最新の医療ルネサンス・医療解説
- 最新の医療ルネサンス・医療解説
読売新聞朝刊くらし家庭面の連載「医療ルネサンス」から最新記事や夕刊医療面に掲載の解説記事を紹介しています。
連載は1992年に「心と体に優しい医療」の実現を願ってスタートし、すでに4700回を超えています。これまでに新聞協会賞(94年)、菊池寛賞(95年)、ファイザー医学記事賞(2007年)などを受賞しました。
がついている記事には、専門記者が最新情報などを書き加えた「情報プラス」があります。
シリーズ
- アトピー性皮膚炎(3)薬への誤解 医療側にも
- アトピー性皮膚炎の治療に悩む親子の相談に応じる赤沢さん(左、釧路市内のホテルで)
北海道釧路市に住む主婦(42)の長男(12)は、1歳のころアトピー性皮膚炎を発症。ステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬を使い、症状は落ち着いていた。ところが、4歳の時に「ステロイドを使うと一生やめられなくなる」との知人の言葉にショックを受け、母親は「脱ステロイド療法」にのめり込んでいった。
脱ステロイドをうたった皮膚科では、違う塗り薬や漢方の飲み薬を出された。保湿剤も「症状を悪化させる」と、使わないよう指導された。長男の肌は乾燥し、肘や膝の関節がひび割れて体を動かすたびに痛みを訴えた。かゆみで夜も眠れず、布団のシーツは全身をかきむしった血で染まった。
「精神状態を安定させる」と、お香や体のつぼを刺激する金属製のローラーの購入を勧められ、1日に何度も試したが症状は変わらず、3か月でやめた。アトピーの原因除去をうたう別の病院では、粉薬と茶のセット2か月分約5万円を2年間支払い続けた。
主婦は2007年、札幌市内で行われていたシンポジウムに出席していた国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の医師に、すがるような思いで相談。長男は同センターに約1か月入院し、強めのステロイドの塗り薬を使って、症状はようやく治まった。今は中程度のステロイドを週2回塗っている。
同シンポにも参加していた東京都立小児総合医療センター(東京都府中市)アレルギー科医長の赤沢晃さんは、患者団体などの要望を受け、各地の講演や相談などに出向く。「地方では医療機関の選択の余地も限られている。適切な治療を知って受診する手助けをしたい」との思いからだ。
「ステロイドを使うと皮膚が黒くなると薬局で言われた」「地元で信頼できる病院はどこか」――。
2010年11月、釧路市で開かれたアレルギー患者の相談会でも、患者や保護者から悩みが相次いだ。
赤沢さんは「ステロイドの塗り薬で、皮膚の色素が抜けて一時的に白くなることはありますが、2~3年で元に戻ります」と説明。皮膚が黒くなるという不安についても、「アトピー性皮膚炎そのものの悪化によって皮膚に色素が沈着することはありますが、ステロイドの副作用ではありません」と話した。
患者側の悩みを聞くにつれ、医療側にも、ステロイドへの誤解が根強いことを痛感する。「適切な治療を患者と医師が一緒に考えていくことが必要」と話す。
(2010年12月16日 読売新聞)
- 情報プラス
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日本皮膚科学会が作成した診療指針に基づき、アトピー性皮膚炎の標準的な治療をわかりやすく解説した本を紹介します。
▽ 東京都立小児総合医療センターのアレルギー科医長、赤沢晃さんの「正しく知ろう 子どものアトピー性皮膚炎」(朝日出版社、税別1200円)
じっくり読む時間のない忙しい母親たちを念頭に、イラストを中心にした平易な言葉で、アトピー性皮膚炎の原因や、治療のために必要なスキンケア、正しいステロイドの塗り薬の使い方などを説明したものです。
▽ アトピー性皮膚炎などの患者でつくるNPO法人・日本アレルギー友の会が患者の立場からまとめた「患者だからわかる アトピー性皮膚炎」(小学館 税別1200円)
Q&A方式で、患者本人や家族が日常生活で持つ悩みや、薬の使い方、適切な治療を受けるための医師との上手な付き合い方などをアドバイスしています。
シリーズ
- [医療解説]子どもに治療説明… アニメで理解 「怖さ」和らぐ(2010年9月30日)
- 静脈の詰まり(1)血栓30~40センチ 左脚パンパン(2010年11月12日)
- 静脈の詰まり(2)血栓 フィルターで止める(2010年11月16日)
- 静脈の詰まり(3)長期服用 不要な場合も(2010年11月17日)
- 静脈の詰まり(4)悪化防ぐ弾性ストッキング(2010年11月18日)
- [医療解説] 抗がん剤の副作用抑制… 吐き気止め 持続する薬も(2010年11月18日)
- 静脈の詰まり(5)長時間の同じ姿勢注意(2010年11月19日)
- コレステロール(1)「善玉」 「悪玉」 両にらみ(2010年11月22日)
- コレステロール(2)心臓病リスク 男女で差(2010年11月23日)
- コレステロール(3)魚を食べ 動脈硬化抑制(2010年11月24日)
- コレステロール(4)遺伝で異常に高い数値(2010年11月25日)
- [医療解説] 救命措置 新指針… まず心臓マッサージ(2010年11月25日)
- コレステロール(5)食事と運動 大事な要素(2010年11月26日)
- 骨・軟部腫瘍(1)謎のしこり検査で 「悪性」(2010年11月29日)
- 骨・軟部腫瘍(2)骨を残し 運動機能保つ(2010年11月30日)
- 骨・軟部腫瘍(3)発症部位に応じ連携体制(2010年12月1日)
- 骨・軟部腫瘍(4)CT確認 削る範囲小さく(2010年12月2日)
- [医療解説] インフルエンザ新薬… 点滴や吸入1回のものも(2010年12月2日)
- 骨・軟部腫瘍(5)切らずに重粒子線治療(2010年12月3日)
- 子どもの急病(1)娘が熱性けいれん 動転(2010年12月6日)
- 子どもの急病(2)症状の度合い 親も判断(2010年12月7日)
- 子どもの急病(3)講座で知識、適切な受診(2010年12月8日)
- 子どもの急病(4)溺水 直ちに人工呼吸(2010年12月9日)
- [医療解説] 新生児治療室 深夜の看護ルポ…守る 小さな命の鼓動(2010年12月9日)
- 子どもの急病(5)ドクターヘリが機動力(2010年12月10日)
- アトピー性皮膚炎(1)病院転々 治療まちまち(2010年12月14日)
- アトピー性皮膚炎(2)ステロイドの誤解を解く(2010年12月15日)
- アトピー性皮膚炎(3)薬への誤解 医療側にも(2010年12月16日)