内部告発サイト「ウィキリークス」による米外交文書の暴露が続いている。
首脳をこき下ろした公電や、要人をスパイするよう指示した文書などが次々と明らかになり、クリントン国務長官は各国への謝罪に追われている。
漏れた公電は約25万点。世界各地の在外公館とのやりとりという。公開が進めば、米外交への打撃は計り知れない。
米政府はウィキリークスを「犯罪者」と非難。刑事責任の追及を宣言し当局が捜査に着手した。
けれども多くの職員がネット上で機密情報に触れられるようにしていた、米政府の甘い管理こそが問われるべきだ。
ウィキリークスは政府や企業関係者に内部告発を呼び掛け、その情報を公表する民間のサイトである。非営利組織として2006年に創設されている。
ウィキリークスの行為は一概に非難できない。4月に公開された、米軍のヘリコプターがバグダッドで民間人らを誤射する映像は衝撃的だった。イラク戦争での民間人死者が約6万6千人に上るという文書も明らかにしている。
いずれも政府が隠しておきたかった戦争の実態だ。同じ資料が手に入れば、ほかのメディアも報道しただろう。公開の価値がある内容である。
半面、すべての内部情報を公開することがいいとも言い切れない。舞台裏が逐一明らかになれば外交関係はぎくしゃくする。市民のプライバシー侵害にもつながる。米国に情報提供したと知られると命に関わる人もいるだろう。
もたらされる情報は玉石混交だ。権力の不正や横暴を暴く内部告発なら民主主義の健全化に役立つだろうが、単に暴露が目的だとしたら障害になる。公開者は市民のためになるか、公益につながるかを一つ一つ確かめ、慎重に判断する必要がある。
インターネットは誰もが大量の情報を世界中に流すことを可能にした。もはや情報流出は止めようがないだろう。
だからといって国が表現の自由を脅かすような規制強化を考えるべきではない。むしろ情報公開を積極的に進め、多少の暴露では揺るがない、しなやかで強い民主主義の社会にすることだ。
ネット上には真偽が定かではない大量の情報があふれる。何が本当か、背後にどんな意図が隠されているか。情報を見極めて評価する役割が、新聞などのメディアにも求められる。