県が県内の朝鮮学校5校に対する補助金の12月以降の支払い分を留保していたことについて、松沢成文知事は15日、学校側からの回答を踏まえて「基本的に日本や国際社会における一般的認識に沿った教育が実施されている」などとして、支払いの留保を解除した。今年度の支払い予定総額は約6300万円で、留保されていた約4100万円が年度内に支払われる。
朝鮮学校への高校無償化適用問題に絡み、松沢知事は11月9日に県の補助金の支払いを留保したことを明らかにした。
今月6日には横浜市神奈川区の神奈川朝鮮中高級学校を訪問したうえで、県内の5校を運営する神奈川朝鮮学園に対し、拉致問題や大韓航空機事件など5項目について文書で回答を求めていた。
同学園は今月10日に回答書を県に提出。県側が懸念を示した高級部3年の教科書「現代朝鮮歴史」の拉致問題や大韓航空機事件の記述については、教科書編纂(へんさん)委員会に見直しを働きかける方針が示された。
県が教育内容の確認と合わせて実施した会計処理の検査でも、県は「おおむね基準に準拠して処理され、教育目的外の支出は認められなかった」と判断した。ただし、南武朝鮮初級学校(川崎市高津区)と川崎朝鮮初中級学校(同市川崎区)で、同市から対象外の園児・児童5人分の補助金31万円が支払われていたケースが見つかり、自主返還された。
県庁で記者会見した松沢知事は、太平洋戦争開戦後に日系人を強制収容した米国を引き合いに「外交上の問題から感情的になって判断を誤ってはいけない」と強調した。
県の支払い留保の解除を受け、学校側は「お互い理解が深められてよかった」と歓迎。北朝鮮による韓国砲撃事件に伴って政府が高校無償化制度の適用手続きを停止したことについても「迅速に進めてほしい」と早期適用を訴えた。【木村健二】
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◆県が懸念を示した教科書の主な記述・表現◆
【拉致問題】
拉致問題を極大化し、反共和国、反総連、反朝鮮人騒動を大々的に繰り広げることによって、日本社会には極端な民族排他主義的雰囲気がつくりだされた。
【大韓航空機事件】
南朝鮮当局はこの事件を「北朝鮮工作員、キムヒョンヒ(金賢姫元死刑囚)」が起こしたとねつ造し、「反共和国」騒動を繰り広げ、彼女を第十三代「大統領選挙」の前日に南朝鮮に移送する事によって、ロウテウ(盧泰愚元大統領)の「当選」に有利な環境を整えた。
※いずれも朝鮮学校側の翻訳。()内は毎日新聞が補った
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◆神奈川朝鮮学園が県に提出した回答書の要旨◆
【歴史教育】
朝鮮学校では、教科書を時代のすう勢に合わせて定期的に改編してきましたが、日本人と共に生きていくという観点から表現を見直し、今後は未来志向の視点に立って、日本における共存・共栄、多文化共生を目指していくことを重視した教科書づくりが行われるよう、教科書編纂委員会に働きかけていくとともに、教育内容をたえまなく改善していく所存です。
【拉致問題】
拉致問題に関する教科書の記述は、02年9月以後一部の心ない人たちによって、在日朝鮮人に対するさまざまな嫌がらせがなされ朝鮮学校および朝鮮学校生徒たちへの暴言、暴行、脅迫行為等が頻発したことを指しているのであって、他意はありません。
「極大化」という表現については、教科書の中で伝えようと意図していることが、一般的に誤解を与えている表現であると認識しております。
この問題は、高級部のある朝鮮学校全体に関わる問題ですので、「全国朝鮮高級学校校長会」を通して教科書編纂委員会に働きかけていきたいと思います。
その間、拉致問題について生徒たちにしっかりと教えていきたいと考えております。
【大韓航空機事件】
大韓航空機事件の真相に関しては歴史的な評価の定まっていない部分もあり、韓国においてもいまだに論議されている事案ですので授業では、日本において報道されている内容も含めしっかり教えています。
今後につきましては、歴史的な評価の定まっていない出来事については、表現を見直す方向で検討するよう教科書編纂委員会に要望していきます。
この問題については、日本において報道されている内容を含め、しっかり教えていきます。
【民族教育】
当校では民族的素養のかん養とアイデンティティーの確立を基本に、特定の政治家崇拝教育ではなく祖国と指導者、在日同胞のつながりについて教え、祖国と民族を愛する心を抱くよう教育しています。
【地域社会に貢献する人材育成】
私たちの教育は、知事の志向である「幅広い協働と連帯による平和な多文化共生社会の実現」、「平和を愛し、信頼と友情に結ばれた明るい国際社会の実現を願う神奈川」となんら変わるものではありません。
毎日新聞 2010年12月16日 地方版