2010年12月15日 21時19分 更新:12月16日 0時38分
過激な性描写の漫画やアニメとどう向き合うべきかで論争が繰り広げられてきた東京都の青少年健全育成条例の改正案は、出版業界や漫画家らの激しい反発にもかかわらず成立した。最大会派の民主は6月の都議会で反対して改正案を否決に追い込んだが、今回は、子を持つ親ら「声無き多数派」(幹部)への配慮を優先させて賛成に回った。【石川隆宣】
都が最初に議会に改正案を提案したのは2月。当初はすんなり可決される見通しだったが、3月に著名な漫画家が「表現規制だ」と反対を表明すると状況が一変。登場人物を「非実在青少年」と造語で規定して規制対象にする内容に「あいまいだ」と批判が集中した。結局、6月議会で石原都政の条例案としては初めて否決された。
都側はこの後、問題がありそうな漫画を持参してPTAや地域団体を中心に説明会を81回実施。民主の指摘に修正や削除で譲歩し、改正案を練り直した。
賛否を決めるために開いた10日の民主の総会では、明確な反対論も出たが、「世論への対応も必要」「妥協せざるをえない」など消極的な賛成が相次いだ。反対してきた民主の若手都議は「執行部は統一地方選で『民主はあんな漫画を擁護するのか』と有権者から指摘される事態を懸念していた」と明かす。
成立はしたものの出版業界などからの反発は根強い。来年3月に開催される石原慎太郎知事が実行委員長を務める東京国際アニメフェアには、大手出版社がボイコットを表明。石原知事は報道陣からボイコットについて問われると、「来なくて結構だ」と突き放した。
東京都の青少年健全育成条例が改正され、漫画やアニメの販売規制はどう変わるのか。【真野森作】
Q 出版社が新たに成人マーク(18歳以上対象)を付ける努力義務を課せられるのは、どんな漫画か?
A 刑罰法規に触れる性的行為の中でも特に反社会性が強い強姦(ごうかん)、児童買春や、民法で婚姻が禁止されている近親者間の性交などを当然なことのように描いたり、全編のほぼ全てをこうしたシーンの描写に費やしたもの。出版社は「成人マーク」を付け、書店はビニールなどで包装して成人コーナーで販売するよう努めなくてはならない。都は、マークを付けずに一般書棚で販売されているものを見つけると、不健全指定の検討対象とする。
Q 不健全図書は誰がどう指定する?
A 都の諮問機関「青少年健全育成審議会」が判断し、都が指定する。審議会は出版業界代表や都職員など計20人。
Q 不健全指定の漫画はどうなる?
A 改正前と同様に、書店はビニールなどで包装し、成人コーナーでなら18歳以上に販売できる。従わず、警告も無視すると30万円以下の罰金。これまでに適用例はない。
Q 「源氏物語」「ギリシャ神話」など古典文学を題材にしたり、同性愛を描いた漫画は対象になる?
A 基準を超える性的な描写があるかで判断される。
Q 性的被害からの立ち直りがテーマの漫画は?
A 基本的には対象外だが、強姦などのシーンがほぼ全てを占めていれば対象となりえる。
◇条例改正までの経過◇
2月24日 都が議会に条例改正案を提出
3月15日 漫画家のちばてつやさんらが都庁で会見。条例改正案に反対表明
5月25日 漫画家1400人と出版10社が反対声明
6月14日 都議会総務委が民主党など反対多数で改正案否決
16日 本会議も改正案否決
11月22日 規制対象を強姦(ごうかん)や近親相姦などを不当に賛美・誇張するように描いたものと定義し、再提出すると都が発表
29日 ちばてつやさんらが再度反対表明
12月7日 石原知事が都議会本会議で改正案の必要性訴える
13日 都議会総務委で改正案可決
15日 本会議で可決