〜[番外]鹿児島市夫婦強殺裁判員裁判 傍聴記〜
事件像結ばぬ証拠調べ捜査側の多数の鑑定結果を弁護側が使う形で証拠調べが終わった。 網戸から採取されたものを別にして残る885点のDNA資料、毛髪、皮膚細片に被告人のものはなく、被告の自宅から押収された靴、車、衣類などすべてから血痕や破壊された蛍光管の破片、現場の土など犯行と結びつく物質は出なかった。 被告人への主な質問は検察、弁護とも被告のパチンコや飲酒にからむ金銭の出入りで検察側はしきりに「この事件の前と後」で違いを出して事件に結び付けようとするが結果は出なかった。 現場に残された土足跡から採取された土砂など重要な証拠調べの結果は省略されたが、被告の犯行立証はなかったようだ。強盗致傷という罪名の前科は、火炎瓶で店員を脅したが逆に追われて逃げる際にドアが開かずもみ合って店員がけがしたという事件で、罪質からこの事件との関連はむしろ否定された。 結局、11個の指紋掌紋と1点のDNA資料以外は事件の経過に被告人の痕跡は全く出てこない。 強盗事件なのに凶器を準備して来ない。谷山神社の上から見て強盗を計画したというにしては、遠目に識別できるはずもない「畑に突き刺してあったスコップ」を凶器に使う。20カ所もの被害者の顔面の傷は、抵抗力を失った後も執拗(しつよう)に乱打した犯人の強い憎悪を示すが、被告と被害者の接点は皆無で、とられた財物は確認されていない。 証拠から見えてくる犯人の行動は、どう見ても犯罪としての統一性を欠いている。こんなわけのわからない事件像を裁判員の前に残したまま審理は閉じられようとしている。 最終日、新たな展開は被告人が指紋やDNA資料を偽造したのは警察だと主張したことだ。 これは弁護側が一貫して主張してきた見解と違う。弁護側は被害者と何らかの確執がある人物が被害者を殺害して、被告を犯人に仕立てるために指紋を転写したとして、16日の法廷でも転写の手法を解説するNHKの番組のDVDを法廷で映写したところだった。 きょう17日の論告と弁論での説明が待たれるが、両者ともこれまでの証拠調べでは解明されない点が多すぎる印象だ。 '10/11/17 掲載
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