277人の医師に「自分なら胃ろうをするか」という質問をした結果が紹介されましたが、「する」と答えたのは24.9%に過ぎず、多くの医師は自分なら望まない胃ろうを患者には実施しているという現状が明らかにされます。
延命を拒否した少女と、本人の意思に関係なく生かされる高齢者達、ここには生命に対する考え方の違いが見られます。少女の場合、もっとも重要なのは生命の質(QOL)であり、物理的な時間の長さではありません。それに対して胃ろうによって生かされている高齢者達の場合は時間の長さが優先されているようです。
しかし少女の場合のように本人の意思が優先されるケースは稀です。生命の質は本人の主観に基づくものであり、周囲の同意が得られにくいためでもあるでしょう。
それに対して胃ろうの高齢者ように、物理的な時間の延長を優先するケースは主流をなしています。それは、時間という客観的なものであるためわかりやすいといった点もあるでしょうが、命は何よりも大切であり1分、1秒でも長く生きるべきだという固定した考えと、刑法に触れる可能性、訴訟される可能性を避けるための行動による結果だということができます。まあ保険制度や病院側の事情もあるでしょうけど。
これには刑法も大きい役割を果たしているようです。胃ろうや人工呼吸器の扱いによっては殺人罪に問われる可能性があり、その威嚇は実に強力であるからです。刑法が現状を固定する役割を果たしていると思われます。そのために医療が不本意な方法を取らざるを得ないことは患者やその家族にとって大変不幸なことです。
法の整備を求める声はずいぶん以前からありますが、実現に至りません。番組では、胃ろうによって6年間生かされている寝たきり患者が映し出されていましたが、本人の意思と関係なく何年もの延命が実現された今、より柔軟な対応を可能にするような法整備の必要性は強くなっていると思われます。
またこれは医療費の膨張、医療の配分などにも大きく関わる問題です。簡単に答えの出ない複雑な問題ですが、いずれは誰もが直面する可能性があり、他人事と見過ごせることではありません。