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<寄 稿>
人を裁くって

〜[番外]鹿児島市夫婦強殺裁判員裁判 傍聴記〜

市民参加 問われる真価

この事件は裁判員制度の試金石となる。

裁判員裁判3件目の死刑求刑事件だが、16日に死刑が言い渡された横浜の事件、1日に無期懲役となった耳かき店員らの殺害事件は、事実には争いがなく量刑だけが問題だったのに比べて、この事件は「現場に行ったこともない」とする被告に死刑が求刑された。

物色の跡と殺害だけが客観的事実として存在し、血痕も残さない逃走方法など主張できないことも多い検察側は「殺人犯は別にいて被告はその後または前に物色だけした」など被告・弁護側が主張していないストーリーまで設定しては壊してみせる論告に苦しさをにじませた。

これだけが被告に不利な指紋とDNAについて弁護側は、付着と鑑定の不自然さを解説することができたが、「偽造」が誰によって行われたかという主張には、審理が及ばずに終わった。

まだらな光線の後ろに大きな闇が広がるような、従来の刑事裁判でもそれほど例がない難事件で、この判決が1年半前に導入された市民参加裁判の真価を問うものになることは間違いない。

40日間拘束され、歴史的な責任を負う裁判員の方々には「皆さんの犠牲は正義のためなのです」とアメリカで何カ月もホテルに缶詰になって難事件に向き合う陪審員に、裁判長が言う言葉を贈りたい。

この事件には直接証拠はなく、間接証拠・状況証拠だけで判断しなければならない。その意味でも難事件だ。間接証拠とは、殺害場面を目撃した証言などの直接証拠と違って「いくつもの見方が可能な証拠」だ。

誤解されやすいのだが、凶器や指紋などの物証も直接証拠ではなく間接証拠だ。

「この被告がこの罪を犯した証拠だ」という「一つの見方」を最終的に選ぶ鉄則は「他の全証拠を含めて考え全体として納得できる=合理的な疑いを入れない判断」であることだ。

困難な判断に向き合う裁判員の皆さんを信頼して裁判員制度の新しい展開を待ちたい。

'10/11/18 掲載 
 司法の現状について、弁護士・五十嵐二葉さんのエッセー。裁判員制度を始め、わかりやすく興味深い話題を提供していただきます。

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