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[24465] 【チラ裏より】こんな展開ってありですか
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/12/16 04:33
はじめまして。こんにちは。
今回、様々な方々の作品を閲覧していて自分でも書いてみたいと思い、筆をとったぢるぢると申します。
誤字脱字や句読点の打ち方、さらには日本語の使い方などなど、おかしい点が多々あると思います。発見したときなど、是非とも御報告していただければとてもありがたいです。

全くもって人様にだしても良いのかというクヲリティーですがそんなのきにしないぜ!って方のみどうぞみていってください。

そして、展開上多少暴力的表現、流血シーンなどがあります。その様な表現が苦手な方はブラウザバックなどでお戻りください。

更新は不定期で書けたらアップすることになると思います。途中で止まってしまったらそのときは……ですので本当に申し訳ございません。


統廃合記録
2010,11,22
・旧第一話と第二話を統合、第一話に。
・第三話を第二話へ
2010,11,23
・プロローグ、第一話、第二話修正
2010,11,25
・旧第三話と第四話を統合、第三話に。
2010,11,26
・全ての文法チェック、訂正。ただし、間違っている可能性大。もし、何かありましたら御連絡下さい。
・さらに修正。
・もっと修正。
2010,12,14
・旧第五話と第六話統合、第五話に。
2010,12,14
・第六話文量増量
2010,12.16
・第七話のあとがき削除。やっぱり、移動してみます。
・チラシの裏よりオリジナル板へ移行。



[24465] プロローグ
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/11/27 01:42
  はたしてこの状況はいったい何だろうか。
  夢であろうか。
  はたまた万物の法則が狂ったのだろうか。

  確かに私はここにいる。それなのにどこにも私が感じられない。私が私と確信できない、そんな不思議な感覚に包まれた。
  ただここは暖かった。そして何よりも安心できた。水の中を漂っている感覚。あの時、僅かな衝撃がなければ私が起きることはなかっただろう。起きたからと言っても私は動こうとは思わなかった。いや、動けないと言った方が正しいか。そもそも私の体か?と思うほど言う事をきかない。目も開けられない位だ。まるで、私の体がないかのように。しかし不安に感じる事はなかった。


  状況が整理出来ないままただ時間が過ぎていった。私はこの状況をどうにかする術がない為、寝るか思考に耽るかしかなかった。だが、不思議と悪くはない時間であった。時々、空間自体が揺れることがあったくらいか。

  そして、自分の体というものを認識できるようになってきた。だからと言って、すぐに体を動かすまでにはならなかった。

  だが、はっきりと自身を認識できるようになって、徐々にではあるが体を私の意思で動かせるようになってきた。そして初めて足を動かす事ができた。そしてわかった事がある。この暖かい空間は意外にも狭いと言う事だ。私がのびのびと背伸びは出来ないだろう。


  この不思議な空間に来てどれくらいたったのだろうか。
  
  もうすっかり時間感覚が麻痺してしまった。その後ようやく私の体は私の意思を実行してくれるまでになった。まだ以前のように好き勝手に振り回す事は出来ないが。

  今日は体を動かし過ぎた。そろそろ眠くなって……またあと……で……



[24465] 第一話
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/11/27 01:44
トクン……トクン……
   
  何もない、静かな空間において、己の心臓の鼓動はよく響くものなのだなと少し可笑しくなった。まさか自分の鼓動で目が覚める時がくるなど、夢にも思わなかった。

  時間が流れていくたびに、よりはっきりと自分の体を感じられるようになってきた。まだ完全には無理であるが、手足を動かすことはスムーズにできるようになってきた。相変わらず目を開けることはできずにいるが。
  
  さて、やるべき事というものがないのでこの際、この空間や状況について考えてみるのも一興だ。いい暇つぶしにはなる。

  まず私についてだ。私は一体何者なのだろうか。名前は石田光。性別は女、花も恥らう14歳の中学生だ。都内の某ベッドタウンに住む父と母、そして4歳違いの弟がいる、ごくごく平凡な家庭に生まれたどこでにでもいる娘だ。決して家が金持ちでとか、私に不思議な力が……などという設定はないはずだ。

   次に状況を考えてみよう。現在進行形で不思議な、しかし暖かく安心できる狭い空間にいる事しかわからない。やはり視覚による確認をしておく必要があると思い、あれからなんとか目を開こうと試したが、決して開く事はできなかった。むしろしてはいけないと本能というべきなのか?警告をだしてきたからだ。
  そして、どうやら他に人がいるようなのだ。私がこの空間の壁を蹴ってから、外から呼び掛ける声がするのだ。それだけではない。何故か算数や国語といった教養的なものや、気分が落ち着く音楽が流れてくるようになったのだ。

    なんだろう。いや、だが状況からすれば……しかし信じられない。
 
  私の考えが正しいのならば、あり得ない事ではあるが、ここは女性の、しかも子宮内である可能性が高いのだ。
 でもあり得るのだろうか。私は確かに石田光として14年間生活してきた。ちゃんと思いでもあるし、それが妄想や幻想といったものであるとしたら生々し過ぎる。
  だが私はいま、母……と言っていいのだろうか、女性のお腹の中にいる。そして私の状況からいってそろそろ臨月だろう。ますますわからなくなってきた。



  とりあえず、だ。
  私を取り巻く状況は、おそらく、いや、たぶん母になるであろう女性のお腹の中である。
  そして私は石田光という、14歳の中学生だ。
  これを事実と仮定すると、私は転生、もしくは逆行という摩訶不思議な、それこそ小説や漫画の出来事を体験している。そういう事なのだろうか。

  これだけで決めつけるのは早計だ。もう少し情報を集める必要があるだろう。それに私の考えが正しければ、もう時期この空間からでなければならないのだから。

  私が現状に対して、少し憂鬱になってしまうのはしかたがないだろう。




  それからまた少し時間が過ぎた頃、外から男女の声が聞こえてきた。

「そろそろ、出産予定日だね。結局どっちが生まれてくるかわからないまんまだったな。」
「ええ、予定日まで後10日ですね。まぁどちらだって私達の子どもには違いないでしょ?思いっきり可愛がってあげなくちゃ。ところであなた、出産に立ち会ってくれるんでしょ?」
「だな。もちろん、出産に立ち会うさ!そのためにここ最近まで仕事を詰め込んだんだからな。そう言えば、出産の立会いで倒れる旦那がいるっていうが、俺大丈夫かな?」
「もう、いまからそんな弱気でどうするんですか。実際に辛い思いをするのは私なんですからね。鼻からスイカを出す痛みなんて、未だに想像つかないんですから。」
「おいおい、お前も弱気になってるじゃないか。そんなんでその痛みにたえられるのか?」
「もう、茶化さないでくださいよ。私だって覚悟は決めています。絶対にこの子だけは守ってみせますから。」
「じゃあお前を守るのは俺だな。といっても、何もできる事はないんだろうけどな……」
「ふふふ、その気持ちだけで十分ですよ。」


  どうやら、聞こえた会話からして私の仮説は正しい事が証明された、されてしまった。
  あと10日で再びこの世に生を受ける事になるのか。いや、まだ私が死んだ事を認識してないからこの場合は再びなのか?
  そんな事よりも、生み出される瞬間というのはどんな感じなのだろうか。あいにく私は赤ん坊の頃の記憶はほとんどない。ましてや、胎児の頃の記憶や出産時のそれは言わずもがなである。なかには、母親のお腹の中の出来事や出産時の記憶をもつ人がいるとはいうが。だが、今の私ほどはっきり覚えている人はいないはずだ。そしてこれから体験する事になるのか。
  それにしても10日か。今のうちに考えなければならない事があるだろう。そもそも、私が産まれでる世界は元いた世界なのだろうか。これだけ不思議な体験をしている我が身としては、外の世界がモンスターが闊歩する剣と魔法の世界であっても驚きはしないだろう。
  まぁ、その確率は低いと思う。何せ胎教のなかに、日本語と英語があったくらいだ。少なくとも私が元いた世界とそこまで乖離した事はないはずだ。
  問題なのは、産まれたあとの事だ。
  決めなければならない事は多々あるが、重要なのが、私は赤ん坊のふりをするべきか否か。いや、ちがう。できるのだろうか、だ。どうやら母となる女性は初産のようである。多少不自然であっても、誤魔化しが効くだろう。しかし、赤ん坊と思えない仕草をしたことを目撃された場合、どうなるだろうか。気味が悪いとして捨てられてしまうだろうか。それとも天才児として大事にさ れるだろうか。人の気持ちは本当にわからない。あの時も……

  一抹の不安を抱えながら私は深い眠りにおちていった。



その後どうやら10日たったようだ。あの本能というべき感覚が、私を押し出す、いやここから出たいと主張してきた。


 そして━━━━




  結論から言おう。
  私は無事生まれる事ができた。なんというか、母から出る感覚は言葉にする事ができない。

  そして外に出た瞬間、私は医師であろう人に抱きかかえられた。だが

「おい、この子泣かないぞ!?」

 ピシャリッッ!!

  体に凄まじい衝撃が走った。何が起こったのかさっぱりわからない。だがそれが痛みであることは理解することができた。私は我慢強い方である。だがこの体は痛みにはひどく弱いようであった。だから……

「おぎゃあ、おぎゃあ!!」

  痛みを我慢するには叫ぶがいいというのは、本当のようであった。

「せ、先生!?いったいどうしたんですか!?赤ちゃんはに何があったんですか!?」
「旦那さんおちついてください。いやー、私も焦りましたが赤ちゃんは大丈夫ですよ。無事、産まれました。奥さんも安心してください。」 

  柔らかな布に包まれた私は、ようやく痛みが引いてきた。そして誰かに抱えられながら、

「よく頑張りしたね、この子が貴女の赤ちゃんですよ。元気な女の子です。」
「私の、私の赤ちゃん……」

  私は再び、いやこの体では初めて目を開く事ができた。そして今世の母を見ることになったのだが、戦慄した。

「よく、よく頑張ったね、」

 その目に写った女性の姿は、

「ええ、先程は焦りましたが、母子共に健康ですよ。おめでとうございます。」

  懐かしくて、そして、誰よりも良く知っていて、だけど私が知らない

「俺たち、これからお父さんとお母さんだよ」


━━━━光。


  成長した、かつての私にそっくりな女性が聖母のような微笑みを浮かべていた。



[24465] 第二話
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/11/27 01:46
  あの後、私はひとしきり泣いて眠ってしまった。この幼い体では泣くことにも凄まじく体力を使うらしい。泣き疲れで眠るなど、いつ以来だろう。

  次に目を覚まし時には私はベッド、であろうか。柔らかいものにのっていた。まだ首が座っていない為か周りを見渡すことが出来ない。この目に映るのはこうこうと光る蛍光灯と、無機質な天井くらいだ。

  それにしても赤ん坊の体というのは不便だ。先ずは空腹感だ。母のお腹の中では空腹なんて感じなかった。だが、今の私はその空腹を感じている。普通の赤ん坊なら泣き叫ぶのだろう。つまり私もこういった場合泣けばいいのだろうか。とは言え、精神は14歳だ。泣くことに抵抗がある。しかし、この空腹感を誤魔化すことはできそうもない。


  結局空腹感の方が勝った。


  だが、泣くと言ってもどうすればいいのだろうか。理性が邪魔をして泣くに泣けない。痛みに訴えれば楽なのだろうが、流石に自分で自分の体を痛めつける気にはなれなかった。何しろ赤ん坊だ。加減を間違えたら死んでしまう。

  お腹、へったなぁ……
  果たしてどうするべきだろうか。

  少しばかり考えていたが、いかに不自然無く泣けるかがわからない。はてさてどうしようか。

  内心うんうん唸っていると、

「あら、起きたの?」

  どうやら私……なのだろうか、母親が近くにいたようだ。もしかしたらあの時は混乱していてかつての自分だと思ったのかもしれない。改めて彼女の顔をまじまじと見る。だが、考えは変えようがなかった。私を覗き込む顔は、やはりかつての私を成長させたとしか思えないのであった。だいたい6年から10年ほどだろうか。14歳の私が成長したらこの様な顔になるだろうと確信した。

「ふふふ、くちゃくちゃな顔……まるでお猿さんみたい。」
「あーだーうー。(失礼な。)」
「あらあら怒っちゃったかしら?ごめんなさい。でもそっくりなんですもの。ふふ、昔は私もこんな顔だったのかしら。」

  彼女からは私を慈しんでいることがひしひしと伝わってくる。なるほど、赤ん坊には母親が必要であることが身をもって知ることができた。それにしても、お猿さんか……確か私の今世の性別は女の子であるはずだ。女の子に対してお猿さんとは失礼ではないか。まったく、赤ん坊だからわかっていないと思っているのだろうか。不機嫌な表情を精一杯だしてみる。

「あら、私の言葉がわかっているのかしら?今から眉間にしわを寄せちゃったら将来美人さんにはなれないわよ。それともお腹が空いたのかしら?」

  おお、母親という存在は子供のことがなんでもわかるのだろうか。だが、そうだという一言を発することができないのがもどかしい。本当に赤ん坊の体は不便だ。

「ちょっとまっててね。」
 
  彼女がはそう言うと、私の視界から消えた。すぐそばからゴソゴソする音が聞こえてくる。どうやら上着を抜いでいるようだ。

「お待たせしましたー、それじゃお腹いっぱいたべてくだちゃいねー。」

  と、同時に私は抱きかかえられた。目の前に女性の象徴と言うべき乳房が差し出される。これを吸えというのか。うーん、お腹は空いている。だからおっぱいを飲む事を決めたのだ。でもいざ目の前に出されると抵抗がある。

  「あら、どうしたの?お腹減ってないのかしら?」
  
   このままでは折角の食べ物が……ここは腹を括るしかない。覚悟を決めて目の前の乳房に吸いついた。

  初めて飲んだおっぱいの味は、とても美味しかった。牛乳よりも甘く、とても濃厚であり、私は夢中になって吸いついた。この体にそんなにはいるのか?と、疑問に思う程飲んだ気がする。
  お腹が膨れ、これ以上入らないと満足したので乳房から離れた。昔弟に哺乳瓶でミルクをあげた時の事を思い出した。あの時も弟は凄まじい勢いで飲んでいた。赤ん坊の吸引力は凄まじいのだなと感心してしまったことを幼いながら思ったものだ。

「なんだかおっぱいをを吸われる感覚って不思議な感覚ね。これが母親ってことなのかしら。」

  そんな呟きが頭の上から零れてきた。彼女も未知の感覚に戸惑っているようだ。

  「さて、たしかおっぱいをあげた後はゲップをさせなくちゃいけないんだったわよね。えーっと、」

  そう言うと、彼女は肩にタオルをかけた。そして、俵をもつように私を抱え、ポンポンと、促すように優しく私の背中を叩き始めた。大人ならゲップをするのは簡単なのに赤ん坊では大変だと何度目か分からないが、思うのであった。
  体の中心、お腹の中から何か熱いものが込み上げてくる感覚がした。どうやらゲップがでるようだ。

「げっふ。」
「はいはい、お粗末様でした。さて、お寝んねしましょうね。」

  少しおっぱいを戻してしまったようだが、無事ゲップをすることができた。そして彼女は私をベッドに降ろすと頭を撫でてくれた。小さい頃から頭を撫でられるのが嫌いだ。でも、何故だろう。嫌な気分がしない。そして段々気持ち良くなってきた。


  そしてそのまま再び眠ってしまった。



[24465] 第三話
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/11/27 01:49
……きろー。」
……ーちゃんってばー。」
……げんに起きろ!!」

「ぐぇぇえ!?」

  突然の腹部への衝撃で、強制的に目を覚まさせられた。

「もー、ねーちゃんってば俺にはいつも早く起きろって言ってるくせに、自分が寝坊してるんじゃないか。」

  犯人はそう言うと、よいしょっという掛け声とともに私の腹の上から飛び降りた。まったく、生まれたばかりの赤ん坊だというのにそんな事をしたら危ないどころか下手したら死んでしまうじゃないか……ん?ねーちゃん?

「おーい、ねーちゃんまだ寝ぼけてるのか?もしもーし。」

  ヒラヒラと目の前で手を振る人物を無視して私は両手で体じゅうを触る。これでもかと言うくらい確認する。

「うぉ!?一体どーしたんだねーちゃん。本当に寝ぼけてるのか!?」
「もどって……る?」
「おいおい、もどってるってどう言う事だよ。ずっとここにいただろ?変なねーちゃん。」

  じゃあ、俺は先に朝ごはんくいにいくからなーと、声をかけられたが、私には一切入っていなかった。むしろまだ混乱している。え、あれ、私さっきまで赤ちゃんじゃなかったっけ?たしか、おっぱいを飲んだ後、私?に頭を撫でられていたらだんだん気持ち良くなって、それで寝むくなちゃって……

  頭がどうにかなりそうだった。あの、子宮内にいたところから、あの出産、そして初めての食事。あれがすべて夢であったのだろうか。今度はあの世界での出来事がリアルすぎて今の体を懐かしく感じてしまっている。自由に動く手足、そしてふさふさに生えた髪。しわくちゃと評価された顔は10代の水をも弾く、ぴっちぴちの肌だ。
  私はなんとか我に返り、すぐそばにあった姿見の目の前に這い出た。そこには、見覚えがある、私が私とはっきり、確信を持って、断言できる姿で向かい合っていた。

「ゆ……め……だったの?」

  どうにも納得できない。だが、現にこうして私は14歳の石田光の姿で佇んでいる。あの世界自体が私が想像した夢の世界であったのだろうか。またグルグル思考の海に落ちてしまう所で、

「ねーちゃん本当に学校遅れちゃうよ?それとも朝ごはんいらないの?」

  と、リビングの方から響いてきた。

「わかったー、すぐいくから先に食べててー。」

  なんとか絞り出した声は、普段通りに出せていただろうか。夢?でおっぱいを飲んだ為か、気分的にはあまりお腹は減っていない。だが、

「ぐぅ~。」

  間抜けな音が、はっきりと聞こえた。どうやら体は空腹状態のようである。ここは朝ごはんを食べてこよう。そう思い立つと、ゆっくりと立ち上がり部屋からでる為にドアノブに手をかけた。



「もー、今日はどうしたんだよ。起きるのも遅いし、それにいきなり変なことしてさ。」
「へぇー、珍しいわね、光が寝ぼけるなんて。」

  リビングに入ると、弟から文句を言われる。そして私がちゃんとお母さんと呼べる人物が物珍しそうに見つめてきた。

「あはは、私だって寝坊することもあるし、寝ぼけることだってあるわよ。」
「それでも珍しい事には変わりないわよ。夢見が悪かったの?」
「ええ、ちょっと不思議な夢をみた気がするの。」

  でも、覚えてないけどね。そう言って私はその会話を終わらせた。蒸し返されてまた混乱するよりも、今は目の前のご飯を食べたい。さっきから体の空腹感が強くなってきている。

「とりあえずさっさと食べちゃいなさい。せっかくの朝ごはんが冷めちゃってるわよ。」
「「はーい。」」

  私達は食事に手をつけた。本日の朝食はハムエッグと温野菜、それと味噌汁に昨日の残り物がいくつかであった。ごくごく普通な食卓である。けれど、とても懐かしい味がした。ご飯を噛めば噛むほど溢れ出る甘さ、程よい火加減で半熟になってトロトロの卵。それにアクセントを加えるハムの塩辛さ。何もかもが懐かしい。

「ね、ねーちゃん?」
「ひ、光?今日の私の料理に何かあったの?」

  二人が驚きの眼差しを向けてくる。

「え、二人ともどうしたの?ただ今日の料理は特別美味しいなーって思っただけよ?」
「そ、それだけ?本当にそれだけなの!?今日のねーちゃんおかしいよ。」
「ええ、そうね。光、今あなたどんな顔してるかわかる?」

  え、っと声を出す前に頬を伝う何かの感触にようやく気づいた。どうやら私は泣いていたらしい。

「別にいつもと同じように作ったはずなんだけど。ねぇ武志?」
「うん、美味しいけどいつもと同じ味だよ。」
「そうよねぇ……いきなり私の料理の腕があがったんだったらとっても嬉しいんだけど。そんなことはないしねぇ。」
「今のままでも十分だとおもうんだけどなー。母さんが作るもの全部美味しいもん。」
「あら、武志も上手いわね。そうね、今日の夕食は海老フライにしようかしら。」
「お、やったねー!俺いっぱい食べるから沢山作ってくれよ!」

  外野では何か言っているようだが、私の耳には入ってこなかった。悲しくないのに、そして辛いことがないのに、なぜ涙がでたんだろう。もしかすると、これが嬉し涙と言うものだろうか。

「光、惚けてるのか動揺してるのかわからないけれど、食べなくていいの?そろそろ出ないと遅刻するわよ?」
「へ?」

  ご馳走様でした。と手を合わせている弟が食器を下げようとしているところであった。

「え、ちょ、ちょっとそれを早く言ってよ!!」

  私は、それまでゆっくり味わっていた食事を胃のなかへ流し込むのであった。



「はぁ……はぁ……なん、とか間に合い、そう……」

 

  朝食を流し込んだ後は大変であった。普段は余裕を持って行動する私だが、今朝はその余裕がなく大慌てで身支度をしなければならなかった。
  本当ならこの気持ち悪い気分を洗い流したかったがそんな時間は到底とることはできなかった。
  制服に着替えると、急いで玄関に向かう。焦っているせいか、簡単に履けるはずの靴がなかなか履けない。ようやく靴が履けると、玄関から飛び出した。

「行ってきまーす。」
「気をつけて行ってらっしゃい。」

 
「はっはっはっ……」

  何かを食べた後にすぐはするのは辛い。家から出てまだ200mもきていないのに横っ腹がいたくなってきた。朝ごはんを食べたのは失敗だったか。僅かに後悔するが、すでに時遅し。でも、このペースで走るならぎりぎりだけど間に合うかな。
  チラリと腕時計を見る。私が通う学校は、家から徒歩15分程の場所にある。現在7時46分。ホームルームが始まるのは8時10分であるが、校門がしまってしまう時間は7時55分なのだ。とてもじゃないが歩いていては間に合わない。
  私は横っ腹の痛みを耐えて走るしか選択肢はなかったのであった。



「ぜー、ぜー、ぜー……」

  私が校門に入ると同時に、校門で立っていた男性教諭が門に手をかけたのだった。本当にギリギリだ。
  ガッシャーンと、門が閉まる音を背に、ようやく一息いれることができたのだった。


「おお、めずらしいな。石田がこんなぎりぎりの時間にこんなところにいるなんて。」

  靴を持ち上げて顔を上げようとした時、玄関入り口から聞き覚えのある声がした。

「あ、水城先生おはようございます。ええ、ちょっと寝坊しちゃいまして。」

  顔を上げると、私のクラス担任の水城 楓先生がいた。

「ははは、お前でもそんなことがあるんだな。」
「朝から家族にも言われましたよ。そんなに変ですかね、私が寝坊することは。」
「ああ、そうだな。いつもこの時間は椅子に座ってお喋りしてるだろ。」
「まぁ、そうなんですけど……」

  それじゃ、またあとでなーと先生は職員室へと向かって行った。先生と別れた私は、自分のクラスへ向かうのであった。



ガラガラガラ━━━━

  引き戸を開けた時、全員の視線が私に集中した。さっきまで廊下にも響いていた会話がピシャリと静まった。

(き、気まずい。)

  だが、戸を開けたのが私だと分かると、またそれぞれの会話に戻る。
  視線が外れたことで、ホッとした私は、自分に与えられた席へと直行するのであった。

「めずらしいねー、光がこんなぎりぎりの時間にくるなんて。」
「いい加減その台詞聞き飽きました。おはよう、麻紀。」

  おはよーと返してくれた彼女は和泉麻紀。私の後ろの席にいる仲の良い友人だ。

「へぇ、やっぱりいろんな人から言われてるのか。で、どうしたんだい?」
「ただの寝坊よ。だからこの話はお終い。まったく、みんな寝坊位で大袈裟よ。」
「あんたが寝坊するって誰も思わないんだけどなぁー。おっと、これ以上言うと怒りそうだからやーっめた。」

  怖い怖い。そう言うと、彼女は震える仕草をした。どうやら朝っぱらからの強制マラソンとのせいでだいぶ不機嫌になっていたようだ。

「ところで、5時間目の英語の宿題だけどさ、やってきた?」
「えーっと、どうだったっけ。」

  私は鞄の中を探そうと、机の横に手をやった。

「あ、あれ?」

  スーッと血の気が引く思いがした。全身から嫌な汗がどっと溢れ出る。

「ん?どうしたの?」
「‥‥い。」
「え?」
「ないのよ!私の鞄!」

  何度も手探りをして、目でも確認する。そこには何もかかっていない。鋼を曲げたフックしか存在しなかった。

「ちょ、ちょっとまって、光。まさかあんた、今日手ぶらで学校にきたの?え、まじ?」
「……うん。」

  そう答えるしかなかった。同時に、

「あーっはははは!うそでしょー。ひーっあっははははは!!」

  麻紀が笑い出すのであった。


 悔しくなったので、 笑止まない彼女にあんた、その英語の宿題やったの?と聞いてみた。案の定ピタリと止み、今度は逆に顔を青くして恐る恐る尋ねてきた。

「えーっとですね、その、ヒカリサン?私はですね、その、何といいますか、普段は見れないドジっ娘な貴女がみれてついつい笑みがこぼれただけですノヨ?そんなヒカリサンをわらいものにするはずなん
「へぇ、じゃぁそのドジな私の宿題は、間違っているかもしれないから今日みないほうがいいかもね。」
……ええ!?そんな殺生な……」

  光さまー、どうかお情けをーと縋り付いてくる麻紀を放っておいて、どうするべきかかんがえるのであった。



[24465] 第四話
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/11/27 01:50
  今日は朝からついてない。
  そう思ってしまうのも仕方がないと思う。幸い、私の日課として翌日の準備はしておく方だ。今ならまだ母がいるだろうから、鞄を持ってきてもらおう。1、2時間目は無理だろうが、3時間目からは何とかなると思いたい。


  後で先生に電話を借りよう。麻紀が、ケータイ貸そうか?と言ってくれるがそろそろ先生がくる。いくら携帯電話の持ち込みに関して教師陣も見て見ぬ振りをしているが、目の前で使われていて取り上げない先生ではない。やんわりと断りをいれて机の中を探す。せめてルーズリーフか何かがあれば良いのだが。

  持ち帰るまでもない教科書の間からいつ買ったかわからないルーズリーフを発見したと同時に、

ガラガラガラ━━━━

  ドアが開く音がした。先程とは逆に、入ってくる人物を見つめる側に回った。入ってきた人物は、慣れているのか特に気にしたようでもなく、堂々と入ってきた。

「みんなおはよう。」
「「「「おはようございます。」」」」

  誰も彼もが挨拶を返した。

「うんうん、朝から元気でよろしい。じゃあ今日も一日頑張ろう。では出席を採るぞ。赤池ー。」
「はい。」


  
  朝のホームルームが終わった後、私は先に教室を出ていた先生の後を追った。

「水城先生!」
「おお、石川、どうしたんだ?」
「ええ、ちょっとおねがいがありまして。」

  先生を呼び止めて、私は事情を話した。

「と、言うわけで、出来れば電話を御借りしたいのですがよろしいでしょうか。」
「まぁそう言う事情じゃ仕方ないな。わかった、職員室の電話を貸してやろう。石川もうっかりする日もあるんだな。しかし、和泉からケータイ借りればよかったんんじゃないのか?」
「ありがとうございます。でも先生、教師がそんなこと言っていいんですか?」
「はっはっは、硬い事を言うなって。」
「先生……」

  たわい無い会話をしながら、職員室へ向かう。

「それじゃこの電話を使ってくれ。終わったら、そのまま教室にもどれよー。」

  私は1時間目の準備するからなー。先生はそう言うと与えられた机へ向かって行った。私は受話器をあげ、ダイヤルをプッシュした。



  母に文句を言われながらも、3時間目の休み時間に届けてもらえた。家に帰ったらまた御小言を言われるのだろう。だが仕方がない。
  少し凹みながら、教室へ戻るのであった。

「おしおし、良くぞやった。さぁ私にノートを見せるのじゃ!」

 席にもどってきたと同時に絡まれた。この物体どうしよう。

「な、なんだよぅ。さっきまでシャーペン貸してやったのは誰だと思ってるんだよぅ。」

  ぐ……なんとかノートの代わりになるものはあったが、流石に書くものはなかった。隣の人に借りればいいやと思っていると、トントンと肩を叩く誰かがいた。振り返ると案の定、得意げな顔をしてペンを振る麻紀がいるのであった。

「その説はどうもお世話になりました。」
「いやいやー、それほどでもあるよー。お礼は英語の宿題で勘弁してやろう!」
「はいはい、それじゃあまだ返してもらっていない3000円を今すぐ返してくれたら考えてもいいわよ。」
「そんなぁー、光ぃ……」

  まったく、小学校からの付き合いだが本当に調子がいい。そこがまた、彼女をのいいところだ。

  そのまま多少じゃれついて、ノートを渡した。せんきゅーと、気の抜けた返事を返され、ノートを写し始めた。





  その後、何事もなくすぎていった。あんなにリアルで奇妙な夢をみたと言うのに、あまりにも変わらない日常。果たしてあの夢をそれ程気にする必要があるのだろうか。あれはただの夢、きっとそうさ。第一、起きたときはいつもの私であったじゃないか。
  昼御飯を食べながら、友人達との楽しい会話をしているうちに、朝の事も気にならなくなっていった。



  人には抗えないものがあると思う。
  たとえば、夜十分に睡眠をとったとしよう。もちろん、その時の疲れ具合によるが、疲れはとれ、すっきりと目を覚ます事ができるだろう。そしてまた一日を過ごすのだ。
  だが、日中のほぼ半分をすぎたぐらいだろうか。そう、丁度昼御飯を食べ終わり、5時間目が始まってしばらくした丁度その時間帯。お腹に入った食べ物のおかげか、それとも秋口の丁度よい気候のためか。はたまた教師の口から流れる長ったらしいお経の様な、英語の長文のせいだろうか。つまりのところ、眠いわけだ。
  周りを見渡すと、ちらほらと舟を漕ぐクラスメートが見受けられる。真後ろにいる我が友人も、机に顔をうずめているのだろう。先程から寝息が聞こえてくる。

(どうしてうちの英語担当、水城先生じゃないんだろう。)

  おそらく、このクラス全員の思いだろう。
担当しているクラスの授業をみるのは不公平という不満がでないよう、なるべく重ならないよう振り分けられている。そして、授業に差が出ないよう、それぞれの科目担当の教師達が話し合って授業カリキュラムが組まれているはずなのに、どうしてこんなにも違うのだろうか。一度、今教壇に立っている先生が出張で水城先生が授業を受けたのだが、全員の態度が違っていた。

(ま、どうでもいいか。)

  全てがどうでも良くなるほどの眠気につつまれた。
  私が悪いんじゃない、全部この状況が全て悪いのだ。
  普段はなんとか耐えるのであるが、今日は何故か抗う事ができず、私は夢の世界へと旅立っていくのであった。




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  どうも、ぢるぢるです。
  ようやく学校編が終わりました;
   長々と学校編を書きたかったのは、学校の、特に5時間目あたりって眠くなっちゃうよね!って言うのを書きたかったのでする。それに学校から不思議な体験って展開にしたかったので。
  さて、ようやく本筋に入れそうなのですが、私が遅筆なためこれから本当に進むのかどうかも謎です;(プロットなしってほんとどう進むかわからないですね;
  そんなこんな展開ってありですかですが、これからもよろしくお願いします。



[24465] 第五話
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/12/14 06:44
「ふふふ、気持ち良さそうに眠っているわね。」
「だから俺にも抱かせてくれよー。」
「はいはい。まったく、最近は灯にばっかり夢中で妬けちゃうわ。」
「だって、こんなに可愛いんだぞ?しかたないだろ。」
「あら、初めて灯を見たときお猿さんって言ったのは何処のどなたかしら?」
「そ、それは仕方ないだろ?あんなくしゃくしゃな顔がこんなべっぴんさんになるなんてさ!」
「しーっ!そんなに大きな声を出したら灯が起きちゃいますよ。」

  ううん……さっきから煩い。授業中なのに話し込んでる誰かがいるのだろうか。しっかりと授業を聞くべきだと思う。
  自分の事を棚にあげながら、安眠を妨害する誰かを注意してやろうと厚顔無恥なことを考える。すっかり重くなってしまった瞼を開けると、そこには知らない誰かがいた。

「ほら、あなたのせいで起きちゃったじゃない。」
「お、俺のせい!?」

  そうですよねー。と、同意を求めてくる。いや、同意を求められても。それにあなた達はいったい……しかし、その人物達の内の一人の顔に、見覚えがあった。いや、覚えどころか普段から見つめている顔ではないか。

「ほら、灯だって頷いてるじゃないですか。」
「いや今のは横に首を降っただろ。俺は無罪だ。」
「あら、まだ灯の首はすわってませんよ?他の子と間違えたのかしら?……私と灯がいながら、他所に女性を囲うなんて見損ないましたわ。」

  いや、だからそんな事を言われても。それはあなた達二人の問題ではないだろうか。と、言おうとしたがその言葉が発せられる事はなかった。代わりに私の口からはくぐもった、声とも言えぬ音が流れるのであった。

  

  これは朝の夢の続きなのだろうか。また体が自由に動かせなくなっている。その上、また成長した私とその旦那さんであろう人物が、私を覗き込んでいる。
  またしても突然の出来事に、どう反応していいのかわからず惚けてしまった。

「ふふ、まだ灯ちゃんはおネムのようですね。」
「そうだな、このままだとゆっくり寝られないだろうから、このまま向こうの部屋へ行こうか。」

  どうやら、惚けているのを眠たいと勘違いしてくれたらしい。小声で話している声が聞こえてくる。正直そうしてもらえるとありがたい。そっと離れていく気配を感じながら、寝るふりをするのであった。



━━━━パン



  襖、だろうか。何かが閉じる音が、微かに聞こえたと同時に目を開いた。とりあえず、状況確認をしなければ。
  先程の話では、まだ私の首はすわっていないらしい。そのため、あまり周りを見る事はできないがしないよりかはましだ。

  まず、ここが病院ではないと言う事がわかった。あの無機質な天井ではなく、木目調の飾り板が張られた、暖かな天井であったからだ。そして、その天井には見覚えがあった。

(これって、ウチの客間の……だよね?)

  私はあの木目が好きで、小さい頃にはよくこの部屋に来て眺めていた。今よりももう少し大きい視野ではあるが、間違いないと思う。
  今自分がいる場所はわかった。次は今自分の状態及び状況だ。
  まだ、首を横に振る事すらできない。と言う事は、あの初めて……の食事からあまり時間はたっていないのだろう。首がすわるのがおおよそ3ヶ月だったはずだ。首が振れるようになるのは、どの程度かかるかがわからない。それは今考えなくてもいいか。
  そして状況は、またしてもあの夢の続きを見ている……と、いうことなのだろうか。
  それにしても、本当にリアルな夢だ。あの天井にしろ、肌に触れているタオルケットの質感、更にはこの少し肌寒い空気まで。本当に自分が赤ん坊になったような気がしてくる。そして、まったくもってそんなところまで再現しなくていいのに……

(と、トイレに行きたい……)

   激しい尿意を感じる羽目になるとは……




  その後の事について、乙女の秘密と言う事で飛ばさせて貰おう……あえていうなら、普通の赤ん坊と同じ事をした、とだけ言っておこう。ただ、濡らしてしまった下半身の不快感は我慢しているのだが。
  まったく、夢だと言うのにこうもリアルにされるとは……
  赤ん坊の体とは言え、おそそをしてしまった事を激しく落ち込んでいると、スッと、襖が開く音がした。

「おかしいわねぇ。何時もならとっくにお腹空いたー、の泣き声がするはずなのに。」

  どうやら、普段とは違う事に疑問をもった母親……が様子を見に来たようだ。お腹は、出るものが出たためか、だいぶ空いてきた。 ここは、愚図っておしめなども変えてもらったほうがいいのだろうか。

「あら、起きているみたいね。どれどれー、おしめはどうかなぁ~。あら、びっしょりじゃない。さっさと替えてスッキリしましょうね~。」

  愚図る必要もなかった。慣れた手つきでオシメは変えられそして、

「それじゃ、おっぱいものみましょうねー。」

  抱きかかえられ、何時の間に脱いだのだろうか、むき出しにされた乳房の前にたどり着いた。少し躊躇いはあったが、お腹は空いているし、何せ初めてではなかったため、そう躊躇する事なくその膨らみに吸い付いた。
  




  ゲップをし、また元の寝ていた場所にもどされた。だが、再び見えた彼女の顔には、何故か陰がさしていた。そして、頭を撫でた彼女は部屋を出ようとして、





「やっぱり、この日だったのね。」


━━━━また、後でね。光……


  気になる言葉を残して、襖の扉は閉められたのであった。






━━━━さっきの女性はなんと言ったのか?

  頭が真っ白になるというのは、こう言った事なのだろうか。
  マタアトデネ、ヒカリ……?

  灯、といい間違えたのだろうか。いや、それならば前後の言葉の意味と通じない。あの女性はやはり、私の母親であり、そして私……自身なのだろうか。だめだ、頭の中がぐちゃぐちゃで全く理解ができない。想像していたじゃないか、母が私だと。だが、そんなことがありえるのだろうか。でも、さっきのは……
  だめだ、いくら考えても結論が出ない。思考の冷静な部分が全てをせき止めてしまっている。


  なんだかもう、どうでも良くなってきた。
  私の悪いくせだ。だが、もうどうしようもないじゃないか。こんな現象、たぶん専門家が束になってもわかるわけがない。たかが中学生にそんなことがわかったらそれこそ小説にでてくる主人公、もしくは主人公にアドバイスをしてくれるお助けキャラくらいではなかろうか。━━━━いや、もうこんな摩訶不思議体験をしている私こそが、主人公なのだろう。




  もういい、寝る。




  全てを投げ出し、夢の世界へと旅立つことに決めた。あれ、でもこの世界って夢の世界じゃなかったっけ……

  そんなことを考えている途中で、考えることはできなくなっていた。







「そう言えば、光、いえ、灯……あぁ、もう面倒くさいわね。私が光で、貴女は灯なんだから今は灯って呼ぶわ。」

  いいわね?そう聞かれても、私は頷くことすら出来いないのだから、適当に「あぅ。」と答えておく。

  次に目を覚ましたとき、てっきりもうこの夢が終わり、あのつまらない授業へもどっているものとばかり思っていた。だが、現実はそう甘くないようだ。
  私が起きたとき、最初に聞いた言葉は、何処か母親の声に似ている、優しげな声であった。

「よろしい。今から貴女が置かれている状況について簡単に話すわ。と言っても、私の体験談なんだけどね。」

  そう言うと、彼女は話し出した。

「とりあえず、自己紹介からね。初めまして……と言うのもおかしい気がするけど、私は神埼 光、旧姓石川 光よ。もう想像がついているかもしれないけど、未来の貴女。OK?」

  あぁ、予想はしていたけれど、中々受け止められる内容ではない。まさか将来、どんな風になるのかがわかってしまうと、将来の目標を知ってしまってつまらなくなってしまうではないか。

「あらあら、眉間にしわ寄せちゃって。灯ちゃんに皺寄せグセついちゃって目つきが悪くなったらどうしてくれるのよ。」

  いや、でもですね、私は将来貴女みたいになると知ってしまいショックではないですが、かなり……あぁ、会話ができないのがもどかしい。

「将来について、絶望とはいかないけれど、ショックを受けているのね?でも、それは分からないわよ?今の貴女の状況にも関わってくるのだけど、未来が決定しているわけじゃないんだから。」

  それは一体、どう言うことなのだろうか。未来が決まっていないっていったい……

「とりあえず、その辺りについてのことはまた後でね。今は貴女の状況についてかしら。予想はついていると思うけど、貴女は私の娘、灯に憑依していると思ってくれていいわ。灯は現在生後1ヶ月よ。だから首、振れないと思うけど、振らないでね?さて、本題よ。」

  いよいよ、私が一番知りたい事を教えてもらえるのだろうか。私が知りたいこと、それは……

「あ、言っておくけど、貴女が一番知りたいと思っていることは、絶対に言わないから。もぅ、睨まないでよ。ちゃんと訳があるの。それは、分からないからよ。」

  どう言うことなのだろうか、一度経験していることが分からないなんて……

「さっき言いかけたけど、未来が決定していないことにも関係するの。貴女はまだ知らないだろうけど、パラレルワールドって考えがあるのよ。私もちゃんと調べた訳じゃないし、研究もしてないないから詳しい説明は省くけどIFの世界って言えばいいのかしら?もし、あの時ああしておけば……って思ったことあるわよね?IFの世界ってそういうもしも……を行った場合の世界ってことよ。そしてね、その世界がもし、たくさんあるとしたらどうかしら?」

  私の顔は、今目を大きく開いているのだろう。顔面の皮膚が伸びている感覚が伝わってくる。しかし、どうしてそんなことがわかるのか。もし、そんな世界が多重にあると、どうしてわかるのだろうか。

「どうしてわかるのか、って顔ね。それはね、私の経験からよ。私も貴女と同じように、突然赤ん坊になった経験があるから。でね、その時の私、なんて名前だったと思う?晃治よ?ふふふ、男の子になっちゃったのよ。それに、そのとき私の母親である私……苗字も神埼じゃなくて東雲って言うの。だからね、私の未来は決まっていなくて、こうして話している私に、貴女が将来なることはあるかもしれないし、ないかもしれない。だからね、貴女は未来が決まったなんて心配する必要はないの。」

  なんか、そう言った研究をしている人たちに怒られそうな体験をしているのだろうか。いやはや、まさか彼女が男の子を経験したことがあるなんて。いや、でもそのおかげで未来が決まっていないと分かったのは僥倖だ。

「でね、いくら未来が変わるといっても、変わらないこともあるの。貴女にはそれを事前に防いでもらいたいのよ。いえ、聞けば絶対に防ぐ為に動くはずよ。」




  突然真剣になった彼女に、私は、ゴクリと唾を飲み込むのであった。



[24465] 第六話
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/12/15 04:54
「あーははは、それにしても今日の光はホントおかしいよね。まさか授業中に居眠りするなんて。しかも、いきなり立ち上がったと思ったら、そのままポッカーンってしてるんだし。」
「もー、麻紀ってばさっきからうるさいわよ。私自身が一番恥ずかしかったんだから……」

  麻紀にからかわれながら、帰路についていた。




  未来の自分からの説明を聞き終わった後、元の世界へと帰ってきたようだ。不思議なことに、この前はお腹にいるところから、出産、そして産後の数時間までが一晩の睡眠時間であったのに対し、今回の場合は向こうで数時間の出来事が、授業の間たかだか数十分と、かなりばらつきがあるらしい。
  私はすでに、あの世界のことを単なる夢だとは思えなくなっていた。あれだけ具体的な夢はあるのだろうか。あったとしても、この短期間のうちに2回、さらに内容まではっきりと覚えていられるなんて。まぁ、もしただの夢であったとしても言われたことをやることで、あんなことにならなければいい。その時は単なる夢、私の妄想の産物で済ませられる。


  妄想の産物でクラスの笑い者にされたなんて恥ずかしすぎるが……


「本当に今日はどうしちゃったんですか、光さん。悩みがあるなら相談に乗りますわよ。」
「ありがとう麻紀。でも貴女に相談するとどうせお姉さん達にも相談するでしょ?そうなるとあっという間に広まっちゃうから遠慮するわ。」
「ひっどーい、そんなことないもん!!私の口はダイヤモンドよりも硬いのだぞ!!」
「はいはい、でもダイヤモンドって衝撃には物凄く弱くて、ハンマーで叩いたら簡単に割れちゃうそうよ?」

  「知ってた?」そう尋ねると、麻紀は口を噤むのであった。

「でも……」
「でも?」
「いつか話してあげるわ。どうせ笑い話にしかならないことだし。」
「ほほーぅ。それなら首をながーくして待っていてあげようではないか。でも、絶対だからね!忘れたとは言わせないよ!!……まぁ、予想はついているんだけどね!!ズバリ、恋をしましたね、奥さん。」

  このナマモノ、イッタイナニヲホザイテイルノダロウ?

「えっと、麻紀さん……」
「いいの、それ以上言わなくていいのよ!!ええ、親友の私には分かっているの、あの朴念仁の光にもついに春がきたってことが!!だけど恥ずかしくてまだ私にも話せないのよね?仕方ないことだわ。だって、恋なんだもの!!」
「え、あの、だから……」
「いったい誰なのかしら、光の心を射止めた御方は……」

  本当にどうしましょう。暴走が止まらない。さらにここは割と人の多い通りだ。商店街も近いことから、すでにマダムたちの「若いっていいわねぇ。」「そうね、あの頃の私も恋多き乙女だったわぁ。」なんて会話が聞こえてくる。早く黙らせないと、明日には、いや、今日家に帰った時あの面白いこと好きな母がいじってこないはずがない。ありもしない恋バナを振ってこられ、あることないこと根掘りは堀り聞いてくるに違いない。

「麻紀、お願いだから落ち着いて!!」
「サッカー部のキャプテンかしら?それよりも生徒会のあの人かな?いえ、渋好きの光なら大人という可能性も……」
「いい加減に戻ってこないと、殴るわよ。」
「いえ、やっぱり芸能人に似ているって噂の彼かしら。」

  手に持っていた鞄を、妄想娘の頭に振り下ろすのになんら躊躇いなどかった。

「もー、いきなりぶつことないじゃない。」
「あら、ちゃんと注意したし、自業自得じゃない。あ、私ちょっと寄るところがあるから、今日はここで。」
「え、てっきりここまで来たからうちによってくんだと思ってた。……やっぱり、デート?」
「だーかーら、違うって言ってるでしょ。まだ私にはそう言った人は居りません。ちょっと小学校に弟を迎えに行くだけよ。」
「つまらんのぅ。ま、今度遊びに来てよ。武志君にもよろしく伝えておいてねん。」
「ええ、それじゃまた明日。ばいばい」
「ばいばーい。」

  麻紀と別れ、弟の通う小学校へと足を向けた。現在時刻15:40。このままゆっくり歩いても、リミットの16:00には間に合うだろう。ここから歩いて5分の距離だ。だが、自然と早歩きになってしまう。

━━━━急がないと

  いても立っても居られず、駆け出していた。




  市立霞ヶ丘小学校。1年と少し前まで私も通っていた母校だ。5年前に建て替えられたばかりなのであまり学校の古めかしい独特な感じは無い。しかし、小学3年生の頃から3年間ここで過ごした身としては、たくさんの思い出が詰まった場所だ。
  できれば、職員室へ行って担任だったあの先生に会ってきたいな。だが、目的は弟だ。職員室のある校舎と、おそらく弟がいる校庭はだいぶ距離がある。今回は諦めてまた次の機会にでも麻紀と一緒にこよう。
  放課後と言うこともあってか、ちらほら小学生が遊んでいるのが見える。あまり人数がいなくてホッとした。多くの生徒がいたら探すだけで一苦労だ。さて、何処にいるのかな。




「あれ、中学生がいるぞ。」
「ほんとだ、先生に会いにきたのかな?」
「んーそれだったら、なんでこっちを見てるんだ?校舎あっちだろ。」
「じゃあなんだろうねー。」

  クラスメイト達が一旦遊ぶことをやめ、先程からこちらを見ている人物について話しだしていた。せっかくいいところだったのに、これでは台無しだ。でも、あの中学生、もしかして……

(なんでこんなところにいるんだろう?)

  やはり、見間違えではなく毎日家で顔を合わせている人物であった。




  どうやって探そうか。そう悩んでいると、先程からこちらを見ている一団から一人、駆けてくる人物がいた。

「ねーちゃん、いったいどうしたんだよ。」

  やはり、探していた我が弟の武志であった。探す手間が省けてよかった。

「よかったー、まだここにいて。さ、帰るわよ。」
「え、なんでだよ。いきなりきてわけわかんねーし。」

  たしかに、いきなり帰るぞと言われても納得できないし、わけがわからないだろう。

「え、えっとお母さんに頼まれたのよ。武志を迎えに行ってきてって。」
「どうして?母さんそんなこと言ってなかったぞ。」
「だから、朝エビがどうとかって言ってたわよね?それでスーパーの特売でエビがお一人様1パック200円のセールやるから人出が欲しいんだって。」

  もちろん嘘だ。朝の会話を必死に思い出し、エビという単語がでてきた。どうせ海老フライか何かだろうが、この際なんでもいい。とにかく早く弟を連れ出しこの場を離れたい。

「まぁ、そう言うことなら……でも、そんなこと言ってたっけ?朝一のチラシチェックでそれならそうと言ってくるはずだし……」
「じ、実は、忘れ物しちゃってお母さんに届けてもらってね。その時言ってたのよ、帰りに武志も連れてきてって。」

  「うーん、まぁ仕方ないか。」そう言うと、先程の一団へと戻って行った。帰ることを伝えに行ったのだろう。これ以上追求されなくて本当によかった。ふと、校舎についているでかい時計を見上げると15:56を差していた。どうやらタイムリミットには間に合ったらしい。ホッと一息ついていたとき、ランドセルをとってきた武志が戻ってきた。

「お待たせ、それじゃこのままスーパーに行けばいいの?」
「え、えっとセールは5時からだから一度家に帰って荷物をおいて行きましょ。着替えもしたいし。」
「え、だったらわざわざ呼びにくる必要なんてないじゃん。うちの門限5時なんだし。」
「こ、細かいことは気にしない!ほら、さっさと帰るわよ。」

  何か不思議なものを見る視線を受けながら、二人揃って歩き出すのであった。
  ところが……

「あっ。」

  突然、武志が止まる。いったいどうしたのだろうか。

「ごめーん、教室に忘れ物してきたー。取りに行って来る。」

  おいおいおいおいおい、もう時間はないと言うのに、この弟は何を言っているのだろうか。

「そんなの、忘れておけばいいよ。」
「えー、でも今日の宿題だし、怒られるのは俺なんだからね。とっとと取りに行って来るから先に行っててよ。」

  そう言うや否や、反転して走って行った。時計をみると、もう時間が無い。最終リミットの16時を迎えてしまった。もう、いつ事が起きても不思議じゃない。

「あぁ、もう!!私も行くから待ってよ!」

  ここで先に行っては、わざわざここまで来た意味が無い。



「どーしてついてくるんだよ。先に行ってくれていいのに。」
「気にしない気にしない。それに私も久しぶりに校舎みたかったし。」

  「ふーん。」訝しげな視線を向けられたが、今更だ。それよりも早くこの場所からでなくては。

「で、教室はどこなのよ。」
「えっと、3階の一番隅だよ。ほら、音楽室の反対側の。」
「へぇ、あそこかー。私が6年の頃そこだったんだけど。」
「ほら、車椅子の人いるじゃん。だから今は6年生が1階だよ。んで、4、5年生が上になったの。」

  そう言えば、そんな子がいたな。校舎自体はバリアフリーに近くはなっているが、流石にエレベーターはなかった。そうなると、教室は自然と負担が少ない1階になるわけだ。

「その話、今は置いておきましょう。さっさと忘れ物取りに行くわよ。」
「だね。じゃ、ここまで待ってて。上履きないでしょ?」
「いえ、久しぶりに教室見たいからついて行くわ。私達が卒業してからどんな風に変わったか知りたいし。いいでしょ?」
「靴下汚して怒られても知らないからな。」

  懐かしい玄関から、校舎に進入した。私が卒業してから1年とだいぶ経っているが、ほとんど変わっていない。ここで私も過ごしていたんだなと思うと、感慨深いものがある。
  だが、一つだけおかしいところがあった。真新しいはずの白い壁に、黒い不気味な亀裂が至る所に入っていたからだ。

「ねぇ、武志。あのヒビっていつできたの?」
「んー?あ、あれねー。そう言えばいつできたんだっけ?気づいた時にはもういっぱいあって、先生達も不思議がってたんだよね。」

「そうなの。」と、相槌をうち教室へ向かうのであった。



[24465] 第七話
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/12/16 03:17
━━━━ガラガラガラ


「へぇ、私達がいた時とだいぶ違うわねー。」

  やはりクラスの生徒ごとに個性が出るのだろう、私達が使っていた頃と掲示物の配置は同じだが、それを飾りつけるものが多く、全体的に可愛らしい雰囲気になっている。クラスの中にこういったものが好きな子がいるのだろう。

「そりゃそーだよ。去年転任してきた先生が担任なんだけどさ、やたらこういったの作るの好きな人なんだよね。」

  生徒ではなく、どうやら先生の趣味らしい。楽しいクラス作りにはいいだろうが、4年生の教室としてはどうだろと疑問に思ってしまう。

「で、忘れ物はあった?」
「うん、手提げにいれてあったんだけどそれごと忘れちゃって。」

  自分の机だろうか机付近で何かを探していた弟は、目的のものをみつけたらしい。

「じゃぁ急いで帰りましょう。もたもたしてると大変なことになるから。」
「おーげさだなぁ。そんなに急がなくても5時まではまだ時間があるじゃない。」
「いいから、早く出るわよ。」

  とにかく学校から早くでなくちゃ。のんびりしている弟を急かしつつ来た道を戻るのであった。



「あら、こんなところに中学生?そこの貴女、ちょっと待ってくれるかしら?」

  階段を下り終え、玄関に向かおうとした時、誰かに呼び止められた。失敗した、放課後とはいえ、教師達がいないわけが無い。
  現在、様々な小学生を狙った犯罪が多発したため、基本的に部外者の学校への立ち入りは禁止されている。もし用事があるなら、きちんと来客用玄関から手続きをしなければならない。
  今回、そんなことをしている余裕なんてなかったため、生徒用の玄関から無断で入ってしまった。OBと言うことで、そこまでうるさくは言われないだろうが、説教は受けるだろう。
  どうしようか。いっそ、このまま知らん顔して行ってしまおうか。

「あ、先生!」

  いや、もう無理だ。どうやら知っている先生らしい。私が在籍していた時には見たことが無いので、卒業後赴任して来た先生なのだろう。

「あら、石川君じゃない。まだ帰ってなかったの?」
「えっと、今日の宿題が入ってるバッグを忘れちゃって。取りに来たんです。」
「そうなの。よかったわねー、明日その宿題の答え合わせで石川君を指そうと思ってたのよ。」
「先生ひでー。」

  この先生が武志の担任らしい。和やかに話しているが、先程からチラチラとこちらを見てくる。

「あ、あの……すみません。勝手に入ってしまって。」
「あ、そうそう。貴女どなた?」
「初めまして。私は石川 光といいます。そこにいる武志の姉です。弟がいつもお世話になっています。」

  そういうと同時に、頭を下げた。ここは下手に黙っているよりも、先に謝っておけば説教も短くなるだろう。

「あらあら、ご丁寧にどうも。私は石川君の担任をしている北条っていいます。光さん……でしたっけ?貴女、来客は来賓玄関から手続きをしなければいけないって言うこと知っていますか?」
「え、ええ……ですが、今日は急いで帰らないとならない用事があって……」

  私の馬鹿。どうして正直に答えてるんだ。

「知っているならちゃんとルールを守ってもらわないと。それに、急いでいたならどうして校舎に入ったのかしら?入り口で待っているなら呼び止められなかったと思うのだけど?」
「実は、武志の使っている教室が一昨年まで私が使っていた教室で、ちょっと見て見たくなって……」
「あら、それは偶然ね!で、どうだったかしら?」
「え、えっと、可愛いポップがいっぱいでとってもいいと思いました。あの季節ごとの花とかいいと思います。」
「そ、そうよね!!あれ、いいわよね!!可愛いわよね!!」
「!?」

  い、いきなりどうしたのだろうか。
  なんだか、不安な方向に進んでいる気がする。

「いやー、貴女見る目あるわぁ。でもね……最近の子供たちってああ言うの嫌いなのかしら……みんなから趣味が悪い、子供っぽいって不評なのよ……」
「そ、そうなんですか……」
「だから褒めてくれてとっても嬉しいわ。特に月ごとの花は気合をいれて作ったから!!」
「え、えっと……」

  ツンツン
  隣でつついてくる。

「ねーちゃん、先生たまにこーなるから、さっさと終わらせないと話が進まないよ。」
「へ、へぇ……変わった先生だね……」

  北条先生に聞こえないように小声で話せるよう、耳のそばで囁いた。




……ぁあ!!」
……逃げろ!!」

  そうこうしている間に、外がうるさくなってきた。もう、時間がなかったのだろう。

「間に……合わなかった……」
「ん?どうしたの?ねーちゃん?」

  私の呟きは、幸いな事に近くにいた武志には聞こえなかったらしい。これで運命は決まってしまったのだろうか。
  いや、まだ道はあるはずだ。彼女だって言ってたではないか、未来は決まっていないと。考えろ、まだ完全に詰んだわけではない。

「先生!!」
「だから、あの時はああして……!?はい!?」

  いきなり大声をあげた為、暴走は止まったようだ。

「外が騒がしいです。何かあったのだと思います。急いで警察を呼んだ方がいいのでは?」
「え、え!?」
「武志は今すぐ学校からでて……」
「ね、姉ちゃんも一緒に……」

「北条先生、逃げてください!!!」

  咄嗟に、名前がわかる先生を呼んだのだろう、男性教師が叫んでいた。

「ぐぎゃああああ!!」
「「「!?」」」

 叫び声が聞こえた方を見ると、警告をしてくれた男性教師が、脇腹を真っ赤に染めながら倒れるのが同時であった。







[24465] 第八話
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/12/16 03:55
※今回のお話には、流血シーンや暴力的シーンがあります。苦手だ、と言う方はブラウザーバックでお戻りください。

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「少し、抱き上げるわよ。」

  私……いや、神埼さんと呼ぶ事にしよう。彼女は、慣れた手つきでまだ小さい私の身体を抱き上げた。

「ここが私たちの、石川光の家って事はわかっているわね?そしてこの部屋の隣に何があるかも……もちろん、間取りはずっと変わっていないわ。」

  なるほど、だとするならば隣にあるのは……
  スッ━━━━
  僅かな音を出しながら、襖が開けられた。




「あなた達、逃げなさい!!」
「っ!!」

  倒れた男性教師の後ろには、黒い何かがいた。  その何かは、倒れた彼に近づくと背中に刺さった棒状の様なものを引き抜いた。

「あ……がっ…………」

  痛みにより気絶から覚めたのか、呻き声をあげながらピクピクと痙攣している。
  彼を中心としして、赤黒い水たまりが広がって行く。
  血生臭い匂いが充満した空間で、私は動けずにいた。北条先生も逃げろ、と一度言うだけが限界だったのか、今だに逃げない私達に何も言ってくる事はなかった。


  果たして何時間経ったのだろうか。先程から誰も動かなかった。いや、私達は動けなかった。
  この、ある意味沈黙の状況を打ち破ったのは……

━━━━カンッ

  その音が、一体何であったのか確かめる術はない。だが、その音で停まっていた時間が動き出した。

「わあああああああああああああ!!!」

  それは、恐怖から逃れるためなのか。それとも気合いを入れるためなのか。はたまた両方か。
  勢いよく武志の腕を掴むと、有無を言わさず引っ張り走り出すのであった。




  スッ━━━━
  開かれた襖の向こうには、予想通りと言おうか、線香の香りがする部屋であった。そして部屋の奥、その中央には荘厳で黒い光沢がある仏壇が鎮座していた。

  一体この部屋に何があるのだろう。そう思っていると、突然顔が壁の上側へと向けられる様に調整された。この行動に一体なんの意味があるのだろうか。

「この位置で見えるかしら?いい、灯。遺影のところを見てもらえないかしら?」

  嫌な予感しかしない。見たくない。

「お願い、ちゃんと見て!!お願いだから……」

  目を瞑ってるのがわかったのか、懇願されてしまった。いよいよ、覚悟を決めるしかない。
  瞼を開き、この眼に写す。そこには…………




  失敗した……
  どうして校庭に逃げなかったのだろう。知っているとしても、実際に見るのとでは全く違うということか。
  私達は走った。だが、相当焦っていたためか逃げ道が少ない上の階へと続く階段を昇ってしまった。後悔しても、もう遅い。
  男性教師が刺される事は知っていた。知っていたからといて、到底恐怖を押さえつける事などできなかった。もしあの場で叫ばなければ今頃は彼と同じ様に刺されていたのかもしれない。そして、そうなったら傍らで泣いている弟も……

「ぜぃ、ぜぃ……ちょっと、休みましょう。」
「っぇっぐ……ゔん……」

  一気に階段を昇ったため、息が荒い。肺に目一杯酸素を取り込むために大きく息を吸い込んだ。

「はぁ、はぁ……」
「ぇっぐ……えっぐ……」

  少し呼吸が楽になった。まだここは危険だ。鍵がかかるか、もしくは見つからない場所へと動かなければ。

「……いくよ。」

  まだ泣いている武志を引っ張る。普段の私には考えられない力で引っ張って行く。早く、早く逃げなくちゃ……




  何で……何で何で何で!?

「石川 武志。享年10歳……」

  眈々と告げる神埼さんの表情を伺うことはできない。

「私達、石川光の弟で、あの日は、私が不思議な体験をした日だったわ……」

  ただ、私の顔に、冷たい雫が落ちてくるのであった……



[24465] 第九話
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/12/16 09:23
今回も暴力シーンあり!!
ご注意ください。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

  カツン……カツン……

  恐ろしく不気味に静まりかえった廊下で、一際大きく響く音がする。まだ日は完全に落ちておらず、踊り場の窓から差し込む赤い西日で、伸びた黒い影がより一層気味の悪さを滲み出していた。
  あと、どれだけ待てばいいのだろうか。何度目になるかわからないが、腕時計を確認する。しかし、先程から長針は2分とすすんでいなかった。
残り14分……


「いい、武志。絶対にここから動いちゃダメだからね。」
「ねぇ……ッング……ちゃんは、ッヒグ……どう……するの?」
「心配しないの……私だったら大丈夫だから。ね?」

  必至で震える口調を隠す。はたして、隠せているだろうか?
  怖い。もうこのまま逃げてしまいたい。何でこんな目にあったんだ。これも全部目の前のこいつのせいだ。でも……
  頭がグチャグチャになって、無責任なことも考えてしまう。
ダメだ、光。お前は何の為にここに来た?

「絶対、絶対に動いちゃダメだからね……わかった?」

  安心させる様に、幼い身体を抱きしめる。いや、私自身が安心する為か。
  体の震えがおさまった気がした。よし、大丈夫。
落ち着いたところで、立ち上がった。そして

  ガシャンッ━━━━

  薄い鉄の扉だが、今は難攻不落の城壁に感じられるそれを閉めた。鍵はかけられないが、見つけられなければいい。

  いくぞ石川光、覚悟を決めろ。あと16分、私ならいける。
  さっきは治まったはずの震えが、また始まった。膝が震える。つられて、体も震える。

  震えるな!!お願いだから止まって!!

  震える体を叱咤し、もう一度武志を隠した掃除ロッカーを見つめた。

  ━━━━大丈夫。
  ここだったら見つからない。そう自分を奮い立たせるためか、確信めいた何かをもたせ、無理やり教室からでた。
  左右を見るが、まだあの人物はいないようであった。

  よかった……

  この場を見られたら、少し前の行動は無意味なものになっていただろう。かの人物は歩いて昇っているのだろうか。このまま上がってくるのを待つべきか。それともこちらから向かっていくべきか。

  悩んだところで、どちらが最善の行動かわからない。だが、一対一になったとき、組み敷かれたら中学生の、しかも女である私に勝ち目はあるか?いや、ないだろう。
戦ってはダメだ。引きつけて、引きつけて引きつけて逃げる。それしかない。
  
  待とう。
それが私に出せる、最善の選択だった。




  カツン━━━
  きた。
  静まった階段の方向から、響いてくる音で、心臓の音が早くなる。

  カツン━━ドクンドクン……
  カツン━━ドクンドクンドクン……

  早くなる鼓動が煩わしい。
  まだ、まだだ。まだ、まだ動いてはならない。あいつは私の姿を見ていない。逃げるのは、あいつが登り切ったくらいじゃないと、私を確認できない。下手をしたら、追ってこないかもしれない。

  階段が見える、あいつからは死角になる位置から今か今かと待ち受ける。

  見えた!!
  あの、全身黒尽くめの人物が踊り場に入ってきた。あと10段……恐らく、登り切るのに1分もかからないだろう。
  もう一度、時間を確認する。まだあと14分。たった2分。武志を隠してからまだ2分しか経っていない。
 


  長く伸び切った黒い影が、もう階段の方を見なくても見えるほど、私とあいつの距離は近づいていた。

  あと3歩……
  カツン━━

  あと2歩……
  カツン━━

  あと、1歩……
  カツン━━

  今!!!
  震える足に鞭をうち、その場から駆け出す。なるべく勢いをつけ、音を出す。
  お願いだから、こっちへ来てよ……

  チラリと後ろを振り返り、あいつがついて来るか確認する。

  よしっ!!!

  あいつは私の思惑通り私に狙いを定めたのか、身体の正面が見えた。
  返り血だろうか?その顔面には黒い筋が見える。

  しかし、それが悪かったのだろうか。足元に落ちていたものに気づくことができなかった。


  ズキンッ!!!
  その痛みに耐えきれず、転んでしまった。
  
  痛い……刺された痛みが広がる。
  足の裏を見ると、そこには鈍色の光を放つ平べったい丸いものがあった。
  画鋲。学校ならば絶対にある文具の一つだろう。

  何でこんな時に!!!
  毒づくが、もう踏んでしまったあとだ。
  足の裏に刺さったそれを引き抜いた。僅かに痛みが走ったが、我慢だ。黒く汚れた靴下に、じわりと赤い斑点が広がっていく。

  立ち上がらなければ……  
  あいつとの距離は、5mもない。

「ぐっ……」

  刺してしまった足を床につける度、鈍い痛みが走る。

  カツン、カツン━━━━

  そんな私を嘲笑うかの如く一定のスピードで、確実に近づく足音。
  追いつかれないよう、必死に足を出す。
  あと20mも行けば、もう一つの階段がある。そこまでなんとかしていかないと。この階から離さなければ……






必死に起き上がり、ぎこちない足運びで駆け出すガキを見送った。そう言えば、もう一人のガキはどこへ行ったのだろう。
まさか、一人を逃がす為に囮になったとでも言うのだろうか?

そうであるならば、面白い、面白いではないか!!
自己犠牲など、なんて涙ぐましい行為ではないか!!
  ならばそいつを見つけだし、目の前で刺してやったらどうなるだろうか?泣き叫び、やめてと縋りつき、喚き散らすのだろうか?自分を囮にするくらいだ、きっとお涙頂戴の寸劇を繰り広げてくれるはずだ。それはきっと、満ち足りたものになるだろう!!

  もう何事も感じることはないと思っていた男には、この考えは驚くべきことだった。
  
  男を刺したとき、何も感じなかった。
  女を刺したその時は、少し興奮した。しかし、どうでもいいことだった。
  老人を刺した。流石に少し後悔した。だが、それだけだった。
  そんな俺が、たかがガキどもの行動に興味を持つとはな……

  己の願望を実行すべきか、それとも奴らの考えに乗ってやるか。そのどちらに転んでもきっと楽しいのだろう。

  自然と釣り上がる口元に、男は気づくことは無かった。



[24465] 登場人物紹介~更新でござる~
Name: ぢるぢる◆9f092782 ID:956bb040
Date: 2010/12/16 03:00
登場人物紹介

はじめに

  どうも、作者のぢるぢるです。この物語、「こんな展開ありですか」は、私の書き方に問題がありまして、主人公以外の登場人物たちも、物語の展開上大事なキャストのはずなのですが、作品上での紹介などがおざなりになってしまっております。なのでもういっそのこと別枠で紹介したほうがいいんじゃね?と言う結論に至りました。
  と言うわけで、ここでは随時登場人物の紹介をずらずら更新していくことになります。また、まだ本編に出ていない設定なども出てくることがあるのでネタバレの可能性もあります。それが嫌という方はブラウザバックなどでお戻りください。








  それにしてもおかしいな、なんか段々猟奇的内容になってないか?本当はキャッキャウフフなラブコメものにしようと思ってたのに……

~現代~


*石川家

石川 光(イシカワ ヒカリ)
  本編主人公。基本的に彼女視点で物語が進行します。
  突然胎児になるという摩訶不思議な体験をしたばかりか、2度目?の出産される体験をした稀有な人。しかもその母親が未来の自分!?と言うことでかなりテンパっているご様子。これから先、沢山の事件に巻き込まれることが確定している。
  現在ちょっとボロボロ。どう決着つけるか決まっていないからもうちょっとボロンボロンになってもらうかもしれない。

所属  市立霞ヶ丘中学  2年B組 出席番号4番

性別:女  年齢:14歳
身長:153cm  体重:46kg


石川 武志(イシカワ タケシ)
  主人公の弟。実は初期設定ではかなりのキーパーソンだった。それがボツになったためこれから先どう変貌するかは作者の気分次第。
  元気いっぱいやんちゃなお子様的性格を出したいがためにいきなり主人公の腹にタックルさせました。主人公とは仲が良い。海老フライに目がない模様。

===気分次第でやったらこんなことになっちゃったよ!!===
  なんか、初期プロット(笑)よりも重要な人物になってきた。
所属  市立霞ヶ丘小学校  4年1組  出席番号2番

性別:男  年齢:10歳
身長:132cm  体重:29kg


石川 史子(イシカワ フミコ)
  主人公の母親。石川家のヒエラルキーの頂点に君臨する女帝。料理が得意でご近所でも評判であり、料理師学校を卒業している。(本編にあまり関係がない。)息子の武志とは阿吽の呼吸ができるほどのコンビネーション。
  まだ本編には出てきていない事件の当事者になる予定。

所属:霞ヶ丘主婦友の会  料理部門主任

性別:女  年齢:乙女はいつでも17歳
身長:167cm  体重:禁則事項により削除


石川 透(イシカワ トオル)
  主人公の父親であり、石川家の大黒柱。さらには事件の当事者になる予定なのにほとんど本編にはだしてこないかもしれない。第三話の時にはすでに出勤していたため出てくることはなかった。

所属:株式会社大松商事 人事部 課長

性別:男  年齢:38歳
身長:173cm  体重:70kg



*市立霞ヶ丘中学校
  主人公光が通う家から徒歩15分のところにある市立中学校。全校生徒約400人弱程の中規模であり、年々生徒数減少に悩まされている。

教師

水城 楓(ミズシロ カエデ)
  主人公のクラス担当の教師である。生徒に対してフランクな態度で接しているため年配の教師勢からのうけは悪い。生徒にはあだ名で呼ばれるほど親しまれている。
  っていう夢をみたんだぜ……
  彼女の本格参戦はまだ未定。

所属:市立霞ヶ丘中学校 2年B組  担任  担当科目英語

性別:女  年齢:26歳
身長:163cm   体重:50kg

生徒

和泉 麻紀(イズミ マキ)
  主人公の友人。名字が近い為、よく前後の席になる。そのおかげで小学生の頃から仲が良い。家は個人商店を営んでいる。両親と姉2人、そして祖父母。計7人家族の末娘。
  四話の後半から彼女を動かしてみたが、かなり動かしやすくて大助かり。おちゃらけたキャラっていいですね。

所属:市立霞ヶ丘中学校 2年B組  出席番号5番

性別:女  年齢:14歳
身長:150cm  体重:46kg


*市立霞ヶ丘小学校
  光や麻紀も通っていた小学校。5年前に建て替え工事が終了し、まだ校舎は新しい。

教師

北条  美沙(ホウジョウ  ミサ)
  武志たち4年1組担当教師。クラスの掲示物を作ることが大好きで、彼女の担当するクラスの教室は全て可愛らしくなる。それが不評になってしまう時もある。
  暴走キャラPart2。麻紀といい、この人といい、暴走時の会話が書きやすくて本当にありがとうございます。

  ネタバレ。
  彼女は黒い人に刺されましたが、死んでません。というか、黒い人のせいで死ぬ人はいません。(間接的にはあれだけど)

所属:市立霞ヶ丘小学校 4年1組 担任 

性別:女  年齢:26歳  
身長:171cm  体重:52kg





その他

黒い人
  通り魔。世の中がどうでも良くなって事件を起こしてしまった。弱者をいじめる事に目覚めてしまったどSさん。
  名前はまだ出さない。結構キーパーソン。
(実は未来では……)

  って書いてて、使えない事に気づいた作者を打ちのめした。やっぱりそんな運命なキャラクター。





~未来~

神埼 光(カンザキ ヒカリ)
  将来主人公がなるかもしれない人物。いろいろと経験し、現在の旦那さんと出会い紆余曲折あって結婚した。色々と吹っ切れている。

所属:神埼家の嫁さん

性別:女  年齢:26歳
身長:155cm  体重:52kg


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