仙谷由人官房長官は14日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、尖閣諸島問題について、中長期的には何ら間違ったことはしていない、との認識を示した。さらに、日銀は限られた権限のなかでデフレ対策をよくやっているとの見方を明らかにした。
インタビューの要旨は次の通り。
──日銀はデフレに対し十分な努力をしていると考えるか。また、インフレターゲット設定を求める国会内の一部の声を支持するか。
日銀は与えられた権限のなかで、そして今の一国的国民経済という考え方がほとんど効果的でなくなってきた時代において、ある意味でよくやっていると考えている。
日本の場合、インフレターゲットが果たして有効な政策になり得るものなのかどうか。
この15年においても、伝統的な経済金融理論からいうと、大変なインフレ政策を財政からも、あるいは日銀のゼロ金利、量的緩和と言う政策からも講じてきた。普通ならば、もっと激しいインフレが起こってもよいような政策だが、日本の場合にはインフレ化していない。
多分、グローバリゼーションの中で、とりわけ成長センターである中国、あるいは東南アジアが地理的に近いところにあることが、日本が伝統的な意味でのインフレ政策を金融政策として採りながら、なかなかインフレ化しないことの原因とみている。インフレターゲット政策を採ろうが採るまいが、かえって後世代に副作用とか悪い政策を残すよりは、今の日銀はなかなかよくやっている。
──国内でのデフレ対策はあまりないのか。
これ以上あるだろうか。つまり、皆は日銀がもっと金を出せば、適切なインフレが起こると考えるが、私は金融政策だけで適切なインフレが起こり得るとはあまり信じていない。
──米連邦準備理事会(FRB)のQE2(量的緩和策第2弾)はどうか。
QE2も大変評判が良くないようだ。米国にとっての実現性の最も高いシナリオは、やむを得ず日本が歩んできた10年を後追いをするということだ。そういった観測だ。つまり、去年の今ごろは何をを言っていたかというと、金融政策・財政政策とも出口戦略の模索だ。ところが、片やQE2だ。出口戦略でもなんでもない。むしろ逆戻りだ。
そうせざるを得ない状況に米欧諸国があるということが、今の先進国経済の悩みの種だ。これをどう乗り越えていくのかが大変重要だと思う。やはり1つは人民元問題だとみる。
──人民元問題への対応は。
日米欧が協力し、もう少し変動相場の方に近づいてもらうようにしなければならないと思う。
──日中関係はどうか。尖閣諸島の問題では政府の対応に随分批判が起きた。この経験から政府は何を学んだか。
最大の教訓は、各民族がある種内向きになっていて、ともすれば経済社会が保護主義的になろうとすることだ。政治の世界や一般社会の中では、ナショナリズムがちょっと火をつければ激しくなろうとする。
こうしたなか、今度の尖閣諸島周辺でのトラブルをめぐり、我が国の政府が行ったことは、中長期的にはまったく間違っておらず、従って、必ずしも私の知っている限りでは、米国をはじめとする先進諸国や、アジアのASEAN(東南アジア諸国連合)には評価は低くない。
領海を侵された時には逮捕をしたとの実績があり、両国のナショナリズムが相当激しくなりつつあるのを、ある種コントロールできたと思っている。
ただ、これは国内的には一人一人国民が閉塞感とか、自分の所得が伸びないとか、雇用が保証されない可能性があるとか、ある種の不安と向き合って生きている。当然のことながら、このようなことをきっかけに、政府批判という格好で出てきているとは思う。中長期的にはまったく間違っていない。
安全保障政策、防衛政策がポスト冷戦にふさわしいように変わっていなかったことも事実だ。このことについて、われわれはしっかりと今度の防衛大綱で見直しをしていく。つまり、陸軍重視、戦車重視、北向き重視というような防衛戦略の下でずっと続いてきていたが、そうではなくアジア太平洋のニューオーダーをしっかりと日米同盟を豊かにするなかで作っていく。あるいは日本と韓国、日本とオーストラリアの連携を強化して作っていく。
──法人税の減税は十分か、来年度にさらに法人税の対策を講じるのか。
来年度に引き継いでやるかどうかということより、これからの日本の成長にとってどのような質の法人に対する課税が重要かという観点から(行う)。本当は抜本的に考えなければならないと私は思っている。
日本の法人税制は、細かいところまで含めてポスト工業社会型になっていない。つまり、ソフト中心のサービス化産業、知識経済型の税制になっていない、と思っている。もう少し、知識集約型産業が成長できるような税制にならないといけないと私自身は考えている。
しかし、過去の成功体験が日本の場合はあるので、これを乗り越えていくのが難しい。さらにもう1つは財政的な制約の下で、税率だけをさらに下げていけるかどうかというのは、容易ならざる話になっている。
ただ、法人税の世界で日本がもう少しベンチャー、あるいは新しい企業、entrepreneurが起こってくるような税制を作っていかなければならない、あるいは、製造業大企業の研究開発投資にインセンティブが効くような税制を作らなければならないと思っている。
──失われる歳入はどのように埋め合わせるのか。
緊急措置として財務省が1年分は用意すると思っている。来年からは抜本的な税制改正によって、中期財政計画を作っているが5-10年でプライマリーバランスの赤字を縮小する方向に持っていく。そういう大胆な税制改革を行わなければならないと考えている。
──減税初年度については、ほかの項目で増税するということはせずに、借り入れ増ということで対応するのか。
借り入れは44.3兆円という上限を決めてある。
法人税は、日本経済では15兆円というのが普通のレベルだ。リーマン・ショックを挟んで、これが7兆円まで減少した。平成22年度は9兆円まで戻したとみる。来年度は10兆円程度が見込めるか。
この10兆円と15兆円のギャップが日本経済の今の産業界の付加価値生産額の縮小となって現われている。これは多分、産業構造をもう少し変えないと、つまり中小企業の世界がサービス化されて、そこで付加価値が増えてこなければ、法人税も増えないということだ。
──国会の運営について聞きたい。野党の協力が取り付けられるかどうかが大きな課題だ。1月からの国会運営はどのようにしていくか。政権支持率はどのように上げていくか。
世界的な傾向として、議会が執行権力と、つまり与党野党のねじれというか、逆転現象が起こってくる。日本の議会も、困難な局面を乗り越えていかなければならない、そういう思いを持っている野党の方々も多々いる。真摯に問題提起をして、議論を展開していけば、野党は反対のための反対をするということには必ずしもならない。