特別枠評価結果 政治主導がゆがんでいる

 1兆3千億円余りが想定される来年度予算の「元気な日本復活特別枠」の中身をめぐる政策コンテストで、政府の評価会議が府省要望事業に対する優先順位を決めた。
 4段階の順位のうち予算に計上される可能性が高いA、B評価だけで計2兆2千億円を超えた。
 政府は特別枠の規模を拡大する方向で検討するという。絞り込みが甘かったと言わざるを得ない。厳しい財政環境の中でめりはりの利いた予算づくりを目指す理念が傾いた。
 個々の判定についても疑問がある。在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)を防衛省は特別枠で要望した。これを評価会議はA判定とした。
 政府が推進する新成長戦略やマニフェスト(政権公約)の政策目標に沿って配分するのが特別枠だったはずだ。思いやり予算は通常の概算要求の枠内に置くべきものである。
 文部科学省の少人数学級実現の要望もそうだ。「教員の増員」は確かに政権公約の中にある。だが、教育現場の体制整備は文科省の本業だ。評価はその不自然さを問わずにB判定にした。
 特別枠の趣旨すら曖昧にしたまま実施された政策コンテストとは、一体何だったのだろう。
 特別枠を要望できる条件は、概算要求の10%カットだった。削りにくい大型事業を特別枠に移すことで、予算総額の削減を最小限に抑えたいという府省の思惑がのぞく。
 評価会議はそれを承知で甘い判定をしたということだろう。政治の力で既存の予算配分を変える。この政治主導の気概はどこに消えたのか。
 高速道路無料化の社会実験は、意見公募で大方の支持が得られなかった。評価会議でもCに傾いたが、結果はB判定となった。
 自ら募った国民の声に耳を貸さず、政権公約にあくまで固執する態度は理解に苦しむ。ゆがんだ政治主導と見るべきであろう。
 「予算編成過程の見える化」をうたった政策コンテストでは府省からの公開ヒアリングなどが行われた。
 だが、何を基準に最終的な判定に至ったかは明らかにされていない。見える化もまた不十分に終わった。
 コンテストの意義を頭から否定するつもりはない。予算編成を国民に近づける一歩になり得る考え方だ。
 ただ政府が腰を据えてかからなければ、その理念は絵に描いた餅となる。小手先の政権浮揚策だと国民から足元を見透かされよう。
 財務相と府省の折衝、菅直人首相の判断へと課題は先送りされた。特別枠だけが膨らんで終わる結果になれば、明らかな「政治」の敗北である。

新潟日報2010年12月3日

都の性描写規制 基準の押し付けはやめよ

 東京都は子どもを性行為の対象にした漫画やアニメを規制する都青少年健全育成条例の改正案を都議会に再提案した。
 6月議会で否決された当初案の文言を一部修正して出直した格好だ。
 作家でもある石原慎太郎都知事が表現の自由を危うくするような規制強化に固執するのは理解に苦しむ。
 条例が制定されれば、全国の自治体に大きな影響を与える恐れがある。慎重な審議を求めたい。
 当初案は、18歳未満の登場人物を「非実在青少年」と定義した上で、「強姦(ごうかん)など社会規範に著しく反した行為を肯定的に描写した」作品を不健全図書に指定し、青少年に販売、閲覧することを禁止していた。
 「非実在青少年」などというあいまいな概念を持ち出しての規制案が、反対多数で否決されたのは当然の成り行きといえる。
 改正案では、「非実在青少年」の文言を削除し、登場人物の年齢に関係なく、強姦などの違法行為を「不当に賛美・誇張」したものを規制の対象とした。だが、「不当に賛美・誇張」とは具体的にどういう描写を指すのかなど、不明確さを残したままである。
 登場人物の年齢に関係ないということは規制の拡大を意味するのではないか。見過ごせない。
 行政が条例で表現行為を規制していいのかという本質的な問題がある。適用範囲をなし崩し的に広げ、言論や表現の自由を封殺していった過去の歴史を忘れることはできない。
 漫画やアニメは日本が誇れる文化の一つだ。規制によって作家たちの創造力を萎縮させてはなるまい。
 漫画家のちばてつやさんが「意識のどこかに規制が働く環境では絵がどんどん死んでしまう」と強い懸念を表明している。
 当初案が否決された後、都は漫画家や出版業界も含めて幅広く意見を聞いたのか。業界は自主規制を図る考えを示していた。その議論を待つことなく、都が改正ありきで突き進む姿勢には違和感を覚える。
 子どもたちはいや応なく性に目覚め、関心と戸惑いを抱きながら成長していく。情報を得るのは、親や教師よりも友達や雑誌などを通してというケースが多いだろう。
 中には、子どもに見せたくない過激な行為を描写した作品もある。コンビニなどで簡単に買える環境を親が心配するのもよく分かる。
 大切なのは、何が許され、許されないのか、自ら判断し、律していけるよう育てていくことではないか。行政による基準の押し付けは、それを阻害するものと言わざるを得ない。

新潟日報2010年12月3日

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