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【主張】拉致被害者救出 虚言ではないことを願う
菅直人首相は朝鮮半島有事の際の拉致被害者を含む邦人救出について、韓国と協議を始めるとともに、自衛隊機などによる邦人輸送を可能にするための自衛隊法改正を検討する考えを示した。
日本がこれまで先送りしてきた問題である。それに踏み込んだ首相の発言を評価したい。
これに対し、仙谷由人官房長官は「一切、承知していない。全く検討されていない」と首相の方針を否定した。菅首相は拉致被害者家族との懇親会でも「万一のとき、拉致被害者をいかに救出できるか準備を考えておかなければならない」と述べた。首相は家族会との約束を守る責任がある。
朝鮮半島の邦人救出に関し、平成9年の日米防衛協力のための指針(ガイドライン)で、米軍の協力が明記され、11年の周辺事態法や改正自衛隊法などガイドライン関連3法により、自衛隊艦艇が輸送手段に加えられた。
しかし、具体的な救出方法や自衛隊の協力態勢はほとんど詰められていない。現行の自衛隊法は邦人輸送を「輸送の安全が確保されていると認めるとき」に限っており、危険時の救出はできない。安全が確保されていないからこそ、自衛隊を派遣する意味があるのだ。自衛官の武器使用も、正当防衛などの場合に限られている。
現状では、自衛隊による十分な救出活動は不可能だ。菅首相が邦人救出のための日韓協議と自衛隊法改正に言及したのは当然だ。
外国では、自国民が国外で危険にさらされた場合、しばしば軍が派遣される。
1975年、米貨物船がカンボジア革命政府に拿捕(だほ)された際、米国は海兵隊を出した。翌年、イスラエル人の乗った航空機が過激派に乗っ取られ、ウガンダのエンテベ空港に着陸させられた事件でイスラエルは特殊部隊を派遣した。いずれも一部に犠牲者が出たが、人質のほぼ全員を救出した。
北朝鮮に拉致されたまま帰国していない政府認定の被害者は12人で、拉致の疑いを否定できない特定失踪(しっそう)者を加えると100人を超す。戦後の帰還事業で北へ渡った日本人妻もいる。韓国には2万8千人以上の日本人がいる。
北の韓国・延坪(ヨンピョン)島砲撃により、朝鮮半島情勢は緊迫している。邦人救出は、主権国家として避けて通れない重要課題だ。首相はふらついてはなるまい。