矢口高雄の独り言

「クニマス」発見に寄せて  更新日時:10/12/16



「クニマス」発見のニュースに、ボクのホームページには書き込みが殺到しています。

平成版「釣りキチ三平」の第一話として「地底湖のキノシリマス」を描いたのは十年前の2000年でした。

もちろんドラマに登場する「キノシリマス」は、ボクの郷里秋田県の田沢湖にかつて
生息していた「クニマス」のことで、ボクが物心のついた頃には既に絶滅した魚でしたが、
その絶滅に至るプロセスがあまりにも愚かな経緯をたどったものだっただけに、いつか
「三平」のドラマにと目論んでいたテーマでした。

その意味では、平成版(パーソナルマガジン)の再開を飾るにふさわしいテーマでしたし、
万を持して放った改心の一作となりました。
ただし、ドラマに着手した時のボクのスタンスは「キノシリマスは既にこの世にない、絶滅した固有種」
として描くこと、でした。つまり、この様な愚考は二度と繰り返してはならないという
メッセージを全頁に込めよう、と心の中で何度もつぶやき、描き進めました。

しかし、ボク自信のスタンスは確かにそうでしたが、もう一人のボクがいました。
夢と希望を持ち続けたいマンガ家の習性とでも申しましょうか。

結果、油汗を絞り出しながら考えたアイデアが地図にも載っていない地底湖であり、
その湖底を泳ぐ失われたはずの「クニマス」の群れでした。

つまり、「地底湖のキノシリマス」の一論は、このシーンを描きたいがためのフィクションでしたし、
人間の愚かさをデフォルメするための渾心の一シーンだったのです。

それが、富士五湖の一つ山梨県の西湖で発見されたというニュースです。驚きました。
ボクは思わず叫んでいました。
「まるでボクのマンガじゃないか・・・・!!」
そうです。ボクの「三平」のドラマが現実となったのです。
この感慨は「うれしい」などと言う通り一ペンの言葉では語り尽くせないものがありました。

そんな気持ちをブログに綴ろうと書斎の机に座ったとたん、卓上のデンワが鳴り始めました。
NHKテレビを始めとする新聞各社よりインタビュー攻めでした。

年の瀬に至って、こんな明るいニュースに恵まれようとは、思っていませんでした。
この際是非「地底湖のキノシリマス」をもう一度お読みいただきたい。
きっと発表時とは違う感動が得られるでしょう。

たくさんの書き込みありがとうございました。






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