社説
臨時国会閉幕/あまりに粗野で形式的で
「先送りを一掃する」。国会召集前夜、菅直人首相はこう大見えを切ってみせた。所信表明演説には「有言実行内閣」のキャッチフレーズも踊った。 あれは、悪い冗談だったのかとからかいたくもなる。少なくても、「看板に偽りあり」だったことは疑いようがない。 断念、後退、見送り、棚上げ…。そんな見出しが連日、紙面を飾った64日間だった。本年度補正予算以外さしたる成果もなく、臨時国会がきのう閉幕した。 政策論争よりも非難、中傷合戦ばかりが目についた。政治は本来的に「乱」のイメージを内包しているが、臨時国会の攻防はあまりに乱暴であり乱雑だった。与野党に猛省を促したい。 相手の非を言い募って粋がるのは、この辺でやめにしたらどうか。来年の通常国会に向け、今度こそ「熟議」の技を磨かないと政治不信は極限に達する。 「ねじれ国会」で、菅首相が難しい政権運営を迫られるであろうことは十分、予測できた。「石にかじりついても」と首相は悲壮な覚悟さえ吐露した。だが、実際に指導力を発揮する場面は少なく、国会が空転する原因を自らつくり出した。 中国漁船衝突事件への不手際で追及を受け、北朝鮮砲撃事件でも危機管理の在り方が問題となった。小沢一郎民主党元代表の国会招致問題は打開の糸口さえ見いだせぬまま、越年する。柳田稔前法相の失言問題は、この内閣の緊張感のなさと言葉の軽さを露呈した。 郵政改革法案など重要法案を成立させるために、国会を延長する手もあった。だが、内閣支持率低迷に苦しむ菅首相にそれをしのぐ体力は残されていなかった。 国会が議論の府ではなく政略の場に堕しつつあることは菅首相就任以来、半年間も党首討論が開かれない事実が象徴している。これは鳩山由紀夫前首相の155日をしのぐ最長記録だ。 自民、公明両党が開催を要請しいったんは1日に行う方向でまとまりかけたが、最終的に見送られた。野党側が参院で問責決議を受けた仙谷由人官房長官と馬淵澄夫国土交通相を欠席させるよう求め、与党がこれに応じなかったためだ。 党首討論は全閣僚出席が慣例で、ここで両氏を欠席させれば内閣にとってはあしき前例になる。他方、問責を受けた閣僚が出席する論戦の場に、のこのこ出席したのでは決議を自ら軽んじることになるという野党の主張も分からぬではない。 だが冷静に考えれば、直接論戦に加わらない両氏の出欠など形式論にすぎまい。「坊主憎けりゃ袈(け)裟(さ)まで」式の抵抗戦術で国民の理解が得られるとも思えない。正攻法で政権を追いつめてこその「健全野党」だろう。 菅政権の行く末には暗雲が漂う。野党は仙谷、馬淵両氏の辞任を引き続き求めていく構えで、通常国会は冒頭から波乱含みの展開となる。首相はこれ以上、展望なき先送りを繰り返してはならない。国会が立法機能を果たせないのなら、解散・総選挙でリセットするほかない。
2010年12月04日土曜日
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