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【社説】

漫画性描写規制 慎重な運用を心掛けよ

2010年12月15日

 過激な性描写のある漫画などの販売を規制する東京都の条例改正案が成立する見通しだ。恣意(しい)的な規制を心配する声は根強い。「表現の自由」にかかわる改正だけに十分に慎重な運用を求めたい。

 今の議会で審議されているのは、六月議会で否決された都の青少年健全育成条例改正案が手直しされたものだ。規制対象は「法に触れる性行為や近親者間の性行為を不当に賛美したり、誇張したりして描いているもの」とされる。

 そうした漫画やアニメの作品は成人コーナーに並べて子どもに売ったり、見せたりしないよう事業者に自主規制を求めている。そこから漏れた作品があれば、描写の中身によって「不健全図書」に指定して成人コーナーに置き、子どもの手が届かないようにする。

 漫画家や出版社、法律家などは「行政の都合の良いように解釈され、創作活動を萎縮させる」と反発している。条文には「不当に賛美・誇張する」といった曖昧な文言が盛り込まれている。恣意的な運用を恐れるのもうなずける。

 角川書店や講談社などの出版大手は、来年三月の「東京国際アニメフェア2011」への参加を取りやめる声明を出した。漫画家らの現場と話し合いをしないまま規制に踏み切った都の姿勢は、強い怒りと不信感を招いたようだ。

 子どもの性的感情を刺激したり、残虐性を助長したり、自殺や犯罪を誘発する作品は今の条例でとうに販売を制限されている。改正案は屋上屋を架すにすぎず、行政が介入する余地を広げるだけだという指摘が出ている。

 確かに、親によっては子どもが性行為をまねたり、性意識がゆがめられたりしないかと不安にかられるような作品は多く売られている。子どもから遠ざけておきたいと願う親心は分からなくはない。

 だが、子どもへの悪影響が心配される作品が野放しになっているとしても、本来は事業者が流通や販売の在り方を自主的に考えるのが筋だ。地域や学校、家庭で大人と子どもが性の問題について話し合うといった教育上の取り組みも併せて進められていい。

 「表現の自由」にかかわる規制だ。改正条例の運用は、反対の声を忘れず、できるだけ慎重でなくてはならない。流通や販売が抑圧され漫画家らの内心が縮こまっては、日本が誇る漫画やアニメの発展の足を引っ張ることになりかねない。事業者は引き続き、都との議論を深めてほしい。

 

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