最新の医療ルネサンス・医療解説
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読売新聞朝刊くらし家庭面の連載「医療ルネサンス」から最新記事や夕刊医療面に掲載の解説記事を紹介しています。
連載は1992年に「心と体に優しい医療」の実現を願ってスタートし、すでに4700回を超えています。これまでに新聞協会賞(94年)、菊池寛賞(95年)、ファイザー医学記事賞(2007年)などを受賞しました。
がついている記事には、専門記者が最新情報などを書き加えた「情報プラス」があります。
シリーズ
- アトピー性皮膚炎(2)ステロイドの誤解を解く
- 高増哲也さん
長女(5)のアトピー性皮膚炎の治療のため病院を転々とした横浜市の女性(27)は2010年10月、患者の会の紹介で、神奈川県立こども医療センター(横浜市)を受診した。発症から3年。首の周りだけだった長女の湿疹は、ほぼ全身に広がっていた。
アトピー性皮膚炎は、遺伝的な皮膚の性質や、ダニやハウスダストなどの刺激で、かゆみを伴う湿疹に長期間悩まされる。生まれつき炎症を起こしやすいアレルギー体質の人に多い。
かゆみのせいで皮膚をかいて傷つけると、さらに悪化を招く。治療は、皮膚の炎症を抑えるステロイド(副腎皮質ホルモン)の塗り薬と、保湿によるスキンケア、ダニなどの刺激の除去が3本柱だ。
アレルギー科医長の高増哲也さんは、初診で2時間近くをかけ、女性の話に耳を傾けた。重症化した患者は、ステロイドに対する不安や誤解などから、適切な治療をせず、こじらせていることが多いためだ。
この女性は、ステロイドの塗り薬を使うと徐々に効果がなくなったり、皮膚が黒ずんできたりする副作用があるとの誤りを信じ込んでいた。このため、ステロイドは、よほどかゆみがひどい場合以外、使っていなかった。
高増さんは、ステロイドはもともと体内で作られているホルモンであり、体に必要不可欠な物質であること、長期間使うと皮膚が薄くなるなどの副作用があること、徐々に効果がなくなったり皮膚が黒ずんだりはしないことなど、メモに書きながら女性の疑問点と答えを整理して説明した。
そのうえで、ステロイドの塗り薬を使って1週間後の次回の診察までには、かゆみから脱却すること。以後は徐々に弱い薬に替えたり量を減らしたりし、最終的には保湿剤だけになることを目指すとの、治療の道筋を示した。
女性は「一生ステロイドを塗り続けなければならないと心配だったが、安心できた」と話す。
湿疹がひどい手首や膝には中くらいの強さのもの、皮膚が薄い顔などには1段階弱いものと、症状や部位によってステロイドを使い分ける。朝晩、シャワーを浴びさせた後、保湿剤とともにテカテカと光るぐらいに、たっぷりと塗った。3~4日で長女はかゆみを訴えなくなり、膝の赤みやゴワゴワと厚くなった皮膚も回復してきた。
高増さんは「副作用の不安でステロイドの塗り方が足りないと皮膚本来の働きを取り戻せない。きちんと治療するには、十分な量を使うことが大切」と話す。
(2010年12月15日 読売新聞)
- 情報プラス
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記事中で紹介されている横浜市の女性(27)が相談した患者団体は、NPO法人・アレルギーを考える母の会(横浜市)です。1999年にアレルギー疾患を抱える母親が集まり発足。専門医を交えた講演会や、相談会などを行っています。同会ホームページ(http://hahanokai.org/index.html)の「お問い合わせ」をクリックすると、メールで問い合わせができます。
毎月第4火曜日には午前10時~12時にかながわ県民センター(横浜市神奈川区鶴屋町2-24-2)15階で、面談や電話(045-312-1121 内線3501)での相談に応じます。また、ファクス(045-312-6307)でも、随時相談を受け付けています。
シリーズ
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