政府は、二〇一一年度以降の子ども手当の支給額を、三歳未満児に限り月額二万円にする方針だ。財源についてはまだ定まらないが、支給に所得制限を設けることは手当の理念に反する。
子ども手当は一〇年度、中学生までの子供に月額一万三千円を支給。一一年度は現行額からの上積みを目指してきた。
しかし、三歳未満に限り上積みするのは、昨年決まった扶養控除廃止に伴い現行の支給額では、手取りが減る世帯があるからだ。
子ども手当の「社会全体で子供の育ちを支える」という理念に照らせば、子供によって支給額に差がつくのは問題がある。ただ、手取りが減る世帯がある以上、“緊急措置”と理解したい。
財源確保策の検討は迷走している。上積み分の財源は約二千四百五十億円。配偶者控除の縮小が検討されたが、来春の統一地方選を控え、専業主婦層などの反発を恐れて見送られそうだ。上積み分を減額する声もある。支給対象に所得制限を求める考えも政府にある。旧来の児童手当の所得制限と同じとすると、会社員で年収八百六十万円未満が支給対象になる。
所得制限は子ども手当の理念に反する。手当は保護者の所得補助ではない。すべての子供たちへの支援だ。北欧などでは同種手当は所得制限がないのが常識、手当の趣旨を誤解すべきではない。
政府は、少子化対策を強力に進めるため、すべての子供たちに保育サービスや幼児教育を提供する総合政策制度「子ども・子育て新システム」を検討中だが、実施にはさらに財源が要る。
財源確保は課題だ。だが、政府・与党の社会保障改革検討本部の有識者検討会座長の宮本太郎・北海道大教授は、著書などで所得制限は制限の線引きなど行政の裁量が大きく、また不正受給も起こりがちで、政府や国民同士に不信を抱く余地が大きいと指摘する。子育て支援を含め求められる社会保障制度は、特定の人を優遇するような不公正なものではなく、分かりやすく透明性が高く国民が納得できるものだと説く。
そうでなければ負担を受け入れ、支援の必要な人を社会で支えようという機運は広がらない。子ども手当は民主党の看板政策、腰を据えて取り組むべきだ。手当は所得制限で約二千七百億円の歳出減になり、上積み分の財源をまかなえる。だが、子ども手当の理念を浸透させる方が重要だろう。
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