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「事件の前足、後ろ足をまず調べるべきだが、今回はそれが立証できていないようだ」。事件捜査に詳しいある関係者はそう懸念する。 裁判で出てきた証拠からは、被告と被害者夫婦が顔見知りだったという事実はない。近所でもない。事件の半年ほど前に被害者宅を望める高台に行ったという過去はある。年金生活だが、パチンコで大負けしてカネに困っていたかもしれない。 お金欲しさで被害者宅を狙ったとして凶器を準備せず、午後8時ごろ、その場にあったスコップで窓ガラスをたたき割って侵入したとされるが、被害者や近所の耳目を引くようなそんな物騒なまねをするだろうか。お金が本当に欲しかったら、まずはこっそり目立たないように犯行に及ぼうとしないだろうか。 カネ目的だったのに現場に現金が計13万円ほど、通帳も残っていた。被害者夫婦をスコップで何十回もたたいたとされるが、そんなに激しい犯行現場で被告の髪の毛は特定できなかった。鉄製のスコップの柄や取っ手に皮膚細胞片も検出されなかった。指紋も出ず、肝心の凶器と被告との関連はわからないままだ。 一方、現場のタンスなどに残っていた指紋が、コンビニ強盗未遂の前科のある被告の指紋と一致したとして、それまで捜査線上に上っていなかった被告が重要容疑者となる。県警はすぐさま翌日、任意同行を求め、そのまま逮捕する。「任同をかける前にまずは、被告の周辺捜査をじっくりすべきだったのでは」という指摘は一部関係者から出ているようだ。ただ逮捕後は徹底した周辺捜査が行われ、事件との関連は何も出てこなかった。 そして、県警は自白を取れなかった。えん恨による犯行ともみられるような悲惨な現場。被告が犯人だとしたら、なぜあのような大胆で残虐な犯行に及んだのか、その自供があって初めて合点のいく事件の概要がわかっただろう。 もちろん、これだけ注目された事件だから、あとで自白の任意性、信用性に問題をもたれないためにも、代用監獄(警察の留置場)は使わず、ちゃんと拘置所(鹿児島の場合は拘置支所)に収監して、真剣勝負の取り調べを行い、自供をとらなければならなかったはずだ。県警はそれができなかった。 被告は「現場に行ったことはない」と犯行を否定している。本当に犯人ではなかったら、これらの疑問は解消できないで当然のことだ。 鹿児島地検は、タンスなどの指紋のほか、逮捕後に採取した被告のDNAと侵入口とされる窓の網戸についていた細胞片が一致したことと、割れて立てかけてあった窓ガラス片にも指紋があったことを根拠に被告が強盗殺人犯である、とする。被告が「行ったことがない」と否認しても、侵入痕と物色痕があることから犯人でありえないはずがない、というわけだ。 ただ、指紋やDNAが住居侵入の証拠だとみても殺人行為と結びつく直接の証拠は提示されてない。厳しい言い方をすれば、強盗殺人の罪を問いながら、その証拠を導き出せなかったプロの捜査側、訴求側としては胸を張れるものと言えるだろうか。 一方、弁護側は「指紋は不自然な付き方をしているなど誰かが細工したもの、DNAは採取方法に疑問がある。資料が残っていず再鑑定もできない」と証拠価値に疑問を投げかけている。その主張の根拠をもっと示してほしいと言っても、捜査権のない弁護側には難しいだろう。最終弁論では「ずさんな捜査」と断じ、「疑わしきは被告人の利益に」と、刑事裁判の鉄則を説いた。 (宮下正昭) 【写真上】住宅街の一角だが木々に囲まれた被害者宅。高台にある谷山神社から=鹿児島市下福元町 【写真中】死刑を求刑した鹿児島地検 【写真下】少ない証拠から審理を迫られる鹿児島地裁 | ||
Posted by (宮) | ||
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