余録

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余録:ヘマなことを口走ることを…

 ヘマなことを口走ることを、英語で「足を自分の口に踏み入れる」という言い回しをする。まるで曲芸か何かのようだが、日本語でいえば「ドジを踏む」のような表現から生まれたフレーズのようだ▲そのため言わずもがなのことをしゃべる癖を「フット・イン・マウス」病という。これは家畜の口蹄疫(こうていえき)を「フット・アンド・マウス」病というのをもじったのだそうだ。失言癖は感染症ではなかろうに、なぜか過去の日本政治の政権末期に強烈な伝染力を示してきた▲で、支持者やマスコミを前に自分の口に足を踏み込んでみせた柳田稔法相が辞表を出した。「法相の答弁は二つだけですむ」発言での引責辞任だが、国会審議への影響を避けたい菅直人首相による事実上の更迭といわれる▲失言病は政権の要をなす仙谷由人官房長官も感染したらしく、わきの甘い発言で陳謝や発言撤回が相次いだ。「政権末期のよう」との評言もにわかに現実味を帯び、法相の辞任は小紙世論調査の内閣支持率が前月調査比半減の「26%」になったと報じられた朝だった▲思えば政権発足時と党代表選後の内閣改造時に6割を超える支持率を国民から授かった菅政権である。せっかくの2度のチャンスなのに、見るべき成果もないまま瞬く間に空費した。気がつけば政権のタガの緩みを示すフット・イン・マウス病がはびこるありさまだ▲「有言実行内閣」がブラックジョークに聞こえる口も足もバラバラな迷走から立ち直るには首相その人がリーダーシップを見せる以外ない。まず口から出した足でこの国がさしかかった難所をしっかり踏みしめ、歩を進めることだ、前へ。

毎日新聞 2010年11月23日 東京朝刊

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