2004年03月05日
 NECネクサソリューションズ株式会社
佐野 初夫

1.はじめに
 偶然このコンソーシアムを教えてもらい、創立から参加させて頂いています。私はいわゆるSIer、つまりシステムを作る側の立場の人間です。分科会でエンドユーザさんの悩みや、どう乗り越えたかというお話を伺い感じる事が多くありました。その思いを共有したいと考え、僭越とは思いましたが投稿させて頂くことにしました。

 オブジェクト指向が出てきてから、ソフト産業は混乱してると思います。

 それは私の世代の人間が下の世代に文化を継承出来ていない事が真の原因かも知れません。この混乱で一番迷惑されているのはお客様なのです。私たちSIerはその事を強く意識して現状を打開しなければなりません。

2.若い方にこそ参加して欲しいです
 DOAという名前が冠についていますので、その関係の方が多いのですが、是非、オブジェクターの方にも、もっと参加して頂きたいと思っています。

 業務基幹システムに関して、こういう思いをもたれていませんか?
・オブジェクト指向分析手法での実績をあまり聞かないな
・SQLをあまり知らなくてもシステムが作れるというのは本当かな?
・そういえば上手く行ったシステムは経験豊富なデータベース管理者がいたな

 DOAは日本の誇るべき技術であり、日本人向きの手法だと思っています。しかも実績は豊富にあります。SIerはシステムを作る事が目的ではなく、システムを作ってお客様を幸せにする事が目的です。お客様の要望どおりにプログラムを作る立場を卒業され、その要望が真にお客様を幸せにするかを考えるようになれば、是非DOAの門をたていてみてください。一緒に考えていきましょう。

 DOAは「大きく叩けば大きく響き、小さく叩けば小さく響く」という技です。職人技とも言えるでしょう。門は大きく開いています。目的意識を持って勉強されれば、きっと得るものがあるはずです。

3.構造化設計からオブジェクト設計へ
 入社以来、中小企業(たまには大企業)さんにお世話になり基幹システムを作ってきました。92〜93年頃までは、汎用機やオフコンがメインでした。構造化設計を疑う人はなく、機能関連図・機能階層図を作り、事務フローを決めDOA−DFD−画面・帳票設計をしてからプログラムに分割するという流れが一般的でした。

 オープンの世界になってもしばらくは同じ流れで作っていました。イベントドリブンと言っても手続き型プログラムと大差ありませんでした。

 95〜96年頃、インターネット・WEBの嵐が吹きまくり、javaが出てきた辺りからソフト産業の混乱が始まります。javaが基幹システムに使えるかという議論があったのもこの頃です。数年後、sunがJ2EEを大々的に発表しました。

 これはjavaの普及にとって天才的なアイデアでした。APIだけをsunが作り実際の実装はメーカーに任せたのです。多くのメーカがWEBアプリケーションを発売したとたん、javaを基幹システムで使えないという声は聞こえなくなりました。

4.オブジェクト指向プログラムはいいけれど
 WEBシステムは構造が複雑です。perl言語などを使い構造化設計で作ったシステムでは少し規模が大きくなると破綻します。そのためJ2EEが出てきたのですが、J2EEは難しい技術でした。オブジェクト指向で設計しないと簡単なシステムすら作れません。

 徐々にオブジェクト指向プログラム(OOP)やオブジェクト指向設計(OOD)という方法論がもてはやされました。米国のベンチャー企業がUMLという記述言語を作り、ソフトウェアの製造工程にパラダイムシフトを起こしました。日本も数年遅れでこの流れに巻き込まれる事になります。

 OOPやOODは確かに便利でした。検索というクラスを作り検索結果のオブジェクトを持ちまわれば、どこでもその結果を使えます。c言語でメモリ確保してポインタを持ちまわる混乱に嫌気がさしていた人には朗報でした。

 ところがこの手法を、オブジェクト指向分析(OOA)という名で基幹業務全体のモデリングにまで拡大した時から混乱が続いていると思います。情報系やミドルウェアに関しては抜群の手法です。基幹業務にこの手法を適用するには無理がありました。レスポンスが出ないためオブジェクト指向の設計を崩してバイパスを設けたシステムも見たことがあります。

5.ニュータイプの登場
 UMLで設計出来なければシステム員失格というような風潮がありました。この頃以降に入社された方は新入社員教育でjavaとオブジェクト指向だけを勉強して職場に配属されるようになりました。ニュータイプの誕生です。ニュータイプ同士は何やら人形の絵を書くだけで解り合えるようでした。

 気が付くと、私を含むオールドタイプとニュータイプの間に乗り越えられないほどの断絶が出来ていました。オールドタイプは今までやってきた技術に自信がなくなり、ニュータイプは「オブジェクト脳」を持ってることで自信を持ちます。先輩が数十年前にDOAで作ったDB設計を元に、汎用機からダウンサイジングする事で自信が深まったようです。

 バブル崩壊の影響もあり、とにかく安く作ることが「価値」でした。ニュータイプが基幹システムをフルスクラッチ(手作り)で作る経験がないままリーダーになっていったのがこの業界の不幸でした。

6.伝え損ねた文化
 私は、今の若い人に次の3つを伝えたいと思っています。これは私個人の勝手な思いですので間違ってるかも知れません。忌憚ないご批判を聞かせて頂きたいと思っています。

 (1)業務モデルは「振舞い」でなく台帳にこそ本質があります
 (2)高価な業務基幹システムは10年使えて当たり前です
 (3)伝票入力画面は、10キーだけで入力出来る必要があります


(1)在庫管理をモデリングする時、「在庫を管理する人の振る舞い」や「倉庫自体」を分析・設計しても本質には迫れません。担当者が変わればやり方も変わるのが当然でしょう。在庫管理の基本は「受払台帳」であり「在庫推移表」です。それがその企業の強みであるオペレーションを表します。それをどれだけ正しくモデリング出来るかでシステムが成功するか否かが決まるのです。
  ※「生産管理・原価管理システムのためのデータモデリング」
  (渡辺 幸三著)を参考にしました。

(2)高い費用を出して頂いて基幹業務を作っても、どれだけの期間そのままで使えるのでしょうか。毎年のようにビジネスモデルが変わり、IT投資を続けられるお客様なら数年でスクラップ&ビルドするのが正しい事もあるでしょう。今の経済環境でそれが許されるとは思えません。極端に言えば、この事が日本の中小企業を弱くしている一因かも知れません。

  一眼レフカメラが全盛の時、CANONが「10年間はメジャーチェンジしない」と宣言して信用を得た事がありました。そして本当に名機CANON F1は、他社が毎年のようにメジャーチェンジする中で、10年間変わりませんでした。

  基幹業務に使う技術やツールについては、便利さよりは継続性(実績)こそが重要な判断基準だと思います。毎年のようにバージョンアップして上位互換がないツールも多くあります。そういうツールはどれほど素晴らしい機能を持っていたとしても使うのは危険です。

(3)WEBシステムの流行が続いていますが、操作性はC/S型に分があることは確実です。javaにはJDKの中にJavaWebStartという無料の配布ツールが入っています。C/Sシステムでもクライアントの自動配布を無料で出来ます。

  通信負荷もサーバ負荷も大きいWEBにこだわる理由が本当にありますか?


7.おわりに
 あるソフト会社が、これらを解決するフレームワークを持っています。最近は、基幹システムにはそれを使わせて頂いて提案しています。解決策は多くありますし、会社によって違うでしょう。もう一度冷静に考える時期ではないでしょうか。

 このコンソーシアムは、唯一絶対の結論を出すことが目的ではないでしょう正解は時間と場所、それに企業文化により違うのは当然です。生の色々な意見を交換することで、薄皮をはぐように一枚一枚雑念や思い込みが取れ、共通の目的にベクトルが合っていくはずです。

 ソフト業界は、お客様の本業を幸せにするためにあるはずです。決して新しい技術を使うためでも、毎年高価な保守費用を頂くためでもありません。お客様の幸せを実現するという目的の道程にDOAがあると信じています。このコンソーシアムが日本の企業を幸せにし、ひいては日本を幸せにする端緒になって欲しいと期待しています。

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