もしも、柳田稔法相の責任問題がだらだらと決着しないまま23日の北朝鮮による砲撃事件を迎えていたら、国会や政府の様子はどうなっただろう。
発言問題の混乱は続き、補正予算の処理が週内で済んだかも怪しいものだ。危機管理の上からも、実に好ましくない状況を露呈したのではないか。
「国会答弁はふたつ覚えておけばいい」と地元で軽口をたたいた柳田法相が22日、事実上更迭された。発言から辞任まで1週間以上を要し、辞める前日に当の柳田氏が続投を表明する締まりの無さだった。
更迭を各紙は23日社説で取り上げ「当然」「遅きに失した」と論じた。日経は「柳田氏は必要な資質が決定的に欠けていた」と菅直人首相の任命責任を指摘した。お粗末な辞任劇に厳しい論調がそろったことも、それこそ当然と言うべきか。
日中関係など外交問題で動揺し、緊張感の不足も目立ち始めた菅内閣の運営はすでに危険水域にある、との論調も次第に広がっている。
内閣支持率は各種世論調査で2割台に急落した。毎日は「政権自壊の瀬戸際だ」と題し更迭が後手に回った首相の対応を批判、首相自らが政権の目標を明確に示すよう促した。
読売も「政権の態勢を早急に立て直せ」と題し「本来重視すべきは政策遂行なのに、政権維持が自己目的化していないか」と首相に疑問を投げかけた。鳩山前内閣の場合、目的ははっきりしていたが実行力が伴わなかった。菅内閣はそもそも旗印がはっきりせず、それが政権の求心力に影響している。
攻勢を強める自民党など野党に対しても毎日、朝日は他の閣僚への問責決議の乱発などで混乱を拡大すべきでない、と注文をつけた。日経は補正予算の早期成立を促した。
結局、北朝鮮による砲撃事件を受け、国会は補正予算の処理を優先した。一方で、仙谷由人官房長官、馬淵澄夫国土交通相の問責決議が参院で可決され、臨時国会は与野党が対立したまま閉幕するおそれがある。
柳田氏について民主党内には「国会が混乱しても続投させ乗り切る」との意見が最後まで強かったというのだから、驚くほど感覚がずれている。政策論争の成果を生まない国会を27日の毎日社説は「何と生産性低い国会か」と題し、批判した。
外交、財政など「危機」を国会議員の多くは声高に叫んでいる。にもかかわらず、与野党のふるまいはあまりにのんきではないか。【論説委員・人羅格】
毎日新聞 2010年11月28日 東京朝刊