」

《ええ、そのつもりです。そういう訳でこれからは今までよりずっと頻繁に会うことになりますがよろしくお願いします》

「こちらこそ心強い味方ができて助かりますぞ。報酬はどうするかの」

《情報隠蔽だけで結構ですよ。お金なんてもらっても使い道も殆ど無いですから》

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一緒に行動する魔法先生がマイペースな方がいいのは魔力封印処理自体は別におかしいものではないが私がやるものはあまりにも異端なので、そういうものを気にしない人間の方が都合が良いからだ。

精霊体で会いに行ってもよいが既に身体は、まだチャチャゼロサイズは一体だが作成してあるので直接訪ねる事にする。

人間の家の玄関に立ってインターホンを鳴らすのは初めてだ。
小さくしすぎて手は届いたもののギリギリだった。
背伸びしたい年頃である。

「こんな時間にどちら様でしょうか」

出てきたのは茶々丸だった。
そういえば、私がここに来ると緑率が75%になる上、この身体の名前も恐らくお嬢さんが付けることになるだろうから、数十年前の嫌な予感が思い出されるのだが…。

「翆色の幽霊と言ってわかるでしょうか、茶々丸さん」

「マスターに伝えて参りますので少々お待ちください」

そうして戻っていった茶々丸がまたすぐに出てきて招き入れてくれた。

「既に近衛門殿には話してありますが、これからこの身体をエヴァンジェリンお嬢さんの家に置いて頂きたいのですが」

「いつもの幽霊よりも更に小さくなってどうしたかと思えばいきなりなんだ、説明をしろ」

「ええ、麻帆良の警備に個人的に参加しようと思いまして身体を用意してきたのですが、直接戦うわけではありませんので、移動しやすい兼ヘルメットとして頭の上に張り付こうと思ってこうなりました」

「マスターお茶が入りました、お客様もどうぞお召し上がり下さい」

茶々丸がお茶を入れてくれたが、肉まんという固形物体を食べたのも5000年史上初だったが水分の摂取もこれが初めてだ。

「お茶を飲むのは初めてです、ありがとうございます茶々丸さん。美味しいですね」

「しかしチャチャゼロみたいだな。精霊が人間同士の争いに介入だなどどういう風の吹き回しだ」

そこへやってきた身の危険を感じる相手。

「ケケケ、御主人ナンダソノ俺ミタイナチッコイ奴」

「これはただの容器に過ぎませんし切っても面白くないですから勘弁してください。お嬢さん、私の個人的思惑もありますがこれから何かが起こるかもしれないので保険のためですよ。そこでこの身体はお嬢さんと近衛門殿の合作ということにして警備の方々に紹介することになるので名前を付けて頂きたいのですが」

「なるほどな、まあ好きにするといい。それより私が名前を付けていいのか。いいだろう。そうだな、チャチャゼロ、茶々丸と来たから次は茶々円だな。これでお前は二人の妹だな」

楽しそうな顔をして実にしてやったという満足感をかもしだしているのが微笑ましい。
0とか丸とか円とかバリエーションが尽きたらどうするんだろう。
嫌な予感はしていたけれど、麻帆良の高級学食焼肉屋のJoJo苑のパクリみたいな名前でいいのだろうか。
もともとJoJo苑も元ネタがあるのだが。

「ケケケ、マタ妹ガ増エタナ」

「マスター、私も妹ができたのですね」

皆さん、性別に違和感を感じているかもしれないがこの身体はお嬢さんの家の構成を考えて一応性別は女性だ。殆ど関係ないが。

「お嬢さん、とてもいい名前をありがとうございます。大事にします。つきましてはこの身体を放置できる手頃なマットでも用意してもらえるとありがたいです」

なんとも言えないが、チャチャゼロと茶々丸はそれで普通だという反応をしているので反論する気も起きないし、実際するつもりも始めからなかった。

「そのあたりは茶々丸、頼んだぞ」

やはり茶々丸がこの家にやってきて良かったらしい。

「わかりましたマスター、茶々円ついてきてください」

こうして今まで沢山用意していた身体よりも新しく用意したこの小さいものが使用率No1になるのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

それから三日後の夜近衛門とお嬢さんの口裏合わせも済み警備の方々との顔合わせとなった。

「じじぃ、こいつを紹介してやれ」

「先生方、この小さな子は茶々円君じゃ。エヴァンジェリンと儂の作った傑作だから能力に関しては心配しなくて良いぞ。基本的に直接戦闘はしないが、主に召喚術師を相手にすることを想定しておる。警備の際には神多羅木先生に預けるのでよろしく頼むの」

近衛門も名前が茶々円になった時は微妙な顔をしていたが、もう慣れたらしい。
実はこの三日で私自身も意外と悪くないかもしれないと思い始めた。

「紹介頂いた茶々円です。皆様の日頃の負担を減らす為に頑張りますのでよろしくお願いします。神多羅木先生は私を頭の上に乗せて下さい。邪魔かもしれませんがヘルメット替わりになりますので」

「学園長、高い能力があるのにヘルメット替わりという発言をするなんてどういう教育をしているんですか」

女性の方々の視線が痛い。

「いえ、ご心配なさらないで下さい。私の身体は壊れても修復可能ですから。それに小さい理由は大きくても私は直接戦闘ができず良い的になるだけですから、その代わり運びやすいようにという配慮です」

なんとなく、人間にしか見えない小さい子供を警備に使うというのがあまり印象が良くなかったらしい。
先生たちが慣れるまで待つとしよう。
きっと大人の身体なら身体で実力を証明しろ等と言うことになりかねないのでこれで良いだろう。

「学園長、私が責任を持って警備をしますので任せてください」

神多羅木先生はサングラスとヒゲのお陰でコワモテにしか見えないが、あれを取るとつぶらな瞳が隠されているパターンなのだろうか。

「それでは今日の警備も皆頼むの」

こうして私のある打算を抱えた計画を伴って、コワモテの先生が頭に子供を載せて警備するというシュールな光景が麻帆良の夜の日常に加わったのだった。

因みにこの茶々円の身体は恐ろしく軽いので神多羅木先生の首に殆ど負担はかからない。
軽く北国の頭に被る防寒具の役割みたいなものだ。

「神多羅木先生、前方200mに呪符使いと思われる反応があります。どうやら鬼を召喚するつもりのようです」

「分かった。茶々円君。確かに完全にサポート型のようだな」

「ええ、その代わり直接戦闘能力はほとんどないですが。しかし意外と麻帆良はタバコを吸う先生が多いんですね」

「スーツに匂いが付いているのがわかるのか」

「消臭しておきますよ。鼻の効く連中がいるとも限りませんし」

そう言って魔分でニオイの元を分解した。
便利である。

《そろそろ近いですが、お任せします》

密着しているのもあって念話も容易だ。

20体近い鬼が目視で確認できる。

神多羅木先生は射程範囲内の中距離から両腕を高速で動かし気を次々に放っていく。
はっきり言って先生の攻撃に対して鬼の動きが鈍い。

一匹倒しきれずに懐に潜り込んできたが、この世界との繋がりを絶ってやった。
完成している世界の連中は隣の芝生を見ていないで目障りだからじっとしていろ。

《今のは君がやったのか》

《召喚術師対策というのは伊達ではないということですよ。神多羅木先生の実力なら今のもなんなく回避できたと思いますが。呪符使いは右前方10mの木の影に隠れています》

そう伝えた先生は瞬間一気に距離を詰め同じように気を放った。

《終わりですね。まずは一人目、パーソナルデータ解析、魔力封印処理を実行》

呪符使いが魔分容量の器から術に変換できないように改変する。

「それが君の役目か。確かにこれで再度侵入はできなくなるだろうな」

「そういうことです、いつまでも夜になる度に不毛な争いを繰り返すのをやめて欲しいものです。送り返してこの噂が広がってくれればそのうち効果が出るのではないですかね」

「さっさと捕縛して次へ行こうか」

こうしてこの後直接1人の召喚術師の封印処理を施し、そうでない相手は神多羅木先生が早業で倒し、他の魔法先生達が捕まえてきた召喚術師については以下同様である。

「学園長先生、この子は召喚術師しか封印処理できないのですか」

高音・D・グッドマンというお姉さまな感じのウルスラの女子高に通う魔法生徒が言った。

「高音君、その子のする封印処理は召喚術師に対してのみ特殊な効果を持つものじゃからその話はあまり意味が無いのう」

実際には誰でも可能であるが、やりすぎるのも問題なので、一人で何体も呼び出して仕事を増やす相手のみにしたのである。

「学園長の言うとおりです、私の封印処理はそれ以外の人物に対しては並以下の効力しかありません。普通に封印処理をした方が良いです」

「失礼しましたわ。学園長先生、茶々円さん」

彼女は多分強力な封印処理ができるというのなら全部やったほうが良いと思っているのだろう。
正義感が強いらしい。

「それでは皆様今夜はこれで失礼します。マスター参りましょう」

このようにエヴァンジェリンお嬢さんの事は茶々丸さんと同じくマスターと呼ぶことになっている。
同時に緑色の方々も姉と呼ぶことになったのだが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

相坂さよです。
火星の様子は順調です。
ウルティマホラに向けての練習も順調です。
この身体は合気柔術を使うことはできても対人戦の経験がないのでそれを学習することは必要なのです。
ある時女子寮の裏庭で鈴音さんに相手をしてもらった事があるのですが、いいんちょさんにその様子を見られていたらしく学校で

「相坂さんも合気柔術を嗜んでいるのでわすね。身体が弱いと聞いていたので意外でしたが本当に大丈夫ですの」

と心配されたのですがどうやらいいんちょさんも合気柔術を含め色々使えるらしくそういう事ならと私は

「いいんちょさん、私はまだ中国武術しか相手にしたことがないんですが、違う流派の武術で相手をしてもらえませんか」

そういう訳で、あれよあれよという間に何故か大規模な施設で練習できるようになってしまい、古さんや鈴音さんは「なんとゆーか凄く広いアル」「流石雪広財閥ネ」と素直な反応をしていました。
ただ、成り行きで長瀬さんやなんだか面白そうという理由で腕に覚えがある人達も混じったりするようになっていましたが。
正直私の身体が弱いという設定は何処かへ吹き飛んでいったみたいでほぼ目的は達成されてしまいました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

クウネル・サンダースから重力魔法の情報について得るようになったのはいいのだが問題があった。
彼は重力球を発生させて対象を押しつぶすというものを得意としているのだが、これは物を引きつけるのとは形態が違うため転用が難しい。

《重力球を使って潰す魔法はよく分かりましたが、対象に対して重力を発生させるか地球の重力加速度を増加させる魔法というのは無いのですか》

「大戦を生き残ってきた私としてはそういった使い方ばかりだったのですけどね。なるほど、少し工夫してみましょう」

《重力魔法についての文献があれば見せてもらえるとこちらとしても何かできるかもしれません》

「それでしたら私が書いた本がありますよ」

という訳で彼が重力魔法の権威だった。
全く売りに出す気はないみたいだが。

《一つ聞いておきますが魔法世界と地球の重力は同じですよね》

「私は違和感を感じたことはありませんので同じだと思いますよ」

《それにも関わらず、魔法世界のある星は地球よりも小さいというのはどういうことなのか気になるのですが》

「そんなにペラペラ喋ってしまって良いんですか。なんとなくキノ殿が何を気にしているのか分かって来ました」

《あまり時間もないと言いますか、方法が早めに見つかるに越したことはないので。私はクウネル殿を少なくとも敵だとは思っていませんし。最近真面目に仕事を始めてみたら、この図書館島の地下深くにどういう訳かうまく偽装してあるゲートもありますし、心配で堪らないのです》

「それは初耳です…この図書館島にまさかゲートがあるなんて…」

《クウネル殿も気づきませんでしたか。要するにこの麻帆良学園都市は魔法世界からやろうと思えば、確率の高低を問わなければいつでも来ることが出来る可能性があるんです。しかもこのゲートの怖いところは地下に見事に埋まっているんです。魔法世界側からしかほぼ使えないと見て間違いないいでしょうし、またどこに繋がっているかもわかりません》

「私もそれは気になりますね。調べてみましょうか」

《いえ、やめておいたほうがいいですよ。かなり危険なニオイがしますから。精霊の私もこの100年の地上の発展に気を取られすぎたようです。魔法使いが頑張って穴を掘っているな程度にしか思っていなかったのですから。それに今はこの魔法の方を優先したいのです》

「わかりました。あなたがそういうのでしたらそうなのでしょう」

これは超鈴音の協力も得たほうがいいかもしれない。
火星にやむなく投げ出された人類が低い重力の中作り出した戦闘服に着目すれば魔法技術と併せてなんとかできるかもしれない。

《クウネル殿、私が興味を持っている自称火星人の超鈴音という少女がいるのですが彼女の技術は凄いものですので一度会ってはもらえませんか》

「キノ殿は先程から恐ろしい程厳重な結界を張っているようですが、どうやら私は既に巻き込まれているようですね。いいですよ、私の趣味に合っていたら尚良いですが」

《それは自分で判断してください。後、もう一つだけこの際もう一度確認したいことがあります。私は基本的に地球の事しかわかりません。魔法世界は時間的にどれほどの時が過ぎていますか。もっと具体的に言えば例の大戦で中心となった国の歴史は2600年以上を越えているのですか》

「オスティアに関しては数千年と言われていますから2600年は優に超えていると思いますよ。これは間違いないです」

《…ありがとうございます。ゲートが100年前突然稼働し始めたのはそのせいかもしれませんね…。いえ、とりあえずこの本の内容は覚えましたのでまた来ます。続きはその時にでも》

やられた…。
おかしいとは思っていたが、世界に穴を開けて入っていったのは間違いないがその後時間の流れがダイオラマ魔法球と似たような状況になっているのに気付かなかった。
世界の歴史も地球の暦を元にしているものだから整合性がとれていない。
この分だと完全な歴史であるという保証もないな。
というかこの世界の歴史を与えると言われた空間では、「全て」なんて一言も言っていなかったじゃないか。
今まで他の者達にも試させたことがあったが上手く言ったことはなかったというのが歴史の知識の有無だと思っていたがその辺りも関係ありそうだな。
5000年振りに過去を想い起すだなんて皮肉な話だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《超鈴音、二ヶ月振りですが話を聞いて下さい。今は大丈夫ですか》

《この感覚も久しぶりネ翆坊主。話なら私はこっちでハカセと会話しながらでも聞けるヨ。大体この会話法は加速してるからすぐ終わるだろう》

火星人は聖徳太子か。

《最近は日中も夜も忙しいようでやや心配でしたが超鈴音にはどうということもないようですね》

《当然ネ。この超鈴音に不可能はあまりないヨ》

地味に便利な言葉だと思う。

《赤き翼のアルビレオ・イマに興味はありませんか。今はクウネル・サンダースと名乗っているのでそう呼ばないと反応してくれませんが。個人的にまたやって欲しいことがあるので会ってもらいたいのです》

《翆坊主、私がこちらで調査しようと思てた相手に会わせたいんなんて相変わずネ》

《そういえば…そうなんですか。そこまでは知りませんでした。日取りですが我々はいつでも良いので都合の良い日をサヨに伝えて図書館島に来て下さい》

《やっぱり暇人なのカ》

暇ではないが暇がないかといえば暇になろうと思えばいつでも暇である。
ややこしい。

《不正解です。私は人ではありません》

《屁理屈はいいヨ》

はい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《超鈴音、図書館棟島にようこそ。私の所有物でもありませんが。まずは普通に入ってください。クウネル殿も近道を開けてくれるようですから》

《わかたヨ》

そう言って超鈴音の背後霊ではないが隠蔽モード全回で誘導していたところ忘れていた、あの部活の事を。
麻帆良学園図書館探険部である。

「あれ、超さんや~珍しいな。図書館探険部に入りに来たんか」

近衛門の孫娘だった。

《ここで彼女とその仲間に遭遇するとかなりまずいですよ》

《わかてるヨ。私はうまくやるネ》

「近衛サン私でもこれ以上所属する所を増やしても時間が無いネ。今日は少しここがどんなところか見に来ただけだヨ」

「それなら私達図書館探険部が案内するよ」

 孫 娘 の 仲 間 が 現 れ た 。

《超鈴音、天才でも早くもあまりない不可能が発生しましたね》

《隙を見て逃げ出すネ。誘導は頼んだ翆坊主》

《了解です》

それからというもの図書館探険部の彼女達は超鈴音を地下ではなく地上の建物から案内し始めたのだった…。

《なんというか彼女たちは実は敵なんですかね》

《わざわざ地上の方を案内するとは思わなかたネ》

「と、こんな感じが地上なんやけど、超さんこの図書館島は地下の方が実は深いんよ」

仕事をして充実感たっぷりの彼女達を見ているとなんともいえない。
何にせよ地下にやってこれた。

《後地下に二階分進んだら近道があるのでそれまで辛抱して下さい》

《突然消えたら心配しそうだナ》

《まあより彼女達がこの建物に興味を持つということで》

「そういう訳で私たち図書館探検部を、ってあれ超りんいない。消えちゃったよ木乃香」

「あれ、ほんまやなー。迷子になってしまったかもしれんな。探さないとやな」

《いや、本当に悪いとは思いますが思いの他隙だらけでしたね》

「意外と消えてもマイペースだったネ。大分時間が取られたがまだまだ大丈夫だナ。翆坊主案内頼むよ」

《任せてください》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《クウネル殿、やっと着きましたよ。やはり身体があるというのは不便なものですね。彼女が超鈴音です》

「あなたが超鈴音さんですか。頭にお団子ではなくネコミミなんていかがですか」

あーだめだ。なんとかしないと。

「超包子の肉まん買ってくれたら考えてもいいヨ」

この引きこもりはここから出るためには神木の魔分出力を挙げなければいけないため無理だな。

《時間も予想外に削られていますし、本題に入らせて下さい。超鈴音、火星の重力は地球と同じでしたか》

「いや、こちらの地球で既に計算されているものと同じだたネ。その代わり専用の服で重力の問題を補っていたヨ。翆坊主がやって欲しいというのはそれカ」

《そういう事です。クウネル殿は重力魔法に造詣が深いのでなんとかできないものかと。私としては質量を擬似的に増加させるという方法しか思いつかないのですがね》

「火星人というのは本当のようですね。驚きました、普通の少女にしか見えませんね」

「普通じゃないネ。私は麻帆良最強の頭脳超鈴音だヨ。赤き翼のメンバーに会えて光栄だナ」

こうしてこの日随分と長いこと二人は技術の収斂を行ったが完璧な解決には至らなかったため、また次回ということになったのである。
それでも、何かしら得るものがあったので良しとしよう。



[21907] 6話 年寄り達が未来に向けて
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 18:56
「ハッ」

雪広あやか流という合気柔術なのですが、武芸百般というのは本当の事のようで

「やっ」

オリジナルの技まで開発しているんですから凄いです。

「相坂さん、なかなかやりますわね」

古さんとの相手をしてもらうのと違って私が怖がって防戦一方になることもないので

「いいんちょさんが相手の練習は楽しいです」

「さよ、ワタシとやるのは楽しくないアルか」

「古さん、そんなことはないですよ。私の実力だとまだまだ古さんの相手をするには早いと思うんです」

「それなら良かたアル。強くなるよう練習するアル」

ウルティマホラが開催される時は体育祭の時期と重なります。
学園都市にある学校が同時期に体育祭を行い施設の都合、人数の多さの問題のために、各生徒は自分の出場する競技をクラス内で決める必要があります。
ただ学年毎に参加できる競技に割り振りがあるので、得意な競技があるとは限らないのですが。
例えば徒競走では1-Aからは陸上部の春日さんと毎日新聞配達をしている神楽坂さんが出るといったような形です。
基本的にウルティマホラが開催される日は一般の競技は行われないので気兼ねなく参加したい人は参加できます。
ウルティマホラの予選は年齢の近い者同士行われていき、勝ち残って行けば徐々に年齢が離れた人達との相手となるのですが、つまり今この施設で練習している人同士で本選のための予選を行わなければならなくなるということです。

「いいんちょさん達はウルティマホラに出るんですか」

「武芸は護身術として嗜んでおりますので大会には出ませんわ」

「拙者も修行ができるだけで結構でござるよ」

意外にも楓さんは出ないそうです。
忍者だと聞くと「拙者は忍者ではないでござる」といつも言っていますから一応隠すつもりなのでしょうか。
こうなってくると結局出場するのは古さんと鈴音さんと私の三人ということになりました。
鈴音さんはここでの練習に毎日来てはいないんですけどね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

精霊やってると壁とか床というものに本当に縁がない。

《クウネル殿、わざわざ超鈴音を連れてここまで降りてくるのに時間がかかるのですがもっと近道ありませんか》

「いつ言い出すかと思っていたんですがね。ここの奥に地上への直通エレベーターがあるんですが気づいていないのですか。超さんを面倒な方法で連れてくるあたりわざとやっているのかと思って私も道を用意したのですよ」

《あの奥ってただの空洞ではありませんでしたか》

「いつも色々無視して突き抜けてくるものだから空洞だと思ってるだけだと思いますよ」

こういう事だ。
半透明の姿に慣れすぎているとそういった乗り物というかこの類の物の事を失念しやすい。

《どうやらその通りのようです。次からは使いますよ、便利な乗り物。ところで私から言うのも何ですが超鈴音は魔法を世界に公表しようとする計画を持っていたんですよ。要するに本来はクウネル殿とこうして会うということには絶対にならなかった筈なのですがね。代替案が見つかって現在進行形ですから》

「そんなことまで私に話して良かったのですか。最近本当に口が軽くなりましたね」

《真面目に協力してもらいたいというのもありますが超鈴音は正真正銘ナギ・スプリングフィールドの子孫ですからクウネル殿も何か思うところがあるのではないですか》

「それまた爆弾発言ですね。私がここで果たす約束よりも先に更にその先の血縁者ということですか、面白い。なるほど、火星人で未来人ということですか」

《色々と代償を払ってたった一人でここまでやってきたんですよ。私はナギを見たのは10才のまほら武道会の時がほとんどですが、無茶なところは似ていると思います》

「あの頭の良さや話し方、苗字など大分似ているかと言われると同意できかねますが、確かにたまに仕草が似ているかもしれませんね。しかし、未来を変えてしまえば彼女は結局…」

《既にこの時間軸にやってきて定着している時点で、未来が変わったからと言って身体が私みたいに薄くなって消滅なんてことはありえませんよ》

「彼女は未来には戻らないのですか」

《戻らせるわけには行きません。超鈴音が未来に戻れば長時間跳躍に身体が耐えられず反動で死にますから。少女がそういう事になるのは世界の損失なのでしょう。安全に未来に送るならば100年冬眠させる方法がありますけどね》

「私としても美少女の死というのは避けたいですね。しかしその方法は時間跳躍と言えるのですか」

《クウネル殿も似たようなもの使ってるんですから気にしてはいけませんよ。過去を変えるのは大変ですが未来に逃げるだけなら簡単ということです。今日が嫌なら明日になるまで安全な場所で寝ていればいいだけなのですから》

「確かに今の私のようなものですね。時間旅行者としては、方向は違いますが同じようなものということですか」

《そろそろ超鈴音が図書館島に着くので先程の近道で連れてきますよ》

「私としても今の雑談で彼女とはただの他人という訳ではなくなりましたし楽しみにしていますよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《超鈴音、ウルティマホラも近いですが待っていましたよ。今日はエレベーターで行きましょう》

《翆坊主、何故前回それを使わなかたネ》

《一度ぐらい冒険を、と言いたいところなんですが忘れていただけです》

《昨日茶々丸のメンテナンスで翆坊主の親戚みたいのが実体化していた映像を見たがそんな非常識では世間でやていけないヨ》

《もうご存知ですか。あれもただの容器なので使ったら放置するだけなので今のところ困ってないんですよ》

《あの神木は本当に木なのか気になてくるヨ…》

《やりましたね》

《わざとネ》

他人がこのネタを使うとは思わなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「クウネルサン、前回来た時も思たが滝が周りにある空中庭園というのは風流なものだナ」

「そう言ってもらえたのは数年振りですよ超さん。精霊殿はこれよりずっと良い映像を見すぎていて特にコメントした事がありませんし」

《実際幻術の効果貼りつけてるだけなんですから、実物と比べられてもと思いますよ。空洞なのは事実ですけど》

「翆坊主、どんな映像見たことがあるネ。火星は荒野だたから興味あるヨ」

《超鈴音、クウネル殿、少し私の近況報告といきます。既に第二世代の神木は火星に到着しテラフォーミングを開始しています。しかし重力、大気組成、魔分の問題がありますから数ヶ月と言うところだったのですが実際もっと掛かりそうです。海だけは用意したいので氷が溶けるまで時間がかかりますし、これにも重力が関係ありますから。最速でも一年以上というところです》

「キノ殿、早い方がいいとは言っていましたが既に始まってるんですか」

「宇宙船使い終わたのなら研究させて欲しいネ」

《少しいきなり過ぎました。まあ遅かれ早かれということで納得してください。色々終わったら使っていいですが地球に戻すのがまた面倒なので当分お預けですし、公然と使えるようにするためには世界征服して下さい。火星と魔法世界の同調が現実化してきたということは人間と亜人との接触という新たな問題が起き、結果として魔法が世界に公表されるのも近いということですから。ファーストコンタクトは重要ですよ》

「それは確かに失敗できませんね。しかし、こちら側に同調させる必要はあるのですか」

《クウネル殿は知らないかもしれませんが、魔法世界は第二世代の神木がなければ今から11年程で崩壊します。それが完全なる世界やメガロメセンブリアが動いている理由でもあります》

「翆坊主、クウネルサンに教えてしまていいのカ」

《重力魔法の問題が大きいですが、どちらにしろ、いずれは話さなければなりません。それに超鈴音、いくら一人で大抵なんでもできる無敵超人であっても、少なくとも裏切らない味方はできるだけ多くいた方が良いですよ。少し他人に協力をしてもらうだけではなく頼る事も覚えてはいかがですか。そろそろ心の底から此処で生きたらどうですか。納得できるかどうかはともかくとして私は歓迎しますよ》

「失礼ながらナギの遠い血縁者だと聞かせてもらいましたが、先程の話はこのための前振りだったのですね。超さん、最終的に決めるのはあなた自身ですが、私がいることを言いふらさなければ、ここには来たい時にいつでも来て構いませんよ」

「……」

流石に超鈴音は黙った。
わかっていてこういう会話の流れに持っていったのは悪いとは思うが、これもある側面の事実だ。

《超鈴音、別に返答を求めているわけではありません。無意識に今の時間が夢のようなものだと感じているのではないかと思ったのです。超鈴音は今ここにいるんです。事実1-Aというクラスに友人もいます》

「…わかたヨ。その言葉は受けとておくネ翆坊主、クウネルサン」

「あなたの中で何か意識が変わると良いですね」

《精霊のおせっかいということで心のどこかに留めておいて下さい》

「しかしキノ殿、さらりと流してしまいましたが魔法世界の崩壊とは穏やかではありませんね。私の仲間もあちらにいます」

《そういう訳でクウネル殿も積極的に協力する理由ができましたね。因縁のある完全なる世界も含めて》

「この前は巻き込まれたと言いましたが、今巻き込まれて当事者になれて良かったですよ。少し話が長引きましたが前回の続きと行きましょう」

こうして少しだけ明るくなったように見える超鈴音と図書館島の司書、精霊は重力魔法の研究を続けたのだった。

そして時間が限界を迎えたところでクウネル殿が徐に

「蒸し返すようですが、超さん、本当の名前はスズネ・スプリングフィールドなのではないですか。音をシェンと呼ぶのは変わっていますし、超という苗字も所属名という感じがします。そうであれば屋台の名前にも付けるというのも自然な気がします」

世界の歴史では超鈴音で統一されているがどうなのだろうか。
言われてみると本名を隠しているという可能性は高いな。

「ははは、勘が良いねクウネルサン。本当に、予想外な事が起きすぎだナ。本名は火星でも隠す必要があたから私も殆ど印象にはないがその通りだヨ」

「もしやとは思いましたがなるほど。事情があるようですしこれまで通り超さんと呼ばせて貰いますよ」

《私もそれは知りませんでした。超鈴音が超家家系図という資料を持っているのは知っているので本名だと思っていましたが》

「翆坊主、覗いたのカ」

元々知ってるのは覗いているのを含んでいるような気もするが、睨まないで欲しい。

《元々知っていたんです。何度も言いますが超鈴音は今ここにいる、ただそれだけです》

「まあいいヨ。色々終わたら宇宙船貰うネ。少女のプライバシーを侵害した罰ネ」

「キノ殿はイタズラも程々にした方がいいですよ」

イタズラではない、これは。
ここにいる三人は割と性格が悪いかもしれない。

《もう好きにしてください。私たちはなんというか性格が悪いという点で似ているかもしれません》

「おやおや、私は違いますよ」

「翆坊主と一緒にされるのは心外ネ」

間違いないと思う。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「茶々丸姉さん、運搬ありがとうございます」

「妹の為ですから」

四葉さん並の優しさを感じる。
しかしマットを用意してくれと言ったのは確かだが、あれからいつの間にか大きめの猫用の丸い寝床に小動物のように寝かせられているのを見た。
茶々丸さんの認識では猫のようなものという事なのだろうか。
エヴァンジェリンお嬢さんはその辺り全く興味ないらしい。

二週間程警備に参加しているが、召喚術師の数がやはり減少傾向にある。
裏は裏で情報が流れるのは早いということだ。
関西呪術協会に接触するのももう少しという所だろうか。
そうこうしている間に神多羅木先生の所に到着である。

「神多羅木先生、茶々円を連れて参りました。よろしくお願いします」

「ああ、いつも悪いな。それでは茶々円行くぞ」

「神多羅木先生今日もよろしくお願いします」

この二週間で君付けは取れた。
戦闘中に念話する際にわざわざという事らしい。
合理的だ。

《噂が広がったのかわかりませんが、最近直接侵入者があたって来る事が少なくなりましたね》

《数自体が減少しているからな。効果が出ているというなら良いことだろう》

《一番近いところで隣の葛葉先生の所ですが行く必要ありませんね。その反対で葛葉先生の剣術の生徒さんが無駄に突出していて囲まれていますから行ったほうが良いかもしれません》

《葛葉を心配する必要はない。ここは生徒に加勢するべきだろう。誘導を頼む》

《了解です》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《本当にうんざりする程数が多いですね。教師が居ないところを一点突破するつもりなのでしょう》

《動くから落ちないようにな》

そう言っていつものように射程圏内に距離を詰め無詠唱の気の衝撃波を死角から打ち出したのだが

「「「「出たな緑のグラヒゲ!!!討ち取れー!!!」」」

と元々こちらを向いていた奴らに叫ばれ

《神多羅木先生、二つ名ですよ嬉しいですか》

《少し黙っててもらえるか。片付ける》

それからはあっという間だった。
納得のいかない呼ばれ方をした神多羅木先生は容赦が無く、孫娘の護衛も体勢を立て直し、龍宮神社のお嬢さんもやってきたとなっては一方的なものだった。

「お三方、術師が逃げ出しました。追跡お願いします」

その後もあっさり術師二人は捕まえたのだが

「おい、緑のグラヒゲとはお前らが伝えてるのか」

神多羅木先生は意外と気になるらしい。

「鬼達が勝手に話題にしているだけだ、我々はそんな事は知らぬ」

との事。
速攻で気絶させられました。
しかしやはり奴らは意外と暇らしい。
そもそもこちらで倒されても還るだけだなんて虫が良すぎる。

「神多羅木先生、封印処理実行します」

「ああ、頼む。桜咲、いくら神鳴流が前衛だからと言って突出して窮地に入ってしまっては意味が無いぞ。葛葉にその辺りも鍛えてもらうんだな」

「はい、ご迷惑をお掛けしました。精進します」

龍宮神社のお嬢さんがこっちを凝視してるな…。

「龍宮神社のお嬢さん、麻帆良の警備ありがとうございます。何か私にご用でしょうか」

「いや、済まない。少し違和感を感じただけだ」

中に入っているのが精霊体の大きさとずれているのがバレているらしい。

「良い目をお持ちですね。神多羅木先生封印処理終りました。行きましょう」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「刹那、あの光景は最近よく見るようになったがどう思う」

「さっき注意されたが笑いそうになって大変だった。真面目に先生が話かけてくるのにあの子が頭にしっかりつかまって一緒にこっちを見てくるんだから」

「だろうな。私も頭に乗せてみたいよ。いや、しかし注意されていたこと自体は心に留めて置いたほうがいい、私もはぐれた時は肝を冷やした」

「分かっている。済まない龍宮」

「次から気をつければ良いだけだ。やれやれ、肩車している親子が少し過激な散歩をしているようにしか見えないな」

という会話があったとかなかったとか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

明けて翌日。
近衛門の所に来ている。
クウネルに話したなら個人的に話す分には同じだろう。

《近衛門殿、二つほどお話があります》

「おおキノ殿、警備に参加してもらえるお陰で大分負担が減ってきて助かっとるよ。して今日は何かの」

《先に口外して欲しくない事から言いますので結界を張らせて頂きます。超鈴音ですが結果から言えば彼女の当初の計画は中止になりました》

「ふむ、超君の計画がなんじゃったのかも良く解らんが違う計画はあるという事かの」

《その通りです。ですが新たな計画は麻帆良で行う物ではありませんので監視の目はもっと違う所に回したほうが効率的です。その計画は私から頼んだものでもあるので、広い目で見れば最善なのですが、やはり魔法使いの立場からすれば異端かもしれません》

「監視の目を他に回せと言うても、もう少し具体的な事を言ってもらえんと動きにくいの」

《…分かりました。魔法世界は後11年程で世界を維持できずに消滅し、火星に地球出身の人間が投げ出されます》

「そ、それは本当なのかキノ殿。本国からはそのような知らせは受けておらんぞ」

《本当です。この事実を知っているのは前大戦を起こした完全なる世界の残党と本国の一部の人間です。この本国というのとこちらの繋がりが問題なのでこうして結界を張っているわけです。超鈴音はその未来の火星からたった一人でやってきたのです》

「確かに本国での極秘情報がこちらに漏れていたら問題になるの。超君はそういう素性じゃから昨年以前の情報が掴めず、あんなにも技術力が高いんじゃな」

《今はこれぐらいしか、と言ってもほぼ核心と言えるのでご理解頂きたい。因みに違う計画には既に図書館島のアルビレオ・イマ殿にも協力頂いていますので確認をとることができます。食料などを提供していた所からすると近衛門殿は彼の事をご存知だったのでしょう》

「何じゃ、アルも協力しておるのか。ふむ、図書館島に超君が行くのにも監視が強いと確かに困るじゃろうな。その辺りはなんとかしておこう」

《ありがとうございます。くれぐれも口外しないように願います。事態が本格的に動き出すのは早くても1年、もしくはそれ以上かかると思います。精霊の予想から言うと、A組という舞台から起きる奇跡の物語と重なるかもしれませんね》

「わかっておるよ。あの学年のあの子達は歴代の中でも恐ろしいほどに濃くての、儂としてはクラスを決める際に反対されたんじゃが、勘が働いての、一つにまとめたんじゃ。キノ殿も何か起こると思うという事は間違いではなかったんじゃな」

《私は人間ではありませんから、近衛門殿が私よりもいたずら好きでたまに問題を起こすのも気にしません。大体何か起きても最後は丸く収まるのですから良いと思いますよ。あのクラス編成は本当に、昔からの事ですが近衛門殿の勘の良さと言いますか人を見る目がどれほどなのか分かりますね。恐らく他人には全く理解できないと思いますが》

「そう言ってくれるのはキノ殿だけじゃよ。最近はしずな君やタカミチ君が厳しくての」

《恐らく見ているだけなのが地味にストレスになっているのでは無いですか。近衛門殿の昔を思えばもっと自分から動くタイプでしたよ。ストレス解消というのは何ですが、警備で暴れてみてはいかがですか》

「それは自覚しとらんかったかもしれんのう。確かに久しぶりに動いてみるのも悪くないかもしれんな。ところで二つ目というのは」

《失礼しました、忘れてしまいそうでした。一つめの口外できない事の問題から前回も言いましたが東と西の争いをさっさとやめて貰い問題を減らしてしまおうというのが目標です。そこで私が警備で行っている封印処理を受けた陰陽術師も増えてきている事ですから、時期を見て、この封印を解くという条件から麻帆良の手出しを控えてもらいたいと思っています。当然あちらはそれを無視して攻撃するという手段がありますから、この際それを切り口にして麻帆良に呪術協会の支部を何らかの条件付きで建てさせてしまえば良いのではないですか。実際この地に対する興味を諦めさせるというのは無理な話なのですから》

「そういう思惑じゃったか…。確かにここ数日あの封印処理は一体なんだと向こうから苦情も入っとるから絶対に無理とはいわんが…。割と精霊殿は気楽に言うがかなり難しいじゃろうな」

《それでも、近衛門殿なら不可能ではないのでしょう。私も詠春殿には近いうちに会いに行きますし。それに超鈴音なら「麻帆良最強頭脳のこの私に任せるネ」と必ず言いますよ》

「…キノ殿は本当に超君を気に入ったのじゃな」

《正しくは待っていたというところなんですがね。近衛門殿にも同じような人物が少ししたらきっと現れますよ》

「…ふむ、分かったわい。この近衛近衛門、一肌脱ぐとしようぞ」

《久しぶりにその生き生きとした姿が見られて嬉しいですよ。ご協力感謝します》



[21907] 7話 体育祭!
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 19:09
鈴音さんが3日前図書館島からふらりと帰ってきた時様子がおかしかったんです。
何かあったんですかと葉加瀬さんと一緒に聞いたのですが

「気にしなくていいよ。少し思うところがあるだけね」

喋り方にも元気が無く珍しくそのまま直ぐ寝てしまいました。
なんだか儚げな話し方で普段見れない一面を見れた気がしました。
しかも二日続けて同じような状態だったので昨日クラスの皆も

「超りん元気ないけどどうしたの」

と心配していたのですが、何か思いつめたような顔をして塞ぎ込んでいました。
これには古さんも声をかけにくかったらしく2人で話したのですが

「超はすぐに元気になるアルよ。私は信じてるアル」

古さんは何か思うところあるらしいです。

「そうですね、私も信じます!」

そして今朝。

「さよ、ハカセ、私は今此処にいるよ」

以前にも増して明るい魅力的な笑顔でした。
ただ明るくなっただけじゃないみたいですね。
なんというか無理をしていない自然な印象がありました。

それから鈴音さんは学校に着いた途端古さんに宣戦布告したんです。

「クー!ウルティマホラは絶対に私クーには負けないネ!」

教室の入り口で堂々と宣言した顔は凄く嬉しそうでした。

「超、元気になたアルか!その勝負受けて立つアルよ!」

熱い空間が形成されて皆も驚いていましたね。
とにかく鈴音さんが元気になって本当に良かったです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

10月10日から3日間体育祭の始まりです。

実は超包子の稼ぎ時でもあるのです。
なんといっても小腹が空いた時に肉まんを片手に食べられるんですから昼時の人気は凄いものです。
勿論クラスの競技にはしっかり参加していますよ。
因みに私は一応バレーボールに参加しています。
今はクラスの皆と徒競走系の種目の応援に来ています。

はっきり言って1-A強し!です。

短距離走は神楽坂さんと春日さんの独壇場。
軽く計測しても何かの新記録だと思います。
二人三脚は鈴音さんと古さんが本当に足に紐付けているの、という速度で爆走。
息が合いすぎです。
障害物競走は楓さんが、気がついたらゴールにいるという有様でした。
忍んでください!

応援している私達のテンションも異常な盛り上がりで若干他のクラスの人たちが引いていましたが今更気にしません。

バレーボールも正直容赦ありませんよ。
1-Aは龍宮さんを始めとして身長が年齢の割に高いんですが、それを他クラスと行うと一方的でした。
相手のスパイクは全てブロック、しかしこちらのスパイクはザルのようにコートに吸い込まれていくんです。

バトミントンも同じ体育館で行われたのですが桜咲さんがラケットを振るのが早すぎて見えません……。

「このクラスなんなんだよ、ありえねぇ……」

という長谷川さんの呟きも周りからすれば当然かも知れませんが残念ながら同じクラスなんです諦めてください。

あっと言う間に1日目が過ぎ、2日目に突入しましたがエヴァンジェリンさんが大将をする騎馬戦はギャラリーが多すぎでした。
大学の方から本格的な機材で撮影されていたのは流石にやりすぎだと思います。
さながら戦場を駆け抜ける戦女神のようで通り抜けた後には鉢巻は一切残っていませんでした。
そういう意味では良い映像だったかもしれません。

2日目が終わった後、超包子を1-Aで貸切り打ち上げです!

「いや~私たちのクラスは凄いアル」

「皆さん凄い勢いでしたからね」

「まさかこんなにトロフィーが一箇所に集まることになるとは思いませんでしたね」

「1-Aなら十分にありえることネ。皆、今日は超包子からのサービスだからどんどん食べていいヨー」

「ちゃおちゃおありがとー」

「四葉さん料理美味しいよ」

皆幸せそうで良かったです。
高畑先生も呼んだので途中から打ち上げに参加してくれたのですが、トロフィーを皆からプレゼントされて大変そうでした。
はっきり言って多すぎるんです。

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そして3日目、ウルティマホラ当日です。

場所はまほら武道会と同じく龍宮神社にある会場で行われます。

「昔のまほら武道会とはやっぱり雰囲気が違いますね」

「さよは幽霊の時に見たのカ」

「幽霊の時は学校付近に縛られていたので見れなかったですけど、翆色関連で見せて貰ったことがあるんです。活気が違いますね。なんというか今がある程度落ち着きがあるとしたらアレはなんでも有りという感じです」

「また翆坊主カ。前に凄い映像があるのとは聞いていたが見せて欲しいネ」

「私も鈴音さんに見せたい映像があるんです。どうやって見せればいいかわからないんですけどね」

「方法は私に任せればいいヨ。なんとかしてみせるネ」

「キノにも言っておきますよ。そろそろ私達の予選始まりますね。古さんはもう始まってるみたいですし」

「枠の数から見ても午後の本選で当たる事になるかもしれないネ。古も待てるヨ」

「はい!」

午前で一気に人数を減らすものの本選の枠は東西の1から32までのトーナメント二つで構成されていて、その総数はなんと64です。
ベスト8までを決定するため総試合数は67に登ります。
実際これでも少ないぐらいかもしれません。
3万人が通っていると言われる麻帆良学園都市ですからそのうち武術を嗜んでいる人口は千人単位になるのは間違い有りません。
ここまで言って本選に残れるのか心配になってきました。
良いことなのか悪いことなのか、どうも私が勝ち抜いていく必要のある地区は古さんとも鈴音さんとも違うので頑張って残らないといけないようです。
予選自体は大きく4地区で年齢は中学生から始まり徐々に混合して行き16ある枠まで残れれば本選出場です。
しかしそのため予選は迅速さの観点から一試合3分のみという超短期決戦で、不当に動かない場合は判定で不利になります。
また、勝敗に関しては使用する格闘技の何らかの技が決まった段階で勝ちとなり、その判断の難しい打撃技に関しては審判の判定で決定されます。

因みに私はいいんちょさんから大会に出るならばどうぞと貰った道着を来ています。
とてもデザインが良く着心地もぴったりでなんだか頑張れそうな気がします。

そうこうしているうちに私の試合の番がやってきました。

「両者共に礼!」

審判の人たちも沢山居ますが麻帆良各地にある道場の人達や学校の武術系の部活の先生が担当しています。

「「よろしくお願いします!」」

「試合始め!」

さて始まりました、相手は男子でどうやら中国武術の使い手のようです。
はっきり言って、いつも二人に相手してもらっている私にとっては何ということもありません。

「せいっ!」

掌底を叩き込んできましたが逆にそのまま勢いを利用し投げ飛ばします。

「やあ!」

ドサッという音とともに間違いなく決まった筈です。

「勝負有り!勝者相坂さよ!」

少し緊張しましたが、次から忘れていた精霊のズルを使って予選を切り抜けることにします。
これで全く焦ることなく落ち着いて対処ができます。


……やはり1-Aは異端です。
気がつかないうちに一般人の枠を殆ど飛び出しているのがよく分かりました。
相手が突っ込んできた場合は冷静に受け流してそのまま技を決めて終了。
相手も様子を見るタイプの場合はいいんちょさんに習った「雪中花」で一発ダウン。
いいんちょさん、一般人相手にはとても使い勝手が良いです。
この技をほいほい避けるのがあの二人ですからここまでうまく決まるとなんだか楽しいんです。
残念ながら予選なのでこの様子をクラスの皆に見せることはできませんが。
途中生理的な壁としてレスリングの使い手の男性等が立ちふさがりましたが16枠の一つを無事獲得することができました。
本戦出場が決定してから、同じ合気柔術の使い手さん達から応援されたり、何処の道場に通っているのかと聞かれたりして少し困りました。

古さんの方も決着が着いていたようですが、聞こえてきた話では一発打ち込むと試合が終わるという本人は全く満足できていなさそうな内容でした。
正直あの威力の打ち込みを喰らった人たちの安否が気になりますが……。
私も思い出すとあの恐怖はなんともいえないです。
鈴音さんの場合は加減するのでもう一つの地区は大丈夫だと思いますけど。

「古さん!私も本選出場まで行きましたよ!」

やっと見つけたので声をかけて報告です。

「おお、さよも本戦出場アルか!あまり手応えのある相手見つからなかたよ」

「さっき話しが聞こえてきたんですけど全部一発で終わったらしいですね」

「その通りよ。少し寂しいアル」

そこへやってきました。

「やはり二人共本選出場したカ。あまり強い相手がいなかたから当然ではあるが」

「超!待てたアルよ。これで三人揃たな」

「本選の組み合わせが決まるまで時間がありますし、近くに四葉さんが超包子を構えてるので行きましょう」

「腹がへては戦はできないネ」

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超包子でお昼ごはんを食べている途中、鈴音さんによると私たちがいなかった地区にかなり強い大学生がいるという事がわかりました。
要注意です。

食べ終わって時間も丁度という所でいいんちょさん達が応援に来てくれました。
私はいいんちょさんに練習に付き合ってくれたお礼を言って本選も頑張りますと伝えました。

本選は予選と異なりベスト16までは、3分3ラウンドで2本先取した段階で勝利、それ以降は5分3ラウンドとなり少し余裕ができます。
これはあまり長引くことによる疲労を考慮しての事らしいです。

「超、さよ組み合わせが決またみたいアル!」

あ、本当です。
係員の人達が組み合わせを貼り出していますね。

「私は古とは三回勝ち上がればあたるナ。さよは東側のトーナメントだが例の大学生がいるようだから気をつけるネ」

「超、正々堂々決着を付けるアル!」

「全力を尽くすヨ!」

私は二人と当たるとするなら一番上まで上がらないといけませね。
頑張りましょう!
因みに例の大学生の名前は三谷さんというらしいです。

さあ、いよいよ本選の始まりです!

とはいったものの東トーナメントでの初戦もやはり大したことがなく、最初に突っ込んできたので軽く見切ってぽいっとして、次は様子を見ていたようですが隙をついて「雪中花」で見事に勝利です。
なんというか全体的に動きに速さが足りません。

順調に勝ち上がった鈴音さんと古さんですがとうとう約束通り向かい合う事になりました。
クラスの皆も引き続き見に来ています。

「クー、この時を待てたネ!私の全力を受けるヨ!」

「超!いつもより良い顔してるアル!楽しくなて来たアル!」

「試合始めッ!」

お、驚くほど鈴音さんが積極的です。
いつも武術では古さんが一歩上を行くところですが今日の鈴音さんの気迫は観客からも簡単に感じられる程です。

「超りん達の試合見たの始めてやけどすごいな~」

「ここ最近修行で良く見ていたが今の超殿は輝いているでござるな」

「楓さんもそう思いますか」

「これなら拙者も出てみたかったでござるよ」

凄いです、楓さんの目が開いていますよ!

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後足の踏み込みから、掌底を繰り出し古の腹部を捉えたかと思たが、一瞬で後退するカ。
しかし、すかさず追い打ちを掛け回し蹴り!

「くぅッ」

避けきれず左腕でガードされたがダメージは通たネ。

ッ!右手が瞬時に足を掴もうとしてくるあたり反応が早いヨ!

「させないネ!」

足を戻しながら左で手刀を腕に向けて放つがこれは体勢が悪いナ。

「甘いアルッ」

動作を中断し咄嗟に身を屈めて足払いとくるカ。
しかしまだだヨ!
敢えて体勢を崩させバク転の要領で初期位置に戻るネ。

「隙有りアル!」

早いヨ!もう突きが来るのカ!
一度場外に出るッ

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一度鈴音さんが場外に出るまでの一連の流れは一瞬でした。

「瞬きしていたら見逃してしまいますわね」

やっぱりいいんちょさんも非一般人です。
目で追えてる時点で十分凄いですよ。

反対側の方で既に鈴音さん達に負けた人達も見ていますが視線が追いついていません。

「いや~肉眼だとよくわからないけどビデオカメラ持ってきて良かったね。これは良い映像になるよ」

朝倉さんは流石に動体視力が追いついてないみたいですが、報道関係者として嬉しそうですね。

最初の三分間を制したのは判定勝ちで鈴音さんでした。

「私としてはクーには一本決めたかたヨ」

「今日の超はやはりいつもと違う。さきの蹴りは効いたネ。でも次は私の番アル!」

2ラウンド目に入ったら一転、古さんの猛攻が始まりました。
鈴音さんが反撃する隙が無く、あっても牽制程度という所ですがッ!

見事に古さんの掌底が入りこれで一本。
一対一となり次で決着です。
他でも試合が行われていますが、ここの空気だけが一層際立った緊張に包まれています。
気がついたら見ているだけなのに手に汗をかいていました。

「く…クーは本当に強いネ。一体故郷でどんな修行したのか気になるヨ。…しかし、まだ、まだ終わらぬヨ!」

ゆっくりと立ち上がりながら話す鈴音さん。
物凄い気迫に審判の先生も思わず後ずさりしています。
しっかり判定して下さい!
さっきの一撃はかなり効いているようです。

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2ラウンド目の古の一撃は直撃だたから立ているのも辛いがまだ終われないネ。

様子見で既に軽く打ち合っているが埒が開かないヨ。

仕掛けるしか無いッ!
下段に右で蹴り、身体を捻って左回し蹴り、そのまま背を向けた体勢から当て身!

ハハ…クーの捌く技術は高いナ、蹴りも威力を殺され当て身も後一歩というところで身体を引かれたヨ。

一旦距離を取り直すカ。
しかし、やはり辛いナ。

「クー、次で決めるネ」

「私の一撃を受けてみるアル!」

恐らくこれで最後ダ。
練り上げた気と共に足を踏み抜き全身の力を

右腕に乗せて突くッ!

…古の奴、わざわざ寸勁を拳にぶつけて来たネ。

ガッ!

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拳と拳がぶつかり合うという漫画のような展開が起きましたが、一瞬間を置いて鈴音さんが膝を着いて崩れ落ちました。
古さんの力が全身に伝わったようです。

「超、とても良い試合だたアル。今のは効いたネ」

崩れ落ちた鈴音さんを咄嗟に支えた古さんが言いました。

「……クー。……私は此処に居るヨ」

「超、当たり前アル。私達はずっと友達アル!」

「……そうカ。そうだナ。ありがとう、クー」

試合中の張り詰めた空気は一転し、二人共清々しい表情をしています。

「お疲れ様です!鈴音さん!古さん!とても想いの伝わる良い試合でしたっ!」

応援に来ていた皆も感動して一帯が拍手に包まれました。

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今のがベスト8の戦いで行われていたらもっと盛り上がっていたかもしれません。
でもそんなのは二人にはどうでも良い事だったようですけどね。

私はベスト16まで上がって来たところなのですがとうとう例の三谷さんと当たる事になりました。
割と小柄ですがどうやら合気道を使うらしいです。

因みに私の合気柔術は正式には大東流合気柔術と言い、合気道との相違点は合気道の方がより大きな円の動きで技を掛けるという点にあります。
後は武道の思想が異なり、その影響で合気柔術にある危険な技が省かれている傾向にあります。
と言っても私も使えはしてもそういう技は使わないので、ある意味合気道の方が向いているんですけどね。

そうこうしている内に試合が始まります。

「よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いします」

「試合始めッ!」

三谷さんはとても落ち着いていてそれでいて自然体でありながら全く隙がありません。
困りました。

う~ん、いいんちょさんも見ていますし「雪中花」行きますッ!

「ハッ」

と思ったんですが、あれ!?

「ひゃあっ」

空中が見えます。

ドサッ

「一本!」

いたたた、気がついたら5m程投げ飛ばされてあっさり一本とられてしまいました。
なんですか、物凄く強いですよ、なかなか強いとか大嘘ですよ!

2ラウンド目はさっきの失敗を活かしてじりじり距離を縮めて様子を見ます。
はっきり言って近づいたら気づいた瞬間に投げ飛ばされているんですから近接技は自殺行為です。

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「かえでサン、先程のあれは見えたカ」

「拙者も驚いたでござる。合気道は和の武道と申すがあれほどの達人なら下手に手を出せば一瞬で決まってしまうでござるな」

「私もあの方の噂を聞いたことはありましたが、あれ程とは思いませんでしたわ」

「相坂が苦戦しているようだな」

「龍宮サンも来たのカ」

「ここは私の実家だからな。しかしあの分だと三谷さんの方が実力、経験共に上だろうな。古の相手になるとしたら天敵になるだろう」

「確かに古の攻撃力は一般人としては麻帆良一と言ても過言ではないが受け流されてしまえば辛いネ」

「あ!三谷さんが動きましたわ!」

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「わぁっ!」

早すぎます。
地面を滑るように目の前に現れたかと思ったら少し肩をぶつけられただけで吹き飛んでしまいました。

起き上がろうとしたら続けて投げられます!
本当に一般人ですか!

「一本!勝負有り!」

……ああ、古さんと当たるという夢は儚くも潰えました。

「ありがとうございました」

「こちらこそ楽しい試合でした。ありがとうございます」

あまりにもにこやかな笑顔で挨拶を返されました。
負けたのですが、あまりにあっさりしすぎていて全く根に持てません。

はぁ……。

「さよ、お疲れ様だたネ。あの三谷サンは仙人みたいなものだネ。極地に到達していると言てもいいヨ」

「気にすることはないさ相坂、ここまで上がって来ただけでも凄いことだろう。トーナメントだとこういう事はよくある。恐らく彼が相手では今回は古も勝てないだろう」

「私もあの方を見てまだまだ精進が足りないと思い知らされましたわ」

「拙者もいいものが見れたでござるよ」

「皆さん、ありがとうございます。古さんの試合を応援しに行きましょう」

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結果として古さんは頂上まで上がって行きましたがやはり相手として立ちふさがったのは三谷さんでした。
「さよの代わりに私が倒すアル!」
と物凄い勢いで突撃したのですが
「おろ!?」
と一瞬にして投げられてしまいました。
2ラウンド目も体良く投げられてしまいましたが、今度は空中で体勢を立て直すという離れ業をやってのけ、そのまま一撃を加えることに成功しました。
古さん凄い!

が、その一撃はどうやらわざと受けたらしく、カウンターを放たれあえなく2連取されてしまいました。
相性が悪すぎますね。
所謂麻帆良の夜の警備で必要とされる技能とは正反対を行っています。
魔法、気有りの勝負であれば間違いなく倒せる筈ですが、こういう所が武術大会が武術大会である所以なのでしょう。

それでも古さんはウルティマホラ初出場にして2位という快挙です。

「三谷さんの詳細が分かりましたわ。今年で大学を卒業され麻帆良から出て就職されるそうですわ」

となると来年は古さんの優勝は固いかもしれませんね。

「皆、負けてしまたアルよ」

そういいながらも楽しそうな古さん。

「くーふぇ惜しかったねー!でも2位だよ2位凄いよ!」

鳴滝姉妹が大騒ぎです。

「古さん、2位おめでとうございます!」

「クー、おめでとうネ。来年は私と優勝を争うヨ!」

そのまま古さんの胴上げをして1-Aのテンションが上がりまくりの所、表彰式だから場所を開けて欲しいと係の人達に言われるまで、賑やかな空間が形成されていました。

こうしてこの後表彰式を迎え、1-Aのクラスに昨日に引き続きメダルが更に増えました。
その後古さんの知名度は一気に上がり、色々な武術系の部活やサークルからのスカウトが朝の日常に加わる事になったのです。
また、朝倉さんはインタビュー記事を担当することになり、撮影していた映像も相まってかなり気合の入った記事が掲載される事となりました。

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無事にウルティマホラも終わったようだ。
別に狙ったわけではなかったのだが超鈴音の心境の変化には良い舞台となったようで良かった。

因みにサヨが一瞬でやられた、ウルティマホラで一位を取った麻帆良大4年の三谷祐介さんは、武田惣角の弟子でもある植芝盛平が開いた合気道の門下の中では史上2人目と呼ばれる程の達人だそうだ。
因みにウルティマホラ出場は今回が始めてであったそうな。
流石麻帆良、天才がいても仕方ないのはいつもの事らしい。

この後は変わらぬ日常に戻り彼女たちは中間試験に突入することになる。


ところで火星の様子だが、地下にある氷の塊の扱いが難航している。
以前楽観的に出した数ヶ月という期間では到底終わらないだろう。
火星の大きさと第二世代の大きさの関係も地球と神木・蟠桃と同じような釣り合いが取れてはいるが、いかんせん環境が過酷であるため時間がかかる。
超鈴音の重力技術も、身体強化系の側面が強く星全体に張り巡らせる術式となると、軽く新たな試みになりそうだ。
とにかく、まずは出来ることから潰していこう。



[21907] 8話 第一段階完了
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/17 17:41
中間テストも終り既に11月に入った。
相変わらず4位までは独占できているのに下に偏りが多すぎて1-A自体は相変わらず最下位のままである。
まあ、そんな事は当人達の問題である。

《超鈴音、聞こえますか。一ヶ月振りですかね。その後調子はどうですか》

《本当にたまにしか連絡してこないんだナ。翆坊主達が言てた言葉だが、私自身完全にとは言えないが納得できたヨ。以前よりも世界が色付いて見える》

《それは良かった、私としても嬉しいです》

《重力魔法の件だが、機械で発動させる訳ではないからなかなか進まないヨ。私自身も魔法を試して研究してみた方が早いだろうナ》

やはりこういう事になったか。

《そうですか…。まだ火星の方も準備万端という訳には行きませんから急を要するわけでもないので焦る必要はありません。でも呪紋回路の使用は認めませんよ。今度会ったら消したいぐらいなんですから》

《翆坊主、さよは除くとしても私には随分贔屓するネ。精霊にも恋愛感情があるのカ》

どちらかというとエヴァンジェリンお嬢さんに対してやったことの方が余程贔屓のような気がするが。

《どうでしょうかね。以前にも言いましたが私にとって超鈴音は5000年の願いそのものなんですよ。ある意味恋愛という概念の上を行っているかもしれません。贔屓して当然です》

《大胆な発言ネ。しかし悪い気はしないな、違う道を与えてくれた事には感謝しているヨ》

《そう言ってもらえるだけで私は精霊やって良かったですよ。その魔法ですが、直接我々の処置を受ければ使えるようになりますが、これは魔法先生達が突然超鈴音から魔力が感知できるようになったら面倒です。別の手段としてアーティファクト狙いでパクティオーする方法もあります。恐らくそれで解決できると思います》

アーティファクトは確実にチートな物になる。
間違いない。

《なるほど、確かに前者は厄介だネ。後者は契約執行を利用しての魔力供給という事カ。しかし半透明でも可能なのか翆坊主》

《魂があれば大丈夫という事らしいですから、大丈夫ですよ。そうなるとキスによる方法になりますが、身体も用意できるので血による契約も可能ですよ》

《ははは、あの茶々円という小さい奴カ。神多羅木先生の頭の上に乗っているのは本当に面白かたヨ》

面白いのか。
シュールなだけだと思うのだけれど。

《私が唯一真面目に使っている身体なのですがプライバシーが侵害されてますね》

《翆坊主だけには言われたくないヨ!》

《いや、仕事みたいなものですから諦めてください。それでどうしますか》

《そうだナ。恋愛感情などという枠を超えた深い感情だと言うのならばキスで構わないネ。その代わりこの前無視された映像を提供してもらうヨ》

身体用意するとなると契約する場所が恐ろしく面倒になるから良かった。

《承知しました。まあキスと言っても半透明なので一切感触はないのですがね。そうでした、サヨにも言われてた映像ですけどこちらとしては元々渡す気だったんですよ。ただ方法がクウネル殿と同じようにする訳にも行きませんからどうしたものかと》

《なんだかプレゼントする気あると言われると拍子抜けだネ。クウネルサンにはどう渡したんだ》

《彼のアーティファクトは他人の半生を記録するという代物でして見る事が出来るわけです。当然まずい映像に関しては選択除外してありますが》

《そういう事カ。サヨの計算能力で前から思てたがあの木は有機物の割には演算処理に優れ過ぎではないのカ》

《ええ、超鈴音にはこの際なので言いましょう。神木・蟠桃の中身は確かに有機物ですが、同時に恐らく世界最高の有機コンピューターでもあります。情報の保存容量もほぼ無限と言っても過言ではありません》

《やはり木では無かたカ。そんなに高性能の割に互換性が無いとは笑えるネ》

確かにパソコンに繋ぐことができないのは皮肉な話だ。

《なるほど、それは言い得て妙です》

《ふむ、ここはマッドサイエンティストの魂が疼くネ。翆坊主達が用意する身体ではなく、茶々丸のような電子機器にも接続できる身体ならば解決するのではないカ》

《それなら出来るかもしれませんね。ああ、でも葉加瀬さんにはどう説明するんですか。サヨは彼女にはまだ一応幽霊のような物という解釈がなされていて精霊だとは知らないと思うのですが》

《その辺りは幽霊のような物で通せばいいネ》

それでいいのか。

《実際その身体にさよが入てくれれば様々な研究が捗ること間違いないヨ!》

なんかテンション上がってて若干サヨの安否が気になる。

《確かにそうかもしれませんが、精霊を計算器に使うというのはなんとも言えませんね》

《多少の非人道的行為も科学のためなら少し目を瞑るネ》

…そういえばそういう人達だったな。

《正確には人ではないですけどね。でもさよの人権はしっかり確保して下さいよ。慣れたとは言ってもまだ復活してから1年も経ってませんし》

《わかてるヨ。無理強いはしないから安心するネ》

《私は超鈴音を信じていますからね。では都合の良い時にクウネル殿の所で仮契約しましょう》

司書殿にからかわれるとは思うが気にしたら負けだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

11月も半ば、茶々円として魔力封印を始めておよそ二ヶ月強。
そろそろ詠春殿の所に行こう。

《サヨ、少し遠出して来ますので大丈夫だとは思いますが、木に変な事が起きないか少しだけ気にかけて下さい》

《了解です。キノ、どこまで行くんですか》

《京都まで木乃香お嬢さんの父親に会いに行くんです。日帰りで戻って来ますから特に問題ありませんよ》

《え、なんかズルいですよ!お土産買ってきて下さい》

いや、半透明でどうしろと。

《物を持てない身体では無理ですし、お金もないですから諦めてください》

《そうでした!私大分身体がある事に慣れてきて混乱してました。あ、木は任せてください》

《はい、よろしくお願いしますね》

では、いざ出発。

いやー久しぶりにこの速度で飛行するが、ソニックブームが発生しないし本当に安全だ。
霊体とは素晴らしいものだね。
抑えているとは言っても、十数秒で到着するのだから、異常なスペックだ。

関西呪術協会総本山に到着と。
昔はこの辺りも何もなかった、と言っても数百年前の事だから当然か。

詠春殿は何処だろうか。
木乃葉さんの結婚式の時に遠くから見て顔は覚えてるし大丈夫だろう。
しかし、巫女さんが多いな。
いや、予想はできていたが権力の使い方に問題あるだろう。
赤き翼ってナギ少年にしろクウネル殿にしろそういう辺り常識というかなんというか。
不毛すぎる、他人の趣味にとやかく言う事はやめよう。

執務室を発見したが、ああ、いたいた。
仕事しているな。
なんだか処理している書面の内容に心あたりがあるが…ある意味好都合か。

《近衛詠春殿、初めまして木の精霊をやっているキノと申します。以後お見知りおきを》

この方法の自己紹介も久しいな、司書殿振りか。

「ん、空耳が聞こえたような…。おお!坊や誰だい。って幽霊か!?」

あー、仕事に熱中すると声が聞こえないタイプの人か。

《いやいやいや、もう一度名乗りますが、私は木の精霊をやっているキノと申します。半透明なのはそのためで幽霊ではありません。近衛門殿から翆色がどうとか聞いたことありませんか。因みに詠春殿のお嬢さんは元気ですよ》

「…これは失礼しました。麻帆良の神木の精霊でしたか。それに木乃香も元気なのですか、ありがとうございます」

突然改まられたな。

《お仕事中ですが失礼します。それと既に結界を張らせて頂いていますのでここの話はむやみに口外しないということでお願いします》

「分かりました。それでどのようなご要件ですか」

《今処理してらっしゃる書類ですが、根本的な原因は私です》

「そ…それはどういうことですか」

《呪術協会も一枚岩では無く、勝手に過激な行動を取る一派がいます。度々彼等は麻帆良にちょっかいを出すので、私が絶対に解けない魔力封印を施した訳です》

「話では翠色の幼児によくわからないうちに封印をされて一切魔力を用いる術が使えなくなったと聞いていたのですが、ああ、そういう事ですか」

陰陽術は簡単ものなら気で発動する事が可能であるため、完全に術を封じるというのは不可能であり、これが彼らのメリットでもあるが、少なくとも鬼の召喚には必ず魔力が使われる。

《しっかり説明しますと、ある事情から東と西で争うのをやめていただきたいので、おいたをする術師の魔力封印をして麻帆良の負担を減らしつつも、この封印処理を解く事を条件に夜中麻帆良に侵入するのをやめて欲しいと交渉に来たのです》

「……しかしそれは私が長であっても難しいことです」

《もう一つ譲歩する計画がありまして、この際呪術協会の支部を麻帆良内に建ててしまえば良いというものです》

「そんな事が可能なのですか。いくら東の長といえど本国がそれを認めるでしょうか」

《そう言われればそうですが、私は近衛門殿を信じています。本国が認めないとしてもなんとかねじ込んでしまいたいですね。木乃香お嬢さんを中心に一悶着起きるのを防ぐなら早い方がいいですし》

「それは、木乃香が危険な目に会うという事ですか!」

流石娘の為ならという気迫だ。

《麻帆良にいる限りは安全でしょう。夜の侵入者は多いですが。動機としてはやはり関西呪術協会の長の姫でありながら西洋魔術の本拠地に何故送るのかというなんとも視界の狭いものが一番ありえます。だったら麻帆良に支部建てれば文句無いでしょうという事なのです》

「確かに、その件ではかなり揉めましたからね」

《揉めたということは解決していないという事ですから、災の種は生えないようにするべきです。後一つ、これは絶対に口外しないで欲しいのですが、後11年程でこのまま行くと魔法世界は崩壊し消滅します。精霊としてはこれを防ぐ用意を行っているのでその結果として、今のこの程度の低い争いを終わらせる事に尽力して欲しいのです。目下としては近いうちに近衛門殿から来る交渉への下準備をお願いしたいのです》

「魔法世界が消滅する等と全くそのような情報は入っていませんが」

《本国の一部の人間と詠春殿が戦った完全なる世界の残党しか知りませんからね》

「そうですか……。東の長が動くのであれば西の長である私が動かない訳には行きませんね。分かりました、やってみましょう」

《ご協力感謝します。あまり詳細な事は言えませんがいずれわかると思います。大人の役目とは次世代の者達の生きる世界を一時的に預かる事なのですから、自信を持って引き継がせられるような物にしたいですね》

「全く、その通りですね」

《因みにその報告に上がっている翠色の幼児は近衛門殿の作品という事になっていますのでうっかり精霊だなんて言わないでくださいね》

「精霊というのは意外と詐欺みたいな事もするんですね。しかし安心して下さい、漏らしたりはしません」

《詐欺みたいな事をしなくて済むなら、なんて良いのだろうと思います。さて、そろそろ失礼します。では》

まあ大体近衛門に話したことと変わらないが、近衛門が電話等をするよりも安全かつ確実に伝えられるので安心だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、二週間ほどまた過ぎている訳だがサヨ、超鈴音、葉加瀬の最近の行動といえば例の新しい身体!を目下作成中である。

《超鈴音、例の身体はできましたか》

《翆坊主カ。あと少しという所ネ。茶々丸のケースがあるお陰でかなり楽にできるヨ。ああ、仮契約だが今日学校が終わたらで構わないネ。ついでに重力魔法の研究も進めるとしよう》

《映像が本当に電子データになるのは楽しみですね。是非それで資金調達するといいと思いますよ。麻帆良創設100年の歴史であるとか、大自然の四季なんかは割とごまかしさえすれば売っても問題ないと思います。後は、まほら武道会の全ての内容であるとか、火星へ飛ばした際の宇宙の神秘なんかは個人的に楽しんでください》

《やはり随分隠し持ていたようだネ。しかも売ていいのカ》

《世界征服にはお金がどうしても付き物でしょう。精霊には必要ありませんし、協力して貰っているお礼という事です。ただ、マズイ映像は葉加瀬さんには見せないで下さいよ》

《わかてるヨ。それでは後でまた会おう》

実際の所既に超鈴音の財力は相当な物になっている。
量子力学を始めとする特許は勿論、超包子の営業収入、株式投資等による資産運用も行っているからだ。
その分研究費用等も莫大な金額がかかっていることがしばしばではあるが。
後は裏の関係とも一部繋がりのある雪広グループと手を組めれば地球側の金銭で解決できることはほぼカバーできるようになるだろう。

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「クウネルサン、久しぶりだネ」

《今日は少しこの場所を借りさせてもらいますよ》

「ええ、どうぞ私も重力魔法の件は発想は色々と出てくるのですが、なかなかこれと言ったものが得られませんでしたからね。何をするのか知りませんが気分転換がてら見物させて貰いますよ」

《超鈴音、仮契約の前にその痛々しい呪紋回路を削除してもいいですか。それは確かにあなた達の覚悟の現れでもありますが、私はその全身に刻まれているというのが嫌いなんです。その対象が超鈴音であれば、尚更です》

「翆坊主、これは確かに辛い物だが忘れる訳にもいかぬのだヨ。……少なくとも今はまだ消さないで置きたい」

まあ素直に消して良いと言うとは思っていなかったが。
それでも、いつかは消させて欲しいところだ。

《……分かりました。多分そう言うのではないかと思ってはいましたが、それでは仮契約をしましょう。クウネル殿、そういう訳で仮契約の魔法陣お願いできますか。恐らく知っているのでしょう》

「実にまたはっきり来ましたね。ええ、私は赤き翼やそれ以前にも仮契約をしたことがありますからね。用意しましょう。しかし超さん、精霊と仮契約とは豪華ですね」

「私自身には魔力容量が存在しないからネ。重力魔法の研究に私も実際に実験をしたほうが糸口が見つけられるだろう」

「それで呪紋回路がどうとかという話だったのですね。超さんが魔法を使えれば研究も捗るでしょうね。……さて、書けましたよ」

《それでは超鈴音を従者とする仮契約を行ないます。良いアーティファクトが出ることを祈りましょう》

「できるだけ使い勝手の良いものがいいネ」

精霊体の状態で口付けを行った訳だが、やはり感触は一切ないものの繋がりができたのは確認できた。

《完了しましたね。カード自体はどうで……す……か……?》

「フフ、超さん、カード自体色々面白そうですね」

司書の顔が楽しそうだ。
カードの色調だが翆色を基調とした虹色だ。
自己主張が激しすぎる。
あの宇宙船並だ。

《派手な色ですね全く》

「称号は時をかける征服者……カ。皮肉なものだナ」

《なんだかカードからアーティファクトも随分なものが出るのが予想できるのですが出してみてはどうですか》

予想しなくてもかなりズルいものが出る筈だ。

「わかたネ。アデアット!」

アイテムが出なかった。
しかし身につけている服が変化したりという事も一切無かった。
問題なのは目だろう。
虹彩が明らかに不規則なパターンで輝いている。

「超さん特にアイテムを得た訳ではないようですが、どのようなバグのある効果でしたか。どう見てもおかしな現象が起きていますね」

バグ前提で話を進められたが実際間違いではない。
もう、見てわかる。

「これは……翆坊主、他の人間とは無闇に仮契約しない方がいいヨ」

ああ、相当チートだな。

《ご忠告感謝しますよ》

「アーティファクトの名前は『世界樹の加護』。形のある物ではなく概念そのものというところカ。効果は複数あるネ。時間無制限の契約執行が従者側から任意に発動可能。精神力の強化。演算能力の強化。視野の拡張。思考の加速。とこんな感じだヨ」

魔分出力が異常すぎる。
調節はできるのだろうが粒子状のフィールドが形成されている。

《前半部分聞く限り要するに電池ですね》

「キノ殿、自分で言って悲しくないのですか」

電池をバカにしてはいけない。
非常に重要な役目を果たしているのだから。

《まあ、実際それを狙っていましたからね。人と直接争うのを善しとしない精霊としては丁度いいかもしれません。しかし、殆ど精霊の能力と同じものが、劣化バージョンと言えど付与されるというのも手抜きな感がありますが》

「翆坊主、時間無制限の契約執行と精神力の強化というのはいくらなんでも魔法使いに喧嘩を売りすぎだヨ」

それが電池の仕事です。

「視野拡張も単体で、千里眼として存在してもおかしくない筈だが、特典の一部に含まれているだけの扱いというのはズルいネ。精霊はいつもこういう世界を見ているのカ」

実際視野拡張を行うということは情報量が増えるわけで結果として演算能力の強化も必須、疲れないように精神力も強化もあった方がいい、既に超鈴音が会得している思考の加速は周囲の状態を瞬時に判断するためにというところだろう。
まあこれがデフォルトで備わっている木の精霊も精霊だが。

《それは観測している時です。霊体の時は一般的な視野に視野範囲外の動きが感知できる程度に抑えていますよ。しかしアデアットする前に結界張っておいてよかったですよ。なかったら周りにバレバレですからね》

「これほど純粋な魔力の元のような物を感じたのは初めてですよ。大は小を兼ねると言いますし特典が多くて良かったですね」

「……そう言われるとそうだナ。どういう効果か分かたから戻すネ、アベアット。しかし、魔法を使うのに結界が必要となるとダイオラマ魔法球を用意しないと不便だヨ」

「キティは持っていますがね。まほネットでも相当高いですが売っていたと思いますよ」

《それでも超鈴音の財力なら余裕でしょう》

「ふむ、ここに来る時以外の為に用意する事にするヨ」

《時間設定は現実の時間と同じにして下さいね。タカミチ少年と同じような結果になるのは勧められませんし》

「直接見てはいませんが、タカミチ君はまほネットで写真を見る限り随分老けましたからね」

《その代償に強くなったのも事実ですが。とにかく、超鈴音の性格から言って便利だという理由で葉加瀬さんと一緒に篭もりそうなので先に釘をさしておきます》

「私も年を重ねすぎるのは勘弁だヨ。高畑先生が年齢の割に老けているのを実際に見ているからナ」

《さて、まだまだ今日は時間ありますし重力魔法の研究をお願いします。結界貼りますからアーティファクト使って良いですよ、出力の調整もしないと眩しくて見てられないですし》

「初の実験といこうカ」

こうして準精霊化するアーティファクトを手に入れた超鈴音は人外の域に更に近づいたのだった。
呪紋回路を使わず肉体的痛み無しで発動できる魔法に年相応の少女らしく少し楽しそうだったのは印象的である。

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皆さん、最近私は実験動物に近いです!
葉加瀬さんと鈴音さんの目が何かおかしいです。
特に葉加瀬さんの眼鏡が怪しげに光過ぎです。
しかもとうとう昨日「新しい身体!」というのが完成してしまい、早速パソコンを指先にある端子と接続しています。

「ハカセ、まず円周率の計算からやってみるカ」

「はい!相坂さんがどれぐらいの速度で計算できるのか気になっていたんですよ!茶々丸より早いと期待しています!」

えー、計算器扱いですかー。

「さよ、本気で頼むネ!」

そんなに期待した目で見ないでください。

「わ、分かりました。頑張ります。計算開始です」

まあ私はこれやっても全く疲れないので構わないといえば構わないですけど何か違う気がします。

「す、凄いですよこれは!こちらのパソコンの性能と計算に使用するプログラムから考えても驚異的速度です!」

葉加瀬さん、こっちの世界に戻ってくださーい。

「まさか数秒で桁が兆に届くとは思わなかたヨ。幽霊のような何かというのは凄いネ、さよ」

鈴音さん、幽霊のような何かって全然分かりませんよ。

「超さん、これなら私オカルトも信じられる気がしてきました!」

葉加瀬さんは落ち着いてください。
何気に誤魔化されている事に気づいてください!

「これだけ異常だと記録の更新の申請はやめておいた方がいいナ」

あえて性能が高くはないプログラムで計算したらしいのですがこの様です。
これから計算器としての生活がより増えそうです。

「私はこれから毎日計算することになるんですか」

死活問題です。

「無理強いはしないから安心するネ。しかし、とりあえず今日は記念に色々データを収集してみたいからお願いするヨ」

……どこまで尊重されるかやや怪しいですが信じることにしましょう。
これもキノが何かを鈴音さんに吹き込んだのが原因のようなのですが、どうやら映像を渡す為の方法という事らしく、それなら仕方ないかなという感じです。

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仮契約から一週間程して超鈴音から手に入れたカードを通じて連絡があったが、念話は傍受される可能性があるのですぐに粒子通信に切り替えた。

《超鈴音、新しい身体!というのが完成したそうですが、映像のためにわざわざ三次元映像技術まで用意したのはやりすぎではないですか》

《翆坊主、精霊とやらの視野拡張を体感した私からすればこの用意は当然ネ!》

楽しそうなのは何よりだ。

《それで、ああ、今は寮の部屋にその身体を持ち込んであるから葉加瀬さんがいないうちにという事ですか》

《その通り、ハカセはこの数日で得られた計算結果で大学に泊まりこみ中だからネ。今のうちに渡してもらうヨ》

《分かりました。ただ次からはアデアットした状態でなら粒子通信できる筈ですからカードを使った念話は控えてくださいね。契約執行もオフでお願いします》

《アレはそんな事もできるのカ。翆坊主一旦接続を中断して、こちらから実験してみるネ》

あの粒子フィールドからすればできない筈がないと思う。

…………。

《……翆坊主、聞こえているカ》

まあ予想通りだ。

《おめでとうございます。これで晴れて双方向通信ができるようになりましたね。サヨとも離れていてもいつでも話掛けられますよ》

《これは本当に便利だナ》

《直接的な武器アーティファクトよりは日常生活向けですからね。それではしばらくお待ちください。私は龍宮神社のお嬢さんに見つかると面倒ですので》

《ああ、魔眼だたカ》

龍宮神社のお嬢さんの位置を観測。

餡蜜食べてるから大丈夫だろう。
さて、出発。
寮に来るのは二度目だが無駄に大きい建物だ。

《超鈴音、着きましたよ》

「見た目はさよに似ているが早速入るネ」

そう、この新しい身体!というのはサヨの見た目に耳のアンテナがついているという物である。

「なんというかいつもとは少し異なる感じですが、悪くはないですね。では接続しましょう。ところでそちらに大量に用意してあるハードディスクは何ですか」

「念の為ネ。5000年分も保存できるか分からないが沢山用意したヨ。ついでに三次元映像が表示されるように接続するネ」

どんだけ見たかったんだこの火星人は。
確かに加速させてみると面白い映像とか、感動の生命の神秘とかあるから期待は裏切らないだろうが。

「では最初に公開できない映像から行きますよ」

華の誕生と、打ち上げから火星への旅、まほら武道会史、麻帆良地下施設ガイド、リョウメンスクナの生態から順に、容量が割とすぐに限界を向かえるので取り替えながら続けて麻帆良創設史、大自然編と……。
あれ、ちょっと渡しすぎたかもしれない。
まあ大自然編は多すぎて全部入りきらなかったが。

「……翆坊主、まさに生ける化石だナ」

「超鈴音、調子に乗りすぎて渡しすぎました。情報管理はしっかりお願いしますよ」

「…………」

見入っていて全く聞こえていないようだ。
華の誕生は気に入ったらしい。
まあその感動は分かるが。

「超鈴音!聞いていますか!」

「……!翆坊主、何か言たカ」

「調子に乗りすぎて渡し過ぎましたので、情報管理は確実にお願いします」

「安心しろ。この超鈴音に任せるネ」

暗に見ているところ邪魔するなという短い反応をされた。
まあその辺りは天才を信じるとしよう。

そうだサヨに連絡するか。
身体がベットに放置されているから浮ついているのだろうが。

《サヨ、超鈴音に映像を渡しましたが、自分で渡したかったですか》

お礼をしたいという事は言っていたからあり得る。

《えー!渡しちゃったんですか!私が見せたかったのに!》

《ええ、楽しみを取り上げたようですいません。で今何処に、ってまた映画館ですか、相変わらず好きですね。今超鈴音が映像を鑑賞している所ですので、一緒にいかがですか。火星のテラフォーミングについての映像は完成したらサヨが今度渡して構いませんから》

《むー、分かりました。今からすぐ戻ります。って私の新しい身体!使ってるんですか!》

何か言ってるが気にしないことにしよう。

「サヨもなんとなく呼んでおいたのでしばらく鑑賞するとしましょう」

この後サヨは自分のいつもの身体に戻って鑑賞することになり、似たような容姿が二人揃う事になった。
この日は葉加瀬が帰ってくることは無く夜遅くまで、延々と見ていたのだった。
超鈴音が満足そうだったのは良かったと思う。

「翆坊主、是非昔のようなまほら武道会をもう一度開いてみたいネ。当時10歳のご先祖様の映像は圧巻の一言だヨ」

やはりそこに興味を持ったか。
浮遊術、虚空瞬動使えて当たり前の10歳というのは……後に起きることになるだろうが、やはり異常だ。

「私も直に見てみたいです。って誰が鈴音さんのご先祖様なんですか」

「さっきの赤毛の少年、ナギ・スプリングフィールドですよ。因みにこれは絶対に口外しないように。制限かけときますからね。大会を開くだけであれば、財力と技術力で外部に情報を漏らさないようにできるでしょう」

「あの男の子ですか!……でも髪の毛の色が違いますね」

いや、そりゃそういう事もあるだろうよ。

「ふむ、実現に向けて準備してもいいナ。私も航時機を使えばアレぐらいの動きはできると思うネ」

「いや、短時間であってもあれは身体に反動が蓄積されるのでやめて下さい。アーティファクトで慣れれば実現できますよ」

「キノ、アーティファクトというと鈴音さん誰かと仮契約したんですか!」

ああ、まだ一週間だったから言ってなかったか。

「私達、正確には神木と仮契約です。実際に行なったのは私ですが」

「その通りネ。このアーティファクトでさよとも安全に通信できるようになたヨ」

「キノ、また私に内緒でそういう事したんですか……。通信というと粒子のアレですか、それは便利ですね。それにしても……なんだか私も少しそういうアイテム欲しいです」

精霊は精霊の時点でアーティファクトの塊のようなものだが。

「サヨ、私達が積極的に戦うというのはあまり良い事ではありませんし、私達自身アーティファクトのようなものですから隣の芝生のような物ですよ」

「そうですね。こういう時は気にしないのが良いんですよね」

大分思考が伝授されているが精霊としてのおおらかな心という奴だ。

「ダイオラマ魔法球が手元に来たら私も研究の合間に訓練してみるかナ」

「どう他人に『世界樹の加護』の説明をするかが面倒ですが訓練自体は良いことだと思いますよ」

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そして季節はいよいよ寒さが本格的になる冬に入った。
学生達は期末テストも無事かどうかは人それぞれだが終り、今は冬休みという状況である。
この間超鈴音はダイオラマ魔法球を入手し寮の部屋から出たり入ったりを繰り返しながらも重力魔法の研究と忍ばない忍者達が好きそうな修行を行っている。
他にも資金面で例の映像の加工なども行ないどうするか画策している。
近衛門は本国と麻帆良内に呪術協会の支部を建てる事の交渉を本格的に行い始め、詠春とも秘密裏に連絡を取り合っているようだ。
茶々円としての立場でも相変わらず順調に面倒な術師を片っ端から封印するという作業を続けているが少しずつ侵入者が物理攻撃重視型の奴らに変わりつつあるため狙い通りといえば狙い通りだが厄介である。
サヨは相変わらずの生活パターンを繰り返しているが、学生のアルバイト収入としてはかなりの額を、寒さも本格化して人気も絶好調の超包子で稼いでいる。
これには超鈴音が色を付けた事が起因しているようだが、計算器としての労働等を考えてみても等価交換ということで納得しておくべきだろう。

一方、最近の精霊の仕事といえば相変わらず観測を行いつつ、火星のテラフォーミングを徐々に進行させている。
大きな成果としては、過酷な環境にありながらも木のフル稼働により大気組成に占める酸素の割合が3%を超えたことだろう。
また、クウネルと超鈴音の考えたこれはと思えるような重力魔法の術式を試しに火星の一部での実験も行っているが、そろそろ確実な成果が出そうではある。
そろそろ第二世代の神木に名前を付けても良いと思うが第二世代という言い方はこれはこれで良いような気もする。
何か良い呼び名を付けたいところだ。

さて、ここで難航している地下の氷の問題を例に見てみよう。
魔分でゴリ押す事で溶かす事はできるのだが、火星の平均表面温度は-63度、平均気温は-43度と極寒である。
平均どころか北極に近い所に定着した第二世代は本当に凄い。
神木付近は以前サヨが驚いていたように、常に魔分保護により地中活性などが行われているが、その影響外になった途端、溶かしてもすぐに凍ってしまうのである。
これを根本的に解決するためにはやはり火星自体の重力を強化することによって、大気圧の大幅な上昇とスケールハイトと呼ばれる大気の厚さ自体を現在の11kmから半分近くに持っていく必要がある。
また、他の大きな問題として火星の磁気圏というものは微弱であるため太陽風を防ぐのが困難である。
そのため、これは先の薄い大気とも関連して、火星地表に到達する電離放射線の増加を引き起こし、生物が健康に生きていくという点で障害となる。
その有害さは地球と火星の軌道上での値を比較しても2.5倍を越える。
解決策としては磁気圏自体の強化があり、星の核に存在する金属物質の量を増やすことが単純な策ではあるが、これはいくら赤い地表の原因である鉄分があるとは言っても地道に地下に送る事は現実的ではない。
違うアプローチの方法として火星地下奥深くの冷えてしまっているマントル層を強制的に活性化させマントル対流が安定するまで持っていくという方法があり、これは可能性があるだろう。

いずれにせよ、まずは重力である程度解決ができる。
また対策はあるにしても、保険として役に立つ物として華が期待できる。
あれは有機結晶型の宇宙船、同時に魔分結晶体でもあるが、実際に人類が乗っても宇宙空間内で健康上問題なく過ごせるという驚きの性能である。
亜空間が内部にあるので必要な機能かどうかはこの際置いておこう。
つまり宇宙放射線対策は万全であるため、改めて魔分有機結晶と呼ぶが、これと同等とは言えなくとも近いものを精製し粒子状にして軌道上にばら撒くという方法が放射線緩和に役立つ筈だ。
これの情報自体は木から創られたものなので既に手元にあり、最初の面倒な取り組みを省略できる点はかなり楽である。
そのため超鈴音には重力問題が終わったら次にこの奇跡の物質の研究を行ってもらいたいと思う。
それにしても新年を迎え14歳になる火星出身の少女は本当に大忙しだ。

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そんなある日であったが新年を迎えた瞬間超鈴音の叫び声が粒子通信で入って本当に驚いた。
恐らくサヨも驚いていることだろう。

《これで重力の問題は解決したも同然ネ!根本的に重力という所から少し離れて発想の転換が必要だたとは素晴らしいブレイクスルーを達成できたヨ!》

なんと大晦日にも関わらずダイオラマ魔法球の中で過ごしていたらしい。
恐るべし超鈴音の集中力。
年末年始というイベントは一切無視であった。

《鈴音さん!とうとう完成したんですか!今もう年明けてしまったんですけど蕎麦食べていたんですが一度出てきて葉加瀬さんと一緒に食べませんか》

サヨは復活して初めての年越ということもあり蕎麦を食べていたようだ。

《超鈴音、どうやら重力の件解決したようですね。本当にありがとうございます。今日は休んではいかがですか》

《サヨ、翆坊主か、思わず粒子を加速させてしまたネ。そうだナ、積もる話は後にしよう》

しばらく待つとしよう。

「相坂さん突然びっくりしてどうしたんですか。蕎麦が喉に詰まったりしたんですか」

「葉加瀬さん、大丈夫ですよ。もうすぐ鈴音さんが出てきますから一緒に食べましょう」

「超さんやっと出てくるんですね。今日も出てこないかと思いましたよ。それにしても魔法は私にとってはオカルトのようなものではありますが、あの魔法球という技術は一度入ってみましたが凄いですね」

そこへ丁度良く鈴音さんが出てきました。

「いや~いい成果が出たネ。さよ、ハカセ、あけましておめでとう。私も蕎麦を食べさせてもらうとするヨ」

「あけましておめでとうございます超さん」

「あけましておめでとうございます鈴音さん。蕎麦はもうありますからどうぞ」

「これは美味しいネ。日本の伝統とは良いものだナ」

この後私達は蕎麦を食べた後龍宮神社に行って初詣に行きました。

「二人は何をお願いしましたか」

「私はロボットの進歩で心おどるような成果が出るようにですかね」

いつも通りの葉加瀬さんらしいです。

「野望の成就と世界平和を願たネ」

とても壮大です。

「あ!超さん達も初詣来てたんだねー!」

とクラスの皆さんも後からやってきました。
いつも寮の食堂や大浴場で会いますからさっき会ったばかりという感じではあるんですがね。
今日は寮の門限が午前2時までという事なので皆と少し話をした後一緒に寮に戻りました。

明けて次の朝、寮の食堂ではおせち料理が出て感動して、その後皆で改めておみくじを引いたり、お守りを買ったり絵馬を書いたりとやることはやりました。
なんといっても私には60年ぶりのお正月ですから。
引いたおみくじの結果は小吉というなんとも言えない感じでしたが、体調に気をつけるべし、なんて言われてもこの身体はハイスペックなのでそんな事関係ありませんよ!
お守りは巫女さんをやっている龍宮さんに勧められてなんだか色々買わされた気がします。
早乙女さんの絵馬を書く速度が物凄く早い上に一緒に書いていた絵も上手かったです。
いいんちょさんや近衛さん達の着物姿はとても様になっていました。

そして午後、葉加瀬さんは新年早々大学の研究室に行ってしまい、私達は鈴音さんからの報告を受けることになりました。

《では重力の件の報告を始めよう。以前に翆坊主が考えた星の質量を擬似的に上げるというものだたが、これは維持のために魔分の無駄遣いでしかなかたから却下だたネ》

《そもそも無い質量を増やすというのは人間の一般的な生活規模であればなんとかなりますが惑星規模になると困難でしたね》

《加えてクウネルサンと共に研究した重力魔法を地表に張り巡らさせるというものだたが、術式に範囲指定が必要で大気の層を引き寄せるほどの出力は得られなかたナ。しかしこれは組み合わせには使えるヨ》

《何度も図書館島に篭った甲斐があるならば嬉しいですね》

《今回私が考えた方法はズバリ変身魔法ネ》

《鈴音さん突然違う魔法ですね》

《変身魔法という言い方は語弊があるが別に実際に見た目が変わるわけではないヨ。正しくは惑星そのものにあたかも大きさが変わるかのような術式をかけて、惑星自体に錯覚させるものだ。人間には見てもわからない、星の自己催眠とでも言えばわかるカ。先の質量操作の方は無いものをあるようにするのは魔分の無駄遣いがあたが、逆に星の大きさを擬似的に小さくする方法ならば魔分効率も良く、火星の半径が短くなる偽装の結果、重力加速度を増加させられるヨ》

《その術式もなんとも随分無理がありそうですがよく開発できましたね。進化ができる人間は、時間がある意味止まっている我々精霊に比べて発想力という点で遥かに上を行きますね》

《お褒めに預かり光栄だナ。続けるが計算の結果火星の半径約3397.2kmを約2084kmになるような術式で解決するネ。因みに、この術式は弄られたら終りという危険性があるだろうから強力なプロテクトをつけておいたヨ。アーティファクトの効果で得られた演算速度を参考にして断続的に変化する乱数を鍵にした。これなら神木レベルのスペックが無い限りは誰にも介入不可能だろう。後は組み合わせる重力魔法だがこれはそのまま外側に向けて保険として発動するタイプのものにしたヨ。二つある月の軌道万が一にもズレてこないとも限らないからネ。実際試さないとわからないが、少なくとも公転軌道に大きな変化はないだろうからその点は安心だネ》

《月が落ちてきたら大変ですよね》

《しかし5000年間超鈴音を待って本当に良かったですよ。気になるのは魔分使用量ですが、地球の大きさを蟠桃一本で支えられていますから恐らく大丈夫だと思います》

《これで未来の故郷の悲劇が回避できるならば私としても努力した甲斐があたネ》

しかし、まだ終りではないんだ。

《超鈴音重力の件だけでも感謝していますが、これでまだ一段階目です。二段階目はわかりますか》

《この超鈴音が気づいていないと思うカ。実際に住んでいたのだからネ。宇宙放射線の事だろうが、木のおかしな力で地中活性ができるのではないのカ》

《という事は未来ではその方法が確立していたのですか。私達の得て居る情報では結局耐えきれずに滅びに向かったということしか知らないので》

《故郷ではマントル対流を直接活性化させるための大規模な装置を地下に向けて放ち、強力なエネルギーをぶつけてある程度地磁気を強化する事ができたヨ。ただその装置は生き残りをかけて資源、時間的にもギリギリだたから複数作ることが不可能でネ。徐々に効果が失われていたヨ。勿論この装置もある程度の改善だたから足りない分は専用の服で防護していたネ。そういう事情を含めて私がここにいる訳だナ》

地下マントルを直接活性化させるとは核か何かを使ったのだろうか。
流石人間の発想力と実現する力は凄い。

《なるほど、そうだったのですか。確かに神木で地中活性は可能ですがやはり万全とはいかないと思います。そのため火星の軌道上に、神木で創られた宇宙船の素材である魔分有機結晶を粒子状にして散布できないかと考えているのですが、あの物質ならほぼ完璧な対宇宙放射線性能を誇ると思うので保険としては申し分ないと思います》

《翆坊主、それならこの私に任せるヨ!その物質に興味があるネ》

《そういえば宇宙船に興味をお持ちでしたね。魔力的有機結晶の情報に関しては既にありますからサヨに新しい身体!に入ってもらって受け取って下さい。恐らく超鈴音の技術なら解決できると期待していますよ》

《研究対象が次から次へと飽きることが無くて良いネ。しかしその物質を精製するのは良いがどうやて火星に送るんだ翆坊主》

元々精霊体ならば転送できる事だしゲートの理論を参考にして神木同士を完全に繋げてしまうのがいいだろう。
正直いちいち華の亜空間に保存して運搬なんてやっていられない。
ついでに超鈴音のダイオラマ魔法球との間にもパスを繋いでおけば夜な夜な神木に魔法球を運んで物の受け渡し的な事もしなくて済むだろう。

《そのあたりはゲートを参考にして神木同士を繋ぐことにします。準備ができたら超鈴音のダイオラマ魔法球ともリンクさせて貰いますね》

《そのあたりは本当にズルいとしか言いようがないネ。しかし地球と魔法世界を人間が繋ぐ事ができるのだから当然カ。そうと分かれば確実に仕事は完遂してみせるヨ》

《これだけ積極的に協力してもらえるとまたお礼がしたいですね。以前宇宙船の所有権に関して話半分でしたが、色々終わったら超鈴音に譲渡する事を約束しますよ》

《鈴音さんの私有宇宙船ですか!旅行する時は私も乗せて下さいね》

サヨも賛成のようだ。
まあ精霊の我々は精霊体だったら、やろうと思えばワープできるから所有権を他人に渡すぐらいなら超鈴音に渡したほうが余程良い。

《今の発言はしかと耳に入れたヨ。故郷では安全に宇宙に出られる高速船までは流石になかたから楽しみにしてるネ》

未来でも魔法が残っていれば十分安全に宇宙に出て行く事はできたのではないかと思うが、言っても始まらないか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△


あの後、年末年始は流石に開いていない図書館島に行き司書殿に超鈴音の解決策ができたことを伝え、手伝ってくれたことを感謝した。
超鈴音が次に来たときにネコミミをつけてもらうとか訳の分からない事を言っていたがなんとも言えないので考えるのをやめよう。

完成したとあって早速大規模術式を火星で実行した。
およそ1日で重力、大気圧、スケールハイトは理想の状態に安定した。
月の軌道は観測しながらもし問題があれば微調整を行う予定だ。
これに伴い火星の平均気温、地表温度も徐々に上昇するだろう。
それからなら氷を溶かしてもなんとかなる。
ただ火星は地球に比べると太陽光が半分程度しか届かないので数日で完了などと勢い良く変化が起きるわけではないだろう。
また、地下のマントルの活性も全力で行っているが効果が出始めるのはまだ先だろう。
今後の魔分有機結晶の粒子精製に関しては麻帆良最強頭脳の超鈴音の技術力、財力をフルに結集させた実力が発揮されることだろう。



[21907] 9話 交渉人超鈴音
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 19:25
火星の重力の問題が解決したと思えば次は宇宙放射線対策だというのだから忙しいネ。
今日は正月が終わて図書館島に入れるようになてからクウネルサンの所にお礼を言いに来たところだ。
行きがけに五月の作たばかりの超包子の肉まんをお土産に持て来たヨ。

翆坊主の映像資料で図書館島の地下もくまなくわかたが魔法的処理がされていなければ崩落しておかしくない所だ。

この道程も慣れたものだがやはり面倒だナ。

「クウネルサン、翆坊主から聞いてると思うが火星の重力は片が付いたヨ!」

空中庭園のテーブルで紅茶を飲んでいるようだネ。

「おや、超さん待っていましたよ。精霊殿に聞きましたが流石麻帆良最強頭脳というところでしょうかね」

爽やかに挨拶をしてくるのはいいが何故ネコミミを持ているネ。

「クウネルサンの重力魔法も私にとてはいい勉強になたからお礼に来たヨ」

「それはそれは、では是非このネコミミを付けて貰えませんか」

…………。

初めて会た時も同じようなことを言ていた気がするが冗談では無かたのカ。
なんだか赤き翼のイメージが崩れるネ。

「ふむ、ネコミミ付けても構わないヨ。その代わりお礼として持て来た肉まん一つ1000円で買うネ。しめて6000円ネ」

私のネコミミ姿は安くないヨ。
定価の数倍の値段で手を打つネ。

「わざわざ貴重な肉まんをありがとうございます。私はここにいるものですからあまりお金の使い道もないので喜んで買わせて頂きますよ」

…特にダメージはないらしいな。
多分1個1万でもこの人買いそうな気がするネ。
価格設定を間違えたか。
貴重というのも皮肉なのか本心なのか読めない人だナ。

「お買い上げありがとネ。約束通りネコミミ付けるヨ」

「ではこれをどうぞ」

しかし私が髪を下ろした状態で日中いるというのは相当珍しいネ。
こういうのを付けるのはなんだか恥ずかしいネ。

「ご要望通り付けたが感想もらえるのカ」

「ええ、大変お似合いだと思います。良い物を見れましたよ」

普通に誉められたヨ。

「満足頂けたようで良かたネ。五月が作た肉まんも温かいうちに食べるといいヨ」

「イノチノシヘンで殆どがキティのではありますが今年の学園祭の映像を見ていまして、この肉まん食べてみたかったのですよ。ありがたく頂きます」

本心だたのカ。
キティとは誰かの愛称なのだろうナ。

「肉まん食べに外に出たいなら翆坊主に言えば魔力提供してくれるのではないカ。割と礼をする性質のようだから重力魔法の対価として手を打てると思うネ」

「私としても出たいといえば出たいのですが、他人に私がここに居る事が知られるのはまだ困るのですよ。確かに私がここを出るためにはキノ殿による世界樹の発光時のような魔力が必要なのは事実なのですがね。それに今回の協力は私の方が礼を返しているものですから良いのですよ」

「そういう事情があたのカ。まだというのはご先祖様…いや、時が来たらわかるネ」

「ええ、数年間待っていますがそろそろ近いと思いますね」

「クウネルサンは近未来視もできるようだナ」

「その辺りは秘密ですよ」

「ふふ…詮索はやめておくヨ。また今度肉まん届けにくるから期待するネ」

「ええ、好きなときに来てください。お茶ぐらいは出せますので」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

それにしてもサヨから受け取た魔分有機結晶の情報は凄いヨ。
確かにこれなら宇宙放射線に対する抵抗その他があるのは頷けるネ。
人類が宇宙空間に安全に出ていけるようになる点でもやりがいがあるヨ。
しかし宇宙放射線対策を行わなければいけない優先度と期限を考えれば地道に進めても問題ないだろうナ。

本物と同等の精製は無理だろうがこれに近いものならば私の技術と組み合わせれば実現も可能なのは良いことだ。
原料には純粋な魔分を内包した物質が必要だから世界樹の加護のアーティファクトを始めとして用意する必要があるネ。
有機的部分は成分を見る限り色と素材が物入になるだろうし安定したルートを確立したいヨ。

…麻帆良で作業するのだから雪広グループに協力を頼むカ。
まほら武道会も実現してみたいからネ。
クラスの雪広サンを切り口に交渉してみよう。
資金的にもやはり例の映像を活用したい所だたが売りつける先がなかなか難しかたがまとめてやてみるヨ。

《超鈴音、この前映像渡しましたが容量不足で結局無理だったものがあるのです。麻帆良の夜の防衛という壮大な記録なのですが興味ありますか。サヨが自分で何か渡したがっていましたし丁度いいかと。近衛門殿の戦闘はナギ少年とは違った見所があると思いますよ》

突然通信が来たが翆坊主は私に甘々だネ。
まあ何か別の意図があるのかもしれないナ。

《メモリーをまた用意したらサヨに頼むヨ。言われてみれば学園長の魔法にも興味があるヨ》

エヴァンジェリンを除外すれば、学園最強の魔法使いというのだから興味は尽きないネ。

《だそうですよ。サヨ、後でよろしくお願いしますね》

《はい!鈴音さん、私に任せてください》

……この通信方法は便利なのは便利だが用途によては能力の無駄遣いだナ。
最近サヨも雑談をしてくるようになたからただ通信料のかからない電話みたいなものだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

有言実行、今日の授業が終わたから二つ前の席の雪広サンに交渉するヨ。

「雪広サン、雪広グループに幾つか交渉したいことがあるのだが時間を貰ていいカ」

「珍しいですわね。……ええ構いませんわ。超さんがグループに直接問い合わせるのではなく私に話を持ちかけるということは時間をかけたくないという事ですわね」

「話が早くて助かるヨ」

「ここでそういった話というのも場所が悪いですから、今からグループの者に連絡して場所を用意させましょう」

「雪広グループにとても悪い話ではないから期待してくれていいネ」

「超さんの噂はグループでも有名ですから社員たちも興味を持つ筈ですわ」

「それは光栄だネ」

流石雪広グループ、やはり某黒くて長い車だたヨ。
案内されたのは応接室だナ。
雪広サンと縁が深そうな社員の人もいるしここまですぐに進むというのは助かるネ。

この商談成功させるヨ。
例の映像とこれを映す三次元映写機も用意してきたから必ず食いつく筈ネ。

「まずはこれを見て欲しいネ」

さあ、記録が写真でしか残ていない第一回麻帆良学園祭をフルカラーで見るといいヨ。
どう手に入れたか気になるだろうがそこは企業秘密でいくヨ。

「三次元映像!流石超さんですわね。でもこの映像は……麻帆良学園かしら」

「あやかお嬢様!こ、これは第一回の麻帆良学園際の映像ですよ。何故このような映像があるのですか」

ふむ、印象は悪くないが、やはり入手経路を聞いてくるか。

「落ち着いて欲しいネ。映像技術は私が開発したものだが、残念ながら映像の出所については企業秘密だヨ」

「分かりましたわ。映像の入手方法については詮索致しません。超さんがこれを見せるという事は買い取って欲しいという事ですか」

「その通りネ。なんとか活用する方法を探していたところだたが、やはり麻帆良でも影響力の強い雪広グループに頼むのが一番良いと思てネ。当然三次元映像技術の売り込みも兼ねているヨ」

「あやかお嬢様、ここは社長もお呼びしましょう。今の時間ならこの本社にいらっしゃいます」

これは随分早く大物が釣れたナ。

「ええ、そうですわね。お願いしますわ」

それから社長サンが来るまで映像を見てもらていたが、昔の麻帆良の映像に完全に見入ていたヨ。
私も翆坊主に渡された時は長いこと見たから気持ちはわかるネ。

「あやかお嬢様、社長がいらっしゃいました」

「あやか、そちらのお嬢さんが噂の超鈴音さんかな」

雪広サンもだが社長さんも有名な俳優のような人だネ。

「ええお父様、私の学友の超鈴音さんですわ」

「初めまして、超鈴音です。失礼ながら正規の方法ではなく、あやかサンに直接話を通して頂きました」

私がいつもの口調でしか話せないと思たら大間違いネ。

「私が雪広グループの社長であり、あやかの父です。あやかに話をしたのはその方が早いからだろう。私も今年の学園祭で有名になった超包子の肉まんは社員に買いに行かせて頂いたよ。とても美味しかった。屋台も飛行機能付きだというのを知って驚いたものだ」

超包子の肉まんがここまで浸透しているとは嬉しい誤算だネ。

「お褒めに預かり光栄です。本日は幾つか交渉したい事があり伺いました。まずはこちらを御覧ください」

「ほう、これが先程連絡で聞いた麻帆良の昔の映像か。しかも三次元映像技術とは超さんの引き出しはどれだけあるんだい」

「私の発明は友人と協力して行っておりますのでこれからまだまだ実力をお見せできるでしょう。つきましては今回これらの映像の買取りをお願いしたいのです」

「なるほど、これ程貴重なものはなかなかないだろう。買取りは前向きに検討させて貰うとして、詳細は後で担当に来させよう。幾つかという事だったが他の要件を聞かせてもらおうか」

突然真剣な空気に変わたがビジネスに対する嗅覚が鋭いネ。

「今度はこちらの依頼なのですが、今までの研究とは違う分野にも手を出そうと考えています。そこで必要な物資を安定して得られるルートを確保したいのですが、雪広グループに依頼するだけにその内容は多岐に渡ります。更に、個人的に噂に聞く昔のまほら武道会というものを復活させたいと考えていまして雪広グループの協力を頂きたいのです」

「物資の継続購入とまほら武道会の復活……か。あやか、済まないが席を外してもらえないか」

「……分かりましたわお父様。超さん、私は先に失礼させて貰います、明日学校でお会いしましょう」

この辺りの暗黙の了解が徹底しているのはありがたいネ。
しかしやはり社長ともなると裏の事は知ているカ。
社員も何人か出て行たが残ている人もいるということはそういうことなのだろうナ。

「超さん済まないね。あやかに聞かれる訳にはいかない話になりそうなので席を外してもらったよ」

「いえ、これで私も先程言えない事が言えます。まほら武道会に関しては協力頂けなくても構いません。少なくとも物資の買い入れは確実にお願いしたい」

「こちらとしても、既に対価は頂いたような物だから物資の件は約束しよう。まほら武道会の復活だがその様子だと裏の事を知っているのかな」

「約束感謝します。裏についてはそう考えて頂いて構いません」

「なるほど、しかし復活させるとなると学園長に話を一度通さないと難しいだろう。確かに我々の組織ならば情報操作も可能だろう」

ここで学園長が来るカ。

「情報操作は私の方でも対策方法を考えているのでその点は万全にできる自身があります」

「私も興味がない訳ではないからね。この件は学園長に打診をしてみよう。その時に超さんの名前を出させてもらうが構わないだろうか。ただ色よい返事がもらえない場合は諦めてもらうしか無いよ」

この人も興味あるとは都合がいいネ。
雪広グループから打診して貰えるというならそれだけでも僥倖だナ。

「ご協力ありがとうございます。名前は出して構いません。お願いします」

この後買取をしてもらう映像の査定をして貰い、材料の方のリストを見せてやや驚かれたが仕方ないネ。
地球で手に入る地域が国をまたいでいるからこそ雪広グループに頼んだのだからネ。
売却価格は手付金として買い付けにかかる費用である程度相殺されたが今後続けていけば総額では赤字になるかもしれないナ。
そうなる前に売れない映像もある程度加工する作業をして行くとしようカ。
色々と目処が付いた所で明日も頑張るヨ。
しかし口調を変えるというのはなかなか辛いものだたネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音は上手く行っているようだ。
私達と言えば、サヨが第二弾の映像を渡し前回の無念を晴らす事ができた。
地味に茶々円の映像を入れるのをやめて欲しい。
結局それでまた超鈴音に笑われる事になったのだが。

そう、今晩も茶々円で活動を行うのである。
しかも今日は特筆すべき点がある。
近衛門も警備に参加するというのである。
前から薄々思っていたが、一層今日は某ハンターな協会の会長みたいに見える。
オーラが凄まじい。

「学園長、今日はどうしたんですか。いつもと様子が違いますよ」

タカミチ少年がかなり動揺している。
後ろの方の魔法先生がとうとうボケがここまで来たかなどと呟いている。
寧ろその逆だろう。

「今晩は儂も警備に参加するのじゃよ。そのため今回は明石君に来てもらった。全体の管制を頼むぞい」

口調はいつもと同じだが威圧感が半端ではない。
懐かしいあの近衛門無双の始まりか。

「わ、分かりました学園長。しかしどうして急に自ら出られるんですか」

いつもは警備に参加する事が殆ど無い明石教授。

「何、準備運動じゃよ」

ああ、懐かしい。
魔法生徒達が興味津々のようだ。
エヴァンジェリンお嬢さんを覗けば学園最強の魔法使いが戦いに出るというのだから当然といえば当然か。
あの普段あまりやる気のない謎のシスターこと春日美空までもが目を輝かせている。
シスターシャークティが学園長ではなくそっちに驚いているぞ。

「じじぃ、無理するなよ」

エヴァンジェリンお嬢さん、光の福音?だけあって全く怖気付いていないが、やはり興味があるらしい。
私も今日は近衛門の頭に貼りつきたいが後で観測情報を確認するとしよう。

「今日の儂はいつもとは違うでの。安心せい。では今日の警備を始めるとしよう。先生方、よろしく頼むの」

と言った途端近衛門の姿が消えた。
本気すぎる。
先生達が唖然としているのは面白い。

「神多羅木先生、私達も行きましょう」

「あ、ああ、そうだな」

そういえば思い出してみれば、神多羅木先生のフィンガースナップの技は近衛門が昔使っていたものを速射性に特化させたもののような気がするのだがどうなのだろうか。
近衛門はフィンガースナップを使っていた訳ではないが。

「神多羅木先生の魔法は学園長の魔法を参考にしているのですか」

「茶々円は学園長の魔法も知っているのか」

それは見たことあるからね。

「私は学園長の作品でもありますから」

と言っておこう。

「そうだったな。私は学園長が執筆した本を参考にしたんだ」

ああ、そういう事なのか。
関東魔法協会の理事長でもあるというのは伊達ではない。
というかこっちが本職か。

「そういう事ですか。フィンガースナップ自体を個別の始動キーにするというのは威力と速射性から考えても良いですね」

無詠唱魔法と言われているが実は単体魔法に対応する唯一の発動始動キーを付けたものである。
それができるのも飛ばすのが気だからという理由があるが。
指を弾くこと自体をキーとすることで無詠唱により起きやすい威力低下を防ぎ速射性を実現した訳だ。

「いつから気づいていた」

「薄々以前からという所です。無詠唱魔法と聞いて先入観がありましたが違和感を感じたので解析したのです」

「茶々円は優秀なサポート役だな」

それが私の仕事ですから。



[21907] 10話 茶々円残機-1
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 19:23
いつもよりもやたら早い時間で明石教授から警備終了の通信が入り、神多羅木先生と共に戻ってきた。
予想はできていたが原因はやはり近衛門だった。
とにかく、今日の警備は大変楽だったということでいいと思う。

「ふぉっふぉっふぉ、久しぶりに身体を動かしたがいい運動になったわい」

とても元気そうだ。
何やら魔法先生達のヒソヒソ話によると、警備担当の場所で侵入者達が気絶しているのがそこかしこで発見されたらしい。
流石の防衛能力である。
魔法生徒の一部が闇夜に紛れて突然現れた人影を見たとかなんとか言っているがそれも近衛門だから。

「おお、そうじゃ茶々円はこの後話があるから残ってくれんか」

ああ……恐らく何か動きがあったのだろう。

「分かりました学園長、参りましょう」

「明石君、今日は突然呼んで悪かったの。皆も今日は解散して構わんぞ」

「じじぃ、私もその話を聞いてもいいか」

おや、エヴァンジェリンお嬢さんも察したわけか。

「……ふむ、構わんぞい。それでは行こうかの」

タカミチ少年が自分も参加したほうがいいのだろうかとやや判断に困っていたが、さっさと私達は行ってしまうのである。

当然だが場所は近衛門の自宅である。
麻帆良の中心部からはやや離れているが和風の落ち着いた家だ。
まあ和風だからこそ西洋風な街並みから離れていると言うべきか。

「近衛門殿、話を伺いましょう」

「うむ、呪術協会の支部を麻帆良に受け入れる目処が立ったのじゃよ。後は建設をするだけじゃな」

いやいやいや、まだ動き出してから半年も経っていない筈なのだが。

「近衛門殿、いくらなんでも早すぎるでしょう。どんな裏技を使ったのですか」

「じじぃ、ついてきて良いとは言っていたが話が読めん。説明しろ」

「エヴァンジェリンお嬢さん、私が説明します。詳しい事情は省きますが、茶々円として活動していた狙いは呪術協会の支部を麻帆良に建てさせ、東と西の不毛な対立を緩和させる事にあったのです」

「なるほどな。あのふざけた魔力封印処理を呪符使いに対して徹底していたのはそういう事だったか」

ご理解頂けたようで。

「先方としては外面上難色を示していたようじゃったが、封印処理の解除と支部の建設には旨味しかないからの。西の長が根回しをしていたのも効いたようじゃ。体裁として木乃香を呪術協会で護衛するという形を取れるのもあちらの面子を立てる事になるわけじゃ」

「なるほど、その辺りは計画通りと行ったところですか。準備した甲斐がありましたね。……しかし問題の本国の許可はどうされたのですか」

実際こちらが一番問題だろう。

「一部からは強硬に反対されたのじゃが、大勢としては旧世界の呪術等大したことが無いと見下す傾向にあっての、大した脅威でもないと判断されたようじゃ。本国としても旧世界との繋がりを軽視する孤立主義の傾向が強くなってきておってな。身内のいざこざを本国に持ち込まなければ問題なしのようじゃ。実際本国側も麻帆良の守備の状況を報告してもこちらに回す人員を渋るようじゃしの」

流石多数決。
深く考えないでくれて助かる。
まあ危険視すべきはその一部の反対勢力だろう。

「一枚岩でないのが今回は逆に有利に働きましたね。その反対勢力が大勢を占めていなくて助かりました」

「それでも無条件にとは行かなかったがの。何か問題が起きたら儂が責任を取ることになっておるよ。注視すべき対象が本国の反対勢力と呪術協会とは手間が増えたの」

それはきついがなんとかするしかないな。

「それはまたなんとも辛い条件ですね……。ですがそのような事にならないよう私も監視しますので任せてください。近衛門殿、この短期間でこの案件を実現に持ち込めるようにしてくれたこと感謝します」

「キノ殿、これは儂らにとってもいつかは通らなければならない道じゃったのじゃ。これからが大変じゃが、きっかけを与えてくれた事こちらからも感謝しますぞ」

お互い様ということでこれから頑張るとしよう。

「茶々円、前に保険と言っていて大して気にかけなかったが、その内容とは何だ。聞いていれば寧ろ面倒になったように思えるが、お前がじじぃに感謝するということは何かしらメリットがあるという事なのだろう」

……エヴァンジェリンお嬢さんにもそろそろ話して構わないか。
というか立場は精霊の筈だけども既に茶々円で定着している訳ですね。

「エヴァンジェリンお嬢さん、ここからは他言無用でお願いします。一番大きな問題は後11年程度で魔法世界が消滅し、人間が火星に投げ出される事なのです」

「……それは本当なのか」

「それは間違いありません。ただそれ自体は回避する用意がこちらにあるので問題ないのですが、その結果として今までにない大きな問題に発展するのでこの小さな日本で不毛な争いをするのをさっさとやめて欲しかったということなのです」

「裏でコソコソとそんな事をやっていたのか。しかし何故私にも話さなかったんだ」

あら、除け者にされたと怒っていらっしゃる。

「それは申し訳ないとは思っていますが、今回の呪術協会の件はお嬢さんの手を煩わせる必要もありませんでした。近いうちに話すつもりでしたがそれが今ということで許していただきたい。事態が緊急を要する事になったら力を貸して頂けると心強いです」

「……まぁいいだろう。確かに私が手を出すことも無かっただろうからな。最近私も暴れ足りないからな。今日のじじぃの真似でもしてみるか」

それはやめて欲しいかもしれない。
戦闘が行われた場所が大変な事になりそうだから。
そうだ、今日の近衛門殿というとあの発言は気になった。

「近衛門殿、今日急に警備に参加して、準備運動と言っていましたが、もしやこの前私が言ったことと関係あるのですか」

奇跡の少年が卒業するのは今年2002年の7月。
後半年程度と言ったところだ。

「ふぉっふぉ、あの時はいつになる事かと思っておったが、あっという間じゃったの」

情報が既に回っていると見て間違いないな。

「もしや、近衛門殿が直々に手を出すつもりなのですか」

そうなってくるともう全然歴史と違うだろう。
近衛門に直接しごかれたらやたら強くなるのは間違いないが。
それにここはお嬢さんもいる。
また随分豪華な修行環境になるな。

まあ既に実際、周りの被害を度外視すれば、少年の成長を促す出来事が起きる可能性をかなり潰しているから必要なことではあるかもしれない。

「おい、また何を勝手に話しているんだ」

うっ……ナギ・スプリングフィールドの息子が来るなんてばらしたら……。
私は知らない。
近衛門頑張れ。

「ふぉっふぉっふぉ、エヴァや、その時になるまでの秘密じゃよ。キノ殿の言葉がなければ傍観していただけかもしれんが儂も一仕事したくなっての」

これは熱い。
近衛門に見ているだけではなく動けと言ったのがストレス解消に留まらなかった訳か。
いや、寧ろ大いに歓迎だ。

「じじぃじゃ埒があかない。茶々円!説明しろ!」

しまった、お嬢さんこっち来た。

「エヴァンジェリンお嬢さん、楽しみは後に取っておいたほうが良いと思いますよ」

「チャチャゼロにお前をやるか」

ちょっと待ってそれはなかなか酷い。
茶々円×5→茶々円×4になるではないか。
いやでも、別にいいかなとも思わなくもないが。

「……好きにして下さい。でもヒントを言いましょう。それは 赤 毛 です」

「な、何だと!それを早く言え!そうか……こうしてはおれんな、ハハハハ!楽しくなってきたぞ!」

狙ったのは確かだが見事に違う方向に勘違いしたようだ。
間違いではないからいいと思う。
それにしてもテンションが高い。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

麻帆良都市に新たな勢力が加わることが明らかになってから数日。
性懲りも無く映像鑑賞会を開いている訳だ。

《翆坊主、学園長はこんなに強かたのカ》

《昔から凄かったですよ。ナギ少年は10歳であの強さという点でまた異常でしたが》

《初めて見たら確かに驚きますよね》

そう、熱い近衛門談義である。

《今貰た先日の学園長の映像も年を取ている割には衰えていないナ》

《攻撃は無詠唱、魔法の射手闇の矢縛りなんてやっている所からすると本当に準備運動だったようですね。それでもあの強さですが》

《あれで遊んでいるのカ……。虚空瞬動する度に魔法の射手を遅れて発動させる光球を残すだけでなく敵を正確に追い込んで捕縛する技術には驚かされるネ。スローで見なければ何が起きているのかわからない程の早業だナ》

《キノ、学園長先生自身で放つ、この射程と貫通力が他のものに比べて高いのも同じ魔法なんですか》

《ああ、それは近衛門殿がロシアの魔法協会に昔出張した時の事らしいのですが、戦時中にスナイパーをやっていた魔法使いの方にライフルの弾丸を模した魔法の射手を見せてもらったことがあるそうです。所謂螺旋による回転力で通常のものより大幅に威力が高いですね》

《戦時中魔法使いは魔法使わなかったんですか》

《もしこちら側で大っぴらに魔法を使って戦争することになっていたら未だに戦時中だったと思いますよ。まあ本当に危ない時は魔法障壁の一つぐらいは発動させていたのかもしれませんが》

《学園長は質量兵器の戦争の経験もあるという事カ》

《近衛門殿の恐るべき能力としては戦術眼とでも言うのかそれとその戦闘センスの高さですね。相手が気づかない内に戦闘の運びが近衛門殿に常に掌握されているというのはご冥福を祈るしかありません》

《学園最強と言われる理由もわかるナ。高畑先生の攻撃はこれだと当たらないネ。……しかし全ての映像を通して時々空中から真下に移動しているがこれはいくら虚空瞬動でも異常だヨ》

《超鈴音は虚空瞬動だと思いますか。実際にはあれは個人転移呪文の上位、あえて言うなら瞬移とでも言えると思いますよ》

《えっ、これ魔法なんですか》

《翆坊主、それではまるでカシオペアを使った戦いのようだヨ》

実際近衛門ならカシオペア使われても突破しそうだ。

《ええ、信じられないのがその発動速度と移動距離ですけどね。でなければあんなに広範囲に渡ってカバーはできませんから》

《ふむ、流石の私も学園長に興味を持つネ》

《例の人物の来訪に向けて近衛門殿は準備運動するそうです》

《例の人物って近いうちに来るらしいという男の子の事ですか》

《そうですよ。会ってみてのお楽しみという事です》

サヨには一度歴史を見せているが、概要を見せただけであり名前などのピンポイントな情報は伏せてある。

《私も手合わせしてみたいものだナ》

ウルティマホラの一件以来超鈴音はあの忍者ではないが作業の合間に修行をするようになった。
まほら武道会の事もあるということかもしれないが。

《今の近衛門殿なら訓練がてら相手をしてくれそうですが、超鈴音の場合アーティファクトの問題がありますからね》

《そこは諦めるとするヨ。でもこの映像で高速転移魔法を研究するネ》

あの夜近衛門が戦っている所を確認できた人間は殆どいないだろうから、この映像は相当凄い資料だと思う。

《鈴音さん、頑張ってください!》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

しばらくして呪術協会の支部建設も場所が決まり建設も始まった。
麻帆良の建築技術にかかればあり得ない速度で建つだろう。
時期を同じくして夜の警備の負担がかなり軽減されるようになったのは間違いない。
それというのも呪術協会から先遣隊がやってきたからである。
支部が建てられるからと言って東と西の関係がいきなり改善する事もなく、大体の東洋呪術師の皆さんは西洋魔術師がお嫌いである。
要するに、プライドが高いので西洋魔術師が警備をやっている中で自分たちが守られるというのは癪に触るから我々も警備に参加するということだそうだ。
動機はアレだが敵が味方になるとこれほど心強いことはない。
逆に今までの魔法先生達と彼等の間で軋轢が生まれる要因にもなっているが、今のところ直接争うようなことをしないあたりは一安心である。
西洋魔法使いが嫌いである割に呪術師の皆さんはまず相手を知るとでもいうのか、西洋魔法自体には興味がある様子なのは関係改善の切り口になるかもしれない。
因みに先遣隊の人数は非戦闘員を含めおよそ30人程度であり後から後発隊が来るかというとそこまでの余裕もないらしく、増えても数人という所であるらしい。
その中に天ヶ崎千草、犬上 小太郎が居ることが分かったわけだが歴史から見るに今後どう転ぶかは注視する必要があるだろう。
名前が分かったので彼等の情報について詳しく確認すると天ヶ崎千草は先の大戦で両親を失い、そのため西洋魔術師を嫌うどころか恨んでいる。復讐をこの地でするかどうかというのがポイントだろう。
次に犬上小太郎だがまだ10代に手が届くかどうかという年齢で狗族と人間のハーフの少年である。
まだ子供であるため単純に西洋魔術師が従者を前衛にして戦うというのが、かっこ悪いと思っているらしい。
耳と尻尾があからさまだが街中を歩いていても麻帆良の認識阻害にかかれば日常の一部になるのでその辺りは寧ろ関西より生活しやすいだろう。

さて、件の魔力封印の解除であるがとうとう茶々円の仕事も終わりである。
先日の近衛門戦闘の後、呪術協会の件が発表され動揺も起きたが今更反対しても遅いということで無理やり丸く収めた。
続けて茶々円を呪術師の魔力封印を解除する事を最後にして処分する事も発表した。
寧ろこちらの方が問題であった。

「先生方、もう一つ伝えることがあるで聞いてくれんかの。近日中に茶々円を西に送って魔力封印の解除を行った後、その場で言い方は悪いが処分することが決定しておる。誰かその仕事をやってもらいたいのじゃがどうかの」

初めて自己紹介した時よりも空気が重く痛い。
地味にマスコット的に定着しつつあったというのは誤算であったが、茶々円の存在をこのままに残しておく訳にも行かない。
確実に能力的に火種になる事は間違いないのだから仕方がない。

「学園長!茶々円ちゃんはしっかり人格がありますのに殺すとおっしゃるのですか!それは自分勝手すぎます!」

高音さん、正義感半端ないです。
しかもいつの間にちゃん付けになっているし。
まあ処分と聞いて良い気分の人なんていないだろうが。
処分という単語に魔法生徒はかなり動揺しているな。

「私の存在は東と西の関係にとってはこれ以上いる事は新たな火種にしかなりません。高音さん、心配して下さりありがとうございます。確かに私のこの体は消えますがきっと魂は残りますので気にしないでください。皆様、今までありがとうございました」

そう言いながら頭を下げる訳だが、まあある意味お嬢さんと近衛門の作品という自己紹介の時点から騙していたようなものだからまた罪悪感が凄いな。

「皆が思う気持ちも儂もわかるが、これは必要なことなのじゃよ」

「…………」

「……ですが!」

「高音!これは必要なことだ!学園長、茶々円を西に送る任、私にやらせてください」

カットインは神多羅木先生だった、流石。

「学園長、茶々円は私の妹です。私にも是非行かせてください」

って茶々丸姉さん来るの?
前より人間っぽくなったな。
エヴァンジェリンお嬢さんも驚いてるよ。

「人数はこれ以上増やせんからの。それでは神多羅木先生、茶々丸君、茶々円を頼むぞい」

こうしてまだ死んでいないからやるとするなら割と明るい生前葬の筈だが、完全に葬式モードな空気で話がついたのだった。

そして、出発当日。

「神多羅木先生、茶々丸姉さん、私の同伴ありがとうございます」

「いや、これまでサポートしてくれていたんだから当然だ」

「私の初めての妹ですから当たり前です」

茶々丸姉さんは事情を知っているからともかく、お世話になった神多羅木先生には最後に言っておいたほうがいいな。

「神多羅木先生、私がこの前言ったきっと魂が残るというのは本当ですから安心してください。今日最後の仕事が終わったらわかりますから気に病んだりしないで下さいね」

「そう……なのか、俄に信じがたいが……茶々円が言うならそうなのだろうな。少し気が楽になったが見るまでは安心できないな」

終わったら是非安心してください。
因みに茶々丸姉さんには認識阻害の魔法を本気でかけてあるので問題ない。

電車に乗るというのは学園祭の超包子のありえない車両を除けば初めてだ。
しかし新幹線はまだまだ遅いと思う。
午前に出発して総本山に着いたのは昼を大分過ぎた頃である。
地味に奥地だから遠い。
係の人に従い詠春殿の所に向かう。
近衛門と詠春殿の間で既に処分の話は通っているので準備は万端である。

「この度は東からようこそおこし下さいました」

相変わらず巫女さんだらけだった。
通された場所は物凄く広い庭であり、封印処理を喰らった術者の皆さんがゴザに正座という何処の江戸時代かと思うような光景が広がる場所だった。
その総数数十人という所。
やはり本当に自重して欲しいと思う。
神多羅木先生もこんなにいたのかと驚いてるし。

偉そうな人達は封印解除を見る証人なのだろうか、お奉行様的位置にいる。
そこに詠春殿を発見。

「東の長から話は聞いています、ようこそおこし下さいました。神多羅木さんと茶々丸さん、それに茶々円さんですね」

「近衛詠春殿様、長々した挨拶も何ですから早速解除を始めたいと思います」

術師達が実にイライラしているのでさっさと終わらせたい。

「それもそうですね、ではお願いします」

片っ端から封印解除を行う。

「魔力封印の解除を実行します」

突然解除されて襲い掛かられるかとも思ったが神多羅木先生が私の後ろに立っているのでそんな事もない。
大抵解除された術師はすぐさま使えるようになったかどうか確認するために、簡単な火を灯す陰陽術を気ではなく魔力を用いて試し、無事成功して喜んだり安堵したりしている。
まあ職を失う瀬戸際だった訳だから当然といえば当然か。
滞りなく全ての術師の封印解除を終了し、いよいよ私こと茶々円の番である。
魔力封印の恨みがある事もあり、この場で処分を行ったほうが心象的に良い。
どうやら盛大に火葬してくれるらしい。
詠春殿ではなく、例のお偉いさん直々に呪符でやってくれるそうだ。
実際詠春殿にやらせると実は死んでないのではないか等と疑われるからこちらとしては構わない。

「茶々円、私は忘れませんから」

茶々丸姉さん、それは狙っているんですか。

「茶々円、今まで助かった。ありがとう」

神多羅木先生もさっき言ったけど別に大丈夫ですからね。

「麻帆良の方々にはお世話になりました。別れの挨拶も済んだのでよろしくお願いします」

お偉いさんもいざ幼児を処分となるとしんみりした空気になったが、見事な大文字焼きをやってくれました。
当然焼かれる直前に精霊体で抜け出して地中に身を潜めましたが。

見事に初めてインターフェイスが消滅した。
封印処理を受けていた術師達は幼児処分という微妙な感じもありつつも、概ね気が晴れたような表情だった。

神多羅木先生と呪術協会の面々の皆さんの挨拶も済み、随分あっさりだったがこれで今日の仕事は終わりである。
そのまま神多羅木先生と茶々丸姉さんは詠春殿に連れられ執務室に通された。
結界を張りつつ私の登場の出番でもある。

《神多羅木先生、少し姿が大きくなっていますが茶々円です。詠春殿、滞りなく終了して安心しました》

「おおっ、茶々円なのか。伝説になっている噂の翠色の精霊のようだな」

あの例の噂か。
しかも伝説って何。
ともあれこれは本国にも噂程度には知られてるだろうな。

「キノ殿、神多羅木先生には伝えていなかったんですか」

《私が精霊だったという事実を知っているのは魔法先生の中では近衛門殿だけですからね。神多羅木先生、こうしてまた会えましたが私の事は口外しないでください》

「本物なのか。……私にとってはそれでも茶々円なんだがキノ殿と呼んだほうがいいのか。学園長直属の部下であるし精霊の話については口外しないと約束しよう」

どっちでも好きに呼んだらいいと思う。
そういえばキノというのは名前だが苗字がなかったな。
この際 茶々円 キノ と名乗っても良いかもしれない。

……芸名みたいだな、保留。

《神多羅木先生も茶々丸姉さんも茶々円と呼んでくれて構いません。約束感謝します。詠春殿、この度はこの短期間で支部の建設を進めてくださってありがとうございました。派遣されてきた先遣隊の中に過激派と見られる方達も見受けましたが、それはこちらでなんとかします》

「キノ殿、こちらも東と西の関係改善の足がかりができて前進しました。これからが大変ですが引き続き尽力します。先遣隊の人選を全て私が行うということはできませんでした。迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」

《近衛門殿も言っていましたが、いずれは避けて通れぬ道ですからね》

こうしてこの後事務的な事を行った後、精霊体でうろうろする訳にもいかないので先にパッと帰らせてもらった。
茶々丸姉さんは別れ際にまたお茶と肉まんを食べに遊びに来て良いと言ってくれた。
なんて優しいのだろうか。
というか、茶々円のこれまでの主な栄養源は殆ど茶々丸姉さんが買ってくる超包子の肉まんで構成されていた。
精霊の食事事情は単純である。
でも美味しいから全く問題はない。
神多羅木先生が帰ってきた後、葛葉先生が「あまり気を落とさないでください」等と言っていたが事実を知った神多羅木先生としては微妙だろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2月も半ばという頃、超鈴音の擬似魔分有機結晶粒子の精製も雪広グループの協力のもと材料の入手と機材等の条件がようやく整って超鈴音魔法球の中の一角は工場と化している。
詳しい生成方法の説明は省くが、精製の光景は例によって淡い桃色に輝く非常に美しいものである。

《キノ、私達また中間テストでトップ3を独占しましたよ!》

と、よく突然報告が入るようになった。

《これで通算5度目ですね、おめでとうございます。相変わらずトップとそれ以外で随分成績に差があるクラスだと思いますが。今回はそれだけではないのでしょう》

《よく分かりましたね!最近麻帆良に今までいなかった人達が入ってきましたけどその中にコスプレしている男の子がいるんですよ!》

それ……コスプレじゃないからね。
本人の前で言うのはやめておいたほうがいい。

《そうだ翆坊主、あの団体は一体何ネ》

常に全体通信が癖になってきているが丁度アデアットしていたらしい。

《超鈴音には言ってなかったかもしれませんがあの人達は関西呪術協会からやってきた先遣隊です。茶々円の件で私が少し手を出して始まった計画でしたが、上手くまとまり支部を麻帆良に現在建築中です》

《茶々円はそういう事だたのカ。ここ二ヶ月茶々丸のメンテナンスやていなかたから知らなかたネ》

《まあ茶々円の身体は先日見事にこの世から消滅したんですけどね》

《それでも予備の身体があるんだろうナ》

《その通りです。サヨ、さっきの男の子ですが名前は犬上小太郎という人間と狗族のハーフの少年です。コスプレではありませんから変なこと言わないように》

《なんだ、コスプレじゃなかったんですね》

いや寧ろ本物だからテンション下げることはないんじゃないか。

《一般人には麻帆良の認識阻害が効いていますから気にならないと思いますよ。確か彼は初等部に入学した筈なので元気にやっているといいですが》

《その小太郎君だがあちこちで割と有名になてるヨ》

何だって。
火星の様子と呪術協会の動きには注目していたが表での少年は見ていなかった。

《え、本当ですか今確認します。……ああ、これはまた元気ですね》

《中国武術研究会に突然やてきて「勝負頼むわ!」だからネ。古と気を纏て戦ていたが及ばなかたからまた来る言てたネ。後はそのまま超包子の肉まん食べて「これはうまいわ!」と満足そうだたヨ》

《私も夜中飛んでる時に森で楓さんと修行しているの見ましたよ》

……典型的なバトル少年だな。

《随分順応性は高いみたいですね。彼は裏でも警備に参加するようになりましたがなかなか強いです。ただ持ち場を離れて単独行動に走る傾向があるあたり落ち着きが足りませんが。にしても1-Aの武道四天王と呼べる四人に既に接触があるのは凄いセンサー持っているような気がしますね》

《桜咲さんと龍宮さんとも何かあったんですか》

《さっきの持ち場を離れたところその二人に遭遇したということです》

《それは良い嗅覚持てるようだネ》

《ところで超鈴音、まだ時間は大分ありますが火星の地下水を地上に出す事が現実的になってきました》

《それはまた大変だナ翆坊主。地上でも普通に倍率150倍、口径100mmを越えていれば観測することができるのだから問題だナ》

《また規模の大きな話になってきましたね》

《神木自体が生えているのはまだ点が増えたぐらいにしか観測できない筈ですからある程度安心ですがね。そういう訳で粒子の精製も引き続きお願いしますが、そろそろ地球側から観測できる範囲に光学迷彩を展開する大規模魔法を新たに開発してもらいたいのです。まあ魔分量の問題でいずれは使わなくなることになりますが、その時はその時で予め超鈴音が関係を持った雪広グループに情報操作面で根回しをしてもらうことにもなるでしょう》

《重力、宇宙放射線の次は光学迷彩と来るカ。重力の件はクウネルサンがいたから早めに解決したが、幻術魔法が得意な魔法使いに協力してもらた方がいいネ。雪広グループとは私も仲良くしていたいヨ》

《既に火星重力の解決で常駐魔法を発動させている上に地下マントルの活性化、氷の融解まで行って居るところに更に光学迷彩の魔法なんて魔分量は大丈夫なんですか》

《それが問題なんですが一応解決方法はあります。地球で蟠桃が精製する魔分を木に用意するゲートで第二世代に送り込めば一時的に出力は足りる筈です。地下マントルは一度安定したら魔分を消費しなくて済みますし、氷の融解も終了すれば光学迷彩だけでよくなりますから。ただ同時に複数の問題にあたる必要があるのはやはりキツイですね》

《パッと計算するだけでも相当厳しいですね……。キノ、私もこれから神木の管理と火星の観測しっかり協力しますよ》

《よろしくお願いします、サヨ。超鈴音、幻術魔法の件ですが今回もクウネル殿かあるいはエヴァンジェリンお嬢さんという手もありますね。まあ面白そうなのはご両人に頼むというのが良さそうですが》

《島から出られないクウネルサンにもまた会いに行かないと悪いからネ。エヴァンジェリンと来るカ。学園長相手は無理だがエヴァンジェリンなら戦闘の相手もしてくれそうだネ》

《いつの間にか戦闘狂になってませんか。楽しんでもらえればそれで構いませんが》

いずれは旧世界に魔法世界の存在、魔法の存在が明らかになる事は間違いないが、その時こそ超鈴音の望む世界征服が必要になるだろう。



[21907] 11話 麻帆良は概ね平和(文字サイズ大以下推奨)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 19:42
火星のテラフォーミングを始めたものの、地球よりも本当に障害が多い上に環境が過酷だネ。
クウネルサンにももう2ヶ月以上は会ていないから行くとしよう。

「クウネルサン、久しぶりにまた来たネ。肉まんも持て来たヨ」

「これはこれは超さん久しぶりですね。もっと頻繁に来てくれても構わないんですよ。肉まんもありがとうございます」

凄く嬉しそうな顔してるネ。
余程暇なのだろうカ。

「今日来たのはまた新魔法の開発だヨ」

「おや、キノ殿がいないので会いに来てくれただけかと思いました。それで今回は何の魔法ですか」

「翆坊主は今、第二世代の神木の管理、蟠桃の新システムの搭載と呪術協会の監視で手が空いてないからネ。本題だが、重力の次は光学迷彩だヨ。火星に海を作るために地球から隠すのに必要だからネ」

「またもや規模の大きい話ですね。私もその辺りの魔法には協力できると思いますが、丁度良くキティがいますし彼女にも手伝ってもらったらどうです」

またキティと言ているが誰の事かナ。

「クウネルサン、そのキティというのは誰の事ネ」

「おや、超さんは精霊殿に聞いていないのですか、キティというのはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルのKの事ですよ」

ふむ、キティというのはエヴァンジェリンの事カ。
翆坊主は全く話していないナ。
エヴァンジェリンにも茶々丸の件でお互い様という所だが協力してくれるのか気になるネ。

「対価無しに協力してくれるとは思えないナ。クウネルサンが一筆書いてくれるのカ」

愛称で呼ぶぐらいだから頼みぐらい聞いてくれそうだナ。

「キティにラブレターですか。それは面白いかもしれませんね。ただ時期が……いえ、この際だからいいでしょう。超さん、エヴァンジェリンに今から手紙を書きますから渡してください」

ラブレターと言ているが冗談なのか本気なのカ。
……とにかくチケットのようなものが手に入るから良いネ。

「分かたヨ。待てる間に暇だから少し翆坊主と通信するネ。アデアット」

このアーティファクトにも慣れたものだナ。

《翆坊主、図書館島に来ているがクウネルサンもエヴァンジェリンを紹介してきたヨ。それで聞きたいのだが、キティという呼び名は何か問題があるのカ。言い方に何か含みを感じるネ》

《超鈴音、多分その名でエヴァンジェリンお嬢さんを呼んだら命の危険に関わると思いますから忘れたほうがいいですよ》

《やはりそうカ。元々呼ぶ気はないが気になたネ。しかしその危険な名前で呼ぶクウネルサンは大丈夫なのカ》

《司書殿にとってはエヴァンジェリンお嬢さんをからかうのが楽しみの一つですから危険を承知なのでしょう。一つ、こんな事で超鈴音が連絡してくるとなると、今クウネル殿何かやってるんじゃないですか》

《確かに私がこんな事で通信するのも変だナ。ただ暇というのもあるけど、クウネルサンに、エヴァンジェリンにラブレターという招待状を書くから渡してくれと言われたネ》

《……それは重大な事かもしれません。多分超鈴音が感じているのは危機感ですよ。その手紙は茶々丸姉さんに一旦渡したほうがいいです。多分超鈴音も司書度のからかいの対象に含まれつつあると思います》

《勝手に身体が動いたのはそのせいもしれないネ。それにしても翆坊主、茶々丸が完全に姉として定着してるヨ》

《もう茶々丸姉さんでいいんですよ。私に食事とお茶を提供してくれた回数は世界一ですから》

餌付けされたカ。

《翆坊主の言う通り一度茶々丸に手紙を渡す事にするヨ》

「アベアット」

「おや、もういいんですか。まだ書き終わっていませんから少し待って下さい」

粒子通信は速度が早過ぎるな。
暇つぶしの割に時間を潰せないとは。
肉まん食べるネ。
五月の肉まんはいつ食べても美味しいネ。
茶々丸は超包子にいるかナ。

「お待たせしました。これをエヴァンジェリンに渡してください」

封筒の見た目は普通だネ……。

「分かたネ。エヴァンジェリンに渡したらまた近いうちに来るヨ。肉まんは今日は差し入れネ」

さて、茶々丸を探すカ。
この時間だと先生達が多いところに屋台はありそうだナ。

「茶々丸、今日の仕事が終わて帰た時にこの手紙をエヴァンジェリンに渡してくれないカ。私もエヴァンジェリンに用があるから後で行くからよろしくネ」

「超、確かにマスターに渡しておきます。それでこれからどうするのですか」

「部屋に戻て作業の続きをするヨ」

粒子の精製は引き続きやらないといけないからネ。
機材を組み立ててある程度自動化できるようになたが魔法的処理の部分は未だにアーティファクトで一気にやるしかないからナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、丁度いい時間だからエヴァンジェリンの家に向かうネ。
この辺りは林に囲まれていて良い空気だな。
インターホンを押すが、面倒な事が起きないといい。

「どちら様でしょうか」

「茶々丸、さき言たとおり来たヨ」

そのまま茶々丸が出てきて通されたが、エヴァンジェリンはひどく荒れていたようだナ。
翆坊主の言うことは正しかたようだ。

「エヴァンジェリン、茶々丸に持たせた手紙は読んだみたいだネ」

「超鈴音か……この手紙には貴様が来ると書いてあったがどうして茶々丸に渡したんだ」

「翆坊主のアドバイスに従ただけネ」

「ん、何だと。この巫山戯た手紙の八つ当たりをしてやろうかと思ったが、どうして翠色の事を知っているんだ。相坂さよがばらしたのか」

図らずして違う方向に興味を逸らせたようだ。
しかし大分時間が経ているが翆坊主は自分で紹介した割にエヴァンジェリンには私の事は何も伝えていないのカ。

「さよが精霊だと言て来たのは確かだが、大分前に翆坊主自身が直接私に接触してきたネ。今回エヴァンジェリンを訪ねた理由は翆坊主の頼みごとでもあるヨ」

「……奴にしろ茶々円にしろ何のつもりだ。手紙によると超鈴音に図書館島の案内をしてもらえとあるが、アルはあそこにいるのか」

やはりあの手紙、まともな内容が書いてないようだナ。
結局最初からエヴァンジェリンに直接接触したほうがましだたかもしれないネ……。

「今はクウネル・サンダースと名乗ているが、図書館島の奥にある施設に住んでいるヨ。説明すると、ある魔法の開発に協力して欲しいから訪ねに来たんだヨ」

「なんだその名前は……。まあいい、明日連れていけ、奴に一撃いれてやらんと気が済まんからな。だが魔力も無いのに魔法を研究するのは難しいだろう」

「ある裏技で使えるようになたヨ」

「それも奴らが手出ししたのか。……どれぐらい使えるのか知らないが今から私の別荘で実力を見せてみるか。最近茶々円から赤毛が来る情報を得たものの、丁度相手もいなかったからな」

これは早い対戦だネ。
魔法の開発の前にぶつかり会うのも悪くないカ。
真祖の吸血鬼相手にどこまでこのアーティファクトで戦えるのかも実験してみたいからネ。
アーティファクト自体がばれるのは結局明日分かる事だから構わないナ。
しかし赤毛という情報でここまでテンションが上がるのはおかしくないカ。
エヴァンジェリンは一度も会た事がない筈だろう……ああ、翆坊主、わざとだろうが情報が少なすぎるヨ。

「最強と呼べる魔法使いと手合わせできるとは光栄だナ。どこまで通じるかも一度試してみたいからネ。その話受けるヨ」

「ケケケ、御主人ニ挑ムナンテモノ好キダナ」

「超、無理はしないでください」

こうして見るとやはり二人共どこか翆坊主に似ているナ。

「いい度胸だな超鈴音、この光の福音である私にどこまでついてこられるか見せてみるがいい」

闇の福音ではなかたカ。
確かに最初に会た時から魔の気配がなかたが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

エヴァンジェリンの別荘に入ったのは初めてだが私の買たダイオラマ魔法球より豪華だナ。
巨大な城な上に施設も充実している。
今度私の方も内装を変えてみるカ。

「超鈴音、その裏技とやらを見せてみろ」

「きと驚くネ。アデアット」

「な、パクティオーカードだと!」

―契約執行をオンに変更、出力制御―

最初から全開でやると命の危険に関わるからネ。
私は不死身ではないヨ。

「なるほど、契約執行ができるのか。それなら魔法が使えるな。驚くには驚いたが、魔法具が出ないというのは地味だな」

初めてアデアットした時は異常だたが制御すれば地味なアーティファクトに見えるのようだナ。
光の加減で虹彩の輝きはわからないのカ。

「魔法が使えるようになただけましだヨ」

「まあそうだな。……その魔力反応、私と似ている気がするがどういう事だ……」

私と魔力が似ていると言たけど、なるほど似ているどころか殆ど同じだナ。
これが光の福音という事か、しかし……。

「翆坊主に何か直接されたのカ」

「良く分かるな。真祖化の術式を100年前あの精霊に弄られてな、少なくとも吸血鬼ではなくなった。……まてそういう事か……。契約者は翆色か」

また翆坊主カ。
真祖の吸血鬼でもなくなているとはナ。
どうやら同じ力の源同士であるようだけど、こうして戦うというのは魔分の無駄遣いだナ。

「その通りネ。私もなんとなく分かて来たヨ」

《翆坊主、さよ、今からエヴァンジェリンに相手してもらえるんだが直に見に来るカ》

《ええ!?さっきの今日でもうお嬢さんと戦うんですか。……まあ好きにしてくれて結構ですが、そうですね見に行きますよ》

《鈴音さん、エヴァンジェリンさんと戦うんですか!気を付けてくださいね。私も見に行きます》

「今翆坊主達呼んだからそのうち来るヨ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音からお嬢さんと試合すると連絡がきたものの……。
真祖化術式改変一部精霊と精霊化アーティファクトの戦いなんてある意味内輪揉めのようなものだ。
ややこしいことになりそうだ。

さて、別荘にお邪魔するとしよう。
まだ地上でやってるのか。
フィールド展開したら飛ぶのも余裕だろうに。
見たところ超鈴音が放った魔法をお嬢さんが相殺しているな。

     ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
 ―炎の精霊 来たりて 67柱 魔法の射手 連弾・炎の67矢!!― ―光の精霊 来たりて 67柱 魔法の射手 連弾・光の67矢!!―

一斉に放たれた67本の炎の矢と光の矢が相殺しあい一瞬閃光が起こる様は、まるで綺麗な花火のようだ。
始動キー詠唱開始は同じだが超鈴音の方が先に発動させているところを見るとお嬢さんは本当に丸くなったというか余裕そうだな。
しかし実際超鈴音が超加速状態に移行したら詠唱速度諸々ではどうなるのだろうか。
あまり熱くなられても困るが、確かに面白いし見ものではある。
茶々丸姉さんもしっかり記録してるようだし。

「来たか翆坊主、エヴァンジェリンに相手をしてもらてるヨ。さてまだまだ実験したい魔法あるネ」

「茶々円、人間と仮契約するとは超鈴音はそんなに興味があったのか」

《そんな所ですよ。実際前回も超鈴音の協力がなければ解決できない問題でしたからね》

「そして今回は私の協力も借りたいと言うわけか。私も色々用事があるから、頻繁には協力できんぞ」

《それで構いません、よろしくお願いします。茶々丸姉さん、隣失礼します》

大学のサークルで学園都市内だがあちこち行っているから当然か。

「次行くネ!心配いらないと思うけど避けるといいヨ!」

     ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―
      ―来たれ 火精 土の精!!―
       ―劫火を従え 噴出せよ―       「なっ、その規模の魔法も使えるのか、だがまだまだ甘いぞ!」
                               ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック 来れ氷精 大気に満ちよ―
                                  ―白夜の国の 凍土と氷河を―
        ―爆ぜる大地!!!―                     ―凍る大地!!!―
                                            
なんだそれ!?お嬢さんも詠唱早すぎるでしょう!
火柱と氷柱ってなんのアート。
威力自体は溶岩と化している超鈴音の方が上のようだが。

《うわー、何か芸術的ですねー》

遅れてご到着ですね。

《サヨ、来ましたか。今のところ、まだ、落ち着いている方です》

燃える天空まで出し始めたらカオスだ。

「詠唱早いネ、流石光の福音の名は伊達ではないカ。私も本気でやらせてもらうヨ!出力上昇!」

双方浮遊術に入り、超鈴音は準加速状態。

                                   「まだ上がるのか!いいだろう、この際最後まで相手してやる!」
      ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                  ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―来たれ火精 風の精!! 大気を制し 薙ぎ払え 灼熱の嵐―          ―来たれ氷精 光の精!! 光を従え―
           ―炎の豪風!!!―                           ―吹雪け 白夜の氷雪―
                                                   ―輝く息吹!!!―
2種類の竜巻がぶつかり合い強烈な閃光と轟音が辺りに鳴り響く。

炎の竜巻と殺傷性がやばそうなダイヤモンドダストの激しい衝突は戦争でもしてるのかという感じだが……。
お嬢さん……本当に闇の属性使えなくなったんですね。
なんかご迷惑おかけしました。
しかしそれでもちゃんと代替魔法開発してるという努力のあたり、お嬢さんらしいな。

《あわわわ、大丈夫なんですかあんなの出して!》

《大分派手になってきましたが、多分次の方が酷いですよ、急速に互いに距離を空けてますから。って言ってる側から!》

        ―ラスト・テイル・マイマジック・スキル・マギステル―                    ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣!!―  ―契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ 終焉の光!―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―              ―永遠の氷河!!―
             ―燃える天空!!!―                    ―全ての 命ある者に 等しき眠りを 其は 安らぎ也―
                                                       ―凍る世界!!!―
先の竜巻の衝突を遙かに超える広範囲で炎と氷が衝突し、その中心では一瞬にして大量の煙が立ち昇った……。
とうとうやってしまった広範囲焚焼殲滅魔法の燃える天空と広範囲完全凍結魔法の凍る世界のガチバトル。
別荘でなければ今の世の中何処で使うにしても戦争でもない限り使えないだろう。
一対一でやるには派手さそのものがばかりが目立つが、この後高速機動戦もやるのだろうか。

《……なんていうか魔法使いの戦いって秘匿と言っている割に派手ですね》

それを言ったらおしまいですよ。

《魔法世界の前大戦では大体こんな感じなわけです。私達としてはこういった方向に魔法の技術を向けられると微妙なんですがね。まあ大規模火災を鎮火するであるとか、木造家屋のある一体を全て取り壊すとかいうなら、役立つかもしれませんが。それでも地球の核兵器よりはましですよ。土地に住めなくなるわけではないですし》

《要は使い方次第ということですね》

その通り。だが、なんともそう上手く行かないというのが実情である。

「いや~、ここまで盛大に魔法使たのは初めてだヨ。調節して相手をしてくれて助かたネ」

「超鈴音、天才だからと言って古代の魔法まで使えるのはどういう事だ。仮契約したのがいつかは知らないが魔法の扱いに慣れ過ぎてはいないか」

《その辺りは少々複雑な事情があるんですよ。……それでこの後接近戦もやるんですか》

「それはまた今度にしたいネ。エヴァンジェリンもいいカ。次を考えるとしても、科学でやろうと思ていた武装があるのだが魔法で実現できそうだからそれまでは遠慮しておきたいヨ」

「合わせて魔法を発動させていただけあって私は物足りない部分があるがまあいいだろう。だがこの別荘にから出るにはあと丸一日経たないと出れないぞ」

《ほら、そういう訳でやはり時間の流れは現実と同じにした方がいい事もあるでしょう、超鈴音》

「エヴァンジェリン感謝するヨ。アベアット。確かに翆坊主の言うとおりだネ。同じ流れに設定してるからいつでも出入りできるのは便利だヨ」

「超鈴音も別荘を持っているのか」

「かなり高かたけどなんとか入手したヨ。今やてる作業はあそこでないとできないからネ。こちらの方が施設は素晴らしいけどネ」

「数百年の歴史でもあるから当然だな。時間もある事だ、茶々円色々説明しろ」

《説明と言っても何からにしますか》

「私が超鈴音に聞いていた計画だと世界に魔法を知らせるという物の筈だったと思うが、魔法世界の消滅を止めようとしている精霊とどう関係があるんだ」

《実際その二つの話は結局同じ結末になるんですよ。ところで超鈴音、話しても構いませんか》

「ふむ、翆坊主の言ている遅かれ早かれという奴だナ。構わないヨ」

《では私から説明します。超鈴音は今から100年先の未来の魔法世界が崩壊した後の火星から時間跳躍をし、昨年の冬に到着しました。当初の目的はお嬢さんが聞いた通りですが、結局魔法世界という名の火星が悲惨な事になるというのを回避するという目的で私達精霊と超鈴音は進む方向が同じです。しかも100年先の技術というのは驚異的なもので、昨年の夏の大停電に始まり火星の重力強化などはそのお陰で実現できた事の典型です。そして今回は火星全体に光学迷彩の魔法をかけて地球からは未だに不毛の赤い大地と思われる必要がまだあり、今に至るという訳です。大体こんな感じですね》

「当たり前のように言うな!前にじじぃの所で魔法世界の消滅を止める為に動いているとは聞いていたが直接火星を改造しているのとは聞いていないぞ!大体火星自体の改造の為のエネルギーは何処から出てるんだ」

《驚かれても困るのであっさり言いますと、神木には二代目の木がありましてそれを火星に打ち上げました。エネルギーはそれで解決です》

「……おい、実はアレは木ではないだろう」

《私もそこは強く否定できませんね》

「疑問が解決したところで翆坊主、何故エヴァンジェリンの魔力反応とこのアーティファクトを使た時と同じなのか詳しく説明して欲しいネ」

あ……やっぱり聞きますかそこ。
やはりややこしいことになったな。

《今までお嬢さんには言っていなかった事があるんで失礼ながら言わせてもらいます。エヴァンジェリンお嬢さんは既に吸血鬼の特徴の殆どを失っていますが、今一体どういう存在なのか説明しますと5%程神木の精霊と同化しています》

《えっキノ、エヴァンジェリンさんも精霊なんですか!》

「茶々円!次から次へと隠し事が多いぞ!その微妙な精霊化は一体何なんだ!」

「翆坊主、キリキリ吐くネ」

《いやぁ、これは機密情報に触れるのであまり言いたくないのですが、お嬢さんは真祖化の術式の改変の結果5%程度精霊化し、不老不死の特性は術式の効果もあり維持されています。どうやら不老の部分に関しては神木の影響範囲外になると効果が薄くなるようです。恐らく術式を弄った時以前より強くなったと思いますが、それは魔力供給が神木から行われているからです。ただし、魔力量自体の限界は増えていませんので一気に使えば供給が追いつかず、空になる事はあると思います》

「……100年前もそうだったが……忌み嫌われる吸血鬼でなくなっただけましとするか……。それで影響範囲外というのは魔法世界の事か」

《そうですね。お嬢さんが成長した理由の原因はそこだと思います》

「一時的に旅をしていた期間の分成長が進んだという事か。つまり魔法世界に行けば成長できる訳だな。それは良いな、ハハハ!……いや待て、そんな術式の変更ができるならば人間に戻る事もできるのではないのか」

そう言うと思っていたから今まで黙っていた訳だが……。

《……大変残念ですが、十中八九再度術式に手を加えてそれを行った場合、言い方に問題がありますが、即座に死に至ると思います……》

《……そんな……》

「マスター……」

「そうか……いや、気にしなくていい。茶々円がいなければ私の今の生活も無い。身体の成長に興味もあるが麻帆良からはまだ離れんよ。それに、話を聞いていれば近いうちに魔法世界でも成長できなくなるのだろう」

《……ええ、それが精霊の目的ですから。今まで黙っていて申し訳ありませんでした》

「私も興味本位で聞いてしまたがあまりいい話ではなかたナ。エヴァンジェリン済まないネ」

「元気を出してください、マスター」

「……ハハハ、私も丸くなったものだな。茶々丸、茶を入れてくれるか。少し落ち着きたい」

そっとしておくべき空気になりました。

《精霊は一度失礼させて貰います。サヨ、行きましょう、観測を続けないといけませんし》

《……そうですね、鈴音さん、エヴァンジェリンさん、茶々丸さんまた明日会いましょう》

精霊はダイオラマ魔法球の制限には縛られない。

超鈴音がここで一日過ごしても出る時にはまた夜という事になる訳だが、やはりその辺り問題あると思う。


あの後観測に戻り、しっかり一時間程した後超鈴音達は別荘から出てきて元の生活に戻った。
こっそり確認したところ、エヴァンジェリンお嬢さんは以前よりも更に雰囲気が丸くなっていた。
何か思うところがあったのだろう。
それに比例してお嬢さんのファンクラブの会員が増えることは間違いないと思うが。

超鈴音は別荘の中で久しぶりにぐっすり寝たらしく、戻ってきた後朝まで起きたまま修行と研究と粒子精製の作業を行っていた。
因みに、気になる超鈴音の科学でやる予定だった装備というのは恐らく00な敵側でよく使っていた「まだあるんだよ!」という飛んでくるアレだと思う。
そういうの好きそうだし。
実際視界拡張の効果で空間認識能力は人外のレベルになるから合っていると言えば合っている。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日から一日なのにほぼ二日という感じになてしまたが、エヴァンジェリンと図書館島に向かている。
途中図書館探険部の4人組が追い越していく時、私達の組み合わせの珍しさに驚いていたが今回は面倒な事にはならなかたヨ。
その原因は後ろにいるエヴァンジェリンなのだが、昨日の別荘から急にしおらしくなたからだナ。
道行く男子共もエヴァンジェリンの様子を見ると思わず動きが停止するあたり破壊力が凄いネ。
これはクウネルサンに合わせるのはいいが、昨日とは状況が違いすぎるのではないカ。

一般人は知らない入り口からエレベーターに乗て少し歩いた所で到着。

「エヴァンジェリン、着いたヨ」

「ああ、案内済まない」

……この反応のエヴァンジェリンは普段から考えると珍しすぎるヨ。

「クウネルサン、エヴァンジェリン連れて来たネ」

「超さん、ありがとうございます。久しぶりですねエヴァンジェリン。私の手紙読んで貰えましたか」

「手紙か……ああ、読んだぞ。……アル、久しぶりに会えて良かった」

クウネルサン、エヴァンジェリンの様子に気づいたようだナ。
驚いてるヨ。
昨日は一撃入れると言ていたのを聞いていた私としてもこれは予想外だからナ。

「どうしたのですかキティ、こんなに可愛らしい様子をするなんて。予想と違いましたが……これはこれで良いですね」

最後ぶつぶつ言ているが幸せそうだナ。
余程会えたのが嬉しいみたいだネ。

「不死について考えていてな。変わらないアルを見て少し安心した」

私はお邪魔な空気になているような気がするヨ……。
しかもキティという危険な名前で呼んだのに無反応だナ。
昨日の流れから行くとやはり不死のあたりの事だたカ。
昔までは不可能だた安らかな死が翆坊主達には可能であり、同時に永い時を生き続ける事も可能という事だからナ……。

「不死……ですか。私は完全な不死という訳ではありませんが、何かあればできる限り協力しますよ」

「なんだかお邪魔の用なら今日は私はこれで失礼するヨ」

「待て超鈴音、例の魔法とやら私にも手伝わせろ」

勢いを取り戻したようだが不安定だナ。

「超さん、幻術魔法の開発も早いほうがいいのでしょう」

「そうだネ。クウネルサン、エヴァンジェリンよろしく頼むヨ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

例の司書殿の手紙だが、失礼ながら拝見した。
ここ数年のお嬢さんの学園祭での様子などに関する感想が書いてあった。
魔法の研究に協力して欲しいとは一言も書いていなかった。
やはり予想は正しかった。
ただ、色々とタイミングが良かったというのもある。
普通に考えてどうやってお嬢さんの様子を知ったのかという事になったらすぐに私の所に容疑がかかるのは間違いない。
実際お嬢さんの学園祭の映像は既にサークル単位で近年麻帆良で販売もされているからおかしなことではないが、あの日の出来事のお陰で炎上しなくて済んだ気がする。

さて、あれから時は流れ期末テストもいつも通り過ぎ短い春休みである。
光学迷彩の幻術魔法の研究も進行中であり、自己顕示欲の強い木をしっかり隠す目処も経ったというものだ。

木自体の改造も図書館島の地下にある怪しげなゲートの情報によりあっさり解決し地球と火星を月一どころか常に繋ぐことができる正直ありえないものができた。
いや、ありえてくれる必要は十分にあるが。
サヨは何をするようになったかというと精霊体で火星を飛んだりしている。
勿論私も行ったが、正直何も無い、どこまでも赤い大地と二酸化炭素の固まったドライアイスしかない。
変な感覚になるだけだが、サヨはそういう何も無いところを高速で飛ぶのが面白いと言っている。
ともかく新しい趣味ができて良かったのだろうと思う。
現在は似たような方法で超鈴音のダイオラマ魔法球との間に粒子転送用のポートの設置作業を行っている。
と、言っても超鈴音が作成中である装置が完成した際に空間を繋ぐところだけが私達の仕事であるが。

数日前に超鈴音が再度雪広グループに出向いて例のまほら武道会の復活の件が近衛門を通して回答を得られたという事だったが、2002年度は無理だが2003年度は開催して構わないということになった。
恐らく赤毛の少年の事を想定しての事だろう。
超鈴音はその回答で今年は先送りだが開催する事ができるようになっただけで収穫はあったとその辺りは気にしていないようだ。
寧ろ、例の映像を今年度の学園祭で雪広グループ特別展示施設で上映が決まり、それに併せて編集された映像の販売がなされるという事が今は熱い話題である。
麻帆良の歴史は超鈴音が奇跡的に保存されていた映像を発見しカラーでおこし三次元にまで昇華させたという事で済ますつもりらしい。
それで通るあたり麻帆良はやはり変である。
例の認識阻害の効かない少女が見たらしっかり「ありえねぇ……」と言ってくれるに違いない。
他の自然編や宇宙編も超鈴音が作成した素敵なCGという事でゴリ押しであるがこちらの方が寧ろ普通に感じるのだから、実に現実感の無い映像に関しては扱いが楽だそうだ。
同時に認識阻害は効いているものの三次元映像技術が発表される舞台にもなるので今年度の麻帆良祭は動員数は更に多くなりそうである。

もう一つ進展があったのは、麻帆良の外れにある呪術協会支部であるが短期間で建設が完了した。
表向きは地上部分が教会である魔法協会と似たようなもので、日本、主に京都の文化振興の施設という扱いになっている。
龍宮神社ともこっそり呪符関係で手を結んだりとしっかりやる所はやっているあたり彼等も麻帆良に慣れてきたようだ。
因みに天ヶ崎千草は謀略をめぐらせる暇が今のところないぐらい忙しいので安全である。
というのも、例の一件でよりしおらしくなったエヴァンジェリンお嬢さんが先日あちこちのサークルの一年のまとめとしての発表に参加した結果、余りにも絵になりすぎていたため男女問わず強烈なインパクトを与え、着物、茶、日本舞踊などがブームになったところ、先の施設ができたからである。
裏の施設の筈なのに表でやたら儲かるというのはなんともタイミングに恵まれている。
しかもその原因が、今は闇という文字のかけらも見えない光の福音殿だというのだから皮肉な話である。

一方小太郎少年の方は、忍ばない忍者と双子の小学生が所属するさんぽ部に頻繁に参加するようになり、小学生が3人になった。
少子高齢化と言われる時代に珍しい風潮もあったものだ。
ただ、神木に何処吹く風という様子で登れる人数が2人になったのは微笑ましいと言えば微笑ましいが微妙である。

「今日もここから見える夕日は綺麗でござるな」

「めっちゃいい眺めやわー。また来るで」

「うむ、またさんぽに来るでござるよ、コタロー」

という会話が日常に頻繁に加わるようになったのだった。

何はともあれ概ね麻帆良は平和ということで良しとしよう。



[21907] 12話 全人類肉饅補完計画
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 19:44
まほら武道会を今年度復活させることは学園長が認めなかたが、翆坊主の話から考えるとご先祖様の到着を待ちたいという事なのだろうナ。
それでも今年は雪広グループとの協同展示の方での資料作成が忙しいからネ。

私の信念には世界に肉まんをという標語があるが、有言実行に限るネ。
五月達で運営している屋台だけではなく、更に2号店、3号店と出店計画をしなければいつまで経ても野望は成就できないからネ。
そこで、この前の会合で雪広グループの社長が超包子の肉まんを好きだというのだから、麻帆良の外への出店計画についての協力を申し込んでみたヨ。
その時出席していた社員の人達は、なんと皆超包子の肉まんを気に入てくれているようで「超包子はブランド化できる!」という事で話はあという間に進んだヨ。
まず最初の足がかりとしてインターネットで超包子の肉まんを味を落とす事なく瞬間冷凍したものを4個を目安にして箱詰めして通信販売という方法を取る事になたネ。
流通経路の確保、販売促進は両方とも雪広グループに協力してもらう事になり、麻帆良祭では超包子の常駐支店を雪広特別展示会場のすぐ近くに建てる事も視野に入れる事になたネ。
いくら麻帆良最強頭脳であても、麻帆良を出てしまえば科学系はともかく食品業界にツテは無いから当然だナ。
まだ気が早いかもしれないけど、ハカセとロボット工学研究会にも五月の調理技術を模倣できる設備を作ることを頼むことにしようと思ているヨ。
五月は自分で作たものを他人に食べてその日を元気に過ごしてもらえれば良いという考えだから店舗拡大という事には興味はないかもしれないが。

しかし私の生活も毎日毎日予定が詰まているものだナ。
魔法球で魔分有機結晶粒子の精製、ポート作成、修行、新型魔法の開発。
図書館島で二人と光学迷彩魔法の研究。
中国武術研究会で古と小太郎君の相手。
ロボット工学研究会でハカセとさよと研究。
お料理研究会で五月と地道に人材の育成。
東洋医学研究会での会長業務。
生物工学研究会で例の魔分有機結晶の有機部分の情報を小出しにした研究。
量子力学研究会で現行技術に基づく新型通信技術と量子コンピューターの研究。
そして雪広グループとの提携。
一週間ではとても回らない生活パターンだヨ。
翆坊主の言う魔法球の時間を変更しない方が良いというのは分かるが、現実の流れを増やさないとこちらは解決しないネ。
高速思考が可能とは言え、まさに時は金なりという事だナ。
疲労感が溜まるかというと、仮契約する前と違って世界樹の加護の効果で精神力が強化されたり、魔分供給で身体機能が向上するものだから寧ろ以前より頑張れるヨ。

因みに何故東洋医学研究会で会長職までやているかと言う事だが、西洋医学で治せない事も私の知識でなら治る事があるからだヨ。
日々一日を健やかに過ごす事を助ける事ができるならささやかでも私は労力を惜しまないネ。
他に外科はともかくとして医学方面にも関係を広げておきたいという事もあるが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

皆さん相坂さよです。
私はこの秋から冬にかけて超包子で五月さん達と働きに働いて中学生にしてはかなりの額を稼ぎました。
なんとなく高畑先生と新田先生と特に弐集院先生の財布の中身が流れて来たという感覚が強いですが、私が幽霊になったばかりの頃に比べると洋服を始めとして色々充実しています。
今までできなかった事をしっかり実現できていて楽しいです。
最近エヴァンジェリンさんが火をつけた日本文化がブームになっていて奮発して着物を買ってしまいました。
衝動買いができるというのもやはり生きている醍醐味の様に思います。
この買った着物を実際に着てみたのですが、身体が覚えている、というのも変ですが意外と普通に着られました。
少し生前の事も覚えていることがあるんだなと嬉しいような少し寂しいような気がします。

一方、鈴音さんと葉加瀬さんはそれどころではないという感じでいつも大忙しですけどね。

ここ数ヶ月キノの暗躍が激しかったですがあえて私のこれは!と言えるような活躍を思い出してみます。
去年の秋のウルティマホラである程度……勝ち進んだ事……。
鈴音さん達に新しい身体!を作ってもらって新開発のための計算、いえ、辛くなんかないですよ!
しっかり対価を貰いましたからね。
龍宮さんへの映画の報告は役だっています!

そしてなんといっても神木からの観測、火星の探査です!
今の火星環境ではまだ生身の人間であればすぐに死んでしまうような状況ですが精霊体である私は範囲内ならばしっかり見て回れます。
夜になると一切地上の光が無い世界ですから星空がとても綺麗なんですよ!
それにたまに強烈な嵐が起きるんですが、なんていうか雨の日や台風が来ている時にあえて走りまわりたくなるような感覚と同じで無性に楽しくて、それでいて地球のものとは比べ物にならない光景なんですから!
今までも映像が送られてきたというのは確かですが直に空を飛んで見渡すというのはまた違います。
環境が改善されて魔法世界と同調してしまえば、なかなかこうして今この時に感じるという事はできませんから得した気分です。
人間が住んでいない原始的惑星から見える世界とはこうもあるというのを身をもって知ることができる私は全人類で初めての経験をしているに違い有りません。
別に哲学的な事がどうとか言うのは綾瀬さんではないのでわかりませんが、ありのままに感じることは私にもできます。
そのうちまたこれも映像化してみたいですね。

そういえば鈴音さんの新型魔法の開発でしたが、まさに機動戦士のアレに近いものがビュンビュン飛んでたんです!
鈴音さんに聞いたところ、指で操った方が反応は早いけれど最終的には演算能力で管理した方が効率がいいらしいです。
自然体でかつ目の虹彩が輝いたまま十数本の光の刃を飛ばしているという姿は漫画や映画だとどちらかというと敵側の強いキャラクターの一人という感じですが、私達精霊にとっては鈴音さんは主人公側なのです。
因みにビームサーベルみたいなのは無いんですかと聞いてみたところ、「さよ、そんなこともあろうかと!」と両腕から魔力剣が出現しました。
しかも今度は足にも形成してみたいんだそうです。
ただ、まだ完璧とは言えず未完成の状態との事です。
寧ろもう鈴音さんで映画が作れそうですね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ここ最近で一気に忙しくなった超鈴音だが、高速思考やアーティファクトの効果があるとは言え、日々を確実にこなすのだから本当に大した少女だと思う。
表でかなり目立ち始めた超鈴音が裏よりも表で命を狙われることがないかと最近心配になってきたのは気にしすぎだろうか。

ここで恒例の火星の様子の確認を行うとしよう。
前回年末の時点では酸素の大気組成は3%だったが更に4月現在の今ではあと少しで6%という所になっている。
酸素の組成は上げすぎる必要もないがあと丁度1年程度は上げていく予定だ。
前回よりも上昇率が下がっているのは他所に出力を回していたからである。
これからは地球側からも魔分供給を行うのでまた上昇率も元にも戻るだろう。
また、火星の平均表面温度及び平均気温も以前より大分上がってきているため、いずれは嵐になっても二酸化炭素がドライアイスになったりという事も減っていく筈だ。
とはいっても0度のラインを抜くのはまだ先なのだが。
今回の大きな成果といえば4ヶ月近く地中活性を行ってきた事もあり、ようやくマントルに第一歩というべき対流が発生した事だ。
一度動きだしたからには徐々に流れを活発にしていく必要がある。
と、このような状況で着実に成果を上げているので問題なしだ。

《翆坊主、さよは既に受けてくれたが、特設展示施設での職員として働いてもらいたいのだが良いカ》

突然何の話ですか。

《え、私も身体に入って麻帆良の説明をするんですか。確かに麻帆良で知らない事はほぼないですから適役ですね。でしかしサヨならいいですけど、いきなり戸籍不明の謎の翆色の人物が学園祭の期間中だけ現れたとなっては怪しすぎませんか》

《そう言うだろうと思たけど、前にさよの新しい身体!や翆の大小の身体を使た事があるのだから、改めて全然違う素体を用意すれば済むのではないのカ。戸籍不明に関しては私と雪広グループの手にかかればどうということはないヨ》

そういえば身体って作れば何でもできたのだった。
こうしてみると明らかに後ろめたい人達からすると便利すぎる機能だな。
頭が硬くなっていたつもりはなかったがやはりそういう事には自分では気づかないものなのだろうか。

《うっかり忘れてましたが言われてみれば可能ですね。ですが、人の出入りが激しくなる時間帯は観測をしっかりしますから一日中という訳には行きませんよ》

《分かたネ。その辺りは配慮するから安心するヨ。終わたら肉まん用意しておくから好きに食べていいヨ》

そういえば一体目の茶々円の身体が関西での最後を迎えて以降、物を食べられる身体に入っていないな。
入るものはいくらでもあるのだけれど……。

《久しぶりに超包子の肉まん食べたいですね。是非手配お願いします》

随分安い対価で労働する事になった気がするが、超鈴音の協力の元ここまでやってこれたのだから何も不満に思うところは無い。

《翠坊主、一足先にその超包子の肉まんが麻帆良を飛び出して世界への道が開ける事になたのは知ているナ》

《はい、知っていますよ》

《一つ確認するけどさよの合気柔術の型が見事なのは精霊の能力の一つなのカ》

そういえばトレースの事は言ってなかったな。

《ええ、そうです。動きを模倣する事をしっかり繰り返せばその行動をプログラムとして保存できます。サヨの合気柔術のデータは昔私が記録したものです》

《そうと分かれば話は早いネ。これで開発が短期間で済むヨ。少しさよに力を貸して貰うネ》

流れから言って話は読めたな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春休みもあっという間に終わり私達は中学二年生に上がりました。
今年も担任の先生は高畑先生で副担任の先生は源先生です。
この二人が付き合っているのではないかという噂があるのですが、これをとうとう神楽坂さんが聞いてしまいました。
真っ白に燃え尽きたというのはああいう状態を言うに違いないです。
同時にそのあと近衛さんのフォローを受けてからの立ち直りも早かったですが。

去年に引き続き身体測定もありましたが私の身体は一切変化がありませんでした……。
改めてこの体が作り物であるというのがよく分かります。
でも一応15歳の身体なのでまだそんなに気になりません。
一方鈴音さん達はしっかり身長が伸びていました。
一部去年の時点でおかしな人達もいましたが深く考えてはいけないと思います。

ところで、今日も超包子で働く筈だったのですが、鈴音さんと五月さんに連れられてお料理研究会に行く事になりました。
……どうも鈴音さんの様子が若干マッドサイエンティストモードのようで嫌な予感がします。
五月さんも正直何をするのかよくわかっていないみたいなので不安です。

「さよ、五月の肉まん調理技術を習得するネ!」

あれ、私が料理する側に回るだけですか。
でもそんな筈は……。

《サヨ、何をするのか聞かされずに連れて来られたようですね。簡単に言うと合気柔術が使える要領で肉まんの調理技術をトレースして欲しいと言う事だと思います。後は新しい体!と言えば分かりますよね。では頑張って》

……突然翠のお告げが一方的に聞こえました。

料理の練習という名のロボット開発のためのデータ作成ということですか。

何だか便利家扱いされてますが、それでも、あえてこの任務やり遂げて見せます!

「今お告げもあったので、料理頑張ります!」

「相坂さん、お告げはよく分かりませんがしっかり練習しましょう!」

鈴音さん以外の皆さんはお告げって何という様子でしたが、こうして肉まん調理の特訓が始まりました。

超包子の肉まんは皮も独自の物を使っているため一から生地をこねて作る必要があります。
今まではなんとなく五月さんと時々鈴音さんが作る所を見ていただけでした。
でも、いざやってみると本当に中学生なのかという程なめらかな動きで二人が料理しているというのがよく分かります。
それぞれの材料の分量と比率に始まり、生地のこね方とその時力加減、肉まんの具に適したサイズにするための材料の切り方、しかも特に重要な肉については細かい決まりがあり、更に蒸した時に具と皮の間に空洞ができないようにする工夫、蒸す時の肉まんの配置、時間、水分、温度の調節と極めつけに五月さんの一般人よりも温かい手の温度であるとか、他にもあるんですけど省略します……。
とにかくこれらの動きを全てトレースする訳で目標は学園祭の前には習得ということなのであまり時間がありません。
こういう時は気合いでなんとかすればいいと誰かが言っている気がします!
実地でやっているだけでは時間が足りないので夜も木の中で五月さんの観測映像を見ながらその動きを精霊体の状態でですがなぞって行きます。
キノが言うには動作のトレースは精霊体よりも実際の力加減がわかるインターフェイスの方が早いだろうと言うことで、この状態の時は力があまり関係の無いものを学習することにします。
最初は良かったですけど、なんだかキノの近くで練習するのはシュールになってきてしまい、気分を変えて火星の木で練習したりもしました。
それについて火星の無駄遣いと言われましたが、どちらかというと火星の有効利用だと思います。
日に日に上達して行くので五月さんからは「筋が良いですよ」と褒められましたが、たゆまぬ努力の結晶なんです。

5月下旬の中間テストもなんのその、いつも通り2-Aで4位までを独占し6月頭、ほぼ完璧な肉まん調理技術をトレースしました。
お披露目にクラスの皆に食べてもらった所「いつ食べても美味しいね!」というある意味至上の評価が貰えたのでこの難度の高いミッションを達成できました!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さよが全人類肉饅補完計画の第一段階を進めている間、私はエヴァンジェリンとの光学迷彩魔法の合間にある興味深い事に気付いたネ。
焦点は神木の精霊の力を借りた魔法は一体何に分類されるかという事だヨ。
結論から言えば、基本魔法は全て神木の精霊の力にあてはまるという事がわかたネ。
精霊の使命とやらが世界に魔法を残す事というのを実現するかのように、万人向けが売りなのだろうナ。
ただ魔法世界ではその辺りはどうなているかは試してみないとわからないネ。
攻撃性のある魔法に転換できるかもやてみたが、基本的に光の精霊との親和性が高いみたいだからあまり意味がなかたヨ。
防御魔法の方ではアーティファクトの異常なフィールドを見るに適正があるだろうと目を付けて、エヴァンジェリンも枚数で数えるタイプの魔法障壁よりも障壁の層のように展開できるのは防御面で優れていると言ていたネ。
その場で受けとめきれない場合突破されてしまうものとは異なり、徐々にめり込んでいくタイプだから咄嗟に強力な攻撃を受けても瞬時に体勢を整えられる筈だナ。
仮に攻撃魔法で使えたとしても、詠唱の時に口が裂けても、機密に関わてしまう為、神木だとか初源の精霊などと言えず、結局無詠唱しか日常では使用不可能という事になるから、丁度いいのかもしれないけどネ。

もちろん魔法球でもきちんと粒子精製も進めて、併せてポートも翆坊主から提供された情報を基に完成させたネ。
また新しく次にやるべき事が増えるんだろうが一つやるべき事が終わただけでも楽になるナ。

回想はここまでにして、今はさよが努力して記録した行動プログラムを新しい身体!に入て貰てダウンロード中だヨ。
ハカセにはさよの幽霊みたいなものの能力で人体の行動パターンをプログラム化できるか実験してみるネ!と少し騙すような真似をしたがいつも通りテンション上がて来たみたいで良かたネ。
実際私も今画面に表示されている複雑なプログラムに感動してるヨ。

「相坂さん、前回の計算能力も驚きでしたが今回も凄いですね!こんなプログラムを持っているなんて幽霊というのはオカルト等ではなく情報生命体なのかもしれません!」

ふむ、情報生命体というのは的を射てるかもしれないナ。

「私もこんな風に表現されるとは思いませんでした」

「このプログラム言語ならば今までできなかた事も実現できるかもしれないヨ」

「次はこれを再度ロボットアーム等にインストールして最適化する作業ですね!いえ、茶々丸タイプのボディにそのままの方がいいでしょうか、しかしそれでは大量生産が達成できませんか。ただプログラムを再現出来るだけのスペックが機械側にあるかどうかの確認をしないといけませんし……」

完全にスイッチが入てしまたようだナ……。

「さよ、これからは超包子で調理と配膳の両方を店の状況を見て切り替えたら良いヨ。データを取る為だけにやた訳では無いからネ」

「そうですね。五月さんに任せきりの料理の手伝いがこれでできます!」

「頼むネ、さよ。ハカセ、どちらも試してみたい所だが、まずプログラムの解析と分割をして理想の動きを再現させられるよう大量生産型の機械を開発するとしよう!」

私も考え出したらワクワクしてきたヨ!

「こんなに研究対象として凄いプログラムはなかなかありません。ええ、きっと解析が完了すれば人間の動作だけではなく動物の動きも忠実に再現できるようになるかもしれません、なんて素晴らしいのでしょうか!!」

その気持わかるネ、ハカセ!!
科学の発展のために完璧な動作を再現してみせるヨ!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

慌ただしい二ヶ月だった。
夜になるとサヨが木の中でシャドー肉饅料理をするわ、恥ずかしいからと火星でやるも観測してるものだからチラチラ情報に入ってくるわでなんだかんだせわしなかった。

そろそろ麻帆良祭も近いので身体も用意した。
モデルは00な組織の創設者の老人である。
やはり歴史の解説と言ったら学者っぽい方が良いだろう。
サヨも解説するというのだから祖父だとでも通せば意外と自然ではなかろうか。
名乗るとしたら 伊織修平 等と言うのがなんとなく良い気がする。


さて、今何をしているかと言えば、めでたく完成した木と超鈴音の魔法球を繋げるポートの開通式である。

《超鈴音、接続作業を行いますよ》

「いつでもいいヨ。翠坊主の提供してくれたゲートの情報を参考にしてるから性能には問題は無い筈ネ」

「いよいよですね」

-接続開始-

……状況は良好、と。
基本的に一度神木・蟠桃を経由させて続けて二代目に転送させられるようにしてある。

《お見事です、超鈴音。これなら実体のある物質も転送できますよ》

「これで貯めに貯めた粒子もようやく役に立つナ。で、実体があても転送できるという事は、私も木の中に入て実際に見ても良いと言うことになるのカ」

映像で木の中で生まれた華については見せた事があるから興味があって当然か。

《一応華を格納していた頂上の場所にゲートを設置しているので今は何も無いただの亜空間になっていますが……そうだ、第二世代から華を転送させましょうか》

すっかり火星側に放置していた忘れかけていた宇宙船だったがゲートを使えば移動もできたのだった……。
因みに安置所にゲートを移動させる事も可能だがあまり紹介したくないので却下である。
また観測空間だけは精霊体でないと侵入はできない。

「おお、宇宙船見せてくれるのカ!それはすぐ行くネ!」

《分かりました、今手配します。サヨは久しぶりにその身体を安置所に並べてみますか》

「いらない配慮です!」

《冗談です、ゲートの設定を変えるのは可能ですがやっぱり面倒ですからね。それでは準備できたので宇宙船の見学ツアーへようこそ》

「人類初、木の中に入るネ!」

華が誕生した空間に実際に入れた喜びに超鈴音はテンションが上がりまくっている。

「映像では見ていたが宇宙船というものがこんなに美しいというのは生命の神秘だヨ!人間の想像ではもとこう金属の塊だたりする筈なのだが、これはなんと言ても全体のバランスの良さといいこの手触りといい素晴らしいネ!」

あれ……手で触った事……ないな。

《そんなに手触り良いのですか》

「キノ、私も触ったことなかったですけどこれはなんとも言えない良さです!」

そこまで言うなら触ってみないとな……。
後でゲートを二つ繋いで安置所からも移動できるようにするか。

《私もそのうち触ってみる事にしますよ。それで、乗ってみますか》

「是非乗てみたいネ!……と言いたいところだが、これの所有権の譲渡を約束されているし、お手付きのような気がするから今日はまだやめておくヨ」

意外とそういう記念的なものを大事にするんですね。
すぐに内部の研究を始めるのかと思ったのだけど。

《私達としては超鈴音ならいつでも乗ってもらって構いませんからその気になったら言ってください》

「感謝するネ翆坊主、さよ。……ところでこんな所で何だがクウネルサンが図書館島から出れるように学園祭の時だけでも麻帆良全体の魔分出力を上げないのカ。私が知ていたデータだと毎年学園祭の時期になるとある程度神木の反応が上がていた筈だたが、こちらに来てそれが無いのがわかたからナ」

ああ、適当に22年に一度だけ発光させてたんだった。
それ以外は常に、特に変動もなく少しずつ一定の勢いで魔力溜りに魔分を供給しておいていたのだった。

《それは私の手抜きで22年に一度だけ出力を上げていたのが原因ですね……。また歴史云々の問題でややこしいですが、司書殿も22年に一度出力が上昇するというのは理解しているからこそ、あそこにいるのだとは思いますが、光学迷彩の魔法にも協力して貰っていますしなんとかしましょう。今更学園祭の時に出力を上げるのも変なので個人的に魔分供給する方向で解決させますよ》

エヴァンジェリンお嬢さんの映像の件も掘り返されたら堪らないし、今年は直接見学してもらうとしよう。

「歴史の問題については確かに気にしない方がいいカ。では、クウネルサンは頼むヨ」

《了解しました、任せてください》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

という訳でクウネル殿の所へやってきた。

《クウネル殿、光学迷彩の魔法への協力感謝します。そのお礼といっては何ですが、今年の学園祭は外に出てみませんか》

「おや、キノ殿久しぶりですね。私もまた協力させてもらえることで超さんとエヴァンジェリンに会えていますからそれなりに満足していますよ」

《それは良かったです。実はこの頼みは超鈴音からの物なのですよ。失礼ながら私はすっかり考えから抜け落ちていたもので》

「超さんが……ですか。……そういえば重力魔法が完成した時にも似たような事を言われましたね。それでは、お言葉に甘えておきましょうか」

《お嬢さんの晴れ舞台を直に見てくると良いと思いますよ》

「……キノ殿、寧ろ私に今回は実際に見て欲しいと思っているのでは」

あ、墓穴掘ったか。

《ははは、お互い様ということで済ませませんか。わざわざ火種を大きくするのもよくありませんし》

「私としてはそういうエヴァンジェリンも見てみたいですね。この前は予想と違う反応のまま有耶無耶になってしまいましたし」

そういうの期待しているのは勝手にすればいいけど巻き込まないで下さい。

《お嬢さんも最近また以前の状態に戻って来ているようですから一人で頑張ってください》

「木を氷漬けにされては困りますか」

《困ります。勘弁してください》

まあ実際そうなる事はないだろうがあったとしても魔法を妨害すれば済むのだけれど。

いよいよ2002年度の学園祭の幕開けだ。



[21907] 13話 赤毛の少年 1人! 来りて 大志を抱け 魔法の先生 2A・31人!!
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/17 19:01
話は少し遡るが、麻帆良の歴史説明用インターフェイス伊織さんの件だ。
怪しまれないように周りに気を配りつつ、木から出て超鈴音と雪広グループが手配したホテルに向かったわけだ。
そこで学園祭の前に予め泊まり、主に何を説明するのか等を超鈴音、サヨ、社員さん達と話しあいつつ身体を放置するという寸法だ。
しかし、現実問題この有様である。

「済まないが、お爺さんは誰ネ」

「私もこのお爺さん知りませんよ」

わざとなのか何なのか正直困る。
何サヨはこそこそ超鈴音に話しかけているのか。
こうなったら逆にそのまま押し通る!

「伊織修平と申すものじゃ。今年の学園祭で麻帆良の歴史を語ろうぞ」

……そんなにうんざりしたような目をしないで欲しい。

「……翆坊主、違う素体を用意すれば良いとは言たが何故わざわざ年寄りにしたネ。その名前もどこから来た」

「キノのイメージってなんか変な偏りがありませんか」

「ぬう、不評のようじゃがさよの祖父等と通せば自然かと思うての。名前は珍しく思いついたのじゃ」

「さよ、お祖父さんだそうだヨ」

「この人が私のお祖父さんですか……。全然似てないです……」

こんなわざとらしい遠い目は初めてだよ!

「この老体に立場なしというのも何じゃ。中に入らせてもろうても良いかな」

「その口調はわざとなんだろうナ。社員さんの前ではその方がいいけどネ。着いてくるヨ」

お互い様ということで。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

私達「超一族」は今年のクラスの出し物には殆ど参加する時間がなくて申し訳なかったのですが、そこはいいんちょさんが「数人減ったところでなんとかしてみせますわ」とまとめてくれたので好意に甘える事にしました。
もしかするといいんちょさんは雪広グループのお父さんから何か言われたのかもしれませんね。
今回は超包子の麻帆良外への展開の為の大事な機会であり、飛べる超包子の屋台も特別展示施設の近くに用意されたスペースに常駐することになりました。
恐らくあちこち飛びまわるよりもあそこが一番宣伝になりそうだからです。
6月頭に収集された肉まんの調理データは葉加瀬さんが工学部の人達と共に研究室で徹夜を敢行した結果、およそ2週間で大量生産可能な設備が完成しました。
その完成した瞬間には強烈な雄叫びが外からでも工学部棟から聞こえる程で余程限界だったのかその後は屍累々の地獄絵図でした。
床に倒れたままでぶつぶつと新たなロボットの開発について呟いている人達は不気味なのであまり見たくはないものでした……。
この設備はしっかり屋台の近くに突貫工事で建設された建物で稼働させ、できたものは冷凍のお持ち帰り用と、その場で食べる用として売りに出します。

そして、とうとう私が復活してから二度目の麻帆良祭が始まります!


今年の超包子開店式in麻帆良祭では鈴音さん、五月さん、古さん、茶々丸さん、葉加瀬さん、そして私に、雪広グループから派遣されてきた綺麗なお姉さん達が加わっています。
最強の布陣です。

「去年に引き続き今年も超包子で世界に肉まんを届けるネ!」

「「「「「「世界に肉まんを!」」」」」」

こうして開店式で気合が入ったところでお客さんに売って売って売りまくります!

見て下さいこの料理の鮮やかな動きを!
この3ヶ月近くの間に洗練された料理の腕はかなりのものです。
肉まんの調理技術習得後は他の料理も短い期間でしたが練習したんです。
麻帆良祭開始早々に三次元映像技術の噂で持ちきりの特別展示施設は既に長蛇の列を成し、そこから並ぶのも面倒という事でまだ昼前に関わらず超包子に人々が流れてきます。
どこの席が最初に埋まるかと言えばそれはカウンターです!
五月さん、鈴音さん、私の三人体勢で繰り広げられる厨房はカウンターから見ることができるので人気の席となっています。
予想以上の混雑で今からこの状況では、昼時には一体どういう事になるのかと気が遠くなりそうな所、鈴音さんがお料理研究会の腕利きに電話し始め、直ぐに応援に来てもらえることになりました。
そうでないと私と鈴音さんは特別展示施設での仕事もありますから大変です。
一方ウェイターの仕事をしている古さんの動きは曲芸のようですが、社員のお姉さん達の動きも無駄がありません、必ずお持ち帰り用の肉まんの宣伝をしているようで葉加瀬さんが販売をしている肉まん専用窓口にも列が出来始めました。
従業員は女性一色で構成されている華々しい空間もあって、お客さんの構成人数の多くは男性という有様ですが、実にわかりやすいですね。
今回は去年とは違い材料の補充はグループの協力のお陰でほぼ無尽蔵ですから驚異的売上を記録するはずです。
程なくして高畑先生達も来てくれて、余りの人数の多さに驚いていましたが、頑張ってねと少し声を掛けてくれた後その場で肉まんを買って行ってくれました。
いつもお世話になっている先生達にはゆっくりしていって貰いたかったですが、割り切るしか有りませんね。

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私の麻帆良の歴史説明の仕事も打ち合わせ通り始まった。
社員さん達は私の存在については疑問に思うところばかりだろうが、深いところまで聞いてくることもなく助かった。
逆になんでそんなに詳しいんですかとしつこい人達が現われると直ちに彼等は現れては「それ以上は正規の手続を行って下さい」とどこかに連れていってくれる。
人間の組織力というのは大したものだと思う。
因みに今のでわかったかと思うがその犠牲になったのは2-Aの朝倉和美も含まれている。

「失礼ですがお爺さんは何故そんなに麻帆良に詳しいんですか。私も情報に詳しい者ですが伊織修平さんという方の名前を聞いたことがありません、詳しくお話聞かせてください!」

と去年から一年経ってパパラッチな度合いが更に上昇し、目の光り方が怪しくなっている彼女には早々に退場頂いた。
南無。
というかこの施設に入るための長蛇の列に真面目に並ぶだけでもかなりの時間がかかるのにクラスの方はいいのだろうか。

後で分かったことだが、エヴァンジェリンお嬢さんに雪広あやかが是非是非と頼み込んで着物の着付けコーナー的なものをクラスで展開していた為ローテーションで回せば良く、一時に人員を必要としないのが原因だったようだ。
春にブームになったのがまだ続いているのか、普段は高くて手が出ないような着物を着れるとあって、2-Aの少女達自身と客達にも好評と相成った。
しかしまあよくお嬢さんが了承したものだと思う。
その噂を聞きつけた大学生たちが女子中等部に流れこむようになったのは二日目以降であったそうだが。

午後に突入し、また2-Aのお嬢さんがやってきた。
何処かで見たなと思えば図書館探険部の綾瀬夕映である。
超鈴音を図書館島に連れていったあの時は孫娘の仲間たちその1の扱いであったがご登場。
どうやら彼女は神社や仏閣のマニアであらせられるようだが、今回麻帆良の詳しい建設の歴史がわかると聞いてやってきたようだ。

「お爺さん、麻帆良の詳しい歴史を教えて下さいです」

語尾に特徴があって楽だとかそういうメタな事を気にしてはいけない。
なんていうか朝倉和美とはまた違った目の輝き方でこちらは好感が持てて微笑ましい。

「良かろうお嬢さん、儂の知る範囲で答えるぞい。まず何時の頃を知りたいかの。この機械で映像も好きな物を選べるから言うてみるとええぞ」

「……この映像技術は凄いです……。それではまず麻帆良発祥当時の事をお願いするです。当時の資料は殆ど概要程度しか残っていないので興味があります」

そう、麻帆良学園都市発祥当時の資料で公的に知ることができるものは恣意的に削られている事が多い。
何故かといえば、初代学園長は一般人であったが、それ以外の魔法使い達の手によってその後魔法世界のメガロメセンブリア、上部組織との繋がりができ徐々に勢力を伸ばし今に至るという訳だ。
それが良いか悪いかという評価はともかく今は伝統ある近衛家の現最有力者である近衛門の影響力もあり、中身が真っ黒等という訳でもない。
単純に謎の地下施設がやたら大規模に広がってしまったのは事実であるが。

「分かったぞい。まず建築のモデルとなった……」

長々と30分程説明に費やした気がするが、少女の目は真剣そのものだった。
図書館島について聞かれたが、図書館探険部をやっているのだったら自分で究明した方が面白いだろうと言った所「それは一理あるです」と理解頂いた。
何故探険部か分かったのか聞かれたがあからさまな腕章しているからという説明で納得してくれたが、前から知っていたのも事実である。
この後彼女はサヨも歴史に詳しいという事を知ることになり詳しくサヨに追求する事になったのはすぐ後の話。

午後三時に施設の一角で、超鈴音と雪広グループ社長と傘下の電機メーカーの方々が出る説明会と引き続き記者会見が行われ、麻帆良の歴史云々よりも異常な技術力の塊である三次元映像装置の発表が行われた。
任意に座標指定した視点から自由に映像を見ることができる訳で撮影機器の方も超鈴音がアーティファクトで得た視覚拡張の感覚から近いうちにやってのけるそうなので、そういった説明の場となり超満員だった。
席に集まっている殆どがマスコミと国内含め、各国の同業他社、警察機関の方で構成されていた。
一つおかしな物が混ざっているように見えるが、視点の自由度という発生により今まで証拠が曖昧だったりする防犯カメラ等の新たな段階という事で視察に来たらしい。
精霊個人として何に驚いたかと言えば超鈴音の口調が一番であった。
普通に話しているのは違和感しか無い。

次の日、テレビ放送で超鈴音が麻帆良の枠を飛び出し全国に顔が出たかというと、その辺りはしっかり配慮がなされていてとりあえずは名前が小さく出るだけという事になった。
当然それでも直接取材にくる方々もおられたと思うが雪広グループのエージェトはパーフェクトであり、抜かりは無かった。
実際今の生活パターンから更に連日取材という事になったら流石に限界だろう。

普段の麻帆良であれば、この手の事は専門機関の暗躍によってニュースになったりすることはないのだが、今回は超鈴音の超包子の展開や雪広グループにとっての利益等、諸処の事情により珍しく意図的に外部に情報を流す事になったのである。
どう考えても、部活やら研究会やらで飛行機が麻帆良の街並のすぐ上空で普通に飛んでいるのは非常識であり他所で話題になってもおかしく無いし、極めつけには巨大ロボットが闊歩しているのはかなり異常だと思うのだが、麻帆良の為せる奇跡はもはや何でもアリだ。

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三日間の学園祭もあっという間に過ぎ動員人数も数年連続で記録を突破するという全体としても華々しい成果に終わりました。
インターフェイスの身体は疲れが殆ど溜まらないというかなりずるい性能なのですが、この三日は生き抜いたという実感が強いです。
朝から始まり夜まで営業し続け、五月さんも途中何度も休憩を挟みましたが一日が終わるたびに寮で爆睡するという有様でした。
一方古さんの体力が無尽蔵なのは社員のお姉さん共々唖然とするしかありませんでしたが。
安くて美味しい!が売りである超包子の3日間での売上は肉まんだけで300万円を記録、通常の料理200万との売上を併せて約500万円となりました。
低価格設定と販売の規模からすると正直異常としか言いようがありませんが原因は営業時間の長さ、材料が尽きないのと、初稼働であるにも関わらず、一日1万個もの大量生産が可能であった機械の働きが大きいです。
もし手作りでこの数を生産となれば過労で五月さんも元の私のように幽霊になってしまったかもしれません。
それでも単純計算すれば一人4個詰めで一日2500人にしか売り切ることができなかった、と麻帆良祭動員人数から考えればもっと売れた可能性はあるかもしれませんが時間的、人員的制約から見れば仕方なかったかもしれません。
食べてみたかったけど食べれなかったという人達は通信販売でも買えますという宣伝のみになってしまいましたが、口コミでおいしさは浸透しているはずなのでこれからが楽しみです。

そうでした、私の麻帆良の説明の仕事もしっかりこなす事ができた筈なのですが、朝倉さんと綾瀬さんという変わった組み合わせでの追求がクラスの打ち上げで発生し逃げまわるのが大変でした……。
宮崎さんと同じく本好きというイメージの強い綾瀬さんが意外に走るのが早く、図書館探険部という名前だけでは判断不可能なポテンシャルだったのは脅威でした。
というか高畑先生は笑って見てないで助けてください!

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学園祭が無事に終わって7月上旬、図書館島に集まり、光学迷彩魔法も完成を迎えた。

《クウネル殿、今年の学園祭はいかがでしたか。結局分身体という事になってしまいましたが感覚は共有されていたのですよね》

「ええ、今年は楽しめましたよ。実際に見るのは良いものでした。エヴァンジェリンの晴れ舞台も見れましたし満足していますよ。超包子の方は混みすぎていて諦めましたけどね」

「肉まん食べたかたらまた今度持てくるから任せるネ」

「アル、私についての感想を聞こうか」

「それはもう、とても見目麗しくて心が洗われるようでしたね。……ただネコミミをつけたりスクール水着を着たりするのも私は良いと思いますよ」

また何言ってるんだこの司書は。

「クウネルサン、それはいくらなんでも日本の文化には場違いだヨ……」

「……では今この場でつけて貰いましょう」

そこでキュピーンとかいう効果音付きで目を光らせるのは何ですか。

「いい加減にそういうのやめろ!褒めるなら褒めるだけにしておけ!一発殴らせろ!」

「こらこら、暴れてはいけませんよ、キティ」

「その名前で呼ぶなと何度言ったら!」

お嬢さんが殴りかかるも身長差で一撃も当たらないという流れは予想できたが、こういうからかい方をするのが好きらしい。
二人が落ち着くまでしばらくかかったがやっと本題に入れた。

「翆坊主、まずこの魔力を込めてある球体で実演してみせるヨ。アデアット。幻術迷彩魔法起動」

光学という部分は何処へやら。
しっかり半球に偽装がされているのがわかるな。

《半球だけであればコストも少なくて済みますね》

「地球側に面してる公転面に常に発動させる計算もきちんとしてあるから万全だヨ」

抜かりはないようで。

「そんなに急いでいないと聞いていましたから完成までに重力魔法の時よりは大分かかりましたがこれでまた解決ですね」

「茶々円、この魔法を開発したのは良いが今火星がどうなっているのか見せる事はできないのか。開発に携わってどう使われているか確かめたい」

《そんなこともあろうかと!ですよね》

「翆坊主、それは私のセリフだヨ。以前の映像だが持てきたネ」

「荷物が多いと思ったら用意していたのか」

《クウネル殿もご覧あれという所ですが、実際何もありませんから激しい天候変化と星がはっきり見える映像という感じですね》

「用意できたヨ。上映開始ネ」

私は見慣れた映像であるが、お嬢さんは意外と喜んでいるな。
司書殿も興味ありというところか。

《超鈴音、例の映像技術の公表でしたがあれからどうですか》

「特許は取得してあるからナ。まだ映像を映す技術だけだから撮影する方も直ぐに実現したいところだネ」

《普通は両方一緒にできるものだと思いますがその辺り不思議に思われないのが凄いですよね》

「両方の技術をあの場で公表したらもと騒ぎが大きくなてたヨ。開発の予定で済ませたから、協力させて欲しいとか資金提供する等のメールが沢山来たネ」

《余程茶々丸姉さんの方がブラックボックスだとは思いますが》

「この映像技術なら何処かで数年したら開発されただろうから特許が取れて良かたヨ。他にも日の目を浴びるのを待機している技術もまだまだあるからネ」

《当分資金源には困りそうにないですね。しかし、警察機関のお出ましには逮捕されないか心配になりましたよ》

「夏に派手にやらかしたのは翆坊主達だから私は関係ないヨ。まあ警察機関が来たのは良い事もあるが、悪いこともありそうだナ」

《いきなり国家権力のお出ましですからね。国の上部組織にも魔法使いは混ざってますからどう転ぶかという所ですね》

「そうだ、数日前ちうサンからハッキング攻撃を受けたヨ」

何いきなり被害報告をしだすか。

《認識阻害の効いてない彼女ですか。展示施設に来て期待通り「ありえねぇ……」って呟いてましたからね。ストレス発散と腕試しに超鈴音の部屋にサイバーテロですか》

「こちらの普通のパソコンを使ている割にはかなり技術力は高かかたヨ。重要なものはネットに繋いでないから問題はないけどネ」

《敵対意識みたいのを持たれると厄介ですからどうせなら破らせてみた方がいいのでは》

「ふむ、それも有りカ」

《ところでいかがですかお二人は》

完全に魅入ってたな。
って華の飛行映像か!
まあ……この二人ならいいか。

「茶々円、なんだこの巨大な華は」

「私も気になりますね」

《それが打ち上げに使用した宇宙船です。もちろん無人で飛ばしましたが》

「はぁ……木が宇宙船作るなんてどうかしていないか」

「いつか乗ってみたいですね」

《深く考えない方がいいですよ。今日はこんなところで早速幻術迷彩魔法を使わせて頂きます。今回もお三方ご協力ありがとうございました》

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結果は流石トップレベルの三人が開発しただけあって幻術迷彩魔法の効果、効率は非常に良かった。
それでも地球側から超鈴音が精製した粒子と共に魔分供給も行う必要があるが許容範囲内だろう。
今までよりもテラフォーミングの速度が若干遅くなるかもしれないが安全に行うためには必要な対価だと割り切ろう。
去年の6月の接近から一年程経っているため火星は今かなり遠い位置にあるが、海が発生する頃にはまた近づき始める事になる。


その後、超包子の肉まんのインターネット販売はかなり順調に注文数が増えており麻帆良祭の宣伝効果はやはり大きかったようだ。そのうち雪広グループ協力のもと支店がいくつかできる事になるのも近いだろう。
何故か超包子のブランド化計画に動く社員達は皆女性という状況であり、このまま行くと味と安さだけでなくそういう方面でも有名になりそうな気がする。
三次元映像技術の情報は瞬く間に世界に浸透し、人々は新たな映像表現の可能性がどうなるか、と言った事で盛り上がったりしている程度であり、これで撮影技術が完成すれば本格的に動き出すだろう。
一方サヨはしばらくの間パパラッチと哲学少女に追い掛け回される事になっていたが次第にそのなりも影を潜めて平穏な生活に戻って一安心だろう。
まあそのために学校が終わるとすぐに寮に戻って身体を放置したりと色々苦労したようだが。
葉加瀬聡美は解析された動作プログラムから茶々丸姉さんの性能を上げる事に情熱を燃やしているようだ。
これは是非やってくれと言いたい。
でも無駄に物騒な武装の開発をするのは正直やめて欲しい。
そして相変わらずこの三人と雪広あやかで期末テストをまたしても4位までを独占したわけだが絶賛記録更新中である。

そんなこんなで動きがあったのは近衛門の所であった。

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もう夏休みかという7月の末、放課後に高畑先生から言われてさよと一緒に学園長先生に呼ばれたネ。色々思い当たる節はあるが新たな動きという事かナ。

「高畑先生、二人を連れてきてくれて済まんの」

「学園長、僕はこれで失礼します」

「超君、相坂君わざわざ呼んで済まんかったの。随分有名になったようじゃが調子はどうかの」

「学園長とこうして直接話すのは初めてだネ。雪広グループとはうまくやれているヨ。まだまだ忙しいけど調子は順調だヨ」

「学園長先生、もう1年半ぐらいになりますがまたこうして生活できて良かったです。色々手配して下さりありがとうございます!」

「ふぉっふぉ、二人共充実しておるようじゃの。して、超君は最近女子寮に侵入者が出るようになったのに気がついておるかの」

まずそこからカ。

「ふむ、あれは困るネ。私の部屋には人には見せられない大事なものが沢山あるからネ。そのためだと思うが監視がまた付き始めたのは諦めるしかないなと思てるがやりにくいヨ」

「あー、やっぱりあれ侵入者だったんですね」

「厄介な事に超君は表で狙われるようになっているものじゃから、気をつけるようにするんじゃぞ。監視の方は付けんと色々大変じゃから勘弁して欲しいの」

表の人達は銃という質量兵器なものだたりナイフでザックリだたりするから危険極まりないネ。
裏の人間なら魔力や気の反応で寧ろ対処が取りやすいのだが。

「木乃香サンの侵入者が裏で私が表という訳カ。せつなサンの機嫌が悪そうなのも無理ないナ。しかし表で狙われると一発で命を落とすから怖いネ。ところで、表裏の話をするという事は精霊を呼んだ方がいいカ」

「察しが早くて助かるの。儂から話かけるのはできんからな」

「えっ、というと学園長先生は私が幽霊でなくなったのはもう知ってるんですか」

「何、なんとなくそうじゃろうと思っていただけじゃよ」

翆坊主の動きを考えればすぐに分かるだろうナ。

「それならもう呼んでもいいだろうナ。結界も張てあるようだから連絡頼むヨ」

「分かりました」

《キノ、学園長先生が呼んでますよ》

《え、これは珍しいですね。今行きますと伝えておいてください》

「すぐ来るそうです」

「全く念話と違うもののようじゃが便利じゃの」

「私が今度機械で似たようなものを実現してみせるヨ」

「うむ、超君は麻帆良最強頭脳と言われるだけはあるの。世間で話題になっとる映像技術も期待しとるよ」

「お褒めに預かり光栄だネ」

《お待たせしました、近衛門殿この組み合わせはなかなか珍しいですが何かあったようですね。私も結界張らせてもらいます》

呼んだらすぐ来るあたり全然待てはいないけどナ。

「キノ殿、今日は二人に呼んで貰ったが済まんの。相坂君が精霊になっとる件は今聞かせてもらったわい。今は女子寮への表の侵入者の件を話していたのじゃが」

《その件ですか……。私達としても裏の人間ならば意外とすぐわかるのですが表の人間はただ確認しただけではわからないのが困りますね。それに結局人間同士のそういった事にあまり介入しないのが精霊としての自然な形です》

心配しなくても十分対処できているから今のところは大した脅威でもないネ。

「うむ……木乃香の事もあるし、何より他の生徒に危険が及ぶ事があるかもしれんのが問題じゃな」

「学園長、それなら私とハカセで警備システムの強化と警備ロボットを作るという事もできるヨ」

《それも有りですね。私としては本当に危なくなったら阻止するつもりですから油断はしないで欲しいですが心配し過ぎなくて結構ですよ。ただ、侵入者が発生するようになったという事実が面倒極まりないですね》

「確かに心配しすぎる事もないが現状維持という事で構わないかの。できれば超君、その作業頼みたいの。キノ殿ももしもの時は頼みますぞ」

「その依頼受けさせてもらうヨ、守れるなら自分の身は自分で守りたいからネ。ところで私からも一つあるが、まほら武道会の来年度の開催を了承してくれて感謝するヨ」

「超君から言われるとはの。実はそれと少なからず関係ある事が本題じゃったのじゃが……。まほら武道会は時間的に余裕が無かったもので今年は許可できず済まんの」

「その分来年全力でやらせてもらうネ」

《近衛門殿、ということは何か動きがあったのですか》

「キノ殿だけに話したいことではあったのじゃが、どうも今更のようじゃな……。機密情報に触れるのじゃが3人ともそれ以上の機密じゃし良いじゃろう。イギリスの9歳の少年あちらの学校を卒業して今年の三学期にこの学園に教師として赴任する事が決まっておる」

その話だろうとは思ていたが生憎全員知てるネ。

《……やはりその件ですか。それでわざわざ私達、いえ私の予定だったようですがそれを話す理由というのは。三学期といえばまだ数ヶ月あると思いますが》

「そうなのじゃが、儂の強い要望で8月には彼に来てもらう事にしたのじゃよ」

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いやいやいや、話がもう全然違くなっているなにこれ。

《キノ、例の歴史とスタートから違ってませんか》

《全くその通りです》

《翆坊主、ということは、本当は時期が3学期だと言う事なのカ。そこは私も知らないネ》

サヨ、超鈴音にも通信繋いでたんですか……。

《そういう事になります》

近衛門との話に戻ろう。

《近衛門殿、いきなり日本に呼んでも言葉が通じないのでは》

「ふむ、それもそうじゃが英語を話せる人間は儂を含めても麻帆良におるし、ネイティブスピーカーで通せばよかろう」

……言われてみるとそうかもしれない。
学校の授業でも一人の日本人英語教師と殆ど日本語の通じないネイティブスピーカーの二人で行われる授業というのも無くはないからな……
寧ろ変に日本語が流暢だと英会話の授業としては生徒が緩くなって微妙になるからいい……のか……。

「私も英語話せるヨ!」

流石麻帆良最強頭脳であらせられる。

「キノ殿、ほらすぐ側に良い例がおるじゃろう」

何乗ってるんですか。

《話が進まなさそうなので単刀直入に聞きますが、精霊の私、私達に何をして欲しいのですか》

「言わなくてもキノ殿ならやってくれるとは思うのじゃが儂から改めてお願いしたいんじゃ。彼の少年を見守ってやってくれんか」

そういう事か、それは実に精霊らしい仕事だ。

《ええ、もちろんです。私もそうするつもりでしたし。近衛門殿からの正式な依頼とあればしっかり見守ることにしましょう》

「学園長先生、私にも任せてください!」

「おお、キノ殿、相坂君感謝するぞい。では、よろしく頼みます」

しかし自分でやっといて何だが少年が成長する機会がどれだけ削られたことか。
魔法世界のやばくておっかない人達はどっちにしろなんとかしないといけないから困ったものだ。

「学園長、それでその少年は何処に住むネ。小太郎君が呪術教会支部で生活しているのと同じように魔法協会で生活するのカ」

「その事も知っておるのか。全部筒抜けな訳じゃな……。その件じゃが儂は反対されるのはわかっておるが超君達の女子寮に住ませるべきだと思っておる」

本当に無駄にピンポイントな勘だが近衛門自重。
しかし周りの被害を無視すればそれが良いと言えば良いが。
罪悪感を感じるが人間のそういう件は内輪でなんとかして欲しいと思う。

《またやけにピンポイントな勘ですね。私はそれを人間の一般的常識を度外視すればその選択で良いと思いますよ》

「学園長先生がよく根拠の無い事をするのは全部勘だったんですか」

《まあそう言いますが大体うまく行くんですよ。下手な占いより確実です》

「翆坊主、大体というのは信用できないヨ……。私の寮の部屋は既に三人いるから先に断わておくネ」

「やはりそう言うか……。こうなると住ませられるのが木乃香の部屋になってしまうのじゃが、婿殿に悪いの……。超君、どうしてもダメかの」

こういう訳の分からないが意外と正しい勘が働くものだから結局迷惑をかけるとしたら身内の部屋というオチになるんですね。
こうして魔法に関わらせたくないという意向は完全に没になると。
詠春殿、南無。
しかも魔法世界の超特殊能力者もいると。
カオス極まりない。
世界の歴史はこういう事だったのか。

「諦めるネ。私の部屋はその少年以上の機密だらけだヨ。その少年に興味はあるけど、部屋に入れると大変な事になりそうだから絶対にダメネ」

「私も幽霊なんですか!って怖がられるのは困ります!」

それはどうでもいいかもしれない。

《近衛門殿、周囲から酷い反対受けること請け合いですが勘に従って身体が勝手に動く限り選択肢はもう一つしかないですね》

「……ああ、タカミチ君達がまたうるさくなるのう。木乃香もまたトンカチで殴るんじゃろうな……」

近衛門、頑張れとしか言えない。

《それで、精霊のお告げ的な事を言いますと、その少年を鍛えた方がいいと思うのですがいかがですか》

「翆坊主、それは面白そうだネ」

先に火星人が釣れた。

「それは儂が……襲いかかろう……かと思っておるよ……」

以前本気で警備してたから真っ向から指導するのかと思ったらなんという邪道。
普通に問題発言だが麻帆良なら許されるのだろうか。

「学園長先生最後もごもご何言ってるんですか。私は面白そうなので賛成ですけど」

「学園長、それ私もやていいカ。古と小太郎君のところに連れていけば強くなるヨ!」

駄目だもう……なるように話が進んでいくな……。
しかし中国武術研究会に放りこむのは悪くない。
丁度バトル少年もいることだし。
……そのまま忍術も覚えたら……とこれ以上はやめておこう。

「超君、何故そこだけは楽しそうなのかの。まあ表でやってくれる分には構わんよ」

《下手するとエヴァンジェリンお嬢さんも出てきますからね。この前変に勘違いさせていまいましたが》

「とても教師だけでは済まない生活環境になりそうじゃの……」

遠い目になりますよね、その気持分かります。

《その辺りも含めて見守りますよ。大分話が飛んでしまいましたが近衛門殿がまほら武道会に関係あるというのは図書島の司書殿との事なのでしょう》

「おお、忘れておった。まあ今の話でわかると思うがまほら武道会でその少年と彼に戦う場所をと思っての。超君には儂からもその件で改めて手配を頼みたいのじゃよ」

「それは私としても復活第一回目のまほら武道会が素晴らしい物になりそうだから完璧に仕事してみせるヨ。任せるネ!」

「雪広グループには儂からも頼んでおくからよろしく頼むの。事はついでなのじゃが、学園祭のあの特別展示施設の映像は超君、いや、キノ殿の物ではないのかの」

《ええ、そうですね。ああして取り込めるようになったのは超鈴音が実現させました。既に読めてるんですが、ナギ少年の映像があるのかという事ですが、答えは有ります》

「話が早くて助かるわい……。その映像じゃが近いうちに儂にくれんかの」

「確かにあのまほら武道会は素晴らしいものだたネ。学園長、借りが私に大分できたが返せる時に返してくれればいいヨ」

「ふぉっふぉ、あいわかった。借りは必ず返すとしよう」

こうして赤毛の少年の環境は歴史よりも安全なのかもしれないが、それと同時にもしかしたら初っ端からより過酷なものになるのかもしれない。

少年よ大志を抱け。
私からは頑張れと応援を一言。



[21907] 14話 ネギ少年の4日間in麻帆良
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/17 17:43
アーニャはさっき空港で別れる最後までずっとうるさかった……。
でも、細かい事はネカネお姉ちゃん達が準備してくれたけど日本語も憶えていないのに日本に行って本当に大丈夫かな。
おじいちゃんは向こうの学園長先生がなんとかしてくれるって言ってたけど。
向こうにも英語を話せる人がいるから大丈夫って聞いてるからなんとかなるかな。
時間が無かったから知ってるのは、ネカネお姉ちゃんと一緒に見た学園のお祭の映像を見たぐらいだったけど、日本の伝統芸能という物の映像は綺麗だったなぁ。
エヴァンジェリンさんって言ったと思うけど、僕と同じ外国人なのに凄く馴染んでたし、あんな風になれたらいいな。

……ふぅ、初めての長旅になった。
初めて飛行機に乗ったけど意外と乗り心地が良かったな。
少し身体が痛いけどね。

空港にタカミチが待っててくれるって聞いたけど人が多いから見つかるかな。

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肉まんが大量生産できるようになた訳だが、これを期に麻帆良内での店舗も増やす事にしたネ。
これから夏本番だが、それを過ぎればすぐに寒くなるからネ。
肉まんの製法には色々こだわりがあたが、一定の品質で届けられるようになたからお料理研究会で各々が出している店に置いてもらう事にするネ。
できれば店の名前に超包子と入れて宣伝してもらえると助かるナ。
そうだ、今まで超包子には特にロゴが無かたけど、翆坊主達が見せてくれた華をモチーフに看板に加えるネ!
どこかのチェーン店が桃のマークなら超包子は華のマークだヨ。

良い思いつきができたが今はちうサンの所に行くヨ。
ハッキングするのいい加減やめて欲しいネ。
回数を重ねる度に手際が良くなていくものだから一度本当に破られた時は驚いたネ。
さよにずるをしてもらたが部屋にいるようだから丁度良い。

「長谷川サン、話があるネ」

…………。
居留守を決め込むつもりカ。

「ちうサン!話があ」

「その名前を何故知ってる!もう分かったから入れよ!」

フフ……うまく釣れるものだナ。
ちうサンと呼んだだけでこの反応は分かりやすくていいネ。
思わずいつもの口調が崩れてるヨ。

「ちうサン、まずは肉まんを食べて気分を落ち着けるネ」

「超……その名前で呼ぶのをやめろ」

「分かたネ。その代わりハッキングするのやめて欲しいナ。一度破られたのは驚いたネ」

「やっぱりバレてたか……。学園祭のあの施設やら映像やら極めつけにテレビに名前が出たら一体寮の部屋に何があるのか気になったからな。悪かったよ」

「私の部屋は秘密が一杯ネ。ハッキングやめてくれれば特に通報したりはしないから安心するといいヨ。その代わり腕を見込んで依頼したいことがあるのだが聞くカ」

「体の良い脅迫って所か……。まあ聞いてやるよ」

「ありがとネ。実は最近この女子寮は外部者から狙われていてネ。警備システムの強化を私が主導でやることになたのだヨ」

「はぁ……なんで住人が警備の強化するんだよ……。それでその強化を私にも手伝えってのか」

「そういう事ネ。ネット回線のハッキングに対する強化を手伝てもらいたいヨ。長谷川サンのウハウがあれば大抵のハッキングは退けられる筈ネ。報酬も払うから悪い話ではないと思うヨ」

「超……お前……ありえないだろ……。どこの中学生が中学生を雇うんだよ……」

「ここの中学生ネ。超包子は大体そんな感じだヨ」

「ああもう分かった。詳しい話を頼む」

私がやても良かたけど餅は餅屋に、だナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

8月3日麻帆良に少年が到着である。
前回の話から1週間と少しというところ。
どんだけ急に来させたのだか。

《超鈴音、サヨ、麻帆良に例の少年がタカミチ君と共に入りました。一度学園長室に寄ってから来ると思いますが、まだ英語しか話せないでしょうから接触するならどうぞ。あと雪広あやかに寮の入り口で待つと良いと伝えておくと面白いかもしれませんよ》

《なんとゆうか、見守るどころか情報が筒抜けだナ。分かたネ、面白そうだから言葉を学習する時間を取らせずに古達の所に連れてくネ。明日菜サンと木乃香サンが女子寮に戻て来たら、さも偶然を装うヨ》

面白いというより割といじめになってる気がするが……まあいいか。
言葉の障壁突破!無理の槍!とかどうせそのうちやりそうだし。

《なんとなく分かりますけど、いいんちょさんは私が用意します!》

物扱いでありますか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

タカミチと一緒に学園長室に来たけど心配になってきたよ……。
最初は英語で立派な魔法使いになるための僕の教師をやるという課題について話をしたけど、その後だ……。
二人のお姉さんが何か話してて、まだ日本語はよくわからないから困るな、早く勉強しないと大変だよ。
アスナさんとこのかさんという名前は分かったけどアスナさんの方は凄く怒ってて、このかさんの方はにこにこしてるから大丈夫そう……かな。

「(ネギ君、そういう訳じゃからこの二人と同じ寮の部屋に住んでもらうが悪いの)」

「学園長先生!なんでこんなガキと一緒に住まなきゃいけないんですか!他に部屋があるでしょ!」

「まあまあ、アスナ落ち着き。この子まだ言葉も通じんしかわいいからええやん」

「このかは物分りが良くて助かるの。(言葉は今夏休みじゃし二人と話して覚えたらええからの)」

「(分かりました学園長先生!ありがとうございます)」

「(ネギ君、困ったことがあったら言うんだよ)」

「(タカミチもありがとう!夏休みの間に言葉は覚えるよ!)」

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ふむ、肉まんで翆坊主のように餌付けの準備もしたし後は待つだけネ。

《さよ、あやかサンの準備はできたカ》

《はい!場所は特定して部屋にいるので呼べば来るはずです。なんか待ち伏せって楽しいですね》

《楽しそうなところいいですけど目標三名まもなく到着です。言葉が通じずお嬢さん二人と単語で英会話してるようです》

《単語で英会話て何の番組ネ。右手に肉まんの用意があるヨ。いつでも来るネ》

《私は左手にいいんちょさんですね!》

何か究極技法が起きるのかもしれないナ。

《なんで餌付けの用意みたいなことしてるんですか》

《教師ということは給料が入るからネ。学生より財布に余裕ができる筈だヨ》



「(教師、大変、一人?)」

「(はい、一人です)」

「なんでこんな子供が2学期から私達の教師になるのよ……」

さて期は熟した!いざいくネ!

《さよ、ミッションスタートだヨ》

《了解です!》

「やあ明日菜サン、このかサンその坊主は弟かナ」

「あ、超さん!英語しゃべれる?この子供は弟じゃなくて2学期から私達の教師やるんだって!しかも私達の部屋に泊めることになったの!」

明日菜サンは元気一杯だネ。

「ふむ、色々事情がありそうだネ。(初めまして、私は明日菜サンとこのかサンと同じクラスの超鈴音だ。英語が話せるから協力するネ)」

「(うわー!本当に英語話せる人いるんですね。良かったー。あ、僕は2学期から女子中等部で英語の教師をすることになったネギ・スプリングフィールドと言います。超さん!よろしくお願いします)」

ご先祖様との初の会話だがこちらも元気がいいネ。
まだまだ子供という感じだが、鍛えた方がいいというのは確かかもしれないネ。
常に魔力で身体強化しているようでは元の肉体が強くならないヨ。

「(ネギ先生だネ、よろしく。丁度肉まんという食べ物があるが食べるカ)」

「(あ、これお姉ちゃんと見た映像にあった肉まんですね!頂きます!)」

「(一応麻帆良の勉強してきたのカ)」

「(は、はい。あまり時間無かったですけど学園長先生が送ってきてくれた学園祭の映像を見てきたんです。うわーこれ美味しいですよ!)」

「(そう言てもらえるとありがたいネ。その肉まんは私がオーナーをやている超包子の定番だから食べたくなたら買いに来るといいヨ)」

「何のんきに肉まん食べてるのよ……」

「超りん、何話してるん?」

「ネギ坊主は超包子の肉まんを故郷で見た学園祭の映像で見た事があると言う話ネ」

「そうなんかー。この子英語で話せる人に会えてさっきよりも喜んでるなぁ。うちも英語話せるようになりたいわ~」

「鈴音さん、その子誰ですかー」

打ち合わせ通りだが白々しいやりとりだナ……。

「まあ、どなたですかその男の子は。とてもかわいいですわね!」

あやかサン、目がもう既に来てるヨ……。
翆坊主、まあ面白いのは同意するネ。

「(えっネカネお姉ちゃんどうしてここに!)」

「わ、私がお姉さんですって!いえ、悪く有りませんわね……是非お姉さんになりますわ!」

翆坊主の面白いというのはこちらの事カ。

「げっいいんちょ!ショタコンのあんたがなんでこんな丁度良く来るのよ!」

「なんですって、このオジコンのアスナさん!相坂さんが私に買い物に付き合ってほしいというものですから出てきただけですのよ」

買い物に行く事で話を通したのカ。
無難だナ。

《鈴音さん、ミッションコンプリート!》

《さよ、よくやたネ!》

《でもいつもの二人が言い合ってるだけになってますね……》

《いや、ここからだヨ》

「あやかサン、この少年はネギ・スプリングフィールドと言て2学期から私達の英語の教師をやるそうだヨ。来たばかりでまだ日本語が通じないらしいネ」

「まあ!こんなに小さいのに私達の先生になられるんですの!言葉が通じないとは不自由でしょう、私も英語は話せますから協力しますわ!(初めましてネギ先生、私は雪広あやかと言います。是非お姉ちゃんとお呼び下さい!超さん達とは同じクラスですからよろしくお願いします)」

「(す、すいません、ネカネお姉ちゃんに似てるものだから間違えてしまいました。でもまた英語が話せる人に会えるなんて良かったです!僕はネギ・スプリングフィールドと言って2学期から英語の教師をすることになりました。よろしくお願いします!)」

「あ~なんてかわいいんでしょう!」

「超さんと言いいいんちょと言い立て続けに英語が話せるとは……ここは日本じゃなかったの……」

「アスナ、うちらも英語勉強してネギ君と話せるようになろ!」

「明日菜サン、ネギ坊主に英語を教えてもらいながら日本語を教えたらいいネ。そしたら成績も上がるヨ」

「(初めまして、相坂さよと言います。私も皆と同じクラスなのでよろしくお願いします、ネギ先生)」

さよも話せたのカ……。
元からなのか、精霊だからかのどちらかだナ。

「(三人目ですね!相坂さん、よろしくお願いします!)」

「……超さん、言うとおりにするわ……。なんでこんなに英語皆話せるのよ……」

なんだかトドメを刺せたようだナ。

「(ところでネギ坊主、荷物を置いたら少し運動しないカ。長旅で身体が鈍ってるだろう。子供は元気が一番ネ)」

「(超さん、何処に連れて行く気ですの)」

「(中国武術研究会を紹介するネ)」

「(そ、それでは今度私は馬術部を紹介しますわ!)」

「(いいんちょさん合気柔術でもいいんじゃないですか)」

「(まぁ!それもいいですわね!)」

「(なんだかよくわからないですけどよろしくお願いします!)」

「英語もっと勉強しといたら良かったな~、アスナ」

「なんだかこれから苦労しそうだわ……」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なんというか女三人寄ればかしましいとは言うがまさにその通りだな……。
ネカネ・スプリングフィールドと雪広あやかが似ているというのはネギ少年を確認した段階で情報が更新されたから分かったが見事にお姉ちゃんと発言した事で、言われた本人は嬉しかったらしい。

《キノ、いいんちょさんはネギ先生のお姉さんにそんなに似てるんですか》

《それは私も気になたネ》

《よく見ればすぐ分かる程度ですが物腰は似ていると思いますよ。まあ私もネギ少年のお姉さんを直接見たわけではありませんが》

《あやかサンはいつになく幸せそうだたネ》

《小太郎君と遭遇した時は「なんて野蛮なのかしら!」と言ってた気がしますがタイプがあるんでしょうねきっと》

小太郎君、2-Aに遭遇しすぎだろう。

《まあ人それぞれという事で。まだまだ今日は長そうですね。次はいよいよ何食わぬ顔で中国武術研究会に投下する予定ですか》

《フフ、ネギ坊主が予想通りなら言葉をすぐに覚えてしまうからネ》

学習能力と発明力がチートらしいから、って超鈴音にそっくりだな……。

《やはり超鈴音のご先祖様ですね。天才という部分が似すぎですよ》

《それは褒め言葉と受け取ておくネ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主に荷物を置かせてそのまま連れだしたヨ。
あやかサンは約束通りさよと買い物に行ったネ。

「(ネギ坊主、ここが私が所属している中国武術研究会だヨ。同じクラスの古菲もいるから挨拶するといいネ)」

「(はい!超さんありがとうございます)」

「古!今日は飛び入り参加の少年を連れてきたヨ!小太郎君と同じぐらいの年ネ!」

「おお、超!その坊主も小太郎と同じぐらい強いアルか」

「それは試してみてのお楽しみネ。あまり本気でやてはだめだヨ」

「なんやそのチビ助、超ねーちゃんの弟か」

小太郎君、自分の姿をよく見て言うネ。

「この坊主はネギ・スプリングフィールドと言うネ。2学期から私達の英語の教師をやることになたらしいヨ」

「俺と同じ子供やのに先生やるやて!冗談ちゃうんか」

「超、それはホントアルか」

「本当らしいネ。生憎まだ日本語通じないから、拳で語り合うといいヨ」

「(二人に自己紹介して手合わせするといいネ)」

「(はい!僕はネギ・スプリングフィールドと言います、よろしくお願いします)」

「ほんまに外国人なんやな!」

「コタロー、私も外国人アル」

「くー姉ちゃんはエセ中国人みたいな話し方やろ」

「小太郎君、それは私にも言てるのカ。相手するヨ。なら古はネギ坊主の相手するといいネ」

「それ怒るような事か。でもええわ!今日こそ勝ったるからな!」

「望むところネ」

普通の中国拳法ならまだ私も負けてないネ。

「ネギ坊主、私が相手するアル。かかてくるといいよ」

「(ネギ坊主古はいつでもかかってきて良いと言てるネ)」

「(分かりました!こういうのは初めてですけど、行きます!)」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ少年を見守る、もとい観察してる訳だが、古菲との初めての手合わせは当然ではあるがネギ少年の完敗に終わったものの、意外としつこく頑張るうちに動きを吸収していくのはスポンジみたいだった。
その後小太郎君とも戦ったが流石にアドバンテージがあちらにあり、こちらでもネギ少年の完敗である。
しかし超鈴音は途中でネギ少年を意図的に放置したようだがロボット工学研究会に途中で移動していった。

《ネギ少年を置いてきて大丈夫なんですか。道もまだ分からないでしょうし寮に戻るのにも一応電車に乗る距離ですよね》

《古もいるから多分大丈夫ネ。もし駄目だたら翆坊主が見つけて私が回収すればいいだけネ。見守るのが仕事だろう》

まあそう言われればそうかもしれない。

《そういう事なら。実際に動きを見てどうでしたか》

《それ私も気になります!》

高度な会話術がただの雑談術に落ちているのはなんとも言えないが、使わないよりはましか。

《うむ、ネギ坊主はあまり運動はしていなかたようだネ。常に魔法で身体強化しているのは身体が強くならないヨ。でもあの短時間での吸収力は目を見張る物があたネ》

《やはり今のところはスタート地点という所ですかね》

《今度私もいいんちょさんと合気柔術に連れていこうかな》

……全く日本語を覚える暇がなさそうだがネギ少年、頑張れ。

《鍛えた方が良いとは言いましたが、もうなんかこの際龍宮神社のお嬢さんのバイアスロン部とか、木乃香お嬢さんの護衛の桜咲刹那の剣道部とか全部連れて行ったらいいんじゃないですか》

《それも面白そうだが、私も毎日暇な訳ではないからネ》

《龍宮さんと桜咲さんの所なら私が連れて行きますよ》

《それは丁度いいネ。中国拳法に合気柔術、射撃に剣道、あとありそうなのは楓サンの修行に加わる事カ。夏休みに来たというのは意外と良かたかもネ》

確かにそうかもしれない。
世界の歴史の方が2月あたりに来るという事だったが三学期も半ばからでは微妙だろうし。

《実際純粋な魔法使いタイプからかなりかけ離れてますけど学習能力が高そうですし色々やっても何かしら効果がありそうですね》

《学園長が襲いかかるのがいつかは知りませんけど、育成ゲームみたいで面白いですね》

……いや、現実だからねこれ。

《……ところで小太郎君は裏の人間でもありますが、気づいてるようでしたか》

《ふむ、最初見た時に一瞬顔が変わてたから気づいてると思うネ。でも、あの二人は言葉は通じてないが仲良くなれそうかもしれないネ》

それは良かった。
身近なライバルがいれば切磋琢磨できるというものだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

その後ネギ少年は中国武術研究会の終りの時間まで粘り、それをサヨに知らせて古菲、雪広あやかと共に女子寮に戻っていった。
ネギ少年が割とボロボロになっていて雪広あやかが非常に心配したのは言うまでもないが、手当できるとあって嬉しそうだった。

無事に孫娘達の部屋に戻ったネギ少年だが、神楽坂明日菜に見事にくしゃみを当て服がはじけ飛んだ辺り歴史はある程度修正するらしい。
その事で一悶着有ったが英語で必死に謝られ、言葉の壁に苦慮したのか彼女は意外とすぐに怒りを収めたのだった。
夕飯を食べながら英会話と日本語のギブアンドテイクな関係がこの夏3週間程続いたそうだがそれはそれという事でネギ少年の一日は終わったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

はあ、昨日は麻帆良に来てすぐだけど凄く疲れたな。
それに超さんが連れていってくれた中国武術研究会だけど、運動すると言われて行ってみたら身体をほぐすなんていうものじゃなかったよ……。
でも、イギリスにいた時に1ヶ月タカミチに相手してもらったから少しは頑張れたかな。
古菲さんに僕と同い年ぐらいのコタロー君はすっごく強かった。
もしあれが本当の戦いだったら魔法を唱えている前にやられちゃうよ。
それに魔力で身体を強化してるのに二人はそれ以上に強かったしあれはタカミチが使ってる気と同じみたいだったな。
それでも僕はサウザンドマスターの父さんのような立派な魔法使いになるんだからあの二人に簡単に負けていられない。
でもその前に日本語を勉強しないと不便だからこっちも頑張らないと。
結局昨日は夕方帰ってきた後少しぐらいしか日本語勉強できなかった……。
しかもアスナさんの服をくしゃみで吹き飛ばしちゃって謝ったけどちゃんと伝わってるかな……。

あれ!?何故かアスナさんの布団で寝てる!

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何故ソファーで寝ていたのに二段ベッドの上に上がれるのだろうか。
それを思わず抱きしめている神楽坂明日菜もなんなんだか……起きたら面倒な事になるに違いない。

さて、ネギ少年が昨日ご到着した訳だがエヴァンジェリンお嬢さんが気づいていないわけがない。
騙してはいないが、いずれこうなるとは思っていたんだ。

「おい、翠色の幽霊そこにいるのは分かってる。さっさと出てこい、さもないと凍らすぞ」

えー脅迫を行う人物が約一名、この時間帯に無駄にでかい木に話しかけるお嬢さん。
端から見れば……周りに誰もいない!

「ああ、あくまでだんまりを決め込む気か。いいだろう、リク・ラク・ラ」

《いや本当にやめて下さい。冗談じゃないです。話はしますからとりあえず家に戻ってはいかがですか》

発動されたら分解すれば良いだけなんだけど、お嬢さんの魔分は5%的に無限だからキリがないし。

「寝てた等と言い訳するんじゃないだろうな」

《精霊は基本的に寝るとか起きるとかないですよ。少し優柔不断になっただけというかそんなところです。こうして顔だけ木から出して話すのを止めたいと言いますか、木のあたりで話すこと自体がマズイので一度お戻りください》

「そう言われても、こちらから茶々円を呼ぶ方法がないだろう」

まあ家の中で大きな声で叫ぶとかすれば気がつくかもしれないが……。
あれ、5%精霊化してるし粒子通信できるのではないだろうか。
今まで全く試す機会、必要がなかったから忘れていたが。
誰にでも話しかけるのはできるからやるか。
一度木の中に戻って、と。

「おい!なんでまた引きこもるんだ!」

《エヴァンジェリンお嬢さん、聞こえるでしょうか。口で話さず、念じてください。念話とは違いますがそういうようなものです》

《こんな方法があるなら最初からやればいいだろう!》

《すいません、あまりこの方法を他人に広めたくないもので。会話にかかる時間は現実時間の一瞬にしかすぎないので割と長くはなしても大丈夫です》

《はぁ……まず昨日タカミチと入ってきたあのガキは誰だ。赤毛というのはナギの事ではなかったのか、思い過ごして馬鹿みたいだろうに》

《精霊は正直ですので全て話させていただきます。ご意見はその後どうぞ。あの赤毛の少年はネギ・スプリングフィールドと言い、予想がつくと思いますがナギ少年の息子です。2学期から英語の教師として麻帆良の女子中等部に赴任する事が決まっています。当初の予定ではもっと後に来る筈だったのですが近衛門殿の積極的な働きかけによりもう到着したという事です。因みにまだ英語しか通じません》

ショック受けるだろうな……好きな相手ではなくその子供が来るんだもの。
寝取られたとは何か違うだろうがそんな感じだと思う。

《……それは、本当……なのか……》

怒り出さないあたり相当だろう。

《……ええ、ショックを受けると思ったので近衛門殿の所では赤毛とぼかしましたが寧ろ逆効果でした。数ヶ月期待させるような真似をして申し訳ありません》

《……ハハハ、興味を持って無理やり聞きだしてみれば結局自分に返ってくるとはな……。つい最近も似たような目にあったな……》

《これで元気になるかは分かりませんが、クウネル殿のアーティファクトが使用可能なのは知っていますか》

子供がいること自体がショックだろうが生きている事の確証が得られるだけでも……と。

《そうか。そういえばアルの奴その事は一言も言っていなかったな……む、という事はナギが生きていると言いたいのか》

《クウネル殿に聞けば何処に居るかはわからないが生きているのは確かだと言われると思いますよ》

《奴が生きているのは本当だったのか……。分かった、それは早いうちにアルに確認に行くとするよ……。茶々円……また湿っぽくなって悪かったな》

《少しでも元気を出してもらえたようで良かったですよ》

《それで、じじぃは何をするつもりなんだ。直々に指導するつもりなのか》

あー、これも言わないと駄目なんだろうなー。

《えー、近衛門殿は何故か時期を見てネギ少年に襲いかかるそうです。目的は少年を鍛える事なので、その話を聞いた超鈴音含め私達が昨日彼を中国武術研究会に投げ込んだのはその為です。実際動機のほとんどは面白そうだからの一言で解決しますが》

《鍛えるというのはわからなくもないが教師として生活するのに必要なのか》

《これは壮大なネタバレなんですが、一年以内にそうする必要が訪れるので必要かどうかと言われると非常に必要です。ここからは憶測ですがナギ少年がその結果見つかるかもしれません》

《今度は隠さずに話すとは殊勝な心掛けだな。その時が事態が緊急を要するとやらなのか》

《実際にどう動くかまでは分かりませんがそうなる可能性は高いです》

《ほう、そこまでは精霊でも分からないのか。じじぃが襲うと言ったが、私があのぼーやをじじぃに一泡吹かせる為に強くしても構わないんだな》

おお、歴史は繰り返すか。
マスターはあくまでもマスターですか。

《動機は聞かなかった事にしますが、まさかお嬢さんがこれに協力するとは思いませんでしたよ》

《奴の息子なら鍛えがいがありそうだからな。暇つぶしにもなるだろう》

暇つぶし等と言っているが、内心恥ずかしく思っているだけのような気がするが。

《こんな事を言うのは野暮かもしれませんが、魔力量こそ劣るものの、ネギ少年はナギ少年を越える可能性は十分にあると私は思います。今の彼を見てもそうは思わないかもしれませんが》

《どうやら強さだけの事を言ってるのではなさそうだな》

《それはお嬢さん自身の目で見て直接感じるほうが楽しいと思いますよ》

《フッ……それもそうか》

《ところで、この通信方法ですがお嬢さんからも話しかける事は恐らく可能です。因みにこの方法を続けると思考速度が異常に早くなり、魔法の詠唱速度がその影響でやたら早くなるかもしれません》

《それは超鈴音の事か……。燃える天空の発動速度はその為と言うわけだな》

《まあこの会話法に長時間着いてこれる事自体が凄いと言えば凄いのですが、お嬢さんはまだ平気ですか》

《私は全く問題ないな》

《やはり、一部精霊化してる為でしょうね。普通の人間なら頭がとてつもなく痛くなります。それで繋ぎ方は理解されましたか》

《それが原因か……。ああ、通信方法は分かった。これから利用させてもらうとするよ》

《いつでも話しかけてくれて結構ですよ。最近しょうもない雑談ばっかりに利用していますし》

《そんなに暇なら最初からさっさと出てこい!》

墓穴掘った。

会話終了後お嬢さんは時間が殆ど経っていないのを改めて理解しやや驚いていた。
いつ指導し始めるか知らないが、厳しくも優しい先生になりそうだ。
闇の魔法とやらはどうなっているのだろう。
お嬢さんが使いにくくなったというのは100年も前の話だからこの魔法自体を知っている人がいないような気がするが……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

夜が明けて翌朝。
今日はネギ先生に合気柔術をいいんちょさんと教えますよ!
キノはなんでも一度やらせたら何かしら効果はあるだとろうと言っていますし、何より面白そうなのでやります。

と、思っていた所部屋のドアをドンドンと叩く音が。

「超りん、相坂さん、ちょっと来てほしいんやわ」

神楽坂さんが絡んでいるに違いないです。

「さよ、通訳のお出ましネ」

「そうみたいですね」

……状況としてはソファーに寝ていたはずのネギ先生が二段ベッドの上にある神楽坂さんの所に潜り込んでいたところ両者目を覚ましたものの言葉が通じず、ジェスチャーで意思疎通を図るものの断念したとのことです。
神楽坂さんがなんだか朝から疲れてますね……。
確か今日は新聞おやすみの日ですからバイトと関係なくて良かったですね。

「(ネギ先生、どうして神楽坂さんのベッドに入っちゃったんですか)」

「(ネギ坊主、乙女のベッドに勝手に潜り込むのは英国紳士としては失格だヨ)」

ご先祖様を叱る子孫というのはなんとも言えませんね……。

「(はい……反省してます。僕イギリスにいた頃はいつもネカネお姉ちゃんと一緒に寝てもらって気がつかないうちについ癖で潜り込んでました……)」

「(でもどうしてわざわざ二段ベッドの上の神楽坂さんの所なんですか)」

「(そうだナ。木乃香サンの所の方が近い筈だヨ)」

「(……それは多分……アスナさんの匂いがお姉ちゃんと似てるからかもしれません)」

「明日菜サン、ネギ坊主が入り込んだのは故郷で普段お姉さんと一緒に寝ていて、そのお姉さんの匂いが明日菜サンにそっくりだからだそうだヨ」

「ほうかー。まだやっぱり子供なんやな」

「理由は分かったわ。さっき怒り過ぎてもう一度怒る気にはならないし……。気をつけてと言って欲しいんだけど」

「(ネギ先生、神楽坂さんはもう怒るのはやめたそうですけど気をつけてと言ってますよ」

「(はい、アスナさん、ごめんなさい。気をつけます……)」

そう言いながら頭を下げた所でこの話はお開きとなりました。

「(ネギ坊主、そんな事では教師をやては行けないヨ。これを小太郎君に知られたら笑われてしまうネ。身体も鍛えた方がいいが心も鍛えたほうがいいネ)」

す、凄く厳しい事言いますね。
9歳なんですけど……、まあ鈴音さんも火星にいたときはもっと苦労したのかもしれませんね。

「(鈴音さんの言うことは尤もですよネギ先生。でも一度失敗したぐらいでクヨクヨしてはいけません、しっかり前を向いてください。今日は私がネギ先生が身も心も強くなる場所に連れていきますよ!)」

「(そ、そうですね……。こんな事では教師なんて勤まらないしコタロー君に笑われても仕方ないや……。超さん、相坂さんありがとうございます。今日もよろしくお願いします!)」

「(うむ、元気が一番ネ)」

「(では準備ができたら私の部屋の前に来てくださいね)」

「ネギ君落ち込んだり明るくなったりしとるけど大丈夫なん」

「ネギ坊主は強い子だヨ。大丈夫ネ」

こうして正直不自然な流れに誘導している気がしないでもないですが、今日はいいんちょさんと合気柔術の道場に連れていくことになりました。

「(ネギ先生、今日は私と相坂さんで合気柔術をお教えしますわ。怪我をしないように最初は基本から始めましょう)」

「(合気柔術は相手の力を逆に利用するのが基本ですから心を落ち着ちつける事が大事ですよ)」

あれ……全く日本語の勉強にならない空間が広がっていますね……。

「(はい!今日はよろしくお願いします、あやかさん、相坂さん!)」

元気が良くて良いですね。
いいんちょさんがとてつもなく幸せそうな顔をしていますが、合気柔術の腕前は申し分ないですから手取り足取りしっかり教えていきます。

しかしネギ先生の飲み込みの良さには二人で驚きました、確かにこれは凄いです!
いいんちょさんのテンションが更に上がって行きますがそんな時でした。

《相坂さよ、今ぼーやに合気柔術を教えていると茶々円から聞いたが今何処にいる。私もそれに参加させてもらおう》

えっ!どういう事ですかこれ。

《エヴァンジェリンさん一体どうしたんですか、今は雪広の合気柔術の道場なんですがわかりますか》

《……ああ、あの100年近く前から変わっていない所か、すぐに行くよ》

というかこの通信方法エヴァンジェリンさんもできるんですか。
あれ……どうしようこれいいんちょさんに言うの不自然すぎるんですけど!
絶対キノが原因ですね。

《キノ、今エヴァンジェリンさんから合気柔術の練習に参加すると粒子通信入ったんですけど説明を要求します!》

《翆坊主、それは気になるネ》

《相変わらずオープン回線ですか……。今日の明け方お嬢さんが神木の目の前に直接やってきて色々あったんですよ……。結論としてはお嬢さんもネギ少年を鍛えるのに参加するそうです。動機は近衛門殿に一泡吹かせるとのこと。合気柔術の話は私からしましたが、まさかもう行動するとは思いませんでしたね》

《大体分かたが、英語の教師とは何のことだろうナ。私も加担しているとは言え昨日からネギ坊主はまだ運動しかしていないネ》

《私達は今ネギ先生とちゃんと英会話してますよ》

《雪広あやかに説明が難しいかもしれませんがなんとかして下さい、すいません》

なんとかって……。
なんとかするしかありません!

《エヴァンジェリンさん、来る時の理由は鈴音さんに用があって電話したら私達がやってることをついでに聞いたということにして下さい。いいんちょさんがいるので説明しないといけませんし》

《委員長がいるのか。だから雪広の道場という訳か。分かった、説明は任せておけ》

……少なくともこれで私がおかしいと思われることは回避しました。
あれ、正直何もしなくてもなんとかなったかもしれませんね。

しばらくしてエヴァンジェリンさんが来ました。

「委員長、超鈴音に用があって電話してみれば新しく先生になる子供に合気柔術を教えているそうじゃないか」

「まあ、エヴァンジェリンさん珍しいですわね。このネギ先生が2学期から新しい先生になられるんです!」

「(え、エヴァンジェリンさんって本物のエヴァンジェリンさんですか!わー二日目でもう会えるなんて凄いです!握手して下さい!)」

ネギ先生何故エヴァンジェリンさんを知ってるんですか。
エヴァンジェリンさんも一瞬厳しい顔をしましたがすぐに微妙な表情に戻ってされるがままに握手されています。
多分光の福音だと気づかれたのかと思ったのでしょう。
なんだか嬉しそうな顔してますね。

「(ネ、ネギ先生、エヴァンジェリンさんとお知りあいなのですか)」

「(いえ、日本に来る前に学園のお祭の映像で見たことがあるんです。その時映ってたのがエヴァンジェリンさんでお姉ちゃんと一緒に凄く綺麗だなって思ったんです)」

その映像送ったのは学園長先生ですか。
今の発言でエヴァンジェリンさんが顔を俯かせていますが少し恥ずかしそうですがもっと嬉しそうです。
って、いいんちょさんの雰囲気が黒くなっているような……。

「(ネ、ネギ先生!私の事はどう思われますか!)」

「(あやかさんですか、とても親切な良い人だと思います!)」

「ああ!もう幸せですわ!」

子供だと思って油断しているととんでもない男の子かもしれません……。

「(ぼーや、私を前から知っていたとは嬉しいことを言ってくれるじゃないか。今日は私も合気柔術を教えてやろうと思ってな)」

「(ほ、本当ですか!ありがとうございます、エヴァンジェリンさん!)」

「(そ、そんなに嬉しいのか……いいだろう。だが私は甘くはないから覚悟しておけよ)」

「(ちょっとエヴァンジェリンさん!手荒な真似は許しませんわよ!)」

私は幽霊の頃から存在感が薄かったですが、この空間だと思わず成仏してしまいそうです……。

それからの一日でしたが、いいんちょさんの懇切丁寧な優しい指導とエヴァンジェリンさんの実践的指導と、とてもうまく行きました。
ただ……技を掛けられて投げられる所を実際に見せる役は私が必死にやりました。
これが適材適所と言う奴なのでしょうか。

しかしエヴァンジェリンさんの映像を予めネギ先生に渡していたのが学園長先生だとしたらとんだ策士です。
流石キノが信用しているだけはありますね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

とても気になって観測していたが近衛門が映像を渡していたらしい。
多分酷いことにならないようにという保険のつもりだったのだろうが、第一印象がとても良くなるという物凄くプラスな役目を果たしたらしい。
近衛門の勘はこれだから大したものだ。
という訳で実際に会うとしよう。

《近衛門殿、遠見の魔法で見ているのはネギ少年達ですか》

「おお、キノ殿。その通りじゃよ」

《会話を聞きましたが、学園祭の映像を送ったのは近衛門殿ですか》

「ふぉっふぉ、まさかああなるとは思わんかったの」

《ええ、エヴァンジェリンお嬢さんがこんなに楽しそうな顔をするのは久しぶりですね。元の狙いが違ったとは言えこれは良かったと思いますよ》

「まあ送った映像は殆どアルが選別したんじゃがの」

って映像提供元は司書殿か!
だからあんなにべた褒めする反応になるのか……。
イノチノシヘンで記録もされているがどうやってかサークルが出してる映像も全部入手しているらしいからとっておきを選んだんだろう。
いや、これはクウネル殿よくやったと言わざるを得ない。
後であの様子を見せに行こう。

《なるほど、クウネル殿が選別したらそうなるでしょうね。多分彼に並ぶ程お嬢さんに詳しい人は大学サークルの通でもなかなかいなさそうですし》

「あの二人の初対面があんなに穏やかになるとは予想外じゃな」

《全くです。あ、それとお嬢さんが近衛門殿に一泡吹かせる為にネギ少年を鍛えるそうですから、魔法の関係もありますし時期は見てくださいね》

「なんじゃと!エヴァの目的は儂への当てつけか……。こうなればどちらが上手か勝負じゃの……。これは楽しみじゃわい」

《近衛門殿、オーラが漏れてますよ……。でもネギ少年って英語の教師の筈だったと思いますが完全に何処へやら……ですね。まあこの夏だけでも心身共に成長すると良いですが》

「教師は学校が始まったら頑張れば良いじゃろうて」

《そうですね。まあ日本語の勉強する時間が殆ど無いですがネギ少年の学習能力に期待ですね》

「大丈夫じゃよ。あちらの学校の成績を見る限り飛び抜けた天才のようじゃし、特に基本魔法の扱いに関してはここ近年歴代一の才能じゃから言語の習得はなんとかなるじゃろう」

《くしゃみの威力からすると風の魔法かと思いましたがそういえば基本魔法の方が適正あるんですね》

「ふむ、キノ殿は何か思うところあるようじゃな」

《もしかしたらというという憶測程度ですが結局頑張るのは本人ですから》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日も夕方に帰てきたネギ坊主だが一昨日に比べればボロボロにはなていなかたネ。
それどころか嬉しそうな顔をしていたが、さよと翆坊主から聞くにエヴァンジェリンに会えたのが相当良かたらしいナ。
大分前にエヴァンジェリンに手合わせという名の魔法の威力実験をさせてもらたがあの時の様子から考えると友好的な出会いになるのはありえないと思ていたのだが。
しかし今日で三日目だが朝倉サンにまだ見つかていないのは奇跡のようなものだが、小太郎君といれば見つかるのは時間の問題だネ。

私が何をしていたかと言えばハカセと一緒に警備ロボットの作成をしてたヨ。
侵入者が女子寮に出没している話をしたらロボット工学研究会の大学生のお兄さん達は俄然やる気が出てたが、やることは複雑でも思考回路は単純で助かるネ。
モデルはどこかの外国の州知事さんが出ている映画を意識しているヨ。
量産型として作れば人員的、地理的にカバーする事が不可能だた範囲の警備もそのうち可能になるだろうナ。
開発シリーズ名はT-ANK-α、田中サンと呼ぶヨ。
侵入者が思わず後ろを向いて両手を必死に振りながら走り出したくなるようなものを作成してやるネ!
また赤外線センサーを寮の周りに敷き詰める計画、三次元映像監視機器の作成も早々に進めた方が良さそうだネ。
ここで実験してデータを収集すれば警察機関に説明する時にも説得力が増すナ。
全体の監視を翆坊主達に常に行なてもらう訳にも行かないからネ。
後はちうサンにこちらで用意した端末をどのレベルまで渡すかだが、あまり良いのを渡しすぎるとハッキングの技術が危険な段階まで上がる危険があり、大したものでなければシステムの強化の本来の目的からも外れてしまうからバランスが重要だナ。

うむ、この麻帆良最強頭脳の私が暇になるのは遠い先の話になりそうだネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

これでネギ先生が来てから三日目、鈴音さんから指令を受けている肉まんによる餌付け作戦は続行中です。
確実にこのまま行けば肉まん依存症になることは間違いありません。
私が最近超包子で働いていないと思われてしまいそうですが、夏なのでそんなにお客さんは来ませんし、葉加瀬さんの計算の手伝いも部屋でもできるので大丈夫です。

「(ネギ先生、今日はバイアスロン部にいる龍宮さんのところに行って射撃を体験してみましょう!本当はスキーも行うんですが今は夏ですからね)小太郎君も龍宮さんは知っていますよね。今日は射撃訓練ですよ」

昨日いいんちょさんはネギ先生分を補充しすぎて放心状態なので放置です。
ご覧の通りですが小太郎君も途中で拾ってきました。
まあ観測しながら偶然を装って遭遇しただけなんですけど。

「(はい、相坂さん、色々な事を体験させてくれてありがとうございます!)」

「たつみー姉ちゃんの事は知っとるで!俺は格闘が好きなんやけどネギもやるんなら負けられんわ!」

「(小太郎君も射撃は初めてだそうですけど負けないって言ってますから頑張ってくださいね)」

「(はい!コタロー君、一昨日は敵わなかったけど今日は僕も負けないよ!)」

実に良いライバルになってますね。
まだ会うのは二回目なんですが言葉が通じないだけに感情でぶつかり合いやすいみたいですね。

「(ネギ先生、一度バイアスロンの競技の説明をしましょう。バイアスロンとは、クロスカントリースキーと、ライフル射撃を組み合わせた競技で元々はスキーをしながら銃で獲物を狩猟するのが発展したものだそうです。1861年からノルウェーで本格的にスポーツとして広まったようですが、麻帆良学園より歴史は古いですね。スキーについては省きますがライフル射撃は本来スキーで走り込んでから行う為、心拍、呼吸が乱れた中での精密射撃が要求されるのがポイントですから何か得るものがあると良いですね)」

お分かりの通り銃を扱いますが、麻帆良では認可がしっかりされているので使われる銃弾は全てゴム弾と言う事になっています。
恐らく龍宮さんの私物には物騒な物が大量にあるはずですが細かいことは気にしてはいけません。

「(相坂さんは物知りなんですね!)」

まあインターネットに介入して昨日の夜便利なサイトの情報を覚えてきただけなんですけど……。

「何長くネギに説明してるんや、さよ姉ちゃん!不公平だから俺にも教えてーな!」

「はいはい、バイアスロンの説明をしただけですよ。小太郎君に言う必要があるのは、ライフル射撃は本来スキーで走り込んでから行うから、心拍、呼吸が乱れた中でも精密射撃がうまくできるように、という事ですかね」

「俺はちょっとやそっとの運動ぐらいじゃ息が切れたりはせんから大丈夫やな!」

賑やかに会話をしているうちに目的地に到着です。

「龍宮さーん、来ましたよ!今日はよろしくお願いします」

「相坂か、話は聞いていたから準備はできているぞ。コタロー君も一緒か、なるほどライバルという訳だな。で、そっちの少年がそのネギ・スプリングフィールド君かな」

昨日の晩予め龍宮さんの部屋にお邪魔してお願いしておいたんです。
報酬として超包子の肉まんの無料券と餡蜜をご馳走するということになりましたが、相変わらず裏で報酬を貰っている割には金銭にはシビアな人です。

「よっ、たつみー姉ちゃん。今日は俺も参加させてもらうで!」

「言うのを忘れていましたがネギ先生はまだ英語しか話せません。(ネギ先生このお姉さんが私と同じクラスの龍宮真名さんでバイアスロン部でもトップの腕前を持っているんですよ)」

「(初めましてネギ・スプリングフィールドです。2学期からこの麻帆良学園に英語の教師として赴任することになりました。よろしくお願いします龍宮さん!)」

「(おや、年の割には落ち着いてて礼儀正しいな。私が紹介に預かった龍宮真名だ。よろしく)」

「(龍宮さんも英語話せるんですね!日本って凄いなー)」

そうでした、龍宮さんも英語話せるんですね。
まあ確かに実際日本人には見えませんし、四音階の組み鈴に属していたのですから当然ですか。
それに神社の巫女さんをやっていますがはっきり言ってイロモノ過ぎますよね……。
褐色系、凄腕スナイパー、邪気眼、巫女さん……。
あ、なんかマズイ殺気が。

「相坂、今変な事思わなかったか」

「いえ!今日の餡蜜はどこがいいかなーと思っただけですよ!あ、映画のチケットもあるんで良かったら貰って下さい!」

「焦り過ぎだろう。落ち着け。映画のチケットは貰っておこう」

「は、はい。では早速二人にバイアスロン部を体験させて上げてください、お願いします」

「分かった。コタロー君付いて来い。(ネギ先生も付いてきてくれ)」

「負けんでネギ!」

「(コタロー君、頑張ろう!)」

宣戦布告なんですが微妙に咬み合ってませんけどまあいいですよね。
あれ、右手に出した映画のチケット本当に無くなってます!
こ……これはまた完全透明状態で侵入するしかありませんね。

それからの射撃訓練でしたが小太郎君も力はあるので射撃をした時の反動で銃身がブレる事が殆どありませんね。ネギ先生も魔分で身体強化しているので似たようなものですが、端からみると10歳ぐらいの子どもの身長で長いライフルを普通に構えて撃ってるあたり異常ですね……。
周りの部活の人達は大した坊主だな、流石龍宮が見込んだだけはある等と麻帆良らしい反応で済ませてますが……あきらめましょう。
結局二人は完全にハマってしまい、長時間続けることになりましたが随分上達しました。
私も龍宮さんの動きをトレースして結構上達したんですがこれはかなりズルなので生身で実現している二人はどういう事なのでしょうか……。

「相坂、コタロー君がこういったものに強いのは知っているんだが、ネギ先生のこの上達の速さは何だ」

「ネギ先生は何と言うか天才で、古さんが言うには覚えるのに1ヶ月はかかる技を数時間でものにしてしまうらしいです。昨日私も合気柔術を教えたんですが面白いぐらいに吸収が早くて早くて」

「あの古までそう言うのか。少し落ち着きのある子供ぐらいかと思っていたらとんでもないな。確かに鍛え甲斐があるとは思うが」

「昨日いいんちょさんなんてそのせいもあって、ずっと付きっきりでしたよ」

「ゆ、雪広に会わせて大丈夫だったのか」

委員長なのにこの辺りの信用が殆ど無いですね……。

「少し……怪しかったですけど大丈夫でした。エヴァンジェリンさんもいましたし」

「ああ……、少し話についていけんな。それで明日は刹那の剣道部にも連れて行く気なのか」

「その予定ですけど、桜咲さんは最近機嫌悪いからどうかなーって少し心配です」

「それなら一つ良い事を教えておこう。明日もコタロー君を連れて行くと良い。それに私からも刹那に伝えておくよ」

「龍宮さん、ありがとうございます」

「しかし、不自然に連れ回しているようだが誰かの差金なのか」

「それは……秘密です。それに教師にもなりますから予めこの夏生徒と知り合っていた方が9歳の先生にとっては良いでしょう」

「まあ、大体分かるがそういう事にしておこう」

夕方部活が終わるまで続き、その後餡蜜を皆で食べに行ったのですが、龍宮さんと小太郎君は自重して下さい。
ご馳走するとは言いましたが何杯も頼むのはおかしいでしょう!
龍宮さん!一番高いの頼むのもうやめて!
小太郎君も俺の方が沢山食べるとか言って同じの頼むのやめて下さい!
それに引き換えネギ先生の大人しいこと大人しいこと、これは……いいんちょさんが溺愛したくなる気持ちもわかります。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

い、一時的ですが財布の中身が空になりましたよ……。
超包子で働いていなければ大変でした……。
いえ、龍宮さんは私が稼いでいることを知っていてこんな事をしたに違いないです。
今度映画の内容で嘘教えましょうか……。

昨日帰り際に小太郎君に明日は桜咲さんの剣道部に行くから付いてきませんかと言ったらネギが行くなら俺も行くと凄い単純に釣れました。
子供の扱いはこういう時楽です。

また予め桜咲さんには夜にお願いしておいたんですが、相変わらずピリピリしてました……。
多分精霊体で部屋に入ったら斬られてたんじゃないでしょうか。
小太郎君も一緒に行くという話をしたら一瞬目が大きくなりましたがやはり何かあるらしいですね。
その後無事了承を得られたので良かったです。

「(おはようございますネギ先生)」

「相坂さん、おはようございます!今日もよろしくお願いします!」

あれ……日本語の発音完璧……。

「(ネギ先生日本語話せるようになったんですか)」

「(この三日で挨拶はきちんとできるようにこのかさんとアスナさんに教わったんです!)」

確かに、自己紹介ができるようになるのは重要ですね。
だからと言って一切違和感のない日本語が話せる理由にはならないと思いますが……。

「(それは良い事ですね。早速小太郎君を連れて行きましょう。はい、今日も肉まんどうぞ)」

「(今日はコタロー君にもちゃんと挨拶します!肉まんありがとうございます。本当に美味しいです)」

食べ歩きは行儀が悪い気がしますがまあいいでしょう。
小太郎君とは女子校エリアの前で待ち合わせになってます。

「小太郎君おはようございます」

「さよ姉ちゃん、おはよう!今日は刹那姉ちゃんの所やろ!ネギ!昨日は射撃で最後負けたけど今日はそうはいかんで!」

そうです、昨日最後厳密に勝負したらネギ先生の勝ちでした。
スーパー小学生、いえ子供先生ですか。

「こ、コタロー君おはよう!今日も僕負けないよ!」

言いたい事から覚えてきたという訳ですか。
ちゃんと言えて凄く嬉しそうですね。

「おうネギ!日本語もうそんな話せるようになったんか。先生するだけあってほんまに頭良いんやな」

「まだ少ししか話せないけど頑張ってすぐ話せるようになるよ!」

「それでは早速剣道部に行きましょう」

桜咲さんが夜に振るう刀は太刀なので剣道の竹刀とは長さが異なりますが、あまり得物には拘らないらしいですね。

「桜咲さん!おはようございます。今日はよろしくお願いします」

「相坂さん、おはようございます。小太郎君もおはよう。そちらが話に聞いたネギ先生ですか」

桜咲さんは龍宮さんと一緒に話すときは仕事人モードな口調なんですが、普段話しかけると丁寧な口調になるんですよね。
まあ口数は物凄く少ないですが。
それにしても小太郎君を見る目がなんだか優しいですね。
龍宮さんが言っていたのはこの事だったんでしょう。

「刹那姉ちゃんおはよう!今日はよろしく頼むで!」

「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。2学期から英語の教師として赴任することになりました。今日はよろしくお願いします」

「初めまして、桜咲刹那です。英語しか話せないと聞いていたんですが話せるようになったんですか」

「基本的な挨拶だけはこの三日で覚えました」

「そうなんですか。とても流暢な日本語なので驚きました。それでは早速剣道着の着用から始めましょう」

やはり剣道ならでは、道場は独特の匂いがしますね。
私はやっぱり……合気柔術の方が好きですね。
この剣道のビシッっていう竹刀の音が耳に聞こえる度身体のどこかが痛い気がします。

稽古が始まったんですが、ネギ先生は一日目の中国拳法、二日目の合気柔術、三日目の射撃訓練の相乗効果により呼吸と精神が凄く落ち着いてるみたいで見た目に見える体格よりも大きな存在感を放っているように思えます。
面を着けているので表情はよくわかりませんが、桜咲さんも多分驚いていると思います。
二人足さばきの上達が早すぎる上、面、小手、胴の動きも綺麗な物です……。
既に今年入部した中学一年生を遥かに越える状態で剣道部の先生も驚いてますね。
最初は小学生に少し体験させようぐらいに思ってたんだと思いますが……。
なんでも一度やらせてみればの程度の筈が、どう考えても一度やった程度のレベルアップではありません。
桜咲さんの指導もなんだか熱が入り始めてあっと言う間に時間が過ぎていきました。

「桜咲さん、お疲れ様です。さっき超包子で肉まん買ってきたのでどうぞ。小太郎君とネギ先生もお腹すいたと思うので食べてください」

「ありがとうございます、相坂さん」

「何度食べても美味いなこの肉まん!」

「うん、四日間毎日食べさせてもらってるけど美味しいね」

まあこの暑い夏に肉まんはどうなのっていうのは置いておいてください。

「小太郎君もネギ先生もこんなに上達するとは思いませんでした。相坂さん、二人は昨日もこんな風だったんですか」

「龍宮さんも昨日同じこと聞いてきましたよ。ちょっと信じられない上達速度ですよね」

「帰ったら龍宮に聞いてみますよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

帰り道でしたが

「小太郎君は携帯電話持ってますか」

「持っとるで」

「私にアドレスと電話番号教えてください。ネギ先生の携帯電話が今日には用意できるらしいので連絡取り合えた方が良いでしょう」

実は鈴音さんが完全自主制作の廃スペックな携帯をロボット開発の合間に作り出したと連絡があったのです。
意外とやさしいですよね。
というかこう言うのは学園側が用意するのではと思いますがどうなんでしょう。
この三日の間に私が知らないところで話が進んだのでしょうか。

「おお、ネギも携帯電話持つのか!なら教えたるわ」

「(相坂さん、一体どうしたんですか)」

「(ネギ先生の携帯電話が今日にはできるので小太郎君の携帯のアドレスと電話番号を教えてもらっているんですよ。ネギ先生もその方が良いでしょう)」

「(本当ですか!お世話になりっぱなしでなんだかすいません。ありがとうございます!)」

この後途中で小太郎君と別れて、桜咲さんとネギ先生と一緒に寮まで帰りました。

「桜咲さんは小太郎君を見るとき優しそうですけど、あ……これは聞かない方が良いですか」

「いえ……ただ少し羨ましいなと思っています」

「細かいことは聞かないでおきますね。元気だしてください、桜咲さん」

「(どうかしたんですか二人共)」

「(何でもありませんよ。大丈夫です)」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、ロボット開発の合間に学園長に少し連絡してネギ坊主の携帯電話作てやたネ。
契約の処理はあちらに任せたが、午前中に作って午後にはもう手続きは済んだようだナ。
高畑先生に微妙な顔で見られたが、多分怪しんでるんだろう。
翆坊主も茶々円で活動した結果神多羅木先生に先に精霊バレをするとは高畑先生は避けられている気がするネ。
魔法世界での有名人には知られない方が良いというのが本音なのだろうが。
後は私にもあれだけ必死に止めろと言てくるのだから時間の流れが早いダイオラマ魔法球で修行したのを快く思ていないんだろうナ。

《超鈴音、一昨日の朝は厳しかったのになんだかんだネギ少年に優しいですね。サヨ達はもう帰ってきますよ》

《ご先祖様だからネ。敬うのは当然だヨ》

《そういう事にしておきましょうか》

翆坊主の言た通りすぐ帰て来たネ。

「さよ、せつなサン、ネギ坊主お帰りだネ。(それでこれがネギ坊主の携帯だ。既製品の性能を遥かに凌駕した操作性と機能を備えているから存分に使うといいヨ。既に何人かアドレス帳に登録されているから確認するといいネ)」

「(超さん、ありがとうございます。相坂さん、アスナさん、古菲さん、学園長先生、このかさん、タカミチ、龍宮さん、超さん、エヴァンジェリンさん、あやかさん、昨日までにあった人が殆ど入ってますね!)」

「(これで小太郎君を入れれば後は桜咲さんだけですね)桜咲さんもネギ先生の携帯に登録してもらってはいかがですか。この夏時間があればまた剣術をするのも良いと思いますよ」

「え……、はい、そういう事ならお教えします」

「(桜咲さんも教えてくれるんですか。ありがとうございます!)」

「(ネギ坊主、この四日間で私達が紹介できる運動はこれで大体終りネ。後は好きなものに取り組むといいヨ。そこに登録されている人達は皆歓迎するらしいから遠慮せずに連絡するといい。もちろん小太郎君に違う所に連れて行てもらうのも良いだろうナ)」

「(皆さんいつでも都合が合うということはないかもしれませんが気にせず連絡してくださいね。夏が終わったらいよいよ先生になるんですからそれまで麻帆良をじっくり見るのもいいかもしれませんよ)」

「(はい!超さん、相坂さん、桜咲さん、ありがとうございます)」

これで大体一段落だネ。
実はネギ坊主の携帯には特殊な通信技術を試験的に搭載してあるが、使用にはこちらから一度起動させる必要があるからもしもの時用という事だナ。



[21907] 15話 夏の終わり
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 19:58
4日目にして言語の障壁をやはり突破し始めたネギ少年だったが完璧に話せるようになったのは8月の末になった。
予想通りパパラッチ朝倉和美がネギ少年に気づき突撃、その騒ぎで他の寮室の2-A達にも伝染するもまだ言葉があまり通じていなかったため雪広あやかが仕切るという結果に終わった。
その後パパラッチがネタを求める為英会話に熱を入れるようになったが先にネギ少年の日本語マスターの方が早かった。
無駄な努力とは言わないが天才少年には勝てないようだ。
神楽坂明日菜は夏休みの宿題をまさかのネギ少年に「先生になるんだからそれぐらいわかるんでしょ!服吹き飛ばしたんだから手伝いなさいよ!」と言葉が通じるようになったのを良いことに強引に手伝わせるという暴挙に出たが、冷静になって流石に恥ずかしくなったのかその後英語だけは真面目に勉強するようになったそうな。

夏の彼の生活であったが、小太郎君に早速電話してやはり忍ばない忍者とさんぽ部に参加しだし、小学生が四人に増えた。
定期的に人数が増えるとは一体どういう事なのだろうか。
そして夕日に照らされながら木に三人並ぶのは何かの番組でも始めるのだろうか。
また、逆に小太郎君の強引な勧めにより忍者と山で修行する事になり、その結果その日帰ってこなかった為に寮で騒ぎになり、雪広あやかが失神しかけたが、サヨが呪術協会支部、もとい日本文化振興施設に電話し、山に行ったんだろうという情報を得て事なきを得た。
2人が寮に戻ってきたとき小太郎君と雪広あやかの喧嘩のようなものが発生したのは言うまでもない。
忍者の方は流石に忍びらしく一足先に何食わぬ顔で寮に戻りネギ少年を出迎えていた。
正直初めて忍んだのではないだろうか。

呪術協会所属の犬上小太郎君とサウザンドマスターの息子であるネギ少年が仲良くする事自体に裏でどういう動きがあったかと言えば、若い世代同士東と西の垣根を越えるのにもってこいだろうという事で知る人達は微笑ましく静観するという態度を決め込んでいる。
ただ犬上小太郎君が狗族と人間のハーフであり、元々厄介払いのつもりでこちらに連れてきたという意図も呪術協会としては無いでは無いので微妙な部分もあるだろう。

それ以外は今までに回った運動をローテーションしつつ、違う2-Aに遭遇する度にラクロス部やらバスケ部などなど色々体験したようだ。
一つ、それはちょっとというような女子中等部の新体操までやったが佐々木まき絵のリボン技能検定はネギ少年でも取得できなかったのは最大の謎である。

木乃香お嬢さんも言葉が通じる事を良いことに自慢げに図書館探険部に連れて行き、その仲間達と共に地下三階まで潜るという冒険をやってのけた。
ネギ少年は正直あり得ない構造の図書館島に驚きの連続であったが、あまりにも他のメンバーが普通の様なので深く突っ込むことはできなかったようだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一方でエヴァンジェリンお嬢さんの高速思考習得のついでに夏休み中、粒子通信を頻繁に行なっていた。

《エヴァンジェリンお嬢さん、合気柔術を教えるだけでも楽しそうですけど魔法はどうするんですか》

《あのぼーやはまだ身体ができていないからな、今のところは普通に運動するだけでも良いだろう》

《そういう割に日常的に魔法で身体能力を強化してますよね……》

《それは私が魔法を教える時に言うしか無いだろうな》

と、どういう切り口で魔法を教えるタイミングを得るのかよく分からないが教えるつもりらしい。

また別の日に聞いてみた事があるのだが

《闇の魔法ってこの100年の間に誰かに教えた事ってあるんですか》

《ああ、あれは私が忌々しいことに真祖の吸血鬼になってから生きていく為に10年程度の歳月をかけて完成させた技法だからな。はっきり言ってあれは使い勝手が悪い。だから誰にも教えていないがどうかしたのか》

…………。

魔法世界でナギと並ぶチートなラカンという人に教えて貰うという筈だった気がするのだが……。
しかも、10年程度と言うことは大したことない技だったのか……。
確かに500年近く真祖の吸血鬼やっておきながら始めの10年に習得した技なんてそんなものなのかもしれないが。

《いえ、なんでもありません。そうすると闇の魔法を越える何か必殺技のようなものがあるんですか》

《そんな事をしなくても私は強いからな、必殺技など必要ない。大体絶対に勝たなければいけないという場合に出くわした事がないし、あったとしてもさっさとゲートを作って逃げて終わりだ。いちいちリスクを負う必要がないだろう》

非常に合理的だった。
しかし、それだとナギと戦った時はどうだったのだろうか。
丸くなってるお嬢さんが本気を出す前に巫山戯た罠に嵌って呪いをかけられただけのような気がするが……。
えーと、闇の魔法は却下……。

《お嬢さんの考え方には精霊としては私も賛同です。ただネギ少年は男の子ですので負けられない戦いがありそれが強敵だった場合だったらどうするんですか》

《フフ……茶々円、ここ最近既に私はどれぐらい別荘に入っていたと思う》

《えー、あれ、簡単に確認しましたがここ半年で軽く1年を超えていますね……。まあ私はお嬢さんならダイオラマ魔法球をどれだけ使おうと気にしませんが》

流石に観測すると行っても超鈴音の魔法球ならともかく、いちいちお嬢さんの別荘の中まで見ないから入っていた時間を計算したらそうなる。
休日に15回丸々入るだけで1年だから恐ろしい空間だ……。
タカミチ少年もそりゃ長期休業にガンガン入ったりすれば年も喰う訳だよ。

《相変わらずそういうところの確認だけは早いな。ここ最近に限った話ではないがここ100年を含め研究はしていたからな。この前私が一部精霊化していたのが分かる前から、それが何かは分からなかったが、基本魔法についてはある程度把握していた》

《それはつまり魔力ではなく魔分の本質に基づいて、という事ですか》

《超鈴音のアーティファクトのフィールドを見てな、最後の鍵が解けたんだよ。それにじじぃの所に行ってぼーやの成績表を拝借して見てみれば基本魔法の扱いに関しては特に天才だそうじゃないか》

お嬢さんも気づいてたんですか。
超鈴音に言われて私もなんとなく気づいていたけれど……。
流石過ごした年数分の経験がある訳だ。

《それ教えて大丈夫なんですか。なんだか機密に関わりまくりの気がするんですけど》

《まあまずそれが私や超鈴音のような精霊の力を直接借りずにできるかという問題がある。それ以前に魔法を使った戦闘訓練もまだ基本すら確立していないだろう》

まあ生身の人間に魔分の本質が分かるのは今の今まで起きてこなかった訳だから当然か。
実際使えたとして真似ができなければレアスキルの一点張りになるだろうし。
少年の才能に期待するしかない。
ああ、今まで闇の魔法に期待していたのは何だったのだろうか。
しかし気になるのは魔法世界で果たしてうまく使えるかだが、祈るしか無い。

《そうですね。お嬢さんに任せればうまくいきそうですから安心しましたよ》

《確実にじじぃに目にもの見せてやらんとな。まあ断罪の剣ぐらいは一発喰らわせてやりたい》

物騒すぎるんですけど。
当たると強制的に気体に変化させる基本性能に加え、それを回避しても融解熱と気化熱の吸収で強烈な低温状態に相手を晒すという危険な代物だったと思う。
そういう武装が好きな超鈴音が開発中でもある。
まあ使うかどうかともかくただ単に開発したいだけだろうけど。

《そう言えば断罪の剣って属性で言うと何に分類されるんですか》

《属性か、それは別に一つに限らないが私は今まで氷と火でやっていたな》

あれも複合系だったんですか。

《今までというのは今は……まさか基本魔法……ですか》

《そうだ。出力も高い上に一旦別の精霊の力を借りる必要がないから扱いやすい》

今まで神木の精霊というか魔分自体の事をあまり考えていなかったが凄くチートだ……。
まあ魔法自体がチートみたいなものだがこれを言ってしまっては元も子もない。

《そうだ、超鈴音の身体だがあれは普通に生活する分には問題ないがそれでも脆くないか》

その事は呪紋回路と火星という特殊環境で育ったせいだな……。
超鈴音にとって触れられたくない事だろうが。
今はアーティファクトで誤魔化すことも可能になったが、本気で戦うならば専用の強化服を着用する必要がある。

《火星が特殊だった、と言うことです》

《私も大概だが事情を抱えている奴は麻帆良には多いな》

故に麻帆良が麻帆良である訳だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

で、こちらは図書館島。

《クウネル殿、近衛門殿にエヴァンジェリンお嬢さんの詰め合わせ映像を送らせたようですね》

「おや、精霊殿もご存知でしたか。そうですよ。効果の程はどうでしたか」

《完璧過ぎてクウネル殿を褒めざるを得ませんね。ネギ少年とお嬢さんのファーストコンタクトがこれ以上無いほどにうまく行きました。その時の映像収集しますか》

「なるほど、ご褒美ですか。頂きましょう」

《それとお嬢さんがナギ少年の生存について聞きに来ませんでしたか》

「来ましたね。強引に見せろと言ってくるものですからからかうのが楽しかったですよ。おや、この顔はとても良いですね。感謝しますよ」

相変わらず天敵だな……。

《それはどうも。来年の麻帆良祭が楽しみですね》

「ええ、機会としても最高の場所でやっと約束を叶えられますからね」

《しかも既に呪術協会の方もいますからなかなか面白くなるかもしれませんね》

「そんなにトーナメント組めるのですか」

《超鈴音次第でしょう。アンダーグラウンドな場所で試合するなら3日間やっても良いかもしれませんし》

「主催者側というのは便利ですね」

《その代わりそれだけやることがあって大変でもありますが》

「でもそんな超さんを見るのが楽しみなのでは」

《クウネル殿にとってのお嬢さんには負けますよ》

「そこは勝ちを宣言しておきましょう」

なんの会話だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「千雨サン調子はどうかナ」

「お前の渡した端末だがなんだよこれ、どうして市販の一番良い製品を軽く超えてんだ」

「お褒めに預かり光栄だネ。それは私が開発したヨ!」

「本当に火星人だったりすんのか……」

「オオ!千雨サン良く分かたネ!」

「冗談はやめろよ……。あぁもう……本題に入るがプログラムは完成した」

「ふむ、確認するヨ。肉まん食べるといいネ」

「この肉まんもだが、なんで一個100円なのにこんなに美味いんだよ……。しかもインターネット販売始めて明らかに他所の営業妨害になるだろ」

「それは私と五月の肉まんに対する愛の結晶が為せる技ネ。営業妨害については他人のサイトをハッキングで攻撃してるちうサンに言われたくないぴょん」

「超!お前!いい加減にしろよ!」

普段学校では人付き合いが悪いイメージだたが話してみるとからかい甲斐があるネ。
気がつけば呼び方も長谷川さんから千雨さんに自然になてたヨ。

「千雨サンの運動不足の身体で私に一発入れるなんて甘いネ。当たらなければどうということはないヨ」

「はぁ……はぁ……無駄に疲れる……。いつも学校で古達と馬鹿な事やってる癖に底の知れない奴だな……」

「私の秘密はこの世界にも匹敵する機密事項ネ。人間の尺度で図ろうなどというのが間違いだヨ」

「調子に乗りすぎだろ……」

「ハハハ、そこは否定しないヨ。おお、流石だナ、こんなプログラム到底普通の中学生の物とは思えない出来だネ!ハカセも驚くヨ!」

「お前にだけは言われたくねぇよ……。大体何なんだよそのハカセが弄ってるあのロボは。どうして授業に出てても誰も不思議に思わないんだよ」

おやおや、随分溜まているネ。

「茶々丸はガイノイドだヨ。不思議に思わない理由は、千雨サンが不思議に思う方が此処ではおかしいだけだから安心するといいネ。イライラが溜まるなら休日に部屋にいないで麻帆良の外に出てみるといいネ」

「説明になってねーよ。で、それは何か、私が不思議に思わないのが不思議だと言いたいのか」

「そういう事だネ。ここはある意味夢の楽園のような場所で生活するには便利だと思わないカ」

「それはそうだろうけど……。っていうかさっきの発言だと超は不思議だと思っても仕方ないと思ってんのか」

「私にとてはまだまだ不思議でも何でもないけどネ。行き過ぎた科学は魔法のような物だという事かナ」

「言ってる事はわかるがわかりたくねぇな……」

「割り切るしかないネ。仕事の方は助かたヨ。報酬は千雨サンの銀行に振りこんでおいたから確認するといいネ」

「もう報酬払ってあんのかって何で私の銀行口座知ってんだ!」

「フフ、麻帆良最強頭脳である私に不可能なことはあまりないネ。ではまた会おう」

私が何を言ても最後に判断するのは自分自身だからナ。

さて、田中サンことT-ANK-αシリーズはα2まで進化が進んだネ。
まだ微調整が必要だがこの分なら9月には完成形がロールアウトできるヨ。
8月の頭にネギ坊主に渡した携帯電話だが使う機会がないナ。
まああれは魔分を使うからどこでも通信できるという大分ありえない代物だからそう簡単には使えないのだがネ。
それにまだネギ坊主に知られるには時期が早いカ。
ネギ坊主と小太郎君がウルティマホラに出ると当面の目標としては面白いから勧めてみるカ。
明らかに年齢制限に引かかてるがなんとかするネ。

超包子の肉まんはお料理研究会の他の店でも置いてもらう事が決定したから麻帆良内で製造設備をフル稼働した生産量を無駄なく届ける事ができるようになたネ。
ロゴの方は社員さん達からの賛成を貰たから商標登録した後袋や箱に印刷を加えて浸透を図るネ。
また新店舗の計画だたが世界に広めるという事を見据えて日本の空港に店を出す方向で話が進んでいて出店は冬前にはできるヨ。
海外に出すにはまずその国の特徴を抑えないと失敗する可能性があるからその市場調査も行う必要があるナ。
宗教的にあまり気にならない国ならすぐにでも出せるとは思うが、技術漏洩の恐れがあるから治安も考えないとだめだネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

8月29日僕もあと少しでとうとう英語の教師になる日も近くなった時あのエヴァンジェリンさんから電話が来たんだ。

「ぼーや、今日は暇か」

2学期の為に準備する時間は十分あったし大丈夫だ。

「はい!今日は空いてます」

「そうか。なら私の家に来ると良い。茶々丸が迎えに行くから寮で待っていろ」

「あ、エヴァンジェリンさんは茶々丸さんと住んでいるんですよね。分かりました」

「それではまた後でな」

「はい、また後でよろしくお願いします」

エヴァンジェリンさんの家って何処にあるんだろう。
麻帆良女子中等部の皆さんは全寮制だからここにいないということは家の事情でもあるのかな。
茶々丸さんと一緒に住んでるらしいけど、クラスの名簿でまだ見ただけなんだよな……。

「ネギ、エヴァンジェリンさんから電話?」

「はい、家に招待してくれるらしいです。茶々丸さんが迎えに来てくれるのでそれまでここにいますよ」

「ネギ君エヴァンジェリンさんから気に入られたんやね~」

「エヴァンジェリンさんが招待するなんて珍しい事もあるのね」

「えっそうなんですか」

「エヴァンジェリンさんは大学院を卒業してるんやけど何故かうちらと同じ中等部にいるんよ。そやからあんまりうちらとは仲良うないんよ」

なんで大学院まで出てるのに中学生やってるんだろう……。

「でもこの前の学園祭の時は凄く一生懸命着付けを指導してくれて良い人だったわ」

「あの時は厳しかったけどお陰でしっかり着れるようになったんやわ。あの時着た着物良かったな~」

「私達のお金じゃちょっと買えない物だったよね」

やっぱり二人も同じようなイメージなのか。

「おはようございます」

「あ、相坂さんかな」

「朝から失礼します、ネギ先生、茶々丸さんが寮の前に待ってますよ。それでこの手紙を読んで来て欲しいそうです。また読んだら手紙は返して下さいと言ってましたよ」

「もう迎えに来たんか。アスナみたいに足はやいんやね」

アスナさんの足の速さは新聞配達に一度付き合ったけど魔力で身体強化してるのと同じぐらいだったから麻帆良って凄い人ばかりみたい。
箒で空を飛んだりしたら駄目と学園長先生に言われているからこの一月近くは身体強化以外にほとんど使ってないや。
あ、でも使う暇がないぐらい忙しかったのもあるかな……。
日本語の習得にはアスナさん達に隠れて基本魔法を使ったけど2学期に間に合わないよりはいいよね。

「秘密の手紙なんて怪しいわね」

「駄目ですよ神楽坂さん。女性のプライバジーは守らないといけません。エヴァンジェリンさんは私達よりも年上なんですし。はいこれをどうぞ」

「ちょっと言ってみただけだって」

「ありがとうございます」

ん……何故か魔力の痕跡があるな……。
えっサウザンドマスターの事が知りたければ杖を持って来いってあるけど、どういう事だ。

「あ、相坂さんエヴァンジェリンさんはどんな人だと思いますか」

「ネギ先生、焦らなくても大丈夫です。手紙の通りにすればきっと良い事がありますよ」

相坂さんは嘘を言うような人じゃないし……、よし行ってみよう。

「ちょっとネギ君様子おかしいけど大丈夫なん」

「手紙を貰ったくらいで動揺してはいけませんよ。この夏でネギ先生は身も心も成長したじゃないですか」

「は、はい!このかさん、僕は大丈夫です」

そうだ、この夏コタロー君と一緒に頑張ったんだ。
そのお陰で一人でちゃんと寝れるようになったし前より身体も強くなったんだ。

「それではまた会いましょう、ネギ先生」

そのまま相坂さんは出て行った。

「相坂さんも英語が話せたのもあるけどこんなにネギの面倒を見るとは思わなかったわ……」

「そやなぁ、いつも超包子で肉まん売ったり違う時は学校が終わったらすぐに寮に篭ったりしてたもんなぁ」

「体調が悪いのかと思えば去年はウルティマホラで凄いところまで行ったし少しよく分からないわよね」

「そのウルティマホラって何ですか」

「ウルティマホラ言うんは10月にある格闘大会の事や。去年うちのクラスでは超さん、くーちゃん、相坂さんが出たんよ。くーちゃんは去年2位やったんやけど、今年は1位になるだろうって皆言っとるよ」

「面白そうですね!でもくーふぇさんより強い人なんているんですね。小太郎君もまだ勝てないのに」

「その人は去年で麻帆良から出て就職していったんよ」

やっぱり此処は凄いな。

「そうだったんですか」

「ってネギその長いだけの杖持ってくの?」

「えっ駄目ですか」

「べ、別に駄目じゃないわよ。気をつけてね」

「では行ってきますね、アスナさん、このかさん」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

茶々丸さんに手紙を渡してマスターの家に参りましょうと言われたけどマスターってエヴァンジェリンさんの事かな。

「茶々丸さん、エヴァンジェリンさんって魔法使いなんですか」

「私からは申し上げられませんが道端でその言葉はよく有りませんよネギ先生」

あ、そうだった……。

「す、すいません」

「着きましたよ。このログハウスがマスターの家です」

「ここがエヴァンジェリンさんの家かー」

「マスター、ネギ先生をお連れしました」

「茶々丸、ご苦労だったな。我が家へようこそ、ぼーや」

「おはようございます、エヴァンジェリンさん。お邪魔します」

「日本語が上手くなったようだな、それにすぐに質問してこないで落ち着いているのも良い。では本題に入るか。手紙にはサウザンドマスターの事を知りたければと書いたから約束通り話そう。話せることにも限りがあるが聞きたい事を言ってみると良い」

「と、父さんとはいつ出会ったんですか」

「もう15年以上前になる。私が崖から落ちたときに助けられた」

「父さんはやっぱり良い魔法使いなんですね」

「……それは一概には言えないな。確かに助けてくれたがその後私をこの麻帆良に封印する呪いをかけた」

「えっ父さんがそんな事する筈がありません!」

「ぼーやはサウザンドマスターを詳しくしらないんだろう。奴がそうした理由は私が光の福音だというのもあるが、突然学校に通ってみろと言い出してな。いきなり罠に嵌められてこの地にいる」

「光の福音……って何ですか?」

「ハハハ、そうか、ぼーやは何も知らないんだな。私は14年前までは600万ドルの賞金首だったんだよ」

し、信じられない……。

「……エヴァンジェリンさんは悪い人なんですか」

「悪いというのも色々あると思うが、人を殺したことがあるかという事か。それなら私はあるよ。それも随分沢山な……」

「殺したくなかったのに殺したように聞こえるんですけど……」

「ぼーや、短い間に成長したようだな。初めて見た時はただの子供かと思ったが正直怖がって逃げ出すかと思ったぞ」

「エヴァンジェリンさんに初めて会って合気柔術を教えて貰って、厳しいけど優しい人だなって思ったんです」

「私が優しい……か」

「アスナさんやこのかさんもエヴァンジェリンさんは良い人だって言ってましたよ」

「フッ……この地にいる間に随分丸くなってしまったものだ。これも最近言ったばかりだが。……さっきの質問だがぼーやの言ってる事は合っている。ただ一人目だけは自分の意思で殺したがな」

「そ、その一人目の人はエヴァンジェリンさんに酷い事をしたんですか」

「……こんな事をぼーやに話すのはどうかと思うがまあいいだろう昔話と思って聞くと良い。600年ほど前その一人目の男は私を真祖の吸血鬼にする呪いをかけたんだよ。その時私は10歳だった。後は吸血鬼という理由だけで追われる日々という訳だ」

「そんな……どうしてそんな酷いことを……」

「さあ、ただ単に開発した魔法を試したかっただけだろう」

「それだけの理由で、ですか……。そ……それで今も吸血鬼なんですか、全くそういう感じがしないですけど」

「ああ、今は違うものになった。それはぼーやの色違いみたいな幽霊にやって貰ったんだがな。そのお陰で昔はその呪いでイライラする事も多かったが今は気分がかなり落ち着いている」

「違う物ってなんですか」

「それは教えられない。ぼーやが頑張ればもしかしたらその幽霊が会いに来るかもしれんが」

「頑張るって……。その幽霊ってどんな幽霊なんですか」

「どんな、と言われれば変なやつだな。私の数倍長生きだが、普段はずっと引き篭っているような奴だ」

「確かに変な幽霊ですね。そんなに長生きなのに成仏しないのも変です……」

「ハハハ、まあそうだろうな。それで頑張るというのはぼーやが強くなりたいか、という事だよ」

「ぼ、僕はサウザンドマスターのような魔法使いになりたいんです!」

「ぼーやが目指すのはサウザンドマスターなのか。それを越えてみたいとは思わないのか」

「僕が父さんを越える……。それは越えられるなら越えたいですけど、まだくーふぇさんや小太郎君にも勝てないので……」

「ハハハハ、とんだ欲張りだな。まだ一ヶ月もしていないのに勝とうと思っているのか。あいつらがどれだけ今まで鍛錬を積んでいると思っているんだ」

「そ、そうですね……。くーふぇさん達に失礼な事を言ってしましました」

「ぼーやは今が見えていない。もうすぐ学校が始まるが、秋にはウルティマホラもある。ぼーやも出てみればいいじゃないか。丁度ライバルもいるんだろう」

「は、はい!そうですね、頑張ります!」

「それはそうとして、私はぼーやに魔法を教えるつもりがあるが受けてみる気はあるか」

「ほ、本当ですか!や、やります!僕に魔法を教えてください!」

「その為に杖を持ってこさせたんだがな。私の指導は厳しいぞ、それでもいいんだな」

「はい!厳しくても必ずやり遂げてみせます!」

「その言葉を忘れるなよ。なら条件がある、まず弟子入りするなら私の事はマスターと呼べ。次にウルティマホラの為の鍛錬では魔力で身体強化をするのは禁止だ。地力でなんとかしろ。ずっとそれに頼っているとちゃんと身体が強くならない」

「はい、分かりました!マスター!」

「それでは今から修行場に連れていってやる。杖を持って付いて来い」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なんか……物凄く優しい。
あんなに過去について話すなんて思わなかったが一時の気の迷いかもしれないし、そうでなくても知られたからどうということもないか。
まあパターンがネギ少年から頼むんじゃなくて誘ってるわけだから当然といえば当然かも知れないが……。

《サヨ、手紙を配達した後の木乃香お嬢さん達の会話ですが、面倒見がいいとは意外で、しかも普段は超包子か引きこもってるかのイメージが強いらしいですね》

《あーもううるさいですよ》

《気にすることないネ。人に対する印象なんて一人一人違うのだからナ》

《お前たち、いつもそういう会話してるのか……》

《あれ、キノ、エヴェンジェリンさんにも繋いでるんですか》

《あ、間違えました、オフにしてませんでした、すいません。というか変な奴とかネギ少年の色違いとかどこの2Pカラーですか》

《翆坊主、ネギ坊主の2Pカラーとは全くその通りじゃないカ》

《まさに脇役って感じですよね》

《うるさいから黙ってろ、接続を切るぞ。大体他人の会話を聞いてるんじゃない!》

《まあ見守るのが仕事なので。脇役というかまあもういいです。実際今までに精霊として話した人間の人数って未だに10人なんですよね……》

《5002年も生きているのにたった10人とは寂しいものだネ》

《一人当たり500年に一回って凄いですね》

その計算全く意味ないから。

《それに人間じゃないのが多いんじゃないカ。私は火星人、さよは元幽霊、エヴァンジェリンは元真祖の吸血鬼、従者二人は人形とガイノイドだろう》

地球系火星人じゃなかったのか。

《凄いイロモノ揃いですね》

《その発言龍宮神社のお嬢さんに言って撃たれると良いですよ。あのお嬢さんは勘が良さそうですし》

《……嫌なトラウマ思い出させないでください。あれで大分毟り取られたんですから》

《翆坊主、最近火星の様子を聞いていないが調子はどうなんだ。海はできたカ》

ああ、丁度4月から5ヶ月近く経ってるか。

《酸素の組成は順調に増加し10%を記録しました。平均気温も上昇してようやく0度を越えたり下がったりしてますので場所によっては地下水が観測できてます。まあまだ出たら死にますけど。粒子結晶の散布状況も良好ですが、マントル対流がまだ完璧に稼働していないので正確な地磁気の状態は測りかねます》

《来年にはなんとかなりそうですね》

《テラフォーミングに関しては問題ないでしょう》

《私がコツコツ精製しているのも意味があるようだネ》

《今火星の軌道上に打ち上げている映像は凄く綺麗ですからまた渡しますね》

《おお、頼むネ》

《超鈴音、強制認識魔法って麻帆良以外の11箇所の魔分溜りを利用するんでしたっけ》

《ああ、火星から持てきた資料だとそうだヨ。でもあれは世界にあまねく認識させるのを早めるための補助的な役割だネ》

《あの勝手に溜まった魔分って逆に引き出せませんか。もしもの時の為に手段は色々あった方が良いんですが》

《ふむ、出力上昇の為のブースターにしたいのか》

《火星と魔法世界の同調の際に結局地球からも出力補助を行うことになるでしょうから使えるものは何でも使おうかと。大体魔分溜りって淀んでるというか、人間には利用価値がありますがあまり綺麗な物ではないですし、私としては使ってもいいかなと》

《それはゲートが使えなくなるんじゃないカ》

《終わったら意図的に供給すればいいだけですよ。あくまでも一時的なものです》

《それならいいカ。一から調べる必要がなくて大分楽だからなんとかなると思うヨ。また新しい仕事だナ》

《次から次へとありがとうございます》

《まあいいヨ。色々対価も貰てるからネ》

《ところでエヴァンジェリンお嬢さんが基本魔法の本質を解明したらしいんですけど超鈴音はどうですか》

《私は普段から魔法を使う訳ではないからネ。アーティファクトの補助で大体実現できるから微妙な所だナ。まあ魔力フィールドもとよりエヴァンジェリンの断罪の剣は基本魔法で実現できるぐらいには理解してるヨ》

完成したのかあの物騒な物。

《それって殆ど分かってるって事じゃないですか》

《魔法を本格的に使い始めて1年程度で600年の研鑽を積んだ魔法使いと同等等と言うのは流石におこがましいからネ。アーティファクトの効果で理解というよりも予め知っているという状態に近いからやはりズルだヨ》

《鈴音さん、あの剣足からも出せるようになったんですか》

《足から出すと手が覚束ないからネ。不可能ではないが練習時間が不足してるヨ。慣れるまでにもう少し時間がかかるネ》

《時間加速空間を使わないでそれだけできれば十分ですよ》

《翆坊主は時間の流れを変える魔法球がそんなに嫌いなのカ》

《使い方次第ですけど、人生を消費するという対価を払っているとはいえ周りの人を置いていくようなのはあまり良い気はしません》

《なんとも人間臭い精霊だネ》

《それは褒め言葉と受け取っておきますよ》

《しかし、翆坊主にとての良い使い方とは何ネ》

《例えば放射能で汚染された土地を切り離して濃度が薄れるまで加速なんて良いと思いませんか。まあ精霊の私がやることではないですけど》

《確かにそれは魔法でないと難しいし合理的な使い方だネ。でも既にネギ坊主がエヴァンジェリンの別荘に入っている気がするがいいのカ》

《うーん、1年以内なら許容範囲内にしておきたいですかね。後はネギ少年が魔法を普通に練習できる用に普通の魔法球を贈呈すると良いかもしれませんが》

《私から渡す訳には行かないがエヴァンジェリンを経由して渡せばありカ。しかしアレは凄く高いからネ》

《鈴音さんのはいくらしたんですか》

《億だたヨ》

億って……。

《前はなかなか高かったって言ってましたけど……それはちょっと……プレゼントできないですね。しかしそれを買った超鈴音は流石ですね》

《便利というのもあるが必要だたからネ。出してない技術を始めとして特に魔分粒子結晶等を世間に公表できれば寝てるだけで回収できるネ》

《あの結晶ってそんなに凄いんですか》

《さよ、宇宙にあれ程安全に出れるものはなかなか無いヨ。地上でも遮蔽物質として普及すれば万一事故が起きても被害を防げる確率が現状とは比較する必要も無いぐらいネ。しかも魔法さえあれば割とあちこち材料は必要だが意外と簡単に作れるというのもポイントが高いナ》

《確か今雪広グループに払ってるのは輸送費が多いんでしたっけ》

《そうだヨ。それが大半と言ても良いネ。もしこれで金とかプラチナが必要だたら匙を投げていたヨ》

《重力魔法でダイヤモンドでも作成したらいいんじゃないですか。使い手も殆どいないですし》

《翆坊主、それはなかなかズルい案だナ。炭素だけでできるんだから悪くないネ。フフフ……》

《鈴音さん、なんか黒いですよ!》

《まあやり過ぎると命の危険に関わりますし、市場価格が暴落しますから気をつけて下さい》

《うむ、実際工作機械用にあると便利だから作成を試みるヨ。最初はまた圧力の問題になるナ》

なんというかそういう方向に主に魔法を使うから超鈴音は落ち着く。



[21907] 16話 2学期の始まり
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/02 20:11
いよいよ9月になり2学期が始まりました。

皆すでにわかっていますがネギ先生が教育実習生という形で私達のクラスの担任になるんです。
神楽坂さんは高畑先生が担任から外れるということにショックを受けているのは言うまでもありません。
隣の朝倉さんはこの夏ネギ先生が言葉が通じないのを知って英会話を勉強するという事をしていたそうですが、結局ネギ先生は8月の末には発音も完璧な状態でマスターしていたのでその事実を知って

「こ、この夏休みもっと違う事をしていればもっと良いネタが手に入ったかもしれないのに……」

と微妙に燃え尽きています。
2-Aでネギ先生の事を知らない人は殆どいないので鳴滝姉妹が罠を仕掛けるという事もありません。
さんぽ部という名前に似合わずハードに麻帆良を見て回ったようなので先生というよりは友達という感覚が強くなっていて開口一番「ネギ君おはよー」と言うだろうと思いますが……。

とガラガラという音を立て教室のドアが空いたところでネギ先生と源先生が入ってきました。

「今日から2-Aの担任を受け持つ事になりましたネギ・スプリングフィールドです。担当教科は英語です。皆さんこれからよろしくお願いします」

落ち着いて自己紹介ができていますね。
私が去年皆の前で行った事故紹介とは似て非なる物です。
皆日本語うまくなったねーとかネギ先生頑張ってーと歓迎ムードが広がっています。
ネギ先生の目の前の席のいいんちょさんの目がキラキラ光ってて心配になりますが……。

その後の英語の授業も準備はできているようで教え方もなかなかだと思います。
原因は夏休みに神楽坂さんの宿題を手伝ったりしていたという情報を得ていますが、恐らくそれで間違いありません。
それでも私語が飛び交ったりするのはいつもの2-Aならではの光景ですね。

心配なのは8月の末にネギ先生がエヴァンジェリンさんの家に招かれてから3日連続で通っているという情報が、既に皆に浸透していていつ誰かが尾行を始めてもおかしくないという事です。
キノ達としては仮にそうなったとしたらそれで良いという静観の構えを貫くようです。
魔法の秘匿義務を破ればオコジョ刑というなんとも間の抜けた刑罰も魔法世界が火星と同調してしまえばいずれ無意味な事になるはずです。
正直その後の事後処理が最大の障害となるのでしょうが。

《鈴音さん、そういえばネギ先生と小太郎君のウルティマホラ出場の手配ってどうするんですか。学園祭と違って独自の大会でもないし、そんなに簡単に特別ルールを認められませんよね》

《確かにそう言われるとそうだナ。魔法と気に関してはウルティマホラでは身体強化にしか使えないから諦めて貰た方が楽と言えば楽だネ》

《でもそういうからに超鈴音には何か策があるんですよね》

《今までのウルティマホラと言ても私は去年が始めてだたが、予選と優勝者決定までを一日で一気に終わらせるというのは忙しないと思たネ。今回はその辺りを改善するための費用をこちらで負担しようと思ているんだヨ》

《つまり複数日に分けて龍宮神社を借りるのを口実にという事ですか》

《3日間に分けるついでに一緒にルールも少し変えてしまて、できるだけ自然にするつもりだヨ。例えば小学生の部を先に開催して上位三名は任意で中・高・大生の部にも参加できる等とすればいいだろう》

《確かにそれなら許容範囲内ですね》

《親御さん達も子供の勇姿を見たいって思うでしょうし良いかもしれないですね》

《初等部となればそこまで参加者も期待できないから10月12日の土曜日一日で済ませて、13日に予選、14日体育の日に本選にすれば良いネ。麻帆良の人は結構タフだから13日に予選でも文句は言わないだろう。それに疲労回復を促進する施設でも用意すれば良いネ。更に今回中・高・大それぞれで本選の枠を完璧に決めてしまえば学校単位での競技と被らない工夫もしやすくなるからネ》

《随分熱心ですね。まほら武道会の予行演習という所ですか》

《そういう事だネ。段取りもあるし、裏表関係なくまほら武道会を開くかどうかの実力を観るのにも使えるから結構重要だヨ》

《ネギ先生達の為だけに動くのではないあたり抜かりはないですね。ところでその疲労回復ですが龍宮神社の南門付近の魔分溜りでも利用したらどうですか》

《ふむ、特製疲労回復飲料を東洋医学で作ても良いのだがそちらも研究になりそうだナ。期間は短いが良いだろう》

《流石私達の鈴音さんはパーフェクトですね》

《フフ、麻帆良最強頭脳を名乗るからにはそれぐらい当然ネ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

火星の様子も順調であるのでネギ少年を見守ると称して、観測し続けるのが最近の流行りである。

《ぼーや、この通信方法は念話と違うんだがまだ付いてこられるか》

《は、はい、まだなんとか大丈夫です。マスターは頭が痛くならないんですか》

《私は魔法世界でも幻想種に分類される生物のようなものだからな、全く問題ない。これに付いてこられるようになれば、思考速度が格段に上がる上、呪文詠唱も普通では認識不可能な速度でも行うことが可能になるから頑張るんだな》

一部精霊化していただけあってあっと言う間に粒子通信に慣れたお嬢さんだったが情報開示が早いな。

《ほ、本当ですか!頑張りますマスター!あれ……でもそんなに凄いのにどうして父さんの罠に……?》

《詳しいことは言えないが、この方法を会得したのは私も最近なんだよ》

《そんな簡単に僕に教えていいんですか》

《私が口を動かして会話するより楽なのもあるが、これは現実の時間で長時間話せるようなものだから長くなりがちな魔法の理論講義にうってつけで、実際に魔法を発動させた後に利用すればその場で改善点を指摘する事もできる。頭を使うのが得意なぼーやには向いているだろう。これ自体で魔法の扱いがうまくなるわけではないから今の活用法は学習効率を高めるといったところだな。この先ぼーやがどう利用するかは好きにすればいいさ》

単純に自分が楽だという事ですね。
ネギ少年にとってはある意味ただでさえ1時間が24時間の空間で更に時間を極大化させているようなものだから地獄の特訓にしか思えないのだが……。
まあ、習得できてしまえば通信はできないものの思考限定の擬似時間停止みたいなものになるから強力な武器になるのは間違いないか。

《分かりましたマスター!》

少年をだしに近衛門とお嬢さんの謎のバトルという裏事情があるが、純粋さが失われるのはもう少し先でいいと思う。

《ああ、ただこれを習得してもウルティマホラでは使うなよ。あの大会は同じ土俵で戦う事に意味があるからな》

《はい、そうですね。ズルしてるみたいで良くないですよね。あ、でもウルティマホラは13歳以上じゃないと駄目だって聞きました》

魔法球使ってる時点でズルいけどね!

《その辺りはなんとかなるから練習に専念しておけ。しかしぼーやが覚えている戦闘に使える魔法が魔法の射手、風花武装解除、風精召喚、眠りの霧、風花風塵乱舞、雷の暴風だけとはやはり魔法学校というのはあまり身を守る為の手段を考えていないな》

《僕が魔法学校で覚えたのは戦闘用の魔法は魔法の射手だけで、他の魔法は学校の書庫に潜り込んで覚えました》

《魔法の射手だけだと。それ以外は独学という事か……まあ私も独学だが、ここには収集した魔法書やスクロールもあるからぼーや向けのを選んでやるよ》

既に覚えてるからどうでもいいというのもあるのかもしれないが凄い太っ腹だな。

《わー、マスターありがとうございます!こっちに来る前に古代語の魔法も禁書庫に入って覚えようと思ってたけど時間が無かったんです!》

あっさり禁書指定の区域に入るつもりだったのか。
その辺りの常識が吹き飛んでる気がするが……。

《興味があるなら古代語の魔法も教えてやるよ。ただぼーやは基本魔法の適正が一番高い。そのため前人未到の領域に自力で辿りつけるかもしれんから面倒な古代語魔法はいらないかもしれんがな》

《えっ、マスター、基本魔法って戦闘で戦力として使えるんですか。そんなこと聞いたことないですよ》

《今のぼーやが知るのはまだまだ早い。この会話法を会得できればある程度掴めるかもしれん。頑張ることだ。そろそろ頭も辛いだろう。今日は術式の効率化と精神力の増加をやるからな》

《はい、大分痛い……です》

超鈴音でさえ痛みが治って慣れるのに大分時間がかかったから当分は筋肉痛でけでなく頭痛も追加される訳だ。
この後魔力が底を付くまで魔法の射手を打ち続け、その度に修正を受けるという地道な訓練が続いた。
しかし吸血鬼ではないから授業料として血を吸う訳でもなく、まさかただで教える訳ないだろうし何を要求するのだろうと思っていたらこれだ。

「ところでぼーやが私に払える魔法の授業料は何がある」

「僕がマスターに払う授業料ですか。……教師として貰えるお金ぐらいしかないですね……」

「ほう、でも金が無くなっては困ることもあるだろう。こうしよう、私がぼーやに魔法を教える代わり、私は何と言われようと学校を好きなときに休み早退もするというのはどうだ」

……仮にも教師に不登校を要求するとは。
まあお嬢さんに今更中学とか全く意味ないの分かってますけどね。
というかそんな金銭換算しにくいものを授業料にするなんてどう価値評価するんだろうか。

「ぼ、僕はマスターの担任です!しっかり学校には来てください、お願いします!」

「ぼーや、そんなに私に会いたいのか!それなら毎日ここに来ればいいだろう、何なら寂しい夜一緒に添い寝してやってもいいぞ」

「えっど、どどどうしてその事知ってるんですか!」

「ハハハハ、なんだ図星かぼーや、恥ずかしがらなくてもいいぞ」

……堂々巡りが始まったのだった。
なんとなく司書殿に発言が似てきている気がするが大丈夫だろうか……。
因みに神楽坂明日菜のベッドに潜り混んでいた件は、暇なときに超鈴音たちから聞いていたらしい。
プライバシーがどうとか私が言えた義理ではないのでどうでもいい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

毎日ネギ坊主は早朝に武術の練習をしたり、学校が終われば長いだけの杖を持ってエヴァンジェリンの家に行き、授業中には頻繁に頭を押さえるものだからそろそろ、2-Aの皆が後を付けるのも時間の問題だろうナ。
正直我慢できそうにないあやかサンとなんだかんだ興味津々な明日菜サンが一番危ないネ。
仮契約なんてことはしないだろうから無駄にバレる事もないだろうがネギ坊主はボケボケしてるところがあるからナ。

9月も半ば、田中サンもT-ANK-α3までできたところで完成したヨ。
田中サンは秘密的にも面倒な魔力炉を入れる訳にはいかないから全部電気で動くネ。
充電は専用のポッドに立てば自動的に行われるようにしているから手間要らずだヨ。
早速女子寮に持ていて配備するネ!

「まず今回は始めてだから15体配備するヨ!」

工学部のお兄さん達は女子寮に来れただけで喜んでるからとても助かるネ。
コンテナから続々起動して降りてくるのはまさに映画のようだナ。

「ブッ、超!なんだよその怖いロボットは!」

おお、今お帰りのちうサンじゃないか。

「千雨サン、怖く無いと意味ないだろう。これは最近女子寮をうろつく不埒な輩を撃退するためのものなのだから可愛かたら逆に持ていかれてしまうネ」

「別に可愛くしろなんて言ってねーよ!ここに住んでる奴らが怖がるだろ!」

「そうでもないようだヨ。あちらを見ると良いネ」


「何このロボット、映画みたーい。何、寮守ってくれるの。頑張ってねー」

「ねーあのロボット話せるの?」

「うん、警備頑張りますとか言ってたわよ」

「男子中等部の奴らより絶対頼りになるね」


隊列を組んでザッザッザと歩いていく田中サンは壮観だナ。

「千雨サン、感想貰えるか」

「なんで私が悪いみたいになるんだよ……」

「元気だすネ。銀行の口座見たらそんなの吹き飛ぶ筈ヨ!」

「ってそうだ!脅迫じみてたからやった仕事だったがなんだよあの謝礼は!0の桁が多すぎだろ!なんでサラリーマンの平均年収超えてんだ!怖くて銀行から下ろせなくなっただろ!」

「まあまあ落ち着くネ。ハッキリ言てあのプログラムを破れる人類は麻帆良にはいないから当然の対価だヨ。ちゃんと源泉徴収もしてあるからそのうち紙が届くし安心するネ」

「そういう処理の事を言ってるんじゃねーよ!最初は表示のエラーかと思ったのに銀行員に聞いたら正規の手続はされてるだとかそういうのを求めてるんじゃないんだよ!」

「ほら、カルシウム入りの肉まんを用意してあるから食べるといいネ」

「お前はネコ型ロボットか!」

いつの間にかクウネルサンの癖が感染してる気がするナ……。
因みに千雨サンの作たプログラムに少し手を加えた物はギリギリオーバーテクノジーでは無いから外部に出しても問題ないので雪広グループに試算してもらたのだがまたおかしな額になてね、パソコンのOSを作てる小さなソフト会社の日本支部に持ち込んで提供する方向で決またヨ。
千雨サンの謝礼に大分払たように思うかもしれないが、微々たるものネ。
交渉条件に超包子の支店をアメリカのワシントン州に出す便宜を雪広グループと共同でしてくれる事になたがそんな事お安い御用という感じだたネ。
フフ、アメリカのファストフード業界を甘く見るなというつもりなのだろうが、こちらは安い、美味いを完璧に実現しているから勝機はあるネ。
雪広グループも世界的に広がているが、本拠地は日本だしあまり一つに肩入れしすぎると危ないからナ。
こんな所で足踏みするようでは世界を肉まんで征服なんてできはしないヨ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

一方平行してウルティマホラの準備を進めてもいるネ。

「龍宮サン、神社の娘サンとして交渉したい事があるのだがいいカ」

「超か、巫女のバイトでもやりたいのか」

生憎これ以上属性を増やすつもりはないヨ。

「ウルティマホラの開催期間を3日に伸ばそうと思ていてネ。神社の使用料はこちらで負担するからその約束を取り付けたいと思てナ」

「誰の差金かは知らないがあの子の為に頑張るものだな」

「これは私の意思だヨ。来年形骸化したまほら武道会を学園祭でもう一度復活させるための予行演習のつもりネ。ネギ坊主に関係がないというのは嘘になるけどネ」

「まほら武道会か。確かに私も親からその話は聞かされた事があるが今とは比べるまでもないらしいな。良いだろう、私も協力させてもらうとするよ。できるだけ報酬は弾んでくれると助かる」

「報酬に関しては確実に満足できる額を用意できるから期待して欲しいネ。協力感謝するヨ」

次は実行委員会だネ。
体育祭の実行委員会は麻帆良祭実行委員会の一部組織と中・高・大の大規模な運動系の部活に有力な格闘団体の上層部を加えて構成されているからどちらかというと血の気が多いのが問題だが、深く考えない人達だからいつもより良い条件でウルティマホラができると言えば分かてくれるはずネ。
まあ古の名前でも出せばなんとかなるヨ。

「中国武術研究会の超鈴音だがお邪魔するネ。今日は話があて来たヨ」

「おう!古菲と一緒の嬢ちゃんじゃねぇか。最近テレビで名前も出てたが話って何だ。俺たちには科学とかそういうのはわかんねぇぞ」

「別に科学の話をするつもりは無いヨ。ウルティマホラを3日間にする交渉をしに来たネ」

「み、3日間だと!?どうやってそんなスケジュール合わせるんだ。龍宮神社を借りる費用も審判員を用意するのも一日ならなんとかできるがよ」

「落ち着いて話を聞いて欲しいネ。まずはこの肉まんでも皆で食べるといいヨ」

「おお、嬢ちゃんとこの超包子の肉まんじゃねぇか。しかし相変わらずうめぇな」

これだけ豪快に食べてもらえれば肉まんも本望だナ。

「龍宮神社を借りる費用に関しては私のクラスに神社の娘サンがいるから話を付けてもらうことにしたから解決するヨ。審判員については三日に分けることで人数を少なく済ませられるようになるから大丈夫ネ。スケジュール管理は麻帆良祭のエキスパート達で協力するから任せて欲しいネ。三日でやるから今まで一発で終わていた予選でも時間が取れるようになるし、本選を翌日にすれば疲れも取れるから悪くない提案だと思うがどうかナ。この際運の要素の強くなるトーナメントも予選ぐらいは総当り戦にしても良いのではないカ」

「流石超鈴音さんですね、今日は会議だと来てみれば今年の体育祭は少々大変ですがやりがいのあるものになりそうではないですか」

「麻帆良祭の実行委員長じゃねぇか。今この嬢ちゃんの話聞いてたが、俺たちはこれができるっていうなら賛成だぜ」

「委員長サン、お邪魔してるネ。賛成してくれるようだが良いのカ」

「我々としても麻帆良祭はあれだけ盛り上がるのが外部の人間も来るからとはいえ、体育祭だって盛り上げたいと思うのは道理です」

「ふむ、賛成してくれると期待していたがこうも歓迎されるとは助かるネ。一つ、3日間とは言たが初日に小学生の部を開催したいと思てるのだが了承して貰えないかナ。そこで決定した上位三人はウルティマホラの中学生の部にエントリーする権利を与えて欲しいネ」

「小学生の部?どうしてまたそんな事をしたいなんて言い出すんだ。大人の部に参加しても怪我するだけだろう」

「中国武術研究会に良く殴りこみを掛けてくる小学生がいてね、これがかなり強いんだヨ。特別ルールで入れるというのも不可能では無いと思うができるだけ正規の手続を踏みたくてネ。それに面倒なだけと思うかもしれないが、全寮制ではない初等部の親御さん達を呼びつつ各道場の宣伝をするいい機会にもなると思わないカ」

「本音はその小学生を出してあげたいという事で建前の方はついでですか。分かりやすくて良いですね。実際道場の宣伝になるのは間違いないと思いますよ、会長さんはどうですか」

「その小学生ってのはあれだろ、今年の冬頃に突然やってきてあちこちでやんちゃしてるコタローって奴の事か。俺たちは強い奴が参加してくれるんなら寧ろ盛り上がるから歓迎するぜ。伝説の三谷さんもいねぇし古菲に勝ちをストレートに譲らせるのも面白くねぇしな」

「会長サンも小太郎君の事を知てるのカ。どれだけこの短期間で目立つ事をやたんだろうなあの坊主は。まあどうやら賛成してくれるようだし後はスケジュールを詰めるだけだネ。委員長サン、スケジュール管理の最新ツールも用意してあるから協力するヨ」

「麻帆良最強頭脳というのは活躍の場を選ばない元気な女子中学生なんですね。いいでしょう、我々もやる気が出てきましたからね。今年は前年よりもウルティマホラだけでなく他の面でも改善を行っていきましょう」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

9月も末、朝倉さんの所属する報道部からの積極的な広報活動により今年の体育祭の大きな変更点が周知され、ウルティマホラが3日間で行われその初日は小学生の部が開催されるという事もあっという間に麻帆良に広まっていきました。
最初は3日間の体育祭にウルティマホラを完璧にはめる筈だったらしいのですが、麻帆良祭が前夜祭含めて4日間なら体育祭だって4日やってもいいだろうという事になり、最初の1日は通常の体育祭の競技をガンガン行い、2,3,4日目は中・高・大でスケジュールを組んでうまくウルティマホラを楽しめるように工夫したそうです。

ここ最近の鈴音さんは以前よりもハードな生活になっています。
なんといっても三万人以上を越える人数の学生がいる麻帆良学園の体育祭の競技のスケジュールを把握し、場所の移動距離や効率を考えて最適化する作業は、資料集めから始める必要があり大変で、たまに申請競技に漏れがあったりするなど大規模化した結果起きるアクシデント等も仕事量を増やしているそうです。
いつもの私達のように身内だけで済ませられるなら驚きの速度でそういった事務処理は終わるんですが、初の試みですし仕方ないですね。

因みに今年のウルティマホラは私は出場する予定はありません。
去年あっさり本選でやられたとはいえ、私が不健康で虚弱なイメージは既に吹き飛んでいま……まあ微妙な誤解を受けている事もあるのですがそういう訳です。

「相坂さん、あの、今日も超さんは出かけてるんですか」

「ネギ先生、鈴音さんに用ですか」

「ウルティマホラは年齢制限があると聞いていたのに急に今年規定が変更されて、その実行委員の名前に超さんが入っているのでお礼が言いたいんです。でも、休み時間中もすぐに何処かに連絡したり出て行ったりしてしまって言う機会が無くて」

《鈴音さん、ネギ先生がウルティマホラに出られるようにしてくれた事にお礼が言いたいそうです》

《ほう、ネギ坊主は礼儀正しいネ。今日はちゃんと寮に戻るからその時に時間を作るヨ》

帰ってこないで徹夜してる時もあるんですが、葉加瀬さんみたいですよね。

《ネギ先生にそう伝えておきますね》

「鈴音さん今日は寮に戻るそうなのでその時に直接言えば良いと思いますよ」

「ありがとうございます。後でお礼言いに行きますね」

「はい、また後で会いましょう、ネギ先生」

1ヶ月程度では粒子通信の反応に気付くことはできないみたいですね。
まあ反応を傍受されたという例も今のところないようですし考えても仕方がないかもしれませんが。
相変わらず頭痛を抱えているように見えるんですが鈴音さんも1ヶ月間粒子通信を続けた後完全に治るまでには更に1ヶ月弱要したのでそれぐらいは必要かもしれませんね。
頭痛のする状態でウルティマホラに臨むというのはハンデな気がしますがいずれは越えなければいけないですから頑張って欲しいですね。
小太郎君も小学生の部でウルティマホラ、3位以内に入れば大人の部で出場が出来る事が分かってから修行により身を入れているみたいで、帰りがけに超包子に寄って今日は何をしたとか肉まんを食べながら詳しく教えてくれます。
一回ぽろっと「ネギと一緒にネギの先生のとこいったら、その姉ちゃん俺が住んどるとこで凄い有名やけどめっちゃおっかなかったわ!」等と言っていたのですが、後で確認したところエヴァンジェリンさんの別荘に小太郎君も招かれたそうです。
動機はぼーやの相手としては好都合だからという事らしいです。
当然その際ネギ先生が魔法使いの試験で麻帆良に来て教師をしている事、小太郎君も呪術協会所属というのがお互い分かり更に仲良くなったそうです。
それにしてもやっぱりエヴァンジェリンさんは呪術協会で有名なんですね。
あの春から長く続いた日本文化ブームは凄かったのがよく分かります。
そういう理由もあって裏の人が誰も干渉しないのかもしれません。

古さんが二人の成長速度が前よりも更に反則気味に早いと言い始めていて、エヴァンジェリンさんの家に潜入しそうな人物がまた一人追加されました。
魔法球を使えば一時間入れば一日が二日になるので当然修行量も増えるので仕方ないですね。
心配なのは小学生の部でのウルティマホラで二人にケガをさせられる小学生が増えるのではないかという事なのですが、小学生の部では気と魔力を纏わないという事で取り決めしたらしいです。
決勝戦で二人が戦う場合はもちろん使用OKだそうです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

魔分溜りから疲労回復を促す術式を発動させるという事で超鈴音の魔法球で人体実験が行われている。

「翆坊主、これはなかなか素晴らしい実験だヨ。普通なら絶対に捕まるからネ」

何をしているかというとダメージを与えたヒューマノイドインターフェイスに怪我、疲労度その他諸々身体の調子を計測する機器をとりつけて術式の成果を見るというものなのだが……

「いくら私が痛みであるとかそういったものを全て遮断できるからといってこれほど外道な実験ができるのは精霊のお友達である超鈴音の特権みたいなものですね」

「多少の非人道的な行為も科学の発展の為にはやむなしだヨ」

魔法の発展だがな。

「まあこのまま行くと全く使い道のない数十体の素体にも日の目を見る瞬間がやってきた訳ですが、もし独立した思考を持っていたら、こんな事するために生まれたわけじゃない!って言うと思いますよ」

-魔法の射手 光の1矢!!-

ドゴッ!

「いや~うまく魔分で身体強化してくれて丁度いい怪我の具合を再現できて便利だヨ。宝の持ち腐れがこうして有効利用できて良かたナ、翆坊主」

もしもの精神論なんて聞いてないあたり流石マッドサイエンティスト。

「まあ私が魔分溜りを利用すればと言い出したことですし、何処かで本当にこんな実験やられるぐらいなら私がその対象で良いですよ。しかしポートを繋いでおいてこんな利用法があるとは盲点でした。今まで木から直接現れるというなんとも不気味な事をしていましたが魔法球に転送できるなら問題ないです」

「もうこの魔法球は世界で一番機密情報が一杯だナ」

「本当に誰かに入られたら終わりですよ」

「そこは抜かりないから安心するネ」

「こんないつの間に科学で寮の部屋の一部を広げるなんて事したんですか。下手すると迷子になりますよ」

そう、下手に一般人が入っても正しい足の踏み出し方を知らないと魔法球に辿り着けず、しばらく迷子になった後弾き出されるという空間が形成されているのだ。

「まさに無限回廊という奴だヨ。学校の怪談ではなく寮室の怪談だナ。次はアキレス健行くよヨ」

-魔法の射手 光の2矢!!-

ダンッ!

「寮の部屋が三年間同じで良かったですね」

「本当に生活には殆ど困らない都市だヨ」

「あら、ネギ少年が部屋の前に来るようですね」

「ああ、ウルティマホラ出場のお礼とか言ていたナ。律儀な事だヨ。少し出てくるがまだまだ実験する部位があるから素体の準備頼むネ」

本当に使い道がおかしい気がするが、安置所にゴロゴロさせとくよりはマシだと思っておこう。

-ピンポーン-

「おお、ネギ坊主何の用かナ。肉まん食べたいならあるヨ」

「こんばんは超さん、今日はウルティマホラに僕とコタロー君が出れるように動いてくれた事にお礼を言いに来たんです」

「ふむ、私がネギ坊主達の為に動いたというのは理由の一つなんだが礼儀正しいのは良い事だネ」

「超さん、ありがとうございます!僕教師も頑張りますけどウルティマホラもコタロー君と頑張ります!小学生の部の応援是非来てくれると嬉しいです」

「どういたしまして。ネギ坊主は先生だがウルティマホラに出場する時はスーパー小学生として頑張るといいヨ。2-Aが応援に行けるようにスケジュールを組んであるから見に行かせて貰うヨ。これはネタバレだが、小学生の部のトーナメントは東と西に小太郎君とネギ坊主が分かれるように細工しておくから頂上決戦でもするといいネ」

「ほ、本当ですか!何から何までありがとうございます!」

「小太郎君にメールするといいヨ。ほら、今日の餞別の肉まん部屋に持て帰て明日菜サン達と食べるといいネ」

「はい、頂きます!ではまた明日学校でお会いしましょう!」

「また明日なネギ坊主」



「しかしネギ少年は生き生きとしていますね」

「翆坊主や学園長がある程度お膳立てしているのもあるが、ああいうのも悪くはないと思うヨ。いきなり戦場の中に放り出されるのと比べるまでもないからネ」

「さて、その戦場の際の治療技術の発展の為にも実験を続けるとしましょうか」

「しかしやはりこうして素体を沢山置かれると不気味だナ」

「本当に傷ついたら木の中に戻せば修復できますし、遠慮しなくて大丈夫ですよ」

「この作業私もアーティファクトの効果で精神力を強化できていなかたら少し大変だたネ」

「役に立てているようで光栄です」



[21907] 17話 新生体育祭1日目
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 20:11
10月に入り、いよいよ体育祭も後一週間程で始まるかという頃とうとう痺れを切らした2-Aの女子中学生達がエヴァンジェリン邸に潜入を開始するという事態になった。
発端は古菲の「あそこに行けばなんか強くなれそーアル」というごく単純な物であったがそれをきっかけにして雪広あやか、神楽坂明日菜、それを「やめといたほうがええよ」等と言いながらついていく気が満々の孫娘、大分離れた地点にその護衛が後をつけるという尾行に尾行が付くという状況ができた。
因みに朝倉和美はヤバすぎるのでサヨが不自然な流れ満載ながら「朝倉さん!体育祭の広報で超包子の宣伝を掲載して欲しいんです!」とある程度意味ある動機で何処かへ連れ去っていった。
他の面々は運動部系に関しては大会なども近いので先の一人を除いて参加する事はなかった。

そして、ネギ少年と小太郎君が家に入った後、茶々丸姉さんが買い物に行くのを見計らって四人が無断で家に入ろうとしたところ、突然突風が吹いたと思えば孫娘は護衛に何処かに連れ去られたのだった。
脱落者1名。
詠春殿の意思を尊重して妨害したのは彼の部下として良くやったと評価したい。
連れ去る瞬間に対象を眠らせる陰陽術を放ったのは良い仕事であるが、露骨に悲しそうな顔と嬉しそうな顔を繰り返すのはどうかと思う。
孫娘の魔法バレは呪術協会支部があるため防ぐのは当然の流れであり、もし護衛が動かなくても誰かしらが処理したのは間違いないが。

孫娘がいなくなった残りの3人は

「このかさん気がついたらいませんけどどうされたのかしら」

「このかならやめたほうが良いって言ってたから帰ったんじゃないかな」

もう少し不自然だと思おうか、と言いたい。

因みにチャチャゼロはどうしたのかというと魔法球の中で暴れているので家の中はもぬけのからとなっている。
何故姉さんと呼んでいないのかと言われても、あんな身の危険を感じる相手に姉さんだなんて呼ぶのは流石にありえない。

「ネギ坊主とコタローが入ったのにいないアルな」

「ま、まさかエヴァンジェリンさんがネギ先生と隠れてとんでもないことをしているかもしれませんわ!」

「落ち着きなさいよ、いいんちょ。ちゃんと探せばいるわよ」

不法侵入と家探しとは恐れいった。
雪広あやかがこんな事をするのは仮にも財閥の令嬢としておかしい気がしないでもないが既に目がおかしいのでどうしようもない。

ネギ少年達が魔法球に入ってから10分程経過してから3人はとうとう念願の魔法球を発見した。
加速空間内での進行時間は既に4時間である。

「何アルかこの水晶玉みたいなものは」

「中身の造形がとても細かいですわね。一体どうなっているのかしら。ってあら!」

「いいんちょいきなり消えてどこ行ったのよ!」

「いいんちょが消えたアル。きっとこの水晶玉に何かアルよ。アスナも調べるよ」

まさかの雪広あやかが2-Aで魔法球に一番乗りである。

「な、ななな、何ですのこれは!手すりもないこんな場所に出てくるだなんて。アスナさん達もいませんし……。はっここにネギ先生の匂いがしますわ!」

どういうセンサー。
もう本来最初にバレる相手すら異なるとはなんということなのか……。
最高にテンションの上がった状態で手すりの無い渡りを走り、ネギ少年達が修行している屋上に突撃していった。

遅れて魔法球に古菲と神楽坂明日菜が突入したのは魔法球内時間でおよそ10分後、現実時間で大体30秒という所である。

「ネ、ネギ先生それにエヴァンジェリンさんここで一体何を!何ですかその光っているのは!」

「あ、あやかさん!」

「なんでここにあやか姉ちゃんがおるんや」

「ケケケ、侵入者ダゼ御主人。殺ッチマッテイイノカ」

「やめろチャチャゼロ、あれはただの迷子だ。一体茶々丸は……そうか買い物に行っていたか。委員長、1人で来たのか」

「い、いえ私とアスナさん、くーふぇさんで来ましたわ」

「いつかついてくるかとは思っていたがなんだその人選は……。それで委員長はどうしたいんだ。悪いがここに一度入ると出るのに丸1日かかるぞ」

「あぁ……一体どうなっているんでしょう。ま、まずはネギ先生とコタローさんと一緒に何をしていたのか聞いてもよろしいですか」

「ぼーや達、もう4時間以上経っているから一度休憩していいぞ。今日はもう組み手だけだな。私はぼーや達がウルティマホラで頑張れるように教育しているんだよ」

「隠れて個人指導だなんて、私もやらせて頂きますわ!」

「おいぼーや達、委員長に普通の組み手でも見せてやれ」

実演したら付いていけない領域なのがわかるだろうな……。
お嬢さんの合気柔術も達人レベルだから雪広あやかにできる事というのはあまりない。

「な……なんですかこの動きは!?」

「見ての通り委員長では付いていくのがやっとという状態だろう。出来る事と言ったらぼーや達のけがの手当ぐらいか」

「それなら私が是非やらせて頂きます!」

「そうか。委員長に二人は頼むとしよう。ぼーやは休憩しながら授業だからな」

「はい!マスター!」

「あやか姉ちゃん入ってこんならもっと修行できた言うのに。まあええわ。喉渇いたし」

「委員長、先に言っておくがさっき見たという光について他人に言ったらぼーやはイギリスに帰る事になるかもしれんから気をつけるんだな」

「それはどういうことですか?」

「そういう暗黙の決まりがあるんだよ。ぼーやがここで先生をしているのもその一環だ」

「分かりましたわ。お父様が隠しているのと同じような事ですわね」

「まあ入ってきたのが物分りの良い委員長で良かったよ。チャチャゼロ、後数分で入ってくる迷子が人いるから武器を置いて奥に案内してやれ」

「タダノ迷子ハツマンネェナ」

それから数分して、現実で数十秒だが、観測するのがややこしい、残り二名が到着である。

「ヤット来タナ。迷子二人到着ダナ。付イテ来イヨ」

「え、ちょっとあんた誰よ」

「小さい人形がしゃべってるアル」

「説明スルノハ面倒ダ。付イテ来ナイト置イテクゼ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「うーん、まだ慣れないなぁ……」

「個人差があるから慣れるまで頑張るんだな」

「ネギ先生の頭が痛そうなのはエヴァンジェリンさんのせいなんですか!」

「頭が痛くなるのは副作用にすぎんよ。それを越えるだけの授業はしてるつもりだからな」

「あやかさん、心配しなくて大丈夫です。まだ時間はかかるかもしれませんがそのうち痛くなくなります」

「授業と言ってもさっきから殆ど時間は経っていませんわよ」

「あやか姉ちゃん、それは俺も良く分からんから気にすんなや」

「コタローさんには聞いてません」

「なんやてー!」

「暴れるなら外でやってくれ……」

「ケケケ、御主人迷子ヲ連レテ来タゼ」

「神楽坂明日菜に古菲か。よくも他人の家に勝手に上がり込んだものだな」

「そ、それはごめんなさい」

「ごめんなさいアル」

「お前たちここに入って来たからには後丸1日経たないと出られんからな」

「ちょっとそれどういうこと。1日経ったら明日学校サボる事になっちゃうじゃない」

「アスナ姉ちゃん、ここは外での1時間が1日になっとるから大丈夫や」

「それは先程私も聞かされましたがネギ先生が数時間でいつも寮に戻られますから多分正しいと思いますわ」

「そういう事だ。まあここで1日ゆっくりしていくんだな。丁度古菲もいるからぼーやと小太郎の相手でもしてれば良いだろう」

「ここの1日が外での1時間アルか。最近坊主達の成長が早いのはそれが理由だたアルか」

「マスター、なんで僕はぼーやなのにコタロー君は名前で呼ぶんですか」

「ぼーやはまだまだぼーやだからだ。小太郎は私がぼーやの相手の為に呼んだからな。それだけだよ」

「俺はエヴァンジェリンの姉ちゃんに弟子入りしとる訳やないって事やな」

「分かりました。1人前になれるように頑張ります!」

「ちょっとネギ、1時間が1日っていうのも信じられないけどマスターとか弟子って何よ」

「僕がエヴァンジェリンさんに弟子入りしているのでマスターと呼んでいるんです」

「何の弟子なのよ……」

「当面はウルティマホラに向けての教師というところだな。もう一度説明するのは面倒だな。委員長説明頼んだ」

「分かりましたわ。アスナさん、ここはエヴァンジェリンさんの家なんですからもう少し落ち着きなさい」

その後、深入りするとネギ少年が面倒な事になるという事が簡単に説明された。

「要するにここの事を他人に話したりするとネギがイギリスに帰らないといけなくなるから言うなって言いたいのね」

「言いふらしても構わんが、その時は神楽坂明日菜の良心がその程度だったという事だ」

「分かったわよ!ここの事言わなきゃいいんでしょ。それぐらいできるわよ」

「私も口固いから安心するアルね」

「嘘言うなや、くー姉ちゃん口軽すぎるから心配やわ」

「私嘘つかないアル!そこまで言うならコタロ勝負するアルよ」

「おお、ええで!ここならいつもと違うてぎょうさん修行できるからな」

「……お前たちやるなら下の砂浜でやってこい。近くでやられたらうるさくて休憩にならないからな」

「分かったで。くー姉ちゃん付いてきいや!」

「修行付けてやるアルね!」

バタバタと螺旋階段を降りていくが元気な事だ。

「行ったか……。ぼーやはそうだな、この本でも読んでると良い」

「何それ英語の本?」

「アスナさん、これはラテン語の本です」

「あんた英語と日本語も話せるのにそんな本まで読めるの……」

「アスナさんはもう少し勉強をした方がよろしくてよ」

「うるさいわよいいんちょ!」

「なんですって、本当の事を言っただけでしょう!」

「お前たちも外に出てるか」

「「失礼しました……」」

と、こうして魔法球はバレたものの魔法自体がバレる事はありそうでなかったそうな。
ただ、テスト前に神楽坂明日菜がここを使いたいと言い出して却下されていたのは当然である。
使わせてくれなければここの事バラすわよ等と一瞬のたまったが、白い目で見られて小さくなっていた。
古菲はウルティマホラまで魔法球を使うことを許されたようで、後1週間程は魔法の訓練は一旦停止して武術に専念するようである。
ネギ少年の扱う武術であるが、中国武術が主でありながらも、合気柔術が混ざったりと、まあよくうまく組み合わせられるものだと思う。
因みにネギ少年がウルティマホラで着る道着は雪広あやかが用意する事が勝手に決まった。
小太郎君は学ランが戦闘服だそうでそこは譲れないらしい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、インターフェイスで実験を重ねてデータを得た魔分溜りを利用した疲労回復魔法の研究であったが、結局疲労どころか外傷、火傷、打撲など色々試してウルティマホラで怪しまれない程度の出力を出すことを可能にする術式の調整が完了した。
また、この研究で魔力溜りから魔分を引き出す方法に関してもある程度の見地が得られたようで、火星と魔法世界の同調の際に役立つらしい。

超鈴音と葉加瀬聡美が配備した田中さん軍団であるが、夜中にずっと警備を行っている事もあって表の人間がのこのこ近づいてくる事は殆どなくなった。
その事実を知らない侵入者が無謀にも潜入しようとしたところまさに命を賭けた鬼ごっこのようなものが展開され1人が必死に逃げ惑うのを、5人の目が赤く発光する田中さんが両腕をギュンギュン振って集団で追い回すのは不気味だった。
わざわざ全力で捕まえずに恐怖心を与えてからトドメを刺すあたりどういったプログラムにしているのか疑問であるが、下手人は当然お縄にかかってさようならである。
正体はどこかに属している訳でもない単独で情報を盗んで売るタイプのスパイだったそうだ。

実は田中さんは警備だけをプログラムされているのではなく、寮の食堂に届く食材を運んだり、重いものを持ち帰ってきた場合に頼めば部屋まで運んでくれたりととても紳士的なロボットであった。
流石に茶々丸姉さんのように猫に餌をやったりするような人間性は備えていないが。
その為、噂が他の寮にも広がりうちにも欲しいと工学部に依頼が入るようになり田中さん程怖くない鈴木さんシリーズや佐藤さんシリーズも作るかどうかと超鈴音と葉加瀬聡美はマッド化しているようだ。
当然鈴木さんにしろ佐藤さんにしろ仮名であるが間違いなく正式名称になると思われる。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そしてようやく10月11日、初の4日間の体育祭の始まりです。
要項が発表された時に皆で驚いたのですが、種目が増えていました。
当然年齢制限や一定の要件などを満たしていないと出場できないのですが、水泳が室内プールが使用になり解禁、麻帆良湖でのボート競技、絶対に一部の人しか出ないであろう重量挙げと砲丸投げ、三段跳び、棒高跳び等が追加になっているんです。
今までは体育祭というイメージで構成されていた筈なんですが、既にウルティマホラという格闘系競技がある為、どちらかというとオリンピックに近くなってきていて、「実行委員会やりすぎだろ……」と長谷川さんの嘆きが聞こえました。
ちゃっかり棒高跳びと三段跳びに出場が決定している楓さんは忍んで下さい。
そんな初日である今日は水陸系個人種目と個人、団体球技がメインの日となります。

「皆さん今日から四日間体育祭なので怪我をしたり体調を崩さないように気をつけてください。水分の摂取も欠かさないようにしましょう」

「ネギ先生もウルティマホラ頑張ってねー!」

「是非私達の応援にも来て下さい!」

と朝早くから元気なのですが残念ながらネギ先生は教師という事もあって、常に私達の応援に来られる訳ではないです。
でもウルティマホラの出場は学園長先生達の配慮があったようでそこは問題ないそうで良かったですね。
種目が多くなったからと言って沢山の種目に出れるようになったとは一概には言えないので、移動をテキパキしさえすればあちこちを見て回る事ができるようになっています。
何故か移動用に突然飛行しだす小型の建物があるのですがどうやら超鈴音さんと工学部の仕業のようです。
既成概念なんてものは打ち壊すべしと体育祭の面影を失いつつありますが、綱引きとかリレーとか騎馬戦やったりするのを応援するというイベントはしっかり3日目に残っているので安心しました。
2-Aは皆相変わらずです!
今年は短距離走は春日さん、長距離走を神楽坂さんが爆走。
体育祭らしさを残している二人三脚は今年は鳴滝姉妹が出ましたがさんぽ部で1年の間に鍛えられすぎて優勝。
その師匠の楓さんは先のちゃっかり申請してたでござる競技で人外の記録を弾きだしました。
大体助走をつけなくても異様な跳躍力で棒高跳すら棒を必要としないレベルなのはもうメダルが取れます。
新たに追加された競泳では早速大河内さんが惜しくも1位を逃し2位でしたがこういうのが普通だと思います。
話題になった砲丸投げを試しに皆で見に行ってみたんですが、流石に異色すぎてすぐに帰りたくなりました。
巨人のような身体の大さの人達がズラリと勢揃いしていて、どの辺が小学生も楽しめる体育祭になっているのか異議を申し立てたいと思います。

団体球技は午後に始まるので皆でお昼を食べに行く事になり、さて何処へ行くかという所でやはり超包子となりました。
今回超包子で私も古さんも茶々丸さんも五月さんも働かなくていいという事で聞いていました。
その理由は8号店までが体育祭に出店されているからであり、その従業員は学園祭でもお世話になった雪広グループのお姉さん達とお料理研究会の競技そっちのけの大学生さん達でした。
もう運動していつもよりお腹が空いた人が3万人以上なので売れに売れているのは間違いないです。
鈴音さんとしてはこの体育祭にかかった費用を回収しようという発想なのでしょうが順調に征服が進んでいます。
席は一切空きそうになかったので大量生産している肉まんを皆で大量に買って学園祭の後夜祭が行われる草原の広場で皆で食べる事になりました。
丁度午後から私が参加する団体球技のソフトボールの会場にもなっているので都合が良いです。
他にも参加できる球技はあったんですが、なんといってもズルをするとボールが投げられた瞬間に軌道を計算し思いっきり振り抜けばホームランが狙えそうなので一度やってみたかったんです。
まあソフトボールと言っても9回の裏までやることは無く30分の試合時間でその間に交代が行われるのは何度でも構わなく表に入ったら必ず裏には入るというルールになっています。
交代要員を入れて10人まで参加できるソフトボールですが2-Aからは私、綾瀬さん、神楽坂さん、茶々丸さん、近衛さん、早乙女さん、桜咲さん、長谷川さん、エヴァンジェリンさん、宮崎さん、という図書館探険部のメンバーの占める割合が多い構成です。
多分長谷川さんとエヴァンジェリンさんが参加してる動機は他の球技に比べると楽そうだったからと言い出しそうなのであまり深く考えないことにします。
長谷川さんはこのメンバーで忍者と中国人がいなくて良かった……と安心していますが私と神楽坂さん、茶々丸さんあたりは自重しない筈なので2-Aで安心できる場所なんてありませんよ。
確かに楓さんがいると打ち上げられたボールを空中に飛び上がってキャッチしそうなので相手側がげんなりしないのは良いかも知れません。

「2-A対2-Jの試合を始めます両クラス共に礼!」

「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」

さあ記念すべき初戦の開幕です。

「みんなー後攻になったわ。エヴァンジェリンさんピッチャーお願いね」

神楽坂さんが一応キャプテンとなっていて、このメンバーだと正しい人選だと思います。

「ああ分かった。茶々丸はキャッチャーを頼む」

「はい、マスター」

エヴァンジェリンさんの顔は涼しげですがどうやら全力で投げるようです。
因みに女子中学生の試合でありながらウインドミル投法が認められています。

ブンッ! バンッ!

「マスター、良い球です。この調子でどうぞ」

バシッっていう音なら分かるんですけどミットに入った音どう聞いても銃弾ですよね……。
完全にバッターの子が怯えてるのであっさり三振です。

ブンッ! パァンッ!

9回投げたらチェンジです。

「エヴァンジェリンさん凄ーい!初回から三者凡退なんて絶好調じゃない!」

「こんなものだとあっけないな。次は神楽坂明日菜が投げたらどうだ」

「よーし次は私に任せて、このかキャッチャーやってくれる?」

「ええよ、アスナ」

長谷川さんの身体が震えていますがまた例の異常を見ると寒気がするという奴でしょうか。

「長谷川さん、大丈夫ですよ。落ち着いてください」

「心配しないで大丈夫です、相坂さん」

鈴音さんから聞いているのとはやはり態度が違いますが、学校では大人しくしているんですよね……。

「相坂さん一番バッターよ!」

「はい!分かりました!」

やってきました、打順は出席番号順という芸の無い並びですが最初にランニングホームランで決めます!

相手のピッチャーが投げた!

《軌道計算開始、到達座標計算完了》

振り抜くッ

ドゴッ

え、今凄い変な音が……。
まあ……いいです。
凄く良く飛んだのが確認できたので後は走り抜くだけです!

皆歓声を上げて喜んでます!

1塁…2塁…3塁…振り返ってみても全然余裕ですね。ホーム!

「ランニングホームラン達成です!」

一度やってみたかったんですよね。

「相坂さんも凄いんやね!」

「凄いです相坂さん」

「もう一点目が入るなんてこの試合勝ったわ!」

「ありがとうございます。皆も頑張って下さい!」

《相坂さよ、少しやりすぎじゃないか》

《あはは……エヴァンジェリンさんもピッチャーやりすぎだと思いますよ》

《というか一度やってみたかったというのは分かりますけど無駄に木の演算機能使うのはどうかと思いますよ》

《さよ、何したか大体分かるがズルは良くないネ》

《分かってますよ。キノの言うとおり一度やってみたかっただけですから、次からは普通にやるので安心してください》

《私もピッチャーで少し本気を出したらこれだからな、神楽坂明日菜に譲ったよ》

《エヴァンジェリンお嬢さん、それは多分大して結果変わらないと思いますよ》

私もそこは間違いないと思います。

その後は綾瀬さんが打ち上げてしまいアウト。
それでも長谷川さんまで回って交代となりましたが、何の戦略性もないのに4点普通に取れたあたりやはり2-Aはズバ抜けています。

2回目の表は予想通り神楽坂さんが豪速球を投げ三振を連発で交代、大量得点の繰り返しで圧勝でした。

順調に準決勝にまで進出し試合も終わりという時

「エヴァ!ピッチャー頑張って!」

「エヴァちゃん相変わらず可愛い!」

と、信じられないぐらい親しい呼び方をする集団が現れどんな人達かと思ったら超包子で働いている社員さんの一部と知らないお姉さんの集まりでした。
私はサードを担当していてエヴァンジェリンさんの顔が見えたんですが、凄く嬉しそうな顔をしていて驚きました。
あっという間に6回投げて人をアウトにして試合終了でした。

「応援来てくれてありがとう。この前美幸達に会ったのは学園祭振りだな」

「エヴァの勇姿が見れるならどこにでも現れるに決まってるじゃない」

「ちゃんと録画してるからね後で家に送るから」

「ねぇ、久しぶりに抱きついても良い?」

「ああいいぞ、学園祭の時は着物が崩れるといけなかったからな」

「それでは失礼して……う~ん、この感触はやっぱり忘れられないな」

「それにしても雪広グループに就職していたと聞いてたが何故超包子で働いてるんだ」

「それはね……超ちゃんっていう子が本社に大分前来てそこから超包子のブランド化を進めたいっていう計画を頼まれて私達がそれに参加することになったのよ」

鈴音さん、世界は狭いですね。
どうやらエヴァンジェリンさんと12年近く同期だった人達のようです。

「超鈴音か、今私と同じクラスだよ」

「えーそれ本当なの!世の中意外と狭いもんね」

「超ちゃんはソフトボールじゃないのね」

「確かバスケットボールだったと思う」

「まあいいわ。優勝したら皆でまた記念写真取ろうね」

「まだ優勝と決まった訳ではないぞ」

「さっきエヴァの2-Aのスコア確認したけど圧倒的なんだから優勝確実でしょ」

「……それもそうだな」

「皆さん!応援来ましたよ!」

あ……これは火に油を注ぐ事態になります。
ネギ先生が炎上ですよ!!

「キャー!エヴァちゃんこの男の子誰なの!弟!?」

「わっ、す、すいません放して下さい!」

私達が反応する前に高速でネギ先生を確保したお姉さん達恐るべし。

「弟じゃなくてそのぼーやは2-Aの担任だよ」

「じゃあこの子が噂の子供先生なのね!」

「超ちゃんから聞いてたけど相変わらず変な学校よね。子どもでも先生できるんだから」

鈴音さん、超包子企画部でどんな会話してるんですか。

「あら、暴れちゃだめよ坊や」

「お、降ろしてください!」

ネギ先生、助けられなくてごめんなさい。

「あれ、そっちにいるのさよちゃんじゃない」

やっと私に気づいたみたいですね。

「こんにちは、西川さん超包子で今日は私達働けなくてすいません」

「体育祭なんだから中学生はしっかり運動してればいいのよ。私達も今日だけで随分稼いだから仕事として当然ね」

「ありがとうございます。それでそろそろネギ先生を降ろして上げた方がいいと思いますよ。周りの人達も皆見てるみたいですし」

「あらそうね。美幸、ネギ君降ろして上げなよ。ほら、恥ずかしがってるから」

「えーいいじゃない別に。次いつ会えるか分からないのよ」

「美幸ばっかりずるいぞ、ほれ、こっちにも回しなさいな」

流石にこの状況には神楽坂さんも唖然として手出しできないとは思わぬ強敵がいたものです。
早乙女さんの目が怪しく光ってるんですが何か創作のインスピレーションでも湧いたのでしょうか。
長谷川さんが凄く嫌そうな顔でその早乙女さん見てますけど……。
宮崎さんが顔を赤くしてますがそういえばネギ先生が好きみたいですね。

この後この賑やかな空間が収拾したのは次の試合が始まるから移動して欲しいと係の人達から言われてからでした。
決勝戦もネギ先生はお姉さん達にガッチリ捕まえられた状態で応援してくれることになり、私達もなんとなく恥ずかしくなったので本気で相手チームと試合してしまい凄くスカッとする圧勝っぷりでした。
生きてるっていうのはこういう時を右手を握り締めて実感できる瞬間だと思います。
お姉さん達の言うとおり優勝したので皆で写真を撮り続け、ネギ先生がエヴァンジェリンさんをマスターなんて呼ぶものだからまた炎上したりして大変でしたが楽しかったですね。
すぐ後に鈴音さん達のバスケットボールのグループも到着して去年より1日早いですが打ち上げを超包子を貸切でやりました。
どうやらバスケットボールの方も圧勝だったみたいです。
クラスの31人に更にネギ先生、お姉さん達を合わせて50人近くなりましたが何処からともなく朝倉さんが本格的カメラを用意して皆で写真をもう一度撮りました。
最初は体育祭の面影が失せつつありどうかと思いましたがとても良い1日目の体育祭になったと思います。



[21907] 18話 ウルティマホラ
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 20:17
昨日の一日早い打ち上げには雪広の社員サン達も加わったがエヴァンジェリンの同期のお姉サン達だという所までは知らなかたネ。
流石にあの場で商売の話をあまりするのは良くないから一日の売上だけ聞いておいたが、いつもの激安価格設定で1000万に達したのだから上々だナ。
恐らく四日で4000万越えにはなると思うが原価が結構占めてるから今回あちこちに支払った費用を少し回収できた程度に過ぎないネ。
まあ肉まんは世界征服の手段の一つと考えれば超包子自体で赤字にならなければそれでいいヨ。

「実行委員長サン、初日の運営と反応はどうただかナ」

「今まで使えなかった施設を開放して種目数が増えて人を分散させる事ができましたし、あの飛行機能付きの建物のお陰で端から端までの緊急輸送も助かりました。反応としては体育祭らしさがなくなったという声と大学の部活系からはマイナー競技も申請許可に感謝しているという声が来ていますね。前者については三日目で解決しますからおおむねこの一ヶ月苦労した結果が実ったと思います」

「急な変化には反発する声もあて当然ネ。私自信も昨日は体育祭を楽しめたし良かたヨ。今日はいよいよウルティマホラ小学生の部だが仕込みの方は要望通りしてもらえたかナ」

「噂の子供先生と会長さんすら知っているという小学生の東と西への配置、大人の部出場の場合の予選参加グループの分散ですね。心配しないで大丈夫です、超さんと古さんとその二人はバラバラですから当たるとするなら本選になります。またその本選すらも今回は東西南北の四つになっていますから抜かりはありません」

「職権乱用の気がするが感謝するヨ。予選よりもやはり本選というちゃんとした舞台でのほうが緊張感が出るからネ。古もあの子達もそういう場所の方が本気が出せるヨ」

結局中・高・大それぞれで枠を決める事は決定したが、前年までと同じくそれぞれを更に4つのグループに分割して枠を争うというのは引き継いだから都合が良かたネ。
予選でも当たておきながら本選でもまた当たるというのは一度きりという稀少性が失われるからナ。
予選が総当り戦だから互いにどこまで白星を作れるかで競えそうだが結果は手加減でもしない限り中学生同士なら負けはしないカ。
本選の枠も東西南北で24づつに増やして去年のベスト8からベスト16まで決定させるから総試合数も67から107まで40試合も増やせたのは苦労の賜物だネ。

「これだけ費用を負担して貰いましたしそれぐらいお安い御用ですよ。こちらとしてもその方がウルティマホラが盛り上がりますしね。トトカルチョも我々が全て一括管理させてもらうというのも運営資金の足しになりますから十分な対価も得られますから」

「毎年勝手なトトカルチョを開く人達がいるぐらいだから正式に電光掲示板で一括管理した方が観客側でのいざこざも減るだろうからナ」

「血の気が多いのはいつもの事ですね。下手な人達がトトカルチョを行なおうとすると例年金銭トラブルになりますからね」

「この交渉を生活指導委員会と行た時は負担が減るから助かると言われた時は拍子抜けだたネ」

「トトカルチョがどこでも行われる風潮はもう麻帆良では今更ですからね」

「うむ、ところで疲労回復施設を龍宮神社の南門の場所に設置させてもらたが説明は行き届いているかナ」

「また不思議な装置ですねあれは。あの場所にいるだけで疲れが取れたり身体の痛みが引くというのは驚きましたよ。お陰でここ連日の肩こりやら寝不足が解消されて助かりました。選手の誘導のパターンは完璧ですから任せてください」

一応それらしい機器を置いてあるが実際には全く意味が無いのだけどネ。
魔分溜りを使用するという事については予め学園長に伝えておいたから私がまた魔法先生達から不審な目で見られたりということはそこまで無いとは思うが、一部の頑固な人達は仕方ないナ。

「それを聞いて安心したネ。私は純粋にウルティマホラを楽しませてもらうとするヨ」

「今年は古菲さんとの勝算はいかがですか」

「古は去年よりも更に強くなているからナ。全力でぶつかり合えればそれでいいヨ。坊主達にはまだまだ負ける気は無いがネ」

「彼女に追いついていけるだけでも我々としては驚きですよ」

「そろそろ今日のメインが始まるし私は行かせてもらうネ。朝のホームルームも昨日も今日も出ていないからナ」

「実行委員会に名を連ねているのですからホームルームに出ない事ぐらい当然でしょう」

「まさに役得だネ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「楓姉、そろそろネギ先生達の小学生の部始まるよね」

「そうでござるな。さよ殿予定はどうなっているでござるかな」

「午後からですけどもう始まってますね。選手の保護者は客席に優先で入れるそうですけど小太郎君は楓さんが保護者になってるんですよね」

「よく知っているでござるな。山での修行の時に頼まれたのでござるよ。そういうネギ坊主は誰が保護者かな」

「いいんちょさんです。保護者制度が発表された瞬間に申請しに行ってましたからね。なんだかんだ神楽坂さんと争って獲得したらしいです」

神楽坂さんが姉として主張したところそれなら私は母親でも構いませんわ!と親権まで主張し始めたので神楽坂さんがこれは付いていけないという状況になり折れたんですがね。

「そうであったか。いいんちょは相変わらずでござるな」

「さよー、私達は一緒に入れないの。早くいかないと終わっちゃうよ!」

小太郎君とネギ先生なら負けませんから安心してください。

「任せてください!2―Aで見たい人は特等席とは言いませんがその用意がありますから」

「わーい!」

鳴滝姉妹は本当に小学生にしか見えませんね……。

「それにしても楓さんは今年もウルティマホラ出場しないんですか」

「そういうさよ殿も今年は出ていないでござらぬか」

「私は去年出て満足していますから。これは私の予言みたいなものですけど、来年は楓さんも実力を出せる大会が開かれると思いますから楽しみにしてくださいね」

「ほう、それは良い予言でござるな。コタローの師匠としての見せ場も欲しかったでござるからな」

「さんぽ部っていつのまに忍術学校になったんですか」

「拙者は忍者ではござらんよ。ニンニン」

「僕とふみかは甲賀忍軍なんだよ!」

隠す気全く無いでしょ!
……まあオープン過ぎて逆に信じてない人が多いんですけど。

気を取りなおしていいんちょさんを除いた皆で龍宮神社の会場に向かいました。
着いてみると鈴音さん達から聞いていたとおり南門にあからさまな休憩室がありますがどう見てもお爺さんお婆さんも席に座ってるんですけどなんですかこれ。

「お爺さん、ここで休んどると気分が楽になるのう」

「婆さんもリウマチが良くなるとええの」

…………いいんですかこれで。

実際キノと鈴音さんの絶対に外部には知られたら駄目な実験のお陰で痛みであるとかピンポイントに良くなるそうなので利用してもらえる分には役に立っているとは思うんですがね。
小学生の部なので温かい空間ということで放っておきましょう。
明日からは巨人みたいな人達が座ると思うと激変に着いていけません……。
去年の生理的に立ちふさがった相手の人達を思い出しそうです……。

っていうか鈴音さんと朝倉さんが司会やってるんですか!
どうりで今日見かけないと思ったら……「やあよく来たね」みたいな反応して軽くスルーしようとしてますし。
小学生の部で集まったのは大体100人ぐらいだったようですが一度に四試合ずつ進めていたので大分試合は消化されてますね。

「「ネギ先生!応援に来たよ!」」

「あ、皆さん来てくれてありがとうございます!」

「あら皆さん遅いですわね」

いいんちょさんはネギ先生が絡むと色々スイッチを入れるの控えた方がいいですよ……。

「いいんちょが早すぎんのよ……」

「最初の方の試合は俺達にとっては大したことあらへんから丁度良いと思うで」

「コタローも順調のようでござるな」

「俺の本命はネギとの真剣勝負と明日からの大人の部やからな」

「あー!その子がコタロー君なの!?」

そういえば小太郎君の事はクラスの全員が知ってるわけでは無かったですね。

「そうや!俺が犬上小太郎やで」

何やら普通に話しだしましたが会話で相手を選ばないタイプなので放っておいても大丈夫そうです。
この後二人が順調にトーナメントを勝ち上がって行き、その度に圧倒的な強さから皆「かっこいい!」とか「ネギ先生あんなに強かったんだね」と予想通りの反応をしてました。
まだ魔分と気を使っていないので決勝戦でどうなるかやや心配ですが。
実際相手の子供達があっけなく二回投げられてストレート勝ちというのは若干可哀想な気がしますが。
まあ手加減してるのは良いことだと思います。
何故か小太郎君が背負い投げにハマってるみたいなんですが「派手でええやん」だそうです。
まあ床が木で出来ている訳ではないですから危険な怪我には至らないと思います。

「やあ皆、担任から外れたけど元気にしてるかい」

「高畑先生!」

神楽坂さんのこの反応の早さは久しぶりですね。

「高畑先生もネギ先生を見に来たんですか」

「ああ、超君からネギ先生が出場しているから見に来たらどうかと言われてね」

鈴音さんはあちこち気が回りますね。
多分明後日の本選は混む事を予想して呼んだのだと思いますが。

「これがネギ先生の今の戦績ですよ」

「おお、全部ストレート勝ちか。ん、どうやら本命はコタロー君かな」

「その通りです。二人で真剣勝負して大人の部にも出場ということです」

「うん、良くできているね」

それはその通りですけど先生が言うのはどうなんですかね。

予想通り二人の決勝戦と相成りました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ここまで勝ち上がって来たのは今までの修行から考えれば当然だ。
いつもの会話法で頭が痛いのは乗り越えるしかないな。
まだ本気で武術で戦ってコタロー君に勝ったのは一度もないけど頑張ろう。

「よっしゃ!ネギ!やっと決勝やな!本気で行くで!」

コタロー君が気で強化したな。

「僕も今日は本気で行くよ!」

マスター達に言われて普段の修行の時は魔力で身体強化をしないでやってきたから最初はうまく身体が動かなくて大変だった。
でも今なら、強化しないで訓練した意味が分かる。
日常的に強化してた頃よりも改めて強化すると更に身体がよく動くようになったんだから。

「犬上小太郎対ネギ・スプリングフィールドの決勝戦を始めます!両者共に礼!」

「「よろしくお願いします!!」」

「試合始めッ!」

構えから一歩で接近、そのまま突きッ!

―箭疾歩!―

後ろに下がられたッ!

「ネギの得意技やからな!」

連続瞬動か!

ならこっちも!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ねー!あれ一体どういう事なの!?ネギ先生達瞬間移動してるよ!」

「ネギ坊主も箭疾歩が得意技とは八極拳の秘伝も安いものアル」

「い、いつの間にこんなにネギ先生達は強くなってるんだい」

「というかあれはルール違反に近い筈なんですが……」

一応格闘大会だから連続で瞬動するのは無しですよ、無し!
後ろ取り合って狙い撃つんじゃないんですから。
エヴァンジェリンさんもちゃんとその辺伝えてなかったみたいですね。

[[おーっと小太郎選手とネギ選手の動きが突然早くなったーッ!これはどういう事なのでしょうか!、超さん解説お願いします。]]

[[あー、小太郎選手、ネギ選手、その歩法の2回以上の連続使用はウルティマホラではルール違反とするネ。即刻やめるように。]]

「そんなん聞いてへんよ!」

「ご、ごめんなさい!」

[[審判の先生、もう一度仕切りなおし頼むネ。]]

「両者共に一度位置に戻りなさい!……試合再開ッ!」

[[解説の超さん、何故ルール違反なんでしょうか。これはなかなか見られるものではないと思いますが。]]

[[ウルティマホラは純粋な格闘大会ネ。先のような足の早さを競うのとはそもそも趣旨が違うからルール違反とすることにしたヨ。]]

去年の古さんと鈴音さんの試合でも高速で移動し続けながら戦うということはしてませんでしたからね……。
まあ打ち合い自体は高速でしたが。
単純に気や魔力を足に貯めないとできないので一般に余り知られる訳にはいかないだけなのですが。

「広域指導員の時に似たような事やってる高畑先生は意外そうな顔するのやめた方がいいですよ」

「あ、ああ、済まない相坂君。ついいつもの癖でね」

「高畑先生もあんなことできるんですか!?凄い!」

「ア、アスナ君落ち着いて」

そういえば別荘に入ったらしいですがキノの話では神楽坂さんはなんだかんだ別荘の色々な施設を堪能して過ごしたそうで修行自体を見た訳ではないらしいです。

「ぼーや達のいつもの癖が出たな」

「確かにああいう事が単純にできるだけで楽しそうだとは思います」

「ネギ坊主もコタローも腕を上げたでござるな。古はあの二人にまだ勝てるでござるか」

「仮にもあの坊主達の中国拳法の師匠アルからまだまだ負けないアルよ。超でもまだ負けないアルね」

「それでも成長速度が異常だと思いますよ」

「それは否定しないアル……」

ネギ先生の対処が冷静ですね。

「あっネギ君が一本取ったよ!すごーい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主のカウンターで転身胯打からうまく裏拳が決まったナ。

「やるやないかネギ!でもこの勝負絶対負けへんで!」

「両者位置に戻って!……第二ラウンド試合始めッ!」

しかし先の瞬動連発はどうしようかと思たヨ。
周りの小学生達の事も少し考えて上げた方がいいネ。
あまりに差がありすぎてショックを受けてる子もいるようだからナ。

小太郎君も一本取られたからかなりキツイ所に打ち込んでるネ。

[[超さん、今度は小太郎選手が優勢のようですがどうですか。]]

朝倉サンもノリノリだナ。

[[先程よりも小太郎選手の動きが鋭くなているからこのままだと判定勝ちもあり得るヨ。]]

[[なるほど、判定勝ちは今まで両選手はストレート勝ちでしたがその可能性もありますか。]]

[[小太郎選手はあちこちの道場で色々体験しているから繰り出す技が変速的で読みにくいネ。]]

[[中国拳法、柔道、空手、ボクシング、ムエタイ等々、調べた所によるとここ数ヶ月で門戸を叩いたのは数しれないようですね。]]

[[門戸を叩いたというよりは殴りこみをかけたのが正しいネ。]]

[[元気な小学生ですね。何故学ランなんでしょうか。]]

[[小太郎選手にとて学ランは戦闘服らしいヨ。]]

基本的にパンチよりも蹴り技の方が突然出てくる上威力が高いから一度見せられた上でペースを取られると消極的になりやすいナ。
ネギ坊主は蹴り技はあまり使わないから余計に意識してるようだネ。

[[どうやらこだわりもあるようですね。おおっとここで強烈な回し蹴りがネギ選手の脇腹にクリーンヒット!]]

「犬上小太郎選手!一本!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ先生が肘鉄を当てようとしたところを小太郎君が体勢を低くして回避しながら回し蹴りを放ったのが決まりましたね。

「ああ!ネギ先生がお怪我を!あの野生児は手加減というものを知らないんですから!」

「いいんちょさん落ち着いてください」

「綺麗に入ったがネギ坊主は大丈夫でござるよ」

魔分で身体強化してますからちょっとやそっとでは怪我にはなりません。

「第三ラウンド始めッ!」

「相坂君、ネギ君も夏休みに色々体験していたんだっけ」

「中国拳法、合気柔術、バイアスロン、剣道、山篭もりが主なので小太郎君よりはバリエーションは少ないですよ」

「格闘じゃないのも混ざってるんだね……。その内容からすると皆2―Aのクラス関連かな」

「はい、古さん、鈴音さん、いいんちょさん、私、エヴァンジェリンさん、龍宮さん、桜咲さん、楓さんです」

「ははは、随分豪華だね。そんなに連れ回したのは一体誰だい」

地味に不審そうな顔でこっちみるのやめて下さい。

「あー、それは私です、高畑先生。学園長先生から聞いてないんですか」

「相坂君なのか。ここ3ヶ月近く出張が多くてね。学園長とも仕事の話しかしていなかったからな」

学園長先生も高畑先生に何も知らせていないとは……。

「丁度クラスの皆に慣れる事もできて良かったと私は思います」

「……そうだね。僕もいつでも頼って良いと言っておきながら時間が取れなかったからな」

キノに言わせると一ヶ月間戦いの基礎をネギ先生に教えたのが高畑先生だそうで、自分で教えられなかったことに責任を感じているのかもしれませんね。

二人の試合の方はというと基本的に距離を取り合って両者タイミングを図るという事がなく、常にどちらかが攻撃すれば、ガードかカウンターに入るのを交互に繰り返すという状況で、未だ練度では上である小太郎君の方が優勢です。
さっきの蹴り技を受けたのが精神的に効いているらしく今一歩ネギ先生は攻め手に欠けますね。
そういえば鈴音さんも足に断罪の剣というのを出す練習をしていましたが確かに意表を突かれると厄介なのは違いないですね。

[[おっとネギ選手が小太郎選手を投げた!]]

[[まだだ、無茶な状態だが身体を捻って一本入るのを回避したヨ。]]

[[とても小学生の動きとは思えません!後1分程で試合が終了になろうとしていますが、今回も判定では小太郎選手の方が優勢でしょうか。]]

[[ヒット数からすれば小太郎選手の勝ちだナ。]]

[[ネギ選手が最後に仕掛けたッ!]]

焦ったネギ先生でしたが、それを引き出すのを待っていたかの如く小太郎君が突き出された腕をつかんでそのまま背負い投げをしました。
さっきの仕返しですがこれは回避できないでしょう。

[[綺麗な背負い投げが決またネ。]]

「一本!勝者犬上小太郎!両者共に礼ッ!」

「「ありがとうございました!」」

「ネギ!今回は俺の勝ちやな!」

「コタロー君優勝おめでとう!」

「ネギせんせーい!惜しかったよー!」

「コタロー優勝おめでとうアル!ネギ坊主は惜しかったアルな」

[[今年初めての小学生の部でしたが優勝者は犬上小太郎選手に決定しました!会場の皆様、両選手に拍手をお願いします!]]

[[犬上小太郎選手にはトロフィーの贈呈だヨ!保護者の長瀬楓さんは壇上に上がって選手に渡して欲しいネ。]]

ああ、そういうイベントなんですかこれ。

「拙者がトロフィーを渡す事になろうとは思わなかったでござるよ」

「楓姉いいなー!」

「小学生の部らしい配慮ですね」

「ネギ君がここまで強くなっていることには驚いたけどコタロー君にはまだ及ばないか」

裏で実際に戦闘している分やはり差が出ますね。

「この短期間であれだけ強くなったんですもの、次にやったらネギ先生が勝ちますわ!」

楓さんが鈴音さんからトロフィーを受け取り壇上に上がって小太郎君に授与します。

「コタロー良くやったでござるよ。優勝おめでとう」

「楓姉ちゃんおおきに!弟子としてしっかり結果を出したで!」

本来保護者は呪術協会の人がやっても良いとも思いますがそのあたりは複雑なんでしょうね。
皆拍手を続けたり歓声を挙げたりしていますが保護者の人達が多いので温かい空気広がってます。

[[上位三名までは明日から予選が行われる大人の部に参加する事ができます。手続きは受付で行って下さい。]]


「皆さん僕2位でしたけど明日からの大人の部の予選も頑張ります!」

「明日も応援に行くよネギ先生!」

小太郎君とこの場で本気で勝負できて良かったですね。
きっと大人の部から始まったならお互い決勝で会おうと言い出しそうな子達ですから。

因みに優勝者の小太郎君には超包子から食券が300枚贈呈されました。
運動してお腹がすく小太郎君には丁度良いですね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

惜しくも小太郎君に勝てなかったネギ少年だったが、頭が痛い状態というハンデがありながらあれだけ戦えただけ上出来だろう。
三日目のウルティマホラ予選はネギ少年、小太郎君、古菲、超鈴音の四人は全員バラバラのリーグに振り分けになり各々白星を重ねて見事本戦出場となったが、総当たり戦で行われるトトカルチョとはどういったものになっただろうか。

《超鈴音、トトカルチョがどっちが勝つではなくどの選手がどれだけ白星を上げるかとそのリーグから誰が本選出場するかという組み合わせを対象にするのはなかなか面白いですね》

《予選というと観客としては単純に本選までの情報集めという側面が強かたからネ。例年だと誰が勝つで終わてしまうが、総当り戦なら強くない選手がどれだけ勝てるかも賭けの対象にする事ができて観客も積極的に楽しめるようになてるからネ。胴元を実行委員会で独占して、今までに集めた詳細な事前情報で倍率も全部決めたから最終的には委員会側が儲かるように出来ているヨ》

うまい商売だことで。

《古菲と超鈴音の倍率が恐ろしく低いのはそのせいだったと》

《まさかの単純倍率1倍未満というのは皆引いてましたよ。勝利数の予想まで含めなければ1倍を越えないと分かってクラスの皆は専ら比較的倍率が高く設定されているネギ先生達に賭けてましたからね》

《フフ、当然じゃないカ。まあ私に賭けた連中は痛い目を見ただろうナ》

《最後に一度わざと負けるというアレですか。なかなか酷い作戦だったと思いますよ》

《賭けた人達は大抵何も考えずに全勝で出してたみたいですからね……》

《思わず昨日終わた後は実行委員長と会長サンで大笑したヨ。天才頭脳はえげつない等と言われたが仮にも私は委員会側の人間だからネ。一般人の期待通りの行動をする筈無いヨ》

《ネギ少年も予選を身体強化無しでやったりやらなかったりするものだから2回ほど負けてましたけど、あれもエヴァンジェリンお嬢さんの命令という名の仕込みですか》

《ネギ坊主は純粋だからネ。まあ丁度良い相手には身体強化を使わなくても良さそうだと判断したらエヴァンジェリンが指示していたようだヨ》

《そうなると複合倍率が最高で1.00倍の古菲も除外するとして唯一の良心は小太郎君だけでしたね。まあ馬鹿みたいに古菲のファンが増えもしないのに買うという暴挙に出てましたが》

《昨日の試合を見に来ていた人達しか殆ど知りませんから小太郎君は穴場でしたよ》

《途中から俺も倍率下げてくれやと言われたときは困たがネ》

《倍率が低いほうが強いと言うのを楓さんが言うものだから俺はもっと強いわ!ですからね》

《強さはかなりの物ですがその辺りがまだ子供なんでしょう》

《委員会側の認識としてはあまり日の目見なかた格闘大会の予選が総当たり戦という形式のお陰でかなり凄い盛り上がりを見せて来年も是非という事になたヨ》

《これで来年の麻帆良祭の下地も着々と、という訳ですね。ところで疲労回復の術式はかなり評判が良かったようですが》

《一昨日行った人の噂を聞きつけてやってきてたお年寄りの集団は異色でした》

《あれは私も予想外だたヨ。確かに痛みが引くから関節痛に良く効くのは間違いないからナ。仕方が無いから試合中は体調が良くなたお年寄りから順に特製疲労回復ドリンクを安く売てお帰り頂いたネ。結局試合終了後に再度現れたのには何かの執念を感じたけどネ》

《三日間自動発動ですから仕方ないですね》

《生活指導と言う名目で先生達まで試合終了後に来たのは職権を行使しているとしか言えませんね。にこにこしながら肩凝りが楽になって良かったと言ってましたけど》

盛り上がったのはウルティマホラだけでなく身体の痛みに悩む人達もという事で。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日の予選はマスターに言われて身体強化をしなかった時に負けちゃったらクラスの皆に泣かれたのは困ったな。
皆チケットを握りしめていたけど、あれがトトカルチョっていう奴なのか。
一昨日コタロー君に負けたのは悔しかったけどコタロー君が呪術協会のメンバーで麻帆良に来る前も来た後も修行してたんだからそう簡単には勝てないよね。
マスターも頭痛がある割りにはよく頑張ったって言ってくれたし、何より魔法も含めればどうなるかはわからないっていうのは自信になったな。
最近魔法の射手の効率が上がって無詠唱でも三矢までなら出せるようになったし威力と飛距離、精度も龍宮さんの所で射撃訓練したのが良かったかな。
元々僕はイギリスで射的は得意だったけど射程距離が伸びたのはこっちに来てからだ。

ウルティマホラだけじゃなくて日本の伝統的な体育祭の競技に皆が参加しているのも応援できたし、しかも学年優勝までして楽しかった!
さて、今日は本選だしホームルームもある!頑張るぞ!

「きりーつ!れーっ!」

「皆さんおはようございます!昨日の綱引きや騎馬戦は僕初めて見たので凄く楽しかったです。学年優勝もおめでとうございます!」

「ネギ先生おはよう!優勝は皆の頑張りだよ!今日の本選頑張ってね!」

「「「今日は昨日みたいにうっかり負けたりしたら駄目だよ!」」」

「ゆーな達は先生に沢山賭けてたからね……」

「だってあんだけ強かったら予選も全勝だと思うにゃー!」

「あれで私のお小遣いが……」

「皆さん元気だして下さい!今日は僕しっかり勝ち進みますから!くーふぇさんと超さんと当たったら辛いかもしれませんが頑張ります!」

「良いこと教えてあげるよ。本選もネギ君は小太郎君、くーちゃん、超りんとはベスト4まで上がらないと当たらないという確定情報が入っているのさ。情報元は実行委員会の超りん自身だけどね」

「本当ですか、朝倉さん!ありがとうございます!それで今日はもう殆ど競技もなく振替休日に近いかもしれませんが体育祭が終わるまで怪我なく過ごしてください!」

小学生の部も予選も当たらないようになってたけど超さんがそういう風にしてくれたのかな。
超さんは今日もホームルームは出てないけど色々やってて凄い人だなぁ。
超包子を経営してたり、携帯電話を作ってくれたり、寮の警備ロボットもそうだし、実行委員会にも参加してるし、あの会場の疲労回復施設では魔力の反応があったけどあれも作ったのは超さんなのかな。
でも超さんからは魔力を感じ無いしそれは無いか。

《ぼーや、今日の本選は最初から最後まで身体強化していいからな。行けるところまで行って来い》

《分かりました!マスター!》

マスターの許可も出たし頑張ろう!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日はウルティマホラの予選がとても白熱しましたが、中学生の部のウルティマホラ予選は午前中だったので午後は当然伝統的体育祭としての綱引きや玉入れ、棒倒し、騎馬戦、リレー等も行われこちらも大盛り上がりでした。
騎馬戦は前年通りエヴァンジェリンさんの無双が起こり、大学生の熱狂的集団に更に超包子グループのお姉さん達が加わりカオスでした。
大量の鉢巻を手にしてお姉さん達の方に優しく微笑かける姿を射線軸上にいて直視してしまった男性の一部はその場で倒れたので、視界が開けてよかったと思います。
綱引きは神楽坂さんがいるとただ手を添えるだけのようになり、リレーも神楽坂さんと春日さんで後は適当にして学年優勝が取れるのは2―Aのありえなさを実感する瞬間です。

私達中学生の競技はもう無いので本選のトトカルチョにまた皆が燃えています。
本選のトトカルチョのルールはどちらが勝つかだけでなく勝負の内容までが範囲になっているのでこれまた賭ける側としては面白みがあります。
ストレート勝ちになるかどうか、また任意で倍率を上げるために判定勝ちが試合に含まれるかどうかも選択できます。
はっきり言って引き続き実行委員会がボロ儲けする企画でしかないのですが、昨日とはまた違ったルールに皆興味があるみたいですね。
流石に今回は鈴音さんも酷い事をしないと思いますが、その代わり倍率がまた物凄く下がり、トーナメント最初の単純倍率は1倍未満で内容の分を賭けても丁度1倍という恐ろしさ……。
古さんの熱狂的ファンは相変わらずそんな事をものともせず買いまくってるようですが古さんに何かが還元されるわけではないのでそろそろ目を覚ましてください。

全107試合全てに付き合っていられないので結果から言えば頂上あたりで古さんと鈴音さん、また小太郎君とネギ先生があたる事になりました。
やっとこの段階になって4人の倍率がまともな水準に復活しましたが、正直勝負の内容まで当てるというのは至難ですよ……。
同時にこの二つの試合が行われる事となりましたが、ネギ先生達の方は小太郎君が全く油断しなかった為ストレート勝ちとなりました。
古さんと鈴音さんの友情熱い戦いは今回も手に汗握るものでした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

こちらに来て後2ヶ月もすれば2年が経つが当時よりも身長も伸びた私は古よりも手足の長さでもリーチがあるから有利ネ。
とは言たものの毎日長時間修行している古に比べて私は毎日必ず少しは鍛錬して時々中国武術研究会で活動するから大分差が付けられてしまたヨ。
今回もなんとか一勝一敗の状況には持ち込めているが、エヴァンジェリンの別荘で古は修行したからか気の扱いが格段に上手くなているナ。

「最近更に強くなたな!クー!」

「超こそ蹴りが強烈になたアルよ!」

どうしても火星生まれの弊害のせいで気が地球生まれの人類よりも小さいのは分かていたが、やはりこういう時軍用強化服がなければこの時代の達人とやりあうのは辛いと感じるヨ。
それでも私は今ここでこうして必死に毎日を生きているんだ!

「試合始め!」

古の腕から繰り出される打撃には常に良く練られた気が込められているからまともにあたるのは勘弁したいネッ!

ガガッガガガガッガッ!

古が踏み込みを入れて高速で打撃を出す散手を仕掛けられるとじわじわ削られるッ!

一旦後ろに引いて間合いを取りなおし蹴り主体で攻めるネッ!
アーティファクトを使っての浮遊術の状態で蹴りの訓練をかなり積んでいるからこっちならまだ勝機があるヨ!
まあ今は浮いてなどいないがナッ!

静止状態から蹴りを放っても硬気功を使って防がれるから離れた所からの踏み込みが必要だヨ!

狙いは腹当たりに飛び蹴りッ!

「ハァッ!」

両腕でガードされたが読んでるネ!
既に腕は封じているッ!

そのまま足場に利用して無理やり身体を捻り首筋に回し蹴りッ!

「フッ!」

ッ!この一瞬で身体を反らすかッ!

これは、体勢が崩れるッ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

僕は今日コタロー君にストレートで負けちゃって今まだ終わってないくーふぇさん達の試合を見てる。

「ネギ!姉ちゃん達の本気の勝負見たの久々やけどやっぱ強いな!」

「うん!次にどちらかと試合だと思うとドキドキするよ!」

「ここだけ空気がピリピリしとるで!」

超さんはいつも飄々としてるように見えるけど今は一心にくーふぇさんと戦ってる。

「おお!超姉ちゃん大胆な蹴りに出るで!」

「あっ!くーふぇさんの方が反応が早い!」

体勢を崩した状態で超さんが着地したところをくーふぇさんが身体の反りを一瞬で戻し強烈な追い打ち!

ダンッ!

「勝負有り!勝者古菲!」

「やっぱくー姉ちゃんの方が強いんか。超姉ちゃんにもまだ俺勝てへんけどこれは決勝辛いわ」

「コタロー君が超さんに勝てないなら僕も三位決定戦は辛いよ」

「ま!それでもここまで来たんやから本気ださなあかんな!」

「うん!」

「くーちゃんおめでとう!超りんお疲れ!」

「古さん、鈴音さんお疲れ様です、今年も良い試合でした!タオル使ってください」

「二人は仲良しでござるな」

「古はこの1週間で急激に強くなてるものだから困たネ」

「私はもう少し身長が欲しいアルよ」

「くーふぇさん、超さん、凄く良い試合でした!」

「姉ちゃん達研究会でやっとる時よりも真剣さが違うわ!」

「おや、ネギ坊主達は試合終わていたのカ。次はどちらと3位決定するのかナ」

「僕が超さんの次の相手です!よろしくお願いします!」

「ふむ、ネギ坊主が相手カ。今までの成果を見せてもらうとするヨ」

「くー姉ちゃんの相手は俺やで!」

「コタロには負けないから今年の優勝こそ私が頂きネ!」

「くうっ!せめてストレート勝ちにはさせへん!」

「大きく出たアルな!」

「まあまず休憩所に行くネ。三位決定も優勝決定もベスト5以下が決定されるまでは時間があるヨ」

そうか、次は超さんと試合するのか。
8月に少し相手してもらった時は型を教えてもらったりばかりだったから本気で試合するのは初めてだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

鈴音さん達が四人とも休憩所に向かいましたが、かなり倍率の高い試合が同時に2試合行われて受付は大混乱でした。

「ベスト4からトトカルチョの内容が強制で判定有りの判断なんて宝くじみたいだったねー」

実力がある程度拮抗している状態でのルール適用は実行委員会の悪意を感じます。
私は賭けてませんけど、性懲りも無くクラスの一部は賭けていましたね。

「ネギ先生達の方はまた一本づつ取るかと思ったらストレートだもん。当てるの凄く難しいよ~」

と、そこへ突然

《超鈴音、今年の試合も結果はどうあれ一生懸命思いを込めた試合ができましたか》

《そうだナ。古とは大分実力で差を付けられてしまたが私の想いは伝わた筈ネ。しかし火星生まれを恨むのは筋違いだがやはり惜しいとは思うナ》

《鈴音さん、どういう事ですか》

《翆坊主は分かているかもしれないが、私は火星生まれで地球生まれの人間よりも根本的に身体が弱く、分かりやすいのが気そのものが小さいんだヨ》

《やはりそうでしたか……。専用の服というのはその点もカバーしていた、という事ですか》

《その通りだ。強化服を装着すれば動く時に機械音がするが、こちらの達人レベルと遜色ない動きができるネ。ま、私が直接戦う必要のある機会というものはそうないだろうから気にする事でもないヨ。勝てはしないもののこうして精一杯全力を出すことはできるからネ》

《私から見ても鈴音さんは今年のウルティマホラも輝いてましたよ》

《さよ、ありがとう。まだこの後ネギ坊主の相手が残ているし、来年はまほら武道会もあるからネ》

《祖先との真剣勝負ですね》

《翆坊主があまり快く思わない魔法球まで使てどれぐらい強くなたか直接見てくるヨ》

《鈴音さん、頑張ってください》

《うむ、坊主にはまだ勝ちは譲れないヨ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

自分で用意しておいてなんだが、この疲労回復術式は少し効果を高め過ぎたかナ。
20分もするとほぼ疲れが取れるのはやりすぎたかもしれないネ。
お年寄り達がやてくるのも分かるナ。

「ネギ坊主、麻帆良の生活には慣れたカ」

「はい!8月に来た時は言葉が話せなくて大変でしたけど超さん達が英語で通訳してくれましたし、何より僕がイギリスにいた時には知らない事が一杯あって充実してます!」

「それは良かたナ。私も麻帆良に来たときは最初は大変だたが友達や、やるべき事も見つけられたからここはいい場所だヨ。月に一度ぐらいは故郷のお姉サンに手紙は送ているのカ」

「あー!!忙しくて忘れてた!」

「ネギ、どうしたんや。何か忘れものか」

「故郷に手紙を出すのを忘れていたんだ!」

「ネギ坊主、私も故郷には時々手紙は出すアルが忘れてたなら後ですぐに出すといいね」

「帰るべき場所があるならば大事にした方がいいヨ」

「そうやでネギ!帰る場所も無い奴もおんねんから!」

そういえば小太郎君も狗族とのハーフで色々あるんだたナ。

「うん!今日ウルティマホラが終わったら手紙出すよ」

「その前にそろそろネギ坊主は私と試合だヨ」

「そうですね。移動しましょう」

ネギ坊主はどれくらい強くなただろうカ。
一昨日の小学生の部で瞬動がある程度できるようになたのは分かているが連続で瞬動するのはルール違反だと分かているだろうから、初手箭疾歩に気をつけてカウンターを狙うのがいいだろうナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

スプリングフィールドの血族の先祖対子孫という状況がナギの登場を待たずしてできあがったがこの試合の結果は明らかだった。
まずネギ少年の思い切った箭疾歩が初手で繰り出されたものの超鈴音が鋭いカウンターを放ち開始早々に1本を取った。
その後もネギ少年が魔分で身体強化しているとはいえ、身体強化魔法の戦いの歌と呼ばれる状態程強くなっている訳ではないので超鈴音としても打たれても古菲程の重みは無かったようだ。
ネギ少年は一昨日小太郎君の蹴り技に翻弄されただけあって、先の戦いで見た超鈴音の蹴りをかなり警戒していたが、当然腕から繰り出される打撃もリーチがありそれどころではなかった。
超鈴音は最初様子を見ていたが、3分経過したあたりから見切りを付け猛攻、一瞬わざと手を緩めた所で攻撃を引き出し投げ技で一本を決めストレート勝ちとなった。
まあこの辺りは精進するしかないだろう。
近衛門やナギの戦闘センスは異常な面があるがそれでも最初から強かった訳ではないのだから。
ましてやイギリスで禁書庫に篭って魔法の勉強ばかりしていた少年では尚更だろう。

「大分強くなたし、型も綺麗に再現できているが根本的に戦いの経験が少ないようだネ。これでウルティマホラは終わりだが、来年の学園祭で私はある大会を開くからこれからも修行は続けるといいヨ」

「はい!超さん、ありがとうございます。僕もっともっと強くなります!」

「その意気だヨ、ネギ坊主。次は古達の決勝戦だから見に行くとしようカ」

そう言いながらコート内でネギ少年の頭を穏やかに撫でる超鈴音に周りの2―Aの中学生達はずるいだなんだと賑やかなものだった。
こうして見ると姉弟のようにも見えなくもない……か。

ネギ少年と超鈴音の試合はストレートで勝敗が決したが、その後の決勝戦も古菲という中国拳法に関して達人の前では小太郎少年も勝つことはできなかった。
狗神を使ったり気弾を放つならば話は別だがそういう試合は来年まで待つしかないだろう。
両方の少年共お姉さんには負けたがルールを守った範囲内で全力で戦ったので清々しい顔をしていたから良かっただろう。

去年優勝を合気道の仙人によって逃した古菲は見事優勝を手にし、その後更に朝の登校時間に挑む格闘家の数が増えたのは言うまでもない。
今回のウルティマホラを期に中国武術研究会の現部長は古菲にその座を譲ったのであった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

長かたようで短かた4日間の体育祭だたが、色々収穫はあたな。
まず、ウルティマホラで気の扱いに長けた人間は数人しかいなかたから来年は表裏を混ぜてまほら武道会を開く必要は無いネ。
事前にその道のルートで情報を流して極秘で開催した方が観客は少なくなるが質の高い大会が開ける筈だヨ。
それ以降のまほら武道会は翆坊主達との計画がうまく行けば大分変わて来ると思うがまだ先の話ネ。
その時はその時でまた違う事で忙しくなるだろうからナ。

トトカルチョによる収益も実行委員会からの収支報告が出たが予想以上に儲かたから今回私が負担した費用の一部も返て来たネ。
一番儲かたのが実は予選の大学生の部だたのはまあ当然といえば当然だが金があるところからはきちんと集めないとネ。
来年も是非協力をお願いすると言われたから、来年は更なる充実と、麻帆良祭での便宜を図て貰うことで交渉成立したヨ。

超包子を8号店まで稼働させたが売上高は初日に予想した通り4000万を超えたネ。
今年の学園祭で1店舗しか出さなたのが悔やまれる成果だが来年は必ずこれ以上を弾きだすヨ。
赤字にならなければ良いから通常営業もこのままやて行けるネ。

しかし一番苦労したのが疲労回復の術式の解除だたヨ……。
翆坊主達から通信を受けて明らかに魔法先生達や、魔法の全く関係ない人達も張り込んでいるという困た状況になたから私が魔法を使う訳にいかなくなり、エヴァンジェリンを呼び出して説明しながら解除してもらたヨ。
その時一緒に工学部のお兄さん達も呼んで一般人対策にカモフラージュとして置いてあっただけの機材を運びだしてもらたネ。
この時エヴァンジェリンに良くこんな微妙な出力の術式が実現できたなと言われたが口が裂けても人体実験を繰り返したなんて言えなかたからこちらの言い訳も苦労したナ……。
軽々しく翆坊主の魔分溜りを利用するという案を採用したが、メリットもあればデメリットもという感じだたネ。
実際今回の術式を科学で再現するのは時間的にも、効果的にも無理な部分があたからウルティマホラ自体にはかなり役に立たのは間違いないけどネ。

随分忙しかたが、これでまた一つ仕事が解決したナ。
この後は超包子の麻帆良外出店の計画、世界11箇所の魔分溜りをリンクさせるための研究と引き続き粒子精製、田中サンシリーズの別バージョンの制作等やることは尽きないナ。
流石に学園長がネギ坊主を襲う事には手出しする必要は無いし、用意しておくべき映像もいつでも渡せるから問題ないだろう。



[21907] 19話 冬目前の長い1日
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/02 20:13
9月の半ばから稼働させ続け今は中間テストも終わり11月初頭、田中サン達のデータが1ヶ月半以上は溜またネ。
麻帆良祭で発表した三次元映像の撮影する技術は出すタイミングがなかなか無くて困ていたが、あれから4ヶ月ぐらい経ているから世間のほとぼりも沈静化して来ているから丁度良いだろう。
田中サンは侵入者を発見すると捕獲モードに入り無意味に目が赤く光るようになているが、普段から三次元映像が撮影できる機能も実は搭載しておいたネ。
翆坊主達のように麻帆良全体を常に監視するほどの範囲が撮影できる訳ではないが、全方位半径25メートル程度の視界は三次元で確保している。
もちろん前方のみに限ればもと先まで視認はできるようにしてあるがナ。
この事を知ているのは田中サンを作たハカセと私だけで、工学部の人達には教えていないヨ。
三次元映像は犯罪の減少に役立つと同時に犯罪を増やす可能性を持つ諸刃の剣のようなものだから、きちんとしたガイドラインを作成しないと世の中にホイホイ出せるものではないネ。
撮影技術自体の完成については契約に従て雪広グループには既に話を通してあるから、あちらに利用の準備ができさえすれば開放という事になるだろうナ。
聞いた限りだと、どうやら警察機関や警備会社系の監視カメラでの使用が一番最初に導入されるようだネ。
その為には一応世間にもその使用を告知する必要があるから結局マスコミを通してすぐ情報が広がるのは間違いないが、恐らく「新時代の映像技術の光と闇」等という安易なタイトルの討論番組などで議論が始まるだろうネ。
あまり社会的善悪の事について開発者である私が首を出してもただ目立つだけだから何か要請でも無い限りは動く必要は無いナ。

それよりも、私にとての大きな進歩と言えば、冬を目前に控えて羽田空港、成田空港、関西国際空港、中部国際空港の日本の国際空港で同時に超包子の肉まんを扱て貰うことが実現した事だヨ。
雪広グループの協力のもと、各空港の近くに大規模では決してないが超包子の工場をそれぞれ建設したからターミナルのゲートのあちこちで取り扱てもらえるようになたネ。
工場が別にあるから製造技術の情報漏洩の危険性も少ないし、とにかく数を売るという超包子の趣旨には非常に適しているヨ。
今日は丁度学校も休日で一番近場の羽田空港に視察に来ているヨ。

「鈴音さん、やっと麻帆良の外にも直に超包子の肉まんを進出させられましたね」

「いよいよだヨ。いきなり空港からスタートとというのはかなり良い。空港を利用するビジネスマン達が帰りがけにでも買て行てくれれば国内外の各地の茶の間にお届けできるからネ」

「私は超包子の味を再現した肉まんがこうしてあちこちに届けられるのは嬉しい反面、自分で直に料理していないので少し寂しいです」

「五月の気持ちも分かるが、元の味は去年の麻帆良祭から出店したあの超包子の物には変わりはない。今まで育ててきた超包子は麻帆良だけに留まらず外へと飛び出していくに値すると私は思うネ。ここで買てくれる人達は安くてとても美味しい肉まんと喜ぶだけもかもしれないが、私達の想いが詰また肉まんである事に疑いの余地はないヨ」

「そう……ですね。私は料理人ですからこれからも超包子の味を更に良くするために精進します。それで私の知らない何処かで誰かが美味しいと言って笑顔になってくれる助けにならばと頑張りますね」

「五月の味を越える味を出せるのは五月しかいないヨ。まだ学生でもあるから先の話だが、社会人になた時五月が自分の店を出す時にどうするかは私が口出しする領分ではないが、今しばらくよろしく頼むネ」

「こちらこそよろしくお願いします、超さん」

「話がついたところで超ちゃん達、せっかくだから記念に肉まんここで食べていきましょうよ」

「そうですね。西川さん、私買って来ますね」

「悪いわね、さよちゃん、よろしく頼むわ」

「西川サンは雪広グループの社員として他にやりたいことがあたのではないカ」

「私としては丁度新しいプロジェクトに参加できたらな、と思っていたから超包子のブランド化メンバーの募集があった時にはすぐに応募したのよ。それに超ちゃんはこの計画は世界まで広げるつもりなんでしょ。そうとなればなかなか他を探しても同じような企画はないから寧ろ感謝してるのよ。他の皆も大体同じだから安心してね」

「そう言てもらえると嬉しいネ。世間から見れば大それた事をと思われるかもしれないが私は必ず世界に超包子を広めてみせるネ。絶対に途中で諦めたりはしないと約束するヨ」

「本当に中学生とは思えないやる気ね。私達が本校女子中等部にいた頃はまだ麻帆良祭で営利活動が盛んになり始めた黎明期だったから気楽なものだったわ」

「その頃のエヴァンジェリンはどういう感じだたのか教えてもらいたいネ」

「エヴァ?うん、エヴァは最初は私達と初めて会った時はなんだかツンツンしてたりやる気のない感じで関わり辛かったけど、私達が高等部の先輩達から屋上の使用権で文句をつけられて喧嘩になった時に割り込んできてその場を一発で黙らせたのよ。あれがもうカッコ良くてカッコ良くて、しかもその後少し恥ずかしそうに怖がらせて悪かったななんて言う姿も凄い可愛くてあれは今でも覚えているわ」

「それは面白い話を聞いたナ。その喧嘩の時割り込んで来たというのは実は屋上で昼寝を邪魔されただけじゃないのカ」

「おお、良く分かったわね。流石同じクラスか。まあその後とぼとぼ昼寝に戻ろうとするものだから私達がエヴァを捕獲して一緒にバレーボールしたのよ。そしたら最初は嫌々やっているような感じだったけど運動神経が凄く良いのが分かってなんで茶道部入ってるのかとか色々聞いたりしているうちにエヴァからも話すようになって仲良くなったわね」

「今のエヴァンジェリンは早退したり自主休講ばかりしているが当時は初々しかったのだナ」

「そうなのよ。エヴァって年頃の女の子とは違う口調で話すでしょ、でもそれが妙に貫禄があって、逆に恥ずかしがると何とも表現しにくい良さがあって。ついちょっかいを出して遊んだものよ」

とても600万ドルの賞金首とは思えない逸話だナ。

「この話を聞いたなんてエヴァンジェリンに言たら大変な事になりそうだから心に留めておくとするヨ」

「あら、ポカポカ殴ってくるの可愛いじゃない」

「それは友達で、身長差もあればの話だネ」

「そうかそうか、私達はここ数年身長差に慣れちゃってるからね。確かにまだ中学生ぐらいならそうかもね」

「肉まん買ってきましたよ!結構並んでて驚きました」

「一人で並ばせちゃてごめんね。超包子の肉まんは値段も味も最高で今回は宣伝をしておいた上での取り扱い初日だから混んでるのも無理ないわね」

「それだけ人気が出てくれるなら本望だナ」

結局視察と言いながら皆で話しながら肉まんを空港で買て食べるという休日を過ごしたようなものだたネ。

「今日はこの後もう麻帆良に帰るだけですよね」

「ああ、そうだネ。さよは何処か寄りたい所あるのカ」

「はい、そういえば麻帆良の外に出たのって凄く珍しいなと思って」

「おお、私も麻帆良の外に出るのは珍しいネ」

「超さん達は休暇中すら実家に帰ったりしないですからね」

まあ実家は遠い遠い場所だから安安帰れるものでは無いヨ。

「超ちゃん達って麻帆良にいつもずっといるの?」

「忙しくてそうでしたね」

「毎日スケジュールが詰まているからナ」

「信じられない中学生ね……。東京に買い物に出たりしないの?お金あるんでしょ」

「まあそうなんですけど、大体麻帆良って何でも揃ってるじゃないですか」

「ああ……それは雪広グループのせいね……。確かにあそこで生活に不自由なんてしないわね」

「生活するには楽園みたいなものだヨ」

普通に帰路につこうとタクシー乗り場へ歩いていたのだたが

さよが突然突っ込んできたネ。
身体を押されて私は

体勢が崩れた。


――パンッ!


ッこれは銃撃か!

―――ドーンッ!!!

遠くから爆発音!

「鈴音さん、怪我は……ない……ですか……」

「さよちゃんどうしたの!え、血が出てるじゃない!」

「相坂さんしっかりして下さい!」

麻帆良の外だというのに油断していたッ!

《翆坊主!応答しろ!犯人の観測はできるかッ!》

《こんなタイミングの悪い時に限って!今火星の方に精霊体ごと移動していて地球に戻るのに数秒かかります》

《恐らく対象は自爆したヨ!》

《それは用意周到な犯人ですね!サヨ!応答して下さい!》

何故反応しない!

《状況が良くわからないがこちらも人目があるからとにかく行動するヨ!》

「さよ!どこに当たった!ッこれは致命傷か!西川サン、悪いがさよを乗せてくれる車を見つけてくれ!搬送先は近くの雪広の病院にして欲しい!」

空港にも医療施設はあるがこの外傷だと間違いなく此処で死亡認定される!
幸運にも雪広傘下の病院はすぐ近くにあった筈。

「わ、分かったわ!……すぐ戻るからね!」

「さよ!さよ!しっかりするネ!」

「相坂さん!」

しかしこんな空港から出てすぐに銃撃されるとは相手は一体何処の人間なんだ。

「どうしましたか!怪我人ですか!救急車手配します!」

やはりこの衆目のある状態だと面倒だナ。

「超ちゃん!こっちのタクシーの人が乗せてくれるからさよちゃん運びましょう!」

「あの、こちらで搬送しますが……」

「厚意は感謝するが複雑な事情があるから遠慮するヨ。五月もこのままだと危ないからタクシーに乗て麻帆良まで戻るネ!」

「で、でも超さん!」

「さよは大丈夫だ!私を信じろ!」

「……分かりました!超さん相坂さんをお願いします」

「ああ、任せるネ!」

この後五月は先に麻帆良にタクシーで帰らせ、私と西川サンでさよを雪広の病院まで搬送した。
当然既にさよの身体自体はもう危険な状態だたがとにかく出血が酷いから止血をして見た目から分かる状態を隠すぐらいしかできなかたネ。
認識阻害の範囲外のここではアーティファクトで治癒魔法を使う訳にも行かない。
とにかく電話をするヨ。

「……超鈴音です、雪広の社長さんに繋いで欲しいのですが……はい、お願いします。…………社長さん、超包子の空港支店の視察に来ていたら友達が銃撃を受けたヨ。今雪広の病院に向かている所だがその病院のオペ室のトクベツな用意を頼むネ」

『特別な用意か……。分かった、手配しておくから任せて欲しい。今回護衛を付けなかったのは失態だった、謝罪するよ。』

「私もいつも麻帆良にいたから油断していたネ。二度と同じことは起こさせないヨ。手配感謝するネ」

搬送先の病院の名前を告げ電話を切たネ。

「超ちゃん、特別な用意って……?」

「特別な用意は特別な用意だヨ。さよは酷い傷だが死んだりはしないから安心して欲しいネ」

「……どっちが大人だかわからないわね。普通友達が銃撃されてこんな酷い出血していたら落ち着いてなんていられないわよ」

「血も涙も無い友達などでは決してないから誤解しないでくれると助かるヨ」

「そこは大丈夫よ。そんな風には思っていないから安心して」

運転手さんはただひたすら沈黙したまま法定速度を明らかに無視していたが車を走らせてくれたヨ。

《超鈴音、サヨが応答しないのは痛みを遮断する前に身体に入ったまま気を失い一時的にリンクが切れている為です。時間が経てば精霊体の方は意識を取り戻す筈です。公的な処理が面倒でしょうが、申し訳ないですが私は力になれません。ただ、サヨの行動からすると、寸前で銃撃を察知したと思われます。爆発があった地点の観測を行ないましたが死体が無いところからすると恐らく長距離用魔法転移符を予め銃撃をした後にすぐ発動するよう設定した上で証拠隠滅に現場も爆破したようです。既に追跡も不可能です。警察機関も現場に移動しているようですが、証拠は何も出てこないでしょう》

《さよについては了解したネ。その面倒な処理は私がなんとかするからいいヨ。何と言てもこの「もしも」の時にサヨは身を張て助けてくれたのだから。しかし、移動方法が裏で攻撃方法が表の質量兵器とは手の込んだ真似をする奴がいたものだナ》

《少なくとも裏が関係しているのが明らかなだけマシですね》

《私を狙たのがどこの組織なのかというのも気になるが、ありえる可能性の一つとして魔法転移符が東洋呪術系の物だとすると麻帆良での内部分裂でも犯行グループは狙ているのかもしれないし、実際に関西呪術協会の一部の者の犯行なのかもしれないし良く分からないナ。もちろん西洋魔術系の転移符ならば海外の組織の可能性もあるだろうしネ》

《ええ、これだけ手際が良いところからすると、組織だっているのは間違いありませんが、確かに組織が国内の物と断定するのも早いでしょうね。超鈴音の予想のように他国の魔法協会の勢力という可能性もありますから》

《随分前に聞いたイスタンブールのフェイト・アーウェルンクスの事カ》

《その可能性もありますが、私が知っている情報だと人間を無闇に殺したりはしない筈なんですがね……。まあ計画の邪魔になると判断したらそうとも限らないでしょうから一概には言えませんが》

《翆坊主の知ている情報とも状況が異なているのかもしれないしナ。魔法世界側の動きが良く分からないというのは不便極まりないヨ》

《世の中何でもうまく行く訳ではないですからね。今までが順調過ぎた事から考えれば一度ぐらいこういう事があってもおかしくはないです》

《翆坊主が火星にいた時と重なたというのもハッキングされているのはありえないだろうから相手側は相当運が良かたナ》

《偶然にしてはできすぎていると言いたいですよ》

《それでも、こちらはさよのお陰で私の死は回避できたから半々だろう。これで借りができたな翆坊主》

《借りとか貸しとか思うのは勝手ですが今回はサヨの機転のお陰ですよ。私達は超鈴音を全力でサポートするのみです》

《さよが目を覚ましたら礼を言うとするヨ。通信を一旦切るネ》

間もなく病院に到着し、担架にさよを移しオペ室に移動したヨ。
私も入る必要があるネ。

「超ちゃん、オペが始まるからここで待ってないと!」

「西川サン、これがトクベツな用意だヨ。後は任せて欲しいネ。……空港の後始末やらがあると思うが頼んでも良いかナ」

「それは……もちろんよ!雪広のエージェントはパーフェクトだから任せて!」

「頼もしいネ。では行てくるヨ」



さて、さよの身体の状況だが……

「私が超鈴音だ。ここに居る先生達は裏を知ているという事でいいかナ」

「私が執刀医の石田だ。ここにいる5人は全員裏を知っています」

「さよの状態は見てわかるカ」

「既に死亡しているという事か。銃弾は心臓部を完全に貫通しています。上からの連絡で超君の判断に従うようにと指示を受けているので頼みます」

身体自体が死亡しているから治癒魔法も既に効果が無い。

「ふぅ……流石社長さんだね。話が早い。まずはとにかくできるだけ身体を正常な状態にするように外傷の縫合を頼みたい。次に怪しくない程度に時間を取ってオペをしたように見せかけてさよを個室に入れて欲しいネ。当然相坂さよの死亡認定はしないようにお願いするヨ」

「……裏の人間でなければ、単純に現実を受け入れられないだけの発言にしか聞こえないでしょうね。分かりました、その要望は全て叶えます。ではまず外傷の縫合を始めるとしましょう」

縫合自体にもそれなりに時間を要したが、残り数時間はやはり待機したヨ。
オペ室から出る時に偽装した心電図モニタを備え付けて生きているようにみせかけたネ。
私の服もさよの血が着いていたから着替えさせて貰た。
個室に移動させてからさよの精霊体の意識が戻るのを待たが反応が出たのは深夜になてからだたヨ。
その間できる限りの対策は打っておいたネ。

《はっ!ここはどこですか!あ、鈴音さん!怪我は無いですか!》

なんだか身体は死んでいたというの第一声がここはどこかだなんて元気だナ。

《さよのお陰で私は銃撃されなかたネ。感謝するヨ。その代わり今のさよの身体は完全に死体になているから処理が大分面倒になるだろうが心配しなくて良いヨ》

《え!私死んじゃったんですか!なんでそんな当たり所悪いんですか!》

それは私も聞きたいネ……。

《それは私も運が悪いとしか言いようが無いヨ……》

《ああ、でも代わりの素体ならまだ一杯あるから大丈夫です!鈴音さんが無事ならそれで良いですよ!》

《テンション高いようだが大丈夫なのか》

《サヨ、意識が戻ったようですね。何か思い出しましたか。例えば生前の記憶……とか》

《……………………そうですね。思い出しました。でも私成仏できない事も分かりました》

《それは聞いてもいいのか》

《……はい、誰かに聞いて欲しいですし、話します。……鈴音さんは私がどう死んだのか知らないと思いますが62年前現在の女子中等部、当時高等女学校で連続殺人事件があったんです》

《……麻帆良にしては物騒な事件だネ……》

《私も被害者ですが、その前に一緒に仲が良かった友達も殺されてしまって私は犯人を捕まえようと一人で犯行が行われた場所に何度か足を運んだんです。そして足を運んだ最後に同じ学校の生徒が私の後に入ってきて、その人が犯人だとはその場で思い至りませんでした。反応が遅れた時には既に刃物が刺さっていて私も何もできないまま殺されてしまったんです。その時の意識を失う前最後の私の願いはその犯人に必ず復讐をするという、今の私から考えると違和感のあるものだったんですが、結局その記憶が今まで吹き飛んでいました》

……記憶を失たために犯人に呪う等の方法で復讐することも叶わなかたのカ……。
突然重い話しになたナ……。

《サヨ、私に何か言いたいことはありますか》

《それは殺人事件が起きないように防いでくれれば良かったのに、ですか。それは……まあ全く思わないと言えば嘘になりますけど、大分人格自体に齟齬があるみたいなので恨んだりはしませんよ。少なくとも今はこうして生きてますからね》

いや……また死んだけどネ……。

《二度も死なせてすいません、私からは超鈴音を守ってくれてありがとうと言わせてください》

《なんて事ないですよ!私も鈴音さんが怪我しなくて良かったです!一応記憶も戻りましたし怪我の功名ですね!》

怪我で済んでないヨ……。

《サヨがそれでいいならそうしましょう。本題ですが、銃撃される前に犯人は観測したんですか》

《いえ……物々しい鉄の筒だけが観測できたので咄嗟に鈴音さんを突き飛ばしただけで犯人までは観測してません……》

《そこまで余裕は無いですよね……。これでいよいよ情報が裏に関係ある人間の仕業という事だけになりましたね。対策自体は置いておくとして、これからの動きはどうするんですか。明日から学校もありますよね》

《それは休むしかないヨ。まあ何もなかたというのは流石にないが五月にはさよは無事だと連絡したから間違ても死んだなんていう情報は伝わらないヨ》

《五月さん私が撃たれたの見て大丈夫だったんですか》

《当然ショックは受けていたけど五月は心がとても強いから大丈夫だヨ。最後には私を信じて任せてくれたからネ》

《幸せの化身の五月さんをこんな事に巻き込むなんて……》

《過ぎた事を考えても仕方ないヨ。明日高畑先生がここに来る事になているから事情を説明するネ。予定としては1週間程入院した後怪しまれないように退院して、麻帆良の女子寮に生徒のいない日中に戻て魔法球を介して身体の交換を行うネ》

《木に直接投げ込む訳にも行きませんしそうなりますか》

《私1週間暇になりますね》

《サヨは一秒ぐらいで木に戻ってこられるじゃないですか》

《なら今すぐ素体に入ってすり替え……という訳にはいかないんですか》

《リスクが高いから駄目だネ。ここは魔法先生達の力を借りたほうが安全だヨ。さよの新しい身体!ならあるけどハカセしか知らないしそれも却下だネ》

《今日は私はあちこち連絡して大分疲れたから寝てもいいかナ》

《こういう事になると精霊は力になれなくて申し訳ないです》

《鈴音さん私の処理の為にありがとうございます》

《お互い様だヨ。それではしばしおやすみネ》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

朝になるまで私は鈴音さんが病室で寝ている姿を見守りながら周囲の観測を続けました。

「良く寝たネ。おお!さよの身体は完全に見た目からとても生きているようには見えない状態だナ」

身体機能が完全に停止しているので放置していても維持される機能も当然動いていません。
起きるまで随分かかりましたが今午前10時ぐらいなんですよね。

《鈴音さんおはようございます。昨日は余程疲れてたみたいですね。よく寝てましたよ》

「もう10時なのカ。おはようネ」

《翆坊主、高畑先生はもう学校を出ているカ。昨日学園長にも連絡したが》

《タカミチ君ならもうすぐ着く筈ですよ。私からも今朝近衛門殿に頼んでおきましたから大丈夫です》

《そうか、そういえば翆坊主と学園長は普通に会えるんだたナ。電話を使うより余程安全だたのに昨日は少し焦ていたヨ》

《私も昨日は普段観測しない他県の地域まで出力を回して魔法転移符を観測してました……。結局見つけても犯人のものかどうかはわからないという有様ですが》

《どうせ多重転移を繰り返しているだろうし場合によては実行犯は既に処分されているかもしれないから黒幕に辿りつくのは難しいだろうナ》

物騒な会話が始まりましたよ……。

《そうですね……。とりあえずこのまま粒子通信してても何時まで経ってもタカミチ君が来ないので切りますね》

「さよは高畑先生に精霊体の状態を見られた事はあるのか」

《んー、分からないですけどほぼありえないですね。基本的に隠蔽レベルは最大で活動してましたから》

「それなら高畑先生が私達を不審に今まで思ていたのは無理もないネ。学園長は知ているがほぼ情報を知らされていないようだし」

《それ分かります。ウルティマホラの時に不審げな目で見られましたから。ポケットに手突っ込むんですよ》

「ハハハ、別に取り憑くわけでもないのに警戒しているんだナ」

《失礼しちゃいますよね。麻帆良祭の時も私が朝倉さんと綾瀬さんから逃げまわってる時は笑って見てただけだというのに》

「あれは逆に強く止めると先生に質問が行きそうだから自分の身を守たのだろうネ」

《……考えても無駄ですね。あ、もう先生来るみたいです。あれ、高畑先生だけじゃない。あれは……葛葉先生でしたっけ……。護衛かもしれませんね》

「一応幽霊の設定なのに魔を払う神鳴流を連れてくるとは皮肉だナ」

成仏させられないように気をつけないと……。
それからすぐに病室に先生達が入ってきました。

「失礼するよ、超君」

「失礼します」

「高畑先生に葛葉先生か、麻帆良の外まで来てくれて助かるヨ」

私も早いうちに自己紹介しておきましょう。
姿を現して……

《こんにちは高畑先生、葛葉先生。すいません、私また死んじゃいました》

「「………………」」

「……それではただのホラーだヨ」

《べ、別に怖がらせるつもりなんてないですよ!ただ私の身体が駄目になったせいでこうして先生たちが来ることになったので謝っておいたほうがいいと思っただけです》

「やあ……相坂君、学園長から銃撃を受けたとは聞いたけど死んだとは聞いていなかったよ……。一般生徒が銃撃を受けるなんて麻帆良学園では前代未聞だから驚いたよ」

また情報ちゃんと教えてもらってないんですか!

「学園長から座らずの席の生徒が通うことになったとは聞いていましたがその姿は初めて見ましたね。無事……ではないようですが元気そうですね」

《はい、また幽霊に逆戻りしただけです》

「……どうやら騒ぎにしないために学園長が情報を絞たみたいだが、早速詳しい報告をするネ。その前に葛葉先生は結界を張てもらえるのかナ」

「私が裏の人間だと知っているんですか」

「今まで裏で目立つような事はあまりしていないが茶々丸の制作者の一人だから知ているヨ」

「そうか……超君はエヴァの従者の茶々丸君の制作者だったね。葛葉先生結界をお願いします」

「分かりました」

いつもだとキノが張ってますがやっぱりお札を貼るんですね。

「本題に入るネ。昨日の午後4時頃超包子の羽田空港内への肉まん販売の開始の視察に行た帰り空港から出た瞬間に長距離からの射撃を受けたヨ。狙いは私のようだたがさよが庇てくれたから私に怪我は無いネ。その代わりこの有様だヨ。犯人は銃撃後長距離魔法転移符の類を利用して逃げた後時限式の爆弾で現場を爆破したと思われるネ。理由は表の人間にしては証拠が殆どゼロに近い事からそう考えるのが妥当だヨ」

「色々聞きたいことがあるが一つずつ聞いていいかな」

「答えられる範囲で答えるネ」

「長距離射撃なのに何故相坂君は気づけたんだい」

《それは私はこう見えて目が良いんです!》

「そ、そうか。それで銃弾や血痕等の処理は大丈夫なのかい」

「雪広のエージェントに頼んでいるから抜かりは無い筈だヨ」

「雪広ですって!」

一瞬形相が変わったんですけど大丈夫ですか……。

「葛葉先生、どうしたんですか」

「い、いえ、なんでもありません」

んーどういう事なんでしょうか。
ああ、そういえば。

《葛葉先生がお付き合いしている男性が雪広の社員さんなんですよね》

「ど、どうしてそれを!」

《霊体でぶらぶらしてる時に相手の方が社員証を首から下げているのを見たことあるので》

「え、学園長が用意した身体というのは出たり入ったりできたのかい」

《そうですよ。それも聞いてないんですか》

まあ確かに機密情報みたいなものですから当然かもしれませんね。

「学園長は相坂さよの問題が解決したとしか言ってませんでしたから詳しいことは私達も知りません」

「一緒の寮の部屋の人間の方が詳しいとはナ」

「続けて質問だけど犯人の動きについて情報を知り得たのも相坂君のお陰という事でいいんだね」

「そう考えてくれて構わないネ。現場の検証情報は雪広から聞いたけどネ。資料がまとまたら学園側に送ると聞いているヨ」

「細かいことはそちらの情報が届くのを待った方が良いようだね。それでこれからどうする予定なんだい」

「私はさよの身体を見張る必要があるから1週間ここで生活するネ。私もここから出るとまた撃たれる可能性があるから丁度良い。必要な物は用意してもらうから気にしなくていいヨ。それで1週間経たらまたここまで来て車を用意して欲しいネ。一応それでさよを退院という事にして私の女子寮の部屋に運んでもらえばそれで解決するから。最後の部分はどうしてと聞かれても答えられないから予め言ておくネ」

「そういう事か。最後が確かに一番気になるが葛葉先生が荷物を持ってここに来たのはその為だね」

「私は学園長から超鈴音を護衛するように言われています。そのため今日から私もここで生活します」

「なるほど、てっきり高畑先生に経緯を報告すれば良いかと思たが確かに護衛がいてくれると助かるネ。同性となれば尚更だナ。まあその割には先生達は私の事をいつも不審に思ているから少し居心地が悪いヨ。ある程度誤解を解いておきたい所だが機密情報が多すぎてネ」

《高畑先生もウルティマホラの時は私を見てポケットに手入れてましたからね!私知ってますからね!》

「……僕の技も知ってるのかい。それは済まない事をしたよ。つい警戒してしまってね」

《そんなに私は信用できませんか……》

「不審がるなと言われても超鈴音もです。あなたは去年以前の情報が全くわからない上に次から次へと目立つ行動をするんですから当然です」

「目立つ行動をしなければ肉まんで世界征服なんてできないヨ……。最近の怪しまれる行動だと麻帆良祭での麻帆良の歴史映像やネギ坊主のウルティマホラ出場への手配が当たるカ」

「肉まんは好きにしてくれていいよ。僕もそれは応援しているからね。超君は少し信じられない技術を持っていたり、ネギ先生に何をしようと考えているんだい」

よほど銃撃なんかしてくる連中よりもマシな事やってますよ!

「是非帰りに肉まん買ていてくれると嬉しいネ。しかし……やはり答えられるのは初めて自己紹介した時の私は火星人だというので殆ど説明できるのだけどネ。前者は私の頭脳の賜物、後者は可愛い子には旅をさせよという感じだナ。一つ迷惑をかけたから先生達には今後の予定を教えるが来年麻帆良祭で形骸化する前のまほら武道会を復活させる予定だヨ。そんなに怪しいことは計画していないネ」

《私もネギ先生をあちこち連れ回したのは少し強くなってもらいたいなと思っただけですよ。なんでそう思ったのか、は秘密ですけどね》

「二人共理由はわからないがネギ先生には強くなって欲しいだけなんだね。今まで特にネギ先生に害はないようだしそれは信じる事にするよ。でも、まほら武道会を開くというのはできるのかい。一般人にバレる訳にはいかないんだよ」

「そうです!ネギ先生を強くするというのとまほら武道会の関係は分からなくはないですがあんなに人の出入りの多い麻帆良祭の何処で武道会をやるというんです」

「まほら武道会の開催の許可は学園長からも得ているし、雪広グループからの協力、龍宮神社へのお布施、体育祭で麻帆良祭実行委員会からの便宜も得たし、最後に私の技術で外部への情報漏れは完全に防ぐヨ。今年の春から温めて来た計画だから必ず実現させるネ」

「それは凄いな超君……いつの間にそんなに用意していたんだい。それにどうしてそこまで僕も知らない過去のまほら武道会を開きたいと思うんだ」

《私が60年幽霊やっていて知っているので鈴音さんに話したんです!》

と、言うことにしておきましょう。
実際殆ど正解みたいなものですし。

「いつの間にと言われれば地道な努力の積み重ねネ。さよから聞いたが、まほら武道会が形骸化したのは映像機器の登場というただそれだけの理由だそうだ。それにウルティマホラよりも賑やかで皆盛り上がたと聞いているヨ。そんな面白そうなものを科学技術の弊害程度で開催を断念するなんてやる気が足りないヨ。やろうと思えばできるのにやらないというなら私がやるしかないネ!」

「そうか……超君にとってはそう思えるのかい。僕はそういう事なら否定はしない。開催することになったら是非出場させてもらうよ。これからはあまり危険視するのを控えるよ」

「未だに怪しい事ばかりですが、あなたの気持ちは分かりました。麻帆良学園は生徒の自主性を尊重します。問題にならないという自信があるなら邪魔はしません。頑張りなさい。私も実現したら出ても良いですね」

「おお!先生達が出てくれるなら盛り上がるヨ!開催が実現したら招待するネ」

《少し先生達も信用してくれたみたいで良かったです》

「昨日銃撃を受けたというのに色々疲れさせて済まなかったね。1週間休むといいよ。僕は処理された現場を一度見に行ってから学園に戻ります。葛葉先生は後をお願いします」

「分かりました高畑先生。後は任せてください」

そう言って高畑先生は出て行きました。

《あ、因みに葛葉先生がお付き合いしてる男性は裏の事知りませんよ》

「何を藪から棒に言い出すんですか!」

先生面白いですね。

「うむ、葛葉先生としては相手の男性が裏の事を知ている方が都合が良いだろうナ」

「なんであなた達はその事ばかり!」

《そうですよね。隠し事が無くて済む方が精神的に楽ですよね。でも、女性なら秘密の一つや二つあったほうが魅力的かもしれませんね》

「葛葉先生は美人だからそれぐらいが丁度いいカ」

「何なんですか!褒めても何も出しませんよ!」

《太刀が出そうですね》

「太刀が出るネ」

「はぁ……無駄に疲れますね」

「肉まんあるから食べるといいネ」

「気が効きますね。では頂きます……」

《鈴音さん、2-Aの事だとお見舞いとかに来そうですけど大丈夫なんですか》

「さよは面会できる程元気ではないという事にしてあるからナ。来ても面会謝絶で押し通すしか無いヨ。雪広の社長さんにも頼んでおいたからあやかサンと五月がなんとかしてくれる筈ネ」

《私は良いですけど鈴音さんはどういう理由で1週間休む事にしたんですか》

「…………さよが撃たれたショックで立ち直れず自主休講でいいヨ」

《そんな理由で良いんですか……》

「さて……そろそろさよの身体を低温で保存する装置を運んで貰た方がいいネ。腐敗が進んでしまうヨ」

《それは勘弁したいですね……》

「物を口にしている時にその会話やめて貰えません。まぁ、この肉まんが美味しいのは認めます」

「これは失礼したネ。肉まんを気にいて貰えて光栄だヨ。……………………済まない、また疲れて来たから少し寝るネ」

《鈴音さん、しっかり休んでください》

あっという間に寝てしまいましたが髪の毛を纏めていない鈴音さんの姿は普段の活発そうなイメージとは違いますね。
きっと心労が溜まったのだと思います。
私が昨日気がついたのは昨日というより午前2時頃でしたから当然ですね。

「……あなたは学園長に折角身体を貰ったというのによく超鈴音をその身を投げ出して庇えましたね」

《当然です。私にとって鈴音さんは誰よりも大事なんですから。例え何度身体を失おうとも守ってみせます》

「……少し羨ましいわ。私は結婚していた魔法使いがいましたが、命を賭けて彼を守れるかというと今ではそう簡単にはい、とは言えないでしょう」

《葛葉先生の新しい相手はそうなると良いですね》

私の場合は身体自体に大した重要性が無いので人間程一度きりの命に賭けるというのがそもそもできないというのがありますけどね……。
その分思い切りの良さは誰にも負けないですけど。



[21907] 20話 長い1日の事後処理
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/01 19:32
一週間入院のフリをしているだけでは時間の無駄だネ。
さよの身体は低温保存してもらえるようにできたし、これからを考えると何がいいだろうカ。
私の世界征服というのは肉まんは当然としても、後は別に私自信の手で世界を操ろうという訳ではないのだが、翆坊主との計画が成立した際には世界の大混乱をどうにかする必要があるネ。
雪広グループに頼ているだけではなく、全世界の人々から情報を収拾するというのが良いかも知れないナ。
三次元映像技術が出るとなれば、個人の利用は先であろうとも、開発者である私が一番詳しいのだからあえて率先して統一規格を作てしまた方が混乱しないで済むだろう。
動画をやりとりするネット上の手段は今のところ直接ダウンロードするタイプかファイル共有ソフトを使たグレーな部分のあるものが主流だし、個人が情報を公開するサイトと言ても千雨サンのようなブログやそのポータルサイトが殆どで、リアルタイムで情報を共有できているとは言いがたいナ。
翆坊主達が全てを観測する余裕が無いのなら、人々の方から情報を提供させ、あわよくば私達からの情報発信の場とする事もできる筈ネ。
2002年の今はまだSNSが試験運用され始めたばかりで、しかもアメリカやオーストラリアでの運営が主流で、日本ではついこの間9月に期間限定でサービス実験が始またばかりで言葉自体まだ広まっていないけどネ。

《翆坊主、地球上全てを観測するのと一元化されたネット上のサイトを観測するのを比較すると後者の方が負担は少ないのカ》

《休んでいればいいのにこんな時も働くんですね……。質問の答えですが、その通りです。地球上全てを観測するぐらいだったら軌道上を飛んでいる人工衛星やインターネットに介入した方が早いですよ。麻帆良の範囲の常時観測はある意味最後の防衛線ですから全て映像として収拾していますが、わざわざ観測範囲を広げても何も無い空とか海とかただの山であったりなんていうのは苦労の割に得られるものが少ないです。そもそも観測範囲をただ単に広げるだけと言っても結果は情報量が自乗化し続けるのであまり取りたくない手段でもあります》

《鈴音さん何か新しいことでも考えたんですか》

《今回の事件もあた事だし、情報収拾を何もかも雪広に頼るというのは得策ではないネ。三次元映像技術のこれからの展望もあるし、情報共有サイトと銘打た私設情報収拾兼発信網を構築しようと思うネ》

《あー、それってソーシャル・ネットワーキング・サービスのようなものですか。まだこの年代だと殆ど流行ってないですよね》

《なんですかその長い名前のサービス。……また歴史関連の情報ですか、確かに本格的に広がるのはまだ先の話ですね》

私は未来人だから良いが、歴史を知ているとは言え、一応この時間軸に生きているのだたらもう少し大きなリアクションでもするといいネ。

《既に知ているようで拍子抜けだナ。略称SNSだが、これを大規模に構築すれば翆坊主達はそれを観測すれば今までより楽に情報収拾ができるだろう。情報を発信する側が地球に住む人類なのだからナ。それに運営する側ならば情報を瞬時に世界に発信する事もできるヨ》

《なんだかんだ超包子の宣伝をするのは抜かり無いですね。しかしテキストや写真に留まらず動画までとなると費用は莫大にかかるでしょうからほぼ確実に赤字になりますよね。その他諸々の社会的問題も絡んでくるでしょうし。それでも構築できたら相当情報収拾が楽になるのは間違いないですが》

《超包子の宣伝については否定しないヨ。赤字になるのは覚悟の上ネ。私は今後も保有技術から資金は捻り出せるし、贅沢をして暮らしたいと思てもいないからナ。私の世界征服に大いに役立ちそうだから他の企業が乱立する前に主導権を握た方が後手に回らなくて済むだろう》

《精霊にとっては人間の貨幣は意味もない物ですからとやかく言いません。それより超鈴音が体調を崩して倒れる方が心配ですよ》

《そうですよ鈴音さん!毎日毎日働き詰めじゃないですか。今はアーティファクトを使える状況でも無いんですから無理しないでください》

《分かているヨ。昨日も今も良く寝たから疲れは取れているネ。逆に何かしていないと落ち着かなくてネ》

《完全にワーカーホリックですね……》

《その上今の状況の原因が私なんですから早く身体を交換したいです……》

《さよが気に病む必要は無いネ。聞きたいことの確認も終わたし行動に移すヨ》

雪広に頼てばかりでは駄目だと言たばかりだが、子会社として設立したほうが早いだろうから結局頼らざるを得ないナ。
機密情報に近いから粒子通信しに早く切り替えたいがまだ普通の電話で我慢するとしよう。

「……超鈴音です。……新しい企画があるので端末を用意して欲しいのですが……。……はい……助かります」

「あなたこんな状況でも何かやるんですか」

「葛葉先生、こんな状況だからこそ出来ることはどんどんやて行かないと駄目ネ」

《ショックで入院という理由とはかけ離れてますね……》

端末を社員サンに持て来て貰てこの1週間は過ごしたヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

私は葉加瀬さんを心配させるのも悪いので入院3日目、葛葉先生に鈴音さんをお願いして一度女子寮に戻りました。

《葉加瀬さん、私だけ一度戻ってきました。皆の様子はどうですか》

「うわっ!びっくりした!あ、相坂さんお帰りなさい。二人共大丈夫なんですか。入院先の病院もわからないので皆お見舞いに行けないと言っていましたよ」

なるほど、その情報伏せてたら来られないですね。

《えーと、私達どういう症状で入院しているか伝わってますか》

「出かけた帰りにちょっとした事故にあって入院とは聞いてます」

雪広のエージェント恐るべし……空港であんな酷いことになったのにニュースにならないとは……。

《正しく伝わってるみたいで良かったです。変に心配しないでも大丈夫です。鈴音さんも病室で仕事してるぐらい元気ですから。五月さんの様子はどうですか》

「超さん入院しても何かやってるんですか。なら私も鈴木さんと佐藤さんの開発進めていると伝えてください。四葉さんは少し落ち込んでますけど詳しいことは何も言わないで、ただ二人は大丈夫ですと言ったきり、超包子で料理に没頭してますよ。でも二人が休んだ初日に古さんに問い詰められて困ってました」

流石五月さんは強いですね、古さんが心配するのも分かりますが我慢して下さい。

《葉加瀬さん、色々教えてくれてありがとうございます。私達は後4日したら女子寮に戻るのでもう少し待ってて下さい。鈴木さんと佐藤さんの事は伝えておきます》

「分かりました。二人が帰ってくるまでこの部屋は私が守ってるので安心して下さい」

改造の施された部屋を深く追求することもない葉加瀬さんはありがたいです。
女子寮のセキュリティは田中さん達が守ってますから大丈夫でしょう!

その後病院にすぐ戻り、鈴音さんに葉加瀬さんのロボット開発について伝え、鈴音さんも企画の用意をしていました。

やはり病院は暇で、葛葉先生とも話しましたが、幽霊のようには見えないと言われてかなり焦りました……。
桜咲さんにはあまり半透明の姿を見せていないので今まで何も言われませんでしたが、長時間一緒にいると幽霊との違いが分かってくるみたいですね……。
そんなごまかしをしたりしながら4日が過ぎ麻帆良に戻る日がやってきました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

高畑先生が手筈通り車椅子を載せることができる自動車に乗て病院の裏口に来たネ。

「高畑先生、車の手配助かたネ。さよの身体をこのまま車椅子に乗せて麻帆良に戻るヨ」

「超君入院中なのに仕事してたと葛葉先生から聞いたけど大丈夫なのかい」

「心配ご無用ネ。時は金なりと言うからナ。一週間寝ているのは勿体ないヨ」

「その真面目さを2-A の元気な子達にも少し分けたいね」

「遅くなると女子寮に誰か戻て来てしまうかもしれないから行動するネ」

「よし、早速麻帆良に戻ろうか」

予定通り裏口から車椅子でさよの身体を運んで高畑先生の車に載せ、1週間ぶりの麻帆良へ戻たネ。
女子寮に到着した後はさよの観測の元女子寮に誰かが見張ていないことを確認して部屋に戻たヨ。
最後の最後に不審な顔で見られたが、学園長が話さないなら諦めるネと言ておいたヨ。
きちんと部屋の鍵を閉めた後、私がさよの身体を背負って魔法球へ移動し、ポートに乗せるのはもう簡単だたネ。

《これで晴れてさよは元通りだナ》

《この身体は修復に少し時間がかかりますから他の身体を使ってください》

《身体の新調ですよ!ああ、やっとまた元の身体です!》

《喜んでいるところ何ですが、身体を得たところで魔法球に転送します》

《よろしくお願いします!》

素体の出はいりには疲労回復術式の実験で慣れたものだが無事に帰て来たネ。

「これでやっと落ち着いて生活できますね」

《まだ部屋の前に先生が二人いますから戻ったほうがいいですよ》

解決したのを見なければ納得できないカ。
魔法球からすぐに戻り、玄関へ。

「この通りさよの身体は無事に元に戻たから安心して欲しいネ」

「詳しいことはやっぱり秘密ですけどね。このまま午後の授業に私達出る事にします」

「修復可能とは驚いたな……。学園長が手配しているのか」

学園長の技術という事になたヨ……。
そういえば茶々円も学園長が作たということになている筈だしそれでいいカ。

「あなた達がまた狙われないよう学園側でも警戒は怠らないようにします。1週間で少しあなた達への認識が変わりました。やりたい事はとことんやってみなさい」

「葛葉先生1週間の護衛をしてくれて感謝するネ」

「葛葉先生、ありがとうございました」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ようやくいつもどおりの生活に戻る一歩として、電車に乗って女子中等部に向かいました。
到着したのは丁度昼休みの時間でした。

「長期休暇で学校に来ないことはあるが、こうして1週間ぶりに来ると新鮮だネ」

「そうですね。きっと教室に入ったら古さんが突っ込んでくると思いますよ」

「うむ、古ならあり得るな、いざ2-Aの扉を開かん!」

ガラガラと音を立てて開けたところ

「あ、二人戻ってきたえ!」

「二人共怪我もう大丈夫なの!?」

「お帰りなさい!」

そんな中机をいくつか飛び越え古さんが飛来してきました。

「超!さよ!戻てきたアルか!」

「古!退院したばかりなのだからもう少し大人しくするネ。心配かけたな、私達は二人共健康そのものだヨ」

「私も大丈夫ですよ」

「相坂さん!……本当に……無事で良かったです。葉加瀬さんから、今日戻ってくると聞いて肉まん用意してきました、……良かったら食べてください」

「五月さん、心配かけてごめんなさい。肉まんありがとうございます!泣かないで下さい、もう大丈夫ですから」

「五月、私を信じろと言ただろう。泣かれると皆が余計に心配するネ。肉まんはありがたく頂くヨ」

「やはり二人の怪我は酷かったアルか!」

「大したことないですよ。どこももう痛くないですから」

「この話は終わりだヨ、古。ハカセ、新シリーズの開発は進んだカ。私も新しい企画はまた工学部の力が必要ネ」

「鈴木さんも佐藤さんもバッチリですよ!二人がいない間に田中さん達の受注依頼も溜まってます」

「それは順調だネ。古もまた後で手合わせするヨ」

この後事ある度に皆から心配されて大変でした。
ネギ先生が教室に走ってきて驚きましたが、高畑先生達が何一つ詳しいことを教えてくれなかったそうで心配してくれました。
一応エヴァンジェリンさんには通信で状況を伝えておきましたが、当然ネギ先生に教えたりはしていないですからね。

この後放課後まで授業を受けたのですが、学園長先生に呼ばれました。

「失礼します」

「失礼するネ」

「わざわざ呼んで済まんかったの。大体の処理は雪広グループがやってくれたようじゃが、情報は言われたとおりに出来る限り伏せておいたわい」

「それには感謝するヨ」

「しかし儂も学園の生徒を守れんで面目無い。して、雪広から提出された報告書じゃが犯人は現場を爆破して逃走したようじゃな」

《それについては私からも話しますよ》

「おお、キノ殿か。この前来た時はまとめて話すという事じゃったからもう良いのじゃな」

《ええ、今回犯人は超鈴音を長距離から銃撃、同時に長距離用魔法転移符を発動させ、時限式爆弾で現場を爆破したと思われます。こちらで犯人の追跡を試みましたが失敗に終わりました》

「転移符を使ているからと言て必ず裏に関係があるとも限らないが組織的犯行なのは間違いないヨ」

《正直言って今回の犯人を捕まえる為に人員を割くぐらいなら別の事に回したほうが得です。証拠が銃弾しか残っていないのでもう一度わざとおびき出すでもしない限り尻尾を掴むのは難しいでしょう》

「私も麻帆良からは極力でないようにするから学園長は今まで通りにしていると良いネ。少なくとも魔法転移符について呪術協会を探るのも効果は無いだろうし、下手に溝を作ることになりかねないからそれもやめておいた方が良いヨ」

「私が鈴音さんを助けるために銃弾に当たった部分もかなり運が悪かったからこんなに面倒な事になってしまいました」

「なるほどのう……。せめて裏か表かはっきりしてくれればいいんじゃが。表の人間が偶然魔法転移符を入手しただけかもしれないのじゃな。あいわかった、学園でも警備は強化するようにしよう。雪広も謝ったかもしれんが、学園側からも護衛をつけないで済まなかったの」

「何度も言てる気がするがさよのお陰で大事には至らなかたから良いヨ。次から気を付けるネ」

「私が鈴音さんを側で守りますから任せてください」

「相坂君も身体に替えが効くとは言え超君を助けてくれて感謝するぞい」

《あまりここで考えても埒があかないですね。話しを切り替えるとして、近衛門殿はいつネギ少年に勝負をしかけるのですか》

「そうだヨ、すっかり忘れていたネ。ナギ・スプリングフィールドのまほら武道会での映像ならいつでも渡せるヨ。当然だが私が狙われた後にそういう事をするのが不謹慎だ等と思うのは筋違いだからナ」

《そうですね。そのためにネギ少年には今回の事を完全に伏せたのですし》

「ネギ先生が魔法をエヴァンジェリンさんから習い始めたのってまだ三ヶ月ぐらいですよね」

「……気を使わせて済まんの。決行は冬休みのつもりじゃよ、じゃから映像は冬休みまでに渡してもらえると助かるわい」

《流石に通常授業期間中にはやりませんか。冬休みとなれば大体4ヶ月分ぐらいの修行になる筈ですから丁度良い頃合いかもしれませんね》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音とサヨは通常の生活にようやく戻った。
すぐ次の日に雪広の社員である西川さんがサヨが超包子で働いている所にやって来て涙を浮かべながら抱きついていたのは人目を引いたが、彼女にしてみればどうみても致命傷だったのに無事でいるサヨを見たらそう思っても仕方ないかも知れない。
麻帆良の警備レベルは裏関連に関しては呪術協会も居ることでかなり強化されていたが、表の方も超鈴音と葉加瀬聡美が鈴木さん、佐藤さんシリーズを完成させ順次出荷させていった事と、雪広グループの陰ながらの超鈴音の身辺警護の強化も加わり少なくとも麻帆良にいる限り無抵抗にやられたりはしない水準になったと言える。
工学部は一体いつの間にロボット製造工場になったのかと深く考えてはいけない。
田中さんはどう見ても西洋人だったが鈴木さんは東洋人で、何処かで野球をやっていそうに見えなくもなく、佐藤さんは女性型であり世の中の居るだけで癒される寮母さんを平均化させたような容姿をしている。
でも全員怒らせると怖い。

超鈴音のSNSサービスの提供も1週間の間に企画書が雪広グループに提出され、子会社として立ち上げることが決定した。
直ぐに認可が降りたのは銃撃事件を防げなかった事への負い目もあるのだろうが、出資の殆どは超鈴音の自費で行われ持分会社適用ギリギリの額を雪広グループが持つことになった。
その自費の中に以前冗談で言ったつもりのダイヤモンドの製造が上手くいき、工作機械用として地味に回しているのも元手になっている。
今は通常のダイヤモンドよりも硬いハイパーダイヤモンドの作成やダイヤモンド半導体への転用も視野に入れているらしく、銃撃されたというのにマッドサイエンティスト化とは、「それはソレ、これはコレだヨ」と一向にへこたれる様子はない。
特にダイヤモンド半導体の方はSNS計画の為、パソコンの処理速度の向上の強化等に役立つ事になるため真面目に作成に取り組むつもりらしい。
実は茶々丸姉さんには量子コンピュータが組み込まれているのだが、やはり全世界に広げる技術なのでオーバーテクノジー化しやすいものは控えるそうだ。
なら量子力学研究会で研究を続けている量子コンピュータは何のつもりなのかと言えば、現行技術でどこまで作れるかやってみたいという趣味の部分があったり、個人で技術を保有しているのがバレた時に隠れ蓑になるからだそうだ。

超鈴音が想定しているSNSは私の元の知識にある様々なSNSを混ぜたものに近いようなのだが使い勝手が悪くならないのか気になるところだ。
試験的に作ったサーバーで2-Aの女子中学生達でコミュニティサイトの実験等もし始めたようだが好評らしい。
彼女たちにとってはパソコンよりも携帯電話の方が使用頻度が高いのでモバイル用の対策もするそうだ。
どうやら会員登録をすればそれ相応のコンテンツを利用することができるが、かといって会員登録をしなくても一般公開用のコンテンツは全て利用出来るというものを予定しているらしい。
最終的に全世界でそんな事をやってサーバーが落ちたりしないのか気になるところだが、某OS制作会社も資本参加しそうなので意外となんとかなるのかもしれない。
そのうち起きるであろうハッキングや問題の有るコンテンツのアップロードは超鈴音、葉加瀬聡美、長谷川千雨にかかると小指一本で弾くどころか逆探知までしそうなので触らぬ神に祟りなしである。
場合によっては最終兵器精霊のイタズラと称して私達が介入したら一発なのであまり心配する必要はなさそうだ。

仮にも魔法を世の中に残すのが義務である精霊がこんなに科学の事ばかり見ているわけにも行かないだろう。
ネギ少年の方はといえば、9月から始まった粒子通信による高速思考の訓練による頭痛がほぼ完治した。
小太郎君と模擬戦をする際に本気で高速思考を利用すると身体の動きさえ間に合えば先読みに近い行動が可能になったのは大きな進歩である
だが、戦闘中というのはただ物思いにふけるのとも訳が違うので、頼りすぎると軽度の頭痛が再発するがそこは許容範囲内だろう。
ウルティマホラの時点で瞬動ができるようになっていたネギ少年は銃撃事件の時には虚空瞬動までできるようになり、冬休みに向けて目下浮遊術の習得を目指している。
まあ達人レベルまで瞬動術が上手いかと言うとそこまでではないが十分な成長速度である。

小太郎君の方は相変わらず休日に忍者の修行に同行し、分身の数を増やしつつ実体の密度の上昇を図る修行や、こちらも虚空瞬動の練度上げる修行を続けているので、両少年ともバトル向けの進化が着々と進行中である。

さて、攻撃魔法について触れていないがそちらはどうなったのかといえば……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ぼーやが使える魔法も大分増えてきたな。ウルティマホラではただの身体強化だったが戦いの歌が使えるようになって効率も上がっただろう」

「はい!白き雷、雷の斧は使い易いですし、魔法の射手も無詠唱で7本まで出せるようになりました」

「その魔法の射手を収束させて腕に絡ませて放つ打撃技も何か名前を付けると良いだろうな。無詠唱となら相性も良い。遅延魔法を使う必要がないならその方が楽だ」

「名前はコタロー君と一緒に考える事にします。確かに遅延魔法はマスターとの通信訓練で詠唱速度も早くなって来たので必要があんまりないですね。でもまだなかなか断罪の剣はうまく構成できません」

「未完成といえど一応形だけでもできているだけマシだよ。相転移が少しだけでも発生しているだけ筋は良い。まあ私がやるように基本魔法でパッとできるようになれば簡単なんだがな」

「マスターのその断罪の剣全然わかりません……。前に見せてくれた属性がある方の物の方が理解できました」

「まだ分からないか……。こんなに簡単なんだがな、ほら!」

「うわぁ!あ、危ないですよ!」

至近距離で出すのは本当に洒落にならない。

「時間はあるから徐々に感覚をつかんでいけばいいさ。ああ、それと風精召喚の囮は瞬間で出せるように訓練しておけ。使い慣れれば相手の判断を一瞬遅らせる事ができる。模擬戦で積極的に練度を上げていけ」

「分かりました。それでマスター、防御魔法は訓練しないんですか。今のところ風楯と風花風障壁ばかり使っていますけど、風楯はマスターやコタロー君の場合突破されるので心もとないです」

「魔法障壁か……。私は不死身だから攻撃は最大の防御といえるんだが、……そうだなこれを見せてやろう」

そう言って発動させたのは魔分フィールドだった。

「な、何ですかそれ!魔力の塊、いや魔力の層のようなものができてます!」

「移動するぞ、付いてこい。これの性能を見せてやろう」

浮遊術で空中に移動するお嬢さん。

「マスター!まだ浮遊術使えません!」

「ああ、まあそこからでいい、雷の暴風を全力で私に撃ってみろ」

「確かにその力場帯は凄いですけど大丈夫ですか?」

「問題ない、もし突破されても死なないから安心しろ」

「……分かりました」

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐―
        ―雷の暴風!!―

雷の竜巻がお嬢さんを直撃して爆風を発生……しなかった。

「雷の暴風が掻き消えた!?」

「分かったかぼーや、これに雷の暴風程度では当たった所で煙すら出ないんだよ」

「凄いです……、それも基本魔法なんですか」

「そうだ。薄い魔法障壁を何重にするよりよほど頼りがいがある。あえて呼ぶとしたら魔法領域とでも、いや……安易すぎるか……まあいい。とりあえず今からそう呼ぶ事にしよう」

茶々円なんて名前を3秒以内に思いついたんですから今更ですよ。

「それを覚えれば良いんですか」

「覚えられるかはぼーや次第だがな。浮遊術の理論も遡れば魔法領域と似ている部分があるからこれからは浮遊術を練習しながら魔法領域のコツも身につけろ。そうすれば断罪の剣もできるようになるかもしれん。それにヒントをやるが今までやってきた通信の感覚は私の言う基本魔法の根幹を担っている。頑張って感覚を掴め」

「あの感覚が基本魔法……。分かりました、絶対にその魔法領域を会得します!」

「ああ、その意気だ。更にやる気が出るように教えてやるが、魔法領域は展開している時にも攻撃は放てるし、逆に相手と接近戦になっても相手の攻撃は領域を突破できなければ届かないという優れものだ。どうだ、やる気になったか」

「本当ですか!?やる気出ました!よーし!頑張るぞ!」

少年は心が純粋だった。

「それはそうとぼーや、また手紙を故郷に出さないのか。一月に一度出すと言っていたと思うが前回からもう1ヶ月以上は過ぎているぞ。どうせ女子寮で魔法の手紙は隠れてやらないと書けないだろう、ここで書いていったらどうだ」

「あっ!また忘れてた!ここで書いていきます。それでマスターも一緒に手紙に出ませんか。この前ネカネお姉ちゃんにマスターに魔法を教わってるって送ったら紹介して欲しいって言われたんです」

元賞金首、もちろんかなり一方的に付けられたものだが、今や人気者とは時代は変わったものだ。

「前に言ったと思うが私は光の福音だぞ……。しかし、ぼーやが一緒に映像を見たという姉なら良いか。どうせなら着物を着るがどうする」

「マスター着物着てくれるんですか!ありがとうございます!きっとお姉ちゃんも喜びます」

「そんなにはしゃぐものなのか……。ぼーやは手紙の用意でもしていろ、私は着物を着てくるから少し時間がかかる」

「はい!先に報告していますね!」

ネギ少年がネカネ・スプリングフィールドに先に手紙の内容を吹き込み始めてからしばらくして、エヴァンジェリンお嬢さんが登場し、軽く自己紹介をしてネギ少年の魔法の師匠をしていること等を簡単に述べて手紙は締め括られた。

その後また返信が来たときにまだ修行中ではないアンナ・ユーリエウナ・ココロウァ、アーニャがその手紙に乱入し、ガミガミとうるさかったとネギ少年は語った。
その際彼女はお嬢さんの映像を見ていなかったようで自己紹介でお嬢さんの本名を聞いたときに震え上がった反動でその手紙ではさっさとその人から離れなさい!とうるさかったのだそうだ。
このままだと日本に乗り込んで来ないとも限らないが、果たしてどうだろうか。

こうして見守っているつもりだが完全に覗き見でしかないと言われたら返す言葉もない。



[21907] 21話 少年達の試練
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/10/19 23:40
12月に入り寒さもいよいよ本番を向かえるという頃、警察機関が来たネ。
当然女子寮に突然やてきたのではなく、雪広グループを介して話が来たのだがナ。
多分三次元映像の試験運用の件だと思うが一応開発者に話しを通すという所カ。
既に田中サン達と後発で稼働している鈴木サンと佐藤サンでもデータは収拾できているから提出する資料に不足は無いナ。

「社長、超鈴音さんをお連れしました」

「失礼するネ。……失礼しました」

いくらなんでも警察の人が多すぎるヨ。
これはいつもどおりの口調だとマズいネ。

「超さん、よく来てくれました。紹介します、こちらから順に埼玉県警の篠田本部長、鉄道警察隊の根岸管理官と金子捜査官、そして科学捜査研究所の榊原所長です」

………埼玉県警のとても偉い人達ばかりだネ…。
紹介されてない人もいるみたいだが話には参加しないという事カ。
おや、麻帆良祭で見た方もいるナ。

「初めまして、私が超鈴音です」

「おお、麻帆良祭でも発表に出席させてもらったが本当に若いですな。今日は三次元映像技術の開発者として話がしたく社長さんに頼んだのです」

本部長さんは縦と横に幅が広いががっしりしているナ。

「お会いできて光栄です。本日は映像技術に関する資料も持参しているので詳細な説明ができます」

「それでは超さん、早速こちらの席にどうぞ」

「失礼します」

「警察の皆様にはまず、撮影技術のシステムから説明しましょう。超さん、お願いします」

「分かりました。まず三次元映像撮影の為の機器がこちらになります。見ての通りそこまで大きくは無いので監視カメラとしてもそのまま使えます。もちろん通常の監視カメラとしても使用できるようになっていますので、導入には困らないと思います。但し、保存の際に必要となる容量が現状よりも大分増えるのでそちらで費用がかさむでしょう。説明するだけでは分かりにくいと思いますので実際に撮影しながら投影機器に映したいと思います」

ゴツい人達が真剣に見ているのは居心地が悪いナ…。
撮影機器と投影機器を接続して録画開始。

「この通り、現在のこの部屋の撮影映像が縮小化されてこちらに映し出されています。有効半径は25メートルなので一つだけでもこの部屋なら全て賄う事ができます。視点の変更もできるので是非試してみて下さい」

今のこの部屋の縮小映像が映ているから誰かの身体が動くとそれもリアルタイムで反映されるので反応は上々だネ。

「榊原所長、いかがですかな」

「これ程の技術が世の中に既にあるというのは驚きです。これが監視カメラの主流になれば、監視映像が証拠不十分になる事も解決できるでしょうな」

「監視カメラを設置しても証拠が得にくい満員電車内での犯罪もこれが導入されれば大幅に検挙率が上がるでしょう」

「これだけの物を見れば申し分ないですな。本題に入りますが、我々が今回依頼したいのは電車内での犯罪の抑止と撲滅の為にこの技術を試験運用させて頂きたいという事なのです」

鉄道警察隊を呼んでいるのだから当然だろうナ。
痴漢は滅びるといいネ。

「我が社としても映像技術があっても社会的問題から公開するタイミングを図りかねていましたが、その試験運用を足場にガイドラインの作成まで進められそうですから是非協力しましょう」

「開発者である私も監視カメラの取り付けから映像の保存まで全て賄う用意がありますので導入に際しての障害についてはカバーできます」

国家権力に対して拒否するのは有り得ないのだがナ。

「それはありがたい。詳しい説明は根岸管理官と金子捜査官にお願いしたい」

「それでは金子捜査官、試験運用の予定についてお願いします」

「はい、それでは説明に入らせて頂きます。まず……」

この後導入する列車とその区間と運用期間の説明等を受けた後、それに要するカメラの数、対応する保存用メモリーの必要数について話し合い、撮影した映像の取り扱い、技術の漏洩防止の契約等色々取り決めがなされたヨ。
導入に際しては私と雪広の社員と鉄道警察隊共同で行われる事になり、運用期間終了後はカメラについては全て回収という事になたネ。
収集した映像はガイドライン作成の為の資料として活用された後一定期間が過ぎたら順次処分していくことになるだろうナ。
告知無しで監視カメラの設置を行う訳にもいかないから当然事前に運用区間での周知を徹底した上で行われるヨ。
これに反発が起きる事はあるだろうが、少数派に当たるだろう。
視点移動によるアングルの問題があるが、これが三次元映像技術の真骨頂なのだから使用禁止とはいかないが、撮影された映像の確認をする人の人選は配慮する必要があるネ。
そしてこの話し合いも終わりとなり、警察の方達が退出した後社長さんと話をしたヨ。

「今回先月の銃撃事件に触れられなかったが、東京空港署の所長から埼玉県警には話が通っていてね。本当はこの後事情聴取に移る予定だったのだがお断りしておいたよ」

そういう意味でも全面協力する事になたのカ。

「銃撃された相坂さよの事は学園長から聞いていますか」

「ああ、聞かざるを得なかった。手術を行ったことになっている病院では医者達から搬送されていた時に既に死亡していたと報告も受けていたからね。まさか幽霊で身体を与えていたなんて表で話せるような事ではないよ」

「裏でさえ珍しい事例です。怪我の痕を見せろと言われても既に一切傷は残っていませんから事情聴取をされると都合が悪いです。この度のご配慮感謝します」

「社員一人だけを付き添いに行かせたのが失態でした。当然の配慮です。エージェントの調査でも犯人を割り出す事はできなかった。大変申し訳ない」

「犯人は相当警戒感が強いようでしたから仕方がありません。そのためにもガイドラインの作成とSNSの拡大を進めたいと思います」

「こちらでも全面的に協力させて貰うよ。提携したいという企業はあちこちあるから必ず上手く行くでしょう。まだ実験段階で小規模にしか行われていないSNSですが、超さんからの企画書を見て将来的に大きな波になると確信しました」

この後どうせならと超包子ブランド化企画の社員さん達との会議もまた行ってから女子寮に帰宅したネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

それからの12月と言えば、2学期の期末テストを残すのみであったがネギ少年に対して2-Aを学年最下位から脱出させる等という課題は出されていない。
クラスの順位を上げる事はタカミチ少年が8回チャンスがありながらもできなかったのだから、これを課題としてやらせるほうがおかしいとも言えるだろう。
まだ2学期という事もあり時期的に半端というのもあるが。

近衛門からの要請でナギ少年が優勝した時のまほら武道会の映像の受け渡しも超鈴音から無事に行われた。
襲う等と7月の末から言っていたがようやくどうするのか詳しく教えてくれたのだが、実態はというと…。

12月20日、2学期の終業式もつつがなく行われ、ネギ少年はその日教師としての仕事を終えるのに大分時間がかかり、夕方を過ぎたという頃女子寮の中に入る寸前だった。

「これは結界!?しまっ!」

一瞬にして首筋に手刀を叩き込まれ、気絶させられた。

「ふぉっふぉ、反応が良くなっとるがまだまだじゃの。儂が昔使ったこのスクロールを1年かけて改造したがとうとう使うときが来たわい。ネギ君、頑張ってこの試練を切り抜けるんじゃぞ」

近衛門はやたら分厚い魔法のスクロールを広げネギ少年の手を当てさせた。
淡く一瞬だけ発光した後、ネギ少年の身体を女子寮入って直ぐのロビーに寝かせ、スクロールだけ回収して転移魔法で学園長室に戻っていった。
その学園長室に陣取っていたお嬢さんの目の前に。

「襲うと言っていたがもう終わりか。折角断罪の剣を直接ぶつけてやろうと思っていたというに…。あ…待て…じじぃなんだそれは」

「物騒じゃのうエヴァ。この巻物にはネギ君の精神だけを取り込んであるのじゃよ」

「はぁ…茶々円が闇の魔法がどうとかうるさかったが、じじぃが似たような真似をするとはな。それで脱出条件は何なんだ」

「最後に儂のコピーに勝てたら脱出じゃの。当然見た目は儂とは違うんじゃが」

《近衛門殿、先程ご自分も昔使ったと言いましたがどういう事ですか》

「キノ殿も来とったのか。このスクロールはスタートから徐々に敵が強くなっていくようになっていての、ある時油断するとポックリいくわけじゃ。時間もこちらの72倍で進むものじゃから試練としては好都合じゃろうて」

「なるほどな、そのスクロールもやはり精神的に死ぬのか。襲うと言うよりは捕まえて谷に落とすようなものだな」

《ネギ少年は無事に…と言えるかどうかわかりませんがロビーで倒れているところしっかり部屋まで運ばれたようです。でもスクロールを使うのでしたら近衛門殿がわざわざ警備に参加したりした理由はあったんですか》

「儂も若い頃よりは魔法の熟練度自体は上がっておるからの、情報の更新じゃよ。最後に相手をするのは儂の若い頃にその情報を上書きしたコピーじゃからの」

ネギ少年の安否が心配になってきた…。

《それ…脱出できるんですか》

「ネギ君次第じゃからわからんが、最悪24日の同じ時刻には自動的に解除されるわい」

《72倍速の4日間なんていったら288日になりますけど、どれだけ長いんですか…》

「私がこれまで指導した時間の数倍だな…。ああ…ぼーやの試練が終わったら寮のクリスマスパーティが待っているのか。とんだサンタクロースだな。しかし死にすぎると本体の身体の方がまずくなると思うが大丈夫なのか」

お嬢さん意外と冷めてますが不死だとそういうのあまり気になりませんか。

「ふぉっふぉ、それは予め分かっているからの。好きな時に覗けるから安心するがええ」

普通に襲ってその日ボコボコにするよりも遥かに性質の悪いものだった。
まあある意味驚くほど贔屓している状況でもあるが…。

《近衛門殿が心配することではないですが、小太郎君には似たような事させないんですか。ライバルとして差を付けられたとなれば相当悔しがるでしょう》

「それなら既に手は打ってあるぞい。呪術協会支部は儂が直接言うと大体話は聞いてくれるからの、コタロー君にも似たようなものをプレゼントしてあるわい。その巻物も後で届く筈じゃ」

職権乱用もここまで来ると清々しいな。

「小太郎にも渡してあるのか、…あのガキなら絶対やるだろうな…」

《ネギ少年を鍛えるだけかと思えば小太郎君も計画にいつの間に混ざってたんですか》

「ついでといえばそれまでじゃがの。警備でも良い働きをしとるし、ネギ君の相手としては申し分ないからの。複製して少し弄っただけじゃし」

「てっきり私はぼーやをじじぃの孫のパートナーにでもするのかと思っていたがな。先にぼーや達の方が仮契約でもしたほうが余程すんなり行きそうだな」

あー、それは有りかもしれない。
司書殿もナギ少年と仮契約していたのだから十分あり得るだろう。

「ふぉっふぉ、このかとネギ君がそうなったら儂は歓迎じゃよ。確かにあの少年達が相棒になるというのも悪くないの」

「このスクロールが終わったら一度話してみるか。…それで一度覗いても構わないのか」

「そうじゃの、一度覗いてみるとしよう」

《私も付いて行きましょう》

近衛門とエヴァンジェリンお嬢さんに付いて行ったがスクロールの中身はなんだこれとしか言いようがなかった。
近衛門の話によるとネギ少年は気絶させられた瞬間にこの中に精神だけ移動させられ、近衛門のコピーに

「我が貴様の父親を封印した。仇を取りたくば我の元まで来るが良い、それまでに何度も死ぬだろうが、ここでは死ぬことも許されん。永遠に苦しむが良い!ハハハハハ!!」

と、茶番ゼリフを述べられたらしいがネギ少年は襲われた状況から意外とすんなり信じたそうな。
お嬢さんにしろ、近衛門にしろ少年は上手く言いくるめられているようにしか思えないのだが、一般常識の勉強もした方が良いと思った。
一方小太郎君の方はと言えば

「時間は気にする必要はない、進めば進むほど敵が強くなる。最後まで倒せたら褒美をやろう」

と、どこの手抜きのゲームだという説明しかなされていないらしいが、内容は大体同じらしく、ネギ少年のものとギャップを感じざるを得ない。
恐らく褒美というのはその中で強くなった自分自身なのだろうが、無理に悟りというか良い話のような流れを作る必要もないのではないかと思う。
まあ実際スタートからしてゲームっぽさが出ていて、最初は下級の鬼だったり低級の魔獣だったりが襲いかかってくるのを倒して、先へ進むのに一定の地点で巨大な中ボスを倒す必要がある作りになっていた。
しかし、サクサク行くかと思われれば、罠が作動して大量の矢が飛んでくる状況で襲いかかってくる同じく大量の飛行タイプの魔獣であるとか油断すると本当にあっさり死ぬようにできていた。
原始時代に突然戻り恐竜が闊歩している場所があったりと子供心にそれなりに見るだけなら楽しめるようにもなっていたが、気温が異常に高かったり、その逆等もあり手放しに喜べる程優しい場所ではなかった。
因みに死ぬと狭い部屋に移され、しばらくすると死んだすぐ前の場所にまた強制的に戻されるという仕組みになっており、断続的に死を体験するわけではないもののスパルタだった。

《ぼーやはもう3回死んだか。模擬戦ばかりやっていたから実際に油断するとあっさり死ぬという事が理解できていないようだな》

《死角からの攻撃を受けて失敗した後はしっかり全方位に障壁を張るようになって学習してるじゃないですか》

《麻帆良は安全な場所じゃが、魔法世界での未開地帯なんてこんなものじゃよ。トレジャーハントでもやっとれば、罠で死ぬことも当然あるからの》

《そういう世界だから図書館島がああいう風になるんですね…》

《じじぃも昔これで鍛えた事があったとはな。他に今まで誰か使った奴はいるのか》

《ふむ、ネギ君の祖父であるメルディアナの学園長も使ったの。しかし麻帆良の魔法先生では儂もついこの間まで存在自体忘れとって使わせたことなんてなかったの》

仲が良いとは聞いていたが一緒に使ったことあるのか…。

《ぼーやのじじぃか…》

《このスクロールもまだまだ始まったばかりじゃの。最短で終わるまででも後2日はかかる筈じゃ》

《おや、女子寮の方も大変そうですね》

《このか達かの》

《私もずっと見ているのも飽きるから家に戻るとするよ》

今日の覗き見は終わりとなり、意識を現実に戻した。
どこ吹く風という様子で近衛門は遠見の魔法を使ってネギ少年の様子を観察する訳だが女子中学生が見るには時々痛々しい苦悶の表情を浮かべる事から、多分あっちで死んだのだろう。
スクロールの最初の方とはいえ72倍速なものだから苦しそうにする感覚は短くはないので見ている側としては…。

「このか達の部屋に2-Aの子達が集まっとるの」

《超鈴音の部屋の三人はいないですけどね…》

何処に居るかと思えば工学部でまだ何かやっているようだ。

「龍宮君と刹那君は精神だけが違うところにあるのが分かったようじゃが…」

《木乃香お嬢様に泣き付かれて困ってますね》

神楽坂明日菜と雪広あやかがせっせと汗を拭いたりしているが今回は嬉しそうではない。

「刹那君もこのかともっと仲良くしてもええんじゃがのう…」

とそんな事言っているうちに学園長室に近づく人影。

《葛葉先生が到着したようなので一度隠れます》

「コタロー君の巻物じゃな」

「失礼します学園長」

「入って構わんぞ」

「呪術協会の犬上小太郎の巻物を持ってきました」

「届けてくれて助かったわい、葛葉先生」

「学園長、そちらにも同じものがありますがまさか…」

「そのまさかじゃよ」

「この巻物を使った彼を見ましたが一体どういう事ですか。苦痛を与えるのが目的なのですか」

「安心せい、儂も昔使ったことがあるで死にはせんよ」

「…そうですか。学園長はいつも説明もなしに勝手に行動するのは分かっていますが…。それでは失礼します」

葛葉先生は半ば諦めた顔で戻っていった。

《ネギ少年の方は襲ったなんて言えませんし仕方ないですね。それにしても小太郎君の方の看病はどうなってるのかと思えば点滴使っているんですか》

「ネギ君の方にも超君に連絡して恐らく持っとるじゃろうから点滴を用意してもらおうと思っとるよ。コタロー君は明日エヴァの家に移動じゃな。面倒は茶々丸君に観てもらうとしよう」

小太郎君の呪術協会内での立場は微妙だからな…。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

工学部でオーバーテクノロジーではない高性能サーバ等を制作していたが今日は泊り込みはしないからここまでだナ。
先日の警察からの依頼も大体済んだから今はこちらに集中できるネ。
電車への三次元監視カメラの設置も急ピッチで進み、麻帆良沿線の車両に備え付けられたし、同時進行でそれの周知も行われ、実際に試験運用が始まるのは後数日という所カ。
全ての車両に取り付ける程カメラの製造が間に合わなかたがそれは追々だナ。

学園長から点滴をネギ坊主に与えてくれとメールが来たが襲うというのはとうとう今日からだたようだネ。

《翆坊主、点滴が必要になた経緯について一応説明を頼むネ》

《それはネギ少年が予告通り近衛門殿に襲われて精神だけが魔法のスクロールに取り込まれ身体だけが放置状態となっているので、衰弱するのを防ぐためです》

魔法のスクロール等というものがあるのカ。

《理由は分かたがよく学園長は私が点滴持ていると知ていたな》

《東洋医学研究会ですし、ウルティマホラの疲労回復魔法なんかを見てればそう思えそうですよね。まあ、実際そうじゃないですか。あの時色々実験しましたし》

《そうだナ。しかし、そのスクロールというのは少し入ただけで衰弱するものなのカ》

《簡単に説明すると、その中では現実の72倍速の時間で一番遅くても24日までは起きません。また精神だけが入ってるといっても精神の死があるので放っておくと場合によっては熱が出るそうです》

単純に襲われるよりも辛い試練カ。
72倍とはふざけたスクロールもあるものだな。
最長で288日間とは私達がネギ坊主と生活した時間よりも圧倒的に長いヨ。

《24日には起きるというのは学園長も寮のスケジュールは把握しているらしいナ。分かたネ、魔法球に点滴はまだあるから出してくるとするヨ》

《因みに小太郎君も似たようなスクロールに入ってます。彼の場合は自分から面白そうという理由で飛び込んだようですが…》

《二人共仲の良いことだナ》

「コミュニティで皆ネギ先生が大変って言ってますね」

「作ったクラスのネットワークはこうしてみると便利ですね。ネギ先生が眠ったまま起きないそうですけど魔法関連ですか」

「恐らくそうだろうナ。昏睡状態なら点滴でもネギ坊主に付けてやるカ。しかし携帯自体の性能がもう少し上がた方がいいナ…」

「処理速度が遅いですからね。超さんが作った携帯なら問題ないでしょう」

「うむ、現行のと最新のとを比較しているが天と地程の差があるヨ」

「私も鈴音さんにこの携帯貰いましたけど便利ですよね」

「千雨サンにも渡したら下手なノートパソコンから更新するより早いと言われたからネ。性能は申し分ないヨ」

ネギ坊主の心配をあまりしない私達は冷めているナ。
女子寮に戻たがこのかサン達の部屋の前に皆群がてるネ。

「あ、超りん!携帯見た?ネギ君が大変なんだよ!どうにかならない?」

「見たヨ。私の医学で少しは楽になるネ。まず一旦部屋に戻て必要な物を取てくるヨ」

魔法球の中は物置場としての役目を果たし始めているが、まだまだ空間は広いから問題ないネ。

「皆ネギ坊主が起きないと聞いたから点滴持てきたネ」

「超さん素晴らしいタイミングですわ!ネギ先生汗をかかれていたので直接水を飲ませようと思っていたところでした」

あやかサンが飛び出してきたヨ。

「超の部屋は何でも揃ってるアルな!」

「失礼するヨ。おお、ネギ坊主もこれでは肉まん食べられないナ…。明日菜サンこのパックをこっちに吊り下げて欲しいネ」

「分かったわ。…もうネギったら女子寮のロビーで倒れてたし、起きないし、うなされてるし全く心配ばかりかけて…」

「超りん、ネギ君の症状は何かわかるん?病院に連れて行った方がええんか?」

「よし、これで点滴は入ったネ。ネギ坊主のこの症状…そうだナ、遅くとも4日したら治るヨ。でも、それまでは絶対に起きないと思うネ。大事なのは献身的な看病だナ!」

「看病なら私がやりますわ!」

「ネギは私の部屋に住んでんのよ!私とこのかでやるわよ!」

「病人の前で喧嘩するんはよくないえ」

「ネギ坊主が起きる時に丁度クリスマスパーティで迎えてやると良いヨ」

「「「「それだっ!!」」」」

「きっと起きたら喜んでくれるよネギ君!」

誰も具体的に起きる日を指定した事を聞いてこないナ…。
先に失礼するとするカ。

「点滴が終わたら様子を見て連絡くれれば良いネ。コミュニティで更新するのでも構わないヨ。私はこれで失礼するネ」

「超さんありがとう」

「超りんありがとうな」

さて部屋に戻て夕飯を食べるとするカ。
寮の夕飯には間にあわなかたから五月が作てくれた昨日の残りがあるネ。

「超さん、少しいいでしょうか」

「超、私もいいか」

せつなサンに龍宮サンか、二人はネギ坊主の状態に気づいているようだネ。
先生達に不審がられたら次は裏関係の生徒から目を付けられるとはナ。
美空は全く気づいてなかたみたいだガ…。

「廊下というのも何だから二人の部屋で話そうカ」

「…はい、そうしましょう」

二人の部屋に来たはいいが、このかサンの部屋に比べると殺風景だナ。

「ネギ先生を襲ったのは超さんですか」

せつなサンはそうくるカ。

「刹那、それは早計だろう」

「先生達に不審がられるならまだしも同じクラスからそう思われるのとはネ。質問の答えだが私は襲てはいないヨ。二人は魔法生徒だから見せてもいいカ。これは学園長からのメールだヨ」

「学園長からの直接のメール?ネギ君に点滴を付けて欲しい…これだけ?」

「ははは、ネギ先生が夏に来てからの相坂や超の行動はやはり学園長のせいか」

「龍宮サンは理解してもらえたようだナ」

「…超さん疑ってすいませんでした」

「気にしなくていいヨ。肉まん買てくれればそれでいいネ。ネギ坊主は精神だけ別の場所で修行しているヨ」

「なるほどな。しかし相坂が幽霊だから色々知っているのは分かるが超はどこまで知っているんだ」

「それなりに、知ているヨ」

「深く語る気はないか。…今回と関係はないが、先月二人が入院したのは本当にちょっとした事故だったのか。四葉の様子は明らかにおかしかったぞ」

「…私もそう思います」

「どうおかしかたのかナ」

「死への恐怖が見えた、とでも言えばいいのか」

流石プロは違うネ。

「…ふむ、龍宮サンは報酬を払えば護衛してくれるのカ」

「…ああ、報酬次第だがな」

「それなら期待に答えられるヨ。麻帆良内では必要としていないが、麻帆良の外に出る時は依頼するかもしれないネ」

「そうか、依頼人予定のプライバシーを深く追求するつもりはないさ。必要な時には協力しよう、ウルティマホラではお布施も随分貰ったことだしな」

そういえば3日間で大分払たからナ…。
その大部分は実行委員会から返て来たが。

「よろしく頼むヨ。因みに小太郎君もネギ坊主と同じ状態らしいから見舞いに行くといいかもネ」

私は呪術協会に入た事はないがせつなサンはあるだろうな。

「小太郎君もですか!?」

「二人はライバルだからネ。せつなサンはそんなに心配なら手でも握て来てあげるといいヨ」

「そ、そんな事は!」

「恥ずかしがる事はないだろう。私も明日見に行くとしようか」

「そろそろ私はこれで失礼するネ」

お腹も減たし部屋に戻るとしよう。

後でこのかサンがネギ坊主の容態が少し良くなたと更新していたがやはりこちらから確認しなくてもリアルタイムに情報が入てくるのは便利だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

次の日、近衛門の予定通り早々に小太郎君は茶々丸姉さんによって必要なもの共々エヴァンジェリン邸へと移され、面倒を見られることになった。
桜咲刹那と龍宮真名が呪術協会に向かったが、既に移されていることがわかり、彼女達にとって初めてエヴァンジェリンお嬢さんの家に向かうという事になった。
小太郎君の場合存分に力を出す事ができるので辛そうにしながらも、満足したような顔になるため、見舞いに来た二人は予想よりも落ち着いた状況に安堵していた。
確かにネギ少年ほど深刻な状況ではないが、いくらスクロールを弄ってあると言っても砲台としての魔法使いの広範囲殲滅魔法を持たない彼にとってはかなりきつい修行になっているのは間違いない。
ただネギ少年、小太郎君共に浮遊術と気を車輪のようにして飛ぶ技術をこの一ヶ月強で完全とは言えないながらも身につけているので何処かに追い込まれてそのままみすみすやられたりということはあまりない。

しかし、誰がこのスクロールの原型を作ったのかは知らないが、とにかく長い。
既に一日が経過して72日間が経過しているが、ネギ少年はまだ大丈夫なようだ。

「奴は一体どこにいるんだ…。もう長いこと皆の元に帰っていないけど、もしかしてここもマスターの別荘みたいに時間の流れが早いのかな。何度死を体験してもあの部屋に戻るからここが実体のある場所ではないのは分かる…」

そう言いながらネギ少年が進んでいるのは現在狭い洞窟だが、いつ敵が出てくるかわからない状態である。

「……………」

無闇に明かりを点けなくなったあたり魔法使い云々よりも段々と何か違う方向に経験が積まれて行っているが、あらゆる地形に対応できるようにという配慮なのだろう…と思いたい。
常に戦う場所がウルティマホラの時のような決められた範囲内で整った場所でも、別荘の冬山エリアのような寒くて開けている場所とは限らない。

「ッ!」

―魔法の射手!!雷の9矢!!―

洞窟の僅かな音と共に無詠唱で攻撃をしかける少年は神経が研ぎ澄まされていた。
破壊属性の光の矢を使わないのも狭い場所では正しい判断だろう。
ふざけたスクロール内では、一定以上の衝撃を与えると建物が崩れるという箇所が存在し攻撃に際しての手段は的確に選ぶ必要があったりする。
果たして実践にどれほど役に立つかはわからないが…。

地味な状況だけでなく、例えば図体の大きなボスを相手にする際には速攻で確実に潰していく戦法をとりつつある。
初手で魔法の射手を連射し、通りの良い場所を見つければ、雷の斧を唱えるか虚空瞬動で接近し未完成・断罪の剣を容赦なく当てるようになっている。
一方人型サイズの相手の場合には動きが素早い事が多いため敵の手札が2,3わかるまでは迂闊に近づかずに回避と防御を基本にして、切り口を見つければ捕縛属性の風の矢を使って行動不能にした上でとどめを刺すのがある程度セオリーとなりつつある。
一度接近した瞬間に石化攻撃を喰らって終わったのは相当堪えたようだ。

精神的に死ぬだけでなく心を挫く仕掛けが数限りなくあるは何なのだろうか。

一方小太郎君はイベントに参加する感覚に近いのか失敗すると当然痛いので辛そうではあるが、「くっそー!もう一回やったるで!」と前向き過ぎて感動した。

彼らの身体の方のケアは充実しているので命の危険が迫るほど衰弱する事もなく時間が過ぎて行き、3日目を越し4日目に突入した。

「このスクロール長すぎないか。まだじじぃのコピーに辿り着いてないじゃないか」

「そうじゃのう…でもネギ君はもう後1時間もすれば辿り着くじゃろうな」

《小太郎君はまだしばらくかかりますか》

「ふむ…元が魔法使い用じゃから、弄ったには弄ったが相手の数が多すぎたりする場合にはネギ君のように雷の暴風で薙ぎ払ったりできんし、基本魔法で罠の探知などができるネギ君とも違うから後7時間はかかるの…。それでも戦闘の時に分身で頭数を増やしてそれぞれ気弾を放つという作戦は良いの」

「小太郎はその場その場を楽しんでいる傾向があるからな。ぼーや程最後まで絶対に到達という目標が明確になっていない」

「二人共儂の所までは辿り着くようじゃから問題ないじゃろ」

《てっきりどちらかは精神的に参ってリタイアすることになるかと思ったんですがね…。ネギ少年は空間の異常性に気づいたとはいえもう200日越えてますよ…。それに近衛門殿のコピーなんて倒せるんですか》

「じじぃのコピーが手抜きでもしない限りはまずないだろうな」

「もしも勝ったらそれで十分じゃが、儂としてはネギ君は一度大きな壁に当たった方が良いと思うんじゃよ。あの子は天才的な学習能力で大体乗り越えてしまうから何かにぶつかって長いこと苦労した事がないじゃろう。エヴァが指導して模擬戦で力の差は分かっておっても明確な挫折を味わったことはまだないじゃろ」

そもそも倒させる気は無いんですね…。
だからこその4日後には自動で解除という仕掛けがあるのか。

「…そうだな。あのぼーやは小利口だから何でもすぐに吸収してしまう。一般人が長いこと伸び悩んでからある時急激に伸び始める事がないのはぼーやにとっての欠点でもある」

《ネギ少年の成長を線で表すと常にどちらかというと直角に近い右肩上がりですからね…。一般人の感覚を学ぶというのも教師として役に立つという事ですか》

「若いうちは何事も経験しておくに限るの」

初日にネギ少年の様子を見て動揺した孫娘達も今はひたすら少年が無事に起きるのを待っている。
一方で特に直接何かできるわけではない2-Aの中学生達はクリスマスパーティを盛大にやろうと忙しく動いている。

そんな中いよいよネギ少年は近衛門のコピーの元へと辿り着こうとしていたのだった。



[21907] 22話 超部活設立
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/06 19:54
《それにしてもネギ君の詠唱速度は早いもんじゃの》

《そうなるように鍛えたからな》

《本気でやると雷の斧なら質は低くなるものの連射できるのは凄いですよね。それでも近衛門殿も異常に早い上、無詠唱で発動できる魔法が多すぎますよ》

《ふぉっふぉ、年の功じゃて。して、この3日間でネギ君が使っとる魔法障壁のようなものもエヴァが教えたのかの》

《完成形には程遠いがな。本当はもっと強度があるが、ぼーやのは密度が薄いからすぐ貫通する》

《掴みだけでもできているだけで私は驚きですよ…。この3日間で最初よりは密度も濃くなってるじゃないですか》

《なるほど、新魔法のようじゃな》

《そんなところだ。そろそろじじぃのところに着きそうだが戦場はどんな場所だ。まさか洞窟だなんて言わないだろうな》

《どこまでいっても地面も壁もない、あるのは空のみじゃよ》

《空間認識能力が試されますね》

《最後の最後も初めての場所か。じじぃの転移魔法が一番有効に使えるだろうな》

《最初は何秒持つかの》

瞬殺宣言だった。

《ここまで来るのにぼーや達の浮遊術はほぼ完璧になっている。せめて1分は持たせて欲しいものだ》

そして、とうとうネギ少年は近衛門のコピーの元に辿り着いたのだった。

わざわざ近衛門のコピーが「ここまで来れたのは褒めてやろう、だがここで終わりだ!」なんていう挑発を言い出して開幕。
様子見するかと思えばコピーが最初から本気で潰しにかかり瞬移で死角に回り込み魔法領域を容易く貫通する魔法の射手の雨を乱射。
少年は早速深手を負いながらも風精囮を出現させ虚空瞬動で移動するが、囮にも移動先にも魔法の射手が同時に着弾し一度目は為すすべなく撃墜。
これが全て魔法の射手なのだから恐ろしいものだ。
いかに少年が高速思考、詠唱ができても攻撃に対処できなければ意味が無い。

《近衛門殿、容赦ないですね……》

《手加減したら意味ないじゃろ》

《これを見ると私の訓練も甘いものだな…。そもそも本当に殺すつもりでいつもやっていないから仕方がないが。しかし5秒も持たんとはな》

《貫通した数が多い上に大体急所狙いですからね……》

《戦争じゃとこんなもんじゃよ。一瞬で復活はせんから少しばかり時間がかかるの》

《お優しい事に精神のダメージを緩和させるために間を置いているんだな。これが昔の私の闇の魔法のスクロールならじわじわ傷めつけて遊ぶだろうが、これはあっさりいくな》

闇の福音の頃だとそんな感じの行動を取るんですか……。
その後意識を一旦現実に戻し、2分、つまり二時間程時間を早送りし、また戻るというここ数日で慣れた行動を繰り返す事になった。

《2度目は開幕から浮遊術で高速移動しつつ風花風障壁を自分の死角に連続発動か。大方威力を見極めるつもりだな》

優しい事にわざわざ魔法の射手を障壁に向けて放つコピー。
しかし、結果はその魔法の射手が継ぎ矢の容量で同じ箇所に放たれており、あっさり貫通し急所に命中するという異常な結果だった。

《確かに風花風障壁は防御力が高いが面ではなく点で突破すれば紙のようなもんじゃよ》

《首筋と心臓、頭にまで撃つとはな……》

ショッキングな映像だった。
一発触れたら即終了のタイプのゲームかという状況である。

《こう何度もすぐにやられるとスクロール内で復活に数時間かかると些か面倒ですね》

現実で数分落ち着くのも何なので小太郎君のスクロールも覗いたが、まだ最後まで到達していないが分身の密度上昇が著しくガンガン攻略中であった。
むしろ分身に実体が出せる小太郎君の方がコピーと当たった場合耐久時間は長いかも知れない。
見られているとも知らず獣化も頻繁に使用している。

ネギ少年の方に戻るとすぐさま部屋から出ていくかというと今回は悩んでいた。

「風花風障壁をあんなに簡単に破られた。一方向に障壁を何重にして守ってもすぐにまた死角から魔法の射手が飛んでくる。せめて急所に直撃するのは防がないと……。そもそもあれは虚空瞬動なのか?厄介な瞬間移動に対応できない限り勝機が見えないな。奴が魔法の射手なら僕もこの長い間に本数も増えた無詠唱魔法の射手で対抗するしかないか」

まもなく強制的にコピーの元へ移動させられ戦闘再開。

《ぼーやも今回は厳しいだろうな》

《まだ全然挫けてませんからどこまで伸びるかですね》

《ほう、ネギ君も魔法の射手で来るかの。じゃが威力がまだまだじゃの》

そら魔法障壁があってないような貫通の仕方をする魔法の射手に簡単に対抗出来るわけがない。
今回も駄目かと思われた矢先。

《ぼーやの奴雷の斧を身体全体に振り回し始めたぞ。連続詠唱のお出ましか》

《面白い事しますね。確かに雷の斧レベルならば近衛門殿の魔法の射手の軌道を少なくとも急所からは反らせられますね》

それでも少年は少なくない数を身体に被弾した。

《斧より鞭に近いのう。ふぉっ、左手にも出して攻撃しおったか》

右手で防御、左手からの雷の斧で防御の隙間から攻撃。
右手の雷の斧の持続効果がきつくなると無詠唱魔法の射手に移行。
しかし攻撃は一切当たらない……。

《複数の魔法をこの年で同時に行使できるとは大したもんじゃな。じゃがもう限界じゃの》

既に急所以外の部分の身体がズタズタになっていたため力尽き、あえなく三度目はこれまでとなった。

その次は防御するのを捨て、回避に専念する事にしたようだが連続の虚空瞬動は近衛門にはタブーである。

《ぼーやも分かってるだろうがどこまで機動力に差があるかの確認のつもりだろうな》

《まだ戦闘経験が甘いから何処に移動するか簡単にわかってしまうの》

《避けていると思わせてやはり誘導ですか。時間は10秒でしたね……》

《これはしばらく試行錯誤が続くだろうな。普通子供相手に最初から本気でかかる相手なんてあまりいないが》

《初見の相手の力を見誤り油断することの愚かさは叩き込まんとな。最初から本気でなくとも後から突然強くなられれば同じことじゃよ》

夜9時頃にコピーとの戦いに突入したネギ少年だったがその7時間後の午前4時頃の小太郎君が追いついた時には、スクロール内時間で21日後、死亡回数も100を超えていた。
何度も試行錯誤を持てる魔法を駆使して実験したネギ少年の結論としては、強力な詠唱魔法で対抗したところで、相手は必ず回避し、攻撃手段が相変わらず無詠唱の魔法の射手のみという速射性の違いからジリ貧にしかならない為、魔法領域の強化と少年自身も同じく魔法の射手の威力を近衛門に近づけ相殺を狙うという事を何度も何度も実戦の中で繰り返すようになったのだった。
螺旋回転を早々に取り入れ、練度を着実に上昇させていった。
死、とはいっても精神空間内であるが、これを繰り返すとその度に徐々に精神力が高まっていくので飛躍的な効果が得られた。
少年の魔法の射手1矢は9月に修行を始めた当時魔力を込めたストレートパンチ一発の威力程度しかなかった。
それも今では、死ぬと移動する部屋の壁に、螺旋回転を加え威力が拡散すること無く罅が一切入れずに綺麗に穴が開くようになった。
それでも近衛門の魔法の射手には届かないが、無詠唱と最も基本的な攻撃魔法の延々とした訓練のお陰で魔分の運用効率が上昇した結果魔法領域の出力も上がってきた。
矢が着弾すると貫通までに一瞬の余裕が発生し、根本的に大分慣れてきたのもあってその瞬間にわずかに虚空瞬動することで何割かの確率で回避もできるようになったのである。

《後十数時間ですね。ところでこのスクロールは一箇所で長時間じっとしていられない理由はやはりできるだけ今持てる力のみで戦えるようにという配慮です……か》

と思ったら近衛門寝てた。
お嬢さんも一旦帰ったし。
結局見守るのは本当に私の役目らしい。
ところで経過時間の割に死亡回数が少なくなっている理由は、ダメージの受け方によって復活までにかかる時間の長短が決まるため大分粘るようになってきた少年はその度に復活までの時間も伸びてきているからである。
成長してきたとは行っても、戦闘で持つ時間はやっと秒の域を脱し、分の階段にようやく足を踏み出した程度だ。
まず今回そもそも勝たせる気はない試練なので、時間が伸びればそれだけでも十分とは言えるだろうが。

それから更に3時間、9日が経過した小太郎君も結果は最初のネギと同じである。
少し違うのは小太郎君の方が野生の勘とでもいうのか反応が良い時があり、また、やはり実体のある分身が出せる上、狗族の生命力の高さから攻撃を受けても撃墜されるまでの時間が始めからやや長い事である。

ようやく朝7時近衛門が起きた。
とりあえず先ともう一度同じ質問をした。

《その通りじゃ。スクロールで数日時間があれば新魔法でも開発できてしまうかもしれんがそれはちと趣旨が違うの。あくまでも戦闘の度に持てる力のみで対処する経験は多い方がええじゃろ。その為にも何度もやり直せておるんじゃからな。これで一箇所におる時間がたっぷりあったら勝てそうになるまでネギ君の場合修行し続けそうじゃろ》

だ、そうだ。
まあ言われてみればそうかもしれない。
ラスボスの一歩手前でセーブして修行し始めたら4日間という時間制限が存在するこの試練の趣旨が削がれるのは間違いない。

《朝になってきてみればまだ3分も持たないか》

お嬢さんもお出ましである。

《近衛門殿の瞬間移動は異常ですからね。先読みができない限り攻撃も当たらないですし。でもネギ少年随分成長しましたよ》

《ふむ、ぼーやの奴じじぃと同じ技術を磨く事にしたのか》

《ふぉっふぉ、これでネギ君は儂の弟子でもあるの》

《何言ってる。努力してるのはぼーや自身だろうに》

お嬢さんは少し嫉妬しているようだ。

《近衛門殿、ここでの空間の経験は肉体が無いですが現実に戻った場合どうなるんですか》

《それは肉体が付いて行かんから劣化するの。それでも経験と記憶はしっかり残っとるから意味はあるぞい》

やはり、ここでの成長がそのまま現実で反映される訳ではないか。
記憶が残るということはやはり魔法開発にはうってつけだろう。

《スクロールに入ればすぐに誰でも強くなれるのならば魔法学校等いらんしな。》

《エヴァは厳しいこと言うの》

《現実はいつでも甘くないという事だよ。それにしても後から追いついた小太郎の方が最初は善戦しているな》

《生命力と分身、勘がありますからね。》

《長瀬君との修行は効果あったようじゃの》

近衛門も知っていたか。

《彼女もあの年にしては相当な手練ですからね。瞬動術に関してはほぼ完成形と言って良い上、気の扱いもかなりのものです》

《私は直接見たことはないが、体育の時の身のこなしを見る限り、下手な魔法先生より強いだろうな》

《そうじゃな。長瀬君が山奥からわざわざ出てこの学園に入った理由は一般人の生活を学ぶ修行だそうじゃがな》

だから一応は「忍者ではござらんよ」なんて言うのか。
麻帆良学園の外だったらもっと浮いていただろうが、そこは良かったのか逆に修行の場として温いのかもしれないし、どうだろうか。

《昔からたまに忍者が学園に入ってくることもありましたが、入学時点でこれだけ強いのは彼女が初めてでしょうね》

《入ってくるにしてもある程度都会慣れしとる忍者が多かったがの。長瀬君は珍しい例じゃよ》

生きる化石か何かなのだろうか。

そんな話をしながらも刻々と時間が過ぎていく中で、ネギ少年は最近練習していなかった遅延呪文にも手を出し始めた。
どうやら解放しながら同時に高速詠唱を行うつもりらしい。

《頭の回るぼーやはまた遅延呪文をやり始めたか。まあ否定はしないから好きにすればいいがな》

《ふぉっふぉ、あれもこれもとやってはどっちつかずになると思うがの。ネギ君の才能に期待じゃな》

《高速で詠唱が行えますからそこまで必要かというと疑問もありますが一度に発動させれば火力は上がりますね》

《断罪の剣を遅延呪文で貯めておくのは今のぼーやには防御としても利用できるな》

まさに攻撃は最大の防御って、少し違うか。
しかし、高速移動、魔法領域、無詠唱魔法の射手、その他の高速詠唱、更に遅延呪文が並行して使えるのは才能に溢れすぎだと思う。
最初の3つが最終的には完全に無意識でできるようになるのだろうが、まだそこまで熟達していない。
対して、今の近衛門コピーは攻撃を喰らわないという前提のため、高速移動、無詠唱転移魔法及び魔法の射手だけで対処している。
非常にシンプルだがそれ故に強い。
近衛門を完全に倒すならば、どうにかして捕獲するか、一点を爆心地とした広域殲滅魔法で消し飛ばすしかないのではないだろうか。
生半可な広範囲魔法ではどうせ相殺するか防がれるか又は完全に一旦退避されるであろうし難しいだろう。
神経ガスを大量に散布するか強力な爆弾などが良い対処法だと思うが、外道である。

長くなったがネギ少年の時間制限的に最後になった戦いは良くやったと思う。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「うわぁっ!!」

「ぐっ……はぁっ……はぁっ……またやられたのか」

もうこの起きた瞬間の激痛も数百回は超えた。
それでも父さんの仇なら負けるわけにはいかない。
もう一度だ。
移動する前にいくつかの魔法は発動しておけるから準備しよう。
まずは浮遊術から……。

    ―戦いの歌!!―
   ―魔法領域展開―
―断罪の剣・未完成 術式封印!!―

    扉を開ける前に

  ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
 ―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え―
 
    さあ行くぞ!

    ―雷の斧!!!―
奴は予想通り転移、次は今まで通りなら続けて魔法の射手が死角の斜め上か下から飛んでくる筈。
    ―風精召喚―

マスターの教え通り一箇所に留まらず踵に魔力を貯め虚空瞬動。
上方に移動しながら上下反転で後方視認!!

攻撃は下から!追尾式魔法の射手が来る!
ここで相殺だっ―解放!!―全弾撃破!
続けて―光の17矢!!―

どうせ通ってない!背後の急所の射線上に
 ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え―
振り返って―雷の斧!!!―

……今度も撃破、次はどっちだ。
移動して離れようにも奴の瞬間移動できる距離は底が知れない。
とにかく―断罪の剣・未完成 術式封印!!―
再度右手に―断罪の剣・未完成!!―

左手で避けられない―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―雷の精霊199柱!!集い来りて 敵を射て―魔法の射手 連弾・雷の199矢!!―攻撃だっ!行け!!

奴に魔法障壁を張る気がないのは分かってるけど、前方180度に向けて多弾頭で放っても倒せはしない!
どこに反応が…左上かっ!
断罪の剣で吹き飛べっ!

「はぁっ!!」

全力で投げつけるっ!!

……けどやっぱり回避されるか……もっと全然、速度が足りてない。
奴と対等に戦うなら転移魔法がないと駄目だし、雷系最大呪文の千の雷も覚えないと!

まだ、まだ、始まってもいないのに!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《今回で終わりでしょうけど集中力が凄いですね》

《ああ、最後の最後で7分経っても未だまともに被弾していない》

《ふぉっふぉ、ここまで来れば合格じゃろうて》

―出力最大!!―

おおっ、かなり高い水準の魔法領域か!

《ぼーやの奴、壁を突破したか》

《こりゃ驚いたわい。あそこまで硬くなるのかの》

既にあちこちに滞空している光球から放たれる無数の魔法の矢を未完成の断罪の剣で吹き飛ばす少年。
同時に魔法の射手で応戦し、相殺しきれず突破してくる矢は魔法領域着弾後、2秒かけて突き進みながら減衰、消滅に至るようになった。
もうすぐ現実に戻ってくるとして、再現が難しくなるというのが惜しいぐらいである。
流石にお嬢さんの雷の暴風を一瞬で霧散させてしまうのと比べるべくもないが、戦闘訓練を本格的に始めて4ヶ月程度の子供が到達するレベルは遥かに超えている。

《このままだと魔力が完全に尽きるまで続く持久戦になるな。小太郎のようにこちらも行動パターンが変わるのか?》

《そうじゃな。もうそろそろじゃろう。》

近衛門のコピーの行動のルールは現状の戦法で速攻で倒す事が第一となっている。
当然現状で倒せないと判断すればすぐさま攻撃パターンが変わる訳だ。

近衛門の宣言通りすぐにコピーの様子が変わり、空を埋め尽くす大量の槍が出現した。
少年はそれを見た瞬間の表情はなんともいえなかったが、そろそろ身体も限界に達しそうな所、まもなくそれらが殺到した。

《まともな対抗手段も無くここまで出させたなら良くやったよ、ぼーや》

《ええ、ここでの経験は後で成長につながると思います》

《10分を越すとは儂も思わなんだ。ナギとはスタイルは違うが、片鱗を見たの。》

《ああ、ぼーやだけの進むべき道の始まりだな》

さて、小太郎君の方はどうなったかだが……。
実体のある分身2体と共にお互いに攻撃と護衛を補い合うという戦法で善戦していた。
一人が防御に全力を注ぎ、一人が攻撃に、もう一人は両方の補助をしながら視野の確保で死角を潰す。
うまくできていたため、耐久時間は長かったが、攻撃が本体に当たるとなると一気にやられてしまう弱点があった。
異常な威力の魔法の射手を見てやはり彼も気弾一発ずつの威力を上げるようになり、2発なら1矢を越える威力にまで上がった。
結果この地道な気のコントロールのお陰で全身の気での強化も遥かに効率が上昇し、獣化するとその伸びが実にはっきりした。
その水準に達したのはネギ少年の最後の戦いよりも数十分、つまり1日と少し早かった。
しかし先の通り、早々に攻撃パターンが変わった近衛門コピーによりそれもあえなく撃墜されたのだった。
ネギ少年よりも到着は遅くなったが視野の問題を解決できるという点はネギ少年よりも遥かに有利であった。
スクロール内の二人が戦ったら先に近衛門に攻撃手段を変えさせた小太郎君が勝つかと言えば、ネギ少年の魔法領域の頑丈さ、未完成断罪の剣の危険性も考えると、どうなるかはわからない。
何より、今回は終始遠距離戦であり、接近戦のかけらもないので比較が難しいだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「うわぁぁっ!!」

最後にあんな攻撃に移ってくるなんて!

「ぐっ……はぁ……はぁっ……あれ!?ここは?」

「ネギ!気がついたのね!」

「ネギ君起きたんやね!」

「ネギ先生!よくご無事で!」

ああ、やっと…やっと戻ってきたのか…。

「うっ…うっ…うっ…」

「ネギどうしていきなり泣き出すのよ」

「いえ…戻ってこれたのが嬉しくて…。凄く…長い間ずっと寝ていた気がします」

「ネギ君な、4日間ずっと寝てたんよ」

あんなに長かったのにたったの4日間!?
マスターの別荘の比じゃない!

「たったの4日間……」

「たったって何よ!ずっと苦しそうにしてるし、汗はかくわ心配してたんだからね!」

そうか、アスナさん達は僕の事をずっと看病してくれてたのか…。

「アスナさん、このかさん、あやかさん、心配させてごめんなさい。寝ている間にご迷惑をおかけしました」

「ネギ先生、そんなにすぐ動かれて大丈夫なのですか?」

「そうやよ、ずっと寝てたんやからゆっくり起きんと身体に悪いえ」

「大丈夫です」

「ネギ…何か雰囲気変わったわね」

ずっと一人で生活してたからかな。
前より精神的に強くなったのはわかる。

「アスナさん、僕は僕のままですよ」

「何だかネギ先生が凛々しくなられましたわ!」

「そうけ?…う~ん…よく見ると顔つきが変わったような気がするなぁ」

「ま、それは良いとして今から寮の食堂でクリスマスパーティやるから行きましょう」

「そうやね!ネギ君の為にクラスの皆も張り切ったんやよ!」

「では早速私がネギ先生のお着替えを…」

「いいんちょ!それぐらいネギなら一人でできるわよ!」

ふふ、この二人は変わらないな。
久しぶりに現実に戻ってきて、起きてみればクリスマスパーティを皆が準備してくれているらしい。
食堂に向かう途中の廊下

「ネギ、さっきたったの4日って言ってたけどまさかエヴァンジェリンさんのアレみたいな感じだったの?」

アスナさんが耳元に頭を寄せながら小声で話しかけてきた。

「確信はないですけど、4日間は僕にとっては数ヶ月間の時間だったと思います」

「数ヶ月!?何よそれ!」

「アスナさん、声が大きいですよ」

「わ、悪かったわね。でもただの夢じゃなかったのね…」

「はい、全部覚えてます。だからアスナさん達に会えて嬉しいです」

「ば、馬鹿ね。同じ部屋に住んでるんだから当たり前じゃない」

…アスナさんは素直じゃないな。
そんな事を話しながら食堂についた。

「「「「ネギ先生復活おめでとう!!!」」」」

「ほらネギ、皆あんたのこと心配してたんだからお礼ぐらい言いなさい」

「はい!皆さん心配かけてごめんなさい!こんな綺麗な飾り付け見たこと無いです、ありがとうございます!」

「硬いことはいいからネギ君の席はこっちだよー!」

「そんなに引っ張らなくて大丈夫ですよっ!」

「恥ずかしがらないくていいよー!」

そうだ、これが2-Aの皆だったな。
クリスマスイブっていうと落ち着いて過ごすものだったと思うけどここでは関係ないみたいだな。

《ぼーや、起きたようだな》

マスターだ!

《マスター、心配かけてごめんなさい》

《気にすることはない、ぼーやの体験の原因は学園長からの試練だからな》

学園長先生の試練!?
じゃあ最初に襲って来たのも学園長先生だったって事なのか。

《じゃあ父さんを封印したっていうのは嘘なんですか!?》

《ああ、そうだ。ぼーやに本気を出させる為の口実だろう》

《そうだったんですか…。でも僕最後の相手を倒すことはできませんでした…》

《当然だよ。あれは姿は異なっても学園長なんだからな。それに元々倒させる気は無かったようだ》

《あの最後の相手は学園長先生だったんですか……》

《私も何度か覗いたが、まあ新型の基本魔法もまだ不完全な状態で良くやったよ。あれでぼーやに新魔法でもじっくり開発する暇があればもう少し健闘できただろうな》

《はい、落ち着いていられる時間が殆ど無かったのはきつかったです》

《それでも戦闘中での地道な工夫と発想は良かったぞ。特に最後の集中力と、魔法領域の完成度は目を見張ったよ。浮遊術も最初と比べると自然になった》

《ありがとうございます!》

《…それと、あの空間だが、学園長もぼーやのじじぃも経験済みだそうだ》

《おじいちゃんが!?》

《小太郎もぼーやと同じ日からやっていたよ。結果はぼーやと同じで最後の相手を倒すことはできなかったがな》

《コタロー君も!?》

そうか、おじいちゃん達もコタロー君も同じことやったのか。

《明日学園長の所に行くと良い。一応試練に耐え切ったご褒美をくれるらしいからな》

ご褒美ってなんだろう…。

《はい、分かりました、マスター》

《今日は楽しむ事だな。それでは通信を切るからな》

う~ん…なんだかずっと騙されてた気がするんだけどな…。
でも、今日は言われたとおり、皆に会うのも久しぶりだし楽しもう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ少年と小太郎君は両者共に288日間の長きに渡る精神空間をリタイアすることなく過ごし切った。
小太郎君は近衛門のコピーを倒すことができなかった事を悔しがっていたが、勝てたら勝てたで近衛門よりも既に強い事になるので流石にそれは無い。
あの空間では肉体的成長は一切しないものの、精神力、反射神経、戦闘技術やこれらの積み重ねの中での勘については飛躍的に伸びたと言える。
スクロール内で全く新しい新技を開発するだけの安全な時間が無かったものの、その場の発想の中での技の昇華は著しいものだった。

ネギ少年と小太郎君は次の日、言われたとおりに学園長の元に向かった。

「ネギ君、コタロー君4日間よく頑張ったの」

「へっ、学園長も乗り切った言うんやから当たり前やで!」

「僕は少し騙された気がしました…。でも途中で挫けそうになっても頑張りました」

「して、二人は凄く強くなったと思っとるかの」

「おう、数倍は強くなった気がするで!」

「僕もそう思います」

「そういうと思っとったが、あのスクロールは精神だけを取り込んどるから、現実で同じ事を再現しようとすると劣化するんじゃよ」

「えー!?そんなアホな!折角あないに強うなったと思うとったのに」

「そうだったんですか……。でも出来事はしっかり覚えてます」

「その通りじゃ。経験と記憶は残っとるからそのイメージに近づくのは修行次第でじゃから努力すればええ」

「意味無かったんやないんか。よっしゃ!それならまた修行や!」

「あのイメージか……忘れないようにしないと」

「しかしネギ君には何も伝えずスクロールに放り込んで悪かったの。恨まれても文句は言えんのじゃが、このプレゼントで我慢してもらえると助かるの」

「おじいちゃんもやったと聞いたのであまり気にしてません。それでこれってニュースでやっていた三次元映像ですか」

「なんで学園長が持っとんのや」

「それは色々秘密があるんじゃよ。大事なのはこの映像の内容じゃ。確かこの辺じゃったの」

「ここ龍宮神社やないか」

「うん、ウルティマホラの時とは少し舞台が違うけど…」

「これはの、今は形だけ行われておるまほら武道会の昔の映像じゃよ」

「おっこの赤毛の奴ネギによう似とるな!」

「え、ナギ・スプリングフィールド!?学園長先生、これって?」

「ネギ君の思った通りじゃよ。これはネギ君の父親が10歳で、まほら武道会に突然参加した時の映像じゃ」

「これがネギの父ちゃんか!」

「これが父さんの小さい時…こんなに強かったんだ……」

「なんやめっちゃ強いな!……でもあの学園長の偽物に比べるとまだ戦えそうやで」

「そりゃそうじゃろう。この大会では地面があるからの。それに色々ルールもあるものじゃから二人が戦った儂の偽物とはそもそもスタイルが違うんじゃよ」

「ウルティマホラみたいなもんなんか。」

「近接戦闘がなんだか懐かしいや」

「ナギの話じゃが、当時既に浮遊術は完璧にできおったし使える魔法は少ないものの体術のセンスは誰に教わるでもなくとにかく強かったの」

「父さんはどこまで勝ち残ったんですか」

「最後まで見てのお楽しみじゃよ。全試合揃っとるからじっくり見ていくとええ」

「学園長先生、ありがとうございます!」

「昔はこんな凄い大会あったんやな」

「実は来年の麻帆良祭では当時と同じまほら武道会を開催する予定なんじゃよ」

「本当ですか!?」

「一般人対策はどうするんや」

「それはしっかり対策を用意しとるから気にせんで良いぞ。二人とも出場する気があるならこれからも修行を続けるとええじゃろ」

「当たり前や!ウルティマホラと違うて気を隠さず使えるんなら絶対出場するわ!ネギもそうやろ?」

「うん、僕も絶対に出場するよ!」

「特別企画もあるようじゃから楽しみにしておくといいじゃろ」

ナギ少年が優勝まで行くまでの映像を真剣に見続けていた少年達の目は輝いていた。
その後の少年達にまずは魔法のスクロール内での自分のイメージに追いつくこと、そして目指すは10歳の時のナギ少年を越すという明確な目標ができ、より修行に打ち込むようになったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ先生達の試練も終わり、年末年始となりました。
テレビのニュースではとうとう麻帆良沿線での監視カメラの試験運用が始まったと報道され、試験運用期間の間に犯罪発生率がどれだけ減少するかのサンプルが集められるそうです。

「今年も無事に年末を迎えられましたね」

「そうだナ。私にとても日本での二度目の年末になたヨ」

「去年は年を越してから蕎麦を食べましたが、今年こそ正しく食べられましたね」

「そういえば鈴音さんも葉加瀬さんも去年は年末年始関係なく研究ばっかりでしたね」

「そう言われると、まだまだ研究することは尽きないのだけどナ」

「私も相坂さんが収集した行動プログラムで新型ロボットの新たな可能性を模索したいです」

「あのプログラムに従えば人型に限らず四速歩行でも昆虫の動きも再現できるだろうからネ」

「昆虫の動きはちょっとやめて欲しいです…」

「何言ってるんですか相坂さん!昆虫の動きからはまだまだ学ぶべきところが限り無くあるんですよ!例えばムカデの足の動きが精密に再現できれば新しい自動車ができるかもしれませんし他には…」

なんでムカデとかそういう考えたくないものをいきなり例に上げるんですか!
そんな見た目の乗り物乗りたくないですよ!
…というか折角年末でほっと一息かと思えば結局マッドサイエンティスト化するんですね…。

せめてもの癒しと言えば、日本での年末年始が初めてのネギ先生が初詣やおせち料理にどれぐらい感動するのかというところですが、きっと目を輝かせてくれると思います。
でも、今回の試練を乗り越えてなんだか顔つきが変わってただのかわいいからカッコイイになったと皆言っています。
コミュニティの方の情報もそういう書き込みで盛り上がったりしてますけど凄い内輪にしか役に立たない内容ですね。
連絡網としてもかなり役に立っているみたいでカラオケに行こうとか、近いうちに服を買いに行く予定があるけど誰か一緒に行かないなんていうのを書き込むと同じ寮の部屋でなくてもすぐに伝わるので便利といえば便利です。
長谷川さんは未だに積極的にコミュニティでは情報を出していませんが、自分のブログでは相変わらずのようです。
SNSの制作には協力を得ているので規模が大きくなれば飛躍的に会員が増える事につながると思います。
と、ぼーっと考え事をしていたら鈴音さんと葉加瀬さんの白熱した会話はまだ続いていたみたいです。

「二人共もう後10秒で新年ですよ!」

「おお、そうだナ」

「カウントダウンですね」

6,5,4…

「「「3!2!1!、あけましておめでとう!!」」」

「それにしても皆すっかり携帯の更新にも慣れましたね」

「予想通りだが、大量のあけましておめでとうだネ」

「やってみて思いましたがこれは絶対流行りますね」

「うむ、間違いないヨ。さて、皆で初詣に行くみたいだから用意しようカ」

「はい!」

女子寮の前で皆と合流し、ネギ先生も引っ張って龍宮神社に行き初詣をしました。
綾瀬さんがネギ先生に詳しく参拝の方法とそれにまつわるうんちくを長々と講釈していて、流石神社仏閣マニアだと再認識しました。
去年しつこく追い掛け回されたのも良い思い出です。

次の日去年と同じく朝食堂でおせち料理を食べた後、改めて神社に向かい、おみくじを引いたり絵馬を書いたりというのは伝統通りというのか去年と違いありません。
しかし今年は私に違いがあります!
それは私も着物を着ているということです。
ネギ先生が似合ってますねと褒めてくれて着て来て本当に良かったです!
それを聞いた着物を来ていなかった人達は私達も買っておけば良かった!と騒ぎになり、結局ネギ先生が全員に似合ってますと言う羽目になりました。
龍宮さんに私と鈴音さんは猛烈に安全関連のお守りを進められ、良いようにお金を消費させられたのです。
後で確認しましたが流石に安産祈願は余計ですよ!
語感的に似てますけどそういうことじゃないです!

そして、そこそこに解散となり、予想通りというか昨晩二人が熱く新型の制作について語っていたため工学部に半ば強引に連れていかれ、計算に付き合うこととなりました…。
いつの間にか工学部の直ぐ横に体育館のようなものが出来始めているのですが、どうやらSNS関連の為のもののようです。
見た感じ今月中には容易に完成しそうなあたり、どういう建築技術なのか気になります。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

1月も今までと変りなく忙しい日々を過ごしたが、試験運用している監視カメラがあるのにもかかわらず電車で犯罪におよぶ不届き者が次々に検挙されたり、一週間毎に犯罪発生率が激減していくのが報道されているのは爽快だたネ。
運用期間はまだあるが、既に人口の密集している東京の路線からも導入したいという話が上がて来ていると雪広から知らされたヨ。
近いうちに個人的な表彰状が渡されるという話もあるらしいが、目立つのは御免だネ。

11月から空港で販売し続けた超包子の肉まんも世界に届けられていて、とうとう来月にアメリカで支店を出す件が実現することになたヨ。
実際国内に店舗数を増やしてもよかたのだが、各空港店からもインターネット販売を行ているから無闇に情報漏えいの確率を上げる必要も無いネ。

《翆坊主、来月アメリカに出店する超包子にまた視察に行こうかと思うのだがどうネ?前銃撃犯はもう一度おびきだすでもしない限り尻尾を掴めないと言ていたが、国外にあえて出てまた似たような事があれば国内組織なのか国外組織なのかも判断できるヨ》

《わざわざ囮になるということですか…》

《鈴音さん危ないですよ!行くなら私もまた付いていきます!》

《サヨが付いていくというなら構いませんが、プロの護衛はしっかり連れていった方が良いですよ》

《それなら丁度龍宮サンがいるネ。この前約束もしたから丁度いいヨ》

《また随分用意周到ですが想定の範囲内ですか。一応確認ですがどこの州ですか》

《ワシントン州だヨ。それがどうかしたのカ》

ワシントン州と言えば、例のOS会社があり、アメリカのアラスカを除外した一番北西の位置で美しい風景が広がっている西海岸の州だヨ。
鈴木サンのモデルになた野球の選手の所属するチームの本拠地でもあるネ。

《いや…都合がいいと思いましてね。アメリカにはジョンソン魔法学校があるのですが、なんとワシントン州にあります。そしてその魔法学校出身の生徒が超鈴音達の一つ下の学年にいます。名前は佐倉愛衣と言いまして案内でも頼むと良いかもしれません。次が重要ですが彼女は探知能力が非常に高いそうです》

確かに都合の良い事だナ…。
無理に連れて行く必要もないが面白そうではあるネ。
地理に詳しいならまずマイナスに働くこともないし英語も話せるカ。

《ふむ、面白そうだナ。適当に部活でも設立してアメリカに行てくるカ。人数は私、さよ、佐倉サン、龍宮サン、あと一人足りないネ》

《わー、なんか確かに面白そうですね!危険がまた一杯そうですけど》

《あと一人だったら春日美空と初等部ですがそのマスターのココネ・ファティマ・ロザでもどうですか。言ってて大分投げやりな感がありますが、ココネの方は微弱な念話を聞き取る能力があります。私が仮契約カードでの通信を拒否したのは実は彼女が原因です》

《こういう時翆坊主の能力はずるいとしか言いようがないナ。しかし美空について触れないのはなんとも失礼だと思うヨ》

《ではコメントを…春日美空はココネを肩車して早く走れます。イタズラ魔法が得意です。超鈴音と同じクラスですから巻き込むのは意外と簡単です》

そんなところだろうと思たヨ。

《キノ、棒読みですよ…》

《ふむ、一足先に部活を設立しておくカ。ネギ坊主達もいずれ部活を設立して魔法世界に行くのだろう?》

《コメントはスルーですか。まあその通りですよ》

《私海外行くの初めてなので楽しみです!》

《さよ、まだ決また訳ではないが、…学園長には多大な貸しがあるからほぼ確実に実現できるネ。早速授業が終わたら交渉開始ネ》

《えっ鈴音さんもう動くんですか!?》

《視察まで時間がないから急がないとナ》

《設立頑張ってください。今回は私もサヨからバックアップを行ないますから観測は遠隔地でも大丈夫です》

《それって私の人格残るんですか?》

《人格には影響ないですよ。サヨが知覚して無くてもこちらで知覚できるようになるだけです。いざとなったら強制的に身体を動かすかもしれませんが》

《さよは海外旅行を愉しめばいいネ。今回は私達の方が先手を打てる状況になるからナ。通信終わりだヨ》

この日授業が終わった瞬間から行動を開始したネ。
まずは隣の席からだヨ。

「美空、私が作る部活に入るネ」

コソコソ話しかけると何か企んでる感じがするナ。

「超りん今なんと?」

「私が作る部活に入るともれなく海外旅行がタダでできるヨ」

「おおっそれはいいな、何処に行くのさ」

フフ、簡単に釣れるものだナ。

「ワシントン州だヨ。西海岸だから期待しておくと良いヨ」

「おっけー、何かよく分かんないけど私はいいよ」

「交渉成立だナ」

次は龍宮サンだな。

「龍宮サン、護衛の依頼だヨ。私が作る部活を隠れ蓑にアメリカまで来月着いてきてもらいたいネ」

「アメリカまでか…。来月とは急にどうしたんだ」

「超包子のアメリカ支店が出店するから視察だヨ。費用は全額負担に報酬は払うから任せるネ」

「本当の狙いはそれではないようだな。護衛のついでにタダで久しぶりに海外に行けるようだしその依頼受けよう」

「話が早くて助かるネ」

次は佐倉サンか。

《翆坊主、佐倉サンは何組で、もしくはもう何処かに移動しているカ》

《ホームルームが長いのでまだ大丈夫なようです。クラスは1-Dですよ》

《情報提供感謝するネ》

《あっという間にサヨを含めて四人は早業ですね》

1-Dは二階だたナ…。
ホームルームが終わたようだネ。
顔がイマイチ分からないが、お料理研究会の後輩がいたから聞けばいいナ。

「超先輩!どうしたんですか?」

「少し聞きたい事があてネ。佐倉愛衣サンはどの子か教えてもらえるカ」

「それならあそこの端の席の赤い髪の毛の子です」

「教えてくれてありがとネ」

そういえば翆坊主の映像で見た事あたナ。

「佐倉愛衣サンだネ。初めまして私は2-Aの超鈴音だ」

「は、初めまして。はい、私が佐倉愛衣です。超先輩が私に何かご用ですか」

「知てもらえているようで光栄だネ。詳しい話は省くが、海外に行く部活を設立するつもりでネ。まず来月アメリカに行く予定なんだヨ。それで私のクラスの情報通から佐倉サンがアメリカに留学していたと聞いて案内を頼みたいと思たネ」

朝倉サンから聞いた事にしておくネ。

「か、海外に行く部活ですか!?私アメリカには詳しいですから構いません!」

海外に行く部活と言た瞬間随分テンション上がたナ。

「協力感謝するネ。海外旅行の費用は全額タダになるから安心するといいヨ。書類の手続きは後になるから携帯のアドレスを教えて欲しいネ」

「全額タダになるんですか!?アドレスは、ちょっと待ってください携帯を……あ、はい、ありました、これです」

「これでいいナ、また後ですぐ連絡すると思うからよろしく頼むネ」

「はい、連絡お待ちしてます!」

もう少し疑われるかと思たのだがタダとか海外に行く部活と聞いただけで釣れるあたり美空と同じようなものカ。

最後は学園長室だナ。

「学園長、失礼するヨ」

「超君か、入って構わんよ。今日は何の用かの。結界は張っておくぞい」

「助かるネ。私の超包子のアメリカ進出の視察とこの前の事件の犯人を炙り出すのを兼ねて部活を設立したいと思うネ」

「随分危ない橋を渡ろうとするものじゃな。一応話を聞くが部員はどうなっとるんじゃ」

「私、さよ、龍宮サン、美空、1-Dの佐倉サンだヨ。できれば美空のマスターも連れていけると助かるネ」

「ふぉっふぉっふぉ、その情報を提供したのはキノ殿かの」

「そうだヨ。丁度ワシントン州に行くから佐倉サンは適任だろう。学園長は許可したくないかもしれないが、これは私に借りを返す良いチャンスだと思うネ」

「ジョンソン魔法学校の事も聞いたのか。ふむ…また危ない目に合わせるのは借りを返せるとは言えないと思うんじゃが、超君には借りが溜まっとるからの…。よし、分かった、部活の内容は外国文化研究とでもするといいじゃろうて」

「フフ、部活の設立の許可感謝するヨ。顧問の先生は葛葉先生が良いと思うネ」

「それはまた適任じゃな。神鳴流には基本的に飛び道具は効かんからの。手配しておこう」

「部活にかかる費用は全て私が負担するから金銭で迷惑をかけることは無いから安心して欲しいネ」

「麻帆良最強頭脳は逞しいの。無事に帰って来ることを祈っとるよ」

「大丈夫ネ。今回は私が先手を打てるからナ。ココネ・ファティマ・ロザは初等部だが手配してもらえると助かるヨ」

「分かっとるよ。シスターシャークティには儂から伝えておこう。春日君はあまり戦力にはならんと思うがの…」

「人数合わせは十分戦力になているヨ」

こういう時本当に貸しを作ておいて良かたと思えるナ。
部活申請用紙を事務室で受け取て埋められる場所は全て埋めたから寮で名前を書いてもらうとしよう。
学校でやると朝倉サンに嗅ぎつけられるからナ。

結局この日中に全員の署名が得られて、すぐ次の日に学園長に提出、ココネも特例で部員追加が認められ、葛葉先生も顧問になてくれたヨ。
そして今は部員全員が学園長室に集合となているネ。

「まさかたったの二日で部活が設立されるとは思わんかったの」

「それは学園長が許可したからでしょう」

「超りん、呼ばれてみればこの人選は何だい」

「美空、この部活の真の目的を教えよう。来月ワシントン州に出店する超包子の視察と危険な犯罪者の燻り出しが目的だヨ」

「そうなのかー。ってなんだよそれ!?」

「まあ落ち着くネ。費用は全てこちらで負担、数日滞在もするから観光もできるし安心するネ。危険になるかどうかも実際には分からないヨ」

「学園長、超先輩は…」

「超君と相坂君は魔法生徒ではないが、裏の事をある理由で知っとるんじゃよ。超君、一応危険性についてしっかり話してもらえんか。ここにいる全員には情報を漏らさせないと約束させよう」

「分かたネ。ここからは秘密で頼むヨ。今回の設立の理由の一つである危険な犯罪者の炙り出しだが、11月に私を庇てさよが銃撃された事が発端ネ」

「超、やはりただのちょっとした事故ではなかったのか」

「龍宮サン、この前は話さなかたがその通りだヨ。美空、面倒そうな顔するナ。特典も沢山あるネ」

「げっ顔に出てたか。相坂さんが銃撃されたなんて…大丈夫なのか」

シスター服でも着て顔隠すといいヨ。

「春日さん、私は大丈夫です」

「この前銃撃されたのは完全に油断していたのが原因ネ。犯人の炙り出しと言ても国外犯かどうかはわからないからただの海外旅行になるかもしれないし、実際に襲われるかもしれないが今回のこのメンバーなら大丈夫だヨ」

「それについては儂から説明しよう。葛葉先生は神鳴流じゃから飛び道具は効かんし、龍宮君はプロ、佐倉君は探知能力に優れている上ジョンソン魔法学校出身、ココネ君は念話の傍受ができるじゃろ」

「学園長せんせー私足手まといじゃありません?」

「春日君はココネ君の従者じゃろ。シスターシャークティからはしっかり使ってやってくれと言われとる」

「その通りでございます…。し、シスターシャークティ…図ったな…」

「学園長、私はジョンソン魔法学校に連絡した方が良いのでしょうか」

「それには及ばんよ。儂の方から佐倉君が行くことをあらかじめ伝えておくから気にせんで良い」

「分かりました、学園長」

「この部活の趣旨は分かてもらえたようだネ。明るい話をすると、出発は2月8土曜日から1週間だヨ。勿論学校は正規の手続で休みネ。泊まる所も雪広グループからの手配で文句無しの場所だから期待するネ」

「マジ!?一週間もいけんの超りん!」

「久しぶりにアメリカに行けます!」

「たまには麻帆良の外で仕事をするのも悪くない」

「もし本当に仕事になたら後で報酬もきちんと払うから任せるネ」

「超鈴音あなた相変わらずですね…。私も顧問として引率はしっかりやります」

「葛葉先生、よろしくお願いするヨ。そしてこれで最後だが今回部活のメンバーに特別な携帯電話を支給するネ」

「おっこれ超りん達が持ってる凄い携帯か」

「海外でも使えるようになているが、本邦初公開の技術があるヨ。皆携帯持てるだけでいいネ」

粒子通信の起動を開始。

《皆聞こえるカ》

《なんですかこれは》

《おおっ凄いよこれ!超りん口動かしてないのに聞こえるけどこれ念話か!?》

《ミソラ、念話じゃない…》

《ココネ、これ念話じゃないの》

《超先輩すごいです!》

《これは私が開発した新技術の通信方法ネ。誰にも傍受されないから情報の安全性は最高峰だヨ。もし単独で危険になても、スイッチを押して起動させておけば身体に当てておくだけで通信ができる優れものネ。圏外は考える必要ないから安心してほしいネ》

《超の発明は全く役に立たないものもあるが、これは便利だな。起動方法はどうするんだ》

背を伸ばす機械とかは確かにギャグだと認めるヨ…。

《起動方法はこの通信が終わたら携帯に表示されるからそれに従て欲しいネ。悪いがこの機能はアメリカから戻てきたらまた使えなくするヨ。まだ万人が利用できる程実用的ではないからナ》

「儂一人だけ何しとるかわからんのじゃが…」

「この携帯の通信方法を試してただけネ。出発まで余り時間はないけど、ここでの話はくれぐれも他言無用だヨ。詳しい連絡はこの携帯で行うからよろしくネ」

これで後は実際にアメリカに飛ぶだけだナ。

《鈴音さん、あの機能教えて良かったんですか》

《一度ぐらい試しておかないとネ。理論は並の科学者では到底理解できないから大丈夫だヨ》

《宝の持ち腐れよりはマシですか》

《翆坊主に前言ったその通りだヨ。使える時に使わないとネ》

《なるほど…なら大丈夫ですね。それにしても異色なメンバーになりましたね》

《面白くなりそうだしいいと思うヨ》

《高音・D・グッドマンが出て来るかと思いましたが出てきませんでしたね》

《今回探知系の能力が必要だからナ。映像で見た高音サンの派手な操影術は普通の街中ではとても使えないヨ》

《あれ脱げるんですよね……》

《あれは無いヨ》



[21907] 23話 2月の始まりとアメリカ編の幕開け
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/10/19 23:42
1月中にあっという間に決定されたアメリカへの1週間の海外旅行の一方その間のネギ少年はというと。

「ぼーや達、仮契約は知っているか」

「西洋魔術師のアレやろ?何やかっこわるいやん」

「それは小太郎の偏見だろう。別に契約相手は異性とは限らん。ぼーやの父親達も仲間で契約はしていたぞ」

「父さんもですか!?」

「そうだ。契約の主の資質が高ければアーティファクトという魔法具が出る。ナギと契約したジャック・ラカンという馬鹿のアーティファクトは宝具と言えるような代物だったな」

「あのめっちゃ強いネギの父親も契約しとったんか。そんでアーティファクトいうんはそんなに凄いんか?」

「個人によるよ。その馬鹿のものは如何なる武具にも変幻自在になるものだったな」

「どんな武器にでもなるんですか!?」

「そら凄いな!」

「ぼーや達が興味を持ちそうな説明は大体こんなところだ。他にもパクティオーカード自体にも遠隔地から召喚できたり、念話、魔力供給、ついでに服装も登録しておける」

「マスターそれを僕達に話すということは…?」

「ああ、無理にとは言わないがぼーや達は契約するのは悪くないだろうと思ってな」

「俺がネギの前衛の前衛でネギが前衛なんやな!」

「コタロー君それちょっとおかしいよ…」

二人共近接戦闘ばっかりやってる時間の方が長かったからと言って…。

「意外と乗り気のようだな。ならやってみるか」

「なんや面白そうやし俺は構へんで」

「僕も興味あります」

「それなら魔法陣を用意するから少し待っていろ」

「どんな魔法具出るんやろな」

「コタロー君はそれが楽しみなんだね」

便利アイテムが手に入るなら子供なら喜ぶのは無理もない。

「ほら、魔法陣は書けたから二人でその中に立って私の言うとおりに言葉を続けろ」

「なんや面倒やな…」

「口づけなら一発で終わるがどうする?」

「ブッ!そらお断りや!」

あれ…この反応だと春頃に来るかもしれない妖精の立場って何だろう…。

「マスター、続きをお願いします」

そのまま長々とした言葉を続けた後、指を少し切って血を媒介とした契約が行われ、カードも無事に出現した。

「アデアット!」

「…マスター、魔法具出ませんけどもしかして僕の資質が低いんでしょうか」

「何も出ないやんか!」

何も出なかった…。

「そんな事はないだろう。小太郎、しっかり確認してみろ。なんという名前のアーティファクトだ」

「やってみるで。…んー、千の共闘やて」

都合よく千シリーズだった。

「馬鹿のアーティファクトも千の顔を持つ英雄という名だったからな。千というからにはなかなかの魔法具の筈だが…。共闘か、ぼーや達一度模擬戦してみろ」

「分かりました、マスター」

「効果がわからんと使えへんな。……おっなんとなく分かったで!こら面白いな!模擬戦やるで!」

「コタロー君効果分かったのに模擬戦するの!?」

「効果はやってみてのお楽しみや!」

「小太郎の奴いきなり楽しそうになったな」

模擬戦の結果、小太郎君が信じられない程ネギ少年の動きを読むようになってネギ少年は負けた。

「僕の攻撃が全部読まれた気がするんだけどそういうアーティファクトなの?」

「これはな、ネギの動きが感覚でわかるもんなんや!」

「僕の動きがわかる?」

「なるほどな、共闘とはそういう事か。考えている事まではわからないのか」

「考えとる事まではわからんけど、言葉よりも瞬時にわかるから言ってみれば阿吽の呼吸やな」

「ハハハ、小太郎には丁度良いじゃないか。武器なんてお前使わないだろう。タッグで組んで戦うなら相手にしてみればぼーや達が強くなればなるほど脅威になるだろうな」

「それってコタロー君が僕の動きに合わせて戦えるって事?」

「そういう事や。ネギが魔法を唱えればいつどこに放つかもなんとなくわかるんや」

「それ凄いよ!」

「ぼーやがいなければ意味が無いが、従者としては悪くないアーティファクトだろうよ」

こうしてネギ少年と小太郎君の仮契約で出たアーティファクトは超鈴音のものと同様実体のない概念型のものとなったのでした。
その後、小太郎君は度々こっそりアデアットしてネギ少年の動きを読むという遊びをするようになり、ネギ少年がむきになって戦うという事があったが、避けられないような攻撃をするという修行には非常に役に立ったらしい。
全く従者らしい使い方ではないが気にしない方が良いだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2月に入り、超鈴音達のアメリカへの旅行が裏で着々と進む頃、同じように着々と進んでいる火星の状況はと言えば。
前回の9月の頭に確認した時からさらに丁度5ヶ月が経ち、酸素の組成は15%に到達している。
魔法で力場を作らない限りこの濃度では酸素欠乏症になるのは間違いないが、場所さえ選べば以前に比べてすぐに意識不明になったりはしない水準にまでは上がった。
春休み頃には17%程度には上昇する筈なので超鈴音ならばアーティファクトをしっかり発動させていれば火星に降り立つこともできるだろう。
平均気温も北極と南極を除外すればまともな水準に上昇し、赤道なら氷点下になることも殆ど無くなった。
原因としては大気組成の殆どが温室効果ガスである二酸化炭素を含んでいるため、ようやくと言ったところである。
地下水も既に地上に出始めており、全体から見れば海とはまだまだ言えないが、巨大な湖があちこちに出来始めている。
水が湧き出しているのが星レベルで起きるといよいよテラフォーミングらしさを感じるのは無理もないだろう。
マントル対流の動きも活発になってきて、地磁気も安定してきたが、まだ活性化する余地もあるし、粒子結晶の散布も引き続き行った方がいいのは変わらない。
既に火星がまた地球に接近しつつあるので地球からの火星観測もまた所によっては熱心に行われるようになり、幻術魔法を火星にかけておいたのがいよいよ役に立つという訳だ。
火星の改造自体は上手くいっているが、やはり魔法世界との同調の際に必要となる魔分の総量に不安が残る。
もし歴史通りにいくならば、相手側としては皮肉な結果となるだろうが、その時には上手く利用出来るのではないかと思う。いずれにせよその時になってみないとわからないが、手段の一つとして考慮に入れておくに越したことはないだろう。

さて、今となっては今更だがようやく本来ネギ少年が麻帆良学園にやってくるべき時が来た訳だがこれまで割とうまくやってきたのにこうなるのは何かの運命なのだろうか。

2月5日、女子中等部の屋外で、宮崎のどかが何故か一人で運ぶにはどうかと思うような大量の本を抱えて階段を降りようという時バランスを崩し階段の無い場所から落ちるという危険な状況になったのである。
個人的にはキャスター付きの鞄であるとかに入れて運べばいいものをと思うのだが、事実こうなったのだから仕方がない。

「ネギ、あれ本屋ちゃんじゃない」

「本当ですね。一人であんなに本を持つのは危なっ!」

「えっ、落ちるわ!」

―戦いの歌!!―

目視できるとは言えかなり離れている状況から距離を詰めるもわずかに間に合わず

―風よ!―

「ふぅ、間に合った」

が、風で保護する対象を絞らなかった為落ちてきた本まで浮いてしまっていた。

「しまった!」

魔法の発動媒体は杖ではなくお嬢さんから貰った指輪を使っているが、それでも明らかにおかしかった。

「ちょっとネギ!本屋ちゃん助かったのは良いとして、あんた前からおかしいとは思ってたけどやっぱり超能力者だったの!?」

「いえ、これはその違うんですよ!ほら、そんな事言ってる場合じゃないですよ。のどかさん気を失ってますし保健室に運ばないと!」

今までもたまに危ない事はあったが、今回は久しぶりでうまい言い訳が思いつかず少年は完全にテンパっていた。

「……それはそうだけど本屋ちゃん運んだらこの際きっちり白状してもらうわよ。この前あんなに心配かけたんだから言い逃れは許さないわ!」

若干心配しているらしいがこれはもう駄目だった。
終始訝しげな目で見られながら保健室まで宮崎のどかを運んだ後、少年は首根っこを掴まれて人気の無いところで正座させられた。
残念ながらネギ少年の方から私達がいつも使っている通信をすることはできないので頑張ってもらうしか無い。

「大体初めて会った初日に服を吹き飛ばしたり、子供の癖に私と同じ速度で走れるわ、エヴァンジェリンさんの家の変な別荘やら、ウルティマホラではおかしい動きをするわ、ついこの間はずっと寝込むわ、ネギ!あんた一体何者なのよ!頭が良いのはわかるけど子供が教師やるのはやっぱり変よ!」

物凄い剣幕でまくし立てながらガクガクと肩をゆする気の強い少女の前に少年は為す術がなかった。
そして都合よく小太郎君のカードが落ちた。

「って何よこれ。コタロー君が描いてあるカード?」

「ちょっとそれ返してください!」

「返してあげてもいいけど、その代わり洗いざらい話しなさい!」

こちらとしてはいつ少年が記憶を消そうという手段に出ないか気になるのだが、麻帆良に来てから近衛門の試練の時までずっとお世話になっている分そのつもりはないらしい。
こういう時残念ながら純粋な心だと、そのまま僕は超能力者なんです等と嘘も言えないらしい。
近衛門の試練であれだけ卑屈な罠を喰らったりしているのに性格に歪みが出ていないのはそれはそれで大したものなのだが、それでももう少し処世術を身につけるべきだろう。

「僕は一人前の魔法使いになるためにここに修行に来てるんです」

「超能力じゃなくて魔法だったの!?」

いや、お嬢さんの別荘見たらどちらかというと最初から魔法だろうに。

「あ、しまった!」

「い い か ら!続けなさい!」

この後ゴタゴタしながらも順調に魔法使いの事についてバレて行き、他人にバレると故郷に戻されるという前にも話したことと最悪オコジョにされるという、正直どうかとおもう処罰についてまで話がなされた。
神楽坂明日菜も別にいじめるつもりがあった訳ではないのだが、魔法と聞いて目を輝かせたものだから大変だった。
小太郎君のカードが質になっているのでやむなく魔法で何ができるか言ってしまい、占いのあたりで神楽坂明日菜の恋愛についてやったところ非常に気まずい空気になった。
ネギ少年もこれまでの経験からこれを言うのはマズいと思ったのか口ごもったのだが、もったいぶらずに教えろと強く言われ、仕方がなく「失恋の相が出てます」と答えたのだった。
当然また面倒なことになり一悶着あったが、その後惚れ薬を作ったりという暴挙には少年は出なかった。
その理由としては、その日いつものようにお嬢さんの家に向かい修行をする前に少年ががっかりした顔で

「マスター、アスナさんに魔法の事がバレてしまいました」

と経緯を信頼できる師匠に打ち明け、

「抜けてるぼーやもとうとう魔法がばれたか、ハハハハ!」

大笑いされたが

「だからといって神楽坂明日菜に要求された事を魔法ではするな」

としっかり念をおしたからである。

しかしその夜寮の部屋で神楽坂明日菜が小太郎君のカードをネギ少年の目を盗んで孫娘に見せるという事をしでかしまた面倒な事になっていたが、頑張れと言いたい。

助けられた宮崎のどかはと言えば、保健室の先生にネギ少年がここまで運んできたというのを聞き、完全に惚れてしまったらしい。
その後寮の部屋に戻ろうとした彼女だったが早乙女ハルナにラブ臭なるものを検知されて部屋に乗り込まれ、こちらも洗いざらい吐かされ告白しろ!という流れになった。
次の日、ネギ少年は図書館探険部の三人に呼び出され、後は頑張れと言いながらネギ少年と宮崎のどかを残し、早乙女ハルナと綾瀬夕映はその場を離れて行ったがあからさまに成り行きを見ていたのは言うまでもない。
特に早乙女ハルナの目が光っていた。
当の本人は意外と勇気があったのかそれとも今までの想いを溜め込んでおけなかったのかきっちり告白することができたので良かったと言えば良かったのだろう。
告白された方の少年は常に忙しい毎日をおくっている中で、今までに無い経験をしたものだからとうとうキャパシティオーバーとなったのだった。
お嬢さんとの訓練ですぐに

「どうしたぼーや!今日は不抜けているぞ!」

と模擬戦の集中力がなさすぎるのがバレバレで、二日続けて人生相談をお嬢さんにすることになった。

「人間の一生は短い。ぼーやは後悔しないよう自分でどうするか決めることだな」

結局決めるのは自分次第だと言う結論を突きつけられたが、ネギ少年はこれまでの修行で精神的にも成長していたのですぐに立ち直ったのだった。

が、宮崎のどかが見事告白した後すぐに早乙女ハルナが恐ろしい速度でコミュニティに

「のどかネギ君に告白一番乗りおめでとう!」

等と更新していたものだから炎上した。
サヨが言うには皆更新履歴がネギ先生一色だったそうだ。
ある一幕では丁度、超鈴音が長谷川千雨の部屋に赴きSNSの機能性向上の件で意見を求めていたところであり、一体何事かと彼女が茶を飲みながら確認した際「ブハッ!」と口にしていたものを吹き出したらしい。
「防水仕様も完璧だから安心するネ」
という超鈴音は流石科学者だった。

そんな事も露知らず、女子寮に戻ってきたネギ少年はまたもやお姉さん達にしつこく絡まれる事になったのだった。
雪広あやかは「私は好きどころかネギ先生の事を愛してやみませんわ!」と宣言したが、ハイハイと流されていた。
見慣れた光景には意外と冷たいようである。
朝倉和美がこれは!とネギ少年の部屋に突撃したが神楽坂明日菜の「いい加減にしなさい!」というガードによりそんなドタバタした2月6日も終りを迎えたのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

翆坊主からとうとうネギ坊主が魔法使いであることが明日菜サンにバレたというのを聞いたヨ。
ボケボケしてるネギ坊主にしては今までよく頑張た方だネ。
あやかサンには既にバレているのだが、深く追求しないのは流石雪広だナ。
それよりも皆は昨日本屋がネギ坊主に告白した話の方が一大事のようだけどナ。
このドサクサに紛れて明日からアメリカに出発だヨ。
一応担任のネギ坊主にはクラス四人で来週の金曜まで学校を休むと書面で伝える必要があるがどうなるかナ。
情報は提出したらすぐに漏れそうだが今更誰かが私も連れていけと言われても遅いから土産でも買てくることにするネ。
既に携帯の通信は何度も試しているが、その内容の一つに戻てきたらすぐに中間テストがあるのはどうするのかという話になたが、私とさよでカバーできるから安心しろと言ておいたネ。
愛衣サンは一つ下の学年だが去年とカリキュラムは変わらないから問題無いと言ておいたら感謝していたナ。
翆坊主達ともそうだが、あまり重要な話に結局使わないというのは皮肉な事だナ。

昨日の今日で一段と騒がしい2-Aだたが帰りのホームルームも終わたネ。

「ネギ坊主、大事な提出物だ」

「ネギ君、私もっス!」

「ネギ先生、私もです」

「ネギ先生、私もだ」

こんなに四人で動いたら怪しいだろう…美空、調子に乗るのをやめるネ。

「まさか四人はネギ君にラブレターを渡すつもりか!?」

なんて言葉が聞こえるのだが違うからナ。

「超さん達4人もどうしたんですか。えっ公欠届ですか。部活でアメリカに1週間!?」

「ネギ坊主、声が大きいヨ」

「す、すいません」

「何だって!ちゃおりん達アメリカ行くの!?今日はネタが多いぞ!」

朝倉サンに目を付けられたヨ…。

「その通りだヨ。明日から1週間行てくるネ」

「そんな部活の情報私は知らないなぁ。一体どういう部活なんだい?」

「朝倉さん、私達は外国文化研究会の正式な活動でアメリカに行くんです。許可も学園長先生から取ってあるので間違いありませんよ」

冷静にさよが答えてくれたナ。

「ふむふむ、それでなんでこんな人選なんだい?春日がいるのは意外だと思うんだけどな」

「朝倉、私がいたっていーじゃんか!」

やはり美空は違和感があるカ。

「特に意味は無いヨ。お土産は買てくるからそれで勘弁して欲しいナ。それでは私達は明日からの準備があるから失礼するヨ」

「5日間学校休みますけどコミュニティにあっちの写真を上げるので待ってて下さい」

「そんじゃ2-Aの皆また会おう!」

美空、自信満々で言わなくていいネ。

「仕方がない…ここは学園長に取材するしかないね」

朝倉サン、頑張るネ。

「えー学校休んでアメリカ行けるなんて私も入りたいよー!」

後ろから予想通りの声が聞こえるが今回は諦めて貰うネ。
すぐに寮に戻て最後の荷造りを始めたネ。

《超りん、私のパスポートはどうなってんの》

《明日空港で渡すから安心するヨ》

《全自動って楽だー!危ないとは聞いてるけど、普通に旅行っぽいじゃん》

《危なくなるとは限らないからナ。ココネの面倒をきちんと見るネ》

《あったり前!ココネ今日は私の部屋で寝て一緒に行くし》

《皆明日朝7時に女子寮の前に集合だから忘れないようにネ》

《おっけー》

《了解だ》

《分かりました超先輩!》

《葛葉先生は自宅に直接お迎えが来るから楽しみにするといいネ!》

《なんであなたはまたそんなに楽しそうなんですか…》

《これは!というような私服を着る事をオススメするネ》

《ま、まさか!》

《なになに!超りんどういう事?》

《大人の事情という奴ネ》

これはサービスだナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そして2月8日朝7時です。
土曜の朝ですが一部見送りに起きてきています。
外には既に雪広グループの黒くて長い例の車が止まっています。

「全員揃たネ。荷物は社員サンに任せるヨ。龍宮サンの特別な荷物はきちんと手配しておくから大丈夫ネ」

「超りんのコネ凄いな…」

「面倒な処理をしなくて済むのは助かるよ。…これをお願いする」

「私の荷物もお願いします」

「先輩、こんな車に乗れるなんて凄いです!」

「この後も雪広の自家用機で飛ぶからこれぐらい驚いていては大変だヨ」

「ま、マジか…」

「鈴音さん、葛葉先生はいつ合流するんですか」

「成田空港で直接集合になているヨ。少しは楽しんでもらわないとネ。それでは出発しよう!」

鈴音さんが楽しそうですけどどういうことなんでしょうか。

「超さん達気をつけて行ってきてください!」

「お土産待っとるえ。気いつけてな」

「気をつけて行ってきてね!」

「ネギ坊主達もしっかりやるヨ!帰てきたらすぐ中間テストだからネ!」

「ぐっ…超さん…嫌な事を考えさせないでっ…」

神楽坂さんダメージ受けすぎですよ。

「アスナ勉強しておきなよ!私達もアメリカでテスト対策はしてくるからさ!」

「大きなお世話よ!美空ちゃん!」

もう出発する時になって寮から皆飛び出してきましたが、既に車に乗っていたので口の動きから判断するに「行ってらっしゃい!」と「羨ましい!」の大体二種類でした。

そして車内ですが

「予め言ておくが今から出発して飛行機で大体9時間程でシアトルに着く時にはあちらで今日と同じ2月8日の深夜1時から2時頃になる予定ネ。飛行機で寝続けると着いた途端生活リズムが崩れるから気をつけるネ」

「おっけー。なんか時差考えるのは面倒だな」

「着いたらいきなり夜景が楽しめると思うヨ」

「それは写真に取らないとね!」

「そういえば飛行機で映画なんかも見れるんですよね?」

「さよちゃん、その通りよ!」

って仕切りを突然空けて西川さんが出てきました。

「西川さんまた着いてきてくれるんですか!」

「当たり前よ!二度と前回のような事は繰り返したりしないわよ!」

西川さんには前回凄く心配かけたので今回も来るとは思ってませんでした。

「皆、こちらは雪広の社員サンの西川サンだヨ。1週間ずっと一緒という訳ではないがお世話になるネ」

「超ちゃん達の友人の皆ね。よろしくお願いするわ」

「「「よろしくお願いします」」」

「で、話は飛んだけど、飛行機の中のサービスは充実しているから期待していいわよ。予定通り行けば9時前に成田でそのまま飛行機に乗り換えて後は超ちゃんの言った通りになるわ。シアトル・タコマ国際空港に到着する頃には夜になるけれどそのままホテルにチェックインする手筈になっているわ」

「手配してくれて感謝するネ」

「当然よ。でも聞いたわよ、超ちゃん今回の費用全額負担するんですって?」

「ハハハ、知ているのカ。対価はきちんと払わないと駄目だからネ」

「げっ、超りん本当に全額負担なのか。いくら持ってんだ…」

ほぼ無尽蔵にありますからね。

「その割にはあんまり買い物とかしないんだから。アメリカに着いたら観光の時に色々買ったらいいじゃない」

「そのつもりだヨ。お土産も買わないといけないしネ」

「超包子がアメリカに出店するとは驚きだな。去年までは一昨年までは1店舗しかなかったのに成長が著しい」

「お褒めに預かり光栄だヨ、龍宮サン。海外に広める事を視野に入れて日本の空港に出店したからネ。成田に着いたら買ていくヨ」

「超先輩、視察って言ってましたけどそれ以外には何か予定はあるんですか」

「んー、他にもあるけど完全に私の仕事だから皆は自由行動だヨ。葛葉先生は付いて来てくれるけどネ」

例のOS会社のあるレドモンドに行くらしいですが、私はギリギリまで着いていきますが仕事の話には参加しません。
恐らく超包子関連と本題のSNSの方でしょうね。

「中学生で仕事なんて尊敬します!」

異色空間ですけど佐倉さんも普通に馴染んできましたね。
鈴音さんが渡した携帯に凄く感動していましたが、キノによると流行といったものに目がないそうです。
ココネちゃんは無口な子ですが、春日さんと一緒にいるのに慣れているみたいです。
そのまま話ながら車で移動し成田に着きました。
今回羽田にしなかった理由は前回を考慮した上での選択だと思います。
既に葛葉先生は到着していたみたいですが、あ!あの一緒にいる男性は…。
鈴音さんが仕組んだのでしょうね。
かなりいい雰囲気だと思いますが、出発の手続きもあるのでこの辺でストップです。

「葛葉先生、楽しんでもらえたかナ。日本に帰ってくる時も期待しておくといいヨ」

「あなたにこんな配慮をされると思いませんでしたが、楽しめました。ありがとう」

少し顔が赤い私服の先生はいい感じです。

「おおっ、葛葉先生の彼氏がエスコートしていたのかっ」

「春日美空、シスターシャークティからは私が監督するように言われているので言動には注意した方がいいですよ」

黒いオーラが出てます!

「はっ!はいっ!失礼しました!」

春日さんは戦力にならないという話ですが、その分ムードメーカーですね。

海外行きの飛行機に乗るのが初めてなのは私と鈴音さん、春日さんだけでした。
その場でパスポートを貰い、雪広の自家用機に乗ったのですが、ファーストクラスという次元を超えていましたね…。
いいんちょさんはこれに毎年乗って南の島に旅行しているそうですが、お金持ちというのはスケールが違いますね。
機内では皆思い思いの過ごし方をしていました。
龍宮さんは大量にある映画でどれを見るか時計を見ながらしばらく考えて、三本をきっちり決めていました。
春日さんとココネちゃんは操舵室に入れてもらったりしてましたが、後で葛葉先生に引っ張って行かれました。
佐倉さんはあちこち写真を撮ったり、機内食を頼んでそれも写真を撮ったりと充実してそうでした。
誰かに送っているようでしたが、高音さんの可能性が強いですね。
葛葉先生は備え付けのワインを頼もうか頼むまいか悩んでいましたが、勧められて結局飲んでましたね。
一方鈴音さんは機内で合流した社員さん達と会議会議の連続でした。
私は西川さんとその様子を見ながら、「休めと言ってもあの子は変わらないわね」と半ば諦めながらものんびりしていました。
また「撃たれた傷は大丈夫なの?」とこっそりこの前も心配されたことを確認してくれるんですが、私の身体は特殊ですから騙してる感じがしますね…。

予定通り9時間程度の空の旅も終わりいよいよアメリカに上陸するのでした。
鈴音さんが言っていた通りシアトルの夜景は麻帆良では見られない美しいものでした。
しっかり携帯のカメラに収めてコミュニティに上げておきました。
日本では丁度午後6時頃なのですがやっぱり、「付いて行きたかったー!」という反応が多かったです。
それでも観光に来ただけでは当然ありません。
龍宮さんの荷物の物々しさがそれを物語っています。
この前の犯人が燻り出せるかはわかりませんが、今回は準備万端なのでどっからでもかかってこいという感じです!



[21907] 24話 外国文化研究会inシアトル前半
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/02 20:15
シアトル・タコマ国際空港に到着した私たちは夜景の撮影もそこそこに、雪広グループが手配してくれたホテルに移動することになりました。
車で北に20分程の道程でシアトルのダウンタウンの中心にある巨大なホテルでした。
名前をグラン・ハイアットと言い一昨年建築したばかりで、近代的な外観とは裏腹に内装は木や石の素材を活かしてありますが、日本人の私達からすると照明がやや暗いかなという雰囲気がします。
春日さんが凄く小さくなってますが、私も緊張してます。
部屋は最上階の30階で部屋の窓からはシアトルの街はもちろん、ユニオン湖を一望する事ができます。
でも湖がはっきり見えるのは明日の朝ですね。
感覚では今午後7時ぐらいの感覚なのですが、深夜なので不思議な感覚がします。
私は精霊なので眠る必要はないですが……。
因みに精霊体自由活動範囲は樹齢の丁度2倍の10000kmなので直線距離7700kmのシアトルはカバーできています。
ニューヨークまでは残念ながら行くことはできません。
でもネギ先生の故郷のウェールズはギリギリ範囲内です。
ちょっとふらふら出ていきたい衝動に駆られますが誰かに見られてしまうかもしれないのでやめておきます。
私達の一応部活の上での部屋割りは3人部屋2つで片方はココネちゃんを含めて4人になりました。
私の部屋は鈴音さんと葛葉先生と一緒です。

「さよ、葛葉先生、私は今日はもう休ませてもらうヨ。」

「鈴音さん飛行機でずっと仕事してましたからね。おやすみなさい。」

「私も明日に備えて休みます。おやすみなさい。」

……私も今日は人間らしく寝ようかな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春日美空ッス。
超りんの口車に乗せられてホイホイ付いていったら面倒な事になったじゃんか……。
気がついたら飛行機に乗って豪華なホテルに付いて寝て、朝適当に起きてレストランで朝ごはん食べてうまかったのは認めるよ。
なんで超りんは私に最初から部活に入れと言ってきたんだ……魔法生徒だとバレてた?
そんなバカな、クラスではいつも目立たないようにして、気楽に生きていた筈。
火星人とか1年の時に自己紹介してたけど何かの超能力者なのか?
相坂さんも幽霊がどうとかいう話だし、銃撃されたっていうのは実は本当に死んだんじゃないかと思うんスけど怖くて聞けないね。
エヴァンジェリンさんなんてアレだよ、魔法世界でナマハゲ扱いの人じゃないスか。
命が危ねー。
あのクラスの人選おかしいだろ。
今まで魔法関連に見て見ぬフリを決めこんできたつもりがなんでこんな事に……。
隣のたつみーの荷物ヤバイっすよ、マジモンの銃と弾丸じゃんか。
海外旅行行けると喜んで来たものの日本語しか話せないのに不安になってくるし、あー面倒だー。
こうなったら楽しいところだけ楽しむっきゃない!

「さて、我が部活の初日は超包子のシアトル工場の様子を見た後支店の視察をしてその後すぐに観光に移るネ。」

超りんの肉まんうまいのはマジっすけど世界に飛び出すとは思ってなかった。
工場まで車でススーっと移動して、内部見学して、肉まんが大量に生産されてるのは驚きだー。
いつ建てたんだろ。
というか、この今の状況もどっからか狙われてんスかね?
私だけ特殊能力何もないっつーかお荷物だよ!
いざとなったら走るぐらいしかできないよ。

「工場は問題無いネ、次はダウンタウンにまた戻るから期待するといいヨ。」

麻帆良に長いこといると日本ていうよりヨーロッパの感覚がするけど、大分違うッスね。

「超りん、外国文化研究って部活だと一応活動報告なんてことするのかい?」

「ふむ、美空、そんなにやりたいのカ?」

やりたくねー!

「ハハハハ、遠慮するよー」

「安心するネ、私が即効で作て提出して終わりだヨ」

スゲーよ超りん。
麻帆良最強頭脳ってのは機械の開発ばっかかと思ってたけどまじで万能だな。

「超ちゃん達、ほらあそこが超包子支店よ。」

「おお、馴染んでいるネ。開店したばかりで人も並んでいるナ。」

凄い行列じゃんか。
って開店初日は肉まん一つ50セントみたいな事書いてあるっぽいな。
麻帆良でも思ってたけど安すぎだよ。

「それで隣にあるSTARBOOKS COFFEEは麻帆良にもあるけどここシアトルの店が記念すべき1号店なのよ。」

ブッ!あの有名チェーン店の1号店の隣に開店とかどんな裏技ッスか。

「これで超包子の視察は終わりネ。皆観光に移るヨ。」

え?終わり?もうスか。
はえーな。
まだ11時前じゃん。
1週間長っ!

超包子の視察に来たのに入る店はSTARBOOKSかい。
ん?マグカップがここ限定?
それは買うしかないッスね。

「あ、私人数分買っておきますね。」

相坂さん行動早っ。
お金はどうなってるんだ?
ココネ、解説してくれー。

そのまま皆で店の前で写真撮影したね。
2-Aも変だけどこの7人のメンバーも変だ。
西川さんが撮ってくれたけどカメラじゃなくてやっぱその携帯かー。
うおっ、メール来たかと思ったら今撮ったばっかの写真かい。
手際良すぎる。
ロゴが違うのを後で確認するといい?
おおっ緑色じゃなくて茶色という事ね。

工場からここに戻ってくる時は車で移動したけどこの後は徒歩でダウンタウンを散策するみたいだね。

《車で移動しないのはその方が街を楽しめるというのもあるが、危険人物を釣り上げるのも含まれているから頼むヨ。》

そんなこと言われてもなー。
それにしてもこの携帯の通信不思議だな。
ま、便利なのは間違いないね。

《了解だ。》

《分かっています。》

《はい!》

《おーけーっす》

《……分かった》

佐倉さんめっちゃ気合入ってるけど、高音さんの影響スかね。
偉大な魔法使いを目指そう!てな感じか。
地味に今回悪の組織潰すような話だしやる気が出てるんだろうな。

そんなこと言った割には普通に街並みを楽しみながら歩いて東京タワーのシアトル版の、スペースニードルとゆータワーに着いた。

「昼ごはんはここの360度回転する展望レストランで食べるヨ。」

座ってるだけで景色変わるとか便利だねぇ。
上がるためのエレベーターに行列できてるから随分待つかと思ったら、私達は先に行っていいって?
入場の手続きもいつのまにか済んでるし。
なんか目立つ行動ばかりしてるのは狙ってんのか。
超りんの髪型は相変わらず中華風だしわざわざ超包子の制服着てるんだよな。
それはさておき何なに、高さは184mで展望台は159mとな。
あの馬鹿でかい木よりも100mは低いのか。
たいしたことないのか感覚がおかしくなってるだけか……。
ホテルからもかなり見えたけどこれまた絶景ッスね。
佐倉さんは携帯の録画機能で360度撮り切るつもりか。
しっかしこれ電池の持つ時間もやたら長いし、画質も高すぎるような気がするんだけどねぇ。
今200万画素なんてのが凄いとか巷で言ってる筈がこれなんか遥かに越えてるだろ。
何頼もうかと思ったらたつみーデザートなんかもガンガン頼んでるし、いいのか?
費用全額負担ってどのレベルなのか実感ないよなー。

「超りん、いくらまでとか決まってる?」

「遠慮することは無いヨ。好きなものを食べるといいネ。ただお腹を壊さないように気をつけて欲しいかナ。」

太っ腹だよ。
庶民的発想で考えてるのが小さく見えるね。
食べ過ぎっていうと肉まんどれぐらい食べれるかなんて事やったけど、あれは最後の方肉まんの味しなかったからなー。

「まじかー感謝感謝。ならこれと……」

昼だからそんなにかからないだろうけど食べてみたいのは頼んだよ。
やっぱ来て良かったー!

1時間よりちょい少ない時間でレストランは一回転して佐倉さんの撮影も終わったな。
丁度食べ終わって、レストランを利用したら展望台にも入れるっつーか、利用しなくても入っただろうけどまたもや景色を見た。
流石にエメラルドシティっていうだけあって自然が多いねー。
天候が良かったみたいで山脈もよく見えたし満足だ。
さんぽ部の連中は神木に登ったり登らなかったりって聞くッスけどあぶねーよ。

地上を眺めるのも飽きてきたと思ったら、また地上に降りてさっき登る時はスルーした土産屋でこれまた好きなもの買っていいっていうもんだからテンション上がったんスけどね。
ほら、やっぱキーホルダーとかそんな感じで、持って帰っても1週間もしないうちになんだっけかーってなるじゃんか。
だからスペースニードルが柄になってるスプーン買っといた。
そんで他の皆は何にしたのかと思ったらお土産って言ってんのにエメラルドのジュエリー買ってんスか!
金銭感覚麻痺し過ぎじゃないのか。
でもココネはスノーボール買ったよ。
子供らしくてちょっと安心した。

あっさりスペースニードル来たけどここシアトルセンターっていう色々な施設がある場所の一部何スね。
その後この辺りにある建物を巡る話になって超りんがどっか行ったかと思ったら雪広の社員さんと荷物をどっからかゴロゴロ引っ張ってきてパシフィック・サイエンス・センターてとこに連れてかれたよ。
中の展示物はそれなりに面白かったけど、なんつーか麻帆良祭のロボット見てるからこのロボット恐竜あんま凄くないなーと思ったり。
でも他の動物やら昆虫やら自然やら、個人的にはバタフライハルスなる蝶の展示は良かった。
こればっかりは麻帆良じゃ見れないッスよ。

で、またもや超りんどっか消えたかと思ったらブース開設してのかよ!
例の3Dで映像が見れる奴の実演始め出してしかも英語うまっ!
子供が寄ってくるかと思ったらここの施設の職員まで見に来てるっぽくないか?
あっという間に超満員だよ。
流してる映像がどういうCGなのかわかんねーけどリアルな宇宙空間のものだな。
何か都合よくラジオ局来てるし、インタビューされてペラペラしゃべってるよ。
超包子がシアトルに開店したからよろしくってそれがやりたかっただけかい!

ん?そういえば日本のテレビのニュースでも顔は出してなかったけど、もしかして全部仕込んでんのか?
何考えてるかわかんねースよ。
相坂さんはたまにぼーっとしたりしてるけど実は何かやってんのかな?

その後もあちこち回って、やたら金のかかってそうな音楽に対する情熱が伝わってきそうな博物館だとかバレエの公演とか、評価の高い陶器、彫刻、絵画、宝石なんかを見たりして過ごしてたらもう夕方になったし。
こりゃ1週間長いとか思ったけどあっという間っぽいな。

帰りに超包子の視察にまた行くなんて事になって行ってみたら猛烈に人気が出てて驚いたわ。
さっきのラジオどんだけ効果あったんスか。

ホテルの部屋に戻ってきたら超りんの部屋で会議だとさ。

「皆何か怪しげな動きは感知したカ。」

「鈴音さんがラジオでインタビューを受けた後から接近してくる割には超包子にもよらずシアトルセンターにも入ってこない人はそれなりにいました。でも、ただの偶然のかもしれないですしまだわかりませんね。」

えーっ相坂さんやっぱ何かの能力者だったんスか。

「まあ餌は撒けたという所だネ。」

「相坂、お前が本当にアレだというのは話さないのか。」

「う~ん、見せてもいいんですか。」

「いいと思うヨ。このメンバーでも半分は知ているしネ。」

「分かりました。」

ってベッドに寝っ転がるんかい!
およ?何だソレ!

《春日さんと佐倉さんとココネちゃんは知らないと思いますけど私本当に幽霊だったんです。それでちょっと目が良いので周りも観察できるんです。》

ま、マジもんの幽霊ッスよスゲースゲー。
しかも千里眼能力持ちとな。

「……ゆ、幽霊なんて初めて見ました。」

《皆最初は必ずそういう反応するんですよね。》

そりゃするわ。

「あー、相坂さんが今日たまにぼーっとしてたのは遠く見てたんスか?」

《えっ良く気が付きましたね。そんなに長い時間見てないんですけど。》

「美空は意外と観察力が高いのかもしれないネ。」

意外とってなんだよ!
ま、ほんとに観察力があるんならいつも隣の席の超りんが何者かわかるっつの。

「それ多分偶然だなー。うん。」

「話を戻しますが、私は特に殺気は感じませんでした。」

「私も感じなかったな。」

「誰かに見られているのかどうかは今日人が多かったので少しわかりづらかったです。」

「念話は聞こえなかった……。」

葛葉先生達全員仕事してたのか……。
ココネが迷子にならないように手繋いでるぐらいしかやってねー。

「ふむ、一日目から襲われても折角の旅行が台無しだからナ、皆協力感謝するヨ。明日と明後日の予定だがスキーに行く事になてるネ。」

つか、なんで全部予定が前もって教えてくれないんだ。
超りんが思いついたかのように言ってるけど仕込んでんのは今日でわかったからな。

「私スキー久しぶりです!」

《スキーは一度もしたこと無いので楽しみです。》

「合宿で冬休みに行ったばかりだが外国のスキー場も悪くないな。」

合宿?
たつみーってバイアスロンとかいうよくわかんない競技入ってるらしいけどスキーもやってんのか?

「美空、バイアスロンはクロスカントリースキーと射撃の複合競技ネ。」

「なんで思ってること分かった?」

「顔に書いてあるヨ。」

「マジかー。そんで何で前もって予定を全部教えてくれないのさ?」

「それは予め教えておくと面白く無いからネ。」

そんだけかー。
何か嘘っぽいけどな。

「そうかー。ならそれ以降も楽しみにしとくよ。」

「明日の予定も話たから、今から中間テストの勉強するヨ。直前の授業受けて無いからネ。」

な、なんですとー!

「えー、初日からやるんスか?」

「まさか帰りの飛行機だけでやるとでも思たのカ?佐倉サンも興味なさそうな顔するのはよくないネ。」

いや、その通りでございます……。

「い、いえ、別にそんなことは……。」

仲間がいたっ!

「安心するネ。要点を押さえた教材でパッと終わるから手間はかからないヨ。」

渋々始めた勉強だったけど超りんの用意してきた教材スゲーよ。
なんかテストに出そうな感じがバリバリするね。
葛葉先生も教えるのに混ざるのかと思ったらそんな事なかった。
てか私とたつみーてテストの順位中間ぐらいなんだけどなー。
バカレンジャーに比べるまでも無いッスよ。
佐倉さん最初やる気ないかと思ってたらサクサク進んでるし、何やら感動してるな。
おや、その脇に積んであるのはノートか!
その賄賂はズルい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日はきちんと超包子の宣伝と、ある程度餌を撒くことができたネ。
色々準備していた甲斐もあて、スムーズにできたナ。
予定通りの時間に雪広から荷物が届いたりするのは助かたネ。
放送するメディアがテレビ局ではなくラジオ局だたという配慮には感謝する他ないナ。
翆坊主達から火星のドライアイスの山は見せてもらたことあるが、実際のスキーをするのは私も初めてだネ。
色々今回楽しめるようにワシントン州で最大のスキー場、クリスタルマウンテンに行くヨ。
週末はナイトスキーもできる上に宿泊施設も完備だから2日間使ても問題ないネ。
スキーウェアもボードも全部現地でレンタルではなく、予め雪広で用意してくれるから本当にありがたいナ。
まあその分料金を払ているのだから当然だが。

朝皆で起きて用意してくれたスキー用具でサイズを合わせてどれにするか決めた後、車に乗てホテルから大体2時間の道のりになたヨ。

「それでは!外国文化研究会の皆さんに今日の分のリフト1日券をお渡しします。葛葉先生はこちらをどうぞ、超ちゃん達も一つずつ取ってね。」

西川サンは完全に専属になりつつあるけど一緒にスキーするみたいだナ。

「葛葉先生と愛衣ちゃんはスノーボードなんスね。」

「さっき選ぶまではスキーにしようかと思ったんですけど葛葉先生がスノーボード上手いと聞いて挑戦したくなったんです!」

「私は上手いとは言ってません。経験があるだけです。」

その割には格好がビシッと決まているナ。

「私、さよ、美空とココネはスキーの経験が無いから龍宮サンと西川サンに教えてもらうヨ。」

「インストラクターは任せて!」

「運動神経はあるからすぐ滑れるようになるだろうな。」

「よろしくお願いします!」

「たつみーお手柔らかに頼むよ。」

「よろしく頼むネ!」

早速インスタントスキー講習が始まり、転び方と立ち上がり方、スキーを履いた状態で平地を歩く、緩い斜面の登り降り、エッジの扱い方、ブレーキのコツ、膝の使い方を学び、大体合計で1時間強かかたネ。

「にしても皆慣れるの早いわね。普通は2時間ぐらいかかるんだけどなー。」

「麻帆良の住人はこんなものだろうな。」

「やっぱりそうなるのか。つくづく変なとこよね!」

「軽いッスねー。」

「そろそろ本格的に滑るヨ!」

さよの習得速度が異様に早かたが多分また動作のトレースしたんだろうナ。

最初は緩やかなコースからだたけど、私達の上達速度は早かたヨ。
一度昼食を葛葉先生達とも合流してとった後皆でどうせならと山の頂上までリフトで移動したヨ。
愛衣サンも元々スキーの経験あたから直ぐにスノーボードには慣れたみたいだネ。

「ここの頂上から見えるあっちの山がレイニー山よ。今日は天気が良くて良かったわね!」

「スゲー!マジこんな景色直に見れるとは思わなかったー」

「一面煌く白銀の世界、絶景です!」

「携帯持ってきたんで写真撮ってもいいですか?」

「愛衣サンその携帯気に入ってもらえたようで良かたヨ。どんどん撮るといいネ。」

「はい、ありがとうございます!」

「私もここのスキー場は初めてですが、素晴らしい眺めですね。」

「わざわざ来た甲斐があたヨ。」

ふかふかのパウダースノーが積もてるからすぐに飛び出していきたいネ。

「それでは私から滑らせてもらうよ。」

「次は私が行くネ!」

「あっ待ってくださーい、私も行きますよ!」

「ココネ、はぐれるなよ!」

「大丈夫、ミソラの後に続く。」

龍宮サンはクロスカントリースキーが得意かと思てたけど鮮やかな滑降を決めてるし別に関係ないみたいだネ。
美空は……ココネに付いてこいと言ておきながらブレーキ一切かけず直滑降で物凄いスピードで降りて行ったヨ。
誰にもぶつからなくて良かたナ。
そのアホを追いかけて葛葉先生がプロ顔負けの風格で見事捕獲してくれたヨ。
これはシスターシャークティに報告されるナ。
愛衣サンもその後追いかけて降りて行たが、お姉さんタイプの人に付いていくのに慣れているのだろうカ。

いちいち考えても仕方がないから一日中滑てはリフトで登り、また滑りを繰り返し途中休憩をはさみながらナイトスキーまで楽しんだヨ。
私も一日で随分慣れたから火星に降り立つ時にはドライアイスの雪山で滑るのも面白そうだナ。
翆坊主から聞く限りだとアーティファクトを使ていれば春休み頃までにはなんとかなるようだしネ。
今までテラフォーミングに貢献してきた役得だナ。

この日はスキー場の宿泊施設で泊まて、疲れをとたネ。
翌朝日の出を山の頂上から見たのだが、昨日の昼過ぎに見た景色とはまた違た趣があて良かたヨ。
頂上から見える川が朝日に照らされて輝いているのも印象的だたネ。
引き続き午前中から滑り続けて、午後丁度良い頃にスキーにも満足した所でシアトルに戻たヨ。
長時間滑ていて足が張てるものだから市内のスパでマッサージをしに皆で行たヨ。
終始テンションの高い美空もこの時ばかりは至福の表情をしていたナ。
葛葉先生と龍宮サン、西川サンは大人の雰囲気が出ていたネ。
一人違うけどナ。
これだけ純粋に遊んだのも私にとてはかなり珍しい事だヨ。

明日からは完全別行動で私はOSの会社で超包子の出店の際の便宜の感謝と新技術の売り込みとSNSを世界に広めるための交渉をかけにレドモンドまで行かないといけないヨ。

《超先輩、ホテルの方から私宛に連絡がきてました。ジョンソン魔法学校から母校に顔を出さないかという内容なんですけど、明日はどうされるんですか?》

《明日から私の個人的な仕事をするから愛衣サンは美空でも連れて魔法学校に行てくるといいヨ。ついでに怪しい連中がいないかどうかも情報収集してもらえるとありがたいネ。》

《はい、分かりました!任せてください!》

《えっ、何私も行くんスか?》

《私の護衛でもしているのでも構わないヨ?》

《いやぁ!それなら魔法学校付いていくよ!英語うまく話せないけど。》

《国際交流という奴だナ。明日行くところは身の安全性は高いから私の心配はしなくても大丈夫だヨ。》

《春日先輩、ジョンソン魔法学校も自然が一杯の所なので良い旅行になりますよ!》

《おおっマジかー。それは期待。》

ジョンソン魔法学校は国立保養地としての皮を被たシアトルの北東に位置するがとにかく緑の多いところらしいネ。
魔法使いというのは自然の間に学校を作て外界からの隠匿を図るつもりなんだろうナ。
麻帆良の場合は神木があるお陰で裏側は森と草地が広がているものの、認識阻害による恩恵が大きいだろうナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音達がアメリカに旅立っているあいだの少年達の修行には、ある変化が生じていた。

「コタロー君ちょっと腕貸して。」

「なんやネギ、なんか付いとるか?」

「違うよ。学園長先生の試練で遅延呪文を練習したんだけど、コタロー君のアーティファクトならきっとできると思うんだ。行くよ。」

―特殊術式 再発動用鍵設定キーワード「右腕」!!―
―魔法の射手 収束・光の9矢!! 対象・犬上小太郎!! 術式封印!!―

「って魔法の射手やないか!俺に封印してどないすんねん!」

「右腕解放って言って使ってみてよ。多分発動するから。」

「多分ってなぁ。まあええわ!」

―右腕!!解放!!―

「あれっ!?何か僕がやるよりも強そうだよ?」

「おおっ、俺の右腕でネギの桜華崩拳ができるんやな!砂浜覚悟!でりゃぁぁぁっ!」

爆発音と共に砂浜に穴が空いた。

「こらおもろいな!」

「凄いよコタロー君!溜めが長いから実戦向きじゃないけど、改善して101矢ぐらいでやれば連携技として使えるんじゃないかな。」

「連携技か。アーティファクト使うてればネギがいつこれをやるかわかるんやしできそうやな。」

「おーい、ぼーや達何やっているんだ。」

「あ、マスター。遅延呪文をコタロー君に試してました。」

「小太郎に遅延呪文だと?」

「おう!この穴がその証拠や!」

「……小太郎、気を練った状態でやったのか。」

「当然や。いつもそうしとるで。」

「話だけではわからん、もう一度やってみろ。」

「はい、分かりました。」

また先と同じ工程を繰り返し小太郎君の腕に光の9矢が封印された。

「何故封印できるんだ。」

「なんでって言われてもなんとなくやで。」

―右腕!!解放!!―

「もう一発や!」

「なんだその威力は……。ぼーや、小太郎に契約執行した事はあったか?」

今まで大体小太郎君のイタズラにしか使われていなかったので契約執行なんてしてなかった。

「そういえば……無いです。」

千などと名前がつく割にはネギ少年がいないと全く意味が無いアーティファクトという微妙な性能だとは思っていたが。
まさか……。

「ならやってみろ。」

―契約執行180秒間 ネギの従者 犬上小太郎―

ただの契約執行とは思えない風が小太郎君から発生した。

「なんやめっちゃ身体が軽くなったで!」

途端に砂浜を驚異的な速度で走ったり跳ねたりする小太郎君。

「ハッハッハッハ!そのアーティファクトはやはり宝具だよ!」

「マスターどうしたんですか。何がそんなにおかしいんですか。」

「ああ、どうやら千の共闘を使用している状態で契約執行すると自動的に咸卦法が発動するようだな。だから術式封印もできるんだろう。」

「咸卦法?」

「そのカンカホー言うんはこないに身体が強くなるんか。」

「難しい説明をしても意味がなさそうだが話しておこう。咸卦法とは相反する陰の気と陽の魔力を融合し、身体の内外に纏い強大な力を得る高難度技法の事だ。咸卦法を使うと肉体強化・加速・物理防御・魔法防御・鼓舞・耐熱・耐寒・耐毒その他諸々のオマケが付く。」

「反則みたいな技ですね……。」

「発動しとるだけでそないになるんか!?」

「だから宝具だと言ってるんだ。何の努力も無しに使えるのだから反則だろう。タカミチはそれを習得するのに数年かかったんだ。」

「タカミチが!?」

「ポケットに手突っ込んどるあのおっさんか。」

「そうだよ。そもそも、なんとなく、ぐらいで出来る筈が無いんだが、ぼーやが世界だとすると小太郎が自分自身、それを繋ぐのがアーティファクトと言ったところか。」

「なんやそれ?全然言っとる意味わからんな。」

「……分からなくてもいいか。とにかくそのアーティファクトは凄いという事だ。その連携技も好きに試したらいいだろう。だが砂浜に穴を空けるのはやめろ。二つ空いているのも埋めておけ。」

「僕の動きがわかるだけかと思ってたら凄い物だったんだね。」

「でもやっぱネギがおらんと意味ないやん!」

千の共闘とは、まさかのただの契約執行で咸卦法が勝手にできてしまうというふざけたアーティファクトだった。
確かにこれなら主が死なない限り千回でも共に戦えそうではある。
とりあえず少年達にしてみれば小太郎君が恐ろしく強くなるアイテムという認識で終わった。
それからというもの別荘の中では一日中エヴァンジェリンお嬢さんと修行している訳ではないので二人は合間に連携技を開発するようになり、タッグバトルでは反則的になりそうだということは予想できる。



[21907] 25話 外国文化研究会inシアトル後編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/10/23 14:08
アメリカへの旅行もとうとう今日で4日目となった2月11日、私達は別行動を取ることになったのです。
鈴音さん、葛葉先生と私はホテルから車で30分程度行ったレドモンドにある小さなソフト会社の本社に着ています。
後の4人は車で2時間半程にあるジョンソン魔法学校に行きました。
龍宮さんも最初は鈴音さんの護衛に入るのかと思っていたんですが、葛葉先生がいるし、逆に春日さん達が狙われる可能性もあるので3人の護衛という形で一緒に付いて行きました。
当然車を運転するのは雪広の社員さんで裏の事情を知っている人が担当しているんだそうです。
さて、この本社なのですが、所謂巨大な本社ビルが建っているのではなく、広大な敷地内のあちこちに100近い建物が建っていることからキャンパスと呼ばれています。
一体どれぐらいの人達が働いているのかというと、係の人に説明してもらったところおよそ3万人の従業員さん達がいるそうです。
麻帆良の学生だけの人数にはまだ及びませんが相当な数の人達が働いているのはわかります。
鈴音さんと雪広の社員さん達は皆本社の人達と会議室に移動して行きましたが私と葛葉先生はここの社員さんと一緒にいればある程度見学して構わないという許可を頂きました。
セキュリティチェックの厳しさは葛葉先生も感心していました。
環境も良く、建物の外は自然が多いですし、備え付けの飲み物は自由に飲んでいいし従業員さん達のためにカファテリアもいくつもあるそうです。
超包子もこの中で売り出したら面白そうですね。
ちらっと覗かせてもらった電子機器があったのですが、葛葉先生は割と興味深そうに見ていましたが、私は葉加瀬さんと鈴音さん、工学部のお兄さん達との開発に携わったり、鈴音さんの魔法球内はもっとおかしな事になっているのでそんなに驚けなかったです。
待っているだけというのも暇なのでコミュニティをしっかり確認していたのですが、皆から「できればこれの写真を取って欲しい」とか、「お土産は是非アレが良いよ」なんていう話がなされていたり、まあ既に個人的にメッセージも受け取っているのでわかってはいたんですが本当に皆付いてきたかったみたいですね。
龍宮さんはこの件については鈴音さんに言って欲しいという表明をしていて、春日さんはぽつぽつ撮っていた写真なんかを上げていたみたいで盛り上がってました。
鈴音さんのページは連れていけという要望以外なら受け付けるという事で、先のお願いが大量に殺到してました。
初日はしっかり勉強した私達でしたが、2日目のスキーの後は疲れてやらず、昨日は少しだけやりました。
まあ私と鈴音さんに関しては必要ないんですけどね。
そんな事を考えながら携帯を見ていたのですが、付き添いでいた本社の社員さんが興味を持ってくれたようなのでしっかり英語で説明しました。

「これは何処の製品ですか?」

「私達と別れて会議に参加している超鈴音さんが個人的に開発したものなんです」

「おお、それは凄いですね。彼女の話は去年の夏頃から届いていましたが、私達の間でもよく話題になっています」

やっぱり有名になってますね。
三次元映像もそうですけど確か長谷川さんとの合作で作った防衛プログラムなんかも提供してた筈です。
その後もいくつか会話しましたがあまり当たり障りの無い内容にとどめておきました。

流石にここの中まで怪しげな人たちが入ってくることはないからゆっくりできますね。

《サヨ、こちらでも観測は行っていますがワシントン州では拳銃に関しては携帯許可が必要ですから警察官でなく持っている場合はすぐにわかりますが、街中で持ち歩いている人間はそうそういないにしてもライフルに関してはどうしようもないです》

《初日に動きのあった人たちも偶然だったのかもしれないし、ただの偵察のだったのかもしれないですからね。転移符は見つけられないんですか?》

《今回も転移符を使ってくるかどうかわからないですが、そもそも転移符は使用するか予め貼りつけでもしておかなければただの紙でしかないので観測で見つけるのも困難です》

《でも今回の場合は前回と同じ射程距離ならなんとかなるんじゃないですか?》

《ええ、数百メートルならば何も問題はありません。今のところ特に動きが見られない辺り、11月の時と同じように帰る時を狙ってくる可能性が高いかも知れません》

《それなら帰る前にしっかり見とけばこんどこそ大丈夫ですね!》

《犯人が待ち構えている所を先に抑えてしまうのがベストでしょう》

《なんか映画みたいですね!それにしてもキノ、全然連絡して来なかったけどどうかしたんですか?》

《珍しく超鈴音が遊んでいる旅行ですから邪魔するのもどうかと思っただけですよ》

私もそれは同感です。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いや~もう2日間スキー行ったかと思ったらまたとんでも大自然に囲まれた魔法学校行きよ。
既にこれまでの3日間でとても私の小遣いじゃ払えないような金額を消費してる筈なんスけど、未だに何も自腹切ってないんだよなー。
ま、大分前のウルティマホラのトトカルチョで損した分は遥かに越えたからホント来て良かった。

「たつみーって報酬いくらぐらい超りんから貰ったんスか?」

「そんなに気になるのか?」

「愛衣ちゃんも気になるよね?」

「わ、私ですか!?え、えーとちょっと気になります」

「……まあゼロが後ろに6つは付くような金額だな」

「6つ?……ってええ!?」

百万超えてんのかい!
そんなポンポン払える超りんやべーよ。

「……超先輩って何者なんですか……」

「隣に一昨年から長いこと座ってるのにわかんないなー」

「意外と火星人というのは本当かもしれない」

たつみーまでそう思うんスか。

「見た目ただの中国人にしか見えないって」

「それで夢は世界征服かもしれん」

ブッ!世界征服って何スか!

「でも超先輩ならやりかねないですよね」

「……そう言われると超りんの奴ならやりそうだな。ところでたつみーはいつから相坂さんが本物の幽霊だって知ってたのさ?」

「入学してすぐの頃からだ」

「ちょっ!そんな重大なことそんな前から知ってたのか!」

「半透明の身体は便利らしいぞ。映画館は無料で見放題、夜中に書店でポルターガイストを起こして本を読むこともできるらしい」

なんて俗物的な幽霊……。
いや、映画全部無料で見れるのはズルいな。

「それは羨ましいな……。でもそんなに頻繁にうろついてたなら私だって一度ぐらい見ててもおかしくない気がするんだけどなー」

「初日に見せたあの姿は濃かったからな。私は目がいいから見えるが、普段は存在感が希薄で普通の人間には見えないんだよ」

一般人には見えないなんて便利すぎるだろ。

「スパイとかやったら儲かりそうッスね」

「でも身体から出たり入ったりできるなんて変わってますよね」

「刹那が言うには学園長が身体を用意したらしい」

「私は幽霊見たのが初めてだからそういう身体が変なのかもちょっとわかんないわ」

「そういえば去年の冬に茶々円という子が警備の時にいたがあの子と同じ身体かもしれんな」

あー、いたな。
なんか緑色の小さいの。
私はたまーに、シスターシャークティに無理やり伝令に駆り出されるだけだから2回しか見てないな。

「あ、去年の春から麻帆良に来たので私は見てないですが、お姉様から話だけは聞いたことあります」

「あの子2回ぐらいしか見てないけど、どうなったんスか?」

「そうか、二人共あの時いなかったか。呪術協会の建設の為に処分されたそうだ」

えっ!重っ!?

「お姉様その話をしてくれた時悲しそうでした……」

「神多羅木先生付きのマスコットとして定着していたんだがな」

「裏が安全じゃないのはわかってるスけど、重いなー」

「……そうか、確か茶々円の身体は傷ついても修復できると言っていた。11月に銃撃された相坂の身体も同じように治したのかもしれん。撃たれた傷は1週間入院したところで治らないから辻褄は合う」

なんか車での移動時間に推理の話になってるなーなんか面白いけど。
ってあれ?

「それだとその処分された子も実は幽霊なんじゃないスか?」

「じゃ、じゃあお姉様が言ってた魂は残りますって言ってたのはやっぱり……?」

「もしかしたら茶々円の中身は相坂だった……いや、魔法は使えなさそうだからそれはないか」

うわーなんかどんどん学園長の怪しい部分に踏み込んでる感じじゃんか。
絶対こういうの2-Aの奴らは好きだろうな。

「封魔の瓶みたいに封印してあるのかもしれないですね」

それが一番ありそうだな。

「学園長も謎が多いッスね」

「まあ今の話で茶々円の魂か霊体が残っているのが本当である可能性が高いのは間違いないな」

「それならお姉様に私」

「佐倉、それはやめておけ。この旅行はその学園長から無闇に情報を口外するなと言われているだろう。超だけでなく相坂まで狙われる事になるかもしれない。私も珍しく少し話しすぎた」

おおお、マジこえーよたつみー。
そうか、相坂さんもレアな存在って事だもんな。

「そ、そうでした。わー何か今までお姉様に送ったメールに変なこと書いてないか心配になってきました。確認しないと」

バンバン写真撮って送ってたもんな。

「気になる事もあるけどこの話は深入りしない方が身の為ッスね」

「春日のその身の引き際の良さは戦場で生き延びるのには悪くないな。仲間を見捨てる事になるかもしれないが」

「いやいやいや、私が戦場に出るとか考えられないッスよ。それにココネなら抱えて逃げるわ」

「ミソラにそんな任務は与えられない」

ってココネー!
確かに私のマスターだけどそれはちょっと評価低いぞ!

はぁ……ま、この車内の会話は運転席とは完全に遮断されてるらしいから他には漏れてないだろ。
私にしては珍しく危険な事に首突っ込みかけたなー。

今すぐ怪しい雰囲気から脱するには携帯で2-Aの皆の脳天気なコミュニティ見るのが一番ッスね。
あ、これも超りん作ったんだよな。
聞いた時はふーんって感じだったけど使い出すと止まんないわーこれ便利だし絶対流行るわ。
そういや今日仕事でレドモンド行くって言ってたけど具体的に何処行くか聞いてないな。
何か有名な企業を検索しーのと……。
ってこの企業もまたデカイっつの!
うわーこの州に本社あったのかー。
マジ経済的に世界征服しそうだな。

隣の席の中学生がいよいよ常識から吹き飛んでるのがわかったわ。
もう考えるのやめよ。

私もジョンソン魔法学校付いてったのはいいいけど英語そんなにうまく話せないから大人しくしてたッスよ。
麻帆良学園とはまた違った学校の造りだけどどっかの古城かって言う程のもんじゃなかった。
ちょい古めの大学のキャンパスみたいなもんだな。
愛衣ちゃんの事知ってるっぽい魔法先生達が話かけてきて、紹介される度にそれなりに挨拶しといた。
たつみーの事を知ってる人もいたみたいで何か話してたな。
裏で有名なスナイパーっていう噂、いや間違いなく事実だろうから知ってても不思議じゃないッスね。
愛衣ちゃんが丁度魔法演習の授業に誘われて私達も付いてったけど、愛衣ちゃんスゲー。
私よか年下なのに、無詠唱魔法できるんかい。
もしかしてシスターシャークティこの事知ってんのか?
だったら、しごかれても仕方ないのはなんとなく理解できるわ。
あれ、それ考えたらネギ君とそのライバルも半端なくない?
ウルティマホラで瞬動連発した時は空いた口が塞がらなかったわー。
なんかネギ君はヴァンジェリンさんの家に毎日通ってるらしいし弟子入りでもしてんのかな。
それならもう絶対私より強いんじゃね?
最近の子供スゲーよ。
超りんも瞬動見た時何食わぬ顔で普通に禁止にしてたからきっと瞬動できるんだろーな。
ま、私は私でいいんスよ。

ここの学園長にも会ったけどやっぱりじじぃだった。
若い学園長って何だって話だけどさ。
まともな情報得られたのが裏から表に一部魔法具が流出してて、特に多いのが転移符だとか。
たつみーがぼそっと一枚80万はするとか言ってるのが聞こえたけど、そんなもん扱ってるなんてどこのマフィアだよ。
他にも流出してる魔法具って何だ?
結界の札とかそういうのか。
そりゃ秘密の会合なんかには便利だもんなー。
もし犯罪組織に流出とか一番駄目なパターンじゃんか。
でもそれが普通の魔法世界よかましか。

結局魔法学校の見学会ツアーになったし。
学校の周りの自然風景とか写真家がいたら絶対うまく撮るまで粘りそうな湖畔もあったし何しろ今冬だから空が澄んでるし山も白くなってていいわー。
夕方ぐらいまでぶらぶらしてそのまま、また2時間半かけてホテルまで戻ったッスよ。
超りん達戻ってきてなかったけどまだあの有名企業で仕事してんのか?

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昨日までの三日は遊び疲れたが、今日は仕事で疲れたナ。
先方との交渉もうまく行たし、いくつか組んだプログラムを提供しつつ、SNSの件でも実際にその場で利用してもらて使い勝手を理解して貰えたから普及に関してのサーバーの用意等、全面協力をしてくれることになたネ。
プログラムを見せたら就職しないかと冗談のつもりだろうが言われたのは丁重にお断りしておいたヨ。
まあある意味千雨サンの未来の就職先は引く手あまたということの証拠だネ。

「鈴音さん、それにしても朝からこの遅くまで大分長かったですね」

「実際に体験してもらたりしているのに時間がかかたりしたからネ。後は権利関係の手続きなんかで随分時間がかかたヨ。私的独占に近くなる可能性も問題だたが、営利でやるつもりがあまり無いから利用者から不満が出ないように努力するヨ。その辺りはのらりくらりと避けていくしかないだろうナ」

「全く、とても中学生がやることではありませんね。私も大概慣れてきましたが」

「中学生と言ても後ほんの数年もしたらすぐ大人になるからナ。少し始めるのが早い程度の事ネ」

「くっ……後数年もしたら……」

……しまたナ。
年数関係の話は葛葉先生にはタブーだたネ。
でも気の扱いに長けている人は若さを保つ事も一般人に比べれば容易だからあまり気にする事ではないヨ。

美空達からメールが来てもうジョンソン魔法学校から無事に戻ているようだし、後数分でホテルに私達も戻れるし今日も何事もなく終了だネ。
さよと翆坊主からの話だと銃撃犯は今回も帰りがけを狙てくる可能性が十分ありえそうだからそろそろ警戒した方がいいのは間違いないネ。

ホテルで食事をした後、魔法学校組からの情報で裏の道具が表の組織に流れている事がわかたヨ。
結局どんなものも使う人次第という事になるが、本当の平和等というものが世界に訪れるのは永い永い夢のようなものだろうネ。
それでも、諦めてしまうより少しでも願ているほうがマシだナ。

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どっからか狙われてんのかと思ったけど、そんな事もなく旅行5日目も普通に観光してあちこち見て回ったわー。
初日は見なかったパイク・プレイス・マーケットっていう生鮮野菜・魚介類の通りに行けば、日本で買う場合パックになってる事が多い魚がそのまま並べてあってサーモンはスゲー迫力。
しかも注文すると魚を投げて渡すパフォーマンスなんてのは観光としちゃいいけど、落としたらどーすんのさって思うわ。
他には豪華客船みたいな船に乗って遊覧しつつ、コースに入っている例の有名企業の豪邸を外側からだとよくわかんないッスけど見たり、海かと思えば今度はヘリコプターで空から街並みを見下ろしたりちょっとどんだけ金かかってんのか気になるわー。
ちょい残念なのは野球はシーズンじゃないからやってないのと、ワインの祭典もあったらしいんだけど未成年だから却下だった事かねぇ。
その後は大体買い物買い物の連続だったね。
泊まってるホテルからでて少し歩くといくらでも店があって買い物できるのは便利だったわ。
2-Aの皆が送ってくる買ってきて欲しい物リストとか写真に撮って欲しいものとかもこなしつつ、次の日も似たように過ごしてテストの勉強もして寝て大体もう旅行も終わりかーと思ってたらそんな事なかった。

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《サヨ、今回は直接狙ってくるかもしれません!かなりの速度でホテルに接近する車両が2台あります。中は銃器が積み込まれているので一度起きた方がいいです》

《そんな車両は……あ!本当です!わかりました、一旦皆起こします》

帰りがけを狙ってくるかと思いましたが、寝込みを直接襲ってくるとは思いませんでした。
確かに寝る前にホテルの受付から私たちが今宿泊している部屋がいつ予約できるか聞かれたらしいので、狙うなら今日しかありません。

「鈴音さん、葛葉先生起きてください!銃器を積んだ不審車両がホテルに向かって2台接近してます!」

「……寝たと思た矢先にとうとう来たカ。しかも随分直接的な手段に出たナ。そんなに恨みを買た覚えはあるようで無いけどネ」

「直接ホテルに乗り込むのか、向かいの建物から銃撃してくるのか知りませんがすぐに動けるように荷物を整理しておいて正解でした。ホテルに到達するのにどれくらいかかりそうなのですか」

「後……4分ぐらいですね」

「あまり時間が無いナ。さよは霊体で隣の4人に知らせてくるヨ。私と葛葉先生は雪広の社員さん達を起こしてくるネ」

《わかりました!》

30階の部屋を私達意外にも社員さん達でいくつも借りているので確かに上まで上がってこられると厄介です!

《龍宮さん!もう起きてたんですか》

「ああ、隣の部屋で動きがあったようだからな。春日、佐倉、ココネ起きろ!」

《三人とも起きて下さい!》

「……ん?もう食えないッスよ?」

何寝ぼけてんですか!
龍宮さんが強行手段にでてチョップしました。

「うぉっ!イテテ、何、何あったの?マジで狙われたり?」

「ど、どうしたんですか?」

「どうやらその通りのようだ。動きやすい服に着替えろ。魔法障壁の1枚ぐらいは予め張っておけ」

「うわー、人間コエー。毎回馬鹿の一つ覚えみたいに麻帆良に侵入する鬼とかよりコエー」

《あれ?シスター服着るんですか?》

「いや、そりゃ私達の戦闘服だからね!」

小太郎君も学ランがどうのと言ってましたが魔法使いはよくわかりません。
佐倉さんは普通の服でした。
私も身体にすぐ入り直しました。
急いで準備をしましたが、犯行グループが到着するのもすぐという状況でした。
このホテルに一緒に泊まっている人数は、西川さん達を始めとする社員さん15人に私たちを含めて22人です。
鈴音さんと葛葉先生は4分の間に手分けして部屋に行き、起こした社員さんと共に違う部屋にと、手際良く状態を整え、向かいにビルが無い部屋に全員移動した後、フロントに連絡したようです。

「鈴音さん、葛葉先生、準備できました!」

「さよ、まだフロントには何も来てないようだが」

「待ってください!丁度6人入ってきたようです。チェックインしていた客らしく、2人が大きな荷物を持ったままエレベーターに乗り込む模様です」

観測状況も同じです!
2台とも運転手だけ残しています。

「フロントの人には声をかけないように伝えて下さい」

「分かりました。(そのまま声をかけずに通して下さい。)伝えました」

「ありがとうございます。龍宮真名と私以外はこの部屋でドアと窓からできるだけ離れた場所で待機していて下さい。龍宮真名、行きますよ」

「了解だ」

《全員携帯を身体から離さないようにするネ》

「葛葉先生、2人で6人なんて危険では?」

「大丈夫です、西川さん。私たちは麻帆良の人間ですから。それでは」

結局戦闘員は二人だけなんですよね……。
西川さんは龍宮さんと葛葉先生のあからさまな武装を見て驚いていますが、裏を知っている社員さんは何も言わずに頭を軽く下げていました。
私は観測で状況を伝えるだけです。

《葛葉先生、6人は30階で降りるようですが、エレベーターに乗った途端荷物を開けて武装し始めました、気をつけてください。3列に2人ずつ並んでいます。後10秒程です》

《時間がありません、エレベーターまで一気に距離を詰めます》

《了解だっ》

観測してる私だけが見えてますが二人共走るの早いですね!

《あ!ガスマスク付けました!》

《配置に着いた、変な物を撒かれる前に無力化する》

《2、1、開きます!》

龍宮さんと葛葉先生は扉の横にピッタリ待機し、エレベーター特有のチーンという音と共に扉が開きました。
準備万端という用意で先頭の2人が一歩外に踏み出した瞬間。葛葉先生が敵の武器を一刀両断、峰打ちし、龍宮さんが麻酔弾と思われるものを的確に当て、そのまま首を出さずに続けて2発発射。
突然の事に驚いた一番後ろの二人が声を上げた瞬間、その二人もあえなく無力化されました。
相手の行動が予め読めるというのはここまで対処が楽になるんですね。

《サヨ!転移符が発動します!》

えっ?

《犯人達が持ってた転移符が発動するみたいです!》

《なんですって!》

《しまった》

どうやらホテルの下で待機していた運転手が通信機で音声を拾っていたらしく声を上げた瞬間、異常を察知して元々そういう計画だったのか遠隔操作したようです。

見事にエレベーターの中には大きなトランク二つと銃器だけが残りました。
 
《相坂、何処に移動したかわかるか》

《下に待機していた運転手が呼び戻したようです。既に車は発車して南に抜けていきます。でもピンポイントで追跡はできるので任せてください》

《撃退しただけとはとんだ失態です。それにしても少し目がいいどころか透視までできたのですか》

あはははー、それを言われると困りますね。

《そ、それは幽霊の秘密ということでお願いします》

《うはーホントの戦闘なんて起きるもん何スね》

《状況が詳しくわかりませんでしたが、葛葉先生達凄いです!》

《相手の動きが分かてて良かたネ》

《全くだな。相坂の能力は大したものだ》

《まず奴らが残していったこの荷物をなんとかしないといけませんね》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

その後は色々処理が面倒だたヨ。
犯人の荷物の片付けに、事情を知ている社員さんへの説明に始まり、ジョンソン魔法学校への転移符が使用された件の連絡と、さよの観測での完全追跡を利用しての逃走した犯人達の捕獲要請、ホテル側への情報操作等、旅行最後の夜にしては慌ただしいものだたネ。
明朝にジョンソン魔法学校の職員と葛葉先生達がやりとりした後、さよが補足したシアトルから離れたかなり南部にあるアジト、まあただの普通の建物だたらしいのだが追撃が行われたようだヨ。
どういう手段で追跡したのかは龍宮さんが発信器をつけたという事でかなりキツかたがなんとかごまかしたネ。
追撃の結果は着いた時には幹部の連中と思われる奴らは転移符で多重逃走を繰り返したらしく既に逃げていて、龍宮さんが撃ち込んだ麻酔弾を喰らて1日は全く動く事ができない奴らだけが捕またらしいヨ。
この先はもう私達の管轄外だたから、それで話は終わりなのだが、さよと翆坊主の観測で逃げた奴らが持ていた資料から世界の各地に既に拠点がいくつもあるだろうという事がわかたネ。
犯行組織全貌を捉える事はできなかたが、少なくとも前回の銃撃は国内犯ではなく世界規模の連中の仕業だというのは明らかになたヨ。
余程魔法世界にいる下手な魔獣よりも全て潰すのは骨が折れるのは間違いないネ。
アジトの場所も大体わかたのだが、その情報を公開するのは入手手段の問題で明かせないから魔法使いのNGO組織に頑張てもらうしかないという結論に落ち着いたヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日?いや今日か、の夜中にマジで襲撃を受けたのをたつみーと先生が一瞬で返り討ちにするなんてのがホントに起きたッスよ。
バタバタしてたのと妙に興奮して全ッ然寝れ無かったけど、今はもう明けて朝8時過ぎに帰りの飛行機に皆で乗って空の上だわ。
なんてゆーかやっぱり相坂さんの千里眼凄すぎだろ。
そりゃたつみーが発信器着けた事にするわな。
バレたら確実に今度は誘拐の対象……?浮ついてるから捕獲できないか。
ま、面倒な事を考えるのはやめた方がいいな。
最後の最後でそんな感じでも、もう死ぬわーって状態になったのでもないから、総合的に今回の旅行を評価すると……また何度でも学校休んでどっか行きたい!まさに優先順位堂々の1位だね。
途中から金銭のことなんて考えるのやめたけど確実に十数万だか数十万だかは消費した気がする。
いいんちょみたいにリアルに金持ちでもないのにこの生活は無いわ。
仮にもシスターらしい生活とはかけ離れてたッスね。
清貧?何だそれって感じ。
シスターシャークティにはとても自慢できねー。
今更眠くなってきたから一眠りするか。
今日金曜だから戻っても、しっかり毎晩対策したから余裕で中間テストなんて攻略できんじゃん。


……って起きて、もうすぐ着くと思ったら何?
朝出たのに土曜の昼だって?
あー!時差か、すっかり忘れてた。

超りん成田に到着して麻帆良へ帰る車に乗ろうとした時またかなり警戒してたけど11月の事件ってのはかなりヤバかったぽいな。
お土産大量に買ったけど自分で運ぶ必要なく、女子寮に届けてくれるらしい。
絶対個人旅行とか友達同士で行ったらこれも無いわ。
魔法世界にも前行った事あるッスけどここまで完全におんぶに抱っこなのは初めてだったな。
3年になったらすぐに修学旅行だけどどこ行くんだろ。
うちの学校、外じゃありえないがクラス単位で旅行だからなー、ハワイとかか?
今回ほどはっちゃけられないだろーけど2-Aで馬鹿やるのはそれはそれで楽しいだろ。



[21907] 26話 フライング京都
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 20:18
葛葉先生と龍宮サンのお陰で怪我なく麻帆良に帰て来る事もでき、女子寮に戻てきたらわらわらと沸いて出てきた皆にたかられたヨ。
そういえば2-Aとはこんな感じだたネ。
全員用のはもちろん頼まれていたお土産をそれぞれ配て、朝倉サンから取材させろと迫られたが主に美空に押し付けて部屋に戻たヨ。

「ハカセ、留守の間部屋を見ていてくれた助かたネ」

「おかえりなさい、超さん。私以外はこの1週間この部屋には入ってないですよ」

魔法球に侵入されるのが一番困るからナ。
その点は翆坊主も見てるからもしそんな事が起きたらすぐわかるのだけどネ。

「ハカセ達と用意した資料はあちらでは好評だたヨ」

「それは張り切った甲斐ありました。ギリギリまで徹夜して作成したのでどこかにミスがないか心配でしたけど」

「あー、ミスは結構あたが、行きの飛行機で直しておいたネ」

「やっぱり……」

「まあ影響は特に無かたからいいヨ」

「しっかり確認しないと駄目ですね。……それより少し大変だったのは授業で超さんと相坂さんがいないせいでまた私といいんちょさんに集中的に当たった事ですよ」

入院のフリをしていた時もそうだたらしいがまたカ。
先生たちもバカレンジャーに当ててどうしようもないと私達に回すからナ。
ネギ坊主はお世話になているという理由で明日菜サンによく当てるが、意外と英語はできるようになているからあの二人は割と仲がいいネ。

「それは悪かたネ。授業中に次のロボットの構想も進まなかたのではないカ」

「そうなんですよ。後もう少しで出てきそうっ!っていう時に限ってあたったりするとアイデアが吹き飛んじゃって」

「飛行機の中で休んできたから今日は開発のアイデアでも練るカ?」

「やっぱり超さんが一番理解してくれるのが早いので助かります」

ハカセは過程が飛躍する事が多いからナ。
やはりこれが日常だネ。

さよはまだ皆と話てる所カ。
しかし、帰りの飛行機で捕まえた犯人達から得られた情報が届いたが、予想通りというか末端の人間だたヨ。
単純に私達を狙うように指示を受けていただけのようだネ。
そんな連中でも麻帆良にまでは入てこれないから、そこまで厄介ではないが地味に行動を制限されているみたいで不快だナ。
釣り上げて潰すつもりだたが思いの外組織が大きいものだから私の命が外で常に安全になるのは当分先か、もう無いかのどちらかだろうナ……。

《翆坊主、この1週間殆ど連絡してこなかたがこちらの様子は変わりなかたカ?》

《おかえりなさい。最後だけドタバタしましたが1週間超鈴音にしては伸び伸びできたようですね。こちらは11月の時と同じく各研究会の人達が多少困る程度の現象が起きたぐらいですよ》

他の皆もハカセと似たような状態カ。

《うむ、スキーをマスターして来たから火星でもこれで楽しめるヨ。各所には後で顔を出して置くネ》

《前言った事本気にしてたんですか。確かに4月の頭にはアーティファクトがあれば問題なく過ごせるようになりますから楽しみにしておくといいでしょう》

《二酸化炭素の固まりでスキーはどんな感触だろうナ》

《またなんというか科学者っぽさが動機に出てますね。そうそう、アーティファクトと言えば小太郎君のものもかなりズルいものでしたよ》

ネギ坊主と小太郎君が仮契約したのは聞いているが、出たアーティファクトは小太郎君がネギ坊主の動きがわかるという使用用途に幅が無いものだと聞いているが。

《新発見でもあたのカ?》

《ええ、実は小太郎君のアーティファクトは契約執行すると自動で咸卦法が発動するものだったんです》

《それはとんでもなくズルいネ》

《タカミチ少年が知ったらげんなりするでしょうね》

《リスクが殆ど無い上にメリットばかりあるというのは本当に仮契約はバランスがおかしいネ》

《まあ、契約主の資質次第ですから周りに特異な人間がいない限り縁の無い話ですけどね。佐倉愛衣のアーティファクトは性能もそれほど高くないホウキですし》

《それでバランスを取ているのかもしれないが、選ばれた者だけが更に優遇されるというのはあまり愉快ではないネ》

《それは仮契約の魔法を最初に発案した人間の欲望の現れとでも言えるでしょう》

《昔から人間は変わらないネ》

他に何か動きがあた事と言えば丁度昨日バレンタインデーでネギ坊主があちこちからチョコレートを貰たり、押し付けられたりしてたらしいネ。
途中からどれが誰のかなんてわからないなんてオチになてるんじゃないかナ。
きちんと覚えておかないと英国紳士は失格だヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音達が帰国してすぐの中間テストもあっさり終わった。
結果は超鈴音部屋の3人と雪広あやかで4位までを取るのはいつもと同じであったが、春日美空の順位が丁度中間あたりから200位前半へ、龍宮神社のお嬢さんも400台から300番台の前半まで上がった事である。
原因は日本史の暗記物や、古文の重要部分、数学の公式等を旅行中にピンポイント学習をしたお陰で簡単に点数が稼げたかららしい。
英語はバッチリの佐倉愛衣も日本史と古文の点数が飛躍的に伸びたようで、超鈴音をより尊敬するようになったのである。

と、そんな訳で二人程順位が上昇したため、これで良いのか悪かったのかはともかく、なんと2-Aは僅差ながらも下から数えて二番目にクラス順位が上がり最下位からの脱出を果たしたのだった。
これに伴い今回のトトカルチョで2-A最下位安定と思っていた多くの生徒達は食券被害を受けたそうな。

そして2月も末という頃、エヴァンジェリンお嬢さんのもとに表の京都の人達からの強い要望が届いたのだった。
なんでも、この1年の売上が例年よりも数十%も高くなり、その原因を詳しく調査したところ、元を辿ればエヴァンジェリンお嬢さんに端を発した日本文化ブームだというのが判明したのだそうだ。
要するに是非お嬢さんを本場に招待してイベントやら感謝やらをしたいという事らしい。

「じじぃ、沢山手紙が届いているし久しぶりに学業の一環証明書を作れ」

「儂の所にも要望が来とるしそれはいいんじゃが、最後に作ったのはいつだったかの?」

「大学の4年の時だから……5年近く前か」

「もうそんなになるかの。5年前じゃと確かこっちの棚じゃったような……」

ナギがかけた登校地獄はかなり緩くなっているので、麻帆良内なら自由に行動できるようになってはいるが、外に出るとなるとちょっとした処理が必要なのだ。
正直、完全解除すればそれで終わりなのだがお嬢さん自身がそれを望んでいないのでこういうことになる。

「確かあの時はエヴァの友人達と旅行に行ったんじゃったか」

「サークルでも度々誘われたが、あの旅行だけは行きたかったからな」

因みにその前が高校の修学旅行の時である。
中学の修学旅行の時はまだ信用が得られていなかった為許可されなかったので、これで通算3度目となる。

「おお、あったった、キノ殿が呪いを緩めたお陰で条件をきちんと付ければちと分厚いが手書きで証書を作れば外に出られるからの」

「全部解かせないのは私の未練だがな。一応私の立場もあるし仕方ないだろう。出発は28日の金曜の午後からで帰ってくるのは3月3日の月曜だな」

「あい分かった。それまでに用意しておくわい。……ついでと言ってはなんじゃがこのかも連れて行っても構わんかの?」

「ああ、別に今更人数が一人増えても困らない。元々サークル規模の人数だからな」

「婿殿もこのかに会いたがっとるからの」

「寂しいなら麻帆良に入れなければいいのにな。そうだ、このかを里帰りさせるならぼーやも連れていったらどうだ?」

「……それはどういう事かの?」

「確か赤き翼の隠れ家があっただろう。ぼーやにここ数ヶ月のご褒美でもやったらどうだ?」

「褒美はついこの間も与えたのじゃが……」

「ナギが10歳の時の映像はあの試練の褒美だろうに」

「エヴァも情が移っとるの。ふむ、足跡を辿らせるのも悪くないか」

「一応私の優秀な弟子だからな」

「気にかかるのは2-Aの子達に情報が漏れないかじゃろうな。朝倉君がこの前からしつこくて適わん」

「超鈴音に借りを作った代償だろう。しっかり払え」

「わかっておるよ。この際、ネギ君に改めて西への親書でも持たせるとしようかの」

「念押しのつもりか。好きにしろ」

こうして近衛門とエヴァンジェリンお嬢さんのとの間でまたもや秘密裏に旅行計画が成されたのだった。
孫娘も連れて行くにあたり護衛には桜咲刹那、またしても葛葉先生、呪術協会から数人、そして特別に小太郎君が付くことになった。
葛葉先生が今回も選ばれた理由は魔法協会の所属でありながらも神鳴流という事もあって呪術協会と関わりが強いからである。
小太郎君までも特別に護衛入りした理由はネギ少年もいるから東と西の架け橋の象徴にでも、というつもりなのだろう。
エヴァンジェリンお嬢さんがいるため今回の護衛はかなり形だけの存在であるが、一応体裁は重要である。
次の日すぐに近衛門から孫娘に里帰りの話を伝え、また改めてネギ少年に親書の件をだしに京都に行って来るように伝えられたのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

28日金曜、学校が終わってすぐ、京都行きのメンバーが駅に集合したが、一部お互いの存在を確認して驚いたのだった。

「あれ?せっちゃん!せっちゃんも一緒に帰るん?」

「お嬢様、私の事はお気になさらず」

相変わらずスタスタ去って距離を取る桜咲刹那だった。

「……せっちゃん……」

「あれ?このかさんも京都に行くんですか?」

「よう!このか姉ちゃん!」

「えっ!?なんでネギ君とコタ君もおんの?」

「僕は学園長先生に頼まれごとをされたので」

「俺はその付き添いや」

「へーそうなんか。ほな、せっちゃんも同じ理由なんかな?」

「そうなの?コタロー君?」

「あー、それは俺も知らんへんな」

「コタロー君その顔何か知ってるでしょ」

「いや、何も知らんて!」

ブンブン手を振るあたり、小太郎君、隠し事が下手だった。

「コタ君教えてくれへん?」

そこへ今までサークルの人達に囲まれて姿が見えなかったお嬢さんが登場。

「ぼーや達も来たか」

「ま、マスターまで!?そんな事聞いてないですよ?」

「じじぃから聞いてないのか。元々私達が京都から招待されたのが今回の旅行の発端だ」

「そうだったんですか」

「知らない人がぎょうさんおると思うたらそういう事なんか」

「まあぼーや達と近衛木乃香はそれぞれやることやればいいさ」

《ぼーや、じじぃが説明してないようだから先に言っておくが近衛木乃香は学園長の孫で極東一魔力量も多いから桜咲刹那や小太郎達呪術協会が護衛についているんだ。少なくともぼーやがこの旅行中にさっき小太郎に迫ったような近衛木乃香に魔法の事をバラしかねん真似をすると故郷に戻されるかもしれんから気をつけろよ》

《は、はい!分かりました、マスター!あ……危なかった。でも刹那さんも護衛だったんですね》

《やはり知らなかったか。まあ小太郎もあまり呪術協会の事は話さないようにしてるからな》

「エヴァンジェリンさんはせっちゃんが来とる理由知らへん?」

「あの剣道部の先生と用事でもあるんじゃないか」

「あ、ほんまや。葛葉先生もいたんか。せっちゃん剣道強いからそうかもしれへんね。おおきに」

「私も詳しくは知らんからな。本当に気になるなら本人に付き纏ってでも聞き出せばいいだろう」

「なんやうちせっちゃんに避けられとるみたいやからそれはしとうないな……」

「ま、好きにすると良い。そろそろ時間だ。それではな。ぼーや達も用事が被らなければ私達の発表でも見に来ると良い」

「はい!時間があったら是非行きます!」

適当にお嬢さんが桜咲刹那と葛葉先生の関係を仄めかして孫娘の興味を適度に削いだことで小太郎君に及びかけた追求の手は収まった。
こうしてお嬢さん率いる大学サークル+ネギ少年親書任務+孫娘帰郷作戦+ネギ少年の監視も兼ねた主に孫娘の護衛団という異色の団体旅行客が結成された。
埼京線麻帆良学園中央駅から東京まで出た後新幹線に乗っておよそ2時間半程で京都に到着である。

京都駅に迎えに来ていた詠春殿直属の関西呪術協会の人達が孫娘を誘導し本山に連れていった。
その後間を置いてネギ少年と護衛達も後を追ったが、サークルの人達は招待を受けている宿へ泊まる事になり早くも別行動となったのだった。
本当についでというか便乗という他ない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

このかさんだけ先に行ったけどそこまでして魔法の事を隠さないといけなかったのか。
今までこのかさんにはバレなくて良かったー。
アスナさんが話しちゃうんじゃないかとハラハラしたけど本当に良かった。
刹那さんがこのかさんを避けてるっていうのもこれが原因なのかな。
小太郎君が刹那さん達をすぐ紹介してくれたけど皆護衛なのか。

「あのー、刹那さんは護衛だからこのかさんから離れているんですか?」

「そうです、ネギ先生。今まで隠していてすいません」

それなら仕方ないのかもしれないけど、このかさんさっき悲しそうな顔してたな。

「いえ、隠していたのは僕もですし。……でも、折角クラスメイト同士なんですから仲良くした方がいいと思います!」

「し、しかし……」

「ネギ、それはお節介やないか」

「でも、僕は刹那さん達の担任だから生徒の関係はちゃんとしないと」

「はぁ……ネギはたまに頑固になるんやもんな」

「刹那さんはこのかさんと仲良くできないんですか?」

「い、いえ、そんな事はないですが……」

「なら仲良くした方がいいですよ!」

「俺は強うは言わんけど刹那姉ちゃん少しこのか姉ちゃんに冷たいと思うで」

「小太郎君まで……。分かりました、考えておきます。それでは失礼します」

あ、また行っちゃった……。

「俺はネギの担任の仕事はようわからんけど、俺が通っとる小学校は生徒が喧嘩してるのは先生が止めさせて仲直りさせる事はあっても、喧嘩もしてへんのに無理やり仲良うさせたりはせえへんで」

「無理やりっていうつもりはないんだけどな……」

「なんや魔法使いになる修行言うんは面倒やな」

「それでも僕は絶対この修業をやり通すよ」

「ネギならそう言うと思ったで。そうや、教師としての悩みならあの葛葉先生に聞いたらええんちゃうか?」

「あ、そうか!ありがとうコタロー君。本山の行きに聞いてみるよ」

丁度他の先生が居て良かったな。
もう出発するみたいだし聞きに行ってみよう。

「あ、あの、葛葉先生、こうして話すのは初めてですけど話を聞いてもらえますか?」

葛葉先生ってちょっと怖そうだな。

「はい、構いません。なんでしょうか」

「葛葉先生は、一人の生徒に仲良くしたいクラスメイトがいて、そのクラスメイトの方はその生徒を嫌いではないけど避けてる状況を見て仲良くさせようと思いますか?」

「あぁ……刹那の事ですか。普通であれば状況によるでしょう。避けている方が単純に恥ずかしがり屋で周りに誰も力を貸すような人間がいないならば少し背を押してあげるぐらいはして良いと思います。刹那の場合は恥ずかしいというのもあるでしょうが、立場が絡んでいるので難しいですね」

「立場……というとやっぱり護衛の事ですか?」

「木乃香お嬢様は近衛家の大切な一人娘です。対して私達護衛は命を賭けてでも守らねばなりません。そして護衛には替えが効きます。その為無闇に仲良くして結果悲しませるような事になっては護衛としては失格なのです」

命を賭ける……か。
スタンさんも僕の事をあの時身体を張って守ってくれたな……。
でもやっぱり残った方は悲しいし、悔しい。

「僕は守られて残された側の気持ちがわかります。でも、やっぱりそれは悲しすぎると思うんです」

「いいですか、ネギ先生。私は一般的な護衛としての立場を言っただけです。刹那は護衛でありながら幼少の頃からの木乃香お嬢様の幼馴染でもあります。その点をどう考えるかはネギ先生の自由です。私から個人的な意見を言うのは簡単ですが、教師としてのあり方もその人の数の分だけあります。ここからはネギ先生がネギ先生としてのやり方で、どう手を出すか出さないかは決めるべきでしょう」

僕の教師としてのあり方か……。
魔法使いになるための課題で始まった僕の今の生活はこういう事を経験する為なのかな。

「葛葉先生、ありがとうございます!僕は僕自身の答えを見つけるように頑張ります!」

「どういたしまして。良い答えが見つけられると良いですね」

よし、頑張るぞ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

午後7時を過ぎたという頃、孫娘は無事に本山に到着し詠春殿と木乃葉さんと久々に一時の再会を果たしたのだった。
しばしの団欒の後、母と娘とその他の巫女さん達はそのまま一緒に温泉にでもと移動していった。
その後詠春殿の所に今度はネギ少年の到着である。

「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。関東魔法協会から親書を届けに参りました」

「ネギ・スプリングフィールド君、遠路遥々ようこそ。私が関西呪術協会の長の近衛詠春です。楽にして結構ですよ」

「近衛……という事はもしかしてこのかさんのお父さんですか?」

「ええ、そうです。このかと同じ部屋に住んでいると聞きましたが今まで魔法の事を隠し続けられたとは大したものですね」

いや……そういう趣旨で同じ部屋になった訳ではないのだが。

「え?あ、はい、ありがとうございます。あの、これが親書になります」

「はい、確かに受け取りました。…………なるほど、分かりました。明日は何か予定はありますか」

「いえ、特には……あ、でもマスターの発表会が午後からあるのでそれは見に行きたいです」

「それなら明日の午前、赤き翼、ナギ・スプリングフィールドも使った事がある京都にある隠れ家を見てみますか?」

「え、父さんの隠れ家があるんですか!?」

「はい、昔のまま残っていますよ」

「是非お願いします!」

「分かりました。今日は疲れているでしょう。ここには温泉もありますから今晩はゆっくり休んで下さい」

「ありがとうございます」

こうして無事に親書を届ける仕事も難なく終わったネギ少年であった。
近衛門が書いた親書の中身は三種類、一つは真面目な内容の親書、そしてネギ少年を隠れ家に案内する便宜、最後に孫娘に裏のことを教えてはどうかというものだった。
特に最後の内容は近衛門からの私見だが、ネギ少年が冬休みに4日間昏睡していた時に僅かに回復術が孫娘から発動していた事と裏の事を孫娘にこれからも秘匿し続けながら護衛を陰ながらつける事の効率の悪さについてであった。
前者についてはあの時の小太郎君とネギ少年の状態を比較して分かったことだが、本当に偶然だった。
ネギ少年の方がスクロールへの最初の参加環境が精神的に悪かったにも関わらず小太郎君と体調が大して変わらなかったのである。
後者については超鈴音の前例で孫娘が攫われて利用されるどころか場合によっては、排除対象になり銃撃されて一発で終わりなんて事も可能性としてありえると近衛門が考慮したからである。
それと桜咲刹那の事も少しは含んでいるのかも知れない。
ここで久しぶりに精霊としてちょっかいを出そうと思う。

《サヨ、ちょっとまた関西まで行ってきます。すぐ戻ります》

《珍しいですね。行ってらっしゃい。木は見ておくので任せてください!》

《助かります》

ネギ少年が執務室から退出し、麻帆良から付いてきた護衛とのやりとりも終え、詠春殿が一人でいるところ。
前回も行った事があるので数秒で到着である。
念のためいつもどおり結界を張りつつ。

《詠春殿、お久しぶりです》

「うおっ!これはこれは、キノ殿ですか。少し驚きました。今日は何のご用ですか?」

《私は近衛門殿からネギ少年を見守って欲しいと頼まれていまして、今までのやりとりは全て見ていました。その手紙の内容についてもです。今回は少しお節介に来ました》

「全部筒抜けですか、となるとこの手紙の件ですか?」

《ええ、木乃香お嬢様に裏を教えるべきかという事です》

「……やはり親としては、このかを裏に巻き込みたくは無いですね」

《一つ、私がネギ少年と別に気にかけている人物がいるのですが、麻帆良を出た途端に命を日常で普通に狙われるんですよ》

「それは表で、ですか?」

《裏と関係のある表です。つい最近分かったのですが世界中に拠点を持った裏の道具を活用する表の組織があるんです》

「それは厄介ですね」

《恐らくその組織は裏からの依頼も表からの依頼も料金次第で請け負う可能性が高いです。要するに木乃香お嬢様を単純な依頼で殺害対象にされる事もこの先あるかもしれません》

「……学園長にしては珍しく警戒していると思えば非効率とはそういう事ですか」

《娘を守るのであれば、表も裏も無いのではないですか?》

「キノ殿はこのかにはこの際裏を教えた方が良いと思われるのですか」

《結論を言えばそうです。呪術協会支部も麻帆良に建った今、以前ほど関係が面倒な事になっている訳ではありません。正直木乃香お嬢様は自分の持つ力についてしっかり自覚しておいた方が良いと思いますよ。この前優秀な治癒術師としての片鱗も垣間見えました。総合的にはデメリットよりもメリットの方が多いでしょう。最後に、ついでのついでですが、大事な幼馴染と公然と仲良く出来るようにもなるでしょうね》

ここまで手を出すのは越権行為の気がするが、ここはあえて開き直り精霊としての立場を悪用するとしよう。

「キノ殿はこのかの事も見守ってくれていたのですか。私も分かってはいましたがそう精霊に言われるとお告げに従った方が良さそうですね」

見事に騙し……ではなく、スムーズに後押しができて良かった。

《最後にどうするかは詠春殿次第ですが、この休みにでもじっくり話されるといいでしょう》

「こちらこそ、決心が固まりました。またいつでも……と言っても見ているんでしたね」

《そう言われると、全くもってその通りです。それではこれにて失礼します》

結局のところ駄目押し程度の意味しか無かったかもしれないが、精霊からも言ったという事の重要性を見てくれると助かる。
私としても超鈴音だけが無事ならそれでいいという程薄情ではないのだから。

その夜、詠春殿は孫娘に裏の事をしっかり話し陰陽術や魔法の訓練をするかどうかについても意思を尋ね、孫娘の返答は予想通りであるがやると答えたのだった。
簡単な陰陽術は気を用いる事が多いので、近衛門の様に最初から魔分を使う西洋魔術の方が適正はあるだろうが。
続けて詠春殿は桜咲刹那についてもなんとハーフである事についても含めて話し、それを聞いた瞬間彼女が何処にいるかを聞き返し、寝間着の姿のまますぐ様突撃していった。
その姿を見て詠春殿はひとまず話して良かったのだろうという顔をしていた。
少なくとも訳の分からない成り行きで裏の事件に巻き込まれるよりは親から予め説明しておくべきだろう。

「せっちゃん!せっちゃん!」

「お、おおお、お嬢様!?どうしてここに?」

「うち父様から裏の事聞いたんや!」

「長が話されたのですか?」

「そうや!せっちゃん今までうちの事守ってくれてたんやろ?」

「は、はい、微力ですが陰ながらお守りしておりました」

「やっぱりな!それでな、うちせっちゃんがハーフやて言う事も聞いたんよ」

「……そ……そんな」

「逃げんでええ!うちはせっちゃんが人と少し違うてもそんなんどうでもええ!うちにとってはせっちゃんはせっちゃんや!」

ハーフである事を知られた瞬間に慌てて飛び出そうとした桜咲刹那だがその前に孫娘に抱きつかれて身動きがとれなかった。

「お、お……この…ちゃん」

「せっちゃんやっとその名前で呼んでくれた!うちせっちゃんと昔みたいに仲良うしたいんよ!駄目なんて言いひんよね?」

「……はい、お嬢様」

「またその呼び方!今晩うちここで一緒に寝てもええ?」

「え!?そ、そそ、それは!?」

「せっちゃん恥ずかしがらんでええよ。眠くなるまで今夜は一杯せっちゃん話してな!」

桜咲刹那の武勇伝が子守唄代わりになった。
そんなこんなでこの夜関西呪術協会の一室は孫娘に強く言われると断ることなどできない桜咲刹那によって日付が変わっても尚話し声が続いたのであった。

次の日、ネギ少年は朝食の際に二人の女子中学生に話をしようと思っていたのだが、少女達はぐっすり寝ていたため会えなかった。
詠春殿はその事を尋ねられて、適当に笑って濁しつつ、約束通り隠れ家にネギ少年を案内し、赤き翼の写真を見せ、ナギの残した資料をネギ少年に渡した。
それは麻帆良の地下施設の見取り図で、ナギの適当なイラスト付きでオレノテガカリ等と書いてあるものだが、明らかにクウネル殿のいる場所に繋がっていた。
一人で行ったら確実に門番の彼女に酷い目に遭わされるのだが、先にエヴァンジェリンお嬢さんに見せたら果たしてそれも解決するのだろうか?
昼頃に本山に戻った少年は孫娘と桜咲刹那が大変仲良くしているのを見て、唖然としたが前向きだったので「仲良くなって良かったです」と声を掛けていた。
しかし

「ネギ君は魔法使いなん?」

「ど、どうして知ってるんですか!?」

昨日孫娘に裏がバレるのがマズいというのを実感した矢先だったので衝撃が強かったらしく一瞬にして顔が青ざめた少年だった。

「ネギ君、安心してください。私が教えたのです」

という詠春殿のフォローでホッと一息、やっと落ち着きを取り戻した。
ネギ少年の魔法使いとしての事情についても無難に説明をし終えた。
因みに午前中には孫娘が裏の事を知らされた事については護衛達にも伝わっていた。
午後にネギ少年がエヴァンジェリンお嬢さんの発表会を見に行く事になり、それに参加する人達が本山入り口に集まった。

「あ、コタロー君!」

「ようネギ!おお、姉ちゃん達仲良うなったみたいやな!」

「そうやよ!」

「はい、昨日はどうも」

「んー、ほな、そのうちこのか姉ちゃん達も仮契約するんか?」

「仮契約て何なん?」

「仮契約というのは魔法使いの主従契約をする事です」

「それでどうなるん?」

「それをやるとこのカードが出るんや!」

バーン!と小太郎くんが掲げて見せた。

「コタロー君、そんな見せびらかさなくても!」

「あー!それアスナに前見せてもらったえ!その仮契約言うんするとそのカードが出るん?」

「そうやで。しかも凄い魔法具も出るんや!」

「それ以上はコタロー君、マスターが言っちゃ駄目って!」

そう、小太郎君のアーティファクトは無闇に人に教えるのはどうかという効果なのでエヴァンジェリンお嬢さんから二人には他人に簡単に教えたりしないようにと念が押されている。

「分かっとるって。俺のは見せられんけど、そういう事や」

「へー、ほんなら、うちがせっちゃんと仮契約したらせっちゃんのカードが出るんやね」

「お、お嬢様!」

孫娘にはそういうグッズ系の話はタブーだった。
ガンガン話に首を突っ込み、契約陣を描く必要があるとわかるところまで話が済んだところで結局今すぐにはできない事がわかり保留となった。
そして、もうそろそろ時間となり4人はもちろん、エヴァンジェリンお嬢さんが来ているのという事もあり、詠春殿は昔のちょっとしたよしみで、葛葉先生達は護衛は勿論一応立場的にも、結局皆で車に乗り込み出発した。

その発表会はと言えば当然素晴らしい出来で、大好評を受けた後、その場でお嬢さんと写真会であったり、サイン会だったり、握手会だったりした。
元賞金首って何のことだろうか。
誰も一般人でそんな事気にしていなかった。
ずっとやり続けた訳ではないので、お嬢さんも京都の観光をそこそこする事ができて楽しめたようだ。
二日に渡るイベントであるため、次の日曜には前日とはまた違う場所で内容も変えて行われたが、その反響については以下同様である。
その間何かあったかといえば、詠春殿とお嬢さんが少し話たり、ネギ少年がお嬢さんに例の地図を見せて「あーそれだけか」と事実を知らなければ分からない冷めた反応をして終わったり、孫娘もお嬢さんに仮契約の事を早速聞き、「せめて少しはまともな魔法使いになってからにしろ」と一蹴した事ぐらいだろう。
それでネギ少年が「僕は少しはまともになりましたか?」と真面目に尋ねたものだから「最初に比べれば、だがな」と無難なやりとりもあった。
月曜、一行は朝早くに新幹線でまた麻帆良に戻っていき、午後に授業に戻ってきたらまた色々と厄介なことになったのは言うまでもないだろう。
孫娘が携帯から「京都の実家行って来るえ」と情報を上げていたのと、朝倉和美も元々サークルでお嬢さんが招待されていた情報を掴んでおり、更にはネギ少年も同じ所に行っていたとなっては追求が激しくなるのも無理は無い。
また早乙女ハルナが女子中学生2名からラブ臭に近しいものを検知したりしなかったりもしたそうだが、そんなセンサー何に役に立つ。

今回の小旅行を襲う等という暴挙に出る勢力は皆無であり、実に平和そのものであった。



[21907] 27話 孫娘の秘密
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/10/26 08:10
世界の歴史からフライングして京都に行ってしまった一部の人々がいたが、再びいつもの麻帆良に戻っている。
と、言いたいところだがやはり少し状況は変化していた。
孫娘は帰ってきてから近衛門に「父様が全部教えてくれたえ」と報告し、近衛門が散々周りの人間にその事実を言いふらさらないように念を押した上で、孫娘も魔法生徒の新入りとなった。
当然誰かに師事する必要があるが、その間に問題があった。
やはり西洋魔法と東洋呪術どちらを学ぶかである。
当然呪術協会からすれば、孫娘が西洋魔法ばかり学ぶのは気に入らないのだ。
かと言って気を扱うのを会得するにはかなりの時間がかかる上、やはり孫娘のアドバンテージと言えばその魔分容量に他ならない。
結果として、それでも気の扱いを覚える事を全くしない訳にはいかないので、週に1回であるとか定期的に呪術協会支部で授業を受けることになった。
孫娘はまさか日本文化振興施設が呪術協会の支部だったなんて知らなかったため大層驚いていたが、心が広いようで「そういうこともあるんやね」と割とあっさりしていた。
さて、西洋魔法は誰から学ぶかとなれば近衛門がやれば済む話ではあったが、麻帆良で優秀な治癒術が使える人物とは誰がいただろうか。
そう、去年の7月半ばから特に出番もなかった彼、図書館島の謎の司書、クウネル・サンダースこと本名アルビレオ・イマである。
公的には、彼の存在は魔法先生達も知らないし、呪術協会の人達も知らないが、師は優秀であるのに越したことはない。
西洋魔法の担当は表向きは近衛門で、秘密裏にクウネル・サンダースとなったのだった。
司書殿としてはこの依頼は仮にも色々生活で便宜を図ってもらっている近衛門からのものであるため、断るなんていう選択肢は存在せず、それどころか暇そうだったのでスムーズに行ったが、問題は連れて行く時であった。

「あのな、私は麻帆良で確かに今はそこそこ楽に生活しているが、積極的にその触れてはいけない暗黙の了解の塊とやらになりたくはないんだが」

「そこをなんとかしてくれんかの。エヴァの所ならネギ君が行こうがコタロー君が行こうが、この際このかが行こうが刹那君が行こうが人数がちと増えるだけじゃろ」

触れはいけない暗黙の了解とは、「エヴァンジェリンお嬢さんがあの福音殿である事を分かっていても気にしない」に端を発し、「ネギ少年と小太郎君が去年の夏の終わり頃から頻繁にお嬢さんの家に通っていても害は無いのでやはり気にしない」を期に一気に麻帆良に浸透していったルールのようなものの事である。
つまり、基本的にお嬢さんが関係することには周りは不干渉を貫くというものだ。

「私にメリットは何かあるのか?」

「……それを言われるときついんじゃが、金銭はいらんだろうし、何か要望があれば聞くわい」

「そうだな……といってももうあまり要求する事など無いが、ならせめて頻繁に外に出れるように証明書をもっと用意しておけ」

「それだけでいいのかの?」

「じじぃから何か毟り取っても大して面白くもないからな。あー、あえて言うなら、私の好きに刹那と木乃香は使わせてもらうぞ。もうじじぃに一泡吹かせるのはどうでも良くなったが、ぼーや達を鍛えるのは最近の趣味の一つだからな」

「刹那君を訓練に参加させ、まだ先じゃろうがこのかに怪我を治させるという事かの?」

「大体そんな所だ。木乃香の才能はよく知らんがな。今は私とぼーやが適当な治癒魔法で訓練の怪我を治しているがやはり面倒だ」

「それはこのかにとっても経験になるじゃろうから構わんがの。しかしエヴァにあまりメリット無いの」

「欲が無くなってくるとそんなものだろう。適当にこじつけでもしておくに限る。後で何か要求ができたら遠慮せず言うさ」

「面倒をかけてすまんの」

「一応私はじじぃよりも年長者だからな。たまには頼ればいいさ。だがアルの所にはじじぃが木乃香を連れていけよ。一応ぼーやが京都でアルのいる場所を示す雑な地図を手に入れたからな。泳がせてみると面白いだろう」

「そんなものしか無かったとはの。知っとる側としてはつまらないものじゃな。分かったぞい」

一部精霊化してるからなのかどうかは知らないが落ち着きと無欲さを身につけているお嬢さんは完全に隠居人そのものである。
実際金を手に入れようと思えば、設定次第にもよるが購入に億はかかるダイオラマ魔法球を通常ではありえない時間差24倍の物を作成することができるのだから、人間の通貨などに大して興味もないのだ。

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そして近衛門がお嬢さんに言われたとおり図書館島の地下に孫娘と散歩しに来た訳だ。

「おじいちゃんと一緒に図書館島に来るなんて思わなかったなあ」

「ふぉっふぉっ、儂もじゃよ。じゃがちと図書館探検部はこのかには面白くなくなるかもしれんの」

「それどういう事なん?」

「すぐわかるぞい。ほれ、こっちじゃよ。」

「え、そっちに何かあるん?」

一般人は予め知っていないと見つけられない、以前超鈴音やお嬢さんも利用した地下への直通通路である。

「ここじゃよ」

「あれ?こんな所に入り口あったなんてうち今まで知らんかったなぁ」

「これも魔法じゃからな。誰かに見られるといかんから行くぞい」

「面白くなくなる言うんはそういう事なんか」

祖父と孫が仲良く普通ではあり得ない場所を散歩しつづけ、エレベーターに乗り門に到着した。

「おじいちゃん!あの大きい生き物竜なんか?」

「竜であり、ここの門番じゃよ。通行許可証を見せれば通してくれるからの。ほれ。」

許可証を見せた途端、キューと鳴き声をあげてバッサバッサとどっかに彼女は飛んで行った。

「変な所やね」

「慣れれば普通じゃて」

久々に司書殿のお出ましである。

「アル……いや、今はクウネルじゃったか、元気にしていたかの?」

「ええ、それはもう。いつもと変わりありませんよ。学園長、ようこそ。そちらが聞いていたこのかさんですね。初めまして。クウネル・サンダースと申します」

「こちらこそ初めまして。うちは近衛木乃香や。その名前がほんまですか?」

「ええ、本名ですよ。クウネルとお呼び下さい」

真顔で嘘を付く司書はそれ程までにその名前が気に入っていたらしい。

「分かったえ!くーねるはんやね」

「……あまり儂の孫に変な事を教えんように頼むぞい」

「それはご安心下さい」

全くこの言葉は信用できないが、全体としてはまともな事をするだろうと思いたい。
孫娘だとノリノリでネコミミ付けそうだから意外と息が合いそうではあるが。

「おじいちゃん、ほな、くーねるはんがうちに魔法教えてくれるんか?」

「そうじゃ。呪術協会と同じで定期的にじゃがの。普段は儂の用意する場所か、また後で行くことになる場所で練習すればいいからの」

「分かったえ。これからよろしゅうお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。ここまで来るのに少々時間がかかりますが我慢してもらえると助かります」

「うち図書館探検部で鍛えとるから大丈夫やよ」

「それは良かったです」

「このか、分かっておると思うが、ここの事もクウネルの事も他人には話してはいかんぞ」

「おじいちゃんうちを信じてや」

「おお、信じとるよ。刹那君なら連れてきても構わんがの」

「ほんま!?あ、でもせっちゃん剣道部あるから邪魔はできんひんな」

「たまに一緒に来るといいですよ」

「そうやね。都合がおうたらせっちゃんも連れて来るえ」

「そろそろ勉強を始めるとするかの」

「そうしましょうか」

と、初めての孫娘西洋魔法講習は保護者同伴で行われたのだった。
何だかんだで近衛門も孫娘に付きっきりで教えていたあたり、やはり祖父である。
何にしても最初はプラクテ・ビギナル火よ灯れから始まり、一朝一夕にできるようになるでもないので座学が主だったが。
少しは孫娘の近衛門へのトンカチ突っ込みが減ることを祈ろう。
それにしても司書殿は初めてで、かつ近衛門がいるにも関わらず、「ネコミミを付けると魔法が上手く使えるようになりますよ」等とさらりと嘘をついてのけ、孫娘は「ほな、うち自分で今度選んでくるえ!」と乗り気だった。
近衛門は本人の同意もあるならいいか……という事で微妙な顔をしたが、司書から無駄に念話で「きっと似合いますよ」等と褒めるものだから「このかには大抵何でも似合うからの」と孫娘の気がつかない裏で孫自慢に話が移動していったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

引き続き孫娘の状況であるが、今度は近衛門が言っていたまた後で行くことになる場所、の件である。
場所について近衛門から直接言われた孫娘はどこの事かもう殆ど分かっていたので「やっぱりなー」と反応し、それからすぐの休日、桜咲刹那と共にエヴァンジェリン邸を訪れたのだった。
その道中以前孫娘が神楽坂明日菜達と一緒に忍び込もうとした時気がついたら寮の部屋で寝てたなんて話をしたものだから「あの時はすいませんでした」と謝る桜咲刹那とのやりとりがあった。
そして玄関の呼び鈴を鳴らし出てきたのは意外にも葉加瀬聡美である。

「あれ?ハカセちゃんがなんでおんの?」

「どうも、近衛さん、桜咲さんこんにちは。私はちょっと今茶々丸の出張メンテナンスに来てただけです。それで茶々丸が今動けないので私が代わりに出てきました、上がって大丈夫ですよ」

「葉加瀬さんこんにちは、失礼します」

「おおきにー。せや、茶々丸さんのメンテナンスって?」

「あ~、そう言えば皆さんは知らないんでしたね。茶々丸は私が主導で開発したガイノイドなんです。……ちょっとタイミング悪かったなぁ……」

少しばかり情報がしっかりやりとりされていなかったために起きた鉢合わせであった。

「ほうか~、今まで知らんかったなぁ」

そんなこんなで家の中に入ったところ。

「近衛さん、桜咲さんこんにちは。ハカセ、一度私を動けるようにして下さい」

「ちょっと待ってね。すぐ動けるようにするから」

その手早い作業を孫娘と桜咲刹那はぼーっと眺めていたが、本当にすぐに終わった。

「はい、これでいいよ」

「ありがとうございます。お待たせしました、マスターの元へご案内します」

「ほんまにガイノイドやったんやね」

「あの、葉加瀬さん、私達がここへ来たことは」

「大丈夫です。私がここに来たこともあまり誰かに言わないでもらえますか?近衛さん達に事情があるように私も事情がありますから」

葉加瀬聡美は茶々丸姉さんの制作を通して魔法の事は知っているし、ネギ少年が魔法使いであることも知っている。
ただ、茶々丸姉さんが保存したデータで私、キノについてや、サヨが実は幽霊のようなものではなく精霊である等というマズイ情報については超鈴音が処理しているのでそこは知らない。
情報の機密の優先度はこれで正しいのだ。

とにかく、お互い見なかったことにしようという了解の元、孫娘達は茶々丸姉さんに連れられて別荘のある場所へ案内された。

「お二人ともこちらへどうぞ。この中に移動されたら手すりがありませんが橋を渡って中央にお進み下さい」

という指示を受け、いざ時間差24倍空間へ突入である。
当然移動した瞬間ここ何処?というような反応を見せたが、言われたとおり橋を通ってあちこち周りを見回しながら中央に到着である。

「木乃香と刹那か、よく来たな。まあ今日は見学程度だがここで一日ゆっくりしていくと良い」

「「こんにちはエヴァンジェリンさん、お邪魔します」」

「……あの、それで、ネギ先生と小太郎君はいつもあんな事をやっているんですか?」

既にネギ少年と小太郎君が空中で訓練を繰り広げている所だった。

「何や音が凄いと思うたら空で戦うとるん?」

「ん、まあそうだ。冬に完全に浮遊術を会得したからな。地上でやられてもこの石畳が壊れるだけだ」

「いえ、そうではなくて……」

「ああ、そうだった、私は慣れているがぼーや達は少し成長がおかしいからな。驚いたか?」

それは驚くだろう。
何と言ってもネギ少年の魔法領域の訓練の為にわざわざアーティファクト使用状態の小太郎君に契約執行をまでして、超高速移動状態であらゆる角度から無数の気弾を徐々に威力を上げながら防ぎ続けるという訓練をやっている最中である。
ネギ少年の動きが感覚でわかる小太郎君は魔法領域が薄くなってるところをすぐさま察知しそこへ目がけて叩き込むという訳だ。
近衛門の試練から早3ヶ月が経過しスクロール内でできたイメージに近づきつつある。

「小太郎君の動きも信じられませんが、ネギ先生のあの魔法障壁は一体何ですか?」

「あれ、やっぱりコタ君なんか?全然見えへんよ」

まさに、残像だ。の一言で目が追いつかない孫娘にとってはそう見える。

「企業秘密、と言いたいところだがお前達が敵対する事もないだろう。小太郎は咸卦法、ぼーやは私が魔法領域と呼んでいる防御魔法を使っている」

「か!?咸卦法ですか!?小太郎君の普段の警備では一度も見たことありませんが。」

「木乃香、先に言っておくが咸卦法というのはとりあえず凄く強くなる技の事だからな。でだ、ついこの間の旅行で小太郎が仮契約の事をベラベラと話したようだが、あの咸卦法はあいつのアーティファクトの効果だから勘違いするなよ」

「ほうかー、仮契約って凄いんやね」

「す、凄いどころの話では……」

「それは良いとしてだ、まずそこに座れ。」

少年達の訓練は当分続くので放置のようだ。

「さて……私が言うことでもないかもしれんが、桜咲刹那、お嬢様と別け隔てなく過ごせるようになったからと言って、ゆめゆめ己の剣が鈍るような事は無いように気をつけろよ」

「ッ!!……はい……心得ておきます」

「え、エヴァンジェリンさん!?そん」

「木乃香もだ。刹那と仲良くなれたからと言って、いつもベタベタしている訳にもいかないだろう。詠春から自分の立場についてもしっかり聞かされたのではないのか?」

「そ……そうやね。うち少し舞い上がっとったかもしれへん」

「まあそんなに露骨に気を落とすことはない。今のは忠告だ。気がついたときには手遅れだったなんてことがないようにな」

「な、なるほど。わざわざ私のような者にご忠告して頂いたとは恐縮です。エヴァンジェリンさん、ありがとうございます。自分を見失わないように精進します!」

「そうやったんか!おおきにエヴァンジェリンさん!」

「……ああ、自覚できたならそれでいい。刹那、手を握ってまで感謝しなくていいぞ。顔が近い」

落ち込んだり突然テンション上がったりと色々忙しかった。

「し、失礼しました!」

「全く、こういうことは本来じじぃ達がやるべきだろうに。しかし、あいつらは甘いからな。……ま、それを言えば私も甘くなったか」

「あの、今まで伺った事はありませんでしたが、エヴァンジェリンさんは今は一体……?」

何か桜咲刹那がエヴァンジェリンお嬢さんを見る目が尊敬に染まっている気がする。

「やはり私が何者か気になるか。……今からもう100年近く前になるが、その時から少なくとも私は真祖の吸血鬼ではなくなった。今がどういう存在なのかは話すことはできないがな」

「……そうだったのですか。不躾な質問をしてすいません」

「ほんまに長生きやったんやね」

「少し話が逸れたが本題に戻ろう。木乃香は魔法と気の扱いを学ぶのに時間がないだろうからたまにここに来て練習するといい。今はまだ無理だろうが、治癒魔法が使えるようになったらぼーや達の怪我を治療すれば実地訓練になるだろう」

「分かったえ。ありがたく使わせてもらうな。早く治癒魔法使えるように頑張らんと」

「だからと言って毎日来るような事をしているとぼーや達はともかく年をとるから程々にな。今のタカミチみたいになっても知らんぞ。奴は数年間ここで修行したからな」

「そ……それは気をつけるけど高畑先生が年齢の割に老けとるのってここ使うとったからなんか」

「す、数年間ですか……」

「次は刹那だが、今日は早速後でぼーや達に混ざるといいだろうが、たまに訓練の相手になれ。これは私がじじぃと交渉した結果だから断られても困るが」

「いえ、こんな修行場を使わせて頂けるなら文句等ありません」

「まあ、大体話しはこんなところだ。ぼーやもそろそろ限界だろう。お互い適当に挨拶でもすると良い」

《おい、ぼーや、もうそろそろ終りにしていいぞ》

《わ、分かりましたマスター》

「おっと、これまでやな。終わるタイミングも分かって本当に便利やで。アベアット」

「はぁ……はぁ……コタロー君ありがとう。良い訓練になったよ。特に薄い所ばっかり狙ってくるところとか」

「ははは!そら分かるからな!俺も咸卦法状態の感覚を実感して普段の目標にできるからお互い様やで」

「普段のコタロー君が咸卦法モードになったらとんでもないね」

普通に会話し続けそうだったので。

「おい、ぼーや達!いつまでそこで話してるんだ。一応今日は新入りが来てるから降りて来い!」

「あ、はい!」

「新入り?ああ、このか姉ちゃん達やな。」

ようやく十数分間の耐久訓練が終了し少年達は孫娘達と挨拶を交わし、孫娘と桜咲刹那は二人に対して驚きの言葉を述べたり、孫娘が治癒魔法の習得を頑張る話であるとか、桜咲刹那もこの後修行に参加する旨について相互理解がなされた。
当然お嬢さんからこの件については外では口外しないように厳重に注意がなされた。
早速孫娘が火よ灯れの練習であったり、気の扱いについても桜咲刹那から優しく教えられた所、「それが甘いんだ」とお嬢さんから檄が飛んだり、小太郎君が「こう力入れてガッっとやるんやで!」とかはっきり言って下手な説明をされたりした。
何にせよまだ孫娘については始まったばかりである。
一方桜咲刹那と少年達がそれぞれ時間を置いて模擬戦を行なったが、地味に少年達は近衛門のスクロールの経験のためか、武器破壊攻撃に出ようとすることが多く、神鳴流は武器を選ばないと言っても「卑怯ではないですか?」と夕凪が危険な目にあったため彼女は少々青筋を浮かべた。
しかし、そういう事を気にした為に幾度と無く精神死を経験した二人としては「今の模擬戦は実戦を想定しているから不確定要素はできるだけ排除するに限る」と言い、続けて「仮にルール有りでの武道会だとしてもやはり同じ行動に出ることはあるだろう」と何の迷いもなく答えたのだった。
それを聞いた桜咲刹那は正直10歳の子供の思考回路とはとてもではないが信じられなかったのでどうしてそう考えるのか聞き返した。
すると二人から冬休みに4日間寝てた間の結果だと言われ、桜咲刹那も近衛門にスクロールを使わせてもらおうかとぶつぶつ何やら悩み始めてしまった。
ネギ少年は「意見が合わないとしても僕は僕ですし、刹那さんは刹那さん自身の考えで構わないと思いますよ。どちらが正しいかなんて簡単には決められませんから。そこから悩み抜いて自分の答えを見つけて下さい」と葛葉先生のアドバイスが微妙に生きたのか、10歳の少年が14歳に語る出来事があったとさ。

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ふむ、麻帆良にいると本当に安全だネ。
2月の中間テストでは美空はかなり手応えがあたと喜んでいた癖に食券トトカルチョで安定とされていた2-A最下位に賭けていたとはドジだナ。
工学部の隣にSNS用の巨大な施設も建設が完了して、麻帆良全体での運用、そして外部へと広がり始めたネ。
2-Aの皆があちこちで「こんなのがあるんだよ」と他の女子中学生に話を広めてくれていたお陰で爆発的に人気が出たのは私の学校が一番早かたヨ。
アメリカで交渉した結果が出始めるのはもう少し先かナ。

三次元映像撮影監視カメラの埼京線での試験運用ももう2ヶ月が経過しているが、車内での驚異的な犯罪率の低さと検挙率の高さを弾きだし、更に冤罪の撲滅にも役立たネ。
順次他路線でも導入の要求が来ているから試験運用どころかそのまま本採用に漕ぎ着けるにあたり、三次元映像技術の取り扱いに関するガイドラインの作成も急ピッチで進んで、見事この3月に完成したヨ。
去年の6月に発表してから10ヶ月近くかかたがようやく日の下に出せるようになたネ。
映像再生機については、販売は自由となたが、撮影機には製造した全てに固有のシリアルナンバーが登録され警察機関にその情報が伝わる事となたヨ。
購入に際しては手続きがかなり厄介だが、審査を受けて無事に通れば問題無しとなり、当然もし盗撮のような悪用をする事があれば極端に重い罰則が課されるようになたネ。
勿論、撮影機を違法製造した場合も同様だヨ。
まあ個人で認められるのは先になるだろうがまずは企業レベル、特に映画会社や警備会社等が先を争て購入申請をするだろうナ。
後は公共機関で例えば水道管の状態の調査等にも使われるだろうネ。
今のところ完全に雪広グループで技術を独占しているから法律に触れていると判断されるのも遅くないヨ。
その為他電機会社への共通規格作成で話が進む予定ネ。
これに関してはもう私は一介の開発者として手を出すつもりは無いヨ。
どんどん普及して、普通の撮影機も一緒に売上が伸びればSNSの方での情報収集にも役立つようになる筈だと信じるのみネ。

これからの予定と言えば、諸々の機器の製造は勿論だが、ダイヤモンド半導体の作成を詰めたり、まほら武道会の為の用意、ハカセ達といつも通りロマン溢れる新型ロボットの開発を進めるネ。
ロボットと言えば田中サン達の事だが、流石に麻帆良の外に普及させるのは無理があたから市場にはもうそろそろ限界が見えてもおかしく無いだろうナ。
もう少し外のロボット開発会社には気合を入れて貰わないと無駄にオーバーテクノロジー化したままになるネ。
資金もあるから投資するかナ。

後はSNSの基盤が固また所で今度は新型携帯の普及を進めたいが、携帯電話事業にまで手を無闇に伸ばすといよいよ命の危険が迫りそうだから、携帯本体の製造を行ている企業とうまく付き合う用にするヨ。
流石に粒子通信は搭載するつもりは無いが、性能はもう少し高い方がいいからネ。
この前の旅行が終わてすぐ皆の粒子通信は起動禁止にして、便利さを実感した皆は「普及させると良い」と言てくれたが、もしそうしたら先の電話事業そのものが潰れかねないから無理だナ。

大体科学面はこんな感じだネ。
一方相変わらず魔分有機結晶の精製はやているが4月頭の春休みになたら火星に行くつもりだからその際放射線レベルをきちんと計測した方がいいかもしれないナ。
魔法関連で言えば最近2ヶ月に一度ぐらいしか肉まんの差し入れしていなかたクウネルサンのところにこのかサンが弟子入りしたと翆坊主から聞いたヨ。
間違てもハカセのように鉢合わせしないようにしないといけないネ。
これから春が過ぎれば本格的にまほら武道会の準備を始めるから、翆坊主に聞かされたクウネルサンのネギ坊主の為のお膳立てをどうするか考え、直接話しておく必要があるヨ。
あの人の事だからネギ坊主に「決勝までこれたら戦わせてあげます」なんてニコニコしながら言いそうだからナ。
どうやら分身で出場する予定の割には、その分身半分無敵みたいなものらしいから通常の選手登録をさせたくは無いネ。
いくらクウネルサンが果たしたい約束だからと言てもそこまで個人を優遇したいとは思わないからナ。
私は純粋に在りし日のまほら武道会を復活させたいだけネ。

最後に、麻帆良以外の世界11箇所の聖地、いや翆坊主にしてみればただ勝手に溜まただけの場所らしいが、これを神木の出力上昇のブースターへ転用する為の計算をする事が課題カ。
引き出す事自体はウルティマホラの回復魔法術式で基礎理論はできているから後少しだナ。

そういえばネギ坊主はまだ正式な教員ではなかた気がするが、学園長はどうするつもりなのかナ。

《翆坊主、学園長はネギ坊主を正式な教員として認めるのはどうするつもりネ?》

《あー、実は2-Aのテスト順位をせめて最下位から脱出させる事だったらしいんですが、見事に超鈴音が春日美空と龍宮神社のお嬢さんの成績を上げた為に破綻したようです》

それは学園長も残念だたナ。

《まあ高畑先生にできなかたのにネギ坊主にやらせるというのは高畑先生が後で責任問題を取らされそうだし良いのではないカ?》

《ええ、全くそのとおりだと私も思います》

《それで代替案はどうなたのかナ?》

《いわゆる2-A底辺5人とじっくり面談を行い学習意欲を向上させ期末テストの結果がこれまでの統計的順位から相対的に上昇したと判断できたら合格、だそうです。ただ、解決手段に魔法を使ったり、試験を合格しないと正式な教員になれないという情報がどういう形であってもその5人の耳に入ったら即終了というものになったそうです。当然バレなければ良いというグレーゾーンを根絶するために常に監視が付いていると念も押されています。まあそれ私なんですけどね》

……何かきつくなていないカ。
しかも監視者が翆坊主では言い逃れできないネ。

《ハハハ新田先生にネギ坊主が相談しに行く姿が目に浮かぶようだナ。それでも正式な教員になれないだけで故郷へ即帰還ではないのだろう?》

《まあそういう事です。無理だったら続けて3年の中間で追試か、あるいはその間の彼女達の学習態度が改善されたと各先生が判断したらそれでも合格にするそうです。まあこの内容は詳しく伝えられず、追試はあるが諦めずに頑張りなさい程度に収められていますよ》

《年上の生徒に根気よく当たる10歳という構図からバカレンジャーに自身を理解させるのが手だろうネ。ま、ネギ坊主は天才だからで逃げられるのが難点だナ》

《果たしてどうなるでしょうかね》

《私も他人の事は言えないが、ネギ坊主もなかなか多忙な生活を送ているから大変だナ》

《そもそも労基法が云々ですが、若くして過労なんてネギ少年と超鈴音ぐらいなものですよ。葉加瀬聡美も近いですが彼女はとことん好きなことやってますし》

《別に私は嫌々やている訳ではないから日々充実しているヨ。ハカセと似たようなものネ》

《それなら構いませんが。春休みの火星探査でも楽しみにしていて下さい》

《ああ、それは楽しみにしているヨ。結局華にはお手付きする事になるがナ》

《今更そんな事気にしても意味ないですよ》

《なんというか私の矜持が素直に許さなくてネ。翆坊主が気にする必要は無いヨ》

《分かりました。体調には気をつけてください》

《大丈夫ネ。それとも何か気になる事があるのカ》

《あると言えばあります。……超鈴音がアーティファクトで精神強化をする時の補正値が以前より若干増えているので11月からの一件が地味に効いているのだと思いまして》

病は気からというが、ストレスは現代人には付き物だナ。

《私の願いの成就の為に必要な対価だと割り切るヨ》

《ならせめて積極的にアーティファクトをしっかり使ってください》

《ありがたく使わせて貰うネ》



[21907] 28話 アドバイザー美空
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/04 09:25
時期を見て、エヴェンジェリンお嬢さんに「あーそれだけか」と言われたものの、京都で折角詠春殿に貰ってきた地図に書いてある場所に行ってみようと思っていたネギ少年だったが、その前に近衛門から「一応試験はしなければいけないから」と、割とやっつけで底辺5人の学習意欲を向上させる課題が出された為あえなくその計画は後回しになった。
因みに課題が出されたのは3月7日の金曜日であり京都小旅行からすぐの事で、その翌日の土曜日に少年達と孫娘達は魔法球で遭遇したのだ。
課題が雑な感じになったのは近衛門が孫娘の扱いに忙しかったからなのだろうと思う。
そして来るべき期末テストの日は3月17日の月曜日であり本日、日曜から数えて勉強できるのはもう8日間しか時間がなく、普通はテスト対策は一週間前からするものなのでネギ少年は、女子寮にいる事を利用して早急になんとかするしかなかったのである。
そんな中ネギ少年はこれまでの2-Aの生徒達のテスト順位を魔法を使わずにパパッと一覧にした所、目についたのはやはり春日美空と龍宮神社のお嬢さんだった。
先月の中間テストの前一週間もアメリカに言っていたのにも関わらず順位が急激に上がったのは何か秘訣があるのだろうと思い至るのも無理はない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

また期末テスト近いッスねー。
先月は超りんのすげぇ教材のお陰で点数上がったけど今回は無理っぽいな。
寮の部屋は五月と同じだけど、いつも店で働いてるから大体休日でもいないんだよなー。
勉強しよかとも思うけどやる気起きねーわ。

―ピンポーン―

は?誰スか?

「はーい、今出るよ」

扉を開けたけど誰もいなって下か!

「春日さん、少しお話を聞かせて欲しいんですが今良いですか?」

なんでネギ君来るし。
えーまさかネギ君にも私が魔法生徒ってバレた?
いやいやいや、訳の分からん超りんはともかくそこまでマヌケじゃないッスよ!
ま、不自然に断るのも悪いし、いっか。

「おお、ネギ君ッスか。何?別に構わないけど、何なら上がるかい?」

「はい、ありがとうございます。お邪魔します。」

アスナ達の部屋に行ったりしたことはあってもネギ君が私の部屋来たことなんてなかったな!
だってほら、目立たないようにしてるからクラスで割と空気だし。
……自分で言っといて辛くなって来たッスよ。

「んで、何の話が聞きたいんだい?」

「えーと、春日さん前回の中間テストで急に順位が上がったので何か心境の変化があったのかな、と気になったんですが……。」

うぇっ!?何?私が勉強できるようになるとアレか、槍が降るとでも言いたいんスか?
そんで心配になって様子見に来た?
……んーでも、この様子だと違うか。

「まーぶっちゃけると心境は一切変化してないけど、単純に超りんの教材が凄かっだだけだね。」

「あ……そうなんですか。超さん……教材か……いやでも……どうしよう。」

何か悩みだしたなー。
適当に懺悔室でシスターシャークティの目を盗んで神父さんの代わりとかしたら面白そうだ。

「ネギ君、実は私これでも一応シスターなんで悩みとか聞きますよ?」

「え、そうなんですか?……それでは、春日さん僕が今から言う話を口外しないでもらえますか?」

微妙に重い話か?でもテスト関係っぽいから大した事じゃないだろ。
少年のプライバシーの一つぐらい守れるしいいか。

「それはもちろん、口外しないって誓うから安心してよ。」

「ありがとうございます。実は……」

語り出した内容は、もう来週の月曜の期末までによりにもよってバカレンジャーの学習意欲向上させて期末テストの順位をそれなりに上げなきゃいけなくて、しかもこれが最後じゃないけど達成できないと正式な教員になれないとな。
そんでもってこの話がその5人の耳に入ったら失格ねぇ……。
もしかしてその監視は相坂さんか。
今も見られてたりすんのか?それはやべーよ。
あの千里眼半端ないからなー。
なんつっても密閉空間まで覗けるらしいし。
しまった、興味本位で軽く聞いてみたらまた面倒な事に巻き込まれたかっ!
でもまあここは真面目にアドバイスでもするか。

「んー学習意欲向上させるって事は今回の期末テストだけ点数が高ければ良いってもんじゃないんだよね?」

「それは聞いてないんですが、僕がさっき迷ったのは単純に順位を上げればそれでいいのか、と思ったからです。」

「そうだなー、点数上げるだけだったら超りんの教材でも借りてくればそれで終わりッスからね。先生としてなら大変だろうけどやっぱ学習意欲を上げた方がいいんじゃ?」

「やっぱりそうですよね。あぁ、答えは最初から一つしか無かったのに迷うなんて……」

いきなり落ち込んでるが大丈夫か?

「どうしたんスか?落ち込んで」

「ちょっと前に自分の答えを見つけて下さいってある人に言ったんですが、その僕がこの体たらくじゃ顔向けできないなと」

げー私が10歳の時とかそんな事で悩んだりしたことないわー。
魔法使いの試験めんどくさいねぇ。

「自覚してるだけいいじゃないッスか。それより今は先に5人の問題を解決しないと」

「ありがとうございます、春日さん。でも学習意欲って言っても僕少し読めば大体本何かだと覚えてしまうので、あまり皆さんの苦労がわからないんですよね……」

うはー天才少年贅沢な悩みだなぁ。

「ネギ君頭良いからねー。一応私の感覚で学習意欲がわかない感覚を言うと、勉強を始めても集中力が続かない、やる気が余り出ない、苦手な歴史とかに手を出そうとすると突然アレルギー反応が起きるとかそんなんッスね」

「それって勉強自体がつまらないって事ですか?」

「まあスゴーく楽しいなんて事は胸張って言えないね。簡単にやる気を出させるなら動機付けでもするしかないんじゃないか?例えば順位が上がると何か良い事があるとかさ」

「動機付け、ですか。うーん、金銭は駄目だし何かあるかな……」

「あの5人じゃ全員一人づつ対処法は変えないと駄目だろうね。あんま良い例じゃないけどアスナの場合順位が低いままだとバイトは禁止とか。これは窮地に追い込むタイプで脅しみたいだからオススメしないけど」

「僕そんな事アスナさんに言えないです……」

そらそうだろうな、結構迷惑かけてるみたいだし。

「ゆえ吉は本自体は好きだし哲学っ子だからとにかくやればすぐ点数は上がるだろうね。どうやらせるかだけど。」

「春日さんってクラスの皆さんの事良く見てるんですね!良かったら他の3人のことも教えてくれませんか?」

んー乗りかかった船だし私見で良ければだな、

「まき絵って新体操であんな複雑な事できる割に勉強ができないのはじっとした状態だと頭に入ってこないタイプなんじゃないかと」

「うんうん」

この子真面目にメモし出したよ。

「楓はあれだ、単純に勉強してないだけでしかも、どう見ても忍者で洞察力はありそうだからそこを突けばなんとかなるんじゃ?」

「やっぱり楓さんって忍者ですよね……。それでくーふぇさんはどうですか?」

ほんっと全く忍んでないよなー。
山から帰ってきたときの格好一度みたけどすぐ分かるっての。

「くーちゃんは、英語は無理だし、強い奴が好きみたいだし、昔の中国の武人とかさそういう歴史上の偉人伝とか意外と興味もったりしない……かなー?それに楓と同じで単純に勉強全くしてないだけだ。」

「なるほど……確かにくーふぇさんは既に強い人ですからそういう歴史上の伝説なんかでも興味持つかもしれませんね。」

まーそこは流石に適当だわ。

「改めてアスナについて言っとくと、あいつは高畑先生の補習授業を受けたいが為にネギ君が来るまで勉強してこなかったからツケが回ってるんだわ。逆にネギ君が先生同士っつー事で高畑先生にこれからアスナのテストの順位が毎回上がったらデートと言わないまでも散歩でもするように約束させればいいんでない?ま、ある意味高畑先生がちゃんとアスナにきつく注意しなかったからこれまで改善してこなかったんだしその辺つつけば先生も無碍にはできんしょ」

あれ、めっちゃ語ってるわー。
つかマジいつも人間鑑賞してると意外と気づいてることあんだな。
でも隣の超りんわっかんねー。

「す、凄いですよ春日さん!色々ありがとうございます!僕自分なりにも頑張ってみます!」

何か尊敬されてんだけど、まずった。
これで私の順位また下がったらネギ君じゃないけど、顔向けできないわー。
マジ自分の首締めた、アホだ……。

「いや~なんか力になれたみたいで良かったッス。そんじゃ、まあ頑張ってみなよ。」

「はい!失礼しました!」

はぁ……年下の子供先生がこんなに頑張ってるつーのに年上の女子中学生が頑張らないってのは何だし、いっちょやりますかね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

《んーどうしたんだ翆坊主。面白い事でもあたのカ?》

《いえ、春日美空の所にネギ少年が例の課題について相談しに行ったんですが、シスターらしからぬ口調でしたが意外と真面目に回答してまして。》

《ははは、ネギ坊主の奴美空のとこに行たのカ。私の教材でも貰いに、というのでもなさそうだネ。》

《ええ、単純にテストの点を向上させれば良いという結論ではなく、しっかり学習意欲の向上を図る方向で頑張るようです。》

《しかし美空そんな事ネギ坊主にアドバイスして成績がまた下がるなんてできなさそうだナ》

《全くもって。やる気なく部屋でゴロゴロしてましたが今勉強してますよ。》

《どうせ、首絞めたと思てるんだろうナ》

《そんな事ぶつぶつ言ってましたよ》

《ドジだナ。》

《まあ彼女らしいですね》

《ふむ、後で少し援護射撃でもしてやるカ。SNSの効果の程を見せつけてやるネ。》

《それは……ネギ少年というより春日美空への報酬みたいなものですか?》

《まあそんな所だヨ。美空には、アメリカには連れていたが、追加報酬払ていないからネ。中間テスト対策もしたがあれはあの旅のサービスの一環だからナ》

《律儀なことで》

《火星人は義理堅いネ。ここが今回の期末のポイントだ講座でもコミュニティに上げるとするヨ》

《グレーっぽいですけど別にテスト問題を盗み見てる訳でもないですから許容範囲内ですね。》

《監視役のお墨付きも得て何も問題ないナ。》

そして、その後のネギ少年の行動は迅速だった。
まずタカミチ少年に連絡し、アドバイス通り痛い所を突きくものの、のらりくらりと避けられそうだったが、懸命にお願いし続け、かつ少し純粋さが失われたのか「僕がタカミチの代わりに解決するなんて事でいいの!?」と言った事が心に刺さり、神楽坂明日菜のインセンティブはあっさり獲得できたのだった。
それから立て続けに面談をし、忍者には一緒に山篭りした経験から生物に関しては寧ろ文献より詳しいだろうと、そこから理科を、古菲には「昔はこんな凄い人がいたんですよ!?興味ありませんか?」とちょっとびっくりするような迫り方をしつつ、話して聞かせ始めたら、何とも話し方がうまく彼女は肉まんをパクパク食べながら「面白いアル」と少しはマシになった。
佐々木まき絵には「身体を動かしながらならすんなり覚えられるんじゃないですか?一度やってみましょうよ!」と新体操の為の曲ではなく、英語の曲をかけたり、二人でランニングしながら問題を出してみたりと実験して効果がそこそこ出たため「ネギ君!私ちょっと頑張ってみるよ!」と目が輝いたので確かに意欲は向上したと見える。
綾瀬夕映には口論では彼女のお祖父さんの哲学で押されそうだったが、「何事もまずやってみませんか?」と問いかけ、むむむと唸りながらも「……一理あるです。分かりました今回は頑張ってみるです。」となんと5人とも効果の程はわからないがやるだけの事はやったのだった。

更に2-Aコミュニティに4日程してから超鈴音による今回のテストのポイント講座というものが上げられ、春日美空は「監視してんのホントに相坂さんっぽいなー。超りん達神だわ」とある意味核心に限りなく近いことを呟いていた。
監視している人物は違うが種族は同じだ。
当然それ以外の生徒達も「マジ神来た」等と言っていたが。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

3月17日月曜日いざ期末テストを終え、2-Aの皆は「いつもよりできた!」と言っている反面、「今回トトカルチョ全く期待できないね」と2-A最下位安定の方が食券が確実に稼げたと言う声もありましたがネギ先生の秘密課題がかかってますからね。
それにしても神楽坂さんがニコニコしているのが端から見てわかるレベルです。
「どうしたのアスナ、そんなにテストできたのうれしかったの?」と皆に聞かれてますが、「えっ、別にそんな事ないわよ!」とあからさまに顔を赤くして否定していますが、それではただの肯定ですよ。

また、春日さんがチラチラ私の事を見るようになったんですが、そのうち話付けておきましょうか、残念ながら精霊違いなので。
別に悪いように思われているわけではないから気にしなければいいだけでもありますが。

鈴音さんの講座が上がっていたという情報は他クラスにも漏れていて、今後の定期テストはクラス対抗の叡智をかけた総力戦みたいな事になりそうです。
そのうち的中率とかもトトカルチョ対象になりそうですね。
色々何か見つけてはすぐに活用するというのは人間が人間らしいところでしょうか。
まあ、なんだかんだ鈴音さんの情報が一番人気が出るでしょうから2-Aの皆と何か部活が一緒だったりした場合は漏れそうですね。
そのうちエスカレートして先生から苦情が来たらどうするのか聞いてみたところ「そしたらテスト期間中にはオープンでのテスト関連情報の書き込みはできなくすればいいと思うヨ」と開発者らしい発言をしてました。
ネット系は流行り廃りが早いからずっと同じことが続けられる必要もないし、時間が経てば似たような事を繰り返す事もあるでしょうね。

さて、次の日、期末テストの結果が出ました。
先生達は採点お疲れ様です。
結果は上位4位までを2-Aで独占するのはいつもどおりで、頑張って欲しい5人は全部の教科の成績が向上した訳ではないですが、特定の教科に関して順位が上昇し十分学習意欲が向上したと言えるものになったと思います。
逆に全教科の点数が軒並み上昇したらその場限りの付け焼刃と判断されたかもしれませんから、これぐらいで丁度良かったのではないでしょうか。
何事も程々にと言いますし。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

うーん学園長先生に呼ばれたけどどうなるかな。

「失礼します、学園長先生」

「ネギ君、入って構わんぞい。」

「はい」

ふぅ……緊張するなー。

「ふむ、生徒の特性を見極めて伸ばせるところを伸ばしたようじゃな。これはネギ君が一人で考えたのかの?」

「いえ、正直に言うと、春日美空さんから色々アドバイスを貰って、僕なりに実行しただけです。だから今回は一人の力だけでやりきったとは言えません。」

「何、儂も一人でやれ等最初から言っとらんから良いのじゃよ。ネギ君は自分で考えて春日君に相談したんじゃろ?生徒の目線から見えるクラスとネギ君から見えるものとは違ったのではないかの?」

「はい、僕一人では見えなかった事が、相談することで見えました。」

「よかろう、この通りあの子達の成績も上がっとるし、見事合格じゃよ。」

……はぁ、良かったぁ。

「学園長先生、ありがとうございます!」

「それでは次年度からは正式な教員として頑張るんじゃぞ」

「はい、頑張ります!」

良し、これで最初の課題は乗り越えたぞ。
すぐに春休みになるからこれでやっと地図の場所にも行ってみることができる。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

見事ネギ少年は課題に合格した。
2-Aのクラス順位も前回の中間より更に上がり全体で10位ぐらいにまで上昇したのだ。
だがしかし、一つ何か忘れていないだろうか。
そう、ネギ少年は近衛門の課題に没頭していたためすっかりホワイトデーというものの事を忘れていたのだ。
その点について、突っ込まれハッとなったネギ少年は正直に「忘れててすいません」とかなりの人数に対して謝罪しながらお返しをして回っていた。
いわゆる三倍返しという奴である。
正直10歳の少年がそれぐらい忘れていたからといって誰も怒ったりしないのだが、紳士なのか懇切丁寧に方々に出向いていたのを見て、無理やりチョコレートを先月押し付けた者共は微妙に罪悪感を感じたに違いない。

一方神楽坂明日菜はタカミチ少年と買い物に付き合ってもらうことにし、鈴の髪飾りの別バリエーションを買って貰ってそれなりに嬉しそうだった。
タカミチ少年はというと、朴念仁なので、「アスナ君、そんなに嬉しいのかい?」だ。
空気読め。
女子中学の教員やっておきながらそういう事を理解できないのか、そんな事自分にはありえないなんていう思い込みなのかはともかくいずれにせよ、大きな間違いである事を自覚すべきだろう。

その後無事に3月25日に終業式を迎え、学年トップを取った訳ではないが、とりあえず祭りの類が好きな2-Aの少女達は打ち上げを行い、そのイベントに長谷川千雨が参加せずにスタスタと寮に戻っていったのを見たネギ少年はどうしても気になったのだった。
かといって勝手に部屋に入り込んだりはせず、きちんと呼び鈴を押して、彼女が出てくるまでじっと待っていたため、それをドアの穴から見た長谷川千雨は「今回ぐらい仕方ねーか」とコスプレ衣装から着替え直しネギ少年の前に出たのだが、メガネを忘れていた。

「長谷川さん、メガネ無い方があってると思いますよ。凄く綺麗です!」

とベタ褒めである。
これをこのまま年齢を重ねても続けるといつか刺されるかもしれないから気をつけようね。

「ッー!」

言われた本人はメガネ無しの顔を直接人に見られた為大層恥ずかしがったが、ほめられたのは悪い気はしなかったらしく、落ち着いてメガネを取りなおしかしましい2-Aの宴会に参加したのだった。
因みにネットアイドルである彼女だが超鈴音によりSNSが広がり始め、その結果ブログのランキングをまとめたポータルサイトの重要性が急速に薄れつつあるため、長谷川千雨は自分のコミュニティと今までのブログを合併するかどうかという瀬戸際に立っている。
かといって自分の趣味を公開するのはちょっと、と悩み多き年頃である。
ブログのコメントに「ちう様はSNSはやらないのですか?」と誘いが大量に来ているので断り続けるのも、ちょっとという感じである。
個人による複数アカウント作成は今のところ超鈴音が認めていないので、なかなか難しい状況だろう。
それができるのもSNS内の巡回プログラムが異常に優秀であることに起因するが、実際ユーザーからはネットとしての仮想現実を楽しみたいという声もあるのでそのうち対応するのかもしれない。

こんな瑣末な出来事まで私は元々起こることを知っているのか?というと、さてどうだろうか。
知っていようが知っていまいが誰もそんな事知りはしない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そしていよいよ、短い春休みの始まりである。
ネギ少年と一緒に行ってみないか誘われた小太郎君は春休みに入ってすぐ、図書館島であるが特に重装備もせず詠春殿から貰った地図の場所へ向かった。
実際今の二人が司書殿の所にいくと門番の翼竜の彼女が酷い目に合わされるのではないかと心配になるのだが、予めエヴァンジェリンお嬢さんが孫娘にその事を伝える手紙をクウネル殿に渡すように、しなかった。
実際する寸前だったのだが、「どうせ奴の事だ、ラブレターだなんだと面倒だから直接伝えておけ」と口伝になった。

地図には便利なエレベーターの事が全く書いていないため普通に突入したが、冬のスクロールでかなり性質の悪いものを長いこと経験した二人にとっては、図書館島の罠は非常にレベルの低いものだった。
そもそも基本的に歩いたら発動するスイッチタイプに関しては常に浮遊術でスルーするので罠自体が発動しないというのも冒険がぬるくなるのを加速させた。
そんなこんなで割とあっという間に彼女の所に到着である。

「そろそろ地図の位置なんやないか?」

「うん、そうだね。えーっとそこを右か」

「よっしゃ!」

「別に急いでないから確実に行こう」

「分かってるて」

しっかり曲がり角で小太郎君が分身を出して先行させ、彼女に気づかれずに視認させすぐに戻ってきて報告である。

「腕が翼になっとる巨大な竜がおるで」

「なんや、最後はやっぱり学園長のアレと同じようなもんなんか」

「うーん、精神空間で戦った竜種とは耐久力も違うだろうから下手に怒らせる前に速攻で角があれば折った方がいいね」

「角の数は短いのが5本や」

「5本か……。何本かまとめて折らないと駄目かな」

「角同士は離れとるんか?」

「威力さえあれば2本ぐらいいけそうやったけどな」

「実際頭に近づけそうなの?」

「それは分身で陽動しといて背後から奇襲かければいけそうや」

「どれぐらい耐久力があるかわからないけど、予め溜めといて一気に行こうか」

「ああ、現実の竜は初めてやからな。油断せんと最初から本気で行くで。アデアット!両腕に術式封印頼むわ、分身!」

偵察に出た分身を含め密度の薄い3体を出現させた。

「うん!僕は両腕に断罪の剣と遅延呪文で三回出せるようにしておくけど、小太郎君余裕あったらよろしく!」

「アーティファクトですぐ分かるから安心しい!」

       ―契約執行 300秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!!―
              ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―光の精霊101柱! 集い来たりて 敵を射て!! 魔法の射手 収束・光の101矢!!―
              ―短縮術式「右腕」封印!!―
              ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―光の精霊101柱! 集い来たりて 敵を射て!! 魔法の射手 収束・光の101矢!!―
              ―短縮術式「左腕」封印!!―
                ―戦いの歌!!―
             ―未完成・断罪の剣・術式封印!!―
              ―双腕・未完成・断罪の剣!!―

「おっしゃ!陽動出した後一気に背後に回って決めるで!」

「もちろん!」

とんでもないドーピングをしてから出撃という用意周到ぶりだった。

分身を三体を囮に出し作戦通り彼女にあえて発見させ興味を引きつけた隙にお互い目立たないよう端を虚空瞬動で駆け抜け、背後に回り込み飛び上がって急接近した。
彼女は緩い気弾をポンポン撃ち出す分身にイラっとしたのか炎を吐いた時。

         ―右腕解放!!桜華狗音崩拳!!―
          ―双腕・未完成・断罪の剣!!―
「もう一発や!」―左腕解放!!桜華狗音崩拳!!―
        「こっちも!」―解放!!―

死角から角を一瞬にして爆発音と共に5本刈り取った少年達だった。
彼女がこれで魔法障壁を張るタイプの竜種であれば苦労したのだろうが、そうではなかった為通りは良かった。
続けざまに小太郎君が高速でネギ少年の腕を掴み一旦距離を取った。
様子を見ていた所、気がついたら角を全部折られてしまった彼女は「キュキュキュー!!」と鳴き声を上げ涙目で必死に逃げていった。
かわいそうすぎる。
どうやら翼竜がもう戦いたくないと思ったらすぐ逃げるように司書殿が言い聞かせておいたようだがちょっと見誤ったと思う。
二人は確実な戦法を取り、模擬戦でもない今回の実戦では、早速惜しげもなく小太郎君が咸卦法を使用した結果がこれである。
部位破壊達成かつ敵大型モンスター撤退完了。
報酬はきっと角そのものだろう。
残念ながら小太郎君がやった方はかなり砕け散っているが……。
角にオーバーキルである。

「あー、300秒もいらんかったな」

「まあこんなものだよ。今のでやれてなかったらきっと泥沼だったし」

「そうやな、ここで怪我なんてしとないしな。アベアット。殺さなくて済んでよかったわ、これ現実やし」

「うん、そうだね。この角もらっていっていいかな」

「あんまでかくない角やけど、エヴァンジェリンの姉ちゃん驚くやろな」

「……でもマスターこの地図見せたらなんか知ってそうだったからどうかなぁ」

「ま、勿体ないし、貰うとこうや」

「そうだね、でもやっぱりコタロー君威力高すぎで砕け散ってるよ」

「そら通常の俺の数倍の力みたいなもんやからな」

と、角を採取して軽い荷物にしまい始めた二人であったが、扉が開いた。

「お二人とも初めまして。私はクウネル・サンダースと申します、以後お見知りおきを」

「おわっ!まだボスが出てくるんか!アデアット!」

「いえいえ、私に攻撃の意思はありませんよ。少しここまで来るのに疲れたでしょう、お茶などどうですか?」

「あ!父さんと一緒に写真に写ってた人だ!」

「なんやて?」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

詠春さんに見せてもらった写真に写っていた、クウネルさんという人に案内された空中庭園は凄い場所だった。
色々話したらさっき僕達が奇襲をかけた竜はここの門番だったらしくて、「ごめんなさい」と謝った。
「まさかあんな方法で角だけ折ってしまうとは思いませんでした」と驚いてたけど、実際小太郎君と一緒じゃなかったら無理だったなぁ。
凄くアーティファクトに興味持ってたけど効果について他人に話してはいけないと言われている事を伝えたら「そうですか、分かりました。少々残念ですね」と諦めてくれた。

「あの、僕この地図を詠春さんから貰ってきてここに来たんですがクウネルさんは父さんの居場所を知っているんですか?」

「おや、どれどれ。……なるほど、ナギが書いたオレノテガカリというのは確かに私ですが、残念ながら私もナギの居場所はわかりません。ただ確実に生きているのはわかりますよ」

「何や、こうなることエヴァンジェリンの姉ちゃん知っとったんか」

そうみたいだな……。

「僕も数年前故郷が襲われた時に父さんを見たので生きていると信じているんですが、確実な証拠って何ですか?」

「契約カードですよ。契約者が死ぬとこうなりますが、私とナギの物は、ほら、こうです」

死んだカードは生きているカードに比べて文字が沢山消えてるのか……。
それに本当にマスターが言ってた通り父さんも契約してたんだな。

「父さんが生きてるのは分かりました、ありがとうございます」

「はー、死ぬとそんなに寂しいカードになるんか」

「私もこれぐらいしか協力できなくてすいません。少々事情があってここから出られないものですから」

「いえ、隠れていたのに門番の翼竜さんを酷い目に合わせてごめんなさい」

「俺もやりすぎたわ、悪かったわ」

「あれは私も油断していましたか良いですよ。隠れていると言ってもあまり人も来ませんからね」

「クウネルの兄さんの事は口外しない方がええんか?」

「隠れてるからにはそうですよね?最近秘密にしないといけないことが多くて」

「物分りの良い少年達で助かります。失礼ながらできればここにはしばらく来ないでもらえるとありがたいですね」

「おう、分かったで!」

「はい、約束します!」

「ありがとうございます。少しナギの話でもしてあげたい所なのですが、詠春から聞きましたか?」

「はい、それなりに父さんの小さい頃については」

「そうですか、なら似たような事を話かねませんから今回はやめておきましょう。少し私も昔を思い出しておくことにしますよ。こちらからそのうち何らかの方法でまた招待しますから」

その後、あまり長居するのも悪いし、昼過ぎに出発してそろそろ夕方だからまた戻るのに時間もかかるからクウネルさんに別れの挨拶をして帰る事にした。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まさかの竜の角を獲得して、クウネル殿としてもありえないタイミングでネギ少年と会ってしまったが、魔法世界の事をそそのかしたりはしていないし、学園祭についても触れていなければ、孫娘についても話していないので、まあ許容範囲内だろう。
実際竜の角をどうしたかというと、寮に持って帰る訳にもいかないのでエヴァンジェリンお嬢さんの家に預けに行き「まさか折ってくるとはな、正攻法か?」と聞かれたので「「奇襲をかけました」」と堂々と外道発言だった。
「まあ、大怪我をしないようにするのだったらそれが正しい選択だよ」と一応その攻略方法を認めていた。
完全討伐ならもっと苦労しただろうが、撤退で済ませられたので今回少年達はかなり楽だったろう。
ある意味あの瞬間の奇襲で終わらなければドーピングが難しくなる上、彼女が激昂すれば大変だった筈だ。
何はともあれこれにて二人の図書館島地下探検はスクロールでの経験を実際に活かすのには、それ自体が良かったか悪かったかはともかく、役立ったと言える。



[21907] 29話 まともな名付け親
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 20:19
少年達が翼竜の角を全て刈り取った日から2日後の29日の土曜日、孫娘が司書殿の元に訪れた際、角が折れている彼女を発見し何やら会話し始め、「ウチが頑張って治したげるからな!」と言いながら鼻先を撫でていた。
その際同行した桜咲刹那は「一体誰が……」と驚いていたのだが、更に次の日エヴァンジェリンお嬢さんの家に向かったら一部砕けているもののどうみても5本角が置いてあり「「え?」」となって一悶着あったが、孫娘達は少年達にその件を触れられないのでお嬢さんからタイミングを見計らって「少々行き違いがあってな、ぼーや達もわざとじゃなかったんだよ、反省はしているさ」とフォローが入ったのだった。
果たして今回誰に問題があったのかは微妙な所だが、そもそもナギが意味深な地図を残した事なのか、お嬢さんがはっきり言わなかった事なのか、司書殿が少年達の戦力を見誤ったのか、少年達がとりあえず倒しておこうという思考回路を取った事なのか、それぞれに原因はあったと思う。
何にせよ門番の彼女には養生してもらいたい。
因みに孫娘が司書殿の元を訪れた日にはネギ少年は雪広あやかの実家に神楽坂明日菜と共に家庭訪問していたそうだ。

そして4月に入ってすぐ、場所は超鈴音のダイオラマ魔法球である。

「うむ、翆坊主、さよ、この万全の装備なら問題ないネ」

「私も身体ありで行くのは初めてです!」

《随分色々持ち込むんですね》

スキーに必要な道具は勿論、軍用強化服やら地質調査用の精密機器やら、放射線を計測する機材やら色々である。

「華に積みこんであちこち実際に見て回る必要があるからナ。では早速転送頼むヨ」

《分かりました》

ポートに全ての機材を載せていざ木の内部、華のある間に転送である。

「翆坊主、前回華には触ただけだが、入るのはどうするネ?」

《特に何も、入れると思って入れば入れますよ》

「外壁の一部が開くのではないのカ。確かに機械的では無いネ」

「魔分散布の時も華の上部から普通に花粉みたいに飛ばしてましたし、特に扉無いですからね」

「ふむ、それでは人類初の乗船だヨ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

初めて華に入たが、内部はとても変わていたヨ。
壁面は全て私がアーティファクトを使た時の目の虹彩と同じように不規則に輝き、華の中心には大きな球体が浮かび、そのすぐ隣には、どこか全く違う草原に繋がるアーチ状の門のようなものが正直場違いでは無いかと思えるように無造作にそこにあたネ。

「さよ、この華は操縦できるのカ?そちらのが例の亜空間なのは分かるがこの球体は何ネ?」

「あー、そういえば鈴音さんには華の中は楽しみにって事で見せてませんでしたね。その球体は私たちの観測空間と良く似ているんですが、同化すると操縦できます。鈴音さんも問題なく入れる筈ですよ。試したことないですけど」

試したこと無いのカ。
でも一番乗りというのは悪くないネ。
大方同化というのも華に乗り込む時と感覚は同じなのだろうナ。

「よし、少し入てみるネ」

「では先に荷物亜空間に運んでおきますね」

「よろしく頼むヨ」

手を当てて入れる、と思う。
……おお!アーティファクトを使た時と似たような感覚だが、情報が流れこんできて操縦の方法から全部わかるようになるのカ。
これも有機コンピューターのようだけど、機材を持ち込む必要はあまり無かたかもしれないナ。
まあまたもや互換性が無さそうだから無駄ではないだろう。
それにしても精霊というのはファンタジー的なものだと思ていたが、SF的なものに近いのカ?
時間加速機能なんていうなんだか危なそうなものがあるのだが設定によては未来に一瞬で行けそうだヨ……。
身体がどうなるのか心配だから使えないけどネ。
まだ色々気になる事もあるがさよに全て運ばせるのも悪いから一旦出るカ。

「あ、鈴音さんどうかしたんですか?すぐ出てきて」

おや?

「さよ、どれくらい私は入ていたネ」

「よろしく頼むヨと言って手を当てて入ったらすぐに出てきましたよ」

通常は、粒子通信や、してもいなかたつもりだたが高速思考と同じ状態なのカ。
だから調整の為に時間加速機能がついているんだナ。

「この中に入ると設定しない限り時間が殆ど経過しないみたいだネ」

「そういう事ですか。私達の木の観測空間は一応現実と同じ流れにしているのでズレは無いんですよ」

「私も次はそうするネ。ならまず先に機材を運んでしまおう」

「はい!」

とにかくスキー板用具だけは持ていきたいネ。
アーチ状の亜空間内はやはり見た通り草原だたヨ。
水源もあるようだし一体どこの異界なのかと言いたいが、食料の自給自足もやろうと思えばできそうだし、家も建てられそうだネ。
まさに華という見た目を偽装した方舟のようだナ。
……間違いなくここも時間設定ができそうだからわざわざ生活する必要もないかもしれないけどネ。
途中から往復するのが面倒になて、アデアットして物を浮かせる魔法で一気に運んだらさよが「最初からそれで良かったんじゃ……」と言われたネ。
でも何でも魔法に頼るのは良くないヨ。

《準備できたようですので華を火星側に転送します》

《頼むネ》

第二世代に来たのも初めてだが全く同じだたヨ。

《続けて華を木から射出するのでそのまま中で待機しててください。その後は自由に操縦して良いです。有機結晶型外宇宙航行船、射出シークエンスを開始、カウント3、2、1、射出。コントロール権限を自動プログラムに譲渡》

地球のロケットのように爆音は無く気がつけば飛んでいたようネ。
騒音対策も完璧とは大したものだナ。

《翆坊主、この華の名前は付けていないのカ?》

《暫定的に大いなる実りとかなってるんですけど、語呂が悪いので好きにつけていいですよ。何なら超包子でもいいですし》

《鈴音さん何か良い名前付けてください!》

精霊にとては名前は何でもいいというのは翆坊主が「木の精霊だからキノ」からしてなんとなく分かるが第二世代の木にも名前が未だに付いていないみたいだからネ……。

《ありがたく名前は考えさせてもらうヨ。でも超包子は流石に無いネ。確か木の位置は魔法世界の龍山山脈のあたりだたナ》

《そうですよ》

《付近にある都市の名前は北に桃源と西に盧遮那だたかナ。多分このまま行くと第二世代も蟠桃で決まてしまいそうだネ。ふむ……》

《どうしてもメガロメセンブリアからは離しておきたかったですから。また中国っぽいところです》

《桃の次は栗ですか?》

《柿でもよさそうですね》

この二人は駄目だヨ……。
神木・甘栗や神木・渋柿なんてあまりにも締まらなさすぎるネ。
エヴァンジェリンだと神木・茶々になりそうだし、私もロボットに田中サン、鈴木サン、佐藤サンと安易に付けたから他人の事は言えないカ。
クウネルサンもあの人自身ネタに走ているし、どうもまともな感性の人間が麻帆良には不足しているヨ。
中国の伝説であれば、山海経によると、東方の海中に黒歯国があり、その北に扶桑(ふそう)という巨木が立ており、そこから太陽が昇ると言われているヨ。
扶桑自体が東方の島国、つまり日本を指してもいるが。
神木・扶桑……アホなネタより余程マシだナ。
後は仏教経典から、3000年に一度咲く際に金輪王が現世に出現すると言われる花があるのだがその名前が優曇華だたネ。
実物は花というよりもやしみたいな見た目をしているのだが、3000年に一度というあたりぴったりだと思うヨ。
無理やり解釈すれば、「優」れているが、「曇」りでないと飛ばせない「華」と、なんとも一昨年の夏の逸話そのままだネ。

《決めさせてもらたネ。第二世代の木は中国の伝説から、神木・扶桑。華の名前は仏教経典から3000年に一度咲くと言われる花、優曇華。特に優曇華の方は打ち上げの時の出来事そのものを一つずつ漢字で表せていると思うヨ》

《超鈴音、ここまで真面目に名前を付けた人は初めて見ました。流石天才です!》

《この華は優曇華ちゃんですか!おいしそうですね!》

好評で良かたネ。
その前に自分達でもう少しまともなものを考えたらどうかと思うけどナ。
さよ、何故ちゃん付けなのかは知らないが食べられないヨ。

《喜んでもらえたようで良かたヨ》

《今度からはネーミングは超鈴音に一任しましょう》

《それがいいです!》

話が進みそうに無かたから、早々に話題を転換してドライアイスの山に向かたネ。
スキー用具を装着、アデアットしてエヴァンジェリンが名付けたという魔法領域を展開しながら外に出たヨ。
アーティファクトの視野拡張効果を極限まで伸ばして今更神木・扶桑を確認したが……。

《扶桑は既に水に浸かてるようだが大丈夫なのカ?》

《大丈夫です、問題有りません》

《きっと水生植物にもなれますよ!》

一応私の故郷なのだが、変にテラフォーミングが進んでいるから違和感しか無いヨ。
多分あちこちで妙な海ができているのだろうナ。
……それは今は置いておくとして、さよもスキー用具を装着してどうするのかと思たが、魔法領域出せたみたいだネ。

「さよも魔法使えたんだナ」

「んーでも勝手に出てる感覚がして、自分で使っているという実感があまり無いんですよね。これを銃撃の時に使っておけば死体にならなくて済んだかなぁ……」

「あの時は衆目もあたし、魔法を使う訳にはいかなかたからナ。過ぎたことは仕方ないネ。それではスキーを楽しむヨ!」

「はい!」

うまく滑れる場所とどちらかというとスケートの方が滑れたかもしれない場所もあたが、地球には無い規模の一面ドライアイスの空間を堪能して、ある程度滑り降りたら、優曇華に乗てもう一度と繰り返したヨ。
浮遊術でも良かたのだがリフトの代わりに優曇華を使うというのは贅沢だナ。
途中で炭酸飲料をばら撒きたくもなたが、環境破壊になりそうだたからやめておいたネ。
なんと言ても雪状のドライアイスを精製するには普通機械が必要なのが場所によっては天然で存在するというのは、やはり遊びに来た甲斐があたヨ。

「この映像は優曇華ちゃんが全部記録しているので後で渡しますね」

「思い出の1シーンだネ。誰にも見せられないけど。さて、そろそろ、次の作業を始めるカ」

「了解です」

《翆坊主、北半球側の地下の氷はよく溶けているようだが、南半球はどうネ?》

《北半球にある地下の氷やクレーターの氷の湖は地上に出てきたり、既にただの湖になっています。一方南半球の北側はなんとか大丈夫ですが南極となるとあまり進んでいません》

《ふむ、それなら重力魔法で一気に穴を空けて燃える天空をやてもいいのカ?南極の極冠には全部溶ければ火星表面を単純計算で10m一気に水深を増やせる量の氷があた筈ネ》

《ゴリ押しですね。まあ全部の場所をカバーはできないでしょうが少しでも早くなりますからお願いします》

《任せるネ!》

火星の表面積は1億4400平方kmで10mの水深になるのだから、体積で言えば144万立方kmの水になるヨ。
比較の対象として平均水深が1752mの日本海が丁度136万立方kmだから、それよりも多いぐらいの量になるネ。
地球で考えると微々たるものだが、火星の表面積は地球の1/4の上、同調する魔法世界の地図には南半球つまり、火星で言う北半球にも大陸があるのだから、海の面積はその更に半分程度で構わない事を考えるときちんと効果はあるヨ。
それに翆坊主の話だと、あくまでもできるだけ同調の際に火星と魔法世界の間で齟齬が発生しないようにテラフォーミングをしているのだから完璧な海を用意しなければいけない訳でも無いネ。

「さよ、南極まで飛ぶヨ」

「南極まで大体1万kmだから優曇華で1分ちょっとですね」

……本当にありえないぐらい優秀な船だナ。
地球でさえ一周するのに6分強しかかからないのだから、この前アメリカまで行くのに9時間飛行機に乗たのと比べるまでも無いネ。
折角だから優曇華と同化して飛んでみたヨ。
思うように動かせるというのは面白いネ。
無音だから迫力に欠けるが、穏やかな生活がしたい人には向いているナ。

「鈴音さん、極冠到着です」

「では一暴れしてくるヨ」

「気をつけてください!」

「アーティファクトがある限り大丈夫ネ!」

クウネルサンから教わた重力魔法を出力最大にして邪魔な地層を圧縮して吹き飛ばしつつ、氷の層を発見だヨ。

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

       ―吹け 一陣の風 風花 風塵乱舞!!!―

……と高速詠唱で同じ事を連発し続け、蒸発したそばからまた南極の気温で凍らないようにできるだけ吹き飛ばすという派手だが地道な作業を続けたネ。

《鈴音さん!水蒸気が地上で氷に戻らないように優曇華で辺り一体の気温を強制的に常温にしますから気にせず続けてください!》

テラフォーミングに関しては木や華の方が上手だたナ。

《分かたヨ。上空で雲になたらそれもなんとかできるか?》

《はい!雲には優曇華のアーチの中に入ってもらうので大丈夫です!》

扶桑を吐き出したのだから予想はできたがやはり、吸い込む事もできたのカ。
ならば私はひたすら派手に溶かし続けるだけだヨ!

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

地球では南極の氷が温暖化で溶ける事が問題になているのにこうも火星で溶かすというのは何とも言えないが、地球でもエヴァンジェリンのように凍る世界でも使えば氷は復活させられるし、温室効果ガスの二酸化炭素も翆坊主が本気を出せばすぐに酸素にでもできるからナ。

       ―ラスト・テイル・マイ・マジックスキル・マギステル―
―契約に従い 我に従え 炎の覇王 来れ 浄化の炎 燃え盛る大剣―
―ほとばしれよ ソドムを 焼きし 火と硫黄 罪ありし者を 死の塵に―
            ―燃える天空!!!―

なんて恵まれた星々だろうネ!

途中何度か休止して持てきた肉まんで腹を足しながら数時間作業を続けたヨ。
こういうのも精神力が強化される補助が無ければここまでやり続けるだけの集中力もやる気も起こらないが、全て解決できるとはやはり、信用できない人間には絶対に翆坊主達と契約させる訳にはいかないナ。

「突発的に氷を溶かしたけど、ここまで上手くいくとはネ」

「回収した雲は全て赤道付近に放出しましたからそのうち地上に落ちますね」

「今地球で午後7時になるところだナ。ここにいると昼夜関係ないから感覚がネ」

「オリンポス山で地質調査と放射線測定しますか?」

「そうだネ。全部やてしまおうカ」

地質調査自体は私の個人的な趣味だが放射線の量は地球の1.4倍ぐらいだたヨ。
かなり効果は出ているようだがもう少しだネ。

《翆坊主、まだマントル対流は活発化するのカ?》

《はい。でも後3ヶ月、6月ぐらいには上限になると思います》

《分かたネ、後もう少し粒子精製を続けるヨ》

《手間を取らせてすいません、お願いします》

《今日の事は今までの人生でも屈指の経験だたから気にしなくていいヨ。もうかなり長い間精製をしているが、自動化に自動化が進んで最後にまとめてアーティファクトで一発だから時間も少ししかかからないネ》

《必要分の精製が終わったら、その後は資金回収に役立てて下さい》

《優曇華のように宇宙船でも作ろうかと思ているが、私から見ても、優曇華は改造するならともかく、一から作てもここまでおかしな性能にはできないと思うヨ》

《えっ?改造できるんですか?》

《ワープ航法ぐらい実現したいネ》

《ワープ航法ってそんな事可能なんですか?……いえ、できるなら是非実現して欲しいですが。来る第三世代の為にも》

《それは転移魔法があるのだから不可能ではないだろうナ。そんな事を言うからには翆坊主は第三世代を飛ばす予定もあるのカ?》

《転移魔法……確かにワープですね。ちょっと既成概念のせいで忘れてました。次の木を飛ばす予定は無い訳ではありません。知ってると思いますが、てんびん座の方面20光年の位置には地球によく似た環境の星があるんです。現行の優曇華にもゲートを設置して魔分供給し続けて飛ばした場合でも6万年ぐらいかかりますけどね》

今の優曇華で片道6万年とはまたスケールの大きな話ネ。
でも夢はあるナ。

《それは有名だから私も知ているネ。翆坊主がそんな離れた場所に飛ばしたいのはもし枯れたら、悪用されたら、を心配しているのかナ?》

《いつ枯れるかは私もわかりませんが神木・蟠桃もしばらく経てば、と言っても千年単位ですが、また新たな華と共に種子ができるようです。その為あまり心配する必要もないかもしれませんが1本ぐらい人間の住まない星や、遠い遠い星で保険にしておくのも悪くないかなと》

精霊にとって魔法を残すという使命は延々と続くようだネ。
穿った見方をすれば、精霊による宇宙征服とも見られるが、翆坊主の場合私利私欲というより、どこまでも心配なだけなのだろうナ。

《そういう事カ。……今更聞くのも野暮だが、思うに魔法世界を放置して木星の衛星にでも飛ばして、そこで新たな木でも増やした方が良かたのでは無いカ?》

《それは私の我侭ですよ。前に一度言いましたが私は発生した時から超鈴音をずっと待っていたんです。一つ壮大なネタバレをすると、超鈴音がいなければ私はこうして発生する事もなかったかもしれません。それに魔法世界は本来的に異界ですからそれがこちらの世界に出てくるというのは非常に夢があると思いませんか?》

《私がいなければ、結局その「もしも」も無い……か。科学者である私にしては今のは失言だたかナ。既に時を跳躍しているとは言え、数奇なめぐり合わせだネ。翆坊主の言う魔法世界が残る事での未来には夢はあると私もそれは思うヨ。もう一つ、翆坊主は発生する前は何者だたか聞いてもいいかな?》

《ははは、それも凄いネタバレになりますね。まあそんなに重要でもないですから言いますけど多分元々人間だったと思いますよ。何しろその時の記憶は一切無いので結局は、私は私なんですけどね》

度々会話していてどうも人間臭いと思てはいたがやはり人間だたかもしれないのカ。

《前々から無駄に人間臭い精霊だと思ていたから、単純に今更あえて確認しただけという感じだナ。確かにあまり重要では無かたようだネ。うむ、そろそろ夜も遅いし優曇華で扶桑に戻るから地球への転送頼むネ》

《はい、分かりました》

「さよ、そろそろ戻るネ」

「はい、そうしましょう。それにしても空が綺麗ですね」

火星でも空が青いのは変わらないネ。

「ああ、また見に来たいナ」

「時間さえあればいつでも来られますよ」

「はは、そうだたネ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

第二世代の神木と華の命名も鈴音さんにより扶桑と優曇華に無事決まり、無理やり南極の氷を溶かしたりと頑張ってから、残りの春休みもあっという間に過ぎて行き4月8日新学期を迎え私たちも3-Aに進級しました。

「「「「3年A組!ネギせんせーい!!」」」」

と進級しても引き続き私達のクラスの担任になったネギ先生はいつもの賑やかな皆に迎えられました。

「皆さんおはようございます!今学期から正式な教員として担任を勤めることになりました。よろしくお願いします」

「そうなの!?」

「「「正式採用おめでとう!ネギ君!」」」

「………?」

そもそも正式教員とそうでない事の区別すら付いてない人もいたみたいです。

「ありがとうございます!今日は身体測定ですから、皆さん用意して下さい」

「「「はーい!」」」

「ネギ君いたら着替えられないよー!」

「それとも着替える所見たい、ネギ先生?」

「し、失礼しました!ではまた後で!ホームルームはこれで終わりです」

素早く教室から逃げ出していったネギ先生でした。
今年で3回目の身体測定でしたが、私はまたもや一切変化ありませんでした。
当たり前なんですけどね。
身体測定のカードに3回分全部同じ数値が付いたので流石に係の先生に驚かれたので適当に変えたほうが良かったかなと思いました。
それはエヴァンジェリンさんも同じですが。

《さよは成長させた身体に変えないのカ?》

《うーん、一応これ既に私の15歳の時の身体なので来年こそは!です》

《1年の頃は少しさよより背は小さかたが今では10cmぐらい追い抜かしたネ》

《こうしてみるともう3年目なんだなって思います》

《日々一日確実に時間は過ぎていくからネ》

それにしても184cmの龍宮さんと181cm楓さんは本当に背が高いです。
まあプロポーションも凄いですが……。
そういえば私って死んだの63年前ですが当時の日本人の平均身長と現在の日本人の平均身長って昔より高くなってる筈ですから……しまったー!!もう少し鯖読んでも良かったじゃないですか!

そんな事を悩みながら新学期初日は終わったのですが、翌日4月9日夜、飼い主不明の小動物が麻帆良に侵入してきてあろう事か女子寮に忍び込もうとしたんです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いつか来るだろうなと思っていたら妖精来たけど、彼に今必要なのは救援要請だろう。

《ハハハ!面白いネ!田中サンに追い掛け回されているヨ!》

《田中さんは鼠一匹通しませんからね》

《少し過剰戦力なのでは?》

《そろそろフェイズを上げて楽にしてあげるネ》

マッド化しすぎだろう……。

「フェイズ4に移行!」

フェイズにどう違いがあるのかは謎だがとりあえずこれで速攻で妖精は気絶させられて捕獲されるだろう。
女子寮に配備されている田中サンのカメラアイの映像は全て超鈴音部屋でリアルタイム確認できるので高みの見物である。
何気に妖精が「この死角ならわからないだろっ!」とか言いながら逃げようとしたが、劣化千里眼を搭載されている田中さんには死角なんて無かった。

「ギャーッ!!」

妖精にしては随分リアルな鳴き声だった。
そのまますぐに意識を失って田中さんの右手に捕獲された。

「さよ、回収しに行くネ」

「えっ、麻帆良の外に捨てるんじゃないんですか?」

サヨは意外と酷かった。
そういえばあの妖精の情報教えて無かったきがする……。
まあ捨ててもいいような気がするけど。
あ、丁度良いし、手出ししておこう。

《気絶してる間にやりたい事があるんですがいいですか?》

《何がしたいネ?》

《仮契約魔法陣を書いても発動しなくなるように弄ります》

この前妖精の意義について考えたが結局これが一番安定する気がする。

《あの小動物は魔法生物なのカ。ふむ、確かに仮契約魔法陣を書く能力はさよに危険が及ぶからその方がいいナ》

《鈴音さん以外と万一仮契約することになったら大変ですしね》

特にネギ少年だったら相当面倒だ。

《そういう訳で手早く部屋に一度持ち込んでください》

《分かたネ》

捕獲した田中サンが超鈴音部屋にすぐに届けに来た。
私も既に部屋に来ている。

《ではさっさとやってしまいます。指定魔法封印開始、アルベール・カモミール、対象術式仮契約魔法陣》

「翆坊主、そういえば、オコジョ妖精は仮契約を成功させると仲介料が入るのでは無かたカ?」

知っていたのか。

《そうですね》

「これでこのオコジョさんは無能になるんですね」

《一応他の魔法は使える筈ですよ》

「何があるネ?」

《念話妨害とか》

「私達には関係ないですね」

「全くだナ」

《後はある特定の人物に対する好意度を図ったり、魔法そのものではないですが、パソコンを通してまほネットが使えたり、知識だけはあったり、そんな感じです》

「オコジョって随分人間の文化に詳しいんですね」

確かに妖精の割には俗物的ではある。

《では私はこれで戻ります》

「私もこの部屋を魔法生物に知られる訳にはいかないから、田中サンにまた渡して放置してくるヨ」

じゃあなんで最初捕まえようとしたんだ。

「今度からネズミ取りしかけておきましょうか」

下着泥棒するらしいからそれは正しい判断だろう。
そのまますぐに部屋の前で待機していた田中さんにまた渡して女子寮の外に放置されたのだった。
大分時間が経ってから復活した妖精だったが相変わらず強行突破を試みるものの田中さんにその度に気絶させられ朝になった。
その執念深さについては翌朝映像を確認した超鈴音は「これは何か犯罪を犯して、その後釈放されても確実に再犯するタイプの奴だネ」と評した。
動物一匹すら入れない女子寮の防衛能力に改めて感心せざるを得ない。

朝、女子中学生達が皆一斉に寮から出て登校の時間となった時やっと妖精はネギ少年に会うことができた。
しかし道端で話すわけにもいかないのでカバンに入ってもらい学校に連れて行く事になったのである。
その日の昼休み、屋上にてやっと会話ができたのだった。
「前に見たときよりも成長したね」とか、「兄貴を追ってここまで来たんすよ」と再会の挨拶を軽く交わした少年と一匹だったが。

「カモ君僕を追って何しに来たの?」

「俺っちは兄貴のパートナー探しの協力に来たんすよ。使い魔として仕えるなら兄貴しかいないって思うんでさ」

「パートナーって契約の事?」

「兄貴知ってるんすか?」

「ほら、僕もう仮契約してるんだよ」

そう言って小太郎君のカードを見せるネギ少年。

「えーっ!?これ男じゃないすか!普通兄貴のパートナーって言ったら相手は女と決まってますぜ!」

「何でそんなに焦ってるの?僕の父さんも男の仲間と契約してたからおかしくないよ。それに小太郎君は僕の一番の相棒なんだよ」

「俺っちいないのに兄貴仮契約できたんすか……。はっ!兄貴どうやって仮契約したんすか!?」

「どうやって?それは私が用意したからに決まっているだろう侵入者」

お嬢さんは当然妖精の侵入を感知していたのでネギ少年と何か怪しいことをしていないか見に来たのである。

「マスター!僕がここにいるのがよくわかりましたね」

「へ?マスター?」

「ぼーやの師匠だから当然だよ。小動物、昨日は見逃してやったが直接話をした方が早そうだな。オコジョ妖精……大方仮契約で金を稼ぎに来たという所か。純粋なぼーやをそそのかしにでも来たか?」

「お、俺っちがそそのかすだなんて変な事言うな!姉ちゃんこそ一体何者だ?」

「私が何者かだと?フッいいだろう、せいぜい怖がるがいい、私はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、光の福音、不死の魔法使いだ」

「なっ!?し、しし、真祖の吸血鬼か!?兄貴やばいっすよ!騙されちゃだめっす!」

「これが外部の魔法関係者からの私の認識だよ」

「マスター……。カモ君、今の言葉は取り消してね。僕はマスターの事をカモ君の知ってる知識より正しく知ってる」

「………へ?」

「ぼーや、先に言っておくがそいつを女子寮に入れるな。どうせぼーやに仮契約をさせて金を稼ごうと魔法関係者かどうか関係なくどこにでも仮契約魔法陣を書くから魔法の事が周囲にバレるぞ」

「カモ君僕に協力って言っておいて実際はそうなの?」

「い、いや!そんなことないですぜ!」

しかし汗を書いている時点でバレバレである。

「図星みたいな反応して言われても信じられないよ。カモ君どうするの?女子寮には入れられないけど」

「……昨日も女子寮にロボのせいで入れなかったっていうのに……」

「ん、それでいいか……小動物、私が雇ってやろうか?」

「え?」

「マスター、何を?」

「ただの気まぐれだよ。外の裏の情報を集めてきたら報酬をやっても良いと言っているんだ。小動物なら監視の目も緩いだろう。いいか、誘っているがお前に選択肢が残っているかよく考えるんだな」

しばしどうしたものかと完全硬直をした妖精だったが程なくして再起動した。

「分かった……その条件飲むぜ。それで俺っちに何の情報を集めろって言うんですかい?」

「その話はまた後でだ。ぼーやにはまだ聞かせられない。ぼーやは今日も修行に来るだろうからその時に話すとしよう」

「分かりました、マスター」

そしてその場は解散となったのだが、一体どういう事かというと。

《エヴァンジェリンお嬢さん、今のはどういう事ですか》

《ああ、その話は相坂と超鈴音から聞いた方が早い。超鈴音、説明しておけ》

オープン回線になった。

《翆坊主、少し前さよに双方向通信でエヴァンジェリンにあの魔法生物を使て魔法転移符の流通経路を捜すようにしてもらえないか頼んだんだヨ》

《私はアーティファクトを発動していない鈴音さんの仲介しただけですけどね》

《それで私から小動物を雇う事にして、実際の報酬は超鈴音が払うという訳だ。まあ私も何か面白い情報を拾ってくるならそれで構わんがな。少なくとも麻帆良にいてもぼーやに何か吹き込みかねんだろう》

折角わざわざ麻帆良まで来たのに世界を巡る旅に出そうな妖精……。
頑張れ。

《なるほど、確かに裏に手を出している表の人間ならば、オコジョがうろついていても本当に鼠程度にしか思わないでしょうね》

《私から直接雇うのは無理だたが、エヴァンジェリンが雇うということならあの魔法生物も有効利用できるだろう?》

資源の有効活用みたいな言い方だな。

《ごもっともです。まあそもそも人海戦術が必要でしょうから早々成果が出るとは思えませんが利用しないよりはマシですね》

《話がついたようだから私は切るぞ》

《お嬢さん、お手数かけました》

《キノ、仮契約魔法陣封印した意味あんまり無かったみたいですね》

《ええ、まあ超鈴音の依頼なら仮契約ができようができまいがどうでもいいですね》

《オコジョは人件費が低くて楽そうだナ》

それが安易に雇った理由か。

この日、ネギ少年がお嬢さんの家にいつも通り修行に向かい、小太郎君とのメニューをこなさせている間にエヴァンジェリンお嬢さんが妖精に依頼内容を話したのだった。
当然依頼内容をネギ少年に口外したらどうなるかわかってるだろうな?と脅したのは抜かりなかった。
そのまま修行風景を見ていた妖精だったが、魔法領域やら小太郎君のアーティファクトの性能を見て目が飛び出そうになりつつも、仮契約がこれ以上ネギ少年にあまり必要がなさそうなのは何となく理解したらしい。
適当な旅費を渡してそのまま妖精は麻帆良から旅立った。
なんて短い滞在期間だったのだろうか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主の所にやてきた魔法生物は3日目にして去て行たネ。
そろそろ6月の麻帆良祭に向けてまほら武道会の準備を水面下で進める必要があるからあちこち向かう必要があるヨ。

「学園長、直前になてからまほら武道会の告知をしても裏の人間が集まらないから情報の周知はそろそろ始めてもらえるかナ」

「そうじゃのう、もうそんな時期になったのか。あい分かった、魔法先生、魔法生徒、呪術協会、京都神鳴流にも情報を流しておくからの」

神鳴流は神鳴流で別枠なのカ。

「感謝するネ」

「おお、そうじゃった。キノ殿に伝えておいて欲しいんじゃが、月詠という神鳴流剣士が脱走したそうなのじゃよ」

何やら不穏な動きがあるようだネ。

「分かたネ。もし日本に怪しい連中が潜伏しているようなら今回の修学旅行も場所を考えた直した方が良さそうだネ。特に京都はやめた方がいいかもしれないナ。リョウメンスクナの映像を見た事があるがこのかサンの魔力なら恐らく復活させられるだろう?」

「う~む、そうじゃな。しかし16日には何処にするか確定せんといかんのじゃが、できれば魔法協会がある場所の方がいいのう……」

規模としても関西術協会よりも魔法協会の方が大きいからナ。

「ふむ、ハワイも悪くないが、この際ネギ坊主の故郷なんかどうネ?ネギ坊主が引率なら地理も詳しいし魔法学校もある、一応島国だからアメリカの時のように例の組織の多重転移にもそれなりに制限できるし、何より3-Aの皆ならネギ坊主の故郷だと聞けば行きたがるに決まてるヨ」

移動手段が飛行機だが、メリットは意外と多いネ。
海外に修学旅行になると付き添いの先生の数も増えるからナ。

「ふぉっふぉっふぉ、奇遇じゃな。儂も選択肢の一つに思うとったよ。ネギ君も長い事故郷に帰っとらんし一度里帰りも悪くなかろう。超君はまたイギリスに超包子でも出すのかの?」

それは実現したいが今回は少し時間が無いナ。

「流石に3週間も無いから超包子は無理だヨ。今のは私の意見だから気にしなくていいけど、まほら武道会の方も頼むネ」

「分かっとるよ」

さて、次は……。
その前に翆坊主カ。

《翆坊主、月詠という神鳴流剣士が脱走したらしいヨ》

《月詠……月詠ですか、ああ、はい、かなり会いたくない人ですね》

《また歴史の情報カ》

《凄くバトルジャンキーな性格で面倒です。強い相手と戦えれば所属する場所を選ばないような感じの人ですね》

《戦闘狂なのカ……。学園長から伝えてくれと言われたのはこれだけネ。翆坊主が観測で探し出すかどうかは決めると良いネ》

《ただ私も実際に観測して見た事が無いので……まあ一応探しておきます》

《私もまだ行くところがあるからナ。今日はこのかサンはクウネルサンの所に行くのカ?》

《いえ、行かないですよ》

《分かたネ》

クウネルサンに相談しに図書館島に行くが久しぶりだナ。
道順は慣れたものだが、何度来ても変な所ネ。
門番の翼竜の角をネギ坊主達が全部折ったと聞いたが、討伐していないとは言え随分腕を上げたナ。

「クウネルサン、久しぶりだネ。肉まん持て来たから食べるといいヨ」

「超さん、お久しぶりですね、ようこそ。そろそろ来るかと思っていましたが、今日でしたか」

「肉まん食べながらでいいけど、最近このかサンの調子はどうネ?」

「本題はそちらではないと思いますがいいでしょう。このかさんはとても筋がいいですし熱心に魔法の練習をしていますから今月には初級の治癒魔法は習得できるでしょう」

「全く魔法に触れていないのにその習得速度はなかなかだネ。でも石化魔法の解除までは程遠いカ」

「フフ、もしかして修学旅行の場所が決まったのですか?」

私がネギ坊主の子孫だと知ているからできる会話だが楽だナ。

「まだ完全に決まてはいないが、今日ここに来る前学園長にネギ坊主の故郷を修学旅行の場所として上げておいたヨ」

「それは殆ど決定のようですね。石化魔法は程度にもよりますが上級悪魔のものは非常に厄介です。キノ殿なら解除できそうですがね」

「できたとしても誰が解除したかが問題になるからそれは難しいだろうナ」

「……そうですね。結局醜い人間の思惑の結果ですから精霊の立場でなら不干渉が正しいでしょう」

「……ふむ、そろそろ本題に入るが、まほら武道会でクウネルサンはどうしたいネ?」

「できるだけ良い舞台で友との約束は果たしたいですね」

「やはりそうカ。翆坊主に聞いたがクウネルサンが反則気味の分身で出場となるとトーナメントを採用した場合、ネギ坊主と戦うまでに当たる人達はどうしようも無いから少し考えたくてネ」

「私の分身の事も聞きましたか。決勝でとなれば当然なんとしてでも勝ち進みたいところですね」

「そう言うだろうと思ていたヨ。まあこれはあくまでも確認ネ。実は今回トーナメント方式をやめてランダムな総当りに近いものをやろうかと思ているヨ」

「昔ながらのまほら武道会をそのまま、とはいきませんか」

「折角科学技術と魔法があるからネ。色々やてみたいじゃないカ。龍宮神社は会場にはするが、実際に戦う場所にはしない予定ネ」

「それは異空間でも使うのですか」

「そんなところだヨ。使い手によては観客席に配慮もしなければいけないだろう?それに確実に舞台が毎回壊れるから、木の板の床は修理するだけ時間の無駄だし土が良いと思てネ。エヴァンジェリンに協力でも頼もうかと思ているヨ」

「ダイオラマ魔法球ですか?」

「その予定だヨ。応じてくれるかはわからないけどネ」

「確かにタカミチの本気の攻撃や詠春の剣技で普通の舞台は壊れるでしょうし、観客席にも被害が出るでしょうね」

「龍宮神社の備品をいちいち破壊するのは無駄な費用がかかるからネ。それに試合数を増やせるからトーナメントである必要も無いヨ」

「それは私としては困るような困らないような気がしますね」

「ネギ坊主にサプライズとして戦う機会ぐらいは用意するヨ。それに戦うのはクウネルサン自身ではなくそのアーティファクトの人なのだろう?」

「……まあ、私の友ならどこでも良いといいそうですね。個人的にはできるだけ雰囲気のある場所でお願いしたいですが」

「それは任せるネ。一応合意も取れたところで今日はこれで失礼するヨ」

「予め教えてくれてありがとうございます」

「何、当然ネ。私もクウネルサンには色々教わたからナ。特に重力魔法は良かたヨ」

「そんなに使えますか?そう言われると嬉しいですが」

「ただの炭素に超高圧力をかけてダイヤモンドにできるからネ!実験材料が安上がりで手に入るヨ!」

「フフフ、それはまた平和的な利用法ですね」

「何事も使い方次第ネ」

さて、最後にエヴァンジェリンかナ。

《エヴァンジェリン、昨日の魔法生物の件は助かたネ。今度は別件で依頼があるのだが聞いてもらえるカ?》

《私も暇つぶしになりそうだからな。依頼とやらは内容を判断してからだ》

《まほら武道会の為に特殊なダイオラマ魔法球の作成をして欲しいのだがどうネ?》

《続けろ》

《時間差はせいぜい数倍で、短時間の経過で出入可能かつ、外から中の様子を見られるようにしたいヨ》

《前者は相関関係にあるから調整次第で可能だろう。外から中を見るというのは夢見の魔法の感覚でいいのか?》

《できるならそれが一番いいネ》

《まあ面白そうだからやってもいいが、一から作ると学園祭まで少し時間が足りんぞ?》

《協力してもらえるようで感謝するネ。それならば魔法世界の何の変哲もない魔法球を用意すればいいカ?》

《幾つ用意するが知らないが高いだろうに》

《十数億程度なら私のこの願いを成就させるのには障害にはならないヨ》

《分かった。用意できたら私の所に持って来い。調整してやるよ》

《ありがとネ》

《調整するだけなら少しの手間で済むさ。一応ぼーや達のお披露目会のようなものになるだろうし、私もやぶさかではない》

皆協力的で助かるネ。
私も専用の端末やらスクリーンやら部屋にある科学迷宮空間の武道会の為の用意をしないといけないから忙しくなるナ。
その前に修学旅行だけどネ。



[21907] 30話 修学旅行
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/06 20:05
超鈴音が来るまほら武道会開催に向けても動き出し、こちらも月詠の脱走情報を元に観測し始めたのだが……。
ところで脱走というと聞こえは悪いが、ある意味武者修業と称して勝手に飛び出した可能性もある。
その先で誰に出会ってしまうか、が最大の焦点だろう。
神鳴流で飛び出したと言えば、神奈川県日向市という所にこれまた変わった人達の住まう女子寮だったり旅館だったりする「ひなた荘」というがあるのをご存知だろうか。
そこの住人に神鳴流宗家であり師範としても腕の確かで、ついでになんだか3-Aの一人の女子中学生に似ていなくもない青山素子という、この春めでたく東京大学1年法学部に入学した人物がいる。
彼女が元々ひなた荘に来た理由は地元京都での諸々、主に姉等が原因だろうが、逃避もとい修行と称してやってきたのである。
月詠と行動が似てるようで似ていない。
何故こんな事が気になるかというと、まあ青山素子の持つ刀であったり、世界の歴史によると既にフェイト・アーウェルンクスが先月には日本に潜伏している可能性があるのが原因である。
名前が分かっていても、彼の姿も月詠の姿も確認していないので観測するにしても面倒極まりない。
しかし、私も全部を知っているわけではないが、なんとなくひなた荘を気長に張っていれば足が掴めるような気がするのだ。
また、近衛門は京都神鳴流にもまほら武道会の情報を流すらしいが、実際どうなるかはともかくここのやたら戦闘力の高い住人も参加したら面白そうだとは思う。
しかしながら、若干マッドサイエンティストのようでそうでもないが、危ない武装を開発、所持している太平洋に浮かぶ南の島の王国の出身の人はどちらかというとご遠慮願いたい。
超鈴音と葉加瀬聡美と会ったら本当に化学反応が起きそうではあるが。

さて、話が逸れたが、例年通り麻帆良学園都市のメンテナンスによる停電もしばし行われ、その翌日16日、修学旅行先の決定である。
女子中学生達は修学旅行といえば京都、とそう思っていたのだが……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今、朝のホームルームですがとうとう修学旅行先が確定します。

「皆さん、修学旅行の行き先は京都ではなくなりました」

予想はしてましたが、やっぱりそうなりましたか。
少し後ろを振り返ってみると神社仏閣マニアの綾瀬さんがショックで石化してます。

「「「「えーっ!?京都じゃないの!?」」」

「残念な人もいるかもしれませんが、事情があってイギリスになりました」

「イギリス?もしやネギ先生の故郷でありませんこと!?」

食いつきの早いいいんちょさんでした。

「そ、そうだよ!ウェールズ行くか知らないけどさ!」

「丁度私達海外旅行この前行けなかったしいいじゃん!」

「わーネギ君の故郷見に行こうよ!!」

こうなる事は予想出来ていましたが鈴音さんが学園長に言ったとおり誰も反対しませんでしたね。
春日さんが鈴音さんを微妙な表情で見ていますが、何となく感づいたのでしょうか。
誰も気にしていませんがパスポートを持っていない場合来週出発するには、普通発行までの時間が無いんですがその辺りは麻帆良なので基本的に無視というかあっさり解決するので大丈夫です。
かくいう私もこの前自分から何も申請していませんが、きちんとパスポートは雪広グループから受け取ったのでどうなっているのかは気になりますが、気にする必要も無いでしょう。

この日、修学旅行の班分けも決めました。
普通5人班5つに一つ6人班という形なのですが、今回は海外という事で6人班4つに一つ7人班となり内訳は
1班はチア3人組+鳴滝姉妹+龍宮さん
2班が私含めた超包子組+春日さん、楓さんで7人
3班はいいんちょさん部屋3人+エヴァンジェリンさん、茶々丸さん、ザジさん
4班は明石さん、和泉さん、大河内さん、佐々木さん、朝倉さん、長谷川さん
5班は図書館島探検部4人+神楽坂さん+桜咲さん
となりました。
1班の鳴滝姉妹が楓さんと同じ班ではないのは、「楓姉がいなくても自立できるよ!」とアピールするためだそうです。
そのため龍宮さんが楓さんの代わりではないですが入っています。
1班の護衛は龍宮さん、2班はそうは思っていないかもしれませんが楓さん、3班はいいんちょさんがいるのでエヴァンジェリンさんという豪華キャスト、5班は桜咲さんという調整が一応なされています。ただ、4班は完全に一般人……明石さんは微妙に違いますけど護衛なしなのが不安ですが多分大丈夫でしょう。
龍宮さんから「前回も旅行だったが、護衛の面も強かったし今回は気軽に旅行するよ」と後で聞きました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

何でこんなことになってんのかなー。
同じ班になったから何かあるだろうとは思ってたけどさ。
超りんの前でおしとやか決め込む必要はもう無いとは思ってたけど、なんで私の部屋使うんスか。
五月の部屋でもあるからまあいいけど……。

「さて、皆もう来週に迫たイギリスへの修学旅行だが渡しておくものがあるネ」

「超さん、班長を呼んだというのでもなさそうですわね?」

集まってんのは2班の私と超りん、相坂さんに楓と他班からたつみー、いいんちょ、長谷川さん、桜咲さんなんだわ。

「私にとて都合が良さそうな人を選んだだけネ。早速だがこれを一人一つずつ修学旅行に持ていて欲しいヨ」

お?この前とはまたちょい違う携帯?端末なのか?

「超、これで緊急時に通信を取れということか?」

「龍宮サンは話が早くて助かるネ。海外だから皆の携帯も全員使えるとは限らないだろう?それはトランシーバー、と言うと語弊があるが確実に連絡が取れるようになているから、迷子やもしもの時にでも使うといいヨ。何故?と聞かれても私の実験の一つだと思てもらえればいい」

これには不思議通信ついてんのかな?
というか私は超りんからアメリカ行った時貰った携帯そのまま使ってるし必要なのか?

「やはりそういう事か。分かった、借りさせてもらう」

「流石超さんですわね。ありがたく使わせて頂きますわ」

「超さん、お借りします」

「うむ、この後は私達の班で予定を立てるからあやかサン達は自分達の用意をするといいネ。時間を取らせて済まなかたナ」

で2班一部だけが残ったんスけど……。

「楓サン、悪いが私の班は誰かから襲われるかもしれないからよろしくネ」

やっぱまたそうなるんスね……。
くーちゃんに言わない理由はあれか、頭の問題か。

「ほう、襲われるとは穏やかではないでござるな」

片目開いたー!!

「行てみないと分からないが、その為楓サンにもこの端末を渡しておこうと思てネ」

「超殿、先程の真名の物言いにさよ殿と美空殿がいるのは、2年の時の旅行に似ているとお見受けするが関係あるのかな?」

「その考えてもらうのは自由ネ。甲賀の中忍長瀬楓サン」

やっぱマジの忍かー、てか中忍?上忍まであんの?

「拙者は忍者ではない。とは言えないようでござるな。子細は分からぬが心得ておこう」

両目開いたー!!

「甲賀最上位の中忍にそう言てもらえると助かるヨ」

また顔読まれた?中忍までしかないのかー、ってその年で最強!?

「しかし拙者このような機械の使い方は詳しくないでござるよ」

「そうだろうと思ていたから必要な機能については説明しておくネ」

「これはかたじけない」

突然端末の使い方講座始まったし……、ん、不思議通信はついてないのか。
本当にトランシーバーみたいだな。
緊急時には互いの現在位置がわかるのか、いや、どういう原理かは知らないけどGPSみたいなもんスか。
うーん、前回の旅行は本当に贅沢の限りを尽くしたけど流石に修学旅行だから全てが豪華って訳じゃないんだよなー。
飛行機はファーストクラスではないし、宿泊施設を調べてみたらアホみたいに高いところでもないみたいね、部屋によるけど。
ま、後半でウェールズに行くみたいだし別にいいか。
ネギ君の母校の魔法学校は流石に行かんだろうなー、もしかしたら普通の学校と騙して行くのかもしれないけど。
それより今回付き添いの先生は、新田が来ない!
夜これは遅くまで起きてられるわ!
その代わり葛葉先生が入って、ネギ君、しずな先生、瀬流彦先生、神多羅木先生って厳重だな。
あれ……どうなるんだろう。
ま、なるようになるか!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

旅行の前日にネギ先生と近衛さん、桜咲さんが東京に出て何かを買ったかと思えば神楽坂さんの誕生日プレゼントだったりと言う事があったようですが、遂に修学旅行出発当日です!
修学旅行は4月22日に出発してから4月27日の朝飛行機に乗って4月28日の朝に帰ってくる予定です。
8時に皆で駅から成田空港まで行き、飛行機の出発は10時から少し時間があり、超包子の支店でしっかり皆腹ごしらえをしていました。
皆は初めて超包子の支店が麻帆良の外にあるのを見て驚いていましたが、今更なんですよね。
既にアメリカではシアトル支店が出てからすぐに人気が出て店舗数も順調に増加して、工場から迅速に運べる範囲内ですが4店舗までに増えています。
そんなことはさておき、飛行機自体には何か不審な事はないかと目下観測中ですが、流石に爆弾やら武器を持ち込んでる人はいま……いますね。
上手く収納してあるみたいですけど、龍宮さん、桜咲さん、楓さん、あと先生達です。
少なくとも私達に害はないので一安心です。
因みに10時に出発するとイギリスまで12時間強飛行しても、またもや時差の関係で到着するのは同日の昼午後1時台になるんです。
当然皆機内では話したりしてますが、とにかく長い時間です。
着いた時の感覚では夜10時なのに昼に戻るので仮眠を取るなり我慢するなりしないと普通は大変でしょうね。
私はあまり関係ないですが。
最初は皆どこを班の自由行動で見てまわるかで雑誌を見ていたりしていたのですが次第に飽きてきたり、体中が痛くなってきて身体を少し動かしたりと大変そうです。
数時間が経過して完全に皆沈黙したようで、我慢して起きている人はいず、皆昼寝してました。
私もこればっかりは暇だったので時間加速を使ってさっと飛ばしておきました。

無事ロンドン・ヒースロー空港に到着し、体中が痛い皆は思いっきり伸びをして、柔軟体操を行ないました。
そのまま、まずはホテルに向かう事になり、用意されていたバスに乗って30分ほど行ったところでリージェントストリートにあるザ・ラムガンに到着です。
外観はとにかく大きな建物で、日本によくあるビルとは正反対の貫禄あるヴィクトリア調の建物です。
来て早速写真を撮ろうとしている人がいますが、すぐ玄関の所から撮ってもうまく全体は収まりませんよ。
因みに私達が宿泊するのは基本的に二人部屋で、31人のため3人部屋が一つですね。
早速荷物を置いてどうするかと言えば、遅めの夕飯という名のお昼ごはんを食べて一先ず今日は周囲の散策となりました。

「くーふぇさんどっち行きますか?」

「古が班長だから決めるといいヨ」

「うーむ、あっちアル!」

適当に決まりました!

「ここの通りの曲線美は日本じゃなかなか無いね」

ストリートは南北に2km程の長さなので散歩には丁度良いです。
ホテルのすぐ近くには教会もあります。

「それに色んな種類のお店がズラっと並んでます」

本屋、ベーカリー、何種類もの服飾ブランド点の数々、化粧品、雑貨、アウトドア、ジュエリー、玩具店、F1の自動車の展示、小さなOS会社とパソコンのシェアを二分する林檎社の直営店等々歩いて回るだけでもなかなか楽しいです。

「楓さん何か考え事ですか?」

「いや、鉄の塊が飛んだりするとは思いもよらなかったもので……」

え?今更?山奥で育つと飛行機が飛ぶとも思えなかったんですか……。
私としては自力で空中ジャンプしたり、1km近く一瞬で移動したり分身する方が思いもよらないですけどね!

「楓は乗るときも同じ事言てたアルね」

「飛行機っていうからには飛ぶよ、うん」

「意外でござるな……人が自力で飛ぶ方がまだ信じられるでござる」

「それは無いヨ」

くーふぇさん、春日さん、止めの鈴音さん三連弾でした。
そんなこんなで裏通りにも行ってみたら占いをやっている女の子を発見しました。

「占いかーイギリスらしいなー。魔法使いみたいな格好だね」

なんて春日さんがぼそっと言ったんですがもの凄くビクッと女の子はしました。

「いえ、占い師はこの格好と決まってますので。外国から来た方達のようですがどなたか占いをしましょうか?」

精霊に占いって効くんでしょうか。

「あ、はい、私お願いします!」

「ではお名前と生年月日をお願いします」

生年月日……。

「相坂さよ、1925年10月4日です!」

「さよ、それ冗談アルか?」

「さよ、からかては駄目ネ」

し、しまったー!!
最近記憶がはっきりしたからといって調子に乗りました!
生きてたら既に今年で78歳ぐらいですよ!

「あ、冗談ですよ、あははは」

「……死相?違う、既に死人?ええええ!?ハッ!いえ、なんでもないです!!ごめんなさい!」

占い師って私が死んでること分かるんですか……。

「さよ、身の回りには気をつけるネ」

「さよ殿、拙者がついているからこの修学旅行は安全でござるよ」

「ありがとうございます。あの今の気にして無いので大丈夫です。次くーふぇさんやってもらうといいですよ」

「うむ、よろしくアル」

春日さんが何か気づいたみたいなんですけど、苦笑いしてますね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あーこの子あれだ、魔法使いだわ。
占い魔法普通に使ってるね。
しかもなんで相坂さん自爆した。
知らない人間にはブラックジョークだけど、知ってる人間としてはなー、複雑すぎるだろ!!
まあ、くーちゃんなら普通の占いになるっしょ。

「古菲1989年3月16日生まれアル」

「はい、分かりました。…………少年と仲間たちとの仲が困難な旅の中で良くなるそうです」

ピンポイントすぎるーっ!!
どう考えてもネギ君しかいないじゃん!

「それネギ坊主かもしれないナ。仲良くなれるらしいヨ」

「もうネギ坊主とは私は仲良いアル!困難な旅ってこの修学旅行の事アルか?」

「……ネギ?」

この子もしかしてネギ君知ってんのかな。
何か面白くなってきたッス。

「次楓やってもらいなよ」

「拙者占いというものは初めてでござるよ。よろしく頼むでござる」

それにしても葉加瀬は全く占い興味無しだなーどこ見てんだろ。
流石科学者。

「長瀬楓1988年11月12日生まれでござる」

「は、はい。…………え、少年の面倒を見る中で困難な旅の支えになるそうです」

「やはりネギ坊主は困難な旅をするでござるか。人生とは常に旅のようなものであるからな。占い感謝するでござるよ」

そう解釈するか。

「ネギ坊主は大変アルね」

「かわいい子には旅をさせよというからナ」

ネギ君って何、何か旅すんの?
もしマジだとしても巻き込まれたくないなー、超りん達よりも面倒そうだ。
占い魔法の有効期間ってどれくらいだったかな。
何かこの子ネギ君の名前出るたびに反応してるけどなんか知ってるっぽいな。
ここは一つ。

「お嬢ちゃん、この写真に写ってる少年にもしかして心当たりある?」

携帯に保存してある集合写真見せてみた。

「な、な、なんでネギが!?ま、まさかあなた達ネギの生徒なの!?」

「ネギ君は私達の担任だね。で、ネギっていうのはネギ・スプリングフィールド君でいいのかな?」

「そ、そう、そのネギ・スプリングフィールドよ!」

食いつき方半端無いなー。

「今ね、私達修学旅行でイギリスに来てるんだ。良かったらネギ君呼んでこようか?まだまだ時間あるし」

「え!?え、えーと、それならお願いします」

ネギ君を知っていて魔法使いの修行っぽい事で占い師となると……幼馴染で同級生って所か。

「ネギ坊主呼ぶのは任せるネ!……あ、もしもし、ネギ坊主か、今リージェント通りの裏通りに来ているのだがネギ坊主を知ている女の子がいてネ。是非会いたいと言てるネ。……ん、名前?そうか、お嬢さんの名前は何と言うのかナ?」

「アンナ・ユーリエウナ・ココロウァです」

「分かたネ。ネギ坊主、アンナ・ユーリエウナ・ココロウァだそうだヨ。おおっ、いきなり大きな声出されると驚くネ。場所はメールで送るから少し待つといいヨ。それではナ」

「超りん、ネギ君何だって?」

「アーニャがこの近くに!?って驚いていたヨ」

「ほほう、アーニャとは愛称かな。アーニャちゃん、ネギ君とどんな関係?」

「ど、どんな関係って別にただの幼馴染です!」

顔が赤いから何かどう取ったらいいかよく分かんないけど、会えるのは嬉しいんだろな。
ネギ君来るまで五月も占いやってもらったよ。
未来は明るいって言われてたからそのまま夢に向かってまっしぐらだな。
私と超りん、葉加瀬はやらなかった。
何かマズい気がしたし。
しばらくしてネギ君だけかと思ったら大量に皆が寄ってきたわ。
全部班揃ってんじゃないか?

「あっ本当にネギじゃない!」

「ほ、本当にアーニャだ!久しぶり!ロンドンで占いやるって聞いてたけどここでやってたんだね!」

「そ、そうよ!ってかネギ!こっちに来るなら来るって予め手紙の一つぐらい送って来なさいよ!」

おお、さっきまでとは一転お転婆少女になった感じだな。

「ごめんごめん、でも急に決まったから送っても間に合わなかったよ。僕は今日から数日こっちで皆の修学旅行なんだ。ウェールズにも行くんだけどアーニャも一緒に来ない?」

ネギ君それ何かのデートのお誘いかい?

「え?でも修行があるし……」

「でもずっとやってなくちゃいけないんじゃないでしょ?」

「そ、それはそうだけど……」

「そんなに嫌だったら、別に無理にとは言わないよ」

「い、嫌じゃないわよ!行くわ!行くったら行く!」

微笑ましい子供の言い合いッスねぇ。

「ネギ、その子あんたの知り合いなの?」

「アスナさん、アーニャは僕の幼馴染なんです」

「へー、ネギ君幼馴染いたんかー」

「まあ、ネギ先生の幼馴染ですって!?」

「なになに?これは何か面白いネタのニオイがするよ!」

朝倉は変わらんなー。

「ハッ!ネギ!エヴァンジェリンさんって言う人も来てるの?」

「マスター?うん、マスターなら……後ろにいるけど呼ぶ?」

おおっとこれは泥沼か!?

「おや、なんだぼーやの幼馴染か。ほう、それなりの水晶を使っているようだな」

流石エヴァンジェリンさん、貫禄が違うッスね。
出てくる時のオーラが輝いてるし、何がどう悪しき訪れだとか闇の福音なのか教えて欲しいわ。
どちらかって言うと神々しいの間違いだわな。
ってあれ?一応封印されてんじゃなかったっけ?
あーでも京都行ってたし学園長がまた何かやったのか。

「あ、あ、あなたがあ、あ、あの有名な!?」

「有名かどうかは知らんが落ち着いたらどうだ」

「そうだよアーニャ、落ち着きなよ」

「う……うん、分かったわ」

今皆、ネギ君の幼馴染という登場に物凄い注目してるから結局エヴァンジェリンさんの話は適当に終わったわ。
それより騒々しい3-Aの連中がよってたかってネギ君とアーニャちゃんに色々聞いてるし。
ここ一応裏通りなんだけどうるさいわー。
たまに通る人がめっちゃ見てるよ。
つかアーニャちゃん会話する時皆の胸見すぎ。
千鶴、楓、たつみーあたりはもうどんだけって感じだけど、朝倉、パル、アキラ、いいんちょ、ゆーなあたりも女子中学生の次元超えてるからなー。
ゆーなの奴なんか最近ブラがきついとかほざいてたし、成長期自重しろ。
それを苦々しい顔をして見ているかと思えば、私以下ゆえ吉あたりまで見て安心したような顔すんのやめないか。
大体アーニャちゃんネギ君と同じでまだ二次性徴も始まるか始まらないかぐらいだろ。
そんでもってこんな所で一人で占い師やって何処に住んでんのかと思ったら近くで下宿してるらしい。
流石にウェールズにいちいち帰ったりしてられないもんね。
何か明日にでもネギだけじゃ頼りないからロンドンの案内手伝ってくれるって言ってるんだけどどう考えても心配なだけだろー。
占い師っての聞いて興味ある皆順にやってもらったけど、妙にピンポイントだったりするんだけど何なんスかね。
このかは占い研の部長だから、占いって聞いた瞬間に目光ってガンガン絡んでるわ、急に仲良くなった桜咲さん巻き込んでるし、何か二人もネギ君と旅に出るような結果だった。
聞いてないけどこのか京都行って魔法の事知ったのかな。
地味に他の皆もかすってる感じだから何とも言えないわ。
困難な旅がこの修学旅行なのかそれとも別なのかもよく分かんないし。
ただアスナだけ占いができなかったみたいなんだけどなんでかね。

そんなこんな気がついたらぶらぶらしてたのも結構長かったのもあってかもう夕方だったからホテルに皆で帰還したわ。
私もだけど微妙に皆眠そうだよなー、すんごい長い時間飛行機乗ってて夜だろって感覚なのに着いたら昼だし仕方ないか。
超りんの部屋三人は全く眠そうじゃないけど、いつも夜更かしどころか徹夜してるからだな。
私の部屋は相坂さんと一緒でくーちゃん、超りん、楓が唯一の三人部屋だったな。

「相坂さん超りんと一緒じゃなくて良かったの?」

「すぐ隣の部屋なので大丈夫ですよ。あの、春日さんの事これから美空さんって呼んでいいですか?」

ほっ、なんか初々しいなこういうやりとり。

「いいよー。じゃあ私もさよって呼ぶからよろしくね」

「この前の旅行から言おうかと思ってたんですけど機会が無いというか私が幽霊だっていうのでひかれちゃったかなーと心配で」

さよも悩みぐらいあるんだな。
そういや髪の毛の色とかも日本人というには青白いよな。
まあ私としては綺麗だとは思うな。

「正直あれには驚いたよ。さっきの占いもだけど」

「さっきはうっかりしてて本当の事を言っちゃいました」

たまに何も無いところで転んでるのもうっかりか。

「やっぱりそうかー。ところでまたホテル狙われたりするのかな?」

「うーん、どうでしょう。目立つ行動をしたら寄ってくる可能性はありますけど明後日から2日間ウェールズに移動するからそこまで心配する必要はないと思いますよ。私も一応視てますし」

やっぱ千里眼便利そうだなー。

「目立つ行動って言っても3-Aだとどこでも目立つよね……。超りん自身が目立つ行動しなければ大丈夫か。それで聞いていいかわからないスけど、2年の学期末にネギ君の正式教員採用の監視って学園長から頼まれてたり?」

「んー、残念ながら私じゃないです。遠見の魔法ってありますし」

なるほど……でもそれで四六時中ネギ君監視してる学園長もどうかと……。
麻帆良の幽霊やってると、魔法も相当詳しいのか。

「そうかー。正直あの後偶然か超りんがピンポイント講座上げてきたから見てたのかなと思ってさ」

「鈴音さんはSNSの効果を見たかっただけみたいですよ」

超りんは常に実験の感覚なのか。

「超りんらしいね。それにしてもSNSあっという間に流行ったよねー。もう中等部どころか大学まで広がったみたいだし。私の陸上部なんかあれでスケジュール管理もするようになったし」

ツールも豊富で便利なんだよなー。
皆で書き込めるカレンダーみたいのもあるし。

「たくさん使ってくれると嬉しいですね。麻帆良の外にも広がってますし、来月にはアメリカで使われ始めるでしょうから世界規模になりますよ」

アメリカに行った時の有名企業かー。
あれ?

「さよも開発したの?」

「私計算は得意中の得意なのでその方面で手伝いました」

そういやさよの数学のテストの終わる速度異常だもんな。
60分のテスト時間なのに物によっては10分ぐらいで終わってるみたいだし。
超りんと葉加瀬より早いのは凄いと思う。

「超りんのとこの部屋は凄いね。普段からだけどテストも今年また3位までずっと独占したら伝説になるよ」

「そう言えば12回連続でしたね」

「もうそんな回数になってたかーマジ凄いな。おっともうこんな時間か、そろそろ私は寝るよ、さよおやすみー」

「はい、美空さんおやすみなさい」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日は無事に終わたネ。
2日目の今日はいよいよロンドンの自由観光ネ。
基本的には地下鉄とバスをうまく利用して好きなところを見る事になているヨ。
でも出発前に葛葉先生に呼ばれたネ。

「超鈴音、私達引率の教員がそれぞれの班に護衛につくのは無理ですから注意は怠らないように」

「一応皆との中学の修学旅行だからそういう事を考えずに済ませたいナ。護衛には私の班の楓サンという忍としての能力は随一の人がいるから大丈夫ネ。それに今回は無闇に目立たりもしないヨ。それより4班だけは見ておいた方がいいネ。誰も戦力がいない」

「それは私達も心得ています。安心しなさい。私は立場上5班について行きます」

「分かたネ。特殊通信を起動しておくからもしもの時は携帯で連絡するヨ」

「分かりました。気をつけて楽しんできなさい」

「忠告感謝するネ」

さて、出発するヨ。
オックスフォード・サーカス駅からあちこちに行く事になたが最初は世界最大の観覧車ロンドン・アイからロンドンを見渡す事にしたネ。
最高で地上135mに達し30分間で一周する上その高さからロンドンの有名な建築物がいくつも見られるヨ。
今は午前だから普通だけど、夜になたら夜景が綺麗だろうネ。

「テムズ河に架かってる橋なんかも壮観だねぇ。そういや楓は麻帆良の木のてっぺんまで登ったことあると思うけどこのくらい大した事無い?」

「そうでござるな。神木の半分ぐらいの高さであろう。わざわざこの箱に入らなくても大丈夫でござるよ」

一般人にはありえない感性だが五月もハカセも超包子の屋台は飛んでたりするし別に驚かないカ。

「は、箱かー」

「これだけ見晴らしがいいなら私も麻帆良に帰たら木登りするアル!」

「ネギ坊主達と共に登るのは良いでござるよ」

美空、自分で話題に出しておいて微妙な顔するナ。
箒に乗れば似たようなものだろう。
次はテート・モダンというピカソやダリのような有名なアーティスト達の美術作品が置いてあるところが近いのだが、このメンバーはあまり芸術には深くないからパスだたヨ。
古が見ても「うー良く分からないアル」で終わりそうだしナ。
どちらかというと最近古は歴史には興味があるみたいネ。
これもネギ坊主の努力のお陰だナ。
続けて少しロンドン中心部から離れるのだけどグリニッジに向かたネ。
世界標準時間の都市として有名だが、ここ一帯だけでも歴史的建造物が多くあるし、その美しさは素晴らしいヨ。
今は稼働していないが天文台の周りは穏やかな緑の多い公園にもなているし少し落ち着くネ。

「おお、凄く広い公園アル!美空、あの建物まで競争するアル!」

「え?うん、よーし陸上部エースの名にかけて負けないよ!」

公園を爆走していく二人だがアホだナ……。

「超さん、私も行ってきますっ!」

「ハカセ?」

まさかハカセが走ていくとは思わなかたネ。
確かに科学者としても何か感じるところがあるのだろうナ。

「何やら面白そうでござるな。拙者も行って来るでござるよ」

「皆元気ですね」

「元気すぎる気もするけどネ」

結局天文台までの競争は美空の勝ちだたナ。
気がつくと楓サンが天文台の上に登ているのだが一応世界遺産だからやめるネ。
そのまま国立海洋博物館を見て大英帝国時代の海洋帝国として栄えた頃を少し感じたり、公園にある昔の海洋都市時代に世界最速を誇った帆船カティーサーク号を見たヨ。

「お昼はどこで食べますか?」

「サウス・バンク・センターでテムズ河を眺めながら食事が取れますよ」

流石イギリスの食事にも興味を持ている五月だネ。

「またロンドン中心部に戻るネ」

着いてみれば食事も勿論したが総合芸術施設でもあり、またもやモダンアートが見れたり、コンサートも行われているようだがそれはやはりパスして施設を見る程度にとどめておいたネ。

午後一番は今度は大きく西に移動してキュー・ガーデンという今年2003年に世界遺産登録された植物園に行たヨ。
とにかく広いと言えば広く、東京ドーム数十個分の広さはあるのだがつい春休みに火星の極冠を蒸発させたのを思い出すとさほどでも無いと思えてしまうナ。

「ここも広いでござるな」

「世界遺産になているから競争は駄目ネ」

「そうだったアルか。危なかったよ」

元気が良すぎるのも考えものネ。

「あっちに見える温室でかいなー」

集まっている植物は5万種近く世界的な植物研究機関としても機能している場所だヨ。
イギリスでも熱帯雨林の植物があて少し場所を錯覚しそうネ。
グリニッジが美しいとしたらこちらは華やかな感じだナ。
大温室を見て周り、古が反応する建物があたヨ。

「超、何故中国の建物がある?」

10階建ての細長い中華風の塔ネ。
パゴダというが要するに仏塔、ストゥーパだナ。

「あれはウィリアム・チェンバーズという人が250年前に建てたパゴダたヨ」

「中国の建築を真似したアルか。見事ね」

「意外と馴染んでいるでござるな」

外国の文化を好き好んで取り入れるとこういうこともあるネ。
丁度午後のお茶を飲みたい時間になたから園内のティールームで一息ついたヨ。
五月は飲み物にも興味を持たようだが、向上心があるのは良い事ネ。

時間に限りがあるからまたロンドン中心部に一気に戻り、午前にロンドン・アイから見えたが、またもや世界遺産のウェストミンスターに行たヨ。
寺院の方は立派なゴシック建築だと思たらそれで終わりだが歴史的有名人が多数埋葬されている場所でもあるネ。
万有引力を発見したアイザック・ニュートンも眠ているヨ。

「ここに眠ってるんですか」

感慨深げだが、さよ、埋まりたいのカ?

またその隣には現在も議事堂として使用されている議会政治発祥のウェストミンスター宮殿があるネ。
南北の長さは265m敷地面積は3万平方mを超える中には多数の部屋、階段、中庭もあるヨ。
更にその隣には聖マーガレット教会と世界遺産のオンパレードだナ。
実際2月に外国文化研究会で飛び出したのはこういう有名建築のある場所の方が適していたとは思うが今更ネ。
そのまま更にロンドン中心部へと進み、真っ白い外壁のバッキンガム宮殿を背景に皆で写真を取り、ビックベンを背景にまた写真を取りと思い出を増やしたネ。
時間が押して来たがドーム型をした塔が特徴的なバロック建築のセント・ポール大聖堂を周たヨ。
最後に無数の立派な柱で支えられ、700万点ものコレクションを有する大英博物館は入場は無料だからギリギリまで興味のある美術品や遺跡の品を見たり、レプリカグッズのコーナーでお土産を買ておいたヨ。
一日で大体ロンドンをテムズ河を中心ラインとして一周したと思うネ。
何より良かたのは誰も緊急連絡をしてこなかた事だナ。
ホテルに戻て夕飯をクラスの皆と食べたがそれぞれの班は何処に行って何をしたと話すのに夢中だたヨ。
ネギ坊主とアーニャは明日菜サン達の班と行動していたみたいだが、案内している筈が子守のようになていなかたか気になるネ。

「しかし今日は平和でござったなぁ」

「何も起きなくて良かたヨ。修学旅行が台無しでは寂しいからネ」

「超何の話アルか?」

「うむ、今日は楽しかたという話ネ」

「そうアルか!私も今日は皆とたくさん周れて楽しかったアルよ」

古には危険性を知らせなくて良かたナ。
明日は朝からウェールズまでバスで移動して2日間滞在する予定だから早めに寝ておこう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

昨日は超りん達が綿密に建てた計画通りあちこち見て回れたッス。
こうイギリスらしいなーっていう写真とか沢山取れたし、これが修学旅行京都とかハワイだったらそれはそれで楽しかったろうけどこれはなかなか良かった。
朝早く8時前には用意されてたバスに乗っていざウェールズへ出発よ。
一応修学旅行って事で直接ネギ君の故郷に向かうのではなくウェールズの首都カーディフに行ってお城を見るんだとさ。
でも、移動に3時間かかるってんだからなっがいわー、バスの中で企画やらないとやってられないね。
そういや、いつのまにやらアーニャちゃんがバスに混ざって馴染んでるねぇ。
ゆえ吉達のところが落ち着いたか。
なんで言葉通じてるの?とか不思議に思ったら負けだから。
なんかカラオケ始まったら、どうも日本の曲ばっかで、なんで?と思ったら超りんの持ってきてためっちゃ小さい端末でやってるらしい。
色々機能搭載する実験でもやってんのか。
神多羅木先生の顔が見えねースけどどんな顔してんだろな。
長いバス移動も一旦終わってようやくカーディフ到着。
でっかい城壁だなーと思ったらここが城か。
何やら説明を受けたところ、内部では写真撮影禁止だから気をつけろとの事。
城壁内は石畳がズバーっと走ってて、中心の古墳みたいの上にうまくそのサイズレベルの城が建ってた。
昨日からだけどあちこち緑が多いねぇ。
石畳以外は全部草地だし。
そこそこブラブラしたところで昼になったから食事してまた出発。
カーディフがロンドンからそのまんま西にズズーっと進んだところだけど、今度は北の方に向かってくみたいね。
しばらく進んだら道の右も左も前も後ろも山、山、山のラッシュ。
なんか方向感覚を狂わせようとしてるんじゃないかとも思うような走り方してんだけどネギ君の故郷って言うか一応メルディアナ魔法学校近いから秘匿か何かの関係か。

「ネギ達の故郷ってどんなところなの?」

「えーと、特にこれといって特徴は無いですけどとにかく山ばっかりの所です」

「もう山しかあらへんよ?」

「そろそろ着くと思うわ」

午後も午後って時、やっとこさ到着したわ。
やっぱ長閑なケルト的田舎風景がどっこまでも広がってる場所だった。
シアトルのスキー行った時の雪山とかジョンソン魔法学校の周辺もかなり良かったけどこういうのも良いねぇ。
誰か女の人いんなーと思ったらアスナといいんちょになんとなく似てるっつーか、三人並べたら親戚で通りそうだな。

「お姉ちゃーん!!」

「ネギ!ああ、会いたかったわ!」

ネギ君が飛び込んでったかと思ったら振り回されてんのはお姉さんの方かい。
普通逆だろ。
感動の再会ってところ、ネギ君が私達クラスの事紹介してくれたわ。
話し方はなんとなくいいんちょに似ているがそこまでお嬢様的でもないね。
すんごい美人のお姉さんだけど何歳だろ。
私達よりは年上なのは分かるけどな。

「あれがネカネサンか」

「ネギ先生が初めていいんちょさんに会った時に言ってましたね」

もう去年の夏だもんなー。
そろそろ一年じゃんか。
時間立つのはえーわ。

「明日菜サンともどことなく似てるネ」

「ニオイが似てるって話ですけど嗅がせてもらいますか?」

「DNA的に近いかもしれないから髪の毛のサンプルでも貰えると本格的に研究できるヨ!」

おいおい……。

「ほう、ネカネ殿とアスナ殿のニオイが似ているのでござるか……どれ」

犬でもないのにクンクンしてんだけど分かんのか?
忍者ならなんでもOKって訳じゃないだろーに。

「楓サン結果はどうネ?」

「こ……これは。そっくりとは驚いたでござるな、まことに親戚なのではござらんか」

両目開いたよ!
そんなに驚いたんスか。
両親いないアスナにとっちゃそれ重大発言だろ。

「ふむ、楓サンの嗅覚でそうなのだとしたらこれは確かめてみた方が面白そうだネ。……採取しに行くヨ……」

あ、やべースよ。
超りんの目がマッド化してる、あれは実験動物を見つけたような目だわ。
じりじり距離詰めてるし。

「さよあれほっといていいの?」

「欲望の赴くがままに対象を研究しつくすことこそ真理にたどり着く近道だそうです」

それっぽいこと言ってごまかしてるだけだろ。

「はははー、もう好きにすればいいスよー」

「超さんの研究分野はロボットだけではないですからね」

中学生で本格的どころかマジもんのロボット研究してる葉加瀬も変わんないスよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、触れてはいけないパンドラの箱のような感覚がひしひしと伝わてくるが髪の毛の一本ぐらい採取してもどうという事は無いネ。
ネギ坊主の髪の毛は今までに採取するタイミングはいくらでもあたから持ているし、ここは一つミッションをやり遂げるヨ!
どう怪しまれないように髪の毛に触らせてもらうかだが……。

「ネカネサン、初めまして。私は超鈴音ネ。いきなりで済まないのだけど、髪型を明日菜サンみたいにしてくれないかナ?」

「あらまあ、あなたが超さんですか。ネギからの手紙で色々お世話になったと聞いています。面倒を見ていただきありがとうございます。髪型をアスナさんのようにですか、ええ、構いませんわ」

よりお淑やかなあやかサンのような感じだナ。

「これからもネギ坊主を陰ながら支えるヨ。髪型は私が言い出したから私が結いてもいいかナ?」

「結いてくださるんですか?ではお願いいたします」

フフ、これで後は髪を結いでいる間に仕込み刃で一本拝借するだけだヨ。
なんとも綺麗な金髪で良い髪質しているネ。

「手入れが行き届いているいい髪だネ」

「そうですか?嬉しいですわ」

サッと一本削てと……。
できたネ。

「結いたヨ。明日菜サン!少しこっちに来てくれないカ?」

「超さん何ー?ってお姉さんの髪型!」

「アスナどうしたん?あー、ネギ君のお姉ちゃんの髪型アスナと一緒にしたんか。アスナ並んでみたらええよ」

「う、うん」

「おーいネギ坊主!少し二人を見るネ!」

離れたところで何やら話こんでいるから振り返らせないとナ。

「超さん?ええっ!?アスナさんが二人!?ってネカネお姉ちゃん!?」

「何なにー。あー!凄い似てるよアスナ!」

「頭の良さは似て無さそうだけどなー」

「うるさいわよ!!」

皆でバシバシ写真に撮て保存しておいたネ。
髪の色は違うが誰が見ても似ている以外の言葉はありえないナ。

「ネカネサン、ご協力感謝するネ。もう解いてくれていいヨ」

「そんなに似ていましたか?私も楽しかったです。紐ありがとうございました」

「手間をとらせたネ」

さて、目標も達成できたし面白いものも見れたヨ。
戻ろうかと思たら今度はエヴァンジェリンか。

「手紙でやりとりした事があるがこうして会うのは初めてだな。私がエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」

「まあ!初めまして!ネギの姉のネカネ・スプリングフィールドです。素敵な映像たくさん拝見しました!握手して頂いで構いませんか?」

どれだけ気に入たのだろうナ。

「ああ、こちらこそ挨拶しておこうと思っていた」

エヴァンジェリンの右手を両手で包んで握手してるヨ。

「あの……それで……」

「細かい話はまた後にしよう、ここでは場が悪いからな」

「ええ、分かりましたわ」

魔法関連だろうナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

この後野原でバーベキューしたりして過ごし、班分けがあんまり意味なくなりましたが、かなり楽しかったです。
食べ物もイギリスはどうのと聞きますがそんな事なく美味しかったです。
今日は皆でレンガ造りの大きな宿?なんですかね、そこで泊まりました。
明日はネギ先生の母校を見に行けるという事なんですが、認識阻害全開にするんでしょうね。

《もしかするとウェールズ滞在中に何か起きるかもしれませんから気をつけてください》

これはキノから通信ですね。

《キノ、どういう事ですか?》

《日本で頑張ってフェイト・アーウェルンクスを探しているんですが見当たらない、正しくはきっちり認識できないだけなんですが、もしかしたらそっちに行ってるかもしれません、という事です》

《ふむ、私が直接戦うという選択肢はありえないのだがここの警備は厳重だろう?心配する必要あるのカ?》

《エヴァンジェリンお嬢さん並に高度な術師の筈ですから、結界程度簡単に破ると思います》

面倒な敵ですね……。

《今日来たばかりでここがバレているなんて事あるんですか?》

《可能性は十分あります。一応大分前にイスタンブールの魔法協会を調べましたが、偽造だとは思いますが名前だけは記されていたので地球にいるのは間違いありません。壮大なネタバレなのでアレですが、ネギ少年の故郷での出来事も超鈴音と同様知っている筈です》

《ネギ坊主の幼少に住んでいた村一つが全滅したという話カ》

《石化した村の人々はメルディアナ魔法学校の魔法的処理をされた地下に安置されてますけどね》

《それって治せないんですか?》

《私やさよなら術式を解析して反転させる事で治せると思います。方法としては精霊体で直接乗り込んで解除して逃げるだけでもいいですけどこの旅行中にそれをやるのはタブーですね》

《怪しまれるからやめた方がいいナ》

《そうですね》

《そういえばネギ坊主は攻撃系の魔法ばかり習得しているようだが、石化解除の方法を探ろうとはしていないナ》

《それはネギ少年が村の人達が石化したのは知っていても、その後無事に保管されている事を知らされていないので、全員死んだのだと思ってるからですよ》

《それが理由でネギ坊主はどこまでも強くなろうとしているのカ》

《どこまでもと言ってもまだナギ少年程強くもないですから別に間違っても絶対に正しい訳でもないでしょう》

《つくづく困た一族だネ》

《鈴音さんも同じじゃないですか》

《それも壮大なネタバレだヨ》

《まあ恐らく今晩は大丈夫だと思います。起きるなら明日でしょう》

《一般人のフリしているに限るナ。ネカネサンの髪の毛も手に入れたし無くさないようにしないとネ》

《うわっ、それはまた世界の謎の一つみたいなものに触れましたね》

《翆坊主もそう思うカ?私も興味が尽きなくてワクワクするヨ》

《鈴音さん、採集しているようには見えませんでしたけど髪の毛結っている時ですか?》

《そうネ。あの時仕込み刃でパッと採集したネ》

楓さんみたいな仕込みですか。

《あれは違和感なかったですねー》

《怪しまれたら大変だからネ。しかし襲われると言てもエヴァンジェリンがいるから何も問題なさそうだナ》

《京都の時とは違って、こう立場的に一応強力な魔力制限をかけてますから戦力にはなりませんよ》

《そうなんですか!?》

《いや、まあただ危なくなったら近衛門殿がスタンプ押すと解除できますから大丈夫です》

《その伝令は私がやればいいんですね》

《そうならないことを祈りたいですが》

《さよ、頼むネ》

《はい、分かりました!》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ君の故郷で一晩寝て次の日、ネギ君の母校に行かせてもらえる事になったんだけどきっとあらかじめ処理してんだろな。
だって今日金曜だけど誰も生徒はいないし、先生っぽい人もいないし。
いいんちょなんかここが「ネギ先生の勉強された場所ですの!感激ですわぁ」なんて舞い上がってるし、ここがどこかの針のポッター的学校でも構わないんスね。
皆物珍しそうに天井の高い廊下だとか見てるけど、麻帆良の麻帆良教会も似たようなもんスよ。
まあ一般人はあそこに積極的に寄り付かないようになってるから仕方ないか。
葛葉先生と神多羅木先生がいないけどここの校長にでも会いに行ってんのかな。
ネギ君のお姉さんがガイドさん化してるし。
ネギ君とアーニャちゃんの背比べの跡まで説明してるけど、自分たちも印付けようとすんな鳴滝姉妹!
普通こんな子供の頃の跡なんて観光スポットにならない筈なんだけどそのままネギ君達が小さな時に遊んだ山だとか川だとか滝だとか見たよ。
「タカミチがこの滝を素手で割った」って何の伝説ですか。
海が割れるよりはマシだけどさ。
アスナはそれで感動してるし調子いいなー。
およ?

「さよ、どうかしたの?また視てるみたいだけど」

「美空さん、ちょっと気になってるだけです」

「今回は大丈夫だと思うけどねー。アーニャちゃんの占いはともかく」

「そうですね。でも……私の占いは酷かったです……」

「あー掘り返してごめん」

そら幽霊でも死相とか既に死人とか言われたら嫌だよなー。
大自然を堪能して疲れたところでまた宴会始まったわ。
気をそらすつもりなんだろうけど、VIP待遇っぽい感じ。
ネギ君は先生としてアーニャちゃんと学校に行くみたいね。
エヴァンジェリンさんの姿がいつの間にか消えてるけど同じ用事か?
にしても今回は巻き込まれなくて良かったわー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネカネお姉ちゃんに予め言われたとおりメルディアナ魔法学校にもどってきておじいちゃん達のところへ来た。

「おじいちゃん!久しぶりです、帰ってきました!」

「よう戻った。……中国では男子三日会わざれば刮目して見よというが、見違えたぞネギ!」

「はい!ありがとうございます!」

「ぼーやも故郷へ戻ってきて元気そうだな」

「マスター!それにお姉ちゃん!」

「だからネギ!そのマスターってのは何なのよ!」

「あれ……おじいちゃん、マスターが居てもその、状況的に大丈夫なんですか?」

「コノエモンから聞いておるから大丈夫だ」

「まあ私も出てくるのに今は魔力に制限をかけているし、それに私は既に死亡したことになっているから誰に見られてもさほど問題ではない」

「そうですか……良かったぁ」

「おじーちゃん!ネギの魔法の先生がえ、え、エヴァンジェリンさんでいいの!?」

「私は別に良いと思うぞ。ネカネもそう思わんか?」

「ええ、私はこんな素敵な方にネギが魔法を教えて頂けるなら賛成です」

おじいちゃんもお姉ちゃんも賛成してくれるのか。

「な……な……はぁ……もういいわ……」

アーニャもやっと納得?してくれたみたい。

「して、ネギ、父の跡を追い続けるのか?」

それは……僕の目標だから!

「はい!僕がいつか探し出して追いついて見せます!」

「……ネギ、今度の夏休みになったらまたここに来なさい」

「それはどういう?」

「その時になったら教えるから待っておれ」

夏休みか……その時には丁度一年経つなぁ。
でもマスターの別荘で訓練してるから1年は既に経ってるか。

「分かりました。そうだ、僕おじいちゃんも使ったことがあるスクロールを乗り越えたんです!」

「おお、あれか、コノエモンの奴それは言っていなかったな。どうだ、大変じゃったじゃろ?」

「大変でしたが、とてもいい経験になりました。それに僕の仲間も一緒に乗り越えたんです」

「仲間とな?」

「はい!これが契約カードです」

「ちょっと聞いてないわよ!見せなさい!誰よ相手って!女なの!?」

「アーニャ、犬上コタロー君、男の子だよ」

「へ?じゃあ、ま、ま、まさかキキキキ、キスしたの!?」

「キスじゃない方法だよっ!」

「っはぁ……はぁ……なんだ」

「ネギにも相棒ができたか。それは良いことじゃがちゃんとしたパートナーも探してはどうじゃ?」

「校長!」

「冗談じゃよ、ネカネ」

「パートナー候補になりそうな女子なら生徒達皆そうだがな」

「マスターまで!」

「事実じゃないか。まあぼーやはまだ子供だか……っ!!どうやら侵入者が団体でお出ましだな」

「マスター?ッ!!」

この気配は!

「何者かが入り込んだか!すぐ総員に連絡じゃ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ッ――!!美空さん、野菜は一度ここまでにして洗った分だけ持って宿に戻りましょう」

「さよ、どうしたの?」

「作戦は落ち着いて一般人のフリです。行きましょう!」

「一般人のフリ?」

いきなりさよが宿に向かって洗った分の野菜持って移動しだしたんスけど何?
一般人のフリってまさか敵襲?

仕方ないからそのまま付いて行ったんだけど。

「ってええっ!?」

皆でここの美味しい食事を作ろうって野菜洗行って戻ってみたらなんで皆石化?
これやべースよ!!
残ってんのは楓とたつみーだけスか!
アスナ達は違うとこ行ってるからいないけどさ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

皆と郷土料理をしているところネ。

《鈴音さん!キノ!》

《分かってます!最大加速状態で会話しますから落ち着いてください》

《さよ、どうした?》

《……はい、はぁ……今にも宿から何か出ます》

《侵入者カ?》

《そのようです。1秒後には水の転移門から出現すると思います》

《私としては鈴音さんには逃げて欲しいんですが……》

《いえ、水の転移門である事からするとフェイト・アーウェルンクスの筈ですから、使ってくるのは普通の石化魔法でしょう。逆に不用意に反応した場合もっと酷い攻撃を受ける可能性があります》

《分かたネ。さよ、私は軽く石化するかもしれないがバレる訳にはいかないから落ち着くネ》

《……分かりました。でも今からそっちに向かいます》

《私はエヴァンジェリンお嬢さんの制限を解除してもらうように近衛門殿に連絡してきます》

《作戦はとにかく一般人のフリだナ》

さて、いつ出てくるかナ……。
ここには、龍宮サン、楓サンぐらいしか反応できそうなのはいないネ。

        ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
―小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ 時を奪う 毒の吐息を―
            ―石の息吹!!―

「キャッ!!」

「何この煙!」

全体を石化する煙カ。
確かにこの程度なら後で治るネ。
普段は魔力が無いからレジストもできないナ。

「この煙は何でござるか!」

「楓!一旦退避だ!」

流石二人だナ。
後は任せるネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

瞬間移動はズルすぎます……。
観測した感じもう皆石化してます。
気がついて粒子通信で状況を伝えられても、結局さっき話したように下手に反応したり、精霊体を見せる訳にもいきません。
って鈴音さんの石像に向かって攻撃しかけようとしてませんか!?
……何か呟いてますね。

「あるルートで優先目標になっていてもこの程度か。それともわざとかな。……まあいい」

あ、危なかった!!
絶対鈴音さんが反応してたらもっと酷い事になってましたよ!!
楓さんが襲いかかりましたが水で転移しましたね。

歩いて宿に戻ったんですが。
案の定皆の石像がズラリ。

「ってええっ!?」

私も一応驚いておいた方が良かったですかね。

「二人とも無事でござったか!」

「済まない相坂、一瞬にして煙が飛び出してきたから避けるだけで精一杯だった。敵は超が石化した後に何か呟いていたが消えたよ。それとも見ていたか?」

「あー、まあそうですね。気づいたんですけど過剰反応すると碌な事がなさそうだったのでそこそこに戻ってきました」

「やはりそうか。まあその対処で正しかっただろう」

本当に鈴音さんは軽く石化しただけみたいですね。

「うわーマジかー」

「相坂、敵の目的は何だと思う?」

「多分ここはただの陽動です」

「陽動か……場合によっては麻帆良の安全管理の脆さを露呈させるのが目的かもしれんが、他に何か見えるのか?」

「神楽坂さん達の方が危ないかもしれません。少し離れた山林から大量の悪魔みたいなのが出現してます」

「アスナ達もか……。しかしなんつー厄介事……」

「アスナ殿達でござるか」

「先生達が抜けているこのタイミングを狙ってくるとはな」

「先生達といえば、ちょっと待ってて下さい。連絡しておきます」

「アメリカの時のあれか」

粒子通信の起動をオープンで開始。

《葛葉先生!宿にいる皆石化されました!源先生もです。残っているのは私と龍宮さん、春日さん、長瀬楓さんです!》

《相坂さよですか。超鈴音も石化してしまったのですか?》

《石化してますけど、治癒術師がいれば解除できるレベルの筈なので大丈夫です。それよりも別の場所にいる戦えそうな桜咲さんと古菲さん含む神楽坂さん達が危険です。大量の飛行型の悪魔が出現していて神楽坂さん達の方とこちらにも向かっているみたいです》

《そうですか……。召喚の反応はこちらでも感知しました。少しゴタゴタしていますが今から安全の確保に私達も動きます》

《よろしくお願いします》

《あー葛葉先生?私も防衛した方がいいですか?》

《春日美空、十字架があるなら出しておきなさい》

《了解です……》

「ただ握っていただけのようだが終わったでござるか?」

「はい、終わりました。それで多分こっちに向かっている連中は足止めのつもりだと思います。最悪石像を破壊するつもりかもしれませんけど」

「刹那と古もいるが神楽坂達を助けに行った方がいいのか?距離的にはどうなんだ」

「村の人が運転しているトラックに乗ってるみたいなので追いつくのは徒歩だとちょっと……。接敵まで向こうが後2分ぐらいでこの宿の方は先生たちがもうすぐ来ますけど、敵も後もうすぐで見える筈です。数は数百に上がってます……どう召喚したかはしらないですけど」

「数百!?無いわー」

美空さん、それは私も思います。

「弾丸もそんなに持たんな。エヴァンジェリンはどうしている?」

「魔力制限解除が行われ次第出てくれそうです」

「楓、どうするかは貴様次第だが私はここを守る」

「先生たちが来るならば拙者はアスナ殿達に加勢するでござるよ。真名、皆を頼む」

「ああ、石化には気をつけろよ」

「じゃあ私は適当に障壁張るとしますわ」

「さよ殿、アスナ殿達はどちらの方角でござるか?」

「丁度あの道なりに、西ですね10kmぐらい離れてます」

「10km!?楓行けんの?」

「拙者なら問題ないでござる、いざ!」

―縮地无疆!!―

地面にありえない衝撃が出て大穴開いたんですけど見事に長距離移動していきましたね……。

「楓スゲー!何あれ、忍者凄っ!」

「春日、驚いているのはいいが、どうやら敵のお出ましだな」

とうとう空を埋め尽くす黒い影が見え始めました……。

「美空さん、皆の石像を壊さないように安定させておきましょう」

「……それなら私でもできるね、走るしか能が無いのに戦う事になったらやべースよ」

「先生達の方が先に付きますから大丈夫ですよ」

さて、常時観測しているので龍宮さんの状況は見ているのですが、宿屋の屋根から長距離射撃で敵の数を地道に減らしていますが、広範囲殲滅魔法の方がこういう時は早いですね。
そこへ麻帆良の先生達が戻ってきました。

「遅れて済まなかった、少しの間だけと思って宿を離れたのが悪かった。我々で結界を今から張るから中にいなさい。龍宮は防衛感謝する!」

神多羅木先生と瀬流彦先生それに葛葉先生でした。

「ああ、報酬は学園に請求させてもらうよ」

「神多羅木先生、あの悪魔の量は何ですか!?」

「瀬流彦、落ち着け。お前は結界に専念していろ」

「は、はい!」

瀬流彦先生冷汗かいているところからするとこの手のゴタゴタはあまり経験が無いんでしょうね。

「神多羅木先生、私はこのかお嬢様の元にいかなければなりませんので、よろしくお願いします」

「分かってる、行って来い。石化には気をつけろよ」

「魔を断つ神鳴流に悪魔等とは笑わせます」

葛葉先生の目が白黒反転してて怖いんですけど……。

《相坂さよ、お嬢様はどちらの方角ですか?》

《西の方角です、行けば悪魔が大量にいるので分かる筈です。楓さんも追いついていますが一般生徒の護衛の関係で乱戦状態になってます》

《分かりました、あなたはそこで目立たないようにしていなさい》

《はい!》

物凄い勢いで陸上を突っ切っていく姿、神鳴流凄すぎます。

       ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐―
         ―雷の暴風!!―

ネギ先生来ないなーと思ったら派手な竜巻魔法と共にようやく来ました。
制限が解除されたエヴァンジェリンさんと一緒です。
その後ろにはメルディアナの魔法使いの皆さんが群を成しています。
人数が多いと言える程多くないのは麻帆良と似たようなものですね。
なんと言うか悪魔達の進行ルートが複数あるせいでメルディアナ自体も防衛しないといけない状態とは手間どらせますね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

これは一体何が起きている。
被害はそこまで出ていないけどこれじゃまるで6年前の再現だ!

「ケケケ、少しデカイ魔法を撃つかと思ったらただのガキ共か!」

邪魔だ!

  ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!!―

「ギャァァァ!!」

「カカカ、後ろがお留守だな!」

―解放!!未完成・断罪の剣!!―

「ナンダトォ!?」

……あちこちに飛んでる悪魔達はそこまで強くないけど、バラつきはあるみたいだ。

《その調子だぼーや、反応がいいぞ。神楽坂明日菜達が劣勢だそうだ、助けに行って来い。ここの道は私が開けてやる。ついこの間覚えた魔法でも試してこい!》

《はい!分かりました、マスター!》

「麻帆良とは違い動きが良いとは言っても、この私がいるところに群れでこんな有象無象共が蔓延るとは大した身の程知らずだな!魔界にさっさと還れッ!!」

         ―リク・ラク・ラ・ラック・ライラック―
―契約に従い 我に従え 氷の女王 来れ終焉の光 永遠の氷河!!―
    ―全ての 命ある者に 等しき死を 其は 安らぎ也―
           ―終わる世界!!!―

マスターの広範囲凍結粉砕魔法!
この前見せてもらったばかりだけどやっぱり凄い!
前方に大きく道が開いた!

《マスター、ありがとうございます。では行ってきます!》

《ここ一帯の敵を片付けたら私も手伝ってやる、後の事は考えずにまず頑張ってみろ、弟子よ》

《はい!》

「ネカネお姉ちゃん、龍宮さん、行ってきます!」

「ネギ!大丈夫なの!?」

「僕を信じて!」

「ネギ先生、気をつけてな」

「はい!」

龍宮さんは皆が来るまで宿を守ってたみたいだし僕も頑張らないと!

―最大加速!!―

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

なんか戦争っぽくなってるけどマジやばいスよ。

「ネギ君いきなり出てきて凄い魔法出したかと思ったら何か剣とか斧とかも出してるし、ってエヴァンジェリンさんも半端無いわー」

なんだあの広範囲魔法……私いわゆる大戦期後の世代ッスからあんなん見たことないし。

「美空さん、安心するなとは言わないですけど窓からもう少し顔離した方がいいですよ」

いやいや、怖いもの見たさって奴だよ。

「だってさよ見えてんでしょ?」

「それは否定できないですね」

「おおっネギ君行っちゃったよ!?何?確かに悪魔倒せるみたいだけど、天才少年って凄いなー」

「ええ、まさかあんなにネギが成長しているなんて思いませんでした」

うわっ、ネギ君のお姉さんじゃん。
何か失神しそうな勢いに見えるけど、心配なのか。

「ネカネさん、ネギ君って卒業した時はあそこまで強くなかったんですか?」

「ええ、メルディアナは魔法の射手までしか教えませんし、あの子が隠れて何か魔法を勉強しているとは知ってましたが見たことはありませんでしたわ……」

いやいや、仮に魔法の射手だけだとしても卒業から1年も経ってないのにアレはおかしいだろ。

「ところでネカネさんはここに何しに来たんですか?」

「あなたは春日さんでしたね。魔法を知っているようですが魔法生徒の方ですか?」

あの適当な自己紹介で覚えてくれてたの!?

「あ、はい、一応見習いシスターやってます」

「私は一般人です」

さよ、嘘つかなきゃいけないのは分かるけど、ブラックボックスすぎるよ。

「そうでしたか。一応私は治癒術師なので皆さんの石化を診に来ました」

おお、確かにそんな感じはするね。

「さよは治るって言ってるんですけど」

「美空さんっ!」

「げっごめん!」

マズったわー、一般人って言った矢先じゃんか。

「相坂さんも何か事情がおありのようですが、ネギの生徒の皆さんの石化は解除できそうですから安心して下さい」

「良かったです。でもこの騒動が終わるまでは治せませんね」

さよは結局開き直ったか。

「石化が治ると聞いて安心しました」

「はい、治療の手筈は私達でしっかり行ないます」

アメリカで普通の人間も怖いとは思ったけど数だけは多い悪魔の群れも怖いわなー。
地味に割と強めっぽいのも混ざってるけどエヴァンジェリンさんが滅多打ちにしてるから大丈夫だろ。
しっかしこんな大量に召喚した奴は一体何がしたいんだ?
ここが陽動だってのはさよが言ってたけど、狙いはアスナ達っていうか近衛のお嬢様のこのかか。
だとすると状況は分かんないけど今回これで桜咲さんが近くにいなかったら今頃終わってたんじゃないか?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

エヴァンジェリンさんが主力で宿周辺の敵を薙ぎ払い、漏れた敵を龍宮さんと神多羅木先生が撃ち落とし、残りは魔法学校の方へ抜かれないように防衛ラインを張ってますが、たまに墜落する魔法先生がいて心配ですね……。

一方神楽坂さん達が接敵してからずっと見ていましたがどうなっていたかというと。
メンバーは神楽坂さん、桜咲さん、近衛さん、くーふぇさん、綾瀬さん、宮崎さんと運転手さんでした。
車の形状は前に二人が乗れ、後ろに荷台がついてそこに乗れるタイプのものです。

「な、なんだあの数の魔物は!運転手さん!車を戻してください!」

「おお、分かってるさ!あれはマズいね!」

引き返そうとしたところでしたが、悪魔からの攻撃で車のタイヤがパンク、走行不能になってしまいました。

「タイヤをやられたか!」

「「「きゃあっ!」」」

「あれ一体何なのよ!」

「せっちゃん!あれ何や?」

「間違いなく敵です。お嬢様はアスナさん達と下がっていて下さい。私が抑えてきます!」

「刹那、私も戦うアルよ!」

「すいません、古さんはお嬢様達をお願いします!お嬢様、この姿を他の皆様の前で晒すことをお許し下さい」

「せっちゃん、気にせんでええよ」

「行って参ります!」

そう言った桜咲さんは烏族の白い羽を出してゆっくり空中に飛び上がりました。

「桜咲さん何その天使みたいね羽!綺麗!」

「綺麗です」

「羽があったアルか!」

「せっちゃん、気いつけてな!」

「はい!」

―四天結界守護方陣!!―

「その中から出ないで下さい!」

「お嬢ちゃん力にならなくて悪いね、私も障壁は張れるからこの子達は任せておくれ」

「よろしくお願いします!」

そのまま猛烈な勢いで空を飛び常に持ち歩いていた夕凪を抜いて大量の敵に桜咲さんは立ち向かいました。

―真・雷光剣!!―

神鳴流の中でも決戦奥義と呼ばれる剣に強烈に帯電させ爆発させる、広範囲破壊技を放ち大軍に攻撃をしかけました。
しかし直ぐ様に悪魔達は散開し、神楽坂さん達を守っている結界に集中攻撃をし始めたため、あっという間に破壊されてしまいました。

「しまった!もう破壊されたか!お嬢様っ!」

隙をついて人型をした二本角の生えている悪魔が口を開け石化光線を放とうとしましたが。

「させぬでござるよッ!」

「ガァッ!!」

とてつもない気の塊を右手に形成している楓さんが長距離瞬動のまま突撃して間に合いました。

「楓、加勢に来てくれたアルか!」

「楓!手助け感謝します!」

「刹那!古、安心していられる状況ではござらん。救援が来るまで持ちこたえねばならぬ」

「ただの小娘達かと思ってみれば、なかなかやるではないか。私はヘルマン卿、悪いがそこの娘に用があるので手加減はしないぞ」

楓さんに吹き飛ばされた悪魔でしたがどうやら爵位持ちのようですし、ここは麻帆良ではないので力に制限は何もかかっていないので耐久力は相当です。

「悪いがそれは拙者を倒してからにしてもらうでござるよ!分身!」

4人に分身して、ヘルマンと名乗る悪魔と高速で戦い始めた楓さん、近づく下位悪魔を弾き飛ばすくーふぇさん、空を飛び周る敵を切り飛ばす桜咲さんで非戦闘員の4人と実は魔法使いだった運転手の叔母さんの攻防が始まりました。
数の多さでジリジリ追い詰められていた皆さんでしたが、そこへ更にゴスロリの服を着た二刀の剣士が桜咲さんに飛びかかりました。

「刹那センパイの相手は私がやらせてもらいます」

「貴様何者だっ!」

「月詠言います、ほなよろしゅうお願いします」

げっ、あれがキノの言ってた会いたくない人ですか!
何か顔がにやついてて気持ち悪いです!
ただ名前を名乗っただけでそのまま二人は乱戦状態に入りましたが、空を飛んでいる筈の桜咲さんが押され始めました。
一方その一瞬の隙をついて転移呪文でまたあのフェイトが飛び出し、くーふぇさんを何かの拳法で弾き飛ばしつつ、石化魔法を発動してしまいました。

「くーふぇっ!」

            ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
―小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ その光 我が手に宿し 災いなる 眼差しで射よ―
               ―石化の邪眼!!―

今度はヘルマンと同じく光線が飛び出し、それを浴びてしまった近衛さんが手と足の先から一部ずつ石化が始まり、あえなく叔母さんは石化、後ろにいた綾瀬さんと宮崎さんはお陰で無事でしたが……神楽坂さんは服が石化して砕けただけでした。

「やはり……君は魔法無効化能力の持ち主か。そしてレジストの高さからするとそちらの君は旧世界の姫のようだね」

「一体何なのよ!このかと叔母さんを元に戻しなさいよ!」

「指が……石化しとる……」

「命までは取らないけどそのまま石化するといい。情報収集のつもりだったけど、そうだ、このまま君には来てもらうか」

「そうは、させないアルッ!」

地面に叩きつけらたくーふぇさんが活歩で急速接近しフェイトに拳を叩き込みましたが、軽くいなされ、続けて打ち込み続けるもまた弾かれ。

「かはっ!」

さっきと同じく地面に叩きつけられてしまいました。

「古!大丈夫でござるか!」

「お嬢さん、よそ見はよくないね」

「しまっ!」

「そちらは分身でござるよ。悪いが貴殿との戦いは後にしてもらおう!分身!」

楓さんは凄かったです。
人数が16人に増えたかと思えば一人は地面に転がったくーふぇさんを抱え、8人でフェイトに接近しつつ、残りはどこからか巨大な手裏剣やクナイを出して空中で何やら待機状態に入った下級悪魔に投げつけました。
綾瀬さんと宮崎さんは抱えることに成功しましたが、神楽坂さんと近衛さんに近づいた分身はなんと全て弾かれてしまいました。
どれだけ強いんですか!
ひどく劣勢の状態に入りましたが、そこへ遅れて杖に乗って飛んできたネギ先生+葛葉先生がやってきたんです。
葛葉先生は陸上を走ってる時にネギ先生に拾ってもらったようです。

「ネギ先生運んでくれてありがとうございます。それでは私はここで降りますので」

「はい!空には飛び上がらないでくださいね!」

そう言ってかなりの高さから葛葉先生が飛び降りた途端。

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
  ―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
―遠隔補助魔法陣展開!! 範囲固定!! 域内全雷精霊加圧!! 3…2…全力解放!!―
           ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
                 ― 千の雷!!! ―

呪文の長さを高速詠唱で補い、実質カウントが最大の時間を喰いましたが、強力な広範囲雷撃殲滅魔法を発動させ空中で待機していた下級悪魔を一掃しました!

「この魔法は……あれはネギ坊主でござるか!」

「ネギなのっ!?」

因みに空中戦を行っていた筈の桜咲さんは月詠の攻撃で地面に落とされていたので大丈夫ですが、大丈夫ではないです……。
飛び降りた葛葉先生は桜咲さんを助けるかと思えば楓さんと交代するかのようにフェイトに攻撃をしかけました。

「相手を変わりなさい!あなたはお嬢様を安全なところへ!」

「承知した!見た目に惑わされるがその子供厄介でござるよ!」

「やれやれ……人が増えてきてしまったね」

「お嬢様から離れなさい!」

斬りかかった葛葉先生でしたが水の分身が壊れただけで終わり、突然現れたと思えば、近衛さんはもういいのか神楽坂さんだけを水で捕縛して浮遊術で空中に飛び上がりました。

「分身かッ…その生徒をどうするつもりですか!」

「そう怒ると皺が増えるよ。どうってあなたに教える必要は無い」

「何ですって!」

年齢発言をされて葛葉先生の目が白黒反転しましたが、その話している状態の所へネギ先生が虚空瞬動から断罪の剣を背後の死角から打ち込みました!

「手応えが無いッ!」

やはりまた水の分身で、本体がいるのかいよいよ怪しくなってきましたが、そのまま水の捕縛術は葛葉先生が切り裂いて神楽坂さんは解放されました。

「きゃっ」

「いきなり攻撃を仕掛けるとは物騒だね。そうか、君が……ネギ・スプリングフィールド、情報よりも成長が著しいね。ここで少し叩いておこうか」

突然現れて石化魔法を飛ばす奴に言われたくないセリフですね。

―障壁突破 石の槍!!―

突然地面から石でできた槍が飛び出しネギ先生に襲いかかりました。

「くっ」

―魔法領域 最大出力!!―

ギリギリで展開できたフィールドにジジジっと音を立てながらめり込んで行き、その瞬間に横に移動してネギ先生は回避しました。

「なんだいそれは?まさか……似ているけど……何故君がそれを使えるんだろうね」

フェイトは魔法領域を知っているんでしょうか。

「君に教える必要は無いよ!」

―双腕・未完成・断罪の剣!!―

魔法領域を展開したまま高速で斬りかかるネギ先生でしたが切っても水分身、そうでなければ回避される始末……。

「不死の魔法使いの得意技か……あっちで暴れているのもそろそろ終わるようだ。厄介だね、今回は深入りはよそう、置き土産に悪魔をプレゼントするよ」

―召喚―

周囲から突然また大量の悪魔を召喚し、瞬間移動したかと思えば月詠の側に移動しました。

「月詠、今日はこれで終わりにしよう。ヘルマン卿は……頑張ってね」

「もう終わりですか~。羽が出とる刹那センパイはまだまだのようですし分かりました」

―ひゃっきやこ~う!!―

「貴様ッ!!」

抜けた掛け声と共にイギリスなのにも関わらず大量の妖怪が飛び出しました。
置き土産邪魔すぎます。
そのまま転移門で二人は逃げていきました。
残った強い相手といえば……。

「ヘルマン殿でござったか、どうされるのかな?」

「私はここで朽ち果てるまで戦わせてもらおう、そこの少年、私に見覚えは無いかね?」

「ネギ坊主?」

「お前はッ!楓さん!僕に相手を代わって下さい!皆さんは他をお願いします!」

突然ネギ先生の魔分量が上昇しました。

「ははは、いい眼だ。私もここでなら全力が出せる。いざ尋常に勝負といこうじゃないか」

「石化攻撃を使う相手にそんな勝負があるかっ!」

―未完成・断罪の剣 術式封印!!―
―双腕・未完成・断罪の剣!!―

言われてみればもっともな発言で切り替えしたネギ先生はそのままヘルマン卿に向かって行きました。
悪魔の力で放たれる強い衝撃波を魔法領域で緩和しては断罪の剣で吹き飛ばし、貫通力の高い無詠唱魔法の射手を乱射、並列して高速詠唱で雷の斧、等多彩な手段で戦いながらどんどん空中に上がって行きました。
度々石化光線が飛びますが虚空瞬動で回避し、押している雰囲気がありますがヘルマン卿が本気を出しているかどうかが微妙なところです。
一方地上は、ボロボロになってはいるもののまだ戦える桜咲さん、分身の数を最低限に戻した楓さん、最高にイラついていながらもその狂気を刃に変えている葛葉先生により残りの雑魚の一掃はすぐに終わりました。
それよりも問題は近衛さんでした。

「せっちゃん……うち……うち、まだ簡単な怪我治す事しかできへんのに石化なんて無理やよ……」

もう駄目だといった風に近衛さんの目には涙が浮かんでいます。

「お嬢様!」

「刹那、落ち着きなさい、ここはメルディアナですから高位の治癒術師もいます。お嬢様の石化はまだ本格的には進行していません。今から衝撃を与えないように運べば大丈夫です」

「は、はい」

「葛葉先生、拙者が分身でここの皆は運ぶがネギ坊主はどうするでござるか?あそこまで高いところでは加勢も難しいでござるよ」

「よく分かりませんがあの悪魔は本気ではないようです……。間もなく加勢が来ますから大丈夫でしょう。言ってる側から到着のようです」

エヴァンジェリンさんでした。

「ぼーや、面倒な騒ぎはなんとかしたようだが今加勢は必要か?」

「マスター、そこで見ていてください。僕がやります」

「不死の魔法使いがお目見えとは豪華なギャラリーではないか。では続きを始めようか?」

「話をする気があるなら質問するよ。6年前村を襲ったのはお前でいいのか?」

「特別に質問に答えよう。ああ、その通りだ。これで満足かね?」

「何のために村を襲った!」

「依頼を受けただけだ。悪魔はそういうものなのだよ」

「誰に依頼された!」

「それは契約違反になるから話すことはできないな」

「……そうか。もういいよ、村の皆は還ってこないけど黒幕がいるのは分かった。質問に答えてくれてありがとう」

純粋で優しげなネギ先生は何処へ行ってしまったのか、微妙な焦燥感を表情に見せながらも落ち着いた状態で断罪の剣を装備し、また戦闘を開始しました。
もう既にかなりの魔力を消耗している筈なのでそろそろ限界に近い気がするのですが、エヴァンジェリンさんもいるし大丈夫ですね。

地上の葛葉先生達はその状況を見て、メルディアナの方角に向かう事にしたようです。
怪我をしたくーふぇさん、綾瀬さん、宮崎さんと石化してしまった叔母さんを楓さんの分身で、葛葉先生と桜咲さんで近衛さんを慎重に運び、神楽坂さんは自力で空の様子を心配そうに見つめながら移動していきました。

その後、ネギ先生の戦闘はどうなったかというと、何度も激しいぶつかり合いをしましたが、最終的に3発の呪文を遅延させ、捕縛属性の風の矢で隙をついて動きを封じた瞬間に一気に連続で解放しヘルマン卿のこちらでの実体を保つ力の限界に至り、魔界に還っていきました。
その際少し会話があったのですが……。

「少年、私は依頼されたとはいえ君の村の人々を石化させた。完全に滅ぼしたいとは思わないのかね?」

「そう思う気持ちは無いと言ったら嘘になるけど、あなたを滅ぼしても僕には何も残らない。ただ虚しくなるだけだよ。僕はさっき聞いた黒幕を暴きだすだけだ」

「そうか……。君には堕ちる才能があると思うのだがね。それではありがたく魔界に帰らせてもらおう。さらばだ」

そのまま空気に溶けこんでヘルマン卿はネギ先生とエヴァンジェリンさんに見送られて消えていきました。

「ぼーや、気分はどうだ?」

「マスター、あいつは最後まで本気ではありませんでした。倒せても晴れ晴れした気持ちなんかじゃ無いですけど、とにかく今日はこれで終わりです。それにアスナさん達クラスの皆の所に戻らないといけません」

「復讐まがいの事をしても落ち着いているようだが、少しは成長したな。魔力も限界だろうから肩を貸してやろうか?」

「いえ、大丈…夫…で……す。あ……れ?」

「身体は正直なようだな、見栄を張ることはないさ。さて戻るぞ」

「ありがとうございます。マスター」

「全く厄介な日になったな」

「白髪の少年には逃げられましたし、謎ばかりが残りました」

「白髪の少年……か。後で引きこもりにでも聞いておくか」

「え?前に言ってた幽霊さんは知ってるんですか?」

「さあな、まあそういう事もあるだろうよ」

「僕が一人前になったら姿を見せてくれるかもしれないって言ってましたけど、いつになるんだろう……」

「まだまだぼーやは一人前には程遠いさ。その軽くあしらわれた小僧に次会ったときにでも鼻の穴を空かせてやれ」

「……そうですね。まだまだ頑張ります!」

そのまま師匠とそのお弟子さんはちょっとマズい話をしながら仲良く空を飛んで宿に戻ってきました。
長かったようでそんなに長くもなく、およそ十数分の激闘はこうして終わりました。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ふむ、気がついたら少し時間が経ていたネ。
皆で料理をしていた筈なのだが……。
何か忘れているナ。
周りの皆も似たような感覚のようだが聞いてみるカ。

《翆坊主、さよ、何か違和感があるが何かあたのカ?》

《鈴音さんは今フェイト・アーウェルンスクの石化魔法から回復して記憶を少し消去されてるだけです》

《おお、石化されていたのカ。あまり覚えていないが何も反応せず石化されて結局は良かたのかナ?》

《はい、それは間違い有りませんでした。フェイト・アーウェルンスクは超鈴音があるルートで優先目標になっているのがどうとか話していたので、無闇に反応すれば一般的には解除できない永久石化をやられていたかもしれません》

《なるほどナ。今回は甘んじて弱い魔法を受けた訳カ。二人だけが色々と知ているのはなんだかズルいネ。どうなたか教えて欲しいナ》

《私が話します!宿の皆が……》

……なるほど、宿はすぐに安全が確保されて、明日菜サン達の方が乱戦だたが、ネギ坊主と葛葉先生が加勢したら大体終わたのカ。
その過程でフェイト・アーウェルンスクと学園長から聞いた月詠を確認できたとはなんとも言えないネ。
しかもやはり私の知ていた通り明日菜サンは魔法無効化体質で、それが原因で攫われそうになたり、このかサンは石化を受けたがレジストが強くて大事には至らなかたようだネ。
古と本屋達の記憶は紆余曲折あって消さなかたというのは驚きだナ。
ついでにかなり活躍した楓サンも記憶処理は無しのようだたネ。
まあ明日菜サンは体質のせいで消せないというのはわかるが。
もともと彼女には魔法の事はバレていたしあまり変わりはないが、何やら鍛錬をしようと思たらしいネ。
良くはわからないが、ネギ坊主が覚えたばかりの千の雷を振るう瞬間に何か感じたようだと翆坊主は言ていたが、これ以上は歴史に関わるというか、明日菜サンはある意味鍵のような存在だからネ。
さよは一般生徒扱いで記憶処理かと思えば、葛葉先生のお陰で……もしやられても効かないだろうし助かたネ。
30分にも満たない短い間だたようだが、当事者の皆にとてはひどく疲れる出来事だたようだナ。
麻帆良に戻たら改めて映像をさよに見せてもらうとしよう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

はー、なんか窓から覗いてだけだけど割とあっという間に終わって、周りは嘘みたいに平和に戻ったな。
記憶処理とか色々先生たちにしつこく言われたりしたけど、自分からバラしたりしないから安心して欲しいスよ。
もう今はゴタゴタは終わって、アスナ達が持ってくる予定の材料は中止になったけど普通にまた料理作って、楽しんだわ。
ゆえ吉達がげっそりしてたけど私よりも修羅場だったんだからそら仕方ないか。
ネギ君は疲れたからそのまますぐ寝たみたいだし、話によるとエヴァンジェリンさん並の広範囲殲滅魔法使ったらしいし、マジありえん。
ネギ君お疲れ様。

そんなこんなで知らない人は普通に過ごして次の日朝からまたロンドンに戻って、班ごとの自由行動かと思いきや、土産限定でストリートを周る計画に変わったよ。
襲われたからこうなるのは予想できたさ。
とりあえず自分のお小遣いで土産買うと金銭の大事さが分かる。
シアトル観光カムバック!

そんでもって更に翌日曜日朝からヒースロー空港から日本に向けてまた戻り時差の関係で成田に着いたのは午前6時、麻帆良の女子寮に戻ったのは9時近かった。
私は面倒な事には関わりたくないスけど、ネギ君達はどんどん面倒な方向に進んでそうだわ。
ウェールズ出発する前に何かメルディアナの校長と色々話してたみたいだし、今回の事件処理とかもあるんだろうな。
主に葛葉先生がキリキリしてたからそれがいかに面倒かはわかるわ。
責任問題とかどーなるんだろ?
私が考えても仕方ないッスよ。
2回の旅行で得た教訓はあんまもう麻帆良から出たくない、以上。
ココネ肩車しないと落ち着かないわー。
シスターシャークティのお叱りはごめんだけどね……。



[21907] 31話 DNA
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/06 20:06
さて、とうとう面倒なフェイト・アーウェルンクスが情報収集とやらが目的で出現したが、メルディアナにわざわざ現れた理由はあそこにあるゲート周辺の結界のレベルを図るためなのだろうか。
恐らく今から強化したところで来たる日にはいずれにせよ対策は間に合わないだろうから情報は彼にとっては収集できた方なのではないだろうか。
ヘルマン卿はメルデイアナの一角に厳重に封印されていた筈だったのだが、確認したところ封魔の瓶が見事に盗まれていたそうだ。
恐らく結界をあってないようなものとして通過する彼にとってはそれすら造作もない事だったのだろう。
因みに私は彼の逃げた行方を探知できたかどうかだが、多重転移が国をまたぐレベルで本当にありえなかった。
精霊体でマッハ移動するのと大して変わらないのは正直ありえない。
そういうわけで見失った……いやまあがんばればできただろうが、確かに彼は脅威ではあるけれども超鈴音とサヨのことがバレた訳ではないから放置しておく。
それに餌というと言い方が悪いがネギ少年や神楽坂明日菜に興味を持ったらしいから、接触してくるのを待てばいいだけだとも思う。
その神楽坂明日菜であるがとうとうあからさまな魔法無効化能力を露呈した上、ネギ少年が千の雷を放つ姿にナギ少年の面影を感じたのだと思われる。
因みに彼女にアーニャの占いができなかった理由は正しい本名ではないし、生年月日が正しくもないからであろう。
サヨのアレは酷いとしか言いようがないが。

少し修学旅行が終わる前どうなったのかを見ておこう。
忍者と古菲が記憶処理を受けなかった理由は生徒でありながらも悪魔達と渡り合った為、忘れるかどうかの意思を確認したところ口外はしないという約束を行ったからである。
綾瀬夕映は魔法の存在を見たことから麻帆良学園全てのおかしさの説明が付くことがわかり、宮崎のどかは年下にも関わらず惚れてしまっているネギ少年の事もあってか、前述の二人と一緒に説明を受けた時にとてつもなくゴネにゴネ、記憶処理をまぬがれた。
理由としては古菲が心配だから日常でバレそうになったら止めるようにする等とのたまっていたが、実際その虞はあるし一概に否定はできないが意外とひどくないだろうか。
強制的に記憶処理に動かなかった理由としても、この二人はフェイト・アーウェルンクスと月詠の姿をはっきりと見てしまっているため、記憶を消したところでそんな事関係なく口封じに狙われる可能性が残ってしまうというのも関係しているようだ。
神楽坂明日菜は、神多羅木先生が近衛門直属の部下である事から彼女の体質については理解しており本人が有害だと思う限り記憶消去ができないと知っていたため、とりあえず口外しない事に釘をさされた上で麻帆良に戻ってからどうするか決めるという事になった。

ウェールズからロンドンに戻る前にネギ少年とエヴァンジェリンお嬢さんは改めてメルディアナ魔法学校に呼ばれた。
その際あちこちの魔法先生からその戦功について絶賛を受けたりしていたが、エヴァンジェリンお嬢さんがネギ少年に粒子通信で「ぼーや、ナギもこれと似たような評価を受けただろうが、調子に乗ったらそれまでだぞ」と伝え「分かっています。こんな評価を受けたくて戦ったんじゃないです。他人がどう見ようと僕は僕です」とフェイト・アーウェルンクスの事が念頭にあるため外面上は適当に挨拶していたが基本的には10歳にして他人をあしらっているという状況だった。
ネカネ・スプリングフィールドはその姿を見て「私の知っているネギは一体どこに行ってしまったのかしら……」と悲しそうで、ともすれば失神しそうだったのは余談である。
アーニャはネギ少年の戦闘を直接見たわけではないが、話は聞いたらしくとんでもない差が付いていると実感したらしい。
その後地下にネギ少年の村の住人が石化したままではあるが安置されているのを明かされてネギ少年は治癒魔法についても学ぼうかと思ったようだが、そこでお嬢さんがネギ少年の治癒魔法の才能の無さと孫娘の方向性について言及していた。
それでも他人任せはどうかと思ったのだが、既にメルディアナにいる高位の治癒術師ですら戻せないという現実を突きつけられ納得したのだった。
その部屋を去るときにスタン氏の石像に向けて墓参りではないがネギ少年は自分の成長と決意を報告した。
一方お嬢さんに言及された孫娘の方は、実際に石化した事から、「うち、怪我だけやなく、なんでも治せるようになるえ!」とこちらも決意を新たにしていた。
桜咲刹那は葛葉先生から月詠が神鳴流の脱走者だと聞き、以前お嬢さんから忠告を受けていたことが身にしみたのか、己の未熟さを実感しより鍛錬を積むことを決意したらしい。
また神楽坂明日菜だが、襲われた際に人外戦闘を見せつけられた上、どうしても気になることだらけで、桜咲刹那、古菲、忍者に何やらこそこそ話しかけ、とにかく何か鍛錬をしようと心に決めたようだ。
それに同室の孫娘がいつの間にか魔法生徒入りしていたのを知ったのもなんとなく身近に感じたらしい。

総合的にメルディアナの対応としては、完全に油断していたことを麻帆良学園に対して謝罪していたが、エヴァンジェリンお嬢さんが一応、「術者のレベルからすると麻帆良でも似たような事は十分にありえただろう」という発言や引率の魔法先生3人も油断していたというのもあって詳しい処理については麻帆良に戻ってからということになったのだった。

こんな所で修学旅行のゴタゴタの出来事は終わりであるが今度は戻ってきての麻帆良である。
麻帆良に戻っての報告では虚偽を報告するわけにもいかず、呪術教会に孫娘が実際に石化魔法を受けた事について情報が伝わって一悶着あったのだがこの点に関しては私も少し暗躍した。
近衛門にフェイト・アーウェルンクスについて、術のレベルから言って世界のどこでも確実に安心と言える場所など無い上、公表できない事ではあるが、彼が完全なる世界の残党でナギとも因縁があり、月詠がいたことから日本でも同じ事が起きる可能性が十分あったであろう事を伝えておいた。
それを聞いた近衛門は結局、仮定の話にしかならないが京都への旅行にしていたとしても、メルディアナの結界が破られるならば、関西呪術協会の総本山の結界もただでは済まなかったであろう事を遠まわしに関係者には伝えた。
また、メルディアナのすぐ側ですらその有様だったのに関わらず、京都旅行の場合宿泊施設は呪術教会からは離れていて、より護衛は困難であったであろうこと、神鳴流の月詠が脱走していた不備について色々相殺して面倒な問題についてはなんとか抑えつける事ができた。
今回の問題をなんとかできたのは、関東魔法協会理事であり、近衛家の当主であり、メルディアナの校長と仲が良い近衛門ならではだろう。
今回引率で事後処理に一番苦労したのは言わずもがな、魔法協会にも呪術協会にも関わりのある葛葉先生であった。
双方の勢力から挟まれて、かつ間をつなぐ伝令もしていたのだからさぞストレスが貯まった事だろうと思う。
しかもすぐに自分の授業をまた始めなくてはいけないのだから教職でもある先生は大変だ。

さて、出来事はこれだけには留まらない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

修学旅行から戻り落ち着いて5月に入った頃、神楽坂明日菜の事である。
同室3人共が魔法関係者になった事で裏関連の会話に自重が外れた面があり、神楽坂明日菜はネギ少年を無性に心配し始めしつこく話かけるようになった。
ネギ少年は仕方ないという事で自分に深く関わるといかに危険な問題に巻き込まれる可能性があるかについて説明するつもりで、孫娘もまとめて夢見の魔法を使ったのだった。
内容は6年前のネギ少年の幼少の頃から村が滅ぶまでのもので、自分がいつか父親を見つけ出す事、修学旅行で戦ったヘルマンが言っていた黒幕を探し出さないといけない事について話して聞かせてこれで大丈夫だろうと思ったのだが……逆効果だった。
どうもナギの姿とネギ少年の姿が被って仕方が無いのか「ネギ一人でやるなんて危ないことはさせられないわ、私も協力する!」と何を思ったかそんな事を言い出して大変だった。
折角数年前にタカミチ少年が本来やりたくもない記憶封印の処理をしてまで日常生活をさせていたにも関わらず、曖昧なビジョンの影響なのか、もう怒涛の勢いで魔法関係に向かって突っ込んでいくという様相を呈していた。
はっきり言って不自然でしかないのだが、その後彼女はタカミチ少年と近衛門に学園長室に呼ばれとうとう話をすることになった。
しかし「どうしても私も何かしないと駄目な気がするんです!」とそれが運命だとでも言いたいような発言をして二人を困らせ、しまいには「大丈夫!」という根拠がないが何故か信じてみたくなるオーラを出して驚かせ、どっちにしろ何言ってもだめそうだし、記憶も消せないという事で二人は、今すぐ問題になる訳でもないので何をするのかはともかく鍛錬をすることには許可をしたのだった。
その許可を得た神楽坂明日菜はネギ少年を守れるぐらい強くなる事が目標になったらしく、ネギ少年に鍛錬することに決めた事も伝えた。
そもそもなんで鍛錬するのかというと、自分の身体能力の高さには自覚があるのでそれならできそうという事らしい。
ネギ少年は神楽坂明日菜の底抜けに前向きな勢いに押されて、真剣な雰囲気に一気に変わりエヴァンジェリンお嬢さんの別荘に彼女を連れて行くという行動に出た。

「で、ぼーや、神楽坂明日菜を連れてきて何をするつもりなんだ」

「マスター、少し場所をお借りします。アスナさん、アスナさんの言葉は嬉しいですが僕はアスナさんがどこまで本気なのか分かりません。ただ鍛錬するというなら止めはしませんが、魔法関連に関わるというのなら覚悟を見せてください」

「私は本気よ!ネギ、その覚悟っていうのはここに連れてきたからには戦って見せればいいの?」

「僕はアスナさんと戦うなんて嫌ですけど、こうしましょう。僕にどういう形でも一本入れて見せてください。時間は限定しません」

「ネギ、あんた偉そうなこと言うようになったわね。いいわよ。やってやるわ!」

俄然やる気の神楽坂明日菜である。

「ほう、ぼーやが神楽坂明日菜を試すというのか。お前達の問題だから私が口出しをする気はないが、どういうつもりだ。結果はみえているだろう」

「コタロー君やくーふぇさん、超さんとで得た経験ですが、こうしてぶつかった方が相手の考えている事が素直にわかると思うんです!」

「なるほどな、神楽坂明日菜、せいぜいぼーやにお前の想いを伝えると良い」

「なんか良くわからないけど、分かったわ!行くわよネギ!」

「どこからでもどうぞ!」

こうして始まったネギ少年と神楽坂明日菜の模擬戦であったが、ネギ少年は戦いの歌も使わないただの魔分による身体強化のみで彼女を圧倒した。
当然といえば当然の結果ではあるが、合気柔術で覚えた技で受け流したり、投げ技で対応し続けた。
すぐ諦めるかと思われたが、1時間を経過してもなお続ける神楽坂明日菜にエヴァンジェリンお嬢さんは見ているのも飽きて城に戻っていった。
続けて観察していようと思った矢先。

《茶々円、見ているなら返事しろ》

勘がいいな……。

《あー、はい見てますよ。お嬢さん》

《聞いてなかったが、修学旅行で出たという白髪の小僧と神楽坂明日菜には何か関係があるのか》

《……お嬢さんならマズイ事は口にしないと思いますが正直に言った方がいいですか》

《当たり前だろう。嘘を教えられてもたまったものじゃない》

まあ嘘付くわけじゃないけど情報を小出しにすると誤解ぐらいは生まれるだろうな。

《白髪の子供は魔法世界の前大戦の黒幕、完全なる世界の強力な残党の一人です。広域魔力消失現象と魔法無効化能力、そしてタカミチ少年が数年前に彼女を連れてきたというのでなんとなくわかりますか?》

これは……言い過ぎだろうか。

《……おい……そんな事今まで隠していたのか》

隠していたつもりなんか全く無いんですけどね……そもそも言う必要もないですよ。

《隠していたというか麻帆良にはそんな秘密があちこち埋もれてますから今更ですよ。全部話したらキリが無いですし》

サヨは初めての自己紹介の時に少し何か感じたようだけど、ネギ少年のクラスには今の今まで全く目立ってないけどとんでもないのが混ざっているし。

《はぁ……分かった。たまたま修学旅行がそのきっかけだったというだけか。茶々円の話からすると神楽坂明日菜は黄昏の姫巫女なんだな?》

《そういう事です》

《あのクラスはおかしな奴が多いとは思っていたがじじぃも大概だな。……それでフェイトとやらは今後神楽坂明日菜を狙ってくる可能性があるのか》

《絶対とは言えませんがその可能性が無いという方が少ないでしょう》

《……そうか。神楽坂明日菜がぼーやにやたらと構う理由はナギに姿を重ねているという所か》

《よく分かりますね》

《あんな自分でも理解できていないような不自然な動機でこちらに顔を突っ込むのだから今の話と合わせてもそうとしか考えられないだろう》

《説明の手間が省けました》

《あー、またここに入り浸る奴が増えそうだな》

《まだまだ増えそうですけどね》

《古菲あたりか……》

忍者あたりも怪しいが。

《朝倉和美や早乙女ハルナに入り込まれたら始末に終えないので気をつけてください》

《奴らは確かにまずいな、入られたら問答無用で記憶を消してやるか》

なかなかの強硬手段だが、あの辺りは際限が無さそうなので別にいいと思う。

《それはお好きにどうぞ。特にアーティファクトの事がバレると碌なことにならないでしょうね》

《それはこのかを見てなんとなくわかるさ。まあ火種になるオコジョは今はどこかに行っているし問題ないだろう》

そう言えば妖精の事忘れてたわ。

《彼どうなってるんでしょうかね》

《さてな、ハードボイルドがどうとか言ってノリノリだったが知らん》

漢の中の漢ってそういうものなのだろうか。
妖精は良くわからない。

《ただでは死ななそうですし大丈夫でしょう》

《死んでも構わんがな。アーティファクトと言えば神楽坂明日菜は魔法無効化系の魔法具でも出そうだな》

さらりとひどいこと言ったな……。
アーティファクトについてはまあその辺は予想できるか。

《叩けば召喚生物は一発のアイテムでも出そうですね》

《まあぼーやと仮契約なんてやるかどうかも分からんがいずれにせよ先の話だ》

《そんな事を言うからには彼女も育てるつもりなんですか?》

《下手に外で目立たれてもかなわん。大体ぼーやがいるところについてくるんだから付き物みたいなものだろう》

《なら一つお教えしますが、彼女は咸卦法が使えます。忘れてますけどね》

《は?何だと?》

《小太郎君とは違い自力で発動できる筈ですから凄いですよ》

《何でそんな事まで知ってるんだ》

《知っているものは知っているんです。クウネル殿にも聞いてみたらどうですか?》

《……お前達性格悪いな》

《クウネル殿には負けますよ》

《もういい……。しかし咸卦法が使えるという事は他の技術もすぐに習得できる可能性が高いな。面白い、鍛えても無駄かと思えば意外と脈はあるようだな。剣でも持たせてチャチャゼロに相手でもさせるか》

あれーやたら都合良いんだけどどうなってるんだろう。
……気にしたら負けか。

《それでは私はこれで失礼します》

《どうせ見ているんだろう?》

《まあ、そうですね》

エヴァンジェリンお嬢さんとの会話も終わったところで、ネギ少年達はというと……。
そのまま2時間が経過するかという状態に入ったのだった。

「アスナさんッ!どうしてそこまで頑張れるんですかッ!」

何度膝をついても尚、すぐに起き上がりながら。

「はぁ……はぁ……そんなの……私にもよくわからないけど、諦められないのよ!それにネギだっていつも……頑張ってるじゃない!」

「説明になってないですよ!アスナさん!…………あれ……なんで涙が出てくるんでしょうか……」

「どうして泣き出すのよ!私が泣きたいぐらいよ!もう……やだ、私も何か涙が出てきたじゃない」

熱い汗と涙の青春とは大分状況が違うが涙が止まらなくなった二人だった。
勝手に目元から流出し続ける涙がようやく落ち着いたところ。

「……理由はともかくアスナさんの気持ちはわかった気がします。ありがとうございます、アスナさん」

「……なんでお礼するのよ」

「アスナさんからはどこまでも優しさしか伝わってこないんです。だから……ありがとうございます」

「……優しさ?もう……よく分かんないけどネギが何かわかったならそれでいいわ。にしてもどれだけ強くなってるのよ、10歳の子供癖に」

「年は関係ないですよ、僕は僕の道を進むだけです」

「全く……そんな事言う割には心配でみてられないんだから、このっ」

ネギ少年の頭の上に手を置いて雑ながらも姉のような態度で撫でるのだった。

「アスナさん、ちょっと痛いですよ」

「私がさっきどれだけ痛い思いしたと思ってんのよ!」

「ちゃんと調節してたんですよ!それに大体アスナさんが……」

何かいい空気になったかと思ったらすぐに言い合いが始まるあたりは変わらない二人だった。
そんなギャーギャー言ってる所にエヴァンジェリンお嬢さんが戻ってきた。

「何やってるんだお前達……神楽坂明日菜、随分ボロボロじゃないか。私も一応治癒魔法は使えるから手当してやる。それで話はついたのか?」

「えっ!?ホント?」

「マスター、話がついたとは言えないですけど、アスナさんが一生懸命だっていうのは分かりました」

「拳で語り合うなんて本当にやるとはな……。ほら、傷を見せろ」

お嬢さんは手で招いて近くに中学生を寄せた。

「あ、お願いします」

―治癒―

「はぁ……神楽坂明日菜、お前は自分の特殊体質を理解しているか?」

「……石化魔法だっけ?あれが効かなかったと思ったらあの白髪の子供に攫われかけた事?それってそんなに重大なの?」

「あの小僧はかなり手強い。それを攫おうとするのだから重要なんだろうさ」

「アスナさん……やっぱり危ないですよ」

「ネギ!さっき分かったっていったばっかりじゃない!」

「おい、暴れるな……」

「ご、ごめんなさい」

「ぼーやは心配だろうが自衛手段ぐらい持っていてもいいだろう。刹那にでも剣を習うといい」

「刹那さんに剣を?」

「そうだ。古菲のように武術を学びたいならそれでもいいがな。一応説明しておくが刹那の京都神鳴流は武器を選ばんから素手でも戦えるぞ」

「そうなの!?刹那さんならこのかと最近仲いいし頼んでみようかな」

「マスターどうしてそんなに積極的に?」

「何、ただの気まぐれさ。それにぼーやも神楽坂明日菜が一般人とは思えない身体能力をしているのは分かっているだろう?」

「それは僕も何度も見ているので分かります」

「え?私そんなに変じゃないわよ!」

「アスナさん、自動車と同じ速度で走れるのは普通じゃないですよ」

「普通は綱引きで一人が引っ張っただけで勝敗はつかんだろう」

「ぐ……私普通じゃなかったの……」

「いいじゃないか、それだけ見込みがあるという事さ」

「確かにアスナさん凄いですね!」

「今更何褒めてんのよネギ!何も出ないわよ!」

「痛いですよ!手が出てるじゃないですか!」

「そういう事を言ってんじゃないわよ!」

「そういうところは子供だな……」

そんなこんなで話がなかなか進まない空間が広がっていたが、神楽坂明日菜は桜咲刹那に剣術諸々を教えてもらう事をとりあえず勝手に決めたのだった。
とうぜん2時間程度しか経っていなかったのでその後ネギ少年とエヴァンジェリンお嬢さんの模擬戦を神楽坂明日菜は見ることになったがやはり驚きの連続だった。
とにかく動きが速すぎるから仕方はないのであるが割とすぐに目が慣れたあたりやはりどうかしていると思う。
流石に咸卦法をいきなり試させようということにはならなかったがそのうちそんな事もあるのかもしれない。
しかし、何はともあれお嬢さんの懐の広さというものがなんとなくわかる。

その後すぐ神楽坂明日菜から直接鍛えて欲しいと頼まれた桜咲刹那は当初良くわからない風だったが、お嬢さんの元に出向いた時に話を聞かされ「はぁ……そうですか。わかりました。私もまだまだ修行中の身ですがそれで良ければ」と律儀なのは変わらなかった。

他の面々は一体どうなっているかだが、古菲はフェイトにボッコボコにされた経験から武術の修行に何か物足りなさを感じていたところ、忍者の凄さを見た事から小太郎君もついていく山篭りの修行に「私も行くアル!」と忍者の部屋に張り付いて離れず、山篭りの人数が増えた。
気の扱いに関しては驚くほどエキスパートである忍者からは古菲も小太郎君も学ぶことがまだまだ多いようだ。
特に瞬動術は古菲にはかなり役立ったらしい。
しかしその後麻帆良郊外の岩山が砕け散る現象がそこかしこで観測されるようになったのだが自重して欲しい。
程なくしてたまにお嬢さんの魔法球にも混ざるようにもなるのだがそれはまた別の話である。

さて、図書館探検部の綾瀬夕映と宮崎のどかはどうかというとかなり迷っていた。
宮崎のどかは前から、綾瀬夕映は2年の期末テストの一件から地味に綾瀬夕映もその気はあったようだが、修学旅行の一件でネギ少年の千の雷での派手な登場からの活躍を見てしまい何か憧れのようなものとネギ少年がどこか遠く離れた存在のように感じられたようだ。
それと魔法に興味が尽きなくて仕方ないらしい。
地球での魔法を行使することを可能にしている神木の精霊である私としては精霊冥利に尽きるというかそんな感じなのだが、そんな事は露知らず意を決した二人は5月も半ばという頃ネギ少年の部屋に訪れたのだった。
部屋のインターホンを鳴らして出てきたのは神楽坂明日菜だったが。

「あれ、夕映ちゃんに本屋ちゃんじゃない。どうしたの?」

「ネギ先生に話があって来たのですが上がらせてもらってもいいですか?」

「いいわよ。いらっしゃい」

「失礼するです」

「失礼します」

「ゆえ、のどかいらっしゃい。どうしたん?」

「あれ、のどかさんに夕映さん、こんばんは。話というのは何ですか」

「あ……あの!私達に魔法を教えて欲しいのです!」

と、勇気を振り絞って言ったのだった。
いや、これが魔法がない世界だったら本当に痛い発言なのだが、実際使えるのだから真面目な話である。
ネギ少年にしてみれば折角なんとか納得できた神楽坂明日菜に引き続き、更に二人、しかも取り柄は図書館探検部で何気に鍛えている体力あたりぐらいが評価できる人物の登場である。
そこでネギ少年はなんとかして魔法に関わろうとするのを思いとどまらせようと危険性を説いて聞かせていたのだが、恋する中学生は手ごわかった。
しかも近衛門に色々言い聞かせられている筈の孫娘は応援したくなったのか火よ灯れぐらい挑戦してもいいのではないかとか言い出した。
更に神楽坂明日菜は「なんとかなるわ、大丈夫よ」と自分がゴリ押しした経験から二人に割と肯定的だったのはネギ少年にとっては刺客でしかなかった。
結局考えさせて欲しいと一旦何とか二人を部屋に帰したネギ少年だったがつい最近まで佐々木まき絵の新体操部の夏の大会の選抜テストの為に朝一緒に特訓に付き合ったりもしていたというのに次から次へと問題が尽きず苦労している。
就労制限どころか勤務時間外も忙しすぎて半端ではない。
次の日ネギ少年はエヴァンジェリンお嬢さんにその出来事について話し、お嬢さんはひどく苦い顔をしたが、ご自分もナギに惚れた経験からなんとなく絶対ダメとは言えず「好きにしろ」で終わったのだった。
こればっかりは数百年出会いに恵まれなかったお嬢さんにとっては仕方がないかもしれない。
ネギ少年は魔法のことが他人にバレたらオコジョになるというのは忘れたことは無かったが、順調に裏の関係を知る人物が3-Aに増えていく事に疑問を感じざるを得ず、自分のどこに問題があるか真剣に悩んだりもした。
修学旅行が不可抗力だったから仕方ないとは言え悩ましい問題である。
結局折れに折れて「他のクラスの人にバレたらそこで終わりにします。それでいいですか」という条件を付けた上で手持ちの初心者用の短い杖を二人に渡し、火よ灯れ、物を動かす魔法、未来を占う魔法の魔法学校に入ったら必ず習う最初の基本的な魔法の練習法について教えたのだった。
その際孫娘が実演してみせたのは二人のやる気を大変上げたのであるが、あんまり自慢すると近衛門に言いつけますよ。
本当に心配なのは度々二人の部屋に強引に突入する早乙女ハルナただ一人であるがかなりの強敵である。
ラブ臭という迷惑千万なセンサーが搭載されている彼女はまるで地雷でも探し当てるダウジングマシンか何かのようだ。
結局一番厄介なのが身近な人間とは皮肉なものであるが、約束したからには何としてでも二人は頑張るようだ。

修学旅行に端を発したゴタゴタは大体こんなものである。
一方この間超鈴音はというと自分のやるべき事を着々と進行させていた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いや~魔法球を2年前と同じようにまほネットで個人情報を適当に偽造して注文し、届く荷物としては地球の普通の家具として来るように手配したのだが、5つとなると部屋のスペース的に邪魔で仕方が無かたヨ。
流石に20億近くかかたのは怪しまれる事請け合いだから近いうちに記録を改竄しておいた方がいいだろうネ。
届いたのは修学旅行から帰てきてすぐの5月の頭だたが丁度間に合いそうだナ。
早速田中サンにエヴァンジェリンの家まで運搬をお願いしておいたが届いた筈ネ。
一応付属した手紙に詳細を書いておいたから大丈夫だとは思うヨ。
科学迷宮用の敷設ワイヤーも龍宮神社の周りを囲うだけの長さも取れそうだし、端末の数も余りそうなぐらいには用意したネ。
後はメインの総合管理用のプログラムとスクリーン等が必要だナ。
ネットワークはSNSの特設コミュニティで間に合わせればいいしネ。
SNSと言えばとうとうアメリカでの導入も完了し世界規模で運用がスタートし始め、今まで主要な使用言語が日本語が多かたが英語の使用率が急速に伸び始めたヨ。
学園長からの話だと参加者数はかなりの数に登るようで、京都神鳴流の宗家も来ると聞いているのだが最強の剣客集団が参加とはこれは主催者としての腕がなるネ。
刹那サンにとては最高峰の技を見るのにいい機会になるのではないかナ。
まほら武道会の準備はこの通り順調に進んでいるヨ。

今はDNA鑑定の真最中ネ。
修学旅行で手に入れたネカネサンの髪の毛と明日菜サンの髪の毛とネギ坊主の髪の毛の比較の結果がそろそろ出るヨ。
教室では私のすぐ後ろの席に明日菜サンは座ているから髪の毛は簡単に採取できたネ。
結果はどうかナ……。
これは……。

《翆坊主、さよ、DNA鑑定の結果が出たヨ》

《おお……何かマズい気がしますがどうだったんですか?》

《ドキドキしますね》

《簡単に言えば三人共親戚だたヨ》

《あーまあ似てますからね》

《えっ、ってことはネギ先生達は神楽坂さんの家族みたいなものなんですか?》

《ここからが怖いところなのだが、遺伝的には明日菜サンが一番古いようネ》

《それは……神楽坂明日菜が先祖という事になりますね……》

《えええええ!?》

《当然私も遠い親戚ということになるのだが、流石に私まで来るともう関係は薄いネ。実に歴史的価値ある資料を手に入れた気がするのだがとてもではないが公表できないナ》

《もしかしたらとは思っていましたが、本当に魔法世界の尻拭いをしているだけなのかもしれませんね……》

《始まりの魔法使い、アマテルという女の人だたという伝説だがどうなのだろうナ》

《残念ながらその情報は私も把握していない上、2600年前のローマ帝国は観測していないので謎ばかりです。それに彼女が実在したとしてもたった一人だけ魔法使いだった訳ではないでしょうし》

《ふむ、そうだネ》

《しかし、ある意味髪の毛の色である程度判断できましたね》

《キノ、どういう事ですか?》

《明日菜サンは黄昏の姫巫女というその名の通り黄昏時つまり美しい夕焼けの髪の色をしていると言いたいのかナ?》

《そういう事です。髪の色の濃さから言っても神楽坂明日菜の方が上代の存在である証明になります》

《……なるほど、だからネカネさんは金髪に近くなって少し薄いんですか。いいんちょさんにも似てるのは遠縁だったりするんですかね?》

《大体予想できるが多分その可能性は高いナ》

《大方神楽坂明日菜の身体能力が異常に高い理由も血が濃いからで説明できそうですね》

《生ける化石みたいなものだネ》

《神楽坂さんって実は私よりお年寄りなんですね……》

《多分長期間封印されていたと考えるのが正しいヨ》

《……やっぱり触れない方が良かった部分でしたね》

《……そうだナ。でも一応明日菜サンがネギ坊主に構う理由は子孫を守るという本能だと分析できるヨ》

《本人が理解していないにも関わらず勝手に身体が動くのは確かに本能ですね》

《何だか複雑なのに私達3-Aと合わさるともう、混沌としてる気がします……》

《3-Aだからこそ混ざていられるとも考えられるヨ。報告はこれで終わりネ》

《興味深い事が分かりました。そういえば警察から表彰状を授与される日取りが決まったそうですね》

その話カ。

《……思い出したくなかたのだが、出たくないヨ》

《私達ハッキング普通にしてますもんね》

それは主にまほネットの方ネ。

《確実に新聞に乗りそうなのだがどう回避したものカ……》

《超鈴音、髪型から色々変えるのはどうですか?》

うむ、一応パッと見は変わるナ。

《鈴音さんのお団子下ろして出るだけでも大分印象違うと思いますよ!》

《ふむ、後はハカセから度の強い眼鏡でも借りるとするかナ》

《突然仮装とは有名になると大変ですね》

《命が懸かているからやるしかないヨ》

6月頭にその予定らしいがやはり遠慮したいネ……。
折角ダイヤモンド半導体も完成したというのに気分は微妙だヨ。



[21907] 32話 まほら武道会要綱
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/06 20:07
気がつけば3-Aの中でも裏及び魔法関係に関わっている人数が15人もいるという状況になっていますが、これからも増えていくかどうかは謎です。
少なくともネギ先生が油断して直接バラしてしまったのは神楽坂さんただ1人だけです。
いいんちょさんなんかは魔法球に勝手に入ってきたのが悪いですしね。
そういう訳で新たに裏に関わった人達の生活もそこそこに始まり5月26日に今年最初の中間テストがありましたが相変わらず4位までは独占しているのは変わりありません。
神楽坂さんの順位は前回よりも更に上がっているようで、きっちり高畑先生に時間を取ってもらう約束は継続中です。
当たり障りの無い会話をしただけかと思えば、裏に関わっただけあってその話も少ししたみたいですが、高畑先生は神楽坂さんが咸卦法がどうとか言い出した為冷や汗をかいていたそうです。
そして6月2日新聞に普段とは違う姿の鈴音さんが新聞の紙面にそこまで大きくはないですが写真が載りました。

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埼玉県警まで出向くことになて、出発する前に予め雪広グループとも打ち合わせをしてできるだけ普段の格好とは異なるような化粧に始まり変装を頼んだヨ。
髪はさよに言われたとおり下ろした状態にして、いつもは全然考えていない化粧もして目の周りも原型が残らないようにし、眼鏡をかけて準備万端となたネ。
西川サンが言うにはその方が美人に見える等と言われたが違和感があるから微妙だヨ。
麻帆良の外にある埼玉県警まで厳重な警備の元移動はうまくいたが、逆に目立ちすぎたとしか思えないネ。
報道関係者が大量に待機しているものだから雪広のエージェントを突破してマイクが飛び出たりシャッターが切られたりと有名人になるのは私は御免だヨ。
署の中に入た後も署内の職員の人が皆見てくるから手早く移動を済ませ、ようやく署長室に到着したネ。
12月に会て以来の篠田本部長以下見た人達が勢揃いしていたが、最初入た時「お嬢さんはどなたかな?」と聞かれたが「超鈴音です、篠田本部長。この度はお招きいただきありがとうございます」と答えておいたヨ。
そしたら「眼鏡は伊達だと思うがとても良く似合っていますね」と褒めてくれたのは慣例だと思いたいナ。
そもそも、表彰状、私の場合は民間人だから感謝状という事になるのだが、功績としては三次元映像関係の技術の開発によって犯罪率が激減、残った映像が証拠としてフルに機能するなど、世間の役に立つ働きをしたからという事ネ。
三次元映像撮影機を開発したのにも関わらず、感謝状の授与の際に取られる写真やら映像は一般的なもので行うというのは少々おかしいと思うヨ。

乗り気では無かたもののその後は流れ作業だたから打ち合わせ通りに感謝状を受け取て、その瞬間をきちんと写真に納められ、鉄警隊の根岸管理官やら科捜研の榊原所長に絶賛され、挨拶を交わしたネ。
相当効果があたようでこれなら私もニアオーバーテクノロジーを放出した甲斐があたナ。
そこでまた私が構築したSNSの件についても言及されたが、違法コンテンツに関しては巡回プログラムに即座に潰されるようになていて健全性について評価を受けたヨ。
多分この振りは、サイバー犯罪も近年増加傾向にあるから、これだけの技術を持ているのだから協力して欲しいと暗に言ているのだろうナ。
好きなことだけやていればそれでいいという程完全に自由な環境から離れていくのも近いかもしれないネ。
結構気になていたのは私は一応中国からの留学生という事になている上、戸籍は偽造だから、その辺りの追求が一切無いのは何かうすら寒いものを感じるが雪広が手を回したのだと信じたいヨ。

無駄に肩の凝る空間から解放されたと思えば翌日予想していた通り朝刊に変装した写真が載ていたヨ。
学校に行くために女子寮を出た瞬間麻帆良の独自メディアが大量に待機していてあしらうのに苦労したと思えば、学校につけば皆からは「新聞は白黒だけどあの写真の超りん綺麗だったね」とまた褒められるし、極めつけはネギ坊主も「超さん凄いです!写真も綺麗でした!たまに髪下ろすのもいいと思いますよ!」と満面の笑顔で言われたのだが私のご先祖様にも困たものネ。

恥ずかしいイベントもあたが、これから20日までの学園祭に向けて本格的に準備をしなければいけないし、また3-Aの皆の事だとアホな案ばかり出して決まるまでにかなり揉める筈ネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今年の麻帆良祭の3-Aの出し物は決定までに難航を極めています……。
金儲けに皆走り始めたため今年は喫茶店関係から出し物が出始めましたが1年の時に似たような事やってますし、段々破廉恥な出し物でふざけ始めた極めつけにはあの那波さんが「素直にノーパン喫茶でいいんじゃないかしら?」ってそれ昔の風俗業の店ですよ!
私達、いえ私は幽霊でしたけど88、89年代生まれで知っているということは実は年齢詐称疑わ!?
マズイです!
とんでも無く黒い気配を感じるんですが右後方を直視したら成仏する気がします!
私そんな変な事考えてません!
どちらかというと私が年齢詐称してました、ごめんなさい!

……結局この日は決まらずネギ先生が全然まとめられなかったとショックを受けていましたが先生のせいではないですから元気だしてください。
そういう時に五月さんの常駐する超包子によくネギ先生はよく寄るのですが、今回も同じで偶然来ていた新田先生の隣の席に座り3-Aについての悩みを吐き出していました。
10歳にしてそんな心労がたまるなんて麻帆良は本当におかしいですね。
私も店員として丁度働いていたのでネギ先生に声をかけておきました。

「ネギ先生、3-Aの出し物今日は決まりませんでしたけど気にしないで大丈夫ですよ」

「え?相坂さん、でももうそろそろ他のクラスは準備始めてますよね?」

「そうなんですけど、大体いつもA組はギリギリまで出し物が決まりません。でも決まる前兆があって絶対にありえない出し物が案に出た後次の日ぐらいに皆一致団結してあっという間に決まるんです!だから安心して下さい!今日決まらなかったのは先生のせいじゃないですよ」

「ほ、本当ですか!?うわー、未だに皆さんについていけない時があって困ります。僕もう少し皆さんの事が理解できるように頑張ります。相坂さん、ありがとうございます!」

3-Aの事を完全に理解してしまったら麻帆良の外で逆にやっていけないと思いますから頑張らなくていいですよ。

「どういたしまして。ネギ先生も五月さんの料理で元気つけてくださいね」

「はい!いつも美味しく食べさせて貰ってます!」

やっぱりネギ先生は元気なのが一番ですね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会に向けてネギ少年、小太郎君、話を去年のウルティマホラでサヨからその存在を聞かされていた忍者を始めとし、古菲、桜咲刹那、まだ1ヶ月と少し程度しか鍛錬していない神楽坂明日菜は日々精進し続けている。
そして超鈴音と直接交渉された龍宮神社のお嬢さん……は特に元々生粋のスナイパーなのでその場で出場するようだが、とうとう6月6日、裏のルートで公式要綱が発表され各所に通達されたのだった。
無事に3-Aで揉めた出し物の内容もお化け屋敷に決定したその当日6月7日、丁度麻帆良祭から2週間前の事である。

まず主催者と協賛の内訳が超鈴音であったことに、彼女を知る一部の人達は大いに驚いた。
麻帆良学園そのものと雪広グループによる協賛がされていていかに一大イベントであるのかがわかる。
そのまほら武道会のやる気の凄さを表すものの一つとして、出場者登録をする選手及びその付添は雪広グループ提供で宿泊施設の3日間の無料使用権が与えられているのだ。
そう、一日で終わりなどではなく三日間行われる知る人ぞ知る極秘の大会になった。
近衛門が流した情報の範囲は広く、西に関西呪術協会、京都神鳴流、忍の里、東に関東魔法協会そして各地の独自流派で気を扱う道場関係者、個人的に知っている使い手等にあまねく知らされるという徹底ぶりだった。
当然、誰にも見せられず秘匿しなければいけという事で出場できない方々も多いであろうが。
その中には例のひなた荘の住人関係者も含まれていた。
東京大学法学部1年青山素子、同大3年の浦島兄とその妹、瀬田夫妻と見た感じ謎ではあるが、その実、神鳴流宗家最強一角の使い手、それの鍛錬に付き合っていたり武術を嗜んでいたらやたら強くなっている上に不死身のような身体をしている浦島兄、忍者かと思えるようなその妹、中国武術で達人レベルの夫婦と麻帆良並に濃い。
出場予定の人は予め麻帆良学園の特別窓口に連絡先の住所を申請する必要があり、その後順次専用端末が配達されるという仕組みだ。
選手登録者にとってはそれが龍宮神社へ入るための許可証となる。
付き添いの人物は選手が端末で人数を申請しておけばしっかり宿泊施設を利用できるし、専用の出入り可能になるチケットが間もなく届く。
そういう事で一応遠隔地に住む裏と関わりのある人間も参加がしやすい仕組みになっている。

超鈴音が復活させるまほら武道会であるが、まず龍宮神社の一帯の完全貸切+周囲に特殊科学迷宮ワイヤー敷設が対一般人工作の第一段階で、これを突破するためには前述の端末かチケットが必要である。
次にエヴァンジェリンお嬢さん完全監修の元調整が加えられた超特殊魔法球5つが舞台として用意されており、その性能は時間の流れを等倍から最大5倍まで自由に変更ができ、かつ短時間で出入りを可能にする事ができる上、外部からの観戦が可能というものだ。
はっきり言って凄過ぎる。
後でお嬢さんから聞いたことだが、一部精霊化してから魔法球をいじるのはこれが始めてだったらしく、5%分魔分が無限なので、時間を24倍までにはしない代わりにかなりありえない性能にできてしまったらしい。
魔法球というよりもう既にただのブラックボックスである。
それを龍宮神社会場内の巨大スクリーンで等倍速で試合が行われるものについては映像が映し出され、倍速で行われている試合を見たい人は夢見の魔法で覗けるし、それができなくても全ての試合を後から端末で映像を見られるという機能までついている。
当然その魔法球と全般的システムが異常すぎる事自体を認識阻害する魔法が龍宮神社全体にかけられるのは抜かり無いようだ。
更に、ウルティマホラでも効果を発揮した、魔分溜りを利用した回復術式の調整を骨折だろうと治るレベルまでに高めたものが用意されているので棄権で出場できなくなるという事が起きないようにという配慮もなされているがこれは流石に要綱には記載されてはいない。

大会の試合形式であるが、これも端末をフルに使ったハイテクなものとなっている。
何やら方式名は長ったらしいが、ポイント獲得型ランダムリーグ方式という正直良くわからないものである。
とにかくトーナメントではなく、ランダムな擬似総当り形式で、勝敗によって選手の持ち点が増加して行き、その総合ポイントで順位を決めるというものらしい。
ランダムとはどういう事かといえば、試合を組む前段階で端末に表示される選手登録者一覧から各選手は対戦してみたい相手を優先度順に5人まで申請する事で、その際に集計された結果から人気度順に倍率がズラリとランキング化される。
この倍率こそがポイント獲得の鍵になるのだが、例えば係数が3倍に設定されている選手に勝てば自分の持ち点が3倍になる。
負ければ相手のポイントが無条件2倍になるだけで対戦を申請した選手の得点には影響はない。
次に改めてそのランキングを参考にした上で対戦相手の申請を同じく5人まで行い対戦相手がプログラムに従って確定される。
当然被ることがあれば抽選が行われるが、何度も高い優先度で申請を重ねていけばその分申請が通る確率が上がる仕組みになっている。
5人目まで申請した相手が全滅だった場合は完全にランダムになるがそれは止むを得ない。
ただ、一定以上倍率が高い選手側には対戦相手の申請権が無くなるので基本的には挑戦を受ける側に徹する事になる。
それとは別に彼らには対戦相手の確定個別指名権が与えられるので、例えばタカミチ少年の人気が高くなったとしても、タカミチ少年が権利を行使さえすればネギ少年との対戦が別個成立するので問題ない。

以後これを3日間、午前10時から午後6時まで何度も繰り返すことで持ち点がどんどんインフレしていき最終的な得点を争う訳だが、太っ腹な事にそれが賞金に繋がるらしいのでインセンティブとしてもなかなかのものだと思う。
賞金の出元は主に超鈴音の自費が大半を占めるだろうが……。
また、完全貸切という事から大会と関係なしに選手同士で直接交渉するなりなんなりして午後6時以降に勝手に試合を行うことも可能であるので、大会というより技の祭典というものに近いと思う。

3日間と言っても当然途中でリタイアしても構わない制度になっているし、試合時間も申請しておけば、双方の都合が合う時間になるようにできるだけうまく自動的に決定され端末に試合時間一覧がズラリと並ぶようになっているので自由度が高い。
その為途中で龍宮神社から出てまほら祭を楽しめるようにもできている。
恐らく選手は100人ぐらいになると思われるが、そうなる場合大体1日に選手一人あたり4試合程度までが目安となるので最大で試合の間隔は4時間程度あり、十分麻帆良祭自体を楽しむ事ができると思われる。
リーグ方式と言っても全ての総当り戦を行う訳ではないので1200試合ぐらいが限界だろう。
それでも十分おかしい試合数ではあるが。
3日目が終わった段階で端末のデータは自動で全て削除されるようになっているのでそのあたりも抜かりはないらしい。

試合そのもののルールであるが、基本的には飛び道具や刃物は禁止で木刀や投石については可で呪文詠唱は禁止(広範囲魔法は武道会に即していないから)但し技名は可である。
その他に真剣勝負を行う事も双方の同意があれば可能となるが寸止めは絶対条件となる。
舞台は15m×15mで制限時間は15分、10カウントのリングアウト及び気絶で敗北、ギブアップ有り。
判定は茶々丸姉さんの妹達による厳正な科学判定とそれぞれに人間の審判が5人付くことになっているが基本的に雪広グループのエージェントであったり、麻帆良学園の先生だったりする予定だ。
舞台はいくら破壊しても構わないように土でできており、修繕は苗字さんシリーズのロボット達が活躍するそうだ。
ここまで来ると昔の原型を止めていない気がするが、どれだけ超鈴音はまほら武道会に思い入れがあるんだろうと不思議でならないが、原動力というのは凄いものだ。

そして現在、ネギ少年の部屋がカオスになっている。
原因は主催者が超鈴音であることに起因している。

「皆明日菜サンの部屋に集まてくれたようだが大分狭いネ」

部屋に集まっている人はネギ少年、神楽坂明日菜、孫娘、桜咲刹那、古菲、忍者、龍宮神社のお嬢さん、サヨ、そして超鈴音、計9人である。

「あの、超さんと相坂さんは裏……の事をしっているんですか?」

因みにサヨと春日美空は修学旅行でのゴタゴタの際にネギ少年には見られていない。

「そうだヨ、ネギ坊主。驚いたかナ?でも私は茶々丸の開発に携わているのだから不思議では無いだろう?」

「私の部屋三人は大分前から事情があってその辺の事を知っていたんですよ」

「そうか……茶々丸さんってガイノイドだったんですよね」

「どうして知ている等と聞かれても困るから単刀直入に聞くが、ここにいる皆はこのかサンは除くとしてもまほら武道会には出てくれるのかナ?」

「こんな面白そうなの出るに決まているアルよ!」

「古はそう言うと思ていたネ。刹那サンも出るといいネ。京都神鳴流の宗家の人が来るヨ」

「ええええっ!?宗家の方がいらっしゃるんですか!?」

黙っていたところ突然の振りに驚きに驚いている桜咲刹那である。

「ここで敬語を使ても仕方がないヨ、刹那サン」

「ハッ……そうですね。いえ、宗家の方がいらっしゃるというのであればこの私も是非研鑽の為に参加したいと思います」

「せっちゃん、そんなに宗家の人って凄いん?」

「お嬢様、凄いどころではないですよ!もう、何といいますか、こう、ああ……うまく言い表せません」

「刹那サン、落ち着くネ。楓サンは前にもさよが少し話した事があたと思うがどうかナ?」

「拙者も修行ばかりでござったが、力を見せても構わぬ大会があるならば出場するでござるよ」

「ありがとネ」

「超、私も興味があるから出させてもらうよ。一応場所を提供しているしな」

「私もまだ1月ちょっとぐらいだけど出てみるわ!」

「アスナさんも!?ぼ、僕も絶対出ます!」

「鈴音さん、全員出てくれるみたいで良かったですね」

「うむ、今まで数ヶ月苦労した甲斐があたヨ。では先に大会専用の端末を渡しておくから個人情報の登録を済ませておいて欲しいネ。ネギ坊主、明日小太郎君にも渡しておいて貰えるカ?」

「は、はい、勿論です!」

「では一人一つずつどうぞ」

サヨが孫娘以外に渡し終え作業は完了である。

「これが出入りするためのチケットの役目も果たすので無くさないようにして下さい」

「このかサンには観戦用チケットを後で用意するから待ていて欲しいネ」

「うちにもあるんか。超りんありがとう」

「それでは大会まで2週間程だが修行頑張てネ」

「皆さん、失礼します」

「あ、あの!超さん達は魔法を使えるんですか?」

「私には科学があるヨ」

「私は知っているだけですよ、ネギ先生」

はっきりと答えなかったが飄々とネギ少年の部屋から先に退出した二人であった。

「して、この端末はどう使うでござるか?」

「んーわからないアル」

点で駄目だった。

「楓、古、私が教えてやろう。ネギ先生達も一緒に登録するか?」

「はい、そうしましょう!」

その後しばし時間をかけて選手登録を無事済ませたのだった。
それにしても……。

《超鈴音、随分大会の用意頑張りましたね》

《エヴァンジェリンの用意する魔法球が凄いいからナ。それに予想だとかなり人数が集まるみたいだから沢山試合を見てみたいしネ。トーナメントで起きやすい相性の問題もこれで解決できるし悪くはないと思うヨ》

まるで生きた標本でも記録するかといった風だ。

《裏の人でも流石に魔法球やら回復術式は信じられないと思いますがね》

《認識阻害を甘く見ては駄目ネ。そもそも麻帆良に認識阻害がかかっている上に更に認識阻害をかけるのだから誰も不思議に思わないヨ》

そうか……二重にかけるのか。

《しかし魔法有り、気有りだと気しか知らない人間にとってはどうなんですか?》

《遠当ての技術は普通に存在するから魔法の射手を見たところでそんなに驚かないヨ》

《まあ魔法の射手なら有りでしょうけど、ネギ少年の断罪の剣なんかはどうかと……》

《神鳴流の派手な技に比べれば意外と地味じゃないカ?》

《確かに……帯電させたりする技からしたらあまり変わりませんね》

《そういえばネギ坊主はまだ断罪の剣の完成には時間がかかるのカ?》

《えー、魔分で完璧に行うのにはまだもう少し時間がかかりそうですよ》

《まだか……でも生身にしては頑張ているナ。ネギ坊主がどこまで成長するか分からないが断罪の剣を完全に魔分で行えるようになたら分解をマスターした事になるネ》

《とうとう1か0の世界に突入ですか》

《1か0と言ても結局は出力の問題になるけどナ》

《再構成はどうなるでしょうね》

《私はできるようになたが、アーティファクトの恩恵が強すぎるネ。しかし、分解と再構成を突き詰めるとこれが異界と空間を繋げるという事との繋がりがあるだろうというのがなんとなく分かるナ》

《やっぱり始まりの魔法使いは最初の基本魔法の天才だったんですかね》

《しかも特殊体質だたというオチ付きだろうネ》

《あー、世界って変わってますね全く》

《だから面白いんじゃないカ》

《おっしゃる通りで》

元々この神木すら自然発生するような世界だからそういう事があってもおかしくは無いか。

《まほら武道会だが、全試合を見れるようにしたと言ても選手は大体100人ぐらいになるだろうから一回毎、全試合等倍速で見るだけでも最大で24時間かかるだろうというのは少し騙している気がするヨ》

《好きなものだけ見ればいいんだと思いますよ》

《トーナメントではない事の弊害でもありメリットでもあるネ》

《昔ながらというより記念すべきオーバーテクノロジー版まほら武道会の復活ですね》

《どうせやるなら盛大な方がいいネ。表でも田中サン達で超包子主催イベントやるしイベントは尽きないナ》

《鬼ごっこでしたか》

《それなりに参加者は出ると思うヨ。とりあえず頑張れば商品券だからネ》

《弐集院先生が頑張るのが目に浮かびますね》

《あの先生はまほら武道会では観戦側の人間だろうナ。魔法先生なのに表で頑張るとは面白いネ》

《私はあの先生の始動キー未だに最高だと思ってますから》

《翆坊主の趣味は分かたヨ》

《さて、私は魔分溜りの補充でもしておきますか》

《そうしておいてくれると助かるヨ。回復術式に認識阻害の二つを使うからネ》

《はい、任せてください》

《審判もやるカ?》

《どうでしょうかね。誰かにバレそうですからね……》

《ふむ、そうだナ。でもせめてさよには会場で管制をやてもらうとするヨ》

《そういう超鈴音は出場しないんですか?》

《小太郎君ではないがやはり世界樹の加護は他人には見せられないネ。それに主催者だから色々と忙しいヨ》

《そうするのがやはり安全ですね。忙しいといえば3-Aのお化け屋敷は準備間に合うんでしょうかね》

《どこまで凝るかによるが、皆は際限なくやりそうだから泊り込みなんて事しそうだナ》

《新田先生が大変ですね》

《3-Aについてはもう諦めてもらた方がいいヨ》

やれやれ、お祭り騒ぎが好きな女子中学生だ事で。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

その後出場を決めた選手達からまほら武道会運営本部にどんどん申請が届き、その都度専用端末が送られて行った。
予想通り合計人数は100人より少し少ない95人になった。
内訳はネギ少年達のグループ含め魔法生徒、魔法協会、呪術協会、京都神鳴流、ひなた荘関係者、忍、中国及び日本等の拳法の達人達そして雪広グループのエージェント等である。
それぞれ面白い事になりそうだ。
京都神鳴流には近衛門から個人的に詠春殿が誘われて参加表明してしまったのだが、怖いお姉さん達も参加する事は詠春殿には伏せられているのでカオス化するだろうし、忍達の申請は長瀬楓にとってはとんでもないサプライズになると思われる。
ひなた荘関係者には中国拳法の達人がいるので古菲にとっては手応えがあるだろうし、忍者っぽい人もいるのでこちらも長瀬楓にとっては面白いかもしれない。
明石教授はある人にサインを頼むかもしれないがそれは個人的にやって欲しい。
付き添いには以前予期していた南の島の王国の人が超鈴音の端末を見たのも関係有るかは知らないが、付き添いでくるだろうと思われる。

《翆坊主、麻帆良には温泉はあるかというのはどういう事だろうネ?》

そんな事大会本部に問い合わせてくるのは……。

《留守番させておいておけば良いと思うんですけどね。多分変わったカメの為だと思いますよ》

《変わたカメて何ネ?》

《時速60kmで空を飛んだりします》

《南の方に生息する珍しいカメの事カ》

《知ってるんですか?》

《私は麻帆良最強頭脳ネ》

これは恐れいった……。

《どう返信するんですか》

《女子寮の浴場の一部も温泉だからネ。雪広に繋いでおけば問題ないヨ》

霊脈が集まってるからと言ってなんでもかんでもあるのは贅沢極まりない。

《本当にパーフェクトな組織のようで》

《私も大分お世話になているネ》



[21907] 33話 2003年度麻帆良祭開幕
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/06 20:07
3-Aの出し物はお化け屋敷ですが、クラスの皆は結局普通の中学の学園祭ではここまでやらないレベルのセットを作るのに何の迷いもなく頑張り始めたので、やっぱり時間が足りなくなって学校にこっそり……はしてなかったですが泊まりこんで間に合いました。
新田先生がクラスにしっかり入ってきて確認していたら終わってました……。
ネギ先生人気は相変わらずで、麻帆良祭直前では皆からあちこちのイベントに参加する事を誘われていて、日程と時間を聞いてはメモしていましたが全部回れるのでしょうか。
軽い気持ちで変に期待させるような約束をしてはいけませんよ。
まほら武道会にはエヴァンジェリンさんも出るのかなと思っていたのですが、特別参戦ぐらいはあるかもしれませんが基本的には出ないそうです。
実際エヴァンジェリンさんは今年も相変わらずサークルの発表等が忙しいですから、まほら武道会には、魔法球の開発者として大会運営本部に出入り自由という待遇に留まっています。
鈴音さんの話によると私は未だに直接あったことがないクウネルさんは今年も麻帆良祭を分身体で見て周り、龍宮神社にも出入り自由という事になっているそうです。
今年の超包子は五月さんを筆頭にお料理研究会と雪広グループに丸投げな感じになって申し訳ないんですが、私はクラスでの仕事以外では多分プログラムの管制を主に鈴音さんと葉加瀬さんとやると思います。

そして前夜祭も盛大に行われ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

いよいよ、6月20日金曜日から3日間の2003年度麻帆良祭の開催である。

初日は、生徒たちは8時頃に最終準備を行い、9時から本格的に外部から人々が入ってきた。
サヨ達はまほら武道会の開催式が10時からあるので、クラスとの折り合いをつけ龍宮神社へと向かっていった。
その際、朝倉和美が龍宮神社周辺一帯が完全占拠されている事にネタの臭を嗅ぎつけていたため関係者の中学生達はこれはマズいと逃げるように彼女の近くから消えていったのだった。

そして龍宮神社会場内に入る際に佐藤さんシリーズに端末又はチケットを見せて入場したところそこは既にネギ少年達からは予想以上の人々の数で混雑していた。
出場選手96人に加えて、関東魔法協会及び呪術協会の戦闘タイプでない人々の観戦者用チケット申請、各極秘流派道場の関係者以下同様のため人数が揃いに揃っていたからである。

「ネギ!姉ちゃん達おはよう!凄い人数やな!」

「コタロー君おはよう!うん、本当に凄い人数だね。こんなに裏の関係者の人達いたんだ」

「おはようでござるコタロー」

「コタ君おはよう」

「コタロー君おはよう」

「コタローおはようアル!」

「小太郎君おはようございます」

「おう!しっかし学園長に見せてもろた映像と同じぐらいはおるで」

「マスターの話だとここ最近は小規模の大会になってたって聞いてたけど本当に復活したみたいだね」

神社境内に集まった人々でごった返している中。

「せっちゃん、あれ?父様やない?」

「お嬢様?あ、はい、間違いありません!」

「あ、詠春さんですね!」

「皆ちょっと待っててな、うちの父様紹介するえ!」

「私もお供します!」

そう言って元気に走って行って詠春殿に後ろからダイブした孫娘とそれを見て少々慌てた桜咲刹那は挨拶を交わしネギ少年達の所に戻ってきた。

「皆、うちの父様や!」

「これはどうも、皆さん、このかがお世話になっています」

「「「こんにちは!」」」

詠春殿は律儀にネギ少年、桜咲刹那、長瀬楓、古菲に修学旅行の件で孫娘を守ってくれた事についてお礼を述べ始めたところ……。

「……なかなかいいおじ様ね」

「アスナ、父様もタイプなんか?父様結婚しとるよ」

当たり前だろ。

「えっ?ち、違うわよ!どっちかっていうとあっちにいる人みたいな」

「えーどれどれ?あーあのさっきから笑い声が耐えない人やな。でも隣に付きおうてそうな人おるよ?」

「だから!そうじゃなくて!」

「あ!あの人殴られたえ!」

「え!?ほんとだ!凄い吹き飛んだけど……あ、頭から血が出てるのにまだ笑ってる!」

「丈夫な身体なんやね、あ!カメさん飛んどるよ!せっちゃん、あのカメ何かな?」

「お嬢様どうされま……何でしょうかあれは……」

「何なのあの人達……」

そう、殴られても軽く笑っているのは東大の考古学教授瀬田記康、そして殴ったのは奥さん、近くでその光景を見ていつもの事だと笑っているのはひなた荘の住人、飛んでいるのは温泉たまご、愛称たまちゃんである。
ただの一般人ではないか?と思われるかもしれないが、瀬田教授はあちこちの遺跡を掘り返したりする過程で表裏問わず修羅場慣れしているので問題ない。
そして神楽坂明日菜が呆れているのは現在浦島景太郎を巡りバトルも勃発しているからだ。
発端はその妹浦島可奈子が久しぶりに兄に会ったからであるが……。

「あの女の人中国拳法できるアルね!」

「殴られた御仁もかなりの使い手のようでござるな」

「ん?どうしたんだい……おお、あれは。素子君も来ていたんだね」

「長、知っているんですか?」

「あの男性は有名な教授ですよ。そして、近くにいるあの黒髪の女性は現在神鳴流で1、2位を争う師範の青山素子君、私の親戚です。彼女は長い事関東に修行しに出ていたから刹那君は知らなかったね。鶴子君は知ってると思いますが彼女の妹さんですよ」

「ええ!?あの方が噂に聞く!?わ……若い……」

「へー、あの素子はん言う人も神鳴流なんか」

「少しアキラに似てるね」

「おおっ似てるアルな!」

「ほんどだ、似てますね!」

「ほう、素子はんが誰に似とるんどすか?」

「!?だ、誰でござるか!?気配が全く無かったが……」

気がついたら袴に蓑笠で顔を隠しながらネギ少年達の輪に混ざって現れたのは……。

「げっ!?鶴子君!?来ていたのか!……皆さん私はこれで失礼するよ」

突然挨拶も無しにそそくさと去ろうとする詠春殿。

「お、長!?」

「と、父様?」

「詠春はん、げっとはなんどすか?待ちなさい」

一瞬で鶴子さんが移動して首をガッ!っと掴んだ所詠春殿が戻ってきた。

「……いや、何も言ってませんよ。ちょっと用事がありまして」

「そうどすか……。後でお話を……いえ、大会で指名しましょうか」

ギリギリと片手で詠春殿の首を締め始め空中に吊り上げ始めた。
その光景は何やら先程の瀬田教授の扱いを彷彿とさせるが、ネギ少年達は鶴子さんの出す空気の酷さに声も出なかった。

「それは勘弁願えないかな……私も若くなくてね。首、首が締まってるから、いだだだ!ほら、鶴子君、刹那君ですよ」

まさかの孫娘の護衛を手で示し生贄として捧げた詠春殿。
その言葉に反応してポトリと詠春殿を地上に落としながら首をぐるりと桜咲刹那の方に向けた。

「あら、これは刹那はん、お久しゅう」

「鶴子様!お久しぶりでございます。その度はありがとうございました」

突如ピッと背筋が強ばりそのまま深々とお辞儀をする桜咲刹那。

「刹那はん、堅苦しい挨拶はいれへん。頭をお上げなさい。詠春はんに預けたきりどしたが修行は続けとるようどすな」

「はい、まだまだ未熟ですが……」

「そうや、うちが稽古つけましょか?」

「え!?そ、そんな私のような者に、滅相もない!」

「……うちの誘いが気に入りまへんか?」

ピリピリとした真剣な空気が広がり、急激に周囲の温度が下がり始めた。
怖い。

「い、いえ!そんな事ありません!ありがたくお受け致します!」

拒否なんてできる空気ではなかった。

地面ではその間孫娘が詠春殿に「父様大丈夫?うち治癒魔法使えるようになったえ」と囁き「さすが私のこのかです。私は大丈夫ですよ」とこそこそやっていた。

「よろしい。うちだけやなく姉様達も来とりますから楽しみにしときなさい」

その言葉を聞いた瞬間詠春殿の顔が更に青ざめ「お義父さん……騙しましたね」と呟いたたのだった。
詠春殿が若い頃一人で魔法世界に行った最初の単純な理由は、既に腕は当時最強だったにも関わらず日々襲いかかってくる神鳴流の女性達が恐ろ……いや、ストレスから、世のためと大義名分をこじつけ逃げ出したのが始まりだったらしい……。
大戦が終わり戻ってきてみれば癒し系の木乃葉さんと即座に結婚し、関西呪術協会の長にもなり優しい巫女さんを周囲に集めたのはその反動なのかもしれない。
どれだけ神鳴流の女性は怖いんですか。

「鶴子、気を抑えなさい、子供たちが怖がっている」

鶴子さんと同様全く気配なく現れたのは……。

「蘇芳はん……皆さん、怖がらせるつもりはおまへんどした。ほな、失礼」

「長、また後で挨拶に上がります、鶴子が迷惑をおかけしました。失礼します」

鶴子さんの旦那様でした。
突如桃色空間が広がり二人はそのまま移動していったが程なくして次は素子さんが被害者になりそうだ。

「息がつまりそうでした……」

「今の御仁も……一体何者でござるか……?」

「……彼は鶴子君の夫です。いつも西の遠征に出て妖魔の討伐を行なってくれている上、礼儀正しいですよ」

「相当できるようでござるな」

「……しかも凄いイケメンだったわね」

「アスナには渋さが足りんかなぁ?」

「そうね……ってそういう話じゃないわよ!」

「あー今の兄ちゃん呪術協会で昔見たことあるで。ごっつ強いらしいわ、あの人ともやってみたいわ!」

「その通りですよ、小太郎君。本当に、鶴子君が彼と結婚してくれて助かりました……」

凄く遠い目をしているのだが大丈夫なのだろうか。

「この大会本当に面白そうアル!」

「宗家の方の技が見られるなんて……」

「せっちゃん何や上の空やよ?」

「ハッ!お嬢様!?そんな事は……」

「各地の手練がこれだけ揃うとは超殿が開いたこの大会凄いでござるな」

「超はこのために一年近く準備していたらしいからな」

とそんなこんな話を始めたところ。

「「「「お嬢!!」」」」

シュッ!という音と共に長瀬楓の前にズラリと現れたのは……。

「お主達!」

「お嬢!ご健在のようで何よりでございます!」

「わー、楓この人達の知り合いなん?」

「に、忍者……」

「忍者ではござらぬよ。拙者の故郷の者達でござる。市、父上と母上の様子はどうでござるか?」

「はっ!頭領はご健在です。椛様はまた旅に出られていますが……」

頭領って言うな!

「母上ならば問題なかろう。お主達も大会に参加するのでござるか?」

「お嬢の勇姿を確認するのが我らの任務ですが、頭領から我らも出場せよと承りました」

「そうでござるか。この大会では我々の力も見せても問題ない。良い試合を期待するでござる」

「はっ!それではこれにて!」

再びシュッという音でもつけたくなるような感じに消えた。
というか一応口元は隠していたものの……忍べ。

「か、楓さんの家族って一体……」

「ネギ坊主、普段は皆都会で暮らしているでござるよ」

「そ、そうですか……」

「椛……というのは楓の母親か?」

「そうでござるよ真名。拙者は今は亡くなった祖父母に山奥で育てられた上あちこち放蕩している故あまり会ったことはないでござるが。父上は都会にいるでござるよ」

長瀬楓の家庭事情だった。
元々小学校卒業近い年齢の時に彼女の祖父母は亡くなったそうでそれを期に父親が麻帆良学園への入学手続きをしたらしい。
それまでは祖父母と一部のお付きの忍び達と共に山奥で生活していたそうな。
因みに先程頭領だとか平然と言っていたのはそのお付きの人である。
常識なんて無い。
彼等は大体都会に出て生活しているらしいが、雪広のエージェントになったりする事もあり、今回意外と忍者率は高かったりする。

一方このやりとりの別の場所では葛葉先生と鶴子さんが出会ってしまい、地味に夫自慢をした鶴子さんに内心歯ぎしりをしていた葛葉先生という状況ができていた。
元々葛葉先生の方が結婚は早かったのであるが離婚した今となっては立場が微妙に逆転している。
まあその後他の神鳴流のお姉さんたちがゾロゾロやってきてとんでもないカオスになったのだが……。

なんというか、皆さん仮装しているつもりはないのに会場が仮装大会のようになっているぐらい服装が違いすぎる。
それぞれ知り合いにあったりして談笑を交わしているうちに大会の開会式の始まりである。

[[皆様、これよりまほら武道会開会式を行ないます。この度の大会を実現に導いた雪広グループ社長の雪広義國様、超鈴音様、麻帆良学園学園長の近衛近衛門様から開会の挨拶を頂きます。お三方は壇上にお上がり下さい]]

「超さんです!」

「おじいちゃんや!」

「それにあれいいんちょのお父さん!?」

[[紹介に預かた超鈴音ネ。25年前実質最後となたと言われているまほら武道会の復活を実現出来た事を嬉しく思うネ。詳しい事は後にして挨拶を代わるヨ]]

[[紹介に預かりました、雪広義國です。こちらの超鈴音さんから今回の企画を打診されたのは1年以上前になりますがようやく実現に至りました。我々グループからは全力でサポートを行いますので良い大会になるよう祈っております。気になることがあれば、近くの係員にお申し付け下さい。それでは学園長どうぞ]]

[[紹介に預かった近衛近衛門じゃ。25年振りに本来のまほら武道会を復活になった。皆互いの力を競い合い活気ある大会を作り上げて欲しい。ここに新生まほら武道会の開催をここに宣言する!]]

近衛門の開催宣言により大いに盛り上がる龍宮神社会場内。
そのまま詳細情報の確認に移行し再び超鈴音にマイクが移った。

[[復活最初の大会として、より多くの試合がとり行えるように配慮をしたヨ。こちらの映像を見て欲しいネ]]

巨大スクリーンに龍宮神社の周りが水に囲まれた能舞台が映り、そこにある5つのカバーを係員が取り去った。

[[この水晶球は中に入れるようにできている上、その中ではなんと時間が通常の5倍にまで加速設定できるようになているヨ。選手の皆さんにはこの中で試合を行てもらうネ]]

魔法球の話は要綱には記載されていなかったので会場は時間がのびるという発言に驚いたが認識阻害のお陰で「そんな物があるのか」と、ただそれだけである。
そしてスクリーンの映像が切り替わり……。

[[この映像が水晶球の中ネ。見ての通り試合の為の舞台が用意してあるヨ。土で作てあるから試合でいくら壊しても構わないネ。修繕の用意もあるから安心して欲しい。試合の観戦はスクリーンでも行えるが直接見たい人は試合の前に予め申請してもらえれば水晶球の中に入れるヨ。その代わり何が起きるか分からないので舞台からはできるだけ離れてもらう事になるネ。次に休憩施設の説明に移るヨ]]

更にスクリーンの映像が南門の休憩室に移り。

[[選手の皆さんは試合後には必ず、試合前には任意でここに寄てもらいたい。特別な用意の為に疲労、怪我の治りが早くなるように処置がしてあるネ。続けて詳細な試合のルールに移るが、要綱に記載したものと同じだからスクリーンで再確認して欲しい。書いてある内容の一部が通じない人もいるかもしれないが気にしなくて大丈夫ネ。試合の判定は各審判と厳密な映像で行うヨ。但し勝負が制限時間内につかない場合は引き分けとなるから注意して欲しいネ]]

その後少々細かいルールについての説明が続いた後いよいよ武道会最初の試合決定である。

[[それでは第一試合の組み合わせを決定する前段階として今から端末に送られる情報を参考にして選手の皆さんは申請を済ませて貰いたい。登録方法が分からない場合は速やかに係員に言て欲しいネ]]

実に事務的作業が開始されたが、タッチパネル式で割と感覚的な操作が可能なのであるが、それに説明書も付属されていても良く使い方がわからないという人もちらほらいた。
大抵近くに知り合いがいれば教えてもらったりで済んだが、ひなた荘関係者はそうもいかなかった。
カオラ・スゥという見た目はインド人ぽく、口調は関西弁に近い謎のメカを所持している南の王国出身の女性……なんともイロモノというかそんな感じだがノリが軽すぎて「けーたろ、ウチが登録したるで!」と頼んでもいないのにぶんどって勝手に操作し始めたりと個人の意思で対戦相手を選べる制度の筈がどこへやらである。
素子さんは青山~とズラリと名前が並ぶ一帯付近を見て青ざめ、そこは無かった物として適当に登録していた。
まあそんな事関係なく怖いお姉さん達は素子さんや詠春殿を狙い撃ちにするに違いないのだが……。
浦島可奈子は「お兄ちゃんと……」とブツブツ言いながらパネルを高速で操作していた。
大会なんかよりも兄が全てという感じである。

基本的に一番最初はお互い情報が少ないので戦いたいと思った相手が被る可能性がかなり少なく相手を指名する格好の機会である。
と、そんな所へ更に超鈴音からの全体連絡が入った。

[[そろそろ一回目の参考倍率が表示されるが待ている間観客の皆さんはスクリーンに表示しているアドレスのSNSコミュニティに登録して貰えれば、トトカルチョに参加可能、そして投票でリアルタイムで見たい試合を決める事ができるから奮て登録して欲しいネ。詳しい事は当該サイトを見てもらえればわかるヨ]]

恐らくこれが選手に設定される倍率にも影響が出るのだろうが、この連絡により暇だった観客の皆さんは携帯を一心にいじり始めたのだった。
程なくして参考倍率が表示されたが本当にマチマチだった。
妙に古菲と瀬田教授の倍率が高いのは各道場に二人の情報が伝わっている関係だろう。
瀬田教授は截拳道の達人という事になっているが、そもそも截拳道とは中国武術に他の様々な格闘技を取り入れて行くようなものなので、結果特定の型がある訳ではなく、一人ひとり異なる戦闘スタイルになるためあくまでも総称のようなものである。
一応原型があると言ってもある意味何かにこだわらないという点では非常にナギに近い戦法であると言えるだろう。
基本的に近接格闘戦闘が主体の瀬田教授であるが、投石の技術もおかしな事になっているので遠距離でも戦える。
なんといっても小石を投げて当てるだけで飛行中のヘリコプターを落とすことができる程なのだ。
もうお二方倍率が高いのは明らかに狙い撃ちをされた詠春殿と素子さんである。頑張れ。
元々詠春殿は魔法協会でも知らない人はいない赤き翼の一員という事で人気がでるのは当然だったが……。
そして再度戦いたい相手の申請を済ませ一回目の試合の組み合わせが決定した。
スクリーンに表示されている倍率が刻々と変化していくがやはり携帯投票によるスクリーンで見たい試合の申請が関係しているようだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

プログラムで自動的にはじき出された試合だが記念すべき初戦はなかなか面白そうな組み合わせになたネ。
早速確定指名権を獲得した古は、例のカメが飛んでいる所にいる瀬田はるかサンという人に名前を聞いて試合を申し込んでいたヨ。

「私は古菲アル!お姉さんの名前はなんていうね?さっきの拳凄かたから試合を申し込みたいアルよ!」

「私は瀬田はるかだ。こいつを殴った時を見たのか」

「はるかの拳は強烈だからね」

「教えてくれてありがとアル!試合申し込むね!」

古の一回目の相手は中国拳法の使い手に決まているが、確定指名戦の方が面白いだろうナ。
ネギ坊主は高畑先生といきなり当たる事になた上魔法先生達の熱烈な投票により等倍速試合になたネ。
刹那サンは最初は明日菜サン、楓サンは龍宮サンと小太郎君はランダムになたが浦島景太郎という人とやることになているヨ。
他はなんとなく魔法関係者組と武術関係者組で二極化しているナ。
一番人気の試合はこのかサンのお父さんと青山鶴子サンの試合になているネ。
後は割と人気の高かた瀬田記康さんの相手は抽選で明石サンのお父さんに決またヨ。
他には愛衣サンが雪広のエージェントと当たているのだが、選手登録をしていたのには驚いたヨ。
この前動機を聞いてみたらアメリカの旅で実戦経験をした方がいいと思たらしいというのだから真面目だネ。
因みに高音サンも出場しているヨ。
美空は出てないけどネ。

それで今暇をもてあましたのか来客が来ているのだが武道会の為のプログラムを一緒に組んだハカセを交えて話をずっとしているヨ。
茶々丸の妹機の作成等でも協力してもらたからハカセがいるのは当然ネ。
しかし性格は絶対に合いそうにないのだがカメのロボットをいじっているヨ。

「こ、この浮遊システムは一体どうなっているんですか!?」

「これはたまの浮遊理論を応用して実現したんや!」

どうも魔法の浮遊術のシステムを再現しているようなのだが、アンチグラビティシステムをこの時代に開発できる人間がいたとはネ。
流石にこれが火星技術の源流ではない筈だが世の中探せば意外と凄い技術を持ている人というのはいるみたいだナ。
もし私の当初の計画での強制認識魔法を実行する場合だたならハカセにもアンチグラビティシステムを見せたかもしれないが、実際そこまではやていなかたネ。

「アンチグラビティシステムだネ」

「超さん知っているんですか?」

「ハカセ、私もこれは実現できるヨ」

「チャオが送ってきおった端末は凄かったで!ウチのハッキングが通じんかったのには驚いたわ!」

他人の事は言えないが普通にハッキングて言たナ。

「スゥさん、他には何がついてるんですか?」

「プラズマ爆弾に光学兵器、探知レーダーが付いとるで!」

武装好きとは話が合いそうだネ。

「鈴音さん、そろそろ最初の試合始まりますよ」

「おお、一応最初だから試合開始の音頭を取らないとネ」

[[これより記念すべきまほら武道会第一試合を開始するヨ!選手の人は能舞台に移動するネ!]]

最初の等速試合はこのかサンのお父さんと青山鶴子サンだナ。

「スゥさん、この後工学部に来ませんか?いろいろ見て欲しいものがあります!」

ハカセ、それは面白そうだネ!

「ハカセ、楽しみは後にとておくものネ。今日の分の試合が終わたらいくらでも話せるヨ!」

「ほんまか?ウチここの学園の事知らんかったけど面白いな!よっしゃまた後でな!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

……予想していたとおり化学反応が起きてしまった。
なんていうか、カオスゥである。
因みにカオラ・スゥは戸籍を普通に偽造しているので色々と超鈴音に共通している部分がある。
そんな事はさておき詠春殿の試合である。

「せっちゃん、父様勝てるんかな?」

「長も鶴子様もお強いですからね……」

「逃げようとしてたからこのかのお父さん勝てないんじゃない?」

「アスナ、うちの父様やのに酷いえ」

「ごめんごめん」

と外野は気楽である。

「詠春はん、おなごに囲まれて鈍っとらんかうちが試して差し上げますえ」

「ははは、お手柔らかに頼みます、鶴子君」

「真剣でやりますかえ?」

「木刀でお願いします」

冷や汗しか出ていない詠春殿である。
はっきり言って娘どころか皆が見ている中、仮にも赤き翼の最強剣士があっさり負けるわけにはいかない。

「……試合を開始しても宜しいでしょうか?」

審判が完全に怖がっているんだがこれから毎回こうなるのだろうか……。

「いつでもええどす」

「お願いします」

「分かりました。制限時間15分。試合、開始ッ!」

鶴子さんが開始の合図の瞬間に斬りかかり、警戒していた詠春殿はギリギリで受け止めたが本当に危なかった。

「やはり鈍っとりますな」

「……これからですよ」

木刀と木刀がギギッと音を立てる度に周囲には衝撃波が発生して舞台にビシビシ罅が入っていくのだが既に審判の人は身の危険を感じて遠くに離れている。
それが正しい。
茶々丸姉さんの妹機はかなり遠距離から試合状況を見ているので巻き込まれることはないだろう。

鍔迫り合いが終わったと思えば鶴子さんの猛攻が始まり、詠春殿は防戦一方で攻撃に移る隙が無かった。
そうは言ってもとんでもなく高レベルの戦いであり、二人は結局舞台を完全に無視してあちこち駆けまわり出した。
審判がたまに飛んでくる恐ろしい気弾に怯えながら地面に身を伏せながらもカウントを律儀に数え、ギリギリになったと思えば瞬動で即座に一旦戻ってはまた再びという有様だった。
その度に舞台関係なくいたる所の地面が割れたり爆発したりと数分もしないうちに何かの災害現場と化した。
どうやら詠春殿の作戦は15分間捌き切るという物らしい。
確かに勝つことが難しくてもさばくことができるならば引き分けに持ち込む事ができる。

「父様達強いなあ!」

「す、凄い!凄いですよ!このちゃん!」

何故かテンションが上がって孫娘の呼び方が素に戻っていた。

「審判の人かわいそうね……」

「アスナさん、僕もそう思います……」

「怖い姉ちゃんやな……俺、女相手にすんの苦手やけどあんなんに襲われたらそれどころやないで……」

「姉上……」

「素子ちゃん……当たらないように気をつけてね」

「あれ……アキラ……じゃない。あ、あの青山素子さんですか?」

観戦していたら偶然隣に居合わせた。

「ん?そうだ。どうして私の名前を?」

「このかのお父さ……近衛詠春さんから聞いたんです。このか!刹那さん!試合もいいけどこっちこっち!」

「アスナさん?ハッ!こ、これは素子様!お噂は伺っております!桜咲刹那と申します!」

「父様の言っとった人やね。うちは近衛このかや」

「詠春さんの娘さんか、これはどうも。私は青山素子だ。刹那さんはもしかして……神鳴流かな?」

「はい!腕はまだまだ未熟ですが……。あの、宜しければ修行の方法を教えていただけませんか?」

「ああ、構わないが」

「素子ちゃん、知り合いなの?」

「浦島、こちらは私の親戚の娘さんだ」

「素子ちゃんの親戚に会うのって始めてだね。僕は浦島景太郎って言うんだ、よろしく」

「あ!その名前!兄ちゃん俺の相手やないか!」

「おおっ、じゃあ君が犬上小太郎君か!試合ではよろしく」

こうして成り行きでネギ少年達とひなた荘住人の交流が始まり、互いにそれなりに自己紹介と挨拶を交わした。
小太郎君が浦島兄に強いのか?と聞いた際「んーどうだろう。素子ちゃん相手だと数回に一度は勝てるぐらいかな」と言ったため要するに相当強いという事が分かり、やる気が出たようだ。
それを聞いて桜咲刹那も驚いたのは言うまでもない。
一見普通の外見に眼鏡をしていてそんなに強そうには見えないのだが人は見かけによらないという事だ。
まあ彼は被弾無効化能力とでも言えるほど体が丈夫なので普通でないのは間違いないが。
素子さんの訓練方法の一つに訓練用の刀に数百キロの重りを付けて素振りというものがありそれを聞いたネギ少年達は「凄い!」と口を揃えて言ったのだが、誰か常識人はいないのだろうか。
本当に実行し出しそうである。
桜咲刹那は伝説でしか聞かされた事が無かったが、素子さんによって完全に調服されている妖刀ひなを見せてもらったりもして終始興奮気味だった。
なんだかんだ会話に華が咲いてしまったが詠春殿はというと懸命に捌き続けていた。

「大分勘が戻ってきたようどすな」

「お陰様です」

最初冷や汗を掻いていた詠春殿は急速に動きに対応し始めかなりいい勝負になっていた。
あっさり地面が割れる斬岩剣に強力な気弾が飛ぶ斬鉄閃、広範囲を破壊する雷光剣と試合開始時に一応場外と段差を付けてあった舞台は既にその名残もない。
これを龍宮神社でやったらと思うと被害総額は一体いくらになったであろうか。
既に他4つの魔法球の試合は3度目の試合に入っておりサクサク試合数が消化されていっている。
観客は神鳴流の派手すぎる戦いに大いに盛り上がったが、とうとう15分が経過して引き分けとなった。

「流石詠春はん、神鳴流剣士らしゅうなりましたな」

「私もいい運動になりました。多少手加減してくれて助かりました、鶴子君」

「ほな次は本気でやらせてもらいましょか?」

「いや……それは結構です」

というかまだ本気じゃなかったとか本気出したら地上が滅ぶ。
二人が魔法球から出てきた時には一層の盛り上がりを見せ、会場内は拍手喝采であった。
詠春殿は試合開始前と開始後でビフォーアフターでもやって比較したら顔が全然違うのがよく分かるだろう。

「父様かっこ良かったえ!」

「このか、ありがとう」

詠春殿にしてみれば娘からの言葉が一番嬉しかったに違いない。

「「「「詠春はん、次はうちらのお相手してもらいますえ」」」」

と怖いお姉さん達が颯爽登場したのはご愁傷様である。
しかしこの後超鈴音の回復施設で休んだところみるみるうちに疲労が回復したので「意外といけそうだ」とかぼやいていたが、見方を変えるとただのドMな気がする。
因みに破壊の限りを尽くされた等速魔法球からは苦労した審判さんも出た上で、設定を5倍速にしてこれまた遠くにいた田中さん達が高速で舞台の修繕を行ったのだった。
あれだけ派手な試合を見た後では魔法の射手を誰かが見たところで全く驚かないだろう。
そのためネギ少年は「断罪の剣使っても大丈夫そうだな……」なんて言っていたが……。



[21907] 34話 それぞれの試合
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/08 18:32
大変疲れる試合をこなした詠春殿が回復施設で休んでいた時、懐かしい来客があった。

「詠春、お久しぶりです。先程の試合は実戦から離れていたにしてはなかなかのものでしたね」

「ん?おおっ、ア」

「詠春!クウネルとお呼び下さいッ!」

またそこを強調する司書殿だった。

「クウネルって……分かりました。ともあれ久しぶりです。麻帆良にいたのか」

「ええ、ナギとの約束を果たすため……だけではないのですがそうです」

「ネギ君か……」

「タカミチ君と最初に試合するそうですよ」

「私はネギ君がどれ程の腕なのか見ていないがどうだろうな」

「かなりいい線いく筈ですよ。タカミチ君も油断しているとまずいぐらいには」

「ナギとは正反対かと思っていたがあまり変わらないか……。楽しみだな」

「フフ、詠春が神鳴流の女性達に追い回されるのも楽しいですよ」

「……さっきのトラウマが……。クウネルは試合には出ないのか?無詠唱魔法なら得意だったろう」

「実は私の今のこの身体は本体ではないので、半分無敵なのです。それを知られている大会主催者には釘を刺されていましてね」

「学園長か」

「……そんな所です。ところでこのかさんの魔法の才能は素晴らしいものですよ」

「私の娘に変な事してないだろうな?」

「ネコミミを付けてもらっていますよ」

「何ぃ!?」

「ほら、これが写真です」

紅き翼のメンバーの再会も真面目なものになるかと思えば駄目だった……。
司書殿が色々なネコミミのパターンや尻尾の有り無しなど色々持っていたため傍から見れば何やってんだとしか言いようがない。
因みに対戦相手だった鶴子さんは離れた所で旦那さんと仲良くしていたのでお構いなしである。

一方数分おきに着々と試合が消化されていっている。
それに伴い端末で見ることができる映像も増えているため、手の空いている選手は確認作業に忙しい。
これによってお互い情報の少ない相手の力量がある程度図れたりするわけで、最初の確認作業は大変重要である。

殆どの試合が加速魔法球で行われる中、佐倉愛衣と、黒服にサングラスをかけていながらもスタイリッシュな雪広のエージェントとの戦いも行われていた。
オソウジダイスキという箒のアーティファクトを出し、続けて炎の魔法の射手を撃ち出すものの相手は実際に裏で働いている人間であり、中学生の年で無詠唱が使えるだけでも凄いのだがそれと試合とは関係がなかった。
彼女は瞬動術に対して免疫が無いため懐に入られると一瞬で勝負が付いてしまう。
エージェントは基本的にパーフェクトなので華麗に佐倉愛衣の背後に接近し、首筋に軽く手刀を放ちスマートに試合を終わらせたのだ。
そのまま回復施設に運ぶのも欠かさない。
佐倉愛衣が起きたところで、試合について色々とフォローもし、無詠唱魔法が運用できるぐらい魔力の扱いに長けているならば瞬動術もすぐに習得できるであろう事や、魔法球は本日分の試合が終われば自由に使える事、既に達人達の試合のデータが集まっているため参考資料は山のようにある事を伝え、元気付けていた。
なんだかんだ魔法についても詳しい上に紳士すぎる。
元々実戦経験を積むために出場を決意したらしいので勝ち負けには対してこだわってはいないようだが、次の試合に向けてアドバイス通り蓄積されつつあるデータの確認を彼女はし始めたのだった。
高音さんも試合を終えたようだがこちらは勝ったらしい。
まあ気絶でもして負けると脱げるので是非勝ったほうがいいのだが……映像に残るというのは恐ろしいものだ。
操影術は影という陰気な感じがするイメージとは裏腹にド派手で、しかも防御力、攻撃力共にかなりのものなので油断しなければ強いのは間違いない。
佐倉愛衣に会いに来て「愛衣!次は頑張りなさい!」「お姉様!」という会話を繰り広げていたのは言うまでもないだろうか。

一回戦目の試合をとりあえずずっと観戦している超鈴音達であるが、神楽坂明日菜と桜咲刹那の試合も回ってきた。
魔法球の中に入ってネギ少年と孫娘は直接観戦する事にしたのだが、入る人はそれだけでは無かった。
神鳴流のお姉さん達が大量発生したのだ。

「刹那さん……なんだか緊張するわね」

「は、はい……」

「アスナさん、刹那さん!頑張ってください!」

「せっちゃん!アスナ!頑張りや!」

「刹那はん、修行の成果見せてもらいますえ」

最後の発言が一番プレッシャーだ。

「試合開始ッ!」

二人の得物は両者共木刀である。
神楽坂明日菜に気の扱いは果たしてできるのかという事だが……。

「右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

そう、神楽坂明日菜は既に物に気を纏わせるどころかたった1ヶ月と少し程度で咸卦法を発動可能になり、瞬動術も出来るようになっていた。
まあある意味昔覚えたことを忘れてはいても思い出すだけの作業であるのでそこまで不思議ではないが、彼女の成長速度を見ている側としては溢れんばかりの才能に目が眩みそうではある。
これには小太郎君も大いに驚いていたが、千の共闘で得られる咸卦法の効率は自動で最高レベルになるので、まだまだそれ自体に差はある。
しかしながら小太郎君としてはネギ少年から契約執行を受けないと咸卦法状態になれないのに対して、自力でできてしまう神楽坂明日菜を見て負けた気がしたのか「俺もやったるで!」と千の共闘での感覚を頼りに自力での咸卦法習得を地道に始めたりもしているようだ。
少なくともアーティファクトのお陰でタカミチ少年が習得にかかった時間より遥かに短い時間で習得できるであろう。

……話が逸れたが、ただでさえ元々身体能力の高い神楽坂明日菜が咸卦法を使用すると身体の基本的な動きという点では桜咲刹那とも張り合えるぐらいになるので後はもう実戦経験と練度の差である。

「刹那さん、行くわよ!」

「アスナさんこそ、行きます!」

ちょっとやそっと叩いたぐらいで咸卦法状態の肉体にはダメージは通らないので桜咲刹那としてもそれなりの手加減をするという手間を掛ける必要がなくその点では楽である。
これまで神楽坂明日菜の鍛錬に一番時間を割いてきたのは桜咲刹那であり、戦法や癖についてもかなり理解をしているため攻撃を捌くのは容易であった。

「あの年で咸卦法……。坊や、刹那はんの相手の神楽坂はんは何や裏の仕事をしとるんどすか?」

「いえ……アスナさんは先月から鍛え始めたばかりなんですが成長速度が少し早いんです」

ネギ少年も他人の事言えないけどね。

「そうどすか。あの子あれだけ才能があるなら神鳴流で鍛えたら……」

神楽坂明日菜も行く行くは怖いお姉さんの仲間入りでもさせるつもりか。
鶴子さん達の口元がわずかにニヤリとしたのを見たネギ少年は悪寒を感じずにはいられなかった。

「あ、あの刹那さんはどうですか?」

「刹那はんも既にあの腕なら神鳴流剣士としては前途有望やろうな。しっかりとした目標もあるようやし真っ直ぐな心しとる。それに神楽坂はんが咸卦法なら刹那はんにも霊格高い力がありますえ」

「せっちゃんの羽やね!」

「綺麗ですよね」

「このかはん達は見たことあるんどすな」

試合と言えば咸卦法で加速した神楽坂明日菜と桜咲刹那は高速で打ち合いを続けているものの、詠春殿達程酷い戦いにはなっていない。

「アスナさんのここ1月の成長は素晴らしいです!」

「刹那さんの指導がいいからね!」

「本当にこのまま鍛えていけばかなり強くなれますよ!でもまだ私は負けませんよ」

動きにまだまだムラのある神楽坂明日菜の隙をついて、桜咲刹那は浮雲・旋一閃という回転しながら相手を地面に叩きつける投げ技を放ちそのまま固め技に入りダウン状態を維持させカウントが数えられ始めた。

「咸卦法でいくら力が強くても、力の使い方次第で抑えつける事は可能です」

「6、7、8」

「う!うー!力入れてるのに立ち上がれないわ!」

「カウント10!勝者桜咲刹那選手!」

かなりまともな試合だった。

「あー負けちゃったわ!刹那さんありがとう!」

「こちらこそアスナさん、ありがとうございました」

握手を交わしいい運動をしたという風体でネギ少年達の元へ近づいていった二人だった。

「刹那さんおめでとうございます!アスナさんも惜しかったですね!」

「せっちゃんおめでとう!アスナも頑張ったで!」

「ありがとう、次はネギも頑張りなさいよ」

「お嬢様、ネギ先生、ありがとうございます」

だが……。

「刹那はん、神楽坂はん。良い試合どした。……時に二人共うちらの指導を後で受けてみまへんか?仙子姉上もそう思いますやろ?」

「え?」

「そうどすな、鶴子はん。神楽坂はんは刹那はんから神鳴流を齧っとるようやし鍛えれば必ず強うなりますえ」

神楽坂明日菜の抜けた声はスルーされた。

「うちは刹那はんに斬魔剣弐の太刀を教えたい思いますわ」

「え!?斬魔剣弐の太刀を宗家で無い私のような末席の者にですか!?め、滅相もありません!」

「そうやな、月詠のように歪んどる訳やなし、見て盗まれるより余程ええ思いますえ」

桜咲刹那も同様である。

「葉子はん、それはええどすな。月詠も才能は確かどしたが、飛び出したしな」

「刹那はん、宗家の伝統かて必ず守らなあかん訳やおまへん。それに刹那はんは身も心もうちらと同じ神鳴流。何も問題おまへん。」

「詠春はんかて魔法世界言うところで神鳴流ですらない男に技を教えたそうどすからな」

何故そんな事知ってるんだろう……ああ、木乃葉さんに詠春殿が武勇伝を語った時にでもポロっと漏らし、それが鶴子さん達に会った時にでも話したのだろうな……。
情報網って怖い。
「指導を受けて見まへんか?」なんて聞いた割にはあまり二人の少女の意思も聞かず勝手に話が進んでいき3日間暇があれば18時以降に魔法球を借りて指導するなんて事になったらしいのだが、借りるというより貸さざるを得ない空気を醸しだして占領しそうである。
まあこのお姉さん達だらけのところにあえて突っ込んでいきたいなんて稀有な趣向の持ち主は早々いないだろうから魔法球のうまい棲み分け……が出来る事だろう。
実際桜咲刹那は斬魔剣弐の太刀を教えてもらえるということでテンションが急激に上昇していっているので放っておこう。
流石5倍魔法球の中、出てきたら時間は3分ぐらいしか経っていなかった。

続けて魔法先生達から猛烈な人気が出ているネギ少年のタカミチ少年との試合の開始である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ネギ君、前にした約束通り腕試しをしよう」

「うん!タカミチ!僕の成果を見せるよ!」

タカミチが僕に戦闘の基礎を教えてくれた時は普通の体術だったけど、素手で滝を割ったのはそれとは違う物だった……。
マスターの話だとタカミチは咸卦法が使えるからまずは少しぐらい本気を出してもらうように頑張ろう!

「制限時間15分!試合開始ッ!」

「ネギ君最初からかかってきて構わないよ」

うーん……誘われているのかな。
タカミチはポケットに手を突っ込んでいるから用意は万端みたいだ。
いつかかっても良いというのは既に射程範囲内に入っているからその代わりって事なのかも。
それなら!

―戦いの歌!!―
―魔法領域展開―

僕の今の無詠唱魔法の射手の一度の最大本数は29本まで!

―収束・光の29矢!!―

ポケットを使って発射する技なら完全に真上からの攻撃には対処できない筈!
2連虚空瞬動で肩口を狙う!

―桜華崩拳!!―

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ネギ坊主の分析能力も魔法の運用能力も上がたものだナ。
試合開始に高畑先生に誘われたが、その次の瞬間にほぼ並列して魔法を3つ行使するとはネ。
準備が出来た瞬間に、爪先により多くの魔分を集め、高畑先生の頭上に虚空瞬動で上半身を下に向けて回転させながらを飛び上がり、続けて直角に右腕で崩拳。
落下速度と組み合わせて威力も上げる作戦カ。
高畑先生はギリギリで肩口に当たるのを逸らしたけど舞台には綺麗に穴が空いた上、接近された事には変わらずそのまま更に連弾・雷の29矢をネギ坊主は左手で発動。
高畑先生も瞬動で下がりながら本気で障壁を張ていなかたら危なかたネ。
早めに咸卦法使うといいヨ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

等速で行われているためネギ少年の試合はスクリーンでリアルタイム中継されているが会場は開始直前は子どもが格付けAA+のタカミチ君にどこまで頑張れるかとザワザワしていたが開始直後の一瞬で完全に観客は声を失ったのだった。
まず目を見張るのはネギ少年の身体を完全に球状で覆っている淡く光る魔分の層、魔法領域である。
会場にいる魔法先生では近衛門と葛葉先生しか見たことがない特殊技術であるため「なんだアレは……」と呟いたのが数人でたが、次の瞬間見事な虚空瞬動で頭上で切り返しを行い直下降、光の29矢桜華崩拳を放ち寸前で回避されたものの、舞台にくっきり穴が空きどれほどの威力なのかが鮮明になった。
終わりかと思えば左手からも拡散型の魔法の射手をタカミチ君に逃げ場が無くなるように放ち、「ネギ君今の動きは凄かったよ」なんていう甘い感想を言わせる暇も無いままタカミチ少年は後ろに下がりながら魔法障壁で威力を減衰させ、数本は本気でレジストした。
たった1秒弱の早業を終え、しゃがんでいた状態からスーッと立ち上がるネギ少年のオーラは魔法領域と相まってただの子供魔法使いではないのをはっきりと示していた。

「タカミチとの腕試しだからこそ、僕は本気でやるよ」

熱いと形容するにはあまりにも冷静に宣言した。
対するタカミチ君は予想外のネギ少年の実力を見て額に汗が浮かんでいる。

「ははは、まさかここまで成長していたとはね……。悪かったネギ君。僕も真面目にやらせてもらうよ。右腕に気、左腕に魔力……合成」

―咸卦法!!―

開始数秒でタカミチ君に咸卦法を使わせるに至ったネギ少年の姿をようやく観客も現実のものとして認識出来るようになり歓声が飛び始めた。
しかしタカミチ君は小手調べに普通の無音拳をまだ一発すら放っていない。
ネギ少年と小太郎君の戦闘コンセプトは不確定事項は早期に潰すというものの為、可能ならば速攻をかけるのでかなり殺伐としたものになりがちである。

「ありがとうタカミチ!」

「ああ、今度は僕からも行かせてもらうよ」

拳法の構えを取ったネギ少年にタカミチ君は今度は自分からも仕掛けるという発言をした瞬間ようやく一発無音拳が飛び出した。
既に咸卦法で強化されている無音拳であり、通常のものに比べると威力も段違いなので、タカミチ君の戦闘技術を知っている魔法先生にしてみればこれは終わったなという感じだった……のだが。

魔法領域に当たった無音拳は確かにかなり奥までめり込んだのだがネギ少年本体には届かなかった。

「やっぱりタカミチは凄いよ!こんなに削られるなんて!」

ネギ少年は突如テンションが高くなったが、観客との間には壮絶な温度差が発生している。
実際フェイト・アーウェルンクスの障壁突破石の槍すら一瞬留める事ができるのだから当然の防御力なのだがまたもやタカミチ君の無音拳の威力を知っている魔法先生達は「は?」と口を開けざるを得なかった。

「咸卦法を使った状態での無音拳を常時展開の障壁で防げるなんてね……」

タカミチ君も大いに驚いている。

「でも二発連続で撃たれたら突破されたよ。それじゃ、もう止まらないで行くからね!」

発言と同時に浮遊術で丁度良い高さまで飛び上がりまたもや舞台無視の行動が始まった。

  ―魔法領域 出力最大!!―
―光の7矢!―雷の7矢!―風の7矢!―
   ―双掌底 断罪の剣!!―

並列魔法運用にしてはレベルが高すぎるが最後のものは特におかしい。
とうとう断罪の剣がまほら武道会にあわせてギリギリで習得できたネギ少年であるが、剣として実体化させる事はできず、手の周りに展開するに留まっている。
しかし当たったら相転移する掌底なんて恐ろしすぎる。
地面にかすればその部分の土が消失するのだ。
ある意味咸卦法を使ってもらわないとネギ少年としても迂闊に使えなかっただろう。
浮遊するネギ少年の周りを3種合計21本の滞空する魔法の射手がグルグルしている光景に更に緊張の走ったタカミチ君は上空に向けて容赦なく無音拳を放った。
ネギ少年も同時に魔法の射手をタカミチ君を囲むように放ち、無音拳を虚空瞬動で回避または直接当たる軌道からズレるように移動してはお返しに魔法の射手を連射し始めた。
ネギ少年はそんな弾幕戦の中ジグザクに高速移動しながらタカミチ君の懐に近づいていき掌の断罪の剣をあろうことかポケットに向けて投げつけた。

「もらった!」

武器破壊もといポケット破壊とは恐れいった。
狙いを理解したタカミチ少年はその戦法にまたもや驚き身体を横に捻って全力で回避したが、その際上着の袖が消滅した。
高そうな背広……さようなら。
勿論それだけで終わる訳無く、破壊属性の光の矢29矢のセットがポケットに向けて猛威を振るい、タカミチ君もとうとう地上で戦うのが窮屈になったのか虚空瞬動で空中に飛び上がって回避し、魔法陣が描かれている足場を作って空中戦へと突入した。
審判の人は「カウント……どうすれば」という感じだったが場外に足が着いたわけでもないので問題ない。

1番最初の詠春殿対鶴子さん、2番目の古菲対中国拳法家で武道らしい戦いと思える等速試合になったと思えば、3番目のネギ少年対タカミチ君でまたもや派手なものになった。
因みに言うまでもないが古菲は少し時間がかかったもののしっかり相手をダウンさせて勝利した。
ネギ少年達が観戦していなかった理由は「瀬田はるかさんとゆー人との試合の方が面白い筈アル」と本人が言ったからであるが。

段々試合がエスカレートし始め、風精召喚の囮による分身が大量出現したと思えば、それを全部一気に吹き飛ばすように対軍用では?というような放射状に一斉に飛ぶ無音拳が出始めた。
ネギ少年にどこまで引き出しがあるのかとワクワクするような表情を浮かべるタカミチ君は、ネギ少年の腕試しをするどころか、会話なんてする暇は無いものの完全に試合を楽しんでいた。
一方観客はというと……。

「明石、高畑の奴やりすぎじゃないか?」

「ああ……刀子さんから聞いてはいたもののネギ君もここまで強かったのか。僕も瀬田教授との試合が終わったら申し込んでみようか」

「教授、程々にして下さい。ネギ先生は千の雷をあの年で既に使えますし、修学旅行では強敵を退けましたから」

「私はネギ君がエヴァンジェリンの断罪の剣をあの時使っているのを見たが成長がな……。葛葉、ネギ君のあの障壁は何だ?」

「私は実際に見ましたが詳しいことは分かりません。私の私見では障壁を解除して突破するタイプの攻撃にすら有効なようです」

「……万能だな」

「神多羅木先生、僕もうネギ君に勝てないですよ」

「瀬流彦、お前はお前で頑張れ」

「……はい」

「それにしてもよくポケットを狙うなんて手段に出るな」

「ネギ先生はあの年にして完全な敵に向かっては急所を狙う攻撃を躊躇無くしますよ」

「いつそんな風に育ったんですか」

「恐らく学園長が去年の冬に使ったスクロールが原因だと思います」

「スクロール?」

「詳しい事は聞いてませんが4日間スクロール内に精神だけ取り込んで何かをさせていたようです」

「学園長か……相変わらず情報を殆ど出さない方だな」

魔法先生たちは思い思いの感想を述べていたり、瀬流彦先生は自信を喪失していたりするが頑張れ。
3-A関係者の反応はと言えば……。

「か、かっこいい!!このか!今の高畑先生見た!?凄いわよ!!」

「アスナ……気持ちは分かるけど、ネギ君も凄いえ」

「あの先生と俺も戦うてみたいな!タッグでも面白そうやけど」

「小太郎君、それだと流石の高畑先生にも組む相手がいないと……」

「ネギ坊主よくやるアルね!」

「けーたろ!ネギ凄いな!」

「空飛んでるもんなー」

驚くところはそこか。

「はっはっは、良い功夫だね!」

功夫も混ざってるけど何か違うよ。

「景太郎兄ちゃん、俺も飛べるで!ほら!」

小太郎君も浮遊しだした。

「おおっ凄いよ小太郎君!」

「はー最近の子供は飛べるんだな」

タカミチ君も飛んでますよ、はるかさん。

「たまも飛んどるからな!」

「浦島も空飛んでみろ」

「ええ!?素子ちゃん、それ無理だよ!」

「お兄ちゃんならきっと飛べます」

「なる先輩達も祭りもいいがこっちを先に見に来れば良かったのにな」

「ウチが呼んだろか?」

「っておい、カナコ!どさくさに紛れて浦島に抱きついて持ち上げようとするな!むしろ私がやる!」

「ちょっとちょっとここで俺投げられても飛べないよ!?」

「モトコねーちゃんやれー!」

「問答無用!でやっ!」

「えええええええ!?」

浦島兄は吹き飛んでいった。
確かに滞空時間は数秒あった気がするがそれは飛んだとは言わない。
何にしてもひなた荘関係者は常にマイペースだった。

大事な試合の方であるが、5分程空中戦を繰り広げた上で再度会話の機会が出来た。

「ネギ君、もしあの舞台上で戦い続けたなら僕の戦場として有利だったんだけど今は空中戦だから本気で行くよ。まだ負ける訳にはいかないからね」

「タカミチまだ本気じゃなかったのか。うん……分かった!僕も精一杯やるよ!」

「よし、行くよ!」

フルパワー無音拳、射程距離も飛躍的に伸びる豪殺居合い拳の登場である。
確かに魔法領域を突破かつダウンを狙うならそれぐらいの威力の方が良い。
巨大なレーザーみたいなのが一発発射されたかと思えばネギ少年は回避、したところを読まれていたわけではないが続けて5発同時に同規模の豪殺居合い拳が飛んできたうちの一つにネギ少年はあえなく被弾した。
近衛門だと完全に移動先を読むのだが、タカミチ君の場合は移動しそうな場所に決めて放ったようだ。
見事に魔法領域を吹き飛ばし角度もクリーンに顎に入り気絶させたのだった。
しかしそれでもあれほどおかしな威力の攻撃をここまで軽減できるようになったのだからネギ少年は凄い。
今回の試合もやはり龍宮神社だったら被害総額が気になるレベルのものになったであろう。
墜落していくネギ少年をしっかり空中で受け止めたタカミチ君は地上の舞台へ降り、ゆっくり舞台に寝かせてカウントの開始である。
流石に既にかなり本気で戦ったタカミチ君も「君の想いはその程度なのか?」なんて気絶させたネギ少年に言って挑発するような状況ではない。

「8、9、カウント10!勝者高畑・T・タカミチ選手!」

上着が完全に駄目になっているタカミチ君はそのままネギ少年を抱えて魔法球から出てきた。
当然観客は大歓声を上げてネギ少年のねぎらいをしたり、タカミチ君に流石だ!という声が飛んだりした。
呪術協会との折り合いもあるので、ネギ少年が浮遊術を使えなかったならともかく、近衛門を除けば学園最強のタカミチ君が下手に手加減してネギ少年に負けるわけには行かない。
この辺りはどことなく詠春殿と同じである。

「詠春、ネギ君はどうでしたか?」

「ははは、大したものです。これならナギの遺言体とやらも喜ぶだろう」

「ええ、いつやるかが問題ですがやはり最終日がいいですね。まだ成長しそうですし」

「しかしタカミチ君にあの技を使わせるとは……」

「ガトウが懐かしいですね……」

「そうだな……」

「私達もタカミチ君に会いに行きましょうか」

「また休憩室ですか」

そう言って紅き翼の二人はタカミチ少年とネギ少年が多数の知人に囲まれながら移動していった回復施設に向かっていった。

一方、二人の試合が終る直前に長瀬楓と龍宮神社のお嬢さんの試合も加速魔法球で開始されたのである。

「真名とこうして戦うのは初めてでござるな」

「楓とは私も一度やってみたかったから丁度いいさ」

「制限時間15分試合開始ッ!」

実はこの二人双方の同意の元装備有りである。
ヤバすぎる。
クナイに巨大手裏剣それに対して実弾銃である。
これでどう寸止めするのか知らないが、同意が取れているのだから仕方がない。
ここの審判は加速魔法球だから等倍速より楽だろうなんて思っていたのだが、殺伐としすぎる試合を担当することになるとはなんとも不運である。
彼は真剣勝負すると聞いて本物の剣使うぐらいかなんて思ったりしたのだが実弾銃は本気で終わっているので試合開始早々、茶々丸姉さんの妹機と一緒に遠隔地からの審判というなんとも言えない状況になっている。

「真名、銃弾の費用は良いのでござるか?」

「超からのお布施の一部は私個人当てだから構わん。貴様相手なら惜しくない」

さて、実弾撃って長瀬楓は大丈夫なのかという疑問が残るが神鳴流を思い出して欲しい。
飛び道具は彼等には基本的に対面で撃っても弾くのだから、忍者だってそれぐらいできるのだ。
少し会話をしたかと思えば完全に真剣勝負に突入した。
長瀬楓が分身して4人になり各々気を纏わせたクナイを投げつければ、龍宮神社のお嬢さんが回避できないものについては二丁拳銃で撃ち落とし、魔眼でどれが分身かわかるためそれに対しては躊躇なく急所に弾丸を撃ちこむという応酬である。
分身もレバーを引いて巨大手裏剣を高速回転させ銃弾を弾き、そのまま投げつけ追い打ちで気弾も連射とこれが3-Aに所属する武道四天王の2柱だというのだから末恐ろしい。
後にこの二人の試合映像を確認したどちらかというと一般人寄りの選手の方々は、二人の個人情報に中学生と書いてあるのが信じられないし、あまりの危険さに閲覧中は青ざめていたが、終わってみるとその辺の下手な映画より迫力があったとかなんとかいう感想を漏らしていたようだ。
物は捉え方次第だ。
ネギ少年達が見た時には「二人共真剣勝負なんて危ないですよ!やめて下さい!」なんて注意したのだが、断罪の剣で相転移させる技を使ったネギ少年が言っても実はあまり説得力がなかったりする。
実際気で本気で身体強化すれば銃弾の一発ぐらい当たってもなんとかなるので意外と問題無い。
余程神鳴流の決戦奥義の方が危険である。

龍宮神社のお嬢さんには最終奥義があるもののそれは流石に出せないため、長瀬楓に分身という手段がある点で分が悪い戦いであったものの本体の右肩、左足に銃弾を命中させる事ができた。
足に当てた方法が地面に突き刺さった銃弾に角度をあわせて撃ち弾丸を跳弾させるという物だったが……。
しかしそれと引換えに片腕一本骨折を喰らい攻撃手段半減の結果首筋にクナイを突き付けられギブアップ宣言をすることになった。
なんていうかとにかく怪我が痛い。

「勝者長瀬楓選手!治療室に急いで下さい!」

「流石だな。本気でやると私の方が劣るか」

「真名には少しこの舞台は狭いでござろう」

「貴様も同じ事だろう。銃弾はどうするんだ?」

「こうするでござるよ」

え……普通に細いクナイ使って抉り出すんですか?
痛いからやめて!

「ひいっ!は、早く治療室に移動してください!」

審判さんに直視はちょっと……。

「おお、これは済まないでござる」

「足をやったからな……左肩なら空いているから掴まれ」

「かたじけない。しかしこれはすぐに治るのであろうか」

「すぐに治るらしいぞ。既に骨折した選手もいるようだが完治しているそうだ」

「それは凄いでござるな」

出血していたり盛大に骨が折れたりしているにも関わらず平然と会話している女子中学生なんて嫌だ。
細菌感染なんていうものが気になるかもしれないがそういうのも全部解決してあるので気にしなくて問題ないらしい。
どういう仕組みなのか聞きたい場合は超鈴音にどうぞ。

そんなやりとりが行われていた間、ネギ少年は休憩室に運ばれ数分間気絶していたが目を覚ましたところ丁度周りには皆が集まっていた。

「ん……ここは」

「あ、ネギ君起きたえ」

「ネギ!目覚めたんか!」

「ネギ!もう起きて大丈夫なの?」

「はい、大丈夫です。……あれ、僕タカミチと試合してて凄いのを喰らった気がするんだけど負けたのか」

そこへタカミチ君登場である。

「ネギ君、本気の一撃を当ててしまって悪かったね」

「大丈夫だよ、タカミチが強いのはよく分かった。いつか追いついて見せるよ!」

「ははは、ネギ君ならもう1年もしないうちに僕は追い抜かされてしまいそうだけどね」

「……そうかな?」

そこへ更に顔を出すのは……。

「ネギ君、先程の試合は見事でした」

「お久しぶりです、ネギ君」

「あ、詠春さんにクウネルさん!どうしてここに?」

「学園祭を回りに出てきたついでにタカミチ君に会いに来ました。詠春もいますし紅き翼が3人揃いましたよ」

「あ、本当ですね!」

「あまり大きな声で言わない方がいいですがね」

「詠春、あなたはもう十分目立っているではないですか」

「そうやよ父様!」

「……これはお恥ずかしい」

更にそこにやってきたのは……。

「真名との真剣勝負はなかなかでござったな」

「ああ、私も久々に骨のある戦いができたよ」

未だ血が出てたりするが、ネギ少年達がいる所に平然とやってきて椅子に座って二人は休み始めた。
当然二人の銃創と骨折を見て「何やってたんですか!」という話になり端末で映像を確認してみれば真剣勝負であった事がわかりネギ少年が先生として注意したりと騒ぎになったが実際みるみるうちに二人の怪我は治ってしまったのでなんだかんだ有耶無耶になった。

そんな事が休憩室で繰り広げられている一方4番目の等速試合も始まろうとしていた。
試合の組み合わせは明石教授と瀬田教授という教授バトルである。
教授同士であるのにその舞台が武道会というのは何なのだろうか。

「瀬田教授、お会いできて光栄です。私も麻帆良大で教授をやっているんです。後でよければサインを貰えませんか?」

「おおっ、そうですか!僕のサインで良ければどうぞ」

「ありがとうございます。それでは試合の方もお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

ネクタイ無しの黒服を着ている飄々とした瀬田教授とワイシャツネクタイにベストを着用している明石教授の試合である。
全然武道会と言える服装ではないがこれが彼等の正装なのだろう。
瀬田教授は素子さんよりも強い程の截拳道の達人であるものの、奥さんには勝てない……がこれは相性というかそういうものなので仕方がない。
さて、明石教授は今となっては普段たまに麻帆良の警備に出てきては管制を担当することばかりだが、実は戦闘の実力はかなり高い。
なら何故警備で前線に出ていないかと言えば奥さんが魔法世界での任務に出た際に亡くなってしまい、これで明石教授まで何かあれば娘の明石裕奈が一人きりになってしまうからという近衛門の配慮がある。
元々1993年にその任務に立候補した明石夕子さんをエージェントに最終決定したのが近衛門だったというのも大きな理由である。
その任務というのはナギ失踪の後すぐの調査のためのものであり、任務中に何かマズい情報を掴んでしまったかどうかは憶測でしかないのだが殉職しているのだ。
この事件は麻帆良にとっては魔法世界での大戦以来の悲しい出来事であり、しかも任務に関する詳細情報が一切降りてこなかった為近衛門はメガロメセンブリアの一部が臭いと睨んでいたが、それよりも麻帆良を守らなければならなかったため深入りはできなかったのである。
話を戻すと明石教授は魔法世界にいた時にはメガロメセンブリア正規軍武装隊で部隊長を務めていた事もあり、普段のだらしない生活からはあまりイメージが沸かないが近接格闘戦においてはそれ相応の実力がある。

「試合開始ッ」

―戦いの歌!!―

明石教授はやはり白兵戦には欠かせない戦いの歌を使用し身体に対物魔法障壁を纏い、身体能力及び反射神経を上昇させた。

「僕から行きます明石教授!」

と一応年齢的に若い瀬田教授が先に仕掛け開幕となった。
格闘戦の様相はウルティマホラでの古菲対超鈴音戦を超えるハイレベルなものとなり、観客は大いに盛り上がりだした。
しかし瀬田教授は相変わらず爽やかに笑いながら一切焦る様子も見せずバシバシ散打を打ち込むものだから、明石教授としては気の扱いに長けているどころかとんでもない達人だと実感せざるをえなかった。
戦いの歌を使用している魔法使いの動きに余裕の表情で対応できる東大教授って一体何だ、としか言いようがないが、打撃のみかと思えば突然バク宙から蹴り技を繰り出したりと終始トリッキーな動きをしていた。

「明石教授、いい功夫ですね!」

「瀬田教授もお強いですね!」

と真剣勝負をしながらも仲良くなりつつあり、互いに挨拶を欠かさず、ガンガンぶつかり合っている。
二人共手足が長いためスタイリッシュ格闘とでも言えばいいのか、神楽坂明日菜がイイ感じに渋いこの二人を見たらきっと気に入るであろう。
互角かと思えば瀬田教授の攻撃はクリーンヒットすることがあるが、明石教授の攻撃は常に寸前で華麗に完全にガードされるか逸らされ回避されるかして防がれているため実際一方的な試合になっている。
数分間の戦闘の結果気がつくと膝がガクガク言い出したのは明石教授でギブアップ宣言をしたのであった。

「いやー、参りました瀬田教授」

「はっはっは、明石教授も良い試合でしたよ」

お互いニコニコした表情のままガシッと固い握手をして試合を終えたのだが、非常に爽やかでよかったと思う。
この試合映像を明石裕奈が見たら負けはしたものの父親の格好良さのあまりいよいよ「結婚しよう!」なんて真面目に言い出しそうであるが。

「瀬田やん強いな!」

「相手の人も強かったが……この大会は凄い。今まで開かれていなかったのが惜しいぐらいだ。次は浦島の試合か、子供に負けるなよ」

「瀬田教授みたいに勝てるかなー。俺飛べないし」

ネギ少年のいる休憩所から先に飛び出してきて会話を聞きつけたのは。

「おう、景太郎兄ちゃん!飛ばないから安心してや!俺は地上戦も得意やで!」

「それは助かるよ。流石に飛ばれたらどうしようもないからさ」

「浦島、木刀使うか?」

「んー、小太郎君が素手なら俺も素手だね。それじゃ行こうか」

「よっしゃ、よろしく頼むで!」

引き続き倍速魔法球で小太郎君と浦島兄の試合である。
一緒に魔法球に入った観客はひなた荘関係者の人達と飛び出していった小太郎君の後を追うようにやってきたネギ少年達である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

コタロー君の初戦の相手の浦島景太郎さんは強そうに見えないんだけど……。

「よーし、やるぞ」

あれ!?突然構えた途端見ててわかるぐらい凄い気だ!

「何や景太郎兄ちゃん本気出すとそないになるんか!面白いな!」

「制限時間15分試合開始ッ!」

「ハッ!」

あの構えは箭疾歩!
この人瞬動術ができるッ!
当たる寸前でコタロー君も後方に瞬動で回避したけど鋭い!

「ッ!?ネギの得意技やないか!慣れとらんかったら危なかったわ。俺からも行くで」

―狗音爆砕拳!!―

「うわッ!何だその不思議パンチ!」

コタロー君の動きに対応した!?
寸前で腕の軌道を逸らして避けるなんて!

「避けるんか!やっぱ面白いわ!ガンガン行くで!」

コタロー君も景太郎さんがどれぐらい強いのかわかったみたいで殆どいつも通り戦ってるけど景太郎さんの避ける時の声でなんだか気が抜けるな……。

「浦島は避けるのは上手いな……」

「素子が景太郎に長い事散々襲いかかったからだろうに」

景太郎さんって……。

「よう避けるな!でもこれならどうや!分身!」

「ぶ、分身!?忍者か!?」

「忍者ではないでござるよ」

楓さんに言ってるんじゃないですよ!

―疾空黒狼牙!!―

3体で一斉に狗神を飛ばして攻撃だけど……凄い!
避け方はなんかその場繋ぎだけど捌いてる!
あっ当たった!

「あぷろっ!」

あぷろ……?

「いやー、びっくりしたよ。何か飛んできたし、ははは」

何事も無く起き上がったしまだ全然ピンピンしてる!?

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

何か決まった型で動くというよりガン避けしつつカウンターを仕掛けたりする浦島兄であるが攻撃を喰らうと謎の声をあげるのには突っ込んではいけないのだろう。
最初は面白がっていた小太郎君であるが、何度攻撃を当てても「ははは」とか言いながらまるで無傷の状態で起き上がってくるのを見て段々気味が悪くなってきたのか、凄く嫌そうな表情をしだした。
一応武道会なので春休みの翼竜の角を折るような人間に対して致命傷レベルの攻撃をする訳にも行かず、延々と打ち合いを続けるものの相手はピンピンしているのにカウンターは痛いという小太郎君にとってはジリ貧の戦いになった。
獣化すればすぐに怪我なんて治るのだがそれはそれで何か負けた気がするので嫌なのだろう。
確かに軽い笑いを発しながら戦っている相手に本気を出すには気分も乗らないのは分からなくもない。
途中素子さんが「浦島!気合が足りんぞ!」なんて言っているが多分彼は窮地に追い込まれると鋭くなるタイプだと思われるので、真剣で斬りかかったりしない限り本領は発揮されないのだろう。
総評としては気の抜けた高レベルな戦いと言える。
殴られるたびに「けーたろやられたー!」等とひなた荘の住人が囃し立てるものだからそれを更に増長させたのも原因だが。
結局15分間やり続けて引き分けである。

「景太郎兄ちゃん身体どうなってんのや……」

「あー俺不死身だからさ」

「何やて!?」

「「「不死身!?」」」

流石にこの発言には3-Aの皆さんも驚いたようだ。
ネギ少年の身近で不死身といえばエヴァンジェリンお嬢さんしかいないのだが、比較対象としては何か違うような気がしてならない。
日本武道館のてっぺんについている高さ3.35m、直径5.15mの擬宝珠という、実際玉ねぎみたいな見た目をしているものがどういう訳か飛んできて彼に直撃してもただの足の骨折だけで済むのは不死身と判断してもよさそうではあるがやっぱり違うと思う。
何か深く突っ込んでは負けだという空気が広がりとりあえず小太郎君は浦島兄と握手をして初戦を終えたのだった。
何やら古菲は「強い男……アルか?」と呟いていたが強いには強いが分類するなら「打たれ強い」だろうが、それで気に入ったのならお好きにどうぞ。

その次の等速試合6戦目は素子さんと鶴子さんではなく、違うお姉さんの仙子さんとの試合であった。
この試合は初っ端から本気で行われ、素子さんは長引かせるのが嫌で嫌でたまらなかったのか本気で攻め真剣でないものの帯電している状態での寸止めになったが「素子はんと試合できて楽しかったどす」とにこやかに感想を言われたのだった。
その際言われた素子さんの額の辺りがピクピクいっていたが恐らくまだ後に数人控えているからであろう。
数年間関東に出て割と平穏に好きなように修行していたところ麻帆良に来てみればこのザマである。
早期に終わったとは言え、舞台はやっぱり跡形もなく消滅することとなり、観戦していた男性選手は美人のお姉さんと戦ってみたいと一度でも思ったことをなんて愚かだったんだと悟った。
それでもその更に一部の人達に回復施設の効果を知った上で切られる瞬間を脳裏に刻んでみたい等というとんでもない趣味の持ち主もいて二戦目の試合に早くも申請していたそうな。
まあ需要と供給がうまくあうならそれでいいのではなかろうか。

さて、ようやく一戦目が一周したところで、いよいよ古菲の確定指名戦である。

「はるかさんよろしくアル!」

「ああ、よろしくな」

「試合開始ッ!」

夫婦そろって飄々としているが瀬田はるかさんは八極拳の達人であり、一方古菲のメインは形意拳と八卦掌であるが八極拳に関しても他人に伝授出来るほど熟達している。
そもそも八極拳とは超近接戦闘を得意とする拳法であり、二人の試合では周囲に莫大な被害が出たりはしないが、観戦する側としては全く目が離せない試合内容となった。

「くーふぇさんもはるかさんも凄い……」

「はるかの姉ちゃん古姉ちゃんより強いで!」

はるかさんはどうやら小太郎君にはまだまだお姉さんの部類らしいです。

「古は一般人では最強の部類に入ると思っていたが世界は広いな」

「拙者も驚いたでござるよ。近頃気の扱いについて共に修行して相当成長したがそれを超えているとは……」

「はっはっは、あんなに若いのにはるかと張り合うなんて将来凄いだろうね!」

被弾する度に辛そうな表情を浮かべる古菲に対して表情に特に変化もなく黙々と打撃を繰り出すはるかさんはまさに達人である。

「はるかさんは誰か師匠がいたアルか?」

「あー、義母と相手をしたり、瀬田を殴っていたら自然とな」

……環境と慣れって怖い。
まあ浦島ひなたという現在世界中飛び回っているお婆さんも壮絶に強いので自然とというのは別に冗談ではないだろう。
実際浦島妹もそのお婆さんから鍛えられていて強いのだから。
全体的にひなた荘関係者は主に男性が殴られるのが常であるが、正直まっぴら御免である。
ウルティマホラの普通の一般人同士の試合であれば、間合いを読んでしばしにらみ合ったりする時間があったり、打撃が直撃すればそれだけで一度仕切りなおしなんて事も多いのだが、この気の達人とやらは体全体を鎧みたいな硬さにあげる上、更に硬気功なんていう一般的に実戦ではとてもではないが使えないようなものを普通に使用するのだから次元が違う。
例えば肘打ちなんてまともにくらってそのまま立っていられるだろうか、少なくとも私のインターフェイスで普通にやられたら魔分で保護するか痛みを遮断していなければ確実にその場で倒れるだろう。
極まっている人間を見るというのは実に面白いが、やはり世界全体の総数からみれば彼等は一握りにしか過ぎないのである。
そう考えれば超鈴音がこうしてまほら武道会という場を設けることによって各地に散らばる人々を集合させるというのは確かに苦労して実現するだけの価値があるというのも分かる気がする。
二人の試合で先に倒れてダウンしたのは古菲であった。
それまでの数分間の中で何度か膝を地面に付くことがあったがその度に不屈の闘志で再び立ち上がり果敢に立ち向かっていく姿は実に生き生きとしていた。
古菲にとっては同じ中国拳法の使い手でここまで強い相手に会ったのは久々としか言いようがなく受けたダメージに辛そうであるものの楽しくて仕方がないという顔であった。

「……私こんなに強い八極拳の達人を見たのは故郷の両親以来アル」

舞台に寝転がったまま話し始め。

「私も驚いたよ。その年でそこまで強いなら私の年齢……には遥かに強くなっているだろう。今回のはただの年齢の差だな」

年齢の件でやや自分で言って何か嫌だったのか詰まったようだ。

「試合受けてくれてありがとアル!楽しかったね」

「それはどうも。たまには知らない相手とやるのも悪くないな。自分で起きれるか、ほら手を出しな」

「ありがとアル!握手するネ!」

「ああ」

手を出されてそのまま起き上がり握手となった。
魔法球から出てきた二人は温かい拍手に包まれ、それぞれネギ少年達の所、ひなた荘関係者の所へと移動していった。
やはり武道会というのはこういうものの方が合っている。
はるかさんは速攻でタバコを吸い始め、瀬田教授もつられて吸い始めたがここ禁煙とかあったのだろうか。
知らない。
タカミチ君や神多羅木先生も吸ってるから問題ないと……思う。

とにもかくにも、一戦目がようやく終りを迎えたわけだがまだまだまほら武道会も麻帆良祭も始まったばかり、時間は丁度昼少し前である。



[21907] 35話 アーティファクト発動!
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/09 19:48
これでとうとうA組の麻帆良祭も三回目だわ。
シスターシャークティから聞いてたけど龍宮神社で超りんが開いたまほら武道会ってのやってるんスよ。
で、私は観に行かないのかってそんな面白いこと見に行かないわけない……んだけどさ、ほらネギ君いるから会ったら困るなーという事でね。
超りんから端末もらっちゃってんのさ。
これ元々選手用の端末らしいんだけど、少しデチューンして試合映像だけ見れるようにしてくれたみたいね。
やっと一戦目ってのが終わったみたいなんだけど全部見ると5、6時間かかるんだけど何これ。
ダイオラマ魔法球ってので試合やってるからなんだろうけど確かこれまほネットで見た時とんでもない額してた筈だし、そもそもこんなホイホイ出たり入ったり出来なかったと思うんスけどね。
後でどうなってんのかちょっくら見にくかー。
とりあえず見てみたい試合は周りに3-Aの皆がいないところでいくつか見てみたんスけど、このかのお父さん?の試合やべースよ。
相手の女の人怖すぎだろ。
選手の個人情報のところに青山鶴子:主婦ってなってるんだけどお前のような主婦がいるか!ってね……。
マジ無いわー。
たつみーと楓の試合も気になりすぎて見たけど両方共通すんのは審判の人が一番かわいそうだわ。
私だったら審判なんてやらん。
流石にこれは朝倉でも嫌がるよ。
てかなんでたつみー達真剣勝負してんのさ。
明らかに楓銃弾受けてたしそれアリなのか?
怪我はすぐ治るとかそういう問題なのかね……。
愛衣ちゃんの試合も見たけどこういうのが普通ッスよ。
私も、もし……もしだけど出てたら確実にこんな感じになるね。

で、今丁度昼で五月と西川さんのいる超包子で昼飯食べた訳さ。
そしたら超包子主催の

「激走鬼ごっこ~麻帆良を駆け抜けろ~」

なんていう適当な副題まで付いてる「イベントやるからよかったら出てみてね」なんて言われたんだけど無駄に凝ってるよ、コレ。
超包子は今年の麻帆良祭に10店舗まで出てるんだけど、それに合わせて同時刻から10店舗で同時に鬼ごっこやるんだとさ。
で、鬼の役は誰かっていうと私達の女子寮を去年から守ってる田中さんと別シリーズの鈴木さんと佐藤さんが参加者数にあわせて1店舗につき数体……人か?が最初鬼として1号店なら1号店のゼッケン付けて麻帆良をうろつくらしいのさ。
イベントに参加する側は当然逃げる側で、登録をした店舗の番号付きのゼッケンを貸し出されて対応する店舗の鬼から逃げるって訳。
因みにゼッケンって言う割には雪広グループも監修してるだけあって相変わらずセンスがいいから着てもいいじゃんって感じだから別に気にならないね。
でもって対応する店舗の鬼だけに見つからなければいいのかっていうと、他店舗の鬼の視界に入ると追いかけてはこないけどそこに居るっていう情報がすぐ伝わる仕組みみたいで油断できないわ。
しかも時間がある程度経過すると田中さん達の数が増えるのね。
そんでタッチされればゼッケンのセンサーから情報が店舗に飛んでアウトになると。
あとまた別に端末があって、超包子からイベント中の情報を受信したり、時間表示、全参加者の現在位置色別でわかる麻帆良のGPS地図機能、参加者同士でメールをやりとりできる機能が搭載されてるのが配られるのね。
他にも特殊な機能がついてて、長時間屋内に隠れているようだと失格の判定がされるらしい。
これ絶対開発したの超りんだろ。
妙なものよく作るよなー。
ここまで見ると人によっては簡単そうとか難しそうとか思うけど、出場を決意させる餌がね……。
賞金が毎秒200円ずつ増加していって90分間逃げ切れば108万円の賞金か超包子の商品券200万円分を選べるんだってさ!
まあ多分こんだけ高いって事は相当難しいんだろうと思うけど参加するだけでも超包子の商品券1000円分は確実に貰えるし、45分逃げ切った段階で5000円、75分で5万円の商品券は確定するんだと。
時給換算すると高すぎだろ。
いや、ってか商品券200万円分を選ぶにしても誰が使い切るんスか。
毎日三個肉まん買い続けても10万もいかんでしょ。
五月の本格的高級中華料理のコースでも頼んだら……ってそんなのあったか?
先着順に1店舗50人までで最大で一度に合計500人までだけど十分多いね。
普通鬼ごっこなんて数人でやるもんだろ。
でもってこんだけ真面目にルール見たからには私は出るに決まってるッスよ!
これはアーティファクト使ってもよさそうだなー。
逃げるだけしか能が無い私のアーティファクトだけどこれはいける。

「美空ちゃん出るの?」

「はい、面白そうなんで」

「じゃあこれがゼッケンと端末ね。美空ちゃんは大丈夫だと思うけど端末持ち帰ろうとしても発信器付いてるから気をつけてね」

「大丈夫です。確かにこれだけ高機能だと持ち帰りそうな人いそうですもんね」

「流石超ちゃんよねー。それで開始時刻は13時丁度からだから頑張ってね。それまではどこに行ってても大丈夫よ」

「但しその時に屋内にはいないようにって事ですか?」

「そう、それよ!まあちょっとぐらいなら大丈夫だけどね」

「分かりました。西川さんも仕事頑張ってください。五月も頑張ってね」

「行ってらっしゃーい」

忙しそうな五月は何も言わなかったけどこっちみて微笑んでくれたわー。
そんじゃちょいと本格的鬼ごっこやってみるか!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会も一戦目が終わたけどかなり盛り上がたネ。

「魔法をこうして見ると凄いですねー」

「科学でも似たような事ができるけどネ。こういう戦いだけでなく日常生活にも役だてられるヨ」

「鈴音さん、魔力炉の安全性ってどうなんですか?」

「ふむ、基本的に暴走させない限り危険ではないのだが当然強い衝撃を与えれば爆弾のようになるのは科学と同じだヨ」

「茶々丸を開発して思いましたがそれでもかなりクリーンなエネルギーではありますね」

「クリーンと言えばクリーンだが反応のさせ方次第ではあるヨ」

「いつか魔法世界行ってみたいですねー」

「今すぐには無理だがそのうち楽に行き来できるようになるかもしれないネ」

一戦目で目立た試合が魔法かというとこのかサンのお父さんと青山鶴子サンの試合が最初の試合にして一番迫力があたナ。
あれが気でできるというのだから神鳴流は凄いネ。
二戦目も既に始まているが、流れ自体はうまくいているし途中で抜けても大丈夫そうだナ。
翆坊主によるとクウネルサンも来ているようだがネギ坊主の下見という所だろうネ。
やはり最終日に試合をセッティングする事になるだろうが恐らく空中戦を普通にするだろうし魔法球の中で全く問題無いだろうナ。
しかし少し前神鳴流のお姉サン達が18時以降に魔法球を貸して欲しいと言てきたがニコニコしている割にはプレッシャーしか感じ無いのだからあれは脅迫に近いヨ。
西川サンからの連絡で超包子の鬼ごっこ企画ももうすぐ始まるようけどどうなるだろうナ。
今年の麻帆良祭では広域指導員の先生は一般の先生が殆どで、魔法先生はまほら武道会の合間に交代でという感じだが、それで足りない分は雪広グループの社員サン達が腕章つけて表で色々サポートしてくれているヨ。
基本的に麻帆良祭でははっきりとした死者が出るという事が無いのだがそれは麻帆良の異常性の賜物でもあるナ。
外でやったらプロペラ機の試験飛行なんてどこかに墜落するかもしれないのだからネ。
さて、一度クラスに戻てお化け屋敷の客寄せもしておかないとネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

よーしもうそろそろ13時だね。
端末確認する500人全員参加か。
田中さん達の数は100人か1体あたり5人の計算ねぇ……少なくとも私は1号店の10体から確実に逃げればいいと。
丁度龍宮神社の付近に来たんだけどここ佐藤さん多すぎだろ……。
あれ?何あの飛んでるカメ。
こっち来たし。

「みゅ~」

なにこれ可愛い。
おっ小さいネームプレート付けてる。
温泉たまご……何だそれ。
ペット買うにしてもなそんな明らかに商品名っぽいのは無いだろー。

「たまごちゃん……たまちゃんってとこか」

「みゅ、みゅ~」

うわー何言ってんのかはっきり分かんないけど頷いてるから多分それでいいみたいだな。
実は頭いいのか?
ってか飛ぶカメなんてどこぞの映画じゃないんだから……龍宮神社付近にいるあたり魔法生物かな。

「私今から鬼ごっこやるんだけど何か用かい?」

「みゅ~?」

質問を質問で返されてもなー。

「とりあえず時間だし固まってると危ないから移動するか。じゃあたまちゃんまたね」

さてと……アーティファクト使っとくか。

「アデアット!」

特に麻帆良祭だからって私みたいな魔法生徒に何か役目が回ってくる事なんてないんだけどどうすっかなー。
桜子でもいたら運で切り抜けられそうなんだけど……。
ちょっと麻帆良教会の上にでも登ってまほら武道会の試合でも見るかな。

一気に走って……え!?なんでたまちゃんついてきてんの!?
時速何km出てると思って……。

「たまちゃん、どうしてそんなに速く飛べるんだい?」

「みゅみゅみゅー」

ヒレでジェスチャーすんのうまいなー。
任せろ!ってとこか。

「分かったわ。たまちゃんいつまで一緒にいるか知らないけど付いてきていいよ。後で龍宮神社に……って自分で戻れるか」

「みゅう!」

賢いな。
あれ、でも龍宮神社入るのってこっちの端末必要なんじゃなかったかな……。
ま、いっか。

「まあ飛ぶの大変だろうし頭の上に乗る?」

「みゅ」

実は今シスター服着ちゃってるから直接の感触は無いけどね。

「よし、乗ったね。そんじゃ出発!」

このアーティファクト脚力も上昇する上、とにかく足場がある限り直角だろうとなんだろうと走り続けている限りは落ちないっていう代物だから逃げるという点では相当有利だよなー。
適当に建物の屋根に飛び上がってと……後は屋根伝いに麻帆良教会まで一直線よ。

ほっ、そっ、よっ、はっ、とっ!そいっ!
……よーし到着、ここならしっかり屋外だし問題ないだろ。
見晴らしもいいしさ。
GPSで居場所がわかるからちょいマズい気もするけどいいよね。
端末一応確認するかー、どれどれ……げっもう人数減ってんじゃんか。
早過ぎるだろ。
……また減ったな。
実際鬼ごっこって言っても大通りなんかはそんなあちこち走り回れるほど道空いてないし鉢合わせしたら終わりだもんなー。
おっ何か麻帆良大の中央公園に集まってる人達いるみたいだけど何やってんだろ。
集団戦もできるみたいだから協力は確かに有効だけど。
メールも確認しとくか。

13:06to全体[双眼鏡貸出]
麻帆良大学工学部キャンパス中央公園で双眼鏡の貸出を行っています。
数に限りがありますがよければ是非。

はー多分大学生だろうけど、真面目にそんな事すんのか。
多分個人の携帯同士で常に通話状態にするのもありだろうから360度視界を確保できれば強いっちゃ強いだろうな。
このメール情報田中さん達に漏れてたりしたら一網打尽にならんのかね。

ん、個人メール来た。

13:12fromキツネto謎のシスター
シスターさんでええのかな。
ウチ近くにいるんやけど、そこにいるとアウトになるで。

いやー、わざわざありがたいけど、ここ屋上だからさ、大丈夫だわ。
ってか何で登録名が……地図、これ人の位置タッチすると個人情報出るのか!
どんだけ高機能なんスか。

「みゅ~」

「ん?たまちゃん何?」

ヒレで指し示してるけど……ああ。

「ゼッケン付けてる……あれがキツネさんっていうか何人かいるね。一応メール返しとくか」

全員私より年上っぽいなー。

13:15toキツネ
ご忠告どうもー。
実は屋根の上にいるんで多分大丈夫です。

しかも同じ1号店の登録者の人か。

「みゅっ!」

お、たまちゃん飛んでったな。
キツネさんとこか……飼い主なのか?
何か知ってるっぽいな。
おっこっちにヒレ指してアピールしてるし。
気づいたみたいね。
やっぱ驚いてるけど手振ってくれてるわ。
私も振っとこう。どうもー。

たまちゃんももう終わりかー……ってまた飛んできた!

「みゅう!」

「どうしたのさ、飼い主じゃないの?」

「みゅー」

飼い主だけど、また後で会えるから大丈夫?
なんとなく意思疎通できるのはなんでかね。

「まー、たまちゃんがそれでいいって言うならいいよ」

また頭に乗ってくれたけどこの子人の頭乗るの慣れてるっぽいね。

さてと……ネギ君と高畑先生の試合でも見るかな。
うわーもうデータ100試合超えてんのか。
超りんが開催したって話だけど凄いな。
おっとまたメール来た。
今握ってたからわかるけど、これメール受信したのわかるように変えた方がいいかな……。

13:17fromキツネto謎のシスター
たま頭いいから大丈夫やと思うけどよろしく頼むわ!

13:17fromなるto謎のシスター
落ちないように気をつけてねー。
たまちゃんお願いします。

13:17fromしのぶto謎のシスター
どうやってそこに登ったんですか?

あそこにいる人3人か。
やっぱたまちゃんでいいのか。
だったら「温泉たまご」じゃなくて「温泉たま」でいいじゃんか!
なんか語呂悪いけどさ……。
とりあえず一括送信はと。

13:18toキツネ,なる,しのぶ
途中どっか行ってしまうかもしれませんけどたまちゃんは任せてください。
登った方法は企業秘密でお願いします。

これでよし。
ネギ君の試合は……これだこれ。
いざ、映像再生!
なるほど、高畑先生の接待試合……じゃ無いっ!?
ネギ君コエーよ!
なんだこれ!
舞台に穴空きすぎ!
いやいやいや、修学旅行で何か凄い強いのは少し見たけどさ、どんだけ強くなってんのさ……。
楓の長距離瞬動見た時も驚いたけど、虚空瞬動なんて前パラパラ見た上級教本にすら載ってないかったような……。
まー魔法使い全員が瞬間移動しなけりゃいけない訳でもないから必須技能でもないし。
あっちの拳闘大会とかだと使えて当たり前だろうけど、進む方向性が違うからね。
しかもよく分かんない障壁張ってるし、魔法の射手も20本以上出たけど全部無詠唱ってことか……愛衣ちゃんで驚いてたけどそれどころじゃないわな。

「みゅ~」

「ん、何?鬼ごっこの端末?いいよ、ほら」

たまちゃんって何のカメなんだろ。
機械扱えるとか凄いわ。

試合の方はもうね……さっきお前のような主婦がいるか!って思ったばかりだったけど、お前のような子供がいるか!って感じだわ。
ネギ君のお父さんも強かったってのはあっちで有名だけど大概だな。
こうして端末でみると何かのCGだと思えてこなくもないんだけど実際の試合なんだもんね……。
アーニャちゃんの占いで出てたネギ君と一緒の旅ってこんなに強くても困難だなんて、もしかして社会的に大変って事なんスかね……。
そりゃナギ・スプリングフィールドの息子だなんて知られれば社会的に大変だろうけどさ。
最終的には高畑先生の勝ちか。
なんつービーム放ってんだよ!

次はアスナと桜咲さんの試合……って何でアスナ!?
いつ魔法生徒になったし……。
修学旅行でどうなったか詳しく知らないけど記憶消せなかったのか?
しかも何でアスナも高畑先生と同じ事できてんのさ。
前から身体能力おかしかったけどもう私より強いだろー。
絶対ネギ君の周りって何かおかしいよな。

ふぅ……もうそろそろ1時40分ぐらいか。
もう後半分ちょい粘ればいいだけって余裕じゃないか?

「たまちゃん端末いい?」

「みゅー」

何いじってたんだろ……ってえええええええ!?
メール打っとるよこの子!

13:24toなる
景太郎 武道会 一試合目 引き分け
ニ試合目 勝ち

13:26fromなるto謎のシスター
たまちゃん?分かった、ありがとう。

13:27toキツネ
世界樹広場 安全

13:28fromキツネto謎のシスター
たまちゃんありがとな!

13:31fromしのぶto謎のシスター
たまちゃん私には何か無い?

13:33toしのぶ
しのぶ 頑張って

13:34fromしのぶto謎のシスター
たまちゃん、ありがと!

13:37toキツネ
神社 安全

13:38fromキツネto謎のシスター
分かったで!

……えーと、この人達何スか。
普通にこのメール送ったのがたまちゃんだって分かって対応してるこの人達もそうだけど、文字理解して単語だけどそれだけでもわかるメール打つカメって何さ。

「たまちゃんって頭いいの?」

「みゅう!」

「そうかそうかーえらいなー」

どうも景太郎って人もたまちゃん達の知り合いってみたいだしキツネさん達も裏関係なのかなー。
って45分経過きたわーこれで5000円ゲット!
うますぎる!

13:45from超包子to全体[フェイズ2移行のお知らせ]
参加者の皆様、当イベントも残すところ半分の時間となりました。
つきましては鬼の機動性能が向上します。
残りの参加者の皆様のご健闘をお祈りしております。
尚今まで安全であった場所にいた方も油断なさらぬようお気を付け下さい。
脱落者数345人
残存者数155人

げっなんじゃこりゃ。
しっかし随分脱落者でたなー。
田中さんの機動性向上ってあれか、何かスーパーになる奴か。
もしやここも危ないのか。

「たまちゃんどう思う?って何その縄どっから出したの?持ってろ?」

「みゅっみゅ!」

「後ろ?……って出たああああ!」

田中さん出たわー!!
登ってくんな!
はい上がってくんの怖いから!
これは難易度高すぎるだろ!

「逃げるッスよおおおお!!」

つかもう一人につき1体レベルの比率になってるしこっからは体力勝負なのか?
あ……でも脚力だけ上昇で走る速度はセーブしてあんのか。
普通に振り切ったし。
キツネさん達まだ無事みたいだけど、運良いのか?

「みゅい!」

またヒレのジェスチャーですか。

「たまちゃんそっち?GPS的にキツネさん達の方だね。ま、いいよー」

屋根の上もそろそろ駄目つっても自動車ぐらいの速度なら問題ないね。
風を受けながら走るのはやっぱいいねー。
やっとっ、ほいっ!
なんつーかあちこち佐藤さんとか鈴木さんもいるなー。
7、9、4、2うーん全部違う。
向かってる方向がたまちゃんがメールで送ってた神社なんだけどなんで安全って分かんのかね。
そういう場所が時間で変化すんのかな。
あーいたいた。
……着地と。

「あーどうも、謎のシスターです。たまちゃんがこっちってジェスチャーしてくれたんで来ました」

「こんにちはー、私がなるよ」

「こんにちは、しのぶです」

「お!よう来たな!ウチがキツネや。さっき遠くでよう見えんかったけど中学生ぐらいか?」

なるさんスゲー美人、どことなく長谷川さんに似てる……ような気もする。
しのぶさんは麗しの高校生って感じか。
キツネさんは一番年上みたいだけど多分キツネってのは本名じゃないな。
目元の特徴的なもんだろ。

「あ、はい、そうです」

「みゅー」

「たま、楽しかったか?」

「みゅう!」

「よかったね、たまちゃん」

私の頭の上にいただけの気がするんだけどね……。

「あの、たまちゃんがメール打てたのも驚きなんですけど鬼には会わなかったんですか?」

「そうやな、なんでかわからんかったけど会わなかったな」

「近くに違う店舗の鬼は来たんですけど、すぐ違うところ行っちゃいました」

「あ!またメールよ」

13:50from超包子to全体[鬼の人数増加のお知らせ]
これより各店舗の鬼の数が5体ずつ増加します。
残っている参加者の皆様のご健闘をお祈りします。
脱落者数382人
残存者数118人

「まだ増えるんか」

このまま時間が経つ度条件が変わってったらほんと全然人残らないだろ。

「で、たまちゃん、この縄は何だい?」

「みゅいっ!」

おお、しのぶさんに巻きつけ始めたんだけど何の真似だ?

「あー懐かしい、たまちゃん一人ぐらいなら持ち上げられたわね」

「えっ!?」

どんな力持ち何スか。

「わー、たまちゃん飛ばせてくれるの?」

「みゅっみゅ」

痛くないようにうまく取り付けて……?
飛んだー!!

「凄いよたまちゃん!」

「空中飛ぶのってまあ屋外だからいいと思いますけどたまちゃんって何のカメなんですか?」

「温泉ガメの女の子よ」

聞いたことねースよ。
あ、だから温泉たまごなのか。
にしても安易だな……。

「初めて聞きました」

「珍しいカメやからな」

「……そうなんですかー。ところであんなに高くまで飛んでますけど大丈夫なんですか?」

『成瀬川先輩ー!キツネさん!高いですよー!』

なんか神木の方に飛んでってる気がするんだけど……。

「たまちゃんならしのぶちゃん落としたりしないから大丈夫よ」

この人達麻帆良の人じゃなさそうだけど絶対どっかおかしいな……。

「あ!鬼が来おったで!」

「うわっマジかー!」

「でもしのぶちゃんは生き残るわ!」

そりゃ飛んでるからな……。

「それじゃ私足には自信あるんでここでっ!」

「ほな、頑張りや!」

「失礼しまーす!」

そろそろ真面目に端末確認しないとマズいね。
大分前に双眼鏡配ってた麻帆良大にもう人誰もいないしなー。
逆に狙い目かね。
時速60kmぐらいで走れるから移動するのに数分だしすれ違い様にタッチされなきゃいけるいける!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2戦目も後半に突入し始めたぐらいなのですが、私は超包子に鬼ごっこの状況を確認しに来ています。

「西川さん、こんにちは!」

「こんにちは、さよちゃん」

「ちょっと鬼ごっこの状況を見に来たんですけど管制室見せてもらっていいですか?」

「もちろん!今結構面白いのよ。美空ちゃんなんか特に」

美空さん何やってんですか……。
超包子特設管制室のモニターを確認してみたところ、美空さんが凄い速さで走って逃げているみたいです。

「どう?美空ちゃん陸上部入ってるのは聞いてたけどこんなに足速かったのね」

多分アーティファクトでしょうね。

「ほんとに点の移動速度おかしいですね……。あれ、こっちの点は?」

「ああ、それね。さっき他の店舗から確認してもらったんだけどカメが女の子を縄につないで飛んでるのよ」

カメ?ってまたあのたまちゃんですか?
観測してみましょう。

……ほ、本当でした。
凄く一生懸命にヒレをパタパタさせているのが可愛らしいんですけど飛んでます。
神木にもうすぐ着きそうなんですけど確かに木を傷つける訳にはいかないですから、田中さん達も迂闊に追いかけられないでしょうね。

《超鈴音、サヨ、カメ凄いですね》

《キノ、神木に女の人が飛んでいきますね》

《翆坊主、神社に姿が見えないと思たらまたタマというカメか?》

《いやー、よほどこの前麻帆良に入ってきた妖精よりなんていうか、良いですね》

《飛べるからってだけじゃないんですか?》

《後でサヨも確認するといいですけど、春日美空と一緒にしばらく行動してまして、その際端末使ってメール打ったりしてたんですよ》

え?何ですかそれ、欲しい。

《あのタマちゃんという魔法生物はメールも打てるのカ》

《一家に一匹欲しいですね》

《美空と居たというのは何なのだろうネ。後で映像見せて欲しいナ》

《鈴音さん、任せてください!》

結局女の人は神木の太い枝のかなり高いところに着地したみたいですがこのままだと確実に逃げ切れますね。

「この分だといきなり2人も賞金獲得者出るわねー」

神木に登って追いかけるという思考が普通の人にできないのは認識阻害のせいなんですが、たまに洗脳じゃないかと思うときがあります。
でも無理に田中さん達に登らせて傷でもつけられても嫌ですしね。

「まあ楽しんでもらうイベントですから、賞金獲得者は出てもいいと思います!」

「そうねー。これも超ちゃんから資金出てるから超包子が赤字になる訳じゃないし仕方ないかしらね。本当に太っ腹だわー」

ダイオラマ魔法球で既に20億ですから今更108万、商品券飛んだところで大したこと無いですし。

「それにしてもさっきまでこのしのぶさんと一緒にいた二人は全然田中さん達に出会わなかったのよね」

「勘が良いんでしょうか」

しばらくモニターの管制を続けていたところ。

「そろそろ次の全体送信ね」

14:15from超包子to全体[フェイズ3移行のお知らせ]
参加者の皆様、当イベントも残すところ15分となりました。
つきましては更に鬼の機動性能が向上します。
残りの参加者の皆様のご健闘をお祈りしております。
尚、足に自信が無い方以外は迂闊な行動は控えた方がよいでしょう。
脱落者数482人
残存者数18人

もうここまでくるとダンボールに入って隠れるのに近い事をやるかとにかく逃げまわるかの二択しかないでしょうね。
もう殆ど人数も残っていませんが、ここで脱落しても5万円の商品券ですから75分で稼ぐ額にしては十分だと思います。

「送信したけどもう2、4、5、7、8号店は全滅ねー」

「一部体力とチームワークのいい人達だけが残ってるみたいですね。全滅した店舗の田中さん達って一定範囲内しか動かないんですね」

「圧倒的に鬼の方が多いようだと流石に酷いもの。それぐらいのハンデはないとね」

その代わり機動力が上がっているのでハンデというには全然足りてないですが……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

よーしあと4分!
これは108万貰った!
煩悩の数なのは何か気になるけど私は宗派っていうかそもそも違うんで!
1号店で残ってんのは私としのぶさんだけになったみたいで15体のうち10体がかなりの速度で追いかけてきてるけどなんとかなる!
残り5体は神木の下でうろちょろしてるけどわざわざ近づきたくないッス。
機動力がまた上がったっていうのはどうも時速が私の半分ぐらい?……大体30kmぐらいになって、行動が集団で追い込むパターンに切り替わる感じみたいっ!
3体後ろから追いかけてくるかと思えば残り7体が左右に散開して囲んでくるんスよ!
今どこで本気の鬼ごっこしてるかっていうと神木の裏側の草地ッス。
田中さんが走ってくんのはなんとなくわかるんだけど佐藤さんがニコニコしながら本気で走ってくんのは別の意味で怖い!
ここ何も無いかっていうと普通に屋台でてるから逃げにくいけど他に比べれば走りやすい!

うおっ!
マズイ追い込まれっ……ターンで切り返し!
脚力舐めんな!
ジャンプで飛び越えてやるさ!
フフッこの春日美空、お前達よりも2倍以上の速度で走れるのだから捕まる訳がないッ!

ん?
メール来た?
つかそんな確認する暇なんて無いッ!

……凄い音するんだけど何この駆動音?
げっフェイズ4とやらにでも上がったのか!?
速っ!
後1分だっつの!
ぬおおおおおっ!
ここまできて108万諦められるかー!!
つか私のこの足で逃げ切れ無いんだったらこの企画賞金払う気なんてないだろ!

草地から脱出して神社の方にまた行くか!
もう後はジグザグ走るより一直線に走ったほうが確実だし!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春日美空は……こういう場合流れ的にアウトになりそうであるが、見事逃げ切った。
実は春日美空を追いかけている田中さん達だけ最後にフェイズ4に移行させたらしいのだが対超人用になっているだけあってかなり追い詰めていたが速さが僅かに及ばなかった。
逃げ切った際はやり遂げたという表情と嬉しさに満ちていて「108万とったりー!!」と盛大に叫んでいた。
まさに煩悩の為せる業とでも言えようか。

もう一人ハイスペックなカメ、温泉たまごのアシストにより見事逃げ切ったのは前原しのぶさんである。
これ以降カメでの飛行禁止なんていうお触れが鬼ごっこのルールに記載されたらしいがもう二度とないから安心して欲しい。
まあ「みゅうー!!」と鳴き声上げながら必死に飛んでいた努力を無碍にもできないのでたまちゃんに免じてである。

実はこのイベントに3-Aの生徒も春日美空以外に参加していたようだがある程度粘ってすぐに捕まったようだ。
そんな中、あの先生、弐集院先生は75分まで生き残っていた。
45分間までは普通に逃げていたが機動力の上昇により場所によっては頭上から飛んでくる田中さん達が現れるようになってからは凄かった。
普段細目で長瀬楓のような感じなのだが完全に開眼していた上、あのふくよかな体型にして背後に佐藤さんが接近すれば寸前で瞬動したりするのものだから技術の無駄使……いや、あの先生にとってはここぞとばかりにと言えるだろうか。
戦いの歌までは流石に使っていなかったものの生命体としての気の無い田中さん達の接近を勘で「ハッこの感じはッ!」と気づいたりしていたのは何らかの電波を受信していたのかもしれない。
少なくとも5万円分の商品券を獲得した時点で先生は十分このイベントで勝利していたと言えるだろう。

第一回目の鬼ごっこ企画の後、このイベントは相当難易度は高いものの、最初から2人の逃走完了者が出たという情報がネットワークに瞬く間に広がりこの後も申込者が後を立たず、むしろ参加する事自体が大変になるという有様だった。

さて、春日美空はそのまま無事に賞金を獲得できたかというと大変だった。
残念ながら後に教会の礼拝堂で、掃除中に浮かれた勢いでココネに「ココネのアーティファクトのお陰で賞金とれたわ!」なんて言ってしまったため、アーティファクトを使っていたことがシスターシャークティにバレ、大量の十字架が舞う恐怖空間でお仕置きをされた上、その賞金の小切手は大人になるまで使えないように春日美空の両親のもとに送られてしまったのである。
流石に教会に寄付なんてことにはならなかったが「お……おのれシスターシャークティ……」と黒いシスター服にも関わらず真っ白になっている春日美空が見られたらしい。
まあ数年後使えばいいじゃないか、残ってるかどうかは知らないけれど。
その次の日学校で春日美空の隣の超鈴音が事情を泣きつかれたものの「美空、ドジだナ」だそうだ。



[21907] 36話 ネギ少年の学祭巡り・前編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/14 18:35
2戦目の申請を済ませたら次の試合までに皆1時間以上時間がある事が分かったから僕はコタロー君と昼前に一旦3-Aに寄ることにしたんだ。
アスナさん達はそれぞれの部活や研究会に行った。

「コタロー君は学園祭前にまわったことあるんだよね?」

「ああ、そうやで。俺も麻帆良に来たのは去年の2月ぐらいやからな。去年初めて学園の祭り見た時は驚いたで。ただでさえ人が多いのがこないにもっと増えるんやからな」

「僕が来たのはコタロー君の半年ぐらい後だもんなー。僕も去年の学園祭も見てみたかったな」

「何言っとんのやネギ、まだ始まったばかりやで」

「あはは、そうだね」

「せや、ネギ、お前俺の事君付けて呼ぶのそろそろやめんか?」

「コタロー君……じゃなくてコタローって呼べって事?」

「そう!それや!」

「うわ!びっくりした!」

いきなり大きな声出すんだから。

「なんで俺ももっと早う言わんかったかな。どうせネギの事やから慣れたら外すと変な感じする言いそうやったのに」

「……そんなに君付け嫌なの?」

「当たり前やろ!いつまでもよそよそしそうにコタロー君コタロー君って。俺はすぐ会った時からネギって呼んでたやろ」

うーんでも初めて会ったときは日本語でいう敬称の感覚あんまりよく分かってなかったんだけどな。
確かあの時はKotaroって呼んでた筈なんだけどネカネお姉ちゃんに言われたとおりできるだけ丁寧な言葉遣い覚えたのが原因かな。

「気づかなくてごめん、コタロー」

「おう、それでええで!」

そんなに嬉しいのか。
こんな事ならもっと早く外しておけばよかったな。

「去年初めてあった時はちゃんとKotaroって呼んでたのに日本語覚えたら君付けしてたや」

「そういやネギ日本語話せんかったな。すぐ話せるようになっとったから忘れてたわ」

「うん、でもあの時もう少し日本語話せない振りしてた方がアスナさん達の英語はもう少しうまくなったかもしれないんだよね」

「そんなん言うたら俺かて英語なんて話せんからな」

「いざとなったら言葉が通じなくても会話できるようになるまほ……えっとまあなんとかできるからね」

「ははっ!まほ……は便利やな」

そんなわざとらしく言わないくてもいいよ……。
危ない危ないさっきまほら武道会で魔法なんて単語何度も言ってたからつい外でも言いそうになっちゃったよ。
話してたらそろそろ女子校エリアに到着だ。

「ネギのクラスはお化け屋敷やったか」

「うん、ギリギリで出し物決まったんだけどね」

あれ……あそこにいるのは……。

「あ!ネギ君!どうしたの?」

「まき絵さん!一応クラスの担任として3-Aを見に来たんですけど僕も何か手伝えることありますか?」

「おっネギ君じゃん!ならこれ着てよ、ドラキュラの格好!」

後ろから!?

「裕奈さん!後ろからいきなり驚かさないでください」

「ごめんごめん、それじゃこれよろしくね。あ、コタロー君のもあるからちょっと待ってて」

「何や俺も着るんか」

「巻き込んでごめんコタロー」

「まあええで。小学校の出し物よか面白そうやし」

「コタローの小学校の出し物って何?」

「姉ちゃん達みたいに金儲けるような事せんから教室全体にテーマ決めて図工の一環で作品一つ作るだけやで」

「へーそうなんだ。見てみたいな」

「俺は天井に色々つけるのばっかりやったけどな」

「少しジャンプするだけで届くもんね。小学校の友達とはどこか行かないの?」

「んー、仲悪い訳やないんやけど俺にはあんま馴染めんのや。ネギ程マセてる訳やないつもりやけど会話合わん事多いし」

「でもライダーの話は通じるんでしょ?」

「そりゃそうや!万人共通やからな!」

僕もコタローに言われて一緒にやったりするけど日本のテレビ番組っていうのは凄いよなー。
僕の故郷にそういう娯楽が少なかったっていうのもあるのかもしれないけど。

「ほら、コタロー君持ってきたよ!」

「何やこれ犬の着ぐるみやないか!」

「似合ってるじゃん!」

「コタロー君、似合うよきっと。お姉ちゃんが保証するよ!」

うーん、まき絵さんはお姉ちゃんっていうにはちょっと違う気がするけど。

「ああ、分かった分かった。ネギ、はよ着るで」

「あ、うん」

僕がドラキュラ少年の格好、コタローが犬の……あれ?別にお化け関係ないような……着ぐるみを着て3-Aのお化け屋敷の呼び込みを手伝った。
その途中から柿崎さんが来て違う衣装着せられたんだけど……。

「ギャハハハ!ネギ何やそれ!女装か!」

「ネギ君似合ってるよ!」

「柿崎さんなんでこんな格好なんですか!」

「柿崎、それネギ君の集められる客層狭めてるよ!でも狐娘のその格好、イイね!」

「まあネギ先生が一体どうなされた……ブハッ!!」

!?凄い鼻血出て倒れた!

「あやかさん!!どうしたんですか、しっかりして下さい!」

コタローまだ笑ってるし、あのままだと笑い死にそう。

「こ……ここは天国でしょうか」

「あやかさん!まだ逝くのは早いですよ!」

3-Aに来て客寄せにはなったみたいなんだけどやっぱりいつも通り何か起きるのは変わらなかったや。
回復したところであやかさんと一緒に学祭を回ることにした。

「ネギ先生と学園祭をご一緒できるなんて!……一人余計なのがいますが」

「あやか姉ちゃん俺目の敵にすんのやめ!」

「だって……あなたネギ先生にまだ傷を付けたりしているのでしょう?」

「そら仕方ないやん!少しぐらい怪我するで」

「あやかさん、心配してくれるのはありがたいんですがその話はあまり外でしないでもらえますか」

「ね……ネギ先生……失礼いたしました」

「それでどこ回るんや?古姉ちゃん何や昼にやる言うてたな」

「カンフースクールだったと思うよ」

「まあくーふぇさんの所ですか」

「地図見ると近そうやし行ってみようや」

「そうだね」

くーふぇさんのカンフースクールに行ってみたらあの人達がいた。

「ネギ坊主にコタロ、それにいいんちょ!良く来たアルな。二人も套路見せてやって欲しいね」

「はっはっは、さっきは凄かったねネギ君。はるかと一緒に古菲君に誘われてね。今截拳道見せてるけどサラもいるよ」

「瀬田さん、はるかさんにサラさん!」

「ああ、飛ぶ少年達か」

それ言われるとちょっと……。

「ネギ先生、この方達はお知り合いなのですか?」

「えーっと、さっき知り合ったんです。お二人とも拳法の達人なんですよ」

「そうなのですか。あら、瀬田とおっしゃいますとあの瀬田記康教授でいらっしゃいますか?」

「僕を知っているのかい。お嬢さんの言うとおり僕は瀬田記康。東大で考古学の教授をやっているよ」

「光栄ですわ。フィールドワークの実績は素晴らしいものとお伺いしております。一昨年のモルモル王国の遺跡ではご活躍だったとか」

「いやー詳しいね」

「お前の研究も最近は女子中学生も知ってるんだな」

「結婚式の事はさすがにしらないだろうけどね。はっはっはっは」

「黙れ」

あっ!

「ぐはっ!!」

「「「「あー!またあのおじさん飛んだ!!」」」」

「はるかさんいい拳アル!」

「よう飛んだな。はるかの姉ちゃんやっぱ凄いわ」

「私をそう呼んでくれる君はなかなか見込みがあるよ」

「あの……大丈夫なのですか」

「あーいつものことだから問題ない」

景太郎さんもそうだけど何で不死身なんだろ……。
僕もコタローと套路を一緒に披露したよ。
くーふぇさんは僕たち二人とも上手くなったと褒めてくれた。
この後あやかさんの馬術部にも寄って馬に乗せてもらったりしていたらそろそろお腹が空いて来たから五月さんのいる超包子でお昼を食べていたら。

「何やこれ、激走鬼ごっこ~麻帆良を駆け抜けろ~っちゅうんは」

「ふふ、それはね、超包子主催の本気鬼ごっこイベントなのよ」

そこへ来たのは……。

「あ、西川さん!」

「はーい正解。ネギ君、小太郎君にあやかお嬢様いらっしゃい」

いつもって訳じゃないけどよく超包子で見るマスターの同級生の人だ。

「よう!みのり姉ちゃん!」

「小太郎君はお姉ちゃんって呼んでくれるから嬉しいわー」

「西川さん、こんにちは。ここでは普通にしてくださって結構ですわ」

「はい、それでは。で、三人も鬼ごっこ出てみるって言いたいところなんだけどもう始まっちゃってるのよ。あ、ネギ君が知ってる子だと美空ちゃんは出てるわね」

「え?春日さん参加してるんですか?」

「ええ、この1号店で参加申請してくれたわ」

「おー90分逃げ切れば108万なんか。俺とネギならいけそうやけど」

「もう少し早く来てくれれば良かったんだけどね」

「ま、どっちにしろ俺らも用あるしな」

「そうだね。それでその次は4時からかー。ちょっと分からないね」

「ネギ先生、何かこの後ご用があるのですか?」

「そうなんです、あやかさん」

「はい、それじゃしっかり食べていってね!」

「ありがとうございます!五月さん!今日も美味しいです!」

五月さんは厨房で忙しそうだけどちゃんと聞こえたみたいで笑ってくれた。
あやかさん付いてくるんだけどどうしようかな……僕たちの事知ってるのにチケット持ってないから入れないだろうし……。

「この方向は龍宮神社ですわね」

「あはは……そうですね」

「(おいネギ、あやか姉ちゃん連れてきてええんか)」

「(端末もチケットも無かったら入れないからいざとなれば大丈夫だよ)」

「(そうやったな)」

「あら……あそこにいるのはお父様では?」

え?あ、ほんとださっき開会式で壇に上ってたあやかさんのお父さんだ!
何かまた起きそうな予感が……。

「お父様!どうしてここにいらっしゃるのですか」

「お!……おお、あやか……それにネギ君か。いや、少し人の少ない所で休憩をと思ってね」

「もしやお父様が龍宮神社を貸しきったのではありませんこと?」

「それは違うよ」

「いいえ、お父様嘘ですわね。ここ最近グループの宿泊施設が3日間貸切になっていますし無関係でないとは思えませんわ」

「(あーこりゃまずいで)」

「(どうしよう……魔法がバレてるのがバレるかも……)」

「(あやかの姉ちゃんがネギに都合悪くなる事はせんと思うけど)」

「(……う……何か罪悪感が……)」

「あやかの情報網もなかなかものになったようだね。お付きに調べさせたのかな?」

「いいえ、お教えできませんと言われましたから。私のクラスには情報に強い方がおりまして独自に調べたのですわ」

朝倉さんだな……。

「……そうか。あやか、中に入るか?」

「……よろしいのですか?言い方が悪かったですが私は別に責めるつもりはありませんわ」

「あやかならこれまで分かっていても対応してくれたからね。それに来月すぐあやかの誕生日だ」

「ふふ、それではお言葉に甘えて」

「分かった。あやか、入ってから少し話すことがあるがいいね」

「もちろんですわ」

「これがチケットだ。無くさないように持っていなさい。ネギ君達はそろそろ時間でしょう。先に入って下さい」

「あ、はい、ありがとうございます」

「おおきに!」

「あやかさん、またすぐ後で!」

あやかさんもこの分だとすぐ入ってくるだろうけど魔法がバレていたのははなんとかなる……と思う。
それより二戦目の試合はコタローが浦島可奈子さんで僕が高音・D・グッドマンさん。
聖ウルスラ女子高等学校2年生って事で魔法生徒の人みたいだ。
前の試合を確認してみたら影精を使った格闘型の魔法を使うみたい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さよが超包子の鬼ごっこ企画の様子を見に行たけどすぐその後ネギ坊主と小太郎君の試合だヨ。
ネギ坊主は一戦目の等速試合で人気が随分上がて申し込みが絶えなかたが相手は高音サンだネ。
小太郎君は浦島可奈子サンとだヨ。
浦島可奈子サンも前の試合からすると楓サン達忍に近い上に瞬動術は完全な縮地だたのだから驚いたネ。
浦島流柔術は表には滅多に出てこない流派らしいが日本にはまだまだ東洋の神秘というだけの秘密が一杯のようだナ。

おや、社長さんと一緒にあやかサンも神社に入て来たがいいのカ?
親の同意があるならいいけどやはりあやかサンは驚いているネ。
ネギ坊主の試合はまた等速で行われるからスクリーンで見ていくといい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ネギ先生、先程の高畑先生との試合お見事でした」

「あ、ありがとうございます」

「高畑先生とあれほど渡り合えるのであれば私、最初から全力で参りますわ」

「はい、僕も全力でやらせて頂きます」

「ネギ選手、注意事項のメモがあります、先にお読みください。これを」

なんだろう。

「注意事項?はい……えーと……え?……わ、分かりました」

気絶させると全裸になるから気をつけるようにって……。
全力って言ったばかりだけど、これが本当だったら……もし下手に気絶させたりしたらアスナさんに絶対後で怒られる!

「審判さん、注意事項とはなんですか?」

「私から申し上げる事はできませんが、不利になるようなものではございませんので。それでは試合を開始したいと思います。制限時間15分試合開始ッ!」

「参りますわ!」

―黒衣の夜想曲―

実際に見ると、は、派手だ。

  ―影よ―

続けて影の使い魔を操る術か。
こっちも―戦いの歌!―
    ―魔法領域展開―

気絶させるのがマズイとするとギブアップを狙うしかない!
左右から使い魔がそれぞれ2体ずつ攻撃をしかけてくるけど。

「不思議な魔法障壁のようですがこれはいかがですか!」

……ぶつかって来たけど威力不足だな。
ジリジリ音が言う場合は結構あるんだけどもっと静かな音が出てる。
やっぱりタカミチ程の威力はないだろうし突破はできないから無視して大丈夫だ。

「なっ!?」

―双腕・未完成・断罪の剣!!―

これで一気に自動防御する影ごと吹き飛ばしてギブアップしてもらう!
瞬動で懐にもぐり込む!

「させませんわ!」

やはり目の前に自動防御!まず左腕!

「はあっ!」

よし砕けた!
未完成だと破壊範囲が拡散しちゃうけど刃自体は伸ばせるからこういう時便利だ。

「私の影がっ!?うっ!」

もう首筋に右腕の剣をつきつけたし……。

「首元に影は装着していないようですがどうしますか?」

「つ、強い……ギブアップ致しますわ」

「ギブアップにより勝者、ネギ・スプリングフィールド選手!」

右腕解除……と。

「高音さん、ありがとうございました!」

「いえ、こちらこそ。私もまだまだ未熟だと思い知らされました。ありがとうございます、ネギ先生。それで……先程の注意事項のメモとは?」

あ、マズイ……。

―火よ灯れ!―よし、証拠隠滅……。

「あっどうして燃やすんですか!」

「き、気にしないでください!何でもありません!」

「やはり何か不利になるような事が書いてあったのでは!?」

「そ、そんな事無いですよ!た、ただ」

「ただ、何ですか?」

高音さん怒ると怖い……。

「あ、あの、とりあえずここの外で話しましょう!」

「いいでしょう……分かりました」

いつまでスクリーンに出てるかここからだとわからないから迂闊に話せないや。
転移魔法陣から能舞台に戻って拍手受けてそこそこに挨拶した後規定通りに休憩施設で……。

「どういう事だったのですか!?」

「えーと、メモには高音さんが気絶すると裸になるから気をつけるようにって書いてあったんです」

「なっ!?どうしてそれを!?」

「いえ、僕も元々知らなかったんです!メモの差出人もよく分からなかったですし」

「そ、それでは私の事を考えてあのような方法で?」

「……はい。でも僕いつもできるだけ短期決戦に持ち込むようにしてるのでメモが無くても同じだったかもしれません」

だからやっぱりタカミチは強かったな。
虚空瞬動で接近しても魔法領域を無理やり素手で突破しようとしてきたぐらい近接戦闘の技術も凄かったからあの拳圧出せない位置にずっといるのもきつかったし。
それで避けるまでに時間の余裕ができる離れた所から魔法の射手を連射したりしたんだけど。

「これは責めるような真似をしてしまい失礼しました。そのような配慮までされるとは教員を勤めているだけありますわね」

「お姉様、お疲れ様です!ネギ先生こんにちは」

「愛衣!」

この人は確か……超さん達とアメリカに一緒に行った時にいた……。

「こんにちは……確か……」

「2-Dの佐倉愛衣です、よろしくお願いします」

「佐倉愛衣さんですね。学校で何度か見かけたことがありましたが名前まで覚えてませんでした、すいません」

「気にしなくて結構ですよ。高畑先生との試合も見ましたけどお姉様まであんなに早く……ネギ先生ってお強いんですね」

「強くなれたのは周りの皆のお陰ですし、まだまだマスターには遠く及ばないです」

「マスター、ということはネギ先生には師匠がいらっしゃるのですか?」

「あ、えーと……」

うう、言わない方がいいに決まってるよ……。

「すいません、他人に言うと怒られるので誰とは言えないんですけど師匠はいます」

「そうですか……それは素晴らしい方なのでしょうね」

「はい、それはもう!」

「いいですねー、私ももっと頑張らないと」

「愛衣、私達もこの大会で精進しましょう」

「はい、お姉様!」

二人とはこれで別れたけど魔法生徒って意外といたんだな……。
3-Aはちょっと多すぎる気がするけど。

「ネギ先生!お怪我はありませんか!?」

「あやかさん!それで……お父さんは?」

「お父様から色々伺いました。少々信じがたいですがネギ先生は魔法使い……という方だったのですね」

「あ……はい、隠していたみたいですいません」

「ネギ先生の秘密がこうして分かっただけでも十分ですわ。……それに調べてみればあのアスナさんまでこの武道会に出場しているとか」

「そうなんです。アスナさんは先月から鍛錬し始めたばかりなんですけど成長が凄く早くて」

「せ、先月から!?映像も見ましたけどそれだけであんなに身体が光ったりするようになるのですか」

咸卦法の事かな。

「あれはなんていうかアスナさんの元々の才能だったみたいなんです」

「才能……私も多少武術は嗜んでいたのですけれどあんな動きはいくらなんでも……」

あやかさんも一般人としては合気柔術の腕は凄いと思う。

「おっネギも終わっとったんか!等速やからもう少しかかってる思ったんやけど」

「コタロー!試合どうだったの?」

「……負けたで。怖い姉ちゃんやった」

「なんか顔色悪いよ?」

「試合もう見れるようになっとるみたいやから確認すればええで」

「あ、うん」

あやかさんと一緒に見たんだけど浦島可奈子さんが開始から「お兄ちゃんに痛い目あわせた罰です」って言った途端、楓さんより凄い縮地で畳み掛け、コタローが狗神で応戦したら足を一閃しただけで全部跳ね返してそのまま可奈子さんも更に凄い気弾を放ったり凄い。
怖いっていうのは表情が一切変化していないところだなきっと……。
最終的にコタローがどこから出したのかわからない縄で縛られて終わったんだけどどうして破れないんだろ。

「こんな女性がいるんですわね……」

「この最後の縄何だったの?」

「よう分からん。何故か破れんかった。エヴァンジェリンの姉ちゃんの魔力の糸とは違う筈なんやけどな。景太郎兄ちゃんに思い入れあるみたいやわ。ネギも気をつけや」

「う……うん」

「ま、楓姉ちゃんより凄い瞬動直に見れたから収穫はあったわ」

「まるで学園長先生の瞬間移動みたいだね」

「1戦目確認したら普段からずっとあんな動きする訳やないみたいやけどな」

景太郎さんと当たらないようにしよう……。

「そんなに簡単に連勝ってできないね」

「ネギは一回目の相手悪いだけやで。俺も不死身相手はやる気削がれたしな」

「でも普段知らない人と試合するのっていい経験になるね。次の試合登録しておこうか」

「よっしゃ。次こそ蘇芳の兄ちゃんに当たれや!」

「間違って鶴子さん達には当たりたくないね……」

「……そうやな」

神鳴流の宗家の人達に会えて刹那さんは目が輝いてたけど僕たちはちょっと……。
この後僕とコタローは希望試合時刻を早めに設定して更にその次の試合との間隔を空けることにしたら相手はそれぞれ葛葉先生と忍者の人だった。

「楓姉ちゃんの知り合いやんか」

「僕は葛葉先生だ」

宗家の人達みたいに舞台が消滅するような事にならなければいいけど……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

春日美空の鬼ごっこも佳境に入っていた頃、ネギ少年達の3戦目は2戦目の後すぐに開始された。
今回は二人共加速魔法球で同時に試合が行われる事になったが一つずつどうなったか見てみよう。

ネギ少年と葛葉先生の試合はタカミチ君との試合程派手にはならなかったものの一応教師同士の良い試合だった。
ネギ少年の掌底・断罪の剣を葛葉先生が切り込んだ所を逸らして刃の腹に当てたところ気が通っているものの強力な相転移で一部分解されたのだ。
寸前で葛葉先生が刀を戻して回避したが、もう一度振り抜いたところ丁度展開し直した魔法領域に当たった瞬間折れた。
あっという間に武器となる木刀を排除したネギ少年であったが、これが真剣で無くてよかったと安心すべきだろう。
神鳴流で使われる野太刀は気を効率的に通す事ができるという特殊な処理に必要な製法にかかる手間だけでなく、刀剣としてのそれ自体の価値もかなり高い為実際もし折れたら、場合によっては修理出来る事もあるだろうが損害額はかなりのものになる。
主要な攻撃手段を失った葛葉先生であったが「流石はネギ先生、高畑先生の時もポケットを狙っていたのですから当然私も予想しておくべきでした」と冷静に無手で構え直し試合続行となったのだ。
ネギ少年はどういうつもりか「葛葉先生とはこれ無しで行きたいと思います」と言いそのまま魔法領域の使用をやめて双方純粋な格闘戦へと突入した。
手抜きという訳ではないのだろうが、いつも魔法領域ばかり使っていては折角の武道会なのに体術を活かす機会が勿体無いという事なのだろう。
それに青山鶴子さんが相手でもないので少しは安心できるからというのもあるだろうか。
ネギ少年は雷華崩拳をメインに無詠唱魔法の射手を、葛葉先生は神鳴流の打撃技および柔術に、手から気弾を放つタイプの斬空掌系や脚からも裂蹴斬が飛び出したりと見事な中・近接戦闘を繰り広げた。
試合の結果自体としては15分ギリギリまで続いたのだが直前で葛葉先生が「武器を折られた時点で私が油断していました」とギブアップをしてネギ少年の勝利となった。
どうも葛葉先生は全力ではあったが、できるだけ長く試合をしてみたかったようで手抜きをしたのとは違うが、これは戦法自体のものだろうと思う。
ネギ少年は勝ちを譲ってもらった形になって少し抗議しようとしたが「私がこれでいいと言ったら良いんです」といつものお固いイメージはどこへやら、10歳程度の子どもが一生懸命なのが気に入ったらしくうっかり頭を撫でていた。
その光景もギリギリで映像に収録されており「あの刀子さんが……」「葛葉がな……」と後で映像を確認した魔法先生達にとっての葛葉先生の姿が少し崩れたのだが、まあ良いんじゃないですか。
その後葛葉先生は青山のお姉さん達に「刀子はん、ちょっと」と呼ばれ止む無く会話をしていたのだが、葛葉先生も桜咲刹那の訓練に加わる話が進んだ上、何やらお姉さん達の標的にネギ少年も入ったらしい。
二人共頑張れ。

一方小太郎君はというと忍者と少しは忍べよと言いたくなるような分身バトルを繰り広げ、舞台が1つなのに常時合計8人近くいてそれぞれ殴りあうというタッグではないがそんなものが展開され窮屈だった。
たまに普通に場外して戦う分身なのか本体なのかもしれない事があり審判の人は非常にカウントに困った。
小太郎君は2戦目に運悪くまたしてもひなた荘関係者との戦いになってしまって負けたが、完璧な縮地を連発されただけあってこの戦いはそれよりも楽だったのかようやく一勝できた。
相手の人は忍軍でもそれほど戦闘が得意ではなくどちらかというとサポート系の人であったようで、その力量の幅を分かりやすく言えば忍軍の市という例の頭領発言の女性は今の長瀬楓よりも強いのである。
最強は長瀬楓の母親なのかもしれないが、だからこそ長瀬楓は麻帆良に来ても「拙者もまだまだ修行中の身でござれば」等と言うのだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

僕とコタローは試合が終わった所で次の4試合目までに大分時間が作れたからあやかさんと三人でまた学園祭を見て回ることにして龍宮神社から出た。

「ネギ先生達お怪我や疲れたりはしませんの?」

「休憩所には仕掛けが施してあるらしくて疲労も怪我もすぐ治るんですよ」

「まあそうなのですか、便利ですわね」

「あれウルティマホラの時の強化版やな」

「多分マスターがやったのかもしれないけどどうだろう」

「あの別荘もそうやしな」

「僕もそういう技術も少しは勉強させてもらってるんだけどね……。あ、ハルナさんだ」

「似顔絵を描いているようですわね。ネギ先生描いてもらってはいかがですか?」

「三人で描いてもらいましょう。ハルナさん描くの凄く早いですし。ハルナさん!こんにちは」

「やあネギ君にいいんちょそれにコタロー君。似顔絵興味ある?」

「はい、お願いします」

「ハルナさん、ネギ先生はできるだけ丁寧にお願いしますわ」

「はいはいー分かったよ。それじゃ三人そこ座って」

やっぱりハルナさん描く速度が凄かった。
あっという間にできあがったし、似顔絵はそっくりだった。

「あの料金は?」

「ネギ君達は別にいいよ。いいんちょはもう一枚ネギ君描いたら買う?」

「もちろんですわ!」

ははは、そういうこと。
次に絵画つながりでアスナさんの美術部の展示作品を見に行ったんだけどアスナさんは丁度いなかったや。

「アスナさん本当に高畑先生好きですわね」

「アスナ姉ちゃんわざわざ作品で先生書くんやな」

「でも凄くタカミチを上手く書けてると思うよ」

アスナさんの美術部の作品はタカミチの肖像画で良く特徴が捉えられてた。
そういえばタカミチが美術部の顧問だからアスナさん美術部入ってるんだよな……。

「ネギ先生、そろそろ3時前ですが、何か屋台で食べません?」

「そうですね。確かアキラさんがいる屋台があった筈ですよ」

「まあ、流石ネギ先生生徒の事もしっかり把握してらっしゃいますのね」

それで少し何かお腹にいれようと思って、アキラさんがいる屋台に行ったらたこ焼き屋さんだった。

「ネギ先生来てくれたのか」

「はい!丁度お腹も空いてたので。たこ焼き美味しいです」

「祭りはやっぱ屋台やな」

アキラさんはよく喋るタイプの人じゃないけど僕が指輪の魔法発動媒体落とした時は一緒に探してくれたし良い人だな。
それにいざとなると凄い力持ち。

「コタロー、やっぱり素子さんに似てるね」

「ああ、そうやな。髪型はちゃうけど似とるな」

「素子さんって?」

「ちょっと学園祭で知り合った人なんですけどアキラさんによく似てるんです」

「へー、そうなのか」

「あ、小太郎君!」

この声は……?

「景太郎兄ちゃん!……に可奈子の姉ちゃん、素子の姉ちゃんにカオラ姉ちゃんもおるやないか。後知らない姉ちゃん達も」

瀬田さん達以外全員……かな?
眼鏡外した長谷川さんに似てる人もいるな。

「こっちの四人は成瀬川なる、紺野みつねさん、乙姫むつみさんそれに前原しのぶちゃん。全員ひなた荘の住人だよ」

「こんにちは」

「みゅー」

また挨拶とか色々して龍宮神社にいなかった四人は学園祭をまわってたみたい。
むつみさんは参加しなかったらしいけどしのぶさんは超包子の鬼ごっこで逃げ切って108万取ったんだって!
見かけによらず足早いのかな。
コタローが可奈子さんから距離取ってるけどそんなに怖いのか……。
それでやっぱりアキラさんと素子さんの話になった。

「いやー昔の素子ちゃんに似てるね!」

「そ、それはどうも」

「浦島、それは私が老けたとでもいいたいのか?」

「え?そんなつもりで言ってるんじゃないよ!」

「じゃあ一体どういうつもりだ」

もめ始めたんだけど景太郎さん殴られそうだな……。

「あぷろぱぁっ!!」

「あ、やっぱり」

うまく人のいない所に吹き飛んでった……。

「……ネギ先生、あの人大丈夫なのか」

「景太郎さんは不死身らしいので大丈夫だそうです」

「不死身って……。私に似てるっていうのは本当だね。驚いたよ」

「若いモトコや!!」

「スゥ!!」

「モトコが怒ったで!」

「……賑やかな人達だね」

3-Aも賑やかだけどこの人達も負けてないな。
この後まき絵さんの新体操の発表会を見たけど、確か夏に県大会があるんだよな。
これだけ凄いけどどうなるんだろう。
そういう評価は僕にはちょっと分からないな。

「ネギ君見に来てくれてありがとー!」

「はい!新体操綺麗でした!」

「まき絵さん新体操素敵ですわ」

「そのリボンどうなっとんのか不思議やな」

僕もそれ気になる……。
魔法みたいに物理法則無視してる時あるし、耐久力もおかしいんだよね。
まあ、それはいいとして次近そうなのは……。

「ネギ先生、ちづるさんの天文部でプラネタリウムを見てみません?」

「プラネタリウムは俺も見たことないな」

「僕も見たことないです。いいですね、行きましょう」

そういえばあやかさんと千鶴さん、夏美さんの部屋に入れてもらったことあるけど天体の地図が一杯張ってあったな。

「まあ私のあやか、来てくれたのね」

「私のあやかって何ですのちづるさん」

「恥ずかしがらなくてもいいのに。ふふふ。ネギ先生達もいらっしゃい」

「こんにちは千鶴さん」

「よっ!千鶴姉ちゃん」

「どうかしら、天文部が総力を上げて作ったプラネタリウムは?」

「これ学祭前だけでよく作れますねー」

「山奥で夜空見た時と同じやな」

「ネギ先生達は楓さんと山篭りしてらっしゃるんでしたわね」

「そうやで」

「千鶴さん、普段天文部ってどんな事してるんですか?」

「普段?恒星に惑星、色々観測してるわよー。あ、最近だと火星が良いわね。予定だと8月27日になるけど21世紀でその日火星が最も接近する日になるわね。今年の大接近は過去6万年で一番近くなるそうよ」

「へー火星ですか」

「どれくらい近くなるんや?」

「5600万kmより近くなるそうよ」

「ちょっと数字が大きすぎて実感沸かないですね」

「ロケットでどれぐらいかかるんやろ」

「んー、いつか行ってみたいな」

「雪広グループでもロケット開発に資金は提供していますが有人探査はずっと先になりますわね」

「どう?ネギ先生達も天体に興味出たかしら?」

「はい!またお部屋で地図とか見せてもらってもいいですか?」

「いつでもいらっしゃい」

「ネギ先生でしたらいつ入って来ても構いませんわよ。いっその事私の部屋で泊まってもいいですわ!」

「あはは、ありがとうございます」

千鶴さんの天文部を後にして次は何処へ行こう。
あと今日は、朝突然まほら武道会が始まる前にザジさんからナイトメア・サーカスのチケット貰ったからそれに行こうと思ってるけど、他の3-A皆の出し物明日の予定にしてあるからこの後は自由にしててもいいんだよなー。
あれ、それにしてもザジさんが喋ったのって初めて見たような……。

「ネギ、図書館島に何や人集まっとるみたいやで」

「図書館島探検大会は明日だった筈なんだけどなんだろうね、行ってみようか」

「あー!ネギ君みっけー!」

「まき絵さん!どうしてここに」

「えへへ、ちょっとネギ君達見かけたから追いかけてきちゃった」

「あやかさんも図書館島行っても良いですか?」

「ええ、もちろんですわ。……邪魔なのが増えてきましたが」

何かボソッと言ってるんだけど……。
図書館島の人が集まっている所に行ってみたら極秘コスプレイベントっていう幕が張ってあった。

「何やここもお化け屋敷みたいに仮装しとるんか」

「結構人いるねー。あれ、あそこにいるのは……千雨さん?」

「あら、長谷川さんですわね」

「千雨ちゃんだ!」

あ、気づいたみたい。
っていきなり引っ張られた!?

「なんで先生がここに来てるんだよ」

「たまたま人が集まってたので……千雨さんその格好ってちう」

「ブッ!!……なんでその名前知ってんだよ!」

「超さんから千雨さんがブログやってるって聞いたので調べてからずっと見てますよ」

「超の奴……後で会ったら……。ってずっと見てんのかよ!」

「はい、SNSには入らないんですか?沢山コメントあるのに、僕も書き込んだんですよ」

「ネギ先生もあの中のコメントの一人かよ……」

「それでこのイベントって例のブログでも話題になってたやつですか?」

「そうだよ……私は出ねーけどな」

「え?どうしてですか?その格好してるのに?」

「どうしても何も」

「ネギ先生!見て見てーここの貸衣装屋さんで着替えてみたよ!」

「どうですか、ネギ先生?」

まき絵さんとあやかさんが何でか分かんないけどナースの格好を……。

「似合ってると思いますよ」

「わー、じゃあいいんちょ、これでこのイベント出てみようよー!」

「そ、そうですか?」

あれ、千雨さんの雰囲気が……。

「ちょっと待てお前ら、そんな格好で出たら恥かくだけだ。私が用意した衣装貸してやるからそっち着ろ」

突然プロデューサー風になったんだけど……やっぱり衣装持ってきてたって事は千雨さんも出るつもりだったんじゃ……。

「何や、あの姉ちゃんも出るつもりやったんやないか」

「そうみたいだけど端にいたってことは迷ってたのかもしれないよ」

「ほら、できたぞ」

「「魔法少女ビブリオン!」」

って何でポーズまで取ってるんだろ。

「えーこのポーズも取らないとダメなの?ちょっと恥ずかしいけど……ま、いっか。いいんちょ行こうよー!」

「まき絵さん、引っ張らなくてもいいですわよ!」

行っちゃった……。
二人はそのまま出場して出たら凄い好評だった。

「あいつら人の領域にまで入ってくるのに適応力高すぎるだろ……」

「ネギ君、ウケたよ!次千雨ちゃんの番だよ!」

「え?ちょ!待て!私はそんなつもり!おいっ!」

「長谷川さんも出場なさるべきですわ」

千雨さん連れていかれた。

「賑やかな姉ちゃん達やけど、景太郎兄ちゃんと一緒にいる姉ちゃんみたいに殴られなくてええな」

「いや……あれと比較するのはちょっと……」

そのまま千雨さんを二人が強制的にイベントに参加登録を済まさせて出させたんだけど……。
緊張したあまり舞台に座り込んじゃって……って凄い会場盛り上がってる!

[[素晴らしい演技です!魔法少女ビブリオン敵幹部の特徴をよく捉えています!皆さん盛大な拍手を!]]

「何やキャラクターわからんとピンとこんな」

「そうだね、でも千雨さん賞取れるみたいだし良かったと思うよ。これでクラスの皆とも積極的に仲良くしてくれるといいんだけど」

「先生って大変やな……」

「あ、優勝決定した!凄いね」

「俺もライダーで出たらどうやったかな」

「お客さんが男の人多いからどうかな……」

最初ここで合った時の千雨さんは少し不機嫌そうだったけどまき絵さん達にイベントに連れていかれた後は誰が見てもわかるぐらい嬉しそうだった。

「そろそろ次だね」

「そうやな」

「私もまたご一緒しても宜しいですか?」

「はい!」

「なになに?ネギ君何か用あるの?」

「えーと、このイベントが極秘だったみたいに僕とコタローも似たようなのに参加してるんです」

「えー!何それ!いいんちょ入れるの!?」

「私にはチケットがありますわ」

「へーこれの事か。何々、まほら武道会……龍宮神社?」

「長谷川さん!いつの間に私のチケットを!?」

「いや、ほらさっき着替えてたときに落としてたろ」

「返してくださいませ!」

「分かった分かった、ほらよ」

「ありがとうございます。危ないところでしたわ」

「僕達も無くさないようにしないとね」

「3日間やもんな」

「あやかさん、行きましょう。まき絵さん、千雨さんごめんなさい。チケット余ってないんです」

「いいんちょちょっと私にもチケット貸してよー!」

「だ、駄目ですわ!」

追いかけっこ始まっちゃった……。

「ネギ先生、龍宮神社に入ろうとした奴らが入っても入れないってのはその武道会のせいなのか。朝倉も何か言ってたし」

「そ、そうなんです」

「ネギ、ちょい時間マズイで。あやか姉ちゃん俺捕まえてくるわ」

「あ、ごめん。お願い」

「先生、ウルティマホラみたいなもんだろうけど頑張りな」

「千雨さん、ありがとうございます!それじゃ」

コタローがあやかさんを捕まえてそのままもう走って行ってる。

「コタロー君走るのはやっ!ずるいよー!私も見たいー!」

「まき絵さんごめんなさい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

5時半過ぎ、ネギ少年と小太郎君、雪広あやかが急いで龍宮神社に戻ってきて今日最後の4戦目となった。
相手はそれぞれ気の扱いを心得ている拳法家であるが、ネギ少年達にとってみれば相手としてはかなり楽な方であっさり勝利した。
さて、その場には既に本日分の試合を終えるのを待ち構えていた集団があった。
青山宗家のお姉さん達、青山素子さん、桜咲刹那、孫娘、神楽坂明日菜、葛葉先生、古菲、長瀬楓とくノ一、佐倉愛衣、高音・D・グッドマンそして呪術協会の協力者の方である。
完全に強すぎる女性とまだまだ強くなりたい女性の園と化しそうな状況である。

「アスナさん!あなたいつの間にこの武道会に出てたのです!」

「い、いいんちょ!どうしてあんたがここにいんのよ!」

「それはお父様にチケットを貰って色々話も聞かせてもらったからですわ」

「いいんちょのお父さんが直接話したのね……。てっきりネギが連れてきちゃったのかと思ったわ」

「ざ、残念ながら私を連れてきたのはコタローさんでしたが……」

「コタロ君が!?」

微妙に話が咬み合っていなかった。
そして訓練するなんて話になったものだから何故か雪広あやかもその集団に加わってしまったのだがいいのだろうか……。
青山素子さんはほぼ渋々参加している形になっているが桜咲刹那から壮絶に尊敬の眼差しで見られた為生真面目さが仇になったか期待を裏切ることはできなかったようだ。
他魔法生徒二人は何かその場のノリでお姉さん達によって「まとめて指導しますえ」なんて事になり、古菲達は「面白そーアル」という理由で参加する訳だが、既に何かの洗脳がその場一帯で行われている気がするが気にしてはいけない。
まあ佐倉愛衣あたりにとっては多分いい……先生になると思う。
映像記録のシャットアウトを超鈴音にさせた後、そのまま彼女達は魔法球の一つにゾロゾロと入っていった。
早速中で何が始まったかといえば、一角でまずはお姉さん達による神楽坂明日菜と桜咲刹那に対する優しい指導が行われ始めた。
優しいといってもお姉さん達の基準で、であるが……。
桜咲刹那は緊張のあまりテンションが上がっていて正気の判断ができていなかった一方、神楽坂明日菜は目の前の光景に唖然と、素子さんは嫌そうな顔をしていた。
鬼が召喚されては消滅を繰り返すのは何の無限ループなのだろうか。
お姉さん達が呪術協会の人に頼んで、快い返事……を頂いた……客観的に見れば半強制的に訓練に協力させられていたのだが、その協力内容とは鬼を召喚する事だった。
召喚した傍から「ほな、よう見ておきなはれ」と言いながら。

―斬魔剣弍の太刀!!―

をあろうことか術者の方を間に挟んで連発しているのである。
因みにこの協力している術者は長い事出番が無かった天ヶ崎千草さんであり、とてもかわいいらしい猿鬼や熊鬼が虐殺されていた。
善意……かどうかはともかく間に挟まりながら斬魔剣弍の太刀を放たれる気分とはいかようなものなのだろうか。
この後桜咲刹那は自分の斬魔剣を披露し、弐の太刀習得への絶対条件、気を自在に扱える事、の指導が始まった。
孫娘はマイペースであるため、かなり異常な空間でもあるが「せっちゃん頑張りやー」と応援していた。
勿論全員が桜咲刹那についていた訳ではないので、魔力と気で違いはあるものの瞬動術の講習諸々が佐倉愛衣らに行われていた。
そのまた別の場所では松葉市さんという例のお付きの人その他と長瀬楓の気の扱い方講習も行われていた。
平和そうに言えばワークショップというのが合っているが、こんな過激な体験型講座があるか!である。
当然1時間が5時間になるので時間的余裕はありすぎるぐらいである。

他の4つの魔法球では自由に流派を超えて鍛錬に打ち込む人達や、軽く模擬戦を行なったり、試合の映像を確認したいものの試合数が多すぎて時間が無い人達が利用していた。

そんな魔法球が自由に使えるようになったすぐの頃外ではエヴァンジェリンお嬢さんが様子を見に来ていた。

「ぼーや達今日はどうだった」

「マスター!タカミチには負けちゃいましたけど結構頑張れたと思います。僕もまだまだです」

「俺も変な兄ちゃんに変な姉ちゃんやら面白かったで。本命には当たっとらんけどな」

「まあ後でぼーや達の勇姿とやらを確認するよ」

「マスター、この後ナイトメア・サーカス一緒に見にいきませんか?」

「サーカスか。まさか保護者同伴じゃないと入れないのか?」

「そんな事ないですよ!マスターそれ分かってて言ってますよね!」

「ははは、少しからかっただけだ。行くのは構わんがアスナ達はいいのか?」

「アスナ姉ちゃん達には手出しせんほうがええで。まだあそこから出てこんから」

「ほう、訓練しているのか。ぼーや達は参加しないのか?」

「いえ……女性限定みたいなので……それに怖いですし」

「俺も嫌やで……」

「修行好きの小太郎にしては珍しいな」

「青山鶴子っちゅう姉ちゃんの試合見りゃわかるで」

「青山?……神鳴流か。あれは強くなりすぎると暗黒面に引き込まれやすいからな」

「そ、それじゃあアスナさんや刹那さんもそのうち……」

「嫌やな……」

「数時間程度でそんなに変わらんだろう。サーカスの時間はいいのか?」

「あ、今から行けば大丈夫です。3日間18時半からやってるそうですから。それじゃあ行きましょう」

ネギ少年達はエヴァンジェリンお嬢さんをエスコートする形でサジ・レイニーデイのナイトメア・サーカスに向かっていったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

「ほう、普段一切話さないザジがぼーやに喋ってまで誘ったのか」

「僕も驚きましたよ。今まで一度も喋ったことなかったですからね」

「俺もそのザジっちゅう姉ちゃんはあんま見んな」

「あいつは何かある筈なんだがな……イマイチよくわからん」

「何かっていうのは?」

「関係者ではない……とは言い切れそうにないという事さ」

「ザジさんも!?」

「まあ害は無いだろうさ」

「そ、そうですか。良かった」

「お、ここやで」

「丁度10分前ぐらいだね。曲芸手品部って事は外部サークルか」

受付の人にチケットを見せて通った先は……。

「うわぁ、僕サーカスって見たこと無いんですけど会場内って少し暗いんですね」

「スポットが当たるんだから客席側は暗くないとな」

「席はどの辺りや」

「これ指定になってるんだけど一番前の方みたいだね」

「特等席じゃないか。近くでよく見えるだろうさ」

僕が真ん中、左がマスター、右にコタローで座って18時半になっていよいよショーの始まり。

[[皆様、本日は当ナイトメア・サーカスにようこそおいで下さいました!大変長らくお待たせいたしました!これより記念すべき第一回目公演を開始致します!]]

会場全体が拍手の渦に包まれた!

「わー、本当のサーカスみたい!」

「ネギ、本物やで」

「そ、そうだった」

最初は動物の曲芸なんだけど何がでるかと思ったら5頭の馬に乗った人達が出てきたと思ったらステージを旋回しながら疾走して舞台の中心にある的に向けて矢を射った!

「凄い!全部命中したよ!」

魔法の射手だったらできるだろうけど、普通の矢でできるなんて!
しかも一定間隔でグルグル回ってるんだけどスピードはかなり速いし芸術的だ!

「こないによう動物ぎょうさんおるな。馬にライオン、熊、トラ、象までおるで!」

「象なんて初めてみたよ!凄く大きい!」

「このサーカス予算はどうなっているんだ……」

動物達が火の輪をくぐったり自転車に乗ったりしてるけどよく言う事聞いてくれるなー。
あれ……舞台の端にいるのはザジさん……何か動物に話かけてる?……あ、こっちみて笑った。

次は手品部ってだけあってマジックをやるみたいなんだけど人体切断!?

[[このようにもし失敗すれば間違いなく重症になります]]

重症どころじゃないよ!?

「ぼーやは純粋だな。あれにはタネがあるんだよ」

「マスター、こういうのは心から楽しいって前向きな気持ちで見た方がより楽しめるんですよ」

「ネギ、それ俺もわかるで!どうなってんのか考えるぐらいやったらずっとワクワクしとる方が楽しいで!」

「……ひねくれた見方だとうまく楽しめない……か。なるほどな」

人体切断マジックは派手にノコギリ入れてたけどちゃんと無事だったし、大きな箱に団員の人が入ってそこに槍をどんどん刺して行くのは心配になったけど気がついたら中にいた人は客席の後ろの方に移動してた!

「瞬間移動やで!一般人にもできるんやな!」

「コタロー、この人達はもう一般人じゃないよ!既に達人の筈だよ!」

「そう言われるとそうやな!」

「ぼーや、小太郎の事を呼び捨てするようになったのか」

「今日からそうする事にしました!」

「ま、いつまでも他人行儀なのもな」

「はい!」

「……それどころじゃないか……」

[[次は当サーカスの目玉、高さ12メートルからの空中ブランコです!]]

「あ、ザジさんだ!」

[[まずは当サーカスの寡黙なピエロことザジ・レイニーデイ!!]]

「目隠ししとらんか!?」

「心眼かも!?」

「お前達楽しそうだな」

ザジさんは空中ブランコで二つあるブランコのタイミングをどうやって図ってるのかわからないけど目隠ししたまま右に行ったり左に移ったり、次第に飛び移る時に2回転、3回転、2回転半で足で逆さまに掴まったりしてるのに全てが滑らかな動きで少しも目が離せない!

「俺も挑戦してみたいな!」

「僕もやってみたいよ!」

「ザジ降りてくるみたいだぞ」

「ほんとだ……」

ザジさんが重力を感じさせない動きで12mの高さのブランコから回転しながらマットに降り立った。

「……ネギ先生、どうぞ。お友達も」

くるりと回して手が差し出された。

「え?」

「俺も?」

[[ここでザジ・レイニーデイから観客に誘いが入りました!空中ブランコを初心者がやるのは危険ですが……おーっと少年達は参加するそうです!観客の皆様拍手で二人の少年を応援下さい!]]

成り行きで空中ブランコやらせてもらえることになったんだけどいいのかな。

「ザジさん、良いんですか?」

「…………」

コクッとうなずいてくれたって事はいいんだろうけどなんでまた話さなくなっちゃうんだろ?

「よっしゃ俺から行くで!でやっ!」

流石コタロー、この程度の高さなんてことないみたい!

[[いきなり少年が飛び出したが凄い!御覧ください見事なパフォーマンスです!]]

あ、ザジさんが続けて行った……コタローの足に捕まった!

「ネギ先生、このまま私の足に掴まってください」

えええ!?
喋った……のはいいとして……まあ落ちてもマットあるしそもそも身体強化しておけば大丈夫だから落ち着いてやろう。
1、2、3……1、2、3……今だっ!


「それっ!」

……よし!掴まった!

[[まさかの三人連続で掴まっていますが、だ、大丈夫なのか?ザジ・レイニーデイ!信じていいんですね!]]

司会の人も困ってるみたいだ。

「ネギ先生そのままま身体に力をいれずしっかり私の足だけ掴んでいて下さい」

「は、はい!」

ってうわぁ!?
僕がザジさんの足に掴まったまま反対側のブランコに移った!

[[す、凄い!流石はザジ・レイニーデイ!観客の皆様盛大な拍手をっおお!?最初の少年がまた移ったー!!]]

「俺もこっち!」

「すき放題やってるんだけどこれでいいのかな!」

「細かいこと気にすんなや!ネギもやりたかったんやろ!」

「う、うん!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

ナイトメア・サーカス、安全管理は大丈夫なのか……。
確かに少年達は大丈夫だが、麻帆良は常識とはやはり縁がないらしい。
そのまま少年達とザジ・レイニーデイはヒョイヒョイブランコを行ったり来たりして観客を沸かせた。
うっかり手が滑ったら一般人の感覚としてはそれだけで「あ、危ない!」という感じだが、そんなミスは起きそうになかった。
客席に取り残されたエヴァンジェリンお嬢さんは微笑を浮かべて少年達の奇行を楽しんでいた。
散々ブランコを堪能したところでようやく地上に戻った少年達は再度客席から盛大な拍手を送られながら客席に戻っていった。
ザジ・レイニーデイの好きなものは人間であるが、まあ食べ物ではないらしい。
恐らく人間鑑賞、生態調査の類だと思われるがサーカスとは別に関わりはないような気がする。
私は彼女の正体を知っているが、驚くべきことに修学旅行では普通に石の息吹を受けていたし能力の隠し方は大したものである。

空中ブランコで終わりかと言えばそんな事なく、そのまま綱渡りに移ったと思えばトランポリン、そして続けて団員二人の合計10本のクラブを投げ合うジャグリングや団員全員による人間ピラミッド等、曲芸手品部という地味な名前のサークルからは全く思いもよらないハイクオリティな内容であった。
終始ネギ少年達は目を輝かせていたが、やはりまだ肉体年齢で10歳を少し過ぎた程度の子供である。
エヴァンジェリンお嬢さんの保護者同伴という言葉はあながち間違ってはいなかったかもしれない。

一方男子禁制の魔法球内の過激なワークショップは魔法球内時間で5時間が経過する頃にはカオスそのものだった。
なんというかあの空間は人類としての平均水準が異常に高かったため、最初は驚いてばかりの生徒達も1時間する頃には目の前で起きる現象にどんどん慣れて行き常識はどこかへ行った。
そのお陰で彼女達は非常に短期間で成長を果たしたのだが。
特に成長したのは佐倉愛衣と高音・D・グッドマンであるが瞬動術は練度は度外視しても普通に習得していた。
神楽坂明日菜は神鳴流の技がいくつか使えるようになったし、桜咲刹那は気を自由に扱うというものの掴みは会得したらしい。
孫娘も苦手だった気の扱いについても魔法球に入る前と出た後でかなり上達していた。
雪広あやかも気を扱えるようになると若さを保てるとかなんとか聞いたら俄然やる気になっていて、元々武芸に秀でていただけあって孫娘より寧ろ早く気を扱えるようになりそうである。
華々しい空間であったため全くむさ苦しさはなかったものの、常に凛とした空気が張り詰めていた魔法球はこれが史上初めてであろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会1日目も終わり、自由に魔法球を利用したりしている所私達は管理を雪広グループに任せて中夜祭に行きました。
3-Aがお化け屋敷なのはもう今更ですが、実は営利活動もしていてしっかり売上があったそうです。
佐々木まき絵さんが「こんなに儲かったよー!」と喜んでいたんですが何故ドル袋なんでしょうか。
ここは日本ですよ。
鈴音さんに突如長谷川さんが襲いかかりましたがサッと避けられて二人でコソコソ話していましたが大体の内容としては「なんでネギ先生に私がブログやってること教えたんだよ」「千雨サンの事を知りたいというネギ坊主の健気な姿を見てナ」とのらりくらりやってました。
鈴音さんは他にも武道会組がボロを出す前に神楽坂さん達の端末での映像検索、再生を完全停止させて裏の事がバレるのを予め防止していました。
美空さんには1号店で2時半ちょっと過ぎぐらいに「逃走完了おめでとうございます」ってお祝いしましたがまだ嬉しそうですね。
最後に田中さん達のフェイズを特別に4に上げた事を教えたら「私だけスか!?」って予想通りの反応してましたけどスイッチ押したのは西川さんです。
16時からも2回目をやりましたが、逃走完了者はおらず全滅でした。
明日からは少しずつルールを変化させて、途中でメールを全体に送信して「先着順で規定の時間内に超包子の登録店のスイッチを押して自首したらその時点の額までの賞金を獲得できる。その代わり自首者が出た時点で鬼の数が増える」というのもやるそうです。
善良的な気がしますが、店舗に自首する事自体が結構難しいですし、鬼の数が増えれば結局払う額もタイミング次第ですが問題ありません。
回復術式でしっかり休んでいるだけあって、神楽坂さん達は元気でしたがこのまま3-Aは次の日回って午前4時まで騒いでました。
途中朝倉さんが龍宮神社で行われている秘密イベントがどうのという話になって佐々木まき絵さんが「いいんちょチケット持ってるんだよー!」と言った為に大変な事になりましたがいいんちょさんの体術が明らかに上達していて飛びかかった皆して投げられてました。
既に麻帆良祭2日目に突入していますが麻帆良祭はまだまだ続きます。



[21907] 37話 ネギ少年の学祭巡り・後編
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/14 18:36
ネギ少年達は朝まで騒いだ中夜祭で、肉体的疲労感は無いもののエヴァンジェリンお嬢さんの勧めで、別荘で寝るように言われ現実時間で1時間を過ごした。
疲れていないとは言え、経験したことや記憶の整理には睡眠がやはり大事であるからという事なのだろうが素敵な配慮だと思う。
それに試合の映像を、人目を気にせず鑑賞できる時間も得られるというのがあるだろうし、ネギ少年達にとっては願ってもないことだった。
エヴァンジェリンお嬢さんは別荘でネギ少年達が寝ている間に試合の映像を確認し、起床した所で、ネギ少年達自身での分析等も言わせ、それについてのコメントやお嬢さんからした良かった点と反省点の指摘をしたり、まほら武道会という貴重な実践の場での経験をできるだけ多く吸収できるようにさせていた。

ところで、昨日一日目で4戦全勝した人には青山素子さん、瀬田夫妻、タカミチ君、松葉市さん、鶴子さんの旦那さんの蘇芳さんを筆頭に実力がある人達が揃っている。
皆さん全員持ち点は既に基本で16倍、そこに更に補正が掛かってそれ以上にふくれあがっているので今日も勝ち続ければ256倍、明日も勝てば4096倍で初期持ち点1000点に単純にかけるだけで最低409万は賞金が得られる事になる。
引き分けも一応1.2倍ぐらいに増えるのだがやはり勝利するのが一番稼げる。

そんなこんなで麻帆良祭もいよいよ2日目に突入した。
この日も10時からまほら武道会が行われる事には変わりないが、2日目、3日目は朝早くから学園祭はやっており、そんな中超鈴音、葉加瀬聡美、カオラ・スゥはロボット工学研究会で色々やっていた。
昨日、後で紹介するという割にはお互い中夜祭とひなた荘住人で祭りを見物するのに忙しかったから、こうして朝連絡を取り合って集まってごちゃごちゃやっているのだが睡眠時間も短い割には非常に元気だ。

「スゥさん、この技術力はどこの物なんですか?」

「ウチの実家モルモル王国やねん。そこの科学力やな」

「まさかこんなにオーバーテクノロジーに近いものがあるとはネ」

プラズマ火球を発生させたり、普通にレーザー兵器が作れるのはまぎれもなくオーバーテクノロジーだろう。

「モルモル王国ですか……こんな技術があるなんて行ってみたいですね」

「気に入ったらウチの国来るか?二人の技術力ならウチの国でも歓迎やで。世界征服も早まりそうやし!」

「スゥサンの目標も世界征服なのカ?」

「もしかしてチャオも世界征服なん?」

「話が会うようだナ!ははは!」

「そうやな!あははは!」

……世界征服なんて真面目にやりたがる人間は意外といるらしい。
こんな明るい世界征服の話が行われている一方ネギ少年は引き続きまほら武道会をうまくこなしながらまだ回っていない生徒達の所に行くのを欠かさなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

よし、疲労感は無かったけどマスターの別荘で休ませてもらったらやっぱり少しスッキリした気がする。
今日も10時からまほら武道会の二日目があるけど僕の試合は12時少し前だからまだ4時間はあるし昨日回れなかった所に行こう。
さっき急いでこのかさんが先にマスターの家から出ていったけど多分占い研かな。

「ぼーや、今日は私の所にも寄るのか?」

「えーっと午後からですよね?絶対見に行きます!」

「それは良い心がけだ。あー、それと茶々丸の野点も近くでやっているからな」

「分かりました!ではまた後で!行ってきます!」

「ああ、行って来い」

コタローは今日午前中楓さんとさんぽ部で走りまわるって言って先にいっちゃったけど、どうも普通に見てまわるみたいだったな。
女子校エリアは麻帆良でも奥の方だから少し遠いんだよね。
皆さっき朝まで騒いでたのに今日も客寄せやってるけどよく疲れないなー。
えーっと占い研は三階か……。
ああ、あったあった。
何かお化け屋敷みたいに凄い薄暗いな。

「こんに……おはようございます」

「あ、ネギ君来てくれたんか!?」

「はい!このかさん、占いお願いできますか?」

「もちろんや!せや、本当の占いやろうか?杖もあるんよ」

そういえばこのかさん占い魔法は凄いハマってたんだった。

「このかさん、杖持ってきて大丈夫なんですか?」

「占いの小道具ってことにすれば大丈夫や」

「あはは、ではお願いします」

「うちにまかしとき」

そろそろこのかさんも始動キー決めてもいい気がするんだけどどうだろうな。

「ネギ君今日きっと素敵な出会いがあるえ」

「素敵な出会いですか?」

「実はそれうちかもしれんよ」

「な、何言ってるんですか!?」

「冗談やよ、ネギ君慌ててかわいいなぁ」

「からかわないで下さい……」

「ネギ君、人の言うこと真に受けすぎやよ」

「それは……そうかも」

「んでも、そこがネギ君のいいとこでもあるんやけどな」

うーん、直した方がいいのかな……。

「今日の試合も応援しとるよ」

「はい、今日も頑張ります」

「あ、今日図書館島探険大会もあるから良かったら来てな」

「はい!それでは占いありがとうございました!」

次は夕映さんの哲学研究会のクイズか。
でも僕哲学者は詳しくないんだけど、それは関係ないし、行ってみよう。

「夕映さん!おはようございます!」

「ね、ネギ先生、わざわざ来てくれてありがとうです」

「いえ、皆の所をまわるのは僕も楽しいです」

「あの、昨日のいいんちょさんがまき絵さんに追求されていた武道会というのにはネギ先生も出られているのですか?」

「はい、そうです。チケット持ってなくてごめんなさい」

「やはりアレが関係しているのですね」

「……そうなんです」

「私も特別に知ることを許されているだけですから我侭は言わないです。ネギ先生、頑張ってください」

「ありがとうございます、夕映さん」

「それではクイズ良かったらどうぞ」

「はい!」

……と頑張ってみたんだけど難しかった。

「ネギ先生、気にしなくて大丈夫です。ここに集まっている人達は皆哲学に詳しいので仕方ないです」

「ははは、皆凄いですね」

クイズの早押しでボタン押すだけならできるけど他の参加者の人達ちゃんと答えられているから凄いや。

「このかさんにも誘われましたけど後で図書館島探険大会も行くのでまた後で!」

「お待ちしてるです!」

夕映さんこの前魔法見せてもらったときもう火よ灯れも小物を動かす魔法もできてたしどれぐらい魔法練習してるのか聞いたら一日3時間もやってたらしい。
本が好きっていうのは変わってないけど魔法使いにもなりたいみたいだし実際夕映さんには才能があると思う。

まだ大分時間あるんだけど……マスターも茶々丸さんも午後、探険大会も午後、桜子さんのライブも夜だし後は……あった!
麻帆良学園大学第三演劇部、夏美さんの発表が丁度10時からだし、行ってみよう!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

今丁度龍宮さんと高畑先生の試合が行われているのですが……。

「龍宮サンは昨日から良い試合だたが相手が高畑先生だとこうなるとはネ」

鈴音さんの話では昨日龍宮さんは最初500円玉を使おうと思っていたらしいのですが、雪広グループのツテでスロットのコインを使う事になってコインの消費に糸目がなくなりました。

「あれってパチンコの玉じゃ駄目だったんですか?」

「駄目ではないと思うがコインなら隙間なく重ねておけるからネ」

「なるほど。貫通力だとパチンコ玉の方が良さそうだと思いましたけどそういう事ですか」

「龍宮サンのレベルになると玉でもコインでも威力は十分だヨ」

―異空弾倉―

「あの異空間に弾丸隠しておくの便利ですねー」

「この前の旅行でも胸に機関銃すら入れてあたらしいヨ」

「魔法の谷間ですか……」

龍宮さんは高畑先生の無音拳を全て見切ってコインを弾き飛ばして相殺させていますが一体どういう目……魔眼をしているのでしょうか。

「普通はただの拳圧なんて見きれるものではないのだけどネ」

「龍宮さんには見えるんですねー」

「なんというか相性の良くない試合だナ」

高畑先生が咸卦法を使ってビームを出し始めたらコインは流石に役にたたなくなると思いますが使う気配が無いですね。
しばらく激しい銃声……コイン声?が続きましたが龍宮さんが無音拳を見切って鮮やかな身体捌きで接近していき近接格闘戦に持ちこまれましたが、高畑先生が無音拳を距離の関係で使えないのに対して、ゼロ距離でも数枚まとめて発射できる龍宮さんは、攻撃手段は減っていません。

「やはり龍宮サンが護衛だと心強いのが分かるネ」

「あの時も一瞬でしたしね」

押しているかに見えた龍宮さんでしたが

「高畑先生、やはり強いな」

「龍宮君もその年でこれだけなら本当に凄いよ」

「それはどうも。しかしこれ以上続けると弾丸の処理が面倒だ」

突然距離を取って龍宮さんは腕を下ろし

「終わりかい?」

「ああ、ギブアップだ。高畑先生とは試合より仕事で組む方が合っているだろうな」

「確かにその方が僕も助かるよ」

「もし機会があれば」

「勝者高畑・T・タカミチ選手!」

これでまた連勝記録を高畑先生は更新しました。

「二人共本気では無かたがお互いの力量はわかるのだろうナ」

「龍宮さんが本気だとまず武装が違いますもんね」

「元教え子相手に真剣勝負という訳にもいかないネ」

仕事人風の龍宮さんが潔く負けを認めて能舞台に戻って休憩室に行く姿はカッコイイです。
散らばった弾丸は毎回必死に田中さん達が集めているんですけどね……。

「昨日の青山サン達に貸し切られた魔法球で修行した成果なのか愛衣サンは動きが良くなたネ」

「そうですね、佐倉さんは瞬動を使い始めてますし昨日より確実に伸びてます」

「私も今日も引き続き指導が行われるなら参加してみようかナ」

「鈴音さんも参加するなら私もやってみたいです。いいんちょさんも昨日混ざってましたし」

「一緒に運動するカ」

「はい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音達までもがあの魔法球で修行する事にしたのはさておき、ネギ少年の本日最初の相手は松葉市さんだった。

「お嬢の先生と聞いてみれば、若すぎると思っておりましたが昨日の試合拝見致しました。私も本気でお相手致しましょう」

「よろしくお願いします!」

「制限時間15分試合開始ッ!」

市さんは本体と同密度の分身を本体含め8体も出せる上、途中で突然そのうちの一体が舞台に同化して消えたかと思えば気配を一切感じさせず縮地で接近する事ができるなど初日に長瀬楓の前に現れた時の頭領発言はともかく、忍としての能力は凄まじい。
いくら全方位防御の魔法領域と言えど、タカミチ君との試合のように目の前に集中していれば良い訳ではないので全8方向から迫るのは脅威としか言いようがなかった。
風精の囮とは訳が違う東洋の神秘は何ともズルい気がしてならない。

「囲まれたッ!」

―雷の29矢!!―
―光の29矢!!―

「これでは軌道が読めますね」

牽制に一斉発射した魔法の射手もむなしく完璧に見切られ懐に入られてしまい

「くっ!」

回避を試みて空中に向けて虚空瞬動をするが

「まだ我らが残っています」

「なっ!?」

空中に予めいたかのように忽然と4体の分身が現れ

「空中には上げさせません」

三体がそれぞれネギ少年の斜め頭上から魔法領域に殴り込みをかけ、残りの一体が膨大な気の塊を溜めも殆ど無く瞬時に腕に形成したかと思えば完全な真上からそれを猛烈な勢いで投げつけネギ少年は空中に逃げようとするも虚しく地上に叩きつけられた。

「こうなったら……」

ネギ少年はリアルタイムに反射で戦うようにしているためまほら武道会でも強力な手札になりえる高速思考はタカミチ君との試合以外では使っていなかったのだがここで再度解禁した。
これによってネギ少年の視界範囲内の攻撃に対する反射が極限まで高くなり魔法領域にかかる強烈な衝撃を、僅かに体勢をずらす事で緩和しだした。

「動きが良くなりましたね」

「楓さんより凄いなんて……」

「お嬢の才能はそれは素晴らしいものですがまだ修行中の身です。上には上がいるという事をお忘れなく」

「勉強になります!」

しかし8体のうちどれが本体なのか全く分からないという状況下では完全にジリ貧だった。

「なかなか固い防御ですが……」

―甲賀77式刺突―

「これは流石に耐えられないでしょう」

何が77式なのかは知らないがボッっという音と共に指先から肘にかけて目に見えるレベルの気の刃が発生し8体同時に刺突をかけた。
剣のように伸びてはいないが、断罪の剣・気バージョンとでもいうような恐るべき威力だった。

「がはッ!」

狙ったのは全てネギ少年の四肢の関節であり、見事完全に外してしまった。
そのまま立つ事も腕を振るう事もできなくなり魔法領域は展開していてもダウンと相成ったのだった。

「ご安心下さい、痛みなく元に戻せますので」

「す、凄い……。ありがとうございました」

「カウント10!勝者松葉市選手!」

勝利が決定し直ぐ様各分身が所定の位置に付き

「力を抜いてください、参ります」

と、すると一瞬にして関節が全て元に戻ったのだった。

「ほ、本当に全然痛くなかった……」

「お疲れでしょう、私がお運びいたします」

「い、いえ、そんな!」

「私も子供相手に少々本気を出してしまいましたからせめてものお詫びでございます」

ネギ少年は流れるような無駄の無い動作で、だっこされそのまま休憩室に連れていかれて行った。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

あーびっくりした。
関節ってあんなに簡単に外れるんだ……。
このかさん達が心配して皆来てくれたけどあっさり無力化されただけで痛みがあったのは関節外された時だけだったんだよね。

「ネギ坊主、大丈夫でござるか?」

「楓さん、全然大丈夫です!忍者って凄いですね!感動しました!僕も分身してみたいです!」

「拙者は忍者ではないでござる」

「楓姉ちゃん、あの市の姉ちゃんのやったあの技できるんか!?」

「コタローも落ち着くでござるよ」

驚きっぱなしで僕もコタローと同じようにどんな事ができるのかしばらくずっと聞いてたら楓さん少し困ってた。
詠春さんが言うには父さんも分身できたって話だし東洋の神秘なんてできないなんて言ってる場合じゃないよ!
気で分身が作れるって事は精霊召喚じゃなくて純粋な魔力でできる筈。

……少し興奮しちゃったけど、続けて2戦目をやった。
今度の相手はそんなに強くなかったから高音さんの時と同じ方法で勝ったよ。
マスターの舞台もあるからお昼ごはんは超包子で肉まんを買って食べて済ませて茶々丸さんの野点もある場所に移動した。

「茶々丸さん、こんにちは!」

「ネギ先生、ようこそお越し下さいました」

「お茶を貰えますか?少し喉も渇いてて」

「抹茶と緑茶がありますがどちらに?」

「えっと、緑茶でお願いします」

「分かりました、少々お待ちください」

ふー、ここは少し落ち着くな。
マスターの舞台は……あそこか。

「ネギ先生、お待たせしました。どうぞ」

「ありがとうございます!頂きます」

「ネギ先生、試合はいかがでしたか?」

「とても良い実戦経験になりました。楓さんの知り合いの人が凄かったです」

「楽しそうですね」

「はい!」

茶々丸さんにはマスターの別荘でもいつもお世話になってるし、一緒に買物行ったら街の人達の人気者だし、猫にも餌をやってたり良い人だなぁ。
少しゆっくりしてマスターの舞台もそろそろ時間になるから茶々丸さんと一緒に席で待機したよ。
この舞台で発表されたのが、後で映像として販売されるんだけどネカネお姉ちゃん喜ぶかな。
マスターが入っているサークルは日本舞踊ならジャンルを問わず舞い、踊り、振り三種を全部やってるけど、厳密に格式に拘ってもいないから舞台がそれぞれで違くてもうまくやってるんだよね。

「ネギ先生、始まりますよ」

「春にも見ましたけど楽しみです」

あ、マスター出てきた。
最初は雅楽からみたい。
珍しい楽器もたくさん揃ってるしこのサークルは凄い!
マスターが人目を引くのはあやかさんと同じ金髪だけどいつもどことなく輝いてて、ゆっくりした動作で舞をすると、通った後にその残滓が感じられる事だと思うんだ。
これは他のメンバーの人には感じられない大きな差だ。
顔を仮面で覆う舞も女舞っていう白塗りの厚化粧で演技をする時もそれが見てわかる。
僕はでもやっぱり薄化粧か素顔の方がいいけどな。
見に来てる人達も「神々しい……」って言ってる通りマスターは綺麗っていう言葉で言うには少し違う雰囲気。
近くを道行く人も必ず足を止めるような魅力がある。
あ、これで一旦終わりか。

「エヴァンジェリン様!!」

「エヴァちゃーん!!こっち向いてー!!」

「女神が降臨したぞーッ!!」

わー凄い人気。
落ち着いた雰囲気だったのが完全にテレビでやってる歌手のライブみたいな盛り上がりになっちゃってるけどいつもこうらしくてネカネお姉ちゃんと一緒にイギリスで映像見た時もそうだった。

「マスターの得意は扇を用いた神楽ですからまたすぐ後で出て来られます」

「茶々丸さん、このサークルの楽器や衣装にかかっている費用っていくらぐらいするんでしょうか」

「とても高いですよ。一つ駄目にしてしまえば青ざめるぐらいには」

「あはは……それがこんなにあるって凄いなー」

「今年で9年目ですから最初はここまで充実していなかったそうです」

それがここまで……。

「マスターはこの舞台で披露する以外に断絶しそうな伝統芸能を多数習得しているので、人間国宝に認定されるのも近いかもしれません」

マスターって何でもマスターできるんだなぁ。
サークルの他の人達による各種舞が披露された後またマスターが巫女服を着てでてきた。

「おや、ネギ君も来ていましたか」

「え!?クウネルさん、いつのまに隣に!?」

「丁度今です」

いきなり現れるからびっくりした……。

「クウネルさんもマスターを見に?」

「フフフ、キティの合法的かつコスプレ用ではなく本物の巫女服姿が見られるのはここだけですからね」

凄く目が光ってるー!!

「ネギ君、そういえば聞いていませんでしたが学園長が送ったエヴァの映像は全て見ましたか?」

「あ、はい!全部ネカネお姉ちゃんと見ました」

「あれは実は私が全て選別したものだったのですがお楽しみいただけましたか?」

「え?あれクウネルさんが選んだものだったんですか?それはもちろん素敵でした」

「それは良かった。それではエヴァの演技を見るとしましょう」

「はい」

マスターの扇の所作一つ一つが流れるような動きをさっきまで歓声を上げていた観客の人達も息を飲んで真剣に舞台を見つめている。
凄くゆっくりした動きだけど、何故か飽きが来ないからちょっと時間が長くても見ていられるな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

広域指導員の仕事で笑う死神、デスメガネ等と学園の血の気の荒い学生達に恐れられているタカミチ君だが、今まさに相対するのは笑う教授こと瀬田記康である。
二人とも全勝中であるが、瀬田教授が確定指名権を行使しタカミチ君との試合を申し込んだのだ。
理由は、あの無音拳と咸卦法に興味があるからと、ただそれだけらしい。
ヘビースモーカー同士仲良くしてろという感じであるが、この試合、まさに衝撃の一言だった。

「瀬田さん、よろしくお願いします」

「高畑さん、こちらこそよろしくお願いします」

と双方穏やかに挨拶を済ませたのだがお互い微笑を浮かべていている割には舞台はひどい威圧感に覆われている。
タカミチ君も明石教授を始めとした完全な裏関係者を制している瀬田教授に油断はしていないのだが、無音拳を使っていいのかは微妙に戸惑っていた。
しかしそこへ先に一石を投じたのは

「ではこちらから」

瀬田教授この武道会初の投擲攻撃の始まりである。
投げる物は龍宮神社のお嬢さんと異なり普通のパチンコ玉である。
が、密度の濃い気が通してあり威力は相当高い。

「投擲か!」

弾丸が跳弾するような音が聞こえたと思えばタカミチ君の咄嗟の反応での無音拳で相殺された。

「いやー、はっはっは、とても興味深い。それでは」

言葉だけがその場に残り、忽然と姿を消したかに思われた瀬田教授は既に空高く飛び上がっており頭上から投擲を仕掛けながら飛びかかった。
計算されつくしたかのようにパチンコ玉が全て弾かれた所、無音拳を放つ事ができない距離に瀬田教授が接近、得意の截拳道が猛威を振るう。
等速魔法球で行われている試合に観客は目が釘付けであったが良く考えてほしい。
瀬田記康はあくまでも東大教授であり、世界に飛び出しあちこち飛び回るまでは長い事裏も知らなかった一般人なのである。
それが仮にも悠久の風通称AAAのタカミチ・T・高畑を押しているのである。
しかも笑いながら。
魔法使いの方々は驚いていたが、一番驚いているのはタカミチ君本人である。

「ほ、本当に大学教授とは思えない腕前ですね」

「はっはっは、荒事には慣れていまして。遺跡発掘作業中に襲われた所を返り討ちにしているうちに自然と」

「一昨年一機のプロペラ機だけで多数の追っ手を蹴散らしたとは聞いていましたが……」

「いやーあれもなかなか大変でした。懐かしい」

何故か会話する余裕がある二人だが目にも留まらぬ動きで瀬田教授風にいうと功夫を繰り広げる二人であった。

「まだ本気では無いようですが咸卦法をお見せしましょう」

「それはありがたい!是非実際に目で見たかった所です」

「右腕に気、左腕に魔力……合成」

―咸卦法!―

その状況を見た観客と言えば……。

「あの高畑先生に咸卦法を使わせるとは大した御仁でござるな」

「私も瀬田さんと相手してもらったけどはるかさん並に強かったアルよ。しかも笑いながらアル」

「いい!凄くいいわ!」

神楽坂明日菜はタカミチ君のイカした本気モードをまた見れるとあって大喜びである。
まあそれに後でデートする約束をしたからというのもあるのだろうが……。
再び試合の方に戻れば、怪奇現象が起きていた。

「咸卦法とは興味深い、こうですかね。……合成」

―咸卦法!―

「何だって!?」

見様見真似咸卦法が出た。

「しかし、あまり持ちそうにないですね。あっはっはっは!」

「これはまるでジャック・ラカン……」

とうとう魔法世界伝説の最強傭兵剣士ジャック・ラカンと同列に扱われた瀬田教授だった……。
確かになんとなく共通項はある気がする。
言わば旧世界のチート・無限のバグキャラなのかもしれない。
しかもすぐその弟子浦島景太郎もチート・無限のバグキャラ候補生であるのだから、先行きも明るい。
まあ彼等はそんな事お構いなしにあちこち世界を飛んで回っては掘り返すから戦いとは本質的に無関係であるが……。
気が扱えるのは、武術の修練によって自然と身につくからおかしなことではないが魔力まで扱う事ができるのは、魔分の集積しやすい遺跡などに長期間いたりしたからなのだろうか。
さて、試合の結果はまさかの瀬田教授の勝利で終わり、まほら武道会で全勝同士の間に明確な力量差が出たのだった。
勿論あくまでも一対一の個人戦に限った結果であり、タカミチ君には対軍用の技もあるのだから完全な比較はできないだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

マスターの舞台も全部終わったけど、やっぱり本当に良かった。

「直に見るのは良いものですね」

「はい!」

「ところでネギ君、明日私と試合しませんか?」

「えっ?いきなりどうしたんですか?」

「戦うのは私では無いのですが、是非相手をしたいと言っている人物がいましてね」

「そ、そうなんですか?……はい、わかりました」

「それでは明日全試合終了後18時に龍宮神社でお待ちしています」

「はい……ってあれ!消えちゃった」

僕と戦いたい相手だけどクウネルさんと試合するって……どういうことだろう。
不思議な人だとは思ってたけど……まあ明日後夜祭の前に特に予定も無いから大丈夫だ。
マスターに挨拶しておきたいけど……凄いファンの人達に囲まれてるし、図書館島探険大会もそろそろ近いし後にしておこう。

「茶々丸さん、僕も図書館島に用があるのでこれで失礼します」

「はい、ネギ先生、お気をつけて」

ちょっと時間があるからまほら武道会の試合結果を確認してみようかな。
……え!?タカミチが負けた!?
相手は……瀬田さんだ!
凄く強いのは分かってたけどタカミチよりも強いなんて……後で確認しておこう。
まずは図書館島探険大会だけどどこまで潜るんだろう。
浮遊術は使えないから無視できた罠も……矢が飛んで来る所とか一般人の人がいきなり参加しても大丈夫なのかな……。

「このかさん、のどかさん、夕映さん、ハルナさん、こんにちは!」

「あ、ネギ君来たえ!」

「ネギ先生こんにちはです」

「ね、ネギ先生こんにちは……」

「ネギ君よく来たね」

「それで今日はどういった内容なんですか?」

「まずは地上部分を回った後地下4階までやね」

「4階ですか。あの、罠はどうなっているんですか?」

「それはうちの部員が先回りして解除してあるから大丈夫だよ!」

「それなら安心ですね!」

「ほな、出発するえ!」

地上部分は図書館らしいツアーになったけどやっぱり地下部分は探険だった。
去年の夏にも地下3階まで潜った事があったけど1階と呼ぶには天井と床の高低差がおかしかったりする場所だから多分空間を広げる魔法が使われているんだろうな。

「ねえねえ、ネギ君が参加してる格闘大会ってなんなの?」

「えーっとウルティマホラみたいな感じです」

「それなら他の場所でもいくつも大会やってるじゃん」

「僕が参加しているのはくーふぇさんみたいな人が沢山出ているもので……」

「ふむふむ、ハイレベルな大会かー。ってくーふぇも出てたとはね……これは後でとっちめるか」

「ハルナ、そういうの良くないえ」

「だって極秘の大会だよ?気になるに決まってるじゃん!今年変わった人達が多くて、アキラに似た人が野菜をシュバババッって切る曲芸とか路上でやってるしさ。絶対凄いよ!ってかネギ君どんなの?教えて!」

マズい……なんとかしないと。
アキラさんに似た人って素子さんかな。

「ごめんなさい、それを言ってしまうと選手権が剥奪されてしまうので……」

嘘って辛いなぁ。

「あーそれは駄目だね。私ネギ君の試合見てみたいし。こうなったらいいんちょからチケットを掻っ攫うしかないかー?」

全然諦めてないみたい……。
ハルナさんの口撃が凄かったけどこのかさんがそれとなくフォローしてくれたからなんとかなった……。

「ネギ君来てくれてありがとな!」

「ほら、のどか、ネギ先生に言う事あるんじゃないの?」

「え……う、うん」

「のどかさん?」

「……ね、ネギ先生!今日この後良かったら私とデートして下さい!」

で、デート!?

「あ、え、えと、はい!喜んで!」

「おおっ、やったじゃんのどか!」

「あ、ありがとうございます、ネギ先生」

「のどかさん、時間は4時過ぎぐらいからでもいいですか?」

「は、はい!」

「ちょっと僕また用事があるのでメールしますね!」

「お待ちしてます!」

デートってデート……か。
なんだか緊張するなぁ。
でも、まずその前に試合だ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会では引き続き試合が消化されていき、楓さんと浦島可奈子さんの試合も終わりました。
相手が女性だと本気を出すのに躊躇するという欠点を抱えている小太郎君とは違い分身をフルに使う事のできた楓さんの方が優勢でした。
途中楓さんそっくりに変装して分身同士見分けがつかないという驚きの瞬間もありましたが楓さんはそれに対して「これほどの身体操術に変装……可奈子殿、どこでそんな技術を?」と尋ねた所「おばあ様に教わりました」と言い、「祖母がいるでござるか……」と楓さんは少し懐かしげでした。

「次は刹那サンと青山鶴子サンの試合だネ」

「神鳴流の戦いは奥義を使い出した途端にすぐ災害になりますけど今度はどうなるでしょうか」

ところで鶴子さんの妹の素子さんはこれまで全勝ですがたまに二刀流?なのかシャーペンが飛び出します。
そのシャーペン、気を通しているというにはどこにも刃が付いてる訳でもないのに異常に固いんですが一体どこの特注なんでしょう……。

桜咲さんの試合は「昨日の修行の成果を見せてみなはれ」という鶴子さんが言ったのに対し「はい、鶴子様、よろしくお願いしたします!」と礼儀正しく挨拶を交わして始まりました。
最初は単純ながら超人的な速度で剣戟が繰り広げられ、その内容は鶴子さんが桜咲さんを軽くあしらうというものでした。
普通に見ているだけだと桜咲さんも十分強いと思うのですがこうして二人が相対すると歴然とした差が分かります。

「少し成長したようどすが、まだまだ。ハッ!」

「え?」

木刀と木刀がぶつかった瞬間桜咲さんの方の木刀が半ばでスッパリ切れてしまいました。

「無手で続けましょか?」

「い、いえ、滅相もありません。お相手頂きありがとうございました!」

「ほな、今日も18時から」

「お願いします!」

鶴子さんの言葉、やさしそうに聞こえますが実際凄く怖いです。
なんでも、普段主婦をやっている時はいつも包丁を片時も離さないなんて逸話もあるらしいんですがなんていうか猟奇的な感じがしますね……。

「気をあれだけ自由に扱えるというのだから達人は凄いネ」

「生命の神秘ですね」

試合を終えた桜咲さんはその後木刀が真っ二つにされた瞬間を振り返り「もし真剣だとしても確実に折られていた……」と戦慄していたそうです。
素子さんはこの試合を見て「止水……」と呟いていましたが似たような経験があるのかもしれませんね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

試合があるからとまほら武道会に戻ってきたネギ少年であったが、相手は雪広のエージェントの戦闘が専門ではない人だったため、あっさり雷の29矢雷華崩拳を叩き込んだ所レジストしきれずそのまま相手がダウンという形で速攻だった。

他に行われた試合では古菲対龍宮神社のお嬢さん戦は異空コイン弾倉の前に古菲が苦戦、大量に被弾するが布棍術で応戦し出し、攻撃を受けること覚悟で接近し浸透勁を決めたがダウンさせるに至らなかった。
そこへ反撃とばかりに「私に苦手な距離は無い」と言い放ちながら両手に握りこまれたコイン数十発が古菲の顎に全弾クリーンヒット、これで古菲がダウンに至った。

また、なんだかバグであると認定してよさそうな瀬田教授の奥さんの瀬田はるかさんは見様見真似咸卦法なんて事はしないが、小太郎君と当たった。
小太郎君としてはどうせなら蘇芳さんか瀬田教授の方が良かったのだが、自分の持ち得る近接格闘の技術で挑むも、はるかさんはタバコを口に咥えているかのような余裕さで滅多打ちにし「小太郎君、なかなかいい試合だった」とサバサバしたセリフを最後に述べるという相変わらずスタイルが常に一貫してぶれず、拳法家の選手の人達の憧れの的となっていた。
小太郎君は「女殴るの趣味やないけど、時と場合によっちゃこだわってられへんな」と少し認識が改まったらしい。
しかしひなた荘関係者にあたるたびに小太郎君は勝てないが何かループに入っている気がしないでもない。
頑張れ。

一方ネギ少年は再び龍宮神社を飛び出し、宮崎のどかとデートに出かけて行った。
残念ながらこの日あったベストカップルコンテストは既に16時には終わっており出場は……いや、一応教師と生徒と禁断の愛等となりかねないから出なかっただろうが、できなかった。
一番の問題は早乙女ハルナが今年の2月の時と同じように二人の様子を尾行するという褒められた行為ではないことをしていた事だが、綾瀬夕映と孫娘も興味が尽きずそれに追従していた。
そんなものだからその様子を途中見かけた野次馬精神旺盛な3-Aの生徒が後ろにどんどん増えていった。
ネギ少年は流石にあからさまな尾行に気づいていない訳なかったので、せめて宮崎のどかが緊張しないようにと常に尾行がいない方向に目が向くように配慮していたのだから涙ぐましい。
18時過ぎにライブ会場で、でこぴんロケットというバンドを組んだ3-Aの和泉亜子、柿崎美砂、釘宮円、椎名桜子の4人の演奏を聞き、そのままフィアテル・アム・ゼー広場の近くにある屋上喫茶で一息ついたりと英国紳士のエスコートはなかなかだった。
当然これも少し離れた席で下手な変装をした3-A生徒達が興味津々でみていたのだが……。
そしてデートもそろそろ終わりかという時。

「ネギ先生、今日は一緒に学園祭をまわってくれてありがとうございました」

「僕ものどかさんと学園祭まわれて楽しかったです」

「それでこれは今日の私のお礼……みたいなものなんですけど……ネギ先生、目を閉じて貰えませんか?」

「え?はい!いいですよ。閉じました」

と、宮崎のどかは大胆にもネギ少年とお互いファーストキスをしようとした……のだが……。

「ちょぉぉっとおおおお!お、お、お待ちなさい、のどかさん!きょ、教師と生徒がそんな行為に及ぶのはいけませんわ!」

カットイン入りましたー。
ビシッ!と人差し指で指し示すポーズを決めた雪広あやかの特攻を皮切りに他の尾行集団も姿をあらわし、てんやわんやの騒ぎになった。
実際この雪広あやかの行動を止めようとした生徒達が沢山いたのだが、昨日の修行に参加した結果一般人ではとても相手にできず振り切られてしまったのである。
これによって皆に見られている事に気がついて宮崎のどかは恥ずかしさのあまり逃げ出そうとしたが、それを阻止され失敗、そのあたりは3-Aの底抜けな明るさでフォローされていた。
まあ、宮崎のどかがネギ少年を好きだということは3-Aで知らない人間はいなかったし、それを言い出すと雪広あやかも「愛しております!」だとか佐々木まき絵も「私ネギ君の事結構好きなんだよねー」とか言ってるので今更である。
何にせよ逆・光源氏計画なんてやましいものを考えている人より余程純粋な心を持っていると思う。

こちらのデートが終わった一方では神楽坂明日菜が今日の5時間分の修行を終えてからタカミチ君と、さんぽ……もといデートをしていたのだがこちらは神楽坂明日菜が告白するに至るも、タカミチ君に予想通りの返答をされていた。
なんとなく心のどこかで分かっていても実際に口に出して言われたのはやはりショックであったようでその後神楽坂明日菜はエヴァンジェリンお嬢さんの家、目的は別荘に一目散に逃げこんでいった。
その中で長い事ボロボロ泣いていたかと思えば突然咸卦法を発動して、砂浜があるのをいいことに、覚えたばかりの斬岩剣をぶっぱなしながら「う、海のバカー!!」とお約束である。
すぐさま虚しくなって突如テンションが最低に落ち込めば屋上のプールでダラーっとこれまた長い事していたりと実に彼女らしいと言えば彼女らしかった。
地味に海が割れていたのは触れないほうがいいだろうか。

さて、時間を18時に遡れば超鈴音とサヨまでもが例の魔法球に入っていった訳だが、その二人を含め昨日よりも更に女性の数が増えていて、いよいよ間違って男性が入ったら痛い目に合わされる場所となっていた。
その妙な人気を博している魔法球を精神的に疲れた表情で目をやった人物の中には既に8戦中5戦の相手の内訳が青山のお姉さん達だった詠春殿がいた。
お疲れ様でした。
もう青山のお姉さんはこれで終わりですから安心してください。
そんな疲れきった人をよそに、ネギ少年もおらず小太郎君はどうしていたかと言えば瀬田教授と浦島景太郎がいるところを見つけ、不死身のなり方について割と本気で弟子入りしようとしたり、19時になって松葉市さんが出てきたところを捕まえ、例の甲賀式刺突やら分身について真剣に教えを請っていた。
実際小太郎君は狗族であるため爪を自由に伸縮させることができるので刺突というのは相性が良い。
各々やりたいことをのびのびできるとあって充実していたことだけは共通していると言えるだろう。

こうして学園祭2日目も無事に幕を閉じたのだった。



[21907] 38話 まほら武道会閉幕
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/14 19:47
昨日は私とさよも修行に参加させてもらたがなかなか良かたネ。
私は気弾の形成というのはできなかたのだが、コツさえ分かれば意外にできるものだナ。
さよの身体では気が使えない訳ではないが、魔分を使える立場にある時点で覚える必要も無かたから専ら柔術のトレースを一生懸命やていたヨ。
それにしても明日菜サンの成長速度には驚いたネ。
神鳴流の奥義でも難易度があるとは言えあんなに早く習得できるとは到底信じられないヨ。

「超さん、おはようございます」

「おお、クウネルサン、ネギ坊主に何か言てきたのかナ?」

「ええ、今日の18時という事でお願いしておきました」

「それは何も問題無いネ。しかしこれだけ関係者がいる前でやる訳にもいかないと思うがどうネ?」

「私としましては多くの方に見てもらっても構わないのですが……私自身がここにいると知られるのも少々困りますからね」

「分かたヨ。一つ貸切にしておくネ」

「頼みます。それにしても私もこの大会出てみたかったですね」

「ネギ坊主以外に誰かめぼしい相手でもいたかナ?」

「旧世界にも探せばこれだけいるものなのだとは」

「それでもかのナギ・スプリングフィールドを超える者はいないだろう?」

「フフ、まあそうですね」

「そうだ、試合してみたいというなら私とやてみるカ?」

「超さんとですか?それは確かに面白そうですがあのアーティファクトでは勝ち目が無さそうですね」

「クウネルサンも半分無敵なのだろう?」

「お互いルール違反ですね」

「だから出てないんだヨ」

「しかしそれはまた追々という事で」

「分かているネ。何も本気ではないからナ」

「フフ、それでは」

既に保存試合数は384試合に確定指名戦を足して400超だが、あまりリタイアする人がいなかたのは良かたネ。
やはり骨折まで治るというのは大きいナ。
さて、今日でこのまほら武道会も終わりだが普通なら1日目が予選2日目が本選で終わるのがこれだけできているのだからもう望みはほぼ達成されているヨ。
賞金は全ての参加者に払うが貴重な映像資料の対価という所だネ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

麻帆良祭3日目、各サークル、部活、クラスは最後の稼ぎ時と、猛烈な追い込みをかけていた。
麻帆良中どこもかしこも睡眠不足もなんのその、客引きの声が飛び交う中、まほら武道会最終日はと言えば……。

「コタロー、頑張ってね」

「おう、やっと本命との試合通ったんやからな」

「この試合は本気の本気や。俺も出し惜しみはせえへん」

「うん、そうか」

「ほな、行ってくるで」

小太郎君の相手は進藤蘇芳、鶴子さんの旦那さんであるが鶴子さんの姓は仕事の関係で基本的に青山のままだ。
等速魔法球での試合、スクリーンでリアルタイムに映像が流れている。

「関西呪術協会所属陰陽師、進藤蘇芳です。どうぞよろしく」

「関西呪術協会所属狗神使い、犬上小太郎や。よろしゅう!」

「それでは制限時間15分、試合開始ッ!」

―狗族獣化!!―

小太郎君は開幕初手早くも獣化を使い。

「分身!」

本体含めて3体に分身し。

「元気が良いですね。私も全力でお相手致しましょう!」

「「「そうこないとな!行くで!」」」

無詠唱陰陽師とは一体いかような戦闘スタイルなのか。
実際陰陽術では広範囲殲滅魔法や召喚術系には必ずと言っていいほど魔力が使われるが、それ以外は気で行使する事ができる。
当然気の扱いに長けている人間が格闘戦に長けていない筈がないのだ。
神鳴流と呪符使いは、魔法使いと魔法使いの従者のような深い関係があるとは言われるが、それはやはり所謂一般的砲台としての場合だけである。
大体そんな守ってもらわないとダメ、なんていう相手と鶴子さんが結婚する訳がない。

三方向から小太郎君が取り囲み狗音爆砕拳でなぐりかかれば、一体に接近、手首を掴み、そのまま残る二体の接近に合わせて投げ返し軽く脱出した。
当然小太郎君もただ投げられた訳ではなく投げられる直前に蹴り技に移行したのだが、無詠唱陰陽術で触れられた瞬間金縛りを喰らい完全停止、反撃できなかったのだ。
投げ飛ばされた分身は残る二体にキャッチされ、衝撃を与えられた事で金縛りも解けた。

「やっぱこれ金縛りやったんか」

「はい、続きを行きましょう」

「おっしゃ!」

既にこれまでの10戦近くで度々、この金縛りは使われており、抵抗力の無い人がこれをうけると10カウントダウンというのはザラにあり、このまほら武道会のルールではかなり有利な術である。
分身のような回避手段がない場合もろに喰らえばそれだけで終わる可能性があるのだ。
当然それだけではなく、無詠唱魔法の射手一発が0.3秒で出せるというのと張り合うかのような速度で空や地面に魔方陣を描く事ができ、それを任意のタイミングで発動させることまでできるのである。
描かれる物には、星型の五行魔法陣、
子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の十二支、
甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸の十干、
九星図という一から九までの数字で構成される魔方陣、
爻と呼ばれるバーコードのような記号3つを組み合わせてできる乾・兌・離・震・巽・坎・艮・坤の八卦文字、それを更に2つずつ組み合わせた六十四卦などがある。
西洋魔法と東洋魔法どちらが優れているかというのはよく衝突の種になるが、やはり使い手次第である。

小太郎君が地面から疾空黒狼牙を発動し、多数の狗神を放とうとすれば、同じ地面から即座にフェイト・アーウェルンクスの使うような石の槍が飛び出し全て貫かれるという早業である。
しかも属性に拘らず、火、水、土、木の精等、無数に使えるというのは手札を探る意味を相手に失わせる。

最初舞台上で真面目に戦っていた小太郎君だったが、開始2分にして空中、地面問わずあちこち敷設魔方陣が描かれ、まさに地雷原に取り囲まれてしまい、浮遊術で空中に逃げるしかなくなってしまったのだった。

「映像で見たことある言うてもなんちゅう速さや。学園長の魔法の射手よりタチ悪いわ。うおっ!また石の槍か!これなら避け、ッ!?分岐するやと!」

同時に小太郎君目がけて三本突き出しだけに終わらず、石の槍半ばで木の枝が伸びるかのように追尾し続ける。

「空中に逃げられると些か厄介ですね。ハッ!」

舞台上、空中問わずおよそニ十数カ所が光ったと思えば強烈な熱線が一斉発射され

「くそっ、どこまで追尾すんのや!がぁッ!」

石の槍は注意を逸らすための攻撃にすぎず、槍ごと貫く熱線が小太郎君達に直撃し、地面に落下。
同時に分身2体も消滅。

「これで終わりです」

獣化の本領はその生命力の高さ、少し怪我した程度すぐに自己再生できる点にあるが、ダメージを受けて落ちてきた直後首を捕まれ、再び金縛りが決まった。

「カウント5、6」

「まだ……や」

「あまり獣化を続けないほうがいい、身体に良くないでしょう。ハッ!」

再度解けかけた金縛りを決められた。
確かに純粋狗族でもない小太郎君が無理に獣化し続ける事にリスクが無いわけがない。
少なくとも寿命が僅かに縮む程度の代償はあるだろう。

「ぐっ……」

「カウント10、勝者進藤蘇芳選手!」

「同じ関西呪術協会所属の者としては君のような将来有望な少年がいる事を嬉しく思います。立てますか?」

「ああ……蘇芳の兄ちゃんほんま強いな。……俺、昔兄ちゃんの事見たことあんのやけど覚えとるか?」

「あれは……島根の妖怪退治の時でしたか。私も管轄が違うというだけで他の班に口出しできず歯がゆい思いをしたのを覚えています。戦場に駆り出すにはあの時の小太郎君は今よりも年端もいかない子供でしたね」

「記憶力ええな。俺は別に自分の生まれの事にぐずぐず悩んだりしてへん。考えても意味もない事やしな。俺、もっと強うなるで」

「そうですか。犬上小太郎君、期待しています」

「おう!またいつか相手してや!」

「はい、その時は今回と同じく手は抜きませんよ」

「望むところや!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

小太郎君の本命の相手との試合はこれからの小太郎君にとって良い方向に働くと良いですね。

「東洋呪術も無詠唱であれだけ自由自在に扱われたら、向かうところ殆どの妖魔は大した敵ではないだろうナ」

「普通呪符使うと思ってたんですけど無詠唱でできるものなんですね」

「便利な道具があると頼てしまいがちだがあの人はそれを自力で行えるように血の滲むような努力をしたのだろうネ」

「はー、凄いですねぇ」

「……でなければ鶴子さんの相手等務まらないと思うヨ」

突然小声で会話ですか。

「……私もそう思います」

不意を突かれて包丁が刺さってたなんて事も進藤さんなら無さそうです。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

まほら武道会最終日もつつがなく全試合が終了したところ、とうとう閉会式を迎えた。

[[この3日間、選手の皆サン、実に素晴らしい試合の数々だたネ。日本を中心に探してもこれだけの手練が集またのだ、主催者としてはこれほど嬉しい事は無い。感謝するヨ]]

[[儂からも礼を述べさせてもらおう。今年突然急な呼びかけに応じてくれたこと、心より感謝する。この25年間ももし開催していたらと思うような良い武道会じゃった]]

[[雪広グループを代表して、私からも一言述べさせていただきます。皆様の試合、真に賞賛に値するものでした。我々グループ一同この大会のサポートを務められたことを嬉しく思います。それでは司会の方、お願いします]]

[[選手の皆様、お待ちかねの表彰に移らせて頂きます。まずは総合ポイントベスト5までの発表です。
5位主婦、瀬田はるか選手596万7400ポイント
4位関西山奥の村民、松葉市選手658万9400ポイント
3位関西呪術協会所属陰陽師、進藤蘇芳選手792万5600ポイント
2位関東魔法協会、悠久の風(AAA)所属、高畑・T・タカミチ選手793万1800ポイント
1位東京大学考古学教授、瀬田記康選手901万2300ポイント
以上がトップ5までの順位でございます。各選手の皆様に盛大な拍手を!]]

素子さんはどうしたかというと1度浦島景太郎と試合して負けたので全勝でなくなってしまった為、点数が跳ね上がらず一回り低いポイントとなった。
それにしても瀬田夫妻は3日の間に合わせて1802万円を稼いだ訳だが、多分使い道は何度も壊れる瀬田カーの修理費用に消えて行くのではないだろうか。
各々5人の選手は壇上に上がってトロフィーとポイント分の額の巨大小切手を渡され、軽くコメントをしていたがそれぞれよく性格が出ていた。
はるかさんは「まさか全勝できるとは思っていなかった」
松葉市さんは「このような人前に出るなどと恐縮の極み」
進藤蘇芳さんは「皆様と良い試合が出来たこと、嬉しく思います」
タカミチ君は「世界は広いと思い知らされました」
瀬田教授は「はっはっは、良い功夫でした」
だそうだ。

6位以降の人達は大体200万前後、100万前後と下がったあたりで後は団子状態になるというのは大体予定通りだった。
そして、また自由に選手同士や観客同士で会話を楽しむというのが夜10時ぐらいまで行われたのだが、能舞台、中央の魔法球だけは最初のわずかな間だけ完全貸切だった。
5倍加速空間の中にいたのはネギ・スプリングフィールド、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、アルビレオ・イマ、近衛詠春、高畑・T・タカミチ、そして神楽坂明日菜達である。

「ネギ君、昨日の約束通り試合したいという相手の紹介をしたいと思います」

「紹介というのは……?」

「まあ見ていて下さい、アデアット」

「アーティファクトカード!」

アルビレオ・イマの周りを無数の本がとりかこみ徐ろにそのうちの一冊を手にとり、栞を本の該当ページに挟みこみ引き抜いた。

その姿は

「詠春の姿をとり」

―雷光剣!!―

をあさっての方向に向けてデモンストレーションがてら放ち

「このように特定人物の身体能力と外見的特徴の再生ができます。これは私のアーティファクトの一つ目の能力ですが、二つ目の能力はこれら、『半生の書』を作成した時点での特定人物の全人格の完全再生なのです」

話しているうちに元の姿にアルビレオ・イマは戻った。
舞台袖でこそこそ孫娘が「若い時の父様かっこええな」とか言って詠春殿が「このか……今は……」なんてやってるが放置。

「……という事はもしかして」

「ええ、ネギ君の父親であり私達の友であるナギ・スプリングフィールドの人格を再生することができます」

「と……うさんを……」

「但し、この再生を一度行えば半生の書は魔力を失い二度と再生することはできません。再生時間も10分間だけです。……どうしますか?」

「……お、お願いします!」

「よい返事です。それでは始めましょう」

そしてナギ・スプリングフィールドの半生の書を手に取ったアルビレオ・イマは栞を挟み、再び引き抜いた。

一瞬の静寂のあと、白い鳩が大量に大空空に飛び立って行った。
ここ魔法球ですが。

「よぉ、お前がネギか?」

「とう……さん」

「うぷ、ぺっぺっ、何だよこの大量の鳥は。……またアルのヤローの過剰演出か?」

「と……父さんっ!!」

「ハッハッハッハ」

ネギ少年はキラキラした笑みを浮かべているナギに向かって飛び込んでいき、親子感動の対面になるかと思えば……デコピンでネギ少年が吹っ飛んでいった。

「へぷっ!?」

ごろごろとネギ少年は舞台端に戻され

「なんだここ……まほら武道会じゃなさそうだが。わざわざ舞台は用意してあんのか。相変わらずマメな奴だな。って詠春にタカミチか?お前ら老けたな!なんだそれ!!」

「「余計なお世話だッ!!」」

完全に鳥の演出なんてぶちこわしである。

「おい、ナギ私を忘れるな!」

そこへ無視されたエヴァンジェリンお嬢さんも叫んだが、舞台上でネギ少年が涙を流しており。

「あーあーあー情けねーな、我が息子よ。男のくせにポロポロ泣いてんじゃねーぞ」

「だ、だって……」

「来い、ネギ。稽古つけてやるぜ」

「は、はい!」

目に涙の跡が残っているも、中国拳法の構えをとるネギ少年。

「お、なんだその構え。おもしれーな」

「行きます!」

     ―魔法領域展開!!―
      ―戦いの歌!!―
―連弾・雷の29矢!!―連弾・光の29矢!!

「やっ!」

即座にネギ少年は魔法領域と戦いの歌を発動させながら2種無詠唱魔法の射手で牽制射撃を放つ。

「おおっなんだそりゃ!はははっ流石俺の息子だな!いいぜ!ハッ!」

ナギも瞬時に大量の魔法の射手を放ち相殺どころか、完全に飲み込みネギ少年に攻撃が通ったかに思われたが。

―特殊術式 無詠唱用鍵設定キーワード「双腕」!!―
    ―双掌底・断罪の剣!!術式封印!!―
―特殊術式 無詠唱用鍵設定キーワード「右腕」!!―
    ―収束・光の29矢!!術式封印!!―
―特殊術式 無詠唱用鍵設定キーワード「左腕」!!―
    ―収束・雷の29矢!!術式封印!!―
―滞空・光の29矢!!―滞空・雷の29矢!!―
      ―双掌底・断罪の剣!!―

煙が晴れたところ、虚空瞬動で空中に回避し飛び上がり、浮遊術に移行、1秒半で遅延呪文3発をストック、臨戦状態の為に魔法の射手と断罪の剣を再度発動。

「虚空瞬動に浮遊術!できるじゃねえか!もしかしてちゃんとお前も魔法学校中退したのか?」

していません。
というかその発言魔法学校に完全に喧嘩売ってるから。

「してないです!ちゃんと卒業しました!」

「なんだ、そうか」

何微妙に残念そうな顔しながら飛び上がってるんだ。

「ま、いいぜ。稽古の付けがいがあるってもんだ、なッ!」

語尾に力が入った瞬間、右手を軽く振りかぶっただけで極太の魔法の射手がネギ少年に向けて襲いかかり

「これぐらいなら!」

虚空瞬動で落ち着いて回避し

―連弾・光の29矢!!―

お返しに滞空させていた魔法の射手を放ち、それに乗じて至近距離に近づき空中格闘戦にもつれこんだ。
魔法領域の真骨頂、発動している術者は自由に攻撃できるが、反撃する側は常に魔分の層を突き破らないといけないという特性にここで始めて気づいたナギは。

「変わった障壁だな!でもまだ柔らかいぜ!」

と褒めるも、馬鹿げた魔分による身体強化と自由自在に身体に雷やら光の属性の魔法を強靭に纏うナギの前には、攻撃を一瞬留める程度の強度だった。

「くっ!はッ!」

掌底・断罪の剣でナギのストレートパンチをギリギリで防いだところ

「おお、いてえな」

相転移する拳に何かちょっとだけ痛かったぐらいの感想を漏らすデタラメさは健在だった。
当然、相転移なんてしてない。

「やっぱり父さんは凄い!右腕!!左腕!!」

―解放!!桜華・雷華崩拳!!―

「さっき溜めといたやつか?」

ネギ少年オリジナル技を余裕の表情で捌く姿は「はっはっは」と笑いながら試合する東大教授と被る部分があるが、ナギの場合は口元が少しニッとするだけだ。
ナギはネギ少年の右手首をあっさり左素手で捕まえ、魔法の射手は全てレジスト。
続けて右腕をネギ少年の腹に向かって打ち込んだところ、咄嗟に高速思考を働かせたネギ少年が左手の雷華崩拳をナギの右ストレートにぶつけるが

「威力が足りねーぜ」

「うわっ」

左手が打ち負けあさっての方向に逸れたところナギの左回し蹴りが突如、右腕を捕まれてガラ空きの右脇腹に思いっきりめり込む。

「かはッ!」

一瞬の停止の後、一気に真横に吹き飛ぶ。

「わりー、ちょっと力入れすぎた、大丈夫か。でも右腕に反応するとは思わなかったぜ」

「だ……大丈夫です!」

ネギ少年はとても痛そうな顔しながら右脇腹を左手で抑えて答える。

「へっ、その意気だ!」

その後、遠くからだと、度々空中に極太ビームやら、無数の矢やら、投擲した断罪の剣が飛び交う、派手な親子の戯れが見られた。
そのまま数分間ナギが言うには稽古、をネギ少年がつけてもらっていたところ、エヴァンジェリンお嬢さんも空中に飛んで行き

「おいナギ!ぼーや!もう後2分もないぞ!」

「あ?あー、そうだ、これ時間切れあんのか。ネギ、よく持ったな」

「は、はい」

という半端な幕切れだったがこれにて稽古終了であった。
結局全然使われなかった舞台に二人とお嬢さんが舞い戻りしばしの会話となった。

「ネギ、怪我は後でアルにでも治してもらえよ」

「はい」

「それならうちが治すえ!」

「お、誰だ?」

「私の娘ですよ」

「詠春の娘か!そりゃ老けるわ!」

「うっさいわ!」

「じゃタカミチの子供は?」

「いません!」

「それと、アスナ、でかくなったな」

「……え?」

「おっと、それはいいとして。ネギ、ここでこうやってお前と話してるってことは俺は死んだっつーことだな……」

「いえ、父さんは死んでない!生きてるんです!6年前の雪の日父さんは僕を助けてくれました」

「お?そうなの?」

「それにアーティファクトが使えるって事は父さんが生きてるっていう何よりの証拠です!」

「あー、そっかそっか。これアルのアーティファクトだったな。んー……でもってエヴァ、俺ちゃんと呪い解いたんだな」

「解いてないわバカめ!」

「え?だって解けてんじゃないのか、それ」

「緩めただけだ!」

「あー、じゃあ解きに行けてないのか俺」

「どうせ忘れてたんだろーが!」

「そりゃ悪ぃな」

「罰として私を抱きしめろ!」

「えー、やだ」

「だったらせめて頭を撫でろ!」

「なんだ、それだけでいいのか、ほらよ」

「心を込めて……撫でろよ」

「ネギ、お前が今までどう生きてきてお前に何があったのか……俺のその後に何があったのか……幻にすぎない今の俺には分からない」

しんみりして少し目に涙を浮かべるエヴァンジェリンお嬢さんを撫でながら、ナギはネギ少年に話しかけだした。

「…………」

「けどな、この若くして英雄ともなった偉大かつ超クールな天才最強無敵のお父様に憧れる気持ちはわかるが……俺の跡を追うのはそこそこにしてやめておけよ」

「……うっ……うっ……」

「いいか、お前はお前自身になりな。……ほら、もうあんまり泣くんじゃねえぞ」

「は……はい!僕は……僕自身になります!」

「フッそれでいい……じゃあな」

……こうしてナギの10分間の完全人格再生は終わった、が。

「いつまで撫でている!手を離せっ!」

「フフフフフ」

少し良い空気になったかと思えばこれである。

「はぁ……。ぼーや、どうだった」

「父さんは……僕の、思ったとおりの人でした」

「デタラメだったがな」

「あはは」

「私……ネギのお父さんと会ったことあったのかな?」

「アスナ君には……そろそろ教えてもいいのかな……。アスナ君は覚えてないかもしれないけど麻帆良に来る前の頃ナギに会ったことがあるんだよ」

「そう……だったんですか……」

「タカミチ!それほんとなの!?」

「ネギ君、隠していたみたいでごめんね」

「ううん、別に気にしてないよ。ただ驚いただけ」

「なら尚更、ネギのお父さん捜さないとね!私もお世話になったみたいだし!」

「あ、アスナさん!」

「うちも捜すの手伝うえ!父様、ええよね?」

「こ、このか」

「ダメなんていうたらうち父様嫌いになるえ」

「ええ!?そんなッ!?」

詠春殿に9999の精神的ダメージ!

……とまあ、そんなこんな内輪でしばらく話が盛り上がったのだった。

「皆さん、私のお茶会に招待しましょう。この招待状を渡しておきます。明後日にでも図書館島の地下に来ると良いでしょう。ネギ君のここにいないもう二人の生徒さんも一緒にいかがですか?」

「え?」

「新米魔法使い見習いの二人ですよ。フフフ」

「ど、ど……わかりました」

いつの間にか図書館島の二人の女子中学生の事を知っていた意地の悪い司書だった……。
せめてもの救いはここに雪広あやかがいなかったことだろう。
彼女は超鈴音や雪広義國さん達と外で、何やら色々話していたようで、ネギ少年達が現実時間の僅かな間だけ魔法球の中にいた事を知ることは無かった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

後夜祭で3-Aの皆と馬鹿騒ぎをした後、深夜、龍宮神社に戻て会場の撤収にとりかかたヨ。
基本的には田中サン達が物資は運んでくれるから力仕事は一切無いけどネ。

「さて、最後の仕上げだナ。全端末保存映像の自動削除と端末自体のシステムダウンを実行するネ」

「超さん、了解です!」

「ハカセ、嬉しそうだナ。まあ主催者側はデータを保存できるのだからまさに役得だネ」

「もちろんです。これだけの試合数の戦闘データを動作プログラムに反映すれば、茶々丸の機動性能はもとより、これからのロボットの発展にとっては宝の山です!」

「私にとてもロボットにも役立てば、人間の神秘を解き明かすのにもまたとない有益な資料だヨ」

「もう早く撤収してデータの研究を始めたくてたまりません!」

「後は夏休みまでたっぷり時間はあるネ!」

「はい!やる気でてきたぞー!」

ハカセのテンションも深夜になてくるのと合わさて完全にハイだネ。
この後も田中サン達に敷設科学迷宮ワイヤーの回収、魔法球をエヴァンジェリンの家の倉庫への移送を済ませ、今回はエヴァンジェリンの力を借りずに自動で認識阻害魔法と回復術式が停止するのを確認して終わりネ。

「超さん、こんばんは」

「おや、クウネルサン、まだ表に出られていたのカ」

「どうやら朝までは大丈夫なようです。彼には感謝しませんと」

「伝えておくヨ。それで何の用かナ?」

「用が無くても話したい所なのですがね。明後日私の住処でお茶会を開くことになりまして、その招待状を超さんにも渡しに来たのですよ」

「ネギ坊主達も来るお茶会カ。するとアチラの話をするのかナ?」

「そのつもりです」

「分かたヨ。私もネギ坊主達に渡すものがあるし好都合ネ」

「それは良かったです」

「それでクウネルサンの約束とやらは果たせたのかナ?」

「はい、この武道会のお陰で詠春やタカミチ君にも会わせる事ができましたし、本当に良い場でした」

「それはまほら武道会を実現に導いた甲斐があたヨ」

「フフ、次はあなたがどんな事をするのかも楽しみにしていますよ」

「ふむ、割とすぐだと思うヨ。期待するといいネ」

「ではその時まで私はまた隠れさせてもらうとしましょう。それでは」

「ああ、また肉まん持て行くネ」

……長いようで短い3日間だたナ。
まあ全ての試合を合計するととんでもない長さになるのだけどネ。
保存しなかた映像に関しては翆坊主達に見せてもらうとするカ。
ふむ、来年のまほら武道会は果たしてどういう形になるかナ。
それは私もまだ見ぬ世界、楽しみは後にとておくものだネ。
その前に、まずは撤収して古達と騒ぎに戻るとしよう。



[21907] 39話 新たなる未来へ向けて
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/14 20:24
麻帆良祭も終わり、場所は司書殿の住まう図書館島深部の庭園である。
集まったのはそのクウネル殿、エヴァンジェリンお嬢さん、茶々丸姉さん、チャチャゼロ……、ネギ少年、小太郎君、神楽坂明日菜、孫娘、桜咲刹那、古菲、長瀬楓、ついでに綾瀬夕映、宮崎のどか、そして……。

「ようこそ私のお茶会へ。お待ちしていましたよ」

「ぼーや達、遅かったな」

「クウネルさん、こんにちは。お邪魔します」

「クウネルの兄さん、来たで!」

「くーねるはん、こんにちは」

「クウネルさん、こんにちは」

少々人数が多いものの挨拶を交わしたところ
司書殿が虚空に向かって話しかけた。

「そろそろ出てきてはいかがですか?」

「え?クウネルさん、まだ誰か来るんですか?」

「ふむ……そうだネ」

わざわざこの時のために光学迷彩コートを用意して、それを着用して予め隠れていた超鈴音の登場である。

「超!」

「超姉ちゃん!」

「超さん!どうしてここに?」

「どうしてここに、と言てもまほら武道会の時の事を思い出せば私がクウネルサンと知り合いであることは何ら不思議では無いと思わないカ?」

「あ……た、確かにそうですね」

「気になる事もあるでしょうが、皆さん、まずはお茶とお菓子がありますからどうぞ席に座ってはいかがですか?」

という司書殿の一声でひとまずはお茶会を楽しむ事となり、ネギ少年は色々な種類の紅茶に感動しつつ専門家か?というような批評をしたりする一方女子中学生達は複数種類のスイーツを食べては「おいしいねー」と感想を漏らしていた。

「ネギ君、あなたのお祖父さんから夏にまたウェールズに戻るように言われていませんか?」

「ど、どうしてその事を?」

「学園長から聞いたのです」

「学園長先生が?」

「ええ、そうです。以前ナギが生きていることについて契約カードで見せたと思いますが、ネギ君がナギの事そのもの、行方を知りたいのであれば英国はウェールズへ戻るといいでしょう。あそこには魔法世界……ムンドゥス・マギクスへの扉があります。恐らくネギ君のお祖父さんもそのような意図があるのだと思いますよ」

「魔法世界……」

「ネギ坊主、行く気はあるのかナ?」

「そうですね……はい、是非行きたいです」

「ぼーやの為にわざわざゲートを用意してくれるんだ、夏休みの旅行にしてはやや遠出だが行ってみるのもいいだろう」

「ネギ、私も付いて行くわよ!」

「ネギ君、アレを見たからにはうちも行くえ!」

「ネギ先生、私も行きましょう」

「俺も当然行くで!ネギの相棒やからな!」

「これが……もしや旅でござるか。ならば拙者も参るでごさるよ」

「楓、そうみたいアルね!ネギ坊主、私も行くアル!」

「ね……ネギ先生!私も行かせて下さい!」

「ネギ先生、私も行くです」

「……皆さん。……でも……いえ……分かりました。教師としても引率はしっかりやります。夏休みを利用してですから情報収集程度になると思いますがよろしくお願いします」

「話はまとまたようだネ。私からも少し手助けをするヨ。これをネギ坊主に渡しておくネ」

超鈴音が取り出したのは……。

「これは超さんの部活の書類?」

「外国文化研究会。生徒を引き連れて公的に海外に行くというのならば部活が良いだろう?後は顧問にネギ坊主が登録して皆が部員になるだけネ」

「超さん、もしかしてこのために……?」

「元々私の用事で設立した部活なのだけどネ。年内に使う予定は特に考えていないから設立した時の状態に戻してあるヨ」

「そう……ですか。でも……あれ?そういえば相坂さんと春日さんと龍宮さんもいたと思いますが2月の旅行は一体何を……?」

「ただ観光をして超包子の支店を視察、それに少しビジネスをしに行ただけネ。きちんと部活としてのレポートも提出してあるヨ。予め言ておくが詳しい事については教えられないネ」

「……そうですか。分かりました。深くは聞きませんが、超さん、ありがとうございます」

「どういたしまして。私は付いていかないけど魔法世界に行くなら気をつけてナ。ここから先はネギ坊主達の話になるだろうし私は退席させてもらうネ。それではまた」

そう言って庭園から去っていった超鈴音であるが、ネギ少年達からすると今までよりも更に謎が深まった事に違いない。

「まるで超さんはこの事を知っていた上で部活を作ったかのような気がするのですが……」

「刹那さん、僕もなんだかそんな気がします」

「ネギ坊主、超はたまに良くわからないけどあれでも協力しているアルよ」

「……そうですね、ありがたくこの部活の書類は使わせてもらいます」

「それじゃ部員の役職決めたりしないと駄目ね!」

「ほな、うちは書記がええな!」

「私は肉まん大臣アル!」

「古姉ちゃん、肉まん大臣って何や?」

「肉まん大臣は肉まん大臣アルよ!」

なんだかんだ超鈴音の謎についてはあっという間に流れていったのだった。

《茶々円、ぼーや達は本当に魔法世界に行っても大丈夫なのか?》

《心配なら付いていったらどうですか?》

《そこまで私も過保護ではないさ。それにしても超鈴音の部活の書類とやらは用意が良すぎると思うがどういう事なんだ》

《超鈴音はある程度どうなるか分かった上でついでという形で部活を作ったんですよ。実際2月の時には必要でしたし》

《わざわざそこまでお膳立てしてやる必要は無いと思うがな》

《超鈴音がネギ少年達に手を貸せる事はもうあまりありませんから駄目押しのようなものですよ》

《ふ……そうか。それにしても茶々円はぼーやを魔法世界に行かせたがっているように感じるがそうしようとする意図は一体何だ?例の魔法世界の崩壊とやらは解決するのだろう?》

《確かにネギ少年達が魔法世界に行かなくてもさほど問題は無いです。……個人的な事情としましては、それでも恐らくネギ少年達が魔法世界に行ってくれた方が魔法世界の崩壊の件があっさり解決する事になる可能性が高いんです。実に身勝手極まりないですけど勘弁して欲しいですね》

《足りないピースが揃った方が噛み合うのは当然という所か……。問い詰めたところでお前の言うとおり本当に気になるなら私も行けばいいという話にしかならんか》

《私にも本当の所これからどうなるかなんて正確には分かりかねます。ただ、やるべき事をやって問題が起きるなら予め対処するなり起きてしまったなら解決させるだけです。と言っても直接関わる事は殆どと言っていいほどできませんが》

《間接的には既に十分関わっているだろうに》

《たった数人と、だけですけどね》

《それは茶々円の事情を考えれば仕方ないだろう。諦めてその数人で頑張るんだな》

《それでも心強い数人ですから》

《当たり前だ。私を誰だと思っている》

そりゃあもう重々承知しておりますよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

早くも7月に入りましたが学園祭が終わって大分皆気が抜けた感じになっています。
そこへ更にいよいよ夏に突入するため暑さが追い打ちをかけてきていてだるい空気が教室に広がっています。

鈴音さんがネギ先生に外国文化研究会の書類を渡した後、ネギ先生達は必要事項を書き込みしっかり事務手続きを行って手続きを済ませた後は、相変わらず修行をしたりして過ごしています。
真面目に修行する必要があるの?という疑問も湧きますが、くーふぇさん、楓さん、小太郎君と桜咲さんは今更ですから。
それにしても綾瀬さんと宮崎さんがもう初級魔法については扱えるようになったというのには驚きましたが、本来魔法生徒が学ぶのは魔法の運用だけではなく歴史、魔法薬の知識、魔法に関する一般常識、ラテン語や古代ギリシア語の解釈そのものの勉強等が必要なんだそうです。
つまり綾瀬さん達は初級魔法の本をネギ先生から借りていたとはいえ、基本的には発動させる魔法の呪文をそのまま発動できるように運用の練習のみを大量に積み重ねただけという事になるので、魔法使いと名乗るにはあまりにも偏りがあるでしょう。
近衛さんはその点についての座学も行っていますが。
ただ、どうやら綾瀬さんには魔法の才能はかなりあるようなのですが、宮崎さんはそれほど魔法の才能が無いようです。
でも、高畑先生のように呪文詠唱が元からできない訳でもないですから、もう努力の問題でしょう。

火星の方はと言えばもう春休みから3ヶ月が経ち、大気組成も酸素が20%になりとうとう地球とほぼ同じ濃さになりました。
放射線レベルも地球の1.1倍程度となり若干惜しい気がしますがこれなら許容範囲内だそうです。
南極の極冠を全部溶かした時点で海になるべき部分には全て水が行き渡っていますし、その後もしっかり地下の氷を溶かしたので、水深に少し物足りなさはあるものの誰がどこから見ても海だとしか思わない筈です。
それに同調すれば今はもう海に浸かっている神木・扶桑も龍山山脈の付近に重なって陸上に戻る上、その大陸の分さらに水深が上がりますしね。
平均気温も15度前後になり快適な状況になりましたが、これは二酸化炭素の影響でまだまだ勝手に上がり続ける可能性があるものの、元々太陽から遠いのもあって急激に上昇することはなさそうです。

それで同調の際の増幅魔法はどうなったかというと丁度鈴音さんの魔法球で最終実験で今にも結果がでるんです。
そこそこの大きさの球体を浮かせ、その球体に地球の11箇所の聖地と対応する場所に魔分溜りを、麻帆良の位置にも神木とそれを囲む6つの魔分溜りを模した物を用意してあり、既に11箇所それぞれから魔力の流れが神木に集中するという状況ができています。

「うむ、星と月の座標の計算を考慮していないもののこれでほぼ完成だろうネ」

「キノ、これ実際にやったら目立ちますね」

《それは……まあ仕方ないでしょう。何にせよ超鈴音のお陰でようやく同調の目処が立ったわけですし。星と月の座標の計算は私達がやればあっさり終わりますから大丈夫でしょう。ありがとうございます、超鈴音》

「ああ……思えば2年半こうしてやてきたが私の本来の予定よりも1年早く目的が達成できたナ」

少し遠い目をしている鈴音さんはなんだかどこか遠くに行ってしまいそうな雰囲気です……。

「……鈴音さんはどうするんですか」

《…………》

「……それは私が未来に帰るかという事かな」

「鈴音さんは帰りたいですか……?」

「そうだね……帰りたいと言えば帰りたいよ。私を送り出した故郷の皆に会いたいと思わないわけがない。できるならば皆にもこちらに来て欲しいぐらいね」

《そうですか……》

「……元々私、私達は過去を変えれば未来が変わる……けれど変えたところで私達のいる未来が変わるのでは無く違う未来の分岐が生まれるだけで解決にはならないという矛盾をはらんでいたのは理解していたよ。……翆坊主、私が未来に戻ると死ぬというのは……つまり私は強制認識魔法の発動に完全に失敗したか、あるいは発動に成功した未来と失敗した大きく未来が変わりはしなかった未来の二つの分岐を作り後者からそのままあるべき場所に戻ったという事なのか?」

《……ええ……そうです》

「やはりそうか……。翆坊主と話した時から薄々そうではないかと思っていたがあえて考えないように日々を過ごしていたのだけどね。失敗していなければ私が未来に帰るという選択自体取る筈無いものな。それが私が『この先未来に帰ると死ぬ』と、それはそれなりに近いうちに起きる事だと暗に翆坊主が言った理由なのだろう。少なくともカシオペアを使って戻ったという事は何らかの資料は持ち帰ったもののその際死亡したという所か」

「鈴音さん……」

「……翆坊主とさよは歴史を知っているだけだと言う話だけど私が故郷からこちらへ来る時に故郷の皆に一体何と言われたか聞くか?」

鈴音さん今まで泣いた事なんて一度も無いんですけど目元が……。

《……聞きましょう》

「私も……聞きます」

「ああ……『スズネ、体に気をつけなさい。しっかり睡眠はとるネ。ご飯はあちらにはいいものがあるだろうけれど必ず食べるんだヨ。ここより風邪も多いから気をつけるネ』なんてそんな心配ばかりだった」

《…………》

「最後に『私達はこれからも頑張るけれどスズネも頑張ってきなさい、達者でネ』……だよ。皆笑顔で送り出してくれたがどう考えても……別れの挨拶にしか……聞こえないだろう?……悪い、少し思い出して……しまったよ……」

「鈴音さん……泣きたい時は泣いていいんですよ」

《……サヨの言うとおりですよ》

「済まないな……さよ、少し胸を借りてもいいか?」

「もちろんですよ」

「……ありがとう」

鈴音さんは今まで一度も見せた事が無かったですが、初めて涙を流しました。
泣いてもいいと言ったのに、私に顔を見せないようしがみつき、少し震えながら我慢して声を押し殺し泣いていたのは鈴音さんとしてもやりきれない思いがあったからなのでしょうね。
しばらく小さな音が魔法球の中に響き続けました。
キノは精霊体だったので鈴音さんに触れる事はありませんでしたが表情には哀愁が漂っていたように思います。
それでも、泣き止んで顔を伏せたまま深呼吸して息を整えて顔を上げた鈴音さんはいつもの元気な鈴音さんに変わりありませんでした。

「ん……少し情けない所を見せたナ。私が肉まんを世界に広めるのは故郷で一番お世話になた人、母の好物だたからネ」

「鈴音さんのお母さんの好物だったんですか……」

「もちろん私の好物でもあるけどネ。超というのはクウネルサンが言ていた通り所属機関の名前ネ。超機関のメンバーは人種、出自を問わずとにかく火星で生き抜くための研究をし続ける所だたヨ。私が超という苗字を使うのは皆に共通する名を名乗ろうと思たからネ」

《超には故郷の願い、想いが詰まっているんですね》

「そういえば翆坊主にとても私は願いだたかナ?」

《はい、それはずっと変わりません》

「……まるで私は願いの塊だナ。うむ、だからこそ、やはりそう簡単に死ぬわけにはいかないネ。まだまだやることはいくらでもあるのだからナ」

「私にも手伝えることは言って下さい!」

《私もできることがあれば協力しますし、応援します》

「……少し私らしくもなく話すぎたかナ。さあ、そうと決まればこうしてはいられないネ!次のプランをどんどんたてるヨ!」

「はい!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

超鈴音が真面目に自分の話をしたのはこれが初めてで色々考えさせられるものがあったが、話してくれたのはただの気まぐれなのか、それとも信用した証ということなのだろうか。
……後者だと思っておくのが幸せに生きるコツだと思う。

それからというもの、超鈴音は更に新たな研究に手をつけ始めた。
目新しいのは今まで東洋医学研究会で会長職を勤めていても、魔法球で薬草を栽培したりという事はしていなかったのだが突然「優曇華のアーチを貸すネ」と言いだし、雪広グループのツテを利用して古今東西の植物を集めて栽培する事にしたのである。
因みに優曇華のアーチ内はつい2年程前まで扶桑が入っていた為時間の加速はできなかったのだが、出してしまった今となっては設定次第で加速ができるのだ。
これまでは通常の時間の流れと全く同じにしていたのだが、これからは超鈴音の一存で色々変化する事となるだろう。
どうして薬草に手を出すことにしたのか聞いてみたところ「優曇華の有効利用法としては良いし、科学ばかりやりすぎるとオーバーテクノロジーだらけになるからネ」だそうだ。
私もサヨも特に使わないので宝の持ち腐れなのは否定しないしどんどん使ってもらえればそれで構わない。
しかし、その割には魔法世界と火星が同調するのを見越して半永久魔力炉なんて夢だらけのものを作ろうとしているようで開発意欲は留まるところをしらない。
茶々丸姉さんの魔力炉すら一日一回ゼンマイ……を卷く必要があるというのに半永久という事は大気中の魔分を使用した側から再利用でもするという物なのだろうか。
確かに実現したら画期的発明になると思うが。

ネギ少年達の方はといえば外国文化研究会という部活名だけでなく、一応対外的な名前としてナギ達の赤き翼に因んで白き翼と団体名を付けたそうだ。
それを示す物としてエヴァンジェリンお嬢さんがバッジを作るという事になったのだが、もうあまりネギ少年達には関わらないかと思われた超鈴音にその話を少ししてみた所興味が出たようで

《エヴァンジェリン、その作る予定のバッジにはどういう機能を付けるネ?》

《茶々丸には付いて行かせようと思っているから位置を把握できるセンサーぐらいは付けるつもりだ》

《茶々丸姉さんも行くんですか》

《茶々円、寂しいなら付いていったらどうだ?》

それはいくらなんでも無理ですよ……。

《残念ながら地球でやらないといけない事がありますから》

《……茶々丸頼みのセンサーか……エヴァンジェリン、原型ができたら私に回して貰えないカ?少し改良するネ》

《好きにしろ。私は機械には強くないからな。もともと科学と魔法の両方を利用するつもりだったから超鈴音かハカセにでも頼もうかと思っていたところだが丁度いい》

《そういう事なら任せるネ。……ここは一つ私からもネギ坊主達に何か作てやるかナ》

そんなこんなで超鈴音がバッジの改造ともう一つ餞別を作成する事にしたらしい。

《どんな物を作る予定何ですか?》

《あちらで使うにしても色々困るだろうからソーラー発電装置と誰でもできる魔力注入で動く端末を作る事にするネ。まあやはりまた携帯電話だナ》

《もう粒子通信バラしても問題無いんじゃないですか?》

《うむ、エヴァンジェリンと共同で作たという事にすれば私が翆坊主達と関わりがあるというのにも早々行き着かないしそれでいいだろうナ》

《便利ですよね。例の妖精にしろお嬢さんを介すと》

《そうだ、あの魔法生物はまだ戻て来ないのカ?》

《はい、一体どこをほっつき歩いているのかは知りませんけど戻って来ませんね。もう今月で4ヶ月ぐらい経ちますが》

《少しぐらいまともな情報を持ち帰て来るのを期待したいナ》

《ケット・シーと並ぶ由緒正しき妖精という事ですが果たしてどうでしょうかね》

《実際転移魔法符のルートはきちんと把握しておかないと下手なテログループに渡れば過激な所なら毒ガスや爆弾を直接転移させるなんて手段にも出かねないからナ》

そんな事が起きたらもう大惨事だな……。

《魔法使いのNGO達も例の組織の捜索にかかっているようですから彼等の活躍に期待したいものです》

《世の中ままならないものだネ。人間も怖ければウイルスのような極小微生物もどんどん進化を続けるしナ》

《ウイルスと言えば障壁を張っている場合自動でブロックできるんですよね》

《それはエヴァンジェリンのような相当高位の魔法使いに限るネ》

《ま、エヴァンジェリンお嬢さんにウイルスなんて意味ないですが》

《全くだナ》

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そのまま、あっという間に7月も半ばになり期末テストを迎え私たちはいつも通り乗り越えそのまま念願の夏休みに突入しました。
これでネギ先生もほぼ1年間教師をした事になりますが、去年来た時よりも大分身長が伸びています。
魔法球にもうそろそろ1年近くは入っている事になるので実年齢で10歳後半ぐらいにはなっていると思います。
小太郎君はネギ先生よりも少しだけ年上だったと思いますが、ネギ先生程魔法球に毎日入っていた訳ではないので誕生日の差が違う程度でもう殆ど同年齢と考えていいでしょうね。

ところで今、茶々丸さんの性能向上を兼ねて新しいボディへの換装を終え、実際に実験しているところなのですが凄い事になっています……。
原因はまほら武道会で数百試合分の戦闘データが蓄積されたからなのですが……。

「茶々丸もあの瞬動術ができるようになるとはねー」

「ハカセは前から実現したいと言ていたからナ」

「茶々丸さん、凄いですね」

実際に瞬動やら虚空瞬動を使っているのは驚きなんですが、いずれ田中さん達も使えるようになるのでしょうか……なんだか麻帆良はどんどんおかしな都市になっていきそうです……。

「ありがとうございます。ただ……ハカセ、何故こんなに武装があるのですか?」

「それはね茶々丸、科学者のロマンだよ!」

産みの親というだけあって茶々丸さんと話す時の葉加瀬さんのは丁寧口調ではなくなるんですよね。

「そうネ茶々丸。ロケットパンチはその最たる物にして最も基本的な物だヨ!それ無しには話すら始まらないネ!」

「……そうですか」

そんなに嬉しくないのは何となくわかりますけど、強く要らないとも言えないですよね……。
魔法関係の武装だけならまだ良かった気がするのですが、カオラ・スゥさんと技術の擦り合わせをしたらプラズマ火球や完全なレーザー兵器も搭載されたようなんです……。

「新しいボディはなかなかのできだと思うんだけどどんな感じ?」

「見た目はより人間らしくなったようでそれはうれ……しいです」

「うん、良かったね。ネギ先生もその方がいいでしょ」

「なっ!ハカセ、その話はもうしないと!」

茶々丸さんの表情がっ!

「あーごめんごめん。もうしないからさ、今度の旅行楽しんで行ってきなよ」

以前茶々丸さんのデータを確認した時にネギ先生の画像の比率がおかしく葉加瀬さんが気になって色々調べた時一悶着あったんですよね。

「うむ、茶々丸もこの2年の間に人間らしくなたネ」

「それでも、私には心があるのでしょうか。自分でもよく分からないのです」

「茶々丸、心はあると思えばあるし無いと思えば無い!そういう事だよ」

「ハカセ……」

「今すぐに答えを出す必要も無いヨ。もしかしたらこの旅行で何かのキッカケぐらいにはなるかもしれないネ」

「……分かりました」

私からすればもう茶々丸さんにはしっかりとした人格があると思うんですよね。

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嵐の前の静けさ、とでも言うのか7月は特に何か問題が起こることもなく順調に日々がすぎていく……かと思われたが、地道に張り続けていたひなた荘で動きがあった。
住人達が暑い中出払っている時に窃盗事件が発生したのだ。
盗まれたのは青山素子さんの所持している妖刀ひなである。
犯人はあの月詠だが、フェイト・アーウェルンクスも彼女の侵入と逃走に水の転移門で一役買っていた。
実際、ひなた荘自体が荒らされた訳でもなく忽然と妖刀ひなだけが無くなっていたので住人が月詠の姿を見る事もなく、見事な手際だったと言えよう。
たまちゃんは「みゅー?」と侵入に気づいた節もあったが特にどうこうできはしなかった。
それに素子さんも普段から妖刀ひなばかり振り回している訳でもないので刀が無くなっているのに気付いたのはすぐとはいかなかった。
ひなた荘自体あまりそういったまともな事件……度々おかしな事ばかりやっているが、そのためか無くなっているのをそんなに重要視せず、「いつか戻ってくるだろう」程度に考えたようなのだが、実際その予想は正しいのかもしれない。
まあ妖刀ひなが無くなったのを素子さんが鶴子さんに連絡したりするか、と言ったら「姉上に……やめておこう」とそんな絶対面倒にしかならない事をする訳も無かったのだが。

一方麻帆良ではそんな時に合わせたのかはどうかは知らないがメルディアナからドネット・マクギネスさんというネギ少年達も既に修学旅行で会った事のある女性が遠いところやってきて明石教授と対談していた。
話し合われたのは例によってフェイト・アーウェルンクスの事についてである。
彼はやはりイスタンブールの魔法協会から日本に派遣されたと書類上の処理がなされていたらしく、それにも関わらず修学旅行で月詠を伴ってメルディアナに現れた事についてメルディアナと麻帆良でそれぞれ独自に調査を行っていたためそれの情報の擦り合わせをするというわけである。
一番の問題はどこから3-Aの生徒達の修学旅行の行き先がイギリスに決まったという情報が漏れていたのかという事であるが実際航空チケットの予約から分かってもおかしくはないので双方の魔法学校に内通者がいるとは早急には考えがたいのだが、ここで浮上してくるのが例の魔法具に手を付けている組織の存在である。
例の組織は裏のルートに手を付けていると言っても一般社会への溶けこみ方にかけては元々表が主なだけあり怪しいとめぼしをつけてもどこまでも憶測でしか判断がつかなかったりと決め手にかける事が多く非常に厄介なのだそうだ。
二人の元々の目的は情報交換であったので特に結論が出た訳ではないものの、会話をしている二人には低レベルな尾行がついていた。
それは明石教授の娘、明石裕奈とそれに付いて行った佐々木まき絵他クラスメイトである。
彼女達はドネットさんを知っていたので「えー、まさか遠距離恋愛!?」とかなんとか言っていたが声が大きすぎて明らかに聞こえていた為ドネットさんはやれやれという体で、少女達を手で招いて事情を嘘を交えて話しだした。
それによって明石教授が娘本人からすると浮気だ等と思われていた誤解も解け、明石教授とドネットさんが旧知の仲であり、更に明石裕奈の母の友人であったという事を明かされしばし話をしたのだった。
明石夕子さんに「とてもよく似ているわ」と評された明石裕奈は、実際遺伝的に魔法の才能は一般人に比べれば遥かに適正があるであろうが果たして関わる時が訪れるのだろうか。

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7月の終わりは毎年夏祭りがあるのだがこの日その前にエヴァンジェリンの家に全員集合してもらたヨ。

「皆に集まてもらたのは他でもない、あまりお節介を焼くつもりも無かたのだが乗りかかた船でネ。一つ餞別を私から渡しておこうと思てナ」

「私からもあるぞ。お前達一応対外的に白き翼と名乗るからには何か証になるものでもあった方が良いと思ってな。ほら一人一つずつとれ」

「バッジですか?」

「何や皆お揃いでええね」

「ありがとうございます、マスター」

「ありがとう、エヴァンジェリンさん」

バッジ自体にも私が改造を加えたのだが、端末の方でほぼ代用できてしまたから茶々丸のセンサーで互いの位置が数千キロの範囲でわかるようにしておいたヨ。

「次は私からネ。皆一つずつ取て欲しい」

「超さん、ありがとうございます」

「超りん、ありがとな」

「超殿、かたじけない」

「超、また端末アルか?」

「古、使い方は全て端末で調べて分かるようにしてあるから慣れてくれると助かるネ。それでは機能の説明をするヨ。まず、一番凄いのはどこでも、どれだけ離れていてもほぼ確実に通信ができる事ネ。これはエヴァンジェリンと協力して作たのだが是非今試してみるといいヨ。エヴァンジェリン頼むネ」

「ああ、それでは起動するぞ」

《聞こえるか?》

《皆聞こえるかナ?》

《ま、マスター!この感覚は!?》

《何これ、不思議な感じね》

《テレパシーみたいやね》

《念話……とは違うのですか》

《ぼーや、これは加速はしないがアレと同じだ》

《そ、そんな事ができるんですか……》

《ネギ、知ってるの?》

《はい、一応》

皆この新感覚にそれぞれ驚いて心の声を念じたりしていたが、そのまま太陽エネルギーでの発電と側面につけたスイッチを押すと出てくるレバーを回すことで魔力注入が出来る事を教えておいたヨ。
魔力注入については不思議に思われたが元々これはエヴァンジェリンの技術だからそこまでおかしくは無いネ。

「大体こんな所だネ。今日は夏祭りがあるがネギ坊主は去年8月に来たから知らないだろう?皆で行くといいヨ。3-Aの皆もこの通り行くみたいだしネ」

SNSにはもう鳴滝姉妹の偵察で屋台の構成についての情報が書き込まれているが特にいつもと変わりは無いナ。

「お祭りですか、是非行きましょう!」

「よっしゃネギ!金魚掬いに射的で勝負や!」

「うん!」

「うちも金魚掬いやるえ!」

「私もやるアル!」

「拙者も挑戦するでござるよ」

楓サンがやると水槽の金魚が全ていなくなりそうだけどネ……。
私もいつもの楽な服装ではなくさよから着物でも借りてみるかナ。

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「鈴音さん着物にあってますよ」

「そうかナ?何だか自分で買えばいいのにさよの着物借りて悪いネ」

「一度に何着も着れませんし、お祭りですから雰囲気楽しんだほうがいいですよ」

「うむ、そうだナ。ありがたく着させてもらうネ」

「それじゃあ出発しましょう!」

既に夕方を回ってお祭りの屋台が並ぶ通りにも灯りが灯り始めた頃に丁度着きました。

「ネギ先生達はもう金魚掬いやってますね」

「元気なことだネ」

ネギ先生と小太郎君、楓さんがピタリと水槽の前で動きを止めたままタイミングを伺っているのですが、何でこんなに真剣なんですか!

「ッ!今でござる!」

「「了解!」」

金魚掬いに使われるポイを三人が一斉に水面に振りかざした瞬間、何がどうなったのかわかりませんが水槽の中の金魚さん達が全部水から飛び出し、そこをボールで一気に回収されてしまいました……。

「絶滅したナ」

「生態系は大事にしないと」

店主のおじさんが凄く間の抜けた顔をしていたのですが、なんとか正気に戻り「一人3匹までしか持って帰れないよ」と注意を促したところネギ先生達もやってみたかっただけで「飼う余裕もないからいいです」という事になりお祭りが始まったばかりで金魚すくいの屋台が一軒終了するのは免れました。

「ネギ君達、今の何なん?」

「このかさん、これは楓さんと山篭りした時に川の魚を効率的にとるために身につけたものなんです」

「このか姉ちゃんも覚えてみるとええで」

効率的どころか下手すると絶滅ですよ!
何でもやってみたいという割には普段の生活がハイレベルな状況において童心でお祭りをこのまま楽しめるのか気になりますね。

「よっしゃ、次は射的や!」

「うん!」

……そんな事心配しなくても大丈夫そうです。

「龍宮サンのバイアスロン部で鍛えてるから店の人も困るだろうナ」

「商売上がったりですね」

射的の屋台に走っていったネギ先生達はすぐ様お金を出して銃を渡してもらっていましたが、10才の子供達には少し台自体が高く店の人が「届くように踏み台用意してやろうか?」と言うと同時にジャンプしては景品を撃ち落とし、弾を再度詰めてはジャンプして撃ち落としを繰り返し、どう考えても倒せないようになっているものは二人が息をあわせてネギ先生が撃った所へ小太郎君が続けて撃つことで衝撃を増幅させ無理やり落としていました。

「ネギ坊主達にかかるとどこも絶滅は免れないようだナ」

「ネギ先生達には射程距離数百メートルぐらいが丁度いいかもしれませんね」

その後も回転する的にダーツを投げて当てる店でも猛威を振るい一番細い枠の所に何発も当てたりしていて店の人がかわいそうでした。
この子達に難しいお祭りの屋台なんて無さそうです。
景品はどうなっているかというと気に入ったものを神楽坂さん達が好きなように貰っていったり、途中から合流してきた明石さん達によって全て消費されています。
来年?ネギ先生が夏祭り出入り禁止なんて事になりかねませんね。

「ネギ坊主達を見ているのも飽きなくていいが、綿飴を食べるのは欠かせないナ」

「ちょっと口元のパチパチした感じがなんともいえなく良いですね」

「後はチョコバナナにたこ焼き、焼きそばかナ」

「たこ焼きなんかはどの店のが美味しいか食べ比べるのも楽しいですよね」

「しかし誰が何と言おうと肉まんは超包子以外はありえないヨ!」

「もちろんです!」

「たこ焼き味の肉まん……流石に無いかナ」

たこ焼き味の肉まんってどうなるんでしょう……。
たこを肉まんに入れるだけだと……。

「ただの海鮮風肉まんになるんじゃないですか?」

「そういうのも今度メニューに考えて見るカ」

「五月さんならきっといいアイデア出してくれますよ」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

2003年8月3日ネギ少年が日本に来て現実時間でとうとう1年が経った日のエヴァンジェリンお嬢さんの別荘では魔法世界への出発もあとわずかとなり、荷物の用意などが徐々に始められていた。

「マスター、いくらなんでも夏休みに入ってからこんなに修行する必要あるんですか?」

7月21日からおよそ2週間を毎日4日に増やして修行を重ねているため既に夏休みだけで2ヶ月が経過しようとしている。
当然ネギ少年の修行期間も1年を軽く越えた。

「嫌だと言うなら構わんが、魔法世界で合流する事になっているのがあのラカンなのだろう?信用できたものじゃない」

「え、どういうことですか?」

「あいつは金にうるさい上、自分勝手な奴なんだ。予定では迎えに来ることになっていても来ない可能性の方が高い」

「ええええ!?そんな!?」

残念ながらそれが現実です、ネギ少年。

「それにだ、ぼーやがナギの息子というのが公的に伏せられているとは言え、どんな輩がぼーや達に近づいてくるかわからん。性質の悪い奴らだと相手の立場によっては事情はどうあれ先に攻撃を仕掛けた時点で法的に嵌めようとしてくる可能性もある。まあこれは修行でどうこうというものでもないがな」

「僕が利用されるかもしれないって事ですか」

「それは十分にありえるだろう。アスナのような単純な奴がそういう奴らに煽られて少しでも攻撃してみろ、大変だぞ」

「アスナさんなら……なくは……無いですね」

「ネギー!何か言ったー?」

「いえ、大丈夫です!気にせず続けて下さい!」

ボソっと言っただけなのに離れたところで訓練していながらにして僅かな音声を拾うとは……。

「地獄耳だな……。とにかくだ、メガロメセンブリア首都が治安的には辺境に比べれば一番安全なのは確かだが、あそこはぼーやにとっては政治的に一番危険な場所でもある。甘い言葉には常に何か裏があると思え。ナギの捜索は以前行われても行方が掴めなかったような情報だ、ぼーやは情報収集程度と言ったがある意味でそれを調べるのは一番難しいぞ。下手に顔を突っ込めば藪から蛇をだしかねん」

「は、はい。分かりました、マスター。……それって学園祭でクウネルさんが会わせてくれた父さんが『俺は死んだって事か』と言っていたのとやっぱり関係があるんでしょうか」

「ナギは世界最強の魔法使いと呼ばれていた。それが行方不明になるという事は何らかの情報を掴んだが、結果それは相当マズイものだった、という可能性が高い。一体何があったのかは分からないがな」

「…………。少し今回の旅行を甘く見ていました。備えあれば憂いなし、ですね。改めてマスター、後数日間の修行をお願いします」

「ぼーや、今まさにぼーやが修行をするよう誘導した形になったのを分かっているか?」

「あ……」

「いいか、ぼーやの純粋さ、真面目さは美点だ。だがな、こういうのは往々にして気がついたときには既に手遅れになっている事が多い。気をつけろよ」

「……はい!気をつけます!」

「あと1ヶ月ぐらい時間があるが戦闘技術かどうか問わず引き続き教えるからしっかり覚えていけ」

「はい!よろしくお願いします!」

「元気な返事でよろしい。と、言ってもまだ休憩中だから適当に魔法世界の地図でも見ておくといい。行く割にはまだ見てもいないだろう。茶々丸!端末に魔法世界の地図を入れてくれ!」

「了解しました、マスター」

「そうですね、行くからには地図ぐらい見ておいた方が良いですよね」

「データの転送終わりました」

「しかし超鈴音の技術はどうなってのか良くわからんが便利ならまあいいだろう」

「この立体映像なんて魔法の映像付きの手紙の比じゃ……あれ?魔法世界ってなんか火星に似てますね」

「……ぼーや、どうしてそう思うんだ」

「千鶴さんの部屋にお邪魔して火星儀見せてもらったからなんですけど……ほらこうして魔法世界の地図をひっくり返すとここの龍山大陸はないですけどそれ以外は良く似てると思うんです。マリネリス渓谷の形はそっくりですしエリジウム大陸も……あれ、エリシウム島にヘカテ……何ですかこれ!!そんなまさか!!」

城のテラスでゆっくり会話していた所突然椅子からネギ少年は立ち上がった。
いや、まさかこの段階でネギ少年が気づいてしまうとはちょっと思わなかった。
那波千鶴恐るべし。

「はっはっはっは!!ぼーや、良い生徒を持ったな!」

「ま……マスターは魔法世界が火星を触媒にして成り立っている異界だと前から……?」

「ぼーやはこれをどう考える?」

「……人工的に造られた世界だとしか」

「つまり誰かの手によって全て造られた世界だと、そうぼーやは思うのか?」

「はい、とてもじゃないですけど信じられませんが……」

「火星の地名が命名されたのは私からすればつい最近なのは知っているか?」

ヘラス、エリシウム等といった地名をつけたのは1877年に火星の大接近を口径22cmの屈折望遠鏡で観測したジョヴァンニ・ヴィルジニオ・スキアパレッリというイタリアの天文学者、実は魔法使いの方である。
魔法世界ではあまり天体に興味は持たれていなかったが地球側では広大に広がる宇宙に興味を持つ魔法使いもいたのだ。
因みに人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文が出されたのは1908年であり、彼はその2年後に亡くなっている。
単純に老衰だったのかはわからないが衝撃の事実に気づいたショックが祟ったのかもしれない。
崩壊するのは間違いないが、ただ人造と彼等は考えているがそれは違う。
考える事自体があまり意味もないが、もし仮に人造異界だとするならば、直接その土地に魔法処理を行う必要がある。
しかし地球と火星という優曇華でも無ければ気が遠くなるような距離にいくら魔法が使えるといっても紀元前の人類に出来る訳がない。
単純に土地があればいいだけならば、どうせなら一番近い月か、地球との平均距離が火星に比べて半分の4000万kmで済み、表面積も地球の90%もある金星に普通は造るだろう。
仮に人造異界だとしたら何故魔法世界の方が全体の魔分量が地球よりも遥かに多いのかという問題もある。
人造ならば元になる魔力が必要になるのだから。
要するに魔法世界の成り立ちは世界各地のゲート周辺のような一般的な異界とは全く異なる。

「え……じゃあ先に魔法世界の方ができていて……その名前に因んで?という事は火星の地名の命名には魔法使いが関与していることに……」

「ぼーやの気になる事はまほネットでジョヴァンニ・ヴィルジニオ・スキアパレッリという人物を検索すればいいだろう。……まあまず本当に人工的に造られたのかどうかから考えるべきだろうがな」

お嬢さんには魔法世界が火星だとは大分前に言ったものの人造かどうかなんて言ってないから……実際その認識がどうあれ問題はただ一つだ。

「マスターは自然発生的なものだと思うんですか?」

「ぼーやもとても信じられないと言ったばかりだろう」

「それはそうですけど……人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文がありますし」

「お?読んだことがあったのか、ぼーや」

「えっと、詳しい事は知らないんですけどタイトルは知ってます」

「それで人造だと先入観があるのか……まあ通説だと言われたらそう思っても仕方ないか。一つ考えてみろ、仮に造る手段があったとして実行する際に必要な魔力はどこから来る?」

「普通はその場にある魔……そんな大量の魔力なんて一体どこから……」

「これの答えは奴なら知ってるかもしれんがどうだかな……」

「それってまたマスターがたまに言う幽霊さんの事ですか?」

「そうだ。どうせ現れんだろうが」

うーん、最高にネタバレになるのだが既に手前まで行き着いているネギ少年には一つだけ言ってもおいてもいいような……よし。

《グレート・グランド・マスターキー》

はい、通信終了。
受信拒否開始。

《おいっ!》

《え、この声は一体!?》

《チッ……奴め、通信を切ったか》

「マスター、今の声が?」

「そうだ、訳の分からない単語だけ言いよって……。マスターキー、か」

「何の鍵なんでしょう……」

「奴が今の話を聞いていたのだとしたら魔法世界の謎に関係する事だろうな」

「魔法世界に行く前に大きな謎が増えましたね」

「今の単語は頭の片隅にでも置いておけ。さあ休憩は終わりだ、続きをやるぞ」

「……はい!」

その後、エヴァンジェリンお嬢さんに通信不能を解除した途端問い詰められたりしたが「お答えできません」の一点張りでなんとかした……。
ネギ少年から通信をつなぐことができなくて本当に良かった。

ネギ少年の主な修行はエヴァンジェリンお嬢さん指導による戦闘訓練とサポート系の魔法、魔法薬の授業とそれ以外の時間は学園祭でナギの遺言体に「お前はお前自身になりな」と言われた事からその一つの取り組みとしてオリジナル魔法を目下開発中である。
が、何だかかなり凄いものの気がしてならない。
下手すると戦闘そのものの意義がどこへやらとなってしまうかもしれないレベルで。
超鈴音のDNA鑑定によりネギ少年も黄昏の姫御子の系譜であるのが間違いないのは分かったが、だとするならばたまに妙な攻撃が出るのはその影響なのかもしれないがどうなるだろうか。

さて、大分遡るが宮崎のどかと綾瀬夕映も必死に修行に参加して魔法の練習をしていた訳だが、綾瀬夕映の方は成長がかなり凄かった。
魔分量的には一般レベルであるのは間違いないが威力はともかく、白き雷が使えるようになったのは驚きである。
実際これには孫娘がかなりショックを受けていた。
まあすぐ「うちには治癒魔法あるえ!」と気を取りなおしたが何だかんだ魔法の射手を練習したりと対抗意識はあるようだ。
宮崎のどかは魔法使いの資質としては平均より僅かに低いぐらいであるが使えない訳ではなく、ネギ少年達の人外訓練を目の当たりにして、「夕映程うまく魔法使えないけど」と、せめて機動力だけでもと魔力での身体強化に関する教えを請って、それなりにモノになり始めていた。
とりあえず図書館探険部3人は仲良く箒で飛ぶ練習してたりと微笑ましい限りである。

小太郎君はと言えば地道な訓練の甲斐あって真面目に咸卦法の練習を始めて4ヶ月程度で1秒間なら咸卦法を発動させることができるようになった。
が、実用にはまだまだ時間がかかりそうであり、それ以上続けようとすると咸卦法どころか気での強化すら解除されてしまったり、場合によっては力を入れすぎて掌で爆発が起きたりと大変である。
そんな時は孫娘の治癒魔法の被験体として役だっている為それも無駄ではない……だろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

どうもー、108万の小切手をシスターシャークティに取り上げられて親に送られたのが懐かしいと感じられる春日美空ッス。
もうこの暑いっつうのに黒いシスター服は辛いわー。
そんな感じでダラダラ夏休みを過ごしてたりしたんスけど学園長から呼ばれたわ。

「暑い中よく集まってくれた。4人には麻帆良代表でメガロメセンブリアに行ってもらおうと思っとる。任務は一応旧世界と新世界の交流という事なんじゃが、2、3挨拶する所に行ってもらう以外は特にこれと言った仕事はないから安心して良い。ま、夏休みを楽しんでくればよかろう」

お?これってもしかしてサマーバケーションですか?

「学園長、この高音・D・グッドマンにお任せくださいませ」

「学園長先生、私も是非行って参ります」

「学園長、私も行きまーす」

「春日さん、もう少しシャキっとできないのですか?」

「ほら、学園長も夏休み楽しんでこい行って言ってるじゃないですか」

「少なくともそれはまず先に交流を済ませてからです!」

やっぱお堅い人ッスねー。

「はい、肝に銘じておきます……」

……てな訳で数日間魔法世界行ってきてOKになったんだけど、旅費は全部麻帆良学園持ちらしい上、VIP待遇を受けられるらしいわ。
なんつーか最近私旅行に恵まれているような……あ?何かマズくない?
大体麻帆良から離れるとここ最近妙に面倒な事に巻き込まれてるんだけど今回は……三度目の正直って言葉もあるし、大丈夫だよな……うん。
きっとそーだなー。

……気を取りなおして、魔法世界に行くためのゲートはまた愛衣ちゃんのジョンソン魔法学校の近くにあるのを使うから8月の週末にまた飛行機でシアトルに飛んでいくんだそうで、二度目だから大丈夫だろ。
あと3日ぐらいしかないからまた荷造りするかなー。
何持っていったらいいんだろ……十字架は必須としても金とか?
そういやドラクマと日本円ってどんなレートなんだっけか。
まほネット見た時は何も考えずにドラクマで見てたけど詳しく憶えてないわー。

「高音さん、ドラクマのレートって日本円でどれくらい何スか?」

「そんな事も知らずに行くつもりだったのですか?」

「いやー、お恥ずかしい」

「1ドラクマが16アスというのはご存知だと思いますが、あちらとこちらではそもそも貨幣価値が違います。大体の目安としては日本の100円で買えるものがあちらでは10円で買えると考えればいいでしょう」

100円のおにぎりが10円で買える感覚かー。
安ッ!

「安いッスねー」

「基準自体違いますから。1アスが10円で、例えば有名なナギ・スプリングフィールド杯のチケットは12アスですから日本円だと120円で買えます」

ネギ君のお父さんの大会のチケット安ッ!マジやっす!
あ!だからVIP待遇にできるのか。
そら10倍の貨幣価値だったら余裕だわ。
1万が10万の感覚だったらそらな。

「日本に住んでて良かったー!」

「それは確かにそうですわね。他国の魔法協会だと所によってはそうはいきませんし」

日本の高度経済成長もこういう時役に立つとは……。
ブレトンウッズなんちゃらとかいう金本位制の時は1ドルが360円だったんだもんなー。
あのエヴァンジェリンさんが600万ドルの賞金首になったのって大分昔だから……当時の貨幣価値だとえーと携帯の電卓で……ほいほいっと……おお……21億6千万……魔法世界の感覚に直すならこれに更に10倍をかけてと……216億……なんだそれ。
とんでもない金の塊だな……。

とりあえず整理すると1ドラクマは160円だけど日本人の感覚だと1600円てなもんか。
たつみーがボソッと言ってた魔法転移符が80万だから……800万を1600円で割ると5000ドラクマか。
魔法具はやっぱ高いなー。
確かにレート的に考えれば、国を選べば地球で転移符が裏で回ってるっぽいのも仕方ないなこりゃ。
あと覚えてんのは……結構良い認識阻害魔法付きメガネが確か2万9800ドラクマだから……476万8千円か……。
ダイオラマ魔法球の一番安いのなんて250万ドラクマだったから……4億……。
はー!超りんあれ5つ用意するとかやっぱおかしい!
まあさっきのエヴァンジェリンさんの賞金をドラクマに換算しなおすと……1350万ドラクマ?
幻想種って凄いわ……。
しっかし誰がこんなレートに設定したんだ?
こんだけ差があると魔法世界からこっち来るのって相当金銭的に辛いだろ。
新世界と旧世界で孤立主義がどうのっていう話だけどなんか意図的っぽいような気がするな。
ま、そんなのはさておき私は安い金で贅沢ができるって事で!

で……寮に戻って荷造りしてたらさ。
なんで情報掴んでんのかしらないけども、超りん訪ねて来たわー。

「やあ美空、魔法世界に行くそうだネ」

「ど、どうしてそれを?まさか一緒に行くとか?ちょっとそれ」

「安心するネ。私は行かないヨ。ただ渡しておくものがあてナ。ほら、魔法世界用端末だヨ。使い勝手を後で教えて貰いたいネ」

「お?あー確かにこっちの携帯使えないもんね。4つって事は全員に渡せって事スか?」

「愛衣サンの所はともかく高音サンの所に行くのは面倒だからネ。動力のシステムは端末の説明書を読んでくれればいいヨ。因みに例の通信装置も起動してあるからネ」

「そりゃー助かるわ。んー、ソーラー式と……おお?このボタンで……レバー出しーの回しーので、これでも充電できると。ありがたい、超りん、戻ってきたら感想言うよ!」

「いずれ商品化したいと思ているからどんどん使て欲しいネ」

「おっけー!高音さん達にも渡しとくよ!」

「頼んだヨ。それではナ」

これ商品化かー、つか半永久じゃんこれ。
エコって奴だな。
不思議通信も付いてるって事はどこでもまた使えるんだろうな。
念話はココネみたいな能力者だと聞き取れるらしいけどこれなら安心だもんね。
超りんもうまいよなー、これ買ってくれと言われたら手が出ないけど試用してくれって事だし。
うん、使おう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

そして8月8日に飛行機でアメリカに飛んだ春日美空達は、ゲートを使って魔法世界にネギ少年達よりも一足先に出発していった。
因みに一応春日美空達が魔法世界に行く情報は近衛門から超鈴音に知らせてあったという事で口裏を合わせた上で端末を渡してある。

《美空達がネギ坊主達に会うかどうかはわからないがもしもの時は役に立つだろうネ》

《なんといっても世界一の技術力を持った超鈴音の完全監修ですからね》

《ふむ、まあ美空ならなんとかなるヨ。それで翆坊主こちらの予定はいつになるネ。やはり出力が一番高くなる火星の大接近に合わせるのカ?》

あの事件が起きて予定通り行けば……いかなくても近いのを利用して無理やりなんとかするしかないが。

《その予定です。8月27日、日本時間18時51分、丁度太陽が落ちた後ですね》

《直線距離5575万0006km、6万年来の大接近カ。さよも言ていたが目立つだろうナ》

《ええ、1年早めの大発光になります。火星を観測している方達には明るくなって申し訳ないですが、諦めてもらいましょう》

《単純な接近なら2年2ヶ月毎にあるからナ。余程世界12箇所が同時に光る方が興味あると思うネ》

《綺麗だなと思ってくれるだけならそれでいいんですけどね》

《問題が無数に沸く事は間違いないがそれよりも新たな何かも同じぐらい得られる筈だヨ》

《超鈴音は宇宙に飛び出したくて仕方ないですか》

《まさに新世界の幕開けだナ》

さあ、ようやく新たな未来への第一歩だ。



[21907] 40話 旅立ち直前
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/25 23:56
ネギ少年達がいよいよウェールズへ飛行機で出発する前日の事。
エヴァンジェリン邸別荘に部員全員集合である。

「何だぼーや、全員わざわざ集めて」

「なんなのネギ?円陣でも組むつもり?後ここに3日はいるでしょ?」

「違いますよアスナさん。マスター、確認したい事があるんですが仮契約って後で解除はできるんですよね?」

「……そういうことか。そうだな、所定の手続きを踏めばできるぞ」

「ネギ、姉ちゃん達と仮契約するつもりなんか?」

「……うん、マスターとこの前話して、備えあれば憂いなしと思ってさ。念には念を入れてこの旅行の間だけ仮契約した方がいいかなと思ってさ」

「ネギは心配性やな。まあカードの召喚機能は前に試した時便利やったし、そういうつもりなら俺も悪うない思うで」

「もしもの時の魔力供給もできるからな。まあ、ぼーやと仮契約すると全員アーティファクトが出るだろうが。さて、どうする、お前達。ぼーやと仮契約するかしないかは自由だぞ」

「はい、もちろん強制ではありません」

「なんといっても異性と仮契約となると最近は結婚相手探しのネタにも使われるからな」

「結婚!?ネギとコタロが!?」

人の話聞いておけ。

「アスナさん!異性って言ったの聞いてましたか!」

「ほんま、アスナ姉ちゃん、よう人の話聞かんとあかんで。変な想像させんなや」

「き、聞いてたわよ!今のはわざとよ、わざと!」

「アスナ、嘘はあかんえ」

「アスナ、嘘はだめアル」

全員がうんざりした顔で神楽坂明日菜を見た。

「ぐっ……。聞いてなくて悪かったわよ……」

「おい、話が進まない。それでどうするんだ」

「うちはやりたいえ!できればせっちゃんともな!」

「お、お嬢様!」

「えーせっちゃんはネギ君と仮契約するの嫌なん?」

「そっちの話じゃありません!はぁ……いえ、ネギ先生の提案は良いと思います。私も仮契約は構いません」

「コタロみたいなスゴイのでるなら私もいいわよ」

「言うだろうと思っていたが、アスナ、せめて欲にまみれたような発言は思っても言うな……」

「よ、欲にまみれてなんか無いわよ!それだったらコタロなんか何よ、いつも契約執行した時の俺の咸卦法の方が凄いとかいっちゃって」

「まあぼーやと小太郎に仮契約を勧めた時は私も魔法具で釣ったんだが、前例がある上で露骨に物が欲しいと言われるとな……」

「俺も魔法具に憧れたんは認めるで……。せやけどな、アスナ姉ちゃん、俺のアーティファクトはネギがおらんと何も意味ないんやで」

「普通は何かしら武器やらアイテムが出るんだが、小太郎のアーティファクトは相当珍しいんだよ。まさに相棒と共にあるためだけのようなアーティファクトだからな」

「どうや、カッコええやろ!」

「はいはい、分かったわよー」

「あの、また話が進んでないです……。他の皆さんはどうですか」

「拙者は構わぬでござるよ」

「私もお願いするです」

「私も構いません」

「くーふぇさんと茶々丸さんは……?」

「マスター、私に仮契約はできるのでしょうか?」

「多分大丈夫だろう。ただ、茶々丸の場合は……あーなんでもない」

キス発言をすると面倒になりそうだったからお嬢さんは回避したらしい。

「あ、そうか……」

「ま、マスター?」

「安心しろ、茶々丸、大丈夫だ」

「は、はい、マスター」

「その結婚がどーとゆーのが気になるが私もいいアルよ。それで仮契約とゆーのはどうやってするアルか?」

「契約陣を書いて、10分ぐらい言葉を並べて最後に血を契約陣に双方垂らすだけだ。少し長いが我慢しろ」

「しゃべるだけアルか」

「途中で言葉間違ったらどうするの?」

「……やり直しだな。しかし、まあ、ゆっくりやって10分だ」

「俺にもできたんやから大丈夫やで。もし無理やったらアスナ姉ちゃんだけキ」

「黙れッ!小太郎!」

突如大きな声を出すエヴァンジェリンお嬢さん。

「ヒッ!?びっくりさせんなや!」

他の面々もびっくりしたが……。

「いいか。それ以上言うなよ。面倒事を増やさせるな」

「……あー、分かったで……。このか姉ちゃんにあの方法言わんで良かったわ」

ネギ少年に遅れて気づいた小太郎君であった。

「どうしたん?」

「コタロ、今何言いかけたのよ」

「いいから小太郎、あっちの山まで30往復してこい」

「げっ!」

「げっ、じゃない、さっさと行ってこんか!」

「お、おう、分かったで!修行や修行!はははは!」

そそくさと神楽坂明日菜達の追求を逃れた小太郎君であった。

「さて、仮契約陣は書いてやるが、呪文詠唱はぼーや達でやれよ。呪文を書いた紙を用意してやるからなんとかしろ」

「はい、マスター、ありがとうございます」

「茶々丸、ついてこい、呪文の該当箇所のコピーを頼む」

「分かりました、マスター」

そう言ってテラスから城の奥にお嬢さんと茶々丸姉さんは入っていったが、その間ネギ少年は小太郎君が何を言おうとしたのか聞かれ、「何でもないです」と連呼しつづける修行をしたのだった。
仮契約する前から喉が枯れそうである。
程なくして、お嬢さんと茶々丸姉さんがわざわざ呪文にカタカナでフリガナも振ってある紙を数部持って戻ってきた。

「それでは契約陣を書くから少し待ってろ……陣は少し大きめにしておくか」

ぶつぶつ言いながら、オコジョ妖精が書くような小さな円ではなく割と大きめの円が書かれた。

「よし、これでいいだろう。後は自分たちでやれよ。終わったらコピーカードは纏めて後で作ってやる」

「はい!ありがとうございます!」

この後ネギ少年は7人の女子中学生と1時間以上の時間をかけて仮契約を終えた。
途中詠唱に神楽坂明日菜と古菲が見事失敗して無駄な時間がかかったのは仕方ないだろう。
オリジナルカード7枚が出現したところでネギ少年はエヴァンジェリンお嬢さんの元へ届けに行き。

「マスター、終わりました!」

「ああ、分かった、オリジナルカードを渡せ。ぼーや、茶々丸と仮契約をさっさと済ませろ。もうそこに陣は書いてあるからな」

「お願いします。それでやっぱりキス……ですよね」

「ん、当たり前だろう。茶々丸には血がないのだから仕方がない」

「ネギ先生、私とのキスは嫌ですか?」

「そんな事はないです!……けど……なんていうか……」

「なんだ、ぼーやはファーストキスに拘りでもあるのか」

「ち、違いますよ!」

「分かった分かった。ぼーやが今からするのはノーカウントだ。ぼーや、力を抜いて後ろを向け」

「え?あ、はい……」

「よし」

「ッ!?」

ネギ少年がお嬢さんに背を向けた瞬間に首筋に強烈な手刀を叩き込み、倒れた身体を茶々丸姉さんが支えた。

「ま、マスター、こんな手荒真似をされては……」

「いいから」

「わ……分かりました。ネギ先生……失礼します」

「茶々丸……恥ずかしそうな顔をされるとこちらが恥ずかしい……」

「そ、そんなことは……」

「あーいいから早くしろー」

気絶したネギ少年の前でごちゃごちゃしたがなんとか茶々丸姉さんの仮契約も済んだ、が……。

「アーティファクトカードでは無いな」

「普通のパクティオーカードという事ですか」

「気にする事はないだろう。いいじゃないか、茶々丸、アーティファクトが出ないとしても、これでお前にも魂はあるという一つの証明になったんだからな」

「マスター……。はい、ありがとうございます」

そしてまた全員が集合したところで……。

「「「「アデアット!!」」」」

アーティファクト召喚祭りである。

「剣が出たわよ!」

「うちは扇と衣が出たえ!」

「私は複数の小刀ですね」

「拙者は布が出たでござる」

「私は棍棒アル!」

「本が出ました」

「私も本です」

「……よくもまあゾロゾロ出るものだな」

「……そうですね」

「何や姉ちゃん達皆アイテムやないか。欲が出とるな!」

「コタロー、少し羨ましいでしょ……」

「……そら俺だって何か欲しいで」

「コタローは僕の相棒だよ」

「へっ!当たり前や」

そして各々出たアーティファクトの性能を試す事となり。

「これでアスナに真剣を渡す必要も無くなったな」

「都合よく出るんですね……」

「ねー、これ何か特殊能力とかないの?」

「あるだろうな、ほら」

―火よ灯れ―

火よ灯れにしては巨大なガスバーナーのような炎がお嬢さんの指から出て神楽坂明日菜の剣を焼いた。

「何するのよ!ってあれ、消えちゃった」

「分かったか、魔法無効……小太郎、気弾をアスナの剣に向かって撃て」

「おう!」

―空牙!!―

「ちょっと!ってこれも!?」

「おおっ!気も無効化するんか!」

「まあ予想の範囲内だな」

「びっくりさせないでよ……ってなんでハリセンになってんのよ!」

いつの間にか見事な大剣がハリセンに退化していた。

「ほんとだ……」

「気が抜けたんちゃうか」

「形態が変化する事はアーティファクトではよくある。ま、慣れる事だな。で、このかのはどうやら治癒系、刹那と古は見ての通りか。楓は……隠密用の布の中と言ったところか」

まほら武道会を思い出すとわざわざアーティファクトでやらなくても、地面に同化するぐらい忍者なら大体できる隠密技術である、が。

「いや驚いた。中にキッチン付きのウチがあったでござるよ」

「何ぃ!?」

流石にお嬢さんもこれには驚いたらしい。

「家が入ってるんですか!?」

「宿いらずやないか!」

「楓、うち入りたいえ!」

「楓、私も入るアル!」

「ずるいわよ!私も入るわ!」

「楓姉ちゃん俺も入りたいで!」

「ならば一緒に入るでござるよ」

家が付いているとあって物件的に一番人気だった。

「……次、ゆえとのどかの本は何だ」

「私のは世界図絵、魔法学大全のようです」

「……ほう、ならそれで色々学習できるだろうな」

「夕映さんに合ってますね。のどかさんのは何でしたか?」

「私の本はいどのえにっき……というらしいです」

「……魔導士シャントトが1469年に作ったというマスターピースとも呼べる魔法書だな。効果は……」

「相手の思考が読める……みたいです」

「ま、マスター……」

「ああ、危険だな」

「え?危険って?」

「ぼーやの父親探しに役立つ可能性が高いが、相手に読心の事が知られれば下手すると命の危険が生じるだろうな。仮契約を解除しろとは言わないが使い方には気をつけろよ」

「のどかさん、無闇な使用、特に知らない人に対しては使わないでくださいね」

「は……はい、ネギ先生」

「まあ、ちょっと見せてみろ」

「あ、どうぞ」

「…………ふむ、濫用を考える者の手元には召喚されない……か。なるほど、今ののどかは濫用はしないと認定されたからこのアーティファクトが授与されたという事か。どちらにしろ使い過ぎると場合によってはそのうちアデアットできなくなる可能性が高いな。返すぞ」

「マスター、そんな事あるんですか?」

「さっき形態変化する事があると言っただろう。似たようなものだ。茶々丸のカードだって今はただの仮契約カードだがそのうちアーティファクトカードに変わるかもしれん」

「な、なるほど」

「まあ召喚機能ともしもの契約執行をうまく使うことだな」

「そうですね」

本のアーティファクトが出た二人について一段落ついたところ。

「和室だったわねー」

「はー、ほんまに家あったな!」

「食料なんか入れておいたらきっと便利やね」

わらわらと残りのメンバーが布から飛び出してきた。
恐らく他人にも利用出来るという点で長瀬楓のアーティファクト、天狗の隠れ蓑は最も活用頻度が高くなりそうである。

「マスター、こんなにポンポンアーティファクト出ましたけど、実際一体どこから出てくるんですか?」

実にまっとうな疑問である。

「……世界パクティオー協会、だそうだ。人間は誰も行けない所にあるらしい。好き勝手な精霊達が趣味でやっているなんて言われているな。それに全てのアーティファクトを管理しているかというと、今までに確認されたものだけらしい。だから精霊達としてもたまに新しいものが出たら面白いという事なのだろうよ」

「へー、そうなんですか」

協会というにはあまりにも気まぐれなものである。

「詳しい事は例の魔法生物にでも聞いた方がいいだろう。あれも一応妖精だからな」

「そういえばカモ君、帰ってきませんね」

「知らん、そのうち帰ってくるだろ」

「あはは……」

「……それとこのか、仮契約はこちらに戻ってきたら必ず解除するからな」

「なんで?……あー!そやな」

「すいません、このかさん、呪術協会の兼ね合いもあるんですよね……」

「少し真面目な書類でも書いておくといいだろう。この際それも用意してやる。それ以外はまだ出発まで時間がある事だ。今のうちにある程度アーティファクトの使い方には慣れておけ」

「「「「はい!」」」」

「よし。ぼーやとこのかは付いてこい。さっさと終わらせてお前達も最終調整だ」

「はい、マスター!」

「分かったえ」

……こうしてネギ少年達が出発する前の限定期間付きのつもりでの仮契約祭りも終わり、その後ネギ少年達はしっかりと最終調整を各自行った。
この夏だけで相当な時間数修行しており、ネギ少年単体ではこの1年で確実に2歳以上年を取ったが、まあ、許容範囲内としておきたい。
ネギ少年の新術は今一歩完成には至らなかったがあちらに行ってから完成するかもしれないし、しないかもしれない。
当然他の面々も大分強くなっているので、戦力面ではあまり心配は無いが、こうなってくるとやはり話す前にすぐ手が出てしまわないかが心配である。

……そして8月12日、ネギ少年達は修学旅行から3ヶ月超で再び成田空港から英国はウェールズへと再び旅立っていった。
因みに今回のネギ少年達の魔法世界行きの情報はとことん配慮がなされ、本当に一部の人間しか知らない極秘事項となっているため、孫娘の立場的に呪術協会系でゴタゴタするのは最初からスルーされている。
それが良いか悪いかはともかく、後はもうなるようにしかならないだろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

美空達に続き、ネギ坊主達も魔法世界へと向かて飛行機に乗て旅だた後間もなく、私達はクウネウサンの所に集またネ。
目的は……まあ答え合わせという所かナ。

「ネギ君達はとうとう旅立って行きましたか」

「何か起こると分かっていながらぼーや達を送り出したがどうなることやら」

「ネギ坊主達なら大丈夫ネ」

《何かに巻き込まれるのは間違いでしょうが、何とかなりますよ。きっと……》

「おい、その自信の無い言い方はなんだ」

「ならエヴァも付いていけば良かったのではないですか」

「ふん、私が付いていかなくてもぼーや達なら……大丈夫だろうさ」

エヴァンジェリンも思うことは同じカ。

「フフフフ」

さてと……。

「ところでクウネルサン、10年来の約束の為だけにネギ坊主をここで待ていた訳ではないのだろう」

「はて?何のことでしょう」

《ここでとぼけられても余り意味がありませんよ。2年前、魔法世界の崩壊についてさらりと私はあの時『クウネル殿は知らないかもしれませんが』と言いましたが、クウネル殿は最初から知ってましたよね。実際あの時全く驚いていませんでしたし》

「これはこれは、大分前の話をするんですね。……ええ、私は20年前から知っていました。ですが、キノ殿が突然具体的に重力魔法について尋ねて来た上、超さんまで連れてきてくれたので、わざわざ私の遅々として進まない研究をしなくて済みましたよ。本当に感謝しています」

「やはりそうでしたか……。それではそろそろここから解放されても良いのではないですか?」

「そうですね……自分を実験台にしてここにいた訳ですが、この術はもう要らないかもしれませんね」

「……話が読めんぞ。なんだ、アルも魔法世界の崩壊とやらを解決するための研究をしていたとでも言うのか」

「キティ、正解です、えらいですね」

「嬉しくないわ!」

「フフフ、ところでこれを知ってどうするつもりなのですか?」

「何、ただの答え合わせのようなものネ。翆坊主は余りクウネルサンの事を調べようとはしなかたようだが実際どういう術だたのかナ?」

「ほほう、答え合わせですか。そういう事ならいいでしょう。……世界樹の魔力についてはナギも注目していました。魔法世界人は例えゲートを使ってコチラ側に逃げてきたとしても、魔法世界が崩壊すれば結局は消えてしまうという事実。そこで私は世界樹の魔力を利用して身体を維持するという実験を行っていたのです」

「……なるほどナ」

大体予想は当たていたネ。

《ナギが京都で行っていた研究はそれが関係していたんですか》

「はい、昔の魔法使い達の遺跡について調べれば何かわかるかもしれないと一生懸命でしたね」

「ナギはそれをやっていて私の事をすっかり忘れていたのか……」

「ナギは目の前の事に集中すると周りが見えなくなる事が多いですからね。まあただ単にバカだっただけかもしれませんが」

「アンチョコ見ながらでないと長い詠唱などできないような奴だったな……。記憶力に難がありすぎだろう……」

「その分、魔法の扱いの才能、魔力、戦闘センスにかけてはまさに並ぶ物無しの最強無敵でした。それにアンチョコさえ見れば深い理解が無くとも大体魔法が使えるという有様でしたからね。普通呪文だけ見ても簡単には使えないものなのですが」

《それが由来で、更に得意の千の雷とかけて、千の呪文の男、サウザンドマスター等とはなんともうまい呼び方ですね》

「本当にデタラメな奴だよ……。そんな最強が今は一体どこにいるんだか……」

「イスタンブールで何かがあったのは間違いないのですがね……」

《それを言い出すとネギ少年の生まれも謎が多いんですがね》

「ナギ・スプリングフィールドが失踪したのが1993年、ネギ坊主が生まれたのは1994年、少なくともその間母親は無事だたという事カ」

「そうだ!一体奴はいつ誰と結婚していたんだ」

「フフフ、いつ、誰とでしょうね」

「古本、燃やすぞ」

「キティの得意魔法は氷では?」

「だからその名で呼ぶなと……もういい、茶々円、知ってるだろ」

《……あー、それは……はい……。1985年、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア、ウェスペリタティア王国王女様です》

「あー?」

エヴァンジェリン、不良のような顔するのはやめるネ……。

「はぁ……つまり私と出会った15年前には既に婚姻していたという訳か。なるほど……私になびかぬ道理よ。……そういえばアスナがナギと知り合いなのだから当然…………おい、茶々円、だとすると何だ、アスナがぼーやに拘っているのは血縁関係もあるとでもいうのか?」

《それは……その可能性もあると思いますよ。超鈴音、科学の出番のようですね》

「ふむ、私の出番だネ。……実は修学旅行の時、ネカネサンの髪の毛を採取して明日菜サン、ネギ坊主のDNAと一緒に鑑定したんだヨ。結果は……まあ血縁関係は見事にあたヨ」

「そうか……」

「おや、少し濁すということは血縁関係に何か問題でもあったのですか?確かにナギも陛下と明日菜サンの関係については言葉を濁していましたが……」

「翆坊主、どうするネ?」

《まぁ……答え合わせ中ですから。かなりアレな情報ですが、どっちにしろ憶測である程度あたってしまいますし、いいと思いますよ》

「ふむ、まあいいカ。要するにアスナさんが一番古いDNAを持っていたという事だネ」

「……やはりそうでしたか。ただの妹ではないとは思っていましたが」

「なるほどな……大方血が濃いのを利用されて長い事封印でもされていたという所か」

エヴァンジェリンもそう思うのカ。

《というより、クウネル殿がその辺知らないのは私も意外ですよ》

「私も何でも知っている訳ではありませんよ。実際ナギも真実を知っているかどうか怪しいですから」

《ああ、そういう事ですか》

「……しかしアスナが黄昏の姫御子であるなら尚更、魔法にあえて関わる方向に進んだのは、まさに全てを犠牲にして得た平穏を自ら捨てたようなものだな」

《そう思っている割にはしっかり自衛手段を持たせられるようにと訓練させていたじゃないですか》

「フッ……まあなかなか見込みはあったからな」

「キティは素直ではありませんね」

「……うるさいぞ」

「話がそれたがネギ坊主の出自とはどうなのだろうネ」

「私もこの地下に篭った後の事ですから正直な所は……。陛下も恐らく……失踪されたのでしょう」

「その点はぼーやのじじぃに聞くのが早そうだな」

《後は石になっている村民の方々ですかね》

翆坊主も全てを知ているようで知らない情報もあるのだから、こういう時は不便だネ。

「置き手紙と幼いネギ坊主だけ残して消えたなんてまるでお伽話のような事もありそうだけどネ」

「後は想像にお任せ……ですね。ところで、こんな答え合わせをするという事はもう目処は立ったのですか?」

「まほら武道会の時にクウネルサンに言た通りネ」

《今月の末には魔法世界の一番の障害は解決します。……その後はその後で面倒でしょうが》

「おや、もう今月には解決するのですか」

《はい、十中八九そうなる予定です》

「翆坊主、詳しい事は後でちゃんと話すネ」

《分かっています》

「茶々円、私が手伝うことはないのか?」

《エヴァンジェリンお嬢さん、お心遣い感謝します。この件は特に問題なく行くと思いますから、頼むとすれば解決した後になるでしょうね》

「まあ無理にとは言わんさ」

《それでクウネル殿自身はどうされるのですか?解除がご自分でできないのなら私がやりますが》

「今はまだ結構です。この場所もそれなりに気に入っていましてね」

《分かりました。その気があればいつでもどうぞ》

「ふむ、そろそろ私は作業に戻るかナ」

「私も久しぶりにゆっくり家で過ごすとするか」

「これから暑くなりますが、お菓子とお茶は出しますからいつでもいらしてください」

「分かてるヨ」

「ああ、気が向いたらな」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

私が観測できる最後の最後であるが、ネギ少年達がウェールズに到着し、一泊するのを見ていた所、あるものに気がついた。
彼がウェールズに出現しているのだ。
これはもう確実に何かが起こると思っても間違いない。

《翆坊主、ネギ坊主達に何かが起こるというのはもうすぐなのカ?》

《楽しみは取っておくもの……と今回は言えませんが、恐らくもう後数時間という所です》

《しかしそれは私達の計画には必要なことなのだろう》

《そう言われると……そうですね。うまく利用できると思います。しかしまだ起きると決まったわけではありませんよ》

《どうだかナ。……私はネギ坊主達がそれに巻き込まれても無事に済むことを祈るヨ》

《そうですね。……ネギ少年達が無事に帰ってくることを願いましょう》

ネギ少年達にとっては超鈴音の祈りというか既に渡した物が一番のお守りになるかもしれない……。



[21907] 41話 2003年8月27日火星大接近
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/16 23:52
2003年8月27日日本時間18時36分00秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

太陽は地平線に沈み、1年早い超大発光の中心、世界樹は麻帆良のいかなる場所よりも明るく明滅していた。
魔法世界強制位相同調まで後15分、既に麻帆良地下に存在していたゲートポートを覆う瓦礫は吹き飛び、再起動を果たしていた。
ここでまず、かねてより用意していた術式を実行し世界に存在する魔分溜りの吸い上げ、ゲートポートから麻帆良に流れこんでくる魔分の吸収を開始した。

《星座標、月運行との同期、世界11箇所の聖地からの魔分河流形成および接近を確認、到着まで600…599…598…597…596…595…594…》

《並行して地下ゲートポートからの魔分流入の吸収を開始。蟠桃出力順次上昇。暫定最高出力見込みまで144…143…142…141…》

《神木・扶桑内、優曇華による魔分展開補助プログラムの起動を開始するネ》

《了解。魔分河流到着まで560…559…558…557…556…555。続けて蟠桃・扶桑間ゲート開門用意、開通まで15…14…13…》


2003年8月27日日本時間18時36分59秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

《カウント1…0…。蟠桃・扶桑間ゲート開門完了。蟠桃管理権限を精霊体個別識別名:SAYOへ譲渡及び精霊体個別識別名:KINO、扶桑へ転送》

《管理権限の譲受を確認。吸収済地下ゲートボート魔分の暫定出力範囲内での転送開始》


2003年8月27日日本時間18時37分01秒、火星北極圏、神木・扶桑。

《精霊体個別識別名:KINO、扶桑のコントロール掌握。転送済魔分の軌道上への打上開始。星座標、フォボス、ダイモスの運行計算、強制位相同調システムの準備開始。扶桑出力順次上昇。暫定最高出力見込みまで150…149…148…147…146…145…》

《優曇華、アーチ開放。魔分打上援護を行うヨ》

《了解》

火星では依然として幻術魔法が行使されていたが、神木・扶桑からの魔分打上はまるで天に向けて伸びる光の柱の様だった。


2003年8月27日日本時間18時38分20秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

《蟠桃暫定最高出力まで10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…上昇完了。魔分河流到着まで449…448…447…446》

《暫定最高速での魔分転送を確認。扶桑暫定最高出力まで57…56…55…54…》


2003年8月27日日本時間18時39分21秒、火星北極圏、神木・扶桑。

《扶桑暫定最高出力まで10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…上昇完了。魔分打上暫定最高速に到達》

《魔分河流到着まで379…378…376…375…374…》

北半球11箇所の魔分溜りからそれぞれ光の河が発生し、その全てが一路麻帆良上空を目指していた。


2003年8月27日日本時間18時45分50秒、地球麻帆良、神木・蟠桃。

《魔分河流到着まで10…9…8…7…6…5…4…3…2…1…蟠桃上空に魔分渦確認。対星魔分供給システム反転まで4…3…2…1…蟠桃出力増加。暫定最高値比105%…111%…118%…126%…135%…145%依然増加中》

《扶桑出力も遅れて増加103%…107%…115%…121%。並行して魔分打上速度最大加速》

神木・蟠桃上空1万mを越す地点に集まった魔分は巨大な渦を巻いて集積、直後、神木蟠桃に向かって空から巨大な光の柱が落ちた。


2003年8月27日日本時間18時50分00秒、火星北極圏、神木・扶桑。

《星座標、フォボス、ダイモスの運行の計算及び強制位相同調システム準備完了。起動まであと60…59…58…57…。扶桑出力177%…174%…176%…》

《蟠桃出力189%…192%…193%…。200%を超えると危険域に到達する可能性アリ》

《扶桑出力は概ね安定。蟠桃の出力は200%未満を維持すべし》

《了解》

麻帆良では、神木・蟠桃を直視すれば超大発光のために眩しくて何も見えず、火星でも神木・扶桑は勿論、二つの月も淡く発光し始めた。


2003年8月27日日本時間18時50分50秒。

残すはカウントダウンのみ。

《地球と火星の最大接近まで10…9…8…》

《強制位相同調システム起動まで7…6…5…》

《《《4…3…2…1…》》》


2003年8月27日日本時間18時51分00秒。

―火星北極圏、神木・扶桑―        ―地球麻帆良、神木・蟠桃―
《強制位相同調システム起動!!》   《火星最大接近、直線距離5575万0006km!!》


……2003年魔法世界暦にして10月某日。

地球との時間の流れの差にして4倍以上の開きができていた魔法世界は、この日時空間の壁を突き破る神木の強制位相同調によって火星との完全な同調を果たした。
時間にしてわずかに瞬きする間に火星の大地は魔法世界側の物に瞬時に同化、エリジウム大陸、龍山大陸等元々火星に無かった地形も即座に隆起、海水面も津波無く上昇した。
この同調による地形変化での動植物、無機物への被害はまさに奇跡の如くゼロ。
幻想的世界の象徴とも言える多数の浮遊岩、浮遊大陸も健在である。
直ぐ様同調したと気づいた魔法世界の人類は果たしていたのだろうか。

その答えは……地球の暦でおよそ2週間を遡る所から始めよう。



[21907] 42話 魔法世界編1
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/18 19:51
―2003年8月13日英国時間、5時36分、ウェールズ、宿―

ネギ一行はゲートへ向かう前に荷物整理をしていた。

「みんな、杖・刀剣類等は全てこの箱の中にしまう必要があるから出してもらえるかしら」

「分かりました、ドネットさん」

「もし隠し持ってたのがバレたらどうなるんや?」

「メガロメセンブリアはそういう規制が厳しいから、もし隠し持っていたとなるといきなり屯所行きね」

「マスターが言ってた法的にってそういうものなのかな」

「拙者常にあちこちに武器を隠しているが全部出すのは面倒でござるな……」

そういいながら隠し持っているにしても体積が合わない武器類がゾロゾロ出始める。

「楓さんいつもどこに巨大手裏剣しまってるんですか?」

「これでござるか。4枚に分解して背中にいれているでござるよ」

「……意外と普通なんですね」

「何も臓物の中に隠したりはしないでござる」

「そんなこと期待してないですよ!」

殆どが長瀬楓の忍具で埋め尽くされたがなんとか終わりである。

「そういえば修学旅行の時ネギ先生仮契約したって言っていたけれど、仮契約カードのコピーカードはこの中にしまってね」

「あ、仮契約カードも含まれるんですか?」

「ええ、武器の場合もあるから一括して全てカードも入れる決まりになっているわ」

「分かりました」

「俺の武器やないんやけどな」

「うちのも違うえ」

「え?ちょっとネギ!このかとも仮契約したの!?」

「私もよ、アーニャちゃん」

「拙者もでござる」

「私もアルよ」

「私もです」

「な、な、な、なんて事!!あんた……そんなにキスしたかったの!?」

ワナワナ震えながらネギに指をさすアーニャ。

「……アーニャ、キスじゃない方法だし、この旅行期間限定なんだよ」

「ほ ん と に ?」

大変胡散臭そうな目である。

「本当だよ!」

「ちょっとネギ、キスって何よ」

「えー、キスでも仮契約ってできるん?」

「く、くく、口付けアルか?」

「あら、キス以外の方法でやるなんて珍しいわね。時間かかるのに」

「あーあー、折角エヴァンジェリン姉ちゃんが面倒いうて隠してたのが台無しやな。ええやん、姉ちゃん達みんな呪文唱えるのでやったんやし」

「キスねぇ……だから結婚のネタなんて言ってたのね……」

「キスの方法があったんかー。ほな、せっちゃん、せっちゃんとする時はキスでええ?」

「お、お嬢様!な、何を!」

「……いいかしら、まだ時間は大丈夫だけれどそろそろ出発した方がいいわ」

「皆さん!仮契約カードを全て出してください!」

出発前も騒ぎが絶えない団体である。

「それでこの箱はどうなるんですか?」

「ゲートで転移する時に自動でゲートポート内に届けられるわ。その後受付で入国手続をして、また受け取る事ができるの。その時はこんなに大きい箱ではなくてもっと小さな封印箱に変わってるわ」

「厳重なんですね」

「その通りよ。ゲートポート内での魔法使用は厳禁だからその一貫ね」

「空港の荷物検査みたいなもんなんやね」

「僕達普通に刃物もって来ちゃいましたけど……」

深いことは気にしてはいけない。

「さあ、ゲートに向かうわよ。皆コートを着て付いて来てね」

「「「「はい!」」」」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

途中はぐれたりしないように気をつけるようにと、ドネットさんがゲートへの道案内をしてくれた。
意外だったのは昨日メルディアナに着いたときにアーニャも行くって言い出した事なんだよね。
おじいちゃんから聞いてたみたいだから前から準備してたみたいだけど……。

「さあ、着いたわよ」

霧が晴れてきて……。
凄い、ストーンヘンジだ!

「わー、結構人いるんですね」

「これでも少ない方よ。ゲートが開くのは一週間に一度、酷いときは一ヶ月に一度なんて時もあるわ」

孤立主義っていうのもその間隔だと仕方ないのかな。

「ドネットはん、ここに誰か紛れ込んだりせえへんの?」

「それはまずありえないわ。もしいるとしたらそれは世界最強クラスの魔法使いか、あるいは人間じゃないわね」

「世界最強クラス……」

「エヴァンジェリン姉ちゃんならできるんやろな」

「さ、まだ時間はあるけれど第一サークルの中に入って待ちましょう」

「はい!」

……あれ?ここ何か魔力の質が違うような……。
……なんだろう。

「ドネットさん、ここって何か変な感じしませんか?」

「変な感じって?」

「いえ、その、魔力の質が他と違うような気がして」

「私にはそんな事は感じられないけど、ネギ君何か感じるの?」

「あ、いえ、ただ何となくそんな気がしただけです、あははは」

……なんだろう、地球の魔力とは色が違うようなのがこのゲートから僅かに漏れてきている気が……。
漏れて……?
……まさかそんな筈は……。

「ネギ!肉まんたべんか?」

「ネギ坊主も食べるアルか?」

ほんとに肉まん大臣……。

「はい、僕も食べます!」

「サンドウィッチもうまいで」

「ちょっとコタロ、そのサンドウィッチは!あ、ごめんなさい!」

アーニャが誰かにぶつかった。
顔は見えないけど背丈は僕と同じくらいか。
なんだか変な予感がするんだけど大丈夫かな。
それに詠春さんに写真を見せてもらったラカンさんは……マスターが言うように来なかったらどうしよう……。
しばらく時間になるまで待っている間、夕映さんが持ってきた魔法世界に関する話を聞いたりしているうちに時間になった。

「いよいよ出発よ」

地面が光りだしてゲートが開く……。
やっぱり、魔力が違う気がする!
うっ眩しいっ!

……光が収まったたように思うけど……。

「着いたわよ」

「わー、サークルが一杯あるんね」

星型の魔方陣が書いてある台がいくつもある。
行き先別なのかな?

「空港のターミナルのようなものね。ネギ先生、このかさん、受付で入国手続きをしましょう」

「そうや、近衛名義だったんやね」

「はい」

「他の皆さんは先にあそこから外を見ることができるわよ」

「おっしゃ!一足先に外を見てくるで!」

「コタロ!待ちなさいよ!」

コタロー達は元気だな。
……ん、なんだ!?
これは!足元に、巨大な魔方陣!?
どんどん広がっていく!

「ドネットさん!!」

「こ、これはまさか強制転移魔法!?こんな全体に一体どうやって!?」

まずい!
杖も武器も無い!
あるのは荷物だけだ!

「ネギ!一体どうなって!?わぁぁっ!?」

もう発動したッ!?

「あ、アスナさん!手を!」

「ネギー!!」

「アスナさーん!!」

あぁ届か……ないッ!
凄い勢いで吸い込まれる!
このままどこかに飛ばされる!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日メガロメセンブリア、ホテル、深夜―

いやー、高級ホテルに豪華な食事、まさに夢の国だな気に入った!
麻帆良の魔法生徒やってるだけでこの待遇はいいね!
まあ物価のせいもあるだろうけどさ。
にしても超りんとの旅行も良かったけどこっちの夜景もスゲーわ。
ココネの故郷も見てこれたし満足満足。
にしてももう明日帰るんだよなー。
1週間ぐらいいたっていいのに。
あーこの飲み物も美味いなー。
ま、とりあえずテレビでも見るか……。

[只今入りました緊急ニュースをお送りします。世界各地のゲートポートで同時多発テロが発生し、世界を繋ぐ楔が破壊されました]

「ブッー!!って帰れねえぇーッ!?」

誰だよそんないらんことしたのは!
いやーマジもう日本戻れねー。
骨でも埋めんのこれ?
結局三度目の正直も裏切られたわ!!

[尚、ゲートポート内にいた利用者、職員全てが消え去るという異常事態も起きており、現在大変な混乱が起きている模様です。新たな情報が入り次第引き続き報道をしていく予定です]

何?全員死亡?それとも失踪?

「おいおい、神隠しって何スか!」

「ミソラ……」

「なんですか春日さん、大きな声を出して」

「高音さん!ニュースニュース!ゲートポートでテロで帰れない上、神隠しッス!!」

「何ですって!?」

「お姉様一体……?」

違うチャンネルでもニュースやってたから高音さん達も見て分かってくれたわ。

「で、高音さん私達これからどうするんスか?」

「……まずは私の両親に連絡しますわ」

「あー!高音さんの親御さん魔法世界にいるんスね!」

「私も連絡します、お姉様!」

愛衣ちゃんもかい。

「確かゲートって直すのに数年かかるんじゃ?」

「当分はこちらで過ごす事になるでしょうね……」

「……学校帰れないなー。卒業式は……出れんなこりゃ」

高音さんがいるからって理由で葛葉先生ついて来るかと思ったらこなかったし……って葛葉先生的には来なくてよかったか。
彼氏と世界隔絶して恋愛とか無いもんなー。
一体どこのどいつだよゲートポート破壊なんて……。
……まぁ、金の心配ならなんとかなるだろ。
高音さんとこに厄介になるだろうけど、あれだよ、鬼ごっこの賞金とかあるしさ……今手元に無いけど……。

「あのー、携帯みて下さい。表示されている名前があるんですが……」

「え?」

まさかこの事件は超りんの仕業……なんてことはないだろう……けど、あ?
ネギ君の名前が何で表示されてんの?

「これ不思議通信用のアレじゃ?」

「まあ、ネギ先生ですわね。一体どうして……」

「とりあえず通信かけてみればいいッスよ」

そいっ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

わぁぁぁぁ!!!

着いたみたいだけど……ここは一体……?
夜のような昼のような微妙な明るさ……それに寒い!
一面雪と氷ばっかりだ!
とにかく魔力で身体保護をしないと……。
荷物はあるから食料もあるしすぐには死んだりはしないけど……なんでこんな事に……。
……あれ、あそこに場違いなお姉さんがいる……あ、倒れた!
まずい、助けないと!
……少し離れてたけど見えて良かった。
楓さん達と遠くをみる訓練したお陰だな。
あ……この人魔力で身体保護ができないみたい。
どうしよう、杖も一切ないし……。
発動媒体無しで使える魔法は……いつものあれだ!

―魔法領域 展開!!―

あれ……少しいつもと感覚が違う気がする……。
いや、でもとにかくこれが浮遊術と同じで杖なしでできてよかった……。
防御用だけど誰か特定の人を中にいれて保護することもできるように練習しておいた甲斐があったな。
この人、僕が着いてすぐ倒れたって事は、僕が到着したのとは少しタイムラグがあるのかもしれない。

「大丈夫ですか!」

身体中が冷え切ってる!

―魔法領域 出力最大!!―

これで体温を上げさせてなんとかしよう。

《ネギ!皆!聞こえる!》

あ、これは超さんのくれた端末の通信!

《アスナさん!大丈夫ですか!》

《ネギ!あんた大丈夫なの?今どこ?私どこかの山林の中でそろそろ日が落ちるみたいなんだけど一体どうなってるのよ!》

《アスナ!ネギ君!うちは暑い砂漠や!》

《お嬢様!私も砂漠です!ですが……夜なので寒いです……》

《僕は雪山だと思います!太陽の位置的に昼なのか夜なのかはわかりません。今僕と同じように飛ばされたように思える女性が冷え切ってて大変なんです!》

《ネギ!俺も似たような雪山や!気で保護せんとすぐやられるで!》

《拙者は密林で恐らく昼ごろでござるよ、何やら巨大な生物がいるでござる》

《私は高い山アルが、雪はない所アル!朝日が見えるアルよ!》

《ネギ先生……私はどこかの遺跡の中みたいです……》

《のどかさん!》

《ネギ先生、私は今ドネットさんと一緒にいますが、恐らく楓さんと同じ密林にいるようです》

《茶々丸殿もでござるか》

《ドネットさんもいるんですか!》

よく近くにいれたな……。
ドネットさんは端末持ってないから茶々丸さんが近くにいて良かった。

《はい、白き翼のバッジには私のセンサーで位置がわかる機能がついますので範囲内ならば、時間をかければ皆さんの位置がわかると思います。まずはドネットさんにも会話に参加して頂きます。ドネットさん、手を当てて下さい》

《こ、これでいいのかしら。皆大丈夫?茶々丸さんが今会話を説明してくれていたから大体聞いていたけれど》

《ドネットさん、今会話していた皆は大丈夫です!でも夕映さんが反応しませんし、アーニャは場所自体が分かりません》

《……そう、分かったわ。でもこの端末は凄いわね。こうしてかなり離れている筈なのに会話できるなんて。さっきのは恐らく何者かが強制転移魔法であの場にいた全員を世界各地に飛ばしたようね。いいかしら、まずは各自の身の安全を最優先してちょうだい》

僕のせい……じゃないだろうけどいきなりこんな目にあうなんて……。

《《《《分かりました!》》》》

《皆さん、超の端末から写真が送れます。もし星が見れるならば私に送ってください、星の位置から場所が割り出せます。他の皆さんも景色を撮ってもらえれば場所が分かる可能性があります》

そうか!
サーバーとかどうなってるかわからないけど写真が送れるのは助かる!

《茶々丸さんお願いします!太陽が変な位置にいますけど星もみえてます!》

《俺もや!》

《砂漠の夜で星はよく見えていますので送ります》

《私も日が落ちたら写真送るわ!》

《アスナさん、夜の山は危険ですからできるだけ早めに寝床の用意をして下さいね》

《分かってるわよ!エヴァンジェリンさんの所でどれだけ修行したと思ってるの?》

《あはは、そうでした》

《せっちゃーん!砂漠暑いえー》

《お嬢様!?ご無事ですか!》

《うん、遠くやけど街みえとるから多分大丈夫やよ。箒あったらええのになー》

《このかさん、蜃気楼には気をつけてください》

《分かったえー》

《のどかさんは大丈夫ですか?》

《は……はい。とにかく外に出てみるようにします。もし無理でも雨風はしのげますし、命に別状はありません。それよりゆえはどうして反応しないんでしょうか?》

《……分かりません、持続的に話しかけ続けるしかない……と思います》

《ネギ、一緒にいる女の人ちゃんと助けるのよ!》

《はい、勿論です!それではまた何かあったらお互い必ず連絡をして下さい!》

《分かったえ。離れててもこうして皆と話せて良かったなぁ》

それは本当に間違いない、超さんには感謝しないと。
どうも一応陸地に転移させられているみたいだし、だとすると海に投げ出されたりって事はないみたいだから夕映さんもアーニャも多分大丈夫かな……。
落ち込んでいられない、まずは写真を撮って茶々丸さんに送ろう。
折角仮契約したのにカードは全部ゲートにあるままなんて……。

「ん……何だか温かい……」

「あ!目が覚めましたか!」

「んん……坊やは一体誰?」

「僕は……ネギ・スプリングフィールドです。まずは身体を起こしてください。地面は雪で寒いですから」

「あ、ありがとう。スプリングフィールド……ああ!ネギ・スプリングフィールド様ですか!?」

「え?あ、はいそうですけど」

「私メガロメセンブリアゲートポート受付のミリア・パーシヴァルと申します。ネギ・スプリングフィールド様がいらっしゃると存じておりました」

……凄く自然に握手された。
場違いな格好だと思ったらゲートの受付の人だったのか……確かに胸の所にネームプレートもついてる。

「いえ、そんなに畏まらなくて結構ですよ」

「し、失礼しました。それにしてもここは一体何処なのでしょうか……。いきなり足元が光ったと思えば雪山に投げ出されて寒さで倒れたのですが……」

「僕もまだ分かりませんが安心して下さい、場所はもうすぐ判明すると思います。あの、ミリアさんは身体保護できますか?」

多分太陽の位置と明るさからいって極地に近い気がするんだけど……。

「魔力でですか?……残念ながら……」

どうしよう……魔法領域もずっと展開していると効率が悪いし……。
何か手は……魔法発動媒体も無いし、アレしかないかな……。

「ちょっと待ってて下さい」

「ネギ・スプリングフィールド様?一体何を書かれているのですか?」

「ミリアさん、ネギでいいですよ」

「それでは……ネギ君とおよびしてもいいですか?」

「はい!」

「承知しました」

えーっと確か魔方陣はこうだった筈……。
ずっとこの前見ていたから覚えているし、大丈夫。

「できた!ミリアさん、僕と仮契約しませんか?」

「ええ!?いきなりそんなことを申されましても……」

やっぱり恥ずかしがるのか……。
あ、今のは僕の言い方が悪かったのか。

「あの、そういう意味ではなくて、ミリアさんに僕が魔力供給できるようにする目的で言っています」

「ま、まあ、わざわざ私を助けるためだったのですね……つい勘違いしてしまいました」

この人……意外とマイペースみたい。
周りは一面の雪なんだけど……。

「気にしないで下さい。仮契約の方法ですが呪文詠唱の方がいいですよね?」

「あら、キスではないのですか?」

「それは……キスでもできると思いますけど、僕はこの方法で覚えたので……お互い唱える言葉は同じですから僕に続いて言ってくれれば大丈夫です」

何回もやって覚えといて良かった……。
コピーカードは作れないけど、契約執行だけでもできれば大丈夫だ。

「……分かりましたわ。お願い致します。ネギ君」

「はい!それでは始めましょう」

この後10分ぐらいでなんとか仮契約は一発で終えられた。

「これで終わりでしょうか?」

「はい、それでは契約執行に切り替えますね」

「そういえば、この障壁のようなものは杖無しでできるのですか?」

「浮遊術の一種みたいなものです」

「その年で浮遊術ができるなんて、流石はナギ・スプリングフィールド様のご子息ですね」

「あ、ありがとうございます。でも僕は、僕ですから」

「これは失礼を……。比べるつもりではなかったのですが申し訳ありません」

「そ、そんなに謝らなくて結構です!頭を上げてください」

「……ネギ君、ありがとう……ございます」

ええ!?泣き出した!?

「ど、どど、どうして泣くんですか?」

「ようやく……現実が理解できて、ネギ君が助けてくれていなければ今頃私は死んでいたと……。助けていただきありがとうございます、小さなマギステル・マギ様」

立派な魔法使い……か。
マスター、父さん、僕が目指す僕にとっての立派な魔法使いにはこう言う在り方もきっとありますよね。

「ありがとうございます、もう泣かないで下さい。絶対安全な場所まで連れていきますから」

「……はいっ、お願いします!」

―魔法領域 解除―

―出力調整 契約執行 3600秒間!! ネギの従者 ミリア・パーシヴァル!!―

「い、一時間もですか?」

「大丈夫です、戦闘用とは違いますから身体保護程度の契約執行なら長い間持ちます。寒くありませんか?」

「はい、温かいです」

「はぁ……良かったです」

《ネギ先生、場所が特定できました。ネギ先生のいらっしゃる場所は……南極です。一番近い街は盧遮那と桃源がありますが位置から考えるとどちらも2000km程の距離があります。まずは寒冷地帯を抜ける事を優先して下さい。今からメルカトル図法ではなく心射方位図法での地図を転送致します》

やっぱりそうか……。

《な、南極……。ちゃ、茶々丸さん、すいません、地図をお願いします》

《南極ですって!?ネギ!大丈夫なの?》

《アスナさん、今のところ大丈夫です。助けた女性の人はメガロメセンブリアゲートポートの受付のミリアさんという方でした。今仮契約をして契約執行で身体保護をしています》

《受付の人も飛ばされてたのね……。それで、ま、まさかキスしたの?》

《アスナ姉ちゃん、それどころやないやろ!》

《ご、ごめん……》

《はぁ……一応呪文は散々唱えて覚えていたので、呪文詠唱で行いました。茶々丸さん、コタローの位置は……?》

《北極です……。小太郎さんにも今から地図を送りますので》

《何やて!?バラバラに転移させるにも程があるやろ!地図よろしく頼むわ!どっちに街あるんや?》

《一番近いのはヘラス帝国領首都、ヘラスです》

《ヘラス帝国?何やそれ》

《小太郎君、首都だったらこのゲートポートの事件も伝わっている筈だから、元々私達は入国手続もしていないけれど、不法入国になってもいいからそちらへ向かいなさい》

そうか……僕達入国手続もしてないのか……。

《要するに違う国なんやな。まあええで、とにかくまずは楓姉ちゃんと特訓したサバイバル技術でなんとか北極切り抜けたるで!》

《コタロー、ネギ坊主、頑張るでござるよ。まだ茶々丸殿と合流できていないがこちらもなかなか危険な場所のようでござる。図書館島の竜とは違うタイプのものまでいるようでござる。いやはや、武器がないというのは辛いでござるな》

《りゅ、竜種……。楓さん、絶対生きて合流しましょう!》

《約束でござるよ》

《……続けて刹那さんの位置がわかりました。テンペテルラ大陸の砂漠のようです。一番近くにテンペというオアシス街がありますのでそこに向かうことを推奨します》

《わかりました、ありがとうございます。ネギ先生達もお気をつけて》

《古さんは時間帯、景観から言ってタルシス山脈だと思われます。まずは南下してタンタルスという街を目指してください》

《分かったアル!ネギ坊主達も気をつけるアルよ!》

《はい!》

《古姉ちゃんは地図間違えんようにな》

僕もそれが心配。

《それと私の半径3000kmのセンサーで夕映さんとこのかさんの居場所がわかりました。それぞれアリアドネー首都、セブレイニア大陸の砂漠のようです》

《それなら多分一番今夕映さんが安全ね。世界最大の独立学術都市国家アリアドネーは学ぼうとする意志と意欲を持つ者なら、たとえ死神でも受け入れると言われている場所よ。通信が取れないと言っても命に危険は無いわ》

《ドネットさん、そうなんですか。良かった……》

《ゆえの場所分かったんですね。良かったです……》

《茶々丸さん、うちは進んどる方向あっとるのかな?》

《はい、合っています。そのまま東に進んでいけば一番大きい所でケフィッススという街につきます》

《分かったえ。ネギ君達が頑張っとるならうちも頑張らんとな!》

《これで後は私とのどかの場所とアーニャちゃんだけね。私はさっき起きたばかりだけどもう寝る所作ったから大丈夫よ!》

《はー、超さんの端末には感謝しないと……》

《そうね、超さんにこれ貰ってなかったら大変だったわ》

《学校戻ったらお礼言わんとな》

《その超さんって三次元映像技術やSNSを広めたっていう超鈴音さん?》

《ドネットさん、その通りです》

《ネギ君達はたくましいわね……。私にはあなた達が北極や南極にいても大丈夫だというのに驚いたわ。この端末にしても距離を完全に無視しているのは画期的発明よ》

《あはは、どうなっているのか全然わからないんですけどね……。それでは僕とミリアさんはまだ移動するのでまた後で》

こんなに早く皆の居場所がわかるなんてなぁ。

「ネギ君、その端末は一体どのようなものなのですか?」

「これは僕の凄い発明家である生徒の超鈴音さんという人が魔法世界に来る時の為にってくれたものなんです。今はぐれてしまったみんなと念話みたいな感じで通信してました」

「こんな寒冷地で山に囲まれていても使えるなんて凄いですね」

「ただどこかに電話することはできないみたいなんですけどね。基本的にはこの端末同士でしかやりとりできないみたいです。あの……それでこの場所が分かったんですが聞きますか?」

「分かったのですか!?はい、聞かせてください」

「南極だそうです……」

「そ、そんな……」

「だ、大丈夫です!絶対無事に街まで行けますよ!」

「うぅ……ありがとうございます」

「さあ、先を急ぎましょう」

「はい、私の方が大人なのに恥ずかしいですね……」

「そんな、気にしないで下さい」

方向がわかるお陰で完全に遭難する事もないし、とりあえずはまだ……大丈夫。
しばらく歩いていたら……。

《あー、テステス、ネギ君……かな?聞こえるかい?》

ええ!?この声は!

《春日さん!?どうして!?》

《うおっ、マジでネギ君か!あー、いや私、実は魔法生徒なんだよ》

《し、知らなかったです……》

《言わなくてごめんね》

《い、いえ》

《ネギ先生、こんにちは!》

《ネギ先生、魔法世界にいらしているのですか?》

《その声は……佐倉さんに高音さん!一体どうして?まさか春日さん達もゲートポートで強制転移魔法を喰らったんですか!?》

《へ?ちょっとネギ君今なんと?》

《ゲートポートで強制転移魔法を喰らったって……》

《うわー、ネギ君達例の事件の被害者か。あーちょい待ち、最初から整理するとさ、何故か突然私達が超りんから貰ってた端末にネギ君の通信情報が表示されたんだよ。もしやネギ君以外にも来てる……というか飛ばされたり?》

《そうだったんですか……。はい、皆飛ばされてしまいました》

《ネギ先生今どこにいらっしゃるのですか?》

《えーっと南極です……》

《それほんと?いや……ネギ君そんな冗談いわないもんな》

《大丈夫では……なさそうですね》

《……今はなんとか大丈夫です。それでアスナさん達も来たんですが全員飛ばされてしまいました……》

《おおぅ、アスナ達って事は……》

《アスナさん、このかさん、刹那さん、楓さん、くーふぇさん、コタロー、のどかさん、夕映さん、茶々丸さん、アーニャそれとドネットさんです》

《そ……そんなに……。アーニャちゃんとドネットさんも来てんのかい。場所はわかってるの?》

《大体分かってます、アスナさんはまだ分からないんですけどこのかさんは……》

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

軽い気持ちでポチっとなしたらこのザマだよ……。
とうとうネギ君に私が魔法生徒だっつーのを言う事になった訳だけど事態はそれどころじゃないな。
なんで南極と北極に一人ずついる上受付のお姉さんも一緒にいたり、よりにもよって超危険地帯のケルベラス大樹林なんかに飛ばされてんのさ……。
そんな辺境に飛空艇飛んでないっつーの。

《なんてゆーか、ファンタジーもいいとこだね》

《春日さん、私達で捜索隊を結成致しましょう》

《お姉様、仕事ですね!》

《ほ、本当ですか?ありがとうございます!》

いや、まあ……助けないほうがどうかしてるわな。

《あの、できれば僕達の杖類をゲートポートから持ってこられませんか?封印箱に入ったままらしいんですが……》

《げっもしや杖無しで南極いんの!?》

《は、はい……》

無いわー。
それでなんとか大丈夫って言ってるネギ君凄過ぎるだろ……。
杖無しでどうやって受付の人助けてんの?
普通逆じゃないか……。

《なんて事ですか!分かりましたわ、この高音・D・グッドマン、必ず助けだして見せます。ゲートポートの荷物はお任せ下さい!》

《ありがとうございます!》

《それとさ……気落ちさせるかもしれないんだけど、ゲートポート全部破壊されたみたいで日本に帰れなくなったんだよ》

《えええ!?そんな!一体誰が!?》

《……今調査中だそうです》

《……分かりました。とにかく僕はまず南極を抜けるよう努力します。今からアスナさん達の通信情報も送りますね》

《了解ッス。ネギ君頑張ってね》

《ネギ先生、お気を確かに》

《ネギ先生、待ってて下さいね》

《ありがとうございます、春日さん、佐倉さん、高音さん!》

さーてと、どうするよ。

「高音さん、捜索隊ってもどうするんスか?非常事態宣言が発令されちゃったみたいだから渡航許可も1週間は取るのは難しいんじゃ?」

「確かにそうですが、少なくともまずはゲートポートでネギ先生達の杖類を受け取る事ですわね。その後はなんとかしてメセンブリーナ連合を中心に散らばった皆さんを拾っていきましょう。両親にもまだ連絡していませんし」

「助けるって言ったからには動かないとスね。しかし流石に南極と北極、それとケルベラス大樹林は洒落になってないスよ……」

「飛行艇はどこもそんな所通りませんものね……」

「いずれにせよ、まずは朝になるまで待ちましょう。私は今から両親に連絡してきますわ」

ネギ君達はあちこち飛ばされてるから、また時差で色々面倒なんだろうな……。

「お姉様、私も行きます!」

「それじゃ私はネギ君から来たアスナ達と連絡取っとくんで」

おお、通信情報来た来た。
うん、全員分だね。
とりあえず一番元気そうに思えるアスナにでも連絡するか。

《あーアスナ?聞こえるかなー?》

《ちょっと、その声美空ちゃん!?どうして!?》

《いやー私実は魔法生徒だからさ》

《そうだったの!?》

《あー、そんで高音さんと愛衣ちゃん、ココネと一緒に来てるんだよ》

《美空ちゃんどこにいるの?もしかして飛ばされた?》

《飛ばされてないよ!メガロメセンブリアにいるよ。何故かネギ君の通信情報が超りんに貰った私達の端末に表示されたから試しに通信しみたらこうなった訳よ》

《わー、やっぱり超さんのお陰ね》

正直ネギ君の通信情報が出てきたのは一体どういうつもりなのか分かんないけど、超りんの奴、ネギ君達も魔法世界来るの知っててイタズラのつもりか、あるいはこうなることを知ってた……とか。
……いくら火星人でもそりゃないか。

《超りんの発明は一般人には構造は理解できんけど便利だから助かるよ。そんでアスナどこにいんの?》

《どこかの山奥よ。もうすぐ茶々丸さんに夜空の星を写真に撮って場所を特定してもらうわ》

なんで妙に適応能力高いんだ……。

《逞しいな、アスナ……。まあそれはともかく、私達で皆の事捜索するからさ。無理しないように気をつけなよ》

《ホント?ありがと、美空ちゃん!でも無理しないようにっていうのはまずネギに言いたいわよ。あの子ゲートの受付のお姉さんと仮契約して今ずっと契約執行してるのよ》

《は?マジすか?どんだけ優しいんだよ、10歳にして涙ぐましすぎるわ!》

つか仮契約ってキスですか……?
いやいや、ネギ君にそんなバカな事聞けるかっての。

《ほんとよ、もう!美空ちゃんもネギに言ってやってよ!一番近い街まで2000kmもあるっていうのに大丈夫ですっていうのよ。何が大丈夫なのよ!!》

アスナめっちゃ心配してんなー。

《アスナ、気持ちはよくわかったけど、めっちゃ頭に響く……》

《ご、ごめん……》

《うん、そんでさ、ネギ君にもさっき言ったんだけど、ゲートポート全部破壊されちゃって日本に帰れないんだわ》

《えー!?何よそれ!》

《私も明日には帰るっつー時にこれですよ》

《お互い災難ね……》

《まあ起きたもんは仕方ないし、とりあえずネギ君達の杖やらは私達が朝になったらゲートポート行って引き取れるように交渉するからさ》

《ありがとね》

《アスナ達も本当は観光する感じだったんでしょ?》

《そうよ、ちゃんと宿も取ってあったらしいのに……》

《当分帰れないからさ、観光はいくらでもできるよ。できるだけ早く迎えに行くからさ》

《うん!それじゃあ場所分かったら連絡するわね》

《連絡待ってるわー》

何にしても、せめてもの救いはバラバラでも居場所が分かってるって事だな。
楓はケルベラス大樹林だろ……話しかけたら、丁度魔獣に襲われてましたーなんて怖くて無理だな……。

……で、この後分かったのはアスナのいる場所がヘラス帝国の領地に近いか、あるいは既に入っているかのノアキス地方みたいだな。
とんだ山奥だわ。
しかも国境線近いと碌な事にならんだろうな……。
とりあえず一番楽に迎えに行けそうなのはメガロから南東に飛んだ桜咲さんのテンペと更に東に行ったくーちゃんのタンタルスかね。
あとはアーニャちゃんが行方不明と……。
これが一番まず……小太郎君と特にネギ君も相当マズイよな……荷物に食料が入っているって言っても2000kmってどう踏破するよ。
……何にせよ興奮して目が覚めちゃったけど朝になるまで動けないから頑張って寝とくか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、南極、契約執行から1時間が経過―

「そろそろ一時間ですね……。ミリアさん、疲れはありませんか?」

「ネギ君の魔力供給のお陰で身体は楽です」

雪の照り返しで目が焼けるのは魔力で保護してるからサングラスが無くても進める。

「それは良かったです。契約執行更新しますね」

―契約続行追加 3600秒間!! ネギの従者 ミリア・パーシヴァル!!―

「ほ、本当に大丈夫ですか?」

「大丈夫です。僕を信じてください」

「……ええ、分かりました。ネギ君、信じますね」

「それでは進みましょう」

少ない魔力供給だけどこんなに長時間するのは初めてだな……。
そのうち危なくなるかもしれないけどなんとかしないと。
でもまだあと数時間はいけると思う。

「ミリアさん、メガロメセンブリアって僕達が着いた時何時だったんですか?」

「丁度日をまたいで8月13日になった深夜ですね」

夜か……。

「雪だらけですが契約執行してるので寝る事もできますが休憩しましょうか?」

「ネギ君、心配してくれてありがとう。私夜勤なのでしっかり寝てあります」

「……そうですか、辛いですけどできるだけ早くこの氷雪地帯から抜けてしまいましょう」

「はい。……あっ!」

「どうしました!?ってそうか!ごめんなさい、ハイヒールだと気づかなくて……足は……」

「捻ったりはしてないから大丈夫です。ただ、ハイヒールの踵が折れてしまいました……」

どうしよう……。
ミリアさんが歩くのが遅いと言っても無理に走ってもらうわけにもいかないし……僕が運べれば……運べばいいのか!
こんな時の為にマスター直伝の年齢詐称薬の出番だ!

「ミリアさん、魔法薬を飲んでもらえませんか?」

杖がないから調合できないけど、最初からいくつか持ってきておいて助かったな。

「魔法薬っていうのは?」

「僕の師匠から習った年齢詐称薬です。ミリアさんは僕が背負って運びますので」

「えっ!?」

「これでも僕修行したので体力には自信あるんです!靴の持ち合わせは無いので嫌かもしれませんがお願いします」

「そんな……嫌なんてことは……でも運んでいただくなんて……」

「遠慮しないで下さい。恐らくこれが一番効率よく移動できます」

「……何から何まで迷惑をかけてごめんなさい、ネギ君」

「ミリアさんは何も悪くないじゃないですか!悪いのはゲートポートで皆を強制転移させた連中です。こんな理不尽には僕は絶対負けません。はい、これをどうぞ」

「……ありがとうございます。それでは頂きますね」

ボンッっていう音と共にミリアさんは小さくなった。
一応幻術なんだけど実体もあるっていう不思議な年齢詐称薬だから便利だ。

リュックは前に抱えてと……。
端末も身体に密着させているし……これでよし。

「ミリアさん、背中にどうぞ」

「す、凄い魔法薬ですね。失礼します」

「では出発しましょう」

これなら魔力消耗は早くなるけど、一気に速めの自転車ぐらいの速度で持続的に移動できるぞ。
平地なら3、4時間で50kmはいける。

「は……速いですね」

「酔わないように目を瞑って寝て貰っても大丈夫です」

「こんな事言うのは不謹慎なのですが、南極の景色を見るのは初めてなので……」

「あはは、自然観光っていう気分でいた方が気持ち楽になりますよね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8/12日、14時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、コレット・ファランドールの寮室―

あーなんとかなった……。
昼休みに箒乗って移動中、課題に夢中でよそ見してた私が突然道に現れたっぽいユエに激突……。
そのままその場で気絶したからとりあえず急いでユエのだと思われる荷物を全部寮室に運び、医務室にユエを連れて行って先生に事情を話しつつ、ユエが目覚めるのを待った。
目覚めて話してみたら名前しか覚えてないって事になって、先生が検査精霊でユエの頭を走査したんだけど記憶喪失が確定。
どうもその原因はやっぱ私にあるっぽい……。
あまつさえ課題の初級忘却呪文が充填された杖が暴発したみたいでユエの記憶喪失の原因は頭部打撲と私の未熟な忘却呪文のせいで間違いなさそう。
先生にバレたら大変と思ってごまかして……、先生がユエという名前を検索したんだけどどこにも該当する情報は見つからなかった。
それでユエにどうするか聞いたら私の魔法騎士団候補学校で勉強できないかって言い出したから驚いたよ。
これには先生も、アリアドネーの学ぼうとする意志と意欲を持つものなら例え死神でも受け入れるという思想に則って、ユエの記憶が治るまでここにいるように手配までしてくれた。
どこに泊めるか言われたけど私の寮の部屋で泊めようという事にしたんだけど……。
そう、ユエの荷物あったんだよ!
私も記憶喪失にかかっているなんてことはないんだけど忘れてた……。
さっきごまかしたけどここはちゃんとユエに謝ったほうがいいね。

「ユエ!ほんっとうにごめん!ユエの記憶喪失は私の未熟な忘却呪文が暴発したのが突然現れたユエにあたったせいなの!」

……うぅ、何も言ってこない……。

「……コレットはドジですね」

ええええー!?

「えーっとそれだけ?」

「記憶が無いので怒りようが無いです」

あーそっか……。

「それがね、ユエの荷物結構あったんだよ。急いでて忘れてたんだけど」

「コレットはドジですか?」

今度は疑問形!?
こ、これは……。

「はい、ドジです……。あの、荷物の事隠してたって思わないの?」

「隠せてないではないですか。それにコレットの顔からしてわざとやったとは到底思えないです」

ガーン!
……こ、これでも魔法騎士団候補生の一人……ハッ!私落ちこぼれだった……。

「…………」

「コレット、何を落ち込んでるですか」

「いや、なんでもないよ。そうだ!とにかくユエの荷物確認しようよ!何か思い出せるかもしれないよ!」

「は、はいです。突然元気になられると驚くです……」

「ははは、ごめんごめん」

ユエの荷物を確認してみたら……。

「ユエ、この文字何だかわかる?」

「日本語ですね……」

「ニホンゴ?」

「私の出身の国の言葉だと思うです。……どうやら私の名前は綾瀬夕映というようですね」

「アヤセ・ユエ?じゃあアヤセが名前?」

「いえ、ユエ・アヤセと言い換えるべきです」

「苗字が最初に来る国なのね。あれ、この本に地図が……あああ!!」

「どうしたです?」

「ユエは旧世界人だったんだよ!こんな地図が載っている上、知らない文字が書いてある本を持っているということは旧世界人に違いないッ!」

「コレット、そんなに自慢気にポーズ取りながら言わなくていいです」

ユエ……もう少し自分の事がわかるんだからテンション上げないの?

「でも一体どうしてあんな道に突然ユエは現れたんだろう……何かの事故かな?」

「何か大きな事件があったならわかるですよ」

「そ、そうだね。後は……この本は魔法書みたいだね。ユエは旧世界の魔法使いだったんじゃない?そうだ、私の杖と箒あるからやってみなよ!」

「は、はいです」

―プラクテ・ビギ・ナル―
―火よ灯れ―

「うん、呪文は使えるみたいだね。次は箒ね」

「はいです」

―飛行!―

「おおっ箒も使えるじゃん!ユエは魔法使いで間違いないよ!」

「むむ、確かにそうかもしれないです」

「うん、あ、ごめん、まだ荷物あるから見てみようよ」

「そうですね」

次は服…服……下着……紐!?

「ユエ、紐だよ紐!」

「コレット、掲げなくていいです。……でもなんだか懐かしい気がするです」

「下着が記憶回復の手がかりになるとは……」

あれ、底に何かある……。

「あれ、この機械は一体……。ユエこれ何かわかる?はい、どうぞ」

てのひらぐらいの大きさで殆どボタンは付いてない。

「画面が真っ暗ですがどこかに電源があるのでしょうか……。えっと……あったです」

お、電源入ったみたい。

「わー綺麗なスクリーンだね」

「タッチパネル式の操作……ですね。写真がありますが……」

「どれどれ?わー、たくさんいるね。誰か覚えてる?」

「いえ……何となく引っ掛かる人物はいるですが……」

「そ、そう……。記憶消しちゃってごめんね」

「次は忘却呪文を道で練習しないように気をつけるです。コレットの話だと私が突然現れたのも原因のようですし」

「ユエ、ありがと。よそ見しないように気をつけるよ……あ、何か画面に文字が出てるよ!」

「こ、声が聞こえるです!」

「え?」

「コレットもこれに手を当てるですよ」

「う、うん」

《今夕映さんの声聞こえませんでしたか!?》

「ほ、ほんとだ、しかもユエの事何か知ってるみたいだよ!」

《知らない声も聞こえたでござるな》

「一体これはどういう機械なのでしょうか」

「念話みたいなもの……じゃないかな?」

《ゆえ!うちやよ、近衛このかや!》

《ゆえ、ゆえ!私、宮崎のどかだよ!携帯の事忘れちゃったの?》

《このか……のどか》

《すいません、夕映さんと一緒にいるのはアリアドネーの関係者の方ですか?端末の通信方法は心で念じるだけで大丈夫ですので》

念じるだけでいいのね。

《えっと初めまして私はコレット・ファランドールと言います。アリアドネー魔法騎士団候補学校の生徒です》

《コレットさんですね。初めまして。僕はネギ・スプリングフィールドと言います。日本の麻帆良学園で夕映さんのクラスの担任をやっています》

教師?
子供みたいな声だけど……。
それにスプリングフィールド?

《な、なんだか聞き覚えのある声の気がするです……》

《えっと、経緯を説明すると私が練習中だった初級忘却呪文が突然道に現れたユエにあたってしまって記憶が一時的に消えてしまったみたいなんです、ごめんなさい》

《そ、そうだったんですか……。だから1時間以上も反応が無かったんですね……》

《ゆえ……記憶が消えちゃったの……》

《のどか、大丈夫やよ、一時的言うてるし》

《少し良いかしら、コレットさん、私はドネット・マクギネスと言うわ。夕映さんは今どういう扱いになっているのかしら?》

《えっと、この端末を確認する前に気絶したユエを医務室の先生の所へ連れて行ってしまい、その時のユエの意志で私と同じ魔法騎士団候補学校の生徒になる準備ができてます》

《あら……記憶が消えているのに身の安全は完璧のようね》

《それは大丈夫です!……それでユエはドネットさんの元に連れて行った方がいいでしょうか?》

《いえ、それはいいわ。信じられないかもしれないけれど、私達はゲートポートのテロに巻き込まれて世界各地に飛ばされてしまったのよ。特に私が今いる場所はケルベラス大樹林、コレットさんならわかるかしら?》

《け、けけけ、ケルベラス大樹林ってあの危険極まり無いって言われているあそこですか!?》

《……そうよ、私も信じたくないことなのだけれど。それでも夕映さんに一番近いのは私達なの》

し、信じられないようなことにユエは巻き込まれてたんだ……。
あ!それにゲートポートでテロって事は、ニュース見れば分かるかな。

《あの、夕映さん。夕映さんは記憶が消えているという事ですがそのままアリアドネーにいますか?》

《私は……できれば勉強してみたいです。でも助けに行った方がいいのであれば……》

《いえ、記憶喪失では危険ですし、折角安全なアリアドネーにいるのであれば、僕としてはその場にいてくれた方が助かります。ドネットさん、ケルベラス大樹林を抜けたらどうされますか?》

《そうね、まずは抜けた先のヘカテスを通ってグラニクスに行くわ。まずはそこで本国と連絡を取る予定よ。いずれにしてもまだ数日はかかるわね》

《……分かりました。そういう事もありますし、夕映さんはアリアドネーで待っていてもらえませんか?僕も今南極にいますし、独立都市国家であれば僕達のもしもの時の集合地点にもなります》

な、南極!?

《ネギ君、それは一体?》

《僕の憶測ですが……今回の事件、メガロメセンブリアのどこかが絡んでいるのかもしれません。すいません、ドネットさんを疑っているわけでもないですし、本国を疑いたくはないのですが……》

《そうね……これほど鮮やかに各地のゲートポートの人間を各地に転送し、しかも破壊までしたというあたり確かに何者かが内部で手引きしていたという可能性も否定出来ないわね……。夕映さん、どうするかしら?最後に決めるのはあなたなのだけれど》

な、何か凄く重大な話になってる!?

《……分かったです。どうなるか分からないですが、しばらくはアリアドネーにいるです》

《ゆ、ユエのことは私に任せてください!》

《コレットさん、ゆえをお願いします!》

《コレットはん、ゆえをお願いするえ》

《コレット殿、夕映殿をお願いするでござる》

《コレットさん、夕映さんをお願いします》

《はい!分かりました!》

《コレットはドジですから私も努力するです。このアリアドネーで調べられる事があれば連絡して欲しいです》

《夕映さん、ありがとうございます!》

《……えっと、あのー、それで、さっきネギ・スプリングフィールドって聞こえたんですけど、ナギ・スプリングフィールドとの関係はもしやおありですか?》

《あ、はい、僕は……あーこれは言わないほうがいいんでしょうか》

《そうね……。コレットさん、今ので大体分かってしまったかもしれないけれどネギ君の事は口外しないでもらえるかしら》

これは間違いなくナギの子供!?

《は、はい!もちろんです!》

《コレットさん、助かります。それでは僕もまだ移動を続けるので通信を一旦切りますね。夕映さん、頑張ってください》

《ネギ……先生も頑張ってくださいです》

《ゆえ、私も後でまた連絡するね》

《うちもするからな》

《のどか、このか、ありがとうです》

これで一旦通信は終わったけど今の声の人達は多分さっきの写真に写ってた人達だろうね。

「ユエ、何か思い出した?」

「声に覚えはある気がしますが完全には思い出せないです」

「でも、ユエを知ってる人がいてよかったよ!」

「はいです!」

「きっとこの写真の……赤毛の子だね、先生っていってたけど、ネギ・スプリングフィールド君!あの有名な英雄ナギ・スプリングフィールドの子供だよ!」

「コレット、その話は口外しないと先ほど約束したですよ」

「あ……ごめん。でも、ほらほら、これとかこれとかぜーんぶナギグッズなんだよ!それにほら、ジャジャーン!ナギファンクラブ会員証!」

「そんなにナギ・スプリングフィールドとは有名なのですか?」

「それは有名だよ!ナギの事ならそれだけで私3時間は語れるよ!」

「むむ3時間……、いいでしょう聞くです」

「え?聞くの?よーしいいよ!今日は語って語り尽くすよ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―2003年8月13日日本時間、17時43分、麻帆良―

やはり予想通り各地のゲートが全て壊れた。
既にこの情報は地球のまほネットに大きな衝撃を与えた。
そして今、私は近衛門のいる学園長室に来ている。

《近衛門殿、ゲートが壊されましたね》

「おお、キノ殿もやはり気づいておったか。して、高畑君、葛葉君と龍宮君をまだ僅かに動いとるゲートから魔法世界に行ってもらおうと思っとるんじゃが……キノ殿はどう思うかの?」

《はい、それが良いと思います。そして近衛門殿達にとっては困った事態でしょうが、私としてはゲートが壊れたのは想定の範囲内です》

「ふむ、理由は教えて貰えるのかの?」

《ええ、先に伝えておかないと大変ですからね。今月の末に魔法世界の崩壊をいよいよ解決する計画を実行に移します。それにあたりゲートポートが壊れたことによって起きる、魔法世界から地球側に流れこむ魔力の対流全てが麻帆良地下にある廃棄されたゲートポートに集中するのを利用するつもりです》

「……なんと、もう解決するのかの」

《と、言いましても、もう2年半も経っていますからね》

「ふむ、精霊殿にとっても2年半が長いと言われると違和感があるんじゃが……まあよい。キノ殿はゲートポートを破壊した実行犯がやったことを逆に利用するつもりなのじゃな?」

《その通りです。犯人は確実にフェイト・アーウェルンクスらですが、奴らはもう地球にはいません。地球側は完全なる世界の連中からはノーマークの状態となっているこの時を逃す訳にはいきませんので》

「またアーウェルンクスか……。なるほどのう……しかし麻帆良の地下にゲートポートがあったとは……」

《驚くほど巧妙に隠されているので見つけるのは難しいですよ》

「しかし魔力が集中するということは、こちら側は勿論じゃがあちら側はそれ以上に相当危険な事になるのではないのかの?」

《ええ、そうですね。廃都オスティア、そこが鍵です》

「20年前の再現じゃな……。あいわかった、それで他に儂がキノ殿に協力する事はあるかな?」

《運命の日に史上最大の発光をすることになる筈なので、関係者の方々が慌てないようにして頂ければと思います》

「いつもの大発光には1年ばかり早いの」

《異常気象の影響ということにでもして頂けると。神木の発光自体は上手くいくと願って静観してもらう他ありませんが、恐らく世界中にこの現象が知れ渡ってしまいますので、その後すぐの情報操作諸々が一番大変だと思います》

「麻帆良に世界各国が入ってくる可能性があるという事じゃな」

《その可能性は高いでしょう。もし仮に武力が出てきた場合にはエヴァンジェリンお嬢さんに直ぐ様連絡して何としてでも防衛を頼もうと思っていますが》

粒子通信で呼べばお嬢さんが本気出せば数秒で臨戦態勢が取れるだろうし、核兵器でも出てこない限りはなんとかなるだろう……。
まあそうなったらやはり魔法を世界に残すというのは夢物語にしか過ぎないというのを証明する事になるが。

「ふむ……魔法世界の問題が解決するそばから人間自身でまた新たな問題を起こすとはのう……。じゃが、麻帆良の地下のゲートポートが起動するというなら、本国からも人が入ってくることになるじゃろうな」

《……そうですね。外と内両方からの板挟みになると思います。個人的には私達の計画が成功した段階で麻帆良の地下のゲートポートの楔も一旦破壊してしまった方が良いとは思うのですがね。しかしそれは魔力暴走が起きますから取れない手段ではありますが……》

「……どうやら儂の最後の大仕事になるようじゃな」

《歴史でも稀に見る出来事になるのは間違いないですね》

「ふぉっふぉ、責任重大じゃな」

《近衛門殿の体調管理は私がこっそりやっておきますから任せてください》

「……やはりたまに調子がよくなっておったのはキノ殿のお陰じゃったのか」

《はい、今まで言ってきませんでしたが、時々魔力の流れを整えてます。近衛門殿にはお世話になっていますからね》

「金銭等もらうより余程助かるわい。しかしキノ殿が儂に感謝する事も結局儂らにとって利益となるのじゃから、全く人間とはままならぬものじゃな」

《まあ私も決して人間だけの味方ではないですから。例えば魔法生物達もそうですし、結果として、そうなるだけです》

「キノ殿、それでも感謝するぞい。……ふむ、高畑君達は送るにしても、その後の事はなってみないとわからんの」

《そうですね、良いか悪いかはわかりませんが、この先は完全に未知の世界ですから》

完全なる世界どころか、しばらくは不安定極まりない世界になるだろうな……。

「この年になってもまだ為さねばならぬ事があるとは生きてきた甲斐もあったもんじゃ」

《曾孫の顔を見るのが一番の大切な仕事でしょう》

「ふぉっふぉ、そうじゃった」

魔法世界では何が起こっているのか、もう詳しくはわからないが、ネギ少年達、頑張れ。



[21907] 43話 魔法世界編2
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/19 18:15
―8月13日午前7時前、メガロメセンブリア―

いやー4時間ぐらいはぐっすり眠れたんだけど高音さんに叩き起されたわ。
ネギ君達の杖類の回収だけど名義が学園長の近衛名義になってるみたいで、ネギ君自身の情報は伏せられてるらしい。
これなら麻帆良学園の魔法生徒って事で私達でも多分引き取れるね。

[依然ゲートポートでの魔力暴走は止まっておらず復旧の目処も立っていません。旅行者の足に影響が出ると思われます。また、消えた利用者、職員の一部と思われる人物からメガロ当局に連絡があったという情報が入っています。専門家によると高度な強制転移魔法を無差別に発動させたのではないかと見られています]

ですよねー。

「さあ、春日さん、ココネさん、愛衣、行きますわよ」

「はい、お姉様!」

「了解ッスー」

「了解」

そういう訳で朝っぱらからゲートポートに向かったんだわ。

「高音さん結局ご両親は何と?」

「当然、ネギ先生達をお助けしなさいと言われましたわ。旅費に関しても払って頂けるようですし、渡航許可も明日か、遅くても明後日には取って頂けるようです」

明後日って早っ!

「高音さんの家って凄いんスか?」

「お姉様のご実家はメガロの北ボスポラス地方の由緒正しき影使い一族、グッドマン家なんですよ」

あれか、もしかしてあの自己主張の激しい影の仮面が家紋だったりすんのかな……。

「おお、詳しいことは良くわからないスけど名家なのは分かったよ」

「時間があれば実家に招待致しますわ」

「その時は……お世話になります」

「ゲートポートが見えてきましたわ、麻帆良学園の魔法生徒証明証を用意しなさい」

屋根に大穴開いててめっちゃ魔力の柱っぽいのが噴出してんなー。
お、警備の人近づいてきた。

「申し訳ありませんが、これより先、現在立ち入り禁止となっております」

「失礼ですが、これをご覧下さいませ。知人の荷物を引き取りに参りましたわ」

4人でこうやって証明証見せつけるとか何か私に合ってねー。
どこの刑事ドラマよ……。
こりゃテロ事件だけどさ……。
ココネ妙に貫禄あるんだけど身体交代するか?

「こ……これは、少々お待ち下さい。……はい……麻帆良学園関係者、グッドマン家の方です。…………要件は知人の荷物を引取りに来られたという事です。…………はい、了解しました。大変お待たせしました、どうぞゲートポート内にお入り下さい」

スゲーよこの権力的何か!
しかも高音さんの家マジ効果あるな。
高音さんの証明書見た時だけ目がカッ!て開いたもんなー。
お堅いのも分かる気がする……。

「ありがとうございます。それでは失礼しますわ」

「失礼します」

「どうも、失礼します」

腕章付けた職員やらフード被った魔法使いっぽい人達がせわしなく動いてんだけど、テロあったつーのにフードはどうよ?
受付自体は……すぐそこだな。

「あの、一体どういうご用件でしょうか?」

「麻帆良学園生徒、高音・D・グッドマンと申します。近衛近衛門学園長の荷物を引取りに参りましたわ」

「これは失礼しました、先ほど警備から連絡があった方ですね。封印箱を持ってまいりますので少々お待ち下さい」

これで名義がネギ・スプリングフィールドなんてなってたら多分ややこしーことになってただろうな……。

「麻帆良学園って凄いんスね」

「上部組織が本国とは言いましても世界を隔てているだけあってある程度独立していますから」

いちいち意見は聞かなくても自己裁量でおっけーって事か、まあ、時々学園長の無茶ぶりからすると十分ありえるな。

「お待たせいたしました、こちらでお間違いないでしょうか?」

「……はい、間違い有りませんわ」

「それではこちらにご署名をお願い致します」

「分かりましたわ」

「申し訳ありませんが、麻帆良学園関係者証明証の写しを取らせて頂いてもよろしいでしょうか?」

一応その辺は厳重なのね……テロられたけど……。

「ええ、これをお願いしますわ」

「はい、確かにお預かりしました。少々お待ち下さい」

高音さんが書類に魔法世界での署名法で名前書いてる間に、すぐに証明証の写しも取り終わった。

「書類のサイン終わりましたわ」

「ありがとうございます。それでは証明書をお返しします。そしてこちらが封印箱となります。尚、中身が杖刀剣類なので開封する場合には携帯許可を当局で必ず取ってください」

「分かりましたわ。ありがとうございました」

「「「ありがとうございました」」」

本当にあっさりだったなー。
もう少しゴネるかと思ったけど。
実際のところ本人確認とかしてないし後でやっぱ返せとか言われたら面倒だわ……。
しっかし回収できたのは良かったけど、開けられんなこりゃ。
絶対巨大手裏剣出てくんだろ。
邪魔すぎる……。
そんでもってこの後一旦またホテルに戻ってきて、ついでに明後日までの宿泊期間延長もしておいた。
宿移動するのも億劫だしね。

「お姉様、やっぱり開けてみる訳には……」

「愛衣、それはできませんし、まずは後にしなさい」

「愛衣ちゃん、絶対楓の手裏剣とかクナイ入ってるから気持ちはわかるけどただ邪魔なだけだと思うよ」

「あ、そ、そうですね」

「それではネギ先生達にご報告致しましょう」

「ほーい」

《ネギ先生方、杖刀剣類の入った封印箱は回収できましたわ。名義が学園長になっていて助かりました》

《ネギ君の名前とかだったら大変だったよ》

《本当ですか!?ありがとうございます!》

《わー、良かったなぁ》

皆喜んでくれて、アスナだけ反応しなかったけど、多分まだ頑張って寝てんだろうな。

《飛空艇での捜索ですが早くて明日、遅くて明後日から出発致します。桜咲さんから助けるルートと、臨機応変にオスティアを経由してニャンドマ方面に出てアスナさんを、そして南下して桃源に向いネギ先生からお助けする二つのルートで参りたいと思います》

な、なんですとー!?
二手に別れんのかい!
オスティアからニャンドマ行く場合は飛空艇の正規渡航ルート存在しないから大変だわ。
大体ノアキスってめっちゃ広いし、かなり時間喰うな……ネギ君の方がやば気だけど桃源に行ったところで山脈越えて南極に乗り込むのもありえんし。
いや、ネギ君は迂回するかマジで越えないとこっちこれないけどさ……。
小太郎君はヘラス帝国向かうらしいけどアリアドネーからしか手が出んし、許可取るのもなぁ……。
ボスポラスに南下すれば良かったのに。
まあ元々北極は帝国領みたいなもんか。
確かに臨機応変だなこりゃ。
いずれにせよ各都市間で3日前後は毎回かかるから今から最速で回収できる桜咲さんですら4日か5日だな。

《わ、私より先にお嬢様をお願いします!》

《あー桜咲さん、どっち回ってもケフィッススまでは10日以上はかかるから同じなんだよ》

《そ、そ、そうですか……》

《せっちゃん!うちは大丈夫やよ!大分歩いたけど身体強化できとるからもうすぐ小さなオアシス街着きそうなんよ》

このかも逞しくなってんなー。
何その身体強化って……エヴァンジェリンさんとこの修行って都会生活で大して意味なさそうだけどこういう時役立つな……。

《わ、悪い人に騙されないように気をつけてください!》

《せっちゃんもな!》

《……いいかしら、私たちもケルベラス大樹林を抜けるのに後数日はかかるから救出方法は任せるわ。状況次第でうまく動いていきましょう。協力感謝するわ》

《いえ、当然の事です。一刻も早くネギ先生達を救出できるよう努力しますわ》

《高音さん、ありがとうございます》

《ネギ先生も無理はなさらないで下さい》

《ネギ君まだ契約執行してるんだったらそろそろ7時間ぐらいいくでしょ。早めに休んだほうがいいよ、でないとアスナが起きたら怒り出すよ》

7時間契約執行っていくらなんでも長すぎる……。
契約執行25200秒間!!とかやれるなら私も言ってみたいわ。
マスターはココネだけど。

《あはは、そうですね。分かりました、ありがとうございます》

そんでもって大体通信は一旦終わって二手に分かれるのをどうするか決めることになったわけだけど……。

「高音さん、どう二手に分かれるんスか」

「私と愛衣で桜咲さんを回収するルート、春日さんとココネさんでまずはオスティアに向かい状況を見て行動するルートにしましょう。もし何かあれば私が高速艇の渡航許可をなんとかしてとって追いつきますから」

高速艇ってめっちゃ金かかるよなー。
つか魔法世界って進んでるっちゃ進んでるけど地球の飛行機より圧倒的に遅いんだよなー。
何か飛行途中の音もゴゥンゴゥン言うし。
要するに空も日本でいう普通の道路みたいな感じなんだろな。
こっちに地球の飛行機もってきたらほんと数時間で行けるんだけどな……。
私がアスナんとこのルートか。

「高音さん直々にネギ君助けなくていいんスか?」

「春日さん、あなたは正真正銘ネギ先生の生徒でしょう。私は最も確実に助けられる所から回っていきます」

あー、気を回してくれてんスね。

「それに、新オスティアの治安は良いですから春日さんでも大丈夫でしょう」

そういうことね……。
確かに郊外行くと治安が激悪になるのはココネの故郷行った時実感したもんな。

「そういう事ならありがたく西ルート行きます。高音さん、了解しました。あ、でも二手って事はやっぱいつか封印箱開けないとだめッスね」

「いえ、それはやはり携帯許可の問題がありますから今は無理です。春日さんは予備用の杖と箒を余分に持って行きなさい」

「あー、そうすれば確かに大丈夫スね」

杖が無くて困ってんのはネギ君とあとこのかぐらいだもんなー。
アスナはあの高畑先生ができる咸卦法があるからとりあえずはなんとかなるって言ってたしな。
アスナから寝る前に聞いて驚いたのはもし武器が無くてもその辺に落ちてる枝に気を通せば良いだけよって言ってた事だな……。
のどかの場所がまだわからんのはアレだけど……。

「早くても出発までに1日以上は時間がありますから、その準備と情報収集をしておきましょう」

「了解ッス」

「はい、お姉様!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、南極、契約執行から8時間が経過―

まずい……流石にそろそろ契約執行し続けて移動するのも限界だ……。
夕映さんが数時間前にアリアドネーで保護されて無事だっていうのには安心できたけどこっちは油断できない。
高音さんや春日さんが助けに来てくれるみたいだけど数日はかかるらしいから自力で南極圏はなんとしてでも脱出しないと……。
浮遊術を覚えてなかったら崖と崖の切れ目なんかは危なくて迂回するしかなかったかもしれないけど、実際使えて本当に良かった。
一応ミリアさんとの仮契約カードがあるから5km~10kmごとに僕が先に進んで召喚を繰り返すという方法もあるんだろうけど何があるかわからないからそんな事はできない。
茶々丸さんから通信で聞いた話だと、ケルベラスのあちこちには天然の魔力妨害岩があったりするらしいから、もしかしたら南極にもあるかもしれないし、下手なことはできない。
何よりそんな妨害岩があっても通信ができるのは助かる。

……このままだと突然気絶するかもしれないから、そろそろどこかで休まないと……。

「ネギ君、息が速くなっていますが大丈夫ですか。小休止を挟んでいてももう数時間走りっぱなしですよ」

「ミリアさんにもわかるぐらいだとそろそろ危ないかもしれませんね。幸いこのあたりは開けている上、近くに雪崩が起きそうな山も無いですし、カマクラという物を作って休みましょう」

「カマクラ……ですか?」

「僕が旧世界の日本で修行していた時に作った事があるんです。遊びなんかで作ったりもするようですが、今回は風と雪を防ぐ用にちゃんとしたものを作ろうと思います」

マスターの雪山エリアだと崖に穴を開けたりして洞窟にしたこともあるけど、詠唱魔法が使えない今、それは難しい。

「あの、私にも手伝えますか?」

「はい!お願いします」

「お世話になりっぱなしでしたから私頑張りますね」

「ありがとうございます。まず、僕が丁度良い大きさの円形を描きますから、その円の中の雪を足で踏んで圧雪してもらえますか?」

「ふふ、なんだか工作みたいですね」

「楽しんで作ったりするものらしいですし、そういう気持ちで良いと思いますよ。それでは……えーと大きさはこれぐらいで……」

二人の子供用でいいからそこまで大きい必要もないかな。

「はい、こんなもので良いと思います」

「わかりました、しっかり踏み固めますね」

「はい、二人でやればきっとすぐ終わります」

その後にやる雪の積み上げはスコップが無いから大変だけど頑張るしかない。
元々積雪もあるから地下に広げてもいいだろうし、背丈分積み上げなくても大丈夫。
しばらく一緒に足踏みして地固めが終わった。

「次は周りの雪をこの円内に圧雪しながら積み上げてドーム状にしましょう」

「ふー……はい、分かりました」

手で積み上げるものだから1時間も積み上げにかかったけど、契約執行の時間はこれで9時間……急がないと。
のどかさんはまだ遺跡から出てないみたいなんだけど大丈夫かな……。

「ネギ君、後は掘るだけ、ですか?」

「そうです。スコップがあればいいんですけど魔力保護した素手で掘るしかありません。最初は僕が入り口を作るのでミリアさんは少し休憩していて下さい」

「ありがとう……ネギ君」

「任せてください」

アスナさんやコタローみたいに咸卦法ぐらいのポテンシャルがあれば素手でも簡単に掘れるんだけど……。

《ネギ、春日の姉ちゃんも言っとったように大分時間経っとるけど契約執行やら身体は大丈夫なんか?》

コタローからの個人通信かな。

《うん……そろそろギリギリだから今カマクラ作ってる所だよ》

《おお、役に立ったな。俺は丁度ええ洞窟見つけたで》

《明日は僕も洞窟見つけられるといいな……。コタローはどれぐらい進んだ?》

《百数十km以上は行ったで。俺半分狗族やから元々寒さには結構強いしな。密度薄い分身出してルート探索もできるで》

《あ、そうか、分身あったんだった!》

僕は大体100kmがいいとこだな。
大きな街まで残り1900km……。
途中でどこかに村があるのを期待するしか無い。

《ネギの場合は魔力無駄遣いする訳にはいかんやろ。さっきギリギリ言うてたやないか》

《そ、そうだね……》

《助けたっちゅう姉ちゃんの事優先して共倒れせんように気をつけや》

《うん、ありがとう、コタロー》

《極地同士頑張ろうや》

《境遇同じだね》

《ネギには咸卦法無いし、姉ちゃんもおるから大変やろうけど、いつでも連絡するんやで》

《分かってるよ》

《しっかし、ネギの新術完成しとれば良かったのにな》

《あはは、新術っていうには夢みたいなものだから実際できるかどうかも怪しいよ》

《俺はできるんやないかと思っとるで。ま、そこでじっくり修行する訳にもいかんやろ。ほな、また後でな》

《うん、また後で》

「ミリアさん、ちょっと狭いですけど中も一緒に掘れるようになったので良かったらどうぞ」

「はい、休ませてくれてありがとうございました、ネギ君」

「もう後は掘るだけで寝床が確保できますから頑張りましょう」

「はいっ!」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、14時頃、ノクティス・ラビリントゥス地方、某遺跡内地下階層―

一体どうなってるのかな……。
遺跡の中は地下みたいで真っ暗だけど端末の光がライト替わりになるから足元は見える。
図書館島で日常的に罠を発見してたから、もうこの数時間でいくつも回避できているけど……あまり進めてないみたい……。
階段があったと思っても地上まで続く階段が無いから1階1階慎重に進まないと。
ネギ先生達も頑張ってるんだし、私も頑張ろう!

あっ……私以外の足音が聞こえる。
一人……二人……それ以上いるの……かな。
怖い人達だったらどうしよう……。

『ねえ、クリス、罠発見したのに何でまたわざわざ作動させちゃうのよ!』

『悪い悪い、まあただの矢だったし気にしないでさ』

『もっと罠探知能力の高い奴がいると助かるんだがな……』

『同感……』

『えー酷いよ、三人とも!』

女の人の声が聞こえる。
それに罠がどうって言ってる……。
……うん、ここで一人でいても心細いだけだし会ってみよう!
多分通路を左に曲がったところ……。

『おい、何か足音がするぞ。気をつけろよ』

『りょうかーい』

『遺跡に隠れてる魔物かしら』

ま、魔物じゃないです……。

「あの!私魔物じゃありません!助けてください!」

勇気をだして大きな声で叫んだ。

『うおっ、女の子の声じゃないか?』

『こんな所に女の子が一人でいるなんてありえないでしょ』

『でも今声が聞こえたのは間違いないんじゃないかなー』

『近いぞ』

もうすぐそこの角。

「灯りが見えるわ。って……ほんとに女の子いるわよ」

「おぉ……」

「ホントだ」

4人……耳が人間と違う人がいる……もしかして小太郎君みたいな人達なの……かな。

「あ、あ……あの……その」

き、緊張して声がうまく出ないよ……。

「嬢ちゃん、どうしてこんな所に一人でいるんだ、探険にしちゃ危ないだろ」

「クレイグ、さっきこの子助けてって言ってたじゃん」

「落ち着いて。私はアイシャ。アイシャ・コリエルよ。あなたの名前は?」

あ、アイシャさん……。

「私、私は宮崎のどか……です」

「ノドカね。一つずつ聞いていいかしら。ノドカはどうしてここに?」

「は……はい。ゲートポートで魔法世界に来た時に強制転移魔法っていうらしいものでここに飛ばされてしまったみたいなんです」

「おいおい、嬢ちゃんそれは本当かよ。さっき朝、街中のニュースでやってたアレか?」

春日さんがニュースになってるって言ってたけどもう伝わってるんだ……。
さっき朝なら今は昼ぐらい……かな。

「あの事件本当だったんだ……。人がいなくなったっていうから消されたんじゃなくて飛ばされてたんだねぇ。ノドカちゃんここにどれくらいいたの?」

「えっと……9時間ぐらいだと思います」

「9時間!?ノドカ、そんな長い間こんな所に一人でいたの!?怪我は?」

「怪我はありません、大丈夫です」

「もしかしてここにずっといた?罠があるから迂闊に動くと危ないし」

「5階ぐらいは……上がってきました」

しばらくは気を紛らわせるためにこのか達と話してたから時間を潰してたけど……。

「ええ!?下から!?罠は?」

「私罠を見つけるのは得意なので……」

「嬢ちゃんそりゃ凄いな。で、お前達どうする。一旦地上に出るか?」

「そうね、ノドカをこのまままた奥に連れていく訳にもいかないし……。私は今日の遺跡探索は中止でいいわよ」

「僕もいいよ」

「私も構わない」

「なら決まりだな。嬢ちゃん、地上まで送って行ってやるよ」

「あ、ありがとうございます!見ず知らずなのに助けていただいて……」

「ノドカ、当たり前よ。女の子一人残して置いていけないでしょ」

「そうだぜ、それに嬢ちゃんが最初に助けてくれっていったんじゃねぇか」

優しい人達で良かった……。

「うっ……うっ……」

「おいおい、泣かれると困るぜ」

「クレイグ、一人でノドカちゃんずっといたんだから心細かったんだよ」

「さあ、ほら、ノドカ、地上に戻りましょう!」

「うぅ……はい、ありがとうございます」

はぁ……良かった。
落ち着いたらちゃんとネギ先生達に連絡しよう。
地上に出るのにはそんなに時間はかからなかったから、結構上の階まで上がってこれてたみたい。
太陽はもう下がり始めてるから午後……かなぁ。
元気な女の人がアイシャさん、もう一人無口な女の人がリンさん、大剣持っている男の人がクレイグさん、短剣を持ってる明るい人がクリスティンさん。

「地上まで連れてきてくれてありがとうございます!」

「いいってことよ」

「それじゃあ、一度街に戻りましょ」

「よーし、街に戻ろー!」

「戻る……」

「あの、ここってどのあたりなんでしょうか?」

「ノクティス・ラビリントゥスって所よ。このあたりは遺跡が沢山あるから私達みたいなトレジャーハンターの稼ぎ場所なのよ」

トレジャーハンター……。
本当に夢の話みたい……。

「あー、嬢ちゃんどこのゲートポートから飛ばされたんだ?」

「メガロメセンブリアっていう所です」

「それは一番最初に被害にあったゲートだねぇ」

「首都か……大分離れてんな……」

「あの、具体的にどれくらい離れているか教えてもらえませんか?」

「ノドカ、聞きたいことあるならなんでも遠慮せず言いなよ。ここはそうね、ノクティス・ラビリントゥスでも北部だから4000km以上は離れてるわ」

よ……4000km……。

「そ、そんなに……」

「ノドカちゃんはメガロメセンブリアに戻りたいの?」

「えっと……それが一緒に来た皆もあちこちに飛ばされてしまったので特に集合場所も決まってないんです……。一応メガロメセンブリアにも知り合いはいるんですけど」

「皆って事は団体で来たのか?」

「はい、あと11人います」

「連絡先は無いの?」

「それは……皆とはこの端末同士でやりとりできるんです」

「あ、それさっきノドカが灯りにしてた奴ね。でも通信できるって事はそんなに離れてないんじゃないの?」

「いえ、私にもどうして離れていても通信できるのかはわからないんですけど、これは私のクラスメイトの人から貰ったものなんです。飛ばされた皆の場所で分かっている所だと、ケルベラス大樹林に3人、南極、北極、セブレイニア大陸の砂漠、テンペテルラの砂漠、タルシス山脈、ノアキス地方、アリアドネー、あと一人は行方不明なんです」

「……そりゃあ本当か……」

「ちょっとちょっと、ケルベラス大樹林なんて絶望的じゃない」

「そ、そうなんですか!?」

「魔法は使えなかったりする上に出るのは魔獣に竜種だろ……。今の中でまともなのはアリアドネーだけだな。一体そんなにバラバラにする強制転移呪文なんてどこのどいつがやったんだ」

「ノドカちゃん、端末同士やりとりって事はもしかして写真なんてある?」

「あ、はい……。えっと……これがケルベラス大樹林を崖から見渡した景色、写ってるのが一緒に来た人で、次が私の先生の南極の写真、その次が砂漠の写真、タルシス山脈の朝日を撮った写真だそうです」

「うわっ、これほんとに本物だよ!」

「確かにこのアングル……資料映像じゃないわね」

「こりゃ酷ぇな……。嬢ちゃん、このあたりは飛空艇飛んでないんだがどうする?」

飛んで無い地域ってあるんだ……。

「できれば、クレイグさん達一緒に通信に参加してもらえませんか?」

「そりゃいいが……どうすりゃいいんだ?」

「これに手を当ててもらえればできます。声に出してもいいですけど、心で念じるだけで大丈夫です」

「それじゃ、手置くわね」

「ノドカちゃん、僕も置くね」

「なんだか、円陣組むみたいだな」

「私も……」

「ありがとうございます。始めます」

《ネギ先生、ドネットさん、私の居場所がわかりました》

《の……のどかさん、地上に出れたんですか?》

ネギ先生疲れてるみたい……。
クレイグさん達は声が聞こえてことに驚いてるけどじっとしてくれてる。

《のどかさん、ドネットさんに今繋ぐので少しお待ちください》

《のどか殿、場所がわかって良かったでござるな》

《のどかさん、良かったです》

《これで後はアーニャだけアルね》

《おおっ、のどか場所分かったんだ。メガロに近い?》

《はい、遺跡の中でトレジャーハンターの方に助けて貰いました。場所はノクティス・ラビリントゥスという所で4000km以上は離れているそうです》

《うはー、遺跡地帯か、そりゃまた飛空艇飛んでないねぇ……》

《のどかさん?場所はノクティス・ラビリントゥスだそうだけどそのトレジャーハンターの方達はどうしてるのかしら?》

《あ、今会話聞いてて貰ってたんですけど、クレイグさんお願いします》

《あぁ、この機械驚いたな。悪い、俺はクレイグ・コールドウェル、トレジャーハンターをやっているもんだ》

《私はアイシャ・コリエルよ》

《僕はクリスティン・ダンチェッカーさ》

《私はリン・ガランド》

《僕はネギ・スプリングフィールドです。クレイグさん、アイシャさん、クリスティンさん、リンさん、のどかさんを助けて下さりありがとうございます!》

《のどか姉ちゃん良かったな!》

《のどか、助かって良かったえ》

《おう……そりゃ何よりだ。んで俺たち嬢ちゃんをさっき遺跡で見つけてこうしているんだがどうする?メガロまで連れて行ってもいいが時間かかるぜ》

《私はドネット・マクギネスよ。のどかさんを助けてくれてありがとう。クレイグさんがリーダーで良いのかしら。ノクティス・ラビリントゥスからだと徒歩で10日以上はかかるでしょうし私達もまだ動きが取れないのだけれど、のどかさんを任せても良いかしら?》

《あ、あの、その話なんですけど、クレイグさん、私クレイグさん達と一緒にしばらく居てもいいですか?》

《の、のどかさん?》

《嬢ちゃんそれはどういう事だ?》

《私、罠は発見できますし、少しなら魔法も使えます、ただ送ってもらうだけでは悪いですし協力したいんです。ネギ先生達が頑張っているなら私もって……》

《ノドカ、それ本気なの?遺跡って危ないのよ?》

《でもノドカちゃんあの遺跡を下から上がってきたって事は相当罠見つける能力高いよね》

《嬢ちゃんはこう言ってるんだが……どうするよ》

《僕は遺跡の探索には賛成できないんですが……》

《うちものどかの事心配やけど、のどかなら図書館探検部でうちらとぎょうさん罠は見つけてきたからきっと大丈夫や。それにクレイグはん達は凄く良い人や》

このか……。

《おいおい、会ってもないのにそんなに信用されても困るぜ》

《信じられるえ。クレイグはんさっき聞いてもないのにのどかを連れて行っても良いって言ったやん。それで十分やよ!》

《お、お嬢様……》

《こ、このかさん……。そうです……ね……のどかさんの実力なら魔獣が出るような危険な場所でない限りは大丈夫だと思います。僕は南極にいる限り今からのどかさんの元にすぐ行って止めることもできません。最終的に決めるのはのどかさんの意志次第です……どうしますか?》

《ネギ先生……私、頑張ります。絶対に皆の元にも合流すると約束します。……だけど、それまではクレイグさん達といさせて下さい。お願いします》

《……分かりました。クレイグさん、のどかさんをお願いできますか?》

《はぁ……あんたら凄いな。南極やら樹林やらにいるっていうのに……。ああ、こうなりゃ乗りかかった船だ、俺は嬢ちゃんが危険な目に会わないように面倒みるぜ》

《私もよ》

《僕も》

《私もだ》

《クレイグさん、アイシャさん、クリスティンさん、リンさん……》

《……ネギ先生がそういうなら私が出る幕ではないわね。クレイグさん達、私からもお願いするわ。具体的にどうするかはまた定期的に連絡を取合えばいいでしょう》

《ああ、分かったぜ。そういうことなら嬢ちゃんは任せな。あんた達も無事に街までたどり着けるよう祈ってるぜ》

……こうして私はクレイグさん達とトレジャーハントの手伝いをしながら状況を見て動くことになったのでした。

「ねぇノドカ、さっき勢いで忘れてたけど男の子を先生って呼んでたり、男の子もネギ・スプリングフィールドって名乗ってたけれど……」

「それ僕も気になったよ、スプリングフィールドって言ったらあのナギ・スプリングフィールドが思いつくけどさ」

な、ナギさんってネギ先生のお父さん……。

「あの英雄な」

「え、英雄……?あの、クレイグさん達はナギ・スプリングフィールドさんを知ってるんですか?」

「そりゃあ、この世界で知らない奴はいねぇよ。もしいたらモグリだな」

ゆ、有名人だったんだ……。
あ……夕映の時は話さないように言っていたから言わないほうがいいんだよね……。
でも……このかも言ってたけどクレイグさん達は良い人達だと思う……。

「そう……なんですか。あの、実はネギ先生は私達とナギ・スプリングフィールドさんを探しにこっちへ来たんです」

「探しにって……じゃあまさか!」

「おいおい、そりゃ驚くってもんじゃ無ぇぞ。凄ぇ事だが……当の本人はそれどころじゃねぇか……」

「ノドカちゃん今こっちって言ったけどやっぱりゲートポート使ってたって事は旧世界から来たの?」

「は、はい、そうです」

「そうじゃないかとは思ってたけど本当に旧世界人だったのね。それなのにいきなり皆あちこち飛ばされちゃったのね……。偶然にしては……できすぎてるんじゃないかしら。何か……誰かの悪意を感じるわね」

「断言はできねぇが、俺もそう思うぜ。嬢ちゃん、俺たちを丸っ切り信じろとは言わねぇが任せとけ。一緒にいる間は守ってやる」

「アイシャさん、クレイグさん……ありがとうございます……」

「ノドカちゃん、僕も結構強いから任せといて」

「ノドカ、私も」

「クリスさん、リンさん、ありがとうございます」

「流石に南極まで嬢ちゃんの先生を助けに行くことはできねぇが我慢してくれよ」

「いえ、そこまでは……それにネギ先生ならきっと南極を抜けられると思います」

「そうか、信じてんだな」

「は、はいっ……」

「ところでノドカ、さっき魔法使えるって言ってたけど、どれぐらいできるの?」

「あ、えっと、基本魔法は全部使えます。だから罠の解除も少しぐらい離れたところでもできます。身体強化もできるのでいざとなったら走るのも大丈夫です。あと箒があったら遅いですけど飛ぶこともできます」

「ノドカちゃん、その年でそれは凄いよー」

「はー、ノドカの先生が言ってたのは本当だったのね。いいわ、後で私の予備の杖と箒も出してあげる」

「こりゃきっと罠の発見もクリスよりうめぇな」

「ちょっとクレイグ、それ酷いよー」

「そういうのはまず自分でわざわざ発動させたりするのをやめてからにしろよ。嬢ちゃんでそれなら他の仲間はもっと凄いのか?」

「えっといくつか挙げると、虚空瞬動、浮遊術、分身、咸卦法なんかだと思います」

「なんだぁそりゃ……だからケルベラス大樹林にいても割と落ち着いてられんのか。咸卦法なんて伝説だと思ってたぜ……」

そ、そんなに凄いんだ……。
アスナさんと小太郎君もできてたんだけど……。

「虚空瞬動なんて僕うまくできないんだけどなー!」

「クリスが遺跡で虚空瞬動なんてしたら遺跡が崩れるからやめとけ」

「えー!僕さっきから扱い悪いよ?」

うん……クレイグさん達ならきっと大丈夫。
しばらくの間……私も頑張ろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―時は数時間遡り8月12日、17時頃、ヘラス帝国首都ヘラス、城内某所―

な、な、一体ここどこよ!
コタロを追いかけて外に出ようとしたらいきなりここに飛ばされたと思ったら、なんなのよ!
どこか建物の部屋みたいだけど凄く豪華……一体どこに来ちゃったのかしら。
ネギ達とメガロメセンブリアに着いたと途端はぐれちゃうし散々だわ!
まずはドアから外に……。
あれ、捻ってないのに勝手にあい……?

「お?なんじゃ、そなた、どうやってここに潜り込んだのじゃ?」

あ、あ、頭に角が生えてるわ!
あ、あれよ、おじーちゃんに聞いたことあるわ、きっとヘラス帝国の人ね!
どうしよう!

「わ、わわわ、私はその!」

「暗殺者にしては間抜けじゃし……」

暗殺者!?

「ふむ、迷子か」

「そう、迷子です!ってちが!違くないです……」

「姫様!一体どうされまし……曲者!?姫様、危険です!お下がりください!」

「良い、ぬしの目は節穴か。ただの娘子ではないか」

「し、しかし!」

「頑固じゃのう、妾が良いと言っておろう。そこにおれ。娘子よ、妾はテオドラ、ヘラス帝国第三皇女じゃ。そなた名は何ともうす?」

「こ、皇女様!?わ、わ、私は、あ、アンにゃ・ユーリエウにゃ・ココろわぁです」

「何じゃ、緊張してうまく言えとらんな、まあよい、アンにゃ・ユーリエウにゃ……アーニャで良いか」

え!?なんで私の愛称が分かるの?

「アーニャよ、そなたどうしてここにおったか説明できるか?まずは落ち着くのじゃ。ほら、ユリア、茶を持ってこい」

「ひ、姫様!?良いのですか?」

「何じゃ、どこかこのアーニャに不審なところは……不審じゃが……危険ではなかろう」

不審よね……。

「はぁ……分かりました。只今お持ち致します」

「ほれ、アーニャ、そこの椅子に座ったらどうじゃ?」

「は、はい!ありがとうございましゅ」

「噛んどるの……」

はぁ……はぁ……落ち着くのよ私!
顔を叩いて気をしっかりもちなさい!
いたっ!

「アーニャ、いきなり顔を叩いては……見事に赤く腫れたの。はっはっは傑作じゃ!」

「ふぅ……はぁ……。皇女様、私がどうしてここにいるかですが、メガロメセンブリアのゲートポートに着いた途端すぐにここにいたのでどうしてかは良く分かりません……」

「ゲートポートのう。となると、アーニャは旧世界から一人で来たのか?」

「いえ……ネギ達と…えっと…私含めて12人で来ました」

「ふぅむ……ならば12人とも全員どこかに散らばった可能性がありそうじゃな。アーニャがここに来たのも何かの縁じゃ。丁度妾も暇じゃったから良い。残りの者達の顔が分かるようなものはあるか?」

写真……えっとネギ達が修学旅行に来て一緒に撮った時のなら……。

「こ、これです」

「む?どうも人数が多いが……アーニャ、アーニャの隣におるこの赤毛の子供の名は何という?」

「それがネギです、ネギ・スプリングフィールド」

「スプリングフィールドじゃと!?ま……まさかナギの子供か?」

「は、はい……それが何か?」

「アーニャ、良くここへ来たの!これは面白くなってきたわ……」

な、なんでいきなり頭を撫でられるの!?

「ひ、姫様!はしたないですよ!」

「ここは妾の部屋じゃ。ユリア、それより茶を」

「……分かりました。お待ちください」

「アーニャ、それ以外の者でこの写真に写っておる者を名前と一緒に上げてみよ」

「は、はい。カグラザカアスナ、コノエコノカ、サクラザキセツナ、ナガセカエデ、クーフェイ、ミヤザキノドカ、アヤセユエ、カラクリチャチャマルそれとここの端に写っているドネット・マクギネスさん、あともう一人イヌガミコタロっていうネギと同じぐらいの犬耳のついてる男の子がいます」

「ふむふむ、アスナに近衛か……良いぞ。後でこの写真コピーさせてもらってもよいか?」

「か、か、構いません!」

「よし、後でまた名前も照合させてもらうとしよう」

「あ、あの、ネギ達の事探してくれるんですか?」

「ヘラス帝国領内じゃがの。アーニャがおるという事はまだ他にもおるかもしれんじゃろ。アーニャ、仲間が見つかるまでしばらくここにいてよいぞ」

「え?そ、そんな滅相もありません!」

「いや何じゃ、アーニャは見たところこのネギの幼なじみなのじゃろう?」

「は、はい」

「ならば妾にネギの話をしてくれれば良い。それが宿泊料じゃ」

「え!」

「姫様!」

「ユリア、お主もナギの息子の話を聞きたくはないのか?」

「ぐっ……そ、それは……」

「くっくっく……さすがのお主もこの誘惑には勝てぬようじゃの。はっはっは、良い弱点を見つけた!」

「ひ、姫様!」

「アーニャ、まずは茶を飲むと良い。それからゆっくり話してもらえるか?」

「は……はい、分かりました」

皇女様が探してくれるなら……きっと無闇に私が探しに行くよりうまく見つかるわ。
それに皇女様はネギのお父さんの事を知ってるみたいだし、きっと良い情報がつかめる筈よ。
一時はどうなることかと思ったけどなんとかなりそうだわ!



[21907] 44話 魔法世界編3
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/22 19:12
―8月13日、南極、契約執行から10時間が経過―

のどかさんも無事場所が分かって良かった……。
トレジャーハンターの人達と一緒に遺跡を探索するって言い出した時には驚いたけど、助けてくれた事に対して恩返しをしたいっていうのはのどかさんらしい。
クレイグさん達も、このかさんが言うとおり良い人達そうだしきっと大丈夫。
このかさんは何とか一つ目のオアシス街についてうまく冒険者がいるところの宿屋で交渉して泊めてもらえたみたい。
杖で治癒魔法が使えるだけあって、危険はあるかもしれないけど、実演したらなんとかなったんだって。
くーふぇさんはタルシス山脈に何故か丁度建物があったらしくて少し早いけどそこに今日は泊まることにしたらしい。
マスターの所で修行してた時からそうだったけどくーふぇさんは崖で先に足場がなくて降りるのが危険な場合、自分の足場を寸勁で破壊して、壊れた瓦礫をそれぞれ伝って瞬動を繰り返して降りたりするから凄い高低差があるのにやっぱり100km以上は進んだみたい。
刹那さんも同じぐらい進んでるみたいだけどまだ昼頃らしいから頑張って進むって言ってた。
楓さんは茶々丸さんとドネットさんとも合流できたみたいで今は真夜中らしいから丁度良い洞窟もあったからもうすぐ寝るって話だった。
あとはアーニャだけだけど今頃どうしてるかな……。
早く無事を確かめたいけど、僕ももう10時間目にして契約執行は限界。
かまくらの穴も掘り終わって今日はもう休んでいる。
分厚くないけど一応身体にかけられるものもあって良かった。
食料は……あと携帯食料が2日分……どこかで採集しないと駄目だな……。

「ミリアさん、大丈夫ですか?」

「はい、私はネギ君の背中にずっといただけですから大丈夫ですよ」

「良かったです……。すいません、僕そろそろ限界みたいなので契約執行続けられないかもしれません。一応それなりの温度があるから寝ても大丈夫だとは思います」

「ネギ君、ありがとう。もっと近づいてもいいですか?」

「え?ど、どうしてですか?」

「それは……かまくらの中がそんなに寒くないとは言っても人肌の方がやっぱり温かいですから。ずっと契約執行し続けてくれましたから寝るときぐらい私が温めます」

「そ……そんな、あの」

「ネギ君、これでも私何歳だと思っているんですか。大人なんですよ。子供なら、それもネギ君のような子なら尚更、たまには私のような大人にも頼ってください」

そう言ってミリアさん……身体は年齢詐称薬で僕より少し小さいぐらいになっているけど背中に抱きついてきた。

「あ……温かいです。ミリアさん、ありがとうございます。僕、少し眠りますね」

「はい、ゆっくり休んでください」

《皆さん、僕今から寝ます。アスナさんが起きたらちゃんと休んでますって伝えてもらえると助かります》

《ネギ先生、それは私がやりますので任せて下さい》

《ありがとうございます、刹那さん》

…………う……ん……疲れた……な。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、5時頃、ヘラス帝国領、ノアキス地方山林―

ふぁー、よく寝たわ。
ちょっと早いかもしれないけど、少し空が白みがかっているしちょっと立てばもう朝ね。

《起きてる皆おはよう、アスナよ》

《アスナさんおはようございます》

《アスナおはようアル》

《アスナさん、おはようございます》

《ア……スナさん、こんばんはで……おはようです》

《アスナ起きたかー、おはよ!》

《刹那さん、くーふぇ、のどかちゃん、夕映ちゃん、美空ちゃんおはよう。ネギは……寝てる?》

記憶飛んじゃってるらしいけど夕映ちゃんの所は丁度夜頃なのね。

《ネギ先生は丁度1時間前程に休んだそうです》

《ネギ君マジ凄いわ、契約執行10時間って異常すぎ》

《え!?あの子10時間もやってたの!?全くもう!》

《まあまあ、お陰でミリアさんって人は全くの無事らしいしさ》

《それはそうだけど……》

《そんでもってアスナ、私早くて4日後にはオスティアってとこに行くんだけど多分間に合わないよなー……》

《オスティア……?》

《そう、まあオスティア着いたからっていってもアスナいるとこに一番近いメセンブリーナの街のニャンドマまで行っても、個人チャーターの飛空艇か何かで1日ぐらいだからそれなりに遠いんだけどね。つかやっぱそこ確実に帝国領だよ》

《帝国って……コタロが向かうって言ってた所?》

《そうそう。アスナが国境をヘラス帝国国境警備隊に見つからずメセンブリーナ側に越えられれば良いんだけどさ……っても下手に無理やり抜けるとお尋ね者になるから気を付けないと駄目だよ》

《えー、美空ちゃん、どうすればいいのよ!》

《説明しよう!と言ってもまあ私も出発まで時間があって暇だからネット使って調べてるだけなんだけどさ。そんで、超単純に距離に換算して2000kmぐらい東に移動すればメセンブリーナのニャンドマ、西に同じぐらいで帝国領首都ヘラスがあるけど、くーちゃんや桜咲さんで一日150kmがいいとこらしいからどっちも10日はかかる。ぶっちゃけ私は一応オスティア経由してネギ君目指して行く桃源、盧遮那に行くルートなもんで、遅くても5日後にはオスティアを後にするから、アスナがヘラス帝国側に進んだ方が小太郎君とも会えるかもしれないし、悪手ではないと思うよ。まあドネットさんに相談した方がいいかもしれないけど……》

ネギより私を優先するとネギを助けるのに余計に時間がかかっちゃうって事ね……。

《つまり、国境を越える危険な真似をするか越えずにそのまま西に進んでヘラス帝国を目指した方が良いってこと?》

私昨日いきなり山奥で日が沈んじゃっててかなり長いこと寝てたからまだ殆ど移動してないのよね。

《そういう事だね。ヘラスまで着いて、そのままなんとかして飛空艇に乗れればゆえ吉のアリアドネーまで行けるよ。不法入国でも勉強しまッス!って言えば大丈夫だから》

《ねぇ……美空ちゃんそれ私にわざと言ってる?》

《いや……まぁ……細かいことは気にすんな!》

《気にするわよ!》

《アスナ、気にしないほうがいいアル!》

《くーふぇまで!》

《アリアドネーならば受け入れると思うですよ。記憶喪失の私でもすぐに受け入れてくれたですから》

《夕映ちゃん……まともな事言ってくれるのは夕映ちゃんだけよ!ありがとう!》

《アスナ!私真面目な話してたろ!》

《い……いえ、私は当然の事をしただけです……》

《ゆえのそういう性格的な所は変わってないんだね》

《のどか……そうなのでしょうか?》

《夕映ちゃん語尾にですが付くのは今まで通りよ》

《そうなのです……ですか。本当ですね》

《ふふふ……》

《きっとすぐ記憶も戻るわよ》

《そうだと良いです》

《あ、それで私は結局どっちに進めばいいのよ。何か見た感じヘラス遠くない?》

《アスナ、それメルカトル図法って地図だから極地側に近い所は縦に長くなってるんだけど実際はそんなに遠くないんだよ。ネギ君と小太郎君も心射方位図法の地図使ってるらしいからそっちの方が分かりやすいね。それにニャンドマの方は頑張って出てきても結局メセンブリーナの辺境も辺境の片田舎だし、どちらかっていうと近づけば近づくほど首都に近くなる帝国のほうが良いんじゃないかな?》

《うーん、コタロ一人だけ帝国向かうっていうのも心細いだろうし……それでいいかなぁ……》

《多分でかい湖が3つぐらいあったりするからそれも目印になるよ。渡し船もあるからなんとか乗せてもらえればすぐ着くだろうし》

《いいわ、美空ちゃんを私信じるわよ!》

《お、おう!信じてみろ!》

《それで、途中で帝国の人に会ったらどうすればいいの?》

《挨拶すればいいんじゃ?もし警邏の人いるなら一度不法入国扱いでも首都に護送してもらった方が徒歩より早く着くだろうし身の安全は取れると思うよ。多分小太郎君もそうなるだろうし。つかアスナ達皆不法入国扱いなんだけどさ……》

《私達のせいじゃないわよー!》

《分かってるよ。とにかく、アスナ、下手に逃げたり、人を攻撃したりすんのはやめなよ》

《私そんなに乱暴じゃないわよ》

《いやいやいや、咸卦法なんてのできる時点で次元が違うからさ。自分は大丈夫と思ってちょっと力入れたら予想以上に相手の人吹っ飛んだりするよ?》

《そ……それはなんとなくわかるわ……》

《あー、あれか、まほら武道会の雪広のエージェント吹き飛ばしてた時の事か?》

《そうそう……って美空ちゃんまほら武道会の時いたっけ!?》

《いやー、超りんから映像だけ見れる用の端末貰ってたからそれで》

《超さんかー。超さんも一緒に来てくれたら今頃凄い発明で皆すぐ集まってそうなのにね……》

《超りんだと……地球の時速数百キロが余裕で出るような飛行機作っちゃいそうだからな……下手するとロケットとか……》

《そうよ!どうして魔法世界の乗り物って空飛んでる……まだ見てないけど、そんなに遅いのよ!》

《それはエンジンに地球のガソリンとかじゃなくて祈祷精霊エンジンっての使ってるからだと思うよ。私も気になって調べたし。何でこんなに遅いのかと》

《何よその祈祷精霊エンジンって……祈りながら運転するの?》

《んにゃ、そりゃ無いわ。下位から良くても中位精霊っていう割とどこにでもいる精霊を利用してる汎用エンジンだからもともと最大でそこそこは出ても地球の科学のような際限のない馬鹿みたいな出力は得られ無いらしいんだよ》

《へー、やっぱり全然違う世界なのね》

《まーそういうこったな。貨幣価値もおかしいし》

《私一銭も持ってないわよ……》

《春日さん、私もです……》

《美空、私もアル》

《うわー、マジかー。ってそりゃそうだよな……。入国する前にそれじゃーな。日本円160円が1ドラクマ相当なんだけど、この1ドラクマは大体日本人の感覚で1600円なんだわ》

《何よそれ!10倍も差があるじゃない》

《そういうことー。まあこっちで稼いでもあっちに戻ったら10分の1になっちゃうって訳だな》

《働く気が無くなるわね……。まぁいいわ、私そろそろ出発するわね》

《気をつけてね、アスナ》

《大丈夫よ、いざとなったら咸卦法使って斬空掌で戦うから》

近づかれる前に気弾で倒してやるわ!

《そういう喧嘩っ早いのも含めて気をつけてね……》

《アスナさん、ガラの悪い人を見かけても不用意に咸卦法で斬空掌使うのはやめたほうがいいですよ》

《せ、刹那さんまで……。分かったわ、危険な動物追い払うぐらいにしか使わないわよ》

《危険な動物っても竜種は見たら攻撃せず速攻逃げなよ》

《え?この辺竜なんて出るの?》

《その辺は一定のテリトリーに竜種いるっぽいよ。何でもニャンドマの方は今黒いのと青い竜がいるらしいからやっぱ近づかないほうがいいかも》

《あー、うん、決めたわ、私ヘラス帝国行くわ。それじゃあ出発よ!》

《行ってらー!》

《アスナさん、お気をつけて》

《アスナ、気をつけるアル》

《アスナさん気をつけてです》

《アスナさん、気をつけてください》

《皆ありがと!右腕に気、左腕に魔力……合成!!》

―咸卦法!!―

よーし、頑張って湖目指すわよー!
私走るのは前から速かったけど咸卦法を使えば一気に進めるわ!
木にぶつかりそうになっても瞬動で切り返せばいいだけだし!
もし当たっても痛くないし、全然行けるわ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日16時頃、メガロメセンブリア―

アスナがヘラスに移動し始めてから6時間ぐらい経過した。
何か別にニャンドマに行っても良かったんじゃない?って速度で進んでるっぽい気がするけど気にしたら負けだな……。
出発する瞬間に明らかに咸卦法使ってたから山の中でもかなり速い自転車ぐらいの速度は出てそうだよな……。
走ってただけで偶然いた通りすがりの人を轢いたりしないか心配だわ……。
んでくーちゃんとゆえ吉は寝てるけど丁度皆起きてきた。
ネギ君、小太郎君、楓達とこのかね。

《おはようございます、皆さん》

《あ!ネギ!おはよう!》

《よう、アスナ姉ちゃん、俺も起きたで!》

《ネギ先生、小太郎君、お、おはようございます……》

のどかはネギ君無事起きて一安心ってとこか。
トレジャーハンターやるって言い出したときは驚いたけどネギ君達はもう何か普通の常識じゃ図れんから私が口出す領分でもないけど。
周りにいんのがマジもんのトレジャーハンターなら大丈夫だろ……多分。

《ネギ坊主、コタローおはようでござる》

《ネギ先生、小太郎さん、おはようございます》

《ネギ君、小太郎君おはよう》

《皆おはようさん~》

《皆さん、お嬢様、おはようございます》

桜咲さんはそろそろ丁度砂漠でどうにかして寝る感じらしい。
呪符があるお陰で結界は張れるんだとさ。
便利だよなぁ。

《ネギ君達おはよう。アスナ、移動先の事について話しとかないと》

《そうね》

《アスナさんどうかしたんですか?》

《私もヘラス帝国の首都に向かってるからそれを伝えようと思って》

《何や、アスナ姉ちゃんも俺と同じ所なんか》

《それを勧めたのは……?》

《あー私です、ドネットさん》

《春日さんね。理由は国境越えがあまり良くないからかしら?》

《そうですね。後は私が飛空艇でオスティアまで飛んでもその時には合流は間に合いそうにないからって事だったんですけど、どうも今アスナ相当速い速度で走ってるからどっちでも良かったかもしれないんですよね……》

《速いって言うほどじゃないと思うわよ》

《時速30kmぐらいは出てるんじゃないの?》

《うーん、時速なんて言われてもよくわからないわ。あ、咸卦法切れそう。右腕に気、左腕に魔力……合成!!》

だめだこりゃ……。

《あはは……さすがアスナさんですね》

《そう……もう進んでいるなら仕方ないわね。確かに国境越えと不法入国二つだったら不法入国だけの方がいいわ。小太郎君とも合流できるかもしれないでしょうし。このままうまく集まるなら今のところアリアドネーがいいかもしれないわね》

強力な武装中立国だし、ゆえ吉もいるしな。

《ドネットさん、分かりました。私ヘラス帝国にこのまま進みます。ネギ!美空ちゃんがネギの方にすぐ行ってくれるから無理するんじゃないわよ!》

《え……アスナさん、もしかして僕のためにヘラスに向かうんですか……?》

《あんたは自分の事だけ心配してればいいの!分かった!?》

《……は、はい……》

あー、まあそういう意図も無かったというと嘘になるけど、実際アスナが国境で捕まったり、ニャンドマに出たとしても迎えに行くのにオスティアから北上しないといけなくなるから時間かかるのは事実なんだよな……。

《よっしゃ、そんならアスナ姉ちゃん俺とヘラスで合流や!》

小太郎君とヘラス盆地最端までの距離は元々1700km強ぐらいだったらしいし昨日それなりに進んだっぽいから距離的には今だけに限定すればアスナよか近い距離のところに到着してるだろうな。
それに首都がヘラスなもんだから少し離れた所にも街やら村やらある筈だしネギ君よかやっぱ環境はいいわな。
超巨大盆地にこれまた大きな湖がいくつもある麗しの水の都らしいから観光にもなるんじゃないかね。

《コタロ、約束よ!》

《おう!》

にしても小太郎君元気だな……。
杖なんか無しでガチで戦えるとこういうときゃ強いよな。

《分かりました。皆さん、今日も頑張りましょう!それでは僕もこれから出発します》

ネギ君のまとめで一旦解散になった。
私はまだ情報収集を続けるけどどっかに残ってるゲートとか無いんかね。
ゲートを破壊するってことは孤立主義を物理的に加速させるためなのか何なのかはわからんけど。
元々一部の超急いでる人達が各都市間を一瞬で移動するためのテレポート用の役目も果たしてたんだけどこれで空路が余計に混むこと間違いない。
ニュースも相変わらずどこの局もゲートポートから噴出してる魔力暴走の映像ばっか放送してるしなぁ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日6時頃、セブレイニア大陸某オアシス村―

ほな、朝の仕度はできたえ。
昨日は村の宿の女将はんに頼んでとめてもろたけどええ人でよかったな。
少しびっくりしたのは動物の耳がコタ君みたいに付いとる人や、身体全体がイルカだったりする人がいたことやね。

「女将はん昨日は良う眠れました。おおきに」

「おお、お嬢ちゃん早いね。昨日ここ着いたの夜遅かったじゃないか、あの時は驚いたよ。あんなに砂被って一人で砂漠越えてきたなんてさ」

もう女将さんは厨房で食事作っとるね。

「驚かせてもうてすいません。うち、ただで泊めさせてもろたから何や手伝いさせて欲しいんです。もちろん今日冒険者の皆さんの怪我を治すのもやるえ!」

「なんだか悪いねぇ……だってお嬢ちゃんあれだろ、こんな辺境にはニュースはまだ届いてこないけど、お嬢ちゃんが言うにはゲートポートのテロっていうのに巻き込まれちまって一緒に来た仲間ともはぐれちまっただけなんだろ?ケフィッススに行くっていうのは私も賛成だけどさ」

「うち、はぐれてしもた皆とは連絡とれとるんで、皆が頑張ってるからうちも頑張らんとあかんのや。それに女将さんうちに杖と箒もくれる言うし、その分しっかり働くえ」

「連絡が取れてるっていうならいいんだけどねぇ。それに杖と箒は大分前の誰かの忘れ物だしさ。分かったよ、それじゃ野菜洗うの手伝ってもらえるかい?」

「分かったえ!うちこう見えて家事は得意なんや!」

「お嬢ちゃんがいてくれたら冒険者もきっと癒されるよ。今日は頼むね」

「はい!」

それから野菜洗うて、それを女将さんの言うとおり切ったりして手伝ってたんや。

「お嬢ちゃん、手際いいねぇ。それで魔法で火はつけられるかい?」

「できるえ!」

「ま、箒に乗れるってんだからそれぐらいできるさね。なら私の隣のコンロで使い方は教えるから一緒に野菜炒めてもらえるかい?」

「分かったえ!」

「それじゃよろしく頼むよ」

―プラクテ・ビギ・ナル― ―プラクテ・ビギ・ナル―
 ―火よ灯れ―    ―火よ灯れ―

「そうそう、そうすりゃすぐにフライパンがあったまるからね」

「こっちは料理にも魔法使うんやねぇ」

日本だとコンロのノブを回して調節するだけやからなぁ。
日常的に魔法使うなんて思わんかったえ。

「そうか、お嬢ちゃんゲートから来たってことは本当に旧世界人なんだねぇ。ここ最近まで伝説だなんて言われてたからね」

「そんなに珍しいんですか?」

「滅多に旧世界の人なんてこんなとこ来やしないよ」

「そうなんか……。あ、そうや、香りの良い花ってありますか?」

「ん、そうだねぇ、オアシスだから一応あるさね」

「ほな、後で冒険者の人達が起きてきたら貰えませんか?」

「何か魔法使ってくれるのかい?」

「はい、そのつもりや」

「嬉しそうな顔してるねぇ。いいよ、料理が終わったら持ってくるからさ」

「おおきに」

日本で魔法練習しとっても生活で普通に使うことできんかったからなぁ。
女将さんと一緒に料理して30分ぐらいしたら冒険者さんら起きて2階から降りてきたえ。

「それじゃお嬢ちゃん朝食を配膳してもらえるかい?」

「任せてや!」

砂漠でもオアシスのある村には2日に一回は定期的に行商が来て食材や日用品を売りに来るんやて。
そやから、結構朝食もあるみたいなんや。

「ほな、どうぞお召し上がり下さい」

「お、それじゃ頂くぜ。……あ?嬢ちゃん見かけない顔だなぁ。どうしたんだ?」

「ダンさん!その子は昨日夜砂漠から一人で長いこと歩いてきて私の所を頼ってきたんだよ。ゲートポートって奴の事故でこの辺に飛ばされちまったんだってさ」

「へぇ!そうか!良く解らんがそりゃ大変だな。元気だせよ、嬢ちゃん」

「おおきに、ダンはん!」

「名前はなんていうんだ?」

「近衛木乃香や」

「このか嬢ちゃんか、がんばれよ」

「はい!」

ここに泊まっとったのはうち含めて10人やったよ。

「お嬢ちゃん、花持ってきたよ」

「女将さん、ありがとう。ほな、やるえ」

        ―オン・ハラハラ・オンキリ・ソワカ―
―花の香りよ 彼の者達に元気を活力を 健やかな風を refectio!!―

「ほー、花の香りを使った気付けの魔法かい」

「そうや、うちの専門は治癒やからね」

「このか嬢ちゃん、気分がスッキリしたぜ。ありがとな!」

「へー、これこのかちゃんがやったの。ありがと」

「どういたしましてや!」

ゆえやのどかもそれぞれ頑張っとるんやからうちも今日頑張るえ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日日本時間、20時52分、麻帆良―

《超鈴音、用意はできましたか?》

《翆坊主が予想した通りになたネ。端末の用意はできているから龍宮サンに渡してくるヨ。丁度龍宮サンも準備ができたところなのだろう?》

《観測した所そうですね。もうすぐ寮の部屋から出るはずです》

《分かたネ。しかしゲートポートの破壊とはよくやるヨ》

《私達にとっては麻帆良地下の封印されているゲートポートに魔力が集中することになりますから好都合なんですがね》

《ふむ、ネギ坊主達は無事だといいがナ》

《あれだけ修行してましたからちょっとやそっとのサバイバルは大丈夫ですよ。一番怖いのは司法機関でしょうね》

《フェイト・アーウェルンクスがネギ坊主達にマイナスになるような罠を仕掛けていたらその可能性は高くなるナ》

《せめて私達にできるのはネギ少年達が、無事に夏休みが終わる頃に帰ってくるのを祈るだけです》

《麻帆良の地下のゲートポートから帰てくるということカ》

《なにぶん、世界が隔絶されてしまいましたから詳しいことはわかりませんが》

《そうだナ。恐らく美空達の端末には自動でネギ坊主の通信情報が表示されるように仕掛けをしておいたからゲートで何かがあたとしても連絡は取れるようにしているから大丈夫だとは思うヨ》

《恐らくネギ少年達にとってはかなり役に立つか、既に立っていると思いますよ》

《当然ネ。もしこれが公的に広がれば世界中常に会話が絶えないなんてことになるからナ。3-Aに広めたりすれば授業中にしゃべり続けるだろうというのが目に浮かぶようネ》

《目の見えないところで授業崩壊ですね……》

《そういう事だから、まだ世界には出せないナ》

《下手すると電話業界が滅びますしね》

《私もそれは前に思たヨ。さて、それでは龍宮サンに渡してくるネ》

《はい》

翆坊主の話だとこの数時間であちらは既に数倍の時間が流れているそうだからもう間もなく1日近くは経つことになるだろうナ。
おや、女子寮の前に高畑先生のと思われる車が止まているネ。

「お、まさか超も行くのか?」

これは私の方が先に寮から出ていたようだナ。

「いや、この軽装を見ればわかるだろう?龍宮サンにいつものを渡しておこうと思てナ」

「……端末か?」

「そうネ。ほぼ確実にネギ坊主達、美空達と連絡が取れるようになるヨ」

「なるほどな、超がどれぐらい今回の件を予想していたかは知らないがありがたく受け取っておくよ」

「高畑先生と葛葉先生の分もあるから頼むネ」

「ああ、分かった。高畑先生に会わなくていいのか?」

「また変に疑われそうだからネ。後でそれとなく渡しておいてもらえると助かるヨ」

「超は謎が多いからな。仕方ないさ。端末は後で必ず渡しておくよ」

「ふむ、それでは龍宮サン気をつけてナ」

「ああ、私はあちらにも行った事があるから大丈夫だ。帰って来られるかどうかは知らんがな」

「それで良くこの依頼を引き受けたネ」

「私達の担任の先生がいないようでは2学期からの授業も退屈になるからな。それに2年もあれば戻ってこられるさ」

「2年を軽く言えるとはナ……。報酬はツケで……という事のようだネ」

「そんな所だ。まあ超がこうしてこれを渡したという事はどうなるかはわからんが意外とすぐ戻ってこられるんじゃないかと今思ったよ」

「私をそんなに信用されても困るヨ。でもネギ坊主たちと一緒に2学期までに帰てくることを祈ているネ」

「ああ、そうなるといいな。それでは行くよ。端末感謝する、仕事が楽になりそうだ」

これで私がネギ坊主達にできることは、運命の日まで2週間しかないが、それまではもう殆ど無いナ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月14日、メガロメセンブリア時間4時、南極、2度目の長時間契約執行から10時間が経過―

これでようやく総時間数で1日と数時間が経過したけど合計200kmぐらいは進めたと思う。
食料は早めに消費すると後がなくなるから今日は空腹の状態で我慢してたけど頑張るしか無い。

「ネギ君、今日は洞窟があってよかったですね」

「はい、助かりました。ミリアさん携帯食料食べますか?」

「いえ、私はネギ君の背中にいるだけでしたから必要ありません。少しダイエットと思えば大丈夫です」

「すいません……まだ後数日は我慢しないといけないと思います……」

「ネギ君が謝らなくていいですよ。雪がありますから水には困りませんし」

「そうですね……これで本当にどこまでも何も無い砂漠だったら大変だったかもしれません」

「魔法世界の砂漠には定期的にオアシスがありますから意外となんとかなるそうですよ」

「そうなんですか……だからこのかさんも村でうまくやってるって言ってたんですね」

「ネギ君と一緒に来た方達は皆さん凄いですね」

「サバイバル技術はかなり鍛えてますから少しぐらいなら大丈夫です。あの、昨日壊れたゲートの事を話しましたけど、どこか残っているゲートってありませんか?」

「そうですね……確か……今はなき麗しの千塔の都オスティア、廃都オスティアに昔廃棄された休止中のゲートポートがあると言われていますが……」

ま、まだ地球に戻る方法は残ってるんだ!

「じゃ、じゃあゲートは残ってるかもしれない……あ……それも壊されているかもしれませんね……」

「私には詳しくは分かりませんが、廃都オスティアは今では魔獣蠢く危険地帯なので許可を受けた冒険者以外は立ち入り禁止になっているので容易に入ることはできないと思います」

魔獣蠢く危険地帯……?
ゲートポートを全て壊した奴らが、魔獣がいるからといって壊しに行かないということはあるんだろうか……。
あれほどの魔法が使えるなら魔獣だって強制転移でもさせてしまえばいいだけだろうし……。
それともそこに何かがあるのか?

「その廃都っていうのは……?」

「今から丁度20年前に終結した大分裂戦争で、最後に広域魔力消失現象と呼ばれるものがその旧オスティアで起きたのです。それを抑えるためにネギ君のお父様、ナギ・スプリングフィールド率いる紅き翼を始めとして、戦争をしていた連合、帝国とアリアドネーが協力してその現象を食い止めて世界を救った代償に、大小100を越す浮遊島が全て地上に落ちてしまったんです。その落ちた浮遊都市郡を廃都オスティアと呼びます」

「父さん達が……世界を救った……」

「そうです。そのため紅き翼は当時の少年少女の憧れでした。……恥ずかしながら私も……その一人です」

「そ、そうだったんですか」

「ネギ君は知らないのですか?」

「はい、僕は殆ど魔法世界の事を聞いていませんし教えてもらってもいないんです」

「それは……そういう風にネギ君の周りで決めてあったのかもしれませんね。私の口から言って良いような事ではなかったかもしれません……ごめんなさい」

「そんな、謝らないでください。僕が魔法世界に来たのは父さんを探しに来たのが目的なので、当然普通にメガロメセンブリアに着いていたら今頃知っていたかもしれませんから」

「え……ナギ・スプリングフィールド様は亡くなったと……あ、も、申し訳あり」

「いえ、必ず父さんは世界のどこかで生きているんです」

「そ、そうなのですか!?」

「確証もあります。地球にいないのであれば残るは魔法世界しかない筈なんです」

「それでわざわざ魔法世界にいらしたんですか……」

「はい、今回の旅行だけで見つけられるとは思っていませんが……」

今回のこのゲートポートの破壊事件、廃都オスティアにあるという休止中のゲート、20年前の戦争の最後の舞台となったその廃都オスティア、そして広域魔力消失現象……もしかしたら何か繋がりがあるのかも。
ゲートで気になった事といえば質の違う魔力の流れ……。
ゲートを破壊すれば当然その流れは止まる筈……。
もしかして止める事が目的だった……何故……?
マスターと話した火星を触媒にして魔法世界が成り立っているという事。
人造異界、人造でないかもしれないけどその存在限界・崩壊の不可避性の論文……原因はまさか魔力の流出……?
だとするとこのゲートポートを破壊した奴らは崩壊を遅らせるためにこんな事をしたのか?
いや、全ては憶測にすぎない……けど全く関係が無いとは言い切れない。
ここで知らないだけで調べれば分かるのは僕が題名しか知らない論文の内容、そしてオスティアの事……。

「ミリアさん、崩壊する前のオスティアにまつわる話ってありませんか?例えば、伝説とかそういうのでも構わないんですが」

「旧オスティア・ウェスペリタティア王国の伝説ですか……そうですね、例えば魔法世界の文明発祥の聖地であるとか世界最古の王国だと言われていますよ」

「魔法世界の文明発祥……の聖地……世界最古の……王国……?」

「ね、ネギ君どうしたんですか?急に悩んだような顔をされて」

「あ、ミリアさん、大丈夫です。少し気になることがあったので。教えてくれてありがとうございます」

「それなら良いのですが……。私にはこれぐらいしかネギ君にできることはありませんから」

「そんな事ありません、これからも気になる事があったら聞いても良いですか?」

「それは勿論いつでもどうぞ」

「ありがとうございます」

「人造」異界……オスティア……魔法世界の文明発祥の聖地……世界最古の王国……。
魔法世界の文明発祥であるならば詳しく調べれば人造なのかどうかもわかるのか……?
そもそも魔法世界が人造であるならば、魔法の発祥自体は魔法世界である筈がない。
なら魔法自体の発祥は一体……?
魔法の呪文がラテン語や上位古代ギリシャ語であるのはどこも共通している……これが源流だとするなら魔法自体は地球が発祥ということになる……でも文明は魔法世界が発祥……一体どういう事だ。
マスターのいう人造かどうかという事、作り出す際の魔力自体の問題色々気になるけど情報が足りないな……ここは調べてもらった方が早いかもしれない。
それより僕はなんとしてでも南極を抜けないといけないけれど……頼んでおくだけ頼んでおこう。

《春日さん、聞こえますか?》

《ネギ先生、春日さんは今寝ています》

《茶々丸さん、そうですか……》

《どうされたのですか?もうお休みなると先ほど言っておられたと思うのですが》

《あ、もう今休む所です。ただ、少し調べたい事があって……》

《調べたいこと……ですか?》

《ね、ネギ先……生、私でよければアリアドネーの蔵書で調べるですよ。丁度授業も終わった所です》

《ゆ、夕映さん!それでは一つお願いしても良いですか?》

そうか、今日からもう学校で勉強してるのか。
どんな感じか感想聞いてみたいけどそんなに余裕は無いなぁ……。

《はいです》

《人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文というものがあると思うんですが、それの内容を知りたいんですがお願いできますか?》

《わ、分かったです。コレットにも手伝ってもらうです》

《ありがとうございます、夕映さん》

《任せて下さいです》

《ね、ネギ君?その、どうしていきなりそんな昔の論文を……?》

《あ、ドネットさんもしかして内容知っているんですか?》

《いえ……私も少ししか知らないわね。昔は話題になったそうだけど……今では取り組む人も少ない領域の研究分野ね》

《そうですか……。動機としては各地のゲートポート事件がただのテロではなく、何らかの意図があったと思えるからなんです》

《意図……というのは?》

《僕の憶測でしかありませんが、魔法世界の……崩壊を防ぐ為……かもしれません》

《魔法世界の崩壊ですって?》

《ドネットさんにウェールズから移動するときにゲート周辺の魔力の質が他と違うように感じるって言いましたよね?》

《ええ、言っていたわね。私には全くわからなかったけれど……》

《今ならなんとなくわかるんですが、あの時感じた魔力というのはこの今いる魔法世界の魔力なんです。つまり、ゲートからは魔法世界の魔力が地球側に流出している可能性があるんです。結果そのゲートを破壊するということは魔力の流出を絶つ事になると考えられます。ここで気になるのがさっきの論文の内容なんです》

僕が魔力の質を朧げに自覚できるようになったのはマスターとの加速通信法を習得してからの事だけど……。
マスターも最近覚えたって言っていたから気づいた人あんまりいないのかな……。

《も、もしそれが本当なら大変な事ね……。私も詳しくは知らないけれど元々あの論文はダイオラマ魔法球のようなものも含む人工的な異界、異空間に焦点を当てて説明したもので結論はかなり漠然としたものだったんじゃないかしら。内容は確かに通説にはなっているけれど、題名だけで内容を鵜呑みにして勘違いする人もいるらしいわね》

《あ……それ僕もです。前魔法世界が人造異界だと勝手に思い込んだ事があって……》

マスターも僕があの論文の話をした時詳しく知ってるのかと思ったけど、後で聞いたら「昔の人間が書いた論文だからな」って言ってて詳しく読んだことは無いみたいだから確かにそうかもしれない……。
何しろ古いのは確かだし……。
それにマスターはそれ以外にもっと重要な何かを知ってそうだったんだよなぁ……。

《それはまた突飛な説ね……。まあネギ君が異質な魔力を感じたというのが、他の人には気付けないとしても、詳しく調べてみる価値はありそうね》

《そう言ってもらえると嬉しいです。それでは僕そろそろ今日は休みますね》

《ええ、引き止めてごめんなさいね》

《いえ、まだまだ知らないことが多いなってわかりました。おやすみなさい》

皆からお休みなさいと挨拶をされて今日もこれで移動は終わり。
明日も頑張って100kmは進むようにしよう。
できれば明日もまた丁度良い洞窟が見つけられると願って……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月13日、16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、図書室―

突然ユエが「コレット、もう一度図書室に調べ物に行くです!手伝って欲しいです」って言い出したから何かと思ったよ。
今日、一応転校初日で名前も私の親戚という事で「ユエ・ファランドール」って名乗ったのは昨日決めた通り。
ユエは薬学や歴史を始めとした分野の知識が殆ど無かったけど実技の方はかなりすごかった。
知識面については一杯本を図書室から授業の合間に借りてきて勉強してるから問題ないかなーと思う。
ただ、能力のアンバランスさから委員長に目をつけられてたような気がするけど気のせいだといいなぁ……。
それにしても昨日本当に世界各地のゲートポートでテロがあって、職員と利用者が全員行方不明になったっていう事件あったのは驚いたよ……アリアドネーに情報が届くまでは数時間差があったみたいだけど。
今日クラスでもその話が結構出てたね。

「それでユエ、一体何を調べるの?」

「人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の詳しい内容です」

「なにそれ?人造異界?」

「私も分からないから調べるです。ネギ……先生が調べて欲しいと頼んできたのですよ」

おおっあのネギ君が調べて欲しいって頼んできたのね!
それは協力しない訳にはいかないよっ!

「それを早く言ってよー。よーし、探そう!」

「はいです」

魔法騎士団候補学校の図書室はすっごく広いからきっとある筈だね。
人造異界……人造異界……。

あれー……見つからない……。

「ユエ、見つかった?」

「いえ、見つからないです。そもそも論文ということは本ではないかもしれません」

「そ、そうか!じゃあもう司書の先生に聞いた方が早いよ」

「怪しまれないでしょうか……」

「死神でも学べるんだから大丈夫だよ!きっと!」

「それは物の例えであってですね……」

「はいはい、さっさと行こうよ~」

「そんなに押さないで良いですよ、コレット。わっ!」

「きゃっ!」

ユエを本棚の通りから押してたら誰かに当たった!?

「あ、ごめんユエ!それと……い、委員長!?」

あと委員長の後ろにいつものベアトリクス・モンロー、ビーさんもいるけど……。

「痛いですわね、図書室ではもう少し落ち着いて行動しなさい」

「ごめん委員長……」

「ごめんなさいです……」

「分かったならよろしいですわ。……それで一体何を調べていましたの?」

え……何でここで委員長が絡んでくる?

「そ、そそ、それは……」

「委員長、論文というのはどこで調べられるでしょうか?」

ユエ!ナイス!題名言わなきゃいいのか!

「論文?転校生、あなた一時的とはいえ記憶喪失なのではないのですか?」

あちゃー、自己紹介の時に先生がわざわざそういう事を言ったから……。

「覚えていない事と覚えている事があるです」

「そ、そうなんだよ!」

「……そうですか、いいでしょう。私もその調べ物協力しますわ」

「ゑ?」

「コレット……その間抜けな顔をやめるです」

「何ですコレットさん、私が協力するのがお嫌なのですか?」

そんな間抜けな顔してたかなぁ……。

「そ、そそ、そんな事ないけどさ。どうしてわざわざ?」

「同じクラスの委員長として、記憶喪失で困っている学友、それも転校生とあれば協力するのは道理。何か問題でもおありですか?」

「流石お嬢様です」

これぞ委員長の鏡!みたいなオーラを出されても。

「いや、何も問題ないよ。流石委員長、頼りになるね」

あ、私もなに口滑ってんだろ……。

「そうでしょう!……それで論文でしたがこの魔法騎士団候補学校では論文は置いていませんから、学校の外にある総合図書館に行くべきですね。案内しましょう」

「委員長、ありがとうです」

「礼には及びませんわ」

委員長がユエの事を見る目がどんなものか実力を図ってるような感じの気がするんだけどなー。
実際戦闘魔法に箒の実技はクラスで委員長の次ぐらい上手かったからライバル視してるのかも。
まあそれは置いといて……委員長とビーさんの後を付いてアリアドネー総合図書館に向かった。
私基本的にわざわざここまで来ないんだけど外から見ると、でかい……。
中もやっぱり広いねぇ……見つかるのかな。

「蔵書等はこの機械で検索すれば、書架にある場合は本のコードとその本のある階棚番が表示されますし、書庫に入っている場合は書庫とそのコードが表示されますわ」

「むむ……委員長、この機械使い方がわからないです」

「仕方ありませんわね、私が検索して差し上げますわ。その論文のタイトルは何ですか?」

意外と……いつもだけど委員長面倒見は良いなぁ。
結局何調べるか言わないといけなくなっちゃったけど。

「人造異界の崩壊・存在限界の不可避性というものです」

「……本当に変わった記憶喪失ですわね。分かりましたわ、少しお待ちなさい」

あっさりした反応で良かったー。
いきなり人造異界の崩壊・存在限界の不可避性なんてタイトル言われたら確かに変わった記憶喪失に思えるよね。

「ありましたわ……やはり書庫にあるようですわね。受付に参りましょう」

「はいです」

そのまま受付に行って委員長が率先して借りる手続きをしてくれて、少し待たされたけど出てきて……。
どうせだからって皆で机を囲んで……それなりに時間かかったけど読み終わった。
何だか不可避性なんていうタイトルが付いているから完璧な結論まで出てるのかと思ったんだけどその辺が有耶無耶であんまりパッとしない内容だった。
殆どの庶民には関係ないダイオラマ魔法球等の構造とその製造の難しさの話とかは詳しく書いてあったからそれはそれで面白かったけど……。

「これは……本物の論文ではないのではないでしょうか。あまりにも内容のバランスが悪い気がするです」

「バランス……そう言われると不自然ですわね。これだけ最初の方で細かいダイオラマ魔法球の説明までしてあるのに結論はなんというか尻切れトンボのようですし。しかしユエさん、あなたどうしてこの論文を?」

「理由は言えないです……。でも委員長……私はどうしてもこの論文の本物、もしくは削られているかもしれない部分に書かれてある事が知りたいです。どうにかして調べる方法はありませんか!?」

おおっユエが委員長に縋りついた!?

「お、落ち着きなさい、ユエさん。……理由が言えないというのはやましい事でもあるのですか?」

「そんな事は無いです。誓っても良いです!いつか必ず理由は話すです!」

「…………分かりました。そこまでいうなら……実家に頼んでみても構いませんわ」

「お嬢様?」

「でも、まずは魔法騎士団候補学校の先生達にも聞いてみた方が良いでしょう」

「委員長、ありがとうです!」

「別にあなたのためだけに協力する訳ではありませんわ。ただ、この論文の事が私も気になっただけですっ」

こ、この反応の仕方は……。
委員長、素直じゃないなぁ……。

「しかし、いいですか、私達の本分は魔法騎士団候補学校の学業をきちんとこなすことです。あなたのような薬学も歴史もその他諸々知識のないのにこの論文の事ばかりにかまけていてはいけませんわよ」

「わ、分かったです」

「……分かったなら良いですわ。しかし、寮の門限もあります。今日は戻って授業の復習をするべきでしょう」

「はいです」

委員長の発言で今日はネギ君から頼まれた論文を調べる作業は終わったけれど明日も先生達に聞いたりする所から動く事にしたよ。

「コレットはあの論文どう思ったですか」

「どうって……タイトルの割には結局あんまり要領を得ないような内容だったなって」

「私が思うに、意図的に結論が削られているか、差し替えられているならば、どこかの誰かにとってマズい情報だったのではないかと思えるですよ」

「じゃ、じゃあもしかして誰かの陰謀って事?」

「陰謀というのは言い方が悪いかもしれませんが、何らかの問題があるのではないかと思うです」

「何らかの問題って?」

「大きな社会問題になる……とかですよ。例えば先程の論文で説明されていた物であれば、ダイオラマ魔法球の中で生活していたら突然ある日何も無い大地に気がついたら立っていた……というような」

「なにそのお伽話みたいな例」

「いえ……私もこのような事は言いたくないのですが、ネギ先生は魔法世界が崩壊するかもしれないと言っていたのですよ……」

「えっ!そんなまっさかぁ!それが本当なら今頃大きな社会……問題……に……」

「分かったですか?」

「な、な、何か凄い危ない事に足を突っ込んでいるような気がするよ!?」

「ネギ先生も憶測でしかないと言っていましたが、その可能性もあるものとして調べる価値はあるです」

「……そ……そうだね。でも勉強もちゃんとしようね」

「コレットもですよ」

「分かってるよー!」

この怪しい論文の事、グランドマスターに聞いたらきっと分かるんじゃないかなーと思うんだけどどうだろう……。
とりあえず今日は、うん、寝よう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月14日7時頃、メガロメセンブリア―

世界各地に飛ばされたネギ君達で起きている人達と朝また定期連絡を済ませた後。

「春日さん、愛衣、予定通り渡航許可が取れましたわ。既に便も確保してあります。出発は9時からですから準備なさい」

「うおっ早ければ今日って言ってたけど本当にもう取れたんスか!?」

「この通りホテルの受付に、実家から自由渡航許可証が届きましたわ」

そ、それはアレだ。
正規ルートが通ってるなら基本的にどこでも自由に行き来できるっつーやたら金のかかるチケットじゃんか!

「高音さんの家凄いッスねー」

「お姉様、私準備してきますっ!」

「私も準備しまーす」

「お待ちなさい、春日さんにはこのクレジットカードを渡しておきます」

「え?おお、助かります」

「基本的にいくら使ったか、何を買ったかはわかりますからあまり変なモノを買わないようにして下さい」

「そりゃあ勿論ですよ!で、これ使った請求ってどこに行くんスか?」

まぁクレジットカードが使えない場合もあるから現金もそこそこ持ってるけどさ。

「私の実家ですが、連絡が取れれば後で麻帆良学園にきちんと請求しますから安心なさい」

うはー、肩代わりする訳ね。

「了解です、自由渡航許可証と現金もそれなりにあるんで大丈夫だとは思うけど、もしもの時は使わせてもらいます」

「はい、それで良いです。それでは私も出発の準備をしますので」

えーっと昨日のうちに準備した予備用の箒と杖もあるし、携帯許可も取った。
そんでもってこの自由渡航許可証にクレジットカードそれと端末、この3つをもしなくしたら積むな。
気をつけよう。
サクサク荷造りを済ませてホテルの今日の分の朝食を取って、明日の分までホテルを予約していたのをキャンセルしてチェックアウト。
そのまま飛空艇発着所に向かった。

「いいですか春日さん、何かわからないことがあればすぐに連絡なさい」

「了解です!」

「それでは出発しますわよ。オスティア行きは西ポートです。私と愛衣は東ポートですがからここで別れる事になりますから気をつけるように」

「分かりましたー。それじゃ臨機応変に周るんで」

「定期連絡はこちらからもします。それでは」

「よし、ココネ行くよ」

「分かった」

西ポートに移動して……と。
やっぱクジラだよなーどこからどうみても。
帝国はなんていうかシャチみたいなインペリアルシップっていう奴らしいんだけど、まあどっちも共通してんのはデカイって事だな。
とにかく自由渡航許可証を見せて係員に驚かれたりしたけどそれは置いといて個室に到着と。
まあ普通のビジネスホテルみたいな感じだな。
オスティアに着くのは3日後の8月17日午前8時頃の予定。
それまで暇だけどまほネットは繋げるし、基本メガロメセンブリアのニュースは逐一入ってくるから大丈夫だろ。
一旦部屋から出て遊覧飛行を救出作戦中ながら楽しんだり、軽い飲み物を1アスで買ったり、昼時になって機内のレストランでココネと一緒に8アスのラーメンの親戚みたいの食べてまた部屋で休憩。
……にしても日本円でいう1円なんていう細かい貨幣も無く安けりゃなんでも1アスっていうのはざっくりしすぎだと思うんだけどねぇ。
それはともかく、時間はメセンブリア時間で13時。
この間ネギ君達とも色々不思議通信したから一旦状況を整理するか。

魔法世界地図で一番西側にいるゆえ吉はアリアドネーで今は丁度深夜で寝てる。
私達が寝てた間にネギ君から人造異界の崩壊・存在限界の不可避性っつー論文を調べて欲しいって言われたらしく早速アリアドネーの総合図書館で調べたそうな。
でもどうも臭い資料だったらしく肝心な部分が書いてないなんて事言ってたな。
さっきまた起きてまた3度目の長距離移動に入りだしたネギ君がその事について軽く説明してくれたんだけど、今回のゲートポートテロは魔法世界から地球に魔力が流出するのを防ぐ目的で行われた可能性があるって話らしい。
ついでに私が今向かってる新オスティアの地上郊外にある廃都オスティアに休止中のゲートがあるらしんだけどそこも破壊されてたらほぼその線で確定&私達が戻る手段が2年は本当に無くなるみたい。
かといって潜り込めるかっつーと魔獣が蠢いてるから許可のない冒険者以外ははいっちゃいけないって事で私は今回は全力でスルーする事に決定。
そんでいつかはわからないけど魔法世界が崩壊するかもしれないと聞いてマジびびったけどネギ君はそんなブラックジョーク言う子じゃないしな。
しっかし南極にいんのに事件の分析してるネギ君マジネギ君だわ。
あからさまに元気が無くなっているように聞こえるんだよな……仕方ないだろうけど。

それで丁度1時間前に今日も元気に山奥で起きたアスナはそのネギ君の様子を感じて流石に直接怒れず私に爆走しながら愚痴ったりしてる訳だ。
アスナの端末の活用法がなかなかアレでさ、木の実の写真撮って送ってきては食べれるかどうか聞いてきたり、多分デカイ湖が源流の川を見つけては、泳いでた魚に斬空掌なる気弾ぶつけて狩猟しては「美空ちゃん、この魚も食べれるか教えて!」だもんなー。
私が協力できんのはそれぐらいっちゃそれぐらいだからまほネットで魚一生懸命検索してわざわざ美味しい焼き方なんてもんまで調べて教えたりしたよ。
実際食べてみて美味しいとわかったら何匹か余分に狩猟してその後の食事用にもゲットしたらしいし。
とにかくアスナは逞しすぎる。
多分進み方次第によってはもしかすれば今日には湖にある村ぐらいには着くんじゃないかと思うんだけどね。

テンペ南の砂漠で相変わらず強行軍で進んでる桜咲さんはあんまり自分の事報告しないけど、大丈夫そう。
つか飛ばされた初日に18時間近く移動し続けてたから徒歩での移動距離が相当長い。
もう300kmぐらい移動してきてるからもしかしたら明日にはもうテンペまで自力で到着できるかもしれない。
ただ問題は水だろうけど気力でなんとかするそうな。
高音さん達がテンペに向けて出発したって聞いたから一気に駆け抜けるって言ってたな。

くーちゃんは例の山脈にあった古ぼけた建物に井戸があったり、キッチンあったりしたらしく水の安全面はあれだけど沸かして消毒しといたから桜咲さんより状況は良い。
つかその写真で送ってきた建物なんだけど結構でかかったんだよな……。
いつ使われなくなったか知らんけど誰かの別荘だったのかもね。
今日はガンガン足場破壊しながら降りてきたらしく、海が見える崖まで出てこれてその辺で野宿するってさ。
その海多分タンタルスとの間を挟んだ湾の入り口みたいなところだからそこに沿っていけば多分崖がいつかは砂浜に変わる筈。
まあその前に丁度運送屋やら飛空艇のルートに入っているから運が良ければ前者だと乗せてってもらえるかもしんないね。

3-Aの武道四天王は強いなーと言いたいところあと一人の楓は茶々丸とドネットさんと一緒にケルベラスを抜けるのに苦労してて今は午前3時ぐらいだから寝てんな。
竜種見つけてやべー時は楓の分身でわざと怒らせて撒いたりしてるらしい。
トレジャーハンターの人が驚いてた気がするけどなんつーかケルベラス組は命の危険があるようで全くその危険がなさそう。
ドネットさんも結構な魔法使いみたいだから身体強化はできるし、もし危なくなっても楓と茶々丸がいるなら余裕だろ。

のどかは今日初めてそのトレジャーハントに参加して、罠発見と解除が神だったらしい。
クリスティンさんがのどかの端末から私達に「僕罠発見するの下手だったからノドカちゃんの手際見て驚いたよー。これからもいて欲しいぐらいね」って感動したような、自分の立場が無くなったような感じで語りかけてきたからよう分かった。
アイシャさんの話だと「ノドカ箒で浮いてられるから設置型トラップは全部あっさり突破できて進むのが凄く早かったわ」って喜んでた。
クレイグさんは「嬢ちゃんの腕には驚いたが、怪我は一つもしてねぇから安心してくれ。あんたらも頑張れよ」ってマジ良い人。
このかの目じゃなくて耳というか心には狂いは無かったな。
多分一番明るい気分になるのはトレジャーハンターの人達だわ。
のどか自身は「私そんなに役に立ってません」とか常に謙虚だからなー。
今更ながら図書館探険部ってそんなに凄い部活だったのかと、魔法世界でも通用するレベルの罠が普通にある図書館島を有する麻帆良はやっぱりどうかしてるとしか思えん。

もう一人の図書館探険部のこのかは既に深夜で寝てるけど私が出発した9時頃に連絡して来た時に聞いた話だと、セブレイニアのオアシス村で一日働いたそうな。
小さい宿屋の女将さんから杖貸してもらって料理の手伝いしたり冒険者の怪我治したりかなりまともな日常生活を送ったらしいわ。
あと数時間でまた起きたら次の村に向けて貰った箒で飛んでいくってさ。
これで一緒に荷物を届ければ魔女宅的何かができそうな気がする……。

最後小太郎君は「この辺北極いうても何や食べられる動物ぐらいおらんのか」って聞いてきたけど、まだ北極圏真っ只中だから流石に出てこんだろ。
ヘラス鹿ってのが美味しいらしいから見つけたら狩猟すればとは言っておいたんだけどね……。
肉まん大臣っていう謎の役職についてるらしいくーちゃんと一緒に肉まん運んでたらしいからまだ食料に困ってはないみたい、凍ってるらしいけど。

結局一番ヤバイのが安否の完全にわからんアーニャちゃんを除けばネギ君だというオチだな……。
皆あんまり触れたりはしてないけど、多分全員ネギ君が一番危ないっていうのは分かってると思う。
……そういう訳で私の責任滅茶苦茶重大だー!!
アスナが私に愚痴ってくんのは多分それもあるね。
何気にこのかはケフィッススまでつきゃ私と大して変わることなく盧遮那あたりまでは行けるかもしれないけど金が無いからキツイだろな。
誰かヘリコプター持って遭難者二名救出してこいって感じ。

…………あー、真面目にオスティアから高速艇に乗り換えるか。
装備整えてアーティファクトフルスロットルで爆走すれば地面さえあり続ければどんな崖だろう谷だろうと地面と足が密着してさえいれば時速100kmは出るし箒とうまく併用すればなんとかなるんじゃないか?
少なくとも食料やら防寒具、それに杖ぐらいは届けたりできるかもしれないし。
流石に麻帆良祭の鬼ごっこの時はそんな非常識な速度では走らなかったけどさ……田中さんは地味にトラウマだけど。
捜索隊を組んでもらった所で動き出すのにどうせ時間かかるからそれじゃ遅いし私が行った方がまだマシだな。
とりあえず高音さんに連絡しよう。
柄にもなく私が頑張るって珍しいけど、たまには役に立つとしますか。



[21907] 45話 魔法世界編4
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/24 08:28
―8月14日、17時頃、ヘラス帝国領、ノアキス西部地方湖畔目前―

このかも貰った箒で次のオアシス目指してるみたいだし、私は美空ちゃんによればもうすぐ大きな湖に着くはずよ!
美空ちゃんには何としてでもネギを最優先で救出してもらわないと!
ん……咸卦法が切れるわ。
右腕に気、左腕に魔力……合成!!

―咸卦法!!―

結構この辺でも咸卦法が切れると少し寒く感じるけどエヴァンジェリンさんの別荘で咸卦法の修行しまくったから寒さ、暑さには滅法強いわよ。

……あっ林が終わりそう……そしたらきっと村がどこかに見える筈……。
もうすぐ今日も日が落ちそうだけど……やったわ、一つ目の巨大湖とうちゃーく!!

《美空ちゃん、湖着いたわよ!》

《んー!?予想はしてたけど本当に移動はやすぎだろ!》

《だって全然疲れないんだもん》

《……そりゃ元気なことだな。そうそう私さっき高音さんに伝えてオスティア着いたら高速艇に乗り換えて桃源まで行くことにしたからさ。順調に行ってオスティアから1日と十数時間で着く計算》

《美空ちゃんネギの所に急いでくれるの?》

《まぁそんな所だよ。私の柄じゃないんだけど走るだけならアスナにも負けないアーティファクト持ってるからさ。ネギ君がもし今のペースで移動し続けたとしても1000kmはいかないだろうからそれだと未だ寒冷地帯抜けきらないからね。装備整えて私から助けに行くつもり。そしたら本気出して十数時間走れば一気に近くまでいける……と思う》

《えっ!?一体美空ちゃんどれぐらい早く走れるのよ!》

《時速100kmは行けるぜ!飛空艇より早いぞ!》

《そんなに長時間走って疲れないの?》

《いやー私も陸上部の短距離専門なもんだからそんなに走り続けた事ないんだけどさ、アーティファクトだからそんなに疲れないんじゃないかと思うよ。おまけに高低差数十メートルの着地も余裕だし。あと箒も持って行くから力場帯で寒さも高地の低酸素現象も軽減できるしさ。まあ私も初めての試みだからやってみなきゃわかんないけど、もし長時間走れないなら走れないで休憩しながら行けばなんとかなるっしょ》

《ありがとう美空ちゃん!ネギを助けてあげて!》

《任せとけ!……とは胸を張って言えないけどまだネギ君には言わないでおいてね》

《なんで?》

《そりゃネギ君私が南極に特攻するなんて聞いたらやめてください!って言うに決まってるじゃん》

《そ、そうね……。分かったわ。ネギには伝えないでおくわ。でも美空ちゃんも気をつけないと駄目だからね!》

《はいはい、私も決死の覚悟って訳でもないから助ける範囲内で、安全第一で行くつもりだよ》

《それでも何があるかわからないんだからしっかり連絡はしてよね。で……どっちに村があるのかしら……って、んー?んー!あったわ!》

ちょっと煙突のようなものから煙が上がってるわね。
それにボートのようなものが湖に浮いてるのも見えるし。

《見えるんかい!》

《それじゃあちょっと行ってくるわね》

こうして湖畔に沿って進むのも結構いい景色ね。

《おっけー。多分ヘラスの人は褐色系で頭に角生えてるけど驚かないようにね》

《そうなの?》

《そうです。しかも長命で見た目より全員年上だから基本敬語がいいよ》

《分かったわ。忠告ありがとう》

《それじゃこっちは一応夜中なんだけど明日明後日と飛空艇の中だからまだ起きてるつもりだし、何かあったら連絡しなよ》

《うん!》

このかも宿屋に泊めて貰ってたぐらいだから私もまともな寝床が欲しいわ。
一応獲った魚もあるしなんとかなるといいんだけど……。
日がもう落ちてきてるから急がないとね。

……20分ぐらい移動し続けて着いたわ。
村の人も私に気がついたみたい。
女の人みたいね、良かった……本当に角が生えてるけど。

「あのー!すいませーん!ここに宿屋ってありますか?」

「その前にあんた見たところ人間みたいだけど、それにその格好に荷物、一体どっから来たんだい?」

「えっと、最初から説明します。私は神楽坂明日菜と言います。丁度一昨日ぐらいにあったゲートポートのテロ事件でここから東の山の中に飛ばされてしまって二日かけてここまで来ました」

「ゲートポートで事故ねぇ……誰か知ってるのは……通信機がある村長のところにいけば分かるかもしれないね。ま、それはいいさね。私はハンナだ。ここには宿屋なんてものはないから村長の所に案内してあげるよ」

「あ、ありがとうございます!」

「小さい村だしすぐ着くからそんなお礼なんていいよ。ついてきな」

「はい!お願いします!」

ハンナさんの後について村長さんの家の所まで連れて行ってもらう途中

「ハンナさん、その子一体どうしたんだ?」

男の人がハンナさんに話しかけてきて

「ああ、何かこの辺に飛ばされてきたって言ってるよ。詳しいことは村長の所に着いてからだね」

「そうかい、こんな村じゃ面白い話も少ないから後で教えてくれよ」

「気が向いたらね!」

……何か特別っていうのでもなくただの田舎って感じね。
移動するまでに似たような反応を3人ぐらいにされたけど不法入国なんて誰も言わないわね。
気にしてないだけかしら。
村長さんの家についてハンナさんが扉を叩いたら、また女の人が出てきてそのまま私は案内されたわ。
村長さんっていうからよぼよぼのお爺さんかと予想してたんだけど……ちょっと年を取ってるぐらいのオジ様って感じね。
悪く無いわ!

「儂がこの村の村長じゃ。話を聞かせてもらえるかな、お嬢さん」

喋り方とギャップがあるわよ!
まだその話し方は早いと思うわ!

「……え、あ、はい、私は神楽坂明日菜と言います。一昨日ゲートポートで起きた事故に巻き込まれて気がついたらここから東の山の中に飛ばされてしまって、二日かけてここまで来ました」

「ほう……ゲートポートの事故のう。……ゲートポート……アスナ嬢さん、ちと街に連絡を入れるから待っとくれんか」

「はい、構いません」

村長さんは今の日本からすると古そうな電話のようなもので街に連絡をしてくれて、事件の確認から始まり、人が飛ばされたかどうかについても話がチラっと聞こえた感じどうもヘラス帝国にも情報は伝わっていたみたい。

「……ふむ、どうやら本当のようじゃな。ここへ来たということは、アスナ嬢さんは首都に向かうつもりなのかな?」

「はい、そのつもりです」

「そうかそうか。ならば今日はここに泊まっていくといい。渡し船も毎日動かしとるから明日一緒に乗って行くとええ」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

「特に何もない村じゃが、一人娘さんが増えたところで何も変わらんから気にすることはない」

「ありがとうございます!あの、良かったら今日ここまで来る途中川で魚を獲ってきたのでどうぞ」

えーっとビニール袋に入れてあるんだけど……。

「……そんな気遣いせんでええんじゃが……」

「これです!」

「おぉ!これは立派なノアキストラウトじゃな」

これ昨日も食べたんだけど美味しかった。
美空ちゃんには寄生虫に気をつけるように散々言われて、指示通り処理をした後よく焼いて食べたから大丈夫だとおもうけど。
それにしても塩あったら良かったのになぁ。

「是非受け取って下さい!」

「ほっほ、ならばありがたく頂こう。丁度夕飯も近いから一緒にうちの者に調理してもらうとするかの」

この後村長さんのご家族と一緒に、私が獲ってきた魚の料理含む夕飯を食べさせてもらったわ。
なんていうか日本の料理とは大分違ったけど新しい味って感じね!
見たことない野菜一杯あったし。
私がゲートポートから来たっていう事で旧世界、地球の事を聞かれたから話をしたんだけど皆興味津々で聞いてくれたわ。
このかも言ってたけど旧世界人って相当珍しいらしいわ。
聞いた話だと飛空艇は村長さんが連絡した街に行けば飛んでるらしいんだけどまだしばらくは普通に行くしかないみたいね。
首都は凄く綺麗なところだから期待するといいって言われたわ。
二日ぶりぐらいにまともな寝床につかせてもらえて助かった……けどネギはまだずっとここよりも寒い寒い所で食料も少ないのに頑張ってるのよね……。
美空ちゃん……できれば私が直接行きたかったけど……頼むわよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月15日、15時頃、テンペテルラ大陸、オアシス街テンペ目前―

はぁ……はぁ……お嬢様……やっと……最初の目的の街まで……辿り着き……ました……。
お嬢様……申し訳ありません……もう……歩けません……あと少しだったのですが……一旦……ここで……休みます……。
み……水……。
…………。


『おーい!誰かあそこに倒れてるぞ!街のすぐ外だ!』

『なんだって?』

『誰か手の空いてる奴、休んでないでちょっと手伝え!』

『おう、俺がいってやる!』

……何か街の人の叫んでいる声が……。

「女の子じゃねぇか、一体どうしてこんな所で倒れてんだ」

「分かんねぇがとにかく運ぶぞ」

「ああ」

……どうやら街の中まで運んでもらえるようです……感謝しなければ……。


…………うぅ……涼しい……。

「ほら、しっかりしな!大丈夫かい嬢ちゃん」

「……こ……ここは……」

「お!気がついたよ!」

……目を開けたらそこには猫の……人がいた。

「嬢ちゃん、まずは水でも飲むかい?」

「あり……がとうございます。頂きます」

……ひ、久しぶりの水だ……。
生き返る……。

「どうだい、落ち着いたかい?」

「はい、助けて頂きありがとうございます」

ここはどこかの部屋のようだが……。

「それならジョニーさん達に言いなよ。嬢ちゃん運んできたのは運送屋の人達だからね。ちょっと待っておいで、呼んでくるからさ」

「あ、ありがとうございます」

猫の女性は部屋から出て行った。
恐らくここはテンペの筈……。
そうだ、荷物は……。
あった、ベッドのすぐそばに置いてある。
……端末もポケットの中に入っているし大丈夫だ。

『さっきの女の子起きたのか』

『ああ、さっき目を覚ましたばかりだよ』

『しっかし、街の外で倒れてるから何事かと思ったぜ』

「嬢ちゃん入るよ」

「あ、はい、どうぞ」

扉を開けて新たに入ってきたのは目が少し細い男性と……虎の人だった。

「あの、先程は助けて頂きありがとうございましたっ!」

「そんな仰々しくお礼されるような事してないから顔を上げてくれ。とにかく助かって良かったじゃねぇか」

「そうだぜ、俺たちほんのちょっと運んだだけだからな。空を飛ぶより容易いぜ」

「は……はい、ありがとうございます」

空を飛ぶって事は飛空艇で運送屋をやっている人達なのか。

「それで嬢ちゃんは一体どうしたんだい?」

「先日のゲートポートのテロ事件でここより南の砂漠に飛ばされてここまで歩いてきました」

「ゲートポートの事件つったら2日も前の話じゃねぇか。南の砂漠なんて言ったらどこにもオアシスも無いだろうに、よく頑張ったな」

「ああ!あのニュースか!運送屋仲間が場違いな所で人拾ったって話してたの聞いたな。てことはお嬢ちゃんもその一人か。そりゃ大変だったろう」

「はい……それなりに」

「何より無事で良かったね。あたしゃここの食堂の女将やってるもんだよ。何かあったら言ってごらん」

「あ、これは申し遅れました。私は桜咲刹那と申します。あの……できれば1泊か2泊程泊まれる場所を教えてもらえないでしょうか。連絡だけは知り合いと取れていて、ここに迎えに来てくれる事になっているのですが……残念ながら一銭も持ち合わせがなくて」

「ああ、それならうちに泊まって行きなよ。それぐらいお安い御用だよ」

「あ、ありがとうございます!泊めていただく代わりと言っては何ですが、それまでの間是非ここの食堂を手伝わせて下さい!」

「それは刹那ちゃんみたいな可愛い子に店手伝ってもらえると嬉しいんだけどね……だけど体は大丈夫なのかい?かなり疲れているみたいだけど……」

「大丈夫です!身体は鍛えているのですぐに元通りの体調になりますから。あともう1時間程休めば問題ありません」

「そうかい……?無理するんじゃないよ。思ったよりも脱水症状が酷いこともあるからね」

「はい、お心遣いありがとうございます」

「随分礼儀正しい子だなぁ。俺はジョニーってんだが何かできることがあれば遠慮せず言ってくれよ刹那ちゃん」

「俺はトラゴローだ。よろしくな」

「ありがとうございます、ジョニーさん、トラゴローさん」

この後女将さんに言ったとおり1時間程休んでいる間にネギ先生達、高音さん達への連絡も終えた。
高音さん達が飛空艇で迎えに来て下さるのは8月17日の未明の予定のようだ。
お嬢様は箒を現地の方から貰ったことで一日置きに村から村へ移動されており、今は丁度寝ておられるが起きたら今日はまたケフィッススに向かって移動されるそうだ。
早く……合流しなければ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月16日、メガロメセンブリア時間、午前1時頃、オスティア行飛空艇内―

長い……ってかやっぱ飛空艇めっちゃ遅いわ!
飛行機持ってこいよー!
ロンドンやらアメリカとか数千km離れてても数時間寝たら着く距離だったじゃんか!
あれだよ、地球の豪華客船で世界一周の旅とかいうならこれぐらいでいいんだろうけどさ、私は現代人でしかもかなり急いでんですよこっちは!
やっとオスティアまで残り半分ぐらいの時間になったけどイライラするわー。
ココネ肩車してウロウロしてたら「ミソラ、降ろして」って言われたもんなー。
あー落ち着かねーの何のって。

良い感じなのは、とにかく安全な学校の勉強が好きになったゆえ吉、トレジャーハンターのどか、箒でガンガン魔法少女このか、二つ目の巨大湖&次の村に到着した逞しいアスナ、それと数時間前にテンペに到着したっていう連絡が入った桜咲さんぐらいだな。
楓達とくーちゃんは相変わらずだけど……ネギ君に続き小太郎君も少し元気が無くなってきてて、更にその当のネギ君は今まで結構通信会話の主導を握ってまとめてたんだけど、それすらも余裕が無くなってきた感じなんだよな。
そもそもおかしいのは、朝と夜がよくわからない極地だからって、10時間契約執行活動した後6-7時間睡眠のサイクルを既に4回はやってるって事だよ。
その10時間でしっかり100km進めてるのかっていうとそれもはっきり言わないから予想するしかないんだけど平地じゃない所も頻繁に出てきてるみたいだし、寝るときにかまくら作ったりだとか、洞窟見つける作業で結構時間くわれてるから難航してるとしか思えないわ。
大体6-7時間寒い中寝た程度で魔力って全快すんのかっていうのが一番気になる……。
ネギ君に大丈夫か聞いたところで大丈夫ですって元気なく返してくるだけだからマジで上辺だけなんだよなぁ……。
それに反比例するようにアスナが異様に元気振るから逆にわかりやすすぎて痛々しい……こういう時離れている相手の状況がわかるだけっていうのは悩みの種にしかならねー。
本当に単純に考えると1ヶ月から2ヶ月は何も食べなくても水さえあれば生きていけるってことだけど……これは極地を想定してないデータだろうしなぁ……大体魔力使い続けて精神的披露もかなりアレだから全然アテにならんし、私が桃源につく約4日後にどうなってることやら……。
あーもう頑張って寝よう……。

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―8月15日、18時頃、ヘラス帝国首都ヘラス、城内某所―

「アーニャ、ここの生活は慣れたか?」

「は、はい、こんなに良くして頂いてありがとうございます」

もうここに滞在して4日目、慣れたかと言われたら慣れたわ!
飛ばされた瞬間から城内だったけど外から一度城を見せてもらったらメルディアナ魔法学校の比じゃないわよ。
周りは綺麗な湖で囲まれてて夢みたいなお城ね!
凄く大きな龍樹っていう龍なんかもいるし魔法世界ってどこもこんな感じなのかしら。

「ネギ達の捜索の手配はちと手間取ってしもうたがようやく各所には連絡を回せたからもう少し待っておれ」

「ありがとうございます。でも何故ニュースで流さないんですか?」

「それはじゃな……仮にもネギはナギの息子で帝国の中には恨みを持っている者もおるから名前と写真を公表して帝国内で捜索するのは良くないからじゃ。それとアーニャの話を聞いた上での妾の勘なのじゃがゲートポートの事件は何やら臭うから下手にニュースで流すとマズいと思ったのじゃ」

「……そうなんですか……」

「それに基本的にニュースで顔が出るのは指名手配の場合が多いから勘違いされてネギ達が不埒な輩に襲われるのを防ぐというのもある。賞金稼ぎがその辺ウロウロしとる世界じゃからな」

「……そ、そんな事あるんですか……」

「よくあることじゃ」

ロンドンで占いやっててもそんな危険な人達なんてどこにもいなかったわよ。

「……それにしても……アーニャとネギの故郷が悪魔の襲撃にあったというのは、あの腐ったメガロメセンブリア上層部から嫌な臭いがプンプンしおる……」

「え……?」

メガロメセンブリアってネギ達が行くところだったじゃない……。

「おっと、済まぬ、今のは忘れてくれ。妾の思い過ごしじゃ」

「は……はい」

「しかしネギの師匠があの闇の福音というのは世の中面白いものじゃな」

「私は離れなさいって言ったんですけど実際会ってみたら闇っぽさはどこにも無いし、ネギは本当に強くなってて驚きました」

「千の雷を使ったというのが本当ならまさに二代目と言ったところじゃな」

「私その時のことは直接見ていないからよくわからないんですけど……」

「ふむ……ネギが強いなら丁度10月にオスティア記念式典で大拳闘大会もあるし変装でもして出てみたら面白いと思うんじゃが……どこにおるか分からないのではな……」

「大拳闘大会っていうのは……?」

「ナギ・スプリングフィールド杯という名を冠した年に一度最強の拳闘士を決める大会の事じゃ」

「な、ナギ・スプリングフィールド杯!?」

なんでネギのお父さんの名前そのままなのよ!

「アーニャが知らないなら無理ないが、実にそのままの大会名じゃろ?」

「もっと別の名前があっても良さそうですが……」

「ま、それはあのバカに言えばいいんじゃが一体どこにいるんだか……来いと言っておるというに音沙汰も無いし……」

「あのバ……カ……?」

「ナギの事ではないぞ。どちらもバカじゃがな。はっはっは!」

「あ、私達がメガロメセンブリアに行く時に迎えに来てくれる人がジャック・ラカンっていう」

「なんじゃと!それでは、あやつメガロに行っておったのか……。ああ、済まぬ、バカというのはそのジャック・ラカンの事じゃ」

「そうなんですか。出発前ネギはラカンさんは来ない可能性が高いって不死の魔法使いから言われたって言ってました」

「おー、信用されとらんな。確かにジャックの事じゃと約束すっぽかしそうじゃな。どうにか燻りだせないものか……」

こんな感じで私のメガロメセンブリアの首都じゃなくて帝国の首都での生活は過ぎていくけど一体ネギ達はいつ見つかるのかしら……無事だといいけど……。

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―8月16日、22時頃、テンペテルラ大陸、オアシス街テンペ、食堂―

あと数時間で高音さん達が迎えに来てくださるが、ここで私は役に立てたのだろうか……。
昨日助けてもらってから、その日の夕方から食堂を手伝っているが……。

「はい、刹那ちゃん、これで今日の店はしまいだよ。それで今晩は泊まっていくのかい?」

「あと数時間で飛空艇発着所に迎えが来るのでお構い無く。女将さん、少ししか手伝えませんでしたが、ありがとうございました」

「いやいや、そんないいって。ここに可愛い子がいるってすぐ昨日噂が広まったみたいで今日はいつもより客が多かったからね。運送屋の人達も喜んでたよ」

「いえ、そんな……恐縮です」

「刹那ちゃんは謙虚だねぇ。ま、お仲間と合流しないといけないんだろ?発着所までの行き方はわかるかい?」

「はい、ジョニーさんに教えてもらったので大丈夫です」

「そうかい。それなら大丈夫そうだね。気をつけていくんだよ」

「はい、お世話になりました」

「また機会があったらここにおいでよ。特にこれといってもてなしもできないけどさ」

「それは機会があれば是非伺います。ありがとうございました」

丸1日と少しだけ食堂で手伝うだけだったが、かといってこれ以上ここに長居しては本末転倒だ。
忘れ物が無いか確認し、荷物を整えて飛空艇発着所へ向かった。

《高音さん、私はテンペのポートに待機していますので到着したら連絡お願いします》

《桜咲さん、わかりましたわ。こちらは東ポートにテンペ時間で3時に到着予定です》

《分かりました。東ポートの待合室でお待ちしています》

《それでは、あと3時間後に》

《はい》

東ポート一般旅客用の待合室で日付が16日から17日になり、3時間が経過するのを待った。
しかし、私達の中で一番酷い状態なのはネギ先生だ……春日さんが桃源という所に向かうそうだが間に合うだろうか……。
お嬢様は今日も無事次の村に着かれてケフィッススに順調に近付いているようで安心できたが……。

[間もなく、3065便タンタルス行き、メガロメセンブリアからの直通便が東ポートに到着致します。6時間程のメンテナンスを行った後9時にタンタルスへ向けて出発する予定でございます]

ようやく到着だが、メンテナンスが入るか……。
放送通りすぐに高音さんと佐倉さんの乗る便……見た目は大きなクジラが東ポートに入ってくるのが見え、乗客達が降りてゲートを通ってきた。
それをしばらく見ていたら高音さんと佐倉さんがゲートを同じように通ってくるのが見えた。

「桜咲さん!お待たせいたしました」

「桜咲先輩、こんばんは!ようやく会えましたね」

「高音さん、佐倉さん、迎えに来て頂きありがとうございます」

「当然の事です、同じ麻帆良の生徒なのですから。今から桜咲さんの渡航許可証の発行手続きを行って来ますから待っていて下さい」

「ありがとうございます」

高音さんは受付に向かって私の分の渡航許可証を発行する手続きを始めてくださった。
他人が発行できるのか気になったがどうやら顔写真は必要ではなく名前さえあれば良いようだ。
危機管理が緩い気がするが、佐倉さんの話によると元々渡航者は幻術や変装、認識阻害を使用している事は日常茶飯事でわざわざ写真登録をする方が煩雑だからという理由らしい。
地球とは大違いだ……。

「桜咲先輩、私達、ネギ先生達も魔法世界にいらっしゃる事を全く知らなかったんですが、極秘だったんですか?」

「極秘……だったかどうかは分かりませんが、学園長に手回しして頂いたので情報管理はかなり厳重だったかと思います。特にネギ先生の情報はマズいですから……」

「そうですよね。私も麻帆良でネギ先生の事に気づいたのは大分時間が経ってからでした」

「それがあのまほら武道会で認識阻害がかかっていたという話であっても地球では派手に目立ってしまったが……」

「魔法世界側には大会の情報は流れてなかったようですし、多分大丈夫ですよ。あ、それともう首都メガロメセンブリアではないので封印箱開けられますよ」

ようやく夕凪……と仮契約カードを受け取れるのか……。
あ……高音さんと佐倉さんは仮契約カードの事を知らない……。
ここは私がなんとかフォローしなければ!

「ありがとうございます」

「桜咲さん、発行手続き終わりました。それでは飛空艇に戻ってから話の続きをしましょう」

「はい、お姉様」

手続きを終えて戻ってきた高音さんの発言により私も飛空艇の中に初めて入る事になった。
飛空艇自体移動するホテルのようで、主な食事をする場所だけは広い食堂だがそれ以外は個室に大体の機能がついているようだ。
高音さん達の部屋は元々私と古の事を考えて4人部屋を取っていたらしくかなり広い。

「桜咲さん、それでは封印箱をどうぞ。首都メガロメセンブリアに戻るか、アリアドネーの場合許可証が必要ですが、当分は必要ありません」

「ありがとうございます。それでは開けます」

「何かドキドキします」

「ただの武器類ですから面白くはないと思いますが……」

封印箱をこうして見るのは初めてだが、確かにウェールズの宿で詰めた時よりも遙かに小さい。
開けたらどうなるのだろうか……。
封印に張ってある紙を剥がし両開きにしたら……。
机の上、近くのベッド等、空間のある場所にどんどん並んでいった……。

「わー、本当にクナイや手裏剣入ってたんですね。確かに邪魔ですけど……私達が来た時は杖と契約カードしか入れてませんでしたし大分違いますね」

「こんなに沢山あったんですわね……」

殆ど楓の物だが……。

「……あれ、仮契約カードがありますね……」

「あら、本当ですわね」

「あの……それは私達とネギ先生との間でこの旅行期間中だけ限定での仮契約カードなんです」

「ええ!?その為にわざわざキ、キスなさったんですか!?」

やはり一般的にはキスの方法が普通なのか……お、お嬢様とは一体どうしたら……いや、そんな滅相もない……でも……あぁ……うーん……。
ハッ!そんな事考えてる場合じゃない!

「あ……いえ……私達全員に聞けばわかりますが、指の血を媒介とした違う方法で行いましたので誤解しないで頂けると……」

「あーそうなんですか、流石ネギ先生ですね!生徒の身の安全の為にわざわざ仮契約までするなんて」

「そ、そうでしたか……まほら武道会の時の私への気遣いもそうでしたが流石ネギ先生ですわね」

ネギ先生、3-Aからだけではなく他の方々からの信用もあるようですね。
私は夕凪と自分の仮契約カードを回収、皆の仮契約カードも無くならないように纏めてホルダーに入れて保管、ネギ先生達の杖と楓の武器類は……なんとかしよう。

「この箱にもう一度残りの武器類を封印するという事はできないのでしょうか?」

「使い捨て用の箱ですからね……それに何度も使える圧縮用の箱となればそれだけで費用がかさみますから一旦開けてしまえばただの箱です。それに高いのはあの封印紙の方ですわ」

「そうなんですか」

「まだ出発まで時間もありますし、保管用に鞄を用意してきましょう」

「高音さん、お願いします」

「愛衣、ネギ先生達と春日さんに合流できたことを連絡しておきなさい」

「分かりました、お姉様!」

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―8月17日、4時頃、新オスティア、飛空艇南ポート―

約3日の飛行でやっとこさ新オスティア国際空港の東ポートに到着。
4時間っていう妙な時差が発生してるもんだから起きたら丁度いい感じの朝のつもりが予想以上に早起きだったって感じだな。
昨日寝る直前桜咲さんと高音さん達が合流できたって話を聞いたからやっとこれで一人目と合流……先は長い。
なんか仮契約カードが封印箱の中に大量に入ってて祭りになったみたいだけど、実際のところ全部面倒な契約方法でやったらしい。
ま、その辺突っ込んでもネギ君的に今アレすぎるしどうでもいいスよ。
多分今頃高音さん達はそのままタンタルスに出発してる筈で私はここで一旦降りてどうするかだな。

「ココネ、荷物の準備できたー?」

「出来てる。ミソラは?」

「よーし、おっけーだね。じゃ高速艇に乗り換えよう」

3日間も篭ってた飛空艇ともおさらばして、空港のカウンターで高速艇用の追加チケットを早くも高音さんから貸してもらったクレジットカードで購入、次の出発は8時。
大体4時間ある訳で……高速艇に荷物を置いてからその間にネギ君を救出するための装備で揃えられるものは揃えておくことにした。
オスティアの品揃えはかなりメガロに近いから桃源で揃えるより余程良い。
まほネットで検索したら、一つ2000ドラクマ、32万もするけど、8時間ぐらい持つ使い捨て型サーモスタビライザーなんて便利なものがあるからいくつか買っていこ。
要するに一定空間を設定した温度に保ってられるっていう魔法具ね。
これで自腹だったら死ねるけどクレジットカード助かるわ……。
しっかし魔法具値段たけーつの。
魔法具店は……そんな空港から離れてない筈だけど……。

「ミソラ、あそこ」

「おお、流石ココネ。そんじゃ行くか」

メガロ程日本の高層ビル群は無いけどやっぱ浮遊都市ってだけあって着陸した瞬間は壮観だったわ。
魔法具店はレンガ造りの雰囲気がまさに魔法って感じの場所だった。

「いらっしゃいませ、何かご入用でしょうか?」

入った瞬間あるのはカウンター、んでもって入り口すぐにはお姉さんだよ。
あれか、魔法具店ってだけあって一つでも万引きされると速攻赤字になるから全部品物はカウンター越しの売買なのか。

「サーモスタビライザーをいくつか買いたいんですが」

「サーモスタビライザーですね。少々お待ち下さい」

お姉さんはカウンター奥に入っていって出しに行った。
カウンターにはでけぇおっさんがいるんだけど威圧感スゲー。
主にヒゲとかヒゲとか。
どーみても魔法使いには見えないわー。
何かどこ見るわけでもなくどっしり構えてんなー。

「お待たせ致しました、こちらがサーモスタビライザーα型になります」

ちっちゃ!
まほネットの写真あてにならねー!
何かやたら小さい円盤みたいなんだけど大丈夫なのか……?
てか何だそのαってのは。

「えっとαというのはどういう事ですか?」

「保持時間に違いがありまして、αが4時間、βが6時間、γが8時間になっています。お客様の使用用途をお教え頂ければ適切な時間をお教えできますが」

なんつーゲームのアイテムっぽい製品なんだよ。
いや、アイテムはアイテムだけどさ。

「雪山で使う予定なんですが、途中で休憩するかもしれないですし、何泊かするかもしれないんで……」

「ならαとγ両方だな」

おっさんいきなり喋ったー!

「お客さん、どこの雪山行くんだい?」

「えー、南極です……」

「南極ね……そっちの子とかい?」

「いやー、私だけです。ハハハ」

ココネは連れてけねーよ。
桃源で待っててもらうわ。

「細かい事は聞かんが南極は寒いから気をつけろよ。そうだな、南極行くなら何が起こるか分からんから余分に持っていった方が良い。行きに一日帰りに二日ぐらいで考えるべきだ」

「お客様、マスターは南極に行ったことがありますので信用してくださって大丈夫ですよ」

うはー熊男だからってそのまんまもいいとこすぎるだろー!!
もう少し捻れよ!
つか経験者に語られてんのかこれ。
6日もいらんだろうけど……5でいいか……。

「……分かりました、5日分でお願いします」

「5日ね、予定わからないっていうならそれぐらいがいいだろう。一日にα1つγ1つで15000ドラクマね」

「く、クレジットカードでお願いします……」

「お預かり致します」

げげー、240万?そんな感じか?高ッ!
つかその値段で普通みたいな対応されると引くわー。
まあ……さ、元々魔法具店なんて金ある奴が行くところだから当たり前っちゃ当たり前だろうけど……。

「お客さん、品物はこれね。命は大切にしなよ」

「は、はい、それはもう」

「こちらクレジットカードお返しします」

「どうも」

「お買い上げありがとうございましたー!」

はぁ……カードで買った筈なのに何か抉られた気がする。
とりあえずこれがあれば後は風が防げる簡易テントぐらいで毛布もデカイのはいらんし楽なのは確実だな。
後はドライフードでも買っていくかー。
やたらかさばる食料なんてリュックに入れて持って行く気起きないし。
雪があるなら水がなくても……と言いたいけど無いかもしれないから普通の食料も必要だな。

「ココネ、次行こうか」

「分かった」

続けて必要なものをあらかた買ってから高速艇に戻っていざ桃源へ。
やっぱ高速艇ってだけあって早い。
一般旅客用の2倍の速度は出てるよ。
その分他の飛空艇に比べて飛んでる高度も高いんだけどさ。
私はまたもや、まほネットで桃源から単純に南下し続けた場合のルートを検索しながら過ごしつつ昼飯を食べたりしてたんだけど、アスナから連絡があった。

《さっき丁度お昼に結構大きな街についたんだけど、門番の人に呼び止められたのよ!そしたらヘラス帝国で独自に私達の事探してくれてるみたい!》

なんじゃそりゃ、どーして帝国の方が探してくれんのさ!
丁度私よか東側の皆とネギ君と小太郎君は寝てるから反応はしないだろな。

《アスナ、そりゃ良いけどなんでまた帝国が?》

《なんか軍の人だけに私達の写真と名前が回ってるみたい。コタロは名前だけらしいけど。探してるのは皇女様だってさ》

は?
極秘指名手配ってわけじゃないだろうけど……。

《アスナさん、それはもしかしたらアーニャさんかもしれないわね》

あーそういう可能性もあるか。
いや、にしてもなんでいきなり皇女様が出てくんだよ。

《ドネットさん、確かにアーニャちゃんかもしれませんね!》

《アスナさん、小太郎君が北極にいるの伝えたかしら?》

《あ、はい、伝えます》

《どうやらアーニャ殿も無事であったようで何よりでござるな》

《良かったなぁ。アーニャちゃんもアスナも》

《もしアーニャちゃんが城の中に突然転移してたらどこのお話だって感じだけどさ》

《しかし、城の中にでも転移しなければ皇女と話すのは不可能では?》

茶々丸……なるほど、的確だ。

《た……確かに》

《私このまま首都行きの軍の飛空艇に一緒に乗せてもらえることになったから行くわね!》

アスナが最初に乗るのがクジラじゃなくてシャチのインペリアルシップとは……。

《多分インペリアルシップだな。アスナ、それ滅多に乗れないから後で感想よろしく》

《そうなの?分かったわ》

《小太郎君が起きたら捜索が出ていることを伝えましょう》

《了解です》

ヘラス帝国の方が安全って何だ。
皮肉すぎるわ。
軍用の船なら高速艇より速いから首都までその日のうちに着くだろな。
それに引換えメガロと来たら未だにゲートポート関係で軍関係は動かないしなんて機動力の無い……。
まあテロ受けたんだから仕方ないっちゃ仕方ないけど。
まだ1週間経ってないしね。

《私達も今日には山越えも終わってようやくヘカテスまで出られるわ。その後二日移動してグラニクスに行く予定よ》

《やっと街でござるな》

マジかー!
超危険樹林組もようやっと脱出スか。

《いやー、ドネットさん達が無事にケルベラス大樹林抜けられて良かったです》

一番襲われるっていう点で命が危険なケルベラス大樹林から脱出ってギネス申請できるレベルだろ……。
竜種に襲われてマジやばい時は茶々丸のガチ武装でレーザー撃ったりしたらしい。
流石現代兵器、威力は自重しない。
楓もその辺にあった固めの石加工して武器にしたらしいし、サバイバル本家は伊達じゃないな。
わざわざ高音さん達が手裏剣やらクナイ運ぶ必要があるのか謎だ……。
この調子で行くと19日にはネギ君と、帝国軍次第だけど小太郎君以外は大体みんなどこかしら村か街にはいる感じか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月17日、20時頃、ヘラス帝国首都ヘラス、帝国直轄飛行場―

門番の人に話かけられて名前名乗ってからはあっという間。
空港に連れて行かれて美空ちゃんが言ってたインペリアルシップっていうのに乗せてもらったわ。
千数百キロぐらいあった筈なのに数時間で着いたから本当に速かった。
それでも飛行機程速くなかったけど……。
首都の景色を上空からも見れて、言ってみれば本当に湖に囲まれた水の都って感じ。
丁度夜で明かりもついてて夜景が綺麗だったわ!
それにしてもここ数日変な夢ばっかり見てる気がするんだけど、私こっちに来たことなんてあったのかしら……。

「どうぞ、カグラザカアスナ様、足元に気をつけてお降り下さい」

「ありがとうございます」

降りてみたら、まーインペリアルシップしかない飛行場ね。

「アスナー!!」

あ、あの手を振っているのは!

「アーニャちゃんっ!!」

思わずかけ出しちゃって周りの人達驚かせちゃったけどそれよりアーニャちゃんよ!

「アーニャちゃん、ヘラスにいたのね!良かったー!」

「アスナこそどこいたのよ!それにネギ達も居場所全然わからないじゃない!」

「それがネギ達の場所は全部分かってるのよ」

「え?」

「そなたがアスナか?」

近くにいた綺麗な女の人で……探してたのは皇女様っていう事は……。

「あ、はい、私が神楽坂明日菜です。もしかして皇女様ですか?」

「そうじゃ。妾はテオドラ、帝国第三皇女じゃ。アーニャが数日前妾の部屋にいきなり現れたでの。捜索の手伝いをしたのじゃ。積もる話も何じゃ、城に戻るぞ」

「え、アーニャちゃんもしかして飛ばされたらお城の中だったの?」

「そうよ」

ほ、本当にどこのお話よ……。
皇女様とその護衛の人達に連れられてお城まで連れていってもらったわ。
徐々に護衛の人達が減っていって案内されたのは皇女様の部屋。

「よし、ここなら話せるぞ。アスナ、コタロとやらが北極にいるという情報だが、状況を整理してから明日、明けてすぐ一番に捜索を出させるからしばし待つと良い」

「あ、ありがとうございます!」

「アスナ、なんでネギ達の場所が全員分かるのよ」

「これよ。アーニャちゃんに見せてなかったけどこの端末で皆とはここ数日通信できてたの」

「何よそれー!私だけ仲間外れ!?」

皇女様の前でこんなにはっちゃけていいのかしら……。

「そんなつもりじゃないけど、人数分しかなかったのよ。ドネットさんの分も無かったし」

「そ、そうだわ、他の皆の場所はどこよ」

「夕映ちゃんはアリアドネー、楓、茶々丸さん、ドネットさんは今日ケルベラス大樹林って所を抜けてヘカテス、このかはケフィッススから離れた村、刹那さんはこっちに来てた麻帆良の魔法生徒の人と一緒にタンタルスに向かう飛空艇の中、くーふぇはタンタルス北のあたり、のどかはノクティス・ラビリントゥスでトレジャーハンターの人達と一緒。それでコタロが北極で……ネギが南極よ」

「場所言われてもちょっと良くわからないけどネギが南極って……」

「ものの見事に……バラバラに飛んだようじゃな。ケルベラス大樹林を抜けてヘカテスにたどり着いたとは驚いたが無事で何より、コタロは明日には捜索が出るから大丈夫じゃろうが……ネギはアスナの言い方からすると良く無いようじゃな」

「はい……しかもネギだけじゃなく、ゲートポートの受付の人も一緒に飛ばされていて食料も殆ど無いのに移動してるんです……。一応今高速艇でオスティアから桃源に向けて麻帆良のもう二人魔法生徒が向かってるんですけど……」

「ネギとその受付の人そんな寒いところでどうやって移動してるのよ……」

「ネギが仮契約して移動中はずっと契約執行してるらしいわ」

「ま、また仮契約!?ってそんな場合じゃないわね……。移動中ずっとって数時間もやってるの?」

「初日は10時間やってたわ」

「じゅ、10時間!?」

「ナギも馬鹿魔力かと思えばネギもか……しかしいくら魔力が多いと言うても限界があるじゃろ。済まぬな、ヘラス帝国は南極に助けをやることはできぬ」

「皇女様、気にしないで下さい。アーニャちゃんと私、コタロをありがとうございます。それで……ネギのお父さんの事を知ってらっしゃるんですか?」

「ああ、妾はナギに会ったことがあるしよく知っておる」

「アスナ、その話はまた後でいいけど、ネギとその端末っていうので通信はできるの?」

「できるわ……丁度今日最後の移動中よ。ちょっと待ってね、アーニャちゃんの声を聞いたらきっとネギも元気になるわ。……はい、これに手を当てて。通信は念じるだけでいいから。良かったら皇女様もどうぞ」

個人通信でいいわよね。
アーニャちゃんの無事は皆と別に話せばいいわ。

「妾も良いのか?それでは遠慮せず」

《ね、ネギ、アーニャちゃんヘラス帝国にいたわ。今一緒で助けてくれた皇女様もいるわ》

《う……アスナさん、ほん……とうですか?アーニャ、無事で良かった……。皇女様、助けて頂きありがとうございます……》

5日間の間なのにもう8回目の移動……だったと思うけどこんなに衰弱して。

《ね、ネギ。私は無事よ、あんたその……大丈夫なの?》

《テオドラじゃ、ネギ、礼には及ばん。身体を大事にせよ》

《アーニャ、僕は……大丈夫……。前よりは……寒くないところにいるし……。テオドラ様、ありがとうございます……。アーニャ、必ず僕……皆と合流するから……ちょっと待っててね……》

《ネギ、もう無理しなくていいわ。また後で連絡しなさいよね》

《はい……アスナさん。また後で……》

あの子本当に大丈夫しか言わないんだから……。

「アーニャちゃん、ネギはこんな感じなの……。でも、美空ちゃんって私の友達が助けに行ってくれるから絶対大丈夫よ」

「わ、私も助けに行くわっ!」

「アーニャよ、落ち着くのじゃ。ここからでもどうあっても南極に行くには数日かかる。アスナの友人の方が早くつくじゃろう」

「そうよ、アーニャちゃん」

「うぅ……だって……」

アーニャちゃんの気持ちも分かるわ。

「アスナ、ネギは杖をやはり持っておらなんだか?」

「はい、私達全員杖武器類は全てゲートポートの封印箱に残したままだったので」

「そうか……祈るしか無いの。妾に協力出来ることは帝国にいる後一人、コタロとやらの捜索じゃな」

今日は私もアーニャちゃんと一緒に城の部屋で泊まらせて貰ったわ。
皇女様がネギのお父さんが活躍した大分裂戦争で関係があったっていう話を聞かせてもらったんだけど、オスティアのあたりの話っていうのが、ネギが言うように少し私も何か引っ掛かる気がするのよね。
私の場合は魔法世界の崩壊とかそういう事とは違うんだけど……。

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―8月18日桃源時間0時頃、南極、強制転移から124時間(5日4時間)が経過―

これで8回目の移動も終わり……なんとか今日は洞窟がみつけられたけど……携帯食料はもうないし……救いは雪から水が取れるだけ……。
山が多くなってきたせいで街までの直線距離で700km進めたかどうかっていう距離……これはマズい……。
木でもあればいいんだけどまだどこにも植物は無いし……本当に雪だけだ。
嬉しい情報はアーニャがヘラス帝国の首都にいたって事だ……。
お陰でアスナさんも首都に着けたみたいだし詳しくは聞いてないけどコタローもこのままなら大丈夫だろう。
こっちは春日さんが来てくれるって事だけどまだ時間がかかるだろうな……。

「ネギ君……今日は昨日より休んだほうがいです。いくらネギ君の魔力が多いと言っても6時間ぐらいでは完全に回復したりしないでしょう」

「は……はい、でも大丈夫です」

「ネギ君、大丈夫ばっかり言ってます。どう考えても大丈夫じゃないって言っているようなものです。休んでください」

そういえばアスナさん達にもずっと大丈夫ばかり言ってるな……。

「分かりました、ミリアさん。今日は少し長めに休みますね」

「そうして下さい」

……実際には6時間を超えて契約執行を切っていると凍死しそうだから早めに起きて移動するのを口実に契約執行し続けてるんだけど……これは言えないな……。
食べ物を食べていないからエネルギーが足りないのも問題だ。
多分身体にもともとある脂肪を燃焼させてるだろうけどその実感も無いし、走り続けられる程のエネルギーが得られているとは思えない。
多分あと1日か2日で魔力が回復し切らずに移動中に足りなくなるかもしれない……けど……無理でも……無理を押し通すしかない。
皆と合流するって約束したんだ、絶対にこの約束守ってみせる。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月18日ヘラス時間、8時頃、北極、某所―

アスナ姉ちゃんが言うにはもう捜索が出とるって事なんやけどこの辺山多いからな。
1000km越えたんは間違いないんやけどまだどこにも鹿見つからんな。
凍った肉まんは全部食べ終わっとるし、ハラ減ったわー!
咸卦法覚えといてホンマ良かったわ。
この5日で結構上達したからな。
生き死にかかっとると底力出るもんやで。
待っとってもしゃあない、まだまだ進むで!
右腕に気、左腕に魔力……合成!!

―咸卦法!!―

アスナ姉ちゃんみたいに長時間はずっとやんのは無理やけど5分は必ず越えられるようになったからな。
このか姉ちゃんおったらもっとやってもええのやけど爆発は御免や。
やっとただの何もない雪山からちらほら木も見えるようになったな。

……何やこの音?
ゴゥンゴゥン言っとるな。
お、空に何や浮いとるのが見えるで!
ひぃふぅ……正確にわからんけどいくつか来とるな。

[こちらヘラス帝国軍捜索部隊、イヌガミコタロ、付近にいれば応答されたし、しばらく応答が無ければ移動する]

まーたコタロってアーニャ言うんネギの幼なじみにしろアスナ姉ちゃんにしろあとちょい伸ばせばええだけやないか!
まあええ、荷物あるけど浮遊術で寄っていったるわ。
のろし替わりにこれも見てみろや!

―咸卦・疾空白狼牙!!―

狗神は普段黒いんやけど、前と違うて初速に咸卦法を乗せるんやなくて、狗神自体に咸卦法の力も乗せるようにしたら白く光るようになったわ。
これやと影使い廃業やけどな。
ま、威力は段違いに上がっとるからええ。
ネギと組めばそう簡単に負けはせえへんで。

結構高いところに浮いとるんやな。
真面目に打ち上げたんやけど、届かんわ。
ま、既に空中の高いとこ浮いとるから気づくやろ。

[イヌガミコタロと思われる人物を発見、2番艦高度を下げ救助活動に入る]

おお、下がってきおった。
何や飯食わせてくれると助かるんやけどな。
俺も1000mぐらい上がったところで同じ高度に到着したわ。

[これよりハッチを解放する、入ってこられたし」

アスナ姉ちゃんシャチみたい言う取ったけどサメでもええんちゃうか?
浮遊術でそのまま開けてくれたとこから入らせてもらったわ。

「助かったで、感謝するわ!」

「イヌガミコタロ殿ですか?」

あー、ホンマに角生えとるんやな。

「ああ、犬上小太郎や」

「送られてきた写真の特徴とも合致します。間違いありません。犬上小太郎殿、本艦へようこそ」

「首都まで世話になるで。あー、できればなんやけど、何でもええから食べる物くれへんか?腹減ってかなわんわ」

「それは勿論です。食堂がありますのでご案内します」

「よっしゃ!やっとまともな食事や!」

軍人やっとるのなんて男ばっかりかと思っとったけど女の姉ちゃんもおるんやな。
荷物を預かってもろて食堂に連れてもらって腹が膨れるまで食わせてもらったわ。

「コタロ殿が先程本艦に近づいてきたのは浮遊術ですか?」

「なんで兄ちゃん達俺に敬語使ってるんや?俺どうみてもガキやろ。質問やけど、浮遊術やで」

兄ちゃん達俺の周りに集まっとんのやけど集中して食えへんわ。

「言葉遣いは決まりですので。その年で浮遊術とは素晴らしい。格闘の方も得意なのですか?先ほどの狼煙も変わったものでしたがかなりの威力があったとお見受けしました」

あれ見て威力分かるんか。

「格闘っちゅうか俺普段ずっと修行しとるからな。前より強くなったのは確かやけど、まだまだやな」

まほら武道会は俺やネギでも敵わん相手多かったしな。
楓姉ちゃんより凄い忍びやとか瀬田の教授やとかはるか姉ちゃんやとか蘇芳の兄ちゃんやとか全勝しとった人達には咸卦法使えてもまだ勝てる気がせえへん。
あの教授に至ってはその場で使いおったしな。
ホンマありえへんで。
……おっ、この肉ウマイな!
もしかして鹿か?

「拳闘大会というものがありますが良ければ参加されてはどうですか?ある程度腕が無いと危険ですがコタロ殿なら問題ないかと思います」

「拳闘大会?」

「はい、2ヶ月後にオスティアでナギ・スプリングフィールド杯という大拳闘大会があります」

「ブッ!!ゴホッゴホッ!」

「だ、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫や。それ俺みたいなガキでも出れるんか?」

驚いたわ。
何やねん、ネギの親の名前そのまんまの大会は。

「年齢は問題ありません。ただ2対2で戦うので一緒に戦うパートナーが必要となりますが」

「へー、それタッグバトルなんか?」

「はい、その通りです」

「ゲートも壊れて帰れへんし、俺の相棒も助かったら出てみたいな!兄ちゃん達は出えへんのか?」

ネギはちとヤバイからな……。
春日の姉ちゃんが行ってくれるゆうたけど間に合うのを祈っとるで。

「我々は軍人ですから。ヘラス族は長命なので参加する者もあまり多くありません」

あー、そう言うことなんか。
大怪我して長い事生きなあかんのは面倒やしな。
こっちの医療がどんなもんかは知らんけど。
ウマイ肉が何か聞いたらやっぱヘラス鹿やったわ。
食いまくって腹いたくなって寝たかったんやけど、その後強制的にシャワーあるとこ引っ張られて身体洗わされた。
ま、臭うんは仕方ないな!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月18日16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

ユエはこの数日でもう結構学校になれたね。
学校にある凄く変な味のするジュースに嵌ってるんだけど味覚大丈夫なのかな……。
それにトイレが近いという弱点があるのがわかった。
これを委員長に「戦場では致命的ですわ!」なんて言われてた。
そういう時は飲まなきゃ大丈夫!
で……今日も先生に例の論文の事を聞きにいったよ。

「あなた達、その論文についてここ数日聞きまわっているようだけど、そんなに気になるならグランドマスターに聞いてみなさい。私からも伝えておくから」

「本当ですか?ありがとうです、先生」

「学校の勉強だけに満足せず他の事にも興味を持つというのは良い事だわ」

「先生、ありがとうございます!」

教員室から失礼して、緊張するけどグランドマスターのいる部屋に向かうことにしたよ。

「にしても先生達にも聞いて回ったけどあんまり知らないみたいだったね」

「はい……。一つわかったのはあの論文が旧世界出身の魔法使いが書いたという事だけです」

「知りたいのはあったとしたら本当の論文、その中身なんだけどね」

……話しながら進んでたら

「お待ちなさいユエさん、コレットさん。何処へ行くのですか?」

委員長、とビーさんなんで都合よく曲がり角から現れる?

「あ、委員長もグランドマスターの所に一緒に行くですか?例の論文の事を先生からグランドマスターに聞いてみるといいと言われたです」

「セラス総長にですか!?……分かりました、私もご一緒しましょう」

委員長も論文の事調べてくれてるから断る理由もないね。
4人で学校最上階にある総長室まで行って……。

「緊張するね……」

「何を言ってるんですか、コレットさん。入りますわよ」

あ、委員長がドアノックした!

「総長失礼致します、3-C、エミリィ・セブンシープです」

『話は聞いているから入っていいわ、エミリィ』

委員長が最初に入って挨拶して

「失礼いたします、ベアトリクス・モンローです」

「失礼するです。ユエ・ファランドールです」

「し、失礼します、コレット・ファランドールです」

総長室って広いなぁ……。
大きめの机にグランドマスターって入った名札が置いてある以外は応接用のソファーと壁際に本棚があるぐらいだけど。
机の前に4人で並ぶのってなんか緊張するよー!
グランドマスターの貫禄は凄いし!

「さ、要件を聞きましょう。ユエ・ファランドール」

「は、はいです。グランドマスターは人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文で総合図書館に保管されているものとは違うものがあるか知っておられるですか?」

「あなた達がここ数日聞いて回っていたというのはその論文ね。ここの学生が調べるには変わった論文だけれど私も総合図書館のものしか知らないわね。もしかしてあなた達もあの論文に違和感があると感じたのかしら?」

「で、ではグランドマスターもあの論文が第三者によって手を加えられていると思われるのですか?」

「その可能性は否定できないわね。その前にどうしてあの論文に興味を持ったのか聞いていいかしら?」

「はい……。数日前のゲートポートでのテロと関係があるです」

「ユエさん!?それはどうい……総長失礼致しました」

「エミリィ、気にしなくていいわ。ユエ、詳しく聞きましょう。でも、まずは席をあちらのソファーに移動しましょうか」

「「「「はい!」」」」

なんだか4人一緒に総長面談してるみたい……。

「さあ、ユエさっきの続きをお願い」

「はいです。グランドマスター、内容を判断してからでいいのですが先にここでの話は秘密にしてもらえないでしょうか」

ユエ、もしかしてネギ君の事言うのかな?
確かにグランドマスターに約束してもらえれば大丈夫だと思うけど。

「……ええ、いいわよ。盗聴防止の結界も張っておくから安心しなさい。エミリィ、ベアトリクス、コレットもいいかしら?」

「「「はい」」」

「これでいいわね」

「ありがとうです。私の記憶は今一時的に失われているのですが、私を知るという人達と連絡が……この、端末で取れていてその中のある人に頼まれた調べ物なのです」

ユエが端末を机に出した。

「あら、ユエ、あなた身元が分かったの?」

「はいです。しかし、この端末で連絡が取れる人達の事がはっきりと思い出せないのも事実です。どうやら私は旧世界出身で麻帆良学園という学校の生徒だったようです」

「ユエさんが旧世界人!?」

「麻帆良学園……ね。確かに旧世界の日本にその学校はあるわね。私も知っているわ。その連絡が取れる人達とは合流しなくていいの?」

「数日前全員、ゲートで入国手続も終わらないうちにゲートポートのテロに巻き込まれ世界各地に飛ばされしまった事と、集合の順序、固まりから今アリアドネーが集合場所の一つとなっているです」

「そういう事……。ゲートポートのテロに巻き込まれた上記憶が失われているなら無闇に動くより待っていた方がいいわね。安心なさい、人助けもアリアドネーの為すことの一つだから。とりあえずそれはいいわ。続けて頂戴」

「ありがとうです、グランドマスター。話の続きですが、そのある人によると、ゲートポートでのテロ事件は魔法世界から旧世界への魔力流出を防ぎ、ひいては魔法世界の崩壊を防ぐという目的があるのではないか、という話を聞いたのです。その裏付けに人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の詳しい内容が知りたいという事なのです」

「ま、魔法世界が崩壊ですって!?」

委員長、その反応は分かるよー。

「それは……壮大な話ね……。あの時の事を思い出しそうだわ……。そのある人というのがそう思った理由は何かあるのかしら?」

「旧世界の魔力と、魔法世界の魔力は質が違うと感じるからだそうです」

「そう……質ね……。これまでそんな事に気づいた人はいなかったのだけれど……。分かりました、私もその論文についてもう一度調べてみましょう」

「グランドマスター、ありがとうです」

「ユエ、そのある人と直接話がしてみたいのだけれどできるかしら?」

「その……もうすぐ起きるかもしれないのですが……その人は今真面目に話せる程元気が無い……かなり衰弱……しているようなのです」

「ユエ、衰弱ってそれ本当!?」

ユエ、その事言ってなかったじゃん!

「コレット、言わないでいてすみません。……既に彼は南極で6日間杖も食料も無く移動しているそうなのです」

「南極!?ユエさん!どうして助けにいかないのですか!?」

「委員長……私も保護して貰っている身ですし、南極はメセンブリーナ連合領です。アリアドネーに救助を頼んでも無理なのです。メセンブリーナ連合自体は今のところ非常事態宣言のままで軍もゲートポートの事件で手一杯で動いていません」

アリアドネーからじゃ助けにいけない……。

「アリアドネーから飛空艇を出すのは確かにユエの言うとおり無理ね。その他に飛ばされた人達というのは大丈夫なの?」

「他の人達はそれぞれ全員どこかしら街には着いたそうで、その中の一人が明日には桃源に高速艇で到着そのまま出発して南極へ救助に向かうそうです」

「分かったわ、ここまで聞いたからにはアリアドネーでその人達を受け入れられるよう準備をしましょう。既にアリアドネーにも何人かゲートポートから飛ばされたという人もいるから大丈夫よ。その端末で他に話が出きる人はいるかしら?」

「ドネットさんという人がいるです、グランドマスター、コレット、委員長、ベアトリクスもこれに手を当てて欲しいです。通信開始」

ユエに言われて端末に皆で手を当てた。

《ドネットさん、夕映です》

《夕映さん、少々お待ち下さい、ドネットさんに繋ぎます》

《この方は茶々丸さんというそうです》

《変わった通信ね。念話とも違うようだけど》

《はい、夕映さん、ドネットよ。何かあったかしら?》

《ドネットさん、魔法騎士団候補学校セラス総長を紹介するです》

《ドネットさん、初めまして。セラスです。ユエさんに話を聞いて通信を繋いで貰いました》

《こ、これはアリアドネーのセラス総長ですか。初めまして、私は旧世界メルディアナ魔法学校所属のドネット・マクギネスです》

《……メルディアナの方でしたか。ユエさんから少し聞きましたが入国手続をする前にゲートポートの事件にあったとか。これよりアリアドネーはあなた方の受け入れに尽力することをお約束します》

《セラス総長……直々のお言葉感謝します》

《他にアリアドネーで協力できることはあるでしょうか?》

《お気遣い感謝します。現状、一人を除いては……順調なので問題ありません。私は現在ヘカテスから自由交易都市グラニクスに向かっており明日には着く予定ですが、そこから本国に連絡をするつもりです》

《分かりました、アリアドネーに寄ることがあればどうぞ》

《ありがとうございます。セラス総長。夕映さんもありがとう。セラス総長であれば彼の事を教えても構わないわよ》

《わ、分かったです……》

これで一旦通信は終わった。

「グランドマスター、彼というのは私も先日調べて驚いた事なのですが、あのナギ・スプリングフィールドの実の子供、ネギ・スプリングフィールドという少年のようです」

「な、ナギ様の子供ですって!?そんな事聞いたことありませんわ!!」

委員長が凄く反応したんだけどもしかしてナギファン!?

「この……写真を見て下さい。麻帆良学園での集合写真だそうです。私も写っていますが、この赤毛の少年がネギ・スプリングフィールドです」

ネギ君と他に私達と同じぐらいの女の子達が写ってる写真。
ネギ君が先生って事だから他は皆生徒なんだね。

「まあ……確かにナギ様の小さいころの面影が……」

委員長、顔が露骨に赤くなってるよ。
ってビーさんも……ってユエもか!
頬が熱くなってるってことはまさか私も!?

「なるほど……8月ということは旧世界の学校でいう夏期休暇ね。旅行に来た途端にゲートポートでテロにあって散り散りになったという訳ね。なんて運が悪い……。ナギ・スプリングフィールドに子供がいるという情報は恐らくメガロメセンブリアでもAランク以上の情報でしょうね。エミリィ、ベアトリクス、コレット、絶対にこの事を口外してはだめよ」

そうか、機密情報なのね。

「「「は、はい」」」

「ユエ、論文から話がそれてしまったけれど調べておくから安心なさい。それに記憶が戻るまでここに居ていいのは変りないわ」

「ありがとうです」

グランドマスターの部屋にこんなに長居したのは初めてだった……。
総長室を出てから寮に戻るまで委員長の顔が喜びと悲しみを交互に繰り返しながら小さくブツブツ呟いているんだけど「ナギ様の子供」って連呼してるみたい。
私も衰弱してるって聞いて心配だけど、救助に行く人がうまくやってくれることを祈るよ。

「委員長もナギ様のファンなの?」

「コレットさん、どうやらあなたもそのようですが、その通り。しかしあなたとは格が違いますわ。これを見なさい!!」

「な、そ、それはっ!?」

なんだか光輝いて見える会員証、しかも!!

「かかかか、会員ナンバー78!?二桁台なんてそんなバニャナニャ!?」

二桁なんてファンクラブが設立された瞬間、その情報を掴んでるでもいない限り持っていないはず!!

「フッ……私こそが真のナギ様のファン。親の代からのファンですわ。し……しかしユエさん……」

「お嬢様、それ以上はダメです」

「ハッ!私としたことが危なかったですわ。ユエさん、総長も言っておられましたが私もあの論文の事、全力で調べますわ。ナギ様がいなくなってしまって久しい今、これは何という天の巡りあわせ!今にも私なん」

「お嬢様、それ以上は危険です」

「ハッ!」

ビーさんの的確なツッコミでトランスする度に現実に戻る委員長は変人に見えた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月19日1時頃、桃源目前、高速飛空艇内―

眠い……。
けどようやく桃源着くな。
着いたら一旦桃源で宿とってココネと持ってく必要ないものを置いてくる必要があるな。
あーメガロが丁度6時頃だから降りる前にニュース見とくか。
あーでもまた今日も同じかな……。

[6日前世界各地で同時多発的に起こったゲートポートでのテロ事件ですが依然犯行声明もなく背景が全て謎に包まれたままのこの事件ですが、メセンブリア当局より新たな映像が公開され、実行犯の一人とも見られるこの外見上10程度の少年に見える人間に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

は?
何だコレ!!
ちょっと!誰か説明しろ!
なんでネギ君の顔がデカデカと写ってんだよ!
ネギ君系の情報機密はどーした!

[続けてこちらの映像を御覧ください]

おーおーなんだ?
ネギ君が突然ゲートの頭上にあらわれてスゲー魔法でそこにいた人達を全部強制転移……んで、要石に手をあてて……力を入れたら何か一撃で粉砕したし。
よくできてるなー。

ってねーよ!!
どうみても捏造だろーこりゃ!

[またこれら人間の少女にも同様に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

はー、アスナ、このか、桜咲さん、楓、くーちゃん、のどか、ゆえ吉……。
ナニコレ。
茶々丸、小太郎君、アーニャちゃん、ドネットさんが何故いない?
いや、なんつーかこの面子ってあれじゃね?
修学旅行の時のあの一団な気が……。
ってことはあの悪魔召喚の奴らが噛んでるじゃ……。
ネギ君が30万ドラクマ……アスナ、このか、のどか、ゆえ吉が1万5千ドラクマ、他が3万ドラクマってなー。
たけーよ。

[ご乗船ありがとうございました。桃源に到着でございます。荷物をお忘れずにお降りください]

ってそれどころじゃねー!!

「ココネ、とりあえず通信しながら移動するよ!」

「分かった」

ええーい、もう訳わからん。
ネギ君が言ってた「メガロメセンブリアのどこかが絡んでいるかもしれない」ってのはマジ大当たり、それどころか真っ黒じゃんか!
ニュースがリアルタイムで届くには場所によって数時間差があるから早めの行動が肝心。
飛空艇が常にメガロとリンクしてて一番に情報が見れたのは不幸も不幸中の幸いだわ。
とにかくネギ君以外に全員通信。
丁度皆のいる位置だと深夜で寝てる時間帯なのは私から6時間東だから都合よく誰もいない!

《高音さんも見てたかもしれないけど皆、メガロのニュースで酷い事が分かった!》

《春日さん、こちらも見ていましたわ。桜咲さんをすぐに変装させます。幸い不法入国の件を警戒して部屋に居てもらいましたからあまり人の目には触れていません》

それで撒けるのか……?
まあそれはいい。

《春日さん、一体何があったの?》

《ドネットさん、説明します。ネギ君、アスナ、このか、桜咲さん、楓、くーちゃん、のどか、ゆえ吉の顔写真がニュースで出て、名前は付いてないですけど懸賞金付きの指名手配がかけられたんです》

《な、何ですって!?》

《美空ちゃんそれどういう》

《アスナは何とか帝国で匿ってもらえ!今マズいのは、このかとくーちゃん、それとのどか!このか、そこニュース届くの遅いっていってたけどケフィッススには変装無しで近づいちゃだめだ!せめてフード被って》

《美空ちゃん、ここまだ村やから大丈夫や。しっかり変装するえ》

《美空、私もまだタンタルス着いてないから大丈夫アルよ!》

《美空さん、私クレイグさん達に伝えて変装させてもらいます》

《はーそれなら良かった。ただのどかは守ってもらえるとしてくーちゃんは強いけどこのかだな……。楓はプロだろうから大丈夫だろうけど》

ここで忍者って言わなかったことを自分で褒めたいわ。

《そうでござるな。拙者の身体操術ならば子供にもなれるでござるよ》

なんだそれ!
そこまでは求めてないわ!
セルフ年齢詐称薬って何かの宣伝文句みたいじゃんか。

《流石楓だな!ドネットさん、私桃源到着したんで今から宿取って朝まで寝たら南極行きますんで》

《分かったわ。それにしても……ネギ君が言ったとおりになったわね……。これではメガロメセンブリアには戻れないわね。皆アリアドネーに集合で決定よ》

この後私は皆の通信を聞きながら桃源空港を後にして、一番安全そうなホテルでチェックインした。
とりあえず7日分部屋は取っておいたからこれで南極に行っても大丈夫だろ。
ネギ君用の変装用具は……年齢詐称薬があるから用意しなくていいか。
この間皆の通信を聞いてた感じ、アスナまだ情報が回っていないうちに城内で認識阻害メガネ、獣人変装キットを貸してもらったらしいし、皇女様は「メガロメセンブリアは真っ黒じゃな」なんて言ったらしい。
私と同意見だわ。
のどかもクレイグさん達が「偶然にしてはできすぎだったな。ノドカ嬢ちゃんは俺達が必ず守るから任せとけ」って直接通信に参加してきたからこっちも大丈夫だと思う。
つかホント良い人達だな。
メセンブリア当局も見習え。
んで楓はマジで身体操術ってので完璧に化けたらしいし、桜咲さんは高音さん達がなんとかするだろ。
しっかし、このか、くーちゃんは自力で頑張れとしか言いようがない。
一番高額の賞金首のネギ君は誰も捕まえに行くのはありえない南極にいるけど、命が危険だから賞金首どころじゃないわ。
つか、まーその為に私が来たんだけど。
微妙にまた興奮してうまく寝付けないのに同じこと数日前あったなと思うけど、朝一で保存の効く食料手に入れたらアーティファクトと箒で一気に駆け抜けるつもり。
さ、頑張って寝よ。



[21907] 46話 魔法世界編5
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/11/25 23:58
―8月19日、某新オスティア浮遊岩地帯―

ネギ一行が懸賞金付きの国際指名手配にされた頃、フードを被った数人が周囲を見渡す限り他に何も無い岩ばかりの場所にいた。
そこへ、桜吹雪とともに新たに現れた人影があった。

「フェイトはん、新世界のお姫様はヘラス帝国に入ってしまいました~」

「ヘラス帝国……。何故だろうね。彼らが地理を把握しているとは思えないんだけど、そういうこともあるのかな」

「フェイトはん、どうしてゲートで突然挨拶も無しにセンパイ達を飛ばしたんどすか?」

「予想以上に厄介になっているかもしれない彼等の足止めと異世界旅行のスパイスにね。いつかは接触しなければいけないがあの時こちらから姿を現す必要もなかったからね」

「え~ウチいつセンパイ食べていいんですか?」

「月詠さん、少し我慢してもらえるかな。時が来たら、お姫様をヘラス帝国から連れ出すその時にでも好きにしていいよ。場所が分かっているならどこにいようと連れ出すのは容易い」

「は~い、分かりました。でも味見ぐらいはええですか?」

「あのね……」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月19日、7時頃、桃源、ホテル―

あー朝だ。
ぐっすり眠れなかったけどまあいいスよ。
今日出発するための荷物は殆どできてるし、後は日持ちの良い食料買っていけばいいだろ。
クレジットカードとか自由渡航許可証は無くすとダメだから置いていってと……。

「ココネ、数日かかるかわかんないけど行ってくるよ。多分5日もかかんないと思うけどさ。アーティファクトは使わせてもらうから」

登山用の本格的リュックに私の箒、ネギ君用の箒、杖、地図その他諸々持ったしおっけー。

「ミソラ、気をつけて」

「ああ、分かってるって。どう?このゴーグル?走ったり、雪の中で視界確保する用に買ったんだけど」

「前のスキーの時と同じ」

そういやシアトルの時と似たようなもんか。

「ははは、そっかそっか。変な人来ても部屋の中いれちゃだめだからね」

「分かってる」

「うん、ココネはしっかりしてるから大丈夫だよね。それじゃ、ちょっくらハードな旅に出てくるからさ」

「いってらっしゃい」

「おう、行ってきます!」

重装備でホテルの部屋から出て1階のフロントを通りすぎようとしたら「お気をつけて」って言われたけど空気読んでるよなー。
近くの食料品店で携帯食料をリュックに入る分だけ買い込んでと……。
よっし、行くか!
箒に乗って……。

―飛行!!―

まずは中心市街から離れたとこまで飛んでかないとな。
進むべき方向は南に進み続ければいいだけだからわかりやすい。
ちょっと……っと久しぶりに箒乗るとバランスがなー。
飛空艇の部屋の中で少し練習しときゃよかった。
さてと、高さも丁度良いし、前方の視界は良好、遠くに龍山山脈が見えるけど今回あれはスルー。
あの馬鹿みたいに高い山脈が途切れてる所に狙いを定めて。

―加速!!―

眼下に見える中華っぽい街並みの桃源の街は10kmちょっと離れたらあっと言う間にあとはもう田園風景。
なんつーか、これで乗ってるのが箒じゃなくて雲だったら、周りの風景的に西遊記の絵本みたいな感じになりそうだ。
そうだ、一応出発したこと高音さんに報告しとくか。
桜咲さんやらくーちゃんどうなったかわからんし。

《高音さん、おはようございまーす。こっちは今南極に向かって飛行開始しました。そっちはどうですか?》

《春日さん、おはようございます。私達の方は3時間程前にタンタルスに飛空艇で無事到着しましたわ。幸い桜咲さんに気づいて騒ぎ立てるような方はいませんでした。既に新たにホテルを取って桜咲さんにはそこで待機してもらい、現在私と愛衣で古菲さんを、春日さんと同じく箒で迎えに飛行中です》

流石高音さんだ。
個人チャーターで飛空艇か単車借りる訳にもいかんしな。
魔法使いならやっぱ箒が一番だろ。
二人ぐらいは余裕で乗せられるし。
くーちゃんの変装って、変装っていうよりチョビ髭付けただけの仮装っぽい気がするから早めに拾わないと面倒そうだ。
ま、賞金稼ぎの人達がくーちゃん狙ったところであの拳を喰らえば大体一撃だろうけど。

《了解スよ。定期連絡するんでまた》

《はい、春日さんも気をつけて》

《重装備だから大丈夫ッス》

うーん、こんだけ周り気にせず箒かっ飛ばすのって結構楽しいな。
麻帆良だと隠れて練習とかやりにくくてしゃーないし。
あと危なそうなのは、このかと今まさに救出中のネギ君か。
小太郎君は帝国の救助部隊であっさり見つかってそのまま城に連れてってもらったらしい。
食べ過ぎで腹壊したとか聞いたんだけど大丈夫か。

おっ、もうそろそろ道が何も無くなってきたな。
それじゃあ、まあ一旦アーティファクトの稼働限界とやらを試してみるか。

―急速停止!!―

箒から降りて……リュックの隙間に挟んで紐で結いて固定してと、もう一度背負ってと、よし。

「アデアット!!かそくそーち!!!」

足に力をめいいっぱい込めて…………スタートッ!!
おっしゃぁぁぁ!!
箒より間違いなく速いぜ!!
いけるいける!
これなら日本の高速道路でも普通に走れるスよ!


―8月19日、11時頃、桃源より南約300km―

麻帆良祭の時の鬼ごっこで30分以上は走ってられるのは実証済みだったけど3時間越えた。
この辺りはもう何も無いな。
ポツポツ謎の桃みたいな木が生えてるだけだわ。
ちょい不気味。
……おっと!?
突然走る速度落ち始めてる気がするんですけどーありゃりゃ……。
あーあー、足から煙出るとか初めてみたわ。
擦り切れた?
エンスト?
まー仕方ない。

「アベアット!」

んー靴底に穴が開いたりとかはしてないし……。

「まー3時間走ってかなり進んだのは間違いないか。元々短距離っぽい仕様を無理した訳だし」

どっちにしろ後でまた使えるようになったらあと3回繰り返せば単純に計算してもネギ君の近くまで行けるか。
ここらで昼飯を食べよう。
で、何食べるかっていうと桃源で売ってた肉まんですよ。
流石中華っぽいだけあるわ。
うまいうまい。
あー、やっぱ南極に近づくと服はスキーウェア的にバッチリだからいいけど顔にあたる空気とか結構肌寒いな。

《高音さん、そっちはもうとっくに夜だと思いますけどどうスか?》

《私と愛衣で野宿することにしました。古菲さんと通信を取ったところタンタルス湾岸がようやく折り返したそうなので、私達からの位置からすると遅くても明後日には合流できそうですわ。春日さんは?》

《私は3時間走り続けて300kmぐらいは進んだと思うんスけど、アーティファクトがエンストして丁度今昼なんで休憩中です》

《足が速くなるだけと聞いていましたが本当に速いですわね。その後は箒で移動ですか?》

《まーその予定スね。適当に折を見て箒とアーティファクトを使い分けるつもりです》

《分かりました。それではまた明日》

《了解しましたー》

高音さんは良いとしてと……。

《アスナー、起きてるかー?》

《ん、美空ちゃん?起きたわよ》

《宣言通り今桃源から南に向かって一直線に進んでるのを伝えようと思ってさ》

《そっか、こっちが寝てる間にもう出発してたのね》

《そうそう。指名手配のニュースは帝国にも届いた?》

《届いたわよ。ついさっきその聞きたくもない情報が流れてきたわ》

《変装は完璧?》

《この私の人間の耳がコタロの耳みたいになるの凄いわね。なんか言葉が通じなくても翻訳できるらしいわ。通じてたけど》

これで英語なんて勉強する必要ないじゃないとか言い出したらアレなんだけどな……。

《まあでも城内にいるんだったら大丈夫でしょ?》

《皇女様が色々やってくれたわよ。それにコタロが実際に北極で特にそれらしい装備も無く食料も殆ど無い状態で移動してきてた話が流れてたお陰で、城の人達も『連合の自作自演だ』なんて言ってるの聞いたわ》

あー、確かに自作自演っぽいスね。
どっからかネギ君が来る情報が漏れてて飛ばした上でゲート破壊、孤立主義加速、ついでに犯人に仕立て上げると。
黒すぎて酷いな。

《帝国の人達の方がメガロよか信用できるなんて皮肉すぎるね。麻帆良学園の魔法生徒証があるとメガロで特権的生活できたんだけど、アスナ達持って無いんでしょ?》

《何それ?そんなもの私達持ってないわよ》

やっぱりかー。

《無いものは仕方ないな。小太郎君は元気なの?》

《食べ過ぎるぐらい元気ね。ナギ・スプリングフィールド杯っていう2ヶ月後にやる大拳闘大会の事聞いて『残ってるゲートもオスティアっちゅうとこでやるんやったらネギが助かったら一緒に出てみたいわ』って言ってたわ》

《小太郎君はネギ君が助かることに何の疑いも持ってないみたいスね》 

《そうなのよ。『ネギなら絶対大丈夫やて、あいつがそんな南極ぐらいで終わったりせえへん』って言うのよ》

《友情って言うかなんていうかだなー。そんな当たり前のように言われてるんなら私もそろそろ箒で移動するかな》

《美空ちゃん、気をつけてね》

《大丈夫、日本円に換算して240万分の気温維持装置買ってあるし、絶対凍死とかしないから。因みにアスナの懸賞金と同じ額ね》

《えっ!?もしかして高音さんが融通してくれたの?》

《そそ、クレジットカードでポンね》

《高いわね……》

でなきゃ私に買えるわきゃないんだけど。

《アスナの懸賞金もな!》

《そ、そうね……そんな額だったら絶対追われる事間違いないわ……》

《それじゃ、また後で通信するわ》

《うん、分かったわ》

よっしゃ、出発するか。
アーティファクトは一時間毎に使用できるか試すって事で。

―飛行!!―
―加速!!―

気分はスキーするつもりで謎のシスター春日美空、行くッスよ!!


―8月19日、12時46分、桃源より南約350km―

ほいっと。

―急速停止!!―

にしてもホントにアーティファクトの方が速いな。
私も箒で加速使って移動すんのはいいけど魔力切れ考えないとマズいか。
今まで生活してきてそんな事気にした試しないスけど。
ま、それはいいとして。

「アデアット!」

調子はどうだー。
ちょっとまだ煙でてるんだけどいけるか?
ま、今のうちに性能試しとかないと後で困るし。


―8月19日、12時54分、桃源より南約360km―

ぎゃぽっ!?
っと、突然エンストすんな!!
どわっ、地面にぶつかる!
イテッ!!

あたたた、駄目だなこりゃ。
数分間はフルスロットルで移動できるところからすると一定時間、間を置くと稼働時間が回復する感じなのか。
こんなこと初めて知ったよ!
新たな発見でも嬉しいような嬉しくないような。
まーいいわ。
これは一日おかないともう一度3時間走るのはまー無理だろな。
しばらく箒で飛ぶっきゃないか。

―飛行!!―
―加速!!―


―8月19日、16時52分、桃源より南約560km―

げー、もうだめだわ。
魔力切れする。

―停止!!―

……はー、疲れたわ。
つか超進んだんじゃね?
って箒から降りたらめっちゃ寒ッ!
こんな状況で寝たら一晩で風邪引く自信があるぞ。
まだこの辺雪無いからいいけど、結構標高、高いとこまで来たな……。
高山病とか怖いスよ。

さーてと、どうせもう移動できないし、テント張ってサーモスタビライザー使おう。
……うーん一応2人用テントなんだけどネギ君達と合流したら狭いかな。
ま、我慢するしかないスね。
おっ魔法世界のテントは設置楽だな。
なになに、「中央のボタンを押すと自動的に広がってテントになります。その後付属の杭で地面と固定して下さい」か。
ポチっとな。
!?うおっいきなり開くな!
びっくりするわ。
……気を取りなおして、杭打つか。
これで土じゃなくて岩だったら刺すの面倒だったろうけど良かった。
4箇所打ってと……はい、おっけー。
寒いからさっさとスタビライザーも起動させよ。
今の時間から休んで明日の朝まで休むと……α1つγ1つって所か。
まずはαから……これも中央のへこみを押すだけでいいのか。
温度メーターが付いてるからノブを合わせればいいのかな。
25度ぐらいで、そいっ。
ブーンって音がしたと思ったらどんどん暖かくなってくるわ。
流石1000ドラクマ。
大した性能スね。

《起きている皆、私達は今グラニクスに到着したからこのまま高速艇に乗ってケフィッススにこのかさんを迎えに行くわ》

順調に到着だな。
流石ドネットさん。
金はあるって訳ね。

《このか殿、しばし待っていて欲しいでござるよ》

って楓の声がめっちゃ子供っぽい!?
忍者の身体操術パネェ。
写真送って欲しいわ。
骨格からどうやって変えるんだよ。
骨とか一旦溶かしたりできんのか?
いやーそりゃないだろーけど考えたらいけない気がする……。

《ドネットはん、楓、ありがとな》

でもってあっちで明日20日の朝8時頃には着く予定らしい。
1週間ぐらいでなんとかそれぞれ固まれたっていうのはもう超りんの端末のお陰としか言いようがないな。
科学に魂売るって言うのもなんか分かる気がしないでもないね。
さてと、使い果たした魔力がどれくらいで全部回復するか自分で実感してみるか。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―3時間程遡り8月19日、7時頃、アリアドネー、魔法騎士団候補学校寮―

昨日グランドマスターと話してから寮に戻った後、ユエからネギ君達がメガロメセンブリアで懸賞金付き指名手配にされたって話を聞いて驚いたよ。
しかもユエも1万5千ドラクマがついたらしいんだ……でもいざ朝のニュースを寮のロビーで見てみたら……。

[6日前世界各地で同時多発的に起こったゲートポートでのテロ事件の続報です。依然犯行声明もなく背景が全て謎に包まれたままのこの事件ですが、メセンブリア当局より新たな映像が公開され、実行犯の一人とも見られるこの外見上10程度の少年に見える人間に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

「コレット……これはメガロメセンブリアに絶対何かあるです」

「うん、間違いないよ」

[続けてこちらの映像を御覧ください]

動いてるネギ君を初めて見るのがこんな形だなんて……。
こんな大規模魔法使えるなら今頃南極なんかにいないよ!

[またこれら人間の少女にも同様に懸賞金付きの国際指名手配がなされました]

ユエに見せてもらった集合写真の子達の中にいた6人の顔写真が映ったよ。
でも、ユエは映ってない!

「ユエ、これって」

「はいです。グランドマスターのお陰かもしれません」

「なら放送自体……」

「それは連合との間で問題になるですよ」

「ちょっと、ユエさん、コレットさんッ!!」

わっ誰!?ってこの声は委員長!
振り返って見て見ればすっごい顔が青ざめてる!

「委員長、顔色悪いよ?」

「お嬢様、お気持ちは分かりますが」

分かるんだ!

「いいえ……私の事など気にかけている場合ではありません。ユエさん、コレットさん端の方へいらして下さい」

って言いながら凄い力で肩つかまれ?ひっぱられって!

「委員長!そんな引っ張らなくても行くから」

仕方なーく、ロビーの端でコソコソ話す事になった。

「ユエさん、あれは一体どういうことですの?」

「メガロメセンブリアの罠のようです。メガロメセンブリアのニュースでは私もあの中に写真が映っていたそうなのですが……恐らくグランドマスターが削除しておいてくださったのかと」

「罠ですって!?全くなんて腐っているのかしら、メガロメセンブリア元老院め、忌々しいッ!」

「お嬢様、発言に気をつけて」

確かに元老院が凄く怪しいのは分かるけど、まだ完全に黒って決まった訳じゃないよ。

「くーっ、こうなったらアリアドネー上層部に報告して国際問題に……」

か、過激だー!!

「委員長、それはグランドマスターに任せるです。ドネットさん達はアリアドネーに集合すると言っていたです」

「アリアドネーに集合?と、いうことは……あぁ、それはいつになるのでしょうか?ハッ!そうではありません!」

委員長昨日からテンションがおかしいね……。
顔が蕩けそうになったり怒りの形相になったり、周りの皆も不思議そうな顔して見てる。
とにかく、学校の時間もあるから話は一旦終わり。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、5時06分、桃源より南約560km―

うおっ!
寒ッ!
びっくりしたー、サーモスタビライザー切れたか。
強制目覚ましの効果もあるとは高性能。
体調は……暖かかったから快調そのものだな。
魔力も大丈夫だと思う。
いや、12時間休んでこれだからな……サーモスタビライザーも食料も何も無くて6時間ぐらいしか寝てないネギ君どんだけヤバいんスか……。
ここで後4時間α使うのも無駄だし出発しよ。
朝食がてら携帯食料を食べ、杭を外してテントを元のコンパクトサイズに戻し片付けて、荷物を整理し直して……と。
よーし行くかー。
遠くに見える南の方はもう真っ白だな……。
流石南極。
地球だと南極大陸はデカイ島だけど、ここはそれ以上でかいわ。

「アデアット!!かそくそーち!!!」

3時間進んで一気に300kmまた詰めるスよ!!
高音さん達も既に今頃くーちゃんと合流するためにまた今日も箒で飛んでる所だろ。


―8月20日、8時22分、桃源より南約860km―

ついさっきから周りは雪だらけになって寒いのなんのって無理すぎるからサーモスタビライザーαをリュックの中で起動しながら移動中スよ!
そろそろ3時間経つんだけど……来たか!!
昨日も見たエンストですよこりゃ。

「アベアット!」

エンジンなんてついてないけどさ。
箒に切り替えだな。

―飛行!!―
―加速!!―

馬鹿みたいに魔力ありゃ長時間かつ超高速で飛んでられるだろうけど私一般魔法使いレベルなんでそこまでできんわ。


―8月20日、9時43分、桃源より南約910km―

そろそろ後2時間で1000km踏破っていうか正しくは踏破&飛破できそう。
気温25度で南極飛んでられるのはマジ画期的。
今日中にネギ君のところ着けるか。
それにはまず連絡しないといけないんだけど……。

《ネギ君が大変です!!》

この声は……数日前に一回ネギ君が紹介してくれた受付のお姉さんのミリアさん?
それに全体通信っぽい。
スゲー嫌な予感が……。

《ミリアさん、ネギがどうしたんですか!!》

最初に気づくのはアスナか。

《今日も移動してたんですが……突然「ごめんなさい」って言った途端倒れてしまったんです。それに倒れる直前に私に契約執行を最後の最後にしてくれたみたいで……。どんどん体温が下がっています……このままだと……》

ちょっとちょっと、最後の力振り絞ってミリアさん優先するってホント子供としてはありえなさすぎるわ!

《そ、そんな……。そうだ、美空ちゃん!》

《アスナ!今日中には合流できると……してみせるけど!まだ時間かかるよ。ミリアさん、なんとか寒さをしのげる場所に移動して下さい。今私そちらに向かってあと5時間ぐらいで着く筈です!できれば目印になるものか何かの写真も送ってください!!》

5時間も魔力持つかわかんないけど……。

《5時間ですか……、分かりました。とにかく移動します。写真も送り……ますね》

そういや凄い年齢詐称薬でミリアさんって縮んでんじゃなかったか?
どの薬が解除薬かわからないとマズいだろ……。

《ミリアの姉ちゃん、ネギにも端末握らせてや!皆で声かけて起こすで!》

それで意味あんのか!?

《わ、分かりました……はい、握らせました》

《ネギ!!起きろ!諦めんなや!》

《ネギ!そのまま寝ちゃだめ!絶対合流するって約束したでしょ!》

《ネギ先生、目を覚まして下さい!》

《ネギ先生、死んじゃ嫌です!!起きて!!》

《ネギ坊主、諦めてはダメアルよ!!》

《ネギ先生、春日さんが参りますから諦めないで下さい!》

《ネギ先生、春日先輩がすぐ行ってくれます。頑張って!!》

《ネギ先生、寝てはダメ》

皆の熱い応援始まったー!
私もここは一つ。

《ネギ君待ってろ!私が今行くから!》

東側で起きてる皆が小太郎君の精神論的発想で一斉に声をかけ始めたんだけどごちゃごちゃしてもう訳わからん。
のどかの「死んじゃ嫌です」ってのはどうも、口に出して言ってるみたいでクレイグさん達も「坊主、頑張れ!嬢ちゃんが待ってるだろ!」って応援してくれるようになって更にカオス!
皆の想い、ネギ君に届けっ!!
つか私の責任重大すぎるわー!!
こうなったらもうヤケだッ!

―最大加速!!―

ゴーグルに雪がぶちあたるのなんのって!
こんの、コントロールが難しいっ!!
うりゃぁぁぁ!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、13時14分、桃源より南約1200km、某洞窟(強制転移から180時間が経過)―

ネギ・スプリングフィールドが南極から通算11度目の移動中にとうとう体力、精神力、魔力切れを起こし突然倒れてから3時間程。
端末を持つ者は皆ネギ・スプリングフィールドに絶えず呼びかけを続けていた。
アリアドネーからは朝起きた瞬間事態を把握し、学校の事も忘れ、綾瀬夕映、コレット・ファランドール、コレットから話を聞きつけたエミリィ・セブンシープ、ベアトリクス・モンロー。
ケフィッススからは高速艇で丁度到着した、長瀬楓、絡繰茶々丸、ドネット・マクギネス、その迎えを待っていた近衛木乃香。
ヘラス帝国首都ヘラスからは神楽坂明日菜、犬上小太郎、アンナ・ユーリエウナ・ココロウァ、テオドラ・バシレイア・ヘラス・デ・ヴェスペリスジミア。
ノクティス・ラビリントゥスからは宮崎のどか、クレイグ・コールドウェル、アイシャ・コリエル、クリスティン・ダンチェッカー、リン・ガランド。
タンタルスからは桜咲刹那、古菲、高音・D・グッドマン、佐倉愛衣。
桃源からはココネ・ファティマ・ロサ、そして現在箒に乗り最大加速で飛行を続けている春日美空。
ネギ・スプリングフィールドのすぐ側にいるミリア・パーシヴァル含め総勢24人もの心の声が、距離に隔てられる事無く響いていた。
そもそも、ネギの体調は既に2日前には限界を迎えていた筈だったが、これまで彼自身の「絶対に南極から脱出してみせる」という強い信念で無理を通していたのだ。
元々契約執行という魔法は10時間も連続してやるべきものでは無く、術者の身体に大いに負担がかかる。
そこへ更に、氷点下の気温が普通の極地、僅かな睡眠時間、絶食状態、一般人を運ばなければならない、と最悪の環境が重なっていたのだ。
一つネギの周りで誤算があったとすれば、それは春日美空が直接南極に救助に来るという情報が彼には伏せられていた事である。
自力でなんとかしなければという思いからネギは余計な無理をしてでも延々と続く雪山を杖も無く移動し続けたのだ。
実際途中の洞窟で救助が来るのをじっと待っていれば状況はまだマシだったかもしれない。
しかし、もし、の話をしても今更後の祭りである。
そんな心の声を念じ続けていた人達の中、誰かが「もうだめかもしれない」と一瞬思った矢先の事。
人々の想いが為せる奇跡が起きたのか……それは……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―2003年8月14日日本時間、12時58分、火星北極圏―

ネギ少年達が魔法世界に飛び立っていったすぐ次の日、相変わらず暑い夏休み、超鈴音の突然の発案で残り十数日で見納めとなるであろう火星の景色を見ることになった。
私も火星の神木・扶桑の状況を見がてら、超鈴音、サヨと共に珍しく地球の神木・蟠桃まさかの精霊不在という状態を現在進行形で続けてまで、こちらに来ているが、たまにはこういう事が一度ぐらいあってもいいだろう。

《ふむ、原始時代の風景というのは、このような感じなのかもしれないネ》

《神木も完全に浸水してて水棲植物状態ですねー》

藻みたいに増殖したりはしないが……。

《超鈴音、見納めというのはわかりますがどうして突然ネギ少年達が旅だったあとすぐ今日に火星に来たいと思ったんですか?》

《翆坊主、この海と荒野しかない火星と、位相がズレた所にある自然溢れる魔法世界にネギ坊主達が今いると思うと何だか不思議な気がしないカ?》

《それはアレですか、超鈴音は時空間の壁を突き破ってみたいんですか?》

《例えばこう手を伸ばしたらそこにネギ坊主達がいるかもしれないだろう?これが不思議でなくて何ネ》

そりゃまあ……そうですが。

《鈴音さん、確かにこの辺とかもっとあっちの方にネギ先生がいるかもしれないと思うと面白いですね》

《科学者の超鈴音がそんな事に興味を持つとは少し意外です》

《時空間もれっきとした科学の一分野ネ。実際翆坊主に前言たとおり、この点を解明できれば、ワープだて可能になるのは間違いないヨ》

《……なるほど、そういう事ですか。それなら超鈴音が時空間すらも解明するのを期待していますよ》

《その為にはもう少し優曇華のシステムを研究する必要があるネ》

《アーチにしろ球体……にしろ、時空間の極大化、極小化の情報の塊のようなものですから確かに解明の糸口になりますね。私達精霊でなくても実際に入って触れて研究できるのは太陽系では恐らく優曇華ぐらいなものでしょうし》

《未知への答えに繋がるかもしれないものがこれ程近くにあるのだから私は当分飽きないヨ》

《いつか長距離ワープできるようになったら本格的な宇宙旅行してみたいです》

《さよ、私に任せるネ!》

実に平和だ……。
アーティファクト全開浮遊術で火星を飛び回ってる超鈴音と、精霊体で似たように飛び回っているサヨ。
私は神木・扶桑から観測中……。

《……ア…………さん……皆……》

今第三者の粒子通信が聞こえたような……。

《……アスナ……さん……》

《翆坊主、ネギ坊主の声ではないカ?》

《ネギ先生の声ですね!》

《まさか本当に時空間の壁を破って……?》

《ネギ坊主!ネギ坊主!いるのか、返事するネ!!》

《ネギ先生!》

超鈴音は単純にこの超常現象に興味を持っているテンションだな……。

《……超……さん?……それに……相坂さん?》

この声は……ネギ少年で確定だ……。
昨日まで散々観測していたのだから覚えていないわけがない。

   ―観測開始、霊体反応に限定して走査―
―神木・扶桑から800km東北東の位置に霊体反応有り―

《わかりました、800km東北東のポイントです》

《翆坊主、優曇華使うネ》

《私先に行ってきますね》

サヨが先に一瞬で該当ポイントに近づき、遅れて出力全開の超鈴音も浮遊術にしては異常な速度で優曇華に乗り込み8秒で接近、アーティファクトを身体保護レベルに抑えて到着した。
私は……神木から観測を維持である。
仮にネギ少年が本当に本物だったら優曇華の秘匿とかサヨの幽霊問題とか色々問題があるがそれを越える重要性があるのもまた事実。

その該当の場所には、ネギ少年の極限まで薄い霊体があった。

《ね、ネギ先生、どうしてここにいるんですか?》

《ネギ坊主、魔法世界からこちらに来てしまたのカ?》

《な……何で相坂さんと超さんが……それにここは一体……?僕は南極で倒れてそのまま……皆の声が聞こえた筈なんですけど……》

既に昔のサヨのような幽霊にしか見えないネギ少年とそれに相対するサヨと超鈴音の場違いな場所での会話があった。
因みに、海の上である。
どこの幻想世界だと言いたい。

《翆坊主、少し話していいカ?》

《ええ、もうどうなってるのかわかりませんがお好きにどうぞ。処理は何とでもします》

《わかたネ》

個人通信でネギ少年に漏れないようにやりとりを済ませた超鈴音はネギ少年にサヨと共に会話を始めた。

《ネギ坊主、ここは火星だヨ。よく来たネ》

《火星!?》

《ネギ先生、本当ですよ》

《相坂さんその姿は一体……?》

《私幽霊なんですよ。桜咲さんが知ってますから聞いてみてください》

酷くズレのある嫌な会話だ……。

《は……はぁ……》

《ネギ坊主、私は火星人ネ》

《火星人!?》

いや、明らかに生命の危機か何かだと思うから真面目にやりとりしたらいかがですか。

《ネギ坊主、南極にいて倒れたと言たからには命の危機なのだろう?》

《はい……もしかして僕死んじゃったんですか?》

……ネギ少年それを魔法世界の南極で言ったらそれらしいだろうが、ここではネタにしか聞こえない。

《ネギ先生、そんなことないですよ》

《ネギ坊主、皆の声が聞こえたのだろう?きちんと戻らないと駄目ネ》

《で、でもどうやったら……》

これは……どうも魔分で強制的にネギ少年の霊体を活性化させて無理やり送り帰すしかないだろう。

《超鈴音、サヨ、私が今からネギ少年を送り返しますから見送ってあげて下さい。それと面倒な物を見られたので霊体に介入して問題のある記憶を改竄・封印します。ただ一つ『魔法世界の根本的な問題は解決する』とだけ伝えておいて下さい》

《分かたネ》

―霊体解析開始―

《ネギ坊主、今から魔法世界に帰すから少し待つネ。それと、伝言ネ。魔法世界の根本的な問題は解決する、だそうだヨ》

《え?それって……?》

《ネギ先生、行ってらっしゃい》

《ネギ坊主、また会おう》

―霊体解析終了、特定の情報を除き、問題のある記憶の改竄と封印を開始―
 ―霊体が時空間を越えたパターンを反転、魔分による出力補助を開始―

……すると間もなくネギ少年の霊体は眩く発光し、火星からの反応は完全に消失した。

《……翆坊主、私とサヨ、優曇華の事はネギ坊主の記憶から消したのカ?》

《そうですね。消したというよりは完全な封印ですが似たようなものですね。ネギ少年にとっては火星側に出てしまった事がなんとなく、そんな気がするレベルで認識できる程度の筈です。あとは頭の片隅に超鈴音が伝えてくれた伝言が残るだけですね》

《ま、そんな事だろうと思たヨ》

《多分そうするんだろうなーと思って私も幽霊だって言ったんですけど、別に幽霊の事自体は桜咲さんも知ってるからいいんですけどね》

ネギ少年は真剣だというのに何なのだろうか、この温度差は……。

《それより原因は何だたネ?》

《生命の危機に瀕し、魔法世界との親和性が高すぎたのと、神木扶桑が割と近い位置にあった事が影響して霊体だけが偶然にもこちらに出てきてしまったという事だと思います。ネギ少年に死なれるのは困るので、戻すついでに霊体に魔分充填のプレゼントもしておきましたから、あちらでどういう状況かは大体検討がつきますが、多分回復すると思います》

恐らくあちらの南極……こちらの北極で凍死しかけたという所だろう。
何にせよ始まりの魔法使いの系譜の特殊体質は本当にどうかしている。

《エヴァンジェリンと通信しすぎた影響もあるという事カ》

《それが原因の大半だと思います》

《不思議な事ってあるんですね》

《さよ、世の中は常に不思議な事に満ちているネ》

良いお言葉ありがとうございました。
……それにしても死にかけることで三途の川や花畑が見えるのではなく、やっつけの海と荒野のある火星に出てくるなんてネギ少年は実に変わっていると思う。
もしかしたら助かる見込みがある可能性があったからこそ、こちらに無意識に出てきたのかもしれないが……。
戻す際にネギ少年の霊体に神木の魔分を直接投射したことで何か影響が出るかもしれないが悪いものではない……と思いたい。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、13時15分、桃源より南約1200km、某洞窟(強制転移から180時間が経過)―

《ネギ!ネギ!!ネギー!!》

《ネギ!諦めるな!目を覚ませや!》

「ネギ君!しっかりして下さい!」

アスナさん……皆……。
何だか身体に魔力が溢れてくる気がする……。
この魔力は地球の……?
それについさっき……何かがあったような……。

「ミリアさん……」

「ね、ネギ君!良かった!それに急に手も温かくなってきて」

《ネギ!気がついたの!?》

《アスナさん、もう大丈夫です。気を失っている間皆さんの声が聞こえました、ありがとうございました》

《よ、良かったよぉー!!》

《ネギ!心配させんなや!》

《コタロー、声かけてくれてありがとう。聞こえてたよ》

《おう!俺の考えは間違いなかったな!》

《ネギ先生、良かったです……》

《ネギ君、良かったえ!》

《ネギ坊主、目を覚ましたでござるな》

《ネギ坊主、助かったアルね!》

この後凄くたくさんの人から助かって良かったって言ってもらえた。
知らない人がいるなって思ったら夕映さんの学校の同級生の人だった。
会ったことないのに凄く心配されて驚いたよ。
何だかあやかさんみたいな感じの人だった気がする。

《ネギ君、私あともう1時間ちょいぐらいで着くから待っててよ!》

《春日さん!そんなに近くに来てたんですか!?》

かすかにもうすぐ行くから待っててって聞こえたのは覚えてるんだけどもうすぐそこまで来てたんだ。

《杖、箒、食料、テント、気温を保てる魔法具もあるからさ!》

《ほ、本当ですか!ありがとうございます》

《任しといて!》

どうしてか凄く純粋な地球の魔力が身体に溢れてる気がするんだけどお腹が空いてたりするのは変わらないな。

「ネギ君、助かったのは本当に良かったですが何があったんですか?」

「えっと……何だか気を失っている間変わった場所にいた気がするんですが……よく覚えてません。多分夢だと思います」

「身体が突然温かくなったのには驚きました」

「はい、何故か魔力が溢れてきて……あ……」

「ネギ君、どうかしたんですか?」

「いえ……ちょっと……一つ分かったことがあって。気にしないで下さい」

「は、はい……」

魔法を使用するときの魔力と身体に存在する魔力って少し違うんだ……。
何で今まで気づかなかったんだろう……。

―魔法領域展開―

「ね、ネギ君?」

「やっぱり……」

今ならわかる。
マスターにはまだ及ばないけど前よりスムーズに使える。
それに……でも……今はやめておこう。

「ミリアさん、倒れる前に契約執行した気がするんですけど大丈夫でしたか?」

「はい、お陰様で大丈夫でした。でもあんな自分を大事にしないような事はもうしないで下さい」

「……心配かけてごめんなさい」

「ネギ君を心配していた人はあんなにいたんです。これからはその事ちゃんと覚えていて下さいね」

「はい!覚えておきます!」

気分は良いんだけどお腹が空いたなぁ……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日、14時41分、桃源より南約1200km―

殆ど死にかけだった感じのネギ君が突然奇跡の復活を遂げてテンション上がったら私も昨日よりガンガン進んでて驚きだわ。
最後の方なんて不思議通信に真面目に心を傾けると頭がおかしくなりそうな感じだった。
今までネギ君が毎日報告してた進路とミリアさんがあちこち周囲の写真を撮って送ってくれたものから見て大体この辺だと思うんスけど。

《ネギ君、多分近くに来てると思うんだけど……何か目印になるような事って……無理か》

杖も魔力もないのに魔法なんて撃てないよな。

《あ、はい、春日さん、分かりました。ちょっと待ってて下さい。浮遊術で空に上がるので》

《なるほど》

あれ、さっきまで死にかけてたのに飛ぶ余裕あるのか?

《上がりました》

ってどこだー?

《春日さん、ちょっと大きめの音を出すので》

《ん、りょうかーい》

―断罪の剣!!―

うおっ左何か溶ける音がした気が……って浮遊術はともかくとして、なんで魔法使える?
雪崩の心配は……大丈夫か。

《ネギ君、方向分かったよ。おっけー》

《はい!》

音がした方向に箒を進めたら都合よく洞窟発見した。

―下降停止―

「ネギ君!色々持ってきたよ!ミリアさんこうして直接会うのは初めま……して」

おーっと凄い脱力感……。
魔力切れだな……。

「春日さん!大丈夫ですか!?」

「いやー、ちょっと無理したからただの魔力切れだよ」

ネギ君手出してくれた。
どっちが助けに来たんだか……。

「あ、何か温かいですね」

「そうそう、これがサーモスタビライザーってやつね。私も洞窟いれてもらうよー」

サーモスタビライザーαも飛んでくる途中に切れたから今日で既に2個目なんだよね。

「はい、どうぞ」

「春日美空さんですね。助けに来て頂きありがとうございます」

凄い年齢詐称薬だな。
完璧に子供にしか見えない。

「どういたしまして。ミリアさんも無事で良かったです」

洞窟の中に私も入って、まず地面が平らな所でテントを広げてから、サーモスタビライザーも3人で中心に置いて囲んだ。

「ネギ君に届け物ね。杖と箒。それでさっきのって杖無くても使えるの?」

「ありがとうございます!それで、えっと……そうですね。使えるようになりました」

「使えるようになった?」

「さっきの魔法は杖が無くても使えるようになった……んです」

なんつー奇跡。

「ま、それならそれでいいスよ。それより携帯食料持ってきたから食べてね」

「わー、お腹すいてたので助かります」

殆ど食べてないでずっと移動してたらそりゃね。
缶詰とか乾パン的な何かとか色々あるけどこれはこれで結構うまい。
ネギ君が一生懸命モキュモキュ食べてるのは小動物みたいだな。

「あー、生き返った気がします」

「それは来た甲斐があったよ。それでネギ君に伝えてない情報があるんだけど……聞く?」

「はい、何ですか?」

「ネギ君とアスナ、このか、楓、くーちゃん、のどか、ゆえ吉が賞金付きの国際指名手配になったんだよ」

「ええええ!?ど、どうして!?」

「そ、そんな……」

「私達もちょっと信じられないんだけど、まだ誰も捕まってないからさ。安心してよ」

「そ、そうですか……」

「伝えてなかったのはネギ君がそれどころじゃなかったからだから許してね」

「気にしてないので大丈夫です」

「ネギ君が前言ってた通りメセンブリア当局がゲートポートの事件には絡んでるかもしれないね」

「メガロメセンブリアが……」

「一応ゆえ吉のお陰でアリアドネーの総長が受け入れしてくれるって話だからとりあえずはアリアドネーに集合する予定ね」

「夕映さん、記憶が無くなってても助けてくれるんですね」

「忘れているって言っても少しは覚えてるんだと思うよ。で、まだいいけど、ネギ君年齢詐称薬で見た目年齢上げるかした方がいいよ」

「はい、年齢詐称薬はまだあるので出発する時に使いますね」

ネギ君魔力切れか何かで倒れた割には本当に大丈夫そうだけど死にかけると突然回復したりするもんなのか……?

「出発は明日まで待ってもらえるかな?私魔力切れだからさ」

「もちろんです。春日さんは箒だけでここまで来たんですか?」

「あー、私のアーティファクトって時速100kmぐらいで3時間は走れるんだよ。それと後は魔力が切れるまで箒で昨日は進んだんだ」

「へー凄いですね。それに春日さんも仮契約してたんですか」

「そう!ココネがマスターなんだ!」

「そういえば佐倉さんも高音さんと仮契約してるんですよね」

「うん、そうそう」

何かどんどん普通の話になって指名手配とかそっちの方の話全然しないで、私が魔法生徒だったのが本当で驚いたとかそんな事ずっと話してたわ。
その途中でαがまた切れて、寒いのやだしサーモスタビライザーγも普通に追加投入した。
何か病み付きになるね。
5日分持ってきて良かった気がする。
ネギ君に値段聞かれて結構アレだったけどごまかしといた。
この間にこのかはドネットさん達と無事合流できたから、桃源の方来るかって話になったんだけど絶対バレない年齢詐称薬あるし、私の自由渡航許可証もあるから大丈夫って事でそのままアリアドネーに向かう方向で落ち着いた。
高音さん達は明日、もうちょい移動すればくーちゃんと合流できるって言ってたな。
賞金稼ぎにまだ出会ってないのは当然っちゃ当然だけどタンタルスへの帰りの変装のレベル次第だと思う。

「春日さんは修学旅行の時の事件って知ってますか?」

とうとう気がついたかー。

「あー、あの時の事ね。うん、知ってるよ。私は宿で待機してて、ネギ君が杖に乗ったまま雷の暴風とか使ってたの見たし」

「春日さんはあの時宿にいたんですか。僕は疲れてそのまますぐ寝ちゃったので詳しく知らなかったです」

「それでネギ君が気になるのは指名手配されたネギ君達7人が修学旅行の時大変な事になってた7人と同じって事でしょ?」

「そ、そうなんです!もしかしたら今回の件にも白髪の少年が関わっているかもしれません」

私その少年知らないスわ。

「私はその白髪の少年の事は知らないんだけど、ドネットさんはメルディアナの人だから何か知ってるんじゃないかな?」

「そうか。ありがとうございます。ちょっと聞いてみますね」

ネギ君がドネットさんに個人通信で聞き始めたらやっぱその白髪の少年の事知ってたらしい。

「どうやら白髪の少年の名前はフェイト・アーウェルンクスというらしいんですが、それ以外は不明だそうです」

「名前だけかー」

「全然分からないですね……」

「まー、ゲートもどこも壊れちゃってて残ってるのが廃都オスティアのだっけ?夏休み中に学校帰れないかもしれないけどネギ君が悪いわけじゃないしさ、10月にオスティアである記念式典でお祭りもあるらしいから楽しんでもいいんじゃないかな?」

「オスティアの記念式典?」

「オスティア記念式典とは前ネギ君に言いました前大戦が終わってから毎年開催されている7日7晩続く終戦記念祭なんですよ」

「そんなお祭りがあるんですか。麻帆良祭みたいで面白そうですね」

「小太郎君はネギ君が助かったら一緒にその祭りで行われるナギ・スプリングフィールド杯っていう拳闘大会に出てみたいって言ってたよ。まあこれは直接聞いてみた方がいいと思うけど」

「父さんの名前の大会?」

「その話は私もしていませんでしたね。年に一度の世界で一番を決める拳闘士の大会なんですよ」

「でもまあ拳闘士ってのは場合によっては試合で死んでも構わないって契約書を書く必要があるから積極的に勧められるものじゃないんだけどね。腕に自信があればって感じだよ」

「あはは、なんだかそれはアスナさんに止められそうですね。コタローには後で聞いてみようかな……。でも僕はどういう訳か一応賞金首だから目立つのもマズいですね」

アスナの影響がかなり出てるなー。
マジで姉弟みたいだ。

「ネギ君は一切悪くないんだけどね……」

「一応例の論文の事もありますし、桃源に戻ったらドネットさん達と同じようにアリアドネーに向かいましょう。ミリアさん、桃源についたらメガロメセンブリアまで戻ることできますか?」

「ええ、はい、一応メセンブリーナの銀行が桃源にもありますからお金は大丈夫です。私は桃源まで送って頂ければ構いませんので」

「はい、ミリアさん、必ず桃源までは送り届けます。でもお別れはまだ少し先ですよ」

「まだ助かった訳ではありませんが、なんだかネギ君と離れるのは名残り惜しい気がします。あと仮契約も解除しないといけませんわね」

吊り橋効果だなー。

「あ、そうでした!でも……そういえば解除魔方陣知らないや……」

「細かい事は桃源のホテルに着いてからで良いんじゃないかな?仮契約の解除はアリアドネーかどこかで調べてもらえばいいと思うよ」

「そうですね。夕映さんにまたお願いしておきますね。僕結構さっき気を取り戻してから調子はいいんですけど明日に備えてそろそろ寝ますね」

「それじゃあ私も休むとするよ」

「それでは私もお休みしますね」

ちょい早いけど明日に備えてだな。
にしても私今日スゲー頑張った。
超頑張った。
魔法生徒として初めてこんな働いた気がする。
シスターシャークティに見せたやりたいスよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月21日、1時頃、メガロメセンブリアゲートポート―

ゲートポートが破壊された瞬間に既に時差は4倍に膨れ上がっていたため、高畑・T・タカミチ、葛葉刀子、龍宮真名の三人が地球側からギリギリで動いたゲートを使ってやってきた時には8日が過ぎていた。

「ふぅ、着いたね」

「まずは一旦ホテルを取って情報を集める所から始めましょう」

「了解した」

未だ忙しなく現場検証が行われているゲートポート内をよそに、3人は正規の入国手続を行い、そのまま足で春日美空達が泊まっていたホテルに向かい、チェックインを済ませた。
確認したところ、麻帆良の魔法生徒は既にチェックアウトを済ませどこかに移動していた後だというのがわかり、2部屋借りたうちの1部屋に集まり今後の方針を決める所で、龍宮真名がある物を取り出した。

「高畑先生、葛葉先生、これを」

「これは……端末かい?」

「超鈴音……ですか?」

「ああ、一昨日女子寮を出るときに超から持って行けと言われてね。どうやらこれでネギ先生達、春日達と連絡が取れるらしい。あちこちにネギ先生達が賞金付きの指名手配になっているのはここにくるだけでも散々目についたが本人達に話を聞いた方が早いだろう」

「超君がわざわざこんなものを……。彼女は一体何を知っているんだろうね」

「少なくとも私達に協力していると見て間違いないでしょう。しかし一昨日は8月13日だった筈ですが、もうこちらの日付で8月21日です」

「どうやらゲートポートが破壊されたことで時間の流れが変わっているようだね」

「4倍か……超は2学期までに帰ってくることを祈っていると言っていたんだが……これを見越していたのかな」

「超君はそんなことまで……。確かに4倍なら夏が終わるまでにはこちらで後2ヶ月はあるが」

「高畑先生、まずは端末で連絡を取りましょう。起動方法は……」

「前のと同じだな」

「どうすればいいんだい?」

「一緒に起動するよ。……これでいい。心で念じればいいのは念話と大体同じだよ。全体通信を始める」

《ネギ先生達、春日達、聞こえるか?龍宮真名だ》

《ネギ君、春日君、高畑だ》

《葛葉です》

《茶々丸です、今ドネットさんに繋げますので》

《茶々丸君か。ドネットさんもいるのかい》

《高畑先生!?助けに来てくれたんですか!》

《おっ、アスナ君!さっきついたばかりだったんだが何だか変な事になっているようだね》

《高畑先生、どうも、ドネット・マクギネスです。私から詳しく事情を説明します。8月13日にメガロメセンブリアのゲートポートに着いてすぐ、何者かの大規模強制転移魔法を受け私達は全員バラバラに飛ばされました。その後今は各自ある程度固まっていますが、丁度丸1日程前突然ネギ先生達が指名手配にされました。これには確実に何か裏がある筈です。私は現在茶々丸さん、このかさん、楓さんとケフィッススへ戻り、そのままアリアドネーに向かう予定です》

《報告ありがとうございます。ドネットさん、このかお嬢様をお願いします》

《葛葉先生、高畑先生、うちは大丈夫え!》

《無事で良かった。ドネットさん、ネギ君や他の皆はどうなっていますか?》

《ネギ先生とその救出に向かった春日さんは南極、ココネさんは桃源のホテルで今寝ています。のどかさんはノクティス・ラビリントゥスでトレジャーハンターの方達と一緒、夕映さんはアリアドネーの魔法騎士団候補学校、高音さん、佐倉さん、桜咲さん、古菲さんはタンタルスに固まっていて、こちらも現在寝ている所です。また、アスナさん、小太郎君、アーニャさんはヘラス帝国でテオドラ第三皇女様の元、既に保護を受けています》

《情報ありがとうございます。ネギ君が南極とは……。それにテオドラ皇女殿下というのは本当ですか?》

《なんじゃタカミチ、妾がおっては不満か?》

《皇女殿下!こ、これはお久しぶりです》

《テオで良いぞ。まあ、後でまたな。話を進めると良い》

《ありがとうございます。南極には応援は必要ありますか?》

《2日で桃源に自力で戻ってこられるのは確実だそうだから大丈夫だそうよ。それよりできればメセンブリア当局でどうしてネギ先生達が指名手配される事になったのかの調査を頼みます》

《分かりました。それでジャック・ラカン氏との連絡は取れていますか?》

《いいえ、全く取れていないわ。ネギ先生は来ないかもしれないって言っていたからその通りになったわね》

《ははは……頼んでおいたんですがね……。大体分かりました、こちらも夜が明け次第行動します》

《お願いします。私達もケフィッススに移動しますので。後は個人同士での通信にしましょう》

《了解しました》

《龍みー姉ちゃん、よっ!》

《コタロー君、元気そうだな。まあまた後でな》

《分かったで!》

簡単に状況をまとめた通信はこれにて一旦終了した。

「随分変わった事になっていたね……」

「ええ、全くです」

「どうやら指名手配された割にはまだ日も浅いから酷い事にはなっていないようだな」

「不幸中の幸いだね。僕達は明日からドネットさんに頼まれた通りまずはメセンブリア当局の調査からだ」

「分かりました」

「了解した」

……こうして、遅れて魔法世界にやってきた役者もようやく揃い、話はまた新たな動きを見せ始めることとなる。



[21907] 47話 魔法世界編6
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/01 08:11
―8月21日、7時頃、桃源より南約1200km―

はー、良く寝たー!
一度保温が切れた時に起きたりしたり、フカフカのベッドって感覚では全然なかったけど12時間近く寝れたな。

「春日さん、ミリアさんおはようございます」

「ネギ君、ミリアさんおはよーございまーす」

「ネギ君、春日さん、おはようございます」

「起きてる皆さんにも報告しますね」

「そだね」

《おはようございます。昨日は心配かけてすいません、今起きました》

起きてんのは高音さん達ぐらいかな。

《ネギ先生、おはようございます。実はネギ先生達が休んでおられる時に高畑先生達がこちらにいらっしゃりました》

へ?何でこれた?
ゲート壊れてんじゃないの?

《え!?タカミチが!?》

《おはよう、ネギ君、倒れたって聞いて心配したけど元気そうだね。良かったよ。春日君が救出に向かってくれたそうだね、ありがとう》

《葛葉です。ネギ先生、ご無事で何よりです。春日美空、よく頑張りました》

《ネギ先生、春日、おはよう。私も助っ人に来たぞ》

うおっ!
葛葉先生にたつみーも来てんかい!
って端末持ってるってことは超りんの差し金か何かか?
こうなるってマジで知ってたんじゃないだろーな……。
大人率が上昇して何か修学旅行っぽくなってるけど良いことだ。

《タカミチ!葛葉先生に龍宮さん!》

《高畑先生、葛葉先生、どうも。けっこー頑張りました。たつみーもこっち来たのか》

《タカミチは今どこにいるの?》

《メガロメセンブリアだよ。ドネットさんに頼まれてネギ君達が賞金付きの指名手配された理由を調べてるところなんだ》

《そっか、ありがとう!多分修学旅行の時のフェイト・アーウェルンクスっていう少年が絡んでる気がするんだけどドネットさんから聞いた?》

《ああ、既に色々聞かせてもらったよ。それで、ネギ君達自力で南極から出てこられるかい?》

《うん、春日さんが箒持ってきてくれたからすぐ戻れるよ!》

《それなら大丈夫そうだね》

《高畑先生、ゲートってまだ動いてるんですか?》

これが事実なら長居する必要無いし。

《いや……こちらに来ることはできたんだけど、戻る事はできないようだね》

なんて一方通行。

《そーですかー……》

《期待させて悪いね。原因はどうも魔法世界と旧世界で時間差が4倍ぐらいできてるからだと考えられるんだ》

は?4倍?

《え!タカミチ、4倍ってどういう事?》

《僕達が旧世界のゲートでこっちに移動してきたのはゲートが壊れたという情報が分かってから2日経っていたんだが、こちらの日付では21日になっていたんだよ》

《ゲートが壊れた影響……》

げー!
それだと麻帆良の皆より年取るじゃんか!
戻ってみたら浦島美空なんて嫌スよ……。
ゲートが直るのに2年だとするとあっちは半年だけって……。
でも……どーせ千鶴みたいに成長したりはしないな。

《その辺りは追々にして、また後で定期的に報告してくれると助かるよ》

《うん、分かったよ、タカミチ》

帰れるかと思ったらコレだよ……。

「タカミチ達がこっちに来たのは驚いたなぁ」

「戻るアテあるんスかね」

「やっぱり廃都オスティア……でも許可のある冒険者どころか賞金首だからなぁ」

「高畑先生なら顔が効きそうスけどね」

「あの、高畑先生というのは悠久の風の高畑・T・タカミチ様ですか?」

「はい、ミリアさん、そうですよ」

「まあ、それは頼もしいですね」

「タカミチって……まほら武道会で悠久の風に所属してるって分かったけど有名なんですか?」

「それはもう有名ですよ。雑誌の表紙を飾った事があるぐらいです」

「へー、そうだったんですか!僕本当に魔法世界の事知らないな」

「これからお知りになれば良いと思いますよ」

「そうですね!それでは、そろそろ出発しましょうか!」

「箒あるしね。ネギ君どれぐらい速く飛べるの?」

「えっと、最大加速で時速100kmぐらいは」

なにぃぃぃぃ!?
フツーそんな出ねースよ!
地上を走り続ける私より余程色々速いじゃんか。
ま……流石ネギ君だな。
比べても意味ないスよ。

「私そんな箒で速度出ないからさ。途中平地になったらアーティファクトで走ったりするね」

「はい、分かりました!」

「よーし、出発するか!」

「はい!」

ミリアさんとネギ君が一緒に、私は単独で箒に乗って。

―飛行!!― ―飛行!!―
―加速!!― ―加速!!―

……飛び始めてみたらやっぱネギ君が速い速い。
向かい風を避ける為に私がネギ君のすぐ後ろで追走する感じになってるんだけど楽だー。
ついでに残りα2つを起動させながら飛んでるからその点でもかなり楽。
もうγも2つだけだから5日分で丁度良かったかなー……というか私が無駄遣いしただけか。
ま、気にしない。
ネギ君も私に配慮してくれてるからか、最大加速は使ってないからのんびりな感じだ。
飛行しながらさっきあんま話さなかった高音さん達ともう一度連絡を取ったらとっくにくーちゃんと合流し終わってて、タンタルスに引き返し始めてたらしい。
くーちゃんの変装はやっぱりどう見ても仮装だったらしくてマジあぶねーあぶねー。
合流した瞬間ネギ君、小太郎君と同じで持ち合わせの食料を大量に食べて満足したのか箒ではそのまますぐ寝て静かなんだそうな。
くーちゃんやっぱ腹減ってたんスね。
ドネットさん達もケフィッスス朝早々9時の便でグラニクスを経由してアリアドネー行きの飛空艇に乗ったそうな。
到着は8月25日13時現地時間の予定らしい。


んーで、この後は結構あっと言う間だった。
途中昨日私が走りまくった平地でまたアーティファクトに切り替えつつ、すぐ上空をネギ君が最大加速で並飛行。
私が魔力切れしそうになったら、「春日さんも乗ってください」なんてネギ君が言うもんだからお言葉に甘えて私も一緒に乗せてもらった。
3人で一本に乗るのはちょい狭かったけどこの一日で700kmぐらい進んだな。
魔法使いには杖と箒、これぞ真理。
オスティアの熊店長の忠告とは裏腹に帰り道は楽すぎる。
ついさっきゆえ吉が昼休みぐらいの時にネギ君が仮契約の解除魔方陣の書き方を調べて貰もらえるよう頼んだりしたから明日桃源に戻った時には解決するだろ。

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―8月22日、16時頃、桃源、ホテル―

昨日は春日さんが持ってきてくれた箒のおかげでかなり進めたから、今日は少しゆっくりめで飛んで来たけどようやく街に着いたな。
初めてみる魔法世界の街が中華風でイメージがちょっと違うんだけど、他の街はそれぞれ全然違うって話をミリアさんから聞いた。
年齢詐称薬を今日出発する時に飲んだら春日さんに「げっ!そっくり!」とかミリアさんに「本当に良く似ていらっしゃいます」って言われたんだけどどうも父さんに結構似ているらしい。
今丁度春日さんが滞在する為に数日間取っていたホテルについた。

「ココネー!!ただいま!」

「ミソラ、おかえり。ネギ先生、ミリアさん無事でよかった」

「ココネさんありがとうございます」

「ココネちゃん、ありがとうございます」

「とりあえず、まずは、この桃源のホテルには温泉があるから久しぶりに入りましょう。ココネちょい早いけど一緒にいく?」

「行く」

「よし。ミリアさんは……先に年齢詐称薬解除してもいいんじゃ?」

「あ、そうですね。ネギ君、お願いできますか?」

そっか、数日間結局小さいままだったんだ。

「ちょっと待って下さい……えーっと、はい、これを飲んでください」

「ありがとうございます。では……」

最初の時と同じで煙と音と共に元の大人の姿に戻った。

「やっぱりこの体が落ち着きますね」

「うおっ、分かってたけどミリアさん凄い美人!」

「どうもありがとう、春日さん」

「それじゃあ、ミリアさんも一緒に温泉入りましょう!」

「はい」

「ネギ君は風呂嫌いだからって言っても流石に入った方がいいよ。アスナが聞いたら怒るし」

「わ、分かってますよ!ただちょっと目に水が入るのが嫌なだけで……」

「うーん、ならばシャンプーハットをオススメするよ」

「あはは……」

「ふふふ」

こうして、僕は数日振りのお風呂、それも温泉に入った。
何だか浴場に行くまでに結構顔見られたんだけどもしかして賞金首ってバレてるのかそれとも父さんと似たような顔してるからなのかな……。
年齢詐称するだけじゃなくて完璧に違う変装した方がいいのかなぁ。
そんな事を考えながら身体を洗ってたら、結構お風呂って気持ちがいいなって思えてきた。
苦手でも必要な時は必要って事なのかな。
去年の夏休みに麻帆良学園のあちこちに連れて行って貰っていつも汗掻いて帰ってきたらアスナさんに無理やり洗われたのがなんだか懐かしいや。
実際には1年以上経ってるんだけど。
コタローとは例の拳闘大会の話をしてたら途中にテオ様が話に入ってきて「腕に覚えがあるならヘラス帝国の闘技場で選手登録してみたらどうじゃ?」って勧めてくれたからそれも良さそうだねって話になった。
ただミリアさんの話だと父さんは帝国からは前大戦で連合の赤い悪魔って恐れられたらしいからヘラスの人達の中には良い感情を持ってない人がいるんじゃないかって話を一応テオ様にしたんだけど、「そなたはナギ本人ではないのじゃから気にするでない。それに拳闘士は拳闘士でそれぞれ誇りがあるから大丈夫じゃ。気になるならアリアドネーの闘技場でもよかろう」って言ってくれた。
なんでも、テオ様は結構拳闘士の話に詳しいみたいでコタローに既に目ぼしい拳闘士の人達の映像を見せたらしい。
僕もちょっと見せて貰いたいと思ったんだけど、コタローの見立てでは「俺とネギなら普通にいけるで。まほら武道会の時と違うて場外無しで武器もアリやけど問題あらへん。まほら武道会で上位の人達よりは強くないと思うで」って言ってたから僕達でもやっていけるみたい。
驚いたのはアスナさんまで「これぐらいだったら私でも行けそうね」って言ってた事だ。
これなら春日さんが言ってたようにアスナさんに強く止められたりもしないんじゃないかなと思う。
拳闘大会に興味はあるし出てもみたい、けど今回のゲートポートの事件の真相、この世界の謎、もちろん父さんの事自体もまだまだ知りたいことはたくさんある。
……はぁー、気持よかった。
こうやってゆっくりできたのも久しぶりな気がする。
後はミリアさんとの仮契約の解除や服には影響しないマスター直伝の完璧な年齢詐称薬用に服も用意した方がいいかな。

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―8月22日、18時頃、桃源―

あー日本人の私がハードな旅をして4日振りに入る風呂が温泉ってのはなかなか気が効いてると思う。
ミリアさんも温泉入れたのがかなり嬉しかったみたい。
丁度ホテルのレストランで今日の夕食、もちろん中華料理を皆で食べてお腹も満たせた所で、ネギ君が大人バージョン用の服を用意したいって話をしてきたから早速街に買いに出た。
今日南極から出発する時からナギ・スプリングフィールドそっくりだったから桃源着いてからは結構人目を引いてて、できればフード被って欲しいかも……っていうのは言ってない。
大人用の服で何買うのかって聞いたら結局普通のワイシャツ、スーツ、ネクタイが欲しいって言うもんだから、いつものネギ君がただ成長しただけって感じ。
スーツとかそういうのには私は詳しくないスけど、一緒に替えの服を持ってないミリアさんもメガロに戻る用の服を買うついでに、ネギ君に「これが似合いますよ」ってガンガン選んでた。
どこから金が出るかっつーと、高音さんから貰ったクレジットカード、それとミリアさん自身がネギ君にお礼の意味も込めてネクタイなんかをプレゼントしてた。
ぶっちゃけ子供にあげるもんじゃないよなー、ネクタイなんて普通は。
まーそれでもネギ君は律儀に「お礼なんていいですよ。当然の事をしただけですから。でもありがとうございます、大切にしますね」って返したんだけど、今確かに姿は大人バージョンになってるけど、まだ私よりも年下の子供じゃんか。
だめだ、3-Aで培った先入観が強すぎてネギ君限定で子供と大人との境界が崩れそうだわ……。
ミリアさんもいるけど誰かここにもう一人ぐらい大人を寄こしてくれ。
そんな感じでここ数日には無かった普通の日常的生活感を醸しながら、またホテルに戻って、ゆえ吉から仮契約の解除魔方陣の情報を受け取って今まさに解除し始めるってとこ。

「ミリアさん、今回も呪文を唱えるだけでいいのでお願いします」

「はい、ネギ君。分かりました」

「では始めましょう」

魔方陣の中に二人で立ってモゴモゴ唱え始めてから数分が経って魔方陣が強く光ったと思ったら終わりっぽい。

「はい、これで仮契約解除ですね」

「私を守ってくれたネギ君との繋がりは終わりですが、この事は忘れません、ありがとう、ネギ君」

「僕も絶対忘れません!何か僕にできる事ってありますか?さっきネクタイを頂いたお礼がしたいんですが……」

「……お礼ですか……さっきのも私からのお礼だったんですが、お礼にお礼をしているとキリがありませんね。……それでは、ネギ・スプリングフィールド様のサインを頂けますか?」

「僕のサインですか?それで良ければもちろんです!」

いやー、それはなかなか貴重だと思うよ。
後で本物だと分かればオークションでもかなり値段が付きそうだし。

「ありがとうございます、ネギ君」

「そんじゃ私ちょっと色紙用意してくるよ!」

「え?春日さん、そんなわざわざ」

「いやいや、別に時間が無いでもないんだしどうせなら形に拘るべきだと思いますよ。止められるとアレなんで行ってきまーす」

こういう時はさっさと行動に移した方がいいスよ。
ホテルのフロント行ったら、たまに有名人がここの温泉に寄ったりするから色紙ならあるって話だったからちょい交渉して分けて貰った。
ネギ君にいざ渡して、書くのか?って時に「ちょっと練習します!」って紙に練習し始めたのは面白かったな。
一枚毎書いてはミリアさんに「こんな感じでどうですか?もっと何か直した方がいいところがあったら言って下さい」なんて見せて、そのミリアさんは最初「ネギ君が書いてくれるものなら何でもかまいませんよ」って言ってたんだけどネギ君が予想以上に拘ってたから、ミリアさんが「では、ここをですね……」とか言いながらどこの親子習字教室ですかって感じになったわ。
うーん超平和。
ある程度落ち着いて英語で遂に色紙にサインして終わりかと思ったらネギ君何を思ったのか「ミリアさんにメッセージも書きますね」って言い出して、実際書き始めたんだけどサインにも確かに少しメッセージぐらいは書く事もあるだろうけど、どーも寄せ書きみたいになった。
書いたのは一人だけど。
ま、子供らしくていい感じではあるね。
英語で書いてあったから大体しかわかんなかったけど南極での事についてなのか「辛い時に一緒に居てくれてありがとう」とか感謝の気持ちを表したみたい。
それでミリアさんの涙腺が緩んで泣いたりしたんだけど、ちょい南極での様を想像したら不覚にも私も貰い泣きしそうになったスよ。


―8月23日、9時頃、桃源国際空港―

いよいよ私達もドネットさん達に遅れてようやくアリアドネーに向けて飛空艇に乗る時がやって来た。
ミリアさんはオスティア経由メガロメセンブリア行きの便に乗るからとうとうここでお別れ。

「ミリアさん、またいつかお会いしましょう!」

「はい、メガロメセンブリアのゲートでお待ちしてますね」

「その時はちゃんと受付に寄りますね」

「最後に握手して貰っても良いですか?」

「はい!」

「ありがとう」

ネギ君が右手を出してミリアさんがそれを両手で優しく包んだ……のが子供と大人なら微笑ましいだけなんだけどー、今のネギ君は姿は大人の紳士モードだから何か違う別れのシーンにしか見えないスよ。

「ミリアさん、メガロメセンブリアのゲートに寄る時はまた私達もッスよ!」

「はい、春日さん、ココネちゃん、またお会いしましょうね」

「ミリアさん、また」

そのままお互い手を振りながらそれぞれの飛空艇に乗船した。
ミリアさんがギリギリまで笑顔で手を振っていたのはグッと来たわ。
……んで、今回部屋2つ借りたりしたかっていうと金もかかるしそんな事はしてない。
とりあえず、今後の予定の確認って事で、部屋で寛いで話すことにした。

「ネギ君、アリアドネーに着くのは8月31日になるみたいだね」

「1週間近くありますね」

「もう少し速いといいんだけどね。高音さん達も明日朝タンタルスからアリアドネーに飛んで着くのは8月30日だよ」

日付変更線をまたぐからあっちの方がちょい早いな。

「はー、いきなり飛ばされてから集まるのに時間かかっちゃいましたね」

「そうだねー。まあ、集合って言ってものどかはまだトレジャーハンターやってるから全員じゃないけど」

のどかは必ずネギ君達と合流するって約束したけどノクティス・ラビリントゥスにいるなら、フォエニクスまで一旦出ればアリアドネーまで2日ちょいでこれるから変装さえうまくいってれば特に問題も無いって事に今のところなってる。
何だか、トレジャーハンターやっているうちに、のどかは探し出したい魔法具があるみたいでまだまだ遺跡に潜る気はあるみたいね。

「のどかさんと通信して感じたんですけど、とても生き生きしていると思うんです」

「それ分かるなー。のどかは周りにトレジャーハンターの人達がいてそれなりに安全だし、図書館探険部での経験も予想以上に役に立ってるみたいだしやり甲斐感じてるんじゃないかな」

「3-Aの担任として生徒が成長するのはなんだか嬉しいです」

あー、ネギ君、君もまだまだ私達より成長する余地残ってるからね。

「ははー、それはネギ君もだと思うよ」

「あはは、そうですね」

「まー、その姿だとアレだけど。本当に凄いねその年齢詐称薬」

「マスター直伝ですから」

「エヴァンジェリン印って訳かー。私エヴァンジェリンさん所詳しく知らないんだけど、夏休みの間結構通ってた感じやっぱり修行してたの?」

「そうですね、1時間が1日になる魔法球で修行してました」

はー!?
なんだそのリアル浦島空間。

「24倍って……。そりゃ驚いた」

「僕もまだあんな空間を作るような大魔法はできません」

「あれ一番フツーので、まほネットでいくらするか知ってる?」

「えっと、知らないです……」

「4億円だよ。ドラクマだと250万ドラクマね」

「よ、4億!?」

ネギ君の驚いた顔面白いなー。

「それも2倍ぐらいでせいぜいだからね。24倍なんて普通市場にまず存在すらしないよ」

「はぁ……分かってはいましたけど僕って恵まれてたんですね……」

「まー恵まれてるっちゃ恵まれてるとも思えるけど、ちゃんと年は喰ってるから人それぞれじゃない?」

「そ、そうですね。でも戻ったらマスターに感謝しないと……」

「良い師匠だねぇ。そうだ、となると私今年のまほら武道会の試合実は見たんだけど、あの時よりも成長してるんでしょ?」

「春日さんもあの時龍宮神社にいたんですか?」

「あーいや、映像が見れる端末だけ持っててさ」

「そうだったんですか。まほら武道会の後はかなり修行したので確実に成長したと思います」

「高畑先生とネギ君の試合見て思ったけど、こっちの拳闘大会がどんなもんか分からないけど十分やっていけそうだよね」

「あ、それはコタローも言ってました」

インフレしてんなー。

「本人がそう言うならそうだろうね。何にしても後8日あるから、まほネットは繋がってるし色々情報も集められるよ」

「そうですね。僕も調べてみたい事が結構あるので使わせてもらいますね」

「どうぞどうぞ。それじゃあちょっと私は展望デッキの方散歩してくるね」

「分かりました。行ってらっしゃい」

さてと後は悠々自適、空の旅って奴だな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月25日16時、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

4日間に及ぶ空の旅の間、ドネットはまほネットで情報収集を行いながら高畑達と連絡を定期的に取り合っていた。
高畑達がメガロメセンブリアで調査を行った結果、ネギ達が懸賞金付きの賞金首になったのは、どういう訳か全てのゲートポートの監視映像のデータに確かに犯行の際の映像が偽造とはいえ残っていたのが理由として一番大きいという事が判明した。
全ゲートポートの破壊となれば重大なテロ行為であるのは紛れもない事実であるため、メセンブリア当局としては指名手配にかけるのは当然の流れであった。
メセンブリア当局で何度調べてもそのフェイト・アーウェルンクスが仕掛けた偽造映像を偽造だと見抜けない、当然偽造であるという確たる証拠も無いというのが問題ではあったが……。
ただ、犯人としてほぼ確定した上で懸賞金まで付ける事を決定したのはメガロメセンブリア元老院であるのは間違いない。
極秘に軍を動かして捜索という手もあった筈だが、国際指名手配という手段を取ったのはヘラス帝国に逃げられた場合を見越しての事であろう。
満場一致で国際指名手配にする事が決まった訳ではないのだが、証拠映像からの判断、そして実際にネギの事を予め昔から知っていた元老議員達の票が合わせて過半数を超えてしまったのである。
こうなってしまっては悠久の風所属、高畑と言えど、いかに声を上げた所で指名手配を取り消すというのは無理な事である。
あるとしたら終戦20周年を記念してのオスティア記念式典で恩赦でも降りるか、又は実際に自首をして裁判を受けて無罪を勝ち取るでもしない限り取り消すのは不可能である。
しかし後者は嵌められる可能性がかなり高くこちらも無理な話である。
高畑の持つツテからジャン=リュック・リカードやクルト・ゲーデルと接触して何かしらの交渉を持ちかける事もできるだろうが、ネギ達の居所を話さなければならなくなるかもしれないという点でリスクの割には成果が見込めない為これは見送りとなった。
ドネット達の現時点での結論としては指名手配に関してはどうしようもなく、まずはやはりアリアドネーやヘラス帝国で秘密裏に保護を受けるのが今のところの次善策であるという所で落ち着いのだった。
いずれにせよ高畑達は調査を始めてまだ4日程度であるため今後も引き続き調査を続ける運びとなった。
ただ、葛葉刀子は元々魔法世界にやってきた経緯が近衛木乃香の護衛であるため、一人メガロメセンブリアからオスティア、モエル、ゼフィーリアと経由してアリアドネーに向かう事になった。
また高畑は他にも、グッドマン家と佐倉家に対して挨拶回り、特にグッドマン家には麻帆良学園代表として今まで肩代わりしていた費用の返済をする必要があり、加えてアリアドネー魔法騎士団候補学校にも奨学金で入学している綾瀬夕映の授業料を返済する必要がある。
更にはメガロメセンブリアゲートポートに現れなかったジャック・ラカン氏と連絡を取る必要もある。

そして今、ドネット、長瀬楓、近衛木乃香、絡繰茶々丸はアリアドネー魔法騎士団候補学校に到着した。
そしてドネットが学校の窓口でセラス総長とのアポイントメントがあることを告げ、確認が取れた後、学校内に入る許可証を受け取った上で校内に入りそのまま総長室に向かったのだった。
職員に案内されて総長室に到着したドネット達をセラス総長が招き入れた所そこにはセラス総長だけではなくある生徒もいた。

「夕映っ!」

「夕映殿!」

セラス総長との先に挨拶する事そっちのけで綾瀬夕映、現在の名でユエ・ファランドールに近衛木乃香と長瀬楓は声を発し、近衛木乃香に至っては綾瀬夕映に飛びついたのだった。

「夕映、うちやよ!近衛木乃香や」

「このか……」

「このかさん、いいかしら」

「ドネットはん、すいません。夕映……ほなあとでな」

ドネットの一声で綾瀬夕映から一旦近衛木乃香は離れ、元の位置に戻った。

「セラス総長、お目にかかれて光栄です。メルディアナ魔法学校所属、ドネット・マクギネスです」

「近衛木乃香です」

「長瀬楓でござる」

「絡繰茶々丸です」

「初めまして、アリアドネー魔法騎士団総長のセラスです。本日は当校へようこそ。まずはあちらの席へおかけください」

「ありがとうございます」

6人が応接用の席に座りいくつか挨拶を交わした後本題に入った。

「セラス総長、国際指名手配されている子達、ここでは長瀬さんとこのかさんが該当しますが、アリアドネーでの扱いについて伺いたいのですが」

「形式通りの説明ですが、アリアドネーはいかなる権力にも屈しない独立学術都市国家であり、犯罪者や魔物であっても、学ぶ意思がある者の逮捕は禁止されています。よって、学ぶ意志表示とその形式さえ満たせばアリアドネーの庇護下においては指名手配から削除をすることをお約束致します」

「ありがとうございます。形式という事は学校に入るという形でよろしいのでしょうか」

「そうして頂けると一番良いです」

「分かりました。そういう話なのだけれど、このかさん、長瀬さん、アリアドネーの学校のどこかに入学する気はあるかしら?」

「ドネットはん、そういう事なんやね。うちも魔法の勉強はしたいからどこかに入学はしたいえ」

「拙者は……魔法は使わぬからなぁ。身体操術で気づかれずに生活ができれば構わないのでござるが……」

「長瀬さんはそうよね……。このかさんは良いのだけれど、この後もあと最大で5人は来る可能性があるのよね……」

形式を満たしさえすればアリアドネーの庇護下にあるという決定的な事実が得られるので指名手配は削除できるが、実際の所拠点としてアリアドネーに滞在するだけでも十分であり絶対に入学しなければいけないという事ではない。

「長瀬楓さんが魔法以外で学びたい事はあるかしら?」

「うーむ、強いて言うならケルベラス大樹林での経験から魔法世界の植物や魔法世界の変わった生物については気になったでござるな」

「ケルベラスでは苦労したわね……」

「……それなら大丈夫です。独立学術都市国家には魔法を扱わない学校も存在するわ。そこに在籍という形さえ取れば問題ありません」

「そうでござるか」

「セラス総長、長期間入る必要も無いですから体験入学という形で手続きをすることはできますか?」

「ええ、もちろんです」

「それではお願いします。このかさんは……夕映さんと同じ学校に入るかしら?」

「そうやな……うちも夕映と同じ学校がええな。夕映の記憶が戻るのも早うなるかもしれんし」

結果近衛木乃香は綾瀬夕映と同じアリアドネー魔法騎士団候補学校に入学する事になり、長瀬楓はほぼ形式だけで別の学校に体験入学という扱いになった。
そのままセラス総長とドネットとの間で手続きが迅速に行われ、まずは二名の指名手配がすぐにアリアドネーからは削除される事が決定した。
当然ある意味アリアドネーにいるということをバラす事になるが、実際に逮捕することはできないので、連合の領地で独自に捕獲でもされない限りは安全である。
交渉を終え、ドネット、長瀬楓、絡繰茶々丸はアリアドネーのホテルにこれからしばらく滞在する事になったが、ただ一人近衛木乃香はアリアドネー魔法騎士団候補学校女子寮に必要な物を持って早速入寮する事になり、獣族の変装キットを使用中のままであるが綾瀬夕映にそのままついていったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月25日、17時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、コレット・ファランドールの寮室―

ユエの旧世界での同級生がやってきたんだよー!

「こうして会うのは初めてやな。うちは近衛木乃香、あ、コノカ・コノエの方がええんかな?」

「コノカね!私はコレット・ファランドール。あの、ユエの記憶消しちゃってごめんなさい……」

「コレットそれは前にも謝ったですし、起きてしまったことは仕方ないですよ」

「コレットはん、夕映がこう言っとるし気にせんでええよ。そのうち記憶は戻るんやろうし。ほなよろしゅう」

私の中では尾を引きずってる事なんだよー。

「……うん、よろしくね、コノカ」

「うちもコレットって呼んでええかな?」

「もちろんだよ!」

「うん、ありがとな、コレット」

「それで……このかも魔法使えるんだよね?」

「まだまだ見習いやけどな。うちの専門は治癒魔法なんやよ。そんな酷くない怪我なら簡単に治せるえ」

治癒魔法!?

「えー!凄いよこのか!治癒魔法は専門教育だからここの学校だとあんまり扱ってないんだよ」

「そうなんか。ここに入るからにはうち戦闘魔法もきちんと頑張らんとあかんな。夕映達が受け取る授業も受けてみたいえ」

「明日から早速なんだよね?クラスは?」

「3-Cやよ」

私のクラスだけ転校生が多い!

「それなら私達と同じクラスだよー!」

「セラス総長が便宜を図ってくれたんや」

「流石グランドマスターだね」

「うちの指名手配も解いてくれるらしいえ。それで夕映はここの学校でどうなんかな?」

「うーんとね、実技は凄いし、他の科目は最初全然だったけどこの10日でかなり点数も上がってきてるんだよ」

「コレットも私と一緒に頑張っているです」

ユエにそんな簡単に抜かれるわけにはいかないからね。

「夕映前は学校の勉強嫌いやったんやけど少し変わったんやなぁ」

「やはり……そうでしたか。私も少し違和感があったですよ」

そういえばユエそんな事少し前言ってたなー。

「いいことやと思うえ。ネギ君もきっと良かったっていう筈や」

「そ……そそ……そうですか」

「ユエ、ネギ君の事になると動揺するなー。そうだ、ネギ君ってもうすぐアリアドネーに来るんだって?」

「そうやね。まだアリアドネー行きの飛空艇の中や。着くのは31日言うてたな」

「あともうすぐだね!」

「他にもあと何人か来るえ」

「楽しみだなー。私達こっちで旧世界の勉強はしても殆ど行ったこと無いから詳しい話を聞いてみたいんだよね。ユエの学校の事とかも」

「ほんならうちが説明するえ」

「やったー、ありがとう、コノカ」

「任せてな。夕映には少し通信で話したんやけど今度はもっと詳しく話すな」

「お、お願いするです」

「ほな、まずは……」

コノカから長い事話を聞かせて貰ったんだけど旧世界は科学が発達してて、飛行機っていうのは魔法世界の飛空艇よりもずっと速かったり、電車や新幹線、宇宙に飛んでいけるロケットっていうものまであるんだって。
食べ物の話も聞かせてもらってお寿司とか天ぷら、鍋なんてものがあるらしいんだけどいつか行ってみたいな。
ユエとコノカが旧世界の学校で入ってた図書館探険部は、図書館なのに罠が仕掛けてあったりして迷宮になっている凄く変わっている所の全貌を解明するための部活なんだって。
アリアドネーの図書館だとそういうのは無いし旧世界って面白そう。
ユエも話の途中で少し引っ掛かる事があったりして少しは記憶回復の手がかりにはなったみたいで良かった。
明日からコノカとも一緒に授業を受けられると思うと楽しみだよー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月30日、16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、女子寮―

アリアドネーに到着したすぐその翌日から、新たに近衛木乃香は転校生として魔法騎士団候補学校に迎えられ授業を受け始めたが、地球で学んでいた事と違う分野、教科が多く色々勉強することがあると実感し、その上で綾瀬夕映の適応能力の高さに驚いたのだった。
それでも、近衛木乃香はやはり実技の方はレベルがそれなりに高く、訓練中に怪我をしたクラスメイトがいれば治癒を使ったりもして入学早々人目を引いた。
近衛木乃香のフワフワした雰囲気に当たると仮にも精鋭を目指す魔法騎士団候補学校にはそぐわない緊張感の無い空気が広がったりするが、コレットや綾瀬夕映がいたことや、エミリィ・セブンシープとも既にネギの一件で通信をしていた事と、彼女自身近衛木乃香の写真を見ていた事から、入学したその日に交流をし、馴染むのにさほど時間はかからなかった。
数日が経った8月30日、ようやく高音・D・グッドマン、佐倉愛衣、桜咲刹那、古菲もアリアドネーに到着し、予め予定を伝えてあったドネット達と合流を果たした。
ここに来てようやく高音が運んできた手裏剣やクナイ類の忍具それと仮契約カードは長瀬楓本人の手元に戻った。
そして改めてドネットは桜咲刹那と古菲を伴いセラス総長と再度面会し、流れ作業となりつつあるが、長瀬楓と同じく体験入学という形で形式だけ整え二人のアリアドネー下における指名手配削除が続けて決定された。
まさに「学ぶ意志のあるものは例え犯罪者であっても逮捕する事は禁じる」という独立学術都市国家ならではの裏技であり、この方法はメセンブリーナでもヘラスでもできない事である。
しかし、今回こうも簡単に事が進んだのはアリアドネー魔法騎士団総長であるセラスとの直接の繋がりがあるからこそ可能であり、通常は正真正銘の犯罪者が逮捕されるのを逃れるために来た所で、本人に学ぶ意志がある事を認定するのに厳しい審査があり、そう簡単に庇護を受けることはできはしない。
そうでなければ今頃アリアドネーは犯罪者の巣窟になっているのだから。
まさに特例中の特例であり、この縁を作る原因となった綾瀬夕映がアリアドネーに飛ばされ、コレット・ファランドールと一悶着あったのはある意味幸運であったと言えよう。
この件に関してセラス総長の責任は非常に重く、もし彼女達がテロ行為に及ぶような事があればセラス総長もその総長という地位に揺らぎが出るリスクは必ず付き纏っており、セラス総長自身それを分かった上での協力である。
できた借りには底知れない物があるが、事実ネギ達が無実であるのは自明であり、セラス総長としては毅然とした対応を取るのが神聖なる騎士団として当然の行動だそうだ。
またセラス総長自身、前大戦の最終決戦でも若くしてアリアドネー騎士団部隊の最高指揮官として働いた功績は勿論の事、それに加えて終戦後20年間これまでの働きからもアリアドネー上層部での信用は厚く、今回のセラス総長の処置が決して間違ったものではないだろうと理解が得られているので実際に解任に追い込まれるようなことは早々無い。
アリアドネー上層部でもゲートポートの件は連合の自作自演であると決して公言はしないもののそう見る向きが多いのもその一助になっている。
実際どこのデータにも存在しない赤髪の少年が突如現れ各地のゲートポートで同時多発的にテロを行い、その共犯者としてこれまた身元不明の6人の少女が加担したと誰が心から確信するだろうか。
寧ろ、幻術を使っている可能性があるにしても、見た目年端もいかない数人の子供に厳重な警備が為されている筈のゲートポートがあっという間に全て潰された等という事実そのものが帝国とアリアドネーにしてみればお笑いぐさでしかないのだ。

……そして今女子寮に顔を出しにドネット達に伴われて主に、未だ変装付きだが桜咲刹那と古菲が近衛木乃香と綾瀬夕映に久しぶりに再開を果たした。

「うわぁぁん!!せっちゃん!せっちゃぁぁぁん!!」

「お、おおおおおお、こ、このちゃん!?」

顔を合わせたその一瞬の間を置いて近衛木乃香が桜咲刹那に飛びつくのは必然である。

「会えて良かったえー!!」

「お嬢様もご無事で本当に、本当に良かったです!」

うら若き魔法騎士団候補生が女子寮のロビーの床でゴロゴロしているのは場違いであるのだがドネット達は仕方ないという風で微笑ましくその様子を眺めていた。

「お嬢様、夕映さん、お届けものです」

「あ、うちの仮契約カードと杖やね!せっちゃん、高音さん、ありがとう!」

「礼には及びませんわ」

「こ……これは私の……仮契約カードなのですか?」

「はい……間違いありません。カードの絵柄が消失していますが消去法で夕映さんのものであるのは確実です」

「夕映さん、カードの絵柄が消失しているのは一時的な記憶喪失と関係がある筈よ。そのうち元に戻るでしょう」

「あ……あの、これの契約相手はやはり……」

「夕映、前言ったけどネギ君やよ。魔法世界に来てる時限定の予定やけどな」

「そ、そそそ、そうですか。ありがとうです」

「夕映は本当に記憶が無くなってるアルな」

「のどかやネギ君に会ったらきっと思い出すえ」

「そ……そうだと良いです」

「そんでせっちゃんとくーふぇはどうなったん?」

「私と古も楓と同じく体裁だけ学校に入学した事になっていますが、基本的にはこの女子寮の近くのドネットさん達と同じホテルに滞在する事になりました。葛葉先生も数日中に到着します」

「そうなんかー。明日はネギ君達も来るし、日曜やから皆でアリアドネー見て回りたいな」

「それはいいわね、このかさん」

「ありがとう、ドネットはん」

「それではお嬢様、夕映さん今日はこれで失礼致します。また明日お会いしましょう」

「うん……分かったえ」

「このか、夕映、また明日アルね!」

「このか殿、夕映殿またでござるよ」

「また明日です」

こうしてそれぞれ再会を果たし、仮契約カードも持ち主の元に戻り、残るカードは神楽坂明日菜、宮崎のどかと犬上小太郎のものとなった。
因みに未だ神楽坂明日菜、アーニャ、犬上小太郎の3人はテオドラ皇女の庇護の元、ヘラス帝国首都に滞在している。
これは是非テオドラ皇女がネギと会ってみたい、できればヘラス帝国の闘技場で拳闘大会に参加して欲しいという思惑があるのだが、3人の安全は確保されているし、それぐらいは寧ろ当然だろう。
勿論狙いはネギだけではなくそこから世界のどこかにいる筋肉ダルマを釣り上げるという目的もあるのかもしれないが。
この晩コレットの寮室では近衛木乃香のアデアットを披露という事があったりして盛り上がったのは余談である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月31日、12時頃、アリアドネー国際空港―

んんー、はぁー!
やっと着いたー。
高速艇を急いで使う必要もないから一般旅客用飛空艇でゴゥンゴゥン来たけど時間かかったスよ。
魔法世界を一周都市を伝って回るだけで5万ドラクマかかるっていうのは常識らしいんだけど既に私達合計すると余裕で超えてるね。
全部高畑先生が立て替えて払うらしいけど、そういや高畑先生ってまほら武道会で800万近い賞金貰ってた気がする上、元々金持ってそうだから問題ないか。
ぶっちゃけネギ君の最大加速の箒で飛べば旅費なんてかからないし、しかも速いけど流石にそんな数千kmも飛べんからね。
で……空港の正面玄関すぐの所にドネットさん達が皆来てるって事なんだけど……。
っておおっ、皆揃ってるな!

「あっちに大勢でお迎えだよ、ネギ君」

「はい!」

こっちに皆まだ気づいてないし、ちょっと驚かせられるか?
つか何人いんだ、知らない人もいるっぽいけどあれだ、多分ゆえ吉のクラスメイトか。
このかも入学したっていうのには驚いたけど、まー指名手配削除するならアリか。
相変わらずの獣族の変装に加えて認識阻害メガネもしてるみたいだけど。
思わず小走りで皆のとこに急いで走ったよ。

「皆さん、お久しぶりです!この前は心配をおかけしました!こうしてやっと会えて嬉しいです」

「やー皆久しぶりッス。高音さんクレジットカードとか色々助かりました」

「………………」

「あのー、皆さんどうしたんですか?」

あはー、ネギ君大人バージョンだもんなー。
ゆえ吉のクラスメイトっぽい人達は完全に石になってるんだけど大丈夫か?

「ネギ君……なん?」

「でかいネギ坊主アルか?」

「ネギ坊主……しばらく見ないうちに大きくなったでござるな」

身体操術とやらを使ってる楓に言われたくねー。
視線がネギ君に釘付けだけど私は空気デスカー?
視界に入らないのかなー。

「いや、皆、年齢詐称薬だからね!」

「あー……。そうや!!ネギ君、無事で良かったえ!美空ちゃんも久しぶり!」

「おおっ!ネギ坊主、美空良かったアル!」

「ネギ先生、春日さん、お久しぶりです」

「ネギ君無事でよかったわ。春日さんも救出本当にありがとう」

思い出したかのようにスイッチが入って畳み掛けられたんだけどなんだかなー。
とりあえずネギ君がもみくちゃになってる間に高音さんに報告だわ。
てか、かわいそうだからネギ君の顔の肉引っ張ったりすんのやめなよ……偽物か確認するんじゃないんだし。

「いやー、高音さんクレジットカード助かりました」

「お役に立ったようですわね。費用は高畑先生が払って下さることになりましたから問題ありません。それより春日さん、よくご無事で。春日さんがわざわざ単独で南極に向かうことは当初考えていませんでしたのに、危険な目にあわせてすいません」

堅っ!
堅いわ!
流石高音さん。
まー確かに当初の予定だと望みは薄くてもなんとかして捜索隊でも出してもらうよう要請するって案も選択肢にあったスからね。
……それがオスティアに着いた段階でネギ君が相当ヤバそうだった上に19日に着いた途端指名手配までかかったらやるっきゃなかったし。

「まー、終わったことだからいいスよ。南極突っ込むのに高い買い物したおかげでかなり楽でしたから」

サーモスタビライザーは神。
まー飛空艇一台でも荒れる可能性ある天候の南極に無理して飛ばせば一発だったかもしれないスけど。

「ええ……良かったです」

「春日先輩お疲れ様です。無事で良かったです」

「愛衣ちゃんもお疲れー。今日はどんな感じなの?」

「今日は皆でアリアドネーを回る事になってますよ」

「なーるほど、日曜だから丁度観光って事ね」

「はい!」

お、ネギ君の方も落ち着いたか。

「ネギ先生、杖と指輪です」

「わー刹那さん、ありがとうございます!」

「ネギ君、うちと夕映のクラスメイト紹介するえ!」

「こ、コレット・ファランドールです!初めまして!」

「え……エミリィ・セブンシープです。ネギ様、お目にかかれて光栄ですわ」

「ベアトリクス・モンローです。ネギ様初めまして」

様付けかーい!
まーミリアさんを思うに生粋の魔法世界人はどこもこんな感じか。

「初めまして、コレットさん、エミリィさん、ベアトリクスさん。ネギ・スプリングフィールドです。夕映さんをありがとうございます」

「…………はぁ、いえ、当然ですわ……」

おおーう、エミリィさん露骨に蕩けてんだけどそこまでいくと流石に重症なんじゃ?

「夕映さん、まだ記憶戻ってないかもしれませんが、色々調べ物を手伝ってくれてありがとうございました」

「は……はいです。でもあまりお役に立てませんでしたが……」

「そんな事ありません。助かりました」

「…………ど……どういたしましてです……」

あー、だめだこりゃ。
ネギ君の大人バージョン紳士スマイルで落ちる女性の数をカウンターで計算すると酷い事になりそうだわー。
多分アスナが見たら「な、何か生意気よ。ネギのくせに!元の姿に戻りなさいよっ!」とかマジ言いそう。
てか言うな、絶対。

まー数えてみたら15人いて、感動の再会もそこそこにアリアドネー巡りをぞーろぞろ揃ってしたんだわ。

「楓、その身体ってどういう仕組み?」

うわー、糸目のちびっこマジ笑えねー。
しかも見た目これで戦闘能力はアレだしな……。

「これでござるか。身体操術に忍術を併用した自前の変化でござるよ」

つーか今明らかにとうとう忍術って言いやがったな。

「あー、骨は?」

「骨は……聞きたいでござるか?美空殿」

そんな高い声とちっさい身体でキリっとした顔されてもなー。

「いや、やめとくよ……」

「フフ……これも秘伝なのでござるよ」

聞いた私が馬鹿だったスよ……。

アリアドネー観光ってどんなんだったかっていうと結局あちこちの歴史ある学術的建物見たりだとか、遊覧飛空艇に乗ってアリアドネーの中でもイチオシのスポット、主に北部の港町を巡ったりとかそんな感じ。
アリアドネー東の郊外にSilva-Monstruosaっていう魔獣の森とかあったけど誰が行くもんかーって……楓、入りたそうな顔するな。
総じてやっぱ学生風の人が多い多い。
それに学術都市国家って言う割りには闘技場も西部にちゃんとあったしちょっと意外。
聞いてみたら戦闘魔法を実戦で使ったり、闘技場付きのヒーラーとして働けば実地訓練にもなるからってのと、単に娯楽が必要だからってのが理由にあるらしい。
その辺で野良箒レースとかもやって賭けしてる風景は麻帆良に似てるっつーか、あ、麻帆良がこっちに似てるだけか。
だから日本の中でかなり浮いてるんスねー、よく分かった。
昼から夕方まであちこち見て回ってかなり楽しかった。
楽しいっていうより幸福感でそのまま昇天しそうなエミリィさんはマジ顔がいいんちょより危ないわ。
クラッと倒れそうになって、都合よくネギ君が「大丈夫ですか、エミリィさん」なんて支えたらもうね。
ネギ君は素だけど、エミリィさんの顔がアレすぎて糖分口から吐けそう。
あまーっ!!
つか、いいんちょよりヤバいっていうかこっちでマジもんの委員長だった。
なーんか話し方も似てるし委員長って言ったらコレ!って決まってんのかね……。
あと「ネギ様……よろしければサインを頂けないでしょうか?」なんてお願いされて、快くネギ君は「はい、構いません。あの、僕の方が年下ですからもっと軽く呼んで良いですよ」って言いながら3人分サイン書いてた。
ミリアさんの分で練習しまくっただけあって「春日さん、練習しておいて良かったです」って言ってきたから「何事も経験スねー」って返しといた。
ついでにちゃっかり愛衣ちゃんもサイン貰ってたのは抜け目無いと思う。
観光を終えて私達はホテルに、このかとゆえ吉とクラスメイト3人は女子寮に戻った。
この後ネギ君はドネットさんとセラス総長に会いに行くらしい。
今後どーする予定なのかさっぱり分からないけど私が南極程超頑張ったりすることは多分……無いだろー……と思いたい、うん。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月31日、20時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校総長室―

今日はやっと皆に会えてすぐ、アリアドネーのあちこちを一緒に見物できて楽しめた。
父さんの杖とマスターの指輪の発動媒体も戻ってきたしやっぱり長い間使ってたからこっちの方が馴染むな。
今、アリアドネーでの皆の指名手配を解除してくれるよう動いてくれたセラス総長にドネットさんと一緒に会いに来て話をする所。

「初めまして、ネギ・スプリングフィールドです。夕映さん達をありがとうございます」

「アリアドネー魔法騎士団総長のセラスよ。初めましてネギ・スプリングフィールド君。その姿だとお父様にそっくりね」

「あはは、やっぱりそうですか」

「ええ、よく似ているわ。それで、ネギ君の指名手配の件ですが……」

「セラス総長、やはり……」

「はい。ドネットさん、ネギ君の指名手配はここでは削除しない方が良いでしょう。ネギ君は恐らくメガロメセンブリアから一番狙われている人物よ。ここで指名手配を解除している事をアピールするのは危険ね。他の子達の懸賞金がそこまで高くないのは、誰か捕まえた上でネギ君をおびき寄せる為の罠かもしれないわ」

「そうですか……」

確かに僕だけ賞金額が他の皆より桁違いだった。
その可能性は十分にある。

「でもネギ君のその年齢詐称薬ならまず気づかれることは無いから大丈夫だと思うわ」

「……そうですね、ドネットさん。ここまで来るのに気づかれなかったのでそれは大丈夫だと思います。……それに、一度僕はヘラス帝国に行く必要があるので指名手配解除の件は結構です」

「申し訳ないわね。あなたが犯人ではないのは間違いないのに」

「容疑をかけられてしまっては仕方ありません、それより他の皆を保護をお願いします」

「それは任せて頂戴。アリアドネーの庇護下では逮捕させたりはさせないから。それと例の論文の件なのだけれど、アリアドネー内でまだ調査中よ。確実にありそうなのはメガロメセンブリアのそれも上層部の可能性が高いけれど」

火中に飛び込まなければ手に入れられないか……。
実際には殆ど確認だけで良い。
ただ魔法世界の崩壊の原因が魔力の流出であると、しっかりした研究、それが理論的にどう裏付けがされた上で書かれているのかが知りたい。

「ご協力ありがとうございます。そうですね……メガロメセンブリアにあるならタカミチ……高畑先生にも頼んでみます」

「それは高畑・T・タカミチかしら?」

「はい。今メガロメセンブリアでゲートポートの事件を調査してます」

「それは心強いわね。魔法世界と旧世界の魔力の質が違うという話をユエから聞いたのだけど説明してもらえるかしら?」

「僕もその時はなんとなく感じただけだったんですけど、やっぱり色が違うと思うんです」

「色?」

「はい……旧世界の魔力が緑色だとするのなら魔法世界の魔力は桃色なんです。もちろん、感覚的なものなので僕に魔力が常に視覚的に色がついているように感じられている訳ではありません」

南極での一件で出力が上がったから一応見せられそうな方法はあるんだけど……。

「変わっているわね、そんな事を感じられるなんて」

「僕も最近気づいた事なんです。一応判断が付くかは分かりませんが実演してみましょうか?」

「そんな事が可能なの?それなら是非お願いするわ」

「はい。少し離れますね。……行きますっ!」

―魔法領域展開 出力最大!!―

こ……これなら、殆ど白く光ってるだけだけど本当に僅かに淡くうっすら桃色、赤色という感じ……かな。
マスターが初めて実演してくれた時も本当に少しだけ緑色に感じられたしやっぱり違う。

「これを少し抑えると」

―魔法領域 出力抑制!!―

もういつも通りの完璧な白色の輝き。

「……少しだけ色に違いがあったと僕は思うんですけどどうですか?」

「…………その前に色々興味が湧いたわ」

「ええ……私もよ……ネギ君、その障壁は一体……?」

そういえばまほら武道会で使った時にも結構驚かれたんだったな。
ドネットさんは修学旅行の時にメルディアナにいたけど……実際には見てなかったか。

「ドネットさん、これは僕の師匠から教わった魔法障壁の一種なんです。障壁というより魔力の層そのものなんですけどね。魔法発動媒体は不要で、特に魔法詠唱をする必要も無く、訓練して念じるだけで発動できます」

「流石はあの魔法使いね……」

ドネットさんが誰か言わないでくれて助かるな……。

―魔法領域解除―

「魔法発動媒体無しでできるというのは凄いわね……。私としては興味が尽きないのだけれど話を戻しましょう。確かに私には先程の障壁の色が前と後で僅かに桃色がかっているものから完全な白色に見えました」

「私もそうね」

「是非旧世界で試した場合との違いを比較したいわね」

「それは機会があれば是非」

「質が違うという意味はなんとなくわかりました。ありがとう」

「いえ、少しでも理解して頂けて良かったです」

「今日の所は一応例の論文のアリアドネーの総合図書館にある物の写しを渡しておきます」

「ありがとうございます。セラス総長」

「どういたしまして」

「セラス総長、今日の所はこれで失礼致します」

「それでは失礼します、セラス総長」

「はい、何かあればまたご連絡下さい、ドネットさん。論文の件で進展があったらこちらからも連絡するわネギ君」

「分かりました、ありがとうございます」

これで次はヘラス帝国か……。
修学旅行の一件で現われたフェイト・アーウェルンクスが今回のゲートポートの事件に関わっているのだとしたら、アスナさんを連れ去ろうとした事、多分魔法無効化能力が原因だろうけど、これが無関係で無いとは言い難い。
それに一度アスナさんに無事な姿を見せないと。

「ドネットさん、できるだけ早く僕はヘラス帝国に向かいたんですが良いでしょうか?」

「そうね、いいわよ。旅費に関しては心配しなくていいわ」

「はい、ありがとうございます」

「ただ、アリアドネーでのその姿のネギ君の正式な滞在許可証とヘラス帝国行きのための渡航許可証の発行に時間がかかるから少し待ってもらえるかしら?」

「それはもちろんです」

「それにしてもネギ君の魔法はセラス総長の言うとおり色々興味深いわ」

「そうですか?」

「無詠唱や浮遊術はともかく魔法発動媒体無しでできるというのは画期的ね」

「それが実は分類で言うならアレは浮遊術の一種なんです」

「あら、そうなの?」

「はい」

「本当に興味深いわ。きっとどこの魔術開発部でも情報が知りたいと思うわよ」

「あはは、そんなにですか」

マスターも僕ができるようになるかはわからないって言ってたぐらいだし……実際あの通信法で感覚が掴めないと無理な気がするからどうかなぁ……。
新しい魔法っていうと理論を作ってそれを実際に術式にすれば良いんだけど……これはマスターが言うようにもっと基本的、根源的なものだ。
とにかく、まずはホテルに帰ったら論文の写しに目を通すところから始めよう。



[21907] 48話 魔法世界編7
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/01 08:12
―9月1日、8時30分頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

昨日の夜ネギ君がアリアドネーの総長さんと話をしてきた結果を皆で聞かせて貰った。
指名手配解除ができないのはまぁ仕方ないかって感じだな。
ネギ君が調べたいっていう論文は高畑先生にも連絡してメガロメセンブリアでも調べてもらえるようすぐ頼んでたし、貰ってきたコピーも昨日の夜早速全部読んでた。
そんでヘラス帝国の首都に行くって言うから今日ドネットさんと茶々丸がアリアドネーの入国管理局で色々事務手続きをして皆の書類作成と、アリアドネーでの長期滞在許可証の発行で大体丸1日潰れるって事になって今どうなってるかっつーと……。
アリアドネー魔法騎士団候補学校の授業の見学会スよ。
参加メンバーは高音さん、愛衣ちゃん、ココネと私と……てか残り全員。
いやー、一応最初から指名手配関係なかった純粋魔法生徒の私達がいるのは交流だとかそういうのでなんとなくわかるんだけどさ。
変装に認識阻害メガネもかけてるからいいっちゃいいだろうけどもうねー。
ネギ君って昨日の件はともかく女子校に入っていいのか?
あれか、麻帆良でも女子中等部だったしアリか、アリ……か。
まあこれ決定したのは突然今日の朝セラス総長から宿に連絡が来て「よかったら魔法騎士団候補学校の授業を見に来ないかしら?」と言う誘いを受けたからなんだけどね。
昨日のアリアドネー巡りでもゆえ吉とこのかのクラスメイト3人とも知り合いになったし、魔法世界のガチな学校がどんなもんなのかは気になるっちゃ気になるのは確か。
それより今の状況スよ。
3-Cの教室の一番後ろにズラっと私達8人がパイプ椅子を用意してもらって並んでんのさ。
エミリィいいんちょとベアトリクスさんが割と前の方の席でゆえ吉とコレットさんが真ん中一番後ろから2番目の列の3人掛けの3人机の席のうちの2つ、でもってこのかが更にその後ろに一人でいる感じ。
4人机あってもいいかもしれないけど、皆スゲー何冊も本机に積んでるから狭いしって事なんだろうけど、羽ペンの動く速度が速すぎるしやべースよ。
どこの受験予備校だっつーの。
いや、シャーペンじゃ無いの?とか思うけど魔法世界の学生が使うペンはこれが普通らしいし、インク瓶必要なくずっと書けるみたいなんだから良いんだろうけど。
これ3-Aが見たら引くわードン引くわー。
ネギ君何か授業風景に超驚いてショック受けてるし。
……まーなんつーかゆえ吉とこのかの授業参観っぽいわー!!
で、アレじゃん、私達端末持ってるからベラベラ授業中でも喋れる訳よ。
このかとゆえ吉には繋いでないけどね!!

《あの……僕の授業ってもしかしてダメでしたか?教室の雰囲気も含めて……》

言うと思ったよー!!

《ネギ坊主、こんなむつかしい話で緊張した中授業されても私わからないアルよ》

いや、くーちゃん今結構面白いだろ。
何か丁度地球の話しててちょっと笑えるし。
つかアレだよ、緊張した雰囲気の方が集中力増して覚えられる筈スよ。

《ネギ坊主、ネギ坊主はネギ坊主でいいでござるよ》

因みに今日の楓は謎の幼児形態じゃなくて普通の変装と認識阻害メガネ付きだから身長に声の高さは元通り。

《ネギ先生、自信を持ってください》

《ネギ君、校風って奴だからさ。気にしなくていいと思うよ》

《私も麻帆良の中等部は中等部で良いところがあると思います》

《皆さん……》

ここまでフォローが入ったんだけど……。

《皆さん何をおっしゃっているんですか。やはり学校とはこう規律あるべきです》

高音さんの反撃来たわー。

《た、高音さん……。僕……麻帆良に戻ったらもう少ししっかりとした授業します!》

《お分かり頂けたようで嬉しいですわ》

《ネギ坊主、今まで通りでいーアルよー!》

あーだめだこりゃ。
でも3-Aをこんな空気にするなら命の危険でも迫らせない限り無理だな、うん。
……流石のエリート養成学校でもクラスの人達が結構こっちチラチラ見てくるねー、しかもネギ君の方に集中して。
まー何の説明もなく、「見学の方です、いつも通りの授業態度を心がけるように」とかで一蹴されてもナギに似てるかどうかは認識阻害がかかってるからはっきり分からんだろうけど、それを別にしても男子がいるんだから無理な話だな。

「つい一世紀前まで民衆の間では伝説かお伽話と思われていたこの『旧世界』ですが、ある面では我々より遥かに進んだ社会形態を持ちながらも、他面ではより深刻な病理を抱えた世界ともいえ数千年にわたって全く異なった道を歩んできました。この二つの世界はまるで鏡のようにお互いを……」

おとぎばなしー?
私は地球生まれ地球育ちだからなー、寧ろ魔法世界の事を親から聞かされた時の方が私にしてみりゃどこのファンタジーって感じだったスよ。

《高音さんと愛衣ちゃんは魔法世界生まれなんスよね?》

《そうですわ》

《はい、私は物心ついた頃にはアメリカのジョンソン魔法学校にいたんですけど》

5、6歳ってとこか。

《地球の事ってやっぱり小さい頃はお伽話とか思ったんスか?》

《ゲートポートの事は教えられていましたからね。このアリアドネーのような説明をされたことはありませんでしたが、初めて麻帆良に来た時には魔法無しで科学が発達していたのには驚きましたわ》

いやー、麻帆良は科学のレベルもどっかおかしいから。
特に最近は超りんとハカセのせいでヤベーよ。

《育った環境って大きいんスねー》

《僕も日本に来た時には驚きました。……今まで聞いてなかったですけど高音さんはどうして麻帆良で魔法生徒を?》

《ネギ先生と同じく修行の一貫ですわ。私は実家から魔法世界だけでなく旧世界でも見聞を広げて来いと言われたのが発端です。私の年齢から丁度受け入れ先に麻帆良学園を紹介されたのですわ》

堅すぎたり偉大なる魔法使い系の発言は根本が魔法世界の感覚だからかー。
でもまーグッドマン家が子供の教育に熱心なのは分かった気がする。

《そうだったんですか》

アリアドネーだから何なのか知らんスけど数千年って言ってるのは何か変じゃね?

《高音さん、より深刻な病理っていうのは地球の現状の事だと思うんスけど、中国とかはアレにしても数千年って言うほど地球の歴史って長くないんじゃ?科学が一気に発達したのはここ数百年が殆どッスし》

5千とか6千とかだったらそれらしいとは思うよ。

《2000年もあれば一応数千年だとは思いますが……》

《それは……タカミチが言っていた時間の流れが違うっていうのが関係しているのかもしれませんね》

《あーなるほど。って事はもしかしたら地球って魔法世界に比べて凄く長い時間が経過してるかもしれないって訳か。例えば4倍ぐらい?》

《……春日さん、その疑問は良いですね》

《え?何?》

《この世界の謎について仮定とは言え新たな情報ですから》

《あー、なんだか分かるようで分からないけどネギ君の役に立ったなら良かったスよ》

もー先生っていうより世界の謎を解き明かす!とか学者っぽいな。
プロフェッサー的な。
でー、何のかんの話が流れていって……。

「……以上のように北の古き民と南の新しき民は古くから様々な確執をもっていた訳ではありますが、20年前の『大分裂戦争』時点においても全面戦争に至るほどの理由はどこにもなかったのであります」

戦争の話になったー。

「この戦争には世界を欺き両者を裏から操って至福を肥やそうとした悪党達の姿があったのです。この彼等こそかの悪名高き秘密結社完全なる世界です」

《完全なる世界……》

《有名ですわね》

「この組織と王都オスティアの犠牲を持って大戦は終りを告げます。そして大戦末期全ての真相を暴き世界を滅亡の危機から救った英雄とまで言われるのが皆さんもよくご存知のナギ・スプリングフィールドと紅き翼なのです」

「「ブハッ!!」」

不意打ちすぎる!
もろ紅き翼の映像出てんじゃん!
超似た人すぐここにいるから我慢できん!!
認識阻害半端ねー!

《春日さん、古菲さん、何を吹き出しているのですか!》

《す、すんませーん!》

《ごめんアル!》

「見学の方どうされましたか?」

「いえ、授業を中断させてしまってすいません。何でもありません。どうぞ授業を続けて下さい……」

《映像のナギにそっくりな姿してるネギ君が近くにいるからつい条件反射で……》

《私もアル……》

《私も春日先輩に釣られて吹き出しそうになりましたよ……》

愛衣ちゃんもか!

《愛衣……》

《あはは、認識阻害メガネしてて良かったです。こうして父さんが魔法世界の授業の映像にまで出てると本当に英雄だったんだなってわかりますね》

《歴史の教科書に載っているぐらいですから》

《僕はそれどころか指名手配犯ですけど……》

重っ!

《ネギ先生のせいではありませんわ》

《ネギ坊主、そうでござるよ》

《ネギ先生、元気だして下さい》

《ネギ君の責任じゃないからさ》

《はぁ……ありがとうございます……》

「……さて大戦末期の巨大な魔法災害によって廃都とも呼ばれるようになったオスティアですが、環境は復活してきています」

《この魔法災害って広域魔力消失現象の事なんですよね?》

《そうですわ、ネギ先生。この後崩落したオスティアを中心とする直径50km圏内はメガロメセンブリアの試算で以後20年間にわたり魔法も使えない地域となったそうです。今説明があったとおり環境は復活しており丁度今年で20年が経ちますから魔法も徐々に使えるようになってきているでしょう》

《丁度20年魔法が使えなかった……ですか……。そうするともう壊されているかもしれませんが例の廃棄されたゲートが稼働する可能性もありそうですが……一度行ってみたいですね》

《しかし侵入許可を取るのはなかなか難しいでしょう……》

《そう……ですよね。麻帆良に戻れるとしたらそこしか無いように思うんですが……》

《確かにそうなりますわね……》

まーたネギ君悩み始めたな。

「来月には戦後20年を期に大祭典が開かれる予定です。このお祭りではこのナギの名を冠した拳闘大会が行われる予定です」

《来月となると高畑先生の言うとおりならば丁度麻帆良は8月の末ぐらいですね》

《夏休みが終わるでござるなぁ……》

全くだなー、まー気にすんな。

《オスティア記念式典にナギ・スプリングフィールド杯、廃都オスティア、色々イベントが詰まってるスね》

《帰れないにしても皆でオスティアのお祭り行ってみたいです、お姉様》

《そうですわね、愛衣》

《ま、どーせなら悩んでるより楽しんだほうが得スね》

《麻帆良祭みたいなら面白そうアル》

《…………僕もコタローとは拳闘大会には出てみたいですから行きたいです》

ちょい考えごとしてたと思ったらネギ君復活したか。

《ネギ坊主とコタローのコンビは厄介でござるからな。良い試合になると思うでござるよ》

《ありがとうございます、楓さん》

《コタロのあの咸卦法はズルいアルよ》

小太郎君も咸卦法使えるっていうのは北極脱出の時に聞いたんだけど……。

《くーちゃん、あの咸卦法って?》

《春日さん、それは僕が説明しますね。コタローのアーティファクトは僕が契約執行するとコタローが自動的に咸卦法の状態になる上、契約執行の魔力供給次第で出力が変わるんです。しかも効率は常に無駄がない状態です》

なんだそれー!?
契約執行が咸卦法!?

《随分変わったアーティファクトッスね……》

《コンビネーションも良くなりますからね。私も相手をした時は大変でした》

《大体はコタローが僕に合わせてくれるんですけどね》

ネギ君との仮契約で授与されるアーティファクトがおかしい事はよく分かった。
愛衣ちゃんのアーティファクトは魔法世界の騎士団で正式採用されている物と同型のモノだっつー話だし、主の資質次第ってマジだな……。
まーアーティファクトが出るだけでも全然マシな訳だけど。
短距離走は自分の足で走るのが当たり前だけど、それに見合ったのが出てるし私も恵まれてる方スね。

1時間目の歴史の授業が終わったーと思ったら次はラテン語と古代ギリシャ語の解釈……3時間目は魔法の術式構成の授業……数学とか普通に混じってるからマジ眠い。
ルートにルートそれに更にルートとか付けんな!!
くーちゃんと楓は速攻ダウンしたし。
桜咲さんは……このかガン見してるな。
どんだけー。
ネギ君はふんふん聞いてるんスけど流石天才。
ま、高音さんと愛衣ちゃんも余裕っぽいし、ゆえ吉とこのか含めたクラスの人達も全員真剣そのもの。
4時間目は魔法薬の調合の授業で……わざわざ私達の分の調合材料も手配してくれたっ!
妙に待遇いいな。

「皆さん、ちょっとやってみますね」

とネギ君が代表でやってくれることになった。
クラスの人達は2人一組なんだけど流石に私達に4組分用意する必要は無いスからね。
ネギ君が手早く、指定の材料を正しく調合して呪文詠唱。

―いざ、生ぜん、癒しの薬よ!―

「はい、できました」

「流石ネギ先生ですわね」

手際良過ぎでクラスの誰よりも早く完成したもんだから授業の先生が近づいて来たわ。

「見学の方、非常に慣れていらっしゃるようですね。良ければ生徒の為にもう一度教壇で実演してもらえませんか?」

こーいう時先生がやれば?って思うのはナシなのか?

「あ……はい、僕で良ければ勿論です」

「ではこちらにどうぞ」

ササーッとクラスの視線がネギ君に集中した。
認識阻害は大丈夫か?

「ネギ君目立つなー」

「流れるような手際でしたから、実演は確かに良いと思いますわ」

高音さんと愛衣ちゃん感心して見てたもんな。

「ネギ坊主は修行の休憩中によく練習していたでござるからなぁ」

「楓……休憩中に練習してたらそれ休憩って言わないんじゃ?」

「激しい運動はしてないアルよ」

「そ、そーかそうかー」

ネギ君達の常識のラインが高すぎてついていけねー。
エヴァンジェリンさん相当スパルタだろ……。

「皆さん、見学の方が良い手本を見せて下さいます。一旦作業を中断して……大丈夫ですね。ではお願いします」

全員既に作業中断してるスね。

「はい。それでは魔法鎮痛薬の調合を行わせて頂きます。まずはウスバサイシンの根と弟切草の葉をすり潰し……」

解説付きで3分調合的な何か始まったー!

「皆さん、しっかり参考になるところを見ておくように」

「「「「「はいっ!!」」」」」

良い返事スねー。
もう一度見るけどすり潰す際の道具の使い方めっちゃ上手くてしかも早っ!
途中からスピードアップして右手ですり潰しながら左手は計量、試験管に入れて分離とか……スゲー。

「……最後に魔法詠唱で完了です」

―いざ、生ぜん、癒しの薬よ!―

音も一切発生せずにドーナツ型の煙だけがゆっくり一つ上がって終わり。
ホントに一切無駄が無いな。
普通はここまで来ても爆発したりするんだけどねー。

「はい、以上で終わりです」

「素晴らしい手際です。皆さん見学者の方に拍手を」

緊張が解けたかのように3-Cの人達が一斉に拍手しだした。
あちこち「すごいわー」とか「ステキ……」だとか「流石ネギ様……」「お嬢様それは」って聞こえるんだけどエミリィ委員長かいっ!
ネギ君は「あはは……どうも」って言いながら戻ってきたけど実体は私達よりも背の低い子供なんスよねー。

「いつも通りやったつもりなんですが……どうもやりすぎだったみたいです……」

今更遅いよー。
高音さんが「やりすぎという事はありませんわ」ってフォローしたけどアレはやりすぎも何も凄すぎるだけスよ。
この4時間目も無事終わったら昼休みになるのは当然で、予想はしてたけど大量にクラスの人達がネギ君に押しかけていった。

「あの、先ほどは素晴らしかったです。お名前はなんとおっしゃるのですか?」

「是非教えてくださいませ!」

「見学というのは講師になられるのですか?」

人気出たー!

「えっと……名前はネギと言います。見学は本当にただの見学です」

スプリングフィールドを名乗らなければいいっちゃ良いのか。

「ネギ様ですって!」

「わーネギ様ですかー!それでは家名はなんとおっしゃるのですか?」

「それは……えっと……」

「皆さん!ネギ様が困ってらっしゃいますわ!少し離れなさい、はしたないですわよ!」

「委員長だってネギ様に興味あるでしょ!」

「そ、それは……そうですけれど」

認めたーっ!
……もーネギ君は助からんな。
昼休みなのを良い事にネギ君はグイグイ食堂に連れてかれてった。
メガネ外れないように気をつけるんスよー。
ゆえ吉とコレットさんも行っちゃったし。
結局3-Aとあんま変わらなかったな。

「せっちゃん達も一緒に食堂行こ?」

「はい、お嬢様」

人の居なくなった教室は静かだ……。
見学っていつまですんのかと思ったら一日中何スね。

「このか、次は何の授業?」

「魔法の実技訓練、その次が体術の訓練で終わりや。違う時は箒で100km飛行訓練なんかもするんやけどね」

こっちも結構スパルタだなー。

「魔法の実技訓練っていうとやっぱり魔法の射手とか?」

「そうや、的に向かってやけどね」

「なーるほど」

「お嬢様、頑張ってください」

「うん、せっちゃんに良いとこ見せるえ!」

皆で3学年が使う超広い食堂で食事したけど、ネギ君がいるところだけガンガン人口密集地帯になっていったよ。
途中からポロポロ「凄いイケメンがいるんだってー!」とかそんなのが聞こえてきたけど完全に野次馬スね。
5時間目の時間が近くなってそれぞれ用意に移ってやっと解放されてからネギ君は「何か色々勧められて食べ過ぎました……」って言ってた。
どうも「これ美味しいですわよ!お食べになってください!」「それよりこちらの方が!」とかそんな感じだったらしい。
異常にモテるっていうのも考えもんだな……。
そんでいよいよ5時間目、闘技場なんかにもある魔法障壁が張ってある施設での実技訓練スね。
ギリシャ語と古代ギリシャ語の解釈の授業の時にも杖持って詠唱したりするんだけどこっちの方が実践的だな。

「皆さん凄いですね」

「魔法の射手だけではなくその上の魔法も使っていますわね」

各種武装解除も使ってたりするなー。

「あ、あれ、私も使える紅き焔です!」

愛衣ちゃん紅き焔使えるんスねー。
まほら武道会の時は詠唱禁止だから使えなかったけど。
ここ数日の飛空艇で移動中暇だったから色々調べてたんだけど、連合艦の一般的な艦載砲にはその紅き焔が搭載されてるらしい。
それより凄いのは精霊砲、要するに魔力ビームとかになるとか。
ゆえ吉とこのかが普通に白き雷使ってるのが結構馴染んでて違和感無いのがアレだな。
30分ぐらいやって一旦休憩になったんだけどその際にまーたネギ君に白羽の矢が立った。
どうも実技の先生が魔法薬の先生から話を聞いてたらしい。
だから先生がやれば?って思ったんだけど「同年代の方がやった方が励みになります」との事。
ネギ君も断るのも悪いしってことで「わかりました、具体的に何が良いでしょうか?」って実技の先生とごちゃごちゃ話し始めて、割とすぐまとまった……みたい。

「それでは休憩中の間ネギさんが皆さんに魔法の実演をして下さいます。よく見ておくように」

今回は一度もまだ魔法使ってる所見せてないんだけどよく見ておくようにってどうよ?

「それでは、いくつか魔法を実演させて頂きます」

「「「「「キャー!!」」」」

いきなり盛り上がる盛り上がる。
障壁から20mぐらい離れた所に書いてある白いラインの側に立ってネギ君の実演開始。
魔法発動媒体は指輪……か。
私もこんだけ近くで、しかも生で見るのは初めてだな。

        ―雷の47矢!!―光の47矢!!―風の47矢!!―

っておーい!!
一瞬で光球がババーっと出たと思ったら3連続無詠唱かい!
まほら武道会の時よりも成長してるってマジかー。
皆それを見て固まった瞬間ネギ君はそのまま次の魔法に……。

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
          ―来れ 虚空の雷 薙ぎ払え 雷の斧!!―
                 ―白き雷!!―
             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―影の地 統ぶる者スカサハの 我が手に授けん 三十の棘もつ 霊しき槍を―
               ―雷の投擲!!―
             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
      ―来れ雷精 風の精!! 雷を纏いて 吹きすさべ 南洋の嵐―
               ―雷の暴風!!―

え?
何今の?
詠唱速すぎて何使ったか良く解らんわ!
小さい声だったのもあるけど始動キーすら一切聞き取れなかったんスけど……。
とりあえず、最初に斧で最後が雷の暴風で凄い音がしたのだけは理解できた。

「えーっと魔法使うの久しぶりだったんですけど……これでどうでしょうか?」

どうでしょうか?って……ねぇ……。

「み……皆さん、ネギさんに拍手を」

このかが一番最初にマイペースに拍手し始めてそこからエミリィさんも起動して拍手が広がり始めたんだけどかなーりまばらな拍手で、ゆえ吉に至っては唖然としたまま完全に石になってるし。
ネギ君はそのままこっち戻ってきて「少し詠唱の方は鈍っちゃいました」とあれで鈍ってたの!?って思ったら

「ネギ坊主、いつも通りでござるよ」

「うむ、ウォーミングアップには丁度良かったアルね」

「ネギ先生、大丈夫ですよ」

って武道三天王はだーめだー……。
ゆえ吉も多分記憶が無くなってなければ普通の反応したんだろうな。

「あーネギ君、さっきの連続魔法解説してもらって良い?」

「はい、春日さん、もちろんです。最初が各3種魔法の射手47矢から雷の斧、無詠唱白き雷、雷の投擲、雷の暴風までです」

47って……。
あの僅かな時間で141矢も撃ったのか。

「はーそりゃ凄いわ。詠唱も速いし」

「ええ、本当に速いですわね……」

「あの、ネギ先生っていつもどんな修行してたんですか?」

愛衣ちゃん……それ聞くと色々ぶっとんだ事いわれると思うスよ……。

「どんな修行っていうと色々やりましたけど、今ので言えば毎日の訓練の終りには魔力が残らないように使い切る事はやってましたね。さっきのものがそれの雷系で固めたものの一つです」

そ、壮絶だ……。
毎日使い切ってたから契約執行もあんな長時間耐えてられてたのかもな。

「す、凄いですね。私も頑張らないと!」

愛衣ちゃん、頑張れ!
内輪でもこんな感じでネギ君の魔法実演の反応が終わった丁度ぐらいに

「「「「ネギ様!私達に魔法の指導をして頂けませんか!!?」」」」

って10人ぐらいようやく正気取り戻してネギ君に殺到して来たわ。

「え?あ、はい。僕で良かったら」

「「「「キャーッ!!」」」」

「では是非こちらへっ!」

「そ、そんなに引っ張らなくても大丈夫ですよ」

昼休みと同じ状況になった。
ネギ君が魔法の射手について詳しい解説した上で実演。
生徒さん達がそれを見てとりあえずやってみて、一人ずつ改善点を述べるもんだから本当に指導し始めて実技の先生がマジ空気。
解説中は超静かに生徒さん達が皆聞いてるから魔法の射手の話は私にもよく聞こえたんだけど、多弾頭と収束の違いやら、魔力効率の上げ方、1矢自体のバリエーション、例えば、1矢自体の魔力量を増やして極太レーザーみたいにするだとか、螺旋回転を加えたり、先端部分を流線型にして威力を上げるなんていう変化法とかそんなの知らんかったわ。
確かにまほら武道会でやたらギュインギュイン言う感じの魔法の射手乱射してたのは覚えてるんだけどあれってそういう変化加えてたのか……。
収束からそのまま撃つのとか、それを拳に乗せるネギ君の奴とかも説明してたけど、まー生徒さん達もそんなすぐ出来る訳ないから結局光球状態での滞空法から始まって、それを変化させるコツを延々とアドバイスし続けてたら30分なんてあっと言う間に終わった。
何だかんだ実技の先生もネギ君に詳しく色々聞いてたから相当興味あったみたい。
ネギ君に何聞かれたのか後で聞いたら魔法の射手の体系立った練習法についてだったらしい。
愛衣ちゃん曰く普通魔法の射手は、的に当てるコントロール、本数を増やす事、魔力の運用効率を上げる事、そんで無詠唱ができるようにひたすらやるものなんだとさ。
まー普通はそれで精一杯だわな。
常識として、魔法の射手1矢なんて障壁張られてれば簡単に弾かれるから突破するために何発も撃つんだし。
それもエヴァンジェリンさんに教わったの?って聞いたらそれは学園長らしい。
なんでも学園長の魔法の射手は貫通力が異常で風盾なんて1矢で余裕に突き抜けるわ、一瞬の防御力の高さならかなりのものを誇る風花風障壁も2、3発で貫通してくるらしい。
じじい強えーな。
寧ろネギ君と学園長がそんなやりとりした事あったのが驚きだわ。
5時間目が終わってそのまま6時間目が体術の訓練だから体操着に着替えなきゃいけないからって事で流石に休み時間に、ネギ君は一瞬解放された。
でも、拳に乗せる魔法の射手見せた時点で体術出来る事バレてたから今度は生徒さん達から体術の先生に「ネギさんに実演して頂きたいです!!」って皆言うもんだから先生も「ネギさん、生徒達はこう言っていますがお願いできますか?」とまたしても寧ろ歓迎な反応だったよ。
ネギ君は「ええ、構いませんが……組み手の相手はくーふぇさんお願いします!」って妥当な所が来て「ネギ坊主、良いアルよ!」とアリアドネー式体術というより、中国拳法の実演になったわ。
くーちゃんもまほら武道会で結構やらかしてたけどあの時よりも更にキレが増してて二人とも目にも留まらぬ速さって感じだった。
当然生徒さん達からは黄色い歓声が上がってもうこれで何度目って感じ。
で、終わりかと思えば「中国拳法だけでなく他の体術もお見せたした方がいいですよね。楓さんお願いできますか?」と楓にパスが来て「ネギ坊主、久しぶりでござるな。良いでござるよ」と組み手が始まった……んだけどねー。
ネギ君っていつの間に分身できるようになったし?

「ネギ坊主、修行の時間が取れていなかった割には分身の密度が上がっているようでござるな」

「南極の一件で少し魔力の効率が上がったみたいなんです。でもまだまだです。楓さんもやっぱり大樹林で成長したようですね」

「そうでござるか。なるほど、お互い生き抜く上で自然に強くなったようでござるな」

「はいっ!」

会話してるのはいいんだけど、二人とも分身3体ずつで計6人がそれぞれ組んでたと思えば、臨機応変に2体1だとかに変わったりもするし体術から逸れてどちらかっていうと東洋の神秘披露会だから。
分身した時点で先生含め生徒さん達は目が点になったし、体術って言ってんのに虚空瞬動余裕で使うのは場違いスよ。
生徒さん達は揃って「A級以上の達人!?」ってリアクションしたし。
まあ虚空瞬動抜きにしても達人スよ。
どっちが勝つとかじゃないからそこそこで組み手は終わったら今度はくーちゃんと楓にも人気が出た。
因みに桜咲さんはちゃっかり手とり足取りこのかの相手してた。
ネギ君が3人、楓が16人でクラス半分の相手ができるっていうのはカオス。
てか5時間目に最初からネギ君分身してたら楽だったんじゃ?
生徒さん達の実力はっていうとコレットさんとベアトリクスさんが結構強くて、特にベアトリクスさんの方は明らかに何か武術やってる感があったな。
そんな中エミリィ委員長はネギ君に相手してもらったら「あぁ……私もう……」って蕩けて倒れたもんだからそのままネギ君がベアトリクスさんの案内で保健室に運ぶなんて事になって更に症状が悪化、蕩けるどころか、今にも溶けそうだったわ。
幸せだろうから心配する必要はないけど……。
6時間目はこんな感じでこれまたあっと言う間に終わってようやくネギ君に分身の事を聞いた。

「ネギ君分身って忍術も覚えたの?」

「あー、いえ、あれは術式を組んだ上で純粋な魔力で分身体を形成したものなんです。実際にはそんなに使い勝手が良くなくて、分身は時間が経てばどんどん魔力を消耗していく上、分身に割いた分の魔力は本体から分身を解除しないと還元されないので、分身が消滅すれば無駄が多くなり実戦に使うには適していません。なのでまだまだ改良の余地があります」

丁寧に問題点の説明してくれるけど、それより、よくまぁ術式を組んだってあっさり言うな。

「はー、魔力で分身ってできるんスね」

「楓さんやコタローの分身は気で行ってますし魔力でもできるだろうと思って考えました。それに理論は風精召喚の類を流用しているので」

まー詳しい話は良くわからないけど要するに精霊の力を借りないって事なんだろーな。

ホームルームも終わったから帰るかーと思えばクラスに丁度良く「セラス総長!?」って私は初めて見るセラス総長さんがやってきてネギ君にちょっと話があるからって連れてったわ。
一日見学会がネギ君の披露会みたいな感じになった気がするんだけど気にしたら負けだな……。
実際生徒さん達にとっては良い効果あったのは間違いないし。
放課後ネギ君から連絡があるまでゆえ吉達に学校内を案内してもらったり、箒の練習を見せてもらいつつ時間を潰し、ネギ君が戻ってきたらこのかとゆえ吉達に挨拶してホテルに帰還した。
そんでセラス総長にネギ君が呼ばれた理由は

「放課後になったらきっと困るだろうって配慮してセラス総長は僕を呼んで下さったようです。それと今日の授業を遠見の魔法で見ていたらしく、その話を少ししてました」

って事なんだとさ。
まあ確かにあのままネギ君が教室に放課後いたら色々終わってたのは簡単に想像できるわな。
話としちゃ、きっと生徒に良い刺激になって良かったとかそういうことだろ。
夕食を食べにホテルに戻って愛衣ちゃん達と今日の感想を話してたら丁度ドネットさんと茶々丸が帰ってきてヘラス行きの準備が整ったとのこと。

「僕は明日からしばらくヘラス帝国に行ってきます。それで楓さんと茶々丸さんに同行をお願いしたいんですが良いですか?」

「ネギ先生、私は構いません」

「拙者も構わないが、ネギ坊主は仕方ないにしても指名手配中の拙者を連れて行く理由は何でござるかな?」

「アスナさんの護衛をお願いしたいんです」

「アスナ殿でござるか?」

「はい、今回のゲートポートの事件、指名手配の件、そして修学旅行の件からするとアスナさんが狙われる可能性が高いと思うんです」

飛空艇にいる時に修学旅行の事詳しく聞いたんだけど、アスナは例の白髪の少年に攫われそうになったらしい。

「あの白髪の少年、フェイト・アーウェルンクスと言ったでござるか……」

「はい」

「……あい分かった。確かにあの者ならば城の中と言えど並の警備では簡単に侵入してきそうでござるからな。心してアスナ殿の護衛を致そう」

「ありがとうございます。僕も近くにいるように気をつけますが、目を放した隙に転移でアスナさんを攫ってくるかもしれないのでよろしくお願いします」

「任せるでござる」

「ネギ坊主、私は行っては駄目アルか?」

「……できるだけ皆さんには指名手配が解除されているアリアドネーにいて欲しいので、くーふぇさんすいません……」

「……うむ……私は楓のように警護は得意では無いアルからね。分かったアルよ、ネギ坊主」

くーちゃんも行きたがったけどまー仕方ないな。
楓なら身体操術とか自力の変装技術やらまだ隠してる謎の忍術とかありそうだし。
特に分身は警備向きだもんな。
こうして合流すると魔法生徒4人の私達はあんましなきゃいけない事が無いんだけど、学術都市ってだけあって魔法の勉強とかはいくらでもできるのは事実だし環境も整ってるから高音さんと愛衣ちゃんは魔法騎士団候補学校を見学したのもあるのか結構やる気あるみたいスしね。
私もココネと適度に生活するかな。
メガロまで戻るにしても特に今と生活は大して変わらないし、今から戻るとまた10日ぐらい普通にかかるし、どうせならオスティアの祭りの時に行けば無駄も少ないスよ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月5日、7時頃、ヘラス帝国首都ヘラス―

ネギ達3人がヘラス帝国行きの飛空艇に載っている間にはいくつか動きがあった。
まず葛葉刀子がようやく9月4日にアリアドネーに到着し、ドネット達と合流できた。
勿論目的は近衛木乃香の護衛であるが、それによって春日美空の生活態度が多少規律あるものになったのは言うまでもない。
古菲はヘラス帝国について行かなかったが、アリアドネーでの生活で特に問題は無く、修行をしたり、魔法騎士団候補学校での体術を指導した一件から桜咲刹那と共に放課後に呼ばれたりする事もあった。
場所を移せば、しばらくの間トレジャーハンターとして精力的に活動していた宮崎のどかは探して求めていた魔法具「鬼神の童謡」を見事見つける事に成功していた。
未だアーティファクト、いどのえにっきを手元に回収していないが「アナタノオナマエナンデスカ」と唱えなければ真名が分からないというリスクを負うものの二つを組み合わせれば強力なコンボとなるのは間違いない。
宮崎のどかの心理の根底にはネギ・スプリングフィールドの役に立ちたいという想いがやはりあり、読心術によって自分が被る危険性をはっきり理解していないのは問題であるかもしれない。
かといって理解しようにも実際に狙われなければそんな事はどこまで行っても想像でしか補う事ができないので何ともし難い話ではあるが……。
次に宮崎のどかは「読み上げ耳」という、書いてある文字を自動的に読み上げるという魔法具を探すつもりであったのだが、その事をトレジャーハンターの4人に伝えた所、「視覚障害者の為に魔法具店ではある程度の値段で普通に販売している物なのでわざわざ遺跡探索で探す必要もない」と言われたのだった。
そのため、宮崎のどかの目的はほぼ達成されてしまったのだが今しばらくトレジャーハンターを続ける予定のようである。
「鬼神の童謡」は直接相手に問いかけなければ効果を発現しないが、実は伝説的なレア魔法具に「死神の健康診断」という生物なら人間に限らず対象を見るだけでその名前と老衰までの時間が秒数刻みでわかるという、別に違うノートが一緒にあったら非常に怖いモノが存在するという噂があるらしいが、その存在の真偽の程は定かではない。
仮に存在したとしたら医者にしてみればかなり便利ではないだろうか。
しかしながら、いどのえにっきは半径7.4mにいなければ使えない上、詳しい思考を聞くためには結局対面して問いかけなければいけないのであまり意味はないかもしれない。

一方高畑・T・タカミチは、といえばジャック・ラカンと連絡を取ることに成功し、メガロメセンブリアに出てきているどころか自由交易都市グラニクスの郊外に存在する遺跡でまだ隠遁していたというのが発覚して

「お願いしますよ、ジャック!」

「がははは、ま、無事だったんだろ?いーじゃねーか!で、ネギってのはどこにいんだ?」

「ヘラス帝国の首都に向かう予定ですよ」

「何?」

「テオドラ皇女殿下と面会するんです」

「あのじゃじゃ馬皇女とかぁ?どうしてそうなった?」

「それは話すと少々長くなるんですが……」

とやりとりがあったそうだ。
一応その結果、ジャック・ラカンは重い腰を上げ、ヘラス帝国に割と渋々「仕方ねーか」とグラニクスからヘラス帝国まで飛ぶことになったのだった。
その事を高畑・T・タカミチは神楽坂明日菜の端末からテオドラ皇女殿下に報告し「でかしたぞ!タカミチ!」と褒められたようだ。
また挨拶回りに寄った佐倉家は普通の魔法世界の家庭であったが、グッドマン家は屋敷に招き入れられた所、その壁には様々な仮面がズラりと飾ってあり、当主と面会してみれば頭全体にスッポリ仮面を被っていたのだった。
その際高畑は夕食もご馳走になったが、直前まで家の人達は仮面を外さず、食べる時になってようやく仮面に手をかけゆっくりと外し、それぞれ使用人に預けるという光景が見れたそうだ。
因みに全員金髪の美男美女で揃っていたらしい。
ともすると影使い一族であるにも関わらず髪の毛の色が明るいためそれを隠すためというのが仮面を付ける風習に繋がったのかもしれない。
この晩餐中の会話で高音・D・グッドマンの父親の弟、風太郎・D・グッドマンという人物が前大戦以降長い事まさに風のようにどこかを常に放浪しているのでもし会ったら一度連絡を寄こすように高畑に頼んだらしいのだがその放蕩者に果たして会う事はあるのだろうか。
因みに、ネギから頼まれた人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の捜索も龍宮真名とのゲートポート事件関連の調査と共に目下進行中である。

さて、ヘラス帝国の城内に滞在中のアーニャ、神楽坂明日菜、そして犬上小太郎は既に2週間以上城に滞在していた。
そのうち犬上小太郎は修行を相変わらず欠かしておらず、神楽坂明日菜と練兵場を借りて咸卦法の修練に励んだり、時には帝国兵を相手に模擬戦をしたりして生活をしていたのだった。
そこへネギ達3人は2時間前にヘラス帝国首都ヘラス国際空港に到着し、その連絡をした上で城門前にやってきた。
そこで門番に名前を問われたネギは「ネギ・スプリングフィールド、長瀬楓、絡繰茶々丸です」と伝え門番はスプリングフィールドの名を聞いて驚いたものの、確認が取れ、入城を果たしそのまま案内を受けた。
ネギと神楽坂明日菜は感動の対面になるかと思われたが、年齢詐称薬をネギが服用していたため「あんたネギなの!?」というツッコミが何よりも先に入り「何その姿ちょっとやめなさいよ!戻れないの!?」と有無を言わさず幻術を解除する事になり服がブカブカになったが再会の挨拶は改めてやり直しとなった。
既に年齢詐称薬を使った状態での姿の写真は神楽坂明日菜達も送られていて見た事があったのだがやはり直接見るのとでは違うらしい。

「アスナさん!」

「ネギ!無事だってわかってたけど……本当に良かったぁ……。ねぇ、どこか身体に悪いところない?大丈夫?」

「僕も会えて良かったです、アスナさん。身体は大丈夫ですよ」

「はぁ……それなら良いわ。皆はアリアドネーで元気?」

「はい、元気です。アーニャも無事で良かった」

「フン、あんたに心配されなくても私は平気よ!」

「アーニャちゃん、折角会えたんだから……」

「う……そ、その、ネギ、南極から無事戻ってきて良かったわ」

「うん、ありがとう、アーニャ」

「ネギ、楓姉ちゃんに茶々丸姉ちゃん、久しぶりやな!」

「コタロー、久しぶり!」

「アスナ殿、アーニャ殿、コタロー、息災のようでござるな」

「アスナさん、アーニャさん、コタローさん、お久しぶりです」

しばらく再会の挨拶を交わし落ち着いた頃にタイミングを見てテオドラ第三皇女の登場である。

「良く来たな、ネギ」

「テオ様、こうしてお会いするのは初めてですね。ネギ・スプリングフィールドです。アスナさん達をありがとうございました」

「礼には及ばぬ。アーニャがここに飛ばされて来たのも何かの縁じゃからな。……積もる話もあるが、拳闘大会はどうするのじゃ?」

「はい、僕はコタローと出たいです」

「おう!俺もや!」

「そう言ってくれて嬉しいぞ。前にも伝えたがあまりナギ・スプリングフィールド杯の出場権の獲得までに時間が無いのじゃ。できるなら今日からでも2試合はこなして貰いたい。そなた達がどれぐらいの実力があるかコタロで大体分かっておる。きっと大丈夫じゃ」

「はい、分かりました」

「ネギ、普通は1日試合したら次の試合までに最低でも3日はあけるのが一般的な拳闘界の常識やけど多分2試合はいけるで」

「コタローがそう言うなら大丈夫だね。しかもこれがあるし!はい!」

「おおっ!俺の仮契約カードか!」

「アスナさんもどうぞ」

「ネギ、ありがとう!折角仮契約したのに使えなかったわねー」

「事故だったから仕方ないですよ」

「まあ、そうね。ネギ、拳闘大会出るのはいいけど、ちゃんと気をつけなさいよ。危なくなったらちゃんとリタイアするのよ?」

「アスナさん、心配してくれてありがとうございます。引き際はちゃんと分かってますから」

「そうやで、俺達なら平気や」

「大丈夫とか平気って言うのが一番心配なのよ」

「ははは、僕達を信じてください、アスナさん」

「もう、信じてるわよ」

「一応話を進めてもよいか。年齢詐称薬を使うのは最初から分かっておったからコタロの服は用意しておる。ネギももう一度例の年齢詐称薬を飲むのじゃぞ」

「はい!」

「コタロ用の服はすぐ持ってこさせるから待っておれ」

「テオドラ姫さんおおきに!」

……こうしてネギはヘラス帝国到着早々に小太郎と共に拳闘士登録をすることになり、年齢詐称薬で姿を青年に変え、テオドラ皇女殿下がネギに見合う拳闘士服を用意したのだった。
因みに小太郎の方はかねてよりの強い要望で学ランが既に用意されていた。
そして直ぐ様ヘラス帝国闘技場へ向かい、特定の拳闘士団への入団は無しに無所属でのエントリーを済ませた。
伏せられている事ではあるが、テオドラ第三皇女が後見人となった事によって後にネギと小太郎に発生するであろう権利関係について、テオドラ皇女殿下は全権を握ったことになり実はかなり色々と良い立場にある。
拳闘士名はネギの顔写真は出ていても名前までは公表されていなかったことから本名のまま「ネギ」と「小太郎」で登録している。
他の拳闘士でも本名と拳闘士名が違う事は良くあるので苗字を入れていないが別に問題は無い。

「ネギ、目指すはナギ・スプリングフィールド杯や!」

「コタロー!もちろんだよ!外部でこうして二人で共闘するのは初めてだから少しワクワクして来たよ」

「俺もや!どこまで通じるかやってやろうや!」

「うん!よし、行こう!」

「おう!」

いざ、記念すべきネギと小太郎コンビの初の拳闘試合の幕開けである。



[21907] 49話 魔法世界編8
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/04 23:34
―9月5日、10時30分、ヘラス帝国首都ヘラス闘技場―

[[さあ、ヘラス夏季大会ヴェスペリア杯も後半に差しかかってきておりますが、本日の第3試合、東はあと4試合勝利すればナギ・スプリングフィールド杯予選出場権獲得間近、皆さんお馴染みの『灰音』『店長』ですが西からはここで、新たに先程無所属拳闘士登録をした二名の新米自由拳闘士の登場です!無所属ではバックアップが不安な上、本人達の実力も一切不明ですが、果たしてどのような戦いを見せてくれるのでしょうか?]]

流石はヘラス帝国首都の闘技場と言ったところか、収容人数は10万人、中央アリーナ部分の直径は300mとほぼ最大規模の広さである。
場内はこの時期での新たな参戦者の登場に少しの動揺が起きているが、灰音、店長の実力は大拳闘大会本選レベルであることから、新米自由拳闘士2名に賭けた観客は殆どいなかった。
そんな中ネギと小太郎の出番を今か今かと特等席でテオドラ皇女とそのお付き達、神楽坂明日菜以下数名が待っていた。

「初戦の相手が灰音店長とはちとキツイかもしれんがどうなるじゃろな」

「ネギとコタロならきっといけるわ!」

「落ち着いて見守るでござるよ」

「試合の中継はアリアドネーでもされるのですか?」

「保存映像は後で流れるぞ」

「それなら美空ちゃん達も見れるわね」

[[さあ、双方の選手の入場です!新米自由拳闘士は赤髪と獣族黒髪の青年2名の模様です]]

場内のモニターがネギと小太郎に一瞬ズームし、司会により簡単な特徴の説明が行われる。
ネギと小太郎の最初の相手は灰音と店長という拳闘士名から分かる通り、本名ではない。
ヘラス族の灰音と店長の衣装はそれぞれ、ウェイター服とラフな服装にエプロン、装備は金属のトレー及びその上の10枚重ねの中心に穴が空いた薄い皿、店の前を掃除するためのような箒、という拳闘士というには全くそぐわない格好だが、実力はかなり高い。

「店長、新米二名様来店でーす」

「灰音、初回のお客様には丁重なおもてなしを」

この二人にとっては対戦相手が客であるというスタンスで会話をするがこれも名物であるらしい。
実際に従業員も複数いる喫茶店HINEをヘラス首都で経営しており、この本人達による身体を張った宣伝により結構繁盛しているそうだ。

[[ルールは皆様ご存じの通り、ギブアップ又は戦闘不能で決着。武器魔法の使用制限無しです!]]

一方ネギと小太郎と言えば

「映像で見せてもろた事あるんやけどホンマ拳闘士にはあっとらん格好やな」

「コタローも学ランでしょ」

「俺のは戦闘服やからな。ま、普通にあの二人は強いで」

「うん、分かった」

「でも契約執行まではいらんで」

「コタローは自分でやるんでしょ?」

「そういう事や」

[[それでは試合、開始!]]

とうとう司会からの試合開始宣言である。

「ほな最初は打ち合わせ通りやで、アデアット!」  「店長、いつも通りで?」―戦いの旋律!!―
「うん!」―戦いの旋律!!―                「いつも通りで」―戦いの旋律!!―

早速小太郎のアーティファクト、千の共闘の発動である。対する灰音店長は両者戦いの歌上位の戦いの旋律を発動。因みにトレーと箒が魔法発動媒体である。

[[おっと、新米自由拳闘士、いきなりアーティファクトを使用!しかし特に変化は見られません!]]

「よう見とけや!右腕に気、左腕に魔力……合成!!」
―咸卦法!!―
「ネギ!」                          「あれはまさかっ!?」
                              ―カフェ・ド・ブレンド・メモリード―
「分かった!」                    ―来れ 深淵の闇 燃え盛る大剣!!―
小太郎が少し膝を屈め両手を構えたところにネギが飛び乗り
                           ―闇と影と憎悪と破壊 復讐の大焔!!―
「飛んでいきっ!せやっ!」          ―我を焼け 彼を焼け そはただ焼き尽くす者―     
                                ―奈落の業火!!!―

[[黒髪の選手が突如発光した瞬間赤髪の選手を空に飛ばしましたっ!が、ここで店長の大魔法発動です!!]]

咸卦法を使っての膝をバネにした力を利用してネギを空中に上げ、そこへ小太郎を飲み込む程の業火が迫るが

「この程度っ!」
―咸卦・疾空白狼閃!!―

咸卦法の効果で白く光る狗神を足元から大量に飛ばし主に中央突破で相殺、一方上空に上がっていたネギは

                     ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
                ―光の精霊1357柱 集い来たりて 敵を射て―
                 ―魔法の射手 時差連弾・光の1357矢!!―

空中で優雅に一回転しながら無数の魔法の射手を発動し、まるでようやく開戦の合図であるかのようにフィールド上に千もの光の矢が雨あられのように僅かな時間差を置いて次々と降り注ぐ。

[[花火のような魔法の射手の雨!これは派手です!]]

灰音、店長は何かが来るのは予想していたが、予想以上の量の魔法の射手に一瞬驚くも二人で固まって二重障壁を展開、灰音はそのままトレー上の皿を軽く跳ね上げ人差し指を穴に素早く入れ、まとめて小太郎に投擲する

「来おったな千輪っ!」         「それではディッシュをどうぞ!」
                     「防御を忘れるなよ灰音!ふんっ!」

投擲された皿の千輪は灰音の右手の動きに合わせ空中で変幻自在に飛び回り、小太郎に襲いかかる。
その最中もネギの放った魔法の射手が灰音店長の全力で張る魔法障壁に精密なコントロールで範囲を限定して行きながら次から次へと着弾していく。

「皿なら全部壊したる!」
―双腕・咸卦・狗音爆砕拳!!―        「魔法の射手にしては威力……が高いっ!」

小太郎が両腕に纏った狗神の拳で目の前に飛んできた皿を右腕で、脇腹を狙って飛んできたものを左腕で殴り、足を狙ってくるものを更に右腕でと次々に殴りつけ金属の形を歪ませるも

「壊れても安心、頑丈設計!」

形が歪んだまま依然皿は飛び周り続け

「コタロー!それ、魔力の糸で操作してるっ!今吹き飛ばす!」
  ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
「なるほどな!殴ってもダメな訳や!」
―吹け 一陣の風 風花・風塵乱舞!!―

依然右手で魔法の射手を連射し続けながらネギは左手で風花・風塵乱舞を発動し上空からの激しい強風で小太郎を襲う皿のコントロールを失わせ地に落とす。

「おっしゃ!」             「障壁が……ぐ……持たないっ!」
「今だよっ!」             「店長、ここは散開しやしょう!」
「おうっ!」               「灰音!やられるなよ!」

灰音、店長は2連瞬動で爆撃地点から離脱、足を止めずに二手に分かれて小太郎を挟むように走る。
それに合わせてネギは魔法の射手の対象を店長に絞りながら地上に向かって高度を下げ距離を詰め、アーティファクトで瞬時にそれを理解した小太郎は狙いを灰音に絞り突撃、それぞれ一対一に持ち込む。

[[目まぐるしく4選手、フィールドを動き回っています!特に赤髪の選手は今尚続く魔法の射手のコントロールからすると高位の術師です!]]

皿を再起動し距離をとろうとした灰音に小太郎が咸卦法の速さを活かし急速接近し

「これで終いや!」

―咸卦・狗音爆砕拳!!―

「な!ぐぁっ!!」

鳩尾に強烈な一撃を叩き込み、灰音を闘技場の壁に叩きつける。
一方ネギは魔法の射手も丁度撃ち終わり浮遊術のまま店長の目の前やや上、近接戦の距離に回りこみ

                   「なんという上客っ!しかしっ」
                     ―連弾・火の11矢!!―

                   「無詠唱魔法!でもっ!」
                      ―魔法領域展開!!―
               「これでっ」―双腕・断罪の剣!!ー

店長は咄嗟に無詠唱火の矢を飛ばすもネギの魔法領域に当たった瞬間雲散霧消、その光景に呆気に取られた店長の隙を狙って、箒に断罪の剣を二振りし解体、そのまま更に魔法領域内に取り込み、並の相手では身体が動かない状態にした上で両腕の断罪の剣を首筋に交差して突きつける。

                     「終わりです!」

                   「くっ!へ……閉店ッ!!」

[[こ、これは決まりました!!まさかの店長閉店宣言です!ナギ・スプリングフィールド杯大会本選レベルの猛者が僅か2分も経たずギブアップ!突如流星の如く現われた二名の新米自由拳闘士、一体何者だ!?]]

決着と同時に場内には見物だけの観客達からの歓声と、灰音店長に賭けていた客の札が空にばら撒かれながらブーイングの声が飛び交う。

―解除―

「ネギ、良い手際やな。アベアット」

「コタローお疲れ。つい武器破壊しちゃうのは悪い癖かな。店長さんごめんなさい」

「いや……その剣の威力を理解するには安い物だったさ」

ネギは対戦相手の魔法発動媒体を破壊した事を気にしていた。
そこへ司会の女性がネギと小太郎に近づいてインタビューが始まった。

[[おめでとうございます。初戦にして初勝利ですね。二人のお名前を聞かせて貰えますか?]]

「俺は小太郎や」

「僕はネギです」

[[小太郎選手とネギ選手ですね。お二人ともファミリーネームは秘密ですか?]]

「ええ、秘密です」

「悪いなー」

[[そうですかー。しかし……おおっ、皆様御覧ください!ネギさんは何だかあの、ナギ・スプリングフィールドにとても似ていると思わないでしょうか!?]]

闘技場のモニターにアップでネギが映り、場内にざわめきが広がる。

「えーっと、ただ似ているだけです。気にしないで下さい」

[[本人は非常にあっさりした回答をしております。気になる事もありますが詮索はここまでにして、お二方のこの時期での夏季大会参戦はやはりナギ・スプリングフィールド杯を視野に入れてのものですか?]]

「はい、そのため今日は少なくともあともう1試合は申請します」

[[皆様お聞きになりましたでしょうか!お二人は本日少なくともあともう1試合するそうです!確かに、試合時間も短く、目立った怪我も無いようですから無理ではないでしょう!皆様次のお二人の試合をお楽しみ下さい!]]

「よろしくお願いします」

「よろしゅう!」

観客席から「がんばれよー!」という声援がネギ達に向かって飛び、それを背に二人はフィールドを後にした。

「コタロー、灰音さんは大丈夫なの?」

「鳩尾にうまく当てたからな、骨も折れたりはしてへん筈や」

「内蔵が心配だね」

「ヒーラーおるんやから大丈夫やて」

「まあ……そうか」

「それよかアスナ姉ちゃん達のところ行こうや」

「うん!」


―9月5日、10時45分、ヘラス帝国首都ヘラス闘技場、特等席―

2分も経たずして灰音を戦闘不能、店長にギブアップ宣言をさせて試合終了という早業をやってのけた二人は特に疲れも殆ど無く、次の試合申請を相手はともかく、手続きを済ませ、テオドラ皇女達がいる場所にやってきた。
「初勝利おめでとう」といくつか交わし、テオドラ皇女から話しに入った。

「うむ、見事な試合じゃった。しかし、コタロのアーティファクトは一体何なのじゃ?特に何も変化が無かったようじゃったが」

「それはな……秘密や」

「なんじゃと!コタロ、妾に秘密とは生意気じゃぞ!」

「冗談や。俺のアーティファクトはネギの動きを勘で察知できるものなんや」

「ほほう、変わったアーティファクトじゃな。それで息がピッタリあっておったのか」

「合わせてるのはコタローですけどね」

「最初にネギが魔法の射手を大量に撃ったのも落ちる場所は全部わかっとったから、もし俺の範囲にも撃ったとしても避けられるで」

「なるほど、使い方次第では強力じゃな」

「それより、ネギ!さっきの非常識な魔法の射手に変な障壁とか剣は一体なんなのよ!」

「そうか、アーニャは見たこと無かったんだっけ?」

「見てないわよ!いつの間にあんたそんな超人になってたのよ!浮遊術まで使えてるし!」

「修学旅行の前から結構修行してたんだよ」

「その修学旅行の時も私は学校で留守番だったのよ!」

「そ、そうだったんだっけ?あの時僕すぐ疲れて寝たから事詳しく覚えてないんだ……」

「はぁ……私あの時もう少しあんたに直接聞いておけば良かったわ。修学旅行の時のネギの事は話だけ聞いて、私もちょっと修行したのに全然じゃない」

「ならアーニャちゃんも一緒に修行すればいいわよ」

「アスナみたいな身体中光ったりはしないの!」

「えー簡単よー。右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

「ほら」

「だから無理だってば!」

「咸卦法を使える者が2人もここに居るとは驚きじゃ。それにしても妾が注文した通り派手な開幕じゃったな。あれで良いぞ。一気に注目を浴びた筈じゃ」

「あはは、ありがとうございます。でもあんまり目立ちすぎると困るんですけどね」

「何を言っておる、ナギ・スプリングフィールド杯を目指すのならば目立った方が良いに決まっておろう」

「そうなんか?」

「うむ、妾の予想じゃとそなた達の公式ファンクラブ設立の申し込みがすぐに入ってくる筈じゃし、それにお主達のファイトマネーも増えるぞ」

ファイトマネーが増えるのは事実である。
賭けられる額が多かったり、試合が盛り上がれば盛り上がる程選手の獲得できるファイトマネーは増えるようになっているのだ。
拳闘士の試合で地味なものを広い闘技場でやられても……という訳だ。
もちろん、それはそれで構わないのだが。

「ファンクラブ!?」

「テオ様、そんなものできるんですか?」

「あくまで妾の予想じゃがな。妾が後見人じゃからそなた達に取材の申し込みが来ればきちんと選別するからの」

「色々ありがとうございます」

「礼には及ばぬ。ふふふ、妾もこれでオスティア記念式典までの暇つぶしができるぞ」

「あはは……」

今後あちこちから取材の申し込みやらグッズ作成に公式、非公式ファンクラブができれば、当然後見人であるテオドラ皇女が陣頭に立つため色々とやりやすい立場にある。

「さっきの相手がナギ・スプリングフィールド杯の本選レベルならネギとコタロなら優勝しちゃいそうね」

「それは早急すぎますよ。アスナさん」

「もしそんな楽なら拍子抜けやで。まほら武道会の方がおもろいやないか」

「うーん確かにそうね、あれはお祭りみたいで面白かったし」

「技の祭典のようでござったからなぁ」

一試合だけ見て判断するのは確かに早急だ。
武器魔法に使用制限は無いなので、作戦次第によっては実力的に劣っていても工夫次第でその差を埋める事もできるのが拳闘界の醍醐味である。
もちろん、絶対的な強さを持つ者の爽快な試合を見る、というのが目当ての人もいるだろうが、それは人それぞれであろう。

色々会話をしながらネギ達は時間を潰し、特等席で昼食を取った後ネギと小太郎の本日2度目の試合が始まった。
2度目の試合の相手は重装備の鎧をつけた大剣使いとハンマー使いであった。
大抵大層な鎧やら武器を装備している連中というのは概して弱い。
試合開始早々、小太郎はアーティファクトを使用、更に自力で咸卦法を発動し、ネギはそれに合わせて手早く双腕・断罪の剣を小太郎の腕に術式封印、自身も双腕・断罪の剣を構え二人で突撃した。
そのまま二人は断罪の剣でバターの様に相手の武器をバラバラに切り落とし、とどめに鎧もこれまたバラバラ解体したのだった。
相手としては威力不明でも、魔力の剣と打ち合うぐらいはできると思ったのだろうが、たった1合ぶつかっただけで武器が柄までしか残らず、驚きのあまり声も出なかった。
ギブアップを宣言せざるを得ず、またもや殆ど疲労することなく二人は勝利を納めることができた。
観客側はといえば、ネギと小太郎に賭ける者達が増えていて、鮮やかな速攻に場内には一際大きな歓声が飛び交っていた。
試合終了後、1試合目に引き続き司会がまたしてもインタビューに来た。

[[2試合目も圧勝でしたね。前の試合で使われていた障壁や今回も使われた非常に切れ味の高い剣のようなものは見たことが無いのですがオリジナルの魔法でしょうか?]]

「両方共僕の師匠から教わったものです。先に断っておきますが師匠の名前は言えないので、すいません」

[[な、謎が多いですねー!それに他人に魔法を発動させる事ができるというのは驚きです。コタロー選手の身体が光る技も気になりますし、これから目が離せませんね!今日はもう1試合されるのですか?]]

「そうやな、これならまだいけるやろ」

「25勝しないといけないでしょうから、是非申し込みたいと思います」

[[皆様、お聞きでしょうか?期待の新星2人の試合、なんと本日まだ、観戦する事ができます!試合時間は15時以降になりますので、リアルタイムで試合が見たい方は是非午後の部2回目の観戦チケットもお買い求め下さい!]]

拳闘界の常識から考えれば1日に3試合するなど非常識も良いところであり、これは観客に衝撃を与えた。
1試合目の映像も丁度ヘラスの拳闘専門番組で放送され、順次アリアドネー、連合の拳闘士協会でも流れる予定である。
ナギ・スプリングフィールドに似ているが名乗る名前はネギとだけで使う魔法も謎が多い、一方相棒の小太郎は試合中身体が輝き、その全貌は2試合では未だ明らかになっていない事から注目を浴びるネタには事欠かない。
さて、言うまでもない事だが3試合目も勿論ネギと小太郎は軽く勝利を納め、テオドラ皇女は大層上機嫌であったという。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月6日、18時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、女子寮ロビー―

今ロビーのテレビで皆一緒にヘラスの闘技場の試合見てるんだけど昨日からすっごいよ!
もうこれで6連勝!
あっと言う間にネギ君、ナギ・スプリングフィールド杯出場決定しちゃうね!

「ユエ、コノカ、凄い、凄いよーっ!」

今日の3試合目もよく分からない剣で相手の武器を簡単に切り裂いて速攻だったり、その前はネギ君が花火みたいに魔法の射手を降らす中コタロ君が上も見ないで走り回ったり鮮やか!

「ほ、本当に凄いです……」

「そやなぁ」

「あぁ!ネギ様、素晴らしいですわ!」

「ここまでとは……」

「それにコタロ君も何これっ!身体中光るし!」

「あれは咸卦法言うんよ」

「あ、あれが咸卦法!あの紅き翼ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグの究極技法ですか!こうして見るのは初めてです……」

ビーさん詳しー!
未だに拳闘放送では何の技法か明言されてないんだけどどうしてだろ。

「咸卦法ってつまり何なの、コノカ?」

「んー、魔力と気を混ぜて……バーンッ!ってなるんよ」

両手を上げるリアクションは何か伝わってくるけど。

「ごめん、全然わからない……。とりあえず凄いのはよく分かったよー」

「むー、うちも聞いてもよく分からないんよ」

使ってる本人じゃないと分からないよねー。

「ネギ様のファンクラブができたら絶対に1桁台を取得してみせますわ!」

委員長のナギの番号が2桁なら今度は1桁かー、ってそれ9人しかいないじゃん!

「あ、私も私も!!」

「お二方合わせた呼び名ももう『流星のジェミニ』と決まって、そのファンクラブもできるそうですよ」

「え、ビーさん何それ?」

「お二人の初試合に実況で流星と形容されたのと容姿は似ていませんが息がピッタリな様からジェミニと付けられたそうです」

うん、確かに二人のコンビネーションは他の拳闘士より数段上で息ピッタリだもんね。

「へー、何か良いね!」

「ネギ君達、今回のナギ・スプリングフィールド杯までしか出んやろうからほんま流れ星みたいやね」

「素敵ですわ……」

「ね、ユエはさっきから画面見て固まってどうしたの?」

「い……いえ、何でも無いです」

ユエ、顔が赤い!

「ネギ君にみとれてたの?」

「な、何を言ってるですか!」

分かりやすい!

「大丈夫、私もだからっ!」

「こ、コレットっ!」

「ネギ君人気者やなー」

コノカは脳天気だねぇ。
にしても私も学生だけどなんとかしてオスティア記念式典でネギ君達の生試合見に行きたいよー!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月7日5時頃、廃都オスティア某所―

雲間から光が覗き今にも朝日が登るという早朝、今は地に落ちた廃都オスティアの陸地末端に数人の人影があった。

「魔力の対流は狙い通り時満ちるまで……約3週間。全て順調だ……」

「当然だね。僕たちはそのために作られたんだ。……でも順調すぎるのもつまらない……かな」

「…………」

そこへまた桜吹雪と共に一人の人物が現われた。

「どぅもー。フェイトはんご報告ですぅ。新世界のお姫様はヘラス帝国の城に入ったままです。旧世界のお姫様はアリアドネーで生徒さんのようですえー。指名手配も意味ないみたいですぅ」

「……わかった。遠くから気づかれないよう諜報を続けて」

「はぁん。遠くから見とるだけなんて殺生やわぁ~」

「もう少しだけ我慢してもらえるかな……。月詠さん」

「予想以上に奴等の動きが良いようだが大丈夫なのか?」

「どうも何らかの通信手段があるようだけど問題ない。ヘラス帝国の警備程度やろうと思えばいつでも突破できる。それに……彼は拳闘大会に出ることにしたようだね……」

「…………」

「フェイトはん、少し楽しそうに見えますえ?」

「……どうだろうね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月9日18時頃ヘラス帝国首都ヘラス闘技場―

ふぅ、今日も2試合だけだったな。
協会からすぐに25勝しそうだからって一日2試合にしてくれないか頼まれたんだよね……。
もう12勝してるし来週中には予選出場権の25勝規定は満たせる。

「コタロー、お疲れ」

「お疲れさん、って大して疲れとらんやろ?」

「あはは、うん、そうだね」

「何やあっさりしとってて拍子抜けやな」

「いつの間にかそれなりに強くなってたんだね」

「ずっとエヴァンジェリン姉ちゃんに相手してもろうてて、楓姉ちゃん達もいつもいて気づかんかったなぁー」

「うーん、確かに」

マスターは常に最強って感じだったし。
第一雷の暴風が雲散霧消するような魔法領域が展開できるんだから並の突破力じゃ全く効果が無い。
広範囲殲滅呪文の千の雷の出力を一点に収束させるか、後は修学旅行の後にマスターから教わった光系呪文を使うか、はたまた複合させるかって所なんだけどそんなの開発してもなぁ……実際に使う機会なんて殆ど無いだろう。
父さんの魔法が雷中心なら、マスターからは僕が氷は得意じゃないからって光中心に教えてもらった。
一番使ってるのは魔法領域と断罪の剣だけど。
後は僕の新術……みたいなのは感覚が南極の一件で鋭くなったお陰で多分できそうだけど、じっくりやらないと危険だし……できたらできたで画期的だけど色々問題もあると思う。
まあテオ様達の所へ戻ろう。

「張り合いが無いようだな。少年達」

ん、通路の陰に誰かいる。

「誰や?」

「誰と聞かれたら……初回サービスだし答えてやるか」

凄く背が高くて……。

「あ、おっさん!」

「あ、あなたは!」

「お?お?俺の事知ってんの?ねぇ、知ってんの?」

間違いない、写真でも見た!

「筋肉ダルマや!」

「筋肉ダルマのラカンさんですか!」

「ダルマじゃねーよ!!あのじゃじゃ馬何て変な事教えてんだっつーの!」

……仕切り直してちゃんと挨拶したんだけどこの大男の人はジャック・ラカンさん、ゲートポートで本来メガロメセンブリアに来てくれる……筈だった人……。
マスターの予想通り現れなかった……。
凄い背中とか叩かれたんだけどかなり痛い。
とにかくテオ様達のいる特等席に案内した。

「おお、ジャック!」

「うぉっ!?」

「アハハハ!久しぶりじゃなこの筋肉ダルマ!何故顔を見せん」

テオ様がラカンさんに飛びついて肩車状態……。

「オイオイ、じゃじゃ馬第三皇女いきなり会って早々コレか!お前三十路だろ!」

「ヘラスの族は長命だから三十代の女は人間換算でまだ十代じゃ!ミソジゆーな!」

「十代でも肩車で飛びついてくる女はいねぇよ。あー?大丈夫か帝国はこんなんでよ」

「だから普段はしっかり皇女を演じておる」

うーん……あまりそれらしいところをここ数日見てない気が……。
アーニャ達は見たことあるって言ってたけど僕達が拳闘大会に出始めてから結構はっちゃけてるらしい。

「つーかな、俺はお前に会いに来たんじゃなくて、このガキ達に会いに来たんだよ!」

「はぁ?連れないこと言うな!」

「ほらほらとっとと降りろー。皆見てんじゃねぇか。恥ずかしくないのか?」

「この者たちは気にしたりなどせんから良いのじゃ!」

確かにそんなに気にしないけど……。

「ひ……姫様……いくらなんでも」

「ユリアはうるさいのー!」

久しぶりに3-Aの空気を思い出したような気がするなぁ。
今頃地球での日数だと夏休みはとっくに終わって皆とも会ってるんだろうけど……。
テオ様がラカンさんから気がついたら降りてた。

「で、そいつがアスナかぁ?なるほど、こいつぁデカくなったもんだなぁ」

ら……ラカンさん!?何アスナさんの胸触ってるんですか!

「はぁ!?ちょっとどこ触ってんのよ!」

―咸卦法!!―

「このっ変態っ!」

あっ凄いアスナさん!
手使わずに咸卦法発動して殴った!

「げぽあっ!」

錐揉みしながらラカンさんは床に倒れた。

「この筋肉ダルマ!何堂々やっておる!このっ」

続けてテオ様に足蹴にされてる……。
マスターの言うとおり本当に信用できなそう……何かアホっぽい……。

「はー筋は悪かねぇようだな」

突然起き上がった!?
しかも僕達じゃなくてアスナさんに言うの!?
でも……隙が……今アスナさんに殴られたけど……無い気がする。
楓さんもそれには気づいてるみたいだし。

《ネギ、このおっさん見た目通りアホっぽいけどアホみたいに強いな》

個人通信か。
何か酷い言いようだけど。

《う……うん。倒せる気がしないね》

《もうちょい丁度ええ相手おらんのか》

《そんな丁度良い人ってなかなかいないんじゃないかなぁ》

《もうこの際人やなくて魔獣相手でもええわ》

《あはは……それはもう拳闘大会である意味が無いね》

《廃都オスティアっちゅう所はゲートもあって竜種みたいな魔獣がウロウロしとるんやろ?》

《そうらしいね。できれば近いうちに探索に行きたいよ》

《高畑の先生がなんとかしてくれへんのか?有名なんやろ。許可取るぐらいできそうやないか?》

《うーん、どうだろう。タカミチは後数日でメガロメセンブリアの調査もあんまり意味が無くなるだろうって言ってたから近いうちにオスティアに飛ぶみたいだけど現地で許可取ってもらえるように頼んでみようか》

《おお、そうしとき。俺達来週にはナギ・スプリングフィールド杯出場決定やし。一足先に行っても構わんやろ。ネギの幻術もバレとらんし》

《確かに丁度いいね》

「でー、お前らの試合はここに来るまでに飛空艇の中で全部見てたんだが……」

……ちょっと真剣っぽい。

「ナギの奴に似てねぇなー!戦い方とかぜんっぜん!使う魔法は割と似てる癖にどーしてそこまで違うよ」

「え……えーっと」

これは……どういう意味なんだろう。
僕は僕らしい戦い方ができているならそれでいいけど。

「あれだ、師匠とか言ってたが断罪の剣使ってるあたりまさか闇の福音か?」

「そ、そうです!闇じゃなくて光ですけど!」

「やっぱりなぁ。道理で鍛えられてると思ったぜ」

「ネギ、それは真か!?」

「はい、言ってなくてすいません、テオ様。マスターは父さんに倒された事になってるのであんまり言ってはいけなかったので」

「……なるほど、まあそれなら気にせんで良い」

「そんでコタロつったか?お前なんで究極技法の咸卦法できんだ?その年にしちゃいくらなんでも早過ぎるだろ」

「それはな、ネギのアーティファクトとアスナ姉ちゃんのお陰やで!」

「あ?お前のアーティファクト意味わかんねーじゃん。何も出ねえし見た目も変わらねぇし。てかその前にお前らキスしたの?ねぇ、キスしたの?」

このわざとらしい顔、もうさっき見てこれで二度目だなぁ。

「そんなん言うならラカンのおっさんもネギの父親とキスしたんか?」

「してねぇよっ!」

「俺もやっ!」

「ちっ、知ってやがったかぁ……つまらん」

はははー……。

「コタロー、この際だし効果見て貰えば良いよ」

「おう、そうやな。アデアット!」

―契約執行 60秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!!―

ある程度供給を抑えたから爆風は出てない。

「因みに俺は何もしとらんからな」

「ほー、それが本来の効果なんじゃな!」

「何だぁそのアーティファクト。契約執行が咸卦法になんのか。ズリーな。そりゃコツがつかめる訳だ」

「ラカンのおっさんのも凄い宝具やって聞いたで」

「俺素手のほうが強いからぶっちゃけイラネーんだよ」

「はぁ!?」

「ええっ!?」

「ま、コタロのネタは分かったとして、ネギの方には何か必殺技とかねーのか?」

「断罪の剣があります!」

断罪の剣には二種類あって一つ目が、物質の構造相転移で、対象を蒸発させて切り裂き、それで詰ませられなかったとしたら超低温攻撃の二段構え、更にその超低温で超伝導状態に近くできるから結果電気抵抗もゼロに近づいて、そこに雷の魔法を複合させると生物にとっては……相当危険な威力になる。
二つ目は完全純粋魔力で原子レベルに分解するもの、南極で死にかけてから魔法発動媒体無しに完璧に使えるようになった。
拳闘大会で使ってるのは後者の方、剣が通った場所だけしっかり切れるから前者みたいに低温攻撃は無いし、人体に当てさえしなければ……大丈夫。

「まあ確かに断罪の剣も必殺技だな。だが俺が言いたいのはそーゆー意味じゃなくてだな。コイツの咸卦法みてーな奴。エヴァンジェリンの奴何か隠してたろ」

「何も聞いてないですよ……」

マスターの別荘の書物庫には大量にスクロールもあったからそういうのもあるかもしれないけど……。

「あー、何だアイツ。そういうのは教えなかったのか。まぁ確かにそのほうがいいかも知れねーが。俺はタカミチに言われて見に来たんだが……なんつーかお前らの試合を見てて俺も興味が出てきてなぁ……」

「…………」

「…………」

な……なんだろうこの沈黙。

「お前ら、ナギ・スプリングフィールド杯、それも決勝で俺が戦ってやるぜ」

「なっ!?ラカンのおっさんも出んのかいな!」

「えええっ!?」

「はー?ジャック、おぬしが出たらネギとコタロでも無理じゃろう」

「まー物は試しだ。それにさっきお前ら試合拍子抜けとか言ってただろ。丁度いいじゃねーか。流石に今じゃ無理だろうが、俺もお前らと良い試合やりてーし少し鍛えてやるよ」

「へっ、まあそれもそやな。ラカンのおっさん出るならやる気出てきたで!」

「……うん!ラカンさん、お願いします!」

「そーだなぁー。じゃあまずは授業料100万ドラクマな」

「高っ!?」

金にうるさいって本当だったんだ……。

「ほんなら、ナギ・スプリングフィールド杯でおっさんに勝ってその優勝賞金100万ドラクマで払ったるで!」

「コタロー!それ意味ないよ!ラカンさんが僕達に勝てばそもそもその賞金ラカンさんのものになるんだし!」

「あー、そやな」

「ガハハハハ!いや、悪くねーな!なら絶対に俺はお前らに負けねぇ。きっちり耳揃えて出世払いで払えや」

何か無茶苦茶だー!!
アスナさんとアーニャの顔が酷い呆れ顔になってるし。

「どっちにしろこんな機会滅多にないで!俺はやれるだけやったるわ!」

「うん、僕もやれるだけやってみます!」

「よーし威勢の良い発言。それでこそ男だ。つかさっきもそうだがお前ら俺の事結構知ってんの?驚かし甲斐がねぇんだが」

「妾が教えたのじゃ」

「あーお前拳闘士に詳しいんだったな。どうせならグラニクスにくりゃよかったのに……。まあいい……とりあえず改めて俺の自己紹介を聞けーいッ!!」

「突然でかい声を出すな!この筋肉ダルマ!!」

「千の刃の男!!伝説の傭兵剣士、自由を掴んだ最強の奴隷剣闘士!!サウザンドマスター唯一にして永遠の好敵手!!勝敗は498対499!!そう!!それがこの俺!!ジャック・ラカンだっ!!!」

ビシバシポーズ決めながら言い切ったー!
マスターから聞いてたけど本当に父さんのライバルなんだ!

「「おー!!」」

「……」

「ほー」

「耳が……」

「うるさいのじゃ……」

「暑苦しい……」

茶々丸さんは静観、楓さんは感心してるけどアスナさん、テオ様、アーニャは……。
ラカンさんが僕達の相手を少ししてくれるって事で場所は何処がいいかって事になったんだけど……。

「城の練兵場使っていいのか?」

「駄目じゃ!おぬしが使ったら更地になるじゃろ!」

どんな核兵器何だろう……。

「えーじゃあ何処だぁー?でけぇ湖の上でやるか?お前ら飛べるし」

「それも駄目じゃ!湖が消し飛ぶ!!魔法球を用意するからその中でやっとれ!」

「テオドラ姫さん魔法球あったんか!」

「それぐらい城にあるぞ。じゃが10倍じゃから妾はあまり入りとうないから、出さんかった」

「三十路だから年齢気にしてんのかー?」

「だからミソジゆーな!!」

「テオ様……魔法球があるのはありがたいんですけど……湖が消し飛んだりするぐらいなのに魔法球は壊れたりしないんですか?」

凄く心配だ……。

「……それは……わからんのじゃ」

「がははは!安心しろ!もし壊れても俺は死なん!」

本当に滅茶苦茶だーっ!!
まあ……落ち着いたらラカンさんにフェイト・アーウェルンクスの事とかもダメ元で聞いてみよう。
何か知ってるかもしれないし。
お金請求されたら出世払いかな……。
でもそれだと最初からタカミチに聞いたほうが早そうだけど……。
……こうして僕達はラカンさんに少しの期間修行を付けてもらえる事になった。
魔法球があるお陰で新術開発も進めたり、魔法世界の崩壊についてじっくり考えられる時間もできるだろうし。
うーん、テオ様には凄くお世話になってるなぁ。
もし賞金取ったらテオ様に渡したり、夕映さんやこのかさんの学費とかタカミチが払ってくれた金額の足しにしてもらおうかなって考えてたんだけど……。

「ところでラカンのおっさん、拳闘大会出るにしても相方おらんのやないか?」

「心配すんな、結構強い奴知ってるから呼んでやるぜ」

「へー、どんな人なんですか?」

「ボスポラスのカゲタロウって奴だ。操影術ってのを使う」

「高音さんと同じ術かな」

「多分そやろうな」

「お、なに、お前らまた知ってんの?」

「麻帆良で生徒をしていて今アリアドネーにいる同じ術を使う人が知り合いにいるんです」

「そりゃ珍しいな、あの地方にしか殆どいないんだが。名前は?」

「高音・D・グッドマンさんです」

「あいつの本名何つったかなー……」

ラカンさんぐらいになると強い人とも知り合いなのかなぁ。
僕も地球にはまほら武道会で強い人達がたくさんいるのはわかって知り合いもできたけど。
魔法世界にも拳闘士として登録はしてなくても本当に強い人達っていうのはきっといるんだろうな。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月20日日本時間、13時24分、麻帆良―

ネギ少年達が魔法世界に旅立ってから早1週間程が経ち、私達の計画も残すところ後1週間という時、侵入者……ではなく帰還者が現われた。
思い起こせば5ヶ月近くが経とうとしていたが、そう、あのオコジョ妖精アルベール・カモミール捜査官である。
随分前に超鈴音がエヴァンジェリンお嬢さんを介して魔法転移符の流通経路を捜すように麻帆良から体よく追い払ったのだが何らかの成果を掴んだのだろうか。
悪いが、私個人としてははっきり言ってあまり期待していない。
場所はどこかといえばエヴァンジェリンお嬢さんの家であるが妖精は戸惑っていた。

「エヴァンジェリンの姐さん、あー兄貴はどこ行ったんですかい?」

そう、てっきり一緒にいるかと思ったらネギ少年が見当たらないからである。
女子寮にも先に来ようとしたのだが、田中さんガードで侵入は不可能だった。

「あ?何だ、情報を掴んできたんじゃないのか。なら帰れ」

「ちょ!?ちゃんと持ってきやしたよ!」

「ほう、そうか。ぼーや達なら今頃魔法世界だ」

「でええっ!?全部ゲート壊れてるじゃないすか!」

「お前が心配することでは無いだろう小動物」

「エヴァンジェリンの姐さんは心配じゃないんですかい!?」

「これでも私の一番弟子でな。信用してるんだ。ぼーや達ならなんとかなるだろう。来週には帰ってくるだろうさ」

「ゲートが壊れてるのにそんな無茶な」

「まぁ気にするな」

「はぁ……そうですかい」

「で、ゲートが壊れたのを知っているということは海外にも行ってきたのか?」

「もちろんですぜ。まずは俺っちの報告を聞いて下せえ。ちょっと失礼」

「小動物、この家は禁煙だ。何ならお前を燃やしてみるか?」

オコジョ燃料って何だろうか……。

「ヒィッ!じょ、冗談でさぁ。雰囲気が出ると思っただけで……」

ハードボイルドが板についたらしい。

「さっさと始めろ。ちゃんとデータもあるのか?」

データに関しては茶々丸姉さんのコピー機、茶々丸’姉さんがいるので問題ない。

「もちろんありますぜ。まずは……」

魔法転移符の流通経路、オコジョ妖精の調べによると実に多岐に渡っていたようだ。
件のルートでは東洋呪術系の魔法転移符もあれば、西洋魔術系の魔法転移符の両方を扱っており、サヨが以前撃たれた時の物も追跡が不可能だった時点で出所はわからなかったが、妖精の報告によってその区別をする事自体あまり意味が無いというのが分かった。
普及率という点では西洋魔術系転移符の方がシェアを占めているが、中国から日本にかけての地域では東洋呪術系魔法転移符も用いられているのでそれぞれの拠点での使用率に特色はある程度出るだろう。
基本的に東洋呪術で良く使われる呪符には魔法的処理を施した特殊紙に、呪術刻印を入れる必要がある。
当然魔法転移符にも同じことが言え、魔法的処理をした特殊紙に、東洋呪術系魔法転移符なら呪術刻印、西洋魔術系魔法転移符なら魔術刻印を入れる必要があるのだ。
この違いは私からすると些細な問題であるが、作る側としてはそれぞれ異なった魔法体系なので西洋魔術師が東洋呪術系魔法転移符に描かれている刻印をそのまま単純に真似して同じ物を作ろうとしたところでうまくいかない。
基本単価1枚日本円で80万する事からコピーして大量生産というのは基本的に不可能であるのは自明な事であるが、ならば一体例の組織は一体どうやって一定量の供給を受けているのだろうか。
オコジョ妖精だけにアルベール・カモミールが鼠のように組織のある拠点に入って得た情報によると、当然組織全ての場所に常に充分な転移符が行き渡っている訳ではなく、請け負った依頼内容の難易度を判断した上で魔法転移符の使用の有無が決定されるので、実際に魔法転移符が使用されるケース自体は少ないらしい。
要するに超鈴音が2度も狙われたのは、組織の優先排除対象に入ってしまっているからなのだ。
これは組織の事を知っているような事を修学旅行の時に匂わせたフェイト・アーウェルンクスの発言からも明らかだ。
組織でも末端の人間は魔法転移符そのものの存在を知らないこともあるようで、これが限りなく白に近いグレーで判断が難しい事の元凶である。
シアトルでの一件のようにあからさまなアジトがある場合もあるが、これは所謂実行部隊限定の物であり、それ以外のサポート系の組織のメンバーは通常実に普通の企業で社員として働いている事が多いようだ。
羽田空港でのサヨが撃たれた事件にしてみれば完全にフリーの殺し屋に、組織が接触し魔法転移符の使用方法を説明して持たせただけで、撃った後は自動で多重転移、使い終わった魔法転移符は効力を失いただの紙になる、ただそれだけという可能性が高そうだ。
どうも元々普通の人材派遣会社だったものに組織の人間がその上層部に潜り込み、徐々にその勢力を広げるというケースが悪質で、隠れ蓑に利用される典型のようだ。
性質が悪いのは誰か特定の人物がトップであるという事が無く、組織形態がアメーバのようで、構成員自身も組織の全貌がどうなっているのかはよくわかっていないという事だ。
この組織自体を潰すのはかなり難しいことであろうが、少なくとも魔法転移符の出元を潰せば余計な技術流出というのは防げる筈である。
誰が供給しているかと言えば、現実とは概して陳腐な物で、当然その正体は西洋魔術師、陰陽師崩れ達である。
所謂悪い魔法使いとでも言えばいいのかそんな所だ。
いつからなのかは知らないが彼らが組織と接触を持ったことにより、魔法使いの側としては隠れてコソコソ魔法転移符を作るだけで楽に生活できる資金が得られ、組織としては便利な道具があるお陰で仕事がやり易くなるという双方に利益のある関係ができているのだ。
彼等はどのようにして連絡をやりとりしているかと言えば、当たり前だが超鈴音のSNSは使っておらず、それ以外の電子メールやら普通郵便、使い捨て前提での電話番号を利用した通信が基本である。
彼等も間抜けではなく、優先排除対象の超鈴音が作りあげたSNSをわざわざ利用したりしない。
この辺りは既に私達がSNSを神木のスペックをフル活用した捜査でも明らかだ。
メガロメセンブリア本国に捕まればオコジョ刑どころかそれ以上の刑も必死の魔法使い崩れ達であるが、元々転移魔法符を作成する技術が無い場合、往々にしてアンダーグラウンドなルートで、転移魔法符を作成する技術がある魔法使い崩れと連絡を取り、その技術習得をする為に群れる事があるようだ。
また魔法転移符のみならず、まほネットにハッキングをして、魔法転移符そのものや、その他の魔法具、魔法転移符作成の為の特殊紙を入手するのを生業とする電子精霊使いも存在するらしい。
やっている事は何だか超鈴音と同じようだが、このタイプの人間は住所を驚く程転々とする。
合わせて一体何人いるのかは正確な人数は不明だが仮に1000人いるとしても、365日間頑張って作成するだけでも魔法転移符は相当な枚数に膨れ上がる。
大体彼等は治安の悪い国や地域の魔法協会出身だったりする事が多いようだが、それだけに高額の報酬が得られるというのは魅力的なものなのだろう。
彼等が捕まらないように組織側も配慮するようで、色々な偽装をする事もあるらしい。
魔法幻術薬ではなくこちらの世界の整形技術で姿を変えてしまえば、魔法協会に名前と顔写真が登録されていても本人かどうかわからなくなるという有様である。
場合によっては死亡したように偽装をすることもあるようで本当に性質が悪い。
作成された魔法転移符は普通に郵送や、コインロッカー等の所定の場所でやりとりされるようだが、この辺りは普通である。
魔法の事等知らない運び屋の人間がその仲介をした場合、地球の立派な魔法使いが地道にそれを捜査するのは人員的に考えて絶望的である。
地球の立派な魔法使いは一般的にNGOに所属して活動するもので、紛争地域や自然災害で被害を被った地域を飛び回っては限られた範囲内で魔法を行使するのが常であり、もしこの魔法使い崩れ達を捜索するとなると人員が足りなさすぎるのだ。
以上、大まかにこんな所であり、結局組織の全貌は掴めず、その何処かしらに隠れている魔法使い達の居場所も詳しくわからず、とりあえず概要が掴めただけ、という歯切れの悪い捜査結果であったが、オコジョ妖精にしてはよくやった方であろう。
一応数カ所の組織が関わっている場所の特定はできたようだが、これが魔法使い達の出る幕なのかどうかの境界からして怪しい。
忘れてはならないが基本的にこの組織は、魔法に関わっているかどうかという点で、表であるため魔法云々を抜きにして、寧ろ違う容疑で摘発できるため、普通の警察が出た方が良い場合が多い。

「とまあこんな感じですぜ」

「なるほどな……しかし人間とは俗な生き物だな」

「そうっすね……それで今回の報酬なんすけど……」

「いくら欲しいんだ。まあ50万ぐらいは払うが」

「え!?ホントですかい!?」

因みにオコジョ妖精の一日の生活費用とは人間に比べると恐ろしく少ないので月給5000円で充分だったりする事から考えると50万でも破格である。
国を渡る際の費用は人間ではないから法は関係ないが、一応人間的に言えば不法に貨物船や飛行機に乗り込んで動き回るのである。
確かに人件費が少なくて済むのは事実である。
しっかり電子データも確保できる辺りオコジョ用パソコンというのは意外と優れているようであり、妖精業界は魔法使いに仮契約及び本契約をさせるというのではなくもう少し違う方向性で活躍できる気がする。
妖精は妖精で独自の通信網も有しているようで更にそれを後押ししそうだ。

「ああ……。少し待っていろ、出してくる。余計な物に触るなよ」

「俺っち頑張った……漢だぜ……」

捜査期間も定めない超適当な依頼にも関わらず勝手にミッションコンプリートをひしひしと感じているなら、放っておいた方がいいだろうか。
エヴァンジェリンお嬢さんが適当に自宅に置いてある現金の入った封筒を妖精に渡して終わりである。

「ありがたく頂戴しやす」

「小動物、捜査のついでに何か他に面白い話は掴まなかったのか?」

「あー……一つ、エヴァンジェリンの姐さんが世界で人気だってのはわかりやした」

「ほう、なるほど、それは私のサークル関係のものか」

世界に飛び出すエヴァンジェリンお嬢さん。
既にSNSで専門コミュニティもできているらしく、底堅い人気を誇っている。

「そうみたいっすね。にしても前回エヴァンジェリンの姐さんを見た時は動転してて気が回らなかったすけど真祖の吸血鬼にはとても見えないすね」

「それは、私は真祖の吸血鬼ではないからな」

「ホントですかい!」

「今私が何者なのかは説明できんがな」

「はー、不思議な事もあるもんすね」

「まあそういう事だ。で、お前はどうする?また続けて今度は更に詳しくその魔法使い崩れ共の居場所でも探し当てるか?」

「やっぱり俺っちとしては兄貴のような前途有望な魔法使いの使い魔になるのが真理ですぜ」

「いや、それは無い」

即答だった。

「そんなぁ!?」

「思うにお前たち妖精は使い魔だ何だとよりも、諜報活動の方が実は向いているだろう?実際人間に見つけられても情報を吐け等と言われないだろう?」

エヴァンジェリンお嬢さんも同感のようだ。

「そりゃあ俺っちが何も言わなきゃそうだが……。なに……つまり俺っちは天性のハードボイルドなのか……何かカッコイイぜ」

「……また何か情報を掴んだら買ってやるさ。好きにしろ」

「おおっ、分かったぜ!燃えてきたっ!!」

人語を解する小動物、私はたまちゃんの方が好きだが俗物的な方がこういうのは向いているかも知れない。
早速また旅に出るかと思われたが、とりあえずは受け取った日本円をオコジョ$にどうやってか換金して好きに使うらしい。
レートも不明だが恐らく50万はかなりの高額であろう。
今回アルベール・カモミール捜査官が掴んだ電子データは茶々丸’姉さんが、会話内容は私が超鈴音に伝えた。
あっさり超鈴音がエヴァンジェリンお嬢さんに50万を払って今回の件は解決である。

《ふむ、結局とことん面倒な組織に私は狙われ続けるというのが明らかになたようだネ》

《はい……残念ながら》

《……本当に宇宙開発したい気分だヨ》

《元々火星人ですしね》

《地球系火星人だけどナ》

《まあいざとなったら魔法世界というか火星側に移動すれば良いと思いますよ》

《それもそうだが、どうなるかは世界の動き次第だろう?》

《ええ、もう残り数日ですからね》

《正直どうなるか見物だナ》

《良ければ超鈴音にも作戦を優曇華から手伝って貰えると助かるんですが》

《おや、私もそんな大規模な事に参加していいのカ?》

《恐らく私が扶桑、サヨが蟠桃を完全管制するので優曇華の機能で補助してもらえるならその方がありがたいです》

《ふむ、そんな機会二度と無さそうだし、やらせてもらうヨ。それにしても恐ろしいぐらい加速した魔分を浴びそうだネ》

《まあそうでしょうが、当然アーティファクトを使用しておく事になりますから》

《大丈夫だという訳だナ。分かているヨ》

さて、向こうでは後1ヶ月程だろうが、ネギ少年達頑張れ。
こちらも数日中にある人物と接触するべきかどうか……。



[21907] 50話 魔法世界編9
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/05 23:55
―9月11日、13時頃アリアドネーホテル―

もう大分アリアドネーでそこそこの生活を続けてるけどメガロに居た時ほどVIP生活じゃないけどまぁ……楽な方スね。
数日前にやってきた葛葉先生によって私がゴロゴロすんのが不可能になったのにはちょっとへこんだわ。
高音さんも「春日さん、あなたアリアドネー魔法騎士団候補生の学校の授業を見てもっとやる気をだそうとは思わないんですか?」なんて言ってくるし、微妙に生き辛いスよ。
葛葉先生は桜咲さんと早朝はいつもどっか行くんだけど、多分神鳴流の剣術の訓練か何かかだろ。
それにくーちゃんも付いてくから私はココネと暇を持て余す訳だ。
そんな暇を潰すネタと言えばネギ君と小太郎君の拳闘大会の試合に限る。
どうもテオドラ皇女殿下のお達しで「できるだけ派手に試合しろ」みたいな事言われてるらしく、速攻で決めるにしても何か魅せる試合を二人は心がけてるね。
その分見てる方としては本当に面白い訳だけど。
ネギ君が何故か小太郎君に遅延呪文を封印できたりするもんだからやたら切れる剣とか凄く腕が光るパンチを一緒に繰り出して戦う時はもうシンクロしまくり。
鎧をバラバラに解体するのはもう名物だね。
他には小太郎君が射線軸上にいる状態なのにネギ君が相手に大量の魔法の射手を撃った時「それはマズイだろー!!」と思ったんだけど、当の小太郎君は後ろを見てもいないのに弾幕の中を華麗に縫って進んで相手に突っ込んでいったのは何のサーカスだって感じだった。
それを他の人達はどう思ってるんだろうと気になって、拳闘協会専門サイトの掲示板的なものをまほネットで調べてみたら、ネギ君と小太郎君の謎の多さとその使用技術の異常性についての話題で予想通り超盛り上がってた。
ネギ君達の使う技術は司会の人が毎回聞こうとするんだけどネギ君は大抵「ごめんなさい、教えられないんです」って言うもんだから、そうすると間近で見た当の対戦相手達に毎回試合後のインタビューが入るようになって「あれは間違いなく遅延呪文だろう」「あの魔力の剣相手にもう戦いたくない」「いやあれは信じがたいが原子分解魔法だ」「あれは魔法障壁なんてそんなチャチなもんじゃない」「コタローが使っているのはあの咸卦法じゃないのか」「まさかあの年齢で使える筈が無い」なんて負けた側も意外とノリノリで答えながらメディアに露出できるもんだから満更でも無さそうなのが面白いスよ。
あとそれとは別にネギ君には大量に魔法使い達から使用する魔法についての問い合わせが殺到してるらしい。
余程気になるんだろうな。
2人ともそれぞれファンクラブができて、2人合わせたコンビでのファンクラブも含めて3つあるのは豪華すぎる。
丁度昨日から拳闘協会の公式サイトでファンクラブ参加の為の連絡先が公表されたもんだから、愛衣ちゃんが光速で動き回って宛先に向けて魔法郵便3つ送ってたのはちょっと笑えた。
地味に入会費かかるんだけど気にしてないみたいね。
そんでもって拳闘士のネギ君が9月1日に見学に来たネギ君だってのは皆分かってたから、ゆえ吉とこのかのとこの学校の寮はやっぱ戦争だったらしい。
あの時は一応元々初対面だから狙いとしてはナギと誤認されなきゃいい程度だったし、そもそも認識阻害メガネって映像には効果無いスからね。
箒で飛ぶときに麻帆良で認識阻害かけても写真に撮られればモロに写るのと同じ原理だな。

当のヘラス帝国にいるアスナと端末で会話してみたら、ジャック・ラカンっていうこれまた紅き翼の有名人が一昨日現れたらしく一言で言うと「あの人変態よ!」だってさ。
……変態はともかく、昨日から魔法球でネギ君と小太郎君は生ける伝説にまずは腕試しをしてもらったんだけど、ラカンさんは……もー何でもアリな人だったらしい。
そんでナギ・スプリングフィールド杯の決勝で戦う予定で……って私にはどうしてそういう流れになったのか全然分からんスよ。

他の動きはっていうとのどか達トレジャーハンターの皆さんはこの1月くらいの遺跡探索でかなり稼げたっつー話で、フォエニクスからアリアドネーに皆で来るって話になってて1週間以内には着くらしい。
のどか的には欲しい魔法具が手に入ったみたいで充実してたんだろうと思う。
特に賞金首として追われたりもしなかったらしいしクレイグさん達にはマジ感謝。
アスナ達が賞金首稼ぎ達と戦闘になって返り討ちとかにした事も無いから結局あの最初のニュースで指名手配された後20日ぐらい経ってもうニュースに取り上げられるのも見てないし。
これでもし武道四天王が大暴れしてたらと思うと大分違ったかもスね。
あとは高畑先生とたつみーが明明後日にはオスティアに飛ぶって聞いたな。
ゲートポートの捜査も限界って事でオスティアにいる高畑先生の個人的な知り合いにうまく当たってみるらしい。

……あーヘラス帝国の闘技場でネギ君達に賭けたら相当儲かったんじゃないかなぁとも思うんだけど既に倍率が低くなりすぎて今更遅いスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月12日、ヘラス帝国首都ヘラス城内、ダイオラマ魔法球内―

ラカンさんに相手してもらい始めてから魔法球内時間で10日、闘技場での1日に2試合こなしてから夜頃に魔法球に8時間ぐらいずつ入るサイクルでやってきた。
初日の一番最初に相手してもらった時「ぼーず達、力試しだ!全力で打ち込んでみろ!」ってラカンさんが言ったから流石に断罪の剣はやめたけど、僕が収束光の505矢桜華崩拳、コタローが咸卦・狗音爆砕拳を叩き込ませて貰ったら全然堪えてなくて驚いた……。
最初僕が構えた瞬間は普通に受け止めるつもりだったみたいなんだけど当てる直前に気合い?で防御されたらそれで簡単に防がれた。
コタローは「ラカンさん……ホンマに人間なんかな?」って悩んでたし……。
咸卦法が気合いに勝てないのは理不尽だと僕も思う。
アスナさん達もそれ見てて呆れてたしなぁ。
僕とコタローの見立てだとあの気合いの防御力を越えるダメージを与えるか、防御する前に隙を突いて一撃入れるぐらいじゃないとまずダメージは入らないっていう結論に落ち着いた。
それで、僕達二人の力を合わせてやってみていいってラカンさんが言ったからあの時本気を出したんだ。

「ネギ!やるで!アデアット!」―狗族獣化!!―

「うん!任せて!行くよっ!」

「おー、やってみろぼーず共!」

    ―契約執行 120秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!! 出力最大!!―
              ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―光の精霊505柱! 集い来たりて 敵を射て!! 魔法の射手 収束・光の505矢!!―
             ―短縮術式「右腕」封印!!―

最大出力咸卦法に収束光の505矢、現在の僕達ができる最大のコンビネーション打撃技。

「おっしゃぁぁぁ!!ラカンさん行くで!」

―右腕解放!!咸卦・桜華狗音爆砕拳!!!!―

「おっと」―気合防御!!―

また気合いの防御!

「でりゃあぁぁぁッ!!」

狗族獣化も使ったコタローの全身全霊の現最高打撃、強烈に発光してる拳は確実にラカンさんの腹部に直撃してる!
地面の砂浜にも余波でクレーターができてる!

「ふんっ!!!」

けど!……打撃の効力が終わってもやっぱり……。

「はぁ…………ラカンさんどうなっとんのや……」

腹部から煙が出てるだけだった。

「がはははは!!いやー今のは結構効いたぜ!そうだな……ぼーず達二人の力を合わせると1足す1が2じゃなくて3か4ぐらいにはなってるのは間違いない。その年にしちゃかなりのもんだぜ。でも俺にはまだまだ届かねぇな」

「…………」

「…………」

「ネギ、コタロ、その筋肉ダルマをまともな感覚で図るのは無意味じゃ」

「無茶苦茶ね……」

「真っ向から受けて防ぐとは凄まじいものでござるな……」

「なんといっても俺は最強だからな!よーし、お前達の強さを簡単に表にしてやろう」

「表ですか?」

「そんな簡単に表になんてできるもんなんか?」

「まー見とけぇ」

そう言ってラカンさんは強さ表っていうのを書き始めたんだけど……。
昔の僕達なら単純に信じた可能性は高いんだけど明らかにラカンさんから見た基準で測ってるような表だった。

「なんやねんコレ……。ラカンさんおかしくないか?」

「イージス艦が1500って……これは何処からの接敵開始を想定してるんですか?」

長距離からのミサイル攻撃はそもそも対人を想定してないと思うんだけど……。

「そうや、大体なんで海におる船と戦うんや」

「はぁ?お前達もっと純粋になれよー。障壁ないんだから沈められるだろ?」

「……沈められたとしても接近した距離によっては爆発の余波に巻き込まれて相討ちになりませんか?」

「そこは気合だ!」

「ふーんどれどれ、これだと200の戦車8台用意したらイージス艦に勝てるって事なの?」

アスナさんからも突っ込みが……。

「まず戦車は海で戦えませんから無理だと思いますよ。射程を考えればイージス艦が圧倒的に強いです」

「そうよねーネギ」

「…………」

「なら2800の鬼神兵っちゅうのは海でも戦えるんか?」

「それは無理じゃな」

「ほな海挟んでたら鬼神兵の射程範囲外からイージス艦が攻撃したら鬼神兵は負けるやろ」

「そうじゃな。妾はイージス艦がどんなものか知らぬが陸に船はおらんし逆は考えても意味ないの」

「…………だぁぁぁ!!!なんだぁー!?嫌なガキ共だなぁー!!俺が折角書いてやったって言うのによぉ!!勝負は相性、時の運もあるが細かい事は気にすんなよ!!」

「筋肉ダルマが頭の悪い表など書くからじゃ。ああ、馬鹿じゃったか」

この表そもそも比較対象として適切じゃないんと思うんだよなぁ……。
冬に学園長先生のスクロールを乗り切った後にコタローと話したけど、敵が凄く弱くてあっさり倒せても、その瞬間強力な毒ガスや石化の煙が出てきてやられたりしたから、強さってなんだろうってつくづく思ったんだよなぁ。
結局、常にその場の状況、一定の条件下での自分と相手の比較しかできないんじゃないかな。
だからこそ試合にはルールがあるんだと思う。
もし裕奈さんのバスケ部で浮遊術使って良かったらいくらでも点数なんて取れるだろうし。
でも、それがどういう条件であれ戦わない訳にはいかない状態ならそれはそれで頑張るしか無いのも事実だけど。

「あー、分かった分かった。とりあえず、お前らは俺よりまだ全然弱い、ただそれだけだ!これから修行つけてやるからな!」

「はいっ!」

「おうっ!」

というやりとりがあって10日が経過してるんだけど楓さんもいるし確かに少しは強くなったには強くなったと思うんだけど、あまりにも次元が違う気がする……。
父さんって今の僕より少し上の年齢ぐらいに前大戦で活躍したらしいんだけど、まほら武道会で父さんと試合した時はやっぱり稽古つけてくれてたんだなって思う。
このラカンさんと引き分けたりするぐらい強かったって一体どうなってるんだろう……。
単純に一発の攻撃力が防御力を上回ってたって事なんだろうけど、確かに父さんは常に魔力の塊を身体に纏ってる感じだったから、その点ラカンさんが使ってるのは気だけど、よく似てると思う。
当面の目標としてはアスナさんをフェイト・アーウェルンクスが狙ってきても撃退できるぐらいには強くなりたいから、ラカンさんにもしかして知ってるかどうか試しに聞いてみたんだ。

「ラカンさん、フェイト・アーウェルンクスという白髪の少年を知っていますか?」

「!?……アーウェルンクス……そりゃまた懐かしい名前だな……」

「知ってるんですか?」

「まぁ……な」

何だか因縁があるみたいな感じだけど……。

「聞きたかったら100万」

やっぱりかー……。

「いえ……じゃあ、僕の話を聞くだけ聞いてください」

「あ?なんだ?別に構わねぇが」

「はい。僕が今まで得た情報を上げるとアスナさんの魔法無効化能力、そしてその為にフェイト・アーウェルンクスに修学旅行でアスナさんは攫われそうになった事、前大戦で起きた広域魔力消失現象、フェイト・アーウェルンクスがやったと思われるゲートポート11箇所の破壊、残っているゲートがあるとしたらそれはその現象があった廃都オスティア、そして旧世界の火星の地形が魔法世界によく似ていること、魔法世界から旧世界への魔力の流出、最悪魔法世界の崩壊が起こる可能性があると言った感じなんですが、これらは全て関係があるような気がしてならないんです」

一つずつあげていくうちにどんどんラカンさんの表情が変化していくんだけど……。

「…………おい、ぼーず。特にその最後の方のは誰から聞いた。まさかアルのヤローか?」

ラカンさんが凄く真剣になった……。
しかもクウネルさん?
まさか紅き翼の人達は皆魔法世界が崩壊するかもしれない事を知っていた……?
という事は父さんも……失踪……マスターが言っていた「行方不明になるという事は何らかの情報を掴んだが、結果それは相当マズイものだった」っていうのも何か関係があるかもしれない……。

「いえ……僕が自分でそういう仮説を考えただけです」

「おいおい……マジか。チッ……失言だったな……。しかしナギの息子にしちゃ頭が周りすぎだろ。正直俺は、お前は何も知らずにそのまま麻帆良に帰ればいいと思ったんだがな……」

「え……」

「それでお前はどうしたいんだ、ぼーず」

「僕は……アスナさんがフェイト・アーウェルンクスから狙われても撃退できるぐらいにはせめて強くなりたいです。それにアスナさんと関係していそうなこの世界の謎を知りたいですし、帰還ルートとして廃都オスティアのゲートが残っているのかの確認をしたいです」

「そうか……まあ俺がここでできるのは一つ目の手伝いと少し話をするぐらいか。その前に俺からも一つ聞くが、こっちに来たのもついこないだのお前がどうして魔法世界から旧世界への魔力の流出なんてのが分かる?」

「それはアリアドネーの総長さんにも説明したんですけど……ラカンさんにも説明しますね」

「っておい、アリアドネーの総長ってセラスか?」

「はい、そうですけど」

そういえばその辺の話はラカンさんにはまだしてなかったな……。
テオ様にも論文を探してるぐらいの話はしてたけど……。

「ぼーず、お前賞金首になった割にピンポイントに人脈は広げてんだな」

「えっと……運が良かっただけです」

「大方嵌めようとしたフェイト・アーウェルンクスも予想外だろうぜ、良い気味だ。……話逸らしちまったな、セラスにもした説明ってのをしてみろ」

「はい、まず魔法世界と旧世界では魔力の色が……」

一応魔法領域を展開してセラス総長にした説明と同じことをした。

「そんなの聞いたこともねー。魔力にそんな決まった色なんてあったか?そのエヴァンジェリンから教わったっていうお馴染みの魔法領域とやらも俺があいつに会った時一度も見たこと無いぞ」

「マスターも最近習得したらしいです」

「ふーん。……いつあいつがそんなもんを習得したのかが臭うんだが……絶対何か隠してるな」

「僕もそれは思います。マスターは何か知ってそうでした」

「はー、もう真面目に麻帆良戻って聞いた方が早いんじゃね?」

「そうは言っても廃都オスティアでは……一応タカミチが明後日メガロメセンブリアからオスティアに飛ぶって言ってましたけど……」

「って事はだ。タカミチにもその話はしたのか?」

「は……はい、一応」

「そうか、そういやタカミチは知らなかったんだっけか……。ならタカミチが行くところは一つだろうな」

タカミチが知らなかったって事は紅き翼の全員が知ってた訳じゃないんだ……。

「その行くところっていうのは……?」

「元・紅き翼の仲間の所だ。今はひねくれてやがるだろうけどな。そいつはオスティアの総督なんてクソ面倒なもんをやってる」

元……?

「オスティアの総督!?」

「まー、多分アイツは立場的に大体もう知ってるんじゃねぇか?後はタカミチの手腕に期待ってとこだな」

タカミチがはっきりオスティアの何処に行くって言ってなかったのはそのオスティア総督と個人的に何か話をしに行くからなのかな。

「で、ぼーずは油売ってねぇで修行だ。ぶっちゃけアーウェルンクスはナギが苦戦するような相手だ。その修学旅行で狙われたってんなら今後十中八九絡んでくる可能性が高い。お前はアスナを守るんだろ?なら今は修行に専念しろ」

父さんが苦戦!?

「アーウェルンクスって父さんが苦戦するような相手だったんですか……」

「まー俺が奴とやったら俺が勝つけどな。要するにだ、アーウェルンクスはナギが苦戦する強さ、そのナギと俺は互角、つまりぼーずが俺に絶対勝てねぇなんて言ってるようじゃアスナを守れやしないって事だな」

アスナさんを守れない……。

「……分かりました。ラカンさん、修行をお願いします」

「へっ、ガキの癖にちったあ良い顔するじゃねぇか。よーし、あっちで楓嬢ちゃんとやってるコタロも混ぜてやるぞ。咸卦法が使えてる時点で出力はぼーずよりもコタロの方が上だぜ?頑張れよ」

「はいっ!!!お願いします!!」

……この日の修行を終えてラカンさんが少し話をしてくれた。
タカミチから聞けばアスナさんの事はわかるって言われたんだけど、旧ウェスペルタティア王国の王族の血筋には代々不思議な力を持つ特別な子供が生まれてきたらしい。
この世界が始まったのと同じ力でこの世界に息づく魔法の力を終わらせていくという神代の力。
黄昏の姫御子、完全魔法無効化能力者……。
伝説上の話みたいだけど、ここまでの情報から言ってアスナさんは間違いなく黄昏の姫御子……フェイト・アーウェルンクスが狙うのはそれが理由だと思う。
それでアスナさんが最近変な夢や幻覚を見ていないかどうかそれとなく聞いてもしそうだったらこの薬を飲ませろってラカンさんに渡されたんだけど……もしそうだとしたら飲ませるべきなんだろうか……。
多分変な夢って事は記憶封印系の薬の気がするんだけど。
先にタカミチにも聞いてみようかな……まほら武道会の時タカミチは、アスナさんに「アスナ君には……そろそろ教えてもいいのかな」って言ってたし。
それにアスナさん自身の意思も聞いたほうが良いと思う。
記憶としては何か辛い思い出なのかもしれないけど今のアスナさんならきっと乗り越えられると僕は信じてるから。

……それに引き換えアーニャとテオ様は何か隠しているような気がするんだよなぁ……。
最初に会った時すぐ闘技場に向かってドタバタしてたけど先月からアーニャはテオ様の所にいたんだから色々父さんの話を詳しく聞いていそうなんだけど……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月14日、14時頃、メガロメセンブリア発オスティア行き飛空艇内―

高畑・T・タカミチと龍宮真名はメガロメセンブリアでのゲートポートの調査、論文の調査を打ち切り、オスティアへ向かう飛空艇に乗っていた。

《おはよう、タカミチ。少し話したいことがあるんだけど良い?》

《おおっ、ネギ君そっちは丁度朝かな。おはよう。話したいことっていうのは何だい?》

《アスナさんの事なんだけど……》

《アスナ君か……》

《ラカンさんから少し聞いたんだ。でも今はラカンさんから渡された、アスナさんがここ最近見てるかもしれない夢や幻覚を抑える薬を、もしそれが本当だったら飲ませるべきかっていう事なんだけど……僕はこの薬は多分思い出しそうな記憶を再封印するタイプの物だと思ってる。僕がこう思っているのに何も考えずにアスナさんに飲ませる事はできない。タカミチは前にまほら武道会の時にアスナさんにそろそろ話してもいいかなって言ってたでしょ。それで気になったからタカミチに聞いておこうと思って》

《そうか……ネギ君はその薬が何か殆ど分かっているんだね。その予想で正しいよ。それでネギ君はアスナ君に状態を聞いてもしそうだったらアスナ君自身の意思を確かめるつもりかい?》

《そうしようと思ってるよ。僕には……アスナさんの過去にどんなことがあったかはアスナさんじゃないからわからない……けど、過去に何かがあったとしても今のアスナさんなら乗り越えられると信じてる。何かあっても大丈夫!ってアスナさんなら絶対言うと思うんだ》

《大丈夫……か……。そうだね、アスナ君ならそう言うかもしれないな。その薬をどうするかはネギ君が決めればいいよ。ネギ君、アスナ君の詳しい事を話すのはアスナ君も含めて直接会ってからでいいかな?》

《分かったよ、タカミチ。アスナさんにもし症状があるようだったらそのままでいるかどうか聞いてみるね》

《ああ、それでいいよ》

《うん。じゃあまた連絡するね》

「フ……。ネギ君には……驚かされるな……」

飛空艇の船室の椅子の背もたれに身体を預けて呟く。

「どうしたんだ高畑先生?ネギ先生から通信か?」

「ああ、そうだよ」

「そうか……ネギ先生に何か驚かさせられる事でもまたあったようだな」

「全くだ……。本来僕がやるべき役目すらやっているよ……」

「これから高畑先生も誰かに個人的に会いに行くんだろう?」

「それぐらいは……やらないとね。大人として少しは力にならないと示しがつかないさ」

「良いところを見せてくれる事を期待しているよ」

「ああ、もちろん。教え子の前だしね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月14日、7時頃、ヘラス帝国首都ヘラス城内某所―

タカミチは絶対飲ませないとダメって言わなかったし多分飲ませる必要はないと思う。
ラカンさんは飲ませるべきだって言ってたけど……。

「アスナさん、最近何か変な事ないですか?変な夢を見たりとか変な幻覚が見えたりとか……」

「へ?な、何の話?」

「いえ……そういう事が無ければ良いんですが……」

「あ……あるわよ、あるある!渋いオジサマとかクウネルさん達とかが周りにいたりして結構チヤホヤされたりする変な夢で……。あれ?……私もしかして欲求不満……そんなまさか……」

どういう記憶処理の魔法だったんだろう……。
魔法世界に来ると思い出すようになってたのかな……。

「やっぱり……そうですか」

「やっぱりって何よ、ネギ」

「僕にも……詳しいことはわかりません。アスナさん、その夢は恐らくアスナさんに実際あった過去の出来事です」

「私の……過去?」

「はい……そのまま放っておけばいつか思い出すかもしれません。それで、ここにその夢を見なくする薬があるんですが……アスナさん、飲みますか?」

「え?……そんな事いきなり言われても……うーん……そうね……私が夕映ちゃんみたいに記憶喪失だっていうならそれは思い出した方がいいに決まってるじゃない!変な夢だけど」

「……分かりました。この薬は無かった事にしておきますね」

「ネギ、その前にその薬一体誰から貰ったのよ」

「ラカンさんです」

「あの変態から!?絶対ダメよ!そんなの飲んじゃ!きっと惚れ薬に決まってるわ!あのおっさん私に会った瞬間胸触ってくるような変態なのよ!」

あーそうか……確かにそんな反応しても仕方ないか……。

「あはは……そうですねー。捨てておきます」

「全くもう!ネギを使ってそんな変なもの飲ませようとするなんて!」

「ラカンさんにはこの事言わないで貰えますか?」

「この事って薬飲まなかった事?」

「……はい。きっとラカンさんとしては飲んで欲しい理由があるんだと思うんです。アスナさんが今言ったようなそういうのとは全く関係なく真面目な意味で」

「うん……別にいいわよ。飲まなかった事わざわざ言ったりしないわ」

「はい。最後に確認ですが、アスナさん……もし思い出した記憶が、いっその事思いださなかった方が良かったものだったとしても大丈夫ですか?」

「何言ってるのよ、そもそもどんな記憶なのかもわからないのにそんな事心配してどうするのよ。嫌な記憶や思い出なんて今の私にだってたくさんあるわよ。今更1つや2つ増えた所でどうってことないわ。大丈夫よ!」

「……アスナさんならそう言うと思いました。大丈夫ですよね。タカミチがオスティアで直接話したい事があるって言ってました。今僕も良くわかってませんがそれまで待ちましょう」

「高畑先生がオスティアで?……うん、いいわよ。皆でどうせお祭りに行くんだし。私は賞金首のままだけど」

「僕もですよ」

のどかさんは明後日にはアリアドネーに着くからドネットさんがセラス総長とまた手配してくれる事になってる。

「そ……そうだったわね。知ってる?美空ちゃんに言われたんだけど私日本円で240万なのよ!?」

「僕は4800万ですよ……」

「う……高いわね……。ネギ、いい?絶対人前であの変装は解いちゃだめよ」

「分かってます。任せてください」

「よろしい!」

やっぱりアスナさんは思った通りだったな。
あんまり考えてないだけかもしれないけど……。
僕も今日と明日の試合が順調に行けば、明後日1勝だけすればそれでナギ・スプリングフィールド杯出場権が確定するから、頑張ろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月15日、12時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校、廊下―

ネギ君とコタロ君結局未だに一度も負けてないし、それどころかこの数日で何か更に強くなってるし凄い凄い!
明日にはナギ・スプリングフィールド杯の出場権が確定するよ!
3-Cは全員ネギ君があの見学に来たネギ君って分かってたし、そうでなくても人気絶大だったから10日にファンクラブ加入の為の魔法郵便を拳闘協会に送る時女子寮は戦場だったよ……。
私も頑張って送った……でも1桁はどう考えても無理な気がする……。
それ以外だと魔法の実技では皆して魔法の射手のコントロールを真剣にやり始めるようになっちゃったし、完璧にネギ君の影響受けてるねぇ。
放課後にはネギ君の中国拳法の師匠さんの古菲さんが来て教えてくれたりするしアリアドネー魔法騎士団候補学校も少し変わったような。
そんな中……私達寮生が遠い外国のお祭りに行くなんて無理だなぁって思ってたんだけど掲示板にどうも人が集まってるなって気になってみてみたら……。

[オスティア記念式典における栄えある警備任務を諸君らの中から募集する。人数の上限は6名まで。志願者多数の場合は今週末選抜試験を実施する]

ええええ!?
こんなおあつらえ向きな企画が!
一個分隊の人数かな?

「ユエ!コノカ!何か都合良いね!」

「はいです……」

「はーオスティアに行けるんやねぇ」

でもこの2人は……これに志願しなくてもオスティアに多分行くんだよねぇ。
選抜種目はペアでの箒ラリー……一緒に出てくれる人……。

「コレット、一緒に志願するですよ」

「え?ユエ?でもでもっ!」

「コレットにはお世話になっているです。それに一緒に行けた方が良いですよ」

「ユエ……。う、うん、ありがとう!」

「夕映、コレット、頑張りや!」

「おや、ユエさんとコレットさんも出るのですか?」

「委員長!?って事は委員長も?」

「もちろんです。まあ枠が6人分あるのですから私とビーは余裕ですわ」

「お嬢様、油断は厳禁ですよ」

「わ、分かっていますわ」

「た……確かに、委員長達の実力なら余裕そうだぁ……」

で、でもまだ4枠残ってるっ!

「選抜種目は2名のペアでの箒100kmラリーなんやね」

「魔法による妨害自由、但し直接攻撃は厳禁……ですか」

「うーん、基本的に武装解除の撃ち合いになるねぇ。正直凄惨な脱がし合いになりそうだけど!女子校なのを良い事に!」

「何を元気に言っているですか。コレット、これまで通り特訓ですよ!」

「ユエ!うん、頑張ろう!」

「はい!」

私はこの日から時間はもう今日を含めて4日しかないけど箒の飛行訓練と武装解除、障壁の使い方をユエと一緒に頑張ることにした。
実際志願者はすぐたくさん出てきたから放課後は練習する生徒達でいっぱいだったよ。
でも、なんとかして絶対オスティア行きを手にしてみせるよっ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月16日、13時頃、アリアドネー国際空港―

予想通りっていうかネギ君と小太郎君はさっき午前中最後の1勝を軽く決めてナギ・スプリングフィールド杯予選出場権を獲得したスよ。
何より凄いのが25試合全戦全勝っていう快挙だな。
ま、これで試合も終わりかっていうとこの後も協会からの要望であと何日かは試合するみたいだけど。
……それにしてもラカンさんに修行付けてもらったからなのか、この数日でまた変に強くなってたのには驚いたけど、完璧に発揮してはいなかった感じスね。
実際全力出すほど相手が強くない……いや、ネギ君達がおかしいだけか。
どーせまた常識のラインが異常に高くなってるんだろうなー。
アスナの変態観察記録によるとラカンさんはその場の思いつきの技が酷過ぎるそうで、ラカン適当に右パンチ!とか適当のくせに超巨大クレーターレベルの拳の跡が砂浜に残るとかなんとか……。
ネギ君の新たな必殺技に、ってこれまたてきとーに全身を光らせるエターナルネギフィーバー!ってのはただの超高性能爆弾みたいな感じだったらしい。
……くーちゃんはそんなバグってる人に修行つけてもらってるネギ君達の試合を見て「私もこうしてはいられないアル!」って修行に励んでたのは……いい事なんだろー……なぁ?
かと思えば毎日早朝どっか行ってた桜咲さんと葛葉先生は昨日何故か魔獣の森に入ってちょっくら竜種薙ぎ払ってきたらしいし。
マジ意味わかんねー!!
何そのデケェ角?持って帰ってきてどうすんの?って感じだった。
実際討伐証明に必要なんだろうけど。
……まあアリアドネーでも毎年この時期定期魔獣討伐の為の部隊が結成されるらしく、桜咲さんもなんたら剣弐の太刀とかいう技を実戦で使用してみたかったから丁度良かったって事らしい……マジ神鳴流パネェわ。
下位種だから楽だったって話だけどそういう話じゃねースよ。
本気だしたら森なんてあっという間に焦土にできそうな人達だから分からなくも無いけどさ。
なんていうか結婚できるんスかね……怖くてやだろ、旦那さん。
そりゃあまほら武道会でゾロゾロいた蓑笠集団の人達含めて全員美人だったけど。
このかのお父さんドン引きだったし……。
……にしてもこんな万国びっくり人間達に囲まれてても一般人の感覚を失わない私って意外と頑張ってると思う……いや……特に頑張ってないけどさ……。

と、ぼーっと考え事してたら、丁度のどかとクレイグさん達が乗ってる飛空艇がアリアドネー国際空港に着いたみたい。
桜咲さん達ものどかに直接会うのは丁度1ヶ月振りだろな。
まさか顔が骨格から変わってるって事は無いだろうけど雰囲気は本好きから冒険者の様になってるのかね。
乗客もどんどん降りてきてるからそろそろ来るだろ……って出てきた。
ドネットさんが手を軽く上げてこっちをアピールしたからすぐ気づいてやってきた。
すげーマジもんの冒険者って感じ。
拳闘士の試合とかでも見た事あるけどホントRPG的格好そのものだな。

「ドネットです。皆さん、遠いところわざわざのどかさんとここまで一緒に来てくれてありがとう。感謝するわ」

「クレイグだ。礼には及ばねぇさ。俺達もオスティアの祭りには丁度行きたかったしな。それよりほら、ノドカ嬢ちゃん、皆に挨拶すんだろ?」

「は、はい!皆さん、お久しぶりです!今まで心配かけてごめんなさいっ」

おお、何か本屋というにはアウトドア派な雰囲気があってこれだともうあのネーミングも終わりだなー。
格好は本の中のキャラクターみたいな感じになってるけど。

「元気そうで良かったわ、のどかさん」

「のどか、おかえりー」

あ、おかえりは何か違うか。

「のどかさん、ご無事で何よりです」

「のどか、久しぶりアル!」

そんなこんなクレイグさん達とも挨拶兼自己紹介をしつつ、空港で長話ってのもアレだし、ホテルに一旦戻った。
のどかは着いて早々ドネットさんとまたアリアドネー魔法騎士団候補学校に向ったから適当に手続きして、ネギ君を除けば最後の賞金首からの削除するんだろうな。
んでクレイグさん達はどうなったかっつーと、空港には来ずにホテルで待機していた葛葉先生が部屋を既に取ってて、その部屋の鍵を渡すのと一緒に色々堅い挨拶してた。
高音さんが一緒だと更に堅さが上がるスねぇ……。
そのまま私達が滞在してる一番広い部屋にクレイグさん達を呼んで色々話したわ。

「ほんっとう、ノドカちゃんには助かったよー」

「うん、ノドカの罠発見能力は一級品よ」

「あの年で大したもんだ」

「……普通どんな罠があるんスか?」

「そうね、落とし穴とか天井が落ちてくる罠とか巨大な鉄球が転がってくる罠とか入ったら閉じ込められてしまう罠とか一杯よ!」

はっはー!正直そんなベタな罠冗談にしか聞こえないけど多分マジだから洒落にならねー!!
それを回避できるのどかもどうかしてるけどさ!
つーか昔そんな訳分からん遺跡作った人達って頭おかしーだろー!

「命がけッスねー……」

「いざとなったら無理やり破壊したりするんだけどねぇー。そういうミソラちゃんも南極に行ってきたんでしょ?」

クリスティンさんって軽いテンションだなー。

「あー、まあそうスね。高い魔法具使ってたんで全く寒くなかったスけど」

「そうだとしてもノドカの周りの人達は皆凄いわよー。例のネギ君とコタロ君の試合私達も見たけどあれで10歳なんでしょ?」

「ああ、あれには驚いたぜ……。信じられない子供だな全く」

いや、私もお前達のような子供がいるか!って感じスよ。

「旧世界ってそんな凄い人達ばっかりなのかと思っちゃったよー」

「ネギ先生と小太郎君は成長速度が少し異常ですから……」

桜咲さんに言われてもなー!

「刹那ちゃんも凄く強い剣士なんでしょ?」

「いえ……私はまだまだで……」

そんな桜咲さんは昨日竜種を捌いて来たけどねー。
この場では言わなかったけど後でこっそりクレイグさん達にこの事言ったら超驚いてた。
呆れた顔が拝めたスよ。
ちょい自信失いそうだったから悪いことしたなって反省。
遺跡って潜ればそんな簡単に財宝とか眠ってんのかとか聞いてみたら普通に埋まってるらしいね。
実際金品ゲットしまくったんだと。
こっちじゃ遺跡は潜って探索するもんだけど地球じゃ遺跡なんて文化遺産で保護する対象なんだからマジ文化違いすぎるな。
古墳にふざけた罠とか滅多に無いし保護しやすいってのもあるんだろうけど。
クレイグさん達のこれからの宿泊費やらオスティアまでの旅費は完全に麻帆良で……というか高畑先生が持つことになってて、その話を葛葉先生がしたらクレイグさん達は「そこまでしなくて良い」って言ったけど葛葉先生の堅さの前には無駄だった。
のどかの面倒をここまで無事に見てくれてたんだから当然っちゃ当然スね。
その後も色々話して、ネギ君達の所にラカンさんがいるだとか話したら「あの伝説のラカンさんがっ!?」ってマジ驚いてた。
魔法世界だとそういう認識なんスねー。
高音さんと愛衣ちゃんもラカンさんがネギ君達の所にいるのを知った時似たような反応だったから無理もないけど。
のどかがホテルに帰ってきてみれば、このかとゆえ吉に会ってきたみたいで図書館探険部3人がようやく集合だね。
唯一残ってた仮契約カードものどかの手元に戻ってアデアット披露してくれた……んだけど。
突然慌ててなんか本をパタンと閉じたー!
……のどかによると鬼神の童謡と読み上げ耳っていう魔法具、それにアーティファクトのいどのえにっきを組み合わせてみた……っていどのえにっきってなーに?って私が思ったら高音さんと愛衣ちゃんは知ってたみたいでマジ驚いてた。
相手の心を読める凄く珍しいアーティファクトなんだとさ。
なーんかもう小太郎君ので諦めてるけどネギ君と仮契約すると異様な性能のアーティファクト出すぎだろー。
3-Aだったら……特にハルナとか朝倉が知ったら絶対ネギ君に飛びかかる、間違いない。
今までバレなくて良かったスね、ネギ君。

今後の予定はゆえ吉の学校でオスティア記念式典の警備任務のために100kmの箒競争するイベント……あの学校の制服で街中飛ぶとか羞恥心何処かに吹き飛んでるな……うん。
武装解除使うらしいし。
というか武装解除って実際たつみーに使ったらどうなるんだろーな。
ホルスターにしっかり固定されてたら拳銃吹き飛ばず服だけ吹き飛んで武装解除にならないと思うんスけど……。
絶対武装解除の魔法開発したの男だと思う……それを常識にしたのも然りって感じだなーきっと……。

ま、何にしても最大のイベントはそのオスティア終戦記念祭に皆で行く事スよ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月18日、18時頃、オスティア総督府総督執務室―

高畑・T・タカミチは新オスティアに龍宮真名と共に9月17日に到着し、ホテルの確保などを迅速に行った後、高畑にとっては旧知の間柄、メガロメセンブリア元老院議員であり、現オスティア総督でもあるクルト・ゲーデルとの面会の為のアポイントメントを取ったのだった。
これは危険性を伴う行動ではあるが、高畑はネギ・スプリングフィールドの名前をまだ出してはいないし、ある意味現状で色々鍵を握っているとしたらそれはやはりクルト・ゲーデルしかいないのだ。
そしてオスティア記念式典も近いにも関わらずたった一日で折り返し連絡をよこして来た事に高畑は

「クルトの策士としての能力には気を付けないとな……」

と呟いたのだった。
そして場所はオスティア総督府総督執務室である。

「久しぶりだな。クルト」

高畑はポケットに手を入れたまま総督執務机に座っているクルトに声をかけた。

「久しぶりですね。突然どうしたのです?タカミチ、珍しいではありませんか」

クルトは仰々しく席から立ち上がり挨拶を返す。

「……要件は大体お前ならもう分かっているんじゃないのか?」

「それはそれは買いかぶりすぎですよ。なんの事やら」

クルトはわざとらしく肩を竦め両手を上げて答える。

「まあ……そういう反応をするだろうな。クルトの話術に嵌められるのは困るが……それをいちいち気をつけるのも面倒だ。はっきり言おう」

「ほう、それは助かります。私も忙しい身なので」

「クルト、ゲートポート破壊容疑で指名手配をかけられている赤毛の少年と7人の少女達が麻帆良学園の出身だと分かっているな?」

「分かっていたとしてどうだというのですか?私だけの意見で指名手配をかけたられはしませんよ」

「それぐらい分かっているさ。……分かっているものとして話を続ける。重要なのはその赤毛の少年が、英雄ナギ・スプリングフィールドとウェスペルタティア王国最後の皇女、アリカ・アナルキア・エンテオフュシアとの間にできた子供、ネギ・スプリングフィールドである事についてだ」

「おお、そうだったのですか?それは知らなかった」

「ああ、そうか。彼がゲートポート破壊の偽造映像を残され犯人に仕立て上げられたのはフェイト・アーウェルンクスの仕業だが、実際に指名手配にしたのはメガロメセンブリア元老院だというのは調べがついている。一つ目の話だが、オスティア記念式典での総督としての権限を行使してネギ・スプリングフィールドと7人の少女達の指名手配を解除して欲しい」

「くっはっはっは!私はあれが偽造だなどという証拠は全く知りませんよ。しかし……タカミチ、お前が来るとはな」

「返答はまだいい。まだ続きがある」

「ええ、どうぞ」

「ネギ・スプリングフィールドは、魔法世界の崩壊の可能性について気がついているぞ」

「!?何だとっ!?この事はメガロメセンブリアでも上層部の中の一部しか知らない……。タカミチ、お前も知らない筈だっ!何故!……まさかアルビレオ・イマがっ……」

ここでクルト・ゲーデルは突然取り乱した反応を顕にした。

「違う……。彼は独力で気がついた。それも全く驚きの方法でな。しかしやはりお前は知っていたんだな……。彼がオスティア終戦記念祭、それもナギ・スプリングフィールド杯に出場をすることはお前なら既に知っているだろう。俺が来たと言うからにはクルト、お前は彼に接触する気があったに違いない」

「フフフ……まさかタカミチ、貴様がわざわざそんな情報を持って出張ってくるとはな」

「教え子の前で少しは良いところを見せないといけないからな。……大方終戦記念祭の最後にでも彼を招待して、メガロメセンブリア元老院の事を教え唆し、仲間という名の傀儡として引き入れ利用しようと思ったんだろう?指名手配されている少女達を交渉材料にしてでも」

「久しぶりに会ったと思えば……随分抜け抜けとそんな根も葉もない勝手な事を言いますね」

「顔に出ているぞクルト」

「ッ!」

「らしくないじゃないか。冗談だ」

「ぐっ……お前に一本とられるとは私も動揺しているようだな……」

「クルト、お前がネギ・スプリングフィールドに今執着するのはタイミングが違う。それよりも廃都オスティアの休止しているゲートポートの確認をするべきだ。フェイト・アーウェルンクスは近いうち……例えばそのオスティア記念式典で各国勢力が集まる事で警備が薄くなる時を狙ってくるかもしれない」

「馬鹿な!?あそこには並の者では入り込めるわけが」

「並の者ではないからゲートポートを全部破壊できたんだろっ!!……お前がオスティア総督としてここの警備の力を充分理解しているだろうが、だからこそ過信するな」

「…………何もオスティアの事を知らないお前に何が分かるッ!!」

「分かるわけがないだろう!!だから確かめに行く!」

「はっ!くはははは!!貴様が確かめに行くだと!?流石は悠久の風の高畑・T・タカミチだなぁ!ふざけるなよっ!!」

「どっちがッ!!」

執務机が吹き飛びクルトと高畑は突如として殴り合いを始め

「私がッ!がぁっ!……どんな思いでッ!」

「ぐぁっ!……それがお前の選んだッ!」

双方会話をしながら強烈なストレートを繰り出し

「やってきたとッ!」

「道だろうッ!!」

……数分間に渡り得意の居合い拳を使うでもなく、神鳴流の剣を振るうでもなく、ただただ殴り合い、そこにあるのは大の大人の喧嘩、それだけだった。
そしてようやく頭に上った血がお互い下がって息が整うまで睨み合いが続いたところ

「クルト様!?一体何事ですか!高畑・T・タカミチ!一体何をッ!」

殴り合いの事態を聞きつけた部下が駆けつけてきたのだった。

「何でも無い!下がっていなさい!誰も入れるな!」

「!?はっ!分かりました!」

クルトが檄を飛ばし、直ちに入ってきた部下は退出し扉を閉めた。

「はぁ……はぁ…………いいだろう。タカミチ、要求はそれで終わりか?」

「はぁ……はぁ……いや、最後にもう一つ、人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の原本だ。これは……ネギ・スプリングフィールドから頼まれている資料でね……」

「ほう?……独力で……気がついたにしては順番がおかしいようですが……よく原本がある等と思いましたね。確かに現存するものに違和感を感じてもおかしくはありませんが……どこを探しても見つからない筈ですから」

「やはり……あったか……」

「フッ……なるほどなるほど、オスティア記念式典中の総督権限での彼等の指名手配の解除、廃都オスティアへの探索許可証の発行、人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の原本。確かに私でなければどれも不可能でしょうね。但し、私からも条件があります」

「何だ?」

「直接ネギ・スプリングフィールドに私も会わせて貰いましょう」

「その交渉は本人にするといいさ」

「はっ!どうやって!?」

「これだ」

そう言って取り出しで見せたのは超鈴音が作り出した端末である。

「何?そんなものでヘラス帝国と直接通信ができるとでも?」

「ああ、できる。試したほうが早い」

高畑は端末を起動させ、ネギ・スプリングフィールドとの個別通信を開始する。

「クルト、これに手を置け。通信方法は念話と似たようなものだ」

「いいでしょう」

《ネギ君、紹介したい人物がいる。オスティア総督クルト・ゲーデルだ》

《タカミチ?ラカンさんが言ってた通りオスティアの総督さんと会ってたんだね》

「まさか……本当に繋がっているだと……」

《これは失礼……初めまして、オスティア総督クルト・ゲーデルです。ネギ・スプリングフィールド君こんばんは、いえ、ヘラス帝国ならばこんにちはといった所でしょうか》

《初めまして、クルト・ゲーデル総督。ネギ・スプリングフィールドです》

《細かい話をしたい所なのですが、今それは省くとしまして、ネギ君、オスティアに来て私と会っては貰えませんか?直接話したいこと、見せたい事があります》

《……はい、構いません。元々オスティアには行く予定でしたしお願いします》

《ネギ君、指名手配の件、廃都オスティアの探索許可、例の論文の原本、全て解決したよ》

《ほ、本当!?タカミチ!ありがとう!クルト総督もありがとうございます!》

《……まだ指名手配は解除できませんがね……。協力はさせてもらいます》

《ネギ君、ちょっとまだ用があるからまた後で》

《うん、分かった!》

「声を聞いただけだとただの子供といった感じでしたが……本当に気がついているのか?」

「ああ、本当だ。それに話し方は関係無いだろう」

「……それもそうですね。しかしこの端末は何だ?念話のようで念話ではない。異常すぎる」

「詳しい事は分からない。作成者はネギ君の生徒の一人だ。気になるなら旧世界に直接行くといい」

「こんな物をただの女子中学生が?」

「そういう所なんだよ。麻帆良学園はな」

「旧世界とは思えない異常さですね。なるほど、確かにそんな場所なら不思議なことがあってもおかしくはないかもしれませんね」

「クルト、さっきの約束、強制証文で契約しないと駄目なんて事はないだろうな?」

「心配ならしておきましょうか?」

「いや……いいさ。そうだ、クルト、さっき流したが、この世界は本当に人造異界なのか?」

「は?人造異界だと気づいてたのではないのですか?その論文まで読みたいというのですから」

「いや、ネギ君はこの世界が崩壊する可能性はあるとは言ったが、論文の表題が人造とついているが、魔法世界が人造だと決め付けるのは早いと言っていた。驚いた事に彼の師匠もそう言っていたらしい」

「なっ……。子供の戯言ではなくその師匠までだと?それは一体誰ですか、やはりアルビレオ・イマ?」

「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」

「不死の魔法使いだと!?ナギが倒した……はは、倒したのは嘘という事でしたか。流石はナギですね。それに人造ではないですか…………少々麻帆良学園に興味が出てきましたよ」

「クルト、それは重要な事なのか?」

「我々の間ではこの世界に住む人類・亜人間のうちメガロメセンブリア6700万人以外は全て幻想でしかないというこの厳然たる事実の前に為す術は無いという見解でしたが、それが人造でないとするとこの認識自体が根本的に間違っていると言うようなものなのですよ」

「幻想だって!?」

「この際ですから話しておきましょう。……魔法世界が崩壊すれば、仮に旧世界に脱出を図ってもメガロメセンブリア6700万人以外は結局全員消滅する運命にあるのです。これはナギやアルビレオ・イマも知っていた事です。しかしこの20年彼等は解決することはできなかったどころかナギに至っては何処かへ消えてしまった。ここで、かの不死の魔法使いの意味深な発言……重要でないと誰が言えますか」

「そんな事が……。それは重大な事だな……。いずれにせよ一度麻帆良学園に戻れば何か分かるかも知れない」

「完全なる世界の残党であるフェイト・アーウェルンクスらがゲートポートを破壊し尽くしておきながら、あの魔法災害から丁度20年経ち稼働する可能性のある廃都オスティアの休止中ゲートポートを狙わない訳が無いですね……これは私も確かに過信していたようです」

「当面の最大の敵は奴等だな」

「それは魔法世界共通です。ですがその次は……」

「それは後だ、クルト」

「分かっている。もし……この絶望的事実を覆せるというのならば……その後は必ずッ」

クルトは右手の拳をきつく握り締め何処かへの恨みを顕にした。

「クルト……」

「……フッ……それはそうと怪我は大丈夫ですか?」

「お前こそな。今日はこれで俺は一旦戻るとするよ。そうとなれば準備が必要だからな」

「私も記念式典前に仕事が増えた」

「……仮にもまだ子供の彼等に良いところを取られるのはまだ早いさ」

「当たり前だ。たかが10歳の少年に全てを任せられる筈も無い」

そのまま総督執務室を後にした高畑はホテルに戻ったが、激しく殴り合った為戻った瞬間龍宮真名に驚かれたのは余談である。
……こうして気がつけばメガロメセンブリア、アリアドネー、帝国の三大勢力がある一点に向けて動き出すこととなったのだった。



[21907] 51話 魔法世界編10
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/09 22:45
―9月19日、13時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

昨日はマジ驚いた。
高畑先生が個人的に会いに行ったのがなんとオスティア総督だっつー話だからね。
その結果ネギ君達の賞金付きの国際指名手配もオスティア記念式典中に解除できて、ネギ君が読みたがっていた論文の原本もゲット、廃都オスティア探索の許可も取れる事になったらしい。
高畑先生スゲーわ。
アスナは「流石高畑先生ね!美空ちゃんもそう思うでしょ?」って予想通りの事言ってきたから同感つっといた。
で、いつオスティアに行くのかって話になったんだけど超急ぎで明日高速艇に乗って皆で出発スよ。
思い立ったが吉日って奴だな。
流石にテオドラ皇女殿下が一緒にオスティアに行くことはなくラカンさん含むネギ君達だけが個人飛空艇で向かうらしい。
大体明日それで出れば皆9月23日には着く予定。
で、それに当たってこのかはアリアドネー魔法騎士団候補学校を休学っていう形を取って……ゆえ吉はっていうと今まさに箒ラリーに出る所。
ちゃっかり私達、また魔法騎士団候補学校に入れてもらっちゃってラリーの様子をモニターで見れるんスよ。
上位6人までって事らしいからある意味3組目と4組目のペアの凄惨な妨害バトルになること間違いなしだな。

[[それでは栄えあるオスティア記念式典警備隊選抜試験を始めます!ではまず志願者の紹介を!]]

栄えあるのかー。

[[3-C委員長エミリィ・セブンシープと書記ベアトリクス・モンロー!]]

「委員長頑張ってー!!」

エミリィ委員長人気かーってかここもトトカルチョやってんのかい!!
そりゃ頑張れって言うわな……。

[[3-F、J・フォン・カッツェとS・デュ・シャ!]]

[[3-G、マリー・ド・ノワール、ルイーズ・ド・ブラン!]]

[[3-J、メアリー・クロイス、アンナ・ヴァンアイク!]]

この後も何組も点呼が続いて……最初組順に点呼してたのかと思ったらあちこち戻ったりして10を越えた始め最後に……。

[[そして最後に3-C、ユエとコレットのチーム!]]

出てきた出てきた。
何か凄い泥だらけなんだけど今の今まで練習してたのか?

「夕映、コレット!頑張りや~!!」

「ゆえ!コレットさん!頑張ってください!」

のどかはアリアドネー来てすぐゆえ吉の勇姿を見る訳スね。
のどかに会ってもまだ記憶が戻らないあたり、やっぱ少し時間的なものかきっかけが足りないんだろうな。

「ゆえ吉!コレットさん頑張れー!」

「夕映、コレット、頑張るアルよ!」

「はいです!」

「頑張りますっ!」

[[では各選手位置についてっ!…………スタートッ!!]]

レース開始スねー。
皆一気に鳩の群れみたいに飛んでった。
何か見てるとこの前南極に本気で飛んでったの思い出すわー。
ちょっとあの時必死だったのは忘れられない思い出だなー。

[[ご存知のとおりレース中は妨害自由!10箇所のチェックポイントを通過した後、ペアでスタート地点まで帰ってゴールです!!]]

10箇所のチェックポイントがあるってことは、裏を返せばある程度ルート無視してもOKって事なんだろうけど……どうなんだかなー。
魔獣の森はやめといた方がいいだろうけど。
スタートダッシュ決めて最初の順位状況はっていうと……。

[[現在のところ1位はエミリィ&ベアトリクス組、2位フォン・カッツェ&デュ・シャ組そして3位にはコレット&ユエ組!]]

丁度3組目までに入ってるからいけ……おお、4位以下が猛烈に武装解除乱射されてる!
マジコエー!!
なんつーかとりあえずは3位VS以下全員みたいな……。
逃げるに限るだろー。
実際よくまあ箒の上に立った状態でしかも後ろ見て障壁張りながら飛べるなー。

「ゆえ、凄い……」

「夕映は記憶が飛んでしもうてから学校の勉強が好きになったんよ」

「そうなんだぁ……」

親友ののどかは何か感慨染みてるけど、のどかも短期間の冒険で雰囲気少し成長したからなぁ。

……にしても市街に男子共が大量発生してるあたり……下から覗く気か……しょうもないスねー……。
武装解除の飛ぶ方向を注視しまくってるし……。
クレイグさんとクリスティンさんは午前中この事聞いて「ちょっと散歩出てくるわー」って言った瞬間アイシャさんにモロに沈められてたからな……女性ばっかの私達の前でその発言はマジ自業自得スよ……。

ゆえ吉達は結局埒があかないから加速して一気に距離を引き離す作戦にでたわ。
武装解除喰らった所でまー我慢して飛べばいいだけっちゃ飛べばいいだけだからなー。

[[都市外壁を越えた時点で先頭はエミリィ&ベアトリクス組!]]

「流石委員長!」

「よーし絶対1位取ってよー!!」

外野は気楽スねー。
後ろの方がもつれてたもんだから1位2位3位の間がそこそこ空いてる。
まあ数十秒とかそれぐらいの差だろうけど。

[[コースはいつも通り市街を抜けた後魔獣の森を大きく周り再び市街に戻ります!]]

魔獣の森では桜咲さんが鷹竜?の下位種一体を葛葉先生とザックリやって討伐済みらしいけど、別に一体しかいないって事は無いだろうから安全性的にはどうなんだろ。
どういう竜だったのか桜咲さんがあんまり乗り気じゃなかったけど、一応説明してくれた所によると常に風の障壁があるからなんたら剣弐の太刀の使用は必須とか一体どういう事やら……。
ま、要するに障壁を無視して本体を直接切れる攻撃らしい。
ちょいマジで信じられないレベルなんスけど……。
3位のゆえ吉達も加速した効果がようやく出てきて4位以下と少しずつ差が出てきてる。
ま、これなら余裕だろー。
しばらく数分間順位変動無しかと思ってたら……。

[[おおーっと!これはマズくは無いでしょうか!?4位以降が魔獣の森のショートカットを試み始めました!!]]

「げっ!マジかー!」

「危ないえー」

魔獣に出会わなければどうということは無いとか言うのは勝手だろうけど、もし会ったらどうするかとか考えてないだろー!
そんなにオスティア行きたいんスかー!
森の中にまではサーチャーは無いからどうなってんのかサッパリわからんけど変なもんを拾わないことを祈る。
……んで、また数分経ったと思ったら

「あ、あれは!?」

「げげっ!?」

[[これは竜種っ!?なんとチェックポイントを無視して1位のエミリィ・セブンシープ組の所にショートカットを図った集団が竜を連れて乱入したー!!]]

6人ぐらい出てきたけど……後ろにやっぱり変なのいるしー!!
しかもショートカットの仕方がレースの事完全に放置な感じでエミリィ委員長の所かい!

「あれは……この前の翼竜と同種です……」

「桜咲さん、それマジすか……」

「はい……よく覚えていますので」

「せっちゃん、皆危ないえ!」

教員の先生達が一応動くみたいだけど、栄えあるのか何なのか知らんスけど、その魔法騎士団の選抜試験で堂々とショートカット働くようなモラルじゃそもそもアウトだろー!

「あ、委員長!」

おわっエミリィ委員長とベアトリクスさん勇者すぎるっ!
竜種に攻撃魔法放って挑発して逃げてきた6人先に行かせた!?
1分ぐらいで2位はもちろんゆえ吉達もそこに何も知らずに追いついちゃうんだけど……。

「すいません、あなたが桜咲さんでしょうか?」

「あ、はい、そうですが」

「申し訳ないのですが教員の箒と一緒に出て貰えないでしょうか?討伐隊を用意する準備する時間が無くて……」

「せっちゃん!」

「はい、大体わかりました!私でお役に立てるならば!」

「感謝します!」

おおー、桜咲さん行くんだ……。
今日葛葉先生は明日の旅行手配とかでドネットさん達とここにはいないからなー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月19日、14時13分頃、Silva-Monstruosa外周―

ユエと一緒に箒ラリーに出場して今3位!
この状況なら行けるよー!

「ユエ、これならいけそうだね!」

「はいです!」

……このままいけば大丈夫ーって思ってたら何あれっ!?
委員長にビーさん!?
何で竜種に追われてしかも逆走してこっちに来るの!

「コレット!1位の委員長が竜種に追いかけられている経緯はよく分かりませんが助けるですよっ!」

「う、うんっ!」

―加速!!― ―加速!!―

あっ!風の影響で体勢を崩して箒から落ちた委員長の所に竜種のブレスが飛んでく!

「あれはカマイタチブレス!!逃げて!切り刻まれるよーっ!!」

「キャ――ッ!!」

「お嬢様っ!!」

ビーさんが委員長を守る形で障壁を張って構えた……けどっ……!

「委員長っ!ベアトリクス――ッ!!」

―最大加速!!―

えっ!?

「ユエ――ッ!?」

ユエが最大加速で距離を詰めてビーさんと竜の間に入って白紙のままだった筈のネギ君との仮契約カードを盾にしてる!!

「ユエさん!?何故私達をっ!?いえ、何故あなたが竜種のブレスを防ぐ程の!?それはっ、例の仮契約カード!」

「くっ、ユっ、ユエさん駄目です!盾が持ちませんっ!」

「くぅっ!!」

凄い!防ぎ切れそうっ!
なら私は今のうちに委員長の箒を回収だよっ!

「アデアァ―――ット!!」

ユエ!防ぎきった上アデアットできた!
私も委員長の箒を確保っ!よしっ!
翼竜はブレスが防がれたからか様子見てる!

「魔法使いの従者!ユエ・アヤセ!!委員長!怪我は無いですか!?」

「は、はいっ」

「よかった。それなら行けるです!倒すですよ、この魔獣。いいですねっ!」

「な、何を言っているんですかユエさん!?私達がこんなのに勝てる訳がないでしょう!」

「そうです!下位種とは言え、あれはれっきとした竜種です!私達もショートカットして来た皆さんを逃がすので精一杯でした」

「そ、そうだよ!ユエ!委員長達助けるにしてもなんとかして逃げようよ!委員長、箒!」

「コレットさん!」

ユエがアーティファクトで何か調べてるけど……。

「この時期の鷹竜は凶暴で一度狙われたが最後、ただの箒では逃げ切れません。でも、大丈夫、この四人なら切り抜けられる筈です!今まで授業で特訓して来たですから!!」

うぅ……逃げ切れないっていうなら!

「うんっ!」「はいっ!」「分かりました!」

《また攻撃が来るです!障壁展開で散開退避!通信は念話でするです!》

《《《了解!!》》》

2人ずつに別れて翼竜に狙いを定めさせないようにして一定の距離で飛行して作戦を聞く時間を稼ぐっ。

《奴の特殊攻撃はあのカマイタチのみ。問題なのは常にその身に纏うあの風の障壁。私達程度の魔法では全てあれに弾かれるです。ですが、全方向に纏える訳ではありません。隙を突いて弱点の角に攻撃を与えることができれば一時的に気絶させられるです》

《つまり2手に別れて片方が攻撃を与え注意を逸らしている隙に接近すればいいのですね》

《そういう事です。コレット、ベアトリクスと一緒に障壁を全力展開しながら鷹竜の注意を引いて森の中に一旦入ってあの岩山を目指すです!森の中の木々が盾となるので二人ならなんとかなるです!》

《わかった!》《はいっ!お嬢様、気をつけて!》

《委員長は私と先回りして岩山に向かい氷槍弾雨を鷹竜の頭上から撃ち込むです!私がその中を縫って角に短剣を当てそこに白き雷を流し込むです!》

《分かりましたわ!》

《作戦開始です!!》

それでビーさんと一緒に翼竜に軽く魔法の射手を放って注意を引いて森の中に一旦入ったのは良いんだけど……。
わーわー!!
後ろで凄くたくさん木が吹き飛んでるよー!!

「わー!!なんとかなるって思いたいけど怖いよー!!死んじゃうぅー!!」

「うわぁぁー!!」

い……岩山まで後少し!

《準備OKです!二人とも、光を目指してまっすぐ!私が見えたら散開退避!》

《わ、わかったよ!》《はい!》

ユエが見えたっ!

「「散開退避っ!」」

よっし!

《ユエさん!行きますわよ!》

―氷槍弾雨!!―

《了解です!》

  ―フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ―

委員長が時間をかけて用意してた氷槍の雨が鷹竜の注意を作戦通り上方に逸らして、その中をユエが凄い箒捌きで接近!

 ―闇夜切り裂く 一条の光―
―我が手に宿りて 敵を喰らえ―

そのまま短剣を角に突き刺して!
強風で少し離れちゃったけどっ!

     ―白き雷!!!―

決まった!!
ユエの白き雷が鷹竜の片方の角に刺さった短剣に吸い込まれて直接ダメージ!

「うわっ!」

ユエは体勢を崩して地面に激突!
あ……翼竜の角は……折れたっ!
やったぁ!
翼竜はそのまま地面に倒れた!

「やった!やったよ!」

「いたた……復活までにそんなに時間は無いです。このタカトカゲが倒れてる隙に戻るですよ!」

「う、うん!」「ええ!」「はい!」

……もしあの時1人だけ囮になれば残りの3人は確実に逃げられたと思う。
でも、4人の力を合わせたから全員で逃げれた。
もうレースの方は駄目だろうけど、全員生きて逃げられて良かったー。

「はー、無事に逃げれたのは良かったけど、レースはもう駄目だねぇー」

「仕方ありませんわ」

「コレット、一緒にオスティアに行くと約束したのに……」

「ユエ、気にしなくていいよー。皆無事だったんだしさー」

「……はいです」

「ユエさん、コレットさん加勢して頂いたこと感謝しますわ」

「私からも感謝します。ありがとうございました」

「委員長、ベアトリクス、2人も他の皆を逃がす為に囮になったのですから気にする事はないですよ。無事で良かったです」

「そうだね」

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月19日、14時28分頃、Silva-Monstruosa―

桜咲刹那は魔法騎士団候補学校職員の箒に一緒に乗って最大加速で魔獣の森に駆けつけたが……

「え?……はい、翼竜に襲われていた生徒4人はその翼竜を一時的に撃退したですって?」

「え?」

「桜咲さん、どうやら襲われていた4人は無事だったようなのだけれど……」

「いえ……一度撃退したという事は気性が荒くなっている可能性があります。ここまで来たなら討伐します」

「本当に任せて大丈夫?無理にやらなくてもいいのよ?こちらが頼んだのだし」

「大丈夫です。任せてください」

「悪いわね……ありがとう。もう見えたわ、どうやらあの鷹竜で間違いないわね」

「はい、飛べますのでここからは私だけで行きます」

「と、飛べるの?」

「はい!神鳴流剣士、桜咲刹那、参るっ!」

桜咲刹那は烏族のハーフ、白い羽を開放して飛び上がり、角が片方折れて既に目標を失い気性が荒くなっている鷹竜に接近し

「はぁぁぁッ!!」

―斬岩剣弐の太刀!!!―

まず翼竜の羽を狙って障壁無視の物理攻撃を繰り出し斬りつける。

「グォォォ!!」

片方の羽の付け根を切り裂かれうまく飛べなくなった鷹竜だが、攻撃をしかけた桜咲刹那にカマイタチブレスを放つ。

「遅いッ!」

虚空瞬動で簡単にブレスの射程から離れそのまま翼竜の背後に周り

―斬岩剣弐の太刀!!!―

「ガァァァ!!」

もう片方の羽にも斬りつけ、続けてもう一度斬岩剣弐の太刀を飛ばせるように心を研ぎ澄ませ気を練りながら、位置を移動し再度剣を放つ。

―斬岩剣弐の太刀!!!―

続けて素早く前脚と後脚に斬りつけ動きを完全に封じた上で、一点に留まり気を自在に操る感覚を研ぎ澄ませ、次の瞬間トドメを放った。

「この竜に罪はないが……済まないな……」

しばし黙祷を捧げた桜咲刹那は翼竜の血を浴びる事なく魔法騎士団候補学校の職員の元に戻った。

「討伐……完了です」

「ほ……本当に一人で倒せてしまうのね……」

「普段から生きるのに常日頃から他の生命の命を貰っているとはいえ……直接奪うというのはやはり…………」

「申し訳ないわ……」

「いえ……私が自分で決めてやったことですから……きちんと向き合わなければなりません」

桜咲刹那がいくら魔獣討伐に行き、竜種を倒した事を周りから凄いと言われても、手放しに喜べはしないのはこう言う事である。
寧ろあまり話題に出さないで欲しいというのが本音であろう。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月19日16時頃、アリアドネー魔法騎士団候補学校―

うーん、とんだアクシデントというか、オスティアに行きたいというあまり危険を冒した数人はきつく説教をされる事になって連れてかれてったわー。
ゆえ吉達4人はうまく翼竜を気絶させて撤退することに成功してさっき戻ってきたんだけどこの4人には皆大歓声だったスよ。
4人は何で?って顔してたけどセラス総長がお出まししてその場を収集させるお言葉を述べた。
この選抜試験で選ばれたのはエミリィ委員長とベアトリクスさんを助けはしなかったものの元々2位だった2人と、翼竜を倒したゆえ吉達4人、あとショートカットを図ってない後続の人達で2位3位に入った4人に決定したわ。
6人までの筈が……10人に増えてるけど……いいのか。
それよか学校の先生と一緒に出撃していった桜咲さんは、翼竜どうしたのか知らないけどこっそり戻ってきてたな。
このかが心配そうに声かけて小さい声で二人して会話してるのが見えたけどちょい悲しそうな顔してた。
……やべースよ、この前多分私かなり空気読んでなかったなー!
竜自体が生きてる事には罪はないってのにそれを討伐した本人が超嬉しいなんて事あるわけないじゃんか……。
竜とかファンタジーって感じだけど、これ現実だからなぁ。
楓達がケルベラス大樹林の道中色々あったのは仕方ないにしてもそれとは少し状況が違うスもんねー。
謝っとくか……気にしてませんって言われそうだけど。

ゆえ吉は白紙だった仮契約カードの絵が復活して元に戻ったらしい。
記憶も少し戻ったような戻らなかったようなって感じだけどのどか達は喜んでたしもう少しで戻りそうスね。
オスティア行きはどうすんのかなーって思ったらゆえ吉はコレットさん達と一緒にアリアドネー魔法騎士団の一員として後から向かうって自分で決めたよ。
まあ端末はあるから連絡はしようと思えばできるし、指名手配が取り下げられるかもしれないとはいってもまだだからアリアドネーの庇護下にいること自体は悪くないだろうし、いいと思うスよ。
ドネットさん達も特にそれについて反対もしなかったし。
にしても1ヶ月ちょいの間に皆それぞれ新たな出会いがあったんだなーと思うと妙に感慨深い。
……さーて、私達はホテルに戻ってさっさと荷造りしないとスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月23日、14時頃、新オスティア国際空港―

タカミチから連絡を受けた次の日、すぐにオスティアへの出発の準備を始めた。
テオ様にはわざわざその為の個人飛空艇を用意して下さった事と、今までお世話になった事のお礼を言ったんだけど「妾も楽しかったのじゃ。それにオスティア記念式典でまたすぐに会えるのじゃから気にするでない。またすぐに会おうネギ」って言ってくれた。
あとダイオラマ魔法球はオスティア記念式典に合わせて持ってきてくれるって。
まだ全然ラカンさんの領域にはどう考えても届かない。
新術を運用できるレベルまでに持っていくでもしないと今の僕の基礎力じゃ到底無理だ。
タカミチからは飛空艇に乗っている途中に人造異界の崩壊・存在限界の不可避性の論文の原本を送ってもらった。
実際読んでみたら、アリアドネーでセラス総長に貰ったのより遙かに詳しく書いてあった。
人造異界の崩壊についての実験法については魔力が込められているダイオラマ魔法球を魔力の無い空間に置いて放置することで観測した結果が述べられていた。
基本的に常に魔力は多い所から少ない所へ緩やかに流れていくという現象があって、特に周りに全く魔力が無い場合それは加速度的に早くなるらしい。
その現象は基本的に両方が同じ魔力の濃度になるまで続くだろうっていう事なんだけど、両方が近づくにつれて流出は遅くなる。
でも、遅くなったとしても魔力の多いほうが形を維持できなくなれば崩壊する可能性は十分にあるっていう事だった。
実際時間設定を数倍にしてあった筈の魔法球は時間差がどんどん無くなっていったところからもこれはほぼ明らか。
崩壊について決定的だっていうのは何処の資料かはわからないけど魔法世界の魔力の濃度をある一定の場所で調べ続けたデータ……多分オスティアなんじゃないかと思うけど、それがあって本当に僅かに薄くなっているのが数値で示されている事だ。
もちろん魔法世界が人造異界である可能性についてもちゃんと書いてあった。
この論文を書いた人は旧世界の魔法使いだったんだけど、まず魔法世界と旧世界ではあまりにも魔法生物の数、魔法植物について違いがありすぎることが指摘されていた。
次に旧世界よりも魔法世界の方が狭い事からこれがダイオラマ魔法球とその外との関係によく似ている事が指摘されていた。
他にも前に僕が思った最初の魔法の起源が古代ギリシャ語とかから始まっているとか色々な根拠からそれを裏付けるような事が書いてあって、自然発生するにしても旧世界からするとあまりにも異常な事と、例の魔法世界最古の王国旧ウェスペルタティア王国の黄昏の姫御子が「この世界が始まったのと同じ力でこの世界に息づく魔法の力を終わらせていくという神代の力」を持っているという伝説に関係性があると考えれば、魔法世界は人工的に造られたと考えるのが妥当で、当然崩壊する可能性がある筈だっていう結論だった。
確かにここまで読むと人造異界だと考えたほうが妥当だとは思うんだけど、「この世界が始まった力」っていうのが完全魔法無効化能力なのだとしたらそれは変だ。
確かめる術は無いけど、魔法無効化能力で魔力に溢れる世界が作れるとは到底考えられない。
大体それで簡単に世界を始められるなら魔法世界が崩壊する事も簡単に解決できることになる。
でも、それは行われていないんだからそれはできない可能性が高い。
その方法が失われているにしても、魔力のない無の状態から魔力を生み出すのに、魔法の術式も何もある訳が無いから。
少なくともやはり魔法世界崩壊の最も根本的な原因は魔力の枯渇という事でほぼ間違いなく、魔法世界が人造異界かはともかく、これについての裏付けが取れたのは大きい。

これからタカミチと合流して、約束してた話より先にまずはクルト・ゲーデル総督と会う。
オスティア記念式典まで時間はあまり無いから廃都オスティアの探索は始めるとしたら明日すぐ早朝からオスティア記念式典開催までの6日間を予定している。
何かがそこで掴めればいいんだけど……。

「ネギ!そろそろ出るわよ!」

「そこでぼーっとしとらんで、置いていくで!」

「あ、うん!今行くよ!」

個人飛空艇発着所を後にして新オスティア国際空港の出口に向かった。
そこで待っていたのは、タカミチと龍宮さん!

「やあ、皆久しぶりだね」

「ネギ先生達、久しぶりだな」

「タカミチ、龍宮さん、お久しぶりです!」

「高畑先生、迎えに来てくれてありがとうございます!」

「たつみー姉ちゃん、高畑先生久しぶりやな!」

「真名、高畑先生、久しぶりでござる」

「よぉー!タカミチ!老けたな!あっはっは!!」

ラカンさんはやっぱりタカミチの背中バシバシ叩いてる……あれ痛いんだよなぁ。

「ジャック……ナギと第一声が同じですよ……」

うん……クウネルさんのアーティファクトでの父さんも同じこと言ってたな……。

「とりあえず、ホテルまで一旦行こう。その後すぐクルトに会うけどいいかな、ネギ君」

「うん、もちろん!」

新オスティアの地図を一旦確認してみたら、何故か浮遊島なのにナイーカ漁港っていう漁港があったりして一体何なんだろうってちょっと不思議。
凄く広い自然公園や湖があったりと自然にあふれてる。
川もあって浮遊島の端からどんどん流れ落ちてるみたいだけどどうなってるんだろう……いくらでも湧くのかな?

「わー、綺麗な所ねー」

「そうですね。発着所に着く前から景色見て驚きました」

「こんな大陸が浮いてるなんて夢みたいねー」

「地球じゃあり得ないですよね」

アスナさんがこのオスティアで何かを思い出す可能性は高い。
それと同時にここにアスナさんを連れてくる事も危険だとは思う……けど、遠いところに居てもらうより近くにいてくれた方が自分でどうにかできるから安心だし、何より近くにいなかったことで後悔しないで済む気がする。
そのかわりいつフェイト・アーウェルンクスが出てくるか分からないから気は抜けない。
最強のラカンさんがいるとは言ってもそれは同じだ。
タカミチが取っていたホテルは国際空港から丁度正反対の地域にあるリゾートホテルエリアにある所だった。
そのまま部屋に連れて行ってもらって、まずは荷物を置いて、タカミチと同じでスーツに着替えた。

「それじゃ、ネギ君、行こうか」

「うん」

「ここはリゾートホテルエリアだから人目もあまり多く無いけど、アスナ君達はあまり目立たないようにね」

「はいっ!高畑先生!」

「がっはっは、任せとけよっ!」

「ジャックには期待してないです……」

あはは……ラカンさんはそこにいるだけで目立つからなぁ……。

「ネギ、行ってらっしゃい。久しぶりにスーツ……その身体で見るのは初めてだけど……似合ってるわよ」

「はい!アスナさん、ありがとうございます。行ってきます」

タカミチに連れられてリゾートホテルエリアとピンヘ湖を挟んだ所にあるオスティア総督府にやってきた。
行くまでの道は殆どが林道で空気がおいしい。
廃都オスティアとして地に落ちてしまったけど昔はここと似たような大小100の浮遊島があったんだと思うと勿体無い気がするな……。

「……こうしてネギ君と2人でどこかに向かうのはネギ君が去年ウェールズから成田空港に来たとき以来かな」

「そうだね、思い出してみると色々あったけどあっと言う間だった気がする」

「ネギ君もこの1年……エヴァの魔法球にいただろうけど最初に会った時に比べると見違えるようだよ」

「そうかな?」

「ああ、間違いない。さあ、着いたよ」

「……お待ちしておりました。クルト・ゲーデル総督がお待ちです」

係の人に案内されて総督執務室に着いた。
そのまま扉を開けてくれたから通させてもらって……。

「ようこそ、ネギ・スプリングフィールド君。オスティア総督クルト・ゲーデルです」

「初めまして、クルト・ゲーデル総督。ネギ・スプリングフィールドです」

「クルト、何か用意でもしてくるかと思ったら無いのか?」

「ありますよ。しかし最初から起動していたら……また怪我をする事になると思いましたからね」

「それは懸命な判断だな」

タカミチが……何かいつもと違う。

「ネギ君、それでは話の前に少し昔の映像をいくつかお見せしましょう」

「昔の映像?」

「ええ、それでは御覧ください」

そう言って指を鳴らした瞬間部屋の空間全体に映像が投映された。

「こ、これはっ!」

「クルト……」

「わかりますか?6年前の冬の日の出来事です……」

そう……6年前のあの冬の日、僕がピンチになったときには父さんが助けに来てくれるって思ってたから……起きた……罰だとすら思える出来事……。
火に包まれいつもの穏やかな村の姿は一瞬にして消え去った……。

「なっ……何故こんな映像が……」

「ネギ君、何故だと思いますか……?」

修学旅行の時、スタンさんが僕の目の前で封印した筈だったヘルマン卿という悪魔が「依頼を受けた」相手というのは……やはり……。

「クルト……お前まさか……」

「総督がこの映像を持っている……つまり所属から考えてメガロメセンブリアがあの事件の元凶だったと……そういう事ですか」

「おや?10歳の少年が叫び出すでもなく泣き喚くでもなく落ち着いていますね。これは驚きです。もう少し取り乱すかと思ったのですが……」

「賞金首付きの指名手配にされた時点でその可能性は心のどこかで気づいていた事です。そして協力すると言ってくださった総督がこれを僕に見せるということは……あの事件はメガロメセンブリア元老院全体の総意だった訳では無いということですね」

「ネギ君……」

「ほう、本当に物分りが良いようで……。タカミチが私に先に会いに来たことで予定が狂いましたが……。ネギ君、復讐したいとは思いませんか?真の敵に対して!」

「クルトッ!!」

「タカミチ!!……良いよ。僕は大丈夫だから。総督、僕の故郷の村を襲わせた黒幕を教えてくれて……感謝します」

「それでは復讐を?」

「いえ……僕は黒幕を暴きたかった。真実が知りたかった。ただそれだけです。……それに今明らかになりましたが、メガロメセンブリア元老院とは人々の集合体の筈です。特定の人物に直接何かした所で何の解決にもならない。もし、復讐をしたとしても、その後には本当にただ虚しさしか残りません。結局僕の心に刻まれたこの出来事は、どうあっても無かった事になりはしない。僕にできるのはあの出来事を忘れずに向き合い、前に進む事だけです」

……6年間メルディアナのおじいちゃん達でも解除できなかった石化魔法……僕もいつかまとまった時間が取れれば自分で解除の方法を探したい……。
マスターにも言われたとおり僕には治癒魔法の適正は無いけれど……魔法の理論開発だけなら勉強すればできる筈だから……。

「そんなっ!?悔しくはないのですか!」

「それは当然悔しいです!悔しくない訳がない!できればメガロメセンブリア元老院の闇を白日の元に晒せるなら晒したいです!でも、総督はそれができなていないのでしょう!?まだ立派な魔法使いの修行中でしかない身の僕が、ましてや政治家でもないのに今はどうしようもありません!」

「ぐぅっ……君に言われる筋合いはありませんが……私にそれができなかった事は認めましょう……。しかし、それが君ならばできるかもしれないのですよ!?」

「……僕が父さんの子供だからというだけで何ができるんですか!!そんなに甘くはないでしょう!!」

「…………」

「そうですか……しかし、なるほど。タカミチ、ネギ君の母上についてはまだ誰も何も教えていなかったのですか?」

母……さん……?

「ああ……教えていない。ネギ君、悪かったね……これは紅き翼の中での取り決めだったんだ……」

「じゃ、じゃあテオ様が僕に何か隠しているようだったのは……」

「そう、僕からまだ……言わないように伝えておいたんだよ。でも……もう今のネギ君なら大丈夫だとわかった。クルト、用意はあるんだろう?」

「もちろんです。ネギ君、見ますか?あなたの両親にまつわる物語を」

「……はい。お願いします」

「……それでは、始めましょう」

そして……総督が一つの映画を見せてくれた。
父さん達紅き翼が前大戦から活躍し始め……仲間を増やし……黄昏の姫御子……これは小さいころのアスナさん?……との出会い、そして更にその中で帝国と連合、2つの巨大勢力に挟まれて翻弄され続けてきたウェスペルタティア王国の王女、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア殿下との出会い。
更なる調査を続けた先に明らかになる秘密結社、完全なる世界の存在。
奴らは連合と帝国の両方の中枢にまで入り込んでいた。
メガロメセンブリアのナンバー2、執行官までもがその手先である事が明らかになり父さん達は接触を図った。
しかし、そこで父さん達が罠に嵌めらる際に出会ったのは……あのフェイト・アーウェルンクスによく似た人物だった。
その後連合からも帝国からも追われる身となった紅き翼は辺境を転戦し、のどかさん達がトレジャーハントをしていた地域、アリカ・アナルキア・エンテオフュシア殿下が帝国の皇女と接触しに行った先で幽閉されていた夜の迷宮に救出に向かい成功。
ってこの人テオ様!?
小さい……しかもじゃじゃ馬っていうのはなんとなくわかる……今もそんな感じだけど……。
場所はタルシス山脈のオリュンポス山にある紅き翼の隠れ家……ここは……くーふぇさんが強制転移魔法で飛ばされた時に泊まった所だ。
小さいテオ様は掘立小屋って言ってるけど……結構大きいと思う……。
……ここからアリカ様は父さん達紅き翼と行動を共にし、反撃を始める。
数ヶ月に及ぶ戦いの後、舞台は世界最古の王都オスティア空中王宮最奥部、墓守り人の宮殿での最終決戦。
これが……例の最終決戦。
世界を無に帰す儀式……黄昏の姫御子……アスナさんは完全なる世界に捕まってたのか……。
帝国・連合・アリアドネー混成部隊が……あれ、この人若い時のセラス総長?……父さんにサイン貰ってる……。
父さん、クウネルさん、詠春さん、ラカンさん、あともう一人詠春さんに写真で見せてもらったことがある父さんの師匠っていうゼクトさんはフェイト・アーウェルンクス達数名の強力な相手……これは映像だけど……どれぐらい実際に近いんだろう……僕だったら相手にできるんだろうか……。
父さんは凄い……あのフェイト・アーウェルンクスを追い詰めて……造物主っていう黒幕の登場。
その一撃で強烈なダメージを父さん達は負った、けど、父さんとゼクトさんだけが造物主に立ち向かって行った……。
突然映像は父さんと造物主っていう大規模な魔方陣を展開した相手と戦って……杖を槍に変えて……凄い、その一撃で倒した。
でも、世界を無に帰す魔法の儀式は既に終わっていて発動してしまった……。
それをテオ様やアリカ様達が率いる艦隊が大規模反転封印術式を展開して封じ込めた・
その際アリカ様は凄く悔しそうな顔をして……どういう状況になっているか良く分からないけど黄昏の姫御子であるアスナさんを封印するからか……。
この辺り詳しくわからないけど……アスナさんが今こうしているって事はタカミチが何か知ってるんだろうな。
場面はすぐに……ここは今僕がいる新オスティア……父さんが「お師匠……」って呟いた所に現われたアリカ様2人の場面に移って……叩かれてるけど仲よさそう……多分この流れだとこの人が母さんなのかな……。
そうすると……僕は……父さんの息子ってだけじゃなくウェスペルタティア王国の末裔って事に……これが総督の言いたい事か……。
また場面が数時間前の父さんの最終決戦に戻って……ってこの掻き消えた人ゼクトさんに似てる……?
2600年の絶望を知れ?どういう事だ……。
もしかして造物主って父さんが完全に倒した訳じゃないのか……?
その後また場面は戻りどこかの酒場……詠春さんがゼクトさんが亡くなった事を言って……クウネルさんが父さんがそれについて言おうとしたのを遮って……。
クウネルさんはゼクトさんと最初から知り合いだったみたいだけど……一体2人は何者何だろう……。
麻帆良に戻ったら色々聞きたい。
マスターにも……。
次の場面はアリカ様の所に移って……報告に現われたのは小さい時の総督ともう一人はガトーさんっていう人……。
アスナ姫封印直後から崩壊が始まるって……とうとう前から聞いていた大小100の浮遊島が崩落を始めるのか……。
アリカ様は指揮を取って市民の避難誘導を始めた。
広域魔力消失現象のせいで、辺り一帯で魔法が使えなくなった……けどアリカ様はその中でも……無効化されない魔法が使える!?
これがウェスペルタティア王国の王家の魔力なのか……。
だとすると僕にも使える可能性があるって事になるけど……。
結局王都を中心とする直径50km圏内は高音さんが説明してくれた通り以後20年間にわたり魔法も使えない不毛の大地と化す事を代償に世界は救われた……。
犠牲者の数は人口の3%……状況的には奇跡的な数値だけど……それでも相当多いだろうな……。
その後アリカ様は汚名を着せられ、メガロメセンブリアに逮捕、裁判にかけられ即座に2年後の処刑が決定っ……。
そのまま父さん達はアリカ様を救い出す事もできずに処刑執行間近に……。
メガロメセンブリア元老院議員が、拘束されているアリカ様に黄昏の姫御子と共に封印された墓所の最奥部への至る方法を聞き出そうとして……世界を滅びから救う為……?アスナさんを救う為……?
この2年の間にメガロメセンブリア元老院は魔法世界の崩壊について気がついたという事なのか……?
だとすると……まさか……人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文を書いたのは地球の魔法使いでもありながらオスティアに関係していた人物だったのか……。
そうなら論文の不完全版だけを世に残し……オスティアの上層部に原本を残したと考えると辻褄が合う……。
オスティアがメガロメセンブリア信託統治領になったのは大戦後だから……。
父さんは刑の執行直前までアリカ様に言われた無辜の民を救えというのを実行し続けて……それが地味な活動だって言ってクルトさんが怒ってる……。
そして刑の当日、アリカ様は魔獣蠢くケルベラス渓谷の谷底に落とされる残虐な処刑法で……自分から落ちて……!!
場面は兵士として紛れ込んでたラカンさん達に移って……詠春さんやクウネルさん、ガトーさんも現われた!
ここに父さんがいないって事は落ちたアリカ様を助けたのは……!!
父さん……ちゃんと助けに来たんだね……。
魔力も気も使えない谷の中を走ってアリカ様を抱えたまま魔獣から逃げながら……谷から脱出。
父さんがそこでアリカ様に夕日を背景にプロポーズして……アリカ様もそれを受けた……。
一方処刑に来ていた軍の人達は紅き翼の皆に倒されたのか……。
ガトーさんの技ってタカミチと同じだ……。
最後にタカミチと総督が会話するシーンで終わり……か。

アリカ様…………母さんはとても強い人だった……。
皆教えてくれも良かったのに……僕は母さんが災厄の魔女と呼ばれていても気にしない……。
父さんは……ちゃんと最後に母さんを助けに来たし、やっぱり思ったとおりのヒーローだった。
その二人が結ばれて……。
……それを知れただけでも、良かった。

「いやぁ~、何度見でもこの件はいいですねぇ」

「総督……この映画は……」

「ええ、ご心配なく、この映画はほぼ事実ですよ。ナギとアリカ様、お二人のみの場面も本人達への綿密な取材のもと作りましたから」

「そうですか……」

「俺も見たことが無いシーンが入っていたな……」

「総督、僕が客観的に重要な存在だというのはよく分かりました」

「おわかり頂けたようで何よりです。大英雄の息子であり、世界最古の王国の血を引く最後の末裔の一人ですらある。その2つは対外的に見て大変な価値があります。ネギ君がその気ならば本当は是非仲間になって頂きたい所なのですが……」

旗印になれと……そういう事かな。

「しかし、私からもネギ君に聞きたい事があります。どうして魔法世界の崩壊の危機に、魔法世界に来てから1ヶ月程度のあなたが気づいたのですか?非常に興味があります」

メガロメセンブリア元老院議員でありながらこの事を聞いてくるという事は魔法世界の崩壊についてなんらかの対応をしようとしているのは間違いない。

「……分かりました。説明します。まず魔法世界と旧世界では……魔力の色に違いがあります」

「魔力の色?」

「実演するので見ていて下さい」

―魔法領域展開 出力最大!!―

「……この魔法障壁の一種ですが、本当に僅かに桃色がかっているんですが……」

―魔法領域 出力抑制―

「……これでほぼ白色に戻りました。特に色を付けるとかそういう魔法ではないのは信用してもらうしかありません」

「それが拳闘大会でよく使っている奇妙な障壁ですか……。ええ、色があるという事については分かりました」

「ネギ君、それはエヴァから教わったんだね?」

―魔法領域解除―

「うん、マスターから教わったものだよ。説明を続けると、魔力の色が、魔法世界が桃色だとすると旧世界は緑色をしているんです。この違いからウェールズのゲートからメガロメセンブリアのゲートに移動する時に魔法世界の魔力が旧世界に流出していると感じられたんです。そして、最初こちらへ来てすぐにゲートポートが11箇所破壊された事から、世界と世界の繋がりを絶てば当然魔力流出が止まる、と考えたんです。結局犯人はそれが目的ではないともう分かりましたが。あとは人造異界の存在限界・崩壊の不可避性についての論文がある事を元々知っていた事からそれらの関係性を推測してそう考えました」

「……魔力の流出を独力で感じられる……そんな例は聞いたこともありませんね……。崩壊の可能性について気づいた経緯は分かりました。なるほどなるほど、確かにこれは驚きです。しかし……魔力の枯渇という魔法世界崩壊の根本的原因、これを解決する手立ては流石のネギ君でも無いでしょう?」

何か……今のは引っ掛かるような…………何だ……。

「魔法世界崩壊の根本的原因…………」

思い出せ……思い出せ…………。
根本的……根本的……魔法世界の……根本的な問題は……解決する……?
何故だろう……誰かから最近そんな事をどこか海の上で言われたような……。

「魔法世界の根本的な問題は解決する……」

「何?」

「ね、ネギ君……?」

「つい……最近、魔法世界の根本的な問題は解決すると誰かに言われた気がするんです。唐突にこんな事を言ってすいません……」

「それが本当ならば私も是非信じてみたいものなのですがね。私の計画もそうであるならば最初から練り直さねばなりませんし。それは置いておくとして……もう一つ、魔法世界が人造ではないとネギ君は考えているそうですが、それは一体どういう事ですか?しかもあの不死の魔法使いもそのように言ったそうではありませんか」

「魔法世界が火星に位相を異にして存在する異界というのはほぼ間違いないと思います。ですが、もし人造の場合、それを仮に造る手段があったとして実行するための魔力は一体どこから来るのか?とマスターは言っていたんです。まさか何も無い所から魔力を作り出すなんて言うことが本当に可能なら別ですが……。それに今説明したとおり、魔法世界と旧世界では魔力が違うんです。だから旧世界の魔力で魔法世界を作り出すとは到底考えられません」

マスターとその話をした時確か……。

「確かに……常識的に考えてそれは尤もです。世界の始まりと終わりの魔法でこの世界は始まった……と伝説では言われていますが……」

「…………」

「それと……その話をマスターとしている時にグレート・グランド・マスターキーというこの世界の謎に関係すると思われる単語を幽霊……さんから聞いたんです」

マスターが知ってる幽霊さんって謎が多いような……。

「グレート・グランド・マスターキー……?ネギ君、それは本当にエヴァから聞いたのではないのかい?」

「うん、それは間違いない。マスターがたまに話していたんだけど、マスターより数倍長生きで、僕の色違いみたいな幽霊だって言ってた。それで……これは言わないほうがいいのかもしれないけど……その幽霊さんのお陰でマスターは真祖の吸血鬼じゃなくなったらしいんだ」

「真祖でなくなるだと!?そんな馬鹿な……」

「そ、それは本当かい?」

「本当かって言われても……タカミチはマスターのどの辺が吸血鬼に見えたの?全く闇の気配なんてしなかったでしょ?」

「ああ……僕もエヴァの魔法球でお世話になった事があるから交流はある方だしね……全く闇の気配がしなかったどころかどちらかというと光って感じだったな……。そういえば血も要求された事はなかったし……。ん……ちょっとまったネギ君、その幽霊って本当に幽霊なのかい?」

マスターが光って感じなのはタカミチも同じ意見か。

「うーん、それは分からない。普段はずっと引き篭っているって言ってたし……」

「引き篭っている…………エヴァの皮肉だとすると隠れてるって所か……。クルト、麻帆良学園創設時に現われたという伝説の翠色の精霊の話は知っているか?」

精霊?

「……私はそんな話聞いたことがありませんが……どれどれ、少し調べてみましょうか……」

総督はモニターを開いてどこかに接続し始めた。

「タカミチ、翠色の精霊って?」

「一説には麻帆良の神木の精霊だ……と言われているんだが見た者がいない眉唾ものの噂レベルの話しでね」

「神木の精霊……?神木ってあの高い木の事?」

「ああ、そうだよ。神木・蟠桃、種別、樹齢全て不明、膨大な魔力を内包していると言われ、その証拠にあちこちに魔力溜りを形成し、22年毎に大発光する木だ」

そういえばあの木に登ると何だか新鮮な気分になったような……。
魔力溜りを形成……?

「……分かりました。確かに旧世界麻帆良学園創設時1890年にそのような精霊がいるのではないかという報告があったようですね。ただ、それを見たと言った初代学園長は魔法関係者ではなく一般人でしたが。実際特に神木を調べてもそれらしいものは確認できなかったようですね。ついでに不死の魔法使いについても少し調べてみましょう……」

「確かにネギ君が言うとおりならエヴァの事を調べた方がいいな……。僕が会った時点で既に闇の気配は無かったからね……。もしそのエヴァの言う幽霊というのが精霊で、その謎の単語が魔法世界と関係するのだとすると重要な可能性が。…………それにしても翠色……ん…………まさか」

「タカミチ、どうしたの?」

「いや……ネギ君が麻帆良に来る数ヶ月前に翠色の髪の毛をした小さなホムンクルスをエヴァが夜の警備に連れてきた事があってね……一時期麻帆良に侵入してくる術者達に強力な魔力封印をかけ続けた事があるんだよ……。僕達でそれを調べた事があったんだが、魔力封印にしては何らかの術式をかけた跡も見つからない異常なものだったんだ。エヴァと学園長の合作という事で納得してはいたんだけどね……今思うとあれはおかしいな……」

「な……なにそれ……」

「不死の魔法使いの情報で報告内容が変わった時期がありますね。1903年以降、闇属性の魔法から一転、光属性の魔法を多用するようになり、自ら、闇の福音ではなく光の福音だと名乗るようになったようです」

実際マスターは光だからそれはおかしくないけど……。

「エヴァは一度昔麻帆良に来たと聞いた事があったが……麻帆良創設と時期がかなり近いな……」

「その精霊というのが不死の魔法使いに何らかの形で接触した可能性がありますね」

「ああ、いよいよ麻帆良に一度戻ってきちんと調べた方が良さそうだな……」

「もし……もし、この世界の絶望を覆せる手がかりがあるならばそれは確認する価値が十分にありますね………」

「タカミチ、僕が来る数ヶ月前だったら茶々丸さんってその時いるんだよね?マスターと一緒にいたなら何か知ってるんじゃないのかな?」

「!……そ、そうか……そうだね。いつも茶々円君を連れてきたのは茶々丸君だったな……」

「茶々円?」

「それが小さなホムンクルスの名前さ。ホテルの茶々丸君と限定通信をしよう」

「うん、繋ぐね」

「クルト、この前と同じだ」

「それでは失礼して……」

まさか……この通信であんな事が分かるとはこの時思いもしなかった……。

《茶々丸君、君に聞きたい事があるんだがいいかい?》

《茶々丸さん、お願いします》

《高畑先生、ネギ先生、何でしょうか。私に聞きたい事とは》

《……神木の精霊、翠色の精霊の存在、又は……茶々円の正体を知っているかい?》

《申し訳ありません……それについてお答えすることはできません……》

え!?

《茶々丸さん!どうしてですか!?》

《口外しないようにとマスター、それと超から言われているのです》

ここで超さんも!?

《超君も絡んでいたのか……。茶々丸君、答えられないという事は知っているという事だと解釈できるが、どうしても駄目かい?》

《茶々丸さん、教えてください、お願いします!》

《ね……ネギ先生……そんなに……知りたいのですか?》

《はい、知りたいです!魔法世界の崩壊に関係する重要な事かもしれないんです!》

《ど……どうしても……ですか?》

《どうしてもです!》

《う……うぅ……分かり……ました。ネギ先生……そこまでお気づきになられたのならお教えしましょう……マスター、超、許してください……》

凄く悪い気がするんだけど……。
というか茶々丸さん全部知ってたんだ……。
凄く身近にいたのに盲点だった……。

《お願いします!》

《……茶々円の中身は翠色、神木の精霊です。また、相坂さんも精霊です……。更に実は……マスターも一部精霊なのです……》

《えええええっ!?》

マスターが精霊!?
それに相坂さんも!?
もう何が何だか……。

《な……あ、相坂君は幽霊じゃないのかい?それにエヴァも……何なんだ一体……》

相坂さんが幽霊!?

《失礼、クルト・ゲーデルです。聞いていれば、その神木の精霊とは一体どれ程の力を持っているというのですか?》

《ま……魔法世界の崩壊についての問題がもう既に解決する段階にはあるぐらいかと……》

《そんな馬鹿な!?一体どうやって!?》

《私もそれは聞いただけなのですが……に……2本目の神木が既に……旧世界の火星に定着しているそうです……》

《《《………………》》》

《マスター、超……申し訳ありません……戻ったらどんな罰でも受けます……》

え……えっと?
どういう事なんだろう……火星に2本目を定着ってどうやって?

《あ……あのー、茶々丸さん、2本目の神木が火星に定着って……ど、どういう……?》

《2001年の夏ごろに地球から火星に向かって宇宙空間へ打ち上げたそうです。詳しいことは私にも分からないのですが……》

《ま……まさか……2001年の夏というとあの大停電と南極からの謎の飛行物体の確認情報というのは……》

《あ、それ僕も知ってるかも……。UFOが飛んでったって話》

《ば……馬鹿な……。し……しかし、その木が火星に定着したのを百歩譲って信じるとして、その木に一体何ができると……》

《……半永久的に魔力生産ができるようです……原理は光合成と似たようなものだと思われます。但し今は位相が異なりますが……》

《は、半永久的ってあの神木にそんな効果が……。そ、総督……タカミチ……魔力の枯渇問題ってもしかして……》

だから魔力溜りが形成できるのか……。

《ああ……正直信じられないけれど、誰も知らないうちに魔力の枯渇問題は解決されつつあった……という事になるね……》

《そ、その木が火星に定着している場所は、一体どこなのです!?》

《……申し訳ありません……そこまでは私も知りませんので……。くれぐれもお願い申し上げますが、この事は他言無用でお願いします。事実を知っている人間は地球でもたった数名しかおりませんので……》

《ぐ、具体的には一体誰なのですか!?》

《人間に限定すれば……恐らく……学園長とアルビレオ・イマ……詳しく知っているかどうかわかりませんが近衛詠春……そして一番詳しい超だけかと》

一番詳しいのが……ちょ……超さん……?
それに人間に限定って……。

《たったの4人だと……しかも紅き翼の2人が……。し……しかしさっきからその超というのは一体誰なのですか?》

《……クルト、この端末の製作者だ》

《僕の生徒……です》

《私の生みの親でもあります。……これは恐らく最重要機密です。重ねて申し上げますが、他言しないようお願いします……》

《ああ……大体今ので謎が解けた気がするよ……。ありがとう茶々丸君》

《あ……ありがとうございました、茶々丸さん》

《情報提供感謝します……》

凄く驚きすぎて、寧ろ呆れちゃうぐらいだったけど、魔力の枯渇による魔法世界の崩壊という根本的な問題はどうも解決しそうという事が分かった……。

「いやはや……これは重大という言葉で済むレベルの話ではありませんよ……。私が進めてきた計画はそもそも意味がなかったようなものです……」

「全く驚きだな……。少なくとも今俺達にできる事は……」

「廃都オスティアのゲートポートの確認とフェイト・アーウェルンクスの何らかの計画の阻止……だね。多分精霊さんが僕に言ってきたグレート・グランド・マスターキーもどこかで関わってくるんだと思う……」

「ふむ……そうですね。やはりゲートポートを確認するのは必須のようです。崩壊から免れる可能性があるにも関わらずフェイト・アーウェルンクスら完全なる世界の残党がやる事と言ったら、もう一度世界を滅ぼそうとする事しか考えられません。これは排除しなければならないでしょう」

「明日から探索開始だな」

「タカミチ、探索許可証を渡しておく」

「ありがたく受け取っておくよ、クルト。お前の精鋭部隊で調査隊は組まないのか?」

「それはやまやまですが……オスティア記念式典、それも20周年であるのにかかわらず、その前に要地である廃都オスティアに我々が公的に入るとなると明らかに協定に違反しますし、仮に組むとしても今から魔法世界一の危険地帯へ調査に赴く人員を選抜するだけで時間がかかります。上位種の竜までもが大量にいる所ですからね……」

「そういえばそうだったな……。確かに上位種の竜では並の手練では駄目だろうな。それこそネギ君達でなければ」

「総督、許可証の手配ありがとうございます!」

「いえいえ、こちらこそネギ君と直接話せたお陰で予想以上どころかこの上なく重要な事が分かりましたから。これくらい安いどころか寧ろ何かお礼をして良いぐらいです。もちろん、オスティア記念式典が始まったらすぐに指名手配を解除することをお約束しましょう」

「お願いします!」

総督の表情がかなり明るくなってる……確かに今までずっと悩んでた事が一つ解決しそうなんだから嬉しいだろうけど。

「クルト、そう露骨に明るい表情になると逆に何か企んでるように見えるぞ」

「失礼な奴だな……タカミチ。お前にもこの重要性が分からないわけではあるまい」

「ああ、分かっているさ。さ、今日はもう映画を見ていたから随分時間が過ぎている。ネギ君、戻ろうか」

「うん!総督、失礼します!」

「クルト、またな」

「ええ、またお会いしましょう。ゲートポートの調査が上手くいくように期待しています。私もフェイト・アーウェルンクスらに備えて警備の強化を進めておきましょう。もちろん今日のことは絶対秘密でお願いしますよ」

「はい、それはもちろん」

「分かっている」

こうして、僕はこの日父さんと母さん、紅き翼の事が分かっただけでなく、とんでも無い事まで分かった。
ホテルに戻ったらドネットさん達も皆既に着いててかなり大人数になってた。
茶々丸さんは僕と視線が合って凄く取り乱してたから、こっそり絶対口外はしない事と、教えてくれた事にありがとうございましたって伝えておいた。
……それでこの後、アスナさんとタカミチの3人で約束通り話をすることになったんだ。

「高畑先生、話っていうのは?」

「今から話すよ。アスナ君落ち着いて聞いて欲しい。まずは少し歴史を話そうか。アスナ君も魔法世界に来て22年前に大戦があったのは知っているかな?」

「はい。大分裂戦争っていう大きな戦があったっていう……」

「そう。その戦争での2つの大きな勢力、帝国と連合その間に挟まれて翻弄され続けた王国がある。その名をウェスペルタティア王国。アスナ君はね、そこのお姫様、黄昏の姫御子なんだ。本名はアスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシアという」

「アスナ・ウェスペリーナ・テオタナシア・エンテオフュシア……。その名前……夏休みが始まるぐらいの時に夢で……。私が……姫……」

その頃からもう思い出していたんだ……。

「麻帆良にいた時から思い出していたのかい……。最近他にも夢を見たりすることがあるよね?」

「は……はい。小さい私がなんだかネギのお父さんやクウネルさん達と一緒にいる夢です」

「その夢は全て昔アスナ君にあった出来事なんだよ」

「ネギの言った通り……あの夢は全部本当にあったこと……なんですか」

「そう……。一度話を戻そう。アスナ君は大分裂戦争中、ナギ達が向った戦場にいあわせた事があってね。それが最初の出会いなんだよ。僕はその時はまだ一緒ではなかったけれど」

「私が戦場に……?」

「黄昏の姫御子、完全魔法無効化能力、アスナ君自身も体質については知っているよね。それを……言い方は悪いんだけど……戦争中に利用されていたんだ」

「…………」

「その場ですぐにアスナ君を助ける事はナギ達にもできなかった。大分裂戦争の間に、裏から戦争を手引きしていた連中、完全なる世界という組織にアスナ君は捕まってしまったんだ」

「わ……私が捕まった……」

「厳密にはウェスペルタティア王国の上層部が完全なる世界の一派だったからんだけどね……。そこでも最終決戦の際に世界の始まりと終わりの魔法というものの発動に利用されたんだ」

「それで起きたのが……広域魔力消失現象なんだね……」

「そうだ、ネギ君。残念ながらその最終決戦の際、アスナ君は反魔法場ごと封印される事になってしまったんだ」

「私が封印……?」

「助けられたのは……その2年後以降……なの?」

実際2年後すぐだとは……アスナさんの身体年齢を考えるとおかしいからもっと後なのかも……。

「さっきの映画から推測したらそうなるか……流石だね、ネギ君。その通り、アリカ様を助けだしてから、封印されていたアスナ君を助ける事ができるようになった」

映画でメガロメセンブリア元老院議員が墓所の最奥部への行き方を聞いていたからそうじゃないかと思ってたけど……。

「高畑先生、そのアリカ様っていうのは?」

「僕の母さんです」

「ええ!?ネギ、あんたお母さん分かったの!?」

「はい……さっきクルト・ゲーデル総督の所で映画を見せて貰ったんです。それで僕の母さんの名前はアリカ・アナルキア・エンテオフュシアと言います」

「なによーその映画、私も見たいわよ!ってエンテオフュシア……?」

「タカミチ……僕とアスナさんには血縁関係があるって言うことなんだよね?」

「ネギと私に血縁関係!?」

「直接……とは限らないけれどね。その辺りはアリカ様が詳しく知っていらしたんだけど……実際の所良くわかっていないんだ」

「そ……そうなんだ……」

黄昏の姫御子というのがどれ程の重要性がウェスペルタティア王国にあったのかを考えると……あるいは……。

「じゃ、じゃあ私ってネギと親戚って事なんですか?」

「そう……なるね」

「そう……なんですか……。なんだか不思議……」

「そうですね、アスナさん」

「初めて会った時は赤の他人だと思ってたのに」

「僕も……そう思いましたよ」

「それで、さっきの封印の件だけど……アスナ君、落ち着いて聞いてね」

「は、はい」

「アスナ君が封印されていた期間は1983年から9年を超えていたんだ」

「9……9年も……ですか?」

9年……封印の効力によるけど、だからアスナさんの身体的年齢は成長していないのか……。

「ああ、そうだ。封印から助けだしたのはナギと……ガトウ・カグラ・ヴァンデンバーグという僕の師匠。この写真を見ると良いよ」

「父さんと……ガトウさん……」

「こ……この渋いオジ様夢に出てきたわ……」

「アスナ君が助けられた辺りの話は僕も師匠に聞いただけだから詳しくは知らないんだ。寧ろアスナ君が思い出した方がはっきりした事がわかるかもしれないね……。しばらくは3人で旅をして砂漠なんかで生活したと聞いたよ」

「砂漠……その時の夢も見た気がします……。ネギのお父さんが夜空の星が綺麗だって……。ガトウさんっていう人はネギのお父さんが持ってきたネズミみたいの……を……」

思い出し方が変な気が……。

「その夢も見ているんだね……。その後僕も高校を卒業して師匠とアスナ君とナギに合流して一時期行動を共にした事があるんだ。ここからは僕も実際に知っている事だよ」

「高畑先生も私と一緒に……」

「タカミチ、高校ってガトウさんのお弟子さんだったのは……」

「僕は大戦が終わった後数年して麻帆良学園に通う生徒だったんだ。師匠の弟子だったのはその大分前からだよ」

「そうなんだ。あ……話の途中でごめん、タカミチ」

大戦期からガトーさんとタカミチは一緒にいたみたいだしやっぱりそうか。
タカミチも生徒だった頃ってあるんだなぁ……。

「いいよ。そんな中、一度ジャックを除く紅き翼の皆、ナギ、詠春さん、アル、師匠と僕である港町に集まった事があるんだよ。そこで僕はアスナ君に咸卦法のコツを教えて貰ったんだ」

「私が高畑先生に咸卦法のコツを!?」

アスナさんが咸卦法を使えたのは昔できたことがあるからだったのか……。

「ああ……そこは少し事情があってね……。その後、ナギ、アル、詠春さんとはそれぞれ別行動になり、師匠とアスナ君と僕とでの3人での行動になった。そしてしばらくして入ってきた情報にナギが行方不明になったという事、ほぼ同時期にアルにも連絡がつかなくなったという出来事があった。1993年の事だよ」

「その時父さんが死んだっていう噂が流れたんだね……。それにクウネルさんにも連絡つかなくなったんだ……」

「アルは結局麻帆良学園の図書館島にいたというのがこの前今更分かったけどね……。当時その事を知った僕達はとてもショックだったよ。まさかナギが消息不明に……ましてや死亡だなんて信じられなかった。その後僕達はナギを探す事を目的の一つに入れて旅を続けたんだ……」

「タカミチも父さんを……」

「結局何もつかめなかったんだけどね……。それから1、2年ぐらいして……アスナ君、もう一度言うけどここからは落ち着いて聞いて欲しい」

「わ……分かりました、高畑先生」

「ああ……今度は目を離した隙に師匠が何者かに襲撃を受けてね……亡くなったんだ……。僕とアスナ君の目の前でね……」

「え……」

タカミチの師匠ってそんな気はしていたけど亡くなってたんだ……。

「そ……そんな……」

「続けるよ。この後僕はアスナ君と共に旅を少し続け、雪の降る冬のある日、日本の麻帆良学園に行くことにしたんだ。当時アスナ君は7歳近かった」

「麻帆良学園に……」

「この時師匠から僕は受けていた遺言があったんだ。アスナ君の記憶を封印するように……と……」

「私の記憶を……封印……?」

「アスナ君はその時まだ幼くてね……精神的ショックが強すぎたんだ……。突然こんな事を言って混乱するかもしれないけれど、僕はそれまでのアスナ君をある意味で殺してしまった……。今まで黙っていて本当に悪かった……アスナ君。許されるような事ではないと分かっている……」

タカミチがアスナさんに頭を下げた……。

「た、高畑先生!そんな……やめて下さい!」

「タカミチ……」

「…………」

「高畑先生、私はちゃんと……今思い出そうとしてます。少し時間がかかっちゃいましたけど、辛い思い出があっても、今なら……大丈夫です。思い出しても私は私のままです」

「アスナさん……」

「アスナ君……。僕を恨んでもいいんだよ……今までずっと騙して来たようなものだ……」

「そんな事無いです!高畑先生は私を麻帆良学園に連れてきてくれた時に面倒見てくれました!この鈴の髪飾りだって……!あれが全部嘘だった訳じゃ無いじゃないですか!」

「…………済まない。そうアスナ君に言って貰えると……救われるよ……」

タカミチがたまに寂しそうな顔をしたり、遠くを見るような顔をしていたのはいつもそんな事を考えていたのかな……。

「高畑先生……ありがとう……ございます。私、麻帆良学園に連れてきて貰って本当に良かったです。後悔なんて全然、全く、これっぽっちもしてません。ありがとう。ありがとう。高畑先生」

アスナさんがタカミチにそっと抱きついた……。
今までじゃ絶対あり得なかったのに……今は凄く自然……。

「アスナ君…………ありがとう」

タカミチが泣いてる……。
……僕もつられて涙が出てくるな……。
そんなに長い時間じゃないけど落ち着いた所でまた話をした。

「高畑先生、私の苗字の神楽坂って……」

「アスナ君の戸籍を作る時に師匠のミドルネームを借りて来たんだよ。師匠からはアスナ君の師匠についての記憶は念入りに消すように言われていたんだけどね……どうしても僕が……そうしたかったんだ」

「そうなんですか……。じゃあ……私には2つも、本当の名前があるんですね。……大事にします」

「アスナさん……そうですね」

「そうしてもらえると師匠もきっと喜ぶよ」

「はいっ!」

「アスナさん、今の話でアスナさんがこの魔法世界で重要というのは分かりましたか?」

「ネギ、大丈夫よ!ちゃんと分かってるわ!」

「絶対に、オスティアにいる間一人にはならないで下さいね。修学旅行の時のようにフェイト・アーウェルンクスが突然現れるかもしれませんから」

「心配しなくても大丈夫よ。ネギこそ一人で勝手に突っ走っていっちゃ駄目だからね」

そういうのが一番心配なんだけどなぁ……。

「はい、分かってます。僕には皆がいますから大丈夫ですよ」

「そうよね、皆がいるものね」

「僕も力になるよ。……さあ、2人とも、大分時間が経ったし、お腹も空いているだろう。皆と夕飯食べに行こうか」

「はいっ!」「うんっ!」



[21907] 52話 魔法世界編11
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 20:20
―9月24日、7時36分、新オスティアリゾートホテルエリア―

昨日はゆえ吉以外全員集合したよ。
ネギ君と高畑先生は私達がホテルに着いて寛いでたところに帰ってきたと思ったらすぐアスナ連れて別の部屋に行って何か話してたらしい。
のどかはネギ君が戻ってきたところに居合わせなかったからアレだったけど、夕食の時間になってまたネギ君達が戻ってきた瞬間には、ちゃんと2人で再会の挨拶を微笑ましいぐらい丁寧にやってたよ。
なんか初々しい。
微妙に3人とも泣いてたんじゃないかと思えるんだけど突っ込んだらいけない気がした。
実際スッキリした顔してたしネギ君とアスナに至っては姉弟っぽい空気がいつもよりしてたしまー良かったんじゃ?
一方クレイグさん達はラカンさんに会ってテンション上がりっぱなしでやばかったなー。
それは愛衣ちゃんもだけど……皆やっぱサインですよねー。
で、そのサイン見せてもらったらめちゃめちゃ似顔絵うまくてビビったわ。
「俺に不可能はない!」らしい。
どうも私はアスナの変態発言が地味に頭に残っててテンションがそこまで上がらなかったんだけど……まあいいスよねー。
このかはラカンさんと話して「お前があの詠春の娘か!あいつからどうしてこんな可愛い子が生まれるんだよ!」「ややわー、ラカンはん」とか一瞬で馴染んでで適応能力スゲーわ。
桜咲さんと葛葉先生とくーちゃんはラカンさん見た瞬間驚いてたけど隙が無いとかそんな感じなのかね。
小太郎君もクレイグさん達に咸卦法見せたり、サイン貰われそうになってたんだけど……「俺のサインなんて貰って嬉しいんか?ただのガキやで?」だからなー。
謙遜とかじゃないだろうけど実際子供にしては……あんま調子乗らないよなーネギ君にしろ小太郎君にしろ。
去年は結構単純だったような気がするんだけど……いつの間に成長したんだろーな。
ネギ君と高畑先生戻ってきてからもクレイグさん達がサイン貰ってたのは以下同様。
高畑先生もやっぱ相当な有名人なんスねー。
確かにまほネットで色々検索してたら高畑先生が表紙飾った雑誌のバックナンバーとかあったから分からないでもないけど。
でもって22人もいるごっちゃごちゃした状態で夕飯をホテルのレストランの席の一角を完全占拠して皆で食べたスよ。
さっすがリゾートホテル、うまいっ!!
タダ飯最高ッス!
無口なリンさんもこの点は同意見みたいで私とココネと一緒にガンガン食べたわ。
うーん、1ヶ月前にほぼ通りがかっただけなのが悔やまれる。

それで一晩明けたと思えば、予告通り、ケルベラス大樹林よりも危険な、現在は複雑怪奇なダンジョンと化してる廃都オスティアにあるゲートポート探索に乗り出す訳だ。
リゾートホテルエリアの末端に高畑先生が予め用意しておいた小型飛空艇があるんスよ。
当然私は行くわけ無いんスけど誰が行くかっていうと、ネギ君、小太郎君、楓、くーちゃん、桜咲さん、茶々丸、高畑先生の7人。
ぶっちゃけ魔獣出るならラカンさん行けば終わりじゃ?って思ったら「俺がゲートポート探索?そんなん向いてないぜ!!がっはっは!!」とか豪快に笑ってのけ高畑先生も最初からそう言うだろうと思ってたみたいな顔してたよ。
リゾートホテル居残り組も戦力的には、言わずもがな最強無敵ラカンさん、葛葉先生、たつみー、クレイグさん達、高音さんに愛衣ちゃん?……と……アスナとか後どれくらい強いのか知らないけどドネットさんがいるから多分大丈夫。
私は……走れるだけで戦力にはならないからカウント対象外で。
というよりその前にこんな安全そうな所で狙われる事なんてあんのか?ってのが一番気になるんだけど……葛葉先生がピリピリしてるから多分マジなんだろーな……。
とにかく、ネギ君達の探索が無事に済むよう柄にも無くシスターらしく祈りながら待機組皆で見送りを済ませたよ。
7人が帰ってくる予定は一番遅くて29日、終戦記念祭の前日らしい。
私達は……リゾートホテルで終戦記念祭が始まるまでも始まった後も楽に生活ができるっ!!
あんまり今までと変わらないスねー。
因みにゆえ吉はアリアドネーで夜が明けたら今日から巡洋艦ランドグリーズってのに乗ってエミリィ委員長達分隊の皆とオスティア記念式典の警備にくるらしい。
アリアドネー魔法騎士団だからセラス総長も当然来るみたいスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月24、7時58分、オスティア雲海、小型飛空艇内―

アスナさんを一番危険な所に連れて行く事はできないから、ラカンさん達に任せる事になった。
葛葉先生と龍宮さんもいるから大丈夫だと信じてる。

「しかし……食料こんなにいるのかい?少し狭いと思うんだけど……」

主にくーふぇさんとコタローが大量に買い込んできた食材のお陰で小型飛空艇の船内が狭い……。

「安心するでござるよ、高畑先生。アデアット」

「それが楓君のアーティファクトかい?」

「この中にはキッチンがあるから冷蔵庫も付いているのでござるよ。古、コタロー、運ぶでござるよ」

「おうっ!楓姉ちゃん!」

「任せるアル!」

「…………変わったアーティファクトだが……キッチンって……」

タカミチも驚くよね……。
最初僕もそんな風になってるの知って驚いたし。

「中が家になってるから飛空艇では探索できない場所でも泊まることができるよ」

「確かに探索に便利だね。でもいくらなんでも多い気が……」

「皆一杯食べるからすぐに無くなるよ」

「ははは、なるほど成長期って事かい」

「ネギ先生、高畑先生、もう間もなく廃都オスティア陸地末端に到着します」

「分かりました、茶々丸さん!」

「了解したよ。探すべきは空中王宮なんだが……それがどの大陸かも霧のせいで視界が悪く分からない。東京都よりも広い場所の末端だ。虱潰しにやっていこう」

「うん!」

大小合わせて100近い陸地が落ちている中、どこも霧だらけで視界が悪いのはタカミチの言ったとおり。
まずは最初に着いた陸地が市街地かどうかを確認し、そこを基点として徐々に地図を作成していく予定。
茶々丸さんがこの仕事に最も適任で、視界が悪くても赤外線センサーで飛行中に竜種が飛んできたとしても察知できるし、タカミチにも白き翼のバッジをのどかさんのを借りて持っててもらっているからそれで皆の場所を把握する事もできる。
タカミチ以外は僕との仮契約カードで召喚機能も使うことができる。

「さ、分身の出番やな。いくで」

「そうでござるな、コタロー」

「僕も分身出すよ」

「私も式神を飛ばしますので」

楓さんが16人、コタローが8人、僕が3人、刹那さんが小さい刹那さんを3体。

「おおっ、皆凄いな」

「「「が、頑張りますっ!」」」

式神は何だか……刹那さんらしくない。

「刹那っぽくないアルねー」

「少し式神は……頭の方が悪いんです……」

「その代わり明るいみたいやなー」

「小太郎君……それは私が暗いと?」

刹那さん……。

「そんな事言ってへんやろ!いつもの刹那姉ちゃんより明るいってだけや!」

「……いえ……あまり気にしてないので……」

結構気にしてるような……。

「それじゃあまずはこの陸地の大きさと内部の状況を簡単に把握しよう。魔獣がいる可能性は十分あるから気をつけて」

「うん。本体は皆で一緒に行動で行きましょう。タカミチとくーふぇさんは飛空艇の護衛でいいよね?」

「ああ、そのつもりだよ。ネギ君達が戻ってきた時に飛空艇が壊れてたじゃ済まないからね。でも危なくなったらすぐに端末で連絡して欲しい」

「うん!」

「任せるアルよ、ネギ坊主。アデアット。この棍で遠距離からでも戦えるアルからね」

「はい!陸の大きさにもよりますけどあまり時間かけずに戻ってきます。コタロー、楓さん、刹那さん、行きましょう」

「おう!」「承知したでござる」「はい、参りましょう」

僕達は最初の陸地に降り立ち、手早く探索を開始した。
魔獣が蠢くというのが一体どれくらいの数いることを言っているのかは実際に体験してみなければわからない。
恐らく厄介なのはこの霧、風向きによって視界が一時的に晴れたりすることもあるけれど気がつくと至近距離に魔獣がいた、なんて事も無いとは限らない。
気になるのは広域魔力消失減少そのものの効果だ。
20年間魔法を使うことのできない不毛の大地という事だけど今年で20年目の今、少し試してみたけれど魔法は使えている。
集中して確認してみたけど、微弱ながら魔力の反応が消失していくのが感じられる。
魔力は多いところから少ない所に流れるという事を考えると、ここ廃都オスティアに魔力が流れこまなかったという事はありえない。
恐らくアスナさんを利用して発動させた魔法の影響で、ここ一帯に魔力が流れこんできても次々消失……過程としては魔力そのものが崩壊して行き魔力として機能しなくなってしまうという物なんだと思う。
王家の魔力というのがこれの無効化現象でも無効化されないというのなら、発動する魔法が、この場の魔力消失の影響を全く受けずに魔法として維持できるという事なんだろう。

「何や森ばっかりやな」

「式神とのリンクで確認しましたが、ここは末端の割と小さな陸地のようです」

「長居する必要は無いでござるな」

「そうですね。一つに時間かけてられませんし次の陸地に行きましょう」

「魔獣っちゅうのがどこから出てくるか知らんけど端にはまだおらんのやな」

「恐らく中心部に近づけば近づく程強力な竜種等が出てくると思います」

「魔法が使えない土地やったのになんで魔獣が巣食っとるんやろな。上位種の竜種いうんは魔法障壁も張るんやろ?そないな所に好き好んで住むんか?」

「……それは魔獣にとって安全だからだと思うよ」

「あー、なるほどな。魔法使いが退治に来ても戦えんちゅう訳か」

「楓さん達がいたケルベラス地方にあるケルベラス渓谷の中は魔力も気も一切使えない環境だけど強力な魔獣が一杯いるらしいんだ」

「魔力も気も使えないってどんな場所やねん……」

「それでは拙者達も一般人になってしまうでござるなぁ」

「ただのガキになってまうで」

強制転移魔法でもしケルベラス渓谷に飛ばされていたら終わってたかも……。
そんな事を話しながら素早く飛空艇に戻りタカミチに報告して次の陸地を目指した。
飛空艇の展望デッキにはもしもの戦闘にすぐ移れるように2人は待機する事にしてて、今はタカミチと刹那さんが出てる。

《右舷前方から2体竜種と思われる生命体が接近してきます。まずは回避を試みますが……もしもの時はお願いします》

《茶々丸君了解したよ。こちらはいつでも迎撃できるようにする》

《了解しました》

「ネギ坊主、拙者達も出るでござるよ。2人なら問題はないと思うが、皆で協力した方が早いでござる」

「はい!」「よっしゃ!」「行くアルよー!」

展望デッキには僕達6人が出る広さは十分あるし、浮遊術も使えるから問題ない。

《右舷前方30度距離200m。恐らく精霊祈祷エンジンの反応に気づいた模様です。引き続き回避パターンを取りますが追いつかれると思われます》

《すぐに反応してくるあたりこの辺りが縄張りのつがいの竜のようだね。了解した》

「皆、2体いるから気を抜かないように」

「うん」

「分かったで。アデアット。右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

「ははは、コタロー君が咸卦法使うのを直に見るのは初めてだな。よし……右腕に気、左腕に魔力……合成!!」

―咸卦法!!―

流石タカミチだ、まほら武道会でも見たけど咸卦法の練度が凄い!

―戦いの旋律!!―
―魔法領域展開―

刹那さんは夕凪をもう構えてるし、くーふぇさんは神珍鉄自在棍を出している。
楓さんは多分……すぐ忍具が出てくると思う。

「コタロー、僕達は飛空艇の壁面に回ろう!」

「おう、任しときや!」

僕とコタローは展望デッキから飛空艇の壁面に備え付けられている手すり目がけて浮遊術を使って飛び移った。

《距離50!》

《ネギ君、視界を晴らしてもらえるかい?》

霧があるから相手も攻撃しにくいだろけど、あっちはエンジンに気づいて追って来てるから確かに視界は晴らした方が良い。

《分かった!》

   ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―吹け 一陣の風 風花・風塵乱舞!!―

強風で霧を一帯吹き飛ばして現われたのは2体の30mはありそうな巨大な黒い竜……。
動きが速いっ!

《助かるよっ》

―七条大槍無音拳!!!!―

飛空艇から凄いビームがっ!!
強烈な打撃音!

「おわっ!?高畑先生の技か!」

接近してた2匹の竜をまとめて吹き飛ばした!
直撃を受けた1匹目の方は角が2本とも折れてる……。

「凄い……」

……これがタカミチの対軍系レベルの攻撃か。

《流石に実体がある分堅いな……。一気に片を付けるよ。いちいち長く相手してられないからね》

《お任せ下さいっ!》

次は刹那さんが飛んで行って……。

―斬岩剣弐の太刀!!!―

タカミチが直撃を与えた1体目の竜の片翼を切り裂いて高度を落とさせた!
後は1体目が盾になって比較的ダメージの軽い2体目だけど……炎を吐きそうな予備動作っ!

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―来れ雷精 光の精!! 雷を纏いて 打砕け 閃光の柱―
          ―光の雷撃!!―

「俺も行くで!」

―咸卦・疾空白狼閃!!―

竜巻に雷を乗せる雷の暴風よりも、純粋破壊力の高い光属性魔法の光線に雷を纏わせた一点突破力の高いレーザーのような攻撃魔法。
コタローの攻撃と一緒にきっちり炎を吐いて来るのをキャンセルさせられた。
狙った角にはちゃんと直撃させて折りつつ雷で痺れさせられた……でもタカミチの言うとおりやっぱり堅いな……。

「伸びるアルっ!」

痺れて一時的に麻痺させた所をくーふぇさんの神珍鉄自在棍が巨大化して竜の頭部に強打。
……そのまま気絶したのか落ちて行った……あれだけ強力な竜だから落ちるぐらいでは死なないと思うけど……。
コタローと一緒に展望デッキに戻った。

「ほ、本当に……いつの間に皆こんなに強くなったんだい?」

「マスターの別荘で結構修行してたからね」

「私はまほら武道会で宗家の方々から技を教えて頂きました」

「このアーティファクトが便利なだけアル」

「拙者の出番は無かったでござるなぁ」

楓さんの巨大手裏剣が更に当たってたら流石に翼が切れてたと思うな……。

「そ、そうか……ある程度予想はしていたけど実際に見て驚いたよ」

「高畑先生のさっきの技もまほら武道会では使っとらん規模やったやないか」

「ああ……あれはさっきのような竜種や鬼神兵を相手にある程度距離が空いている時に使うものでね」

ラカンさんの表でタカミチ(本気か怪しい)は2000だったけど……2800の鬼神兵よりやっぱり全然強いんだね。

「居合い拳の射程って10mぐらいやと思ってたんやけどちゃんとそういうのもあるんやな」

「隠し玉の1つや2つぐらいあるものだよ」

「流石高畑先生アル。私も手合わせ願いたいね。しかしあの竜は大丈夫アルか?」

「上位種だからね、障壁は張っているからあれぐらいでは一時的に撃退したぐらいでしかないさ」

「街中で出会ったら大変そーアルね」

「竜種となると逃げるにしても最低限気絶させないと難しいです」

「霧が深い分ケルベラス大樹林より苦労しそうでござるな……」

気を抜かないようにしないと本当に危ない場所だ……。
この後も次の陸地に着いては一体今どの辺りなのかを把握しては再度飛空艇で移動を繰り返した。
その間やっぱり竜種を初めとして、獣のような魔獣にも遭遇して倒さざるを得ないときもあった。
炎を吐くだけじゃなく、2本の角の間に電気エネルギーを溜めて飛ばしてくる竜や、刹那さんがアリアドネーで戦った事があるっていうカマイタチブレスを吐く竜がいたり、獣型の魔獣でも、体毛を針みたいにして飛ばしてきたりと大変だった。
コタローと冬のスクロールとそっくりだって一緒に思ったけど、これは本当の本当に現実だから気が全く抜けない。
でも僕達もこんな中でもやっていけるぐらいのレベルにはあるから大丈夫。
不用意に接近してもしかしたら持ってるかもしれない毒を受けたりしないように基本的に遠距離からの攻撃を心がけるようにしている。
刹那さんは非常に強力な弐の太刀を初めとして遠距離に気を飛ばす技はあるし、楓さんも気弾はもちろん、鎖に繋いだ巨大手裏剣は破壊力、射程距離共に申し分無い。
コタローも咸卦法強化で普通の狗神で十分戦えるし、僕は元々遠距離攻撃を多く持ってるから今のところはなんとかなってる。
茶々丸さんが美味しい昼食と夕飯を用意してくれて外が殺伐とした環境でも凄く落ち着いた気持ちになれた。
タカミチが持ってきてた崩壊する前のオスティアの地図とは大分陸地の位置にズレが生じててやっぱり少しずつ位置関係を把握してくしかなさそう。
市街地のある陸地がいくつもあるから今いる陸地がどこなのかも常にしっかり確認する必要がある。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月25日、18時47分、旧オスティア官庁街―

ネギ達が廃都オスティアのゲートポート探索を初めて2日目の夕方、旧オスティア官庁街のある建物の中に同じデザインの外套を着た5人の少女達の姿があった。

「何者かがこの廃都に侵入しているようですね……数は7と言った所でしょう……」

角が目立つ両目を閉じた人物が言った。

「調、それは本当か?」

ツインテールで釣り目の少女が聞き返す。

「木精の声が聞こえるので間違いありません」

「終戦記念祭前に侵入者……ふぇ、フェイト様に報告しなくてはっ!」

黒髪で猫の耳をした豹族の少女が慌てる。

「暦、落ち着いてください」

それを落ち着かせる声をかけるのはエルフのような耳をした少女。

「…………」

無言を貫くのは頭の横に太めの角が左右にある竜族の少女である。

「少なくとも計画のためには私達の姿が侵入者達に見つかる訳には参りません。3日後フェイト様と合流しますから見つからないよう遠くから監視をしましょう」

調によるまとめによりその場は一旦纏まり、遠距離からネギ達の行動を監視し目的が分かり次第フェイト・アーウェルンクスに報告をする事に落ち着いたのだった……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月26日、9時頃、新オスティア、リゾートホテルエリア―

ネギ君達が廃都オスティアのゲートポート探索に出てから今日で3日目。
特に目立った怪我も無く派手に……本人達はそんな気ないかもしれないけどやってるらしいスよ。
しつこい竜種を仕方無しに3体完全討伐したらしいけど、マジ常識から考えると異常な気が……。
普通数日がかりで倒したりするもんをどうやって……って言いたい所だけど、ネギ君のやたら切れる剣とか桜咲さんの障壁無視するらしいなんたら弐の太刀だとかあるから急所に攻撃を続ければ確かに倒せそうだと思えるから困る……。
何でも高畑先生がまほら武道会の時よりおかしなビーム放ってるらしく、茶々丸がその瞬間の映像を撮ってアスナに送ってきてくれて、皆で一緒に見たんだけどマジ吹いたわー!
何スかこの展望デッキ固定砲台。
パネェよ。
あの小型飛空艇に武装付いてるのかどうか知らないけどこれじゃ高畑先生が主砲スよ。
って思ってたらラカンさんが「それぐらい俺の右パンチで余裕だ」とか言ってくれた。
なんてゆーか次元が違すぎて私はついて行けんスよ。
一方平和なオスティアに入ってくる飛空艇の数は徐々に増えてきてて、当然観光客もどんどん集まってきててお祭りムードにガンガン近づいてる。
中心街の方にいくつも屋台が組み立てられ始めてて続々出店準備って感じ。
で、クリスティンさんとリンさんがトレジャーハントで稼いだ使う予定も特に無い魔法具を売るからって一緒についてった。
その行き先っていうと先月寄った例の魔法具店な訳だ。
お姉さんは……奥か?

「おや、お客さん、無事のようだな。南極はどうだった?」

おっさん覚えてたかー!

「あー、覚えてて貰って光栄ですー。南極は……例の品物のお陰で寒さに苦しむ事は一切ありませんでした。南極の景色はそれはそれでかなり見ごたえがあったというか自然の厳しさを理解できたって感じスね」

「それは良い事だ。魔法世界は温かい所の方が圧倒的に多いからな。寒い所は良い。龍山山脈越えはしたか?あれは絶景だったろう」

この熊男のおっさんマジでそういう趣味の人かー!!

「い、いやーそれが龍山山脈は避けたんで……」

「……そうかい。ま、どこまで行ったか知らないが命あっての物種だ。もしまた行く機会があれば龍山にも寄ると良い」

「はい、機会があればそうしますわー」

「ミソラちゃん、ここの店長と知り合い?」

「あー、南極行く時にここで魔法具を買ったんですよ」

「そうなんだぁー。店長さん、魔法具の売却お願いできますか?」

「ああ、やってる。品物は?」

「品物は……これと……これと……」

カウンターにゾロゾロ並び始めたー。

「あら、店長、お客様ですか?」

お姉さん奥から出てきた。

「売却の鑑定だ」

「承知しました。そちらのお客様、南極から戻られたようですね。魔法具はいかがでしたか?」

南極行く客なんて珍しいから覚えてるんだなー。

「あーそれはもう。お陰様でとても助かりました」

「それはそれは何よりです。また魔法具を購入する際は当店でどうぞー」

「その時があればそうさせてもらいます」

営業スマイル、これが普通スね。
クリスティンさんが10個近く品物を出したのをおっさんが手袋して真剣に鑑定し始めて……。
おっさん熊っぽいだけに獲物を狩るかのような鋭い眼光に変わってコエーよ。
クリスティンさん微妙に引いてるから。
リンさんは無表情だけどさ……。
一つずつ紙に商品名をサラサラ書いてって横に金額を書き連ね……合計は……。

「…………しめて3万8500ドラクマだな。どれがいくらするかはこの表を見な」

「どうもー。どれどれ……」

リンさんもこれには真剣にリストを見て……一つずつ確認しては頷いてるな……。

「リン、これでいいのー?」

「大丈夫」

えー!?
クリスティンさん人任せかいっ!!
リンさんが親指立てて断言してるから大丈夫なんだろーけど。
……どうも3つぐらい結構高いのあったらしくてこの金額になったらしい。
日本円に換算して……616万……。
まさにトレジャーハントここに極まれり!
って感じの額だなーこうしてみると。
それ言い出すとナギ・スプリングフィールド杯の賞金は1億6千万だけど。
そのままお姉さんがドサッとドラクマ入った袋持ってきてリンさんがきっかり確認したらどことなくホクホク顔になってたような気がする。

金が危ないからって事でホテルにそのまま一旦戻ってきたら……フロントにスゲー存在感の仮面被った人いるー!!
仮装するにはお祭りはまだ早いスよー。
あ?なんか高音さんのアレに似てるよーな……。

「私はボスポラスのカゲタロウ。ジャック・ラカン殿からこのホテルに滞在していると連絡を受け馳せ参じた。取次ぎを願いたい」

何かスゲー堅そう……。
そういやネギ君達が、ラカンさんが一緒に出る相手に強い人呼んだんだって言ってたような……。

「申し訳ありません、そのような事はこちらでは伺っておりませんが……」

「何?」

あちゃー、ラカンさん絶対そんな事忘れてるよ!
しかもコエー!
……コエーけど、どーせラカンさんが悪いんだろコレ。

「ミソラちゃんどうしたのー?エレベーター来たよ」

「あー、クリスティンさん達先行ってて下さい」

……完全に目が釘付けだったわー。

「んー、分かった。じゃあ先行ってるね」

「また後で」

「はい」

で……カゲタロウさんはどうも受付の人にもう一度確認するように頼む……もとい威圧してるんだけど……しゃーない、行くかー。

「あのー、ジャック・ラカンさんの所まで案内しましょうか?」

「……お嬢さんは一体どなたかな?」

めっちゃこっちに顔だけ向いたー!

「私は春日美空って言います」

「私はボスポラスのカゲタロウ。春日殿、ラカン殿を存じているのか?」

殿付けで呼ばれるのは楓以外では初めて……というか楓もあれはあれでおかしいけど……。

「一応近くの部屋に滞在してるというか、大部屋も借りて知ってるんで……」

会議用の大部屋一つに個室複数を普通に借りてるけど一体いくらかかってんだか……。

「そうか。ならば案内願おうか」

「あー、はい。では案内しますんで」

受付の人が軽くこっちに会釈してるし……。
軽く返しとこ。
エレベーターに一緒に乗ったけど……気まずい。

「あのー、ボスポラスって言ってましたけど影使いの方なんですか?」

「春日殿、よく知っておられるな。その通り」

「知り合いに影使いの人がいまして、その人もボスポラス出身の影使いなんで」

「……それは真か?」

エレベーター着いた。

「丁度今同じ部屋です」

廊下で歩きながら話を何故か続けてるし……。

「……その方の名前は何と言うか聞いてもよろしいか?」

「えー、高音・D・グッドマンって言います」

「ぐ……グッドマン!?……しかし……まさか……」

突然動揺したー!?

「グッドマン家の事やっぱボスポラスだと知ってるんですか?」

「あ……ああ、知っている。地元では有名だ……」

微妙に焦ってるような……。

「……えっと着きました。多分ラカンさんはこの大部屋にいると思います」

豪勢な呼び鈴を鳴らして……と。

『はい』

この声は……。

「あ、高音さん、今戻りました」

『開けましたわ、どうぞ』

「どうもー」

ロックが外れたところで扉を開けーのと……。

「カゲタロウさんもどうぞー」

「ああ、かたじけない」

「春日さんその方は……」

「ラカンさんを訪ねて来たボスポラスのカゲタロウさんです。下のフロントで困ってたみたいなんで……」

「……私の一族と同じ仮面ですわね……。私は高音・D・グッドマンです。つかぬことをお伺いしますがカゲタロウさん、家名はおありですか?」

「……その金髪……やはり間違いない。私の本名は……風太郎・D・グッドマン」

カゼタロウ……カゲタロウ……えー安易すぎるわー!!

「風太郎・D・グッドマン!?まさか……まさか叔父……様なのですか?」

「へ?」

何この超展開。

「兄上に娘がいたとは……。仮面を外そう……」

え?外してくれんの?
確かにめっちゃ素顔気になるけど……。
でけぇ右手をゆっくり仮面にあてて……取った。

「…………」

何このスゲー渋い金髪イケメン!?
アスナ見たら絶対反応するね。

「お父様に似ていらっしゃる……」

高音さんの顔が感動に浸ってる感じになったよ!

「しかし……私は叔父等と呼ばれるような事は……」

「叔父様は叔父様です。お父様からは叔父様の事は伺っていました。前大戦後行方不明と聞いていましたが……ご健在だったのですね……」

高音さんの涙腺が緩んでる……。

「心配をかけたようで済まない……」

何か私邪魔だな……そろっと退散しよー。

「おおー?お前その格好カゲタロウか?よく来たな!何で仮面外してんの?てか外していいの?」

おっさん空気読めー!

「ラカン殿、呼びかけに応じ参上した。どうやら高音殿は私の姪のようだ」

「え?それマジ?感動の再会?」

「ラカンさん、少しお待ちいただいてもよろしいですか?」

高音さんの額に青筋浮かんでるし……。
いい感じの雰囲気が一瞬にして崩壊したから当事者としての反応としてはアリだな。

「あー悪ぃな、高音嬢ちゃん。じゃ、また後で。ゆっくりしてけや」

「かたじけない」

ラカンさん一銭も払ってないだろー。

「ねー美空ちゃん、あのオジ様誰?」

こっちも食いつきが早いッスよ……。

「高音さんの本物の叔父さんらしいよ」

「えー本当!?素敵!」

言うだろーと思った。
実際あんな美形なのに仮面で常に顔隠してんだとしたら変わった一族だなー。
高音さんは仮面はしてないけど。
高音さんとカゼ……カゲタロウさんの会話を遠くから見た感じ、高音さんからガンガン話かけてる。
「今までどうしてらしたんですか?」「やはり偉大なる魔法使いとして?」「影使いの技量はお父様より素晴らしいと聞いておりますが……」とかそんな感じで聞かれた方のカゲタロウさんはちょい困ってるね。
カゲタロウさんの発言的に高音さん産まれてたの知らなかったあたり、偉大なる魔法使い云々よりどう考えてもマジ風来坊だったんだろーと思う。
しっかしラカンさんが呼んだってのが高音さんの叔父さんとか世界は狭いなーって魔法世界は元々地球より狭かった。
大部屋の端の方で高音さんが影の使い魔出したりして見せたり、カゲタロウさんが「私が姪にできるのはこれぐらいだが……」とかなんとか呟いて似てるけどもっと強そうな使い魔出したりした。
高音さんはそれ見た瞬間テンション上がってて普段とは違う一面を見た気がする……。
まさかの高音さんの師匠現わるってとこだな。
とりあえずこの日からとんでもなく堅い人が1人増えた。
食事する時以外結局仮面付けるもんだから存在感がスゲー。
違うとこ出かけてた皆も帰ってきては大体カゲタロウさんを2度見するね。
愛衣ちゃんは最初ギョッ!とした反応したんだけど高音さんの叔父さんだとわかるとペコペコ挨拶してたわ。
葛葉先生も麻帆良学園の教師って事で挨拶したけど、当のカゲタロウさんはまさかこんな所に来るとは思ってなかったんじゃないかなー。
仮面で良く分からないけど結構困ってたように見えたし。
ラカンさんとは普通にワイン一緒に飲んで何か話してたよ。
うん、どう見ても堅物な感じな人と適当な感じの人の会話が成立しているのが不思議でならないスね。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月27日、16時頃、旧オスティア空中王宮ゲート―

探索4日目にしてネギ達は端末の撮影機能を利用しながら着実に廃都オスティアのかなり詳細な地図を作り上げていき、また新オスティアへの帰還ルートの確定も行いながら、今となっては横倒しに近い形で傾いている空中王宮のゲートにとうとう到達した。
道中多くの巨大な市街地陸地や旧オスティア空港、旧オスティア官庁街も確認しており、単純にゲートの状態を確かめる事だけが全てではない。
度々遭遇する魔獣は、小型飛空艇での移動中であれば撃退、街中探索での場合には討伐もやむをえないという形であるが、戦力的には常に一瞬本気を出して全員でかかればすぐに片がつくため、メンバーの中で特に大きな怪我などをした者はいない。
ゲートに近づくにつれ、ネギは魔力の流れが僅かながらゲートに向かっているということに気づきやはりゲートに何かあるに違いないと確信していた。
ゲート自体の調査にあたっては、空中王宮に小型飛空艇で入れるところまで侵入し、祈祷精霊エンジンを完全停止させて全員でゲートに向かったのだった。
一方フェイト・アーウェルンクスの部下5人の少女達はそれなりに優秀であるのか、ネギ達に悟られる事無く遠くから監視することができていた。
……ゲート付近には魔獣もおらず、時折空から丁度傾き始めた夕日が差し込み穏やかな雰囲気に包まれている。

「間違いない。休止中のゲートだね。要石は破壊されていないようだが……」

「ここから戻れるんやな」

「ネギ坊主、ゲートは動くアルか?」

「それは少し調べてみないとわかりませんね……。ただ分かるのはフェイト・アーウェルンクス達は意図的にこのゲートを残したのか、それとも破壊する必要が無かったのかどちらかの可能性がある……という事ですね……」

「皆、少々動かないでもらえるでござるかな?」

突然両目を開けて注意を促した。

「楓君?」

「楓さん?」

「いや……ここについ最近誰かが来たような形跡があるのでござるよ……」

「ほ、本当ですか?」

「茶々丸殿は床を見て何か気づかれないかな?」

「……お待ち下さい…………確かに、そこの通路からこのゲートにかけての床に間違いなく私達以外の足跡が複数あり、積もっている埃の量が少ないようです」

「複数……と言う事はやはりフェイト・アーウェルンクス達という線が強いね……。ここで一体何をするつもりだ……禄でも無い事だとは思うが……」

「タカミチ、どうもここに来て、まだ微弱なんだけどこのゲート一帯に魔力が集中しつつあるように感じるんだ。多分魔力をここに集中させるのが狙いなんだと思う……」

「ネギ君がそういうならフェイト・アーウェルンクス達の狙いはそれで間違いなさそうだね……。他の11箇所のゲートを壊した事で行き場を失った魔力がここに集まっているという事かな」

「うん、多分そうだと思う。正直このゲートも破壊してしまえば奴らの計画は阻止できると思うんだけど……」

「2年は戻れない事になってしまいますね……」

「はい……その通りです、刹那さん」

「ここを破壊するのは……まずは調査してからにしよう。要石自体は壊さないで後で利用する事もできるからね」

「あ、そうか。壊れたゲートに移し替えればいいんだね?」

「そういう事さ。さ、本格的に調べようか」

他の既に破壊されたゲートの要石の代わりにここの要石を移し替えれば、わざわざこの危険地帯までやってくる必要が無くなるので重要な事だ。

「ゲートの調査は、拙者は専門ではないから一度飛空艇の様子を見に戻るでござるよ」

「楓姉ちゃん俺も行くで」

「私も行くアル」

「そうして貰えると助かるよ」

「お願いします」

ゲートに残って本格的に調査をするのは主にネギ、高畑、茶々丸の3人で行い、周囲の警戒を兼ねてまずは桜咲刹那が近くで待機することとなった。
破壊されたゲートの調査した経験から高畑が主に分析をし、茶々丸が映像を初めとする科学的データを収集かつオスティアで待機しているドネット達との通信を行い、ネギが魔力反応を、感覚を研ぎ澄ませて辿りながら2人とは違う視点からの意見交換をすること3時間、それなりの結論が出た。

「どうやら一度多量の魔力を注入しないと再起動はせず、強力な攻撃魔法でショックを与えるのは当然駄目……か。更にこのオスティアのゲートは通じる先の指定が旧世界側のゲートのどこかを選択できず、既にどこか一つに行き先が固定されているようだね」

「恐らくそれで間違いないでしょう」

「フェイト・アーウェルンクス達は他のゲートを壊しておきながらここのゲートだけ復旧させたかっただけっていうそんな単純な事が狙いでは無いと思うんだけど……。とにかく、ここの魔力濃度の観測は行ったほうがいいね」

「ああ、クルトにそうするように伝えておこう。魔力がここに集中するとなると一番危険なのはどちらかというと墓守り人の宮殿の可能性が高いんだけどね……」

「20年前の再現……って事?」

「その通り。ネギ君も見た映画だけど、当時の最終決戦の際異常な魔力の光球が発生したからね」

「世界の始まりと終わりの魔法って、やっぱり発動には魔力が必要ってことなんだよね……」

「魔法無効化能力が媒体となるにも関わらず魔力を必要とするその仕組みはよくわかっていないから詳しい事は……」

「それは仕方ないね……。アスナさんが攫われなければ大丈夫だとは思いたいけど……」

「近いうちにフェイト・アーウェルンクス達の方から接触してくる可能性は高いだろう……」

「うん……油断しないようにしないと。タカミチ、一応ゲートの確認でここまで来たけど……墓守り人の宮殿はどうするの?」

「ネギ君達のお陰でここまでのルートはわかったから次来る時から1日で一気に座標を当てにして来ることができるから特に急ぐ必要は無いよ。既にここに侵入された形跡があるから墓守り人の宮殿にも入り込まれている可能性は高いが、相手の戦力が分からない以上、リスクを冒してまで調査に乗り出すより、改めてジャックにも来てもらう方が良いから今回はパスしておこう」

「うん……。もし本当にフェイト・アーウェルンクスと今戦う事になるとしたら……それこそラカンさんの協力が必要だね」

「一度新オスティアに戻ってクルト、もうすぐ到着するセラス総長やテオドラ皇女殿下とも連絡を取り合って体勢を整えよう。茶々丸君、データは良いかな?」

「はい、問題ありません。全て記録しました」

「ありがとう、茶々丸さん」

「い……いえ、当然の事です」

「そんな事ないですよ、茶々丸さんのお陰でこの探索は実のあるものになりました」

「は……はい」

「よし、戻ろうか」

「うん」

「分かりました」

こうしてネギ達は素早く撤収の準備を済ませ、小型飛空艇に全員乗り込み新オスティアへ帰還することになった。
一方5人の少女達と言えば、ネギ達が新オスティアへ戻るルートに入ったのを確認し、ネギ達の目的がゲートを確認し旧世界への帰還ルートの探索に来たのだと判断したのだった。
これでネギ達が墓守り人の宮殿にまで調査の手を伸ばしていた場合かなり違う状況を呈した可能性があるが、高畑の慎重にすすめるべきという意見によって、途中夜になり一泊を安全な所で過ごしつつもネギ達は一路新オスティアへと戻って行ったのだった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月28日、3時頃、新オスティア、某浮遊岩礁地帯―

浮遊岩礁地帯から見えるオスティアは深夜にも関わらず光々と照明が輝いており、幻想的な夜景である。

「フェイトはん、お祭りは明後日からでしたっけ?」

「そうだよ。興味あるかい?」

「いいえ~。もとより人の間で生きられぬ性なれば……ウチには血と戦いがあれば充分ですえ」

「そうか……!ツクヨミ」

フェイトが反応し月詠のマフラーを引っ張り岩場に隠れると同時に雲海から突如巨大な飛空艇が出現した。

「はわっ?なんですのー。潜水艦おすか~?」

「アリアドネーの特務潜空艦だよ」

「刹那センパイがおったとこですねー。でもどうして北の小さい国がおるんどすかー?ここて一応南の大国はんの領地なんちゃいます?こんなトコにあんなんがいてええんですかー」

「アリアドネーだけじゃない。祭りに乗じて北の帝国の隠密艦も当然、南のも色々うろついてるよ。ここは要地だからね。平和の祭典とは名ばかりということさ」

「ややこしいですねー」

「逆にこの各国勢力が牽制しあっている時期でなければ僕達がオスティアの辺りに近づくのは難しいんだよ」

「へー。それで、アレ切ってもええんですかー?」

脈絡も無く特務潜空艦を切りたいと言い出す月詠。

「話聞いてた?……月詠さんなら切れるだろうけど……」

そう返すと同時に潜空艦はまた雲海に潜っていった。

「……それにしてもお姫様達皆ここに集まってまいましたなぁ」

「わざわざ帝国から運ぶ手間が省けたという所かな……。しかしあのジャック・ラカンが近くにいるというのは想定外だね……。ネギ・スプリングフィールド達は廃都に調査に出たようだけど……」

《フェイト様》

―召喚―

「調、焔、栞、暦、環」

次々と5人の少女達が仮契約カードによって召喚され、全員片膝をついて現われた。

「……早かったね。どうだった?彼らの動向は」

「はっ、ご、ご存知でしたか!ゲートの探索のみを行い今日にはオスティアに戻ってくるかと思われます」

「帰還ルートを探しに行ったか……。調、墓守り人の宮殿には彼らは行っていないんだね?」

「はい、その通りです」

「タイミングは良かったというべきか……魔力の対流は昨日丁度整ったばかり……。魔力が本格的に集中する前に向かってくれてある意味怪しまれずに済んだかな……。そろそろ……作戦を決行するよ」

「「「「「はっ!!」」」」」

「ウチも戦えるんですねー」

「手練が多いようだから一人に固執しすぎないようにね。陽動を頼むよ」

「はいなー。ところで……あんた達の目的はなんですか?」

「……世界を救う」

「ほう……それは」

そしてフェイト・アーウェルンクスらも……いよいよ作戦に取り掛かるのであった……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月29日、15時頃、新オスティア、中心街―

昨日ネギ君達がゲートの確認をして戻ってきたスよ。
話聞いてて分かってたけど、本当に目立った怪我も無かったし、食事もちゃんと食べてたみたいで全然問題なかったみたいね。
アスナとこのかはそれぞれネギ君と桜咲さんにしつこく怪我無いかどうか聞いてたけど。
とりあえず、ゲートの再起動には現段階では魔力が足りないらしくちゃんとした手続きを踏んで稼働させるようにしないと駄目らしい。
ま、でも最後のゲートは壊されずに残ってただけでも収穫スね。
一応地球に戻れそうで良かったー。
4倍ぐらい時差が本当にあればあっちはまだ8月の末頃だしねー。
戻ってきて早々高畑先生はまたオスティア総督府に出かけて総督さんに報告をしに行ったらしい。
ネギ君と小太郎君はラカンさんと組むのが高音さんの叔父さんだって事に凄く驚いてた。
丁度昨日ホテルの外でカゲタロウさんの影槍の威力とやらをサービスなのか見せてもらって、マジ強いのはよーく分かった。
ちょい腕を動かしただけで何本も影の槍が飛び出して標的として置いといたコンクリが軽くスパスパ切れたし……。
高音さんはそれ見て「流石叔父様、素晴らしい練度ですわね!」って超感動してた。
高音さんもあんな感じになったらと思うとマジこえースよ。
まほら武道会で高音さんの影槍も見たけどこうして比べると実際ホント全然威力違うのが分かる。
ネギ君と小太郎君は「ラカンさんに高音さんの叔父さん……凄い壁だ……」って悩んでた。
ラカンさんはどうもネギ君達に強くなってほしいのかはっぱかけてる節があるんだけどそんなに急ぐ必要あるのかねー。

そんな事考えつつココネと一緒に完全にお祭りモードになった中心街をフラフラしにきてる訳で……。
屋台で売ってるナギまんってネーミング安易だなーと思いつつ、安いもんだからついつい買っちゃったりして食べてみたら何か結構ウマイ。

「ココネ、これ美味しいよね?」

「うん、美味しい」

そりゃ良かった。

「だよねー!安くて美味いとか超りんの肉まん以来だわー」

妙にまほら祭に感じが似てて錯覚しそうだわー。
歩いてる人達が仮装じゃなくて紛れもない本物っていうのは大きく違うけど。
にしても箒レースやら野試合やってたり結構過激スねー。
地球でこの風潮は受け入れにくいと思うわ。
麻帆良ならまーアリかもしれないけどそれでも私闘が多すぎる。
そもそも常識として魔法世界には決闘がちゃんとした制度としてあって、合意の元なら死んでも仕方ないなんていうルールがある時点でどうかしてるんだけど……。
空にアリアドネーでちょい見た記憶のある飛空艇がちらほら見えてるからゆえ吉達が乗ってる巡洋艦ランドグリーズももう着いてる頃かな。

いよいよ明日から7日7晩のなんでもござれの終戦記念祭が始まるけどやっぱ目玉はナギ・スプリングフィールド杯スね。
これは間違いない。
明日から早速予選開始だけど、既に決勝戦の組み合わせはもう分かったようなもんだけどどうなることやら。
テオドラ皇女殿下が今日にはオスティアに着くらしく、つまるところダイオラマ魔法球がまたやってくるみたいで、ネギ君と小太郎君はもうちょい頑張れそう。
何かズルい気もするけど。
ま、ラカンさんは存在がズルい感じだし別にいいんじゃ?と思う。

廃都オスティア探索組を除く、まだ指名手配中のアスナ達はこの数日リゾートホテルから出ないようにしてたけど、明日すぐ式典が始まった瞬間に総督が祭り中の総督権限を行使して皆の指名手配を解除してくれるから晴れて自由の身になれるらしい。
こういう時権力ってスゲーと思う。
職権濫用と言ってもおかしかない感じするけど、元々無罪だし、当然スね。
さて、裏通りに行かないように気をつけてもうちょいココネと散歩すっかなー。

「ココネ次どこ行くー?」

「湖が良い」

「あー、この辺やかましいもんね。おっけー」

ココネは静かな所に行きたいみたいね。
まー、らしいっちゃらしいな。
そうとなれば行くかー!



[21907] 53話 魔法世界編12
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/13 18:40
―9月30日、9時頃、新オスティア―

ついに終戦20年を祝う、オスティア終戦記念祭が開催された。
連合からはメガロメセンブリア主力戦略艦隊旗艦スヴァンフヴィートを筆頭にした艦隊とそこから、降下して複数の鬼神兵が姿を現す。
帝国からはインペリアルシップ艦隊と、帝都守護聖獣の一体、古龍龍樹が姿を現す。
そして記念式典中のオスティアの警備を担当するのが強力な独立武装中立国であるアリアドネーのアリアドネー魔法騎士団である。
かつての前大戦が終わり、終戦協定が結ばれた場所と同じ式典会場では、連合からはメガロメセンブリア元老院議員主席外交官ジャン・リュック・リカード、帝国からは第三皇女テオドラの2人が握手を交わし、その後ろではアリアドネー魔法騎士団セラス総長とオスティア総督クルト・ゲーデルがその様子に拍手を送っていた。
それぞれの要人が終戦記念祭についてコメントを述べ、滞り無く祭りの開催が宣言され、周囲は一層の歓声に包まれた。
ネギ達はその式典を少し離れた所から見て、オスティアの祭り一色の熱気に驚いていた。

「いよいよ、終戦記念祭の始まりですね。アスナさん」

「はー、麻帆良祭もびっくりよねー」

「麻帆良祭も僕は驚きましたけど、ここのお祭りも凄いですね」

「仮装行列に見えるけど全部本物なのよねー。それでネギとコタロはこの後すぐ闘技場で予選でしょ?」

「はい、そうです」

「皆で応援するから頑張ってね。でも、無茶はしちゃ駄目よ?」

「ありがとうございます……アスナさん」

「……もー何よその顔は!そんな暗い顔してると私まで暗くなってくるじゃない!」

アスナは突然ネギの頬を両手で引っ張った。

「いたたた!何するんですかアスナさん!痛いですよー」

「よし、それぐらいの顔の方がいいわね。やっぱネギはその姿の方が……あ、ちょっとネギ身長伸びたわね」

「そ、そうですか?」

「そうよー。この前はもうちょっとここぐらいで……」

「あはは、よく覚えてますね」

「おおっ!アスナ!指名手配解除されたよ!」

そこへまほネットを確認していた春日美空が声を上げる。

「ほ、ホント!?美空ちゃん!」

「まほネットで今確認した所。間違いないスよ」

「総督のお陰ですね。良かった……」

「あー良かったー!何もしてないのに指名手配されるなんてたまったもんじゃないわよ!これで自由に行動できるわ」

「あ、でも1人にはならないで下さいね」

「それぐらい気をつけるわよ。いざとなったら私も結構強いんだから」

「そうですけど……相手はどれほどの戦力があるかわかりませんから交戦は控えてください。そもそも街中で戦ったりしたら夕映さん達アリアドネーの警邏の人達に通報されますし」

「え、そうなの?」

「そうですよ。野試合にしても一応決まった所でしかやってはいけないそうです」

「き……気をつけるわよ」

「必ず端末で連絡するか、1人で対応しようとせず、皆がいるところに逃げるように心がけて下さいね」

「ハハハ!アスナ心配されてるなー!」

「もー、何か私が子供みたいじゃない!ネギなんて本当に子供なのに!」

「いや、アスナ、私達皆子供だからね」

「え?」

「え?じゃないよ?大丈夫か?」

開催式典が終わると同時にネギ達にかけられていた指名手配は終戦記念祭期間中の総督権限により恩赦という扱いで解除された。
この情報を知ったフェイト・アーウェルンクスの部下の少女達は少なからず動揺をしたが、フェイト・アーウェルンクス本人は「指名手配が解除されようがされまいが大した問題ではないよ。作戦が成功すればいいだけだ。それよりも遠くから監視していた事で彼らの動きをきちんと把握できなかった事の方が厄介だね……。そういえばオスティアの総督は元紅き翼だったか……」と相変わらずの無表情で答えたのだった。

そして拳闘界の頂点とも言われるナギ・スプリングフィールド杯の決勝トーナメント出場を決めるための予選も初日から行われた。
ネギとコタローは拳闘士団には無所属であるため他の拳闘士達と異なり、闘技場で寝泊りしていない。
そのため、2人は選手専用出入口を通って試合に臨む事になるのだが、その出入口の前には大量の報道関係者及びファンクラブ会員達が待機していたため、2人がゆっくり人ごみをかき分けながら愛想を振りまきつつも、心中は非常に面倒だというものであった。
当の試合と言えば、相手がいわゆる「剣」闘士であったため、観客達はもう名物になっている武器の解体ショーを期待していたのだが、2人はその期待に見事応え、場内は歓声の渦に包まれた。
ネギ達関係者は皆特等席で観戦していたのだが、全員が同じ特等席のある部屋ではなかった。
それというのも、当の特等席には、テオドラ第三皇女、アリアドネー魔法騎士団セラス総長、メガロメセンブリア元老院議員主席外交官ジャン=リュック・リカード、オスティア総督クルト・ゲーデル、高畑・T・タカミチとジャック・ラカンという先の式典のメインであった人物達含め大物が揃っていたという理由が大きい。
何の因果か全ての国家勢力が集結するという様相を呈し、フェイト・アーウェルンクスらの問題について経緯を整理し説明するところから始まり、連合、帝国、アリアドネーの戦力状況を互いに認識するという作業が行われた。
途中ジャン=リュック・リカードが「あの拳闘士のネギって誰?」と聞くという間の抜けた一幕もあったが、ネギがまだ10歳の子供という先入観にとらわれ幻術を使っているという基本的な事に気付かなかったものの、知らなかったものは仕方ないだろうか。
因みにジャック・ラカンがそんな政治や軍事的な詳しい話についてはどうでもよく、テオドラ第三皇女から絡まれつつもさっさと隣の部屋に退散していったのは言うまでもない。
そしてその部屋では既に13時を過ぎまだ食べていない昼食をどうするかという話になり、「折角指名手配も解除されて堂々と街中を歩けるようになったのだから祭りの屋台を回りながら適当に食べ歩きがしたい」という一声により、主に指名手配されていた面々はそういう流れになった。
一方既に街中は前日までに見て回っていて、ジャック・ラカンとカゲタロウの試合まではそんなに時間も無く、どちらかというと生ける伝説の試合を直に見たいというクレイグ達と本物の叔父もいる高音・D・グッドマン率いる魔法生徒4人はその場に残る事にした。
街に繰り出したのは、元々リゾートホテルで待機しているドネットと茶々丸を除いたネギ達11人である。
終戦記念祭中のオスティア街中を11人で一緒に回るというのは煩雑であるが、地球では絶対に見ることのない、変わってはいるが美味しい食べ物を販売する屋台を巡りながら腹を満たし、アフタヌーンティーと言う事であるカフェの一角でネギ達は一息ついていた。
……しかし……そこで事件は起こった。


―9月30日、14時43分、オスティアカフェテラス―

―時の回廊―

フェイト・アーウェルンクスは、暦に与えたアーティファクト、時の回廊をネギ達がいるカフェの外から自ら使用し、彼等を除くカフェ内一帯の時間を極限まで遅延させた。
時の回廊とは、任意の効果範囲の時間操作を可能とする魔法具であり、擬似時間停止に近いことも可能である。
ただし、遅延させた効果範囲に範囲外から飛び道具などによる攻撃をしかけてもそれすら遅延してしまうため使い方には注意が必要とされる。

「暦、悪いけどもう少し借りておくよ」

時の回廊、見た目は砂時計をフェイトが暦に渡す。

「は、はい!フェイト様!で、でも……何故私にやらせては頂けないんですか?」

「少し心配だから……かな……」

「そ、そんな~!」

「すぐに任せるよ。悪いね、時間をかけられない」

―無限抱擁―

フェイトはまたしても環に与えていたアーティファクト無限抱擁をネギ達11人と自分達「6人」に直線状に関係ない者を巻き込む事なく発動させた。

「環、これも少し借りておくよ。無限抱擁の事が気づかれれば彼らの戦力から考えると環が危険だからね」

「ハッ!な、なるほど、了解したデス」

その瞬間カフェ内の時間は再度動き出したが、無限抱擁の中に取り込まれたネギ達はカフェの中から忽然と姿を消した。
無限抱擁という名の通り、無限の拡がりを持つ閉鎖結界空間が発生し、大量の巨大な白い柱が空に縦横ランダムに無数に浮かび、底はどこまでも続く雲海という現実離れした光景が広がる。
無限の広がりを持つだけあって、当然底に落ちればどこまでも地面は無くただ落ちていくだけである。

フェイト達は、未だほぼ完全に時間の停止したカフェを切り出したかのような場所のすぐ下に、かねてより用意していた広域遠距離転移魔法陣を完璧に敷設した。

「彼らは何らかの通信装置を持っている筈だ。この後は流れになるけど、壊せるようなら壊して」

「「「「はっ!」」」」

「わかりましたえー。あぁ、センパイ達止まっとるなんて……フェイトはん、まだですのー?」

「もう始めるよ。座っている場所順に1から9まで……。月詠さんの相手は5番だろうけど……好きにしていいよ」

「はーい」

「さあ、始めよう」

―時の回廊解除―

ネギ達はカフェで座った状態のまま無限抱擁に取り込まれた為、突然時間遅延が解かれ周りの光景が変わった事に驚く。

「え?」

「どこ、ここ?」

「何やコレーッ!不思議空間!?」

「お嬢様っ!?」

「こんにちは。数ヶ月振りかな」

最初にいたカフェの床ではなく近くに浮かぶ柱の上からフェイトが話しかける。

「貴様はっ!フェイト・アーウェルンクス!!」

桜咲刹那の発言でネギ達に緊張が走り、即座に構えを取る。

「そう、良く知ってるね。でも、これで2度目だ」

―発動―

「しまっ!!」 「またっ!?」

フェイトが指を弾いた瞬間敷設してあった魔方陣が発動し、ネギとアスナ以外はそれぞれ遠距離に飛ばされる。

「はわぁー、うふふ、ウチ、行って来ますぅー!」

月詠は恍惚とした表情を浮かべ、後を追うかの如く桜吹雪に包まれ転移した。
残ったのはフェイト達5人とネギとアスナのみ。

「フェイト……アーウェルンクスッ!」

「あんた達一体なんなのよ!」

「まあ、話をしに来ただけさ」

―時の回廊―

そう言いながらもフェイトはもう一度時の回廊を密かに発動しネギとアスナの時間を止める。

「さて、次の段階だ」

そう言いながらフェイトは続けて懐からスクロールを取り出し封印を解く。
……そこから現われたのは栞であった。

「栞、お姫様を頼むよ」

「はい」

栞は自分が出てきたスクールを懐にしまいながら、すぐにアスナの目の前に向かい時の回廊の効果範囲内に入る。
フェイトはその瞬間時の回廊を再度操り効果範囲をネギだけに絞り、アスナと栞を時間遅延から解放する。

「こんにちは、お姫様」

「ふむっ!?」

アスナは突如目の前に現われた7人目に驚いた隙を突かれ、口付けをされる。
アーティファクトの効果によってかアスナはその場で気絶し、栞は完全に姿をアスナに変える。

「栞、めぼしい荷物を取り替えて」

「はい」

倒れたアスナは特に鞄等を持ってはいなかったが、栞がポケットに端末と白い翼のバッジが入っているのを見つけ、取り替える。

「終わりました。スクロールに封印します」

「それでいいよ」

アスナの身体が光った瞬間スクロールの中に取り込まれる。
偽アスナとなった栞はスクロールを一瞬迷うも、フェイトに向かい投げて渡した。

「スイッチをいれて」

難なくスクロールを受けとったフェイトはそれをしまう。

「はい……スイッチをいれます」

「あとは皆の芝居次第だ。暦はタイミングを合わせてアベアットしてね」

「「「はっ」」」

アスナの姿をした栞から機械音がし……。

「……ん?アレ……私?」

―アベアット―

この間ネギの時の回廊による時間停止時間はおよそ30秒である。
飛ばされた9人がいきなり空中に放り出され落下し始めた状態から体勢を整え、周りの景色に愕然としながら見回して丁度という所だ。

「話をしに来ただって!」

フェイト達5人の立ち位置は時の回廊発動直前から一切変わっておらず、すぐにネギが時間を遅延される前に言おうとしていた言葉をそのまま放ち

「ハッ!そ、そうよ!あんた達と話す事なんて何もないわよ!」

「君達がそういうつもりでなくてもこっちには用があるんだ。ネギ君、おとなしくお姫様を渡してもらえないかな?」

「なっ!?」

「ありえない……」

―魔法領域展開―
―双腕・断罪の剣―

ネギは完全に戦闘態勢に入り両腕に断罪の剣を構える。

「ネギ・スプリングフィールド、貴様ッ!」

「いいよ、焔。やれやれ、血の気が多いね。人の話は最後まで聞くものだよ?」

「……なら続きを言えばいいだろう」

「お姫様を渡す、それだけで君達全員現実世界に帰れるようにしてあげるよ。悪くない取引だと思うけどね。僕達は彼女を今までやろうと思えばいつでも簡単に奪う事ができた。それをわざわざ紳士的に取引を持ちかけているんだよ?彼女に身寄りはいない。彼女がいなくなって現実世界で困る人間もいないだろう。元々彼女の麻帆良学園での8年間は……偽りの人格。偽りの記憶、人形の上に貼りつけられた薄っぺらな人生に過ぎないのだから……」

「…………言いたい事はそれで終わりか。フェイト・アーウェルンクス」

「偽りの……人格ですって……」

ネギとアスナはフェイトのわざとらしい挑発の数々に拳をきつく握り締める。

「事実だろう」

「違うッ!アスナさんはアスナさんだ。薄っぺらでも何でもない!見てきたように言うのをやめろ!お前に何が分かる!それに身寄りなら僕がいる!タカミチがいる!皆がいる!困らない人なんて、誰もいやしないッ!!」

「ね……ネギ……」

ネギが先に立て続けに言葉を返したため、アスナも怒ろうとした所タイミングを損ね、ネギの言葉で冷静になった。

「へえ……そこで高畑・T・タカミチの名前が出てくるということは全部聞いたのか。お姫様の記憶を消した張本人から」

「高畑先生を悪く言うんじゃないわよ!」

「いい加減にしろ……。そもそも話をしに来たという癖にこんな空間に閉じ込めておいて話も何もないだろう」

「受け入れてくれたら解くことを約束するよ」

この無限抱擁を発動したのはフェイトであり、フェイトが解除しない限りは無限抱擁から逃れる事はできない。

「くっ……」

「悩んでいる暇はあるのかい?君の仲間達で空を飛べない人達は今頃どこまでも落ち続けている所だよ?途中で柱に叩きつけられているかもしれないね」

「あんた達卑怯なのよ!」

「…………」

「お姫様、卑怯だと言われようとこれが仕事だからね。あきらめてもらうしかないよ」

「だが……絶対にアスナさんを渡す訳にはいかない……。この世界にアスナさんが縛られているというのなら……僕がその鎖を絶ち切る。お前達の世界を破滅させる計画もやらせはしない」

「ネギ……その言葉は……」

「確かに……君の言うとおり、ある側面から見れば確かに僕たちの目的は……この世界を破滅させることだ。だがそれも故あっての事だから……何も知らない君達は黙っていてくれないか。それで充分だ」

「始まりと終わりの魔法に一体どういう効果があるのかは知らないけど、魔法世界の崩壊をわざわざ早めるような真似をすると目の前で言われて黙っているわけにはいかない」

「……それはオスティアの総督から聞いたのかい?指名手配を解除してくれるぐらい仲が良いようだけど」

「お前に答える必要はない、フェイト・アーウェルンクス。だけど……やはり寧ろ何も知らないのはお前達の方だ」

「何だとっ!?」

「へえ……君にそんな事を言われるとはね。……でもそれは聞いても教えてはくれないんだろう?」

「この空間から開放して、アスナさんを今後一切諦めるなら……教えてもいい」

「フ……最初から分かっていたけれど、どうやらお互い無理な相談だったようだね。これで晴れて僕達は敵同士だ。しかし、こうなれば力の無い者にはどうすることもできない。焔、暦、環、調、ここは僕がやる。君達は他を協力してあたって」

「「「「はっ!」」」」

次の瞬間4人は転移魔法符で飛ばされた9人のうち、既に月詠の相手をしている桜咲刹那以外の残り8人のうち1人目の元に転移していった。

「さあ、始めようか。ネギ君、修行したんだろう?僕に勝てればここから出られるよ」

「やるしかないか……。アスナさん、皆の話は聞いてましたね?」

「もちろんよ!」

当然と言えば当然だが、端末は万一の時に備えて常に起動してあるのでここまでの会話でネギとアスナはアーニャを除く他7人の無事……を確認していた。
そもそもそれどころではない1名は桜咲刹那である。
これまでフェイトとの会話でネギとアスナが発した会話は性質上8人全員に聞こえていた。

「行きます!」

ネギは両腕に断罪の剣、魔法領域を展開したまま浮遊術で空中に飛び上がり仕掛けた。

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
  ―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
           ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
                 ― 千の雷!!! ―

「はぁぁッ!」

ネギの本気の魔法詠唱速度は、詠唱自体知覚できないレベルの音の羅列になるため、呪文の長い千の雷ですら2秒強という速さであり、まさに普通の魔法使いが魔法の射手を詠唱するよりも場合によってはそれよりも速い。
欠点は、高速で魔法を連射できても、当然魔力消費量の激しい魔法を何度も使えば、それだけ早く魔力が底をついてしまうという事である。
千の雷はそもそも広範囲殲滅魔法であるため一点に集中する魔力量はさほど多くは無く、放たれた側のフェイトは右手を軽く前に突き出してほぼ常時展開している曼荼羅のような多重障壁であっさり防いだ。
ただ、障壁で防がれなかった場所の柱は跡形もなく消滅し、足場が崩れた事でフェイトも浮遊術で空に上がった。

「……なるほど対軍魔法か。狙いは光と轟音で位置を知らせるという所かな……」

周りから煙が上がる中、フェイト・アーウェルンクスは悠然と宙に浮いていた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

突然フェイト・アーウェルンクスとその部下と思われる、修学旅行の時に見た神鳴流剣士1人を含む5人が現れて結果的に交戦するしかなくなった。
フェイトと話をしている最中に葛葉先生達から全体通信が入って来たから、皆フェイトが言うようにどこまでも落ち続けているという事は無い。
今僕とアスナさんの位置を知らせるのと攻撃も兼ねて千の雷をフェイトに撃ったけど……。

《ネギが千の雷を放ったわよ!》

《ネギ先生、光、見えました!》

《見えた!今からそちらに向かうでござるよ!》

《ネギ君、見えたえ!》

《見えたで!俺はもう向ってるから待ってろや!》

《ぐっ……私も見えたには見えたが……このフェイトの部下とゆーのは……厄介アルねッ!伸びろッ!一旦通信を切るアルよ!》

……くーふぇさんがマズそうだ。
問題のフェイトは……流石に父さんやラカンさんレベル……全然効いてない……。
コタローはアーティファクトの効果で僕がどの方向にいるのかすぐわかったから影の転移を利用してこっちに来てくれてる。

《ネギ先生、私も見えた。葛葉先生、どう見る?》

《円周を描いて転移させられた可能性があります。ネギ先生は2人に任せ、龍宮真名は私とお嬢様達の回収に》

《了解した》

《真名、葛葉先生、それなら拙者も分身を出すでござるよ》

《……では、長瀬楓もお願いします》

くーふぇさんがフェイトの部下の相手をしているということは……他の皆も狙われる可能性は充分にある……か……。

「いきなり大呪文か。不死の魔法使いの元での修行とジャック・ラカンの元での修行はそれなりに効果があったのかな。まずはウォーミングアップといこうか」

―障壁突破 石の槍―

無詠唱の貫通力が高い石の槍!
フェイト自信は飛んでいるのに右前方の柱から飛び出してくるって事は遠隔発動もできるのか!
修学旅行で使ってきた時よりも規模が大きい!
断罪の剣を投擲して分解するッ!
伸びる速度が速いっ……虚空瞬動で真上に回避!

―双腕・断罪の剣―

右手側だけ身長以上の長さに伸ばして魔法領域の外まで射程を作る。

「流石にそれぐらいは避けられるか。良いよ。そうでなくては。その剣で戦うというなら僕もこれで相手をしよう」

石の剣か!
分解できそうだとは思うけど……多分拳闘大会で使われる金属の剣よりも強度は高い可能性がある。

《ネギ!私も戦うっていったらやっぱり邪魔?》

《はいっ!今ここで入ってこられてもキツいです!柱を足場にしなければいけないアスナさんでは空中戦にはそもそも向いてません!》

「また会話中かい?集中してくれないと困るよ」

《わ……分かったわ……》

左横っ!?こんな近くにっ!!
動きも速い!
石の剣の刺突が魔法領域を突破してくる!

「だぁッ!」

断罪の剣を当てて抑えながら虚空瞬動で上方に回避!
倒さなければ出れないのはわかっているけどウォーミングアップと言ってる時点でまだまだ凶悪な技を持っている可能性が高くて迂闊に攻撃には出られないっ……。

「遅いよ」

上かっ!

「ッ!」

もう一度回避!
……一度のどかさん以外に仮契約カードでの召喚を試したい。
楓さんが召喚できさえすれば天狗之隠蓑でアスナさんを遠くに運ぶ事も可能なんだけど……。
千の雷の音が仮契約カードの召喚可能限界の10kmに届くのは後数秒の筈だ。
もし数十km単位で離れていた場合、雷鳴の届く音の一般的限界距離が15kmだから千の雷でも音が届かない事になるけど。
でも光が見えてくれたのはせめてもの救いだ。

「それにしても気になる障壁だね。似ているけれど、少し違う。それに吹き飛ばすつもりでやっても一瞬止められる瞬間があるというのは興味深い。今度はこれを見せようか」

また別の攻撃かっ!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

さて、ネギとアスナを除く9人が一体どういう配置で転移させられたかと言えば、ネギとアスナのいる位置を基点として半径30kmの円を描き等間隔、各人およそ20km程度となっている。
そんな中、暦、環、調、焔の4人は古菲の前に現われた。

「申し訳ありませんが、しばらく動けなくなって頂きます」

という調の第一声により戦闘が開始された。
まず暦と環の2人が古菲に近接攻撃を左右から仕掛け「行ける」と2人は思ったが、4対1という状況に油断し、本気を出さなかった為、繰り出された2人の攻撃を古菲はギリギリで見切ってかわし、カウンターに腰を落として掌底を2人の鳩尾に叩き込み吹き飛ばした。

「みぎゃっ!」「かはっ!」

「暦!環!」

「油断するなと!アデアット!」

調はアデアットした狂気の提琴で音波攻撃を放ち古菲のいる足場を粉々に砕いた。

「およっ!?」

「1度目はサービスです。2度目はありませんよ。焔」

この時ネギの千の雷の光が届いた。

「分かっている。よくも暦と環を!」

焔は発生した粉塵に向かい睨みつけ、足場が無くなった瞬間そのままバランスを崩し斜めに傾いた場所に落下する古菲を頭上から粉塵爆発が襲いかかる。

「しまッ!!」

―アデアット!!―

爆発によって一気に煙が発生する。

「直撃はしていませんから、命までは失うことはないと思いますが……」

「油断できない、調」

「伸びろッ!」

煙の中から古菲の声がすると同時に神珍鉄自在棍が突如伸び、焔に当たりそうになるが

―炎精霊化!!―

焔は精霊化で物理攻撃の回避を行い、難を逃れた。
煙の中から古菲が飛び出してきたが、背中の服はボロボロ、むき出しになった肌には火傷の跡もあるが、直前のアデアットで召喚した神珍鉄自在棍棒を盾にした上に硬気功を重ねる事でかなり防いでいた。
端末は懐に入れていた為無事である。

「戻るアルッ!凶悪なコンボアルな!それに当てたと思ったら実体が無くなるのは反則アル!」

「粉塵爆発の中でもその程度のダメージとは……そのアーティファクトは!」

神珍鉄自在棍を見て驚く焔に対して

「物理攻撃が効かない相手に戦う必要は無いネ!伸びるアルッ!!」

古菲は神珍鉄自在棍の太さ、長さを自在に変えられるという性質を活かし、棍を通常とは逆の方向に急速に伸ばす事で空中に浮かぶ白い柱を、爆音を上げて次々砕き折りながら、ある意味飛行状態を実現し、その場から逃走した。

「貴様、逃げるのかーッ!!」

「速い……。暦、環、無事ですか?」

「いたた……うぅ……無事です」

「油断……」

強く吹き飛ばされた暦と環だったが特に致命的なダメージを受けた訳ではなかった。
実際足場を粉々に砕いた瞬間に、最初から暦が手元に戻っていた時の回廊を使い古菲の時間を遅延させた上で焔が発火させれば確実に決まっていたであろうが、後の祭りである。

「逃がしたのは失態でしたが、せめて他の者の通信機は破壊しなければ」

「分かっている。次は必ず」

古菲以外にも既に犬上小太郎、長瀬楓はネギの千の雷が光った場所に向かっており、柱から移動できず身動きが取れないのは宮崎のどか、近衛木乃香、そしてそもそも連絡の取れていないアーニャの3名であった。
それの回収に向かう形で葛葉刀子と龍宮真名と長瀬楓の分身2体は先の転移魔法が円周を描いているという仮説を立て光が見えた方角を基点として動き出している。
桜咲刹那も月詠と戦闘を続けながら徐々に光の見えた方向に近づこうとしているが、烏族の羽で桜咲刹那は飛ぶことができるにもかかわらず、飛べない月詠に苦戦し、状況は芳しくなかった。

一方最大の強敵フェイト・アーウェルンクスと戦闘中のネギはと言えば……。

「う……くぅッ!」

「これぐらいでもう防戦一方か。失望させないでくれ」

フェイトが使用するのは石を用いた魔法だけかと思われたが高速高密度の砂塵を操る攻撃を開始し、ネギの魔法領域を全方位から覆い徐々に侵蝕するという窮地に追い詰めていた。

「ネギーッ!!」

アスナはその光景に叫び声を上げ、下から見守っていただけから一転、アデアットし、エンシス・エクソルキザンスをフェイトに向かい投擲する。
しかし、既に偽アスナである彼女のアーティファクトには魔法と気を無効化する能力は無く形だけの剣となっており、フェイトの曼荼羅障壁を突破することなく、片手で簡単に弾かれ、雲海の下に落ちて行った。

「そんな……一体どうしたらいいの……」

跳躍力はあるにしても空高い場所で戦闘を続けているネギとフェイトに介入する余地はアスナにはなかった。

ネギは魔法領域で砂塵の侵入を抑えているがジリ貧の様相を呈していた。
そこへ更にフェイトが空中に石の槍を数十本出現させ、これまた囲むように発射、猛威を振るう砂塵攻撃の上から更に一点突破力の高い槍が魔法領域にあらゆる角度から次々突貫し始める。

「これは……マズいっ!」

   ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―吹け 一陣の風 風花・風塵乱舞!!!―
    ―双腕・断罪の剣―
   ―魔法領域 出力最大!!―

強風を巻き起こすという性質上活用方法として色々な事に応用できる風花・風塵乱舞を上方に向けて発動、真上から突貫してくる石の槍で吹き飛ばなかったものは断罪の剣で薙ぎ払い、砂塵の包囲から脱出する。

「そろそろ出てくる頃かと思ったよ」

     ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
   ―小さき王 八つ足の蜥蜴 邪眼の主よ―
 ―その光 我が手に宿し 災いなる 眼差しで射よ―
         ―石化の邪眼!!―

「なっ!」―風精召喚!!―

フェイトはネギが飛び出して来た瞬間を狙って石化光線を指先から放ち、ネギは無詠唱風精召喚の囮を残して回避する。
しかし、一度吹き飛ばしただけの砂塵は直ぐ様ネギを追跡しだし、途中柱を粉々に砕いてはそれも砂塵として加えみるみるうちに砂の海のような量に膨れ上がる。

「量が……多すぎる!消滅させるしかないかっ!」

ネギはそう言い放ちながらアスナを巻き込まない位置に向かって飛び続け、上昇し詠唱を始める。

         ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
       ―契約により 我に従え 破壊の王―
  ―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
ネギの足元にオーロラのような光の膜が広範囲に発生する。
   ―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―
            ―天使の梯子!!!―

詠唱の終わりと同時に千を越えようかという光の破壊光線が放射状に次々と降り注ぎ、砂塵の海のみならず周囲の柱も跡形なく消滅させる。
砂塵自体元々ほぼ極小の粒子であるに関わらずそれすら完全に消し飛ばす光系最大広範囲殲滅呪文。

「はぁっ……はぁっ…………」

一度の魔力消費量が激しく術者本人にも極度の精神疲労による反動が出る。

「千の呪文の男の得意技だけでなく、こんな大呪文も習得していたとはね。今のは驚いたよ。不死の魔法使い直伝と言った所かかな」

周囲に邪魔となる柱は無く、フェイトとネギの2人だけの姿があった。

「砂塵が壁になったにしてもこの魔法でも……駄目なんて……」

持てる最大呪文2つを放っても遠距離からでは大して苦も無く防ぎ切られた事にネギは焦りを隠せない。
そこへ救いの声が届く。

《ネギ坊主、召喚を試せ!》

《ネギ!多分俺も行けるで!》

《わ、わかりました!》

―召喚!! 長瀬楓!! 犬上小太郎!!―

「ネギ坊主、無事でござるか」

「ネギ、怪我は無いみたいやけど消耗しとるな」

「楓さん、コタロー!」

ネギは即座に仮契約カードの召喚機能を使用し長瀬楓と犬上小太郎を呼び出した。
2名はそれぞれ縮地无疆の連用と影を使った連続転移で召喚可能範囲内に到達していた。
空中に召喚された長瀬楓は落ちそうになるが犬上小太郎の分身2体が足場として現れ1対3でフェイトに向きあう。

「へえ、もう近くまできてたんだ。速いね」

「お前がフェイトっちゅう奴やな!」

「楓さん、下にアスナさんがいます。お願いできますか?」

「あい分かった。足場の無いここでは拙者も分が悪いでござるからな」

長瀬楓がアスナの元に向かって下に飛び降りた所

「そうはさせないよ」

すかさずフェイトが多数の石の槍を長瀬楓に向かって放つ。

「あっ!」

「しもたっ!」

「アデアット!」

刺さるかと思われた瞬間長瀬楓は天狗之隠蓑を使用し、迫り来る石の槍を全て中に取り込んで防ぎ切る。

「あれは……天狗之隠蓑……」

天狗之隠蓑を見たフェイトは一瞬驚きをあらわにして呟く。

「ネギ!こいつを倒さんと出られんのやろ?」

「うん、間違いない。1人は無理でも……」

「2人で抉じ開ける!」

―契約執行 300秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!! 最大出力!!―
        ―短縮術式「双腕」封印!!―
         ―双腕・断罪の剣!!―
         ―双腕・断罪の剣!!―

「あぁぁぁッ!!」

「おりゃぁぁッ!!」―双腕解放!!断罪の剣!!―

「君のアーティファクトは見たことも無いね。いいだろう。2人同時に相手してあげるよ」

ネギと小太郎は左右に別れフェイトを挟むように接近し、断罪の剣を振るう。

「なんだこの障壁っ!?」

「固いッ!」

悠然と構えたフェイトに向かって振るった断罪の剣は多重曼荼羅障壁を1枚1枚突き破る度に侵入を阻まれる。
突破力としては断罪の剣で問題は無いが、フェイトが黙ってその攻撃を受けつづける訳も無く

「こちらからも行くよ」

石の剣が一閃、寸前でネギと小太郎は後退してその一撃を避ける。

「何だ……あの曼荼羅みたいな多重高密度の魔法障壁は。これで攻撃を防がれていたのか……。人間技じゃない……!!」

集中してフェイトの張っている障壁を確認したネギは驚きの声を上げる。

「よく言うね。ネギ君、君の障壁も既に人間技じゃないよ」

「へっ、要するに厄介な障壁やから、突破できる攻撃せなあかん言う事やろ!」

「できるならやってみるといいさ」

「上等ッ!!」「やるしかないかっ!!」

―咸卦・影装刺突!!― ―連装・断罪の剣!!―

小太郎は最大効率の咸卦法で強化した狗神を纏い、一本の槍と化した右腕で、ネギは破壊力を最高の状態から落とさないよう断罪の剣を連続発動し続ける右腕で曼荼羅障壁の突破を試みた。
曼荼羅障壁の特徴は通常の魔法障壁と基本は同じで、バリアのように周囲に張りめぐらせる事もできるが、戦いの歌のように対物魔法障壁を身体に直接纏うようにする事もできる。
そのため近接戦になった場合には、いくら打撃を入れようが、吹き飛ばして壁に叩きつけようが、障壁を突破できなければ一切ダメージが入らないという事が起きる。
因みに魔法領域も圧縮して身に纏えば同じ事ができるが、魔法領域内では発動者は自由に攻撃できるが、相手は常に高密度の魔力の層に阻まれ、場合によっては一切身動きを取らせなくさせる事すらできるというメリットを失う事になる。
但し、実際フェイトのような相手が格上の場合は圧縮して身に纏っても大差無いともいえる。
3人が切り結んでいる間、長瀬楓はアスナを発見し、天狗之隠蓑の中に無事に入れ、本体でフェイトとの戦闘に臨む訳にも行かず本体と同レベルの分身をもう一体出しネギと小太郎の加勢に加わった。

一方龍宮真名は移動中に長瀬楓の分身の1体に遭遇し、進む方向を間違えたと分かり、移動速度では最速の縮地无疆を連発できる長瀬楓の分身に運んでもらい逆方向に進み始めていた。
そして長瀬楓のもう1体の分身は気絶して倒れている近衛木乃香を発見した。

「木乃香殿!木乃香殿!」

「…………うぅん……あ……楓!」

「フェイトとやらの部下にやられたでござるか?」

「うーん、一瞬目の前に4人現われたのは覚えとるんやけど……気がついたら楓がおったんよ」

「そうでござるか。木乃香殿、怪我は他にないでござるかな?」

「ふむぅー、特に痛いとこあらんえ。……ん……ああ!ウチの端末が無いー!」

「なるほど、それが狙いでござるか……」

時間をかけていられないと焦ったフェイトの部下4人が現れて早々、時の回廊を暦がフェイトに習って気付かれないようにきちんと使用し、近衛木乃香の時間遅延を行っている間に接近し即効で気絶させられ、端末を回収されていたのだった。
ただ、近衛木乃香は戦闘要員ではないと認識されていたため、無駄に怪我をすることがなくて済んだのは幸運であった。
そのまま分身は近衛木乃香を抱えて次の地点に向かい同じく縮地无疆で移動を開始した。

フェイト達4人の部下はというと1番の古菲の端末破壊に失敗した後2番の近衛木乃香の元に飛び成功し破壊ではなく回収、続けて3番の長瀬楓の元に転移、縮地无疆の影響で陥没している足場を見て追うのは無理だと判断した。
4番の龍宮真名の元へ転移してみれば特に足場が壊れていた訳ではないが、周囲をしばし捜索してみても見つからず、5番の桜咲刹那は月詠が相手をしているので6番の犬上小太郎の元に行くも以下同様であった。
彼女達4人の誤算はネギ達の移動速度は基本的にかなり速い事を考慮に入れず、かつ無限抱擁を発動したのがフェイト・アーウェルンクスであるため、全体を監視する事が出来るはずが今回できないため、捜索する手間が増えていたという事である。
それでも間もなく、7番のアーニャと8番の宮崎のどかに関しては近衛木乃香と同様の手口でうまく行くのは数十秒後の事であった。

転移魔法を受けてすぐに戦い続けていた桜咲刹那は、恍惚とした表情を浮かべる月詠と既に優に200合を越える数、剣を交えていた。

「はぁ……はぁっ……いい加減にしろ、月詠!」

「センパイのいけずぅ~。もっとウチを楽しませて下さいー!」

―にとーれんげきざんてつせーん!!―

神鳴流の技名を間延びした声で放つ月詠にイライラしながらも太刀筋自体は凶悪なので桜咲刹那は真面目に対応せざるを得なかった。
そこへ突如月詠に銃弾が飛び、不意打ち気味であるにも関わらず

「はわっ、なんですのー」

二刀の小太刀をクルっと回して銃弾を弾いた。

「龍宮か!?」

戦いの音を聞きつけて駆けつけた龍宮真名と分身の長瀬楓であった。
桜咲刹那は空中に滞空したまま、月詠は近くの柱の上、そこから20mは離れた柱に2人。

「刹那、加勢はいるか?」

「ウチの戦いを邪魔せんでもらえますかぁー?」

―斬岩剣弐の太刀!!―

戦いを邪魔された事のお返しとでもいうのか月詠の目の色が反転した瞬間龍宮真名の持つ銃が真っ二つになった。
切り落とされた銃身がズリ落ち鈍い音を立てる。

「は、やってくれるじゃないか。酷い出費だ」

「弐の太刀は凶悪でござるなー」

「龍宮、楓、ここは私一人で問題ない。他を当たってくれて構わない」

「うふふ、センパイもウチと戦いたいんですねぇー?」

「断じて違うッ!」

「なるほど、戦闘狂という訳か。面倒だな」

「真名、刹那を信じて先に行くでござるよ」

「ああ」

結局一度桜咲刹那と月詠の戦いを中断させただけで2人は再び縮地无疆で移動を開始した。
丁度その頃近衛木乃香を抱えた長瀬楓のもう1体の分身は途中古菲の神珍鉄自在棍が複数の柱の上に橋のように架かって異様に伸びている光景を途中見つつも、移動を続け葛葉刀子に追いついていた。
分身には端末が無く、近衛木乃香も端末を無くしてしまった為これまで通信ができていなかった。

「葛葉せんせーい!」

「お嬢様、ご無事で」

「葛葉先生、木乃香殿を頼んでも宜しいかな?」

「わかりました。長瀬楓の方が、移動が速いのは間違いありませんね。あなたの分身含むネギ先生達はフェイト・アーウェルンクスと未だ交戦中のようです」

「そうでござるか……」

「葛葉先生、うち、4人の女の子達に気絶させられてもうたんよ」

「え!?お怪我は?」

「いや、どうやら彼女達の目的は端末のようでござる」

「うちはただ少し気を失ってただけや。端末は取られてもうたみたいなんです」

「……分かりました。だとするとこの先にいるであろう2人も気絶させられる可能性がありますが……無闇に危害を与えるつもりが無いのなら……」

「そういう事だから拙者はのどか殿とアーニャ殿を探しに行くでござるよ」

「お願いします」

「楓、気いつけてな」

「大丈夫でござるよ、木乃香殿。ではっ」

―縮地无疆!!―

「あれ速いなぁー」

「流石は甲賀の中忍ですね。では、参りますよ」

「葛葉先生、お願いするえ」

そして葛葉刀子と近衛木乃香はネギ達のいる方向に向かい移動し始めたが、同時に最も危険な戦闘地帯に近づきすぎる訳にもいかないので、その辺りは通信で折り合いをつけるしかなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

楓さんがアスナさんをアーティファクトの中に入れてくれたから、これでフェイトとの戦闘にアスナさんが直接巻き込まれる事はなくなった。
刹那さんはまだ戦闘中、このかさんは葛葉先生と一緒で、くーふぇさんが神珍鉄自在棍を使って撒いたフェイトの部下4人の目的は端末だったらしい。
くーふぇさんは未だに神珍鉄自在棍を伸ばしてこっちに来ているみたいだけどまだ数分はかかると思う。
楓さんとコタローぐらいの機動力じゃないと正直すぐに到着っていうには無理がある。
それにしても、僕とコタローが空中戦、楓さんの高密度分身が遠距離攻撃で戦っているけど……決定打が入らない。

  ―ヴィシュ・タル・リ・シュタル・ヴァンゲイト―
 ―おお 地の底に眠る死者の宮殿よ―
   ―我らの下に姿を現せ―
       ―冥府の石柱―

「何やっ!?」

一帯の柱をさっき消滅させたのにあんな大質量の石柱を複数召喚できるのか!

   ―障壁突破 石の槍―

石柱から石の槍を伸ばすのが狙いか!!
下から突き上げて来るのを横に避けて回避。
ん、伸びた石の槍から更に追尾式に石の槍が出てくる!
これはコタローがまほら武道会で戦った蘇芳さんと同種の技だ。
……もう一度吹き飛ばすしかない!

             ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
  ―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
           ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―

コタローはもう退避したっ!

                 ― 千の雷!!! ―

6本の巨大な石柱は千の雷でそれぞれ半分近く吹き飛ばせた。

「はっ……はっ……」

「ネギ、あと2回か3回やられたらキツいな……」

「うん……。今の攻撃から砂塵攻撃にまた発展されたらもっと酷くなっただろうから仕方ないけど」

千の雷級だとコタローが気づいてる通り後2回か3回やられたら魔力切れする……。

「俺達の方は余裕あらへん言うのに、あのフェイトは表情一つ変えへんな……」

「話してる場合なのかい?」

後ろっ!?
間に合わ

「ぐぁっ!!」

「コタローッ!!」

コタローがフェイトの攻撃で吹き飛ばされた。
今のは……八卦掌!
違う、そんな考えてる場合じゃないっ!

―連装・断罪の剣!!―

「はぁッ!!」

「今のでこの石の剣だったら彼は終わってたね」

この剣……分解するのに時間がかかるっ!

「一体どういうつもりだ!」

「それは僕が本気を出していないということかな?」

「ッ!!」

「できれば早く力の差を理解してお姫様を自発的に渡してもらいたいと思っててね。まあネギ君もしばらくすればもうすぐ魔力切れになるだろうけど」

―咸卦・狗音爆砕拳!!―

「でやぁっ!!」

コタローが体勢を整え直して、打撃を入れて吹き飛ばしたッ!!

「不意打ちのお返しや。さっきは結構効いたで」

「やれやれ、それで障壁を突破することはできないと分かっているだろう?」

ほぼ無傷か……。
ラカンさんと同じだと思えば仕方ないとは思うけど……次元が違う……。

「チッ……」

「くっ……」

「「「「フェイト様!」」」」

フェイトの部下4人!?
転移してきたのか!

「こりゃキツいで……」

「…………」

「お帰り、悪いけど下にお姫様を守っている人物がいるから行ってきてもらえるかな?」

「「「「はいっ」」」」

「待てや!!」

「君達の相手は僕だよ」

速いッ!

「だぁっ!……くっ何度も直撃せんで!」

今度はギリギリでコタローはガード。
後ろを向いてる余裕は無い……か……。

「コタロー、楓さんなら」

「大丈夫やな。しゃーない」

僕達が全員集まれば人数ではこっちの方が上の筈なのに……劣勢だとしか感じられない。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月30日、14時47分、新オスティア闘技場―

ネギ君達がオスティアの街中に堂々と出て祭り巡りに行ってた間、私達はラカンさんと高音さんの叔父さんの試合を見た。
クレイグさん達は超テンション上がってて今か今かって試合始まる前はワクワクしまくりだったね。
というかラカンさんとカゲタロウさんはそもそも拳闘大会の地方大会自体出てないのに出場できんのか?って思ったんだけど、それはもう大分前にどーにかなってたらしい。
でも全然告知はされてなかったもんだからいよいよ選手入場してラカンさんが出てきた瞬間観客席が一瞬シーンとなったと思ったらすぐにスゲーうるさくなった。
試合自体は……まー、相手の選手も戦意喪失っていうかその前にサイン欲しい的なアレになったんだけど、問答無用で適当に右パンチ(寸止め)一発だった。
寸止めって何?粉々になってない所?
カゲタロウさん何もしてないスよ?
高音さんは「程度というものがあるでしょう!」って席からガタッって立ち上がって思わず叫んだ辺り、カゲタロウさんの活躍を観たかったらしい。
ま、そりゃそうスよね……。
つーかネギ君達でもアレはいくらなんでも無理だろー。
よくラカンさんに修行つけて貰ってたな……。
まほネットで調べると
「死なない男」
「不死身バカ」
「つかあのおっさん剣が刺さんねーんだけどマジで」
が帝国拳闘界での通り名らしい。
いや、全然呼ばれても嬉しくないだろコレ!
伝説の傭兵剣士とかは除くにしても、千の刃の男ぐらいしかまともなの無いじゃないじゃんか……。
んで「40年以上前、少年奴隷剣士として戦いを重ねていた頃は死に掛けることも多かった。それらを乗り越えて帝国拳闘界の頂点を極め、奴隷身分から解放されて以降、傭兵として幾多の戦場を回るうちに圧倒的な強さが身についた」
とな。
……その圧倒的な強さが身についた辺りの話が端折りすぎだろー!!
戦場回っただけであんな風になるなら今頃世界はどこも世紀末状態スよ!!
死にかけて何度でも乗り越えるとかも、どー考えても何か別の惑星のDNAが混ざってるだろ。
宇宙人なんて……あ、火星人の知り合いはいたわ。
つかネギ君が言うには魔法世界は火星にある異界らしいけど、いやコレもマジ驚きだけど、そう考えると超りんはその事知ってて実は魔法世界生まれだからあーいう事言ってたんじゃ……?
まー、そうだとしても科学技術力の説明にはならないけど。

で、そんな感じで観戦終わってフラフラしてたら茶々丸からの緊急通信でネギ君達の反応がロストしたとの事。
は?
としか言いようがないんだけどオスティアのカフェがある座標で突然消えたらしい。
ドネットさんがそこの店に連絡したら確かに11人いた客が突然消えたとか。
集団神隠し型無銭飲食……じゃなくてこれはもー間違いなく例のゲートポートテロの連中の仕業スね。
すぐ高畑先生が状況を見に出て行ったんだけど……。

「私達も参りますわよ!」

「お姉様!」

「ええ!?」

「春日さん、何を驚いているのですか!当然でしょう!」

「あ、ハイ、そうスねー!」

……てな訳でその怪事件の起きた現場のカフェに急行。
闘技場からは割と近いカフェだったから十数分で着いた。
先に着いてた高畑先生が店の人に11人分の代金払っててネギ君達が指名手配解除された瞬間無銭飲食の罪になるのは回避された。
ネギ君達がいたらしい席は確かに飲みかけのお茶やら食べかけのケーキだけがまだ残ったままでホントに事件現場そのもの。
高音さん達と流れできちゃったけど実際私達ができること何も無いじゃん。
いつまでも店の中にいる訳にもいかないから店の外カフェテラスに出た。

「高畑先生、これからどうされるのですか?」

「困ったね……。茶々丸君によると半径3000km圏内には既にいないらしいんだが……その外側にいるとしても端末で通信してこないのはおかしい」

何だその半径3000kmって……。

「……考えられるとしたら……」

「どこか別空間に閉じ込められたという可能性が高いね……」

いやいやいや別空間って何。
ダイオラマ魔法球じゃないんスから。
まさに迷宮入りって奴スね!
なーんて言ってる場合じゃないけど、どこにあるかわからない別空間をどうやって見つけろと。

「フェイト……アーウェルンクス!!」

へ?
ネギ君の声?
振り返って見てみたら……ネギ君達、そこにいた。

「「はぁっ……はぁっ……」」

しかもネギ君と小太郎君はそのまま倒れた……って何だその怪我!?
槍みたいの刺さってるじゃんか!

「ネギ君!」  「コタロー!」 「ネギッ!?」

  「小太郎君!」   「ネギ先生ッ!」

     「ネギ先生!」   「コタロ!」

       「ネギ―――ッ!!」

楓のスカーフからアスナ飛び出てきて最後に強烈な叫び声上げた。

「……このか姉ちゃん、早うネギの手当してやってや……俺は大丈夫やから」

小太郎君も大丈夫じゃねースよ!!

「わ、分かったえ!楓、ネギ君に刺さっとる槍抜いて!」

「あい分かった!」

「このか君!?ここで抜いたら出血が酷くなるよ」

「まだ3分たってへんから治るんよ!アデアット!」

私たちがいることとか完全スルーで、このかがアデアットして巫女服っぽくなった。
もうここ路上とかどーでもいい。
楓がネギ君の右太腿、左腕、右肺?に刺さってる槍3本をあっと言う間に抜いて、当然……血が出る……いや……ちょっと待てー。

  ―氣吹戸大祓 高天原爾神留坐 神漏伎神漏彌命以 皇神等前爾白久―
―苦患吾友乎 護惠比幸給閉止 藤原朝臣近衛木乃香能 生魂乎宇豆乃幣帛爾―
               ―備奉事乎諸聞食―

「ぐっうわああああぁッ!!」

げげっ!?
ビシビシ音するんだけど大丈夫か!?

「ネギ君、大丈夫」

「はー……はー……」

……このかが長い詠唱してネギ君に抱きついたら怪我全部治った……。
どんな3秒……いや3分ルール……。

「よ、良かったー!!」

「ネギっ……良かったよぉ……」

「ね、ネギは治ったんやな……。ぐっ……俺も……はぁっ……」

小太郎君は自分で槍抜き始めたー!

「コタロー、大丈夫でござるか?」

「俺は獣化で……治るで」

―狗族獣化!!!―

…………はーもう訳わからんスよ。
カフェテラスで騒然とした状態になってネギ君と小太郎君の怪我がとにかく治ったのは良かったけど、そのまますぐ闘技場の救護室に戻った。
特に酷い怪我だったのがネギ君、小太郎君だったけどこの2人は治ったと。
他には楓とくーちゃんは何か火傷の跡が目立って、桜咲さんは切り傷が少しって感じだった。
他の皆はほぼ無傷。
このかが皆に治癒魔法かけてみるみるうちに治したのは驚いた。
いや……何かまほら武道会を思い出すと骨とか普通に折れてたのとかすぐ治ってたからアレかもしれないけど……。
……皆の怪我が治った所でやっとこさ落ち着いて、何があったのか確認を始めた……。



[21907] 54話 魔法世界編13(追加)
Name: 気のせい◆050021bc ID:899ac1f2
Date: 2010/12/17 19:33
―9月30日、16時頃、オスティア闘技場、救護室―

ネギ達が閉鎖空間から解放され、闘技場備え付けの救護室に移動し、しばらくして落ち着いた所でフェイト・アーウェルンクスらに閉じ込められた空間で何があったのかについて話が始まった。
ネギと小太郎がフェイトと戦闘中に、フェイトの部下4人の少女が現われた後、何があったのかと言えば、変わらず戦い続けた事には相違は無かった。
フェイトの部下4人が現れてから程なくして宮崎のどかは長瀬楓の分身に気絶しているところを発見、アーニャも同じく気絶している所を長瀬楓のもう一体の分身と龍宮真名に発見された。
そのまま彼女達もネギ達のいる中心に向かって再度移動を開始した。
フェイトの部下4人に追われた長瀬楓本体は分身を駆使して対応して逃げ続けるも、調の音波攻撃と焔の発火能力による粉塵爆発を虚空瞬動で避け続ける中、動きを読まれ一度直撃しかけ、古菲と同じく軽い火傷を負った。
その当の古菲はおよそ20kmを10分近くかけ、途中仮契約カードに戻して再アデアットを挟みつつも神珍鉄自在棍を伸ばして移動し続け、ネギに召喚を試すように伝えた。
フェイトの部下が現れてから古菲が通信を入れるまでの間は3分程であったが、その間にフェイトがまた発動させた冥府の石柱から砂塵攻撃への発展を許してしまい、ネギは止む無く3度目の千の雷を放ち相殺せざるを得なかった。
短時間で大呪文を4発、出力最大契約執行、更に断罪の剣と魔法領域の連用によって、魔力切れまで時間が無いという時に古菲の通信が入り、すかさずネギは召喚を行った。
しかしながら、やはり空中戦であったため古菲には分が悪く、仮に離れた足場から跳躍して攻撃を仕掛けたとしてもフェイトの攻撃の餌食になる可能性が高く、結果古菲は長瀬楓の加勢に出る他無かった。
そういう意味では空を飛ぶことができ、障壁を無視できる弐の太刀を扱える桜咲刹那を月詠が嬉々として抑えていたのはフェイト達にしてみれば実に正しい事であった。

「もう10分は超えてるけどよく持ったね。少し見直したよ」

「はぁっ……はぁっ……まだ終わっとらんで!」

「はっ……はっ……そうだ、まだ終わってない!」

酷く消耗したネギと小太郎に対して全く疲れを見せないフェイト。

「いや、これで終わりさ」

そう言い放った瞬間、冥府の石柱一本分と同程度の質量はあろうかという大量の石の槍がネギと小太郎の周囲を埋め尽くして出現し、一斉に襲いかかった。

「この数はッ!!」    「そんなんアリか!」

―双腕・断罪の剣!!―   ―咸卦・疾空白狼閃!!―
―魔法領域 出力最大!!―

即座に迎撃を2人は始め、最初の一瞬だけは完全に対応できたものの、あっと言う間に押されてしまった。
最も離れているところから射出された石の槍は半径から言って、その総数も至近距離に出現した石の槍よりも到達した段階での数は倍以上の差があり、捌ききれなかったものが容赦無くネギと小太郎の身体に突き刺さった。
僅か3秒の出来事である。

「ぐぁぁっ!!」   「がぁぁッ!」

ネギには3本、小太郎には4本が完全に決まる。
攻撃で捌くだけでなく身体を捻り回避したにしても、石の槍の総数から考えれば寧ろこの数で済んだだけマシだったと言えよう。
しかし、そのまま墜落すると思われた2人であったが、突如目を見開いて最後の力を振り絞るかの如く虚空瞬動し、ただの拳による打撃ではあったがフェイトの顔面を殴るという事をやってのけた。
小太郎の拳は障壁に阻まれダメージは一切無かったが、なんとネギが殴った方は確かにダメージになったのだ。

「へえ……この力は……。ハハハハハ、遺伝子のなせる技か、面白い。それでこそだ。ネギ君、敬意を表して今日お姫様を渡してもらうのはやめにしてあげるよ」

「な……何……?」  「何の……つもりや?」

2人は突然のフェイトの発言に驚きを隠せない。

「ただの気まぐれさ。僕には向上の努力の必要はないけれど、せいぜい次は楽しませてくれる事を願っているよ。それではまた会う時まで」

―無限抱擁解除―

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―9月30日、20時頃、オスティアリゾートホテル―

強敵だっていうのは分かっていたけど……全然フェイト・アーウェルンクスに歯が立たなかった……。
たった……十数分の事だったけど……奴がラカンさんと同じ次元の強さだというのはよく……分かった。
怪我もこのかさんのお陰で僕は治ったけど、コタローは僕を優先してくれて自力で反動覚悟で獣化、くーふぇさんと楓さんと刹那さんも怪我をした……。
それにアスナさんが今回攫われなかったのは本当にフェイトの気まぐれでしかない……。

「ネギ……今日はえらい目におうたな」

「そうだね……コタロー。それより怪我は大丈夫なの?」

「そら大丈夫や。獣化で致命的なとこは治したし、ちゃんとこのか姉ちゃんにも治癒してもろたからな」

「それなら良いんだけど……。何かごめん」

「何言っとんのや。今日の事は一つもネギのせいやないやろ。俺達の力があの白髪に及ばなかっただけの事や」

「本当に……及ばなかったね……」

「それで、ネギ、これからどうすんのや?」

「それは……決まってる」

「ハッ、そうやな」

コタローも同じか。

「次は絶対に負けない」「次は絶対負けへん」

「そうとなれば明日から修行やな」

「うん。折角ラカンさんとカゲタロウさんが拳闘大会で相手をしてくれるんだ。ラカンさんは、ラカンさんに絶対勝てないって言ってるようじゃアスナさんを守れない、フェイトには勝てないって言ってた」

「ああ、これは良い機会やで。あと本当に6日しか無いなら無理やけど、テオドラ姫さんが魔法球持ってきてくれとる」

「2ヶ月ぐらいは……行けそうだね」

「それぐらいあればネギも例のアレどういう形になるかは知らんけどできるならやった方がええな」

「うん……構想はできてるからやってみせるよ。数年あるならそれをしなくても地道に鍛えればいいかもしれないけど、はっきり言って時間が無い今、僕も咸卦法みたいな事ができないとどうあっても基礎力が足りないからね」

「俺の獣化の形態もそれなりにリスク背負っとるから似たようなもんやな」

「お互い出来る限り頑張ろう」

「おう、もちろんや」

僕とコタローはこれから6日間ナギ・スプリングフィールド杯決勝でのラカンさんとカゲタロウさんとの試合を次の目標として修行をすることにした。
さっきタカミチ達に何があったか話をして、フェイト・アーウェルンクスが接触して来た事で、アスナさんの件はもちろん他の面でも警戒を強めるために動く事になった。
そうは言っても連合・帝国・アリアドネーの軍事的な問題は僕1人がどうこうする事じゃないから、その点はタカミチ、総督、テオ様、セラス総長達が動いてくれる。
墓守り人の宮殿にフェイト達が既にいそうだというのは間違いないと思うけど、オスティア記念式典中に迂闊に攻め込めば、今お祭りに来ている人達が被害を受ける可能性があるし、そもそも式典のための艦隊しかいないから戦力的に考えて、増援を集めるのにもしばらく時間がかかるから、今は様子を見るしかないらしい。
アスナさんの警備はどうするのかだけど、恐らく街中だと今日と同じ手口で気づかないうちに閉じ込められる可能性があるから、アスナさんも基本的に魔法球の中で生活する予定だ。
アスナさんには大怪我した事でまた凄く心配かけちゃったけど、それでも僕は今できることをやるだけだ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月2日、12時頃、オスティア闘技場―

ネギ君達が例のゲートポートテロの犯人のフェイト・アーウェルンクスなる白髪の少年に襲われてとんでもない怪我してから3日目。
ここ2日高畑先生は色々対策に乗り出してるみたいでオスティアの総督さんとかの偉い人達と総督府に集まったりしてる。
当のネギ君達はっていうとテオドラ皇女殿下が持ってきたダイオラマ魔法球の中でもうずっと修行中スよ。
10倍の魔法球らしいから昨日の深夜から入り始めて……この時間だともう15日ぐらい経ってるんじゃないかな。
なんでも面倒なことにそのうちまたアスナを狙ってやってくるらしいからその対策だって。
修行すりゃ良いってもんじゃ……と思ったりするけど、実際テロみたいな事してくる連中ならそれぐらいしかネギ君達にはできないスよねー……。
高畑先生達大人はちゃんと動いてるし、いや、ラカンさんは別だけどさ……。
一昨日の一件すぐの時は皆ピリピリしてたけど大体皆魔法球で結構生活してて日数が経過してるからそこそこ落ち着いてる。
そのすぐの時、このかとのどかの端末が奪われ、小太郎君の端末は槍が刺さった時に運悪く大破したって言うもんだから、その日のうちに茶々丸の説明の元、端末からこのかとのどかの端末との接続を完璧に切る作業を皆でやった。
うっかり全体通信でこっちの情報が漏れかねないから仕方ないスね。
……んで、メインイベントのナギ・スプリングフィールド杯の予選は昨日も今日もネギ君と小太郎君は相変わらずあっさり勝ち進んだ。
決勝戦はネギ君達とラカンさん達の試合でほぼ決定になるだろうってその辺でもっぱらの噂になってるけど、拳闘士の試合そのものとして見る分にはちゃんと他の試合も見ごたえはあるんスよ。
力量差がありすぎると、速攻で終わるけど実力が均衡してればしてるだけ白熱するしね。
そんな周りがゴタゴタした中私は何やって生活してんのかっていうとですね……。
よくよく考えると、私は純粋魔法生徒で、今周りには他にココネ、高音さん、愛衣ちゃん、このかとアーニャちゃんがいるじゃん。
そんで、ネギ君達の修行に協力するって形で会議の合間にセラス総長が来ると。
ネギ君が何か魔法開発をしだすもんだから、資料集めとかその研究をセラス総長が手伝う、その更に合間に私達魔法生徒は世界でもトップレベルの魔法使いに魔法を教えてもらえるわけだ。
このか、アーニャちゃん、高音さん、愛衣ちゃんはノリノリで、私はそれに巻き込まれたというかそんな感じ。
因みにアイシャさんとのどかも気がついたら横にいたりする。
まあ実際勉強にはなるっちゃなるんだけど、うちの両親との取引を寧ろ自分から破ってるような気がしてならないスよ……。
まあ私の個人的な事情よりも、まずはこの魔法球のカオスをどうにかして欲しい。
セラス総長の特別講習中は魔法で遮断してるけど、常にあちこちから爆発音が止まないんスよ。
エヴァンジェリンさんとこの魔法球も多分いつもこんな感じだったんだなって今更よーく分かった。
高音さんは昨日カゲタロウさんが1人で影槍ってのを操ってラカンさんじゃないけど速攻で試合終わらせたの見て「流石叔父様ですっ!」って感動した流れで、魔法球が来てからは操影術の指導を受けてて、その爆発音の原因に仲間入りしてるから除くとしても、私とココネ、アーニャちゃん、愛衣ちゃんはこの惨状?に正直最初マジ引いたわー。
セラス総長も流石に最初やってきたときは驚いてたしな……。
まあ、それを言ったらクレイグさん達も見に来た時はドン引きで「旧世界の人達ってやっぱ凄いんだねー」ってクリスティンさんは遠い目してたし。
いやいや、流石に旧世界でもあんな連中がゴロゴロしてる訳じゃないスよ……完全に間違ったイメージを与えてるからねコレ。
ネギ君が開発中と思われる収束大呪文?を海に向かってぶっぱなしてるの見たけど何あの戦艦の主砲みたいなのは……魔法使いは究極的には砲台とか言うけどそれにしても……ねぇ……。
その割に「これじゃまだまだだ……」とか落ち込んでたし、どんだけフェイトってのは異常なんスか。
他にもネギ君がある程度時間かけて雷の投擲の槍を大量に出して、それで小太郎君を囲んで一斉発射、その逆もやってたり修行の割には常に命懸けすぎるだろー。
後は巨大岩を身体に乗せて腕立てとかそんな修行……10歳とかでそんな事して身体が大丈夫なのかって疑問に思わなくもないからちょっと理解に苦しむわ……。
ネギ君と小太郎君はそれ以外に、それぞれ別れて凄い遠くの海に飛んでってその洋上で何かやってるらしいけど、それは秘密らしい。
帰ってきた時にネギ君は髪の毛が一部変に短くなってた事があったんだけど……絶対散髪してたなんて単純な話じゃないんだろーな……。
アスナはまた無茶やってるんじゃないかって心配してるのは、確かに尤もな話。
でも……またっていうか私からみれば全部無茶苦茶スからね。
そんな光景の中ただ変わらないのは、よく食べてよく寝てるとゆー事ぐらいだな。
因みにネギ君達の相手するラカンさん本人はっていうと魔法球にはあんまり入ってないんだよね。
まあ一応対戦相手って事もあるんだろうけどさ。
……それにしても、魔法世界来てからというもの異常事態の連続すぎてもー何がなんだか……。
廃都オスティアにあるっていう要石早くメガロにでも移設しないかなー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―8月25日日本時間18時13分、麻帆良―

運命の日まであと丁度2日、ほぼ準備万端の状態である。
優曇華内にも魔分組成のゲートを作成した為魔法世界と火星の同調の際にそのまま宇宙に打ち上げてしまっても、燃料としての魔分供給はゲートを通して行える為半永久機関化、当然転送も可能なので、広大な宇宙空間のどこかから行ったり来たりできてしまうという仕様に仕上がった。
宇宙開発に携わっている人達からするとまさに夢だらけの方舟状態である。
自給自足しようと思えばアーチ内には一般的な魔法球を超える広大な亜空間が広がっているので作物、薬草は栽培したい放題、基本の環境設定は優曇華でできるし、超鈴音の科学技術力を以てすればアーチ内に植物工場を建て工場栽培することも容易である。
もっと酷いのは、魔法球の中に魔法球を入れる事はできないが、アーチ内には更に魔法球を持ち込む事ができるため、空間的にはもう何でもアリな状況に成り得るという事だろうか。

それはさておき、3-Aの生徒達はネギ少年達が2週間近く経っても帰って来ていない事でてんやわんやしている。
特に雪広あやかの症状が酷い。
エヴァンジェリンお嬢さんの所に訪問し「ネギ先生達がどこにいったかご存知ですか!?」と聞くものだから、お嬢さんは「落ち着け委員長。ちょっとした旅行だよ。もうすぐ帰ってくるさ」と軽く対応されていた。
そんな事よりも、先日接触するべきかどうか考えていた人物であるが、驚いたことにあちらから超鈴音の元にやってきたのだ。
ザジ・レイニーデイである。
普段は寡黙で、意思疎通はジェスチャーで行い、そこから詳しい事を汲み取れるのは先の雪広あやかぐらいなものだが……。
場所は夕刻の超包子の屋台、超鈴音が珍しくゆっくりしていた所である。

「………………」

相変わらずの無表情であり何も話さず、超鈴音の目の前に現れてじっと見つめる。

「おおっ?ザジサン、何か話かナ?」

これには流石の超鈴音も目を少し見開き驚きを隠せない。

「…………」

ザジ・レイニーデイはコクリと頷きちょいちょいと指で超鈴音を招く。

「……ふむ……分かたネ。構わないヨ。五月、また明日ナ」

「はい、超さん、また明日」

そのまましばらくザジ・レイニーデイの歩む先に向かい超鈴音もついて行った。
その先とは……神木・蟠桃の所だった。
正直これは驚かざるを得ない。
木の根元で終わりかと思えば跳躍して木に登り始め、超鈴音はやれやれという顔をしながらもそれについて登り出した。

《超鈴音、何聞かれるかは知りませんけど適当にどうぞ》

《ザジサンは翆坊主の事を知ていたのカ?》

《わかりません、存在の薄い幽霊でさえも見えるらしいですから私とサヨがこの麻帆良学園で浮遊しているのを見たことぐらいはあるのかもしれませんね》

《というか彼女は何者ネ?》

《高位の魔族……かと》

それこそラスボス級の……。
正直魔界に関しては、神木の観測範囲外も良いところであり、世界としての成り立ちとして完成している事を除き詳細は不明である。

《ハハハ……3-Aのクラス編成は……何なのだろうナ》

《近衛門殿はザジ・レイニーデイが何者か知らず、勘だけでこのクラス編成にしたのですから驚きですよ》

別に同じクラスである必要性も無い筈にも関わらず、思わず一箇所に集めてしまったというのは何というか凄い。

《そうか、学園長もそんな事知る由も無いカ。確かに素晴らしい勘だナ。いつになく至近距離だが見ているといいネ》

《そうさせてもらいます》

頂上とはいかないがそれなりに高い位置でザジ・レイニーデイは枝に腰かけた。
それに習って超鈴音も腰をかける。

「……話はここでいいのかナ?」

「…………」

ここに来ても返答は頷きで返すザジ・レイニーデイだった。

「…………ふむ」

「…………」

「…………」

しばし沈黙が続き……。

「……何故、未来に帰らなかったのですか?」

「…………唐突だネ。それより私が何者なのかザジサンは知ているのカ?」

「……100年先の未来の火星から歴史を変えるためにやってきた地球系火星人。魔法を世界に知らせる為の強制認識魔法を発動させ……失敗するはず……でした」

えー?
いやいや、歴史の内容を何故知ってる……。

「…………ハハハ、実に端的な説明だネ。合ていると言えば合ているヨ。ところでその情報は歴史を知ているかのようだが……一体何ネ?」

「……私は過去と未来を繋ぐ流れをある程度視る事ができました」

何故か過去形だが……とんでもない事を言い出したな。

「……なるほど、未来視的な物カ。それで、そんな重大な事を明かしてまで私に聞きたいのはどうして未来に帰らなかったという事カ?」

「そう……。視える未来が不安定になりだしたのは2年前から、ついに完全に視えなくなったのは学園祭の時です」

「ふむ……私が未来に帰る筈が帰らなかったのが影響と言いたいのカ」

「そう……」

「それは迷惑をかけたようだが……私の影響では無いヨ」

「困ってはいない……ただ気になっただけ。……この木の事も」

そこで来るか……。

「…………ならば時間跳躍をしたのが私だけではないとしたら……と言えばわかるかナ?」

確かにそれが答えだろうな……。
干渉したのは神木だけだから影響範囲外の魔界は混乱しているという事か。

「…………分かりました。それで……解決しますか?」

……なんと意外にもあっさり納得してくれた。

「もう……間もなくだヨ。そういうからには止めるつもりは無いのかナ?」

「はい……。でも私の姉は……そうではないかもしれません」

《超鈴音、ザジ・レイニーデイの姉は完全なる世界の協賛者です》

《それは……大変だネ》

《ザジ・レイニーデイの態度から考えて一つ聞いてもらえませんか?》

《神木が魔界では必要かどうか、かナ?》

《ええ、その通りです。多分要らないと言うと思うんですけどね》

「……時に、魔界ではこの木は必要とされているのかナ?」

「……私が何者か知っているのですか?」

「少し聞いたんだヨ」

「……この子からですか……」

いやいやいや、気づいてるのはともかくとして、枝を撫でながらこの子呼ばわりされたんですが……。

「この子……というには……まあそうかもしれないナ」

見た目的にって事ですか。

「私の故郷では……必要としないでしょう。魔界は完全なる世界ですから」

やはりそうなるか。
魔力の枯渇がない常に安定した世界だから当然と言えば当然だが。
それにしても魔界を称して完全なる世界とは……。

「それならば……この子も安心すると思うヨ。その完全なる世界のお姉サンは止めないのカ?」

「姉が動いたら……私は少しだけ先生の手助けをします」

姉妹関係がどうなってるのかサッパリだ……。

「そうカ……。ネギ坊主達の帰りは皆が待ているからナ」

「その時は皆で一緒に『おかえり』をします」

「……そうだネ」

「……聞きたい事は終わりです」

「ふむ、では帰るとしようカ」

「………………」

ザジ・レイニーデイは再びコクリと頷き話すのをやめた、が……。

「………………」

「ザジサン、この木に用かナ?」

凄い見つめられている訳で……。

「……おつかれさま」

ははは、そういう事か。
出るか……。

《労い感謝します》

「初め……まして」

《こちらこそ、初めまして》

「……あなたは……何が好き?」

唐突な質問だな……。

《……そうですね……簡単な答えなら全部ですかね。人間を含めて》

「私も同じ」

《意見があったようで》

「うん。……またね」

《ええ、また》

「ははは、翆坊主、またナ」

《はい》

……こうして超鈴音とザジ・レイニーデイは木からひょいひょい降りていき女子寮に戻っていった。
しかしながら新たに知り合いが増えたのがまたしても人間ではないというのは何の因果であろうか。
……少なくとも彼女が邪魔をする、害を為すという事はないと思われるので計画の実行に関しては安心であろう。
とうとう地下ゲートポートから僅かに魔法世界の魔分が漏れ出し始めており、運命の日はもう間近である。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球内―

現実時間で明日の15時にはラカンさんとカゲタロウさんとの決勝戦。
もう5日目も終わりそうで、外にいた時間もそれなりにあるからこれで大体45日はぐらいは魔法球内で修行できたかな。
この期間で、必死に修行しただけあってかなり実力が向上したのは間違いない。
技法の完成には一度完全発動させないと駄目だろうけど……リスクが高い……。
失敗したら即死する可能性もある……。
けど……絶対に成功させてみせる。
最初のうちは髪の毛で試してたけど、やっと、体の動きに関係無い箇所で部分的に試しても安定はして来た。
失敗した時はこのかさんのアーティファクトのお世話になって、心配もかけて「危険な事はやめなさい」って言われたけどこれ以外に、リスクを払って今僕が得られる技法は出力的に考えてもこれ以外に無い。
そして今いつも通り魔法球の洋上にいる。

「ネギ、ここに呼んだ言う事はやるんか?」

「うん……」

「引き返すなら今のうち……やないのか」

「それでも……僕はやるよ。自分で決めた事だ」

「……分かったで。もしもの時の為にこのか姉ちゃんはすぐに呼べるようにしてあるで。分身がこのか姉ちゃん連れて影でここに転移してくるからな」

「ありがとう」

「ああ、絶対成功させろや。信じとるからな。アデアット」

「させてみせるよ」

「これで状態は常に把握しとるで」

「うん、じゃあ、始めるよ」

僕がやるのは……自分の中の陰の「気」と陽の「魔力」の合一の咸卦法とは異なり、自分と陽の魔力つまり世界との合一。
自身の肉体と魂を分解し、全てを魔力……魔力の根源で再構築しなおし、森羅万象、万物に宿る自然エネルギー、魔力そのものと自ら同化する事。
失敗すれば世界に引き込まれてそのまま消滅する可能性がある。
一度再構築して安定させた後術を解いて元に戻れれば、成功。
それ以降は色々制約を決めてやれば術のオンオフができるようになる筈だ。
これを考えるに至った発端は刹那さん達神鳴流の人達が扱う弐の太刀と呼ばれる技が気を自由自在に扱える事を前提としているのを知った事から。
陰陽を表す太極図、白黒の勾玉が組み合わさってできる円の形は気と魔力が互いに対立する2つの力であるのを示している。
咸卦法はこれを合一することによって気とも魔力とも異なる3つ目の咸卦のエネルギーを得るものだ。
僕が行うのは太極図の色で言うと黒の陰である「気」の部分を全て白の陽である「魔力」に変えて全てを白い円にするというもの。
相反するものが無くなる事で出力的には咸卦法を超えるポテンシャルが得られる筈だ。
うまくできさえすれば2つの白の陽である「魔力」の勾玉がお互いを飲み込み合う事で流れが発生し、出力の自乗化も夢じゃない。

……さあ、始めよう。

     ―此処に契約を為し 真理之扉を開く―
   ― 一は全に 全は一に 我は世界に 世界は我に ―
―陰之気を捧げ 太極を改め司るは 万物に宿りし陽之気―
     ―始まりは終わりに 終わりは始まりに―
    ―灰は元に 塵は元に 夢は現に 幻は現に―
      ―此処に在りて此処に在らず―
        ―森羅万象・太陽道!!!―

「うぁぁぁぁぁッ!!」

始まったッ!!
強烈に引っ張られるッ!!
精神が持たなければあっという間に消滅してしまうッ!!
まずは分解からだッ!

        ―双腕・分解!!―
        ―双脚・分解!!―

「ぐぁぁぁぁぁッ!!」

手足は出来たッ!!
魔力の根源の感覚を思い出せッ!!
粒子の加速をイメージしろッ!!
次は絶対に失敗できないッ!!
胴体と頭全部は一気にやるッ!!

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球内―

魂の叫びみたいな声を上げて……ネギの奴マズイんちゃうか……。
それにこんな誰でも分かるような膨大な魔力の流れが渦を巻いてネギに向かって集中するやなんて尋常な事やないで。
これやと陸におる姉ちゃん達も皆気づくレベルや……。
アーティファクトで感じる今のネギは生死の堺を極端に行ったり来たりして彷徨っとる感じや。
既に分かる感じ肉体の分解が終わったようやけど再構築が始まらんッ……。
このか姉ちゃん呼んだ方がええのに変わりあらへんけど……失敗したらこれは肉体的損傷が残るどころでは済みそうにあらへんな……。
まほら武道会の後、刹那姉ちゃんが弐の太刀の修行しとるのをネギが見てから陰陽術の理論にも興味持って勉強しとったのは今更やけど……どうそれ使うかはようわからんかったがここまで不安定な技法とはな……。
俺が寿命をリスクにしとるとしたらネギの奴は自分の存在そのものをリスクにしとるで。

《がぁぁぁぁぁッ!!》

しっかし……それでも俺にはネギが成功することを信じて待つ事しかできん。

「コタ君!」

俺の影から来おったか。

「このか姉ちゃん!」

「ね、ネギ君!?あっちからでも分かったけど何やのこれ!」

「邪魔はできんで……下手に触れればネギは死ぬかもしれん……。今ネギは肉体を分解して、再構築しとる所や」

《あぁぁぁぁぁッ!!》

「分解!?ほな、ネギ君の身体が一部分無くなったような怪我してたんはそのせいなん!?」

「そうや……」

「コタ君はどうして止めへんかったのっ!?」

このか姉ちゃんは俺の分身に抱えられたまま本体の俺に、掴みかかった。

「ネギは自分の為やなくてアスナ姉ちゃん達の為に頑張っとる。これはネギが自分で考えて自分でやると決めた事や。俺に口出しはできん。でも俺は絶対にネギが成功すると信じとる。信じるしか……無いんや」

「む~!!だからってこないな事しなくたってええのにっ!」

「このか姉ちゃんもネギを信じてやってくれへんか?」

「当たり前やよ!うちもネギ君信じとる!」

「ほな、頼むで……」

《なぁぁぁぁッ!!》

存在が薄くなったり強くなったり……ブレが激しすぎるで……。
この感じやと……時間かかりそうやな……。
自分で考えた術やろ、使い方はお前が一番知っとる筈や。
必ず生きて戻れや、ネギ。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球―

ネギが太陽道を発動させた途端、魔力が渦を巻いてネギに集中しては別の箇所から同じように渦を巻いて放出されるという現象が起き始めてから間もなく、小太郎と近衛木乃香だけだった所に桜咲刹那は翼で飛んで、他の面々は箒で飛び、水面歩行ができる面々はそのまま走って現われた。
到着してみれば、まるで前大戦の墓守り人の宮殿で発生した異常な魔力の集中する現象のようにも見える光景を前に皆絶句し、ネギの状態が感覚でわかる小太郎によって説明が行われたが、人体の分解と再構築という言葉の前に更に絶句するしかなかった。
洋上という関係上アスナが勢い余って魔力の奔流に包まれるネギに不用意に近づいたりという事は無かったが、ネギの魂の叫び声が鳴り響く一帯は心が揺すぶられ、近くにいると辛いものがあった。
魔法球の外にいたジャック・ラカンも呼ばれ、やってきてみれば彼をして「これはやべぇぞ……ぼーず……」とおふざけ無しの本音を言わしめた。
ネギの魔力体が再構築しかけたかと思えば、部分的に消滅したりと不安定な状態を続け、気がつけば10分、30分、1時間と時間が経過して行った。
セラス総長の知見では魔力の奔流が安定して収まった時が分かれ目で、その際に消滅すればそれ切り、再構築できれば成功であろうという事だった。
いずれにせよ全く前例の無い試みでありどれ程の成功率なのかは分からない、そもそも初の例であり成功率そのものを図る事すら意味が無いという状況であり、ただただ、無事に再構築が完了するのを信じ、祈るしかなかった。

……当のネギはと言えば、加速した魔分の粒子の奔流の中で意識も同様に加速しており、現実に経過している時間の何倍どころではなく極大化した時間を体感していた。
魔力は濃い所から薄い所へ流れるという現象に従い、ネギの魔力体はその周りの空間に強烈に引き込まれる為、ネギは消滅しかけるのを精神力で耐え、なんとかして制御し再構築を果たそうと必死であった。
いつ引きこまれて消滅してもおかしくない状況下で、ネギの精神がギリギリで耐え、その場に繋ぎ止められていたのは、意識の端でアスナ達が近くにいてネギの名前を呼び続けていたお陰である。

……そして2時間が経過しようかという時、突如魔力の渦が急速に収束し始めた。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月5日、ダイオラマ魔法球内―

皆の呼ぶ声が聞こえるッ!!
アスナさん達が外で待ってるんだッ!!
絶対に、生きて戻るッ!!
行くぞッ!!

―空間掌握!!!―魔力収束!!!―

あぁぁぁぁぁッ!!

    ―再構築!!!―

…………できた……。
気がついてみたら……アスナさん、コタロー、皆すぐ近くにいてくれたんだ……。
あれ……何か視界がおかしい気が……上、下、後ろまである程度わかる……。

「ネ……ギ……ネギィィッ!!」 「ネギ!やりおったな!」  「ネギ坊主!」

  「ネギ君!」  「ネギ先生!」 「ネギ君!」

  「ネギ坊主!」 「ネギ!!この馬鹿ッ!」  「ネギ君!」

  「ぼーず!!戻ったか!」

「アスナさん……ちゃんと戻ってきました。うっ……ちょっと苦しいですよ」

ここ海の上なのにアスナさん飛びついて来た。

「馬鹿馬鹿、バカネギ!!どうしてこんな危険な事したのよ!心配……したじゃない……」

「心配かけて……ごめんなさい。でもアスナさん達のお陰で戻ってこられた気がします。南極の時と同じですね。もう2度もこんな事やってしまって……」

「ホントよ!麻帆良でもそうだったけど、こっち来て南極で死にかけたかと思ったらまたなんだから!ってちょっと何かネギ目が輝いてるわよ」

「目が輝いてる?」

「言葉の表現とかじゃなくてホントに」

海に顔を映してみてみたら……確かに目の虹彩が不規則に輝いてる……。
あっ……それより一旦、太陽道を解除しないとまだ終わりじゃない……。

―太陽道・解除―

…………はぁ……ちゃんと元の身体に戻れたかな……。
視界も元に戻ったみたいだけど……。
うっ……なんか凄く身体から力が抜けてきた……。

「ちょっとネギ!?沈むわよ!」

「ネギ!反動かっ!」

だめだ……力が入らない……。
それにしても気が異常に少なくなってるのは……太陽道の影響か。
ある意味…………太陽道を解除する時に、気が一切残らなかった場合、問答無用で即死する可能性があるな……。
リスクが高いのは…………分かってたけどちゃんと把握しないと駄目だな……。

「ちょっとネギ!!しっかり!」

うぅ……凄く眠い……。


―10月6日、ダイオラマ魔法球内―

……目が覚めて起きてみたらまたアスナさん達に心配された。
なんでも魔法球の中で2日近くも眠ったままだったらしい……。
丁度日付は現実時間で10月6の午前0時台ぐらいだって。
動いてみたら凄くお腹が空いてて一杯食べ過ぎた……。

「よお、ぼーず、気分はどうだ?」

「ラカンさん!良く寝たのでスッキリしました」

「そりゃぁ良かったな。しっかし、あのやばそうなモンは結局何なんだ?」

「一応太陽道と命名しました。基本的には一時的に魔力容量を無視して魔法が使えるようになるという物です」

「はぁー、魔力容量を無視とは大層なもんだな。その代わり失敗すれば死ぬってか?」

「はい……多分そうです」

「……まぁぼーずが自分で手に入れた力だ。しっかり制御しろよ」

「はい。まだ初期発動に成功しただけなので、調整しないと全然使えないんですが、制御できるように努力します」

「おうよ。そんじゃ外の15時間後、戦ろうぜ、ネギ」

ラカンさん、初めて名前で呼んでくれたような……。

「はいっ!」

この後5日近く魔法球で太陽道の効果を確認した。
と言っても1日に使える限界時間が凄く短いから気を大量に消耗する関係で寝る少し前に確認する以外は殆ど通常の修行をするしかなかったけど……。
とにかく初期発動のお陰で、即時分解・再構築で身体を魔力体に変換する事ができるようになって、予想通りこれでオンオフが切り替えられる。
発動中は目の虹彩が輝くのと、視界が拡張したのは予想してなかったから驚いたけど、後者についてはかなり助かる。
発動前に怪我をしてても、発動後に再構築し直せば損傷を無かった事にできるから治癒魔法がある意味必要無くなったし、当然魔力体なら身体の部位を損傷しても同じように再構築できる。
魔力体ならではだけど、掌握してる空間内なら学園長先生と同じように一瞬で転移もできる。
ダメージ自体を無効化、転移で回避できるからあまり意味がないんだけど、発動中の出力上昇の効果自体は期待した通りで魔法領域の防御力はマスターとほぼ同レベルだと思う。
太陽道とは別に開発した新魔法も発動中ならほぼ完璧に使える。
はっきり言って発動中はほぼ無敵になるっていう感じ。
ただ……本当に限界時間が短い。
本当はもっと行けるのかもしれないけど無理して長時間試した場合本当に死にかねない。
結局の所発動のオンオフをうまく使ってやりくりする最初の合計数十秒間までが普通に運用できる限界だと思う。
それ以降になると発動をやめた途端に脱力感が激しすぎて、戦闘どころか身体を動かす事もままならなくなるから……。
必殺技らしいといえば必殺技らしいけど。
……そして、いよいよナギ・スプリングフィールド杯決勝戦を迎えた……。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、14時54分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場―

ナギ・スプリングフィールド杯決勝を迎え、オスティアの闘技場は模擬戦形式に変化し、収容人数は12万人、中央アリーナ部分の直径は300mと、最大規模の広さである。
まさに拳闘界の頂点を決めるのにふさわしい舞台と言えよう。

[[さぁ、いよいよ決勝戦です!!流星の双子、依然として謎ばかりのネギと小太郎か、はたまた千の刃のラカンとボスポラスのカゲタロウか!?凄まじい激闘が予想されますが最強クラスの戦いを前に観客席は大丈夫なのでしょうか?……それについてはご安心を!]]

―紅き焔!!―

司会の女性が無詠唱紅き焔を観客席に向けて放ち、爆発が起きるが魔法障壁によって防がれる。
目の前で紅き焔を放たれた観客達はそのデモンストレーションに盛り上がり、歓声を上げた。

[[この通り!連合艦艦載砲すら防ぐ魔法障壁によってお客様の安全は完璧に保護されています!!]]

決勝戦とあって、しばし引き伸ばしを行うような説明が続き、会場内では各人が今か今かと試合が始めるのを待ち続けていた。

《会場内の警備シフトになるなんて運が良いのでしょうっ!?》

《日頃の行いが良かったからだよ!委員長!ね、ユエ!》

《は……はいです。ただ……通信で聞きましたが、この場内の何処かにゲートポートテロを行った犯人達も来ている可能性があるです。油断はできません》

《その、怪しい人物がいないか目を光らせるのが私達の仕事です》

《分かってるよ!》

《はいです》

《それにしても、生で試合が見れるのは楽しみだよー!》

《あぁ……紅き翼伝説の英雄の1人ラカン様と正体を隠し続けているナギ様のご子息ネギ様の運命的奇跡の一戦!!》

《お嬢様、その発言はマズいですよ》

《委員長……》

《始まったよ委員長……》

《あああ、一体どちらを応援すべきか。こんな試合が見られるなんて……一体どちらを応援したらいいのでしょう!ラカン様も良いですが……筋肉ですし……やっぱりここは可愛らしい、いえ凛々しいネギ様でしょうか!あー!迷いますわ!》

《お嬢様……筋肉って……ヒドイ……》

筋肉もいける隠れラカンファンのベアトリクス・モンローの呟きであった。

《こんな通信していたのがバレたらマズいのでは……》

《大丈夫……だよ!ユエ!これ会話ログは残さないから!》

《……それはもう委員長の発言のせいでその方が良いですが……それはそれでどうかと思うですよ……》

《一番大事なのはこの奇跡の試合を永久保存することですッ!》

《お嬢様、警備が第一優先では……》

《ビー、どちらが優先ということはありません!どちらも第一優先ですっ!》

もし会場外の警備シフトであれば状況は違ったのだろうが、観客席各ゲート付近で警備を行う4名は試合に対する興味が尽きなかった。

[[流星の双子の勝敗予想は街頭アンケートでは2割と人気の割にはそれ程高くありませんが、それもそのはず。専門家の間ではこれまでの試合から見て、実力的には依然としてラカンが上を行き『ネギ選手があのナギに似ているとしても本物でもない限りラカンが負けることはない』とも囁かれています。早くも何分間流星の双子が持つかが賭けの焦点となっている模様です。しかしながら、この試合の後、流星の双子は『今後地方拳闘大会に引き続き出場する予定は今のところ無い』と宣言しているため名残惜しくはありますが『流れ星のこの終着点はどうなるのか』と期待も持たれています!]]

一方特等席で見ている面々は一般の観客席程盛り上がってはいなかった。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、14時58分、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場、特等席―

「ネギ……コタロ……」

「ネギ先生……」

空気が重い……重すぎる……。
何かマジ世界の終わりみたいな空気をアスナが中心になって醸しだしてるせいで、テンション上がらないスよ……。
昨日、魔法球の中の時間で言えば数日前にネギ君がやらかした魔法が殆どの原因。
順調に修行を続けて充実してるなーって矢先、例の洋上で何かやってた実験の成果をネギ君が実行した所、私でも分かる魔力の奔流が発生した。
箒で飛んでってみれば小太郎君が「ネギは自分の身体を分解・再構築しとるんや……」とか言い出して、その話を聞いた私は凄くヤベー感じがする以外はサッパリだったけどセラス総長は「ネギ君……それは人の身にはあまりにも過ぎた力よ……」って青ざめながらボソっと呟いてた。
あのラカンさんでさえもあの時はマジ顔で驚いてたからな……。
物凄い発光する中心でブレまくるネギ君の姿に最初気圧されたけど、アスナが最初にネギ君の名前を呼びだして、それに皆も続いて、南極の時のコール以来またしても似たような展開になった。
1つ違うのは、今回の件はネギ君が自らやったって事で、それもアスナを守るためってんだからなんて10歳……。
私が見てる限り、ここ最近のネギ君の行動原理には自分が払う犠牲はそっちのけで他人を優先する傾向が強すぎる気がする。
2年の夏の時にネギ君来たときはホント、ただの可愛い子供だったんスけどね……何がどうしてこうなったんだか……。
性質悪いのが、ネギ君自身頑固なせいで、周りがやめた方が良いって言っても「自分で決めたんです。お願いします。信じて下さい」って返してくるからどうにもならない事スよ。
まあ、2時間ぐらいしてネギ君が無事に異常な儀式?を完了させた時は本当にホッとした。
それだけで安心して思わず皆声上げて、アスナがすぐに飛びついたもんだから有耶無耶になったけど、そこからネギ君がすぐ倒れるまでの間、ネギ君はそこにいるのに、雰囲気というか存在感が異常に薄かった気がする。
んで、その技が多分使われるんだろう試合が今まさに始まる所。
ネギ君は「大丈夫ですよ」としか言わなかったけど、明らかに常に命の危険が伴いそうな技を使う時点でそれを観る私達は気が気じゃない。
元々拳闘界って試合で命落としても文句は言えない世界だから何言ってんだって話でもあるけどさ……。
それとこれとは別スよ。

[[さぁ、いよいよ選手入場です!!西からは紅き翼千の刃のジャック・ラカーンッ!!ボスポラスのカゲタロウ!!]]

ラカンさんは何かマント着て、一本大剣持ってきてるけど……どうせすぐ脱ぐんスよね。
カゲタロウさんはいつも通り。
観客席はやっぱ超盛り上がってるなー。

[[東からは流星の双子、ネギ!!小太郎!!]]

出てきた出てきた……こっちが問題の……。
うーん?……何か凄い落ち着いてる雰囲気醸し出してるような……。
観客はそんなのそっちのけで騒いでるけど。
あー、始まる前から何かこう変な気分になるわー。

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

―10月6日、15時、ナギ・スプリングフィールド杯決勝戦、大闘技場―

両選手が舞台に現れ観客から大歓声が上がる中、ジャック・ラカン、カゲタロウとネギ、小太郎は向かい合い互いに声をかける。

「よぉ、ネギ、コタロー。この舞台で本気で相手してやる。つべこべ言わず、かかって来い!!」

「はいっ!僕達の修行の成果、ここで見せます!それでは行きますッ!」

「おう!行くでっ!」

[[ナギ・スプリングフィールド杯決勝、試合開始!!!]]

「アデアット!」

―契約執行 600秒間!! ネギの従者 犬上小太郎!! 出力最大!!―
       ―魔法領域展開 出力最大!!―
          ―戦いの旋律!!―

ネギが最初から太陽道を発動させない理由は限界時間の問題もあるが、何よりまずは基礎力で勝負という理由からである。

[[おおっと!?小太郎選手の咸卦法、いつもより数段出力が高いようですッ!!]]

「いきなりアレは使わねぇか、行くぜ、おらよっと!!」―アデアット!!―

「手加減する必要無しッ!!」― 千の影槍!!! ―

ラカンはアデアットし一本の槍を出しながら闘技場内上空に飛び上がり、カゲタロウはその場から動かず、影精で編んだ強力な無数の影槍を、ネギと小太郎の前面180度を覆うように放つ。

           ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
―契約により 我に従え 高殿の王 来れ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆―
         ―百重千重と 重なりて 走れよ稲妻―
               ― 千の雷!!! ―

対してネギは即座に詠唱を済ませ千の雷を放ち、それに合わせて小太郎は怯む事なく千の雷の後を高速で追従する。
千の影槍と千の雷は半ばで衝突し相殺、範囲で上回る千の雷が観客席の魔法障壁に当たり轟音が鳴り響く。

「はぁぁッ!!」―咸卦・白狼影槍!!!―

その爆発の煙を小太郎は潜りぬけながら、白い狗神を槍状に変化させて複数飛ばすカゲタロウに類似した技を放つ。

「何と!」―百の影槍!!!―

カゲタロウは煙から飛び出して来た小太郎の攻撃に対し咄嗟に百の影槍を放ちまたしても相殺する。

「まだやッ!!」―咸卦・影装刺突!!!―      「ぬんッ!!」―影布七重対物障壁!!!―

小太郎が一点貫通攻撃の構えに入り、カゲタロウはそれでもその場を動かずに障壁を展開する。

「だりゃぁぁぁぁ!!」                        ―百の影槍!!!―

障壁を突き抜けようという時にカゲタロウは防御中から百の影槍を小太郎の真横を狙って放つ。

―投擲・双腕・断罪の剣!!!―

しかし、控えていたネギが両腕に発動した断罪の剣、相転移版を小太郎の左右に向かって投擲し、周囲の気化による爆散でそれを防ぐ。
小太郎はそれと同時に影の魔法障壁を突き破り、直撃を当てようとする。
が、カゲタロウは真後ろに瞬動して回避する。

「ハッ!……やっと動かせたで!」

「この私を動かすとは、見事な連携!だが、私だけではない!」

この僅か数秒の間、上空に飛び上がり、ラカンは異常な量の気を集中させていた。

「出し惜しみ無しの千の雷かぁ。折角の晴れ舞台だ、俺様も久々に全開を出してやるぜっ!!」

「な……あれはヤバイで!ネギ!」

対するネギは断罪の剣の投擲の後、ラカンの攻撃をほぼ理解し、対応する為両手を頭上に上げながら直ぐ様次の魔法詠唱を開始していた。

      ―ラス・テル・マ・スキル・マギステル―
    ―契約により 我に従え 破壊の王―
―来れ終末の輝き 薄明の光芒 満ちれ エアロゾルよ―
―収束魔方陣展開!!! 集え 我が手に 域内精霊加圧!!!―
  ―第1から第12 臨界圧縮!!! 第0へ解放!!!―
ネギの頭上にオーロラが広がるかと思われたが、掲げた両手の上に12の小さめの魔方陣が中心の大きめの0番目の魔方陣を囲むように展開された途端広がるどころか全光精が一点に収束を始める。
―降臨し 全ての命ある者に 等しき死を 其は安らぎ也―

「オラァァァッ!!!!」

ラカンが僅かに槍を先に投擲し、ネギを襲う。

      ―然して 死を記憶せよ―
       ―大天使の降臨!!!―

常人には捉えるのは到底不可能な速度で投げられた槍は、ギリギリ放たれた収束版・天使の梯子の破壊光線とネギの頭上10mの距離で衝突し、周囲に衝撃波を巻き起こす。

「うぉぉぉぉッ!!!!」

大地を破壊しつくす槍から、まるで地上を守るかの如く、ネギは両手を掲げたまま大声をあげながら収束大呪文を放ち続ける。

「キャァァァァッ!!」

ラカンよりも更に上方に退避していたにもかからず、司会の女性が吹き飛ばされる。
更に、槍を放った本人と、魔法で迎え撃った本人に明らかな影響が出るよりも先に、地上12m程度の高さから衝撃波が発生し、闘技場の魔法障壁にダメージを与えすぐにビシビシと軋むような音を立て始める。

[[いかん!緊急障壁を展開せよ!!]]

テオドラ第三皇女の緊急放送により、通常の魔法障壁の後ろに更に予備用の緊急魔法障壁が展開される。
観客席からは爆煙によって衝撃波が発生している以外は何も分からないという状況であり、歓声ではなく純粋な叫び声を上げる者も現れる。
6秒間に渡る大天使の降臨の照射によって、槍は完全消滅し、威力は弱まったものの破壊光線が打ち勝ったが、その射線上からラカンは既に退避していた。
会場外の警備をしていたアリアドネー魔法騎士団員は6秒間の強烈な爆発と最後に打ち上がった光線にテロ攻撃ではないかと勘違いしかける程であった。

「はっ……はっ……」

魔法の発動でネギは息を切らせ、カゲタロウと小太郎は一旦互いに距離を取りなおし、小太郎はネギの近くに戻る。

「よっと!今のを防ぐどころか破るとは大した威力だなぁ!!大呪文を収束させる術式なんて良く考えたもんだ、ホントに器用じゃねぇか」

ラカンも同じくカゲタロウの近くに大ジャンプから戻り着地する。

[[こら!ジャック貴様という奴は後先考えず!客がいるのじゃぞっ!ネギが真っ向から防いだから良いものの!!]]

「いやーハッハッハ、やっぱ最初は全力で相手するってのが礼儀ってもんじゃんよぉ。案外もろいなこの闘技場!うはは!お前もそう思うだろ、ネギ!」

「はぁ…………そういう事ではないと思うんですが……。でも、確かに脆いですね……」

脆いと言うが、確かに強力なエネルギーの2つの衝突によって起きた衝撃は連合艦標準艦載砲である紅き焔の直撃等目ではないのは事実であった。

[[アホかーッ!緊急障壁で威力が弱まったからこの程度で済んだようなものの一つ間違えればふが!!]]

[[姫様口調!全国ネット!]]

テオドラ第三皇女お付きのユリア女史により口を防がれるが今更遅い。

「すげぇ……今のがホントに個人の技なのかよ。これが世界を救った英雄の力か……」

「それを超える魔法を放ったネギも只者じゃないな」

「こんなの初めてみるよ」

「さすが紅き翼・ナギの盟友ラカンだぜ」

「あのネギってナギ本人だったりすんじゃないのか?」

「馬鹿だな、ナギの魔法つったら雷系って決まってんだろ。さっきのは違ったろ」

「そもそもあの魔法何?またネギの引き出しが増えたぜ」

会場内は先の光景に対するコメントの嵐でざわめき出す。

[[す、すさまじい!!開幕早々なんという光景でしょうか!カゲタロウ選手の影槍に、ラカン選手の渾身の一撃だけでも凄いですが、ネギ選手はかのナギと同じ大呪文の千の雷のみならず、見たこともない光系の大呪文と思われる魔法を、それも両方ありえない詠唱速度で2度も放ちました!!まだまだ試合は始まったばかりですがこれは期待が……おっと緊急障壁の常時展開も完了しました!!仕切り直しとなりましたが、試合再開ですッ!]]

そして再び、司会の宣言により試合が再開する。


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