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【主張】防衛次官通達 菅政権は言論封殺するな
尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件をきっかけに、菅直人政権の下で情報統制が進められている。自由と民主主義を基軸とする現代日本社会の根源的な価値を否定しかねない危険な兆候であると指摘したい。
とりわけ見過ごせないのは、自衛隊施設での民間人による政権批判の封じ込めを図った「隊員の政治的中立性の確保について」と題する防衛事務次官通達だ。
航空自衛隊入間基地(埼玉県)の航空祭で、民間の後援団体「航友会」の会長が尖閣事件での政府の対応に触れ、「民主党政権は早くつぶれてほしい」とあいさつしたことに、北沢俊美防衛相が激怒したからだとされる。
通達は、参加団体に政治的行為と誤解されることをしないよう要請し、誤解される恐れがある場合は参加させないという内容だ。
自衛隊法などは自衛隊員の政治的行為を制限している。政治的行為には、施設を政治目的に利用させることも含まれる。通達はそれを今回の航空祭のケースにあてはめているが、こじつけだ。民間人の言論の自由を封じることはいかなる理由があれ、許されない。
問題はこれにとどまらない。仙谷由人官房長官は衆院予算委員会中に尖閣事件に絡む「厳秘」資料を撮影された問題で、カメラの性能が向上したことを指摘し、「時代とともに撮影のあり方も考え直す必要がある」と、写真取材の規制強化に言及した。
この発言も極めて不適切だ。国会審議の一部始終を取材し、国民に伝えるのは、報道機関の務めである。見られたくないなら、自身で扱いを注意すべきだろう。自らの不注意を棚に上げ、取材規制をちらつかせるのは本末転倒だ。
仙谷氏は尖閣事件のビデオが流出した問題で、「現在の法制の罰則は抑止力が十分ではない。秘密保全に関する法制のあり方を早急に検討したい」と述べ、国家公務員法の守秘義務違反の罰則強化を示唆した。
流出したビデオは本来、政府が一般公開すべき情報だ。同法で保護すべき秘密かどうかも、はっきりしない。罰則強化に結びつけるのは筋違いである。
都合の悪い言論を封じ、必要な情報は知らせないという民主主義に逆行する行為を首相はどう考えているのか。自由な言論こそ健全な民主主義社会の基本である。