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<寄 稿>
人を裁くって

〜[番外]鹿児島市夫婦強殺初公判 傍聴記〜

信念得られる裁判員審理を

冒頭陳述を聞いて、検察官の苦渋が伝わってきた。物取りが目的というストーリーは、被告と被害者を結びつける何の接点もない以上、他の選択肢がないからだが、何カ所もの現金や金庫が手付かずで残された現場と相いれないという根本的な欠陥を抱える。

事件の証拠状況はなんともちぐはぐだ。犯罪の凶器をはじめ、侵入路のクレセント錠、血痕のついた電話線など犯人が触れたとみられることが確実な物には指紋がなく、指紋があったのは、金目の物にはつながらない書類やチラシなど。そしてけ倒して入れば良いのに脇の壁に立て掛けたという意味不明のガラスの破片だけだ。

血痕と無縁の指紋を説明するために、大きな音を立ててガラス戸を割って侵入し、殺害の前に「抵抗できない被害者妻の前で物色」その後殺害、電話線を引き抜くなどしているともみられるのに、なぜか物色は中止して逃走した、というおよそ強盗殺人という事件像に収まらない冒頭陳述になった。

そもそも、被害者を2人とも顔が「お面のよう」になるまでスコップでメッタ打ちする行為は、強い憎悪によることは一目瞭然(りょうぜん)だ。

説明出来ない証拠を説明しなければならない検察、指紋とDNAという「物的証拠」を前にした弁護側(冒頭陳述では偽造、問題があると言明した)ともに難しい攻防。現在予定されている手続きだけで、真実が発見できるのか疑問だ。

今日の手続きだけの傍聴で疑問がわくのは、被害者も布団を振り回して反撃し、大格闘が行われたとみられる遺体発見現場から、通常は発見される犯人の毛髪や皮膚片などに、被告の物がない点、逆に現場から採取された886点のDNA鑑定資料のすべての結果、家屋内外の足跡の主など他の犯人の疑いが残る物証の分析結果が示されていないことだ。

裁判員制度と一番近いフランスの市民参加では裁判長が「被告にこの犯罪を犯す動機があるか」「被告は犯行現場に行ったか」「犯行を行ったか」などポイントごとの問いを発し、市民は「心の奥からの信念」を得たときだけ「はい」と答申する。被告が有罪になるには全問が「はい」でそろうことが必要だ。

同じことを日本の裁判員は「罪を犯したことは間違いないと考えられる場合は有罪」「有罪とするに疑問があるときは、無罪としなければなりません」と説明される(最高裁39条説明例)。「被告にこの犯罪を犯す動機があるか」「被告は犯行現場に行ったか」「犯行を行ったか」一人一人の裁判員が、納得して結論を出せる審理が行われることを期待したい。

'10/11/03 掲載 
 司法の現状について、弁護士・五十嵐二葉さんのエッセー。裁判員制度を始め、わかりやすく興味深い話題を提供していただきます。

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