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炭化水素系電解質膜の劣化を抑えて安価な燃料電池を実現へ (/06/07/31)

<大学院理工学研究科  教授  谷岡明彦>

 本学大学院理工学研究科有機・高分子物質専攻の谷岡明彦教授らの研究グループは,安価な材料を用いながら劣化を従来よりも抑えた燃料電池用電解質膜を開発した.

 燃料電池は,電解質膜を一対の電極で挟んだ構造をしている.外部から電池に燃料を供給すると化学反応(酸化還元反応)が起き,陽イオン(カチオン)が電解質膜を通過する.燃料にはふつう,酸素と水素を使う.この場合は,水素イオン(プロトン)が電解質膜を通る.このため,電解質膜としてカチオン交換膜が広く利用されている.

 自動車や携帯電子機器などに向けて開発が進められている固体高分子型の燃料電池では,カチオン交換膜にフッ素系の材料がよく利用されている(図1).このフッ素系カチオン交換膜は比較的良好な特性を示すものの,価格が非常に高い.このため燃料電池のコストダウンを阻害する要因となっている.
 これに対し,炭化水素系の材料を使ったカチオン交換膜はフッ素系に比べ,ずっと安価に製造できる.ただし,燃料電池用の電解質膜としては寿命が短いという問題点を抱えている(図2).寿命が短いのは,電極でラジカル(過酸化水素ラジカル)が発生し,電解質膜を劣化させるためである.

 そこで谷岡教授らの研究グループは,安価なポリスチレンを元に,劣化を抑えた電解質膜の製造を試みた.通常のポリスチレン(アタクチックポリスチレン)は非晶質であるために劣化しやすい.そこでまず,結晶性のポリスチレン(シンジオタクチックポリスチレン)を選んだ.さらに,ラジカルを捕捉する作用を備えたフラーレン(60個の炭素原子がカゴ状に結合した材料)をポリスチレンに混ぜ,フィルム化した.フラーレンがラジカルを捕まえることで,ポリスチレンを保護し,劣化を抑える.この結果,元のポリスチレン(アタクチックポリスチレン)に比べて2倍の寿命を有するカチオン交換膜を作成できた.

図1 フッ素系電解質膜の長所と問題点   図2 炭化水素系電解質膜の長所と問題点  


本件に関する問合せ先 大学院理工学研究科  教授  谷岡明彦
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