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菅内閣は「仙谷斬り」と「TPP参加」で支持率回復を目指せ 尖閣漁船問題でも国民に愛想を尽かされ墜落寸前/山崎 元

現代ビジネス 11月10日(水)6時5分配信

菅内閣は「仙谷斬り」と「TPP参加」で支持率回復を目指せ 尖閣漁船問題でも国民に愛想を尽かされ墜落寸前/山崎 元
写真:現代ビジネス
『読売新聞』(11月8日朝刊)の調査では、35%と前回調査よりも18%も支持率が急落し、不支持は55%と菅政権発足以来最高の水準を記録した。同時期に行われた共同通信の調査でも、支持率は32.7%と菅政権発足以来最低で、不支持は率は48.6%だった。

 30%台の支持率が、現在の菅内閣の実力であるらしい。

 時の内閣は、内閣支持率に対して過剰反応せずに正しいと信じる政策を実行すべきだという建前はあるが、この度の支持率下落は急激であり、そこに表れた民意は無視できない。

 民主党への政権交代前の自民党の三政権もそうだったが、メディアが発表する内閣支持率が下がると、結局政権は保たない。

 これは、民主党の鳩山内閣でも同様だった(それにしても普天間問題を争点化して、期限を切って自ら転んだ内閣の潰れ方は異様だったが)。

 今回の支持率大幅下落の直接的な原因は、尖閣諸島沖の中国漁船問題の処理を誤ったことだろう。

 明らかな公務執行妨害の容疑者だった中国人船長を解放したことも、これを政府の決定ではなく沖縄地検の決定だと責任逃れしたことも、事実を知る有力な手掛かりであるビデオを政府が非公開としたことも、大多数の国民感情として、とても納得のできる対応ではなかった。

 もちろん、米国の株価はリーマンショック以前の水準まで戻ったのに、日本の株価がまだ当時(日経平均は1万2000円台)のはるか下で低迷していることからも分かるように、経済政策も上手く行っていない。


*** 尖閣沖問題は仙谷斬りで乗り切れる ***
 『毎日新聞』(11月8日朝刊)の報道によると、尖閣沖問題で、仙石氏は、民間コンサルタントである篠原令氏に中国との橋渡しを依頼した。その結果、細野剛志氏らが中国側の当局者と会談し、「衝突事件のビデオを公開しない」、「仲井真(沖縄県)知事の尖閣諸島視察を中止して貰いたい」との先方の要求に、仙谷官房長官が同意したのだという。



 中国の内政に配慮したか、中国との経済関係でこれ以上のトラブルを避けようとしたか、どこに真意があったのか分からないが、国としての正論を売り渡すような対応が支持されるはずもない。

 ビデオ流出問題の捜査も、この問題に対する国民の関心を惹きつける効果を持つので、菅政権の支持率を引き続き引き下げる方向に作用するだろう。

 尖閣沖問題については、政府の対応を非難する声が圧倒的だが(この問題に対する菅内閣の対応を「評価しない」が82%に上る)、これはすでに起きてしまったことだし、ビデオもすでに流出したので、仕方がない。

 問題は、この責任を誰が取るかということだけだ。誰も責任を取らないと、いつまでも責任を追及される。失敗は誰の目にも明らかなのだから、責任を取らないことで失敗がなかったというふりをするよりは、サプライズ感のある引責を政権自ら演出する方が効果的だ。その場合、問題への対応を誤ったという意味でも、支持率を回復するという意味でも、仙谷官房長官の辞任が一番いい。

 首相就任以来、菅氏は優柔不断ぶりを揶揄されることが多いが、自他共に認める政権の実力者である仙谷氏に詰め腹を切らせることができれば、政権の支持率は大いに回復するだろう。権力志向の強い冷厳な現実主義者であるとのイメージがある菅氏だが、そこまで踏み込めるだろうか。


*** TPP参加は菅政権にとって絶好の争点 ***
 ところで、読売新聞の調査をよく読むと、政権の支持率を再浮揚する策があることに気付く。読売の調査は、小沢一郎氏の問題と、TPP(環太平洋経済連携協定)の問題について質問している。

 小沢氏の問題については、民主党の対応が適切かに対して「そうは思わない」が84%、小沢氏は国会で説明すべきかに対して「説明すべきだ」が84%、小沢氏の去就については「議員辞職すべきだ」が55%と、相変わらず世論は小沢氏に厳しい。

 一方、注目すべきは、TPPに対して、「日本は参加すべきだと思う」が61%、「参加すべきでない」が18%と、国民の多数は参加を支持している。

 筆者は、たとえば菅氏と小沢氏を比較したときに、菅氏を積極的に支持する意見を持っていないが、仮に、菅政権が支持率を回復しようとした場合に、現在最も有効な手段は、TPP参加を強行するリーダーシップを演出することだと思う。

 TPPは、自由貿易の促進であり、貿易は基本的に参加当事国の経済的なメリットを拡大する。現在、日本がTPPに参加することに対して消極的な意見は、貿易が自由化された場合の日本の農業の競争力を懸念するものだが、他の産業の貿易によるメリットを犠牲にしてまで農業をことさらに保護し、日本の消費者に対して高い農産物を買わせていることに対して、農業従事者以外の、つまり大多数の日本国民はにがにがしく思っている。



 しかも、農民票を意識して、TPPに反対の立場を取っている議員には、政治的に小沢氏に近い議員が多い。

 菅政権は、党内が割れることを懸念して、TPPへの参加について単に「協議を開始」として、先送りしているが、政権の支持率回復のためには、かつて小泉政権で構造改革に反対する勢力を「守旧派」、「抵抗勢力」と名付けて、彼らとの対立を人気に結びつけたように、党内で争点を作り、これに対して国民が支持する方向に立つことは政治的に有力な戦略ではないだろうか。

 幸い、TPPは国民に対してメリットを分かりやすく表現しやすい。関税を撤廃すると、牛肉がいくら安くなる、オレンジがこれだけの値段で買える、といった消費者にとってのメリットの提示が可能だ。

 こうした直接的なメリットは、所得が伸び悩んで生活レベルが下がり気味の国民を大いに喜ばせることになるだろうし、過去の自民党政権の政策を批判するすることにもつなげられる。小泉純一郎氏の「郵政民営化」よりも、国民にとってのメリットがはるかに分かりやすい。

 農家に対しては、勿論限度があるが、転業や効率化を支援するために、戸別の所得補償を使えばいい。これはもともと小沢氏が考案した政策であり、好意的に推測すると、将来のFTAの拡大に対応しようとする準備だが、菅内閣は、この仕組みを利用させて貰えばいい。

 もちろん、小沢氏及び小沢氏に近い議員がTPPの賛成に回るなら、それは大変結構なことだ。

 正直なところ筆者も菅内閣の一連の政権運営には失望しているが、菅内閣が、国民にとって真にメリットになる政策を提示することで支持率を回復するなら、これは歓迎したい。誰がやっても、良いことは良い。TPPへの参加は、失点続きの菅政権にとって、千載一遇の大チャンスではないだろうか。

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最終更新:11月10日(水)6時5分

現代ビジネス

 

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