風知草

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風知草:原点に返れ=山田孝男

 去年、救世主ともてはやされた民主党政権が、いまは疫病神に成り果てた。

 官房長官更迭どころか、首相交代、政権交代、政界再編の観測さえ飛び交い始めたが、釈然としない。外交・安保政策の混乱に対する批判は当然だが、首のすげ替えや連立の組み替えで解決する問題なのかという疑問をぬぐえない。

 津波のような政権批判にあらがう先週の閣僚たちの発言の中で片山善博(総務相)の言葉が印象に残った。

 「法相辞任で内閣支持率がまた下がったが」と記者に聞かれた片山は、尖閣沖事件、ビデオの公開制限と流出、政治とカネも作用したと進んで認めた上でこうつけ加えた。

 「民主党政権をつくった時の原点を忘れないようにしながら仕事をすることが大事ではないかと思います。私は途中から加わりましたけれども、民主党が掲げてきた理念とか、基本的な方向は、私も共感するところが多いものですから」(24日、閣議後の記者会見)

 民主党政権の原点は「脱・官僚主導」である。

 菅直人は96年、橋本内閣の厚相になった。するといきなり、厚生省(現厚生労働省)の官房長から秘書官をあてがわれ、就任記者会見用のあいさつ文を手渡され「これはおかしい」と思った。これが菅の「脱・官僚主導」の原点である(「大臣」=98年岩波新書)。

 大臣を取り込もうと動く官僚の習性について「税務署の一日署長だと思えば分かる」と解説したのが片山だ。

 人気タレントの一日署長は役所の振りつけ通りに動く。それが突然、台本を離れ、「今日は私の指示に従って滞納処分(強制徴収)を実施してください」などと言い出したら、まして役所の人事に手を突っ込んだりすれば、署員たちは腰を抜かしてしまうだろう(世界09年1月号片山「日本を診(み)る」)。

 戦後日本の軽武装・経済立国路線が行き詰まり、国全体が方向感覚を失う中、中央官庁が組織防衛と権益拡大を競い、政治にゆがみが生じた。

 ゆがみを正そうという民主党の挑戦は終わったのか。終わっていないとすれば、前進しているのか、後退しているのか。片山に聞くと、「もちろん前進しています」という。具体例として総務相は補助金の「一括交付金」化をあげた。

 一括交付金とは、自治体向けの国庫補助金のうち、国が使い道を制限しないものをいう。政府は先週、都道府県を対象に来年度予算で5000億円の一括交付金を導入すると発表した。国の干渉を減らし、地域の自立を促す政策だ。

 自治体向けの補助金は全体で21兆円(今年度)ある。5000億円は多いか少ないか、素人には判断がつきかねるが、片山はこう言っている。

 「この問題を話し合った政府部内の勉強会は質の高いものでした。国土交通省、農林水産省、厚生労働省、文部科学省などの政務三役(大臣、副大臣、政務官)の動きに手応えを感じています。官僚任せではなく政治家が決めています」

 北朝鮮の韓国砲撃でも反応が遅れた菅政権に対する批判はいよいよ厳しく、片山の自負もかすんで見える。

 政局の先行きは予断を許さないが、内政の現場で芽生えつつある新しい政治の芽を、たらいの水といっしょに流してしまうような選択だけは避けなければなるまい。(敬称略)(毎週月曜日掲載)

毎日新聞 2010年11月29日 東京朝刊

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