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<寄 稿>
人を裁くって

〜[番外]鹿児島市夫婦強殺裁判員裁判2日目 傍聴記〜

緩慢な審理 改善の道遠し

鹿児島市の夫婦強盗殺人事件の裁判員裁判2日目、全日証人尋問で、本格的な証拠調べが始まった。と言いたいところだが、審理は緩慢だった。

証人は当時の県警本部鑑識課長以外は、現場の状況証言も兼ねた被害者の親族と知人の3人。

まず鑑識課長は、鑑識資料採取と整理、保管の総括的責任者なので、具体的な指紋、足跡、DNAなどについては細部までは把握していない。具体的には、各別の採取報告書とその作成者の尋問が必要なのだが、その証拠調べが後になるため、尋問者が作成者にするべき尋問を交えてしまっては「把握していない」で終わることも多かった。

肝心の886点のDNA資料の鑑定結果、足跡、毛髪や細胞片が誰のものか、結審までに明らかにできるのか見通しは不明だ。

親族など3人の証人に関しては「被害者宅に前日4時半ごろまで異変は無かった」「被害者妻が就寝前にお湯を沸かしていた午後8時ごろ事件が発生」などの客観的事実を各証人に重ねて長時間尋問しなくとも、合意書面にできないのかと思う。

反対に、証人らによってしか明らかにできない親族間の確執、被害者の性格などについては、遺族への遠慮、また事件の中核に迫る発見時の状況については、証人の「記憶の減退」もあってともに隔靴掻痒(そうよう)に終わった。

裁判員制度が「裁判員に迷惑を掛けない」をキーワードに、従来の緩慢な公判運営を改善すると期待されたのだが、実務が変わるのは道遠しの感がある。

その一方、これだけ複雑な事件の検察側冒頭陳述を、大文字の見出しに、見取り図や短い説明をつけたパワーポイントを打ち出した2枚の「メモ」で済ませてしまうなどの省略は、十分な審理のため疑問なしとしない。

裁判長は弁護側にはより詳細な冒頭陳述書の提出を求めた。しかし事件について、被告人有罪の主張・立証責任を持つ検察側には求めなかった。全面否認事件でありながら全国初の死刑予測も出ている事件の審理方法が気がかりだ。

'10/11/05 掲載 
 司法の現状について、弁護士・五十嵐二葉さんのエッセー。裁判員制度を始め、わかりやすく興味深い話題を提供していただきます。

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