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不惑の原発銀座2:豊かな地、なぜ医療過疎
2010年12月14日
●「交付金あるのに、医療守れない」
富岡町のホールで9月、200人超の集まる住民集会が開かれた。テーマは、原発の立地する双葉地域の医療のこれから。県立大野病院(大熊町)と双葉厚生病院(双葉町)の統合を来春に控え、県病院局幹部が説明に訪れた。
集会では住民の不安と不満の声が引きも切らなかった。
「原発でたくさんの交付金があるのに、県は医療を守れないのか」「原発地域の住民の生活は危険を伴っている。医療に責任をもってほしい」
県幹部は「医療を守るために、統合で地域に中核病院を作る必要がある」との説明を繰り返したが、参加者は納得の様子を見せない。統合は民間のJA福島厚生連の病院に、県立病院の運営が委譲される全国でも珍しい形態。住民の目には「県が地域の医療から一歩退く」と映った。
原発建設以来、放射線災害への備えが築かれた地。大野病院も初期被曝(ひ・ばく)医療機関として、万一の事故への訓練を続けてきた。しかし、今や住民が最も不安なのは救急医療。集会でも、参加者が「指の切断事故が起きたが、病院がなかなか決まらなかった」「吐血して救急車を呼んでも、運ぶ病院がなくて1時間半近く自宅待機した」などと体験を語った。双葉地域は、南相馬市やいわき市など域外の病院への救急搬送率が約4割に達する。県平均の2倍だ。
●病院統合で、医師確保ねらう
主因は、医師不足。地域の中核の両病院合わせ、2004年に24人いた医師が09年に17人まで減った。県内7地区別に医師数を比べると、双葉郡を含む相双地区は南会津と並んで低い=グラフ。県は病院統合で医師の集まる環境を整え、13年に25人まで増やす計画だ。救急態勢の充実につなげ、域外への搬送率を2割に抑える目標も掲げる。
「双葉郡は、県内で最も医師が集まりにくい地域」と厚生連の森合桂一・業務部長は医師不足に陥った背景を説明する。医師派遣の中核を担う県立医大から遠いことや、専門医研修を受ける態勢が整っていないことなど、要因はいくつか考えられる。子育てなどの生活環境を気にかける医療関係者の声もある。
両病院は来春の統合に向け、準備作業のまっただ中。大きな課題は、看護師ら医療スタッフの異動だ。県立病院職員は、民間病院への統合で給与減など待遇が変わる。このため、県立病院の看護師は退職したり、他の病院に移ったり、県の医療部門にとどまってほかの地域に移ったり、と進む道が分かれる。新病院の看護師は、募集した40人のうちまだ半数程度の採用だ。
もはや統合の動きは後戻りする段階になく、「できるだけ早く、新病院がしっかりと機能するように」(双葉郡医師会の井坂晶会長)との思いは地域の願い。一方で、原発で豊かになったはずの地だけに、医療過疎という現実に住民は戸惑いを感じている。
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