【社説】エリートたちの脱北が意味すること
最近、北朝鮮では40~50代のエリート幹部による脱北が相次いでいる。北朝鮮軍でロシア語通訳として勤務していたチェ氏(41)も最近、ロシアに密入国し、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)を通じて韓国への亡命を申請した。同氏は亡命の動機について、「住民を苦しめる北朝鮮の体制を、外から変えたいと思った」と説明している。北朝鮮で外貨稼ぎを担当する玉流館の責任者も先週、インドに脱出した。また昨年6月には、両江道青年同盟のソル・ジョンシク第1秘書(40)が韓国に亡命し、さらに公館長クラスの外交官や、外貨稼ぎを担当する会社の社長もソウルにやって来た。
彼らは北朝鮮で対外的な業務を担当してきた中堅幹部で、北朝鮮では安定した生活が保障された階層の出身者だ。北朝鮮は海外で勤務する者を選抜する際、忠誠心や家族の出身成分(身分)などを徹底してチェックし、海外の任地に向かう際には、家族全体あるいは一部を北朝鮮に残させる。このようにして北朝鮮は二重三重のチェック体制を敷いているが、それでも40~50代エリートの離脱を防ぐことはできなかった。
今年10月末の時点で、韓国に暮らす脱北者の数は2万人を突破した。15歳以上の脱北者の就業率は39.9%、就業者の平均収入は月126万ウォン(約9万2000円)で、54.4%が生活保護受給者だ。北朝鮮にいたとき党幹部や専門職などのエリートだったとしても、韓国に来れば誰もが最低の生活からスタートしなければならない。生と死のはざまに追いやられた北朝鮮の一般住民たちは、それでも命懸けで韓国にやって来るが、エリートたちはやや事情が異なる。
北朝鮮体制の中堅幹部層や党のエリートらが金正日(キム・ジョンイル)総書記に背を向ければ、北朝鮮体制の崩壊は前倒しされるだろう。ドイツが東西に分断されていた当時、西ドイツに亡命した東ドイツのエリートたちは、定着支援金はもちろん、年金をはじめとするさまざまな社会保障の恩恵にもあずかることができた。東ドイツのエリートが脱出することの意味合いを、西ドイツ政府はそれだけ高く評価していたからだ。
韓国政府は今、脱北者たちにより提供される情報の質に応じて保障金や定着金を提供しているが、その後は各自の能力によって解決すべきとの立場だ。脱北者らによる韓国での成功ストーリーは、北朝鮮の体制に圧力を加える大きな武器となる。政府は北朝鮮エリートたちの脱北について、いま一度深く考える必要があるのではないか。